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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155004
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】多層磁性シート
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/25 20060101AFI20231013BHJP
   H01F 38/14 20060101ALI20231013BHJP
   B60M 7/00 20060101ALI20231013BHJP
   B60L 5/00 20060101ALI20231013BHJP
   B60L 53/12 20190101ALI20231013BHJP
【FI】
H01F27/25
H01F38/14
B60M7/00 X
B60L5/00 B
B60L53/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064700
(22)【出願日】2022-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】栗山 安男
(72)【発明者】
【氏名】宮野 興平
(72)【発明者】
【氏名】小川 雄一
【テーマコード(参考)】
5H105
5H125
【Fターム(参考)】
5H105BA09
5H105BB05
5H105DD10
5H105EE12
5H125AA01
5H125AC12
5H125AC26
5H125DD02
5H125FF15
(57)【要約】
【課題】工数が多大となりにくい多層磁性シートを提供する。
【解決手段】短辺と長辺とを有する帯状に形成された複数の磁性薄帯を前記長辺が隣り合うように板形状に並んで配置された第1層310と、複数の磁性薄帯を前記長辺が隣り合うように板形状に並んで配置され、長辺の延びる方向が、第1層310における前記長辺の延びる方向に対して交差して配置された第2層320と、複数の磁性薄帯を長辺が隣り合うように板形状に並んで配置され、長辺の延びる方向が、第1層310における長辺の延びる方向と同じに配置された第3層330と、を少なくとも各1層備え、第1層310における長辺の位置と、第3層330における長辺の位置とが、短辺が伸びる方向に0.5mm以上離れている。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
短辺と長辺とを有する帯状に形成された複数の磁性薄帯を前記長辺が隣り合うように板形状に並んで配置された第1層と、
前記複数の磁性薄帯を前記長辺が隣り合うように板形状に並んで配置された第2層であって、前記第2層における長辺の延びる方向が、前記第1層における前記長辺の延びる方向に対して交差して配置された第2層と、
前記複数の磁性薄帯を前記長辺が隣り合うように板形状に並んで配置された第3層であって、前記第3層における長辺の延びる方向が、前記第1層における前記長辺の延びる方向と同じに配置された第3層と、を少なくとも各1層備える多層磁性シートであって、
前記第1層における前記長辺の位置と、前記第3層における前記長辺の位置とが、前記短辺が伸びる方向に0.5mm以上離れている多層磁性シート。
【請求項2】
前記複数の磁性薄帯を前記長辺が隣り合うように板形状に並んで配置された第4層であって、前記第4層における長辺の延びる方向が、前記第2層における前記長辺の延びる方向と同じに配置された第4層を備え、
前記第2層における前記長辺の位置と、前記第4層における前記長辺の位置とが、前記短辺が伸びる方向に0.5mm以上離れている請求項1に記載の多層磁性シート。
【請求項3】
前記多層磁性シートの幅が100mm以上1000mm以下、長さが100mm以上1000mm以下である請求項1または2に記載の多層磁性シート。
【請求項4】
前記磁性薄帯が、アモルファス合金薄帯、又は、ナノ結晶合金薄帯である請求項1または2に記載の多層磁性シート。
【請求項5】
前記磁性薄帯はナノ結晶合金薄帯であり、複数の小片を含んでいる請求項1または2に記載の多層磁性シート。
【請求項6】
前記磁性薄帯の一面には、帯状に形成された支持体、及び、前記支持体における第1面および第2面に設けられた粘着剤を有する粘着層が設けられた請求項1または2に記載の多層磁性シート。
【請求項7】
前記粘着層における寸法であって、前記粘着層の長手方向と交差する方向の寸法を幅A、
前記磁性薄帯における寸法であって、前記磁性薄帯の長手方向と交差する方向の寸法を幅Bとした場合に、
0.2mm≦(幅A-幅B)≦3mmの関係を満たす請求項6に記載の多層磁性シート。
【請求項8】
前記積層基体が積層された方向において、
第1積層端部の前記磁性薄帯、又は、前記第1積層端部と反対側の第2積層端部の前記磁性薄帯には、
帯状に形成された支持体、及び、前記支持体における第1面および第2面に設けられた粘着剤を有する複数の粘着層と、
樹脂を用いて形成された膜状部材であって、前記粘着層に接着された樹脂シートが設けられている請求項1または2に記載の多層磁性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えば、自動車の2次電池を充電するための非接触充電装置に用いることができる多層磁性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、給電側と受電側の両方に伝送コイルを設け、電磁誘導を利用した電力伝送によって充電する非接触充電が注目されている。非接触充電において、給電装置の一次伝送コイルに発生した磁束は給電装置と受電装置の筐体を介して受電装置の二次伝送コイルに起電力を発生させることで給電が行われる。
【0003】
