(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156018
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】無人水上移動体用船体及び無人水上移動体
(51)【国際特許分類】
B63B 1/12 20060101AFI20231017BHJP
B63B 35/00 20200101ALI20231017BHJP
B63B 7/08 20200101ALI20231017BHJP
B63H 5/08 20060101ALI20231017BHJP
B63H 21/22 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
B63B1/12 A
B63B35/00 Z
B63B7/08 A
B63H5/08
B63H21/22 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065593
(22)【出願日】2022-04-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年12月3日に、神奈川県平塚市千石河岸57-24の「ひらつかタマ三郎漁港」において、株式会社東京久栄及び国立大学法人東京大学に所属の李僑によって、2本のエアチューブフロートとそれを繋ぐラック部、2つのスクリューから構成された「双胴式無人艇による水中観察装置」が公開された。
(71)【出願人】
【識別番号】000151449
【氏名又は名称】株式会社東京久栄
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】小林 努
(72)【発明者】
【氏名】別所 学
(72)【発明者】
【氏名】小林 月都
(72)【発明者】
【氏名】李 僑
(72)【発明者】
【氏名】水上 洋一
(72)【発明者】
【氏名】北澤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】吉田 毅郎
(57)【要約】
【課題】波浪や航跡波等による船体の揺動を抑制できる無人水上移動体用船体及び無人水上移動体を提供する。
【解決手段】 2本の円柱状浮体11と、該円柱状浮体11を間隔をあけて平行に連結する連結構造体12とを備え、前記2本の円柱状浮体11の間隔が、該円柱状浮体11の長手方向の長さの1/4~3/4であり、前記2本の円柱状浮体11の端部が、円錐状であり、該円柱状浮体11がエアーホースであることを特徴とする、無人水上移動体用船体13によって解決する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の円柱状浮体と、
該円柱状浮体を間隔をあけて平行に連結する連結構造体とを備え、
前記2本の円柱状浮体の間隔を、該円柱状浮体の長手方向の長さの1/4~3/4とすることを特徴とする、無人水上移動体用船体。
【請求項2】
前記2本の円柱状浮体の端部が、円錐状であることを特徴とする、請求項1に記載の無人水上移動体用船体。
【請求項3】
前記2本の円柱状浮体は、両端開口が封止されたエアホースであることを特徴とする、請求項1または2に記載の無人水上移動体用船体。
【請求項4】
前記連結構造体は、前記2本の円柱状浮体に、それぞれ前後一対ずつ連結される浮体連結リングと、これらの浮体連結リング間に、折り畳み可能に連結される連結デッキとを有するものであることを特徴とする、請求項1に記載の無人水上移動体用船体。
【請求項5】
2本の円柱状浮体と、
該円柱状浮体を間隔をあけて平行に連結する連結構造体とを備え、
前記2本の円柱状浮体の間隔を、該円柱状浮体の長手方向の長さの1/4~3/4とする無人水上移動体用船体に、推進用スラスターを設けたことを特徴とする、無人水上移動体。
【請求項6】
前記推進用スラスターは、前記2本の円柱状浮体の長手方向の長さの中間部に、左右一対配設されたことを特徴とする、請求項5に記載の無人水上移動体。
【請求項7】
前記2本の円柱状浮体の端部が、円錐状であることを特徴とする請求項5または6に記載の無人水上移動体。
【請求項8】
前記2本の円柱状浮体は、両端開口が封止されたエアホースであることを特徴とする、請求項7に記載の無人水上移動体。
【請求項9】
