(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155990
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】複合菓子用澱粉組成物、複合菓子用焼菓子、複合菓子、複合菓子用澱粉組成物の製造方法および複合菓子のブルーム抑制方法
(51)【国際特許分類】
A23L 29/212 20160101AFI20231017BHJP
A23L 29/219 20160101ALI20231017BHJP
A23G 3/54 20060101ALI20231017BHJP
A23G 3/34 20060101ALI20231017BHJP
A23G 1/30 20060101ALI20231017BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20231017BHJP
【FI】
A23L29/212
A23L29/219
A23G3/54
A23G3/34 102
A23G1/30
A23L29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065545
(22)【出願日】2022-04-12
(71)【出願人】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(72)【発明者】
【氏名】青木 亮輔
【テーマコード(参考)】
4B014
4B025
4B035
【Fターム(参考)】
4B014GB04
4B014GE02
4B014GG02
4B014GG04
4B014GG11
4B014GK12
4B014GL01
4B014GL07
4B014GL10
4B014GL11
4B014GP01
4B014GP14
4B014GQ05
4B014GQ17
4B025LD01
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4B025LG07
4B025LG28
4B025LP01
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4B025LP15
4B025LP18
4B035LC16
4B035LG21
4B035LK19
4B035LP01
4B035LP21
4B035LP59
(57)【要約】
【課題】 複合菓子のブルームを抑制することができる澱粉組成物を提供する。
【解決手段】 以下の条件(1)~(2)を満たす、複合菓子用澱粉組成物である。
(1)澱粉含量が75質量%以上100質量%以下であり、前記澱粉中のアミロース含量が20質量%以上80質量%以下
(2)25℃における冷水膨潤度が4以上20以下
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の条件(1)~(2)を満たす、複合菓子用澱粉組成物。
(1)澱粉含量が75質量%以上100質量%以下であり、前記澱粉中のアミロース含量が20質量%以上80質量%以下
(2)25℃における冷水膨潤度が4以上20以下
【請求項2】
以下の条件(3)を満たす、請求項1に記載の澱粉組成物。
(3)目開き0.075mmの篩の篩上の含有量が50質量%以上100質量%以下
【請求項3】
以下の条件(4)を満たす、請求項1に記載の澱粉組成物。
(4)目開き0.18mmの篩の篩下の含有量が70質量%以上100質量%以下
【請求項4】
ハイアミロースコーンスターチおよびハイアミロースコーンスターチの低分子化澱粉からなる群の1種または2種を含む、請求項1に記載の澱粉組成物。
【請求項5】
前記低分子化澱粉が酸処理澱粉である、請求項4に記載の澱粉組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれか1項に記載の澱粉組成物を有効成分とする、複合菓子のブルーム抑制剤。
【請求項7】
請求項1乃至5いずれか1項に記載の澱粉組成物を含む、複合菓子用焼菓子。
【請求項8】
請求項1乃至5いずれか1項に記載の澱粉組成物を含む、複合菓子。
【請求項9】
澱粉含量が75質量%以上100質量%以下であり、前記澱粉中のアミロース含量が20質量%以上80質量%以下である原料をα化処理する工程を含む、複合菓子用澱粉組成物の製造方法。
【請求項10】
前記澱粉組成物が、25℃における冷水膨潤度が4以上20以下である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記α化処理する工程が、エクストルーダーによる加熱糊化工程を含む、請求項9または10に記載の製造方法。