非接触充電は、例えば、タブレット型情報端末や、ミュージックプレイヤーや、スマートフォンや、携帯電話等の電子機器に対して普及し始めている。また、非接触充電は、上述以外の電子機器や、電気自動車や、ドローンに適用可能な技術である。また、フォークリフト、AGV(Automated Guided Vehicle)等の運搬車、鉄道、路面電車等にも適用可能な技術である。
【0004】
非接触充電において電力伝送効率を高めるために、伝送コイルにおける給電装置と受電装置の接触面とは反対側に、コイルヨークとして磁性シートが設置される場合がある。このように配置される磁性シートには、充電時における磁束の漏れを防ぐ磁気シールド材としての役割や、充電中にコイルで発生した磁束を還流させるヨーク部材としての役割などがある。
【0005】
上述の磁性シートを製造する方法として、種々の方法が提案されている(例えば、特許文献1から3参照。)。特許文献1から3には、Q値の向上または渦電流損の低減を目的とした、磁性シートに含まれる薄板状磁性体や、非晶質合金またはナノ結晶粒合金のリボン等(以下「磁性薄帯」とも表記する。)を複数に分割する工程を含む製造方法が開示されている。
【0006】
スマートフォン等の電子機器と比較して、電気自動車等に使用される非接触充電の場合、1次コイルと2次コイルとを近接して配置することが難しい。例えば、比較して広い間隔がある状態で1次コイルと2次コイルとを電磁結合させる必要がある。
【0007】
また、1次コイルと2次コイルの間で伝送する電力も比較して大きくする必要がある。具体的には、1次コイルに流す電流も比較して大きくなり、1次コイルと2次コイルの間の磁束も比較して大きくする必要が生じる。
【0008】
そのため、1次コイルと2次コイルが比較して大きくなり、スマートフォン等の電子機器に用いていた磁性シートでは大きさが足りないという問題があった。また、磁束が比較して大きくなるため、磁束が他の機器へ漏れやすいという問題があった。
【0009】
また、磁性シートに含まれる磁性薄帯は帯状に延びる形状を有している。磁性薄帯における長手方向と直交する方向の寸法である幅は、電気自動車等に使用される非接触充電には狭いという問題があった。
【0010】
これに対して、複数の磁性薄帯を板形状に並べるとともに、板形状に並べた複数の磁性薄帯を更に厚さ方向に重ねる技術も知られている(例えば、特許文献4参照。)。特許文献4に記載の技術では、磁性薄帯が配置される面の幅も広くしやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008-112830号公報
【特許文献2】特表2015-505166号公報
【特許文献3】国際公開第2020-235642号公報
【特許文献4】特表2019-522355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献4に記載の技術は、単層の磁性薄帯を積み重ねる方法である。
特許文献4では、複数個のナノ結晶粒合金のリボンシートがm×nの行列構造で配列された形態が開示され、特許文献4の図10では、複数個の分割シートが互いに異なる方向に配列される形態が開示されている。
【0013】
本発明者は、例えば電気自動車等に使用される非接触充電用の磁性シートには、例えば携帯電話等の電子機器用の磁性シートに比較し、より多層に形成する必要があり、横方向にも並べて形成する必要があることに気付いた。
【0014】
その多層磁性シートの構成を検討するとき、特許文献4に開示された異なる方向に配列することも一手段になることが分かった。そして、磁性薄帯を横に並べ、縦に積層する際、磁性薄帯を異なる方向に配列してみた。その概念図を図13に示す。図13は平面図であり、最上部の層には縦方向に長尺の複数の磁性薄帯901が並んで配置され、その下層には方向を変えて複数の磁性薄帯902が並んで配置されている。この構成で試作したところ、期待する特性が得られなかった。
【0015】
本開示は、磁性薄帯を多層に積層し、磁性薄帯の方向変えて積層した多層磁性シートであって、磁気特性の良好な多層磁性シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、図13に示す多層磁性シートにおいて、期待する特性が得られない点を検討した。そして、磁性薄帯901および磁性薄帯902を異なる方向に積層したとき、図13の丸Gで示す部分に着目した。この丸Gで示す部分は、磁性薄帯の間隔が生じる部分であり、その磁性薄帯の間隔が、積層方向に連続して生じる部分である。このように、磁性薄帯の間隔(磁気ギャップともいう)が積層方向に連続して生じた場合、多層磁性シートの透磁率の低下、及び、Q値の低下が生じることを見出した。そこで、磁性薄帯の積層方向に磁気ギャップが連続して形成されない構成を検討し、本開示の構成を発明した。
【0017】
本開示の態様に係る多層磁性シートは、短辺と長辺とを有する帯状に形成された複数の磁性薄帯を前記長辺が隣り合うように板形状に並んで配置された第1層と、
前記複数の磁性薄帯を前記長辺が隣り合うように板形状に並んで配置された第2層であって、前記第2層における長辺の延びる方向が、前記第1層における前記長辺の延びる方向に対して交差して配置された第2層と、
前記複数の磁性薄帯を前記長辺が隣り合うように板形状に並んで配置された第3層であって、前記第3層における長辺の延びる方向が、前記第1層における前記長辺の延びる方向と同じに配置された第3層と、を少なくとも各1層備える多層磁性シートであって、
前記第1層における前記長辺の位置と、前記第3層における前記長辺の位置とが、前記短辺が伸びる方向に0.5mm以上離れている。
また、本開示の態様に係る多層磁性シートは、前記複数の磁性薄帯を前記長辺が隣り合うように板形状に並んで配置された第4層であって、前記第4層における長辺の延びる方向が、前記第2層における前記長辺の延びる方向と同じに配置された第4層を備え、