前記連結構造体は、前記2本の円柱状浮体に、それぞれ前後一対ずつ連結される浮体連結リングと、これらの浮体連結リング間に、折り畳み可能に連結される連結デッキとを有するものであることを特徴とする、請求項5に記載の無人水上移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無人水上移動体用船体及び無人水上移動体に関し、詳細には、桟橋などの湾岸構造物内での遠隔操作による使用に適した無人水上移動体用船体及び無人水上移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
有人船舶では出入りや接近が困難な桟橋等の港湾構造物を、遠隔操作によって点検する際に、例えば、特許文献1に記載の無人水上移動体の利用が提案されている。
該特許文献1に記載の無人水上移動体は、船底がV字形の単胴船であって、船体に搭載したカメラを利用して、桟橋下といった狭い場所にある点検対象物を、離れた場所で安全に観測することができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の無人水上移動体は、船底がV字形の単胴船であったため、波浪や航跡波等によって船体が揺動し易かった。
これにより、カメラによる点検対象物の点検作業中に、視点や映像が乱れてしまい、桟橋下面のひび割れ等の異常箇所を判定する際に影響が及ぶという課題があった。
【0005】
従って、本発明が解決しようとする課題は、桟橋等の港湾構造物を、遠隔操作によって点検する際に、波浪や航跡波等による影響を受けにくい手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題を解決するための手段は、下記のとおりである。
【0007】
第1に、
2本の円柱状浮体と、
該円柱状浮体を間隔をあけて平行に連結する連結構造体とを備え、
前記2本の円柱状浮体の間隔を、該円柱状浮体の長手方向の長さの1/4~3/4とすることを特徴とする、無人水上移動体用船体。
第2に、
前記2本の円柱状浮体の端部が、円錐状であることを特徴とする、前記第1に記載の無人水上移動体用船体。
第3に、
前記2本の円柱状浮体は、両端開口が封止されたエアホースであることを特徴とする、前記第1または第2に記載の無人水上移動体用船体。
第4に、
前記連結構造体は、前記2本の円柱状浮体に、それぞれ前後一対ずつ連結される浮体連結リングと、これらの浮体連結リング間に、折り畳み可能に連結される連結デッキとを有するものであることを特徴とする、前記第1~第3のいずれか一つに記載の無人水上移動体用船体。
【0008】
第5に、
2本の円柱状浮体と、
該円柱状浮体を間隔をあけて平行に連結する連結構造体とを備え、
前記2本の円柱状浮体の間隔を、該円柱状浮体の長手方向の長さの1/4~3/4とする無人水上移動体用船体に、推進用スラスターを設けたことを特徴とする、無人水上移動体。
第6に、
前記推進用スラスターは、前記2本の円柱状浮体の長手方向の長さの中間部に、左右一対配設されたことを特徴とする、前記第5に記載の無人水上移動体。
第7に、
前記2本の円柱状浮体の端部が、円錐状であることを特徴とする前記第5または第6に記載の無人水上移動体。
第8に、
前記2本の円柱状浮体は、両端開口が封止されたエアホースであることを特徴とする、前記第5~第7のいずれか一つに記載の無人水上移動体。
第9に、
前記連結構造体は、前記2本の円柱状浮体に、それぞれ前後一対ずつ連結される浮体連結リングと、これらの浮体連結リング間に、折り畳み可能に連結される連結デッキとを有するものであることを特徴とする、前記第5~第8のいずれか一つに記載の無人水上移動体。
【0009】
ここで、円柱状浮体の素材は、任意である。
例えば、各種のプラスチック、各種の金属、各種の布などを採用することができる。
円柱状浮体は、ホース、チューブ、パイプなどの中空材により構成することができるが、これらに限定されず、例えば、発泡スチロールを柱状に加工した中実材により構成することもできる。
円柱状浮体としては、エアチューブフロートにより構成することが好ましい。
【0010】
円柱状浮体の長手方向の長さは、任意であるが、1m~2mの範囲にあることが好ましい。
1m未満では、安定性に欠けるという不都合が生じる。
また、2mを超えれば、狭い場所における旋回動作に支障をきたす等の不都合が生じる。
特に好ましい円柱状浮体の長さは、1.4m程度である。
この長さであれば、無人水上移動体用船体の高い旋回性と高い安定性とが同時に得られる。
