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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155757
(43)【公開日】2023-10-23
(54)【発明の名称】集塵装置
(51)【国際特許分類】
   B03C 3/66 20060101AFI20231016BHJP
   A61L 9/16 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
B03C3/66
A61L9/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065271
(22)【出願日】2022-04-11
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「ナノ秒パルスプラズマを利用した革新的な小型軽量・高効率エアロゾル除去装置の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克幸
(72)【発明者】
【氏名】高木 浩一
(72)【発明者】
【氏名】菊池 拓斗
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 凌
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 達矢
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 恭幸
【テーマコード(参考)】
4C180
4D054
【Fターム(参考)】
4C180AA07
4C180AA17
4C180AA19
4C180DD12
4C180HH03
4C180HH05
4D054AA13
4D054BA02
4D054CA01
4D054CB01
4D054CB02
4D054CB03
4D054CB09
(57)【要約】
【課題】 消費エネルギーが少ない集塵装置を提供する。
【解決手段】 集塵装置は、空気流路の上流側に配置されており、パルス電圧の印加によってイオンを発生するように構成されているイオン発生部と、前記イオン発生部に前記パルス電圧を出力するように構成されている電源回路と、前記空気流路の下流側に配置されている集塵部と、を備えており、前記電源回路が単極性パルス電圧を出力する共振型パルス電源回路である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集塵装置であって、
空気流路の上流側に配置されており、パルス電圧の印加によってイオンを発生するように構成されているイオン発生部と、
前記イオン発生部に前記パルス電圧を出力するように構成されている電源回路と、
前記空気流路の下流側に配置されている集塵部と、を備えており、
前記電源回路が単極性パルス電圧を出力する共振型パルス電源回路である、集塵装置。
【請求項2】
前記電源回路は、
直流電源と、
前記直流電源に接続されている1次側巻線と、前記イオン発生部に接続されている2次側巻線と、を含むトランスと、
前記トランスの前記1次側巻線に対して直列に接続されているスイッチ素子と、を有しており、
前記電源回路は、前記スイッチ素子をターンオンさせたときに、前記1次側巻線及び前記2次側巻線の漏れインダクタンスと、2次側回路の浮遊キャパシタンスと、の間の共振現象に基づいて前記単極性パルス電圧を出力するように構成されている、請求項1に記載の集塵装置。
【請求項3】
前記電源回路は、
直流電源と、
前記直流電源に接続されている1次側巻線と、前記イオン発生部に接続されている2次側巻線と、を含むトランスと、
前記トランスの前記1次側巻線に対して直列に接続されているスイッチ素子と、を有しており、
前記電源回路は、前記スイッチ素子をターンオンさせたときに、前記1次側巻線にエネルギーを蓄積し、前記スイッチ素子をターンオフさせたときに、前記2次側巻線の励磁インダクタンスと、2次側回路の浮遊キャパシタンスと、の間の共振現象に基づいて前記単極性パルス電圧を出力するように構成されている、請求項1に記載の集塵装置。
【請求項4】
前記電源回路は、前記単極性パルス電圧を出力した後に直流電圧を出力するように構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の集塵装置。
【請求項5】
前記電源回路はさらに、前記イオン発生部に並列に接続されているコンデンサを備えている、請求項4に記載の集塵装置。
【請求項6】
前記電源回路は、前記単極性パルス電圧の印加後から次の前記単極性パルス電圧の印加前まで、前記直流電圧の出力を維持するように構成されている、請求項4に記載の集塵装置。
