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特開2023-155671生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155671
(43)【公開日】2023-10-23
(54)【発明の名称】生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/20 20060101AFI20231016BHJP
   A61L 27/22 20060101ALI20231016BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20231016BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
A61L27/20
A61L27/22
A61L27/16
A61L27/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065131
(22)【出願日】2022-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 悠紀
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB02
4C081AB04
4C081BA12
4C081CA08
4C081CA19
4C081CA24
4C081CD01
4C081CD04
4C081CD08
4C081CD09
4C081CD11
4C081CD15
4C081CF01
4C081EA03
(57)【要約】
【課題】本発明は、生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】カルシウムイオンを含む化合物及びリン酸イオンを含む化合物と、生体親和性高分子を含む溶液とを混合して混合泥とする工程、前記混合泥をモールドに充填後、前記カルシウムイオン及びリン酸イオンを反応させる工程、を含む、生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムイオンを含む化合物及びリン酸イオンを含む化合物と、生体親和性高分子を含む溶液とを混合して混合泥とする工程、前記混合泥をモールドに充填し、前記カルシウムイオン及びリン酸イオンを反応させる工程、を含む、生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体の製造方法。
【請求項2】
カルシウムイオンを含む化合物と、生体親和性高分子を含む溶液とを混合して混合泥とする工程、前記混合泥にリン酸イオンを含む化合物の溶液を添加して混合する工程、混合後、得られた混合泥をモールドに充填し、前記カルシウムイオンとリン酸イオンを反応させる工程、を含む、生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体の製造方法。
【請求項3】
カルシウムイオンを含む化合物と、生体親和性高分子を含む溶液とを混合して混合泥とする工程、前記混合泥をモールドに充填後、凍結させる工程、前記凍結により得られた成形体を、リン酸イオンを含む化合物の溶液に浸漬させて、前記カルシウムイオン及びリン酸イオンを反応させる工程、を含む、生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体の製造方法。
【請求項4】
前記カルシウムイオンを含む化合物は、リン酸二水素カルシウム水和物、リン酸二水素カルシウム無水和物、リン酸水素カルシウム二水和物、リン酸水素カルシウム無水和物、水酸アパタイト、炭酸アパタイト、ナトリウム置換水酸アパタイト、リン酸三カルシウムα相、リン酸三カルシウムβ相、炭酸カルシウム、からなる群より選択される1種以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体の製造方法。
【請求項5】
前記リン酸イオンを含む化合物は、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、リン酸マグネシウムアンモニウムからなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載の生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体の製造方法。
【請求項6】
前記生体親和性高分子が、アルギン酸、ゼラチン、ヒアルロン酸、ゲランガム、カルボン酸修飾セルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、プルラン、リン酸化プルラン、ポリグルタミン酸、フィブリン、キチン、キトサン、ゲランガム、のいずれか1種以上である請求項1~5のいずれか一項に記載の生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸カルシウムは、骨を誘導・組織再生を促すことから、事故や病気によって生じた骨欠損部の再建・再生用材料(骨補填材)として使用されている。生体内に埋設されたリン酸カルシウムは破骨細胞が働くことで骨置換が起き、骨芽細胞と破骨細胞との協調により、骨リモデリングプロセス(骨の新陳代謝)が適切に機能することを前提として設計されている。一方、日本国内で数百万人の規模で存在する関節リウマチや骨粗しょう症では、骨リモデリングプロセスが適切に機能しない場合があり、骨補填材の適応は慎重にならざるを得ないのが現状である。
【0003】
