(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155406
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】異常拍動心筋モデル及びその製造方法、異常拍動心筋モデルの形成剤並びに心疾患治療薬の薬効評価方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/077 20100101AFI20231013BHJP
【FI】
C12N5/077
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023139660
(22)【出願日】2023-08-30
(62)【分割の表示】P 2019539708の分割
【原出願日】2018-09-03
(31)【優先権主張番号】P 2017169688
(32)【優先日】2017-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度国立研究開発法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(さきがけ)「がん幹細胞の生物学的機能を解明する1細胞解析技術の創製」に係る委託業務、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 典弥
(72)【発明者】
【氏名】北野 史朗
(72)【発明者】
【氏名】入江 新司
(57)【要約】
【課題】新規な異常拍動心筋モデルを提供すること。
【解決手段】心筋細胞を含む細胞と、コラーゲンと、を含有し、細胞の少なくとも一部がコラーゲンに接着している三次元組織体からなる、異常拍動心筋モデル。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心筋細胞を含む細胞と、コラーゲンと、を含有し、前記細胞の少なくとも一部が前記コラーゲンに接着している三次元組織体からなる、異常拍動心筋モデル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常拍動心筋モデル及びその製造方法、異常拍動心筋モデルの形成剤並びに心疾患治療薬の薬効評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体外で細胞の三次元組織体を構築する技術が開発されている。このような三次元組織体は、実験動物の代替品として利用可能な生体組織モデル等に適用することができる。特許文献1及び2には、コラーゲンを足場として用いて作製された心筋細胞の三次元組織体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】Artif Organs,2012,Vol.36,No.9,pp.816-819
【特許文献2】J.of Cardiovasc. Trans. Res.,2017,10,pp.116-127
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新規な異常拍動心筋モデル及びその製造方法、並びに、当該異常拍動心筋モデルの製造に用いることができる形成剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、以下に示す発明によって、上記課題が解決できることを見出した。
[1]心筋細胞を含む細胞と、コラーゲンと、を含有し、当該細胞の少なくとも一部がコラーゲンに接着している三次元組織体からなる、異常拍動心筋モデル。
[2]細胞が、コラーゲン産生細胞を更に含有する、[1]に記載の異常拍動心筋モデル。
[3]コラーゲンの含有率が、三次元組織体を基準として10重量%~30重量%である、[1]又は[2]に記載の異常拍動心筋モデル。
[4]コラーゲンが外因性コラーゲンを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の異常拍動心筋モデル。
[5]コラーゲンが外因性コラーゲンに由来する断片化コラーゲンを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の異常拍動心筋モデル。
[6]水性媒体中において、心筋細胞を含む細胞と外因性コラーゲンとを接触させる接触工程、及び
外因性コラーゲンが接触した上記細胞を培養する培養工程、を含み、
接触工程における外因性コラーゲンの使用量が、1.0×105~10.0×105cellsの細胞に対して、0.1mg以上である、異常拍動心筋モデルの製造方法。
[7]上記細胞が、コラーゲン産生細胞を更に含む、[6]に記載の異常拍動心筋モデルの製造方法。
[8]外因性コラーゲンとして、断片化コラーゲンを含有する、[7]に記載の製造方法。
[9]断片化コラーゲンの平均長が100nm~200μmである、[8]に記載の製造方法。
[10]断片化コラーゲンの平均径が50nm~30μmである、[8]又は[9]に記載の製造方法。
[11]接触工程又は培養工程の間に、水性媒体中における外因性コラーゲンと細胞とを共に沈降させる工程を更に含む、[6]~[10]のいずれかに記載の製造方法。
[12]外因性コラーゲンと、上記細胞との質量比が、900:1~9:1である、[6]~[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13]断片化コラーゲンを含む、異常拍動心筋モデルの形成剤であって、