【請求項12】
以下の条件(1)~(2)を満たす澱粉組成物を複合菓子の焼菓子の原料として用いることを特徴とする、複合菓子のブルーム抑制方法。
(1)澱粉含量が75質量%以上100質量%以下であり、前記澱粉中のアミロース含量が20質量%以上80質量%以下
(2)25℃における冷水膨潤度が4以上20以下
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼菓子とチョコレートとを組み合わせた複合菓子において、経時的に発生するチョコレート部分のブルームが抑制された複合菓子に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスケット、クッキー等の焼菓子は、焼菓子の他に、チョコレートと組み合わせた複合菓子にも利用される。当該複合菓子は、例えば、予め焼成した焼菓子と、予め調製したチョコレートとを組み合わせることや、予め調製したチョコレートを焼菓子の生地に分散または包餡させたものを焼成することにより製造することができる。
【0003】
焼菓子とチョコレートとを組み合わせた複合菓子に、流通、保存中に焼菓子及びチョコレートに含まれる油脂がお互いを移動するマイグレーションが起こることが知られている。マイグレーションとは、具体的には、焼菓子に含まれる油脂がチョコレート中に移行し、チョコレートに含まれる油脂が焼菓子中に移行する現象をいう。複合菓子の焼菓子及びチョコレートに含まれる油脂の移動が起こると、複合菓子のチョコレート部分はブルームを引き起こすことがある。このように、複合菓子のチョコレート部分がブルームしたりすると、複合菓子は商品価値が失われる。
【0004】
複合菓子の焼菓子及びチョコレートに含まれる油脂の移動に伴う、複合菓子のチョコレート部分のブルームを抑制する手段として、焼菓子に配合する練り込み油脂に、特定のSFCを有する油脂を用いること(特許文献1)や、特定のトリグリセリドを用いること(特許文献2、特許文献3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-016096号公報
【特許文献2】特開平09-037705号公報
【特許文献3】特開2019-170304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1乃至特許文献3は、焼菓子に配合する練り込み油脂に関するものであるが、練り込み油脂だけでは、チョコレートのブルームを充分抑制できない場合があった。そのため、焼き菓子に配合する練り込み油脂以外の素材で、複合菓子のチョコレート部分のブルームが抑制できる手法が望まれていた。
【0007】
したがって、本発明の目的は、複合菓子のブルームを抑制することができる澱粉組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、複合菓子の原料に特定の澱粉組成物を用いることにより複合菓子のブルームを抑制できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
以下の条件(1)~(2)を満たす、複合菓子用澱粉組成物。
(1)澱粉含量が75質量%以上100質量%以下であり、前記澱粉中のアミロース含量が20質量%以上80質量%以下
(2)25℃における冷水膨潤度が4以上20以下
[2]
以下の条件(3)を満たす、[1]に記載の澱粉組成物
(3)目開き0.075mmの篩の篩上の含有量が50質量%以上100質量%以下
[3]
以下の条件(4)を満たす、[1]に記載の澱粉組成物。
(4)目開き0.18mmの篩の篩下の含有量が70質量%以上100質量%以下
[4]
ハイアミロースコーンスターチおよびハイアミロースコーンスターチの低分子化澱粉からなる群の1種または2種を含む、[1]に記載の澱粉組成物。
[5]
前記低分子化澱粉が酸処理澱粉である、[4]に記載の澱粉組成物。
[6]
[1]乃至[5]いずれか1項に記載の澱粉組成物を有効成分とする、複合菓子のブルーム抑制剤。
[7]
[1]乃至[5]いずれか1項に記載の澱粉組成物を含む、複合菓子用焼菓子。
[8]
[1]乃至[5]いずれか1項に記載の澱粉組成物を含む、複合菓子。
[9]
澱粉含量が75質量%以上100質量%以下であり、前記澱粉中のアミロース含量が20質量%以上80質量%以下である原料をα化処理する工程を含む、複合菓子用澱粉組成物の製造方法。
[10]
前記澱粉組成物が、25℃における冷水膨潤度が4以上20以下である、[9]に記載の製造方法。