骨補填材の高機能化のため、リン酸カルシウム系化合物を基材として、薬剤を担持させる技術が知られている。目的に応じた薬剤を担持させることで、現行の骨補填材の適用が難しい症例に対しても有効に作用させることが可能となる。例えば、特許文献1には、インドメタシン、インスリン、アスピリン等の薬剤を担持したリン酸カルシウムに関する技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ドラックデリバリーシステムに利用することができる生体硬組織様硬化体であって、コラーゲンやヒアルロン酸等の生体高分子とリン酸カルシウム系化合物とを含む生体硬組織用硬化体が開示されている。これら生体高分子との複合化により、セラミックスの特徴である硬くて脆い性質が改善され、柔軟性を付与することが可能である。特許文献3には、リン酸八カルシウム粒子及びゼラチンの複合体から構成される骨再生材料について開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-228011号公報
【特許文献2】特開2003-93496号公報
【特許文献3】国際公開第2020/071497号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リン酸カルシウムは、単一の化合物を指すのではなく、複数の種類が知られている。骨補填材などに医療応用されているリン酸カルシウムとして、リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)、リン酸八カルシウム(OCP)、水酸アパタイト(HAp)、炭酸アパタイト(COAp)、リン酸三カルシウムα相(α-TCP)、リン酸三カルシウムβ相(β-TCP)などが知られている。なかでも、リン酸八カルシウム(OCP)は、とりわけ優れた骨再生能を有することが知られている。
【0007】
リン酸カルシウム成形体は、溶解析出反応により作製することができる。具体的には、カルシウムイオンを含む化合物を弱塩基リン酸溶液中で反応させ、溶解析出反応を惹起させてリン酸カルシウム成形体を作製するものである。しかし、この方法では、薬剤を担持させたリン酸カルシウム成形体の調製は困難という問題があった。薬剤は、リン酸カルシウム結晶中に担持されるが、溶解析出反応に用いられる緩衝溶液中のカチオンであるナトリウムイオンやアンモニウムイオンが薬剤の担持を強力に阻害するため、溶解析出反応に
よっては、一定の形状、強度を保持した成形体を製造するのが困難ということがあった。
【0008】
このような問題に鑑み、本発明者は鋭意研究したところ、カルシウムイオンなどを含む化合物に予め生体親和性高分子を練和し、成形した後、カルシウムイオンとリン酸イオンとを反応させてリン酸八カルシウムを合成することで、一定の形状、強度を保持した、生体親和性高分子を複合化した成形体を作製することができるとの知見が得られ、本発明に至った。かかる知見に基づき、本発明は、生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することができる本発明の一態様は、以下の通りである。
[1]カルシウムイオンを含む化合物及びリン酸イオンを含む化合物と、生体親和性高分子を含む溶液とを混合して混合泥とする工程、前記混合泥をモールドに充填し、前記カルシウムイオンとリン酸イオンを反応させる工程、を含む、生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体の製造方法。
[2]カルシウムイオンを含む化合物と、生体親和性高分子を含む溶液とを混合して混合泥とする工程、前記混合泥にリン酸イオンを含む化合物を添加して混合する工程、得られた混合泥をモールドに充填し、前記カルシウムイオンとリン酸イオンを反応させる工程、を含む、生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体の製造方法。
[3]カルシウムイオンを含む化合物と、生体親和性高分子を含む溶液とを混合して混合泥とする工程、前記混合泥をモールドに充填後、凍結させる工程、前記凍結により得られた成形体を、リン酸イオンを含む化合物の溶液に浸漬させて、前記カルシウムイオンとリン酸イオンを反応させる工程、を含む、生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体の製造方法。
[4]前記カルシウムイオンを含む化合物は、リン酸二水素カルシウム水和物、リン酸二水素カルシウム無水和物、リン酸水素カルシウム二水和物、リン酸水素カルシウム無水和物、水酸アパタイト、炭酸アパタイト、ナトリウム置換水酸アパタイト、リン酸三カルシウムα相、リン酸三カルシウムβ相、炭酸カルシウム、からなる群より選択される1種以上である、[1]~[3]のいずれか一に記載の生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体の製造方法。
[5]前記リン酸イオンを含む化合物は、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、リン酸マグネシウムアンモニウム、からなる群より選択される1種以上である、[1]~[3]のいずれか一に記載の生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体の製造方法。
[6]前記生体親和性高分子が、アルギン酸、ゼラチン、ヒアルロン酸、ゲランガム、カルボン酸修飾セルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、プルラン、リン酸化プルラン、ポリグルタミン酸、フィブリン、キチン、キトサン、ゲランガム、からなる群より選択される1種以上である、[1]~[4]のいずれか一に記載の生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体の製造方法を提供することができる。本発明によって得られる生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体は、一定の形状と強度を備えるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1で作製された成形体の写真である(図面代用写真)。