【0011】
円柱状浮体の直径は、任意であるが、5cm~20cmの範囲にあることが好ましい。
5cm未満では、充分な浮力が得られないという不都合が生じる。
また、20cmを超えれば、旋回動作等の運動性に支障をきたす等の不都合が生じる。
特に好ましい円柱状浮体の直径は、10~15cm程度であり、消防用ホースの規格品を用いることができる。
【0012】
連結構造体の素材は、任意である。
例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム合金などの各種の金属、各種のプラスチックなどを採用することができる。
連結構造体の形状は、任意である。
例えば、平面視して矩形状、円形状、楕円形状などを採用することができる。
また、連結構造体は、折り畳み構造が好ましいが、限定されるものではない。
【0013】
2本の円柱状浮体の間隔は、1/4~3/4が好ましい。
該円柱状浮体の長手方向の長さの1/4未満の場合は、波の影響を受けやすくなり、安定性に欠けるという不都合が生じる。
また、3/4より大きい場合は、間隔が広すぎて、狭い場所への侵入の妨げになり、扱いに問題が生じる等の不都合が生じる。
特に好ましい間隔は、長手方向の長さの2/4、すなわち半分程度である。
間隔が長手方向の長さの半分程度の場合には、安定性と扱いに共に優れ、バランスが良いものとなる。
【0014】
端部を円錐状に構成する際は、進行方向側である先端部を円錐状にすることに加え、後端部も円錐状に形成することができる。
円錐の頂角は、任意であるが、60°~120°であることが好ましい。
【0015】
各浮体連結リングおよび連結デッキの素材は、任意であり、各種の金属、各種のプラスチックなどを採用することができる。
各浮体連結リングのサイズは、対応する円柱状浮体に着脱可能であれば任意である。
また、各浮体連結リングと各円柱状浮体との連結構造は、任意である。
連結構造としては、例えば、面ファスナによる各種の掛止構造や、締結バンドによる各種の締結構造などを採用することができる他に、接着剤による接着手段や、円柱状浮体がエアホースなどの際の円柱状浮体の膨張による圧着係止等も採用することができる。
【0016】
連結デッキの構造は、各浮体連結リング間に着脱可能および折り畳み可能であれば任意である。
例えば、前側の浮体連結リング間に折り畳み可能に配される前側の連結フレームと、後側の浮体連結リング間に折り畳み可能に配される後側の連結フレームと、組立て後の前後側の連結フレーム間に着脱可能に掛け渡されて、前後方向に折り畳み可能な連結ラックとを有したものでもよい。
特に、連結デッキの軽量化およびデッキ高さを抑えるため、主要な構成部品が平坦なフレームから構成された連結デッキが好ましい。
【0017】
推進用スラスターの種類は、任意であり、例えば、電動スラスター、油圧スラスターなどを採用することができる。
【0018】
また、無人水上移動体用船体には、スラスターの動力源として例えばリチウムイオンバッテリーや、スラスターを含む機器を制御する制御部を備えている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば以下の効果を奏することができる。
【0020】
同一サイズの2本の円柱状浮体を有し、かつこれらの円柱状浮体の間隔が、円柱状浮体の長手方向の長さの1/4~3/4とした双胴船タイプのものを採用したため、波浪や航跡波等による船体の揺動を抑制することができる。
これにより、主に桟橋の上部工下面や斜杭部分等の有人船舶では接近または入り込むことが困難な場所で、波浪や航跡波等による影響を受けにくく、例えば観測用カメラの視点の揺動が抑えられ、安定した撮影画像を得ることができる。
【0021】
すなわち、船体として、2本の円柱状浮体を平行に連結した双胴(カタマラン)式のものを採用したため、円柱状浮体間に広いデッキ(甲板)が得られ、単胴式の船体に比べて船体の安定性が高まるものとなる。
【0022】
特に、2本の円柱状浮体の先端部を円錐状とした場合には、各円柱状浮体の先端を長手方向に直交する平坦面とした場合に比べて、無人水上移動体用船体の縦揺れ(ピッチ)を抑制することができる。
【0023】
2本の円柱状浮体としてエアホースを採用することで、使用時には、各円柱状浮体に空気を注入して膨らませるだけで使用が可能となる。
