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特開2023-155792圧電素子、マイクロフォン、および圧電素子の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155792
(43)【公開日】2023-10-23
(54)【発明の名称】圧電素子、マイクロフォン、および圧電素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H04R 17/02 20060101AFI20231016BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20231016BHJP
   H10N 30/50 20230101ALI20231016BHJP
   H10N 30/067 20230101ALI20231016BHJP
   H10N 30/88 20230101ALI20231016BHJP
   H04R 17/00 20060101ALI20231016BHJP
   H04R 31/00 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
H04R17/02
H01L41/113
H01L41/083
H01L41/297
H01L41/053
H04R17/00 330C
H04R31/00 330
H04R31/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065336
(22)【出願日】2022-04-11
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 愛美
(72)【発明者】
【氏名】山田 英雄
(72)【発明者】
【氏名】臼井 孝英
(72)【発明者】
【氏名】池上 尚克
(72)【発明者】
【氏名】片上 崇治
【テーマコード(参考)】
5D004
5D019
【Fターム(参考)】
5D004BB01
5D004CC08
5D004DD03
5D004FF01
5D004GG00
5D019AA26
5D019BB08
5D019BB25
5D019HH01
(57)【要約】
【課題】工数の増加を低減できる圧電素子、マイクロフォン、および圧電素子の製造方法を提供する。
【解決手段】支持体10に配置された圧電膜40と、圧電膜40に積層された電極膜50と、圧電膜40を貫通する孔部61a、62aの内部に形成された貫通電極61b、62bと、孔部61a、62aの壁面および圧電膜40の上部に形成され、圧電膜40と貫通電極61b、62bとを絶縁させる層間絶縁膜82と、を備え、振動部20は、圧電膜40および電極膜50を含み、支持体10に支持される支持領域21aと、支持体10から浮遊している浮遊領域21bとを有し、浮遊領域21bは、スリット30によって区画された複数の振動領域を有し、スリット30には、層間絶縁膜82と同じ材料で構成された付加薄膜81が配置されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体(10)上に振動部(20)が配置された圧電素子であって、
前記支持体に配置された圧電膜(40)と、
前記圧電膜に積層された電極膜(50)と、
前記圧電膜を貫通する孔部(61a、62a)の内部に形成された貫通電極(61b、62b)と、
前記孔部の壁面および前記圧電膜の上部に形成され、前記圧電膜と前記貫通電極とを絶縁させる層間絶縁膜(82)と、を備え、
前記振動部は、前記圧電膜および前記電極膜を含み、前記支持体に支持される支持領域(21a)と、前記支持体から浮遊している浮遊領域(21b)とを有し、
前記浮遊領域は、スリット(30)によって区画された複数の振動領域(22a~22d)を有し、
前記スリットには、前記層間絶縁膜と同じ材料で構成された付加薄膜(81)が配置されている圧電素子。
【請求項2】
前記層間絶縁膜には、前記振動領域を露出させる開口部(82a)が形成されており、
前記層間絶縁膜のうち、前記孔部と前記開口部との間に形成された部分と、前記孔部に対して前記開口部とは反対側に形成された部分とは、体積が等しい請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
前記層間絶縁膜には、前記振動領域を露出させる第1開口部(82a)が形成されており、
前記層間絶縁膜のうち前記孔部に対して前記第1開口部とは反対側に形成された部分には、前記圧電膜を露出させる第2開口部(82b)が形成されている請求項1に記載の圧電素子。
【請求項4】