図2】実施例1で作製された成形体のXRD分析結果を示す図である。
図3】実施例1で作製された成形体のSEM写真である(図面代用写真)。
図4】実施例2で作製された成形体の写真である(図面代用写真)。
図5】実施例2で作製された成形体のXRD分析結果を示す図である。
図6】実施例2で作製された成形体のDTS強度の測定結果である。
図7】実施例2で作製された成形体における応力-ひずみ曲線を示す図である。
図8】実施例2で作製された成形体のSEM写真である(図面代用写真)。
図9】実施例3で作製された成形体の写真である(図面代用写真)。
図10】実施例3で作製された成形体のXRD分析結果を示す図である。
図11】実施例3で作製された成形体のDTS強度の測定結果である。
図12】実施例3で作製された成形体における応力-ひずみ曲線を示す図である。
図13】実施例4で作製された成形体の写真である(図面代用写真)。
図14】実施例4で作製された成形体のDTS強度の測定結果である。
図15】実施例4で作製された成形体における応力-ひずみ曲線を示す図である。
図16】実施例4で作製された成形体のXRD分析結果を示す図である。
図17】実施例5、6で作製された成形体の写真である(図面代用写真)。
図18】実施例5、6で作製された成形体のXRD分析結果を示す図である。
図19】実施例5、6で作製された成形体のDTS強度の測定結果である。
図20】実施例7で作製された成形体の写真である(図面代用写真)。
図21】実施例7で作製された成形体のXRD分析結果を示す図である。
図22】実施例7で作製された成形体のSEM写真である(図面代用写真)。
図23】実施例8で作製された成形体の写真である(図面代用写真)。
図24】実施例8で作製された成形体のCT像である(図面代用写真)。
図25】実施例8で作製された成形体のXRD分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。以下に記載する事項の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明は、これらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
本発明の実施形態によって得られる成形体は、生体親和性高分子を複合化した、リン酸八カルシウム(OCP)を主成分とする成形体であり、主として、骨リモデリングプロセスに寄与することができる。生体親和性高分子の存在下、カルシウムイオンとリン酸イオンとを反応させることで、リン酸八カルシウム(OCP)の結晶成長過程において、生体親和性高分子を複合化した成形体を得ることができるものである。複合化によって、結晶が絡み合う或いは融合する状態となり、これにより、成形体全体として形状が維持され、蒸留水やエタノールなどの溶液中に浸漬しても、崩壊しない程度に形状が保持される。
【0014】
[1]第1の実施形態
第1の実施形態は、カルシウムイオンを含む化合物及びリン酸イオンを含む化合物と、生体親和性高分子を含む溶液とを混合して混合泥とする工程、前記混合泥をモールドに充填し、前記カルシウムイオン及びリン酸イオンを反応させる工程、を含む、生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体の製造方法である。
【0015】
第1の実施形態において、カルシウムイオンを含む化合物として、リン酸カルシウム(リン酸八カルシウムを除く)を用いることができ、例えば、リン酸二水素カルシウム水和物、リン酸二水素カルシウム無水和物、リン酸水素カルシウム二水和物、リン酸水素カルシウム無水和物、水酸アパタイト、炭酸アパタイト、ナトリウム置換水酸アパタイト、リン酸三カルシウムα相、リン酸三カルシウムβ相、が挙げられる。これらは単独でも複数を任意の比率で混合して使用してもよい。
【0016】
また、カルシウムイオンを含む化合物として、上記のリン酸カルシウム以外に、例えば、カルシウム無機塩あるいはカルシウム有機塩を用いることができる。カルシウムの無機塩として、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、塩化カルシウム、フッ化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、リン化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸カルシウム半水和物、硫酸カルシウム二水和物、シュウ酸カルシウム無水和物、シュウ酸カルシウム一水和物、シュウ酸カルシウム二水和物、シュウ酸カルシウム三水和物、亜硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、タングステン酸カルシウム、モリブデン酸カルシウムなどが挙げられる。カルシウム有機塩として、酢酸カルシウム、コハク酸カルシウム、クエン酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム、チオリンゴ酸カルシウム、安息香酸カルシウム、乳酸カルシウム、ステアリン酸カルシウムなどが挙げられる。これらは単独でも複数を任意の比率で混合して使用してもよい。
【0017】
第1の実施形態において、リン酸イオンを含む化合物として、例えば、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、リン酸マグネシウムアンモニウム、リン酸マグネシウム、などが挙げられる。これらのうち、いずれかを単独あるいは複数を用いることができる。
【0018】