【請求項7】
前記電源回路は、前記イオン発生部に負極性の前記単極性パルス電圧を出力するように構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の集塵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、集塵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、イオン発生素子を備えた集塵装置を開示する。このような集塵装置は、イオン発生素子が発生する正イオン又は負イオンによって塵埃を帯電させることにより、塵埃を効率的に取り除くことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-211746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のイオン発生素子に印加されるパルス電圧は、正電圧が+2.7kV、負電圧が-2.7kVのパルス電圧であり、正弦波の周波数が20kHz、パルス波の繰り返し周期が60Hzとされている。これらのパルス電圧の条件から、特許文献1のイオン発生素子に接続されている電源回路は、両極性パルス発生回路であり、例えば、トランスを利用した誘導性エネルギー蓄積方式(Inductive energy storage:IES)の電源回路であると考えられる。このような電源回路を利用すると、消費エネルギーが大きいという問題がある。本明細書は、消費エネルギーが少ない集塵装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する集塵装置は、空気流路の上流側に配置されており、パルス電圧の印加によってイオンを発生するように構成されているイオン発生部と、イオン発生部にパルス電圧を出力するように構成されている電源回路と、空気流路の下流側に配置されている集塵部と、を備えることができる。電源回路は、単極性パルス電圧を出力する共振型パルス電源回路である。このような共振型パルス電源回路は、例えば、単極性パルス電圧を出力する漏れインダクタンス共振方式(Leakage Inductance Resonance:LIR)の電源回路であってもよく、単極性パルス電圧を出力する誘導性エネルギー蓄積方式(Inductive energy storage:IES)の電源回路であってもよい。このような共振型パルス電源回路が出力する単極性パルス電圧のパルス幅は短い。このため、本明細書が開示する集塵装置では、短いパルス幅のパルス電圧によってイオン発生部が駆動されるので、消費エネルギーが抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】集塵装置の構成の概略を示す。
図2】イオン発生部に単極性パルス電圧を出力する電源回路を示す。
図3図2に示す電源回路の2次側で換算した等価回路を示す。
図4図2に示す電源回路が出力する1周期分の電圧及び電流を示す。
図5図2に示す電源回路の電圧及び電流の波形と消費エネルギーを示す。
図6】比較例である両極性パルス電圧を出力する誘導性エネルギー蓄積方式(IES)の電源回路の電圧及び電流の波形と消費エネルギーを示す。
図7】単極性の短パルス電圧の極性が正極性と負極性の各々において、集塵効率を計算した結果を示す。
図8】イオン発生部の簡易構造を示す。
図9】誘導性エネルギー蓄積方式(IES)である比較例の電源回路を使用した場合のプラズマの生成状況を示す。
図10】漏れインダクタンス共振方式(LIR)方式の電源回路を使用した場合のプラズマの生成状況を示す。
図11】イオン発生部に単極性パルス電圧を出力する電源回路の変形例を示す。
図12図8に示す電源回路の電圧及び電流の波形と消費エネルギーを示す。
図13】直流電圧を印加したときの集塵効率を計算した結果を示す。
図14】パルス周波数を変化させたときの集塵効率を計算した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書が開示する集塵装置は、イオン発生部と、電源回路と、集塵部と、を備えることができる。イオン発生部は、空気流路の上流側に配置されており、パルス電圧の印加によってイオンを発生するように構成されている。電源回路は、共振型パルス電源回路であり、イオン発生部に単極性パルス電圧を出力するように構成されている。集塵部は、空気流路の下流側に配置されている。
【0008】
