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特開2023-156088凝固卵様ゲル化物の素及び凝固卵様ゲル化物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156088
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】凝固卵様ゲル化物の素及び凝固卵様ゲル化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/256 20160101AFI20231017BHJP
【FI】
A23L29/256
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022065739
(22)【出願日】2022-04-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501149411
【氏名又は名称】キユーピータマゴ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 正記
【テーマコード(参考)】
4B041
【Fターム(参考)】
4B041LC01
4B041LC03
4B041LE01
4B041LE10
4B041LH10
4B041LK02
4B041LK03
4B041LK07
4B041LK08
4B041LK10
4B041LK11
4B041LK12
4B041LK15
4B041LK18
4B041LK25
4B041LP25
(57)【要約】
【課題】凝固卵の食感及び風味を手軽に再現することが可能な凝固卵様ゲル化物の素、及びそれを用いた凝固卵様ゲル化物の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の凝固卵様ゲル化物の素は、アルギン酸塩、食用油脂、糖質、水分及び食塩を含有する。本発明の凝固卵様ゲル化物の素において、前記食用油脂の含有量が30質量%以上65質量%以下であり、前記糖質の含有量が10質量%以上35質量%以下であり、前記水分の含有量が10質量%以上40質量%以下であり、前記水分中の食塩濃度が8質量%以上26.5質量%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギン酸塩、食用油脂、糖質、水分及び食塩を含有する凝固卵様ゲル化物の素であって、
前記食用油脂の含有量が30質量%以上65質量%以下であり、
前記糖質の含有量が10質量%以上35質量%以下であり、
前記水分の含有量が10質量%以上40質量%以下であり、
前記水分中の食塩濃度が8質量%以上26.5質量%以下である
凝固卵様ゲル化物の素。
【請求項2】
さらにタンパク質を含有する
請求項1に記載の凝固卵様ゲル化物の素。
【請求項3】
前記タンパク質が、植物性タンパク質を含む
請求項2に記載の凝固卵様ゲル化物の素。
【請求項4】
さらに乳化剤を含有する
請求項1に記載の凝固卵様ゲル化物の素。
【請求項5】
前記乳化剤が、HLB値が10以上の親水性乳化剤又はリゾリン脂質の少なくとも一方を含む
請求項4に記載の凝固卵様ゲル化物の素。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の凝固卵様ゲル化物の素を希釈する工程と、
希釈された前記凝固卵様ゲル化物の素をカルシウム溶液に添加する工程と、を含む
凝固卵様ゲル化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝固卵様ゲル化物を製することが可能な凝固卵様ゲル化物の素、及びそれを用いた凝固卵様ゲル化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液卵(溶き卵)を凝固させた凝固卵は、卵特有の柔らかくて適度に弾力のある食感と、コクがあってわずかに甘い風味が特徴的であり、かきたま汁、丼、スクランブルエッグ、オムレツ、炒め物等の様々な調理品に用いられている。一方で、液卵から凝固卵を製するためには、卵タンパク質を凝固(ゲル化)させるため、熱湯や焼成などによる加熱が必要であり、どこでも手軽に凝固卵を製することはできなかった。
【0003】
一方で、熱凝固性を有する卵タンパク質のゲル化によらずに、凝固卵の代替物を製造する技術が知られている。例えば、特許文献1には、アルカリ土類金属存在下に加熱された大豆蛋白溶液に多糖類を加えて溶液乃至分散液となし凍結することを特徴とする加熱溶き卵様食品の製造方法が記載されている。また、例えば特許文献2には、水に懸濁したカードランをゲル化した後、乳化剤や食用油脂を加えて攪拌し、食用油脂添加膨潤ゲル化カードランにアルギン酸塩及び遅効性を有するカルシウム塩を添加し、充填・成型して固めることで、凝固卵白様の食品素材を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-266758号公報