断片化コラーゲンの平均長が100nm~200μmであり、断片化コラーゲンの平均径が50nm~30μmである、異常拍動心筋モデルの形成剤。
[14][1]~[5]のいずれかに記載の異常拍動心筋モデルを用いた心疾患治療薬の薬効評価方法であって、心疾患治療薬を異常拍動心筋モデルに投与する投与工程と、心疾患治療薬を投与した異常拍動心筋モデルの拍動の挙動の変化により薬効を評価する評価工程と、を含む、心疾患治療薬の薬効評価方法。
[15]評価工程において、心疾患治療薬を投与しなかった異常拍動心筋モデルの単位時間あたりの拍動数と比較して、心疾患治療薬を投与した異常拍動心筋モデルの単位時間あたりの拍動数が多かった場合には、心不全治療薬として効果があると評価し、心疾患治療薬を投与しなかった異常拍動心筋モデルの単位時間あたりの拍動数と比較して、心疾患治療薬を投与した異常拍動心筋モデルの単位時間あたりの拍動数が少なかった場合には、心不全治療薬として効果がないと評価する、[14]に記載の心疾患治療薬の薬効評価方法。
[16]評価工程が複数回行われる、[14]又は[15]に記載の心疾患治療薬の薬効評価方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、新規な異常拍動心筋モデル及びその製造方法、並びに、当該異常拍動心筋モデルの製造に用いることができる形成剤を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】2分間ホモジナイズすることで得られた断片化コラーゲンを示す写真(A)、及び5分間ホモジナイズすることで得られた断片化コラーゲンの長さの分布を示すヒストグラム(B)である。
【
図2】断片化コラーゲン、ヒト心臓線維芽細胞(NHCF)及びiPS細胞由来心筋細胞(iPS-CM)を含む心筋モデル(三次元組織体)の製造工程を示す模式図と、ヒト心臓線維芽細胞(NHCF)及びiPS細胞由来心筋細胞(iPS-CM)を含む三次元組織体をマッソントリクローム染色した写真である。
【
図3】心筋モデルの評価方法を説明するための写真及びグラフである。
【
図4】心筋モデルの拍動挙動の評価結果を示すグラフ及び写真である。
【
図5】心筋モデルの拍動挙動の評価結果を示すグラフである。
【
図6】心筋モデルの拍動挙動の評価結果を示すグラフである。
【
図7】心筋モデルの拍動挙動の評価結果を示すグラフである。
【
図8】心筋モデルの拍動挙動の評価結果を示すグラフである。
【
図9】心筋モデルの拍動挙動の評価結果を示すグラフである。
【
図10】心筋モデルの拍動挙動の評価結果を示すグラフである。
【
図11】断片化コラーゲン量に対する細胞生存率の変化の評価結果を示すグラフである。
【
図12】イソプロテレノール添加後の心筋モデルの拍動数変化の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0009】
<異常拍動心筋モデル>
本実施形態に係る異常拍動心筋モデルは、心筋細胞を含む細胞(以下、場合により、単に「細胞」ともいう。)と、コラーゲンと、を含有し、細胞の少なくとも一部がコラーゲンに接着している三次元組織体からなる。
【0010】
「異常拍動心筋モデル」とは、心筋細胞を含む、三次元組織体からなり、正常な心筋モデルと比較して、拍動の挙動が異常である心筋モデルをいう。拍動の挙動としては、拍動間隔、拍動数、拍動力、収縮及び/又は弛緩速度、等が挙げられる。異常拍動心筋モデルは、拍動の挙動が不規則に変化するものであってもよく、正常な心筋モデルと比べ、拍動が亢進、又は抑制されているものであってよい。異常拍動心筋モデルは、心筋の異常拍動に起因する心疾患モデル(例えば、心不全モデル、不整脈モデル、心筋梗塞モデル等)として用いることができる。
【0011】
ここで、「三次元組織体」とは、線維性コラーゲン等のコラーゲンを介して細胞が三次元的に配置されている細胞の集合体であって、細胞培養によって人工的に作られる集合体を意味する。三次元組織体の形状には特に制限はなく、例えば、シート状、球体状、楕円体状、直方体状等が挙げられる。ここで、生体組織は、血管等を含み、構成が三次元組織体より複雑である。そのため、三次元組織体と生体組織とは容易に区別可能である。
【0012】
三次元組織体は、心筋細胞を含む細胞を含有する。心筋細胞において、由来とする動物種としては、ヒト、ブタ、ウシ、マウス等が挙げられる。例えば、心筋細胞は、ヒトiPS細胞由来心筋細胞(iPS-CM)、マウスiPS由来心筋細胞、又は、ES細胞由来心筋細胞であってよい。ヒトiPS細胞由来心筋細胞は、例えば、理研セルバンク、タカラバイオなどにより入手したものを用いることができる。また、初期化させる試薬は、リプロセル等からも購入できるため、iPS細胞を自作してもよい。
【0013】
心筋細胞の含有率は、三次元組織体を基準として、5~95質量%であってよく、25%~75質量%であってよい。
【0014】
心筋細胞を含む細胞は、コラーゲン産生細胞を更に含んでいてよい。つまり、三次元組織体は、内因性コラーゲンを含んでいてよい。
【0015】
ここで、「コラーゲン産生細胞」とは、線維性コラーゲン等のコラーゲンを分泌する細胞を意味する。コラーゲン産生細胞において、由来とする動物種としては、例えば、ヒト、ブタ、ウシ、マウス等が挙げられるコラーゲン産生細胞としては、線維芽細胞(例えば、ヒト皮膚由来線維芽細胞(NHDF)、ヒト心臓線維芽細胞(NHCF)、ヒト筋線維芽細胞)、軟骨細胞、骨芽細胞等の間葉系細胞が挙げられ、好ましくは、線維芽細胞である。好ましい線維芽細胞としては、例えば、ヒト心臓線維芽細胞(NHCF)又はヒト筋線維芽細胞が挙げられる。