[11]
前記α化処理する工程が、エクストルーダーによる加熱糊化工程を含む、[9]または[10]に記載の製造方法。
[12]
以下の条件(1)~(2)を満たす澱粉組成物を複合菓子の焼菓子の原料として用いることを特徴とする、複合菓子のブルーム抑制方法。
(1)澱粉含量が75質量%以上100質量%以下であり、前記澱粉中のアミロース含量が20質量%以上80質量%以下
(2)25℃における冷水膨潤度が4以上20以下
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、保管中の複合菓子の外観変化を抑制することができる澱粉組成物を提供することができる。より具体的には複合菓子のブルームを抑制することができる澱粉組成物を提供することができる。本発明は、単独で使用するだけではなく、ブルーム抑制機能を有する油脂と組み合わせることも可能なので、複合菓子の賞味期限延長に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0011】
(複合菓子用澱粉組成物)
本実施形態において、「複合菓子用澱粉組成物」(以下、「澱粉組成物」と略する場合もある)とは、複合菓子を作製する際に配合され、作製された複合菓子に含まれることになる澱粉組成物のことをいい、より具体的には、複合菓子を構成する菓子の1つである焼菓子を作製する際に配合される。
【0012】
本実施形態において、澱粉組成物は、以下の条件(1)~(2)を満たす。
(1)澱粉含量が75質量%以上100質量%以下であり、前記澱粉中のアミロース含量が20質量%以上80質量%以下
(2)25℃における冷水膨潤度が4以上20以下
【0013】
本実施形態において、澱粉組成物は、澱粉含量が75質量%以上100質量%以下であり、80質量%以上100質量%以下であることが好ましく、90質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、95質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましく、98質量%以上100質量%以下であることがさらにより好ましく、99質量%以上100質量%以下であることが殊更好ましい。上記範囲にあることで、複合菓子のブルーム発生を効果的に抑制することができる。
【0014】
本実施形態において、澱粉組成物、澱粉組成物が含有する澱粉中のアミロース含量が20質量%以上80質量%以下であり、25質量%以上80質量%以下であることが好ましく、30質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、33質量%以上70質量%以下であることがさらに好ましく、35質量%以上65質量%以下であることがさらにより好ましく、38質量%以上60質量%以下であることが殊更好ましく、40質量%以上60質量%以下であることが特に好ましい。上記範囲にあることで、複合菓子のブルーム発生を効果的に抑制することができる。
なお、本明細書において、澱粉中のアミロース含量は、「ヨウ素呈色比色法」によって測定した値であり、具体的には、「R.M.McCready,W.Z.Hassid,The Journal of the American Chemical Society,Vol.65,1154-1157(1943)」に記載の方法により測定した値である。
【0015】
本実施形態において、澱粉組成物は、25℃における冷水膨潤度が4以上20以下であり、4以上15以下であることが好ましく、4以上12以下であることがより好ましく、5以上10以下であることがさらに好ましく、6以上8以下であることがさらにより好ましい。上記範囲にあることで、複合菓子のブルーム発生を効果的に抑制することができる。
ここで、澱粉組成物の25℃における冷水膨潤度は、以下の方法で測定される。
(1)試料を、水分計(研精工業株式会社製、型番MX‐50)を用いて、125℃で加熱乾燥させて水分測定し、得られた水分値から乾物質量を算出する。
(2)この乾物質量換算で試料1gを25℃の水50mLに分散した状態にし、30分間25℃の恒温槽の中でゆるやかに撹拌した後、3000rpmで10分間遠心分離(遠心分離機:日立工機社製、日立卓上遠心機CT6E型;ローター:T4SS型スイングローター;アダプター:50TC×2Sアダプター)し、沈殿層と上澄層に分ける。
(3)上澄層を取り除き、沈殿層質量を測定し、これをB(g)とする。
(4)沈殿層を乾固(105℃、恒量)したときの質量をC(g)とする。