【特許文献2】特許第4865687号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の食品は、凍結品であるため、加熱や長時間の解凍が必要であった。また、当該食品は、大豆蛋白がカルシウムイオン等のアルカリ土類金属と反応して凍結組織化されたものが主体となっており、凝固卵特有の柔らかさや弾力、風味を十分に感じられるものではなかった。また、特許文献2に記載の食品素材は、茹で卵の卵白のように固くゲル化したものであり、溶き卵である液卵を凝固させた凝固卵のような柔らかい食感を再現したものではなかった。
【0006】
このように、従来の技術では、溶き卵を凝固させた凝固卵の食感及び風味を手軽に楽しみたいという要求には応えることができなかった。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、凝固卵の食感及び風味を手軽に再現することが可能な凝固卵様ゲル化物の素、及びそれを用いた凝固卵様ゲル化物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた。本発明者は、アルギン酸塩とカルシウムイオンとの反応により、加熱せずに液卵に近いゲル化過程が得られることに着目し、アルギン酸塩を含有する凝固卵様ゲル化物の素について研究を進めた。そして、本発明者は、水分中の食塩濃度を高濃度とすることで、アルギン酸塩を高濃度に配合した場合でも、意外にもアルギン酸塩による粘度の上昇を抑制でき、しかも希釈し易いことを見出し、濃縮された状態の凝固卵様ゲル化物の素を完成するに至った。さらに、本発明者は、このようなゲル化物の素に、所定量の食用油脂及び糖質を加えることで、柔らかさと弾力のバランスが良く、卵らしい風味のゲル化物を調製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)アルギン酸塩、食用油脂、糖質、水分及び食塩を含有する凝固卵様ゲル化物の素であって、
前記食用油脂の含有量が30質量%以上65質量%以下であり、
前記糖質の含有量が10質量%以上35質量%以下であり、
前記水分の含有量が10質量%以上40質量%以下であり、
前記水分中の食塩濃度が8質量%以上26.5質量%以下である
凝固卵様ゲル化物の素、
(2)さらにタンパク質を含有する
(1)に記載の凝固卵様ゲル化物の素、
(3)前記タンパク質が、植物性タンパク質を含む
(2)に記載の凝固卵様ゲル化物の素、
(4)さらに乳化剤を含有する
(1)から(3)のいずれか1つに記載の凝固卵様ゲル化物の素、
(5)前記乳化剤が、HLB値が10以上の親水性乳化剤又はリゾリン脂質の少なくとも一方を含む
(4)に記載の凝固卵様ゲル化物の素、
(6)(1)から(5)のいずれか1つに記載の凝固卵様ゲル化物の素を希釈する工程と、
希釈された前記凝固卵様ゲル化物の素をカルシウム溶液に添加する工程と、を含む
凝固卵様ゲル化物の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、凝固卵の食感及び風味を手軽に再現することが可能な凝固卵様ゲル化物の素、及びそれを用いた凝固卵様ゲル化物の製造方法を提供することができる。特に、本発明の凝固卵様ゲル化物の素によれば、粘度の高まりやすいアルギン酸塩を含んでいるにも関わらず容易に希釈でき、凝固卵様ゲル化物を簡便に製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味する。また、本発明において、ある成分の「含有量」は、凝固卵様ゲル化物の素全体の質量を100質量%とした場合の当該成分の占める質量の割合を意味する。
【0012】
<凝固卵様ゲル化物の素>
本発明の凝固卵様ゲル化物の素とは、凝固卵様ゲル化物を製することができる素である。本発明の凝固卵様ゲル化物の素は、水等によって希釈された後、カルシウムイオンを含むカルシウム溶液に添加される。本発明の凝固卵様ゲル化物の素は、後述するように、水等によって容易に希釈することができ、手軽に凝固卵様ゲル化物を製することができる。さらに、本発明の凝固卵様ゲル化物の素により、凝固卵に特有の食感及び風味を再現することができる。
なお、凝固卵様ゲル化物の素を、以下、「ゲル化物の素」とも称する。
本発明のゲル化物の素は、ペースト状、固形状、又は粉末状等の種々の形態を採り得るが、容易に希釈できるため、ペースト状であるとよい。
本発明のゲル化物の素は、例えば、常温(15℃~25℃)で保存可能な常温品とすることができる。これにより、保存及び流通のためのコストやCOの排出量を低減することができる。但し、本発明のゲル化物の素はこれに限定されず、0℃以上10℃以下で保存される冷蔵品でもよく、-15℃以下で保存される冷凍品でもよい。
本発明のゲル化物の素は、卵を含有しない、又は卵を少量含有することが好ましく、卵を含有しないことがより好ましい。「卵を含有しない」とは、鶏、鶉、アヒルの卵など、一般に食用に供される鳥類の卵由来の原料を含有していないことをいい、「卵を少量含有する」とは、上記鳥類の卵由来の原料を、ゲル化物の素中に5%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは1%以下含有することをいう。
【0013】
<ゲル化物の素の水分含有量>