【0016】
なお、「内因性コラーゲン」とは、コラーゲン産生細胞が産生するコラーゲンを意味する。内因性コラーゲンは、線維性コラーゲンであってもよいし、非線維性コラーゲンであってもよい。
【0017】
三次元組織体は、コラーゲンを含有する。コラーゲンとしては、例えば、線維性コラーゲン又は非線維性コラーゲンが挙げられる。線維性コラーゲンとは、コラーゲン線維の主成分となるコラーゲンを意味し、具体的には、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン等が挙げられる。非線維性コラーゲンとしては、例えば、IV型コラーゲンが挙げられる。
【0018】
三次元組織体は、心筋細胞を含む細胞の少なくとも一部がコラーゲンに接着している。
【0019】
三次元組織体に含まれるコラーゲンは、外因性コラーゲンを含んでいてよい。コラーゲンは、好ましくは、外因性コラーゲンに由来する断片化コラーゲンを含む。
【0020】
「外因性コラーゲン」とは、外部から供給されるコラーゲンを意味し、具体的には、線維性コラーゲン、非線維性コラーゲン等が挙げられる。外因性コラーゲンにおいて、由来となる動物種は、内因性コラーゲンと同じであっても異なっていてもよい。外因性コラーゲンにおいて、由来となる動物種としては、例えば、ヒト、ブタ、ウシ等が挙げられる。また、外因性コラーゲンは、人工のコラーゲンであってもよい。外因性コラーゲンは、線維性コラーゲンであることが好ましい。上記線維性コラーゲンとしては、例えば、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲンが挙げられ、好ましくはI型コラーゲンである。上記線維性コラーゲンは、市販されているコラーゲンを用いてもよく、その具体例としては、日本ハム株式会社製のブタ皮膚由来I型コラーゲン凍結乾燥体が挙げられる。外因性の非線維性コラーゲンとしては、例えば、IV型コラーゲンが挙げられる。
【0021】
外因性コラーゲンにおいて、由来する動物種は、心筋細胞及びこれを含む細胞とは異なっていてよい。また、心筋細胞を含む細胞が、コラーゲン産生細胞を含む場合、外因性コラーゲンにおいて、由来する動物種は、コラーゲン産生細胞とは異なっていてよい。つまり、外因性コラーゲンは、異種コラーゲンであってよい。
【0022】
「断片化コラーゲン」とは、線維性コラーゲン等のコラーゲンを断片化したものであって、三重らせん構造を維持しているものを意味する。断片化コラーゲンの由来となるコラーゲンは、一種類であってもよいし、複数種のコラーゲンを併用してもよい。従来、線維性コラーゲン等のコラーゲンは酸性の水溶液等に溶かしていたが、濃度は0.1~0.3重量%程度であり多く溶かすことはできなかった。そのため従来の方法では三次元組織体における線維性コラーゲン等のコラーゲンの量を多くすることが困難であった。断片化コラーゲンは水にほとんど溶解しないが、水性媒体に分散することにより、水性媒体中で細胞と接触しやすくなり、三次元組織体の形成を促進すると推測される。
【0023】
断片化コラーゲンの平均長は、100nm~200μmであることが好ましく、22μm~200μmであることがより好ましく、100μm~200μmであることがさらに好ましい。断片化コラーゲンの平均径は、50nm~30μmであることが好ましく、4μm~30μmであることがより好ましく、20μm~30μmであることがさらに好ましい。
【0024】
線維性コラーゲン等のコラーゲンを断片化する方法は、特に制限はなく、例えば、超音波式ホモジナイザー、撹拌式ホモジナイザー、及び高圧式ホモジナイザー等のホモジナイザーを用いて線維性コラーゲン等のコラーゲンを断片化してもよい。撹拌式ホモジナイザーを用いる場合、線維性コラーゲン等のコラーゲンをそのままホモジナイズしてもよいし、生理食塩水等の水性媒体中でホモジナイズしてもよい。また、ホモジナイズする時間、回数等を調整することでミリメートルサイズ、ナノメートルサイズの断片化コラーゲンを得ることも可能である。
【0025】
断片化コラーゲンの直径及び長さは、電子顕微鏡によって個々の断片化コラーゲンを解析することによって求めることが可能である。
【0026】
三次元組織体におけるコラーゲンの含有率は、三次元組織体を基準として0.01~90重量%であってよく、好ましくは10~90重量%であり、より好ましくは1~50重量%であり、更に好ましくは10~40重量%であり、10~30重量%であってよい。ここで、「三次元組織体におけるコラーゲン」とは、三次元組織体を構成するコラーゲンを意味し、内因性コラーゲンであってもよいし、外因性コラーゲンであってもよい。すなわち、三次元組織体を構成するコラーゲンの濃度は、内因性コラーゲン及び外因性コラーゲンを合わせた濃度を意味する。三次元組織体におけるコラーゲンの濃度は、得られた三次元組織体の体積、及び脱細胞化した三次元組織体の質量から算出することが可能である。また、三次元組織体におけるコラーゲンの含有率は、ELISA等の抗原抗体反応を利用した方法又はQuickZyme等の化学的検出方法により測定することもできる。
【0027】