一方、保管(収納)時には、各円柱状浮体から空気を抜くだけでこれらをコンパクトに萎めることができ、その結果、無人水上移動体用船体の保管スペースが小さくなるとともに、現場までの輸送や取り扱いが容易となる。
【0024】
無人水上移動体用船体の使用時には、各浮体連結リングに折り畳み状態で連結された連結構造体を組み立てることで、各円柱状浮体が所定間隔だけ平行に離間した状態で保持される。
また、無人水上移動体用船体の保管時には、この連結構造体を折り畳むことで、コンパクトな収納が可能となる。
【0025】
2本の円柱状浮体の長手方向の長さの中間部に、左右一対のスラスターを配設した場合には、無人水上移動体の旋回半径を小さくすることが可能になり、無人水上移動体の操縦性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施例1に係る無人水上移動体用船体を備えた無人水上移動体の一部拡大図を含む平面図である。
【
図2】本発明の実施例1に係る無人水上移動体用船体を備えた無人水上移動体の一部拡大図を含む側面図である。
【
図3】本発明の実施例1に係る無人水上移動体用船体を備えた無人水上移動体の正面図である。
【
図4】本発明の実施例1に係る無人水上移動体用船体の一部を構成する連結構造体の折り畳み状態を示す拡大平面図である。
【
図5】
図4の連結構造体の折り畳み状態を示す拡大側面図である。
【
図6】本発明の実施例1に係る無人水上移動体用船体の保管状態を示す拡大平面図である。
【
図7】
図6の無人水上移動体用船体の保管状態を示す拡大側面図である。
【
図8】本発明の実施例1に係る無人水上移動体を利用した岸壁付近でのインフラ水中部の点検作業状態を示す説明図である。
【
図9】
図8の無人水上移動体を利用した護岸付近での海中環境調査の作業状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しつつ具体的に説明する。
ここで、添付図面において同一の部材には同一符号を付しており、また重複した説明は省略されている。
なお、ここでの説明は本発明が実施される一形態であることから、本発明は当該形態に限定されるものではない。
【実施例0028】
図1において、10は本発明の実施例1に係る無人水上移動体を示している。
この無人水上移動体10は、同一サイズの2本の円柱状浮体11を、連結構造体12により所定間隔をあけて平行に連結した無人水上移動体用船体13に、
図3に示すように、左右一対の推進用スラスター14を配設したものである。
【0029】
以下、これらの構成体を具体的に説明する。
なお、説明の都合上、進行方向側である船首部側を前側、後端側である船尾部側を後側と称することがある。
【0030】
図1に示すように、各円柱状浮体11は、消防ホース用の規格品を利用した直径15cm、長さ1.4mのホース状の浮体本体15を有している。
この浮体本体15は、
図1中の後端側の部分拡大図に示すように、ポリエステル繊維の内外周面に熱可塑性ポリウレタン樹脂層16を形成することで、サンドイッチ構造としたものである。
【0031】
2本の円柱状浮体11の間隔は、円柱状浮体11の長さの1/3程度となる50cmである。
なお、無人水上移動体10の操縦性および波に対する安定性が最適となる各円柱状浮体11の間隔は、円柱状浮体11の長さの1/2程度となる70cmである。
【0032】
各浮体本体15の長手方向の進行方向側の船首部となる先端部には、頂角が90°の高密度ポリエチレン製の円錐キャップ18が、接着剤と複数本のステンレス製のホースバンド19とを介して気密的に装着されている。
【0033】
一方、各浮体本体15の船尾側となる後端部には、平坦な円形の端板を有する高密度ポリエチレン製の円形キャップ20が、同じく接着剤と複数本のステンレス製のホースバンド19とを介して気密的に装着されている。
図2中の拡大図に示すように、円形キャップ20を構成する端板の中央部には、図示しないコンプレッサからの圧縮空気が、空気入アダプター21を介して注入される注入バルブ22が突設されている。
【0034】
図1に示すように、連結構造体12は、左右一対の浮体本体15に対して、それぞれ前後一対ずつ連結された合計4個の浮体連結リング23と、これらの浮体連結リング23間に、着脱可能および折り畳み可能に連結される連結デッキ24とを有したものである。
【0035】
以下、主に
図1を参照しながら、連結構造体12について、具体的に説明する。