前記第2層における前記長辺の位置と、前記第4層における前記長辺の位置とが、前記短辺が伸びる方向に0.5mm以上離れていてもよい。
【0018】
本開示の多層磁性シートによれば、磁性薄帯の積層方向に連続する磁気ギャップが形成されることを抑制できるので、多層磁性シートにおける磁気特性の悪化を防ぎ、透磁率が高く、Q値が高い多層磁性シートが得られやすい。
【発明の効果】
【0019】
本開示の多層磁性シートによれば、磁性薄帯の積層方向に連続する磁気ギャップが形成されることを抑制することができ、良好な磁気特性を備える多層磁性シートが得られるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本開示による多層磁性シートの構造を説明する平面視図である。
図2図2(A)は、多層磁性シートにおける第1層の構造を説明する平面視図であり、図2(B)は、多層磁性シートにおける第2層の構造を説明する平面視図である。
図3】多層磁性シートの構造を説明する平面視図である。
図4】多層磁性シートの構造を説明する部分断面視図である。
図5】多層磁性シートの構造を説明する平面視図である。
図6】多層磁性シートの構造を説明する断面視図である。
図7】磁性シートの製造方法を説明する模式図である。
図8】第1巻出しロールから供給される積層体の構成を説明する断面視図である。
図9】第1巻出しロールから供給され、樹脂シートが剥離された積層体の構成を説明する断面視図である。
図10】第2巻出しロールから供給される磁性薄帯の構成を説明する断面視図である。
図11】貼付けロールにより、磁性薄帯が粘着層に接着された状態を説明する断面視図である。
図12】クラックロールにより磁性薄帯にクラックが形成された状態を説明する断面視図である。
図13】従来技術の構造を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この開示の一実施形態に係る多層磁性シート400について、図1から図13を参照しながら説明する。一実施形態に係る多層磁性シート400は、非接触方式の充電機器に用いられる。充電機器の給電装置に用いられてもよいし、受電装置に用いられてもよい。
【0022】
本実施形態では、多層磁性シート400がスマートフォンなどの情報処理機器や電子機器よりも消費電力が大きな機器に対する非接触充電に用いられる例に適用して説明する。例えば、多層磁性シート400が自動車などの移動体への非接触充電に用いられる例に適用して説明する。なお、多層磁性シート400は、情報処理機器や電子機器などの非接触充電に用いられてもよい。また、フォークリフト、AGV等の運搬車、鉄道、路面電車等にも適用可能である。
【0023】
図1は、多層磁性シート400の構造を説明する平面視図である。図6は、多層磁性シート400の構造を説明する断面視図である。
多層磁性シート400には、図1および図6に示すように、複数の帯状に形成された磁性薄帯300が板形状に並んで配置された層が多層に配置されている。多層磁性シート400には、下記する第1層310、第2層320および第3層330をそれぞれ1層以上備えている。
【0024】
第1層310は、図2(A)に示すように、短辺と長辺とを有する帯状に形成された複数の磁性薄帯300を有している。複数の磁性薄帯300は、長辺300Lが隣り合うように板形状に並んで配置されている。
【0025】
第2層320は、図2(B)に示すように、短辺と長辺とを有する帯状に形成された複数の磁性薄帯300を有している。複数の磁性薄帯300は、長辺300Lが隣り合うように板形状に並んで配置されている。第2層320では、長辺300Lの延びる方向が、第1層310における長辺300Lの延びる方向に対して交差して配置されている。
【0026】
第3層330は、図3に示すように、短辺と長辺とを有する帯状に形成された複数の磁性薄帯300を有している。複数の磁性薄帯300は、長辺300Lが隣り合うように板形状に並んで配置されている。第3層330では、長辺の延びる方向が、第1層310(図中破線で示す)における長辺300Lの延びる方向と同じに配置されている。
【0027】
さらに、第1層310における長辺300Lの位置と第3層330における長辺300Lの位置とが、短辺が伸びる方向に0.5mm以上離れている。この離れた距離をDで示す。なお、第1層310と第3層330の構造を説明する部分断面視図を図4に示す。図4では第1層310と第3層330との間に第2層320を備える例を示している。
【0028】
また、多層磁性シート400は、下記する第4層340を1層以上備えていてもよい。
第4層340は、図5に示すように、短辺と長辺とを有する帯状に形成された複数の磁性薄帯300を有している。複数の磁性薄帯300は、長辺が隣り合うように板形状に並んで配置されている。第4層340では、長辺300Lの延びる方向が、第2層320(図中破線で示す)における長辺300Lの延びる方向と同じに配置されている。
【0029】
さらに、第2層320における長辺300Lの位置と第4層340における長辺300Lの位置とが、短辺が伸びる方向に0.5mm以上離れている。この離れた距離をDで示す。
【0030】
この第1層310、第2層320および第3層330をそれぞれ1層以上備える構造とすることにより、磁性薄帯300の積層方向に連続する磁気ギャップが形成されることを抑制することができる。
【0031】
また、第1層310、第2層320、第3層330および第4層340をそれぞれ1層以上備える構造とすることにより、磁性薄帯300の積層方向に連続する磁気ギャップが形成されることを抑制することができる。
第1層310から第3層330を並べる順番、または第1層310から第4層340を並べる順番は適宜設定することができ、それぞれの使用する層数も適宜設定することができる。
【0032】
