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  • 特開-ニッケル酸化鉱石の製錬方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155717
(43)【公開日】2023-10-23
(54)【発明の名称】ニッケル酸化鉱石の製錬方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/02 20060101AFI20231016BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20231016BHJP
   C22B 1/24 20060101ALI20231016BHJP
   C22B 5/10 20060101ALI20231016BHJP
   H01M 10/54 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
C22B23/02
C22B7/00 C
C22B1/24
C22B5/10
H01M10/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065207
(22)【出願日】2022-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
(72)【発明者】
【氏名】西原 泰孝
(72)【発明者】
【氏名】後藤 優子
(72)【発明者】
【氏名】内藤 大志
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA09
4K001AA10
4K001AA19
4K001BA02
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA02
4K001CA04
4K001CA11
4K001CA15
4K001CA23
4K001DA05
4K001HA01
4K001KA02
4K001KA06
4K001KA13
5H031HH03
5H031RR02
(57)【要約】
【課題】ニッケル酸化鉱石を原料としてニッケルを含む有価なメタルを製造する方法において、生産性や効率性が高く、かつ高品質なメタルを製造することができる方法を提供する。
【解決手段】本発明は、原料であるニッケル酸化鉱石からペレットを形成し、そのペレットを還元することによって有価メタルを製造する製錬方法であって、ニッケル酸化鉱石と、炭素質還元剤とを混合する混合処理工程S1と、得られる混合物を成形してペレットとする混合物成形工程S2と、ペレットを所定の還元温度で加熱して還元処理を施す還元工程S3と、を有する。混合処理工程S1では、原料としてさらに、ニッケルを含有するリチウムイオン電池のスクラップを用い、ニッケル酸化鉱石にそのスクラップを添加して混合する。還元工程S3では、その還元温度におけるペレットの液相割合を重量比で52質量%以上65質量%以下の範囲に維持して還元処理を施す。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料であるニッケル酸化鉱石からペレットを形成し、該ペレットを還元することによって有価メタルを製造する製錬方法であって、
前記ニッケル酸化鉱石と、炭素質還元剤とを混合する混合処理工程と、
得られる混合物を成形してペレットとする混合物成形工程と、
前記ペレットを所定の還元温度で加熱して還元処理を施す還元工程と、を有し、
前記混合処理工程では、原料としてさらに、ニッケルを含有するリチウムイオン電池のスクラップを用い、前記ニッケル酸化鉱石に該スクラップを添加して混合し、
前記還元工程では、前記還元温度におけるペレットの液相割合を重量比で52質量%以上65質量%以下の範囲に維持して還元処理を施す、
ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項2】
前記リチウムイオン電池のスクラップは、コバルト及び/又は銅を含有する、
請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項3】
前記混合処理工程では、
前記リチウムイオン電池のスクラップを、前記ニッケル酸化鉱石と該リチウムイオン電池のスクラップとの合計を100質量%としたとき0.01質量%以上10質量%以下の割合となるように混合する、
請求項1又は2に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項4】
前記混合処理工程では、さらにフラックスを添加して混合する、
請求項1又は2に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項5】
前記還元工程を経て得られる還元物からスラグを分離して有価メタルを得る分離工程をさらに有する、
請求項1又は2に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル酸化鉱石の製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リモナイトあるいはサプロライトと呼ばれるニッケル酸化鉱石の製錬方法としては、溶錬炉を使用して原料鉱石を硫黄と共に硫化焙焼しニッケルマットを製造する乾式製錬方法、ロータリーキルンあるいは移動炉床炉を使用し炭素質還元剤を用いて還元することによって鉄-ニッケル合金(以下、「フェロニッケル」ともいう)を製造する乾式製錬方法、オートクレーブを使用して硫酸でニッケルやコバルトを浸出して得られる浸出液に硫化剤を添加してニッケルコバルト混合硫化物(ミックスサルファイド)を製造する湿式製錬方法等が知られている。
