(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156273
(43)【公開日】2023-10-24
(54)【発明の名称】抗HLA-G抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20231017BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20231017BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20231017BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231017BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231017BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231017BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20231017BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231017BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231017BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20231017BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/28
C07K16/46
C12N1/15
C12N1/19
C12N5/10
C12P21/08
A61P35/00
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K47/68
A61K39/395 G
A61K39/395 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】30
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023102497
(22)【出願日】2023-06-22
(62)【分割の表示】P 2022505424の分割
【原出願日】2021-12-15
(31)【優先権主張番号】20214951.4
(32)【優先日】2020-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21203272.6
(32)【優先日】2021-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.UNIX
(71)【出願人】
【識別番号】514099673
【氏名又は名称】エフ・ホフマン-ラ・ロシュ・アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ブジョツェク, アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】カーピー グティエレス チルロス, アレハンドロ
(72)【発明者】
【氏名】フレイモザー-グルンドショーバー, アネ
(72)【発明者】
【氏名】ハーゲ, カリーナ
(72)【発明者】
【氏名】ホファー, トーマス
(72)【発明者】
【氏名】キルヒナー, シルケ
(72)【発明者】
【氏名】マジェティ, メヘル
(72)【発明者】
【氏名】メスナー, エッケハルト
(72)【発明者】
【氏名】ノイマン, クリスティアーネ
(72)【発明者】
【氏名】スピック, クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ティーフェンタラー, ゲオルク
(72)【発明者】
【氏名】バインドル, トーマス
(57)【要約】 (修正有)
【課題】他の種からのHLA-A及びHLA MHC I複合体に対する交差反応性を伴わずに、それらの結合特性、HLA-Gに対するそれらの高い特異性等の非常に価値のある特性を有する抗体を提供する。
【解決手段】ヒトHLA-Gに結合する抗体であって、それぞれ特定のアミノ酸配列を含むCDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3を含むVHドメイン、並びに、それぞれ別の特定のアミノ酸配列を含むCDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3を含むVLドメイン、を含む抗体を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトHLA-Gに結合する抗体であって、
A)(a)(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号23のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、又は
B)(a)(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号25のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、を含む抗体。
【請求項2】
前記抗体が、
A)配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含むか、又は
B)配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号26のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記抗体が、ヒト起源の、特にIgGアイソタイプの、より詳しくはIgG1アイソタイプのFcドメインを含む、請求項1又は2に記載の抗体。
【請求項4】
前記抗体が、ヒトCH1、CH2、CH3及び/又はCLドメインを含む、ヒト起源の、特にIgGアイソタイプの、より詳しくはIgG1アイソタイプの定常領域を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項5】
前記抗体が、
a)改変ヒトHLA-Gβ2M MHC I複合体と交差反応せず、HLA-G特異的アミノ酸がHLA-Aコンセンサスアミノ酸によって置き換えられており、前記複合体が配列番号40を含む、及び/又は
b)配列番号41を含むマウスH2Kd β2M MHC I複合体と交差反応しない、及び/又は
c)配列番号43を含むラットRT1A β2M MHC I複合体と交差反応しない、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項6】
前記抗体が、
a)JEG3細胞(ATCC番号HTB36)(で発現されるHLA-G)へのILT2結合を阻害する;又は
b)JEG3細胞(ATCC番号HTB36)(で発現されるHLA-G)に結合し、JEG-3細胞(ATCC番号HTB36)(で発現されるHLA-G)へのILT2結合を阻害する、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項7】
前記抗体が多重特異性抗体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項8】
前記抗体が、ヒトHLA-G及びヒトCD3に結合する二重特異性抗体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項9】
前記抗体がヒトHLA-G及びヒトCD3に結合する二重特異性抗体であって、ヒトHLA-Gに結合する第1の抗原結合部分及びヒトCD3に結合する第2の抗原結合部分を含み、
ヒトHLA-Gに結合する第1の抗原結合部分が、
A)(a)(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号23のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、又は
B)(a)(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号25のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、を含み、
ヒトCD3に結合するT細胞活性化抗原に結合する第2の抗原結合部分が、
C)(a)(i)配列番号52のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号53のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号54のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号55のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号56のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号57のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、又は
D)(a)(i)配列番号60のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号61のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号62のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号63のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号64のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号65のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、又は
E)(a)(i)配列番号68のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号69のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号70のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号71のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号72のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号73のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、を含む、請求項5に記載の抗体。
【請求項10】
第1の抗原結合部分が、
A)配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含むか、又は
B)配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号26のアミノ酸配列を含むVLドメインを含み、
第2の抗原結合部分が、
C)配列番号58のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号59のアミノ酸配列を含むVLドメインを含むか、又は
D)配列番号66のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号67のアミノ酸配列を含むVLドメインを含むか、又は
E)配列番号74のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号75のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む、請求項9に記載の二重特異性抗体。
【請求項11】
第1の抗原結合部分が、
配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含み、
第2の抗原結合部分が、
配列番号58のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号59のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む、請求項10に記載の二重特異性抗体。
【請求項12】
第1の抗原結合部分が、
配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含み、
第2の抗原結合部分が、
配列番号66のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号67のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む、請求項10に記載の二重特異性抗体。
【請求項13】
第1の抗原結合部分が、
配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含み、
第2の抗原結合部分が、
配列番号74のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号75のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む、請求項10に記載の二重特異性抗体。
【請求項14】
前記二重特異性抗体が、
a)HLA-GへのILT2及び/又はILT4の結合の阻害、及び/又は
b)組換えHLA-G(SKOV3 HLA-G)でトランスフェクトしたSKOV3細胞上及び/又は内因性HLA-Gを発現するJEG3細胞上でのT細胞による抗体媒介IFNガンマ分泌(IFNガンマ分泌が検出された)、及び又は
c)組換えHLA-G(SKOV 3HLA-G)でトランスフェクトしたSKOV3細胞及び/又は内因性HLA-Gを発現するJEG3細胞に対するT細胞媒介細胞傷害/腫瘍細胞殺傷(前記細胞傷害性は、二重特異性抗体で処置した後の細胞におけるカスパーゼ8活性化を測定することによって検出された)、及び/又は
d)組換えHLA-G(SKOV3 HLA-G)ヒト化NSGマウスでトランスフェクトしたSKOV3ヒト卵巣癌腫を有するヒト化NSGマウスにおけるin vivo抗腫瘍有効性/腫瘍退縮、及び/又は
e)ヒト乳がんPDX腫瘍(BC004)を有するヒト化NSGマウスにおけるHLA-G CD3 T細胞二重特異性のin vivo抗腫瘍有効性/腫瘍、を示す、請求項7~13のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項15】
請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体、又は請求項7~13のいずれか一項に記載の二重特異性抗体をコードする、単離された核酸。
【請求項16】
請求項15に記載の核酸を含む宿主細胞、好ましくは真核生物宿主細胞。
【請求項17】
請求項16に記載の宿主細胞を培養して、前記抗体又は二重特異性抗体を産生することを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体、又は請求項7~13のいずれか一項に記載の二重特異性抗体の製造方法。
【請求項18】
前記抗体又は二重特異性抗体を前記宿主細胞から回収することを更に含む、請求項30に記載の方法。
【請求項19】
前記抗体が真核生物宿主細胞において産生される、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体、又は請求項7~13のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項20】
請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体、又は請求項7~13のいずれか一項に記載の二重特異性抗体と、薬学的に許容され得る担体とを含む、医薬製剤。
【請求項21】
医薬として使用するための、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体、又は請求項7~13のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項22】
がんの治療において使用するための、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体、又は請求項7~13のいずれか一項に記載の二重特異性抗体。
【請求項23】
医薬の製造における、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体、又は請求項7~13のいずれか一項に記載の二重特異性抗体の使用。
【請求項24】
前記医薬ががんの治療用である、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
がんを有する個体を治療する方法であって、前記個体に有効量の請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体、又は請求項7~13のいずれか一項に記載の二重特異性抗体を投与することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗HLA-G抗体、その調製、製剤及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト白血球抗原G(HLA-G)としても知られるヒト主要組織適合遺伝子複合体クラスI、6は、ヒトにおいてHLA-G遺伝子によってコードされるタンパク質である。HLA-Gは、HLA非古典的クラスI重鎖パラログに属する。このクラスI分子は、重鎖と軽鎖からなるヘテロ二量体(ベータ-2ミクログロブリン)である。重鎖は膜に固定されているが、排出/分泌される場合もある。
【0003】
重鎖は、3つのドメイン:アルファ1、アルファ2及びアルファ3からなる。アルファ1及びアルファ2ドメインは、2つのアルファヘリックスが隣接するペプチド結合溝を形成する。小さなペプチド(およそ9-mer)は、他のMHC Iタンパク質と同様にこの溝に結合することができる。
【0004】
第2の鎖は、他のMHC Iタンパク質と同様に重鎖に結合するベータ2ミクログロブリンである。
【0005】
HLA-Gについては、7つのアイソフォーム、3つの分泌型及び4つの膜結合型が存在する(
図1に概略的に示される)。
【0006】
HLA-Gは、機能的に活性な複合オリゴマー構造物(Kuroki,K et al.Eur J Immunol.37(2007)1727-1729)を形成することができる。ジスルフィド結合二量体が、2つのHLA-G分子のCys42の間に形成される。(Shiroishi M et al.,J Biol Chem 281(2006)10439-10447。三量体及び四量体の複合体は、例えば、Kuroki,K et al.Eur J Immunol.37(2007)1727-1729,Allan D.S.,et al.J Immunol Methods.268(2002)43-50 and T Gonen-Gross et al.,J Immunol 171(2003)1343-1351)にも記載されている。
【0007】
HLA-Gは、胎盤の栄養膜細胞層上に主に発現される。いくつかの腫瘍(膵臓、乳房、皮膚、結腸直腸、胃及び卵巣を含む)はHLA-Gを発現する(Lin,A.et al.,Mol Med.21(2015)782-791;Amiot,L.,et al.,Cell Mol Life Sci.68(2011)417-431)。発現はまた、炎症性疾患、GvHD及びがん等の病的症状に関連することが報告されている。HLA-Gの発現は、がんの予後不良に関連することが報告されている。腫瘍細胞は、HLA-G発現を介して免疫寛容/抑制を誘導することによって宿主免疫監視から逃れる。
【0008】
HLA-Gは、他のMHC I分子と高い相同性(98%超)を共有するため、他のMHC I分子に対する交差反応性のない真にHLA-G特異的抗体を生成することは困難である。
【0009】
HLA-Gと異なる様式で相互作用する特定の抗体が以前に記載された:組織抗原、55(2000)510-518は、モノクローナル抗体、例えば87G及びMEM-G/9に関する;Neoplasma 50(2003)331-338は、インタクトHLA-Gオリゴマー複合体(例えば、87G及びMEM-G9)並びにHLA-Gを含まない重鎖(例えば、4H84、MEM-G/1及びMEM-G/2)の両方を認識する特定のモノクローナル抗体に関する;Hum Immunol.64(2003)315-326は、HLA-G発現JEG3腫瘍細胞(例えば、ネイティブHLA-G1分子と排他的に反応するMEM-G/09及び-G/13)に対して試験したいくつかの抗体に関する。MEM-G/01は全てのアイソフォームの変性HLA-G重鎖を認識する(4H84 mAbと同様)が、MEM-G/04は選択的に変性したHLA-G1、-G2及び-G5アイソフォームを認識し、Wiendl et al Brain 2003 176-85は、例えば87G、4H84、MEM-G/9等の異なるモノクローナルHLA-G抗体に関する。
【0010】
上記の刊行物は、ヒトHLA-G又はヒトHLA-G-β2M MHC複合体に結合する抗体を報告している。しかしながら、HLAファミリーの高い多型性及び高い相同性のために、抗体の大部分は、真に特異的なHLA-G結合特性を欠き、多くの場合、他のHLAファミリーメンバーとも結合又は交差反応する(β2MとのMHC複合体として、又はそのβ2Mを含まない形態で)か、又は単にHLA-G β2M MHC複合体のその受容体ILT2及び/又はILT4への結合を阻害しない(非アンタゴニスト抗体とみなされる)。
【0011】
国際公開第2019/202040号は、抗体HLA-G-0090を含むHLA-G抗体に関する。国際公開第2019/202041号は、抗体HLA-G-0090を含む多重特異性HLA-G抗体に関する。
【発明の概要】
【0012】
本明細書中に記載される発明は、ヒトHLA-Gに結合する抗体であって、
A)(a)(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号23のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、又は
B)(a)(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号25のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、を含む抗体を提供する。
【0013】
本発明の一実施形態は、ヒトHLA-Gに結合する抗体であって、
A)配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含むか、又は
B)配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号26のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む、抗体である。
【0014】
本発明の一実施形態は、ヒトHLA-Gに結合する抗体であって、配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む抗体である。
【0015】
本発明の一実施形態は、ヒトHLA-Gに結合する抗体であって、配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号26のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む抗体である。
【0016】
そのような抗体は、他の種からのHLA-A及びHLA MHC I複合体に対する交差反応性を伴わずに、それらの結合特性、HLA-Gに対するそれらの高い特異性等の非常に価値のある特性を有する。それらは、細胞上のHLA-Gに結合し、これらの細胞上に発現されたHLA-GへのILT2及び/又はILT4の結合を阻害することができる。それらは、HLA-G抗体HLA-G-0090から生成されている。
【0017】
国際公開第2019/202040号に記載されているHLA-G抗体HLA-G-0090は、CDRの1つ(軽鎖(LC)のアミノ酸31、32及び33にNSSモチーフを含むCDR-L1)にグリコシル化部位を含むため、その結合特性は、潜在的な開発可能性の責任を構成するN-グリコシル化によって影響を受ける。
【0018】
HLA-G-0090の可変領域の相同性モデルは、軽鎖(LC)位置31~33が非常に溶媒接触性であることを示した。さらに、N31及びS32の側鎖は、CDR-H3の方向に内側を指すと予測され、それらは抗体パラトープの一部である可能性が高い。実際、いくつかの公開されている抗体-抗原X線複合体構造物は、これらの残基が抗原との化学的相互作用を受けていることを実証している。したがって、LC位置31~33に変異を導入することによって抗体の結合親和性が悪化するリスクが高かった。したがって、LC位置31、32、及び33に変異を有する抗体HLA-G-0090の様々な変異体を設計したが、それらからほとんどの変異体は結合特性又は発現性を悪化させた。驚くべきことに、グリコシル化部位が除去されたHLAG-0090のこれらの様々な変異体の中で、2つの変異体HLA-G-0090-VL-S32P及びHLA-G-0090-VL-S33Aのみが、LCのCDR-L1でN-グリコシル化をもはや示さない(したがって、Fabグリコシル化を検出することができなかった)が、更に改善された結合特性、良好な発現性及び安定性を示すことが見出された。最近承認された全ての医薬抗体産物が哺乳動物細胞、特にCHO細胞(例えば、Walsh G.,Nature Biotech(2018)1136-1145を参照されたい)で産生されるため、結合領域にグリコシル化部位を有しない抗体(VH及びVL、特にCDR)を提供することは、これらの抗体を、グリコシル化によって結合特性を(少なくとも部分的に)損なうリスクなしに哺乳動物発現系での産生に容易に使用することができるため、有益な利点となる。
【0019】
更なる実施形態では、本発明のHLA-G抗体はヒト起源のFcドメインを含む。一実施形態では、FcドメインはIgGアイソタイプのものであり、好ましい一実施形態ではIgG1アイソタイプのものである。
【0020】
更なる実施形態では、本発明のHLA-G抗体は、二重特異性抗体、特にヒトHLA-G及びヒトCD3に結合する二重特性抗体であって、ヒトHLA-Gに結合する第1の抗原結合部分及びヒトCD3に結合する第2の抗原結合部分を含む抗体である。
【0021】
一実施形態では、本発明のHLA-G抗体は、ヒトHLA-G及びヒトCD3に結合する二重特異性抗体であって、ヒトHLA-Gに結合する第1の抗原結合部分及びヒトCD3に結合する第2の抗原結合部分を含み、
ヒトHLA-Gに結合する第1の抗原結合部分は、
A)(a)(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号23のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、又は
B)(a)(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号25のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、を含み、
ヒトCD3に結合するT細胞活性化抗原に結合する第2の抗原結合部分は、
C)(a)(i)配列番号52のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号53のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号54のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号55のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号56のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号57のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、又は