三次元組織体は、トリプシンの濃度0.25%、温度37℃、pH7.4、反応時間15分でトリプシン処理を行った後の残存率が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましい。このような三次元組織体は、培養中又は培養後において酵素による分解が起きにくく、安定である。上記残存率は、例えば、トリプシン処理の前後における三次元組織体の質量から算出できる。
【0028】
三次元組織体は、コラゲナーゼの濃度0.25%、温度37℃、pH7.4、反応時間15分でコラゲナーゼ処理を行った後の残存率が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更により好ましい。このような三次元組織体は、培養中又は培養後における酵素による分解が起きにくく、安定である。
【0029】
三次元組織体は、厚さが10μm以上であることが好ましく、100μm以上であることがより好ましく、1000μm以上であることが更に好ましい。このような三次元組織体は、生体組織により近い構造であり、実験動物の代替品等として好適なものとなる。厚さの上限は、特に制限されないが、例えば、10mm以下であってもよいし、3mm以下であってもよいし、2mm以下であってもよいし、1.5mm以下であってもよいし、1mm以下であってもよい。
【0030】
ここで、「三次元組織体の厚さ」とは三次元組織体がシート状、又は直方体状である場合、主面に垂直な方向における両端の距離を意味する。上記主面に凹凸がある場合、厚さは上記主面の最も薄い部分における距離を意味する。
また、三次元組織体が球体状である場合、その直径を意味する。さらにまた、三次元組織体が楕円体状である場合、その短径を意味する。三次元組織体が略球体状又は略楕円体状であって表面に凹凸がある場合、厚さは、三次元組織体の重心を通る直線と上記表面とが交差する2点間の距離であって最短の距離を意味する。
【0031】
三次元組織体を構成する細胞は、心筋細胞及びコラーゲン産生細胞以外の、一種又は複数種の他の細胞を更に含んでもよい。
【0032】
三次元組織体は、心筋細胞を含む細胞、及びコラーゲン以外の成分(他の成分)含んでいてよい。他の成分としては、例えば、エラスチン、コラーゲン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ラミニン等が挙げられる。
【0033】
三次元組織体からなる異常拍動心筋モデルは、実験動物の代替品(例えば、心筋の異常拍動に起因する心疾患モデル)、心筋梗塞モデル、心筋線維症モデル等として適用することが可能である。
【0034】
<異常拍動心筋モデルの製造方法>
本実施形態に係る異常拍動心筋モデルの製造方法は、水性媒体中において、心筋細胞を含む細胞(以下、場合により、単に「細胞」ともいう。)と外因性コラーゲンとを接触させる接触工程、及び、外因性コラーゲンが接触した細胞を培養する培養工程、を含み、接触工程における外因性コラーゲンの使用量が、1.0×105~10.0×105cellsの細胞に対して、0.1mg以上である。
【0035】
「水性媒体」とは、水を必須構成成分とする液体を意味する。水性媒体としては、外因性コラーゲン及び細胞が安定に存在できるものであれば、特に制限はない。例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)等の生理食塩水、Dulbecco’s Modified Eagle培地(DMEM)、血管内皮細胞専用培地(EGM2)等の液体培地が挙げられる。液体培地は、二種類の培地を混合した混合培地であってもよい。細胞に対する負荷を軽減する観点から、水性媒体は液体培地であることが好ましい。
【0036】
(接触工程)
水性媒体中において、心筋細胞を含む細胞と、外因性コラーゲンとを接触させる方法としては、特に制限はない。例えば、心筋細胞を含む培養液に、外因性コラーゲンの分散液を加える方法、外因性コラーゲンの培地分散液に細胞を加える方法、又は予め用意した水性媒体に、外因性コラーゲン及び心筋細胞をそれぞれ加える方法が挙げられる。
【0037】
接触工程においては、細胞がコラーゲン産生細胞を更に含んでいてよい。この場合、得られる三次元組織体がより安定になり、細胞がより均一に分布することとなる。このような三次元組織体が得られるメカニズムの詳細は不明であるが、以下のように推測される。まず細胞が外因性コラーゲン上に接触して接着する。その後、細胞は自分自身で細胞外マトリックス(ECM)を構成するタンパク質(例えば、線維性コラーゲン等のコラーゲン)を産生する。産生されたタンパク質は外因性コラーゲン上に接触して接着することで、外因性コラーゲン間の架橋剤として働き、細胞が均一に存在する環境下で線維性コラーゲン等の構造化が進む。その結果、安定で、細胞が均一に分布している三次元組織体が得られる。ただし、上記推測は本発明を限定するものではない。
【0038】
接触工程では、外因性コラーゲンとして、外因性コラーゲンに由来する断片化コラーゲンを含んでいてよい。外因性コラーゲン及び断片化コラーゲンとしては、上述のものを用いることができる。
【0039】
接触工程における水性媒体中の外因性コラーゲンの濃度は、目的とする三次元組織体(異常拍動心筋モデル)の形状、厚さ、培養器のサイズ等に応じて適宜決定できる。例えば、接触工程における水性媒体中の外因性コラーゲンの濃度は、0.1~90重量%であってもよいし、1~30重量%であってもよい。
【0040】
