(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155292
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】1,3-ブタンジオール
(51)【国際特許分類】
A61K 8/34 20060101AFI20231013BHJP
C07C 31/20 20060101ALI20231013BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20231013BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
A61K8/34
C07C31/20 B
A61K8/49
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023132658
(22)【出願日】2023-08-16
(62)【分割の表示】P 2021517061の分割
【原出願日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】P 2019232310
(32)【優先日】2019-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】森脇 拓也
(72)【発明者】
【氏名】木村 和也
(57)【要約】
【課題】化粧品用に好適な、臭気の少ない1,3-ブタンジオールを、安定的に提供することを目的とする。
【解決手段】化学式(A)で示される臭気物質Aが、1wtppm以上、10wtppm以下であり、化学式(B)で示される臭気物質Bが4wtppm以上、25wtppm以下である1,3-ブタンジオール組成物を含有する化粧品。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(A)で示される臭気物質Aが、1wtppm以上、10wtppm以下であり、化学式(B)で示される臭気物質Bが4wtppm以上、25wtppm以下である1,3-ブタンジオール組成物を含有する化粧品。
【化1】
【化2】
【請求項2】
保湿剤である請求項1に記載の化粧品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品用途に好適な低臭気の1,3-ブタンジオールに関する。
【背景技術】
【0002】
1,3-ブタンジオールは、沸点207℃の粘稠な無色透明及び無臭の水溶性液体であり、様々な誘導体の原料として用いられている。例えば、長鎖のカルボン酸と、1,3-ブタンジオールから形成されるエステルは、可塑剤として利用されている。また、1,3-ブタンジオールは、生体毒性の低さ及び安定性から、化粧品原料にも用いられている。1,3-ブタンジオールは、化粧品原料としては、保湿効果、抗菌性、べたつきが少ない等の特徴を有しているため、例えば、シャンプー、乳液、保湿剤等の幅広い製品の化粧品原料として用いられている。中でも、保湿剤等の化粧料用途の場合には、臭気の少ない1,3-ブタンジオールが求められている。1,3-ブタンジオール自体はほとんど無臭であるが、製造過程で生じた副生物や不純物に起因して臭気が生じている場合があった。
【0003】
1,3-ブタンジオールの主たる製造方法の一つは、アセトアルデヒドを縮合させてアセトアルドール(3-ヒドロキシブタナール)を得て、これを水素化する方法である。しかし、アセトアルドール自身は不安定であり、単一物質としての取扱いが困難であった。
【0004】
そこで、実際には、アセトアルデヒドを塩基性触媒の存在下で縮合させてアルドキサン(2,6-ジメチル-1,3-ジオキサン-4-オールの慣用名)を取得して、アルドキサンを加熱分解して生じるアセトアルデヒドを留去することで、アセトアルドールの二量体であるパラアルドール(4-ヒドロキシ-α,6-ジメチル-1,3-ジオキサン-2-エタノールの慣用名)を得る(特許文献1)。
【0005】
そして、このパラアルドールを水素化反応の原料として用いて、1,3-ブタンジオールを製造する。また、アルドキサンを水素化反応の原料として用いてもよく、この場合にはエタノールが副生するものの、1,3-ブタンジオールを製造することができる。
【0006】