ゲル化物の素は、上述のように希釈して用いられるため、水分の含有量が少ない。具体的に、本発明のゲル化物の素の水分含有量は、10%以上40%以下である。さらに、本発明のゲル化物の素の水分含有量の下限値は、12%以上であるとよく、当該水分含有量の上限値は、30%以下であるとよい。
なお、ゲル化物の素の水分含有量は、原料として配合された水と、各原料に含まれる水分の合計の含有量とする。
【0014】
<ゲル化物の素の希釈倍率>
本発明において、ゲル化物の素の希釈倍率とは、ゲル化物の素を希釈する際の希釈倍率をいい、ゲル化物の素の質量を基準(1倍)とした場合の、希釈後の液の質量の倍率をいう。なお、希釈後の液を、以下、「希釈液」とも称する。
本発明において、ゲル化物の素の希釈倍率の下限値は、ゲル化物の素の食塩濃度を低くし、アルギン酸塩とカルシウムイオンの反応性を高める観点から、2倍以上であるとよく、さらに3倍以上であるとよい。また、当該上限値は、ゲル化物の素の粘度の上昇を抑制する観点から、10倍以下であるとよく、5倍以下であるとよく、さらに4倍以下であるとよい。
【0015】
<凝固卵>
本発明において、凝固卵とは、溶き卵の加熱凝固物をいう。また、ここでいう溶き卵は、割卵して得られた液卵白及び/又は液卵黄を攪拌して得られたものをいう。
このような凝固卵は、一般に、熱湯やスープに液卵を注いだり、液卵を焼成することによって製される。このような凝固卵は、ふんわりとして適度に弾力のある食感と、卵特有のコク深くわずかに甘い風味を有することから、卵を主体とする卵調理品の他、様々な料理のトッピングとしても用いられている。凝固卵を用いた調理品は、例えば、丼、汁物、麺類、スクランブルエッグ、オムレツ、オムライス、かに玉、調理パン、炒め物などを含む。丼としては、例えば、親子丼、カツ丼、卵丼、その他の卵を用いた丼、天津飯等が挙げられる。汁物としては、かきたま汁等が挙げられる。麺類としては、かきたまそば、かきたまうどん等が挙げられる。調理パンとしては、サンドイッチ、マフィン、ハンバーガー、スクランブルエッグやオムレツを挟んだその他の調理パン等が挙げられる。炒め物としては、炒り卵、炒り卵を含む炒め物等が挙げられる。
なお、本発明におけるかきたま汁とは、汁(スープ)の中に溶き卵を注入し、溶き卵を当該汁中で加熱して製する、凝固卵入りの汁物をいい、汁の味付けは特定のものに限定されない。例えば、当該かきたま汁のベースとなる汁は、だし汁、中華スープ、コンソメスープ等が挙げられる。
【0016】
<凝固卵様ゲル化物>
本発明の凝固卵様ゲル化物は、凝固卵を模したゲル化物であって、本発明のゲル化物の素を用いて製される。本発明のゲル化物の素により製される凝固卵様ゲル化物の形状は、例えば、膜状、棒状、鱗片状、偏平状、粒状(そぼろ状)等の様々な形状とすることができ、例えば膜状であるとよい。膜状の凝固卵様ゲル化物の厚さは、例えば、5mm以下であるとよく、さらに3mm以下であるとよい。なお、本発明の膜状の凝固卵様ゲル化物の厚みは、必要に応じて液切りして、広げた状態で目視にて測定するものとする。
例えば、本発明の凝固卵様ゲル化物は、かきたま汁に含まれる凝固卵様のゲル化物であるとよい。
【0017】
<アルギン酸塩>
本発明のゲル化物の素は、本物の凝固卵と同等又は近い弾力のある食感を再現する観点から、アルギン酸塩を含む。また、アルギン酸塩は、若干生臭い風味があるため、凝固卵様ゲル化物に卵のような生臭さを付与することもできる。
本発明のアルギン酸塩とは、アルギン酸中のカルボキシル基の水素がイオンによって置換された塩をいう。本発明に用いられるアルギン酸塩は、1価のカチオン塩であるとよく、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、及びアルギン酸アンモニウムから選ばれる1種以上であるとよい。このうち、本発明に用いられるアルギン酸塩は、取り扱いや入手のしやすさから、アルギン酸ナトリウムであるとよりよい。
上記アルギン酸塩は、カルシウムイオンと反応してイオン架橋される。このイオン架橋によって構築されたゲルネットワークに水分が移行して保持されることで、弾力のあるゲル化物が生成される。本発明では、このようなアルギン酸塩とカルシウムイオンとによるゲル化の反応を用いて、液卵の加熱凝固を再現することができる。
一方で、反応させるカルシウムイオンの量や反応時間によっては、アルギン酸塩によるゲルネットワークが水分を保持しすぎて、硬い食感となり得る。また後述するように、カルシウム溶液が調理品の一部をなすスープや調味液であった場合には、アルギン酸塩とカルシウムイオンとが長く反応することになるため、特に硬い食感となりやすい。
そこで、本発明では、ゲル化物の素に、所定量の食用油脂及び糖質を加えることで、アルギン酸塩によるゲルネットワークへの水分移行を緩和し、凝固卵に近い食感を実現する。
本発明のゲル化物の素において、水分に対するアルギン酸塩の割合の下限値は、凝固卵様ゲル化物に弾力感を付与する観点から、5%以上であるとよく、さらに8%以上であるとよい。また当該割合の上限値は、凝固卵様ゲル化物が硬い食感となることを抑制する観点から、50%以下であるとよく、さらに30%以下であるとよりよい。なお、水分に対するアルギン酸塩の割合とは、水分の含有量を100%とした場合のアルギン酸塩の含有量の割合(%)をいう。