厚さ方向は、第1層310、第2層320、第3層330が積層された方向とも表記する。
【0033】
図1に示すように、多層磁性シート400は、平面視において矩形状に形成された板状またはシート状の形状を有する。第1層310、第2層320、第3層330、および、第4層340を構成する複数の磁性薄帯300は長辺300Lを隣り合わせて配置され、短辺300Sが延びる方向に並んで配置されている。短辺300Sが延びる方向に並んで配置される磁性薄帯300の間隔は、0mm以上5mm以下であることが好ましい。
【0034】
各層を構成する磁性薄帯300は、短辺300Sが延びる方向に2以上20以下の数が並んで配置されていることが好ましい。なお、20以上並んで配置されていてもよい。本実施形態では、5つの磁性薄帯300が並べて配置されている例に適用して説明する。
【0035】
本実施形態では、長辺300Lが延びる方向に1つの磁性薄帯300が配置されている例に適用して説明する。なお、長辺300Lが延びる方向に磁性薄帯300が配置される数は1つよりも多くてもよい。
【0036】
本実施形態では、磁性薄帯300における長辺300Lが延びる方向の長さLが100mm以上1000mm以下の範囲であり、短辺300Sが延びる方向の幅Wrが10mm以上100mm以下の範囲である例に適用して説明する。なお、磁性薄帯300における長辺300Lが延びる方向の長さLが上述の範囲以外であってもよいし、短辺300Sが延びる方向の幅Wrが上述の範囲以外であってもよい。
【0037】
本実施形態では、多層磁性シート400における長さLが100mm以上1000mm以下の範囲であり、幅Wsが100mm以上1000mm以下の範囲である例に適用して説明する。
【0038】
ここで、長さLは、多層磁性シート400を構成する第1層310における磁性薄帯300の長辺300Lが延びる方向の寸法であり、幅Wsは、第1層310における磁性薄帯300の短辺300Sが延びる方向の寸法である。なお、多層磁性シート400における長さLが上述の範囲以外であってもよいし、幅Wsが上述の範囲以外であってもよい。
【0039】
本開示の多層磁性シート400は、例えば、第1層310と第3層330のように、長辺300Lの位置をずらして磁性薄帯300を配置している。そのため、同一寸法の磁性薄帯300を用いて構成する場合、多層磁性シート400の端面側で、磁性薄帯300の端面が揃わない。このように、磁性薄帯300の端面が揃わない状態であってもよい。
また、寸法(幅方向の寸法)の異なる磁性薄帯300を用い、多層磁性シート400の端面側で、磁性薄帯300の端面が揃うように構成してもよい。
【0040】
図6に示すように、多層磁性シート400は、断面視において第1層310から第3層330を厚さ方向に重ねた構成を有する。また多層磁性シート400は、第1層310から第4層340を厚さ方向に重ねた構成を有する。なお、第1層310から第4層340以外の構成の層を備えていてもよい。
【0041】
図6に示す多層磁性シート400には、樹脂シート15が設けられている。
また、第1積層端部401又は第2積層端部402には上記の樹脂シート15が積層されていなくてもよい。磁性薄帯300が露出していてもよいし、例えば、第1積層端部401又は第2積層端部402に、アモルファス合金薄帯、又は、ナノ結晶合金薄帯、もしくは、他の磁性材やアルミニウム等の金属箔、樹脂シート等から選択された外層材を貼付けしてもよい。
【0042】
多層磁性シート400における厚さ方向に重ねられる磁性薄帯の数は、合計で10以上であることが好ましい。より好ましくは15以上であり、より好ましくは20以上であり、より好ましくは25以上である。磁性薄帯の数の上限は、特に設定しない。必要な数を積層すればよい。例えば、200以下が好ましい。
【0043】
第1層310および第2層320は、第1層310の長辺300Lが延びる方向と、第2層320の長辺300Lが延びる方向と、が交差するように積層されている。より好ましくは、交差する角度が90±1度となるように積層されている。
【0044】
なお、第1層310および第4層340の間、第3層330および第2層320の間、第3層330および第4層340の間も同様に交差するように積層されている。より好ましくは、交差する角度が90±1度となるように積層されている。
【0045】
磁性薄帯300を形成する材料としては、合金組成がFe基又はCo基の合金を使用でき、ナノ結晶合金又はアモルファス合金を使用できる。磁性薄帯300は、特にナノ結晶合金を材料として形成された薄帯(以下、「ナノ結晶合金薄帯」とも表記する。)であることが好ましい。
【0046】
ナノ結晶合金薄帯としては、ナノ結晶化が可能な非晶質合金薄帯にナノ結晶化の熱処理を行って得られたナノ結晶合金薄帯を用いることができる。ナノ結晶化の熱処理の際、ナノ結晶化が可能な非晶質合金薄帯に張力を付与した状態でナノ結晶化の熱処理を行うことが好ましい。なお、アモルファス合金を材料として形成された薄帯をアモルファス合金薄帯、または、非晶質合金薄帯とも表記する。
【0047】
ナノ結晶合金薄帯は、次の一般式により表される組成を有することが好ましい。
一般式:(Fe1-aMa)100-x-y-z-α-β-γCuSiM’αM”βγ(原子%)
【0048】
上記の一般式中で、MはCo及び/又はNiであり、M’はNb、Mo、Ta、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn及びWからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、M”はAl、白金族元素、Sc、希土類元素、Zn、Sn、及びReからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、XはC、Ge、P、Ga、Sb、In、Be、及びAsからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、a、x、y、z、α、β及びγはそれぞれ0≦a≦0.5、0.1≦x≦3、0≦y≦30、0≦z≦25、5≦y+z≦30、0≦α≦20、0≦β≦20及び0≦γ≦20を満たす。