一般に生体親和性高分子は、体内に埋植された後、生体に拒絶されず、生体に異物として認識されない性質及び/又は生体に適合した性質を持ち、経時的に生体に吸収されることを目的とする材料である。治療を目的とする場合には、当該生体親和性高分子は薬剤となり得る。生体内での適切な溶解性やカルシウム塩との結合形成など、生体との親和性をもつことが望ましい。生体親和性高分子は、リン酸八カルシウムを主成分とする成形体と複合化させる必要性から、柔軟性、強靭性を付与できることが望ましく、成形体の賦形性や機械的特性を改善することができる。
【0019】
本明細書中、生体親和性高分子における高分子とは、分子量が400より大きい分子を表し、分子量が小さい分子から実質的または概念的に得られる単位の多数回の繰り返しで構成した構造を持つ分子のことを指す。すなわち、高分子の重合状態、規則構造の状態から、線状高分子、星型高分子、櫛型高分子、ブラシ状高分子、二次元高分子、三次元高分子などに分類されるものが含まれる。これらの高分子においては、側鎖や繰り返し単位に、別構造が含有されていてもよく、ロタキサン構造などを含んでいてもよい。
【0020】
生体親和性高分子として種々多様な材料があり、複合化させる高分子としては特に制限はないが、例えば、アルギン酸、ゼラチン、コラーゲン、アクチン、フィブリン、デンプン、デキストリン、アミロース、アミロペクチン、ペクチン、グリコーゲン、カードラン、パラミロン、アガロース、カラギーナン、ヘパリン、キシログルカン、グルコマンナン、レバン、フルクタン、プルラン、リン酸化プルラン、フィブロイン、セルロース、キトサン、キチン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸-ポリ乳酸共重合体、ポリL乳酸、メラニン、ヒアルロン酸、ゲランガム、マスティック・ガム、カルボン酸修飾セルロース、リグニン、カゼイン、ポリグルタミン酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコールなどを用いることができる。これらは、単独あるいは複数を用いることができる。
【0021】
本明細書中、生体親和性高分子を含む溶液は、生体親和性高分子を溶媒に溶解して、作製することができる。溶媒は特に限定されず、通常、水又は水溶液の形態であるが、他の溶媒を用いることもできる。水以外の溶媒を用いる場合、これらの溶媒は反応温度・圧力条件において液体である必要がある。例えば、メタノール、エタノール、プロパン-1-オール、ブタン-1-オール、ペンタン-1-オール、ヘキサン-1-オール、ヘプタン
-1-オール、オクタン-1-オール、ノナン-1-オール、デカン-1-オールなどの第一級アルコール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、ブタン-2-オール、ペンタン-2-オール、ヘキサン-2-オール、シクロヘキサノールなどの第二級アルコール、tert-ブチルアルコール、2-メチルブタン-2-オール、2-メチルペンタン-2-オール、2-メチルヘキサン-2-オール、3-メチルペンタン-3-オール、3-メチルオクタン-3-オールなどの第三級アルコールをはじめとする一価アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどの二価アルコール、グリセリンなどの三価アルコール、フェノールなどの芳香環アルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)などのポリエーテル、酢酸、吉草酸、カプロン酸、ラウリン酸、パルチミン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸などの脂肪酸、ペンタン、ブタン、ヘキサン、セプタン、オクタンなどのアルカン、酢酸エチル、酪酸メチル、サリチル酸メチル、ギ酸エチル、酪酸エチル、カプロン酸エチル、酢酸オクチル、フタル酸ジブチル、のようなエステル類、シクロペンタン、シクロヘキサン、デカリンなどのシクロアルカン又はビシクロアルカンと呼称される化合物、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトンなどのケトン、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、バニリンなどのアルデヒド、アミノメタン、アミノエタン、エチレンジアミン、トリエチルアミン、アニリンなどのアミン化合物、などを挙げることができる。これらは、単独で用いてもよいし、複数を混合して使用してもよい。
【0022】
第1の実施形態において、カルシウムイオンを含む化合物及びリン酸イオンを含む化合物と、生体親和性高分子を含む溶液とを混合して混合泥とする。混合方法に特に制限はないが、例えば、カルシウムイオンを含む化合物とリン酸イオンを含む化合物の混合粉末に生体親和性高分子を含む溶液を滴下し、スパチュラなどを用いて十分に混合して、混合泥とすることができる。混合の割合は、カルシウムイオンを含む化合物とリン酸イオンを含む化合物との混合粉末と生体親和性高分子の重量比で、200:1~1:1とすることが好ましい。より好ましくは100:1~2:1であり、さらに好ましくは50:1~3:1であり、特に好ましくは20:1~5:1である。
【0023】
次いで、得られた混合泥をモールドに充填し、密封して養生する。養生温度や養生時間は適宜、設定することができ、養生温度は、例えば、5~95℃、好ましくは15~80℃とすることができる。養生時間は、例えば、2~96時間、好ましくは6~72時間とすることができる。この養生プロセス(カルシウムイオンとリン酸イオンとが反応する過程)において、生体親和性高分子が複合化したリン酸カルシウム結晶が析出する。養生後は、乾燥機などを用いて乾燥させ、その後、モールドから成形体を取り出す。取り出し後、未反応成分が残存している場合には、蒸留水などを用いて洗浄、除去することが好ましい。以上により、生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体を製造することができる。