【0003】
上述した種々の製錬方法のなかで、炭素源と共に還元してニッケル酸化鉱石を製錬する方法では、先ず、その原料鉱石を塊状物化やスラリー化等するための前処理が行われる。具体的には、ニッケル酸化鉱石を塊状物化、すなわち粉状や微粒状の形態から塊状にするにあたっては、そのニッケル酸化鉱石をバインダーや還元剤等と混合し、さらに水分調整等を行った後に塊状物製造機に装入して、例えば10mm~30mm程度の塊状物(ペレット、ブリケット等を指す。以下、単に「ペレット」という)とするのが一般的である。
【0004】
ペレットには、含有する水分を飛ばすために、ある程度の通気性が必要となる。また、ペレット内で均一に還元が進まないと、得られる還元物の組成が不均一となり、メタルが分散したり偏在したりする等の不都合が生じる。そのため、混合物を均一に混合し、またペレットを還元処理する際には可能な限り均一な温度を維持することが重要となる。
【0005】
加えて、還元されて生成したフェロニッケルを粗大化させることも重要である。なぜなら、生成したフェロニッケルが、例えば50μm未満の細かな大きさであった場合、同時に生成したスラグと分離することが困難となり、フェロニッケルとしての回収率(収率)が大きく低下する。このことから、還元後のフェロニッケルを例えば50μm以上に粗大化する処理も必要となる。
【0006】
フェロニッケルを粗大化するには、ニッケル品位の高い鉱石を用いることが最も簡単な方法ではあるが、資源枯渇が進むなかで、鉱石中のニッケル品位は下がる一方であり、現実的にニッケル品位が上がることはない。仮に、ニッケル品位の高い鉱石を用いることができれば、フェロニッケル単位量あたりに溶融しなければならないスラグが減ったり、メタル割合が増えてメタルが粗大化してメタル回収率が上がる等、製造単価を容易に下げることができるといった利点もある。
【0007】
例えば、特許文献1には、金属酸化物と炭素質還元剤とを含む塊成物を、移動床型還元溶融炉の炉床上に供給して加熱し、金属酸化物を還元溶融させる粒状金属の製造方法において、塊成物同士の距離を0としたときの塊成物の炉床への最大投影面積率に対する、塊成物の炉床への投影面積率の相対値を敷密度としたとき、平均直径が19.5mm以上32mm以下の塊成物を、敷密度が0.5以上0.8以下になるように炉床上に供給して加熱する方法が開示されている。この方法では、塊成物の敷密度と平均直径とを併せて制御することで、粒状金属鉄の生産性を高められることが開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示の方法は、塊成物の外側で起こる反応を制御するための技術であり、還元反応において最も重要な因子である、塊成物の内部で起きる反応の制御については着目していない。
【0009】
これに対して、塊成物の内部で起きる反応を制御することで反応効率を高め、還元反応をより均一に進めることによって、より高品質のフェロニッケルが得られるようにすることが求められている。
【0010】
また、特許文献1に開示されているような、特定の直径を有するものを塊成物として用いる方法では、特定の直径を有しないものを取り除く必要がある。そのため、塊成物を作製する際の収率は低いものとなる。また、特許文献1に開示の法では、塊成物の敷密度を0.5以上0.8以下に調整する必要があり、塊成物を積層させることもできないため、生産性が低くなる可能性がある。
【0011】
さて、製造コスト低減のための一つの方法として、原料中のニッケル品位を上げることが有効である。ニッケル源としては、ニッケルを豊富に含有するリチウムイオン電池(LIB)のスクラップを利用することが考えられる。
【0012】
リチウムイオン電池は、アルミニウムや鉄等の金属製の外装缶内に、銅箔からなる負極集電体に黒鉛等の負極活物質を固着した負極材、アルミニウム箔からなる正極集電体にニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウム等の正極活物質を固着した正極材、ポリプロピレン等の多孔質樹脂フィルムからなるセパレータ、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等の電解質を含む電解液等を封入した構造が知られている。
【0013】
リチウムイオン電池の主要な用途の一つに、ハイブリッド自動車や電気自動車があるが、自動車のライフサイクルと共に、将来において、搭載されたリチウムイオン電池が大量に廃棄される見込みとなっている。このような使用済みの電池や製造中に生じた不良品等の、いわゆるLIBスクラップを資源として再利用する提案も多い。
【0014】
LIBスクラップ(以下、単に「廃電池」とも称する)には、ニッケル、コバルト、銅等の有価金属のほかに、炭素、アルミニウム、フッ素、リン等の不純物が含まれる。廃電池から有価金属を回収するには、これらの不純物を除去する必要がある。そして、回収した金属は、例えば、再度リチウムイオン電池の原料として供することができる。
【0015】
例えば特許文献2には、廃電池を溶融炉へ投入して酸素により酸化する乾式処理を用いた処理が提案されている。また、特許文献3には、廃電池を溶融してスラグを分離して有価物を回収した後、脱リン工程で石灰系のフラックスを添加して溶融することでリンを除去する処理が提案されている。
【0016】
しかしながら、これらの技術を用いて上述する廃電池だけを還元溶融しようとする場合、炉寿命等のコストや処理効率の点で多くの問題が残されている。
【0017】