前記層間絶縁膜のうち前記孔部と前記第1開口部との間に形成された部分と、前記孔部と前記第2開口部との間に形成された部分とは、体積が等しい請求項3に記載の圧電素子。
【請求項5】
前記層間絶縁膜には、前記振動領域を露出させる開口部(82a)が形成されており、
前記層間絶縁膜は、前記孔部と前記開口部との間に形成された部分と、前記孔部に対して前記開口部とは反対側に形成された部分とで、膜厚が異なる請求項1または2に記載の圧電素子。
【請求項6】
前記付加薄膜および前記層間絶縁膜は、感光性樹脂で構成されている請求項1ないし5のいずれか1つに記載の圧電素子。
【請求項7】
前記感光性樹脂は、ポリイミドまたはポリベンゾオキサゾールである請求項6に記載の圧電素子。
【請求項8】
前記圧電膜は、下層圧電膜(41)および上層圧電膜(42)を有し、
前記電極膜は、前記下層圧電膜の下方に形成された下層電極膜(51)と、前記下層圧電膜と前記上層圧電膜との間に形成された中間電極膜(52)と、前記上層圧電膜の上方に形成された上層電極膜(53)と、を有している請求項1ないし7のいずれか1つに記載の圧電素子。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれか1つに記載の圧電素子を備えるマイクロフォン。
【請求項10】
請求項8に記載の圧電素子を備えるマイクロフォン。
【請求項11】
支持体(10)上に振動部(20)が配置された圧電素子の製造方法であって、
前記支持体に圧電膜(40)を形成することと、
前記圧電膜に積層された電極膜(50)を形成することと、
前記圧電膜を貫通する孔部(61a、62a)を形成することと、
前記孔部の内部に貫通電極(61b、62b)を形成することと、
前記孔部の壁面および前記圧電膜の上部に、前記圧電膜と前記貫通電極とを絶縁させる層間絶縁膜(82)を形成することと、
前記圧電膜および前記電極膜を含み前記支持体から浮遊する浮遊領域にスリット(30)を形成して、前記圧電膜および前記電極膜を複数の振動領域(22a~22d)に区画することと、
前記スリットに、前記層間絶縁膜と同じ材料で構成された付加薄膜(81)を形成することと、を備え、
前記層間絶縁膜を形成すること、および、前記付加薄膜を形成することは、同時に行われる圧電素子の製造方法。
【請求項12】
前記層間絶縁膜に、前記振動領域を露出させる開口部(82a)を形成することを備え、
前記開口部を形成することでは、前記層間絶縁膜のうち、前記孔部と前記開口部との間に形成された部分と、前記孔部に対して前記開口部とは反対側に形成された部分とで、体積が等しくなるように前記開口部を形成する請求項11に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項13】
前記層間絶縁膜に、前記振動領域を露出させる第1開口部(82a)を形成することと、
前記層間絶縁膜のうち前記孔部に対して前記第1開口部とは反対側に形成された部分に、前記圧電膜を露出させる第2開口部(82b)を形成することと、を備える請求項11に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項14】
前記第1開口部を形成すること、および、前記第2開口部を形成することでは、前記層間絶縁膜のうち前記孔部と前記第1開口部との間に形成された部分と、前記孔部と前記第2開口部との間に形成された部分とで、体積が等しくなるように、前記第1開口部および前記第2開口部を形成する請求項13に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項15】
前記層間絶縁膜に、前記振動領域を露出させる開口部(82a)を形成することを備え、
前記層間絶縁膜を形成することでは、前記孔部と前記開口部との間に形成された部分と、前記孔部に対して前記開口部とは反対側に形成された部分とで、膜厚が異なるように、前記層間絶縁膜を形成する請求項11または12に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項16】
前記付加薄膜および前記層間絶縁膜は、感光性樹脂で構成される請求項11ないし15のいずれか1つに記載の圧電素子の製造方法。
【請求項17】