好ましくは、上記一般式において、a、x、y、z、α、β及びγは、それぞれ0≦a≦0.1、0.7≦x≦1.3、12≦y≦17、5≦z≦10、1.5≦α≦5、0≦β≦1及び0≦γ≦1である。
【0049】
本実施形態では磁性薄帯300が、Fe-Cu-Nb-Si-B系のナノ結晶合金である薄帯(日立金属株式会社製FT-3)の例に適用して説明する。なお、磁性薄帯300は、上記の一般式により表される他の組成を有するナノ結晶合金薄帯であってもよいし、アモルファス合金薄帯であってもよい。
【0050】
磁性薄帯300がナノ結晶合金薄帯である場合は、磁性薄帯300がアモルファス合金薄帯である場合よりも機械的に脆い。磁性薄帯300がナノ結晶合金薄帯である場合は、磁性薄帯300に直接外力を付与してクラック21を形成する際に、小さな外力でクラック21を形成することができる。
【0051】
磁性薄帯300がナノ結晶合金薄帯である場合は、磁性薄帯300の表面に凹凸を実質的に形成することなくクラック21を形成できる。そのため、磁性薄帯300の平面状態を良好な状態とすることができる。磁性薄帯300と粘着層10とを貼り合わせた後に発生する磁性薄帯300の形状の経時変化が小さくなる。磁性薄帯300における磁気特性の経時変化を抑制することができる。
【0052】
磁性薄帯300としては、例えば、ロール急冷により製造された厚さが100μm以下の合金薄帯を用いることができる。磁性薄帯300の厚さは、50μm以下が好ましく、更に30μm以下が好ましく、特に25μm以下が好ましく、特に20μm以下が好ましい。また、厚さが薄いと磁性薄帯300の取り扱いが困難となるため、磁性薄帯300の厚さは、5μm以上であることが好ましく、更に10μm以上が好ましい。
【0053】
多層磁性シート400において、各磁性薄帯300は積層して互いに接着される。
本開示の多層磁性シート400において、磁性薄帯300として、磁性薄帯300の一面に粘着層10が形成された後述する磁性シート100を用いることが好ましい。この磁性シート100は粘着層10を備え、他の磁性薄帯300との接着が可能であり、磁性薄帯300を積層し、接着することが容易となる。
【0054】
図12は、磁性シート100の構造を説明する幅方向に切断した断面視図である。
磁性シート100は、上記した構造において、磁性薄帯300として用いることができる。磁性シート100は、図12に示すように、1層の粘着層10と、1層の樹脂シート15と、1層の磁性薄帯300と、が積層された構成を有する。
【0055】
粘着層10は磁性薄帯300が貼り付けられる部材である。また粘着層10は長尺状に形成された部材、例えば長方形状に形成された膜状の部材である。粘着層10には、支持体11と、粘着剤12と、が主に設けられている。
【0056】
支持体11は、長尺状に形成された帯状の膜部材、例えば長方形状に形成された膜部材である。支持体11は、可撓性を有する樹脂材料を用いて形成されている。樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET:Polyethyleneterephthalate)を用いることができる。
【0057】
粘着剤12は、支持体11における第1面11Aおよび第2面11Bに膜状または層状に設けられている。
粘着剤12は、例えば、感圧性接着剤を用いることができる。例えば、アクリル系の接着剤、シリコーン系の接着剤、ウレタン系の接着剤、合成ゴム、天然ゴム等の、公知の接着剤を粘着剤12として用いることができる。アクリル系の接着剤は、耐熱性、耐湿性に優れ、かつ、接着可能な材質も幅広いため、粘着剤12として好ましい。
【0058】
粘着剤12は、支持体11の第1面11Aおよび第2面11Bに、層状に設けられている。本実施形態では、支持体11の第1面11Aおよび第2面11Bの全面に粘着剤12が設けられた例に適用して説明する。
【0059】
磁性薄帯300は、磁性を有する材料を用いて長尺状の帯状に形成された薄帯である。磁性薄帯300にはクラック21が形成されている。磁性薄帯300は、クラック21により複数の小片22に分割されている。言い換えると、磁性薄帯300は複数の小片22を含む。クラック21とは、磁性薄帯300に形成される磁気的なギャップを指し、例えば、磁性薄帯300の割れ及び/又はひびが包含される。
【0060】
磁性薄帯300にクラック21を形成することで、多層磁性シート400をインダクタ用磁性体として用いる場合にQ値の向上を図りやすくなる。また、多層磁性シート400を磁気シールド用磁性体として用いる場合には、磁性薄帯300の電流路を分断して渦電流損を低減しやすくなる。
【0061】
磁性薄帯300は、粘着層10の粘着剤12に接着されている。本実施形態では、粘着層10の第1面11Aに設けられた粘着剤12に磁性薄帯300が接着されている。また、磁性薄帯300と粘着層10とは次式の関係を満たす形状を有していることが好ましい。
【0062】
0.2mm≦(幅A-幅B)≦3mm
幅Aは、粘着層10に関する寸法であって、より好ましくは粘着層10における磁性薄帯300が接着される粘着剤12が設けられた領域に関する寸法である。幅Bは、磁性薄帯300に関する寸法である。なお、粘着剤12が粘着層10の支持体11の全面に設けられている場合には、幅Aは、粘着層10または支持体11に関する寸法である。
【0063】
ここで、(幅A-幅B)の下限は、0.5mmであることが好ましく、更に1.0mmであることが好ましい。また、(幅A-幅B)の上限は、2.5mmであることが好ましく、更に2.0mmであることが好ましい。