臭気の少ない1,3-ブタンジオールを得る手法として、例えば、特開平7-258129号公報(特許文献2)は、高沸点物を除去するための蒸留を行う際に、苛性ソーダ等の化合物を添加して蒸留する方法を開示している。また、国際公開第2000/07969(特許文献3)は、高沸点物を除いた粗1,3-ブタンジオールに、アルカリ金属塩基を添加して加熱処理した後、1,3-ブタンジオールを留出させてアルカリ金属化合物及び高沸点物を残さとして分離し、続いて、1,3-ブタンジオール留分から低沸点物を留去する方法を開示している。しかしながら、いずれの前記の方法から得られる1,3-ブタンジオールも、依然として臭気を有し、また、臭気を発する物質が明確になっておらず、そのため、どの程度の純度を持つ原料を、どの程度精製する必要があるのか定量化できていなかった。特開2003-096006号公報(特許文献4)には、臭気の少ない1,3-ブタンジオールが開示されているが、具体的な臭気物質は特定されていない。特許第5024952号公報(特許文献5)には、炭素数4以上のアルカンジオール組成物中の臭気物質として、ジオキサン型化合物が開示されているが、ジアルキルジオキサンの一般式が記載されているのみで、具体的に低減すべき臭気物質の記述はなく、真の臭気物質は不明であった。
また、臭気の少ない1,3-ブタンジオールを得ようとすれば、過大な精製能力を持つ設備を設計する必要があり、安定的に、且つ経済的に製造することは非常に困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62-212384号公報
【特許文献2】特開平7-258129号公報
【特許文献3】国際公開第2000/07969号
【特許文献4】特開2003-096006号公報
【特許文献5】特許第5024952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、1,3-ブタンジオール中の臭気物質を、定量、管理することで、臭気の少ない1,3-ブタンジオールを、安定的に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、1,3-ブタンジオール中の臭気が、複数の臭気物質に由来することを見いだし、当該臭気物質を特定して、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、以下の[1]から[3]を包含する。
[1]
化学式(A)で示される臭気物質Aが、2wtppm以上、10wtppm以下であり、化学式(B)で示される臭気物質Bが4wtppm以上、25wtppm以下である1,3-ブタンジオール。
【化1】
【化2】
[2]
化粧品原料用として用いられる、[1]に記載の1,3-ブタンジオール。
[3]
[1]又は[2]のいずれかに記載の1,3-ブタンジオールを含有する化粧品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、臭気が少ない1,3-ブタンジオールが、安定的に、且つ経済的に提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1、比較例1、及び比較例4の1,3-ブタンジオールのクロマトグラムである。
【
図2】実施例1、比較例1、及び比較例4の1,3-ブタンジオールのクロマトグラムにおいて、臭気物質Aのピーク群近傍のクロマトグラム拡大図である。
【
図3】実施例1、比較例1、及び比較例4の1,3-ブタンジオールのクロマトグラムにおいて、臭気物質Bのピーク群近傍のクロマトグラム拡大図である。
【
図4】実施例、及び比較例の1,3-ブタンジオールの臭気物質A及び臭気物質Bの含有量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明はこれらの形態のみに限定されるものではない。
【0013】
一実施形態に係る1,3-ブタンジオールは、粗1,3-ブタンジオールを精製することにより得ることができる。粗1,3-ブタンジオールの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、公知の方法(特公平3-80139号公報、特開平7-258129号公報等参照)により製造することができる。
具体的には、下記反応式に示すように、アセトアルデヒドを出発原料とし、パラアルドールを水素化して、1,3-ブタンジオールを得ることができる。
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】
1.縮合工程
縮合工程は、アセトアルデヒドから、アセトアルドール、又は更にアルドキサンを得る工程である。アセトアルドール類は、水素化反応の原料となり、その製造方法は特に限定されるものではない。例えば、以下の方法により調製される。
【0018】