前記感光性樹脂は、ポリイミドまたはポリベンゾオキサゾールである請求項16に記載の圧電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子、マイクロフォン、および圧電素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電型のMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)マイクロフォンは、電極と圧電膜の積層構造を有する圧電素子で構成されている。圧電素子の製造工程では、基板の上面全体に下部電極が形成され、パターニングによって一部が除去された後、下部電極の上面に圧電膜が形成される。そして、この圧電膜の上面に上部電極が形成される。圧電膜には下部電極を露出させるビアが形成され、このビア内に形成された配線によって下部電極の電位が取り出される。また、基板に開口部が形成されるとともに、電極と圧電膜の積層構造にスリットが形成されることにより、この積層構造が基板の開口端部において片持ち支持され、振動領域とされる。
【0003】
電極が除去された部分に形成された圧電膜は、結晶性が悪くなり、電極端部での応力集中によりクラックが発生し、抵抗値が低下するおそれがある。抵抗値が低下した部分を介して電極間でリークが発生すると誘電損失が増加し、マイクロフォンのノイズが大きくなってしまうため、リークの遮断が必要である。これには通常、層間絶縁膜が用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-74836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなマイクロフォンでは、音圧等の圧力が印加されることで振動領域が振動し、圧電膜に発生する電荷を検出信号として出力するが、製造時に発生する残留応力により振動領域が変形し、スリットが広がり圧力が抜け出て、検出帯域が狭くなるおそれがある。これについて、本発明者らは、特願2021-152427号において、スリット内に付加薄膜を形成することでスリットの広がりを抑制する圧電素子を提案している。
【0006】
しかしながら、付加薄膜を形成すると工数が増えるため、圧電素子の製造コストが増加するおそれがある。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、工数の増加を低減できる圧電素子、マイクロフォン、および圧電素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、支持体(10)上に振動部(20)が配置された圧電素子であって、支持体に配置された圧電膜(40)と、圧電膜に積層された電極膜(50)と、圧電膜を貫通する孔部(61a、62a)の内部に形成された貫通電極(61b、62b)と、孔部の壁面および圧電膜の上部に形成され、圧電膜と貫通電極とを絶縁させる層間絶縁膜(82)と、を備え、振動部は、圧電膜および電極膜を含み、支持体に支持される支持領域(21a)と、支持体から浮遊している浮遊領域(21b)とを有し、浮遊領域は、スリット(30)によって区画された複数の振動領域(22a~22d)を有し、スリットには、層間絶縁膜と同じ材料で構成された付加薄膜(81)が配置されている。
【0009】
これによれば、付加薄膜と層間絶縁膜とが同じ材料で構成されているため、これらを同一の工程で形成することが可能であり、圧電素子の製造において工数の増加を低減することができる。
【0010】
また、請求項11に記載の発明では、支持体(10)上に振動部(20)が配置された圧電素子の製造方法であって、支持体に圧電膜(40)を形成することと、圧電膜に積層された電極膜(50)を形成することと、圧電膜を貫通する孔部(61a、62a)を形成することと、孔部の内部に貫通電極(61b、62b)を形成することと、孔部の壁面および圧電膜の上部に、圧電膜と貫通電極とを絶縁させる層間絶縁膜(82)を形成することと、圧電膜および電極膜を含み支持体から浮遊する浮遊領域にスリット(30)を形成して、圧電膜および電極膜を複数の振動領域(22a~22d)に区画することと、スリットに、層間絶縁膜と同じ材料で構成された付加薄膜(81)を形成することと、を備え、層間絶縁膜を形成すること、および、付加薄膜を形成することは、同時に行われる。
【0011】
これによれば、付加薄膜と層間絶縁膜とが同じ材料で同時に形成されるため、工数の増加を低減することができる。
【0012】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態にかかる圧電素子の平面図である。
図2図1のII-II断面図である。
図3】第1、第2孔部近傍の平面図である。
図4A】圧電素子の製造工程を示す断面図である。
図4B図4Aに続く圧電素子の製造工程を示す断面図である。
図4C図4Bに続く圧電素子の製造工程を示す断面図である。
図4D図4Cに続く圧電素子の製造工程を示す断面図である。
図4E図4Dに続く圧電素子の製造工程を示す断面図である。
図4F図4Eに続く圧電素子の製造工程を示す断面図である。
図4G図4Fに続く圧電素子の製造工程を示す断面図である。