接触工程における外因性コラーゲンの使用量は、1.0×105~10.0×105cells(細胞数)の細胞に対して、0.1mg以上であればよく、0.5mg以上、1.0mg以上、2.0mg以上又は3.0mg以上であってもよいし、100mg以下、又は、50mg以下であってもよい。外因性コラーゲンは、2.0×105~8.0×105cells、3.0×105~6.0×105cells、又は5×105cellsの細胞に対して、上記範囲となるように添加してもよい。
【0041】
接触工程における外因性コラーゲンと、細胞との質量比(外因性コラーゲン:細胞)が、1000:1~1:1であることが好ましく、900:1~9:1であることがより好ましく、500:1~10:1であることが更により好ましい。
【0042】
心筋細胞とコラーゲン産生細胞とを共に用いる場合、接触工程における、心筋細胞:コラーゲン産生細胞の比(細胞数)は、99:1~9:1であってもよいし、80:20~50:50であってもよい。
【0043】
接触工程又は培養工程の間に、水性媒体中における断片化コラーゲンと細胞とを共に沈降させる工程(沈降工程)を更に含んでもよい。このような工程を行うことで、三次元組織体における外因性コラーゲン及び細胞の分布が、より均一になる。具体的な方法としては、特に制限はないが、例えば、断片化コラーゲンと心筋細胞を含む細胞とを含有する培養液を遠心操作する方法が挙げられる。
【0044】
(培養工程)
断片化コラーゲンが接触した細胞を培養する方法は、特に制限はなく、培養する細胞の種類に応じて好適な培養方法で行うことができる。例えば、培養温度は20℃~40℃であってもよく、30℃~37℃であってもよい。培地のpHは、6~8であってもよく、7.2~7.4であってもよい。培養時間は、1日~2週間であってもよく、1週間~2週間であってもよい。
【0045】
培地は特に制限はなく、培養する細胞の種類に応じて好適な培地を選択できる。培地としては、例えば、Eagle’s MEM培地、DMEM、Modified Eagle培地(MEM)、Minimum Essential培地、RPMI、及びGlutaMax培地等が挙げられる。培地は、血清を添加した培地であってもよいし、無血清培地であってもよい。培地は、二種類の培地を混合した混合培地であってもよい。
【0046】
培養工程における培地中の細胞密度は、目的とする異常拍動心筋モデルの形状、厚さ、培養器のサイズ等に応じて適宜決定できる。例えば、培養工程における培地中の細胞密度は、1~108cells/mlであってもよいし、103~107cells/mlであってもよい。また、培養工程における培地中の細胞密度は、接触工程における水性媒体中の細胞密度と同じであってもよい。
【0047】
三次元組織体は、培養中の収縮率が20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。上記収縮率は、例えば、以下の式で算出できる。式中L1は、培養後1日目の異常拍動心筋モデルのもっとも長い部分の長さを示し、L3は、培養後3日目の三次元組織体における対応する部分の長さを示す。
収縮率(%)={(L1―L3)/L1}×100
【0048】
<異常拍動心筋モデルの形成剤>
本実施形態に係る異常拍動心筋モデルの形成剤は、断片化コラーゲンを含む、異常拍動モデルの形成剤であって、断片化コラーゲンの平均長が100nm~200μmであり、断片化コラーゲンの平均径が50nm~30μmである。また、断片化コラーゲンの長さについて、断片化コラーゲン全体のうち95%が100nm~200μmの範囲にあってもよい。さらに、断片化コラーゲンの直径について、断片化コラーゲン全体のうち95%が50nm~30μmの範囲にあってもよい。
【0049】
「異常拍動心筋モデルの形成剤」とは、異常拍動心筋モデルを製造するための試薬を意味する。異常拍動心筋モデルの形成剤は、粉末の状態であってもよいし、水性媒体に断片化コラーゲンが分散した分散液の状態であってもよい。断片化コラーゲンの製造方法及び上記形成剤の使用方法としては、上記(異常拍動心筋モデルの製造方法)において示されている方法と同様の方法が挙げられる。
【0050】
<心疾患治療薬の薬効評価方法>
本発明の一実施形態として、異常拍動心筋モデルを用いた心疾患治療薬の薬効評価方法であって、心疾患治療薬を異常拍動心筋モデルに投与する投与工程と、心疾患治療薬を投与した異常拍動心筋モデルの拍動の挙動の変化により薬効を評価する評価工程と、を含む、心疾患治療薬の薬効評価方法が提供される。本実施形態によれば、心筋細胞の拍動に影響を与える心疾患治療薬の薬効を効果的に評価することができる。
【0051】
投与工程では、心疾患治療薬を異常拍動心筋モデルに投与する。心疾患治療薬としては、例えば、イソプロテレノール等の心不全治療薬、β遮断薬、硝酸薬等の心筋梗塞治療薬、アミオダロン等の抗不整脈等が挙げられる。
【0052】
心疾患治療薬の投与は、三次元組織体を培養する培地として心疾患治療薬を含有する培地を用いることにより実施してもよく、三次元組織体を培養する培地に心疾患治療薬を添加することにより実施してもよい
【0053】
心疾患治療薬を投与する異常拍動心筋モデルは、1日以上培養された三次元組織体からなるものであってよく、5日以上培養された三次元組織体からなるものであってよく、6日以上培養された三次元組織体からなるものであってよく、それ以上の日数培養された三次元組織体からなるものであってよい。
【0054】