各浮体連結リング23および連結デッキ24の素材は、ステンレスである。
各浮体連結リング23の内径は、圧縮空気の注入で膨張した各浮体本体15の外径よりも僅かに小さく、具体的には圧縮空気の注入で膨張した各浮体本体15の外径よりも5mm以下の範囲で、望ましくは1~2mm程度小さいものである。
このように、各浮体連結リング23の内径を、圧縮空気の注入で膨張した各浮体本体15の外径よりも僅かに小さく形成することで、使用時に波浪による衝撃を受けた際に、各浮体連結リング23の位置が移動してしまう危険性を回避することが可能となる。
【0036】
連結デッキ24は、左右一対の前側の浮体連結リング23間に、ヒンジH(
図3参照)を介して、山折りに折り畳み可能に配された前側連結フレーム25と、左右一対の後側の浮体連結リング23間に、ヒンジH(
図3参照)を介して、山折りに折り畳み可能に配された後側連結フレーム26と、組み立て状態の前側連結フレーム25と後側連結フレーム26間に着脱可能に掛け渡されて、長さ方向の中間部でヒンジH(
図5参照)を介して、前後方向に山折りに折り畳み可能な連結ラック27とを有している。
【0037】
ここで、浮体連結リング23の上端側に、前側連結フレーム25及び後側連結フレーム26を直に取り付けて連結することで、全体の高さを抑えることが可能となる。
その結果、使用の際に、水面と点検対象構造体の隙間が小さくても侵入でき、潮位の影響を受けにくくなる。
また、重心が低いので波の動揺を受けにくく、安定性を高めることが可能となる。
【0038】
図1に示す前側連結フレーム25と後側連結フレーム26は、共に、対応する長尺な右側部分フレーム28のナット孔n(
図6参照)が穿孔された先端部と、対応する短尺な左側部分フレーム29のうち、貫通孔a(
図6参照)付きの舌片板b(
図6参照)が突設された先端部とを、一対のヒンジH(
図6参照)を介して、それぞれ山折りに折り畳み可能に連結したものである。
図6に示すように、右側部分フレーム28の基端部には、
図1に示す連結ラック27を連結するための先端部とは別のナット孔nが配設されている。
【0039】
図3に示すヒンジHは、対応する右側部分フレーム28の左端部の下側と、左側部分フレーム29の右端部の下側との間に配設されている。
また、前側連結フレーム25と後側連結フレーム26の各基端部は、対応する浮体連結リング23の上端部にそれぞれ固定されている。
【0040】
なお、右側部分フレーム28は、対応する左側部分フレーム29の長さより、円柱状浮体11の直径分だけ長く形成されている。
その理由は、無人水上移動体用船体13の保管時において、右側部分フレーム28と左側部分フレーム29とを、各ヒンジHを介して各々折り畳んだ際に、左側の円柱状浮体11の各構成部品と、右側の円柱状浮体11の各構成部品とを、互いに隣接した状態で並列配置させるためである(
図6,
図7参照)。
これにより、左右一対の円柱状浮体11を、誰でも簡単かつ確実にコンパクト収納することができる。
【0041】
図1に示すように、連結ラック27は、前側部分ラック30の後端部と、後側部分ラック31の前端部とを、ヒンジH(
図5参照)を介して連結したものである。
前側部分ラック30は、平行な離間状態で前後方向に延びる2本の前側枠構成部材32と、2本の前側枠構成部材32間に平行な離間状態で横架された左右方向に延びる2本の接続部材33とを、それぞれ連結したものである。
後側部分ラック31は、平行な離間状態で前後方向に延びる2本の後側枠構成部材34と、2本の後側枠構成部材34間に平行な離間状態で横架された左右方向に延びる2本の接続部材33とを、それぞれ連結したものである。
【0042】
図5に示すように、前側部分ラック30の前側枠構成部材32には、その前後端部にそれぞれナット孔nが配設されている。
また、
図4に示すように、後側部分ラック31の後側枠構成部材34には、その前端部に貫通孔a付きの舌片板bがそれぞれ突設されている一方、その後端部に別のナット孔nが形成されている。
なお、
図5に示す一対のヒンジHは、前側部分ラック30の前側枠構成部材32の後端部の下側と、後側部分ラック31の後側枠構成部材34の前端部の下側との間に配設されている。
【0043】
図3に示すように、左右一対の推進用スラスター14は、電動式で固定軸35に取り付けられている。
各推進用スラスター14は、