【0064】
また、磁性薄帯300と粘着層10とは、別の次式の関係を満たすように配置されていることが好ましい。
0mm<隙間a、および、0mm<隙間b
【0065】
本開示の磁性シート100では、粘着層10における粘着剤12が設けられた粘着層10の幅Aが、磁性薄帯300の幅Bよりも広くなる。粘着層10に磁性薄帯300を貼り付ける際に、粘着層10や磁性薄帯300に蛇行が生じても、磁性薄帯300の全面に粘着層10の粘着剤12が配置されやすくなる。
【0066】
幅Aから幅Bを引いた値を0.2mm以上とすることにより、粘着層10に磁性薄帯300を貼り付ける際に、磁性薄帯300に粘着剤が配置されない部分の発生を防ぎやすい。幅Aから幅Bを引いた値を3mm以下とすることにより、磁性シート100における磁性薄帯300として配置したとき、磁性薄帯300間の間隔が大きくなることを防ぎやすい。これにより、磁性シート100を並列して並べたときに、磁性薄帯300間の間隔(磁気ギャップ)が大きくなることを防ぎやすい。
【0067】
隙間aおよび隙間bは、粘着層10の端部から磁性薄帯300の端部までの距離である。具体的には隙間aは、粘着層10の第1粘着層端部10Xから、磁性薄帯300の第1薄帯端部20Xまでの距離である。隙間bは、粘着層10の第2粘着層端部10Yから、磁性薄帯300の第2薄帯端部20Yまでの距離である。
【0068】
第1薄帯端部20Xは、磁性薄帯300における第1粘着層端部10Xと同じ側の端部である。第2粘着層端部10Yは、粘着層10の第1粘着層端部10Xと反対側の端部である。第2薄帯端部20Yは、磁性薄帯300における第2粘着層端部10Yと同じ側の端部である。
【0069】
幅A、幅B、隙間a、および隙間bは、磁性薄帯300の長手方向と交差する方向、より好ましくは直交する方向の寸法である。磁性薄帯300の長手方向と、粘着層10の長手方向は同じ方向である。
【0070】
本実施形態では、磁性薄帯300の長手方向の長さが20,000mである例に適用して、本実施形態に適用する磁性シート100の作製方法を以下に説明する。また、粘着層10または支持体11に関する寸法である幅Aが32mmであり、磁性薄帯300に関する寸法である幅Bが30mmであり、幅A-幅Bは2mmである例に適用して説明する。
【0071】
樹脂シート15は樹脂を用いて形成された膜状の部材であり、保護フィルム、リリースフィルムまたはライナーとも表記される部材である。樹脂シート15は、磁性薄帯300や多層磁性シート400の保護に用いられる部材である。
【0072】
樹脂シート15は、磁性薄帯300に意図しない外力が加わることにより、後述するクラック21(または複数のクラック21同士を網目状に繋ぐクラック)が不要に増えることを抑制する機能を有する。また、磁性薄帯300の小片22が脱落することを抑制する機能や、磁性薄帯300が錆びることを抑制する機能を有する。
【0073】
また、樹脂シート15は、多層磁性シート400を所定の形状に加工する際に、不要な変形が発生することを抑制する機能を有する。不要な変形としては、表面の凹凸などを例示することができる。樹脂シート15は、上述のように粘着層10とともに積層されてもよいし、単体で積層されてもよい。
【0074】
樹脂シート15は、樹脂を用いて形成された膜状の部材であることが好ましく、弾力性を有する樹脂を用いて形成された部材であることがより好ましい。樹脂シート15が樹脂を用いて形成された部材であると、樹脂シート15の弾性力により、磁性薄帯300の表面における凹凸の発生を抑制しやすくなる。
【0075】
磁性薄帯300の表面に凹凸が発生しても、樹脂シート15の弾性力により、磁性薄帯300の凹凸が平坦になりやすい。磁性薄帯300の平面状態を凹凸が少ない良好な状態にすることができる。多層磁性シート400における磁気特性の経時変化を小さくしやすい。
【0076】
樹脂シート15は、引張弾性率の下限が0.1GPaの樹脂を使用できる。樹脂の引張弾性率が0.1GPa以上であれば、上記の効果が十分に得られやすい。引張弾性率の下限は、0.5GPaが好ましく、1.0GPaがさらに好ましい。
【0077】
樹脂の引張弾性率の上限は10GPaとすることが好ましい。10GPaを超えると、後述するクラック21を形成する際、合金薄帯の変形を抑制してしまうことがある。引張弾性率の上限は9GPaが好ましく、8GPaがさらに好ましい。
【0078】
樹脂シート15は、樹脂シート15の厚みが1μm以上100μm以下であることが好ましい。樹脂シート15の厚みが増すと、多層磁性シート400が変形し難くなる。多層磁性シート400を曲面又は屈曲面に倣って配置しにくくなることがある。
【0079】
樹脂シート15の厚さが1μm未満であると、樹脂シート15の変形が容易となる。樹脂シート15の扱いが難しくなり、樹脂シート15による磁性薄帯300を支持する機能が十分に得られない場合がある。樹脂シート15が保護フィルムである場合には、樹脂シート15の強度が弱くなり、磁性薄帯300などを保護する機能が十分でなくなる場合もある。
【0080】
樹脂シート15は、樹脂として、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、アクリル樹脂、セルロース等を用いることができる。耐熱性及び誘電損失の観点から、ポリアミド及びポリイミドが樹脂シート15を形成する樹脂として特に好ましい。
【0081】
図7は、磁性シート100の製造方法を説明する模式図である。
磁性シート100は図1から図6で説明した多層磁性シート400の磁性薄帯300として用いることができる。磁性シート100は、図7に示す製造装置500を用いて製造される。製造装置500には、製造工程の上流から下流に向かって、第1巻出しロール510と、第1巻取りロール520と、第2巻出しロール530と、貼付けロール540と、クラックロール550と、平坦化ロール560と、第3巻取りロール570と、が主に設けられている。製造装置500には、さらに複数の誘導ロール580が設けられてもよい。なお、誘導ロール580は記載していない位置でも必要に応じて配置することができる。