評価工程では、心疾患治療薬を投与した異常拍動心筋モデルの拍動の挙動の変化により薬効を評価する。薬効は、拍動の挙動を指標として評価することができる。拍動の挙動としては、拍動間隔、拍動数、拍動力、収縮及び/又は弛緩速度等が挙げられる。拍動の挙動の変化は、例えば、単位時間当たりの拍動数の変化及び/又は拍動間隔(拍動間の時間)の変化であってよい。薬効は、上記指標1種のみの変化に基づいて評価してもよいし、上記指標の2種以上に基づいて評価してもよい。
【0055】
薬効の評価は、例えば、心疾患治療薬を投与した三次元組織体からなる異常拍動心筋モデルの拍動の挙動と、心疾患治療薬を投与しなかった三次元組織体からなる異常拍動心筋モデル投与しなかった場合との拍動の挙動を比較することにより、行うことができる。
【0056】
評価工程は、複数回行われてよい。すなわち、薬効の評価は、治療薬の投与後、所定の間隔ごとに複数回行われてもよい。
【0057】
評価工程では、心疾患治療薬を投与しなかった異常拍動心筋モデルの単位時間あたりの拍動数と比較して、心疾患治療薬を投与した異常拍動心筋モデルの単位時間あたりの拍動数が多かった場合には、心不全治療薬として効果があると評価してよく、心疾患治療薬を投与しなかった異常拍動心筋モデルの単位時間あたりの拍動数と比較して、心疾患治療薬を投与した異常拍動心筋モデルの単位時間あたりの拍動数が少なかった場合には、心不全治療薬として効果がないと評価してよい。
【実施例0058】
<I型コラーゲンを用いた断片化コラーゲン(CMF)の製造>
日本ハム株式会社製のブタ皮膚由来I型コラーゲン凍結乾燥体を10倍濃度のリン酸緩衝生理食塩水(X10 PBS)に分散し、ホモジナイザーを用いて2分間ホモジナイズすることで、直径が約20~30μmであり、長さが約100~200μmである断片化コラーゲンを得た(
図1の(A))。断片化コラーゲンの直径及び長さは電子顕微鏡によって個々の断片化コラーゲンを解析することで求めた。得られた断片化コラーゲンを無血清培地(DMEM)で洗浄し、断片化コラーゲンの培地分散液を得た。得られた断片化コラーゲンの培地分散液は、室温で1週間保存できた。後述する各異常拍動心筋モデル(三次元組織体)の製造においては、同様の方法で得られた断片化コラーゲンを用いた。
また、上記方法において、ホモジナイズする時間を5分間に変更した場合、直径が約950nm~16.8μmであり、長さが約9.9μm~78.6μmである断片化コラーゲンが得られた(表1、
図1の(B))。この結果から、ホモジナイズする時間を調整することで、断片化コラーゲンのサイズを制御できることが分かった。
【0059】
【0060】
<三次元組織体の製造>
血清を含む培地(DMEM)にて濃度が10mg/mlとなるように断片化コラーゲンを分散させ、断片化コラーゲンを含む分散液を準備した。
【0061】
(実施例1)
三次元組織体は、
図2(A)に示す模式図のとおりに製造した。すなわち、上記の断片化コラーゲンを含む分散液、ヒト心臓線維芽細胞(NHCF)及びヒトiPS細胞由来心筋細胞(iPS-CM)(以下、NHCF及びiPS-CMをまとめて、「細胞」ともいう。)を、非接着96ウェル丸底プレートに添加し、断片化コラーゲンと細胞とを接触させた(接触工程)。断片化コラーゲンを含む分散液は、断片化コラーゲンの添加量が0.5mgとなるように添加した。NHCFと、iPS-CMとは、25:75の割合で混合し、合計細胞数が、5×10
5cellsとなるように添加した。その後、所定期間培養し(培養工程)、三次元組織体1を製造した。三次元組織体1は、21日間培養後にマッソントリクローム染色(Masson trichrome stain)した。三次元組織体1の位相差顕微鏡による写真を
図2(C)に示す。三次元組織体1は、球体状であり、21日間培養後における直径は約1.0mmであった。なお、
図2(C)の左側及び中央の図において、着色が濃い箇所は、コラーゲン繊維を示し、着色の薄い箇所は、細胞質を示す(以下、
図2(B)、(D)及び(E)においても同様である。)。
【0062】
(実施例2)
断片化コラーゲンを含む分散液を、断片化コラーゲンの添加量が1.0mgとなるように添加すること以外は、実施例1と同様にして三次元組織体2を製造した。マッソントリクローム染色した三次元組織体2の、位相差顕微鏡による観察結果を
図2(D)に示す。三次元組織体2は、球体状であり、21日間培養後における直径は、約1.2mmであった。
【0063】
(実施例3)
断片化コラーゲンを含む分散液を、断片化コラーゲンの添加量が1.5mgとなるように添加すること以外は、実施例1と同様にして三次元組織体3を得た。マッソントリクローム染色した三次元組織体3の、位相差顕微鏡による観察結果を
図2(E)に示す。三次元組織体3は、球体状であり、21日間培養後における直径は、約1.6mmであった。
【0064】
(実施例4)
断片化コラーゲンを含む分散液を、断片化コラーゲンの添加量が3.0mgとなるように添加すること以外は、実施例1と同様にして三次元組織体4を得た。三次元組織体4の7日間培養後における直径は、約4mmであった。
【0065】
(実施例5)
断片化コラーゲンを含む分散液を、断片化コラーゲンの添加量が5.0mgとなるように添加すること以外は、実施例1と同様にして三次元組織体5を得た。三次元組織体5の7日間培養後における直径は、約5mmであった。
【0066】
(比較例1)
断片化コラーゲンを含む分散液を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして比較三次元組織体1を得た。マッソントリクローム染色した比較三次元組織体1の、位相差顕微鏡による観察結果を