電源回路は、直流電源と、1次側巻線と2次側巻線を含むトランスと、スイッチ素子と、を有していてもよい。トランスでは、1次側巻線が直流電源に接続されており、2次側巻線がイオン発生部に接続されている。スイッチ素子は、トランスの1次側巻線に対して直列に接続されている。電源回路は、スイッチ素子がターンオンしたときに、1次側巻線及び2次側巻線の漏れインダクタンスと、2次側回路の浮遊キャパシタンスと、の間の共振現象に基づいて単極性パルス電圧を出力するように構成されている。このように、電源回路は、単極性パルス電圧を出力する漏れインダクタンス共振方式(Leakage Inductance Resonance:LIR)の電源回路であってもよい。
【0009】
電源回路は、直流電源と、1次側巻線と2次側巻線を含むトランスと、スイッチ素子と、を有していてもよい。トランスでは、1次側巻線が直流電源に接続されており、2次側巻線がイオン発生部に接続されている。スイッチ素子は、トランスの1次側巻線に対して直列に接続されている。電源回路は、スイッチ素子をターンオンさせたときに、1次側巻線にエネルギーを蓄積し、スイッチ素子をターンオフさせたときに、2次側巻線の励磁インダクタンスと、2次側回路の浮遊キャパシタンスと、の間の共振現象に基づいて単極性パルス電圧を出力するように構成されている。このように、電源回路は、単極性パルス電圧を出力する誘導性エネルギー蓄積方式(Inductive energy storage:IES)の電源回路であってもよい。
【0010】
電源回路は、単極性パルス電圧を出力した後に直流電圧を出力するように構成されていてもよい。この場合、電源回路はさらに、イオン発生部に対して並列に接続されているコンデンサを備えていてもよい。また、電源回路は、単極性パルス電圧の印加後から次の単極性パルス電圧の印加前まで、直流電圧の出力を維持するように構成されていてもよい。このような電源回路を備える集塵装置は、高い集塵効率を有することができる。
【0011】
電源回路は、負極性の単極性パルス電圧を出力するように構成されていてもよい。このような電源回路を備える集塵装置は、高い集塵効率を有することができる。
【実施例0012】
図1に示すように、集塵装置1は、筐体10と、イオン発生部20と、集塵部30と、送風ファン40と、制御部50と、を備えている。
【0013】
筐体10は、空気が流入する吸気口12と、空気が流出する排気口14と、を有している。筐体10は、吸気口12と排気口14を連結する空気流路内に、イオン発生部20と集塵部30と送風ファン40を収容している。なお、図中の矢印が空気の流れる方向を示している。
【0014】
イオン発生部20は、集塵部30よりも筐体10の空気流路の上流側に配置されており、パルス電圧の印加によってイオンを発生するように構成されている。イオン発生部20は、特に限定されるものではないが、例えばコロナ放電、バリア放電又は沿面放電を利用したイオン発生素子であってもよい。この例では、イオン発生部20は、正極電極と負極電極を有しており、正極電極と負極電極の間に印加されるパルス電圧が放電開始電圧以上になったときに、正極電極と負極電極の間の放電によりイオンを発生させるように構成されている。具体的には、イオン発生部20は、例えば線対線放電を行うように細い金属線で構成されていてもよい。イオン発生部20は、パルス電圧の極性に応じて負イオン又は正イオンを発生させることができる。この種のイオン発生素子についてはよく知られているので、具体的な構成の説明については省略する。
【0015】
集塵部30は、イオン発生部20よりも筐体10の空気流路の下流側に配置されており、カビ、ウィルス、花粉等の生物性の汚染物を含む様々な塵埃を捕集するように構成されている。集塵部30は、特に限定されるものではないが、例えば電気集塵機であってもよい。この例では、集塵部30は、平板状の集塵電極と平板状の対向電極が所定距離を置いて交互に並べられるように構成されている。集塵部30は、対向電極が接地され、イオン発生部20で発生したイオン種(正イオン又は負イオン)に応じて集塵電極に負又は正の直流高電圧が印加されて用いられる。具体的には、イオン発生部20に負極性のパルス電圧が印加されたときは、集塵部30の集塵電極に正の直流高電圧が印加される。イオン発生部20に正極性のパルス電圧が印加されたときは、集塵部30の集塵電極に負の直流高電圧が印加される。集塵部30は、帯電した塵埃を集塵電極側に引き寄せ、フィルタによって捕集するように構成されている。この種の電気集塵装置についてはよく知られているので、具体的な構成の説明については省略する。
【0016】
送風ファン40は、筐体10の空気流路内に配置されており、筐体10の外から吸気口12を介して空気を吸い込み、排気口14を介して筐体10の外へ空気を排気するように構成されている。この例では、送風ファン40は、イオン発生部20及び集塵部30よりも筐体10の空気流路の下流側に配置されており、筐体10内を負圧に調整するように構成されている。この例に代えて、送風ファン40は、イオン発生部20及び集塵部30よりも筐体10の空気流路の上流側に配置され、筐体10内を正圧に調整するように構成されていてもよい。