図4H図4Gに続く圧電素子の製造工程を示す断面図である。
図5】比較例の断面図である。
図6】第2実施形態にかかる圧電素子の断面図である。
図7A】圧電素子の製造工程を示す断面図である。
図7B図7Aに続く圧電素子の製造工程を示す断面図である。
図8A】圧電素子の製造工程を示す断面図である。
図8B図8Aに続く圧電素子の製造工程を示す断面図である。
図9A】圧電素子の製造工程を示す断面図である。
図9B図9Aに続く圧電素子の製造工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0015】
(第1実施形態)
第1実施形態について説明する。本実施形態の圧電素子は、スマートフォンやAI(artificial intelligence)スピーカ等に搭載される圧電マイク等に用いられると好適である。また、本実施形態の圧電素子は、超音波センサ等に用いられると好適である。
【0016】
圧電素子は、図1図2に示されるように、支持体10と、支持体10上に配置された振動部20とを備え、平面形状が矩形状とされている。支持体10は、一面11aを有する支持基板11と、支持基板11の一面11a上に形成された絶縁膜12とを有している。なお、支持基板11は、例えば、シリコン基板等で構成され、絶縁膜12は、酸化膜等で構成されている。
【0017】
支持体10には、振動部20における内縁側を浮遊させるための凹部10aが形成されている。このため、振動部20は、支持体10上に配置された支持領域21aと、支持領域21aと繋がっていると共に凹部10a上で浮遊する浮遊領域21bとを有する構成となっている。本実施形態の凹部10aは、振動部20側の開口端の形状が平面矩形状とされている。したがって、浮遊領域21bの全体は、平面矩形状とされている。
【0018】
絶縁膜12および振動部20の外縁部分には、支持基板11の外縁部分を露出させる開口部12a、20aが形成されている。開口部12a、20aは、圧電素子を製造する際のダイシング工程を容易にするものであり、必ずしも形成されていなくてもよい。
【0019】
浮遊領域21bには、当該浮遊領域21bを厚さ方向に貫通するスリット30が形成されている。スリット30は、浮遊領域21bを4分割するように形成されている。詳しくは、スリット30は、浮遊領域21bの中心部を通り、浮遊領域21bの相対する角部に向かって延設されるように、2本形成されている。言い換えると、スリット30は、平面矩形状とされた浮遊領域21bの各角部から中心部に向かって延設されると共に、中心部にて各スリット30が交差するように形成されている。これにより、浮遊領域21bは、略平面三角形状とされた第1~第4振動領域22a~22dに分離されている。
【0020】
本実施形態のスリット30は、支持領域21aまで延設されているが、浮遊領域21b内で終端するように形成されていてもよい。また、スリット30が、浮遊領域21bと支持領域21aとの境界部で終端するように形成されていてもよい。
【0021】
第1~第4振動領域22a~22dは、上記の構成とされることにより、支持領域21a側の端部が固定端とされ、支持領域21aと反対側の先端部が自由端とされたカンチレバーとされている。
【0022】
振動部20は、圧電膜40および圧電膜40と接続される電極膜50を有する構成とされている。具体的には、圧電膜40は、下層圧電膜41と、下層圧電膜41上に積層される上層圧電膜42とを有している。なお、下層圧電膜41および上層圧電膜42は、窒化スカンジウムアルミニウム(ScAlN)や、窒化アルミニウム(AlN)等の鉛フリーの圧電セラミックス等を用いて構成されている。また、下層圧電膜41および上層圧電膜42は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等を用いて構成される。なお、図1は、断面図ではないが、理解をし易くするために、上層圧電膜42等にハッチングを施してある。
【0023】
電極膜50は、圧電膜40と接続されるように各振動領域22a~22dに形成されており、モリブデン(Mo)を用いて構成されている。但し、電極膜50は、モリブデンの他に、チタン(Ti)、プラチナ(Pt)、アルミニウム(Al)、ルテニウム(Ru)等のいずれか1つを主成分とする金属材料を用いて構成されていてもよい。
【0024】
そして、本実施形態では、電極膜50として、下層圧電膜41の下方に形成された下層電極膜51と、下層圧電膜41と上層圧電膜42との間に形成された中間電極膜52と、上層圧電膜42の上方に形成された上層電極膜53とが形成されている。なお、下層電極膜51と中間電極膜52とは、下層圧電膜41を挟んで対向するように配置されている。中間電極膜52と上層電極膜53とは、上層圧電膜42を挟んで対向するように配置されている。