D)(a)(i)配列番号60のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号61のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号62のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号63のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号64のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号65のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、又は
E)(a)(i)配列番号68のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号69のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号70のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号71のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号72のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号73のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、を含む二重特異性抗体である。
【0022】
本発明の一実施形態は、そのような二重特異性抗体であり、
第1の抗原結合部分は、
A)配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含むか、又は
B)配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号26のアミノ酸配列を含むVLドメインを含み、
第2の抗原結合部分は、
C)配列番号58のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号59のアミノ酸配列を含むVLドメインを含むか、又は
D)配列番号66のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号67のアミノ酸配列を含むVLドメインを含むか、又は
E)配列番号74のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号75のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む。
【0023】
本発明の一実施形態は、そのような二重特異性抗体であり、
第1の抗原結合部分は、
配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含み、
第2の抗原結合部分は、
配列番号58のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号59のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む。
本発明の一実施形態は、そのような二重特異性抗体であり、
第1の抗原結合部分は、
配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含み、
第2の抗原結合部分は、
配列番号66のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号67のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む。
本発明の一実施形態は、そのような二重特異性抗体であり、
第1の抗原結合部分は、
配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含み、
第2の抗原結合部分は、
配列番号74のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号75のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む。
【0024】
ヒトHLA-G及びヒトCD3に結合するそのような二重特異性抗体は、HLA-G抗体の特性に加えて、HLA-G発現細胞上のT細胞による抗体媒介IFNガンマ分泌の誘導、HLA-G発現腫瘍細胞の存在下でのT細胞活性化、HLA-G発現細胞上のT細胞媒介腫瘍細胞殺傷の誘導、及び異なるがん異種移植マウスモデルにおけるin vivo抗腫瘍有効性、更には腫瘍退縮のような更に有益な特性を示す。
【0025】
本発明は、本明細書に記載の抗体又は二重特異性抗体をコードする単離された核酸を提供する。
【0026】
本発明は、そのような核酸を含む宿主細胞を提供する。
【0027】
本発明は、抗体が産生されるように宿主細胞を培養することを含む、抗体を産生する方法を提供する。
【0028】
本発明は、宿主細胞から抗体を回収することを更に含む、抗体を産生するそのような方法を提供する。
【0029】
本発明は、宿主細胞が真核生物であるそのような宿主細胞によって産生される抗体を提供する。
【0030】
本発明は、本明細書に記載の抗体及び薬学的に許容され得る担体を含む医薬製剤を提供する。
【0031】
本発明は、医薬として使用するための本明細書に記載の抗体を提供する。
【0032】
本発明は、がんの治療に使用するための本明細書に記載の抗体を提供する。
【0033】
本発明は、医薬の製造における本明細書に記載の抗体の使用を提供する。一実施形態では、医薬は、がんの治療のためのものである。
【0034】
本発明は、がんを有する個体を治療する方法であって、有効量の本明細書に記載の抗体を個体に投与することを含む、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図2A-C】
図2A: β2Mに関連するHLA-G分子の概略図:HLA-G wt分子の概略図。
図2B: β2Mに関連するHLA-G分子の概略図:KIR2DL4及びILT2/4相互作用は、結晶構造:HLA-G:ILT4複合体構造(PDBコード:2DYP)から抽出される。KIR2DL1構造物は、PDBコード1IM9(KIR2DLl:HLA-Cw4複合体構造物)から得られ、HLA-Cw4及びHLAG構造物の重ね合わせによってHLAG上に配置された。
図2C: β2Mに関連するHLA-G分子の概略図:特異的HLA-Gバインダの同定のためのカウンター抗原として使用されたHLA-Gキメラ分子の概略図。白い点は、HLA-Gに固有であると同定された表面残基を表す。これらの残基は、キメラ分子中のHLAコンセンサス配列によって置き換えられた。
【
図2D】特定の受容体に関連するHLA-G分子の構造:所与の受容体(ILT4及びKIR2DL1等)と複合体を形成するHLA-G構造物。ILT4構造物(PDBコード:2DYP)。KIR2DL1構造物は、PDBコード1IM9(KIR2DL1:HLA-Cw4複合体構造物)から得られ、HLA-Cw4及びHLA-G構造物の重ね合わせによってHLA-G上に配置された。受容体をリボン表示で示し、HLA-Gを分子表面表示で示す。他のHLAパラログにおいて特有であるか又は保存されているHLA-G残基は、それぞれ白色及び灰色に着色されている。特有の表面残基を、キメラカウンター抗原におけるHLAコンセンサス配列によって置き換えた。
【
図3】概略的抗体-抗原結合アッセイの原理-HLA-Gへの結合に関するHLA-G抗体の相対活性濃度(RAC)
【
図4A】HLA-G-0090のN-グリコシル化の質量スペクトルはFab-グリコシル化を示す。
【
図4B】HLA-G-0090-VL-S32P及びHLA-G-0090-VL-S33AのN-グリコシル化の質量スペクトル:Fab-グリコシル化は検出不可能。
【
図5】SKOV3細胞(HLA-G発現なし、JEG3細胞(HLA-Gを発現)及びSKOV3-HLA-G細胞(HLA-GでトランスフェクトされたSKOV3細胞)上の抗HLA-G抗体HLA-G-0090、HLA-G-0090-VL-S32P及びHLA-G-0090-VL-S33A(2μg/ml)についての例示的FACS染色。
【
図6】JEG3腫瘍細胞上に天然に発現されたHLA-Gに対する組換え可溶性ILT2(ILT2 Fcドメイン融合物)の相互作用及び結合を改変/阻害するHLA-G抗体HLA-G-0090、HLA-G-0090-VL-S32P及びHLA-G-0090-VL-S33Aの能力。JEG3細胞を、JEG3細胞へのILT2結合が阻害/遮断されるように、HLA-G抗体でプレインキュベート/前処理する。対照を、HLA-G抗体前処理なしのJEG3細胞(ILT2-Fcのみ)及びアイソタイプ抗体を用いて実施した。
【
図7】抗体P1AF7977、P1AF7978及びP1AF7979によるT細胞上に発現されたCD3への二重特異性抗HLA-G/抗CD3 T細胞二重特異性(TCB)抗体の結合。
【
図8】二重特異性抗HLA-G/抗CD3 T細胞二重特異性(TCB)抗体P1AF7977、P1AF7978及びP1AF7979は、HLA-GでトランスフェクトされたJEG3細胞及びSKOV3細胞への結合を示した。
【
図9】T細胞による、抗体P1AF7977、P1AF7978及びP1AF7979による、二重特異性抗HLA-G/抗CD3 T細胞二重特異性(TCB)抗体媒介/誘導IFNガンマ分泌。
【
図10】二重特異性抗HLA-G/抗CD3 T細胞二重特異性(TCB)抗体P1AF7977、P1AF7978及びP1AF7979は、T細胞媒介性細胞傷害/腫瘍細胞殺傷を誘導した。
【
図11】腫瘍退縮をもたらす、組換えHLA-G(SKOV3 HLA-G)でトランスフェクトしたSKOV3ヒト卵巣癌腫を持つヒト化NSGマウスにおける抗HLA-G/抗CD3 T細胞二重特異性(TCB)抗体P1AF7977のin vivo抗腫瘍効果。
【
図12】ヒト乳がんPDX腫瘍(BC004)を有するヒト化NSGマウスにおける抗HLA-G/抗CD3 T細胞二重特異性(TCB)抗体P1AF7977を用いた用量応答研究。異なる用量で試験したマウスにおいて腫瘍退縮が観察されるまでの強い腫瘍成長阻害。
【
図13】本発明の二重特異性抗原結合分子の例示的な構成。(A、D)「1+1 CrossMab」分子の図。(B、E)Crossfab成分とFab成分の順序が異なる(「反転型」)「2+1 IgG Crossfab」分子の図。(C、F)「2+1 IgG Crossfab」分子の図。(G、K)Crossfab成分とFab成分の順序が異なる(「反転型」)「1+1 IgG Crossfab」分子の図。(H、L)「1+1 IgG Crossfab」分子の図。(I、M)2個のCrossFabを有する「2+1 IgG Crossfab」分子の図。(J、N)黒点:ヘテロ二量体化を促進するFcドメインにおける任意の修飾。++、--:CH1及びCLドメインにおいて任意に導入される反対の電荷のアミノ酸。Crossfab分子は、VH領域とVL領域の交換を含むものとして示されるが、CH1ドメイン及びCLドメインに電荷修飾が導入されていない実施形態では、代替的にCH1ドメインとCLドメインの交換を含む。
【
図14】SKOV3 HLAG細胞の存在下での二重特異性抗HLA-G/抗CD3抗体P1AF7977(HLA-G-0090-VL-S32P/CD3 P035)によるT細胞活性化の誘導。
【
図15】非ストレス条件下、40℃、pH6で14日後、又は37℃、pH7.4で14日後にSPRで測定した、元々の最適化されたCD3バインダ、CD3
orig及びCD3
opt(=P035-093(P035))の組換えCD3に対する相対結合活性(IgGフォーマット)。
【
図16】フローサイトメトリーで測定した、元々のCD3バインダ、CD3
orig及びCD3
opt(=P035-093(P035))のJurkat NFAT細胞に対する結合(IgGフォーマット)。Jurkat NFAT細胞に対する抗体結合は、蛍光標識された抗ヒトFc特異的二次抗体を用いて検出された。
【
図17】実施例8で使用したCD3活性化アッセイの概略図。
【
図18】元々の最適化されたCD3バインダ、CD3
orig及びCD3
opt(=P035-093(P035))によるJurkat NFAT活性化(IgGフォーマット)。Jurkat NFATレポーター細胞を、CD3
orig若しくはCD3
opt(=P035-093(P035))IgG PGLALA、又は陰性対照としてのCD3
opt IgG wtの存在下で、抗PGLALA発現CHO(CHO-PGLALA)細胞と共インキュベートした。CD3活性化を、24時間後に発光を測定することで定量化した。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本明細書で使用される場合、「HLA-G」、「ヒトHLA-G」、「HLAG」という用語は、ヒト白血球抗原G(HLA-G)(例示的な配列番号35)としても知られるHLA-Gヒト主要組織適合遺伝子複合体、クラスI、Gを指す。典型的には、HLA-Gは、β2ミクログロブリン(B2M又はβ2m)と共にMHCクラスI複合体を形成する。一実施形態では、HLA-Gは、HLA-Gとβ2ミクログロブリンとのMHCクラスI複合体を指す。好ましい一実施形態では、HLA-Gは、HLA-G1としても知られるHLA-G及びβ2ミクログロブリンの細胞表面結合MHCクラスI複合体を指す(この明細書の
図1、及び、例えば、Blaschitz et al.,Molecular Human Reproduction,11(2005)699-710、とりわけ、
図1を参照されたい)。
【0037】
本明細書で使用される場合、「ヒトHLA-Gに結合する」、「ヒトHLA-Gに特異的に結合する」、「ヒトHLA-Gに結合する」又は「抗HLA-G」抗体(単一特異性、多重特異性又は二重特異性のいずれか)又は抗原結合部分は、5.0×10-8mol/l以下のKD値、一実施形態では1.0×10-9mol/l以下のKD値、一実施形態では5.0×10-8mol/l~1.0×10-13mol/lのKD値の結合親和性で、ヒトHLA-G抗原又はその細胞外ドメイン(ECD)に特異的に結合する抗体/抗原結合部分を指す。一実施形態では、抗体は、配列番号39を含むHLA-G β2M MHC I複合体に結合する)
【0038】
結合親和性は、例えばHLA-G細胞外ドメイン(例えば、その天然に存在する3次元構造)を含む構築物を使用して、表面プラズモン共鳴技術(BIAcore(登録商標)、GE-Healthcare ウプサラ、スウェーデン)等の標準的な結合アッセイで決定される。一実施形態では、結合親和性は、配列番号39を含むMHCクラスI複合体を含む例示的な可溶性HLA-Gを使用する標準的な結合アッセイで決定される。
【0039】
HLA-Gは、通常のMHC Iフォールドを有し、2本の鎖からなる。鎖1は、アルファ1、アルファ2及びアルファ3の3つのドメインからなる。アルファ1及びアルファ2ドメインは、2つのアルファヘリックスが隣接するペプチド結合溝を形成する。小さなペプチド(およそ9mer)は、他のMHCIタンパク質と同様にこの溝に結合することができる。鎖2は、様々な他のMHCIタンパク質と共有されるベータ2ミクログロブリン(β2M)である。
【0040】
HLA-Gは、機能的に活性な複合オリゴマー構造物(Kuroki,K et al.Eur J Immunol.37(2007)1727-1729)を形成することができる。ジスルフィド結合二量体が、2つのHLA-G分子のCys42の間に形成される。(Shiroishi M et al.,J Biol Chem 281(2006)10439-10447。三量体及び四量体の複合体は、例えば、Kuroki,K et al.Eur J Immunol.37(2007)1727-1729,Allan D.S.,et al.J Immunol Methods.268(2002)43-50 and T Gonen-Gross et al.,J Immunol 171(2003)1343-1351)にも記載されている。HLA-Gは、他のMHCクラスI分子のほとんどとは異なり、いくつかの遊離システイン残基を有する。Boyson et al.,Proc Nat Acad Sci USA,99:16180(2002)は、組換え可溶性型HLA-G5が分子間Cys42-Cys42ジスルフィド結合を有するジスルフィド結合二量体を形成し得ることを報告した。さらに、膜結合型HLA-G1は、HLA-Gを内因的に発現するJEG3細胞株の細胞表面上にジスルフィド結合二量体を形成することもできる。HLA-G1及びHLA-G5のジスルフィド結合二量体形態は、栄養膜細胞の細胞表面にも見られた(Apps,R.,Tissue Antigens,68:359(2006))。
【0041】
HLA-Gは、胎盤の栄養膜細胞層上に主に発現される。いくつかの腫瘍(膵臓、乳房、皮膚、結腸直腸、胃及び卵巣を含む)はHLA-Gを発現する(Lin,A.et al.,Mol Med.21(2015)782-791;Amiot,L.,et al.,Cell Mol Life Sci.68(2011)417-431)。発現はまた、炎症性疾患、GvHD及びがん等の病的症状に関連することが報告されている。HLA-Gの発現は、がんの予後不良に関連することが報告されている。腫瘍細胞は、HLA-G発現を介して免疫寛容/抑制を誘導することによって宿主免疫監視から逃れる。
【0042】
HLA-Gについては、7つのアイソフォーム、3つの分泌型及び4つの膜結合型が存在する(
図1に概略的に示される)。HLA-Gの最も重要な機能的アイソフォームには、b2-ミクログロブリン(β2M)関連HLA-G1及びHLA-G5が含まれる。しかしながら、これらのアイソフォームの免疫寛容原性効果は異なり、リガンドの形態(単量体、二量体)及びリガンド-受容体相互作用の親和性に依存する。
【0043】
HLA-Gタンパク質は、標準的な分子生物学技術を用いて産生され得る。HLA-Gアイソフォームの核酸配列は、当技術分野で公知である。例えば、GENBANKアクセッション番号AY359818を参照されたい。
【0044】
HLA-G異性体型は、ILT、特にILT2、ILT4、又はそれらの組み合わせを介したシグナル伝達を促進する。
【0045】
ILT:ILTは、免疫細胞活性化の調節に関与し、免疫細胞の機能を制御する活性化及び阻害性受容体のIg型を表す(Borges,L.,et al.,Curr Top Microbial Immunol,244:123-136(1999))。ILTは3つのグループに分類される:(i)阻害性、細胞質免疫受容体チロシン依存性阻害性モチーフ(ITIM)を含有し、阻害性シグナル(ILT2、ILT3、ILT4、ILT5及びLIR8)を伝達するもの;(ii)活性化、短い細胞質尾部及び荷電アミノ酸残基を膜貫通ドメイン(ILT1、ILT7、ILT8及びLIR6アルファ)に含有し、Fc受容体の関連する共通ガンマ鎖の細胞質免疫受容体チロシン依存性活性化モチーフ(ITAM)を介して活性化シグナルを送達するもの;並びに(iii)膜貫通ドメインを欠く可溶性分子ILT6。いくつかの最近の研究は、抗原提示細胞(APC)の表面上のILTの免疫調節的役割を強調している。最も特徴的な免疫阻害性受容体であるILT2、ILT3、及びILT4受容体は、単球、B細胞、樹状細胞、形質細胞様樹状細胞、並びにNK細胞及びT細胞のサブセットを含む広範囲の免疫細胞上に発現される。ILT2はT細胞サブセット上で発現され、ライゲーション時にこれらの細胞の活性化及び増殖を阻害することが示されている(Colonna M.et al.,J Immunol.20011,66:2514-2521,J Immunol 2000;165:3742-3755)。ILT3及びILT4は、未成熟DCをIL-10、ビタミンD3又はサプレッサーCD8 T細胞を含む公知の免疫抑制因子に曝露することによって上方制御される(Chang,C.C.,et al.,Nat Immunol,3:237-243(2002))。DC上のILTの発現は、炎症性刺激、サイトカイン、及び成長因子によって厳密に制御され、DC活性化後に下方制御される(Ju,X.S.,et al.,Gene,331:159-164(2004))。ILT2及びILT4受容体の発現は、ヒストンアセチル化によって高度に制御され、細胞の骨髄系においてのみ厳密に制御された遺伝子発現に寄与する(Nakajima,H.,J Immunol,171:6611-6620(2003))。
【0046】
阻害性受容体ILT2及びILT4の関与は、単球のサイトカイン及びケモカインの分泌/放出プロファイルを変化させ、Fc受容体シグナル伝達を阻害することができる(Colonna,M.,et al.J Leukoc Biol,66:375-381(1999))。DC上のILT3の役割及び機能は、Suciu-Focaのグループによって正確に説明されている(Suciu-Foca,N.,Int Immunopharmacol,5:7-11(2005))。ILT3のリガンドは不明であるが、ILT4はHLAクラスI分子の第3のドメイン(HLA-A、HLA-B、HLA-C及びHLA-G)に結合し、MHCクラスI結合についてCD8と競合することが知られている(Shiroishi,M.,Proc Natl Acad Sci USA,100:8856-8861(2003))。いくつかの阻害性ILT受容体の優先的リガンドはHLA-Gである。HLA-Gは、母体-胎児寛容において、及び腫瘍細胞が免疫認識及び破壊から逃れる機構において潜在的な役割を果たす(Hunt,J.S.,et al.,Faseb J,19:681-693(2005))。HLA-G-ILT相互作用によるDC機能の調節は、DCの生物学における重要な経路である可能性が最も高い。ILT2及びILT4受容体を高度に発現するヒト単球由来DCは、HLA-Gで治療し、同種異系T細胞で刺激した場合、T細胞アネルギーを誘導する可能性を有する安定な寛容原性様表現型(CD80low、CD86low、HLA-DRlow)を依然として維持することが決定されている(Ristich,V.,et al.,Eur J Immunol,35:1133-1142(2005))。さらに、ILT2及びILT4受容体を高度に発現するDCとのHLA-G相互作用は、MHCクラスII提示経路に関与するいくつかの遺伝子の下方制御をもたらした。プロフェッショナルAPCによって豊富に発現されるリソソームチオールレダクターゼであるIFNアンマ誘導性リソソームチオールレダクターゼ(GILT)は、HLA-G修飾DCで大幅に減少した。抗原を選択するためのin vivo T細胞応答が標的遺伝子破壊後にGILTを欠く動物において減少したことから、プライミングされたCD4+T細胞のレパートリは、GILTのDC発現によって影響され得る(Marie,M.,et al.,Science,294:1361-1365(2001))。DC上のHLA-G/ILT相互作用は、MHCクラスII分子のアッセンブリ及び細胞表面への輸送を妨害し、その結果、構造的に異常なMHCクラスII分子の提示又は発現の効率が低下する可能性がある。HLA-Gは、ILT阻害性受容体を高度に発現するヒト単球由来DC上の不変鎖(CD74)、HLA-DMA、及びHLA-DMB遺伝子の転写を著しく減少させることが決定された(Ristich,V.,et al;Eur J Immunol 35:1133-1142(2005))。
【0047】
KIR2DL4がHLA-Gを発現する細胞に結合することから、HLA-Gの別の受容体はKIR2DL4である(米国特許出願公開第2003232051号;Cantoni,C.et al.Eur J Immunol 28(1998)1980;Rajagopalan,S.and E.O.Long.[好評された正誤表がJ Exp Med 191(2000)2027に見られる] J Exp Med 189(1999)1093;Ponte,M.et al.PNAS USA 96(1999)5674)。KIR2DL4(2DL4とも呼ばれる)は、活性化受容体及び阻害性受容体の両方と構造的特徴を共有するKIRファミリーメンバー(CD158dとも呼ばれる)である(Selvakumar,A.et al.Tissue Antigens 48(1996)285).。2DL4は、阻害機能を示唆する細胞質ITIMと、KIRの活性化に典型的な特徴である膜貫通領域の正に荷電したアミノ酸とを有する。他のクローン分布KIRとは異なり、2DL4は全てのNK細胞によって転写される(Valiante,N.M.et al.Immunity 7(1997)739;Cantoni,C.et al.Eur J Immunol 28(1998)1980;Rajagopalan,S.and E.O.Long.[公表された正誤表がJ Exp Med 191(2000)2027に見られる] J Exp Med 189(1999)1093)。
【0048】
HLA-Gはまた、細胞傷害性T細胞上のCD8(Sanders et al,J.Exp.Med.,174(1991),737-740)と相互作用し、活性化CD8陽性細胞傷害性T細胞においてCD95媒介性アポトーシスを誘導することが示されている(Fournel et al,J.Immun.,164(2000),6100-6104)。細胞傷害性T細胞を排除するこの機構は、妊娠、炎症性疾患及びがんにおける免疫回避及び寛容の誘導の機構の1つに報告されている(Amodio G.et al,Tissue Antigens,84(2014),255-263)。
【0049】
本明細書で使用される場合、改変ヒトHLA-G β2M MHC I複合体と「交差反応しない」又は「(特異的に)結合しない」抗HLA-G抗体(単一特異性、多重特異性又は二重特異性のいずれか)又は抗原結合部分であって、HLA-G特異的アミノ酸がHLA-Aコンセンサスアミノ酸によって置き換えられており、複合体が配列番号40を含み、マウスH2Kd β2M MHC I複合体が配列番号41を含み、ラットRT1A β2M MHC I複合体が配列番号43を含み、ヒトHLA-A2 β2M MHC I複合体が配列番号35及び配列番号33を含む、抗HLA-G抗体(単一特異性、多重特異性又は二重特異性のいずれか)又は抗原結合部分は、これらの対抗原のいずれにも実質的に結合しない抗HLA-G抗体(単一特異性、多重特異性又は二重特異性のいずれか)又は抗原結合部分を指す。一実施形態では、改変ヒトHLA-G β2M MHC I複合体と「交差反応しない」又は「特異的に結合しない」抗HLA-G抗体(単一特異性、多重特異性又は二重特異性のいずれか)又は抗原結合部分であって、HLA-G特異的アミノ酸がHLA-Aコンセンサスアミノ酸によって置き換えられており、複合体が配列番号40を含み、マウスH2Kd β2M MHC I複合体が配列番号41を含み、ラットRT1A β2M MHC I複合体が配列番号43を含み、及び/又はヒトHLA-A2 β2M MHC I複合体が配列番号35及び配列番号33を含む、抗HLA-G抗体(単一特異性、多重特異性又は二重特異性のいずれか)又は抗原結合部分は、例えば表面プラズモン共鳴アッセイ(例えば実施例2に記載される)で有意な結合/相互作用を示さない抗HLA-G抗体(単一特異性、多重特異性又は二重特異性のいずれか)又は抗原結合部分を指す。結合結合結合/相互作用は、標準的な結合アッセイ、例えばそれぞれの抗原:改変ヒトHLA-G β2M MHC I複合体を用いて表面プラズモン共鳴技術(BIAcore(登録商標)、GE-Healthcare、ウプサラ、スウェーデン)により決定され、HLA-G特異的アミノ酸はHLA-Aコンセンサスアミノ酸によって置き換えられており、複合体は配列番号40を含み、マウスH2Kd β2M MHC I複合体は配列番号41を含み、ラットRT1A β2M MHC I複合体は配列番号43を含み、及び/又はヒトHLA-A2 β2M MHC I複合体は配列番号35及び配列番号33を含む。アッセイ設定並びに抗原の構築/調製は実施例に記載されている。
【0050】
「JEG-3細胞上のHLA-GへのILT2結合を阻害する(ATCC HTB36)」という用語は、例えば実施例5に記載されるアッセイにおける(組換え)ILT2の結合相互作用の阻害を指す。
【0051】
本明細書で使用される「活性化T細胞抗原」は、抗体との相互作用によりT細胞の活性化を誘導することのできる、Tリンパ球、特に細胞傷害性Tリンパ球の表面上に発現される抗原決定基を指す。具体的には、抗体の活性化T細胞抗原との相互作用は、T細胞受容体複合体のシグナル伝達のカスケードをトリガーすることによりT細胞活性化を誘導することができる。特定の実施形態では、活性化T細胞抗原はCD3、特にCD3のイプシロンサブユニット(ヒト配列についてはUniProt番号P07766(バージョン189)、NCBI RefSeq番号NP_000724.1、配列番号88;又はカニクイザル[Macaca fascicularis]配列についてはUniProt番号Q95LI5(バージョン49)、NCBI GenBank番号BAB71849.1、配列番号108を参照されたい)である。