図1に示すプラスチック製の左右一対のスラスター連結リング36を介して、対応する浮体本体15の長手方向の中間部にそれぞれ連結されている。
ここで、左右一対の推進用スラスター14の推進力を各々調整することで、前進・後退・旋回を自由に制御することが可能となる。
【0044】
無人水上移動体用船体13は、
図6および
図7に示すように、各円柱状浮体11の空気を抜くことで、コンパクトに収納可能となる。
なお、
図6および
図7では、各推進用スラスター14および各スラスター連結リング36を取り外した状態で示している。
【0045】
前記スラスター連結リング36は、図示は省略するが、上下分割式でΩ型部材を組み合わせた構造であり、端部のフランジ状部分には2個の開孔部を有し、該開孔部を利用して六角ネジとナットで固定可能に構成されている。
従って、ナットを緩め六角ネジを開孔部から外すことで、スラスター連結リング36が上下に分割するので、浮体本体15からの推進用スラスター14およびスラスター連結リング36の取り外しが可能となる。
【0046】
次に、
図1~
図8を参照にして、本発明の実施例1に係る無人水上移動体10を利用した、岸壁37付近での桟橋38下およびインフラ水中部の点検作業を説明する。
まず、
図6および
図7に示すように、所定の保管場所にコンパクトに収納されていた無人水上移動体10の構成部品を、組み立て現場まで車両輸送する。
【0047】
組立時には、折り畳まれた右側部分フレーム28と左側部分フレーム29を、それぞれヒンジHを中心にして左右方向に伸長させた後、この伸長状態を、
図1に示すように、一対の連結ねじBによりねじ止めして維持する。
【0048】
具体的には、左側部分フレーム29の舌片板b(
図6参照)の貫通孔a(
図6参照)から、右側部分フレーム28の右端部のナット孔n(
図6参照)に各連結ねじB(
図1参照)を差し込み、これらを螺合することで、連結デッキ24を組み立てる。
【0049】
その後、
図2に示すように、円形キャップ20から突設された注入バルブ22に、空気入れアダプター21を介して、図示しないコンプレッサからの圧縮空気を注入し、左右一対の円柱状浮体11を膨らませる。
【0050】
一方、
図4及び
図5に示すように、折り畳まれた前側部分ラック30と後側部分ラック31を、一対のヒンジHを中心にして前後方向に伸長させた後、
図1に示すように、この伸長状態を中央部分で一対の連結ねじBによりねじ止めして維持する。
具体的には、
図4に示す後側部分ラック31の後側枠構成部材34の各舌片板bの貫通孔aから、
図5に示す前側部分ラック30の前側枠構成部材32の後端部のナット孔nに、
図1に示す各連結ねじBを差し込んで、これらを螺合することで、連結ラック27を組み立てる。
【0051】
次に、
図1または
図2に示すように、前側連結フレーム25と後側連結フレーム26に、連結ラック27を掛け渡し状態で連結して、連結構造体12を組み立てる。
具体的には、前側に配された右側部分フレーム28と左側部分フレーム29の各基端部のナット孔n(
図6参照)に、前側部分ラック30の前側枠構成部材32の各前端部のナット孔n(
図5参照)を重ね合わせ、これらに
図1に示すように、各連結ねじBを差し込んでねじ止めする。
一方、後側に配された右側部分フレーム28と左側部分フレーム29の各基端部のナット孔n(
図6参照)に、後側部分ラック31の後側枠構成部材34の各後端部のナット孔n(
図5参照)を重ね合わせ、これらに
図1に示すように、各連結ねじBを差し込んでねじ止めする。
これにより、連結構造体12が組み立てられる。
【0052】
その後、
図8に示すように、連結ラック27には、航行用カメラ39と、上空用カメラ40と、水中カメラ41と、魚群探知機42と、これらの機材および各推進用スラスター14を制御する制御部43と、バッテリー44とがそれぞれ配設される。
【0053】
図8に示すように、無人水上移動体10による桟橋38の下面およびインフラ水中部の各点検時には、岸壁37に立つ作業員がモニタ付きのコントローラ(図示せず)を操作して作業を行う。
すなわち、まず作業員が航行用カメラ39で撮った進行方向の画像をモニタにより観ながら、左右一対の推進用スラスター14をそれぞれ作動させて、目的地の桟橋38下や岸壁37付近まで無人水上移動体10を遠隔操縦する。
【0054】
その後、桟橋38の下面の点検時には、航行用カメラ39で撮った進行方向の映像をモニタにより観ながら、上空用カメラ40で桟橋38の下面を撮影しつつ、作業員が点検作業を行う。