図2(B)に示す。比較三次元組織体1は、球体状であり、21日間培養後における直径は、約0.9mmであった。
【0067】
<評価>
(心筋モデルの拍動間隔及び拍動力)
上記の方法で得られた三次元組織体1~5及び比較三次元組織体1をそれぞれ、実施例1~5及び比較例1の心筋モデルとした。心筋モデルの拍動間隔及び拍動力は、7日間培養後の心筋モデルの拍動を倒立顕微鏡で動画を撮影、それを画像解析(イメージpro)を用いて観察することにより、評価した。具体的には、心筋モデルが拍動する際に移動する重心の移動距離及び拍動の時間間隔に基づいて評価した。
図3は、心筋モデルの拍動間隔及び拍動力の評価方法を説明する図である。心筋モデルの重心は、拍動に応じて、移動する。心筋モデルが収縮した際の重心の移動距離(
図3(A)に示す重心から、(B)に示す重心までの距離)と、収縮後に心筋モデルが弛緩した際の重心の移動距離(
図3(B)に示す重心から、(C)に示す重心までの距離)とを測定することにより評価を行った。結果を
図4~10に示す。
【0068】
図4(A)は、断片化コラーゲンを1.0mg添加して得た、実施例2の心筋モデルの拍動挙動を示す。
図4(B)は、観察開始時点(0秒)、収縮した時点(0.67経過時点)及び弛緩した時点(1.27秒経過時点)を示す。
図5(B)は、断片化コラーゲンを0mg、1.0mg、2.0mg添加して得た、心筋モデルの拍動挙動を示す。
【0069】
図4及び5に示すとおり、断片化コラーゲンを添加した場合、添加しなかった場合と比べ、得られる心筋モデルの拍動(拍動の時間間隔及び拍動力)が不規則に変化するようになった。また、コラーゲンを添加しなかった場合と比べて、コラーゲンを添加した場合では、得られる心筋モデルの拍動力が低下した。なお、
図5(A)に示すとおり、コラーゲンを添加しなかった、心筋モデルでは、拍動の挙動が正常に近かった。
【0070】
図6及び8の(A)~(D)は、それぞれ、断片化コラーゲンの使用量が、0、1、3、及び5mgである心筋モデルの拍動挙動を示す。
図7(A)は、
図6(A)~(D)に示す破線間の間隔(つまり、1回の収縮-弛緩完了した時点から次の収縮-弛緩完了時点の差)(単位:秒)から算出した平均拍動間隔(average of beating interval)の結果を示す。
図7(B)は、培養期間4日から7日までの標準偏差(S.D.)の平均(拍動の不規則性の指標)を示す。
図9は、
図8(A)~(D)の矢印で示す間隔(つまり、1回の収縮-弛緩に要する時間)(単位:秒)から算出した、心筋モデルの収縮と弛緩との間の時間(単位:秒)を示す。
図10は、断片化コラーゲンの使用量が、0、1、3、及び5mgである心筋モデルの、培養日数に応じた拍動間隔(beating interval)の測定結果を示す。
【0071】
図7(A)に示すとおり、断片化コラーゲンを添加して得た心筋モデルは、平均拍動間隔が短かった(すなわち、単位時間当たりの拍動数がより多かった。)。
図7(B)に示すとおり、1mg又は5mgの断片化コラーゲンを添加した場合、より拍動の時間間隔が不規則に変化するようになった。
図9に示すとおり、断片化コラーゲンを添加して得た心筋モデルでは、1回の収縮及び弛緩に要する時間がより長くなった(すなわち、1回あたりの拍動速度が低下した。)。以上のとおり、断片化コラーゲンを添加して製造した心筋モデルは、疾患を発症したモデルに近似していることが示唆された。
図8にコラーゲン量毎の拍動挙動を示す。
図9では、
図8の結果から1回の収縮-弛緩にかかる時間を算出し、コラーゲンの影響を調べた。その結果、拍動に要する時間は、1mg、3mgとコラーゲン量(添加量)依存的に、有意差をもって遅延していく傾向にあったが、コラーゲン量(添加量)が5mgの場合では、拍動に要する時間は、1mgとほぼ同様であった。拍動そのものの時間についてもコラーゲン量により制御できる可能性が示唆された。
図10に示すとおり、断片化コラーゲンを添加して得た心筋モデルは、培養期間をとおして、拍動間隔がより短く、より拍動数が多かった。
【0072】
<細胞生存率の測定>
(三次元組織体の構築)
50mgのブタ皮膚由来I型コラーゲン(日本ハム株式会社提供)に5mLの10xリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を加え、ホモジナイザーで6分間ホモジナイズした。その後10000rpmで3分間遠心分離し、上澄み液を除去した。ここに5mLの無血清DMEMを加え、1分間ピペッティングにより洗浄した。洗浄後、10000rpmで3分間遠心分離し、上澄み液を除去した。ここに5mLの血清入りDMEMを加えてピペッティングし、断片化コラーゲン(CMF)分散培地(CMF濃度9.8mg/mL)を得た。CMF分散培地からCMF0,1,2,3mgとなるよう分散液をはかり取り、5x105cellsのiPS-CM75%/NHCF25%と混合し、96wellの丸底非接着プレートに播種した(培地量は300μL)。その後、1100gで5分間遠心分離し、CMFと細胞を沈殿させた。遠心後、37℃のインキュベーター内で培養した。培地交換は2日に1回、古い培地を除去し、300μLの新しい培地を加えることで行った。
【0073】
(DNA量の測定)
用いたキット:DNeasy Blood & Tissue Kit (50)(69504,QIAGEN)