【0052】
「CD3」は、別途明記しない限り、霊長類(例えばヒト)、非ヒト霊長類(例えばカニクイザル)及び齧歯類(例えば、マウス及びラット)等の哺乳動物を含む任意の脊椎動物源由来の任意のネイティブCD3を指す。CD3は、例示的な活性化T細胞抗原である。「CD3」という用語は、「全長」の、プロセシングされていないCD3、及び細胞内でのプロセシングによりもたらされる任意の形態のCD3を包含する。この用語は、CD3の天然に存在する変異体、例えば、スプライス変異体又は対立遺伝子変異体も包含する。一実施形態では、CD3は、ヒトCD3、特にヒトCD3のイプシロンサブユニット(CD3ε)である。ヒトCD3εのアミノ酸配列は、UniProt(www.uniprot.org)受託番号P07766(バージョン189)、又はNCBI(www.ncbi.nlm.nih.gov/)RefSeq NP_000724.1に示されている。配列番号88も参照されたい。カニクイザル[Macaca fascicularis]CD3εのアミノ酸配列は、NCBI GenBank番号BAB71849.1に示されている。配列番号89も参照されたい。
【0053】
本明細書で使用される場合、「ヒトCD3に結合する」、「ヒトCD3に特異的に結合する」、「ヒトCD3に結合する」又は「抗CD3」抗体(単一特異性、多重特異性又は二重特異性のいずれか)又は抗原結合部分は、表面プラズモン共鳴アッセイで有意な結合/相互作用を示す、ヒトCD3抗原又はその細胞外ドメイン(ECD)に特異的に結合する抗抗体(単一特異性、多重特異性又は二重特異性のいずれか)又は抗原結合部分を指す。一実施形態ではKD値が5.0×10-8mol/l以下の結合親和性を有し、一実施形態ではKD値が1.0×10-9mol/l以下であり、一実施形態ではKD値が5.0×10-8mol/l~1.0×10--13mol/lである。一実施形態では、抗体は、配列番号88を含むCD3に結合する。
【0054】
結合親和性は、例えばHLA-G細胞外ドメイン(例えば、その天然に存在する3次元構造)を含む構築物を使用して、表面プラズモン共鳴技術(BIAcore(登録商標)、GE-Healthcare ウプサラ、スウェーデン)等の標準的な結合アッセイで決定される。一実施形態では、結合親和性は、配列番号88を含む例示的CD3を使用する標準的な結合アッセイで決定される。
【0055】
したがって、ヒトHLA-G及びヒトCD3に結合し、ヒトHLA-Gに結合する第1の抗原結合部分及びヒトCD3に結合する第2の抗原結合部分を含む多重特異性又は二重特異性は、本明細書に記載のヒトHLA-Gに対する(第1の)抗原結合部分と結合し、本明細書に記載のヒトCD3に対する別の(第2の)抗原結合部分と結合する抗体を指す。
【0056】
本明細書で使用する「T細胞活性化」は、増殖、分化、サイトカイン分泌、細胞傷害性エフェクタ分子の放出、細胞傷害性活性、及び活性化マーカーの発現から選択される、Tリンパ球、特に細胞傷害性Tリンパ球の1つ以上の細胞応答を指す。T細胞活性化を測定するために適したアッセイは、当技術分野で既知であり、本明細書に記載されている。
【0057】
本明細書の目的において「アクセプターヒトフレームワーク」とは、以下に定義するように、ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークに由来する軽鎖可変ドメイン(VL)フレームワーク又は重鎖可変ドメイン(VH)フレームワークのアミノ酸配列を含むフレームワークである。ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワーク「由来の」アクセプターヒトフレームワークは、その同じアミノ酸配列を含んでいてもよく、又はアミノ酸配列の変更を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、アミノ酸変更の数は、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、又は2以下である。いくつかの実施形態では、VLアクセプターヒトフレームワークは、VLヒト免疫グロブリンフレームワーク配列又はヒトコンセンサスフレームワーク配列に対して、配列が同一である。
【0058】
「抗体」という用語は、本明細書では最も広い意味で使用され、限定されるものではないが、それらが所望の抗原結合活性を示す限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び抗体断片を含めた、様々な抗体構造を包含する。
【0059】
「抗体断片」とは、インタクト抗体が結合する抗原に結合するインタクト抗体の一部を含む、インタクト抗体以外の分子である。抗体断片の例としては、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2、ダイアボディ、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子(例えば、scFv)、及び抗体断片から形成した多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
「二重特異性」との用語は、抗体が、少なくとも2つの別個の抗原決定基に特異的に結合することができることを意味する。典型的には、二重特異性抗体は、2つの抗原結合部位又は部分を含み、それぞれが異なる抗原決定基に対して特異的である。特定の実施形態では、二重特異性抗体は、2つの抗原決定基(特に、2つの別個の細胞で発現する2つの抗原決定基)に同時に結合することができる。
【0061】
「価数」という用語は、本明細書で使用される場合、抗体内の特定数の抗原結合部位の存在を示す。この場合、「抗原に対する一価の結合」という用語は、抗体内の抗原に特異的な1つの(及び1つを超えない)抗原結合部位の存在を示す。
【0062】
本明細書で使用される場合、「抗原結合部位」及び「抗原結合部分」という用語は交換可能であり、抗原との相互作用を提供する抗体の部位、すなわち1つ以上のアミノ酸残基を指す。例えば、抗体の抗原結合部位は、相補性決定領域(CDR)からのアミノ酸残基を含む。ネイティブ免疫グロブリン分子は、典型的には、2つの抗原結合部位を含み、Fab分子は、典型的には、1つの抗原結合部位を有する。「抗原結合部位」及び「抗原結合部分」は、抗原決定基に特異的に結合するポリペプチド分子を指す。一実施形態では、抗原結合部分は、標的部位に、例えば、抗原決定基を有する特定の種類の腫瘍細胞に結合する部分(例えば、第2の抗原結合部分)に指向することができる。別の実施形態では、抗原結合部分は、その標的抗原、例えばT細胞受容体複合体抗原を介してシグナル伝達を活性化することができる。抗原結合部分は、本明細書に更に定義される抗体及びその断片を含む。特定の抗原結合部分は、抗体重鎖可変領域と抗体軽鎖可変領域とを含む、抗体の抗原結合ドメインを含む。ある特定の実施形態では、抗原結合部分は、本明細書で更に定義され、当該技術分野で知られているような抗体定常領域を含んでいてもよい。有用な重鎖定常領域は、α、δ、ε、γ又はμの5つのアイソタイプのいずれかを含む。有用な軽鎖定常領域は、κ及びλの2つのアイソタイプのいずれかを含む。好ましい一実施形態では、そのような定常領域はヒト起源のものである。
【0063】
本明細書で使用される場合、「抗原決定基」又は「抗原」という用語は、抗原結合部分が結合して抗原結合部分-抗原複合体を形成するポリペプチド高分子上の部位を指す。有用な抗原決定基は、例えば、腫瘍細胞の表面上に、ウイルス感染した細胞の表面上に、他の疾患細胞の表面上に、免疫細胞の表面上に、血清中で遊離して、及び/又は細胞外マトリックス(ECM)中に認めることができる。
【0064】
「キメラ」抗体という用語は、重鎖及び/又は軽鎖の一部が、特定の供給源又は種に由来する抗体を指し、一方、重鎖及び/又は軽鎖の残りは、異なる供給源又は種に由来する。
【0065】
抗体の「クラス」とは、その重鎖によって保有される定常ドメイン又は定常領域のタイプを指す。抗体には5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMがあり、これらのいくつかは、更にサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2に分けられてもよい。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれ、α、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。好ましい一実施形態では、そのようなサブクラス(アイソタイプ)はヒト起源のものである。好ましい一実施形態では、本発明の抗体はIgGアイソタイプのものであり、別の好ましい実施形態では、IgG1アイソタイプのものである。
【0066】
一態様では、抗体はヒト起源の定常領域を含む。一態様では、抗体は、ヒトCH1、CH2、CH3及び/又はCLドメインを含むヒト定常領域、特にIgGアイソタイプ、より詳しくはIgG1アイソタイプを含む免疫グロブリン分子である。ヒト定常ドメインの例示的な配列は、配列番号47及び48(それぞれヒトカッパCLドメイン及びラムダCLドメイン)、並びに配列番号49(ヒトIgG1重鎖定常ドメインCH1-CH2-CH3)又は配列番号50(突然変異L234A、L235A及びP329Gを有するヒトIgG1重鎖定常領域)に示される。薬剤、例えば薬学的製剤の「有効量」は、所望の治療的又は予防的結果を達成するために、必要な投与量及び期間で有効な量を指す。
【0067】
「Fcドメイン」又は「Fc領域」という用語は、本明細書において、定常領域の少なくとも一部を含有する免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するために使用される。該用語は、ネイティブ配列Fc領域と変異体Fc領域とを含む。IgG重鎖のFc領域の境界は、わずかに変動してもよいが、ヒトIgG重鎖Fc領域は通常、Cys226から、又はPro230から、重鎖のカルボキシ末端まで伸長するよう定義されている。しかし、宿主細胞によって産生される抗体は、重鎖のC末端から1つ以上、特に1つ又は2つのアミノ酸の翻訳後開裂を受けてもよい。したがって、全長重鎖をコードする特定の核酸分子の発現によって、宿主細胞によって産生する抗体は、全長重鎖を含んでいてもよく、又は全長重鎖の開裂した変異体を含んでいてもよい(本明細書で「開裂した変異体重鎖」とも呼ばれる)。これは、重鎖の最終的な2つのC末端アミノ酸がグリシン(G446)及びリジン(K447、Kabat EUインデックスによるナンバリング)である場合であってもよい。したがって、Fc領域のC末端リジン(Lys447)、又はC末端グリシン(Gly446)及びリジン(K447)が存在してもよく、又は存在していなくてもよい。Fcドメイン(又は本明細書に定義されるFcドメインのサブユニット)を含む重鎖のアミノ酸配列は、特に示されていない場合には、本明細書では、C末端グリシン-リジンジペプチドを含まずに示される。本発明の一実施形態では、本発明による抗体又は二重特異性抗体含まれる本明細書で特定されるFcドメインのサブユニットを含む重鎖は、更なるC末端グリシン-リジンジペプチド(G446及びK447、KabatのEUインデックスによるナンバリング)を含む。本発明の一実施形態では、本発明による抗体又は二重特異性抗体含まれる本明細書で特定されるFcドメインのサブユニットを含む重鎖は、更なるC末端グリシン残基(G446、KabatのEUインデックスによるナンバリング)を含む。本発明の組成物/製剤、例えば本明細書に記載の医薬組成物/製剤は、本発明の抗体又は二重特異性抗体の集団を含む。抗体又は二重特異性抗体の集団は、完全長重鎖を有する分子及び切断された変異体重鎖を有する分子を含み得る。抗体又は二重特異性抗体の集団は、完全長重鎖を有する分子と切断された変異体重鎖を有する分子との混合物からなり得、抗体又は二重特異性抗体の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%が切断された変異体重鎖を有する。本発明の一実施形態では、本発明の抗体又は二重特異性抗体の集合を含む組成物は、更なるC末端グリシン-リジンジペプチド(G446及びK447、KabatのEUインデックスによるナンバリング)を含む、本明細書で特定されるFcドメインのサブユニットを含む重鎖を含む抗体又は二重特異性抗体を含む。本発明の一実施形態では、本発明の抗体又は二重特異性抗体の集合を含む組成物は、更なるC末端グリシン残基(G446、KabatのEUインデックスによるナンバリング)を含む、本明細書で特定されるFcドメインのサブユニットを含む重鎖を含む抗体又は二重特異性抗体を含む。本発明の一実施形態では、そのような組成物は、本明細書で特定されるFcドメインのサブユニットを含む重鎖を含む分子、更なるC末端グリシン残基(G446、KabatのEUインデックスによるナンバリング)を含む本明細書で特定されるFcドメインのサブユニットを含む重鎖を含む分子、更なるC末端グリシン-リジンジペプチド(G446及びK447、KabatのEUインデックスによるナンバリング)を含む本明細書で特定されるFcドメインのサブユニットを含む重鎖を含む分子で構成される抗体又は二重特異性抗体の集合を含む。本明細書で別途明記されない限り、Fc領域又は定常領域におけるアミノ酸残基のナンバリングは、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991(上も参照されたい)に記載されるような、EUナンバリングシステム(EUインデックスとも呼ばれる)に従う。Fcドメインの「サブユニット」は、本明細書で使用される場合、二量体Fcドメインを形成する2つのポリペプチドのうちの1つ、すなわち、安定した自己会合が可能な、免疫グロブリン重鎖のC末端定常領域を含むポリペプチドを指す。例えば、IgG Fcドメインのサブユニットは、IgG CH2及びIgG CH3定常ドメインを含む。好ましい一実施形態では、そのようなFcドメインは、ヒト起源、1つの好ましい実施形態ではIgGアイソタイプ、別の好ましい実施形態のIgG1アイソタイプのものである。
【0068】
「フレームワーク」又は「FR」は、補体決定領域(CDR)残基以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、一般に、以下の4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3及びFR4の4つのFRドメインからなる。したがって、CDR及びFR配列は、一般に、VH(又はVL)において次の配列において出現する:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
【0069】
「完全長抗体」、「インタクトな抗体」、及び「全抗体」という用語は、本明細書で、天然抗体構造と実質的に同様の構造を有するか、又は本明細書に定義されるFc領域を含有する重鎖を有する抗体を指すように同義に使用される。
【0070】
「融合した」が意味するのは、構成要素(例えば、Fab分子及びFcドメインサブユニット)が、ペプチド結合によって直接的に又は1つ以上のペプチドリンカーを介してのいずれかにより結合されていることである。
【0071】
「Fab分子」とは、免疫グロブリンの重鎖(「Fab重鎖」)のVHドメイン及びCH1ドメインと、免疫グロブリンの軽鎖(「Fab軽鎖」)のVLドメイン及びCLドメインと、からなるタンパク質を指す。
【0072】
「クロスオーバー」Fab分子(「Crossfab」とも呼ばれる)とは、Fab重鎖及び軽鎖の可変ドメイン及び定常ドメインが交換されている(すなわち、互いに置き換わっている)Fab分子を意味し、すなわち、クロスオーバーFab分子は、軽鎖可変ドメインVL及び重鎖定常ドメイン1 CH1(VL-CH1、N末端からC末端方向に)から構成されるペプチド鎖と、重鎖可変ドメインVH及び軽鎖定常ドメインCL(VH-CL、N末端からC末端方向に)から構成されるペプチド鎖と、を含む。明確性のために、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子において、重鎖定常ドメイン1 CH1を含むペプチド鎖は、本明細書では、(クロスオーバー)Fab分子の「重鎖」と呼ばれる。逆に、Fab軽鎖及びFab重鎖の定常ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子において、重鎖可変ドメインVHを含むペプチド鎖は、本明細書では、(クロスオーバー)Fab分子の「重鎖」と呼ばれる。
【0073】
これとは対照的に、「従来の」Fab分子は、その天然のフォーマットでのFab分子を意味し、すなわち、重鎖可変ドメイン及び定常ドメインから構成される重鎖(VH-CH1、N末端からC末端方向に)と、軽鎖可変ドメイン及び定常ドメインから構成される軽鎖(VL-CL、N末端からC末端方向に)と、を含む。「宿主細胞、」、「宿主細胞株、」及び「宿主細胞培養物」という用語は互換的に使用され、外因性核酸が導入された細胞を指し、そのような細胞の子孫を含む。宿主細胞としては、「形質転換体」及び「形質転換細胞」が含まれ、これらには、初代形質転換細胞及び継代の数にかかわらず宿主細胞に由来する子孫が含まれる。子孫は、親細胞と完全に同一の核酸含量でない場合があるが、突然変異を含んでもよい。元々の形質転換された細胞についてスクリーニングされるか又は選択されるのと同じ機能又は生物活性を有する変異体の子孫は、本発明に含まれる。
【0074】
「ヒト抗体」とは、ヒト若しくはヒト細胞により産生された抗体、又はヒト抗体レパートリ等のヒト抗体をコードする配列を利用した非ヒト由来の抗体に対応するアミノ酸配列を有する抗体である。このヒト抗体の定義は、非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を明確に除外する。
【0075】
「ヒト化」抗体とは、非ヒトCDR由来のアミノ酸残基、及びヒトFR由来のアミノ酸残基を含むキメラ抗体を指す。ある特定の実施形態では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、CDR(例えばCDR)の全て又は実質的に全てが、非ヒト抗体に対応し、FRの全て又は実質的に全てが、ヒト抗体に対応する。ヒト化抗体は、任意に、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部を含んでいてもよい。抗体、例えば、非ヒト抗体の「ヒト化形態」は、ヒト化を受けた抗体を指す。
【0076】
本明細書で使用される場合、「相補性決定領域」又は「CDR」という用語は、配列が超可変であり、及び/又は構造的に明確なループ(「超可変ループ」)を形成し、及び/又は抗原接触残基(「抗原接触」)を含む抗体可変ドメインの各領域を指す。一般に、抗体は6つのCDRを含み、3つがVH中にあり(CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3)、3つがVL中にある(CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3)。本明細書における例示的なCDRとしては、以下が挙げられる:
(a)アミノ酸残基26~32(CDR-L1)、50~52(CDR-L2)、91~96(CDR-L3)、26~32(CDR-H1)、53~55(CDR-H2)及び96~101(CDR-H3)で生じる超可変ループ(Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.196:901-917(1987));
(b)アミノ酸残基24-34(CDR-L1)、50-56(CDR-L2)、89-97(CDR-L3)、31-35b(CDR-H1)、50-65(CDR-H2)、及び95-102(CDR-H3)で生じるCDR(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991));
(c)アミノ酸残基27c-36(CDR-L1)、46-55(CDR-L2)、89-96(CDR-L3)、30-35b(CDR-H1)、47-58(CDR-H2)、及び93-101(CDR-H3)で生じる抗原接触(MacCallum et al.J.Mol.Biol.262:732-745(1996));並びに
(d)CDRアミノ酸残基24~34(CDR-L1)、50~56(CDR-L2)、89~97(vL3)、31~35(CDR-H1)、50~63(CDR-H2)及び95~102(CDR-H3)を含む(a)、(b)及び/又は(c)の組み合わせ。
【0077】
別段の示がない限り、可変ドメイン中のCDR残基及び他の残基(例えばFR残基)は、本明細書ではKabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991)に従ってナンバリングされる。
【0078】
「個体」又は「対象」は、哺乳動物である。哺乳類としては、家畜化動物(例えば、牛、羊、猫、犬、馬等)、霊長類(例えば、ヒト、サル等の非ヒト霊長類)、ウサギ、げっ歯類(例えば、マウス、ラット等)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。ある特定の実施形態では、個体又は対象は、ヒトである。
【0079】
「単離された」抗体は、その天然環境の構成要素から分離された抗体である。一実施形態では、抗体は単離された抗体である。いくつかの実施形態では、抗体は、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)又はクロマトグラフ(例えば、イオン交換又は逆相HPLC)によって決定される、95%超又は99%超の純度まで精製される。抗体純度の評価のための方法の総説については、例えば、Flatman,S.et al.,J.Chromatogr.B 848(2007)79-87を参照されたい。
【0080】
「単離された」核酸は、その天然環境の構成要素から分離された核酸分子を指す。単離核酸は、元々その核酸分子を含む細胞に含まれているが、その核酸分子が、染色体外に存在するか、又はその天然の染色体位置とは異なる染色体位置に存在する核酸分子を含む。
【0081】
「抗HLA-G抗体をコードする単離された核酸」とは、抗体の重鎖及び軽鎖(又はそれらの断片)をコードする1つ以上の核酸分子を指し、単一のベクター又は別個のベクター内のそのような核酸分子(複数可)を含み、そのような核酸分子(複数可)は、宿主細胞内の1つ以上の場所に存在する。
【0082】
本明細書で使用される場合、「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に同種の抗体の集団から得られた抗体を指し、すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、同一であり、及び/又は同じエピトープに結合するが、例えば、自然発生突然変異を含有するか、又はモノクローナル抗体調製物の産生中に生じる、起こり得る変異型抗体は例外であり、そのような変異型は一般的に少量で存在する。典型的には異なる決定基(エピトープ)に対して指向する異なる抗体を含むポリクローナル抗体製剤とは対照的に、モノクローナル抗体製剤のそれぞれのモノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して指向する。したがって、修飾語「モノクローナル」は、抗体の実質的に均一な集合から得られる抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とするように解釈すべきではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法、組み換えDNA法、ファージディスプレイ法、及びヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部又は一部を含有するトランスジェニック動物を利用する方法を含むが、これらに限定されない多様な技法によって作製することができ、モノクローナル抗体を作製するためのそのような方法及び他の例示的な方法が、本明細書に記載されている。
【0083】
「Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットとの会合を促進する修飾」は、ホモ二量体を形成するためのFcドメインサブユニットを含むポリペプチドの同一のポリペプチドとの会合を減少又は防止する、ペプチド骨格の操作又はFcドメインサブユニットの翻訳後修飾である。会合を促進する修飾は、本明細書で使用される場合、特に、会合することが望ましい2つのFcドメインサブユニット(すなわち、Fcドメインの第1のサブユニット及び第2のサブユニット)のそれぞれに対し、別個の修飾を含み、修飾は、2つのFcドメインサブユニットの会合を促進するように、互いに相補的である。例えば、会合を促進する修飾は、それぞれ立体的又は静電的に望ましい会合を行うように、Fcドメインサブユニットの片方又は両方の構造又は電荷を変えてもよい。したがって、(ヘテロ)二量化は、第1のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドと、第2のFcドメインサブユニットを含むポリペプチドとの間で起こり、それぞれのサブユニットに融合する更なる構成要素(例えば、抗原結合部分)が同じではないという意味で、同一ではない場合がある。いくつかの実施形態では、会合を促進する修飾は、Fcドメイン内のアミノ酸変異、具体的には、アミノ酸置換を含む。特定の実施形態では、会合を促進する修飾は、Fcドメインの2つのサブユニットそれぞれに、別個のアミノ酸変異、特定的にはアミノ酸置換を含む。Fcドメインの第1及び第2のサブユニットの会合を促進するそのような修飾は、多重特異性抗体又は二重特異性抗体のヘテロ二量体化において重要な役割を果たす(例えば、以下のA.2の例示的な多重特異性抗HLA-G/抗CD3抗体も参照されたい)。
【0084】
「ネイティブ抗体」とは、様々な構造を持つネイティブに存在する免疫グロブリン分子を指す。例えば、天然IgG抗体は、ジスルフィド結合されている2つの同一の軽鎖及び2つの同一の重鎖で構成される約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端まで、各重鎖は、可変重ドメイン又は重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VH)を有し、続いて3つの定常ドメイン(CH1、CH2、及びCH3)を有する。同様に、N末端からC末端まで、各軽鎖は、可変軽ドメイン又は軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VL)を有し、これに定常軽(CL)ドメインが続く。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2つの種類の1つに割り当てられてもよい。
【0085】
「添付文書」という用語は、治療製品の市販パッケージに通常含まれる指示を指すために用いられ、そのような治療製品に関する適応症、使用、投薬量、投与、併用療法、禁忌及び/又は警告に関する情報を含む。
【0086】
参照ポリペプチド配列に関する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」は、最大の配列同一性パーセントを達成するために、配列をアラインメントし、必要に応じてギャップを導入した後に、いかなる保存的置換も配列同一性の一部として考慮せずに、参照ポリペプチド配列におけるアミノ酸残基と同一である、候補配列におけるアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定する目的のための整列は、当技術分野における技術の範囲内にある種々の方法において、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェア等の公的に入手可能なコンピュータソフトウェアを用いて達成され得る。当業者であれば、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列のアラインメントのための適切なパラメータを決定することができる。しかしながら、本明細書での目的のために、アミノ酸配列同一性%値は、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を用いて生成している。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムは、Genentech,Inc.が作成したものであり、ソースコードは、使用者用書類と共に、米国著作権局、Washington D.C.、20559に提出され、ここで、米国著作権登録番号TXU510087として登録されている。ALIGN-2プログラムは、Genentech,Inc.(South San Francisco,California)から公的に入手可能であり、又はそのソースコードからコンパイルし得る。ALIGN-2プログラムは、デジタルUNIX V4.0Dを含め、UNIXオペレーティングシステムで使用するためにコンパイルされるべきである。全ての配列比較パラメータは、ALIGN-2プログラムによって設定されており、変わらない。