このように、ニッケル酸化鉱石等の酸化鉱石を混合及び還元して金属や合金を製造する技術には、製造コストを低減させながら生産性を高め、メタルの品質を高めるという点で、多くの技術的課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2011-256414号公報
【特許文献2】特開2013-91826号公報
【特許文献3】特表2013-506048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、ニッケル酸化鉱石を原料としてニッケルを含む有価なメタルを製造する方法において、生産性や効率性が高く、かつ高品質なメタルを製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、原料鉱石のニッケル酸化鉱石と共に、リチウムイオン電池(LIB)のスクラップを原料の一部として用い、それら原料を混合して得られるペレットを還元処理するにあたり、その還元温度における液相割合を特定の範囲に維持して処理することで、生産性や効率性が高く、有効に粗大化した、高品質なメタルが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
(1)本発明の第1の発明は、原料であるニッケル酸化鉱石からペレットを形成し、該ペレットを還元することによって有価メタルを製造する製錬方法であって、前記ニッケル酸化鉱石と、炭素質還元剤とを混合する混合処理工程と、得られる混合物を成形してペレットとする混合物成形工程と、前記ペレットを所定の還元温度で加熱して還元処理を施す還元工程と、を有し、前記混合処理工程では、原料としてさらに、ニッケルを含有するリチウムイオン電池のスクラップを用い、前記ニッケル酸化鉱石に該スクラップを添加して混合し、前記還元工程では、前記還元温度におけるペレットの液相割合を重量比で52質量%以上65質量%以下の範囲に維持して還元処理を施す、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0022】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記リチウムイオン電池のスクラップは、コバルト及び/又は銅を含有する、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0023】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記混合処理工程では、前記リチウムイオン電池のスクラップを、前記ニッケル酸化鉱石と該リチウムイオン電池のスクラップとの合計を100質量%としたとき0.01質量%以上10質量%以下の割合となるように混合する、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0024】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記混合処理工程では、さらにフラックスを添加して混合する、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0025】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記還元工程を経て得られる還元物からスラグを分離して有価メタルを得る分離工程をさらに有する、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ニッケル酸化鉱石を原料としてニッケルを含む有価なメタルを製造する方法において、生産性や効率性が高く、かつ高品質なメタルを製造することができる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】ニッケル酸化鉱石の製錬方法の流れの一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「A~B」(A、Bは任意の数値)との表記は、「A以上B以下」の意味である。
【0029】
≪ニッケル酸化鉱石の製錬方法≫
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と、還元剤とを含む混合物からペレットを形成し、そのペレットを還元炉に装入して還元処理を施すことにより有価メタルとスラグとを生成させる方法である。
【0030】
特に、この製錬方法では、原料としてさらに、ニッケルを含有するリチウムイオン電池(以下、「LIB」ともいう)のスクラップを用い、ニッケル酸化鉱石にそのLIBスクラップを添加して混合してペレットを構成する。そして、還元工程では、還元温度におけるペレットの液相割合を重量比で52質量%以上65質量%以下の範囲に維持して還元処理を施す、ことを特徴としている。
【0031】
これにより、還元工程では、ペレットを構成する原料に含まれていたニッケル(酸化ニッケル等)と鉄(酸化鉄等)、さらにはコバルト(酸化コバルト等)が還元され、そして銅メタルとともに、鉄-ニッケル系合金である有価メタルとスラグとが生成する。
【0032】
ここで、「有価メタル」とは、ニッケルを含むメタルをいい、コバルト及び/又は銅を含んだ合金であってよい。また、「ペレット」とは、ニッケル酸化鉱石と、LIBスクラップと、炭素質還元剤とを含む混合物から作製される成形体であり、塊状であるものを意味し、球状、楕円形、立方体、直方体、円柱等のいずれの形状であってもよい。
【0033】