【0025】
第1~第4振動領域22a~22dの電極膜50は、配線部60によって電気的に直列に接続されている。具体的には、各振動領域22a~22dに形成される各下層電極膜51、各中間電極膜52、各上層電極膜53がそれぞれ並列に接続されつつ、各振動領域22a~22d間が直列に接続されている。
【0026】
配線部60は、下層電極膜51に接続される第1電極部61と、中層電極膜52に接続される第2電極部62と、第1電極部61および第2電極部62を接続する配線膜63とを備えている。また、配線部60は、上層電極膜53に接続される図示しない電極部を備えており、第1電極部61および第2電極部62は、配線膜63によって、この図示しない電極部にも接続されている。
【0027】
支持領域21aには、下層圧電膜41および上層圧電膜42を貫通して下層電極膜51を露出させる第1孔部61aが形成されており、第1電極部61は、下層電極膜51と電気的に接続されるように第1孔部61aに配置された第1貫通電極61bを備えている。また、支持領域21aには、上層圧電膜42を貫通して中層電極膜52を露出させる第2孔部62aが形成されており、第2電極部62は、中層電極膜52と電気的に接続されるように第2孔部62aに配置された第2貫通電極62bを備えている。
【0028】
後述するように、第1孔部61aの壁面、第2孔部62aの壁面、および、上層圧電膜42の上面には、層間絶縁膜82が形成されている。第1貫通電極61b、第2貫通電極62bは、それぞれ、層間絶縁膜82によって圧電膜40と絶縁されるように、第1孔部61a、第2孔部62aの内部に配置されている。配線膜63は、層間絶縁膜82の上面に配置されており、第1孔部61a、第2孔部62aの上部において、第1貫通電極61b、第2貫通電極62bと電気的に接続されている。なお、図1では、配線膜63のうち、第1貫通電極61aと第2貫通電極62bとを接続する部分、および、外部回路に接続されるパッド部のみを図示している。
【0029】
振動部20は、支持体10側に、下層圧電膜41および下層電極膜51が配置されるバッファ層70を有している。バッファ層70は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)等で構成される。バッファ層70は、浮遊領域21bとなる部分の全体に形成されている。なお、バッファ層70および下層電極膜51は、絶縁層12の外縁端部まで形成されていない。このため、下層圧電膜41における外縁部分は、絶縁膜12上にそのまま配置されている。
【0030】
本実施形態の圧電素子では、浮遊領域21bに形成されたスリット30の一部を被覆するように付加薄膜81が備えられている。具体的には、付加薄膜81は、スリット30のうちの支持領域21a側と反対側の部分、すなわち、第1~第4振動領域22a~22dの自由端側を区画する部分に配置されている。このため、各振動領域22a~22dは、自由端側の部分で付加薄膜81によって繋がった状態となっている。なお、図2では、付加薄膜81がスリット30を埋め込むように配置されている図が示されているが、付加薄膜81は、スリット30を埋め込むように配置されていなくてもよい。
【0031】
付加薄膜81は、凹部10aを形成した後の第1~第4振動領域22a~22dの反りを抑制するためのものである。付加薄膜81は、各振動領域22a~22dの振動に影響し難くなるように、ヤング率が低い材料で構成されることが好ましい。付加薄膜81の膜厚は、例えば0.5μm以上3μm以下とされる。
【0032】
第1孔部61aおよび第2孔部62aの壁面には、層間絶縁膜82が形成されている。層間絶縁膜82は、電極間のリークを抑制するためのものである。層間絶縁膜82は、上層圧電膜42の上面にも形成されており、第1電極部61と第2電極部62は、層間絶縁膜82の上面に形成された配線膜63を介して接続されている。層間絶縁膜82は、付加薄膜81と同じ材料で構成されている。具体的には、付加薄膜81および層間絶縁膜82は、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール(PBO)等の感光性樹脂で構成されている。
【0033】
圧電素子の中央部においては、層間絶縁膜82に開口部82aが形成されており、これにより浮遊領域21bの上層電極膜53が層間絶縁膜82から露出している。開口部82aは、第1開口部に相当する。また、圧電素子の外周部においては、層間絶縁膜82に開口部82bが形成されており、これにより支持領域21aの上層圧電膜42が層間絶縁膜82から露出している。開口部82bは、第2開口部に相当する。開口部82bは、直線状のスリットとされており、圧電素子の上面の四辺に並行となるように、4つの開口部82bが形成されている。なお、開口部82bが他の形状とされていてもよい。