【0087】
ALIGN-2がアミノ酸配列比較に用いられる状況では、所与のアミノ酸配列Bへの、アミノ酸配列Bとの、又はアミノ酸配列Bに対する、所与のアミノ酸配列Aのアミノ酸配列同一性%(あるいは、所与のアミノ酸配列Bへの、アミノ酸配列Bとの、又はアミノ酸配列Bに対する、ある特定のアミノ酸配列同一性%を有する又は含む、所与のアミノ酸配列Aとして記述され得る)は、以下のように計算される:
100×分数X/Y
式中、Xは、配列アラインメントプログラムALIGN-2によって、そのプログラムのAとBのアラインメントにおいて同一のマッチとしてスコア付けされたアミノ酸残基の数であり、Yは、B中のアミノ酸残基の総数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さに等しくない場合、A対Bの%アミノ酸配列同一性は、B対Aの%アミノ酸配列同一性に等しくないことが理解されよう。特に明記しない限り、本明細書で使用される全ての%アミノ酸配列同一性値は、ALIGN-2コンピュータプログラムを使用して直前の段落に記載されているように得られる。
【0088】
「医薬製剤」という用語は、そこに含まれる有効成分の生物学的活性が有効であることを可能にするような形態であり、かつ、製剤が投与されるであろう被験者に許容できない毒性を有する追加成分を含まない製剤をいう。
【0089】
「薬学的に許容され得る担体」は、対象に対して非毒性である、活性成分以外の医薬製剤中の成分を指す。薬学的に許容され得る担体には、緩衝剤、賦形剤、安定剤、又は防腐剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0090】
本明細書で使用される場合、「治療」(及びその文法的な変形語、例えば、「治療する」又は「治療すること」)は、治療される個体の本来の経過を変える試みにおける臨床的介入を指し、予防のために、又は臨床病理の経過の間に行うことができる。治療の所望の効果としては、疾患の発症又は再発を予防すること、症状の軽減、疾患の任意の直接的又は間接的な病理学的結果の減弱、転移を予防すること、疾患進行速度を低下させること、病状の寛解又は緩和、及び回復又は予後の改善が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、疾患の発症を遅延させるため、又は疾患の進行を遅延させるために使用される。
【0091】
「可変領域」又は「可変ドメイン」とは、抗体と抗原との結合に関与する、抗体の重鎖又は軽鎖のドメインである。天然の抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれVH及びVL)は、一般的に、同様の構造を有し、それぞれのドメインは、4つの保存されたフレームワーク領域(FR)と、3つの相補性決定領域(CDR)とを含む。(例えばKindt,T.J.et al.Kuby Immunology,6th ed.,W.H.Freeman and Co.,N.Y.(2007),page 91を参照されたい)抗原結合特異性を付与するには、単一のVH又はVLドメインで十分であり得る。さらに、特定の抗原に結合する抗体は、抗原に結合する抗体のVH又はVLドメインを使用し、それぞれ、相補的VL又はVHドメインのライブラリをスクリーニングして、単離してもよい。例えば、Portolano,S.et al.,J.Immunol.150(1993)880-887;Clackson,T.et al.,Nature 352(1991)624-628)を参照されたい。
【0092】
「ベクター」という用語は、本明細書では、連結している別の核酸を増殖可能な核酸分子を指す。この用語には、自己複製する核酸構造としてのベクターだけでなく、ベクターが導入された宿主細胞のゲノムに組み込まれたベクターも含まれる。ある種のベクターは、動作可能に連結された核酸の発現を指示することができる。そのようなベクターを、本明細書では「発現ベクター」と呼ぶ。
I.組成物及び方法
【0093】
一態様では、本発明は、驚くべきことに、グルコシル化部位が除去されたHLA-G-0090の様々な変異体のうち、2つの変異体HLA-G-0090-VL-S32P及びHLA-G-0090-VL-S33Aのみが、LCのCDR-L1でグリコシル化をもはや示さない(したがって、Fabグリコシル化を検出することができなかった)が、更に改善された結合特性、良好な発現性及び安定性を示すという知見に部分的に基づく。最近承認された全ての医薬抗体産物が哺乳動物細胞、特にCHO細胞(例えば、Walsh G.,Nature Biotech(2018)1136-1145を参照されたい)で産生されるため、結合領域にグリコシル化部位を有しない抗体(VH及びVL、特にCDR)を提供することは、その後、これらの抗体を、グリコシル化によって結合特性を(少なくとも部分的に)損なうリスクなしに哺乳動物発現系での産生に容易に使用することができるため、有益な利点となる。特にFcドメインを含む抗体の場合、Fc領域中のアミノ酸残基ASN297(ナンバリングはKabatのEUインデックスに従う)に結合したN-グリカンは、溶解性及び熱安定性を維持し、水溶液中での(例えば、医薬組成物において)抗体の凝集を防ぐために必要であることから、グリコシル化機構を欠く宿主細胞(原核生物宿主細胞等)で抗体を製造しても、同等の品質の生成物は得られない。
A.1 例示的な抗HLA-G抗体
【0094】
本発明の一実施形態は、ヒトHLA-Gに結合する抗体であって、
A)(a)(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号23のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、又は
B)(a)(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号25のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、を含む抗体を提供する。
【0095】
本発明の一実施形態は、ヒトHLA-Gに結合する抗体であって、
A)配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含むか、又は
B)配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号26のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む、抗体である。
【0096】
本発明の一実施形態は、ヒトHLA-Gに結合する抗体であって、配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む抗体である。
【0097】
本発明の一実施形態は、ヒトHLA-Gに結合する抗体であって、配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む抗体である。
【0098】
実施形態では、そのような抗HLA-G抗体は、配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン及び配列番号8のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む(親)抗体と比較して、最大結合(Rmax)及び/又は結合親和性(KD)に関して改善された結合特性を有する(実施例2に示される)。更なる実施形態では、本発明のHLA-G抗体はヒト起源のFcドメインを含み、一実施形態では、FcドメインはIgGアイソタイプのものであり、好ましい一実施形態ではIgG1アイソタイプのものである。一実施形態では、ヒト起源のそのようなIgG1アイソタイプFcドメインはアミノ酸変異L234A、L235A及びP329G(「P329G LALA」、「PGLALA」又は「LALAPG」)を含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0099】
更なる実施形態では、本発明のHLA-G抗体は、ヒトCH1、CH2、CH3及び/又はCLドメインを含むヒト起源の定常領域、特にIgGアイソタイプの定常領域、より詳しくはIgG1アイソタイプの定常領域を含む。
【0100】
一実施形態では、IgG1アイソタイプのそのような定常領域はアミノ酸変異L234A、L235A及びP329G(「P329G LALA」、「PGLALA」又は「LALAPG」)を含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0101】
そのようなFcドメイン含有抗体は、典型的には、例えば哺乳動物細胞、特にCHO細胞のような真核細胞で産生される場合、ASN-297(Kabat EUインデックスによるナンバリング)の位置でN-グリコシル化され得る。位置ASN-297でのN-グリコシル化(EUインデックス(Kabatを参照されたい)によるナンバリング)は、例えば、そのような抗体の高い安定性、低い凝集傾向及び/又は良好な薬物動態学的及び他の重要な品質特性に対する貴重な貢献となる(例えば、Zheng et al,mAbs(2011)568-576;and Reusch et al,Glycobiology(2015)1325-133)。したがって、本発明のそのようなFcドメイン含有抗体は、哺乳動物細胞、特にCHO細胞のような真核細胞における産生の準備が容易であり、結合領域においてグリコシル化(その結合特性を妨害し得る)されるリスクがないが、同時に、ASN-297位におけるN-グリコシル化の利益及び有益な品質特性伴う。
【0102】
本発明の一実施形態は、ヒトHLA-Gに結合する抗体であって、配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含み、(実施例2に示すように)配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン及び配列番号8のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む(親)抗体と比較して、最大結合(Rmax)及び/又は結合親和性(KD)に関して改善された結合特性を有する抗体である。
【0103】
実施形態では、抗HLA-G抗体は、
a)改変ヒトHLA-G β2M MHC I複合体と交差反応せず、HLA-G特異的アミノ酸がHLA-Aコンセンサスアミノ酸によって置き換えられており、複合体が配列番号40を含む、及び/又は
b)配列番号41を含むマウスH2Kd β2M MHC I複合体と交差反応しない、及び/又は
c)配列番号43を含むラットRT1A β2M MHC I複合体と交差反応しない。
実施形態では、抗HLA-G抗体は、
a)JEG3細胞(ATCC番号HTB36)(で発現されるHLA-G)へのILT2結合を阻害するか;又は
b)JEG3細胞(ATCC番号HTB36)(で発現されるHLA-G)に結合し、JEG-3細胞(ATCC番号HTB36)へのILT2結合を阻害する。
【0104】
別の態様では、本発明は、抗HLA-G抗原結合部分を含む多重特異性抗体に関する。本明細書に記載されるこれらの多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)は、選択され、改善された抗HLA-G抗体を第1の抗原結合部分/部位として使用する。これらの抗HLA-G抗体は、高い特異性及び親和性(改善された結合特性、他の種及びヒトHLA-Aコンセンサス配列との交差反応性なし)でtoHLA-Gに結合し、HLA-GへのILT2及び/又はILT4の結合を特異的に阻害する能力を有する。
【0105】
一実施形態では、本発明は、ヒトHLA-G及びヒトCD3に結合する多重特異性(好ましくは二重特異性)に関する。一実施形態では、本発明は、ヒトHLA-G及びヒトCD3に結合する多重特異性(好ましくは二重特異性)抗体が、ヒトHLA-Gに結合する第1の抗原結合部分及びヒトCD3に結合する第2の抗原結合部分を含む、多重特異性(好ましくは二重特異性)抗HLA-G/抗CD3抗体に関する。本明細書に記載のこの二重特異性抗体は、CD3、特にCD3イプシロンに特異的な第2の抗原結合部分/部位と結合し、したがってCD3発現T細胞をHLA-G発現腫瘍細胞に引き付けることができ、同時にHLA-GへのILT2/4結合を遮断することによって腫瘍環境におけるHLA-G誘導性免疫抑制を阻害することができる。したがって、これらの二重特異性抗HLA-G/抗CD3抗体は、in vivoで強い腫瘍成長阻害及び腫瘍退縮を示す。
A.2 例示的な多重特異性抗HLA-G/抗CD3抗体
【0106】
本発明の一実施形態は、ヒトHLA-G及びヒトCD3に結合する二重特異性抗体であって、ヒトHLA-Gに結合する第1の抗原結合部分及びヒトCD3に結合する第2の抗原結合部分を含み、
ヒトHLA-Gに結合する第1の抗原結合部分は、
A)(a)(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号23のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、又は
B)(a)(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号25のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、を含み、
ヒトCD3に結合するT細胞活性化抗原に結合する第2の抗原結合部分は、
C)(a)(i)配列番号52のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号53のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号54のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号55のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号56のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号57のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、又は
C)(a)(i)配列番号60のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号61のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号62のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号63のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号64のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号65のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、又は
D)(a)(i)配列番号68のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号69のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号70のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号71のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号72のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号73のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、を含む二重特異性抗体である。
【0107】
本発明の別の実施形態は、ヒトHLA-G及びヒトCD3に結合する二重特異性抗体であって、ヒトHLA-Gに結合する第1の抗原結合部分及びヒトCD3に結合する第2の抗原結合部分を含み、
第1の抗原結合部分は、
A)配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含むか、又は
B)配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号26のアミノ酸配列を含むVLドメインを含み、
第2の抗原結合部分は、
C)配列番号58のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号59のアミノ酸配列を含むVLドメインを含むか、又は
D)配列番号66のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号67のアミノ酸配列を含むVLドメインを含むか、又は
E)配列番号74のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号75のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む。
【0108】
本発明の別の実施形態は、ヒトHLA-G及びヒトCD3に結合する二重特異性抗体であって、ヒトHLA-Gに結合する第1の抗原結合部分及びヒトCD3に結合する第2の抗原結合部分を含み、
第1の抗原結合部分は、
配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含み、
第2の抗原結合部分は、
配列番号58のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号59のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む。
【0109】
本発明の別の実施形態は、ヒトHLA-G及びヒトCD3に結合する二重特異性抗体であって、ヒトHLA-Gに結合する第1の抗原結合部分及びヒトCD3に結合する第2の抗原結合部分を含み、
第1の抗原結合部分は、
配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含み、
第2の抗原結合部分は、
配列番号66のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号67のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む。
【0110】
本発明の別の実施形態は、ヒトHLA-G及びヒトCD3に結合する二重特異性抗体であって、ヒトHLA-Gに結合する第1の抗原結合部分及びヒトCD3に結合する第2の抗原結合部分を含み、
第1の抗原結合部分は、
配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含み、
第2の抗原結合部分は、
配列番号74のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号75のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む。
【0111】
一実施形態では、これらの二重特異性抗体は、以下の1つ以上の特性を特徴とする:
a)HLA-G発現腫瘍細胞の存在下(好ましくはJEG3細胞(ATCC番号HTB36)の存在下)でのT細胞媒介性細胞傷害/腫瘍細胞殺傷の誘導、及び/又は
b)HLA-G発現腫瘍細胞の存在下(好ましくはJEG3細胞(ATCC番号HTB36)でのT細胞によるIFNガンマ分泌の誘導)、及び/又は
c)in vivoでの腫瘍成長の阻害(マウス異種移植腫瘍モデルにおいて)、
d)組換えHLA-G(SKOV3 HLA-G)ヒト化NSGマウスでトランスフェクトしたSKOV3ヒト卵巣癌腫を有するヒト化NSGマウスにおけるin vivo抗腫瘍有効性/腫瘍退縮(実施例13を参照されたい)、及び/又は
e)ヒト乳がんPDX腫瘍(BC004)を有するヒト化NSGマウスにおけるHLA-G CD3 T細胞二重特異性のin vivo抗腫瘍有効性/腫瘍(実施例14を参照されたい)。
【0112】
一実施形態では、これらの二重特異性抗体は、以下の1つ以上の特性を更に特徴とする:二重特異性抗体は、
a)改変ヒトHLA-G β2M MHC I複合体と交差反応せず、HLA-G特異的アミノ酸がHLA-Aコンセンサスアミノ酸によって置き換えられており、複合体が配列番号44を含む、及び/又は
b)配列番号41を含むマウスH2Kd β2M MHC I複合体と交差反応しない、及び/又は
c)配列番号43を含むラットRT1A β2M MHC I複合体と交差反応しない。
【0113】
一実施形態では、これらの二重特異性抗体は、以下の1つ以上の特性を更に特徴とする:二重特異性抗体は、
a)JEG3細胞(ATCC番号HTB36)(で発現されるHLA-G)へのILT2結合を阻害するか;又は
b)JEG3細胞(ATCC番号HTB36)(で発現されるHLA-G)に結合し、JEG-3細胞(ATCC番号HTB36)へのILT2結合を阻害する、及び/又は
多重特異性抗体
【0114】
多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる部位、すなわち、異なる抗原上の異なるエピトープ又は同じ抗原上の異なるエピトープに対して結合特異性を有するモノクローナル抗体である。ある特定の実施形態では、多重特異性抗体は、3つ以上の結合特異性を有する。好ましい実施形態では、本明細書で提供される多重特異性抗体は二重特異性抗体である。ある特定の実施形態では、結合特異性の一方はHLA-Gに対するものであり、他方の特異性はCD3に対するものである。ある特定の実施形態では、二重特異性抗体はHLA-Gの2つ(又はそれ以上)の異なるエピトープに結合し得る。多重特異性抗体は、完全長抗体又は抗体断片として調製され得る。
【0115】
多重特異性抗体及び特に二重特異性抗体を作製するための技術には、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の組換え共発現(Milstein and Cuello,Nature 305:537(1983)を参照されたい)及び「ノブ・イン・ホール(knob-in-hole)」操作(例えば、米国特許第5,731,168号及びAtwell et al.,J.Mol.Biol.270:26(1997)を参照されたい)が含まれるが、これらに限定されない。多重特異性抗体は、また、抗体Fcヘテロ二量体分子を作製するための静電ステアリング効果の操作(例えば、国際公開第2009/089004号を参照されたい);2つ以上の抗体若しくは断片の架橋(例えば、米国特許第4,676,980号及びBrennan et al.,Science,229:81(1985))を参照されたい);ロイシンジッパーを使用した二重特異性抗体の産生(例えば、Kostelny et al.,J.Immunol.,148(5):1547-1553(1992)及び国際公開第2011/034605号を参照されたい);軽鎖の誤対合問題を回避するための一般的な軽鎖技術の使用(例えば、国際公開第98/50431号を参照されたい);二重特異性抗体断片を作製するための「ダイアボディ」技術の使用(例えば、Hollinger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444-6448(1993)を参照されたい);及び一本鎖Fv(sFv)二量体の使用(例えば、Gruber et al.,J.Immunol.,152:5368(1994)を参照されたい);並びに例えばTutt et al.J.Immunol.147:60(1991)に記載されている三重特異性抗体の調製によって作製することができる。
【0116】
例えば、「オクトパス抗体」を含め、3つ以上の抗原結合部位を有する操作抗体、又はDVD-Igもまたここに含まれる(例えば、国際公開第2001/77342号及び国際公開第2008/024715号を参照されたい)。3つ以上の抗原結合部位を有する多重特異性抗体の他の例は、国際公開第2010/115589号、国際公開第2010/112193号、国際公開第2010/136172号、国際公開第2010/145792号及び国際公開第2013/026831号に見出され得る。二重特異性抗体又はその抗原結合断片には、HLA-Gと別の異なる抗原、又はHLA-Gの2つの異なるエピトープに結合する抗原結合部位を含む「二重作用FAb」又は「DAF」も含まれる(例えば、米国特許出願公開第2008/0069820号明細書及び国際公開第2015/095539号を参照されたい)。
【0117】
多重特異性抗体はまた、同じ抗原特異性の1つ以上の結合アームにドメインクロスオーバーを持つ非対称形態で、すなわちVH/VLドメイン(例えば、国際公開第2009/080252号及び国際公開第2015/150447号を参照されたい)、CH1/CLドメイン(国際公開第2009/080253号を参照されたい)又は完全なFabアーム(国際公開第2009/080251号、国際公開第2016/016299号を参照、Schaefer et al,PNAS,108(2011)1187-1191、及びKlein at al.,MAbs 8(2016)1010-20も参照されたい)を交換することによっても提供され得る。非対称Fabアームは、荷電又は非荷電アミノ酸変異をドメインインターフェースに導入して正しいFabペアリングを指示することによって操作することもできる。例えば、国際公開第2016/172485号を参照されたい。
【0118】
多重特異性抗体の様々な更なる分子フォーマットが当技術分野で知られており、本明細書に含まれる(例えば、Spiess et al.,Mol Immunol 67(2015)95-106を参照されたい)。
【0119】
本明細書に同様に含まれる特定のタイプの多重特異性抗体は、標的細胞、例えば腫瘍細胞上の表面抗原と、T細胞受容体(TCR)複合体の活性型不変構成成分、例えば、T細胞を再標的化して標的細胞を死滅させるためのCD3とに同時に結合するように設計された二重特異性抗体である。したがって、ある特定の実施形態では、本明細書に提供される抗体は、結合特異性のうちの一方がHLA-Gに対するものであり、他方がCD3に対するものである多重特異性抗体、特に二重特異性抗体である。
【0120】
この目的に役立ち得る二重特異性抗体フォーマットの例として、限定されないが、2つのscFv分子が柔軟なリンカーによって融合されている、いわゆる「BiTE」(二重特異性T細胞エンゲージャー)分子(例えば、国際公開第2004/106381号、国際公開第2005/061547号、国際公開第2007/042261号、及び国際公開第2008/119567号、Nagorsen and Baeuerle,Exp Cell Res 317,1255-1260(2011)を参照);ダイアボディ(Holliger et al.,Prot Eng 9,299-305(1996))及びその誘導体、例えばタンデムダイアボディ(「TandAb」;Kipriyanov et al.,J Mol Biol 293,41-56(1999));ダイアボディフォーマットに基づくが、更なる安定化のためにC末端ジスルフィド架橋を特徴とする「DART」(二重親和性再標的化)分子(Johnson et al.,J Mol Biol 399,436-449(2010))、いわゆるトリオマブ(これはマウス/ラットIgGハイブリッド分子全体である(Seimetz et al.,Cancer Treat Rev 36,458-467(2010)に概説)が挙げられる。本明細書に含まれる特定のT細胞二重特異性抗体フォーマットは、国際公開第2013/026833号、国際公開第2013/026839号、国際公開第2016/020309号;Bacac et al.,Oncoimmunology 5(8)(2016)e1203498に記載されている。
HLA-G及びCD3に結合する二重特異性抗体
【0121】