図1は、ニッケル酸化鉱石の製錬方法の流れの一例を示す工程図である。図1に示すように、この製錬方法は、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤と混合して混合物を得る混合処理工程S1と、得られた混合物を所定の形状に成形してペレットとする混合物成形工程S2と、ペレットを還元炉内において所定の還元温度で加熱して還元処理を施す還元工程S3と、還元処理により生成した還元物からスラグを分離して有価メタルを回収する分離工程S4と、を有する。
【0034】
なお、この製錬方法により得られる有価メタルについては、後工程にて不純物を分離する湿式処理を行うことで純度の高い有価金属を分離して回収できる。不純物を分離する湿式処理としては、例えば、酸に溶解する中和処理や溶媒抽出処理、電解採取処理等の方法を例示できる。
【0035】
(1)混合処理工程
混合処理工程S1では、ニッケル酸化鉱石を含む原料粉末を混合して混合物を得る工程である。具体的には、原料のニッケル酸化鉱石に、還元剤である炭素質還元剤を添加して混合する。特に、本実施の形態に係る製錬方法では、混合処理工程S1において、原料としてさらに、ニッケルを含有するリチウムイオン電池のスクラップ(LIBスクラップ)を用い、ニッケル酸化鉱石と共にペレットを構成する。
【0036】
[ニッケル酸化鉱石について]
原料鉱石であるニッケル酸化鉱石としては、特に限定されないが、リモナイト鉱、サプロライト鉱等を用いることができる。ニッケル酸化鉱石は、代表的な構成成分として、酸化ニッケル(NiO)と、酸化鉄(Fe)とを含有する。
【0037】
[LIBスクラップについて]
上述したように、本実施の形態に係る製錬方法では、原料としてさらに、ニッケルを含有するリチウムイオン電池のスクラップ(LIBスクラップ)を用い、原料鉱石のニッケル酸化鉱石に添加して混合する。
【0038】
LIBスクラップは、ニッケル(Ni)を含有するため、ニッケル酸化鉱石と共に原料として用いることで、混合し成形して得られるペレットのニッケル品位を増加させることができる。また、LIBスクラップを併せて混合することで、LIBスクラップに含まれる銅(Cu)をニッケルと合金化させて、ニッケル酸化鉱石に由来するニッケル(ニッケル-鉄合金)単独の場合よりもメタルの融点を低下させ凝固を抑制でき、後述する還元工程S3での処理中にメタルをペレット内(ペレットの液相内)で流動させて、凝集を促進させることができる。
【0039】
特に、詳しくは後述するように、還元工程S3での処理において、その還元温度におけるペレットの液相割合を重量比で特定の範囲に維持して還元処理を施すことで、より効率的にメタルを凝集させることができる。これにより、メタルの粗大化を図ることができ、メタル収率を向上させることができる。
【0040】
LIBスクラップを、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と混合してペレットを調製するに際しては、そのLIBスクラップを以下のように処理して準備する。なお、廃リチウムイオン電池(LIB)のスクラップは、自動車や電気機器等の劣化による廃棄や寿命に伴い発生した使用済みリチウムイオン電池のスクラップや、リチウムイオン電池の製造過程において発生した廃材等のスクラップ等が挙げられる。
【0041】
(焙焼処理)
まず、リチウムイオン電池(LIB)を無害化することや、次工程で破砕しやすくすることを主な目的として、焙焼処理を施す。焙焼条件は、特に限定されないが、確実に無害化するとともに、脆くして破砕しやすくするために、700℃以上の高い温度で加熱することが好ましい。また、LIBスクラップを積み重ねすぎると内部まで十分に焙焼できず焼きムラが生じるため、均一に焙焼できるように処理量や炉の加熱能力に注意することが好ましい。
【0042】
(破砕処理)
次に、焙焼処理して得られた焙焼物を細かく破砕し、LIBスクラップ内の各部材を分離する破砕処理を施す。破砕処理は、ロッドミルや振動ミル、チェーンミル等の公知の破砕機を用いて行うことができる。なお、様々な種類や形状のLIBスクラップが存在するため、目的に合わせて適切な破砕機を選定して処理すればよい。
【0043】
(磁選処理)
また、任意な処理態様ではあるが、焙焼物を破砕して得られた破砕物に対して磁選処理を施してもよい。磁選処理は、吊下げ磁選機等の公知の磁選機を用いて行うことができる。なお、磁選処理を実施する場合は、破砕処理の後に行うことに限られず、後述する篩別け処理の後に行ってもよい。
【0044】
磁選処理の目的は、磁着物である鉄を主とする金属を除去することにある。還元処理を経て得られる有価メタルに鉄が含まれると、そのメタルを用いて乾式製錬を行うとき等にスラグの融点や粘性等の設計が複雑になり、また、鉄を充分に除去できない場合、後工程での湿式工程で処理費用がかかってしまうためである。このように、磁選処理を行って鉄等の金属を除去しておくことで、その後の工程における処理設計を簡易化でき、また処理費用を有効に低減できる。
【0045】
(篩別け処理)
次に、破砕物を、所定の目開きの篩機によって篩上物と篩下物に篩別ける処理を施す。これにより、均一な大きさLIBスクラップを原料として用いることができる。
【0046】
篩の目開きは、破砕するLIBスクラップの種類や形状に合わせて決定できる。目開きが大きすぎると、篩下に有価金属と共に非有価金属が多く回収されてしまう可能性があり、また、目開きが小さすぎると、篩上に多く有価金属が含まれてしまう可能性がある。例えば、篩の目開きとしては、0.5mm以上5.0mm以下程度であると、有価金属を含む破砕物を効率的に回収でき、好ましい。なお、ニッケルやコバルト等の有価金属は、主に、粉末の形態をしている正極活物質に含まれるため、粉末状で回収されるので篩下物に含まれる。
【0047】
(酸化焙焼処理)