5x105cellsのiPS-CM75%/NHCF25%のDNA量を、上記キットを用いて測定した。この時のDNA量を基準(100%)とした。7日間培養後の各CMF量の三次元組織体中のDNA量を、上記キットを用いて測定した。下記の式を用いて三次元組織体中の細胞生存率(DNA量の変化率(change of DNA amount))を算出した。
DNA量の変化率(%)=(7日間培養後の三次元組織体のDNA量)/(5×105cellsのiPS-CM75%/NHCF25%のDNA量)×100
【0074】
なお、上記キットは、DNeasy Mini Spin Column、コレクションチューブ、BufferATL、Buffer AL、Buffer AW1、Buffer AW2、Buffer AE、Proteinase K等を含む市販のキットであり、DNA測定は、下記手順に従い実施した。
【0075】
測定するサンプルを1.5mLエッペンチューブに入れ、Buffer ATL 180 μLを入れた。これにProteinase K 20μL添加し、ボルテックスを行って、組織が完全に溶解するまで56℃でインキュベートした(一晩)。その後、15秒間ボルテックスし、Buffer ALとエタノールを等量で混ぜ、1サンプルに400 μL添加し、ボルテックスを行った。溶液をDNeasy Mini Spin Column(以下、単にカラムと記載することがある。)内に添加し、8000 rpm、1 minの条件で遠心分離した。濾液およびコレクションチューブを捨て、カラムを新しいコレクションチューブに移し、Buffer AW1 500 μLを添加した。その後、8000 rpm、1 minの条件で遠心分離した。濾液およびコレクションチューブを捨て、カラムを新しいコレクションチューブに移し、Buffer AW2 500 μLを添加した。14000 rpm、3 minの条件で遠心後、DNeasyメンブレンを完全に乾燥させた。濾液およびコレクションチューブを捨て、カラムをエッペンチューブに移し(操作1)、200μLのBuffer AEをDNeasyメンブレン上に直接添加し(操作2)、室温で1 minインキュベートした(操作3)。その後、8000 rpm、1 minの条件で遠心分離した(操作4)。操作1~4を繰り返した後、回収した濾液をまとめて400μLとした。これをNanodropで測定した。
【0076】
DNA量の変化率の結果を
図11に示す。
図11に示すとおり、7日間培養した結果、CMFを使用した三次元組織体の細胞数は、CMFを使用しなかった組織体と比べてより増加した。CMFを加えて培養することにより、より多くの細胞が生存していたか、または、細胞がより長期間生存していたと考えられる。
図10及び11の結果から、CMFを使用した三次元組織体は、長期間(少なくとも7日間)した場合であっても、培養初期と同程度の拍動挙動を示し、細胞の生存率もCMFを使用しなかった組織体(スフェロイド)と比較して高かった。これにより、CMFを使用した三次元組織体からなる心筋モデルは、細胞が多く生存、または長く生存していることによって、薬効評価を長期間に渡って行うことができる。
【0077】
<イソプロテレノールに対する薬剤応答性の評価>
(三次元組織体の構築)
用いたキット:Total Collagen Assay Kit(QZBTOTCOL1,QuickZyme Biosciences)
三次元組織体は、上記同様にして構築した。CMFを1mg使用して構築した三次元組織体において、1日培養後のコラーゲンの含有率は、凍結乾燥した三次元組織体を基準として、34重量%であった。三次元組織体におけるコラーゲンの含有量は、上記キットを用いて、上記キットの標準プロトコルにより測定した。
【0078】
(薬剤応答性の評価)
5~6日間培養後の組織体の拍動を、SONY Motion analyzerを用いて撮影し、拍動数を計測した。撮影時は顕微鏡内を37℃に保ち、15~20秒間撮影した。撮影後、一度プレートを顕微鏡から取り出して培地を除去し、300μLのDMEM(薬剤未添加組織)、又は300μLの100nMイソプロテレノール混合DMEMをそれぞれ加え、再び顕微鏡に戻して37℃でインキュベートした。30分、60分、80分インキュベート後にそれぞれの拍動を同様に撮影し、拍動数を計測した。計測結果からイソプロテレノール添加による拍動数の変化率(change rate of beating)を下記の式で算出した。結果は、単位時間当たりの拍動数が増加したことをもって、イソプロテレノールへの応答性が良好であったとした。
拍動数の変化率(%)=(薬剤添加組織の各時間後の拍動数/薬剤添加組織の薬剤添加前の拍動数)/(薬剤未添加組織の各時間後の拍動数/薬剤未添加組織の培地交換前の拍動数)×100
なお、上段の式でイソプロテレノール添加による拍動数の変化率を求め、この値を下段の未添加時の拍動数の変化率(=培地交換による拍動数の変化)で割ることで補正している。
【0079】
図12は、拍動数の変化率の結果を示す。心筋モデルにおいて、CMF使用量0mgの場合は、薬剤応答性が悪く、CMF使用量1mg及び3mgの場合は、薬剤応答性を示した。CMF使用量1mgであった心筋モデルは、より良好な薬剤応答性を示した。
【0080】
CMFを用いた三次元組織体からなる心筋モデルを用いた薬効評価結果は、イソプロテレノールの心筋のアドレナリン受容体に作用して収縮力を増強する効果の知見と一致しており、CMFを用いた三次元組織体からなる心筋モデルにより心不全治療薬の効果を正しく評価可能であることが示された。