本発明はまた、二重特異性抗体、すなわち、2つの異なる抗原決定基(第1の抗原及び第2の抗原)への特異的結合能を有する少なくとも2つの抗原結合部分を含む抗体を提供する。
【0122】
開発された抗HLA-G抗原結合部分及び抗CD3抗原結合部分に基づいて、本発明者らは、HLA-G及びCD3に結合する二重特異性抗体を開発した。
【0123】
実施例に示されるように、これらの二重特異性抗体は、良好な効力及び低い毒性を含む多数の顕著な特性を有する。
【0124】
したがって、ある特定の態様では、本発明は、(a)ヒトHLA-Gに結合する第1の抗原結合部分、及び(b)ヒトCD3に特異的に結合する第2の抗原結合部分を含む二重特異性抗体であって、以下の特徴のいずれかを有する二重特異性抗体を提供する:-本発明の二重特異性抗体は、HLA-Gを発現する細胞のT細胞媒介殺傷を特異的に誘導する。いくつかの実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、HLA-Gを発現する細胞のT細胞媒介殺傷を特異的に誘導する。より具体的な実施形態では、二重特異性抗体は、HLA-Gを発現する細胞のT細胞媒介殺傷を特異的に誘導する。
【0125】
一実施形態では、二重特異性抗体によるT細胞媒介殺傷の誘導は、HLA-G発現細胞を用いて決定される。
【0126】
一実施形態では、二重特異性抗体によるT細胞の活性化は、HLA-G発現細胞の存在下での二重特異性抗体とのインキュベーション後のT細胞によるCD25及び/又はCD69の発現を、特にフローサイトメトリーによって測定することによって決定される。
具体的な実施形態では、二重特異性抗体によるT細胞媒介殺傷の誘導は、以下のように決定される:
【0127】
HLA-G発現腫瘍細胞の存在下でT細胞を活性化する抗HLA-G/抗CD3 TCBの能力を、組換えHLA-G(SKOV3 HLA-G)でトランスフェクトしたSKOV3細胞で試験する。T細胞の活性化を、T細胞上の細胞表面活性化マーカーCD25及び初期活性化マーカーCD69のFACS分析によって評価する。簡潔には、末梢血単核細胞(PBMC)を、Lymphocyte Separating Medium Tubes(PAN#P04-60125)を使用する密度勾配遠心分離によってヒト末梢血から単離する。PBMC及びSKOV3 HLA-G細胞を10:1の比率で96ウェルU字底プレートに播種する。次いで、共培養物を、実施例12に記載のように異なる濃度のHLA-G-TCBと共にインキュベートし、5%Co2を含むインキュベーター内で37℃で24時間インキュベートする。翌日、CD25及びCD69の発現をフローサイトメトリーによって測定する。
【0128】
フローサイトメトリー分析のため、細胞を、PerCP-Cy5.5マウス抗ヒトCD8(BD Pharmingen#565310)、PEマウス抗ヒトCD25(eBioscience#9012-0257)及びAPCマウス抗ヒトCD69(BD Pharmingen#555533)により4℃で染色する。簡潔には、抗体を2倍の濃度に希釈し、25μlの抗体希釈液を25μlの予備洗浄した共培養物と共に各ウェルに添加する。細胞を4℃で30分間染色し、200μl/ウェルの染色緩衝液で2回洗浄し、300gで5分間遠心分離する。細胞ペレットを200μlの染色緩衝液に再懸濁し、2μg/mlの最終濃度で生死識別のためにDAPIで染色する。次いで、試料を、BD LSRフローサイトメーターを使用して測定する。FlowJo V.10.1ソフトウェアを使用してデータ分析を行う。
【0129】
本発明の二重特異性抗体は、HLA-Gを発現する細胞の存在下でT細胞を特異的に活性化する。いくつかの実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、HLA-Gを発現する細胞の存在下でT細胞を特異的に活性化する。より具体的な実施形態では、二重特異性抗体は、HLA-Gを発現する細胞の存在下でT細胞を特異的に活性化する。
【0130】
一実施形態では、二重特異性抗体は、HLA-Gを発現する細胞の存在下でT細胞のT細胞媒介殺傷を誘導するか、又はT細胞を活性化する。一実施形態では、二重特異性抗体は、HLA-Gを発現する細胞の存在下におけるT細胞媒介殺傷の誘導又はHLA-Gを発現する細胞の存在下におけるT細胞の活性化のためのEC50の少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも15倍、少なくとも20倍、少なくとも25倍、少なくとも50倍、少なくとも75倍又は少なくとも100倍低いEC50で、HLA-Gを発現する細胞の存在下において、T細胞媒介殺傷を誘導する、及び/又はT細胞を活性化する。
【0131】
本発明の特定の実施形態によれば、二重特異性抗体二重特異性抗体に含まれる抗原結合部分は、Fab分子である(すなわち、重鎖及び軽鎖で構成される抗原結合ドメイン、それぞれが可変ドメインと定常ドメインを含む)。一実施形態では、第1及び/又は第2の抗原結合部分は、Fab分子である。一実施形態では、上記Fab分子は、ヒトである。特定の実施形態では、上記Fab分子は、ヒト化されている。更に別の実施形態では、上記Fab分子は、ヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインを含む。
【0132】
好ましくは、抗原結合部分の少なくとも1つは、クロスオーバーFab分子である。そのような修飾は、異なるFab分子の重鎖と軽鎖の誤対合を低減し、それによって、組換え産生における本発明の二重特異性抗体の収率及び純度を改善する。本発明の二重特異性抗体に有用な特定のクロスオーバーFab分子では、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変ドメイン(それぞれ、VL及びVH)が交換されている。しかしながら、このドメイン交換によっても、二重特異性抗体の調製は、誤対合重鎖及び軽鎖の間の、いわゆる、ベンス・ジョーンズ型相互作用に起因して、ある特定の副生成物を含むことがある(Schaefer et al,PNAS,108(2011)11187-11191を参照されたい)。異なるFab分子からの重鎖と軽鎖の誤対合を更に減少させ、したがって所望の二重特異性抗体の純度及び収率を増加させるため、本明細書中に更に記載されるように、第1の抗原(HLA-G)に結合するFab分子(複数可)、又は第2の抗原、活性化T細胞抗原、例えばCD3、に結合するFab分子、のいずれかのCH1ドメイン及びCLドメインにおける特定のアミノ酸位置に反対の電荷を有する荷電アミノ酸が導入され得る。電荷修飾は、二重特異性抗体に含まれる従来のFab分子(例えば、
図13A~C、G~Jに示されている)、又は二重特異性抗体に含まれるVH/VLクロスオーバーFab分子(例えば、
図13D~F、K~Nに示されている)のいずれかにおいて行われる(しかし、両方ではない)。特定の実施形態では、電荷修飾は、二重特異性抗体(特定の態様では、第1の抗原、すなわちHLA-Gに結合する)に含まれる従来のFab分子において行われる。
【0133】
本発明による特定の実施形態では、二重特異性抗体は、第1の抗原(すなわちHLA-G)及び第2の抗原(例えば、活性化T細胞抗原、特にCD3)に同時に結合することができる。一実施形態では、二重特異性抗体は、HLA-Gと活性化T細胞抗原とを同時に結合させることによって、T細胞と標的細胞とを架橋することができる。更により詳しい実施形態では、そのような同時結合は、標的細胞、特にHLA-G発現腫瘍細胞の溶解をもたらす。一実施形態では、そのような同時結合は、T細胞の活性化をもたらす。他の実施形態では、そのような同時結合は、増殖、分化、サイトカイン分泌、細胞傷害性エフェクタ分子の放出、細胞傷害活性及び活性化マーカーの発現の群から選択されるTリンパ球、特に細胞傷害性Tリンパ球の細胞応答を生じる。一実施形態では、HLA-Gへの同時結合を伴わない、活性化T細胞抗原、特にCD3への二重特異性抗体の結合は、T細胞活性化をもたらさない。
【0134】
一実施形態では、二重特異性抗体は、T細胞の細胞傷害活性を標的細胞に向け直すことができる。特定の実施形態では、上記向け直しは、標的細胞によるMHC媒介ペプチド抗原提示及び/又はT細胞の特異性とは無関係である。
【0135】
特に、本発明の実施形態のいずれかによるT細胞は、細胞傷害性T細胞である。いくつかの実施形態では、T細胞は、CD4+又はCD8+T細胞、特にCD8+T細胞である。
ヒトHLA-Gに結合する第1の抗原結合部分
【0136】
本発明の二重特異性抗体は、ヒトHLA-G(第1の抗原)に結合する少なくとも1つの抗原結合部分、特にFab分子を含む。ある特定の実施形態では、二重特異性抗体は、ヒトHLA-Gに結合する2つの抗原結合部分、特にFab分子を含む。そのような特定の実施形態では、これらの抗原結合部分のそれぞれは、同じ抗原決定基に結合する。なお更なる特定の実施形態では、これらの抗原結合部分の全てが同一であり、すなわち、それらは、(存在する場合は)本明細書中に記載されるCH1ドメイン及びCLドメインにおける同じアミノ酸置換を含む同じアミノ酸配列を含む。一実施形態では、二重特異性抗体は、ヒトHLA-Gに結合する2個以下の抗原結合部分、特にFab分子を含む。
【0137】
特定の実施形態では、ヒトHLA-Gに結合する抗原結合部分は従来のFab分子である。そのような実施形態では、第2の抗原に結合する抗原結合部分は、本明細書に記載されるクロスオーバーFab分子、すなわち、Fab重鎖と軽鎖の可変ドメインVHとVL又は定常ドメインCH1とCLが交換されている/互いに置き換わっているFab分子である。
【0138】
代替の実施形態では、ヒトHLA-Gに結合する抗原結合部分は、本明細書に記載されるクロスオーバーFab分子、すなわち、Fab重鎖と軽鎖の可変ドメインVHとVL又は定常ドメインCH1とCLが交換されている/互いに置き換わっているFab分子である。そのような実施形態では、第2の抗原に結合する抗原結合部分は、従来のFab分子である。
【0139】
HLA-G結合部分は、二重特異性抗体を標的部位、例えば、ヒトHLA-Gを発現する特定のタイプの腫瘍細胞に向けることができる。
【0140】
二重特異性抗体の第1の抗原結合部分は、科学的に明らかに不合理又は不可能でない限り、HLA-Gに結合する抗体に関して本明細書に記載される特徴のいずれかを単独で又は組み合わせて組み込むことができる。
【0141】
したがって、一態様では、本発明は、第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分を含む二重特異性抗体であって、第1の抗原がヒトHLA-G(一実施形態では、抗体は配列番号39を含むHLA-G β2M MHC I複合体に結合する)であり、第1の抗原結合部分は、
(a)(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメインであって、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%又は100%(好ましい一実施形態では、98%又は99%又は100%)の配列同一性のアミノ酸配列を含むVHドメイン;並びに(b)(i)配列番号23のアミノ酸配列を含むCDR-L1;(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメインであって、配列番号24のアミノ酸配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%又は100%(好ましい一実施形態では、98%又は99%又は100%)の配列同一性のアミノ酸配列を含むVLドメイン、を含む。
【0142】
「(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメインであって、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%又は100%(好ましい一実施形態では、98%又は99%又は100%)の配列同一性のアミノ酸配列を含むVHドメイン」のような用語は、配列番号7のアミノ酸配列を有するVHドメインを指し、3つのCDRは変化していない(すなわち、配列番号7と同じである)が、例えば、VHのフレームワーク領域中の0、1、2、3、4又は5個のアミノ酸残基が、VH及び抗原結合部位の結合特性に影響を及ぼすことなく別のアミノ酸で変更/置換されている。結合特性に影響を及ぼす可能性が高いフレームワーク残基は周知であることから(例えば、Foote J.and Winter G.,J.Mol.Biol.(1992)224,487-499を参照されたい)、影響のない又はわずかなフレームワーク残基を置換のために選択することができる。同じことが、別のVH又はVLに関する本明細書で使用される類似語にも当てはまる。
【0143】
一実施形態では、第1の抗原結合部分は、配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む。
【0144】
一実施形態では、ヒトHLA-G(一実施形態では、配列番号39を含むHLA-G β2M MHC I複合体)に結合する第1の結合部分は、
(a)(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメインであって、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%又は100%(好ましい一実施形態では、98%又は99%又は100%)の配列同一性のアミノ酸配列を含むVHドメイン;並びに(b)(i)配列番号25のアミノ酸配列を含むCDR-L1;(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメインであって、配列番号26のアミノ酸配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%又は100%(好ましい一実施形態では、98%又は99%又は100%)の配列同一性のアミノ酸配列を含むVLドメイン、を含む。
【0145】
一実施形態では、第1の抗原結合部分は、配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン及び配列番号26のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む。
【0146】
そのような抗HLA-G抗体は、抗原結合部位(及びCDR-L1)にN-グルコシル化を有さず(実施例2に示されるように)、配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン及び配列番号8のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む(親)抗体と比較して、最大結合(Rmax)及び/又は結合親和性(KD)に関して改善された結合特性を有し(実施例2に示されるように)、HLA-A MHC I複合体又はマウス若しくはラットMHC I複合体と交差反応せず、JEG3細胞(ATCC番号HTB36)(に発現されるHLA-G)に結合し、JEG-3細胞(ATCC番号HTB36)(に発現されるHLA-G)へのILT2結合を阻害することから、非常に価値のある特性を示す。
ヒトCD3に結合する第2の抗原結合部分
【0147】
本発明の二重特異性抗体は、ヒトCD3に結合する少なくとも1つの抗原結合部分、特にFab分子を含む。
【0148】
特定の実施形態では、ヒトCD3に結合する抗原結合部分は、本明細書に記載するクロスオーバーFab分子(すなわち、Fab重鎖及び軽鎖の可変ドメインVH及びVL又は定常ドメインCH1及びCLが交換されている/互いに置き換わっているFab分子)である。そのような実施形態では、ヒトHLA-Gに結合する抗原結合部分は、好ましくは従来のFab分子である。二重特異性抗体に含まれるヒトCD3に結合する抗原結合部分、特にFab分子が2つ以上存在する実施形態では、ヒトCD3に結合する抗原結合部分は、好ましくはクロスオーバーFab分子であり、ヒトHLA-Gに結合する抗原結合部分は従来のFab分子である。
【0149】
代替的な実施形態では、第2の抗原に結合する抗原結合部分は、従来のFab分子である。そのような実施形態では、第1の抗原(すなわち、HLA-G)に結合する抗原結合部分は、本明細書に記載されるクロスオーバーFab分子、すなわち、Fab重鎖と軽鎖の可変ドメインVHとVL又は定常ドメインCH1とCLが交換されている/互いに置き換わっているFab分子である。二重特異性抗体に含まれる第2の抗原に結合する2つ以上の抗原結合部分、特にFab分子が存在する実施形態では、ヒトHLA-Gに結合する抗原結合部分は、好ましくはクロスオーバーFab分子であり、ヒトCD3に結合する抗原結合部分は従来のFab分子である。
【0150】
いくつかの実施形態では、第2の抗原は活性化T細胞抗原である(本明細書では「T細胞抗原結合部分を活性化する、又はT細胞抗原結合Fab分子を活性化する」とも称される)。特定の実施形態では、二重特異性抗体は、活性化T細胞抗原への特異的結合能を有する1つ以下の抗原結合部分を含む。一実施形態では、二重特異性抗体は活性化T細胞抗原への一価結合を提供する。
【0151】
特定の実施形態では、第2の抗原は、CD3、特にヒトCD3(配列番号88)又はカニクイザルCD3(配列番号89)、最も詳しくはヒトCD3である。一実施形態では、第2の抗原結合部分はヒト及びカニクイザルCD3に対して交差反応性である(すなわち、特異的に結合する)。いくつかの実施形態では、第2の抗原はCD3のイプシロンサブユニット(CD3イプシロン)である。
【0152】
一実施形態では、ヒトCD3に結合する第2の抗原結合部分は、(a)(i)配列番号52のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号53のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号54のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメインであって、配列番号58のアミノ酸配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%又は100%(好ましい一実施形態では、98%又は99%又は100%)の配列同一性のアミノ酸配列を含むVHドメイン;並びに(b)(i)配列番号55のアミノ酸配列を含むCDR-L1;(ii)配列番号56のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号57のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメインであって、配列番号59のアミノ酸配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%又は100%(好ましい一実施形態では、98%又は99%又は100%)の配列同一性のアミノ酸配列を含むVLドメイン、を含む。
【0153】
一実施形態では、ヒトCD3に結合する第2の抗原結合部分は、(a)(i)配列番号60のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号61のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号62のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメインであって、配列番号66のアミノ酸配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%又は100%(好ましい一実施形態では、98%又は99%又は100%)の配列同一性のアミノ酸配列を含むVHドメイン;並びに(b)(i)配列番号63のアミノ酸配列を含むCDR-L1;(ii)配列番号64のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号65のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメインであって、配列番号67のアミノ酸配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%又は100%(好ましい一実施形態では、98%又は99%又は100%)の配列同一性のアミノ酸配列を含むVLドメイン、を含む。
【0154】
一実施形態では、ヒトCD3に結合する第2の抗原結合部分は、(a)(i)配列番号68のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号69のアミノ酸配列を含むCDR-H2を含むVHドメインであって、配列番号74のアミノ酸配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%又は100%(好ましい一実施形態では、98%又は99%又は100%)の配列同一性のアミノ酸配列;及び(iii)配列番号70のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン;並びに(b)(i)配列番号71のアミノ酸配列を含むCDR-L1;(ii)配列番号72のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号73のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメインであって、配列番号75のアミノ酸配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%又は100%(好ましい一実施形態では、98%又は99%又は100%)の配列同一性のアミノ酸配列を含むVLドメイン、を含む。
【0155】
一実施形態では、ヒトCD3に結合する第2の抗原結合部分は、配列番号58のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号59のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む。
【0156】
一実施形態では、ヒトCD3に結合する第2の抗原結合部分は、配列番号66のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号67のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む。
【0157】
一実施形態では、ヒトCD3に結合する第2の抗原結合部分は、配列番号74のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号75のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む。
【0158】
そのようなCD3抗原結合部分/部位は、非常に有益な特性を示す(例えば、CD3及びHLA-Gに結合する二重特異性抗体として提供される場合(本明細書に記載のHLA-G抗原結合部分を有する))。それらは、以下を示す。
a)良好な熱安定性
b)HLA-G発現腫瘍細胞の存在下(好ましくはJEG3細胞(ATCC番号HTB36)でのT細胞によるIFNガンマ分泌の誘導)(実施例11)、及び/又は
c)HLA-G発現腫瘍細胞の存在下(好ましくはJEG3細胞(ATCC番号HTB36)の存在下)でのT細胞媒介性細胞傷害/腫瘍細胞殺傷の誘導(実施例12)、及び/又は
d)in vivoでの腫瘍成長の阻害(マウス異種移植腫瘍モデルにおいて)、
e)組換えHLA-G(SKOV3 HLA-G)ヒト化NSGマウスでトランスフェクトしたSKOV3ヒト卵巣癌腫を有するヒト化NSGマウスにおけるin vivo抗腫瘍有効性/腫瘍退縮(実施例13を参照されたい)、及び/又は
f)ヒト乳がんPDX腫瘍(BC004)を有するヒト化NSGマウスにおけるHLA-G CD3 T細胞二重特異性のin vivo抗腫瘍有効性/腫瘍(実施例14を参照されたい)。
【0159】
いくつかの実施形態では、第2の抗原結合部分は、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVLとVH又は定常ドメインCLとCH1、特に可変ドメインVLとVHが、互いに置き換わっているFab分子である(すなわち、そのような実施形態によれば、第2の抗原結合部分は、Fab軽鎖とFab重鎖の可変又は定常ドメインが交換されているクロスオーバーFab分子である)。そのような一実施形態では、第1の(存在する場合には、第3の)抗原結合部分は従来のFab分子である。
【0160】
一実施形態では、第2の抗原(例えば、CD3等の活性化T細胞抗原)に結合する1つ以下の抗原結合部分が、二重特異性抗体中に存在する(すなわち、二重特異性抗体は、第2の抗原への一価結合を提供する)。
電荷修飾
【0161】
本発明の二重特異性抗体は、それに含まれるFab分子に、1つ(又は2つより多い抗原結合Fab分子を含む分子の場合には、更に多くの)結合アーム中にVH/VL交換を有するFabベース二重特異性抗体/抗体の産生において生じ得る、軽鎖と適合しない重鎖との誤対合(ベンス・ジョーンズ型副生成物)を低減するうえで特に効率的であるアミノ酸置換を含み得る(全体が本明細書に参照により組み込まれる国際公開第2015/150447号、特にその中の実施例も参照されたい)。望ましくない副生成物、特に、結合アームの1つにVH/VLドメイン交換を有する二重特異性抗体に生じるベンス・ジョーンズ型副生成物と比較した、所望の二重特異性抗体の比を、CH1及びCLドメインの特定のアミノ酸位置と反対の電荷を有する荷電アミノ酸を導入することによって改善することができる(本明細書で「電荷修飾」と呼ぶことがある)。
【0162】
したがって、二重特異性抗体の第1及び第2の抗原結合部分が両方ともFab分子であり、抗原結合部分の1つ(特に、第2の抗原結合部分)において、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変ドメインVL及びVHが互いに置き換わっている、いくつかの実施形態では、
i)第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸は、正に帯電したアミノ酸によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸又は位置213のアミノ酸は、負に帯電したアミノ酸によって置換されているか(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、又は
ii)第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸は、正に帯電したアミノ酸によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸又は位置213のアミノ酸は、負に帯電したアミノ酸によって置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0163】
二重特異性抗体は、i)及びii)に記述されている修飾を両方とも含むことはない。VH/VLが置き換わっている抗原結合部分の定常ドメインCL及びCH1は、互いに置き換わっていない(すなわち、交換されていないままである)。
【0164】
より具体的な実施形態では、
i)第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸は、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸又は位置213のアミノ酸は、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって置換されているか(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、又は
ii)第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸は、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸又は位置213のアミノ酸は、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって置換されているか(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0165】