また、任意な処理態様ではあるが、篩別けられ回収した篩下物(粉末)に対して酸化焙焼処理を施すようにしてもよい。酸化焙焼することで、LIBスクラップに含まれていた、還元剤になり得る成分を酸化することができ、それによりLIBスクラップの品質を均一化できる。このように、酸化焙焼することで、残留還元剤率を安定して低く抑えることができ、還元工程S3での処理において還元度が制御しやすくなる。
【0048】
[ニッケル酸化鉱石とLIBスクラップの混合量について]
上述したような各処理を経て準備されるLIBスクラップの混合量としては、特に限定されないが、ニッケル酸化鉱石とLIBスクラップとの合計を100質量%としたとき、0.01質量%以上10質量%以下の割合で混合することが好ましい。また、0.5質量%以上8.0質量%以下の割合とすることがより好ましく、1.0質量%以上6.0質量%以下の割合とすることがさらに好ましい。
【0049】
LIBスクラップの混合割合に関して、0.01質量%未満であると、原料鉱石にLIBスクラップを用いる効果が十分に得られない可能性がある。一方で、10質量%を超える割合で混合すると、例えばリン等の不純物が多くなりすぎて、生成する有価メタル中に許容値以上分配される可能性がある。
【0050】
ここで、詳しくは後述するが、本実施の形態に係る製錬方法では、LIBスクラップを原料鉱石と共に混合して得られるペレットに対して還元処理を施すとき、その還元温度におけるペレットの液相割合を重量比で52質量%以上65質量%以下の範囲に維持して処理することを特徴としている。このように、ペレットの液相割合を制御しながら還元処理を施すことで、還元により生成するメタルがペレット内(ペレットの液相内)を流動して、凝集が促進されるようになり、これによって効果的にメタルの粗大化を図ることができる。
【0051】
ニッケル酸化鉱石とLIBスクラップの混合量については、上述した混合割合の範囲において、得られる混合物(ペレット)に対して還元処理を施すときの還元温度における液相割合が重量比で52質量%以上65質量%以下になるように、それぞれの組成、配合比率を決定することが好ましい。
【0052】
[炭素質還元剤について]
炭素質還元剤としては、特に限定されないが、例えば、石炭粉、コークス粉等が挙げられる。また、その一部、又はすべてを植物由来成分、例えば澱粉等で構成してもよい。炭素質還元剤は、ニッケル酸化鉱石の粒度や粒度分布と同等の大きさのものであると、均一に混合し易く、還元反応も均一に進みやすくなるため好ましい。
【0053】
炭素質還元剤の混合量としては、特に限定されないが、原料であるニッケル酸化鉱石とLIBスクラップを構成する、酸化ニッケル、酸化コバルト、及び酸化鉄とを過不足なく還元するのに必要な炭素質還元剤の量を100質量%としたとき、50質量%以下とすることが好ましく、40質量%以下とすることがより好ましい。なお、酸化ニッケル、酸化コバルト、及び酸化鉄を過不足なく還元するのに必要な炭素質還元剤の量とは、ペレットに含まれる酸化ニッケル、酸化コバルトの全量をそれぞれ、ニッケルメタル、コバルトメタルに還元するのに必要な化学当量と、ペレットに含まれる酸化鉄を鉄メタルに還元するのに必要な化学当量との合計値(以下、「化学当量の合計値」ともいう)と定義できる。
【0054】
また、炭素質還元剤の混合量の下限値としては、特に限定されないが、化学当量の合計値を100質量%としたときに、20質量%以上とすることが好ましく、23質量%以上とすることがより好ましい。
【0055】
このように、ペレットに含まれる炭素質還元剤の量(炭素質還元剤の混合量)を、好ましくは、化学当量の合計値を100重量%としたときに20質量%以上50重量%以下の割合とすることで、還元反応を効率的に進行させることができる。
【0056】
[任意の添加成分]
また、任意の添加成分として、鉄鉱石、フラックス成分、バインダー等の成分を添加して混合し、ペレットを構成することができる。
【0057】
任意成分として添加する鉄鉱石としては、特に限定されないが、例えば、鉄品位が50質量%程度以上の鉄鉱石、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬により得られるヘマタイト等を用いることができる。また、バインダーとしては、例えば、ベントナイト、多糖類、樹脂、水ガラス、脱水ケーキ等を挙げることができる。
【0058】
また、任意の添加成分のうち、フラックスについては好ましく添加することができる。詳しくは後述するが、本実施の形態に係る製錬方法では、ペレットに対して還元処理を施すとき、その還元温度におけるペレットの液相割合を重量比で52質量%以上65質量%以下の範囲に維持して処理する。このとき、ペレットの液相割合の制御において、ペレットにフラックスを添加し、またその添加量(混合量)を調整することによって、メタルの融点を低下させて液相割合の制御を行うようにしてもよい。
【0059】
これにより、混合するLIBスクラップの混合量の調整や、還元工程S3における還元処理の温度(還元温度)の調整等と併せて、ペレットの液相割合の制御をより的確に行うことができ、より効果的にメタルの粗大化を図ることができる。
【0060】
フラックスとしては、特に限定されず、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、二酸化珪素等を挙げることができる。
【0061】
下記表1に、混合処理工程S1にて混合する、一部の原料粉末の組成(質量%)の一例を示す。なお、原料粉末の組成としてはこれに限定されない。
【0062】
【表1】
【0063】