一般的には、アルギン酸塩を水分に対してこのように高濃度で配合した場合、ゲル化物の素自体の粘度が高くなり、ゲル化物の素の取り扱いや希釈が困難となる。さらに、ゲル化物の素自体がゲル化することで、凝固卵様ゲル化物を製することが困難となり得る。これに対し、本発明者は、水分中の食塩濃度を高濃度とすることで、アルギン酸塩による粘度の上昇を抑制でき、容易に希釈できることを見出した。
【0018】
<食塩>
本発明のゲル化物の素は、水分中の濃度が8%以上26.5%以下の食塩を含有する。
本発明のゲル化物の素において、食塩の濃度は、水分中の食塩濃度として表される。水分中の食塩濃度とは、ゲル化物の素の水分(原料として配合された水と、各原料に含まれる水分とを合わせた水分)における食塩の濃度をいう。
ゲル化物の素が水分中に8%以上の食塩を含むことで、アルギン酸塩が水分に溶解しにくくなる。これにより、アルギン酸塩によるゲル化物の素自体の高粘度化を抑制でき、アルギン酸塩のカルシウム溶液との反応性を維持することができる。また、ゲル化物の素の粘度の上昇を抑制できることで、ゲル化物の素の充填や包装等における取り扱いが容易になるとともに、ゲル化物の素の希釈が容易になる。
一方、常温のゲル化物の素中の水分において、食塩は約26.5%で飽和するため、食塩の濃度の上限値は26.5%以下とする。
つまり、本発明では、ゲル化物の素が上記濃度の食塩を含むことで、アルギン酸塩を高濃度で含有する、濃縮されたゲル化物の素を実現することができる。
さらに、上記濃度の食塩により、凝固卵様ゲル化物に塩味を付与し、風味を向上させることができる。また、凝固卵様ゲル化物の調製時に、食塩由来のナトリウムイオンの存在により、アルギン酸塩とカルシウムイオンとの反応が緩和され、凝固卵様ゲル化物の食感をより柔らかくすることができる。
上記作用効果をより効果的に得るため、本発明のゲル化物の素における水分中の食塩濃度の下限値は、10%以上であるとよりよく、当該食塩濃度の上限値は、22%以下であるとよりよい。
【0019】
<食用油脂>
本発明のゲル化物の素は、30%以上65%以下の食用油脂を含む。
本発明のゲル化物の素がこのような含有量の食用油脂を含むことにより、アルギン酸塩によるゲルネットワークへの水分移行を食用油脂が適度に抑制し、凝固卵のような柔らかい食感を有する凝固卵様ゲル化物を得ることができる。さらに、上記含有量の食用油脂により、卵に近いコクと口残りを再現でき、凝固卵様ゲル化物に卵らしい風味を付与することができる。
さらに、上記含有量の食用油脂により、凝固卵様ゲル化物の比重が軽くなり、凝固卵様ゲル化物が調理品のスープや具材の上に浮きやすくなる。これにより、調理品の見栄えを向上させることができる。
上記作用効果をより効果的に得るため、本発明の食用油脂の含有量の下限値は45%以上であるとよりよく、上限値は63%以下であるとよりよい。
本発明における食用油脂としては、例えば、動植物油及びこれらの精製油、化学的又は酵素的処理を施して得られた食用油脂等が挙げられる。動植物油としては、例えば、菜種油、コーン油、綿実油、大豆油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、ひまわり油、えごま油、アマニ油、パーム油、乳脂、牛脂、豚脂、卵黄油等が挙げられる。化学的又は酵素的処理を施して得られた食用油脂としては、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、酵素処理卵黄油等が挙げられる。
これらの食用油脂は、1種で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
特に、食用油脂は、植物性食品へのニーズに応える観点から、植物性油脂を含んでいるとよく、例えば、菜種油、コーン油、大豆油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、ひまわり油、えごま油、アマニ油等を含んでいるとよい。また、食用油脂は、健康志向へのニーズに応える観点から、例えばえごま油、アマニ油等のオメガ3系脂肪酸を含む油脂を含んでいるとよい。
【0020】
<糖質>
本発明のゲル化物の素は、10%以上35%以下の糖質を含む。
本発明において、糖質とは、炭水化物から食物繊維を除いたものをいう。ゲル化物の素が上記含有量の糖質を含むことで、糖質の保水作用によって、アルギン酸塩によるゲルネットワークへの水分移行を抑制することができる。これにより、アルギン酸塩によるゲルが柔らかくなるとともに、アルギン酸塩によるゲルと糖質に保持された水分とが混在した状態となり、しっとりとした柔らかい食感の凝固卵様ゲル化物を得ることができる。また、上記含有量の糖質により、凝固卵様ゲル化物に適度な甘い風味を付与することもできる。
上記作用効果をより効果的に得るため、本発明において、糖質の含有量の下限値は、15%以上であるとよりよく、当該含有量の上限値は、30%以下であるとよりよい。
本発明における糖質としては、例えば、単糖、オリゴ糖、多糖、糖アルコール等が挙げられる。
単糖としては、ブドウ糖、果糖等が挙げられる。
オリゴ糖とは、単糖が二糖~十糖程度結合した糖類をいい、例えば、砂糖の主成分であるスクロース、ラクトース、トレハロース、マルトース等の二糖類、ラフィノース、パノース、マルトトリオース、メレジトース等の三糖類、数個のブドウ糖が環状に結合したシクロデキストリン等が挙げられる。