そのような一実施形態では、第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸は、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸又は位置213のアミノ酸は、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって置換されているか(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0166】
更なる実施形態では、第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸は、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸は、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0167】
特定の実施形態では、第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸が、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、位置123のアミノ酸が、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸が、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって置換されており(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、位置213のアミノ酸が、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0168】
より詳しい実施形態では、第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸が、リジン(K)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、位置123のアミノ酸が、リジン(K)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸が、グルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、位置213のアミノ酸が、グルタミン酸(E)によって置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0169】
更により詳しい実施形態では、第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸が、リジン(K)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、位置123のアミノ酸が、アルギニン(R)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸が、グルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、位置213のアミノ酸が、グルタミン酸(E)によって置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0170】
特定の実施形態では、上の実施形態によるアミノ酸置換が、第1の抗原結合部分の定常ドメインCL及び定常ドメインCH1でなされる場合、第1の抗原結合部分の定常ドメインCLは、カッパアイソタイプである。
【0171】
或いは、上記実施形態のアミノ酸置換は、第1の抗原結合部分の定常ドメインCL及び定常ドメインCH1ではなく、第2の抗原結合部分の定常ドメインCL及び定常ドメインCH1で行われてもよい。特定のそのような実施形態では、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLは、カッパアイソタイプである。
【0172】
したがって、一実施形態では、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸は、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸又は位置213のアミノ酸は、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0173】
更なる実施形態では、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸は、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸は、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0174】
更に別の実施形態では、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸が、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、位置123のアミノ酸が、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸が、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって置換されており(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、位置213のアミノ酸が、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0175】
一実施形態では、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸が、リジン(K)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、位置123のアミノ酸が、リジン(K)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸が、グルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、位置213のアミノ酸が、グルタミン酸(E)によって置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0176】
別の実施形態では、第2の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸が、リジン(K)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、位置123のアミノ酸が、アルギニン(R)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、第2の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸が、グルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、位置213のアミノ酸が、グルタミン酸(E)によって置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0177】
特定の実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、
I)ヒトHLA-Gに結合する第1の抗原結合部分であって、該第1の抗原結合部分が
A)配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号32;24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む、
B)配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号26のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む、Fab分子である、
第1の抗原結合部分と、
II)ヒトCD3に結合する第2の抗原結合部分であって、
該第2の抗原結合部分が、Fab軽鎖及びFab重鎖の可変ドメインVL及びVHが互いに置き換わっているFab分子であり、
C)配列番号58のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号59のアミノ酸配列を含むVLドメインを含むか、又は
D)配列番号66のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号67のアミノ酸配列を含むVLドメインを含むか、又は
E)配列番号74のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号75のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む、
第2の抗原結合部分とを含み、
III)第1の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸が、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって(特定の字実施形態では、独立して、リジン(K)又はアルギニン(R)によって)置換されており(Kabatによるナンバリング)、位置123のアミノ酸が、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって(特定の実施形態では、独立して、リジン(K)又はアルギニン(R)によって)置換されており(Kabatによるナンバリング)、第1の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸が、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって置換されており(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、位置213のアミノ酸が、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
二重特異性抗体フォーマット
【0178】
本発明の二重特異性抗体の構成要素は、種々の構成で互いに融合することができる。例示的な構成を
図13に示す。
【0179】
特定の実施形態では、二重特異性抗体に含まれる抗原結合部分はFab分子である。そのような実施形態では、第1、第2、第3等の抗原結合部分は、本明細書においてそれぞれ、第1、第2、第3のFab分子等と称され得る。
【0180】
一実施形態では、二重特異性抗体の第1の抗原結合部分及び第2の抗原結合部分は、任意にペプチドリンカーを介して互いに融合される。特定の実施形態では、第1の抗原結合部分及び第2の抗原結合部分はそれぞれFab分子である。そのような一実施形態では、第2の抗原結合部分はFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合される。別のそのような実施形態では、第1の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端において、第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合される。(i)第2の抗原結合部分がFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合されているか、又は(ii)第1の抗原結合部分がFab重鎖のC末端において第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合されている実施形態では、更に、第1の抗原結合部分のFab軽鎖と第2の抗原結合部分のFab軽鎖とが、任意にペプチドリンカーを介して互いに融合され得る。
【0181】
HLA-G(例えば、
図13A、D、G、H、K、Lに示すように)等の標的細胞抗原への特異的結合能を有する単一抗原結合部分(Fab分子等)を有する二重特異性抗体は、特に高親和性抗原結合部分の結合後に標的細胞抗原の内在化が予想される場合に有用である。そのような場合、標的細胞抗原に特異的な2つ以上の抗原結合部分の存在は、標的細胞抗原の内在化を増強し、それによってその利用可能性を低下させ得る。
【0182】
しかしながら、他の場合では、例えば、標的部位への標的化を最適化するために、又は標的細胞抗原の架橋を可能にするために、標的細胞抗原(
図13B、13C、13E、13F、13I、13J、13M又は13Nに示す例を参照されたい)に特異的な2つ以上の抗原結合部分(例えば、Fab分子)を含む二重特異性抗体を有することが有利であろう。
【0183】
したがって、特定の実施形態では、本発明による二重特異性抗体は、第3の抗原結合部分を含む。
【0184】
一実施形態では、第3の抗原結合部分は第1の抗原、すなわちHLA-Gに結合する。一実施形態では、第3の抗原結合部分はFab分子である。
【0185】
特定の実施形態では、第3の抗原部分は、第1の抗原結合部分と同一である。
【0186】
二重特異性抗体の第3の抗原結合部分は、科学的に明らかに不合理又は不可能でない限り、第1の抗原結合部分及び/又はHLA-Gに結合する抗体に関して本明細書に記載される特徴のいずれかを単独で又は組み合わせて組み込むことができる。
【0187】
一実施形態では、第3の抗原結合部分は、
配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含むか、又は
配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号26のアミノ酸配列を含むVLドメインを含むか、又は
【0188】
特定の実施形態では、第3の抗原結合部分及び第1の抗原結合部分はそれぞれFab分子であり、第3の抗原結合部分は第1の抗原結合部分と同一である。したがって、これらの実施形態では、第1及び第3の抗原結合部分は、同じ重鎖及び軽鎖アミノ酸配列を含み、同じドメイン配置(すなわち、従来の又はクロスオーバーの)を有する。さらに、これらの実施形態では、第3の抗原結合部分は、存在する場合、第1の抗原結合部分と同じアミノ酸置換を含む。例えば、本明細書において「電荷修飾」と記載されるアミノ酸置換は、第1の抗原結合部分及び第3の抗原結合部分のそれぞれの定常ドメインCL及び定常ドメインCH1において行われる。あるいは、上記アミノ酸置換は、第1の抗原結合部分及び第3の抗原結合部分の定常ドメインCL及び定常ドメインCH1ではなく、第2の抗原結合部分(特定の実施形態ではFab分子でもある)の定常ドメインCL及び定常ドメインCH1で行われ得る。
【0189】
第1の抗原結合部分と同様に、第3の抗原結合部分は特に従来のFab分子である。しかしながら、第1及び第3の抗原結合部分がクロスオーバーFab分子である(及び第2の抗原結合部分が従来のFab分子である)実施形態も企図される。したがって、特定の実施形態では、第1の抗原結合部分及び第3の抗原結合部分はそれぞれ、従来のFab分子であり、第2の抗原結合部分は、明細書に記載するクロスオーバーFab分子(すなわち、Fab重鎖及び軽鎖の可変ドメインVH及びVL又は定常ドメインCL及びCH1が交換されている/互いに置き換わっているFab分子)である。他の実施形態では、第1の抗原結合部分及び第3の抗原結合部分はそれぞれクロスオーバーFab分子であり、第2の抗原結合部分は従来のFab分子である。
【0190】
第3の抗原結合部分が存在する場合、特定の実施形態では、第1及び第3の抗原部分はヒトHLA-Gに結合し、第2の抗原結合部分は第2の抗原ヒトCD3、最も具体的にはCD3イプシロンに結合する。
【0191】
特定の実施形態では、二重特異性抗体は、第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインを含む。Fcドメインの第1のサブユニット及び第2のサブユニットは、安定な会合が可能である。
【0192】
本発明による二重特異性抗体は、異なる構造を有することができ、すなわち、第1、第2(及び任意に第3)の抗原結合部分は、互いに、異なる様式でFcドメインに融合していてもよい。構成要素は、直接的に、又は好ましくは1つ以上の適切なペプチドリンカーを介して、互いに融合していてもよい。Fab分子の融合が、FcドメインのサブユニットのN末端へのものである場合、それは典型的には免疫グロブリンヒンジ領域を介するものである。
【0193】
いくつかの実施形態では、第1の抗原結合部分及び第2の抗原結合部分は、それぞれがFab分子であり、第2の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合している。そのような実施形態では、第1の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端で、第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端又はFcドメインの他方のサブユニットのN末端に融合していてもよい。特定のそのような実施形態では、上記第1の抗原結合部分は、従来のFab分子であり、第2の抗原結合部分は、明細書に記載するクロスオーバーFab分子(すなわち、Fab重鎖及び軽鎖の可変ドメインVH及びVL又は定常ドメインCL及びCH1が交換されている/互いに置き換わっているFab分子)である。他のそのような実施形態では、上記第1のFab分子はクロスオーバーFab分子であり、第2のFab分子は従来のFab分子である。
【0194】
一実施形態では、第1の抗原結合部分及び第2の抗原結合部分は、それぞれがFab分子であり、第2の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合しており、第1の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端で第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合している。具体的な実施形態では、二重特異性抗体は、第1及び第2のFab分子と、第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、任意に1つ以上のペプチドリンカーとから本質的になり、第1のFab分子は、Fab重鎖のC末端で第2のFab分子のFab重鎖のN末端に融合しており、第2のFab分子は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合している。そのような構造は、
図13G及び13Kに概略的に描写されている(これらの実施例における第2の抗原結合ドメインは、VH/VLクロスオーバーFab分子である)。任意に、第1のFab分子のFab軽鎖及び第2のFab分子のFab軽鎖は、追加的に互いに融合していてもよい。
【0195】
別の実施形態では、第1の抗原結合部分及び第2の抗原結合部分は、それぞれがFab分子であり、第1の抗原結合部分及び第2の抗原結合部分は、それぞれがFab重鎖のC末端でFcドメインのサブユニットの1つのN末端に融合している。具体的な実施形態では、二重特異性抗体は、第1のFab分子及び第2のFab分子と、第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、任意に1つ以上のペプチドリンカーとから実質的になり、第1のFab分子及び第2のFab分子は、それぞれがFab重鎖のC末端でFcドメインのサブユニットの1つのN末端に融合している。そのような構造は、
図13A及び13D に概略的に描写されている(これらの実施例において、第2の抗原結合部分はVH/VLクロスオーバーFab分子であり、第1の抗原結合部分は従来のFab分子である)。第1及び第2のFab分子は、Fcドメインに直接的に又はペプチドリンカーを介して融合していてもよい。特定の実施形態では、第1及び第2のFab分子は、免疫グロブリンヒンジ領域によって、それぞれFcドメインに融合する。具体的な実施形態では、免疫グロブリンヒンジ領域は、ヒトIgG
1ヒンジ領域であり、特に、Fcドメインは、IgG
1Fcドメインである。
【0196】
いくつかの実施形態では、第1の抗原結合部分及び第2の抗原結合部分は、それぞれがFab分子であり、第1の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合している。そのような実施形態では、第2の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端で、第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端又は(上に記載されるように)Fcドメインの他方のサブユニットのN末端に融合していてもよい。特定のそのような実施形態では、上記第1の抗原結合部分は、従来のFab分子であり、第2の抗原結合部分は、明細書に記載するクロスオーバーFab分子(すなわち、Fab重鎖及び軽鎖の可変ドメインVH及びVL又は定常ドメインCL及びCH1が交換されている/互いに置き換わっているFab分子)である。他のそのような実施形態では、上記第1のFab分子はクロスオーバーFab分子であり、第2のFab分子は従来のFab分子である。
【0197】
一実施形態では、第1の抗原結合部分及び第2の抗原結合部分は、それぞれがFab分子であり、第1の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合しており、第2の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端で第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合している。具体的な実施形態では、二重特異性抗体は、第1及び第2のFab分子と、第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、任意に1つ以上のペプチドリンカーとから本質的になり、第2のFab分子は、Fab重鎖のC末端で第1のFab分子のFab重鎖のN末端に融合しており、第1のFab分子は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合している。そのような構造は、
図13H及び13Lに概略的に描写されている(これらの実施例において、第2の抗原結合部分はVH/VLクロスオーバーFab分子であり、第1の抗原結合部分は従来のFab分子である)。任意に、第1のFab分子のFab軽鎖及び第2のFab分子のFab軽鎖は、追加的に互いに融合していてもよい。
【0198】
いくつかの実施形態では、第3の抗原結合部分、特に第3のFab分子は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第1又は第2のサブユニットのN末端に融合している。特定のそのような実施形態では、上記第1のFab分子及び第3のFab分子はそれぞれ、従来のFab分子であり、第2のFab分子は、明細書に記載するクロスオーバーFab分子(すなわち、Fab重鎖及び軽鎖の可変ドメインVH及びVL又は定常ドメインCL及びCH1が交換されている/互いに置き換わっているFab分子)である。他のそのような実施形態では、上記第1のFab分子及び第3のFab分子はそれぞれ、クロスオーバーFab分子であり、第2のFab分子は従来のFab分子である。
【0199】
特定のそのような実施形態では、第2及び第3の抗原結合部分は、それぞれFab重鎖のC末端でFcドメインのサブユニットの1つのN末端に融合しており、第1の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端で第2のFab分子のFab重鎖のN末端に融合している。具体的な実施形態では、二重特異性抗体は、第1、第2及び第3のFab分子と、第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、任意に1つ以上のペプチドリンカーとから本質的になり、第1のFab分子は、Fab重鎖のC末端で第2のFab分子のFab重鎖のN末端に融合しており、第2のFab分子は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており、第3のFab分子は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している。そのような構造は、
図13B及び13E(これらの実施例において、第2の抗原結合部分はVH/VLクロスオーバーFab分子であり、第1及び第3の抗原結合部分は従来のFab分子である)と、
図13J及び13N(これらの実施例において、第2の抗原結合部分は従来のFab分子であり、第1及び第3の抗原結合部分はVH/VLクロスオーバーFab分子である)に概略的に描写されている。第2及び第3のFab分子は、Fcドメインに直接的に又はペプチドリンカーを介して融合していてもよい。特定の実施形態では、第2及び第3のFab分子は、免疫グロブリンヒンジ領域によって、それぞれFcドメインに融合する。具体的な実施形態では、免疫グロブリンヒンジ領域は、ヒトIgG
1ヒンジ領域であり、特に、Fcドメインは、IgG
1Fcドメインである。任意に、第1のFab分子のFab軽鎖及び第2のFab分子のFab軽鎖は、追加的に互いに融合していてもよい。
【0200】
別のそのような実施形態では、第1及び第3の抗原結合部分は、それぞれFab重鎖のC末端でFcドメインのサブユニットの1つのN末端に融合しており、第2の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端で第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合している。具体的な実施形態では、二重特異性抗体は、第1、第2及び第3のFab分子と、第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインと、任意に1つ以上のペプチドリンカーとから本質的になり、第2のFab分子は、Fab重鎖のC末端で第1のFab分子のFab重鎖のN末端に融合しており、第1のFab分子は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合しており、第3のFab分子は、Fab重鎖のC末端でFcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合している。そのような構造は、
図13C及び13F(これらの実施例において、第2の抗原結合部分はVH/VLクロスオーバーFab分子であり、第1及び第3の抗原結合部分は従来のFab分子である)と、
図13I及び13M(これらの実施例において、第2の抗原結合部分は従来のFab分子であり、第1及び第3の抗原結合部分はVH/VLクロスオーバーFab分子である)に概略的に描写されている。第1及び第3のFab分子は、Fcドメインに直接的に又はペプチドリンカーを介して融合していてもよい。特定の実施形態では、第1及び第3のFab分子は、免疫グロブリンヒンジ領域によって、それぞれFcドメインに融合する。具体的な実施形態では、免疫グロブリンヒンジ領域は、ヒトIgG
1ヒンジ領域であり、特に、Fcドメインは、IgG
1Fcドメインである。任意に、第1のFab分子のFab軽鎖及び第2のFab分子のFab軽鎖は、追加的に互いに融合していてもよい。
【0201】
Fab分子が、免疫グロブリンヒンジ領域を介してFab重鎖のC末端でFcドメインのサブユニットのそれぞれのN末端に融合している二重特異性抗体の構造において、2つのFab分子、ヒンジ領域及びFcドメインは、免疫グロブリン分子を本質的に形成する。特定の実施形態では、免疫グロブリン分子は、IgGクラス免疫グロブリンである。なお更なる特定の実施形態では、免疫グロブリンは、IgG1サブクラス免疫グロブリンである。別の実施形態では、免疫グロブリンはIgG4サブクラス免疫グロブリンである。更に特定の実施形態では、免疫グロブリンは、ヒト免疫グロブリンである。他の実施形態では、免疫グロブリンは、キメラ免疫グロブリン又はヒト化免疫グロブリンである。一実施形態では、免疫グロブリンは、ヒト定常領域、特に、ヒトFc領域を含む。
【0202】
本発明の二重特異性抗体のいくつかにおいて、第1のFab分子のFab軽鎖及び第2のFab分子のFab軽鎖は、任意にペプチドリンカーを介して互いに融合している。第1及び第2のFab分子の構造に応じて、第1のFab分子のFab軽鎖は、そのC末端で第2のFab分子のFab軽鎖のN末端に融合していてもよく、又は第2のFab分子のFab軽鎖は、そのC末端で第1のFab分子のFab軽鎖のN末端に融合していてもよい。第1及び第2のFab分子のFab軽鎖の融合は、適合しないFab重鎖及び軽鎖の誤対合を更に低減し、本発明の二重特異性抗体の一部の発現に必要なプラスミドの数も低減する。