混合処理工程S1では、ニッケル酸化鉱石、LIBスクラップを含む原料の混合を、混合機等を用いて行うことができる。また、原料を混合して混合物を得る際、混合性を高めるために原料粉末を混練してもよい。これにより、混合物にせん断力が加えられ、炭素質還元剤や原料粉末等の凝集が解けてより均一に混合できるとともに、各々の粒子の密着性が上がるため、均一な還元処理を行い易くすることができる。
【0064】
[混合物成形工程]
混合物成形工程S2は、混合処理工程S1にて得られた原料粉末の混合物を成形してペレットを得る工程である。
【0065】
混合物を成形する形状、すなわちペレットの形状としては、還元炉の炉床に積層できる形状であれば特に限定されないが、楕円状、立方体、直方体、円柱、又は球の形状であることが好ましい。混合物をこのような形状に成形することで、成形処理が容易となって成形に要するコストを抑えることができる。また、成形する形状がシンプルであるほど、成形不良のペレットを低減でき、ペレットの強度も維持し易くなる。
【0066】
成形処理は、例えばペレット成形装置を用いて行うことができる。ペレット成形装置としては、特に限定されないが、高圧、高せん断力で混合物を混練して成形できるものであることが好ましい。高圧、高せん断で混合物を混練することで、原料粉末の混合物の凝集を解くことができ、また効果的に混練することができる。加えて、得られるペレットの強度を高めることができる。また、ブリケットプレスを用いて成形することも可能である。設備やペレット強度、収率等を考慮して適宜、装置選定を行えばよい。
【0067】
また、混合物をペレット(塊状物)に成形したのち、そのペレットに対して乾燥処理を施してよい。ここで、ペレット形状に塊状化の処理を行って得られた塊状物は、その水分が例えば50質量%程度と過剰に含まれている。そのため、過剰の水分を含むペレットを急激に還元温度まで昇温すると、水分が一気に気化し、膨張して塊状物が破壊することがある。そこで、得られたペレットに対して乾燥処理を施し、例えば固形分が70質量%程度で、水分が30質量%程度となるようにすることで、次工程の還元工程S3における処理においてペレットが崩壊することを防ぐことができる。またそれにより、還元炉からの取り出しが困難になることを防ぐことができる。さらに、ペレットは、過剰な水分によりべたべたした状態となっていることが多いため、乾燥処理を施すことで、取り扱いを容易にできる。
【0068】
乾燥処理としては、特に限定されないが、例えば200℃~400℃の熱風をペレットに対して吹き付けて乾燥させることができる。なお、乾燥処理時におけるペレットの温度を100℃未満に維持することで、ペレットの破壊を防いで処理することでき好ましい。
【0069】
なお、体積の大きなペレットを乾燥させる場合、乾燥前や乾燥後にひびや割れが入っていてもよい。ペレットの体積が大きい場合には、還元時に溶融して収縮するため、ひびや割れが生じることが多いが、ひびや割れによって生じる表面積の増加等の影響は僅かであるため大きな問題は生じ難い。また、ペレットに破壊が生じない態様となっていれば、乾燥処理を省略してもよい。
【0070】
下記表2に、乾燥処理後のペレットにおける固形分中組成(重量部)の一例を示す。なお、ペレットの組成としては、これに限定されるものではない。
【0071】
【表2】
【0072】
[還元工程]
還元工程S3では、混合物成形工程S2で得られたペレットを還元炉に装入し、所定の還元温度に加熱して還元処理(還元加熱処理)を施す工程である。このような処理により、ニッケル系合金である有価メタルと、スラグと、を含む還元物が生成する。
【0073】
還元処理においては、ニッケル酸化鉱石と、LIBスクラップとを含むペレットを還元炉の炉床上に積層し、そのペレット積層体に対して、例えば1250℃~1450℃の還元温度、より好ましくは1300℃~1400℃程度の還元温度に加熱する。
【0074】
このような還元処理によって、例えば1分程度のわずかな時間で、先ず還元反応の進みやすいペレット表面近傍においてペレットに含まれる酸化ニッケル、酸化コバルト、及び酸化鉄が還元されメタル化してニッケル系合金となり、シェル(以下、「殻」ともいう)を形成する。一方で、殻の中では、その殻の形成に伴ってペレット中のスラグ成分が徐々に溶融して液相のスラグが生成する。これにより、1個のペレットの中で、有価メタル(以下、単に「メタル」ともいう)と、酸化物からなるスラグ(以下、単に「スラグ」という)が分かれて生成する。そして、加熱による還元処理の処理時間が10分程度を経過すると、還元反応に関与しない余剰の炭素質還元剤の炭素成分が、ニッケル系合金に取り込まれて融点を低下させる。その結果、ニッケル径合金は溶解して液相となる。
【0075】
ここで、本実施の形態に係る製錬方法では、還元工程S3での還元処理において、その還元温度におけるペレットの液相割合を重量比で52質量%以上65質量%以下の範囲に維持して処理する。このように、液相割合を上記の範囲内として還元処理を施すことで、ペレット自体は大きく変形することなく、適度に液相が存在する状態になって、生成した微粒メタルがペレットの液相内を流動し易くなり、それによりメタル同士の凝集が促進され、例えば50μm程度以上のメタル粒に有効に粗大化させることができる。
【0076】
還元温度における液相割合が52%未満であると、液相が少なすぎてメタルがペレット内を移動できず効果的に粗大化しない。一方で、液相割合は65%を超えると、液相が多くなりすぎて液相と固相が分離してしまったり、流れ出した液相が炉床と著しく反応して炉寿命を大幅に縮める可能性がある。このことから、ペレットの還元温度における液相割合は重量比で52%以上65%以下の範囲内であることが好ましく、これにより、メタルが効率的に流動して凝集し易くなり、効果的に粗大化するようになる。
【0077】