多糖としては、澱粉類、デキストリン等が挙げられる。
糖アルコールとしては、還元澱粉糖化物、還元水あめ、アスパルテーム,エリスリトール,キシリトール,ソルビット,パラチノース等が挙げられる。
これらの糖質は、1種で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
これらのうち、本発明の糖質は、オリゴ糖又は糖アルコールの少なくとも一方を含むことが好ましい。オリゴ糖は、水分を吸収する作用と保持する作用とのバランスが良く、上記ゲルネットワークへの水分移行のコントロールに適している。糖アルコールは、ゲル化物の素の品質を安定させることができる。特に、本発明の糖質は、オリゴ糖と糖アルコールの上記利点を併せ持つ、十糖以下の糖アルコールを含むとよりよい。
【0021】
<タンパク質>
本発明のゲル化物の素は、さらに、タンパク質を含むとよいタンパク質により、卵に近い、コク深い風味を有する凝固卵様ゲル化物を得ることができる。
上記作用効果を効果的に得る観点から、本発明におけるタンパク質の含有量の下限値は、0.01%以上であるとよく、さらに0.05%以上であるとよい。当該含有量の上限値は、3%以下であるとよく、さらに2%以下であるとよく、1%以下であるとよりよい。
本発明におけるタンパク質は、特に限定されず、卵白タンパク質、乳タンパク質等の動物性タンパク質を含んでいてもよく、植物性タンパク質を含んでいてもよい。植物性食品に対するニーズに応える観点からは、本発明におけるタンパク質は、植物性タンパク質を含んでいるとよい。植物性タンパク質としては、例えば、大豆タンパク質、小麦タンパク、オーツ麦タンパク質、米タンパク質、種実類(ナッツ類)から抽出されたタンパク質等が挙げられる。
これらのタンパク質は、1種で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
<植物性ミルク>
本発明のゲル化物の素は、植物性ミルクを含んでいるとよく、タンパク質は、当該植物性ミルク由来の植物性タンパク質を含んでいるとよい。
本発明の植物性ミルクとは、植物性素材を原料とする白濁した乳化液をいう。植物性ミルクとしては、特に限定されないが、例えば、豆乳、オーツミルク、アーモンドミルク、ココナッツミルク、カシューナッツミルク、ライスミルク、ヘンプミルク、ピスタチオミルク、マカダミアミルク等が挙げられる。
植物性ミルクでは、植物性素材中のタンパク質及び脂質等が乳化されていることで、卵に近いコク深い味わいを得られるとともに、風味が舌に残るような卵と同様の感覚を得ることができる。したがって、ゲル化物の素が植物性ミルクを含むことにより、植物性食品を用いているにもかかわらず、本物の凝固卵と同等又はそれに近い濃厚な風味及び食感を得ることができる。
本発明において、植物性ミルクは、原料となる植物性素材を水に浸し、粉砕及び/又は煮た後、固形物と分離することで得ることができる。あるいは、当該植物性ミルクは、飲料又は調理用として一般に流通している市販品を用いることもできる。この場合、植物性ミルクは、主原料となる植物性素材の他、本発明の効果を損なわない範囲で、乳化剤、香料、調味料、油脂等を含んでいてもよい。
本発明の植物性ミルクは、一般に添加物が少なく、流通量が多いことから、例えば豆乳を含んでいるとよい。
本発明において、豆乳とは、大豆を原料とする乳化液をいう。すなわち、本発明の豆乳は、日本農林規格(JAS規格)によって分類される「豆乳」、「調製豆乳」及び「豆乳飲料」、並びに、これらに含まれない、大豆を原料として乳化液状に加工した大豆加工品(豆乳加工品等)を含むものとする。
【0023】
<乳化剤>
本発明のゲル化物の素は、乳化剤をさらに含むとよい。これにより、乳化剤がアルギン酸塩によるゲル化を緩和し、より柔らかい食感の凝固卵様ゲル化物を得ることができる。
さらに、ゲル化物の素が乳化剤を含むことで、白濁した明るい色合いとなり得る。これにより、白色系の着色料を用いずに、黄色系等の着色料によって卵に近い色味を付与することができ、着色料の使用量を低減することができる。
本発明の乳化剤は、親水性の乳化剤を含むとよい。具体的に、本発明の乳化剤は、リゾリン脂質又はHLB値が10以上の乳化剤の少なくとも一方を含んでいるとよい。このような親水性の乳化剤の乳化作用により、アルギン酸塩によるゲルネットワークへの水分移行を効果的に抑制することができ、しっとりした柔らかい食感の凝固卵様ゲル化物を得ることができる。さらに、親水性の乳化剤がゲル化物の素の表面張力を低下させ、薄く広がる好ましい膜状の凝固卵様ゲル化物を調製しやすくなる。
リゾリン脂質とは、グリセロ骨格を有したジアシルグリセロリン脂質であるリン脂質の1位又は2位が加水分解したモノアシルグリセロリン脂質をいう。リゾリン脂質の由来となる材料は、特に限定されず、例えば、卵黄等の動物性材料、あるいは大豆、ひまわり、米、菜種等の植物性材料、藻類、微生物等が挙げられる。
本発明に用いられるリゾリン脂質は、植物性食品に対するニーズに応える観点から、植物性材料由来のリゾリン脂質であるとよい。