(5)BをCで割った値を冷水膨潤度とする。
【0016】
本実施形態において、澱粉組成物は、JIS-Z8801-1規格における目開き0.075mmの篩の篩上の含有量が50質量%以上100質量%以下であることが好ましく、50質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、55質量%以上90質量%以下であることがさらに好ましい。
【0017】
本実施形態において、澱粉組成物は、JIS-Z8801-1規格における目開き0.18mmの篩の篩下の含有量が70質量%以上100質量%以下であることが好ましく、75質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。
【0018】
本実施形態において、澱粉組成物中の澱粉としては、ハイアミロースコーンスターチおよび、ハイアミロースコーンスターチに化学的、物理的および酵素的の1または2以上の加工を施した加工澱粉からなる群から選択される1種または2種以上を含むことが好ましい。澱粉組成物に含まれる澱粉中のハイアミロースコーンスターチおよびハイアミロースコーンスターチの加工澱粉からなる群から選択される1種または2種の含有量は、5質量%以上100質量%以下であることが好ましく、10質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上90質量%以下であることがさらに好ましく、30質量%以上80質量%以下であることがさらにより好ましい。
ハイアミロースコーンスターチのアミロース含量は、40質量%以上のものが入手可能であるが、好ましくは50質量%以上のもの、より好ましくは60質量%以上のもの、さらに好ましくは65質量%以上のものである。
【0019】
ハイアミロースコーンスターチの前記加工澱粉としては、酸処理澱粉、酸化処理澱粉または酵素処理澱粉からなる群から選択される1種または2種以上の低分子化澱粉であることが好ましく、より好ましくは酸処理澱粉である。
【0020】
前記低分子化澱粉のピーク分子量は、3×103以上であり、8×103以上とすることが好ましい。また、低分子化澱粉のピーク分子量は、同様の観点から、5×104以下であり、3×104以下とすることが好ましく、1.5×104以下とすることがさらに好ましい。なお、低分子化澱粉のピーク分子量の測定方法については、実施例の項に記載する。
【0021】
前記酸処理の条件は、特に問わないが、例えば、以下のように処理することができる。
ハイアミロースコーンスターチと水を反応装置に投入した後、さらに酸を投入する。あるいは水に酸をあらかじめ溶解させた酸水と原料の澱粉を反応装置に投入する。酸処理をより安定的に行う観点からは、反応中の澱粉の全量が水相内に均質に分散した状態、またはスラリー化した状態にあることが望ましい。そのためには、酸処理を行う上での澱粉スラリーの濃度を、たとえば10質量%以上50質量%以下、好ましくは20質量%以上40質量%以下の範囲になるように調整する。スラリー濃度が高すぎると、スラリー粘度が上昇し、均一なスラリーの攪拌が難しくなる場合がある。
【0022】
前記酸処理に用いられる酸として、具体的には塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸が挙げられ、種類、純度などを問わず利用できる。
【0023】
酸処理反応において、たとえば酸処理時の酸濃度は.0.05規定度(N)以上4N以下が好ましく、0.1N以上4N以下がより好ましく、0.2N以上3N以下がさらに好ましい。また、反応温度は、30℃以上70℃以下が好ましく、35℃以上70℃以下がより好ましく、35℃以上65℃以下がさらに好ましい。反応時間は、0.5時間以上120時間以下が好ましく、1時間以上72時間以下がより好ましく、1時間以上48時間以下がさらに好ましい。
【0024】
本実施形態において、澱粉組成物に含まれるハイアミロースコーンスターチおよびハイアミロースコーンスターチの加工澱粉以外の澱粉としては、様々な澱粉を使用することができる。具体的には、用途に応じて一般に市販されている澱粉、たとえば食品用の澱粉であれば、種類を問わないが、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、エンドウ豆澱粉などの豆澱粉および、これらの澱粉に化学的、物理的および酵素的の1または2以上の加工を施した加工澱粉からなる群から選択される1種または2種以上を含むことが好ましく、コーンスターチを含むことがより好ましい。
【0025】