アセトアルデヒドに触媒量の塩基を作用させることで、アセトアルデヒド2分子が反応し、アセトアルドール1分子を得る。塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを用いることができる。生成したアセトアルドールは不安定であるため、速やかに、アセトアルドール1分子とアセトアルデヒド1分子とが反応して、アルドキサン1分子を生ずる。本開示では、このような、アセトアルデヒドからアセトアルドールを、更にはアルドキサンを得る反応のことを、縮合反応と呼び、縮合反応を行う工程を、縮合工程と称することとする。
【0019】
縮合反応は平衡反応であるため、平衡組成に近付くと、反応の進行が遅くなる。その状態で塩基が存在すると、アセトアルドールから、更に縮合が進んだ三量体等の高沸成分が生成したり、アセトアルドールが脱水してクロトンアルデヒドが生成したりする。そこで、必要に応じて酸を加えて塩基を中和して、反応を停止する。酸としては、例えば、酢酸等の有機酸を用いることができる。
【0020】
縮合反応は、液相にて、温度20~50℃、圧力0.1~0.2MPaG(ゲージ圧)、反応時間2~20分で行うことができる。反応雰囲気は、窒素ガス、アルゴン等の不活性ガス下であることが好ましい。縮合反応に用いる反応器には制限はなく、例えば、槽型反応器を用いることができる。
【0021】
2.熱分解工程
縮合工程で得られたアルドキサンを水素化することでも1,3-ブタンジオールを得ることはできるが、アルドキサン1分子からは、1,3-ブタンジオール1分子とともにエタノール1分子が生ずる。このため、エタノールの併産が好ましくない場合には、必要に応じて、アルドキサンの熱分解反応によりアルドキサンをパラアルドールに変換し、得られたパラアルドールを水素化する。これにより、エタノールの副生をさせることなく、1,3-ブタンジオールを得ることができる。
【0022】
アルドキサンを加熱すると、平衡反応により、アルドキサン1分子はアセトアルドール1分子とアセトアルデヒド1分子とに分解する。そして、ある温度及び圧力条件下では、アセトアルデヒドは気化し、系内から除去される。このとき残ったアセトアルドール2分子が会合することで、パラアルドール1分子が生成する。副生したアセトアルデヒドは、出発原料として再利用することができる。本開示では、このような、アルドキサンからパラアルドールとアセトアルデヒドとを得る反応のことを、熱分解反応と呼び、熱分解反応を行う工程を、熱分解工程と称することとする。
【0023】
パラアルドール1分子を水素化すると、1,3-ブタンジオール2分子を得ることができる。このため、熱分解反応を進めて、アルドキサンを完全にパラアルドールに転化してから水素化反応を行えば、エタノールは全く副生しない。しかしながら、アルドキサンをパラアルドールに転化する過程では、アセトアルドールの脱水によるクロトンアルデヒドの生成や、アセトアルドール、クロトンアルデヒド等の重合による高沸成分の生成が起こる。このため、実際には、アルドキサンの熱分解反応は、適当な転化率で止められ、熱分解反応液として、アルドキサンとパラアルドールの混合物を取得する。
【0024】
熱分解反応は、液相にて、温度60~80℃、圧力0.01~0.1MPaG、反応時間20~90分で行うことができる。反応雰囲気は、窒素ガス、アルゴン等の不活性ガス下であることが好ましい。
【0025】
次工程となる水素化工程においては、熱分解反応液中のパラアルドールとアルドキサンとを分離したのち、パラアルドールのみを水素化反応の原料として用いてもよい。あるいは、蒸留等の一般的な分離法では両者の分離は困難であるため、分離せずに混合物のまま水素化反応の原料として用いてもよい。水素化反応の原料は、熱分解工程で生成したクロトンアルデヒド又は高沸成分だけでなく、縮合工程で使用した塩基の中和によって生成した塩を含んでいてもよい。
【0026】
3.水素化工程
熱分解工程で得られたパラアルドールは、水素ガス(H2)の存在下にて水素化触媒と接触させることで水素化され、1,3-ブタンジオールに転化される。熱分解工程の原料であり、未反応であったアルドキサンを同時に水素化して、1,3-ブタンジオールを得ることもできる。本開示では、水素化反応を行う工程を、水素化工程と呼ぶ。
【0027】
水素化反応を実施する温度は、50~150℃とすることができ、好ましくは70~130℃である。温度を50℃以上とすることで、水素化反応を確実に進行させることができ、150℃以下とすることで、水素化分解反応等の副反応を抑制して、目的生成物である1,3-ブタンジオールの収率を高めることができる。
【0028】
水素化反応を実施する圧力は、5~15MPaGとすることができ、好ましくは7~12MPaGである。圧力を5MPaG以上とすることで、水素化反応を促進することができ、15MPa以下とすることで、水素の昇圧にかかるコスト及び設備コストを低減することができる。
【0029】