【0082】
図8は、第1巻出しロール510から供給される積層体の構成を説明する断面視図である。
第1巻出しロール510には、図8に示すように、粘着層10の第1面11Aおよび第2面11Bに樹脂シート15が積層された積層体が巻き付けられている。第1面11Aに配置された樹脂シート15は保護シートであり、第2面11Bに配置された樹脂シート15はライナーとも表記する。第1面11Aに配置された樹脂シート15は、第2面11Bに配置された樹脂シート15よりも厚さが薄いシートである。
【0083】
図9は、第1巻出しロール510から供給され、樹脂シート15が剥離された積層体の構成を説明する断面視図である。
第1巻出しロール510から巻き出された積層体は、図9に示すように、第1面11Aに配置された樹脂シート15が剥離される。剥離された樹脂シート15は、図7に示すように、第1巻取りロール520に巻き取られる。
【0084】
図10は、第2巻出しロール530から供給される磁性薄帯300の構成を説明する断面視図である。
第1面11Aに配置された樹脂シート15が剥離された積層体は、複数の誘導ロール580により、貼付けロール540に導かれる。貼付けロール540には、さらに第2巻出しロール530から巻き出された磁性薄帯300が導かれている。貼付けロール540に導かれる磁性薄帯300には、図10に示すように、クラック21は形成されていない。
【0085】
ここで、第2巻出しロール530から巻き出される磁性薄帯300の製造方法について説明する。例えば、磁性薄帯300がナノ結晶合金である場合について説明する。磁性薄帯300は、合金溶湯を急冷して、ナノ結晶化が可能なアモルファス合金薄帯を得る工程と、このアモルファス合金薄帯を結晶化開始温度以上で熱処理して微細な結晶粒を形成させる熱処理工程と、を含む製造方法によって製造される。
【0086】
上述の急冷は、回転する冷却ロール上に溶湯を吐出して急冷凝固させる単ロール法により行われる。磁性薄帯300は冷却ロールの回転方向に沿った方向が長手方向となる長尺形状を有する。磁性薄帯300の長手方向の長さは、例えば20,000mを挙げることができる。
【0087】
上述の熱処理の温度は、合金組成により異なるが、一般的には450℃以上である。微細な結晶粒は、例えば、Siなどが固溶した体心立方格子構造のFeである。この微細な結晶粒の分析は、X線回折及び透過電子顕微鏡を用いて行うことができる。
【0088】
ナノ結晶合金においては、ナノ結晶合金の少なくとも50体積%が、最大寸法で測定した粒径の平均が100nm以下の微細な結晶粒で占められる。また、ナノ結晶合金のうちで微細結晶粒以外の部分は主に非晶質である。微細結晶粒の割合は実質的に100体積%であってもよい。
【0089】
図11は、貼付けロール540により、磁性薄帯300が粘着層10に接着された状態を説明する断面視図である。
貼付けロール540は、図7に示すように、樹脂シート15が剥離された積層体に磁性薄帯300を押し付けて接着する。具体的には、対向して配置された2つのロールの間に、積層体と磁性薄帯300とを導き、2つのロールを用いて、図11に示すように、粘着層10の第1面11Aに磁性薄帯300を押し付けて接着する。
【0090】
磁性薄帯300は、粘着層10と幅方向において中心が一致するように配置されもよいし、中心が離れて配置されてもよい。この場合、0mm<隙間a、および、0mm<隙間bの関係(図12参照。)を満たすように配置されている。磁性薄帯300が接着された積層体は、図7に示すように、貼付けロール540からクラックロール550に導かれる。
【0091】
図12は、クラックロール550により磁性薄帯300にクラック21が形成された状態を説明する断面視図である。
クラックロール550は、粘着層10に接着された磁性薄帯300にクラック21を形成する。具体的には、対向して配置された2つのロールの間に、磁性薄帯300が接着された積層体を導き、2つのロールのうちの突起が設けられたロールを磁性薄帯300に押し付けて、図12に示すようにクラック21を形成する。
【0092】
2つのロールのうちの突起が設けられていないロールは、樹脂シート15が剥離された積層体側に配置されている。クラック21が形成された磁性薄帯300には複数の小片22が含まれる。複数の小片22は、粘着層10に接着される。
【0093】
ここで、クラックロール550の構成について説明する。クラックロール550は、複数の凸状部材を周面に配置したロールである。クラックロール550の凸状部材の端部の先端は、平坦、錐状、中央が窪む逆錐状、又は筒状でもよい。複数の凸状部材は、規則的に配置されてもよいし、不規則に配置されてもよい。
【0094】
長尺の磁性薄帯300をクラックロール550に押し付けたり、又は長尺の磁性薄帯300を2つのクラックロール550の間に通したりすることで、磁性薄帯300にクラック21が連続的に形成される。また、磁性薄帯300の表面の複数箇所にクラックロール550の凸状部材が押し付けられ、磁性薄帯300に複数のクラック21が形成される。
【0095】
クラックロール550を用いたクラックの形成では、さらに、複数のクラック21同士を網目状に繋ぐクラックを形成することが好ましい。具体的には、磁性薄帯300にクラックロール550を押しつけて複数のクラック21を形成した後、上記複数のクラック21同士を網目状に繋ぐクラックを形成する工程を有することが好ましい。
【0096】