また、本発明では、ゲル化物の素が、リゾリン脂質を含有する脂質混合物を含んでいてもよい。このような脂質混合物としては、例えば、リゾレシチン、酵素処理油脂等が挙げられる。
HLB値が10以上の親水性乳化剤としては、食用として市場に流通しているものであれば特に限定されず、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル等が挙げられる。
本発明における乳化剤の含有量は、上記作用効果を効果的に得る観点から、0.05%以上2%以下であるとよい。
【0024】
<脂溶性の着色料>
本発明のゲル化物の素は、凝固卵に近い色調を得るために、脂溶性の着色料を含有しているとよい。脂溶性の着色料を含有することにより、ゲル化物の素を用いて凝固卵様ゲル化物を含む調理品を調理する際に、着色料が溶解して色が変化することを抑制することができる。
脂溶性の着色料とは、脂溶性であって着色可能な成分をいう。脂溶性の着色料は、オイルの状態であってもよく、あるいは、粉末状又は乳化された乳化液等の状態であってもよい。
本発明における脂溶性の着色料としては、黄色系、オレンジ色又は赤系の着色料が挙げられ、具体的には、カロチン色素、パプリカオイル、パームオレイン、トウガラシオイル、ニンジンオイル、オレンジオイル、ウコン色素等が挙げられる。これらの着色料は、1種で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
<その他の原料>
本発明のゲル化物の素は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の原料を含有することができる。このような原料としては、例えば、
ペクチン、グルコマンナン、難消化性デキストリン、アラビアガム、難消化性オリゴ糖、セルロース、ヘミセルロース、発酵セルロース、キチン、サイリウム、大豆繊維等の食物繊維、
醤油、胡椒、アミノ酸等の調味料類、
グリシン、酢酸ナトリウム等の静菌剤、
有機酸、有機酸塩等のpH調整剤、
保存料、
酸化防止剤、
香料等が挙げられる。
【0026】
<凝固卵様ゲル化物の素の製造方法>
本発明のゲル化物の素は、一実施形態において、原料を混合して調製される。原料の混合は、例えば、ミキサーや撹拌機を用いて行うことができる。なお、原料の混合は、ゲル化物の素のゲル化性を均質化する観点から、全体が均質になるように混合するとよい。各原料の配合量は、製造後のゲル化物の素における各材料の含有量に基づいて調整することができる。
【0027】
<凝固卵様ゲル化物の製造方法>
本発明における凝固卵様ゲル化物の製造方法は、本発明のゲル化物の素を希釈する工程と、カルシウムイオンを含むカルシウム溶液に希釈液を添加する工程と、を含む。
【0028】
(ゲル化物の素の希釈工程)
本工程では、本発明のゲル化物の素に水を加えて希釈して混合し、希釈液を製する。水の添加量は、上述の希釈倍率に基づいて決定される。例えば、ゲル化物の素の希釈倍率が3倍の場合は、1質量部のゲル化物に対して、2質量部の水を加えればよい。
さらに、本工程では、ゲル化物の素と水とを混合するため、攪拌するとよい。攪拌には、箸や泡立て器、ハンドミキサーなどを用いることができる。本発明のゲル化物の素は、上記含有量の食塩によって粘度が低く維持されているため、本物の液卵と同様に、箸や泡立て器などによって容易に攪拌することができる。
【0029】
(添加工程)
本工程では、カルシウムイオンを含むカルシウム溶液に希釈液を添加する。
これにより、アルギン酸塩とカルシウムイオンとが反応してゲル化力の高いアルギン酸カルシウムが生成され、この反応が進むことで希釈液が徐々にゲル化する。これにより、凝固卵様ゲル化物を製することができる。
カルシウム溶液は、例えば、水等の溶媒にカルシウム塩を溶解させた液体である。カルシウム溶液は、例えば、凝固卵様ゲル化物を含む調理品の一部であるスープ、調味液等であるとよい。これにより、当該調理品の調理過程において、液卵と同様に希釈液を用いることができる。あるいは、カルシウム溶液は、調理品とは別途準備されたものでもよい。
カルシウム溶液におけるカルシウム塩の濃度は、調理品の種類などによって適宜設定されるが、例えば、0.1%以上4%以下であるとよい。
本発明では、カルシウム溶液を加熱せずに、凝固卵様ゲル化物を製することができるが、当該調理品の調理過程によってはカルシウム溶液が加熱されてもよい。
カルシウム溶液中でゲル化された凝固卵様ゲル化物は、例えば、カルシウム溶液であるスープや調味液とともに喫食される。あるいは、凝固卵様ゲル化物は、カルシウム溶液から取り出され、調理品に使用されてもよい。
本発明のゲル化物の素を希釈した希釈液を用いることにより、熱湯やフライパンなどの加熱によって徐々に凝固する液卵と似た凝固過程を再現することができ、凝固卵の外観及び食感に近い凝固卵様ゲル化物を製することができる。
さらに、本発明の凝固卵様ゲル化物は、製造に加熱を要しないため、加熱源の有無によらず手軽に製することができる。
【0030】
<本発明の作用効果>
以上のように、本発明のゲル化物の素は、アルギン酸塩を含むことで、本物の凝固卵と同等、又は近い弾力と風味を有する凝固卵様ゲル化物を製することができる。