また、本実施形態における澱粉組成物には、本発明の効果を阻害しない限り、必要に応じて、澱粉以外の成分を配合することもできる。
澱粉以外の成分の具体例としては、砂糖などの澱粉以外の糖類;グルテンなどのタンパク質;大豆粉などの穀粉;ペクチンなどの多糖類およびその他のガム類;油脂;色素;レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどの乳化剤;ならびに炭酸カルシウム、硫酸カルシウムなどの不溶性塩が挙げられる。
【0026】
(複合菓子用澱粉組成物の製造方法)
次に、本実施形態における澱粉組成物の製造方法を説明する。本実施形態における澱粉組成物の製造方法は、澱粉含量が75質量%以上100質量%以下であり、前記澱粉中のアミロース含量が20質量%以上80質量%以下である原料をα化処理する工程を含む。
【0027】
前記原料としては、上記「複合菓子用澱粉組成物」にて説明した澱粉組成物に含まれる澱粉を用いることができる。
【0028】
原料をα化処理する前記工程には、澱粉の加熱糊化に使用されている一般的な方法を用いることができる。具体的には、ドラムドライヤー、ジェットクッカー、エクストルーダー、スプレードライヤーなどの機械を使用した加熱糊化法が知られているが、本実施形態において、冷水膨潤度が上述した特定の条件を満たす組成物をより確実に得る観点から、エクストルーダーによる加熱糊化工程を含むことが適している。
エクストルーダーによる加熱糊化工程を行う場合は通常、澱粉を含む原料に加水して水分含量を10質量%以上60質量%以下に調整した後、たとえばバレル温度30~200℃、出口温度80~180℃、スクリュー回転数100~1000rpm、熱処理時間5~60秒の条件で、加熱膨化させる。
加熱膨化をした後に、乾燥処理をおこなうことが好ましい。乾燥処理にはドラムドライヤーや送風乾燥機などを用いることができる
【0029】
本実施形態の製造方法において、たとえば前記原料をα化処理する工程により、25℃における冷水膨潤度が4以上20以下を満たす澱粉組成物を得ることができる。
また、α化処理して得られた澱粉組成物は、粉砕し、篩い分けをし、大きさを調整する工程を含むことが好ましい。大きさを調整する前記工程により、JIS-Z8801-1規格における目開き0.075mmの篩の篩上の含有量が50質量%以上100質量%以下に調整することができ、冷水膨潤度をより安定的に調整することができる。
【0030】
(ブルーム抑制剤、ブルーム抑制方法)
本実施形態において得られる澱粉組成物は、澱粉含量、澱粉中のアミロース含量および冷水膨潤度がいずれも特定の条件を満たす構成となっているため、複合菓子の原料として用いた際に、より典型的には複合菓子用焼菓子の原料として用いた際に、チョコレート部分のブルームを抑制するブルーム抑制剤として使用することができる。また、前記澱粉組成物を複合菓子の焼菓子の原料として用いることにより、複合菓子のブルームを抑制することができる。
【0031】
(複合菓子用焼菓子)
本実施形態における複合菓子用焼菓子(以下、「焼菓子」と略する場合もある)は、上記の澱粉組成物、小麦粉などの穀粉類、油脂、水等の各原料を混合して生地を作製した後、該生地を所定の形状に成型し、焼成して作製されるものであれば特に限定されない。該焼菓子の具体例としては、ビスケット、クッキー、クラッカー、乾パン、プレッツェル、カットパン、ウェハース、サブレ、ラングドシャ、マカロン等の一般的な焼菓子に加え、バターケーキ類(パウンドケーキ、フルーレーヌ、バウムクーヘン、カステラ等)、スポンジケーキ類(ショートケーキ、ロールケーキ、トルテ、デコレーションケーキ、シフォンケーキ等)、シュー菓子、発酵菓子、パイ、ワッフル等の洋生菓子、フランスパン、シュトーレン、パネトーネ、ブリオッシュ、ドーナツ、デニッシュ、クロワッサン等のパンが挙げられる。
【0032】
本実施形態における焼菓子の生地中に配合する上記澱粉組成物の配合量は、特に限定されないが、複合菓子のブルームを抑制する観点から、好ましくは1質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは2質量%以上10質量%以下、さらに好ましくは3質量%以上8質量%以下である。
【0033】
本実施形態における焼菓子の生地中に配合する油脂は、特に限定されず、ショートニングやマーガリンのような可塑性油脂の他に、液状油脂なども用いることができるが、前記油脂の20℃における固体脂含量は、0%以上60%以下であることが好ましく、10%以上50%以下であることがより好ましく、15%以上45%以下であることがさらに好ましい。