【0024】
[2]第2の実施形態
第2の実施形態は、カルシウムイオンを含む化合物と、生体親和性高分子を含む溶液とを混合して混合泥とする工程、前記混合泥にリン酸イオンを含む化合物を添加して混合する工程、得られた混合泥をモールドに充填して、前記カルシウムイオンとリン酸イオンを反応させる工程、を含む、生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体の製造方法である。
【0025】
第2の実施形態において、カルシウムイオンを含む化合物として、例えば、カルシウム無機塩あるいはカルシウム有機塩を用いることができる。カルシウムの無機塩として、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、塩化カルシウム、フッ化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、リン化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸カルシ
ウム半水和物、硫酸カルシウム二水和物、シュウ酸カルシウム無水和物、シュウ酸カルシウム一水和物、シュウ酸カルシウム二水和物、シュウ酸カルシウム三水和物、亜硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、タングステン酸カルシウム、モリブデン酸カルシウムなどが挙げられる。カルシウム有機塩として、酢酸カルシウム、コハク酸カルシウム、クエン酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム、チオリンゴ酸カルシウム、安息香酸カルシウム、乳酸カルシウム、ステアリン酸カルシウムなどが挙げられる。これらは単独でも複数を任意の比率で混合して使用してもよい。
【0026】
また、カルシウムイオンを含む化合物として、上記カルシウム無機塩あるいはカルシウム有機塩以外に、リン酸カルシウム(リン酸八カルシウムを除く)を用いることができ、例えば、リン酸二水素カルシウム水和物、リン酸二水素カルシウム無水和物、リン酸水素カルシウム二水和物、リン酸水素カルシウム無水和物、水酸アパタイト、炭酸アパタイト、ナトリウム置換水酸アパタイト、リン酸三カルシウムα相、リン酸三カルシウムβ相、が挙げられる。これらは単独でも複数を任意の比率で混合して使用してもよい。
【0027】
リン酸イオンを含む化合物の溶液として、リン酸の無機塩を含む溶液を用いることができる。リン酸の無機塩として、例えば、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、リン酸マグネシウムアンモニウムなどがあげられる。これらは単独でも、複数を任意の比率で混合して使用してもよい。
【0028】
第2の実施形態は、カルシウムイオンを含む化合物と、生体親和性高分子を含む溶液とを混合する。混合の割合は、カルシウムイオンを含む化合物と生体親和性高分子の重量比で200:1~1:1とすることが好ましい。より好ましくは100:1~2:1であり、さらに好ましくは50:1~3:1であり、特に好ましくは20:1~5:1である。混合方法に特に制限はないが、例えば、カルシウムイオンを含む化合物(粉末)に生体親和性高分子を含む溶液を滴下し、スパチュラなどを用いて十分に混合する。例えば、原料となる炭酸カルシウム粉末に、生体親和性高分子を溶媒に溶解して得られる生体親和性高分子を含む溶液を混合して混合泥を作製する。
【0029】
次いで、混合泥にリン酸イオンを含む化合物の溶液を混合する。これにより、例えば、混合泥に含まれる炭酸カルシウムと溶液中のリン酸とが反応してリン酸八カルシウムを形成する。反応時は激しく発泡して、部分的に硬化することがあるが、発泡反応が落ち着くまで、混ぜ続けることが好ましい。この際、カルシウムイオンとリン酸イオンとが反応してリン酸八カルシウムを形成するように、それぞれの化合物の比率を調製することができる。
【0030】
次に、得られた混合泥をモールドに充填し、密封して養生する。養生温度や養生時間は適宜、設定することができ、養生温度は、例えば、35~50℃、養生時間は、例えば、10分~96時間とすることができる。この養生プロセス(カルシウムイオンとリン酸イオンが反応する過程)において、生体親和性高分子を含むリン酸八カルシウムの結晶が析出する。養生後は、乾燥機などを用いて乾燥させ、乾燥後、モールドから成形体を取り出す。取り出し後、未反応成分が残存している場合には、蒸留水などを用いて洗浄、除去することが好ましい。以上により、生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体を製造することができる。
【0031】
[3]第3の実施形態
第3の実施形態は、カルシウムイオンを含む化合物と、生体親和性高分子を含む溶液とを混合して混合泥とする工程、前記混合泥をモールドに充填後、凍結させる工程、前記凍
結により得られた成形体を、リン酸イオンを含む化合物の溶液に浸漬させて、前記カルシウムイオンとリン酸イオンを反応させる工程、を含む、生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体の製造方法、である。
【0032】
第3の実施形態において、カルシウムイオンを含む化合物として、リン酸カルシウム(リン酸八カルシウムを除く)を用いることができ、例えば、リン酸二水素カルシウム水和物、リン酸二水素カルシウム無水和物、リン酸水素カルシウム二水和物、リン酸水素カルシウム無水和物、水酸アパタイト、炭酸アパタイト、ナトリウム置換水酸アパタイト、リン酸三カルシウムα相、リン酸三カルシウムβ相、が挙げられる。
【0033】