【0017】
制御部50は、電源回路を有しており、イオン発生部20と集塵部30と送風ファン40の各々に適切な電圧を出力し、イオン発生部20と集塵部30と送風ファン40の各々を駆動するように構成されている。制御部50は、後述するように、イオン発生部20に対して単極性の短パルス電圧を出力する。ここで、単極性の短パルス電圧とは、電圧の立ち上がりが急峻なナノ秒パルス電圧のことをいう。制御部50はさらに、集塵部30と送風ファン40の各々に対して適切に調整された直流電圧を出力する。制御部50は、筐体10と一体に搭載されていてもよく、筐体10とは別体で設けられていてもよい。以下、制御部50のうちの単極性の短パルス電圧を出力する電源回路について詳細する。
【0018】
図2に、制御部50が有する電源回路52を示す。電源回路52は、イオン発生部20に単極性の短パルス電圧を出力するように構成された漏れインダクタンス共振方式(Leakage Inductance Resonance:LIR)の電源回路であり、直流電源V1と、入力コンデンサC1と、トランスT1と、スイッチ素子SW1と、ゲート駆動回路54と、を有している。
【0019】
入力コンデンサC1は、直流電源V1に対して並列に接続されている。トランスT1は、1次側巻線L1と2次側巻線L2を有しており、1次側巻線L1が直流電源V1の正極と負極の間に接続されており、2次側巻線L2がイオン発生部20の正極と負極の間に接続されている。1次側巻線L1と2次側巻線L2の巻線比は1:nである。1次側巻線L1の両端間には、磁気リセット用ダイオードD1が逆並列に接続されている。スイッチ素子SW1は、特に限定されるものではないが、例えばNチャネル型のMOSFETであり、直流電源V1の正極と負極の間において、トランスT1の1次側巻線L1に対して直列に接続されている。このため、スイッチ素子SW1のオン・オフに応じてトランスT1の1次側巻線への通電のオン・オフを制御することができる。なお、スイッチ素子SW1は、直流電源V1の正極とスイッチ素子SW1の間に接続されていてもよい。スイッチ素子SW1は、炭化珪素、窒化ガリウム又は酸化ガリウム等のワイドバンドギャップ半導体で構成された高周波スイッチ素子である。ゲート駆動回路54は、スイッチ素子SW1のゲートに接続されており、スイッチ素子SW1のオン・オフを制御する。
【0020】
図3に、電源回路52をトランスT1の2次側で換算した等価回路を示す。ここで、「l」はトランスT1の漏れインダクタンスであり、「M」はトランスT1の相互インダクタンスであり、「c」は2次側回路の浮遊キャパシタンス(トランスT1の巻線間の容量とイオン発生部20の容量の合計)であり、「r」はスイッチ素子SW1のオン抵抗である。スイッチ素子SW1がターンオンしたとき、M>>1、r=0、ω=1/√lcとすると、漏れインダクタンスと浮遊キャパシタンスの共振現象により、浮遊キャパシタンスを充電する電圧v(t)及び浮遊キャパシタンスを流れる電流i(t)は、以下の数式1及び数式2となる。図4に、電圧v(t)及び電流i(t)の1周期分の波形を示す。
【数1】
【数2】
【0021】
このように、電源回路52は、スイッチ素子SW1がターンオンしたとき、漏れインダクタンスと浮遊キャパシタンスの共振現象により、トランスT1の巻数比nの昇圧分のさらに2倍のパルス電圧を出力することができる。パルス幅は、漏れインダクタンスと浮遊キャパシタンスの積が少ないほど狭くなり、数ns~数十ns(ナノ秒)である。
【0022】
図5に、本実施例の電源回路52が出力する短パルス電圧の電圧(Voltage)及び電流(Current)の波形と消費エネルギー(Consumption energy)のシミュレーション結果を示す。図6に、比較例として、誘導性エネルギー蓄積方式(IES)が出力するパルス電圧の電圧及び電流の波形と消費エネルギーのシミュレーション結果を示す。なお、パルス周波数及び負荷抵抗は同一である。
【0023】
この例では、図5に示す本実施例の短パルス電圧のパルス幅が30nsであり、図6に示す比較例のパルス電圧のパルス幅は150nsである。このように、本実施例の短パルス電圧のパルス幅は、比較例のパルス電圧よりも狭い。この結果、図5に示す本実施例の消費エネルギーは1パルス当たり約0.41mJであり、図6に示す比較例の消費エネルギーは1パルス当たり約0.92mJである。このように、本実施例の電源回路52は、パルス幅の狭い短パルス電圧を出力することができるので、消費エネルギーを抑えることができる。また、本実施例のLIR方式の電源回路52は、比較例のIES方式の電源回路に比してターンオン時間が短い。このため、スイッチ素子SW1における導通損失も少ないので、この点でも本実施例の電源回路52はエネルギー消費が少ない。また、電源回路52は、小型且つ軽量に構成することができる。したがって、電源回路52は、高効率であり、極めて小型で軽量な電源装置とすることができる。