また、本発明のゲル化物の素は、水分中の濃度が8%以上26.5%以下の食塩を含有することで、アルギン酸塩を高濃度で配合していても、粘度の上昇を抑制できる。これにより、ゲル化物の素におけるカルシウム溶液との反応性を維持できるとともに、ゲル化物の素の充填や包装、希釈等における取り扱いが容易になる。
このように、本発明では、高濃度の食塩によって、濃縮された状態のゲル化物の素を提供することができる。本発明のゲル化物の素は、希釈して混合し、カルシウム溶液に添加することによって、手軽に凝固卵様ゲル化物を製することができる。例えば、本発明のゲル化物の素は、割卵を必要としないため、調理の手間を省くことができる。また、本発明のゲル化物の素は、凝固卵様ゲル化物の製造に加熱を要しないため、加熱源の無い場所でも凝固卵様ゲル化物を製することができる。
さらに、本発明のゲル化物の素は、30%以上65%以下の食用油脂及び10%以上35%以下の糖質を含むことで、凝固卵特有の柔らかく滑らかな食感と、コク深くわずかに甘い風味を有する凝固卵様ゲル化物を製することができる。
したがって、本発明のゲル化物の素によれば、凝固卵の食感及び風味を手軽に再現することができる。
さらに、ゲル化物の素が濃縮された状態であることで、水分活性を低下させることができる。このため、本発明のゲル化物の素は、常温で保存することも可能となり、保管や流通のための保冷設備が不要となり得る。したがって、本発明のゲル化物の素は、保管や流通のコストを削減することができる。
また、本発明のゲル化物の素は、加熱を要さないことに加えて、保管や流通のための電力消費量を削減することができるため、環境へのCO排出量を減らせるという利点もある。また、本発明のゲル化物の素は、包装のサイズを小型化することができ、廃棄物を減らすことができる。このように、本発明のゲル化物の素は、環境に配慮した製品となり得る。
さらに、上述のような手軽さから、本発明のゲル化物の素は、家庭や飲食店での調理において液卵の代替物として用いられることはもちろん、インスタント食品や弁当、総菜、チルド麺などの添付品として用いることもできる。さらに、本発明のゲル化物の素は、常温保存可能な点を活かして、非常食としても用いることができる。
加えて、本発明のゲル化物の素は、ユーザに対し、本物の液卵を攪拌して加熱するような手作り感や満足感、及び見た目の変化による調理の楽しさといった付加価値を提供することができる。また、本発明のゲル化物の素は、植物性食品を求めるユーザに対しても卵調理品と同様のおいしさ、楽しさや満足感を提供することができ、多様なユーザのニーズに応えることができる。
【0031】
以下、本発明について、実施例及び比較例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定されない。
【実施例0032】
[ゲル化物の素の調製]
まず、表1に示す配合の原料を攪拌して混合し、実施例1~15及び比較例1~4のゲル化物の素のサンプルを製した。
実施例1~15は、いずれも、アルギン酸塩、30~65%の食用油脂、10~35%の糖質、10~40%の水分、及び水分中の濃度が8~26.5%の食塩を含むサンプルとし、比較例1~4は、これらのうちの少なくとも一つを満たさないサンプルとした。
豆乳としては、無調製豆乳(大豆固形分8%以上、タンパク質含有量4.2%、脂質含有量3.7%)を用いた。
アルギン酸塩としては、アルギン酸ナトリウムを用いた。
食用油脂としては、大豆油を用いた。
表2に、表1に示す各サンプルにおける食用油脂、糖質、水分、タンパク質、及び水分に対するアルギン酸塩の割合と、水分中の食塩濃度並びに希釈倍率を示す。なお、水分中の食塩濃度は、各サンプルの水分含有量に占める食塩の含有量の割合として算出した。
具体的に、実施例1~5は、アルギン酸塩の配合量を変更したサンプルとした。
実施例6及び7は、乳化剤(大豆リゾリン脂質又はポリグリセリン脂肪酸エステル)をそれぞれ配合したサンプルとした。なお、ポリグリセリン脂肪酸エステルのHLB値は12であった。
実施例8及び9は、糖質の種類を変更したサンプルとした。
比較例1は、糖質を配合していないサンプルとした。
実施例10~12は、豆乳(植物性タンパク質)の配合量を変更したサンプルとした。
比較例2、実施例13及び比較例3は、糖質と食用油脂の配合割合を変更したサンプルとした。
実施例14は、希釈倍率を4倍に変更したサンプルとした。
比較例4、及び実施例15は、食塩の濃度を変更したサンプルとした。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
[凝固卵様ゲル化物の調製]
実施例1~15及び比較例1~4の各ゲル化物の素を、表2に示す希釈倍率となるように清水で希釈して箸で混ぜ合わせ、希釈液を製した。
続いて、3%乳酸カルシウム水溶液中に、実施例1~15及び比較例1~4の各希釈液を少量ずつ注入した。これにより、カルシウムイオンと上記ゲル化物の素のアルギン酸ナトリウムとを反応させ、膜状の凝固卵様ゲル化物を製した。
【0036】
[希釈液の作りやすさの評価]
実施例1~15及び比較例1~4のゲル化物の素を希釈する際の希釈しやすさについて、以下のA~Cで評価した。その結果を、表2に示す。
(希釈液の作りやすさの評価基準)