また、カルシウムイオンを含む化合物として、上記リン酸カルシウム以外に、カルシウム無機塩あるいはカルシウム有機塩を用いることができる。カルシウムの無機塩として、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、塩化カルシウム、フッ化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、リン化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸カルシウム半水和物、硫酸カルシウム二水和物、シュウ酸カルシウム無水和物、シュウ酸カルシウム一水和物、シュウ酸カルシウム二水和物、シュウ酸カルシウム三水和物、亜硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、タングステン酸カルシウム、モリブデン酸カルシウムなどが挙げられる。カルシウム有機塩として、酢酸カルシウム、コハク酸カルシウム、クエン酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム、チオリンゴ酸カルシウム、安息香酸カルシウム、乳酸カルシウム、ステアリン酸カルシウムなどが挙げられる。これらは単独でも複数を任意の比率で混合して使用してもよい。
【0034】
第3の実施形態において、リン酸イオンを含む化合物の溶液として、リン酸の無機塩を含む溶液を用いることができる。リン酸の無機塩として、例えば、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、リン酸マグネシウムアンモニウムなどがあげられる。これらは単独でも、複数を任意の比率で混合して使用してもよい。
【0035】
第3の実施形態は、カルシウムイオンを含む化合物と、生体親和性高分子を含む溶液とを混合して混合泥とする工程を経た後、前記混合泥をモールドに充填する。例えば、原料となる炭酸カルシウム粉末と用意し、生体親和性高分子を溶媒に溶解して得られる生体親和性高分子を含む溶液を当該原料粉末に混合して混合泥とする。混合の割合は、カルシウムイオンを含む化合物と生体親和性高分子の重量比で200:1~1:1とすることが好ましい。より好ましくは100:1~2:1であり、さらに好ましくは50:1~3:1であり、特に好ましくは20:1~5:1である。
【0036】
次に、この混合泥をモールドに充填した後、凍結させる。凍結温度は、-15℃以下とすることが好ましい。下限値は特に制限されないが、-50℃以上とすることが好ましい。凍結後は、凍結状態のまま、乾燥(凍結乾燥)させて、水分を除去する。凍結後(好ましくは凍結乾燥後)、モールドから成形体を取り出して、直ちに成形体を、リン酸イオンを含む化合物の溶液に浸漬させることで、カルシウムイオンとリン酸イオンを反応させるとともに、生体親和性高分子の状態を変化させ、不溶化させ、形態を維持することができる。浸漬温度や浸漬時間は適宜、設定することができ、浸漬温度は、例えば、50~70℃とすることができる。浸漬時間は例えば、10分~96時間とすることができる。この浸漬プロセスにおいて、凍結した成形体は溶解するが、並行して生体親和性高分子を含むリン酸カルシウム結晶が析出し、形状が維持される。以上により、生体親和性高分子を複合化したリン酸八カルシウム成形体を製造することができる。
【0037】
(リン酸八カルシウム成形体)
第1~3の実施形態によって得られる成形体は、DTS強度が0.1MPa以上、また、0.3MPa以上、さらには、0.5MPa以上を達成することができる。DTS強度が、0.1MPa以上であれば、ピンセットで強めに摘まんでも崩壊しないため、生体内の骨欠損部への移植を容易に行うことが可能とであるが、施術の容易性を考慮すると、より高強度であることが好ましい。
【0038】
形体の形状は基本的に混合泥を充填する際に使用するモールドの形に依存するが、一定の強度を有することから、特定形状に加工することも可能である。例えば、立方体、直方体、円柱、円錐形、円錐台形、球、八面体、四面体などに加工することが可能である。成形体の体積は1mm以上、さらには3mm以上、特には5mm以上とすることができる。一方、1000mmを超えると、強度が低下することが懸念される。
【実施例0039】
以下、実施例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、これらの例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0040】
成形体の物性評価は、以下の測定装置や測定条件を用いて行った。
(DTS強度について)
ダイアメトラル引張強さ(DTS強度)については、島津製作所製万能試験機、AGS-Jを用いて、ヘッドスピード1mm/minの速度にて測定した。
【0041】
(X線回折分析について)
X線回折分析装置(MiniFlex600、株式会社リガク、日本、ターゲット:Cu、波長:0.15406nm)によりXRD分析を行った。XRDの測定条件は、加速電圧及び振幅をそれぞれ40kV、15mAとし、特性評価については2°/分の操作速度で、3°から70°にわたり2θの値で回折角を連続的にスキャンした。成形体をX線回折法で分析した場合、生体親和性高分子のピークに加えて、リン酸八カルシウムのピークを評価することで、OCPの形成を確認した。
【0042】
(応力-ひずみ曲線について)
応力-ひずみ曲線については、島津製作所製万能試験機、AGS-Jを用いて、ヘッドスピード1mm/minの速度にて測定した。
【0043】
(電子顕微鏡観察について)
電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM:JSM-6700F、日本電子株式会社、日本)により、試料の微細構造を評価した。加速電圧を5kVとし、表面の電荷蓄積を防止するため、サンプルにOsを用いてスパッタコーティングをした。