【0034】
層間絶縁膜82のうち、第1孔部61aと開口部82aとの間に形成された部分と、第1孔部61aに対して開口部82aとは反対側に形成された部分とは、体積が等しくされている。具体的には、図2図3に示すように、層間絶縁膜82のうち第1孔部61aと開口部82aとの間の領域を内側領域82cとし、第1孔部61aと開口部82bとの間の領域を外側領域82dとして、内側領域82cと外側領域82dとの体積が等しくされている。なお、図3では配線膜63の図示を省略している。
【0035】
また、層間絶縁膜82のうち、第2孔部62aと開口部82aとの間に形成された部分と、第2孔部62aに対して開口部82aとは反対側に形成された部分とは、体積が等しくされている。具体的には、図2図3に示すように、層間絶縁膜82のうち第2孔部62aと開口部82aとの間の領域を内側領域82eとし、第2孔部62aと開口部82bとの間の領域を外側領域82fとして、内側領域82eと外側領域82fとの体積が等しくされている。
【0036】
以上が本実施形態における圧電素子の構成である。このような圧電素子は、各振動領域22a~22dに音圧等の圧力が印加されると、各振動領域22a~22dが振動する。そして、例えば、各振動領域22a~22dの自由端側が上方に変位した場合、下層圧電膜41には引張応力が発生し、上層圧電膜42には圧縮応力が発生する。したがって、配線部60のパッド部から電荷を取り出すことにより、音圧等の圧力が検出される。この際、本実施形態では、付加薄膜81によってスリット30の開口面積が小さくされている。このため、圧力がスリット30から抜け難くなり、検出帯域を広くすることができる。
【0037】
次に、上記圧電素子の製造方法について、図4A図4Hを参照しつつ説明する。なお、本実施形態では、ウェハ状の支持体10を用いて圧電素子を製造する例について説明するが、予めチップ単位に分割された支持体10を用いて圧電素子を製造するようにしてもよい。
【0038】
まず、図4Aに示されるように、支持基板11上に絶縁膜12が配置された支持体10を用意する。なお、図4Aの支持体10は、実際には、ダイシングラインを介して複数の素子構成領域が一体化されたウェハ状とされている。
【0039】
次に、図4Bに示されるように、支持体10上にバッファ層70および下層電極膜51を順に成膜し、図示しないマスクを用いて所定形状にパターニングする。バッファ層70および下層電極膜51は、浮遊領域21bとなる部分に配置されるようにパターニングされる。また、バッファ層70および下層電極膜51は、第1貫通電極61bと接続される部分、および、支持体10と振動部20との積層方向において第2貫通電極62bと対向する部分を含むようにパターニングされる。
【0040】
なお、バッファ層70および下層電極膜51は、一般的なスパッタ法やCVD(Chemical Vapor Deposition)法等によって成膜される。また、後述する下層圧電膜41、中間電極膜52、上層圧電膜42、上層電極膜53も一般的なスパッタ法やCVD法等によって成膜される。
【0041】
続いて、図4Cに示されるように、下層圧電膜41および中間電極膜52を成膜する。続いて、図4Dに示されるように、上層圧電膜42を成膜して圧電膜40を構成する。また、上層電極膜53を成膜すると共に図示しないマスクを用いて所定形状にパターニングすることにより、電極膜50を構成する。
【0042】
続いて、図4Eに示されるように、図示しないマスクを用いたエッチングにより、下層電極膜51を露出させる第1孔部61a、中間電極膜52を露出させる第2孔部62a、および、絶縁膜12を露出させるスリット30を形成する。また、ダイシングラインに位置する圧電膜40を除去して開口部20aを形成すると共に、絶縁膜12を除去して開口部12aを形成する。
【0043】
続いて、図4Fに示されるように、支持体10、圧電膜40、電極膜50、バッファ層70を覆うように、ウェハ全体に感光性樹脂80を塗布する。続いて、図4Gに示されるように、図示しないマスクを用いて感光性樹脂80を露光することにより、開口部82a、82b、第1孔部61a、第2孔部62aに対応する部分の感光性樹脂80を除去し、付加薄膜81および層間絶縁膜82を形成する。このとき、内側領域82cと外側領域82dとの体積が等しくなるとともに、内側領域82eと外側領域82fとの体積が等しくなるように、開口部82a、82bを形成する。
【0044】