水素化触媒としては、任意のものを使用することができるが、一般的に有効な水素化触媒は、ニッケル系の触媒である。特に、アルミナ、シリカ等の担体にニッケルを担持させた安定化ニッケル、及びニッケルとアルミとの合金からアルミを溶出させたスポンジニッケルが有効である。
【0030】
水素化反応を行うための反応器には特に制限はなく、例えば、槽型反応器を用いることができる。
【0031】
水素化工程で得られた反応液には、1,3-ブタンジオール以外に、種々の低沸分が含まれる。低沸分としては、例えば、主にはアルドキサンを水素化することによって生じるエタノール、アセトアルドールを水素化する際に副生する1-ブタノール、2-ブタノール、及び2-プロパノール等が挙げられる。低沸分には、縮合工程又は熱分解工程から持ち込まれた水が含まれていてもよい。
【0032】
これらの低沸分は、水素化反応後に蒸留等の分離操作によって取り除くことができる。低沸分は、廃棄されるか、あるいは有用な化合物を分離した後、他の化学原料として有効利用することができる。
【0033】
低沸分が除去された粗1,3-ブタンジオールは、実用的な純度まで1つ又は複数の分離操作を行うことにより精製されることで、化粧品用途向け以外の製品となる粗1,3-ブタンジオールを得ることができる。
【0034】
化粧品原料用となりうる1,3-ブタンジオールとするための粗1,3-ブタンジオールの精製方法については、特には限定さるものではない。例えば、公知の方法(特公平3-80139号公報、特開平7-258129号公報等参照)により、アセトアルドールの水素還元によって得られる反応生成物から、副生成物であるエタノールを蒸留により除く方法や、エタノールを除去した後の留分に、更に1つ以上の公知の精製工程を実施する方法等が挙げられ、公知の精製工程は繰り返し実施してもよい。公知の精製方法としては、例えば、高沸分を除去する蒸留や、水を塔頂より導入して1,3-ブタンジオールを塔底より抜出す蒸留、あるいは水と粗1,3-ブタンジオールを混合し、水を蒸発させて1,3-ブタンジオールを得る工程、有機溶媒(例えば、ペンタン、ヘキサン、トルエン等)で不純物を抽出する工程、またアルカリ金属化合物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)を添加して加熱処理する工程、活性炭等の吸着剤を用いて不純物を除去する工程等が挙げられる。
【0035】
本実施形態の1,3-ブタンジオールに含まれる、化学式(A)で示される臭気物質Aの含有量は、1wtppm以上、10wtppm以下であり、且つ、化学式(B)で示される臭気物質Bの含有量は4wtppm以上、25wtppm以下である。
臭気物質Aの含有量は、2wtppm以上、8wtppm以下であり、且つ、臭気物質Bの含有量は8wtppm以上、20wtppm以下であることがより好ましい。
臭気物質Aの含有量は、2wtppm以上、8wtppm以下であり、且つ、臭気物質Bの含有量は12wtppm以上、18wtppm以下であることが更に好ましい。
臭気物質Aの含有量は、8wtppm以下であることがより好ましく、5wtppm以下が更に好ましい。
臭気物質Aの含有量は、2wtppm以上であることがより好ましい。
臭気物質Bの含有量は、20wtppm以下であることがより好ましく、18wtppm以下が更に好ましい。
臭気物質Bの含有量は、8wtppm以上であることがより好ましく、12wtppm以上が更に好ましい。
【0036】
【0037】
【0038】
本実施形態の1,3-ブタンジオールは、臭気が少なく、保湿剤等の化粧料用途の原料として好適である。
また、本実施形態の1,3-ブタンジオールは、その製造のための臭気物質を除くための過度の精製工程が不要であり、安定かつ低コストで製造することが可能である。
【実施例0039】
以下において本発明の実施の形態を具体的な形で記載するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0040】
1.臭気強度:
評価試料として臭いを感じない1,3-ブタンジオールを0とし、ほとんど無臭の1,3-ブタンジオールを1とし、僅かに臭気の感じられるものを2とし、その相対評価で点数を付けた。評価試料は共栓広口試薬瓶に入れ、密栓して室温に静置した後、大気中で速やかに臭いをかぎ、比較し、点数を付けた。評価は成人3名で実施し、その点数の平均値を採用した。
【0041】
2.GC-MS分析:
サンプル調整方法:サンプルの1,3-ブタンジオール60gに、蒸留水240g加えた後、シクロヘキサン90gを加えて振盪し、有機物をシクロヘキサンへ抽出した。水相とシクロヘキサン相とを分離し、シクロヘキサン相、約90gを、100~150torrの減圧下、30~40℃の条件にて、エバポレータで0.2gまで濃縮し、GC-MS分析用サンプルとした。