ここで、20℃における固体脂含量は、AOCS Official Method Cd 16b-93に記載のMETHOD Iに則り測定した値である。
【0034】
本実施形態における焼菓子には、上記の澱粉組成物、小麦粉などの穀粉類、油脂、水以外に、通常焼菓子に配合される原料を配合することができる。そのような原料としては、例えば、上記の澱粉組成物以外の糖類、イースト、イーストフード、膨張剤、卵、卵加工品、塩、乳化剤、呈味素材、香料、着色料を挙げることができる。
【0035】
前記呈味素材としては、乳製品、風味エキス類、その他呈味を有する原料等を挙げることができる。前記乳製品としては、全粉乳、脱脂粉乳、練乳粉、乳脂の加熱処理物や酵素処理物、牛乳、加糖練乳、発酵乳、生クリーム、チーズ等を挙げることができる。前記風味エキス類としては、昆布エキス、発酵調味料等を挙げることができる。前記その他呈味を有する原料としては、卵黄、全卵、コーヒー、カカオ原料、抹茶、緑茶、餡類、果汁、果肉、野菜ペースト、粉末野菜等を挙げることができる。
【0036】
前記乳化剤としては、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等を挙げることができる。前記香料としては、バターフレーバー、ミルクフレーバー等を挙げることができる。前記着色料としては、β-カロチン、アナトー色素等を挙げることができる。
【0037】
(複合菓子)
本実施形態における複合菓子は、前記焼菓子とチョコレートとを組み合わせたことを特徴とする。前記複合菓子は、前記焼菓子とチョコレートとを接触させたものであれば、組み合わせ方法は特に制限されないが、組み合わせ方法としては、接着、被覆、挟む、注入、埋没、トッピング等が挙げられる。前記複合菓子は、前記焼菓子とチョコレートとを使用することを除けば、通常の複合菓子の製造と同様の方法により製造できる。例えば、予め焼成した焼菓子と、予め調製したチョコレートとを、接着、被覆、挟む、注入、トッピング等して組み合わせることや、予め調製したチョコレートを焼菓子の生地に分散、包餡、被覆、トッピング等させたものを焼成すること等により製造することができる。
【0038】
前記チョコレートとしては、例えば、「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」(昭和46年3月29日、公正取引委員会告示第16号)による「チョコレート生地」及び「準チョコレート生地」を含むものであって、カカオ豆から調製したカカオマス、ココアバター、ココアパウダー及び糖類を原料とし、必要により他の食用油脂、乳製品、香料等を加え、通常のチョコレート製造の工程を経たものをいうが、ホワイトチョコレートやカラーチョコレートも含む。
【実施例0039】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0040】
(原材料)
原材料として、主に以下のものを使用した。
(澱粉)
コーンスターチ:コーンスターチY(アミロース含量28質量%)、株式会社J-オイルミルズ製
ハイアミロースコーンスターチ:HS-7(アミロース含量70質量%)、株式会社J-オイルミルズ製
(油脂組成物)
油脂組成物1:ファシエ(ショートニング)、株式会社J-オイルミルズ製(20℃における固体脂含量18%)
油脂組成物2:以下の(製造例3)油脂組成物2の製造で得られたもの(20℃における固体脂含量40%)
20℃における固体脂含量は、AOCS Official Method Cd 16b-93 に記載のMETHOD Iに則り測定した。
(その他)
チョコレート:ブラックチョコレート、株式会社明治製
テンパリング剤:NKクイックテンパーNW、日新化工株式会社製
薄力粉:フラワー、日清フーズ株式会社製
上白糖:三井製糖株式会社製
食塩:公益財団法人塩事業センター製
脱脂粉乳:森永スキムミルク、森永乳業株式会社製
ベーキングパウダー:F アップ、株式会社アイコク製
【0041】
〔1.澱粉組成物〕
【0042】
(製造例1)澱粉組成物1、2の製造
低分子化澱粉として酸処理ハイアミロースコーンスターチを用いて澱粉組成物を得た。
【0043】
(酸処理ハイアミロースコーンスターチの製造方法)
ハイアミロースコーンスターチを水に懸濁して35.6質量%スラリーを調製し、50℃に加温した。そこへ、攪拌しながら4.25Nに調製した塩酸水溶液をスラリー質量比で1/9倍量加え反応を開始した。16時間反応後、3質量%水酸化ナトリウム水溶液で中和し、水洗、脱水、乾燥し、酸処理ハイアミロースコーンスターチを得た。