例えば、クラックロール550を用いて磁性薄帯300に直接外力を付与してクラック21を形成した後、磁性薄帯300を湾曲したり、巻き取ったりする等の手段によって第2の外力を付与して、複数のクラック21同士を網目状に繋ぐクラックを形成してもよい。クラック21同士を繋ぐクラック(クラック同士を繋ぐ磁気的なギャップ)は、クラック21を脆性破壊及び/又は亀裂破壊の起点として形成される。
【0097】
複数のクラック21同士を網目状に繋ぐクラックを形成する工程では、上記のような第2の外力を付与しなくてもよい。第2の外力を付与しない場合には、複数のクラック21が形成される過程で、複数のクラック21同士を網目状に繋ぐクラックが形成される。
【0098】
クラックロール550から平坦化ロール560に導かれた積層体は、平坦化ロール560により平坦化処理が行われる。なお、平坦化ロール560は整形ロールとも表記する。
【0099】
具体的には、平坦化ロール560における対向して配置された2つのロールの間に積層体が導かれ、積層体が2つのローラに挟まれて押圧される。これにより、クラック21が形成された磁性薄帯300の表面が平坦化される。
【0100】
平坦化処理が行われた後の積層体が磁性シート100となる。磁性シート100は、誘導ロール580を経由して第3巻取りロール570に導かれる。磁性シート100は、第3巻取りロール570に巻き取られる。
第3巻取りロール570で巻き取る方法以外に、所望の長さで切断してもよい。
【0101】
第3巻取りロール570で巻き取られた磁性シート100は、図1から図6で示した磁性薄帯300として用いることができる。このとき、所望の長さに切断して用いることができる。もちろん、巻取りを行わないで、切断する方法を用いてもよい。
【0102】
この磁性シート100を図1から6で示した磁性薄帯300として用いることにより、積層する磁性薄帯300(磁性シート100)間の接着が容易となる。また、磁性薄帯300を単独で扱うより、磁性シート100として扱う方が、扱いが容易となる。また、磁性薄帯300としてナノ結晶合金薄帯を用いる場合、ナノ結晶合金薄帯は脆い性質を持っており、ナノ結晶合金薄帯を単独で扱うことは容易でない。
【0103】
本開示の磁性シート100を図1から図6の磁性薄帯300として用いた場合、磁性薄帯300より幅が広い樹脂層を用いているので、磁性薄帯300間の磁気ギャップが大きくなる傾向になる。しかしながら、本開示は、磁性薄帯300間の磁気ギャップによる特性劣化を抑制できる構成であり、磁性シートを図1から図6の磁性薄帯300として用いても、透磁率が高く、Q値が高い多層磁性シートを構成できる。
【0104】
上記の構成の多層磁性シート400によれば、磁性薄帯300の積層方向に磁気ギャップが連続することを抑制することができるので、多層磁性シート400における磁気特性の悪化を防ぎやすい。これにより、透磁率が高く、Q値が高い多層磁性シートを得られる。
【0105】
多層磁性シート400の幅が100mm以上1000mm以下、長さが100mm以上1000mm以下とすることにより、多層磁性シート400を所望の大きさに形成することができる。
【0106】
磁性薄帯300をアモルファス合金薄帯、又は、ナノ結晶合金薄帯とすることにより、磁性薄帯300を軟磁性薄帯とすることが可能となる。また、合金を用いて磁性薄帯300を形成することができる。
【0107】
磁性薄帯300に複数の小片22を含ませることにより、多層磁性シート400の特性を向上させやすくなる。具体的には、多層磁性シート400をインダクタ用磁性体として用いる場合にQ値の向上を図りやすくなる。また、多層磁性シート400を磁気シールド用磁性体として用いる場合には、磁性薄帯300の電流路を分断して渦電流損を低減しやすくなる。
【0108】
磁性薄帯300の一面に粘着層10を設けることにより、隣接する磁性薄帯300を粘着層10により保持することができる。具体的には、支持体11の第1面11Aに設けられた粘着剤12が、隣接する磁性薄帯300の一方に接着され、第2面11Bに設けられた粘着剤12が隣接する磁性薄帯300の他方に接着される。
【0109】
第1積層端部401又は第2積層端部402に樹脂シート15を設けることにより、製造された多層磁性シート400を保護しやすくなる。例えば、製造した後の多層磁性シート400を搬送する際に、粘着層10や磁性薄帯300が損傷することを防ぎやすい。
また、第1積層端部401又は第2積層端部402に、アモルファス合金薄帯、又は、ナノ結晶合金薄帯、もしくは、他の磁性材やアルミ等の金属箔、樹脂シート等から選択された外層材を貼付けしてもよい。
【0110】
粘着層10における粘着剤12が設けられた領域の幅Aが、磁性薄帯300の幅Bよりも広くなる。粘着層10に磁性薄帯300を貼り付ける際に、粘着層10や磁性薄帯300に蛇行が生じても、磁性薄帯300の全面に粘着層10の粘着剤12が配置されやすくなる。
【0111】
幅Aから幅Bを引いた値を0.2mm以上とすることにより、粘着層10に磁性薄帯300を貼り付ける際に、磁性薄帯300に粘着剤12が配置されない部分の発生を防ぎやすい。幅Aから幅Bを引いた値を3mm以下とすることにより、磁性シート100における磁性薄帯300が配置されていない部分が大きくなることを防ぎやすい。
【0112】
なお、本開示の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、本開示に係る多層磁性シート400は、誘導素子などとして使用することができる。
【符号の説明】
【0113】
10…粘着層、 11…支持体、 11A…第1面、 11B…第2面、 12…粘着剤、 22…小片、 300…磁性薄帯、 300L…長辺、 300S…短辺、 310…第1層、 320…第2層、 330…第3層、 340…第4層、 400…多層磁性シート、 401…第1積層端部、 402…第2積層端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13