続いて、図4Hに示されるように、第1孔部61a、第2孔部62aを埋め込むように金属膜を成膜することで、第1貫通電極61b、第2貫通電極62bを形成する。そして、層間絶縁膜82上に成膜された金属膜をパターニングすることで配線膜63を形成する。これにより、配線部60が構成される。
【0045】
その後は、適宜図示しないマスクを配置してエッチングを行うことにより、凹部10aを形成する。そして、ダイシングラインに沿ってチップ単位に分割する。これにより、支持体10上に振動部20が配置された上記の圧電素子が製造される。
【0046】
以上説明した本実施形態によれば、付加薄膜81と層間絶縁膜82とが同じ材料で構成されている。したがって、上記のように付加薄膜81と層間絶縁膜82とを同一の工程で形成することが可能となり、圧電素子の製造において工数の増加を低減することができる。
【0047】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0048】
(1)層間絶縁膜82のうち、第1、第2孔部61a、62aと開口部82aとの間に形成された部分と、第1、第2孔部61a、62aに対して開口部82aとは反対側に形成された部分とは、体積が等しい。層間絶縁膜82を感光性樹脂で構成すると、層間絶縁膜82が硬化時に収縮する。そのため、第1、第2孔部61a、62aの両側で層間絶縁膜82の体積が大きく異なると、図5に示されるように、第1、第2孔部61a、62a内の層間絶縁膜82が非対称に形成される。一方、圧電マイクでは振動領域における層間絶縁膜82を除去する必要があり、開口部82aの形成によって、第1、第2孔部61a、62aの両側で層間絶縁膜82の体積に大きな差が生じる。そのため、層間絶縁膜82が薄くなった片側では絶縁性が低下し、層間絶縁膜82が厚くなった反対側ではオーバーハング構造により配線金属を形成するときにカバレッジが悪くなり断線するおそれがある。これに対して、上記のように第1、第2孔部61a、62aの両側で層間絶縁膜82の体積を等しくすることで、第1、第2孔部61a、62a内の層間絶縁膜82の対称性を向上させ、絶縁性の低下や断線を抑制することができる。
【0049】
(2)層間絶縁膜82のうち第1、第2孔部61a、62aに対して開口部82aとは反対側に形成された部分には、圧電膜40を露出させる開口部82bが形成されている。このように開口部82bを形成することにより、内側領域82c、82eと外側領域82d、82fとの体積を調整し、絶縁性の低下や断線を抑制することができる。
【0050】
(3)層間絶縁膜82において、内側領域82cと外側領域82dとの体積が等しく、内側領域82eと外側領域82fとの体積が等しい。これにより、第1、第2孔部61a、62a内の層間絶縁膜82の対称性を向上させ、絶縁性の低下や断線を抑制することができる。
【0051】
(4)付加薄膜81および層間絶縁膜82は、ポリイミド、PBO等の感光性樹脂で構成されている。圧電マイクでは電極厚さが数十nmと薄いため、例えば層間絶縁膜82としてTEOS(テトラエトキシシラン)を用いると、エッチングによる層間絶縁膜82のパターニング時に電極膜50が損傷するおそれがある。これに対して、付加薄膜81、層間絶縁膜82として感光性樹脂を用いることで、付加薄膜81、層間絶縁膜82のパターニングをフォトリソグラフィで行うことができるため、電極膜50の損傷を抑制することができる。
【0052】
(5)圧電素子は、下層電極膜51、下層圧電膜41、中層電極膜52、上層圧電膜42、上層電極膜53が順に積層されたバイモルフ構造の圧電素子とされている。このような構成の圧電素子においては、層間絶縁膜82により、下層圧電膜41と上層圧電膜42の界面におけるリークを抑制することができる。
【0053】
(6)本実施形態の圧電素子をマイクロフォンに用いることで、マイクロフォンをノイズ化、広帯域化することができる。
【0054】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して層間絶縁膜82の構成を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0055】
本実施形態では、層間絶縁膜82のうち第1孔部61aと開口部82aとの間に形成された部分と、第1孔部61aに対して開口部82aとは反対側に形成された部分とで、膜厚が異なっている。具体的には、図6に示されるように、層間絶縁膜82のうち第1孔部61aと層間絶縁膜82の外縁との間の領域を外側領域82gとして、内側領域82cと外側領域82gとの体積が等しくなるように、外側領域82gの一部が薄膜化されている。
【0056】