得られた酸処理ハイアミロースコーンスターチのピーク分子量を以下の方法で測定したところ、ピーク分子量は1.2×104であった。
【0044】
(ピーク分子量の測定方法)
ピーク分子量の測定は、東ソー株式会社製HPLCユニットを使用しておこなった(ポンプDP-8020、RI検出器RS-8021、脱気装置SD-8022)。
(1)試料を粉砕し、JIS-Z8801-1規格の篩で、目開き0.15mm篩下の画分を回収した。この回収画分を移動相に1mg/mLとなるように懸濁し、懸濁液を100℃3分間加熱して完全に溶解した。0.45μmろ過フィルター(ADVANTEC社製、DISMIC-25HP PTFE 0.45μm)を用いてろ過をおこない、ろ液を分析試料とした。
(2)以下の分析条件で分子量を測定した。
カラム:TSKgel α-M(7.8mmφ、30cm)(東ソー株式会社製)2本
流速:0.5mL/分
移動相:5mM NaNO3含有90%(v/v)ジメチルスルホキシド溶液
カラム温度:40℃
分析量:0.2mL
(3)検出器データを、ソフトウェア(マルチステーションGPC-8020modelIIデータ収集ver5.70、東ソー株式会社製)にて収集し、分子量ピークを計算した。
検量線には、分子量既知のプルラン(Shodex Standard P-82、昭和電工株式会社製)を使用した。
【0045】
(澱粉組成物1、2の製造方法)
コーンスターチ79質量%、上述の方法で得られた酸処理ハイアミロースコーンスターチ20質量%、および、炭酸カルシウム1質量%を充分に均一になるまで袋内で混合した。2軸エクストルーダー(幸和工業社製KEI-45)を用いて、混合物を加圧加熱処理した。処理条件は、以下の通りである。
原料供給:450g/分
加水:17質量%
バレル温度:原料入口から出口に向かって50℃、70℃および100℃
出口温度:100~110℃
スクリューの回転数250rpm
このようにしてエクストルーダー処理により得られた加熱糊化物を110℃にて乾燥し、水分含量を約10質量%に調整した。
【0046】
次いで、乾燥した加熱糊化物を、卓上カッター粉砕機で粉砕した後、JIS-Z8801-1規格の篩で篩分けした。篩分けした加熱糊化物を、以下の配合割合で混合し、以下の澱粉組成物1、2を調製し、各澱粉組成物の冷水膨潤度およびアミロース含量を後述の方法で測定した。澱粉組成物1、2の各画分の質量比、冷水膨潤度およびアミロース含量について表1にまとめた。
【0047】
(製造例2)澱粉組成物3、4の製造
【0048】
(澱粉組成物3、4の製造方法)
コーンスターチ25質量%およびハイアミロースコーンスターチ75質量%を充分に均一になるまで袋内で混合した。2軸エクストルーダーを用いて、混合物を加圧加熱処理した。処理条件は、以下の通りである。
原料供給:450g/分
加水:17質量%
バレル温度:原料入口から出口に向かって50℃、70℃および100℃
出口温度:100~110℃
スクリューの回転数250rpm
このようにしてエクストルーダー処理により得られた加熱糊化物を110℃にて乾燥し、水分含量を約10質量%に調整した。
【0049】
次いで、乾燥した加熱糊化物を、卓上カッター粉砕機で粉砕した後、JIS-Z8801-1規格の篩で篩分けした。篩分けした加熱糊化物を、以下の配合割合で混合し、以下の澱粉組成物3、4を調製し、各澱粉組成物の冷水膨潤度およびアミロース含量を後述の方法で測定した。澱粉組成物3、4の各画分の質量比、冷水膨潤度およびアミロース含量について表1にまとめた。
【0050】
【0051】
(冷水膨潤度の測定方法)
(1)試料を、水分計(研精工業株式会社、型番MX‐50)を用いて、125℃で加熱乾燥させて水分測定し、得られた水分値から乾燥物質量を算出した。
(2)この乾燥物質量換算で試料1gを25℃の水50mLに分散した状態にし、30分間25℃の恒温槽の中でゆるやかに撹拌した後、3000rpmで10分間遠心分離(遠心分離機:日立工機社製、日立卓上遠心機CT6E型;ローター:T4SS型スイングローター;アダプター:50TC×2Sアダプタ)し、沈殿層と上澄層に分けた。
(3)上澄層を取り除き、沈殿層質量を測定し、これをB(g)とした。
(4)沈殿層を乾固(105℃、恒量)したときの質量をC(g)とした。
(5)BをCで割った値を冷水膨潤度とした。
【0052】
(アミロース含量の測定方法)
アミロース含量は、「R.M.McCready,W.Z.Hassid,The Journal of the American Chemical Society,Vol.65,1154-1157(1943)」に記載のヨウ素呈色比色法により測定した。