上述した液相割合の範囲については、例えば、以下のように、その還元温度とペレットの組成とからシミュレーションによって算出することができる。なお、後述の実施例でも同様にしてシミュレーションを行って液相割合を算出した。
【0078】
シミュレーション手法としては、原料鉱石の還元反応により生成されるスラグの固相・液相のギブスエネルギーの合計が最小、すなわち熱力学的に安定な状態、となるように熱力学的平衡計算で算出して各相の割合を計算することで、液相割合を算出できる。なお、各固相・液相のギブスエネルギーは、温度や圧力を変数とする経験式で表されるが、経験式の各係数は従前の実験で求められ、商品名FactSage等の汎用データベース化されている。なお、後述の実施例では、同商品のデータベース(ver.8.1)を使用した。
【0079】
より具体的に、シミュレーションによる液相割合の算出について説明する。まず、スラグの固相は、主に「Olivine」と「Clinopyroxene」から構成される。
【0080】
「Olivine」は、Ca、Mg、Fe、Co、及びNiから選ばれる各元素が2個以下であり、かつこれらの合計の2個がSiOと結合した形態の化合物である。すなわち、Ca、Mg、Fe、Co、及びNiを“X”又は“Y”と表現すると、「Olivine」の化学式はXYSiO(X=Yの場合、XSiO)と表される。一例として、XとYが共にMgの場合、「Olivine」はMgSiOとなり、融点は1888℃となる。また、XとYが共にFeの場合であれば、「Olivine」はFeSiOとなり、融点は1211℃となる。
【0081】
一方、「Clinopyroxene」は、Ca、Mg、Ai、Si、Fe等から選ばれる各元素が3個以下であり、かつこれらの合計3個がSiOと結合した形態の化合物である。すなわち、Ca、Mg、Ai、Si、Fe等の3個を“X”、“Y”、“Z”と表現すると、化学式はXYZSiOで表される。例えば、XとYの元素が共にMg、Z元素がSiの場合、「Clinopyroxene」はMgSiSiO(又は、MgSiO)となり、液相線温度は1565℃になる。
【0082】
ここから、液相・固相のギブズエネルギーの大小関係を示す2式の交点から、固相線、液相線温度を算出し、次いで下式により液相割合を算出することができる。
液相割合[質量%]=(溶融スラグ)÷((溶融スラグ)+(Clinopyroxene)+(Olivine)+(溶融・固相合金))×100
【0083】
還元処理の時間(処理時間)としては、特に限定されず、還元温度に応じて設定することができる。処理時間は、例えば10分以上とすることができ、15分以上とすることがより好ましい。一方で、処理時間の上限は、製造コストの上昇を抑える観点から、50分以下とすることが好ましく、40分以下とすることがより好ましい。
【0084】
還元処理が施されたペレット積層体は、大きな塊のメタルとスラグとの混成物になる。見かけ上の体積の大きなペレットに対して還元処理を行うことで、大きな塊のメタルが形成され易くなるため、還元炉から回収する際の間を低減でき、またメタル回収率の低下を抑えることができる。なお、得られる混成物の体積は、装入するペレット積層体と比較すると、50体積%~60体積%程度に収縮している。
【0085】
また、還元処理では、還元反応の途中において還元剤を追加添加してもよい。還元反応がある程度進むと、炉内に不可避的に持ち込まれる酸素や燃料の燃焼によって発生する水分によって、生成したメタルの酸化が起きることがある。このとき、還元反応の途中で還元剤を追加添加することで、メタルの再酸化を防ぐことができる。還元剤の添加は、ペレットの上部から行われることが好ましい。生成したメタルの酸化がガスと接する頻度の高いペレット上部から添加することで、効率的に酸化を防ぐことができる。
【0086】
なお、追加添加する還元剤の割合(添加量)としては、特に限定されないが、還元処理に供するペレットに含まれる炭素質還元剤を100質量%としたとき、1質量%以上30質量%以下程度の範囲とすることが好ましい。このような範囲の添加量で追加添加することで、効率的に酸化の抑制できるとともに、過還元となることも防ぐことができる。
【0087】
なお、還元処理に用いる還元炉としては、特に限定されない。例えば、移動炉床炉を用いることができる。
【0088】
[分離工程]
分離工程S4は、還元工程S3にて生成した還元物からスラグを分離して、有価メタル有価メタルを回収する工程である。具体的には、ペレットに対する還元処理によって得られた、メタル相(メタル固相)とスラグ相(スラグ固相)とを含む混在物(還元物)から、メタル相を回収する。
【0089】
固体として得られたメタル相とスラグ相との混在物からメタル相とスラグ相とを分離する方法としては、例えば、篩い分けによる不要物の除去に加えて、比重による分離や、磁力による分離等の方法を利用することができる。
【0090】
また、得られたメタル相とスラグ相は、濡れ性が悪いことから容易に分離することができ、上述した還元工程S3を経て得られる大きな混在物に対して、例えば所定の落差を設けて落下させ、あるいは篩い分けの際に所定の振動を与える等の衝撃を付与することで、その混在物からメタル相とスラグ相とを容易に分離することができる。
【実施例0091】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0092】
[LIBスクラップの準備]
(焙焼工程)
廃リチウムイオン電池として自動車車載用の一般に角形電池と称せられるものの使用済み品を用い、この廃リチウムイオン電池を900℃の温度で5時間、大気中で焙焼して焙焼物を得た。なお、廃リチウムイオン電池は、組成の異なる7つの試料を準備してそれぞれについて焙焼した。