GC分析装置:Agilent社 7890B
質量分析計:JEOL社 四重極型MS JMS-T100GCV
イオン化法:EI+、FI+
分析カラム:DB-1MS(60m、0.32mm、0.25μm)Agilent社
カラム昇温条件:50℃(2分)→5℃/分→250℃(10分)
キャリアガス:He
スプリット比:10:1
試料注入量:2μL
内標物質 :キシレン
【0042】
臭気物質Aに由来するピークは、保持時間(r.t)が39.4~40.1分に現れるピーク群(光学異性体により、4ピーク)である。その積算面積と、臭気物質Aの標準物質と内標物質とから作成した検量線を用いて、臭気物質Aの含有量を定量した。
臭気物質Bに由来するピークは、保持時間(r.t)が33.5~34.0分に現れるピーク群(光学異性体により、2ピーク)である。臭気物質Aと臭気物質Bのファクターが等しいと仮定して、その積算面積と、臭気物質Aの標準物質と内標物質とから作成した検量線を用いて、臭気物質Bの含有量を定量した。
なお、臭気物質Aの標準物質は、1,3-ブタンジオールとアセトアルドールとを、酸触媒(p-トルエンスルホン酸)下で約60℃に加熱してアセタール化合物を得た後、このアセタール化合物とアルドキサンとを混合し、酸触媒(p-トルエンスルホン酸)下で約60℃に加熱した後、オープンカラムで分離することで合成した。
【0043】
<比較例1>
120mLのSUS316L製オートクレーブに、アセトアルドール類としてパラアルドール10g、エタノール40g、スポンジニッケル触媒(日興リカ株式会社製、R-201)1gを加えた。オートクレーブを水素ガスにて8MPaGに加圧し、撹拌を開始した。30℃から120℃まで1℃/分の速度で昇温し、120℃に達した瞬間にオートクレーブをただちに冷却して反応を停止させて、1,3-ブタンジオールを得た。反応中は、圧力が7MPaGまで低下するごとに、圧力8MPaGまで水素ガスを供給した。触媒を濾別した後、反応液を理論段数10段以上の蒸留塔を用いて、100torr以下の減圧下、150℃以下で蒸留することにより、エタノールを低沸成分として分離して、粗1,3-ブタンジオールを得た。水素化反応の成績は、パラアルドール転化率97.5%、1,3-ブタンジオール選択率96.5%であった。粗1,3-ブタンジオールの、臭気物質Aの濃度は16wtppm、臭気物質Bの濃度は58wtppmであった。臭気強度は2であった。
【0044】
<実施例1>
比較例1で得られた粗1,3-ブタンジオール100質量部と、水100質量部とを混合して溶液とし、これを蒸留(理論段数5段以上の蒸留塔を用い、100torr以下の減圧下、150℃以下で蒸留)して低沸成分である水を留去して、1,3-ブタンジオールを得た。当該1,3-ブタンジオールの臭気物質Aの、濃度は2wtppm、臭気物質Bの濃度は18wtppmであり、臭気強度は0であった。
【0045】
<実施例2>
比較例1で得られた粗1,3-ブタンジオール中の高沸点物を、蒸留(理論段数10段以上の蒸留塔を用い、100torr以下の減圧下、150℃以下で蒸留)して除去し、1,3-ブタンジオールを得た。当該1,3-ブタンジオールの、臭気物質Aの濃度は7wtppm、臭気物質Bの濃度は22wtppmであり、臭気強度は0であった。
【0046】
<比較例2>
市販の1,3-ブタンジオール(市販品1)の評価を行った。
市販品1の、臭気物質Aの濃度は0wtppm、臭気物質Bの濃度は52wtppmであり、臭気強度は2であった。
【0047】
<比較例3>
市販の1,3-ブタンジオール(市販品2)の評価を行った。
市販品2の、臭気物質Aの濃度は23wtppm、臭気物質Bの濃度は17wtppmであり、臭気強度は6であった。
【0048】
<比較例4>
比較例1で得られた粗1,3-ブタンジオール20質量部、水80質量部、シクロヘキサノン30質量部を混合し、水相に1,3-ブタンジオールを溶解させた。シクロヘキサノン相に不純物を抽出した後、水相とシクロヘキサノン相とを分離した。水相を、理論段数5段以上の蒸留塔を用いて、100torr以下の減圧下、150℃以下で蒸留して低沸成分として水を留去させることにより、1,3-ブタンジオールを塔底より得た。当該1,3-ブタンジオールの、臭気物質Aの濃度は0wtppm、臭気物質Bの濃度は0wtppmであり、臭気強度は0であった。
【0049】
表1に、評価結果を示す。この結果から、臭気物質Aと臭気物質Bの両方が特定の含有量範囲内でなければ、臭気が消えないことがわかる。
また、精製度合いを高めれば、比較例4のように、臭気物質A及び臭気物質Bをほとんど除去することは可能であるが、製造コストがかさむため、工業的生産には不利である。
【0050】