【0053】
〔2.油脂組成物〕
(製造例3)油脂組成物2の製造
【0054】
(エステル交換油脂Aの製造)
パーム油(株式会社J-オイルミルズ製)を30質量部、及びパーム核油(株式会社J-オイルミルズ製)70質量部を混合した混合油に対して、ナトリウムメトキシドを触媒として0.3質量部添加し、80℃、真空度2.7kPaの条件で60分間攪拌しながらランダムエステル交換反応をおこなった。ランダムエステル交換反応後、水洗して触媒を除去し、極度硬化油になるまで水素添加をおこなった。水素添加後、活性白土を用いて脱色処理をおこない、更に脱臭処理をおこなってエステル交換油Aを得た。
【0055】
(油脂組成物2の製造方法)
エステル交換油脂A42質量%、パームオレイン(ヨウ素価56、株式会社J-オイルミルズ製)58質量%をミキシングタンクに加え、65℃に加温し、油相を準備した。油相をパーフェクターにより、20℃での密度が0.88g/cm3になるように窒素ガスを注入しながら急冷捏和し、油脂組成物2を得た。
【0056】
〔3.焼菓子〕
(製造例4)焼菓子1の製造方法
表2の記載の配合で焼菓子1を製造した。20℃に調温した表3及び表4に記載の各油脂組成物に上白糖と食塩を混ぜ、ビーターを取り付けたホバートミキサーで、低速15秒、中速2分混合した。次に水を投入し、低速30秒、中速3分混合した。さらに、薄力粉、脱脂粉乳、ベーキングパウダーを投入し、低速60秒混合後、一旦ゴムベラで掻き取り低速20秒混合し、生地を調製した。調製した生地は4℃の恒温槽で30分休ませた後、ローラーで厚さ4.5mmにのばしてから縦16mm、横54mmに成形した。成形した生地を上火185℃ 、下火185℃に調整したオーブンで17分焼成して、焼菓子1を得た。
【0057】
(製造例5)焼菓子2の製造方法
表2の記載の配合で焼菓子2を製造した。具体的には、20℃に調温した表3に記載の各油脂組成物を用い、薄力粉、脱脂粉乳、ベーキングパウダーを投入時に表3に記載の各澱粉組成物も投入したことを除き、製造例4と同じ方法で焼菓子2を得た。
【0058】
(製造例6)焼菓子3の製造方法
表2の記載の配合で焼菓子3を製造した。具体的には、20℃に調温した表4に記載の油脂組成物を、フックを取り付けたスタンドミキサー(キッチンエイド社製)にて1速で60秒混合後、2速で60秒混合してから、上白糖と食塩を混ぜたことを除き、製造例4と同じ方法で焼菓子3を得た。
【0059】
(製造例7)焼菓子4の製造方法
表2の記載の配合で焼菓子4を製造した。具体的には、20℃に調温した表4に記載の油脂組成物に表4に記載の各澱粉組成物を加え、フックを取り付けたスタンドミキサー(キッチンエイド社製)にて1速で60秒混合後、2速で60秒混合してから、上白糖と食塩を混ぜたことを除き、製造例4と同じ方法で焼菓子4を得た。
【0060】
得られた焼菓子を表3、表4に示した。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
〔4.複合菓子〕
(製造例5)複合菓子の製造方法
表3及び表4の焼菓子は20℃で1週間保管後に複合菓子に供した。
チョコレートをボウルに入れ、50℃で溶解させた後、32℃に調温した。32℃に保ったまま、チョコレート100質量部に対して、0.02質量部のテンパリング剤を添加し、混合した。32℃に調温したモールド(縦19mm、横57mm、厚さ8mm)にテンパリング剤を混合したチョコレートを充填した。充填したチョコレートの上に焼菓子を載せ、5℃に設定した恒温槽に15分保管後、15℃に設定した恒温槽に移し、さらに1時間保管した。保管後にモールドから取り外し、複合菓子を得た。複合菓子は、1検体あたり18個作製した。
【0065】
(複合菓子の評価)
得られた複合菓子を19℃に設定した恒温槽に入れ、例1~5の焼菓子を使用した複合菓子については86日後、例6~10の焼菓子を使用した複合菓子については147日後に恒温槽から取り出し、チョコレート部分のブルームを観察した。複合菓子のチョコレート部分にブルームが発生した個数を、保管した複合菓子の総数(18個)で割ったブルーム発生割合を計算し、表5及び表6に結果を示した。
【0066】
【0067】
【0068】
表5、表6に示した通り、複合菓子に澱粉組成物1乃至澱粉組成物4を配合すると、配合しない場合と比較して、ブルームの発生割合が低くなった。このことから、澱粉組成物1乃至澱粉組成物4を原料として用いた複合菓子は、ブルームの発生が抑制されることが明らかとなった。