また、層間絶縁膜82のうち第2孔部62aと開口部82aとの間に形成された部分と、第2孔部62aに対して開口部82aとは反対側に形成された部分とで、膜厚が異なっている。具体的には、図6に示されるように、層間絶縁膜82のうち第2孔部62aと層間絶縁膜82の外縁との間の領域を外側領域82hとして、内側領域82eと外側領域82hとの体積が等しくなるように、外側領域82hの一部が薄膜化されている。
【0057】
本実施形態では、図4Fに示す工程の後、図7Aに示されるように、外側領域82g、82hの薄膜化される部分を露出させるマスク91を用いて、小さい光量で感光性樹脂80を露光する。続いて、図7Bに示されるように、開口部12a、20a、第1孔部61a、第2孔部62a、開口部82aに対応する部分を露出させるマスク92を用いて、図7Aに示す工程よりも大きい光量で感光性樹脂80を露光する。これにより、外側領域82g、82hの一部が薄膜化された層間絶縁膜82が形成される。
【0058】
本実施形態は、第1実施形態と同様の構成および作動からは第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0059】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0060】
(1)層間絶縁膜82は、内側領域82c、82dと外側領域82g、82hとで膜厚が異なる。このように、場所によって膜厚を変えることで、上層圧電膜43を露出させずに体積を調整することが可能となり、層間絶縁膜82によって保護される部分が広くなるため、圧電素子の損傷を抑制することができる。
【0061】
(他の実施形態)
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されるものではない。
【0062】
例えば、第1実施形態において、内側領域82c、82eと外側領域82d、82fとで、体積が完全に等しい構成だけでなく、略等しい構成においても、第1、第2孔部61a、62a内の層間絶縁膜82の対称性を向上させ、絶縁性の低下等を抑制することができる。
【0063】
また、第2実施形態において、内側領域82c、82eと外側領域82g、82hとで、体積が完全に等しい構成だけでなく、略等しい構成においても、第1、第2孔部61a、62a内の層間絶縁膜82の対称性を向上させ、絶縁性の低下等を抑制することができる。
【0064】
また、第2実施形態において、第1、第2孔部61a、62aの場所や開口部82aの大きさによっては、内側領域82c、82eの一部を薄膜化することにより、内側領域82c、82eと外側領域82g、82hの体積を等しくしてもよい。
【0065】
また、第2実施形態において、感光性樹脂80のうち開口部12a、20aに対応する部分を2回露光してもよい。すなわち、図4Fに示す工程の後、開口部12a、20aに対応する部分と、外側領域82g、82hの薄膜化される部分とを露出させるマスク91を用いて感光性樹脂80を露光し、続いて、図7Bに示されるようにマスク92を用いて感光性樹脂80を露光する。
【0066】
また、第2実施形態において、図8A図8Bに示されるように感光性樹脂80を露光して、付加薄膜81および層間絶縁膜82を形成してもよい。すなわち、図4Fに示す工程の後、開口部12a、20a、第1孔部61a、第2孔部62a、開口部82aに対応する部分と、外側領域82g、82hの薄膜化される部分とを露出させるマスク91を用いて、感光性樹脂80を小さい光量で露光する。続いて、開口部12a、20a、第1孔部61a、第2孔部62a、開口部82aに対応する部分を露出させるマスク92を用いて、図8Aに示す工程と同程度の小さい光量、または、中程度の光量で感光性樹脂80を露光する。なお、アライメントずれを考慮すると、この方法よりも図7A図7Bに示す方法が望ましい。
【0067】
また、第2実施形態において、図9A図9Bに示されるように感光性樹脂80を露光して、付加薄膜81および層間絶縁膜82を形成してもよい。すなわち、図4Fに示す工程の後、開口部12a、20a、82aに対応する部分と、外側領域82g、82hの薄膜化される部分とを露出させるマスク91を用いて、感光性樹脂80を露光する。続いて、開口部12a、20a、第1孔部61a、第2孔部62a、開口部82aに対応する部分を露出させるマスク92を用いて感光性樹脂80を露光する。
【符号の説明】
【0068】
10 支持体
20 振動部
30 スリット
40 圧電膜
50 電極膜
81 付加薄膜
82 層間絶縁膜
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図4H
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B