【0203】
抗原結合部分は、Fcドメインに又は互いに、直接的に又は1つ以上のアミノ酸、典型的には約2~20個のアミノ酸を含むペプチドリンカーを介して融合していてもよい。ペプチドリンカーは、当技術分野で公知であり、本明細書に説明される。適切な非免疫原性ペプチドリンカーには、例えば、(G4S)n、(SG4)n、(G4S)n又はG4(SG4)nペプチドリンカーが挙げられる。「n」は、一般的に、1~10、典型的には2~4の整数である。一実施形態では、上記ペプチドリンカーは、少なくとも5アミノ酸長を有し、一実施形態では、5~100アミノ酸長、更なる実施形態では、10~50アミノ酸長を有する。一実施形態では、上記リンカーペプチドは、(GxS)n又は(GxS)nGmであり、G=グリシン、S=セリン、及び(x=3、n=3、4、5又は6、m=0、1、2又は3)、又は(x=4、n=2、3、4又は5、m=0、1、2又は3)であり、一実施形態では、x=4、n=2又は3、更なる実施形態では、x=4、n=2である。一実施形態では、上記ペプチドリンカーは(G4S)2である。第1及び第2のFab分子のFab軽鎖を互いに融合するのに特に適したペプチドリンカーは、(G4S)2である。第1及び第2のFab断片のFab重鎖に接続するのに好適な、例示的なペプチドリンカーは、配列(D)-(G4S)2を含む。別の適切なそのようなリンカーは、配列(G4S)4を含む。加えて、リンカーは、免疫グロブリンヒンジ領域(の一部)を含んでいてもよい。特に、Fab分子が、FcドメインサブユニットのN末端に融合する場合、免疫グロブリンヒンジ領域又はその一部を介し、更なるペプチドリンカーを伴い、又は伴わずに融合してもよい。
【0204】
ある特定の実施形態では、本発明による二重特異性抗体は、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖定常領域と共有し(すなわち、第2のFab分子が、クロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖可変領域が軽鎖可変領域により置き換えられている)、次に、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VL(2)-CH1(2)-CH2-CH3(-CH4))、及び第1のFab分子のFab重鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(1)-CH1(1)-CH2-CH3(-CH4))を含む。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有するポリペプチド(VH(2)-CL(2))、及び第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))を更に含む。特定の実施形態では、ポリペプチドは、例えば、ジスルフィド結合によって共有結合している。
【0205】
ある特定の実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有し(すなわち、第2のFab分子が、クロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖定常領域が軽鎖定常領域により置き換えられている)、次に、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(2)-CL(2)-CH2-CH3(-CH4))、及び第1のFab分子のFab重鎖が、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(1)-CH1(1)-CH2-CH3(-CH4))を含む。いくつかの実施形態では、二重特異性抗体は、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖定常領域と共有するポリペプチド(VL(2)-CH1(2))、及び第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))を更に含む。特定の実施形態では、ポリペプチドは、例えば、ジスルフィド結合によって共有結合している。
【0206】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体は、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖定常領域と共有し(すなわち、第2のFab分子が、クロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖可変領域が軽鎖可変領域により置き換えられている)、次に、第2のFab分子のFab重鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖と共有し、次に、第1のFab分子のFab重鎖が、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VL(2)-CH1(2)-VH(1)-CH1(1)-CH2-CH3(-CH4))を含む。他の実施形態では、二重特異性抗体は、第1のFab分子のFab重鎖が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab軽鎖可変領域と共有し、次に、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖定常領域と共有し(すなわち、第2のFab分子が、クロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖可変領域が軽鎖可変領域で置き換えられている)、次に、第2のFab分子のFab重鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(1)-CH1(1)-VL(2)-CH1(2)-CH2-CH3(-CH4))を含む。
【0207】
これらの実施形態のいくつかでは、二重特異性抗体は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有する第2のFab分子のクロスオーバーFab軽鎖ポリペプチド(VH(2)-CL(2))、及び第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))を更に含む。これらの実施形態の他のいくつかでは、二重特異性抗体は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有し、次に、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチドと共有するポリペプチド(VH(2)-CL(2)-VL(1)-CL(1))、又は第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチドが、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖可変領域と共有し、次に、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有するポリペプチド(VL(1)-CL(1)-VH(2)-CL(2))を更に含む。
【0208】
これらの実施形態による二重特異性抗体は、(i)Fcドメインサブユニットポリペプチド(CH2-CH3(-CH4))、又は(ii)第3のFab分子のFab重鎖がカルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(3)-CH1(3)-CH2-CH3(-CH4))及び第3のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(3)-CL(3))を更に含み得る。特定の実施形態では、ポリペプチドは、例えば、ジスルフィド結合によって共有結合している。
【0209】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体は、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有し(すなわち、第2のFab分子が、クロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖定常領域が軽鎖定常領域により置き換えられている)、次に、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab重鎖と共有し、次に、第1のFab分子のFab重鎖が、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(2)-CL(2)-VH(1)-CH1(1)-CH2-CH3(-CH4))を含む。他の実施形態では、二重特異性抗体は、第1のFab分子のFab重鎖が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖可変領域と共有し、次に、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有し(すなわち、第2のFab分子が、クロスオーバーFab重鎖を含み、重鎖定常領域が軽鎖定常領域により置き換えられている)、次に、第2のFab分子のFab軽鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(1)-CH1(1)-VH(2)-CL(2)-CH2-CH3(-CH4))を含む。
【0210】
これらの実施形態のいくつかでは、二重特異性抗体は、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を、第2のFab分子のFab重鎖定常領域(VL(2)-CH1(2))及び第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(1)-CL(1))と共有する、第2のFab分子のクロスオーバーFab軽鎖ポリペプチドを更に含む。これらの実施形態の他のものでは、二重特異性抗体は、第2のFab分子のFab軽鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖定常領域と共有し、次に、第2のFab分子のFab重鎖定常領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチドと共有するポリペプチド(VL(2)-CH1(2)-VL(1)-CL(1))、又は第1のFab分子のFab軽鎖ポリペプチドが、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab重鎖可変領域と共有し、次に、第2のFab分子のFab重鎖可変領域が、カルボキシ末端ペプチド結合を第2のFab分子のFab軽鎖定常領域と共有するポリペプチド(VL(1)-CL(1)-VH(2)-CL(2))を更に含む。
【0211】
これらの実施形態による二重特異性抗体は、(i)Fcドメインサブユニットポリペプチド(CH2-CH3(-CH4))、又は(ii)第3のFab分子のFab重鎖がカルボキシ末端ペプチド結合をFcドメインサブユニットと共有するポリペプチド(VH(3)-CH1(3)-CH2-CH3(-CH4))及び第3のFab分子のFab軽鎖ポリペプチド(VL(3)-CL(3))を更に含み得る。特定の実施形態では、ポリペプチドは、例えば、ジスルフィド結合によって共有結合している。
【0212】
本発明による二重特異性抗体の異なる構造の全てにおいて、本明細書に記載されるアミノ酸置換は、存在する場合、第1及び(存在する場合)第3の抗原結合部分/Fab分子のCH1及びCLドメイン、又は第2の抗原結合部分/Fab分子のCH1又はCLドメインにおけるものでありうる。好ましくは、それらは、第1及び(存在する場合)第3の抗原結合部分/Fab分子のCH1ドメイン及びCLドメインにおけるものである。本発明の概念によれば、本明細書に記載されるアミノ酸置換が、第1(及び存在する場合、第3)の抗原結合部分/Fab分子において行われる場合、そのようなアミノ酸置換は、第2の抗原結合部分/Fab分子において行われない。逆に、本明細書に記載されるアミノ酸置換が、第2の抗原結合部分/Fab分子において行われる場合、そのようなアミノ酸置換は、第1(及び存在する場合、第3)の抗原結合部分/Fab分子において行われない。アミノ酸置換は、特に、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVL及びVH1が互いに置き換わっているFab分子を含む二重特異性抗体において行われる。
【0213】
本発明による二重特異性抗体の特定の実施形態では、特に、本明細書に記載されるアミノ酸置換が第1(及び存在する場合、第3)の抗原結合部分/Fab分子において行われる場合、第1(及び存在する場合、第3)のFab分子の定常ドメインCLは、カッパアイソタイプのものである。本発明による二重特異性抗体の他の実施形態では、特に、本明細書に記載されるアミノ酸置換が、第2の抗原結合部分/Fab分子において行われる場合、第2の抗原結合部分/Fab分子の定常ドメインCLは、カッパアイソタイプのものである。いくつかの実施形態では、第1の(及び存在する場合は第3の)抗原結合部分/Fab分子の定常ドメインCLと、第2の抗原結合部分/Fab分子の定常ドメインCLは、カッパアイソタイプである。
【0214】
特定の態様では、本発明は、
a)第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分及び第3の抗原結合部分であって、第1の抗原はHLA-Gであり、第1の抗原結合部分及び第2の抗原結合部分はそれぞれ、配列番号7のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号24のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む(従来の)Fab分子である、第1の抗原に結合する第1の抗原結合部分及び第3の抗原結合部分と、
b)第2の抗原に結合する第2の抗原結合部分であって、第2の抗原がCD3であり、第2の抗原結合部分が、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVL及びVHが互いに置き換わっているFab分子であり、(i)配列番号58のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号59のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;又は(ii)配列番号66のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号67のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域;又は(iii)配列番号74のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域及び配列番号75のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、第2の抗原結合部分と、
c)第1及び第2のサブユニットからなるFcドメインと、を含む二重特異性抗体を提供し、
a)での第1及び第3の抗原結合部分の定常ドメインCLにおいて、位置124のアミノ酸が、リジン(K)によって置換されており(Kabatによるナンバリング)、位置123のアミノ酸が、リジン(K)又はアルギニン(R)によって(最も特定的にはアルギニン(R)によって)置換されており(Kabatによるナンバリング)、a)での第1及び第3の抗原結合部分の定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸が、グルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、位置213のアミノ酸が、グルタミン酸(E)によって置換されており(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、
さらに、
a)の下での第1の抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端においてb)の下での第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合されており、b)の下での第2の抗原結合部分及びa)の下での第3の抗原結合部分はそれぞれ、Fab重鎖のC末端においてc)の下でのFcドメインのサブユニットの1つのN末端に融合されている。
【0215】
本発明のこれらの態様による一実施形態では、Fcドメインの第1のサブユニットにおいて、位置366のトレオニン残基がトリプトファン残基で置き換えられており(T366W)、Fcドメインの第2のサブユニットにおいて、位置407のチロシン残基がバリン残基で置き換えられており(Y407V)、任意に位置366のトレオニン残基がセリン残基で置き換えられており(T366S)、位置368のロイシン残基がアラニン残基で置き換えられている(L368A)(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0216】
本発明のこれらの態様による更なる実施形態では、Fcドメインの第1のサブユニットにおいて、追加的に、位置354のセリン残基がシステイン残基で置き換えられている(S354C)か又は位置356のグルタミン酸残基がシステイン残基で置き換えられており(E356C)(特に、位置354のセリン残基がシステイン残基で置き換えられており)、Fcドメインの第2のサブユニットにおいて、追加的に、位置349のチロシン残基がシステイン残基と置により置き換えられて(Y349C)(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0217】
本発明のこれらの態様による更なる実施形態では、Fcドメインの第1のサブユニット及び第2のサブユニットのそれぞれにおいて、位置234のロイシン残基がアラニン残基(L234A)と置き換わっており、位置235のロイシン残基がアラニン残基と置き換わっており(L235A)、位置329のプロリン残基がグリシン残基により置き換えられている(P329G)(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0218】
本発明のこれらの態様による更なる実施形態では、Fcドメインは、ヒトIgG1 Fcドメインである。
【0219】
本発明の具体的な実施形態は、ヒトHLA-G及びヒトCD3に結合する二重特異性抗体であって、配列番号76の配列と少なくとも98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号77の配列と少なくとも98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号78の配列と少なくとも98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号79の配列と少なくとも98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む(VH若しくはVLフレームワーク領域又は定常領域において、そのような二重特異性抗体の特異的結合特性及び定常領域の特性に影響を及ぼすことなくアミノ酸が置換されている)。
【0220】
本発明の具体的な実施形態は、ヒトHLA-G及びヒトCD3に結合する二重特異性抗体であって、配列番号76の配列と少なくとも98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号77の配列と少なくとも98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号78の配列と少なくとも98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号79の配列と少なくとも98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドを含み、
該二重特異性抗体は、以下の1つ以上の特性を有する:
二重特異性抗体は、以下を示す
a)HLA-GへのILT2及び/若しくはILT4の結合の阻害(実施例10を参照されたい)、並びに/又は
b)組換えHLA-G(SKOV3 HLA-G)でトランスフェクトしたSKOV3細胞上及び/若しくは内因性HLA-Gを発現するJEG3細胞上でのT細胞による抗体媒介IFNガンマ分泌(IFNガンマ分泌が検出された)(Luminex technologyによる)(実施例11を参照されたい)、並びに又は
c)組換えHLA-G(SKOV 3HLA-G)でトランスフェクトしたSKOV3細胞及び/若しくは内因性HLA-Gを発現するJEG3細胞に対するT細胞媒介性細胞傷害/腫瘍細胞殺傷(細胞傷害は、二重特異性抗体で治療した後の細胞におけるカスパーゼ8活性化を測定することによって検出された)(実施例12を参照されたい)、並びに/又は
d)組換えHLA-G(SKOV3 HLA-G)ヒト化NSGマウスでトランスフェクトしたSKOV3ヒト卵巣癌腫を有するヒト化NSGマウスにおけるin vivo抗腫瘍有効性/腫瘍退縮(実施例13を参照されたい)、及び/又は
e)ヒト乳がんPDX腫瘍(BC004)を有するヒト化NSGマウスにおけるHLA-G CD3 T細胞二重特異性のin vivo抗腫瘍有効性/腫瘍(実施例14を参照されたい)。
【0221】
更に具体的な実施形態では、二重特異性抗体は、配列番号76のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号77のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号78のアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号79のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む。
【0222】
本発明の更なる具体的な実施形態は、ヒトHLA-G及びヒトCD3に結合する二重特異性抗体であって、配列番号80の配列と少なくとも98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号81の配列と少なくとも98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号82の配列と少なくとも98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号83の配列と少なくとも98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む(VH若しくはVLフレームワーク領域又は定常領域において、そのような二重特異性抗体の特異的結合特性及び定常領域の特性に影響を及ぼすことなくアミノ酸が置換されている)。
【0223】
本発明の具体的な実施形態は、ヒトHLA-G及びヒトCD3に結合する二重特異性抗体であって、配列番号80の配列と少なくとも98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号81の配列と少なくとも98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号82の配列と少なくとも98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号83の配列と少なくとも98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドを含み、
該二重特異性抗体は、以下の1つ以上の特性を有する:
二重特異性抗体は、以下を示す
a)HLA-GへのILT2及び/若しくはILT4の結合の阻害(実施例10を参照されたい)、並びに/又は
b)組換えHLA-G(SKOV3 HLA-G)でトランスフェクトしたSKOV3細胞上及び/若しくは内因性HLA-Gを発現するJEG3細胞上でのT細胞による抗体媒介IFNガンマ分泌(IFNガンマ分泌が検出された)(Luminex technologyによる)(実施例11を参照されたい)、並びに又は
c)組換えHLA-G(SKOV 3HLA-G)でトランスフェクトしたSKOV3細胞及び/若しくは内因性HLA-Gを発現するJEG3細胞に対するT細胞媒介性細胞傷害/腫瘍細胞殺傷(細胞傷害は、二重特異性抗体で治療した後の細胞におけるカスパーゼ8活性化を測定することによって検出された)(実施例12を参照されたい)、並びに/又は
d)組換えHLA-G(SKOV3 HLA-G)ヒト化NSGマウスでトランスフェクトしたSKOV3ヒト卵巣癌腫を有するヒト化NSGマウスにおけるin vivo抗腫瘍有効性/腫瘍退縮(実施例13を参照されたい)、及び/又は
e)ヒト乳がんPDX腫瘍(BC004)を有するヒト化NSGマウスにおけるHLA-G CD3 T細胞二重特異性のin vivo抗腫瘍有効性/腫瘍(実施例14を参照されたい)。
【0224】
更に具体的な実施形態では、二重特異性抗体は、配列番号80のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号81のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号82のアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号83のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む。
【0225】
本発明の更なる具体的な実施形態は、ヒトHLA-G及びヒトCD3に結合する二重特異性抗体であって、配列番号84の配列と少なくとも98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号85の配列と少なくとも98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号86の配列と少なくとも98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号87の配列と少なくとも98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む(VH若しくはVLフレームワーク領域又は定常領域において、そのような二重特異性抗体の特異的結合特性及び定常領域の特性に影響を及ぼすことなくアミノ酸が置換されている)。
【0226】
本発明の具体的な実施形態は、ヒトHLA-G及びヒトCD3に結合する二重特異性抗体であって、配列番号84の配列と少なくとも98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号85の配列と少なくとも98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号86の配列と少なくとも98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号87の配列と少なくとも98%又は99%同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドを含み、
該二重特異性抗体は、以下の1つ以上の特性を有する:
二重特異性抗体は、以下を示す。
a)HLA-GへのILT2及び/若しくはILT4の結合の阻害(実施例10を参照されたい)、並びに/又は
b)組換えHLA-G(SKOV3 HLA-G)でトランスフェクトしたSKOV3細胞上及び/若しくは内因性HLA-Gを発現するJEG3細胞上でのT細胞による抗体媒介IFNガンマ分泌(IFNガンマ分泌が検出された)(Luminex technologyによる)(実施例11を参照されたい)、並びに又は
c)組換えHLA-G(SKOV 3HLA-G)でトランスフェクトしたSKOV3細胞及び/若しくは内因性HLA-Gを発現するJEG3細胞に対するT細胞媒介性細胞傷害/腫瘍細胞殺傷(細胞傷害は、二重特異性抗体で治療した後の細胞におけるカスパーゼ8活性化を測定することによって検出された)(実施例12を参照されたい)、並びに/又は
d)組換えHLA-G(SKOV3 HLA-G)ヒト化NSGマウスでトランスフェクトしたSKOV3ヒト卵巣癌腫を有するヒト化NSGマウスにおけるin vivo抗腫瘍有効性/腫瘍退縮(実施例13を参照されたい)、及び/又は