【0024】
また、図5に示されるように、本実施例の電源回路52が出力する短パルス電圧は、単極性のパルス波である。このため、本実施例の電源回路52は、正極性と負極性のいずれか一方の短パルス電圧をイオン発生部20に印加することができる。
【0025】
図7に、短パルス電圧の極性が正極性と負極性の各々における集塵効率の試験結果を示す。なお、短パルス電圧は、パルス周波数が960ppsで固定であり、最大値が±0~9kVで変化させている。集塵部30の集塵電圧は、短パルス電圧の極性とは逆の±2.0kVが印加されるように制御されている。集塵粒子径は0.3μm~0.5μmである。空気の流量は5L/minである。集塵電極の長さは、空気の流れ方向に10mmである。図7に示すように、短パルス電圧の最大値に関わらず、負極性の短パルス電圧は正極性の短パルス電圧よりも集塵効率が高い。上記したように、電源回路52は、単極性の短パルス電圧を出力することができる。このため、電源回路52を備える集塵装置1は、高い集塵効率を有することができる。
【0026】
上記したように、本実施例の集塵装置1は高い集塵効率を有している。このような高い集塵効率は、イオン発生部20における広く一様なプラズマの形成によることも1つの理由と考えられる。そのことを検証した結果を以下に説明する。
【0027】
図8に、イオン発生部20の簡易構造の一例を示す。イオン発生部20は、線対線放電を行うように構成されており、一対の固定台22、24と、高圧金属線26と、接地金属線28と、を備えている。第1固定台22と第2固定台24は、距離d1だけ離れて配置されており、それらの間にプラズマ放電域を画定している。この例では、距離d1は40mmである。高圧金属線26は、例えばステンレス製の直径0.05mmの金属線であり、一端が第1固定台22に固定されており、他端が第2固定台24に固定されている。また、高圧金属線26は、上記した本実施例のLIR方式の電源回路52に接続されている。接地金属線28は、例えばステンレス製の直径0.05mmの金属線であり、一端が第1固定台22に固定されており、他端が第2固定台24に固定されている。高圧金属線26と接地金属線28の線間距離d2は、この例では4mmである。
【0028】
図9は、本実施例のLIR方式の電源回路52に代えて、比較例のIES方式の電源回路を使用したときのイオン発生部20に形成されるプラズマ放電の画像である。比較例では、高圧金属線26の近傍のみに不均一なプラズマ放電が生成されている。
【0029】
図10は、本実施例のLIR方式の電源回路52を使用したときのイオン発生部20に形成されるプラズマ放電の画像である。本実施例では、高圧金属線26と接地金属線28の間に広く一様なプラズマ放電が生成されている。このため、本実施例のイオン発生部20は、帯電効率が高く、ラジカル効率が高い。このように、単極性の短パルス電圧を出力するLIR方式の電源回路52を用いると、イオン発生部20では、放電空間中の電界強度が高まり、電源回路52から入力したエネルギーが効率良く電子エネルギーへ譲渡され、広く一様なプラズマ放電の生成が高効率で可能となる。したがって、電源回路52を備える集塵装置1は、高い集塵効率を有することができる。
【0030】
(変形例)
図11に、電源回路52の変形例を示す。この電源回路52は、2次側回路に設けられた逆流阻止用ダイオードD2と出力コンデンサC2をさらに備えていることを特徴とする。逆流阻止用ダイオードD2は、トランスT1の2次側巻線L2とイオン発生部20の間に接続されており、トランスT1の2次側巻線L2からイオン発生部20に向けて順方向となるように接続されている。出力コンデンサC2は、イオン発生部20に対して並列に接続されており、一端が逆流阻止用ダイオードD2とイオン発生部20の間に接続されており、他端がトランスの2次側巻線L2とイオン発生部20の間に接続されている。
【0031】
図12に、変形例の電源回路52が出力する電圧波形を示す。短パルス電圧の出力によって出力コンデンサC2の電圧が急峻に上昇した後、電圧は降下する。この電圧降下時、逆流阻止用ダイオードD2を逆方向に電流が流れるとともに、出力コンデンサC2が放電される。電圧降下が進むと、逆流阻止用ダイオードD2を通過する電流が停止し、出力コンデンサC2の放電も停止し、イオン発生部20に直流電圧が出力される。この例では、短パルス電圧と同極性の約2.0kVの直流電圧が出力されている。このように、変形例の電源回路52は、短パルス電圧を出力した後に、イオン発生部20に直流電圧を出力することができる。なお、電源回路52が出力する直流電圧の大きさは、出力コンデンサC2の容量値と逆流阻止用ダイオードD2の接合容量(C3)に基づいて調整することができる。