この際、その桟橋38の下面の撮影画像データは、上空用カメラ40本体の記録媒体に記録されている。
なお、この撮影画像データを持ち帰り、例えば、3D復元画像を生成したり、AIによるヒビ検出などを行うこともできる。
【0055】
また、岸壁37近くでのインフラ水中部の一種である取水口45の点検時には、水中カメラ41が撮影した取水口45のカメラ画像をモニタにより観ながら作業員が点検作業を行う。
これと同時に、その取水口45のカメラ画像データを、コントローラの記録部に記録することもできる。
【0056】
さらに、岸壁37近くでの沈下障害物46の確認時には、無人水上移動体10を低速航行させながら魚群探知機42による海底付近のサイドスキャンを行い、そのスキャンデータをコントローラに送信することで、作業員がモニタに表示された解析グラフを観ながら海底付近の沈下障害物46を確認する。
これと同時に、そのスキャンデータは、魚群探知機42の本体に格納される。
【0057】
その他にも、例えば、
図9に示すように、この無人水上移動体10を利用して護岸47付近での各種環境調査を行うこともできる。
例えば、水中カメラ41を用いて、ブルーカーボンにおける海草藻類の分布調査(二酸化炭素吸収量算定調査)、磯根資源等に集まる魚類の観察(魚介類資源量調査)などを行うことができる。
【0058】
また、無人水上移動体10に調査用ネットや海水回収容器を取り付け、これを曳航することで、海水面付近の各種の資源量調査や水質調査などを行うことも可能となる。
さらには、無人水上移動体10は、ブイや調査用ネットを曳航できるため、上述した調査・点検の他にも水難救助などにも利用することができる。
【0059】
このように、実施例1の無人水上移動体10では、同一サイズの2本の円柱状浮体11を有し、かつこれらの円柱状浮体11の間隔が、円柱状浮体11の長手方向の長さの約1/3とした双胴船タイプのものを採用したため、波浪や航跡波等による無人水上移動体10の揺動を抑制することができる。
【0060】
これにより、桟橋38の下面や斜杭部分等の有人船舶では接近または入り込むことが困難な場所で、波浪や航跡波等によって無人水上移動体10が揺動しても、上空用カメラ40や水中カメラ41の視点の揺動が抑えられ、安定した撮影画像が得られる。
【0061】
その理由は、まず無人水上移動体用船体13として、2本の円柱状浮体11を平行に連結した双胴(カタマラン)式のものを採用したため、円柱状浮体11間に広い連結デッキ24が得られ、従来の単胴式の船体に比べて、無人水上移動体用船体13の安定性が高まることによる。
【0062】
また、ここでは、2本の円柱状浮体11の間隔を、円柱状浮体11の長手方向の長さの約1/3としたため、全体がコンパクトで旋回性に優れ、無人水上移動体用船体13がより安定するものとなる。
これにより、波浪や航跡波等による無人水上移動体用船体13の揺動を抑制することが可能となる。
【0063】
さらに、2本の円柱状浮体11の先端部を円錐状としたため、各円柱状浮体11の先端を長手方向に直交する平坦面とした場合に比べて、無人水上移動体用船体13の縦揺れ(ピッチ)を抑制することができる。
【0064】
さらにまた、2本の円柱状浮体11としてエアホースを採用することで、使用時には、各円柱状浮体11に空気を注入して膨らませるだけで使用が可能となる。
一方、保管(収納)時には、各円柱状浮体11から空気を抜くだけでコンパクトに収めることができ、その結果、無人水上移動体10及び無人水上移動体用船体13の保管スペースが小さくなるとともに、現場までの輸送や取り扱いが容易となる。
【0065】
また、無人水上移動体用船体13の使用時には、まず各浮体連結リング23に折り畳み状態で連結された連結構造体12を組み立てることで、各円柱状浮体11が所定間隔だけ平行に離間した状態で保持される。
一方、無人水上移動体用船体13の保管時には、この連結構造体12を折り畳めばよいので、簡単にコンパクトな収納が可能となる。
【0066】
さらに、2本の円柱状浮体11の長手方向の長さの中間部に、左右一対のスラスター14を配設し、該左右一対の推進用スラスター14の推進力を各々調整することで、前進・後退・旋回を自由に制御することが可能であり、無人水上移動体10の中心部を中心にして旋回することも可能である。
これにより、無人水上移動体10の操縦性が高まるものとなる。