A:ゲル化物の素と清水とが直ちに混ざり合い、希釈液を容易に製することができた
B:しばらく混ぜ合わせることにより、ゲル化物の素と清水とが混ざり合い、希釈液を製することができた
C:ゲル化物の素と清水を混ぜ合わせても希釈液を製することができなかった
【0037】
[希釈液の作りやすさの結果]
表2に示すように、実施例1~15及び比較例1,2は、いずれもA又はB評価であり、希釈液を製することができた。このうち、食用油脂の含有量が30%以上65%以下であり、糖質の含有量が15%以上35%以下であり、水分に対するアルギン酸塩の割合が8%以上30%以下であり、食塩の濃度が10%以上25%である実施例1~4、6~7、10~14は、ゲル化物の素が清水と混ざり合いやすく、A評価であった。
一方、食用油脂の含有量が72.0%の比較例3は、油相と水相(水分)とが分離してしまい、希釈液を製することができず、C評価であった。また、食塩濃度が5.0%である比較例4は、ゲル化物の素自体がゲル化しており、希釈液を製することができず、C評価であった。
なお、各サンプルのゲル化物の素の粘度を測定したところ、実施例1~4、6~7、10~14は3000~30000mPa・sであり、その他の実施例は40000~150000mPa・sであった。なお、粘度は、BHII形粘度計を使用し、品温25℃、回転数10rpmの条件で、各サンプルの粘度測定に適したローターを用い、測定開始後3分後の示度により算出した値である。
【0038】
[凝固卵様ゲル化物の風味の評価]
実施例1~15及び比較例1~4のゲル化物の素によって製された凝固卵様ゲル化物のサンプルの一部を3人のパネラーが食し、それぞれのパネラーが以下の基準に基づいて0点~3点で風味を評価した。そして、3人のパネラーの評価点の平均点に基づいて、各サンプルの風味をA~Cで評価した。その結果を、表2に示す。
(各パネラーの評価基準)
3点:凝固卵と同等の風味を有しており、大変好ましい
2点:凝固卵に近い風味を有しており、好ましい
1点:凝固卵とやや異なる風味を有しているが、問題のない程度である
0点:凝固卵とは全く異なる風味を有しており、好ましくない
(風味の評価基準)
A:全パネラーの評価点の平均点が2点以上である
B:全パネラーの評価点の平均点が1点以上2点未満である
C:全パネラーの評価点の平均点が1点未満である
【0039】
[風味の評価結果]
表2に示すように、実施例1~15は、いずれも風味の評価がA又はBであり、凝固卵と同等又は近い風味を有していた。このうち、食用油脂の含有量が45%以上63%以下、糖質の含有量が15%以上30%以下である実施例1~8、10~12、14~15は、卵特有のコクや甘味が感じられ、A評価であった。
一方、糖質を含有していない比較例1、食用油脂の含有量が25.0%であって糖質の含有量が43.4%である比較例2は、卵のコクや甘味が全く感じられず、C評価であった。なお、希釈液を製することができなかった比較例3及び4は、凝固卵の風味の評価ができなかった。
【0040】
[食感の評価]
実施例1~15及び比較例1~4のゲル化物の素によって製された凝固卵様ゲル化物のサンプルの一部を3人のパネラーが食し、それぞれのパネラーが以下の基準に基づいて0点~3点で食感を評価した。そして、3人のパネラーの評価点の平均点に基づいて、各サンプルの食感をA~Cで評価した。その結果を、表2に示す。
(各パネラーの評価基準)
3点:柔らかさと弾力のバランスが大変良く、凝固卵と同等で好ましい
2点:柔らかさと弾力のバランスが良く、凝固卵にかなり近く、好ましい
1点:柔らかさと弾力のバランスがやや劣っているが、凝固卵に近く、問題のない程度である
0点:凝固卵とは全く異なる食感であり、好ましくない
(食感の評価基準)
A:全パネラーの評価点の平均点が2点以上である
B:全パネラーの評価点の平均点が1点以上2点未満である
C:全パネラーの評価点の平均点が1点未満である
【0041】
[食感の評価結果]
表2に示すように、実施例1~15は、いずれも食感の評価がA又はBであり、凝固卵と同等又は近い食感を有していた。このうち、食用油脂の含有量が45%以上63%以下であり、かつ、糖質の含有量が15%以上30%以下である実施例1~3、6~7、10~12,14、15は、いずれも、柔らかさと弾力のバランスが良く、A評価であった。
一方、食用油脂の含有量が43.4%である実施例4、水分に対するアルギン酸塩の割合が36.7%である実施例5、糖質の含有量が14.8%である実施例8、糖質の含有量が10.4%である実施例9、糖質を含有していない比較例1は、凝固卵よりもやや硬い食感となり、B評価であった。
また、食用油脂の含有量が25.0%であって糖質の含有量が43.4%である比較例2、食用油脂の含有量が42.0%であって糖質の含有量が31.5%である実施例13は、凝固卵よりもやや柔らかい食感となり、B評価であった。
なお、希釈液を製することができなかった比較例3及び4は、凝固卵の食感の評価ができなかった。
【0042】
[総括]
以上より、アルギン酸塩、30~65%の食用油脂、10~35%の糖質及び8~26.5%の食塩を含む本発明のゲル化物の素は、本物の凝固卵と同等又は近い風味及び食感を有する凝固卵様ゲル化物を製することができることがわかった。