【0032】
図13に、直流電圧を印加したときの集塵効率の試験結果を示す。試験条件は、図7で説明した場合と同様である。なお、短パルス電圧の極性は負極性である。図13に示すように、短パルス電圧を印加した後に直流電圧を印加すると、集塵効率が向上する。また、直流電圧が大きくなると、集塵効率も向上する。直流電圧を印加することで、イオン発生部20におけるイオンの発生量が増加し、この結果、塵埃の帯電量が増加したからだと考えられる。ここで、集塵効率が99%以上の場合を合格と評価する。この場合、5.0kVの短パルス電圧の単独印加では不合格であったものが、直流電圧を組み合わせることで合格となる。5.0kVの短パルス電圧の場合を例にすると、直流電圧は短パルス電圧の80%((4kV/5kV)×100)以下であっても、不合格品を合格品に改善する効果が認められる。より好ましくは、直流電圧は短パルス電圧の50%((2.5kV/5kV)×100)以上である。
【0033】
例えば、電源回路52は、パルス周波数を調整することで、短パルス電圧の印加後から次の短パルス電圧の印加前まで、直流電圧の出力を維持することができる。この場合、集塵効率を向上させることができる。なお、集塵効率の向上は、集塵効率を維持しながら短パルス電圧の最大値を小さくすることができる、ということもできる。電源回路52は、集塵効率を維持しながら消費エネルギーを抑えることができる、ということもできる。
【0034】
図14に、8.0kVの短パルス電圧の単独印加においてパルス周波数を変化させたときの集塵効率の試験結果を示す。パルス周波数が50pps以上の例では、いずれも集塵効率が99%を超えている。この結果から、風量とパルス周波数の関係を求めると、0.1L/min/pps以下であれば、集塵効率が99%を超えると考えることができる。
【0035】
このように、本実施例の集塵装置1は、イオン発生部20が発生する短パルス電圧の最大値及びパルス周波数、集塵部30の集塵電圧の極性及び電圧値、さらに、送風ファン40の風量を適宜調整することにより、消費エネルギーを抑えながら高い集塵効率を達成することができる。
【0036】
(他の変形例)
上記実施例では、単極性パルス電圧を出力する漏れインダクタンス共振方式(Leakage Inductance Resonance:LIR)の電源回路52について説明した。この例に代えて、単極性パルス電圧を出力する誘導性エネルギー蓄積方式(Inductive energy storage:IES)の電源回路を使用してもよい。具体的な回路構成は、図2に記載された電源回路52の磁気リセット用ダイオードD1を削除したものである。この電源回路は、スイッチ素子SW1がターンオンしたときに、1次側巻線L1にエネルギーを蓄積し、次いでスイッチ素子SW1がターンオフしたときに、2次側巻線L2の励磁インダクタンスと、2次側回路の浮遊キャパシタンスと、の間の共振現象に基づいて単極性パルス電圧を出力することができる。このような単極性パルス電圧を出力する誘導性エネルギー蓄積方式の電源回路を集塵装置1に使用しても、上記実施例と同様の効果を奏することができる。
【0037】
上記実施例では、イオン発生部20に負極性のパルス電圧が印加され、集塵部30の集塵電極に正の直流高電圧が印加される制御について説明した。しかしながら、イオン発生部20に印加するパルス電圧の極性と集塵部30の集塵電極に印加する直流高電圧の極性は、この例に限らず、様々な組み合わせが可能である。例えば、イオン発生部20に正極性のパルス電圧が印加されたときには、集塵部30の集塵電極に負の直流高電圧が印加されてもよい。さらには、イオン発生部20に正極性のパルス電圧が印加され、集塵部30の集塵電極に正の直流高電圧が印加されてもよく、イオン発生部20に負極性のパルス電圧が印加され、集塵部30の集塵電極に負の直流高電圧が印加されてもよい。パルス電圧と直流高電圧の組合せがこのような場合であっても、上記実施例と同様の効果を奏することができる。
【0038】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0039】
1 :集塵装置
10 :筐体
20 :イオン発生部
30 :集塵部
40 :送風ファン
50 :制御部
52 :電源回路
54 :ゲート駆動回路
V1 :直流電源
T1 :トランス
L1 :1次側巻線
L2 :2次側巻線
SW1 :スイッチ素子
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