【0093】
(破砕工程)
次に、得られた各焙焼物に対して、チェーンミルを用いて12kg/バッチずつ35秒間の破砕処理を行い、得られた破砕物を回収した。
【0094】
(磁選工程)
次に、得られた各破砕物について磁選(磁力選別)処理を行った。磁選機には、市販の吊下げ磁選機を用いた。具体的には、各試料を4.5kg/分の供給速度で3000Gの磁力を有する磁選機に供給し、鉄等の磁着物とそれ以外の非磁着物とに分けた。
【0095】
(篩工程)
次に、上述した磁選処理で回収した各非磁着物を、連続式の振動篩を用いて篩別した。篩の目開きは1.0mmとし、供給速度は2.5kg/分とした。
【0096】
次に、篩別けして得られた篩下物を酸化焙焼に付した。酸化焙焼処理には、炉内直径20cmで、炉の有効長さ100cmであるキルンを用いた。各試料の供給速度は2.0kg/分とし、炉内温度を750℃に維持しながら、3時間大気を流しながら焙焼した。
【0097】
このように得られた酸化焙焼物(篩下物)をLIBスクラップの原料として用いた。
【0098】
[原料の混合]
各試料(実施例、比較例)について、原料鉱石としてのニッケル酸化鉱石、LIBスクラップ、鉄鉱石、フラックス成分であるCaO、珪砂及び石灰石、バインダー、及び炭素質還元剤(石炭粉、炭素含有量:54重量%、平均粒径:約143μm)を、適量の水を添加しながら混合機を用いて混合し、混合物を得た。炭素質還元剤としては、微粉炭を用い、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と、LIBスクラップに含まれる、酸化ニッケル(NiO)と、酸化コバルト(CoO)と、酸化鉄(Fe)とを過不足なく還元するのに必要な量を100質量%としたときに35質量%の割合で含有させた。
【0099】
ニッケル酸化鉱石としては、ニッケル品位が1±0.1質量%のものを用いた。また、LIBスクラップとしては、ニッケル品位が5±1質量%、コバルト品位が5±1質量%、銅品位が10±2質量%のものを用いた。これら原料の混合割合は、下記表3のとおりとした。
【0100】
また、ペレットの液相割合については、フラックスとして添加するCaOの添加割合を調整し、還元処理での還元温度とペレット組成とからシミュレーションにより算出した。
【0101】
[混合物の成形]
次に、各試料について得られた混合物を、ペレタイザーによりペレット形状に成形した。その後、得られたペレットを篩って直径16±0.5mmのペレットを回収し、試験に用いた。
【0102】
なお、各々のペレット試料に対して、固形分が70質量%程度、水分が25質量%程度となるように、150℃~200℃の窒素の熱風を吹き付けて乾燥処理を施した。
【0103】
[ペレットに対する還元処理]
乾燥処理後のペレット試料を、実質的に酸素を含まない窒素雰囲気にした還元炉に装入した。なお、還元炉内の装入時の温度条件としては500±20℃とした。
【0104】
還元炉においては、その炉床にアルミナ粒を敷き詰め、その上にペレット試料を置いた。そして、下記表3に示す還元温度及び処理時間で、ペレットに対して還元処理を施した。還元処理後は、窒素雰囲気中で速やかに室温まで冷却し、試料を大気中へ取り出した。
【0105】
還元処理後の各試料について、メタルの平均粒径をX線CTにより測定した。また、ニッケルメタル化率、メタル中ニッケル・コバルト・銅(Ni-Co-Cu)の合計含有率を、ICP発光分光分析器(SHIMAZU S-8100型)により分析して算出した。なお、ニッケルメタル化率、メタル中ニッケル・コバルト・銅の合計含有率は、以下の式により算出した。
「ニッケル(Ni)メタル化率(%)」=
ペレット中のメタル化したNi量÷(ペレット中の全てのNi量)×100(%)
「メタル中ニッケル(Ni)・コバルト(Co)・銅(Cu)の合計含有率(%)」=
ペレット中のメタル化したNi、Co、Cuの合計量÷(ペレット中のメタルの合計量)×100(%)
【0106】
また、還元処理後の各試料について、湿式処理よる粉砕後、磁力選別によってメタルを回収した。そして、還元炉に装入したペレット積層体における原料の量と、原料中のNi、Co、Cuの合計含有率と、回収されたメタル量とからメタル回収率を算出した。なお、メタル回収率は、以下の式により算出した。
「メタル回収率(%)」=
回収されたメタル量÷(装入した原料の量×原料中のNi、Co、Cuの合計含有率)×100(%)
【0107】
下記表3に、それぞれの試料における、還元温度における液相割合、メタル平均粒径、ニッケルメタル化率、メタル中ニッケル・コバルト・銅の合計含有率、及びメタル回収率の結果を示す。
【0108】
【表3】
【0109】
表3の結果に示されるように、実施例1~6では、原料の一部としてLIBスクラップを用い、かつその還元温度における液相割合を特定の範囲内に維持して還元処理を行ったことにより、生成したメタルの粒径が大きくなっており、効果的に粗大化した。また、ニッケルメタル化率、メタル中ニッケル・コバルト・銅の合計含有率が共に高く、さらにメタル回収率の結果も高くなり、良好な結果が得られた。
【0110】
これに対して、比較例1、2では、全ての項目においても実施例に比べて低い値となった。このことは、例えば比較例1では、原料の一部にLIBスクラップを用いたものの、還元温度における液相割合が低かったため、還元反応が進み難く、またメタルの流動も乏しくなり有効に粗大化されなかったことによると考えられる。また、比較例2では、還元温度における液相割合は高すぎて液相が多量に発生したため、溶融スラグが炉床材のアルミナ粒に染み込み、さらには炉床とも反応して試料回収が困難になったことによると考えられる。
図1