【0044】
(FT-IR分析について)
フーリエ変換赤外分光(FT-IR:Nicolet NEXUS670、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社、米国)により、GeSeで作られた減衰全反射プリズムを有する硫酸トリグリシン検出器(32スキャン、解像度2cm-1)を用いて、サンプルの化学振動スキームの特性を評価した。測定を行うためのバックグラウンドとして雰囲気を考慮した。
【0045】
(マイクロCT分析について)
マイクロCT分析装置(マイクロCT:Skyscan1085、株式会社東陽テクニカ)により、試料の内部微細構造を評価した。加速電圧を60kVとし、Alフィルター
を用い、解像度は9μmで評価した。
【0046】
(実施例1)アルギン酸-OCP成形体
リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)2.40gと、リン酸水素二ナトリウム(NaAP)2.84gとを自動メノウ乳鉢にて10分以上、100rpmの速度で混合して、混合粉末とした。混合粉末をポリスチレントレーに入れ、これに濃度50g/Lのアルギン酸アンモニウム水溶液を混水比1.0にて滴下した。スパチュラにて十分に混合して、混合泥とした後、直径6mm、厚さ3mmのシリコンモールドに充填し、密封状態で40℃、3日間養生した。養生後、40℃、12時間以上、大気乾燥させた後、乾燥させた混合泥をモールドから取り出した。その後、蒸留水で十分に洗浄し、残存した未反応成分を除去した後、再び40℃で乾燥させた。
【0047】
図1に得られた成形体の写真を示す。図1から成形体がモールドの形を維持していることが分かる。当該成形体のDTS強度は0.18±0.04MPaであり、ピンセットなどで摘まんでも崩壊しない強度であった。図2に当該成形体のXRDによる分析結果を示す。図2から得られた成形体はリン酸八カルシウム(OCP)単相となっていることが分かった。成形体の一部を切り出し、その破断面をFE-SEMで観察した結果を図3に示す。当該断面には、数十nm程度のサイズの鱗片状結晶が緻密に集積し、一部融合している様子が観察された。また、結晶間の一部に繊維状の構造が観察された。
【0048】
(実施例2)ゼラチン-OCP成形体
リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)2.40gと、リン酸水素二ナトリウム(NaAP)2.84gを自動メノウ乳鉢にて10分以上、100rpmの速度で混合して、混合粉末とした。混合粉末をポリスチレントレーに入れ、これにゼラチン水溶液(濃度:10、50、100g/L)をそれぞれ混水比1.0にて別個に滴下した。スパチュラにて十分に混合して、混合泥とした後、直径6mm、厚さ3mmのシリコンモールドに充填し、密封状態で40℃、3日間養生した。養生後、40℃、12時間以上、大気乾燥させた後、乾燥させた混合泥をモールドから取り出した。その後、蒸留水で十分に洗浄し、残存した未反応成分を除去した後、再び40℃で乾燥させた。
【0049】
図4に得られた成形体の写真を示す。図4から成形体がモールドの形を維持していることが分かる。図5に当該成形体のXRDによる分析結果を示す。図5から、得られた成形体はリン酸八カルシウム(OCP)単相となっていることが分かる。図6にDTS強度の測定結果を示す。当該成形体のDTS強度は、いずれも0.18±0.04MPa以上であり、ピンセットなどで摘まんでも崩壊しない強度であった。図7は成形体の応力-ひずみ曲線であり、成形体はある一定の歪みを加えても崩壊しないことが分かる。成形体の一部を切り出し、その破断面をFE-SEMで観察した結果を図8に示す。当該断面には、数十nm程度のサイズの鱗片状結晶が緻密に集積し、一部融合している様子が観察された。また、結晶間の一部に繊維状の構造が観察された。
【0050】
(実施例3)ポリアクリル酸ナトリウム-OCP成形体
リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)2.40gと、リン酸水素二ナトリウム(NaAP)2.84gとを自動メノウ乳鉢にて10分以上、100rpmの速度で混合して、混合粉末とした。混合粉末をポリスチレントレーに入れ、これに濃度100g/Lのポリアクリル酸ナトリウム(PAA-Na)水溶液を混水比1.0にて、滴下した。スパチュラにて十分に混合して、混合泥とした後、直径6mm、厚さ3mmのシリコンモールドに充填し、密封状態で40℃、3日間養生した。養生後、40℃、12時間以上、大気乾燥させた後、乾燥させた混合泥をモールドから取り出した。
【0051】
図9(左図)にPAA-Naと複合化させた成形体及び、PEGと複合化させた成形体
の写真を示す。図9(左図)から成形体がモールドの形を維持していることが分かる。図10に当該成形体のXRDによる分析結果(PAA-Na-100g/L)を示す。図10から得られた成形体はリン酸八カルシウム(OCP)単相となっていることが分かる。当該成形体のDTS強度(PAA-Na)を図11に示す。当該成形体のDTS強度はいずれも0.18±0.04MPa以上であり、ピンセットなどで摘まんでも崩壊しない強度であった。図12は成形体の応力-ひずみ曲線(PAA-Na)であり、成形体は目立った破壊強度を示さず、高い塑性変形を示すことが分かる。すなわち、柔らかい成形体となっていた。
【0052】
(実施例4)ポリエチレングリコール-OCP成形体
リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)2.40gと、リン酸水素二ナトリウム(NaAP)2.84gとを自動メノウ乳鉢にて10分以上、100rpmの速度で混合して、混合粉末とした。混合粉末をポリスチレントレーに入れ、これに濃度100g/Lのポリエチレングリコール(PEG)水溶液を混水比1.0にて個別、滴下した。スパチュラにて十分に混合して、混合泥とした後、直径6mm、厚さ3mmのシリコンモールドに充填し、密封状態で40℃、3日間養生した。養生後、40℃、12時間以上、大気乾燥させた後、乾燥させた混合泥をモールドから取り出した。
【0053】
図9(右図)にPAA-Naと複合化させた成形体及び、PEGと複合化させた成形体の写真を示す。図9(右図)から成形体がモールドの形を維持していることが分かる。図10に当該成形体のXRDによる分析結果(PEG-100g/L)を示す。図10から得られた成形体はリン酸八カルシウム(OCP)単相となっていることが分かる。当該成形体のDTS強度(PEG)を図11に示す。当該成形体のDTS強度はいずれも0.18±0.04MPa以上であり、ピンセットなどで摘まんでも崩壊しない強度であった。図12は成形体の応力-ひずみ曲線(PEG)であり、成形体は目立った破壊強度を示さず、高い塑性変形を示すことが分かる。すなわち、柔らかい成形体となっていた。
【0054】
(実施例5)ゼラチン-OCP成形体
炭酸カルシウム1.75gをメノウ乳鉢にとり、これにゼラチン水溶液(濃度10g/L、100g/L)を混水比1.0にて個別、滴下して、十分に混合して、スラリー状とした。このスラリーに4mol/Lのリン酸水溶液を2mL滴下して、素早く乳棒でかき混ぜ、混合泥にした。混合時に激しく発泡し、また、部分的に硬化が形成されるが、これが落ち着くまでかき混ぜた。この混合泥を直径6mm、厚さ3mmのシリコンモールドに充填し、密封状態で40℃、3日間養生した。養生後、40℃、12時間以上、大気乾燥させた後、乾燥させた混合泥をモールドから取り出した。その後、蒸留水で洗浄後、乾燥させた。
【0055】
図13に得られた成形体の写真を示す。図13から成形体がモールドの形を維持していることが分かる。当該成形体のDTS強度を図14に示す。当該成形体のDTS強度はいずれも0.18±0.04MPa以上であり、ピンセットなどで摘まんでも崩壊しない強度であった。図15は成形体の応力-ひずみ曲線であり、成形体は目立った破壊強度を示さず、高い塑性変形を示すことが分かる。図16に当該成形体のXRDによる分析結果を示す。図16から得られた成形体はリン酸八カルシウム(OCP)単相となっていることが分かった。
【0056】
(実施例6)ポリアクリル酸ナトリウム-OCP成形体
炭酸カルシウム1.75gをメノウ乳鉢にとり、これに濃度10g/Lのポリアクリル酸ナトリウム(PAA-Na)水溶液を1mL滴下して、十分に混合して、スラリー状とした。このスラリーに4mol/Lのリン酸水溶液を2mL滴下して、素早く乳棒でかき混ぜ、混合泥にした。混合時に激しく発泡し、また、部分的に硬化が形成されるが、これ
が落ち着くまでかき混ぜた。この混合泥を直径6mm、厚さ3mmのシリコンモールドに充填し、密封状態で40℃、3日間養生した。養生後、40℃、12時間以上乾燥させた後、乾燥させた混合泥をモールドから取り出した。その後、蒸留水で洗浄後、乾燥させた。
【0057】
図17に得られた成形体の写真を示す。図17から成形体がモールドの形を維持していることが分かる。当該成形体のXRDパターンを図18に、DTS強度を図19に示す。当該成形体のDTS強度は0.88±0.04MPa以上であり、ピンセットなどで摘まんでも崩壊しない強度であった。
【0058】
(実施例7)アルギン酸-OCP成形体
リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)を1gと濃度50g/Lのアルギン酸アンモニウム水溶液を混水比1.0にて混合し、混合泥とした。この混合泥を直径6mm、厚さ3mmのシリコンモールドに充填した後、-20℃にて凍結後、凍結乾燥機にて水分を飛ばして、乾燥させた。なお、乾燥後の成形体は、モールドの形態を維持していた。その後、この成形体を濃度1mol/Lのリン酸水素二ナトリウム(NaAP)水溶液20mLに浸漬し、60℃にて1日間反応させた。なお、反応時、成形体は発泡したが、形状は維持していた。
【0059】
図20に成形体の浸漬前後の写真を示す。図20から浸漬後も成形体がモールドの形を維持していることが分かる。凍結による、氷結晶の形成に伴う数百μm程度の気孔が観察された。当該成形体のDTS強度は0.54±0.21MPa以上であった。図21に浸漬後の成形体のXRDによる分析結果を示す。図21から得られた成形体は、一部リン酸八カルシウム(OCP)が形成している様子が観察された。図22に浸漬後の成形体のSEM像を示す。アルギン酸の繊維内に放射状のOCP結晶が埋没している様子が観察された。
【0060】
(実施例8)アルギン酸-OCP成形体
炭酸カルシウム1gと濃度50g/Lのアルギン酸アンモニウム水溶液を混水比1.0にて混合し、混合泥とした。この混合泥を直径6mm、厚さ3mmのシリコンモールドに充填した後、-20℃にて凍結後、凍結乾燥機にて水分を飛ばして、乾燥させた。なお、乾燥後の成形体は、モールドの形状を維持していた。その後、この成形体を濃度100mol/Lのリン酸20mLに浸漬し、60℃にて3日間反応させた。なお、反応時に成形体が発泡したが、形状は維持していた。
【0061】
図23に成形体の浸漬前後の写真を示す。図23から浸漬後も成形体がモールドの形を維持していることが分かる。また、成形体のCT像を図24に示す。凍結による、氷結晶の形成に伴う数百μm程度の気孔が観察された。当該成形体のDTS強度は0.32±0.12MPaであった。また、図25に浸漬後の成形体のXRDによる分析結果を示す。図25から得られた成形体は、一部リン酸八カルシウム(OCP)が形成している様子が観察された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
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