e)ヒト乳がんPDX腫瘍(BC004)を有するヒト化NSGマウスにおけるHLA-G CD3 T細胞二重特異性のin vivo抗腫瘍有効性/腫瘍(実施例14を参照されたい)。
【0227】
更に具体的な実施形態では、二重特異性抗体は、配列番号84のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号85のアミノ酸配列を含むポリペプチド、配列番号86のアミノ酸配列を含むポリペプチド、及び配列番号87のアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む。
Fcドメイン
【0228】
特定の実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、第1及び第2のサブユニットから構成されるFcドメインを含む。二重特異性抗体に関連して本明細書に記載されるFcドメインの特徴は、Fcヘテロ二量体化に関連する修飾を除いて、本発明の単一特異性抗HLAG抗体に含まれるFcドメインに等しく適用され得ることが理解される。
【0229】
二重特異性抗体のFcドメインは、免疫グロブリン分子の重鎖ドメインを含む一対のポリペプチド鎖からなる。例えば、免疫グロブリンG(IgG)分子のFcドメインは、ダイマーであり、それぞれのサブユニットは、CH2及びCH3 IgG重鎖定常ドメインを含む。Fcドメインの2つのサブユニットは、互いに安定な会合が可能である。一実施形態では、本発明の二重特異性抗体は1つを超えるFcドメインを含まない。
【0230】
一実施形態では、二重特異性抗体のFcドメインはIgG Fcドメインである。特定の実施形態では、Fcドメインは、IgG1 Fcドメインである。別の実施形態では、Fcドメインは、IgG4 Fcドメインである。より具体的な実施形態では、Fcドメインは、位置S228にアミノ酸置換、特にアミノ酸置換S228Pを含むIgG4 Fcドメインである(Kabat EUインデックスナンバリング)。このアミノ酸置換は、in vivoでのIgG4抗体のFabアーム交換を低減する(Stubenrauch et al.,Drug Metabolism and Disposition 38,84-91(2010)を参照されたい)。更に特定の実施形態では、Fcドメインは、ヒトFcドメインである。更により特定的な実施形態では、Fcドメインは、ヒトIgG1 Fcドメインである。
ヘテロ二量体化を促進するFcドメイン修飾
【0231】
本発明による二重特異性抗体は、Fcドメインの2つのサブユニットの一方又は他方に融合し得る異なる抗原結合部分を含み、したがってFcドメインの2つのサブユニットは、典型的には2つの非同一ポリペプチド鎖に含まれる。これらのポリペプチドの組換え同時発現及びその後の二量化によって、2つのポリペプチドのいくつかの可能な組み合わせが生じる。組換え産生における二重特異性抗体の収率及び純度を改善するため、二重特異性抗体のFcドメインに、所望のポリペプチドの会合を促進する修飾を導入することが有利である。
【0232】
したがって、特定の実施形態では、本発明による二重特異性抗体のFcドメインは、Fcドメインの第1のサブユニットと第2のサブユニットとの会合を促進する修飾を含む。ヒトIgG Fcドメインの2つのサブユニット間の最も長いタンパク質-タンパク質相互作用の部位は、FcドメインのCH3ドメイン内にある。したがって、一実施形態では、当該修飾は、FcドメインのCH3ドメインの中にある。
【0233】
ヘテロ二量体化を強化するために、FcドメインのCH3ドメイン中の修飾に複数の手法が存在し、それらは例えば、国際公開第96/27011号、国際公開第98/050431号、欧州特許第1870459号、国際公開第2007/110205号、国際公開第2007/147901号、国際公開第2009/089004号、国際公開第2010/129304号、国際公開第2011/90754号、国際公開第2011/143545号、国際公開第2012058768号、国際公開第2013157954号、国際公開第2013096291号に十分に記載されている。典型的には、全てのそのような手法において、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメイン及びFcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインは、両方とも、各CH3ドメイン(又はそれを含む重鎖)がもはやそれ自体とホモ二量体化することができず、相補的に操作された他のCH3ドメインとヘテロ二量体化させるような(第1及び第2のCH3ドメインがヘテロ二量体化し、2つの第1又は2つの第2のCH3ドメインの間にホモ二量体が形成されないような)、相補的な様式で操作される。改善された重鎖ヘテロ二量体化のためのこれらの異なる手法は、重鎖/軽鎖の誤対合及びベンス・ジョーンズ型副生成物を低減する、二重特異性抗体における重鎖-軽鎖修飾との組み合わせでの異なる代替例として考慮される(例えば、1つの結合アームにおけるVH及びVLの交換/置き換え、並びにCH1/CL界面における反対の電荷を有する荷電アミノ酸の置換の導入)。
【0234】
具体的な実施形態では、Fcドメインの第1のサブユニット及び第2のサブユニットの会合を促進する修飾は、いわゆる「ノブ・イントゥ・ホール」修飾であり、Fcドメインの2つのサブユニットの1つに「ノブ」修飾と、Fcドメインの2つのサブユニットの他の1つに「ホール」修飾とを含む。
【0235】
ノブ・イントゥ・ホール技術は、例えば、米国特許第5,731,168号、米国特許第7,695,936号、Ridgway et al.,Prot Eng 9,617-621(1996)及びCarter,J Immunol Meth 248,7-15(2001)に記載される。一般的に、この方法は、第1のポリペプチドの界面にある突起(「ノブ」)と、第2のポリペプチドの界面にある対応する空洞(「ホール」)とを導入することを含み、その結果、突起が、ヘテロ二量体形成を促進し、ホモ二量体形成を妨害するように空洞内に位置することができる。突起は、第1のポリペプチドの界面からの小さなアミノ酸側鎖を、より大きな側鎖(例えば、チロシン又はトリプトファン)で置き換えることによって構築される。突起と同一又は同様の大きさの相補性空洞が、大きなアミノ酸側鎖を、より小さなアミノ酸側鎖(例えば、アラニン又はトレオニン)と置き換えることによって、第2のポリペプチドの界面に作られる。
【0236】
したがって、特定の実施形態では、二重特異性抗体のFcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおいて、アミノ酸残基は、より大きな側鎖容積を有するアミノ酸残基と置き換わり、それによって、第2のサブユニットのCH3ドメイン内の空洞内で位置換え可能な第1のサブユニットのCH3ドメイン内に突起を生成し、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおいて、アミノ酸残基は、より小さな側鎖容積を有するアミノ酸残基と置き換わり、それによって、第2のサブユニットのCH3ドメイン内に空洞を生成し、その中で、第1のサブユニットのCH3ドメイン内の突起が位置換え可能である。
【0237】
好ましくは、より大きな側鎖量を有する当該アミノ酸残基は、アルギニン(R)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)及びトリプトファン(W)からなる群から選択される。
【0238】
好ましくは、より小さな側鎖量を有する当該アミノ酸残基は、アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T)及びバリン(V)からなる群から選択される。
【0239】
突起及び空洞は、ポリペプチドをコードする核酸を変えることによって、例えば、部位特異的変異導入法によって、又はペプチド合成によって作り出すことができる。
【0240】
具体的な実施形態では、Fcドメインの第1のサブユニット(「ノブ」サブユニット)(のCH3ドメイン)において、位置366のトレオニン残基が、トリプトファン残基と置き換わっており(T366W)、Fcドメイン(「ホール」サブユニット)の第2のサブユニット(のCH3ドメイン)において、位置407のチロシン残基は、バリン残基と置き換わっている(Y407V)。一実施形態では、Fcドメインの第2のサブユニットにおいて、更に、位置366のトレオニン残基が、セリン残基と置き換わっており(T366S)、位置368のロイシン残基が、アラニン残基と置き換わっている(L368A)(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0241】
なお更なる実施形態では、Fcドメインの第1のサブユニットにおいて、更に、位置354のセリン残基が、システイン残基と置き換わっている(S354C)か、又は位置356のグルタミン酸残基が、システイン残基と置き換わっており(E356C)(特に、位置354のセリン残基がシステイン残基と置き換わっており)、Fcドメインの第2のサブユニットにおいて、更に、位置349のチロシン残基が、システイン残基と置き換わっている(Y349C)(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。これら2つのシステイン残基の導入によって、Fcドメインの2つのサブユニットの間にジスルフィド架橋の形成が生じ、二量体が更に安定化する(Carter,J Immunol Methods 248,7-15(2001))。
【0242】
特定の実施形態では、Fcドメインの第1のサブユニットは、アミノ酸置換S354C及びT366Wを含み、Fcドメインの第2のサブユニットは、アミノ酸置換Y349C、T366S、L368A及びY407Vを含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0243】
特定の実施形態では、第2の抗原(例えば、活性化T細胞抗原)に結合する抗原結合部分は、Fcドメインの第1のサブユニット(「ノブ」修飾を含む)に融合(任意に、HLA-Gに結合する第1の抗原結合部分及び/又はペプチドリンカーを介して)される。理論に拘束されることを望むものではないが、第2の抗原(例えば、活性化T細胞抗原)に結合する抗原結合部分の、Fcドメインのノブ含有サブユニットへの融合は、活性化T細胞抗原に結合する2つの抗原結合部分を含む抗体の生成を(更に)最小限に抑える(2つのノブ含有ポリペプチドの立体衝突)。
【0244】
ヘテロ二量体化を強化するCH3修飾のための他の技術が本発明による代替例として考慮され、例えば、国際公開第96/27011号、国際公開第98/050431号、欧州特許第1870459号、国際公開第2007/110205号、国際公開第2007/147901号、国際公開第2009/089004号、国際公開第2010/129304号、国際公開第2011/90754号、国際公開第2011/143545号、国際公開第2012/058768号、国際公開第2013/157954号、国際公開第2013/096291号に記載されている。
【0245】
一実施形態では、欧州特許第1870459号に記載されるヘテロ二量体化手法を代わりに使用する。この手法は、Fcドメインの2つのサブユニット間のCH3/CH3ドメイン界面における特定のアミノ酸位置における反対の電荷を有する荷電アミノ酸の導入に基づく。本発明の二重特異性抗体の好ましい一実施形態は、(Fcドメインの)2つのCH3ドメインの一方におけるアミノ酸変異R409D、K370E及びFcドメインのCH3ドメインの他方におけるアミノ酸変異D399K、E357Kである(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0246】
別の実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異T366W及びFcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異T366S、L368A、Y407Vを含み、追加的に、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異R409D、K370E及びFcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異D399K、E357Kを含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0247】
別の実施形態では、本発明の二重特異性抗体は、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異S354C、T366W及びFcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインにおけるアミノ酸変異Y349C、T366S、L368A、Y407Vを含むか、又は当該二重特異性抗体は、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメイン内のアミノ酸変異Y349C、T366W及びFcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメイン内のアミノ酸変異S354C、T366S、L368A、Y407Vを含み、追加的に、Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメイン内のアミノ酸変異R409D、K370E及びFcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメイン内のアミノ酸変異D399K、E357Kを含む(全てKabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0248】
一実施形態では、国際公開第2013/157953号に記載されるヘテロ二量体化手法を代わりに使用する。一実施形態では、第1のCH3ドメインは、アミノ酸変異T366Kを含み、第2のCH3ドメインは、アミノ酸変異L351Dを含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。更なる実施形態では、第1のCH3ドメインは、更なるアミノ酸変異L351Kを含む。更なる実施形態では、第2のCH3ドメインは、更に、Y349E、Y349D及びL368E(好ましくはL368E)(Kabat EUインデックスによるナンバリング)から選択されるアミノ酸変異を含む。
【0249】
一実施形態では、国際公開第2012/058768号に記載されるヘテロ二量体化手法を代わりに使用する。一実施形態では、第1のCH3ドメインは、アミノ酸変異L351Y、Y407Aを含み、第2のCH3ドメインは、アミノ酸変異T366A、K409Fを含む。更なる実施形態では、第2のCH3ドメインは、位置T411、D399、S400、F405、N390又はK392にある更なるアミノ酸変異、例えば、(a)T411N、T411R、T411Q、T411K、T411D、T411E又はT411W、(b)D399R、D399W、D399Y又はD399K、(c)S400E、S400D、S400R又はS400K、(d)F405I、F405M、F405T、F405S、F405V又はF405W、(e)N390R、N390K又はN390D、(f)K392V、K392M、K392R、K392L、K392F又はK392E(Kabat EUインデックスによるナンバリング)を含む。更なる実施形態では、第1のCH3ドメインは、アミノ酸変異L351Y、Y407Aを含み、第2のCH3ドメインは、アミノ酸変異T366V、K409Fを含む。更なる実施形態では、第1のCH3ドメインは、アミノ酸変異Y407Aを含み、第2のCH3ドメインは、アミノ酸変異T366A、K409Fを含む。更なる実施形態では、第2のCH3ドメインは、更に、アミノ酸変異K392E、T411E、D399R及びS400Rを含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0250】
一実施形態では、国際公開第2011/143545号に記載されるヘテロ二量化手法が代わりに使用され、例えば、368及び409からなる群から選択される位置にアミノ酸改変を有する(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0251】
一実施形態では、上に記載するホールにノブを入れる技術も使用する、国際公開第2011/090762号に記載されるヘテロ二量化手法が、代わりに使用される。一実施形態では、第1のCH3ドメインは、アミノ酸変異T366Wを含み、第2のCH3ドメインは、アミノ酸変異Y407Aを含む。一実施形態では、第1のCH3ドメインはアミノ酸変異T366Yを含み、第2のCH3ドメインはアミノ酸変異Y407Tを含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0252】
一実施形態では、二重特異性抗体又はそのFcドメインは、IgG2サブクラスのものであり、国際公開第2010/129304号に記載されているヘテロ二量体化手法が代替的に使用される。
【0253】
代替的な実施形態では、Fcドメインの第1のサブユニット及び第2のサブユニットの会合を促進する修飾は、例えば、PCT国際公開第2009/089004号に記載されるように、静電操縦効果に介在する修飾を含む。一般的に、この方法は、2つのFcドメインサブユニットの界面に、ホモ二量体生成が静電的に望ましくないが、ヘテロ二量化が静電的に望ましいように、帯電したアミノ酸残基による1つ以上のアミノ酸残基の置き換えを含む。そのような一実施形態では、第1のCH3ドメインは、K392又はN392の負に帯電したアミノ酸(例えば、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)、好ましくはK392D又はN392D)によるアミノ酸置換を含み、第2のCH3ドメインは、D399、E356、D356又はE357の正に帯電したアミノ酸によるアミノ酸置換(例えば、リジン(K)又はアルギニン(R)、好ましくはD399K、E356K、D356K又はE357K、より好ましくはD399K及びE356K)を含む。更なる実施形態では、第1のCH3ドメインは、更に、K409又はR409の負に帯電したアミノ酸によるアミノ酸置換(例えば、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)、好ましくはK409D又はR409D)を含む。更なる実施形態では、第1のCH3ドメインは、更に、又はこれに代えて、K439及び/又はK370の負に帯電したアミノ酸(例えば、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D))(全てKabat EUインデックスによるナンバリング)によるアミノ酸置換を含む。
【0254】
なお更なる実施形態では、国際公開第2007/147901号に記載されるヘテロ二量体化手法を代わりに使用する。一実施形態では、第1のCH3ドメインは、アミノ酸変異K253E、D282K及びK322Dを含み、第2のCH3ドメインは、アミノ酸変異D239K、E240K及びK292Dを含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0255】
更に別の実施形態では、国際公開第2007/110205号に記載されるヘテロ二量体化手法を代わりに使用してもよい。
【0256】
一実施形態では、Fcドメインの第1のサブユニットは、アミノ酸置換K392D及びK409Dを含み、Fcドメインの第2のサブユニットは、アミノ酸置換D356K及びD399Kを含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
Fc受容体結合及び/又はエフェクタ機能を下げるFcドメイン修飾
【0257】
Fcドメインは、二重特異性抗体(又は抗体)に、標的組織における良好な蓄積に寄与する長い血清半減期を含む好ましい薬物動態特性及び好ましい組織血液分布比を付与する。しかしながら、それは同時に、好ましい抗原担持細胞ではなく、Fc受容体を発現する細胞への(二重特異性)抗体(又は抗体)の望ましくない標的化をもたらすことがある。さらに、Fc受容体シグナル伝達経路の同時活性化はサイトカイン分泌/放出をもたらすことがあり、これはT細胞活性化特性(例えば、第2の抗原結合部分が活性化T細胞抗原に結合する、二重特異性抗体の実施形態では)及び二重特異性抗体の長い半減期と組み合わさって、全身投与するとサイトカイン受容体の過剰な活性化及び重篤な副作用を生じる。T細胞以外の(Fc受容体を有する)免疫細胞の活性化は、例えばNK細胞によるT細胞の潜在的破壊のため、二重特異性抗体(特に、第2の抗原結合部分が活性化T細胞抗原に結合する二重特異性抗体)の有効性を低下させることさえある。
【0258】
したがって、特定の実施形態では、本発明による二重特異性抗体のFcドメインは、ネイティブIgG1 Fcドメインと比較して、Fc受容体への結合親和性の低減及び/又はエフェクタ機能の低減を呈する。そのような一実施形態では、Fcドメイン(又は当該Fcドメインを含む二重特異性抗体)は、ネイティブIgG1Fcドメイン(又はネイティブIgG1Fcドメインを含む抗体)と比較して、50%未満、特に20%未満、より具体的には10%未満、とりわけ5%未満の結合親和性をFc受容体に示す、及び/又はネイティブIgG1Fcドメインドメイン(又はネイティブIgG1Fcドメインを含む抗体)と比較して、50%未満、特に20%未満、より具体的には10%未満、とりわけ5%未満のエフェクタ機能を示す。一実施形態では、Fcドメインドメイン(又は当該Fcドメインを含む二重特異性抗体)は、Fc受容体に実質的に結合しない及び/又はエフェクタ機能を誘導しない。特定の実施形態では、Fc受容体は、Fcγ受容体である。一実施形態では、Fc受容体は、ヒトFc受容体である。一実施形態では、Fc受容体は、活性化Fc受容体である。具体的な実施形態では、Fc受容体は、活性化ヒトFcγ受容体であり、より特定的には、ヒトFcγRIIIa、FcγRI又はFcγRIIaであり、最も特定的には、ヒトFcγRIIIaである。一実施形態では、エフェクタ機能は、CDC、ADCC、ADCP及びサイトカイン分泌の群から選択される1つ以上である。特定の実施形態では、エフェクタ機能はADCCである。一実施形態では、Fcドメインドメインは、ネイティブIgG1Fcドメインドメインと比較して、新生児Fc受容体(FcRn)に実質的に同様の結合親和性を示す。FcRnへの実質的に同様の結合は、Fcドメイン(又は当該Fcドメインを含む二重特異性抗体)が、ネイティブIgG1Fcドメイン(又はネイティブIgG1Fcドメインを含む二重特異性抗体)の約70%超、特に約80%超、より特には約90%超の結合親和性をFcRnに対して呈するとき、達成される。
【0259】
特定の実施形態では、Fcドメインは、操作されていないFcドメインと比較して、Fc受容体に対する結合親和性が低下し、及び/又はエフェクタ機能が低下するように操作される。特定の実施形態では、二重特異性抗体のFcドメインは、Fc受容体に対するFcドメインの結合親和性及び/又はエフェクタ機能を下げる1つ以上のアミノ酸変異を含む。典型的には、Fcドメインの2つのサブユニットそれぞれに、同じ1つ以上のアミノ酸変異が存在する。一実施形態では、アミノ酸変異は、Fc受容体に対するFcドメインの結合親和性を下げる。一実施形態では、アミノ酸変異は、Fc受容体に対するFcドメインの結合親和性を、少なくとも2分の1、少なくとも5分の1、又は少なくとも10分の1に下げる。Fc受容体に対するFcドメインの結合親和性を下げる1つより多いアミノ酸変異が存在する実施形態では、これらのアミノ酸変異の組み合わせが、Fc受容体に対するFcドメインの結合親和性を少なくとも10分の1、少なくとも20分の1、又は更に少なくとも50分の1まで下げてもよい。一実施形態では、操作Fcドメインを含む二重特異性抗体は、非操作Fcドメインを含む二重特異性抗体と比較して、20%未満、特に10%未満、より特には5%未満の結合親和性をFc受容体に対して呈する。特定の実施形態では、Fc受容体は、Fcγ受容体である。いくつかの実施形態では、Fc受容体は、ヒトFc受容体である。いくつかの実施形態では、Fc受容体は、活性化Fc受容体である。具体的な実施形態では、Fc受容体は、活性化ヒトFcγ受容体であり、より特定的には、ヒトFcγRIIIa、FcγRI又はFcγRIIaであり、最も特定的には、ヒトFcγRIIIaである。好ましくは、これらそれぞれの受容体に対する結合が低下する。いくつかの実施形態では、相補性構成要素に対する結合親和性(特定的にはC1qに対する結合親和性)も低下する。一実施形態では、新生児Fc受容体(FcRn)に対する結合親和性は、低下しない。FcRnへの実質的に同様の結合、すなわち、当該受容体へのFcドメインの結合親和性の保存は、Fcドメイン(又は当該Fcドメインを含む二重特異性抗体)が、Fcドメインの非操作形態(又は当該Fcドメインの非操作形態を含む二重特異性抗体)の結合親和性の約70%超をFcRn対して呈するとき、達成される。Fcドメイン又は当該Fcドメインを含む本発明の二重特異性抗体は、そのような親和性の約80%超、更には約90%超を呈し得る。ある特定の実施形態では、二重特異性抗体のFcドメインは、非操作Fcドメインと比較して、エフェクタ機能が低減されるように操作される。エフェクタ機能の低減として、補体依存性細胞傷害(CDC)の低減、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)の低減、抗体依存性細胞食作用(ADCP)の低減、サイトカイン分泌の低減、抗原提示細胞による免疫複合体媒介性抗原取り込みの低減、NK細胞への結合の低減、マクロファージへの結合の低減、単球への結合の低減、多形核細胞への結合の低減、直接的なシグナル伝達誘導性アポトーシスの低減、標的結合抗体の架橋の低減、樹状細胞成熟の低減、又はT細胞プライミングの低減のうちの1つ以上を挙げることができるが、これらに限定されない。一実施形態では、エフェクタ機能の低下は、CDCの低下、ADCCの低下、ADCPの低下及びサイトカイン分泌の低下の群から選択される1つ以上である。特定の実施形態では、低下したエフェクタ機能は、低下したADCCである。一実施形態では、ADCCの低減は、操作されていないFcドメイン(又は操作されていないFcドメインを含む二重特異性抗体)により誘導されるADCCの20%未満である。
【0260】
一実施形態では、Fc受容体に対するFcドメインの結合親和性及び/又はエフェクタ機能を下げるアミノ酸変異は、アミノ酸置換である。一実施形態では、Fcドメインは、E233、L234、L235、N297、P331及びP329の群から選択される位置にアミノ酸置換を含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。より具体的な実施形態では、Fcドメインは、L234、L235及びP329の群から選択される位置にアミノ酸置換を含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。いくつかの実施形態では、Fcドメインは、アミノ酸置換L234A及びL235A(Kabat EUインデックスによるナンバリング)を含む。そのような一実施形態では、Fcドメインは、IgG1 Fcドメイン、特にヒトIgG1 Fcドメインである。一実施形態では、Fcドメインは、位置P329にアミノ酸置換を含む。より具体的な実施形態では、アミノ酸置換は、P329A又はP329G、特にP329G(Kabat EUインデックスによるナンバリング)である。一実施形態では、Fcドメインは、位置P329にアミノ酸置換を含み、E233、L234、L235、N297及びP331から選択される位置に更なるアミノ酸置換を含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。より具体的な実施形態では、更なるアミノ酸置換は、E233P、L234A、L235A、L235E、N297A、N297D又はP331Sである。特定の実施形態では、Fcドメインは、位置P329、L234及びL235のアミノ酸置換(Kabat EUインデックスによるナンバリング)を含む。より特定的な実施形態では、Fcドメインは、アミノ酸変異L234A、L235A及びP329Gを含む(「P329G LALA」、「PGLALA」又は「LALAPG」)。具体的には、特定の実施形態では、Fcドメインのそれぞれのサブユニットは、アミノ酸置換L234A、L235A及びP329G(Kabat EUインデックスナンバリング)を含み、すなわち、Fcドメインの第1のサブユニット及び第2のサブユニットそれぞれにおいて、位置234のロイシン残基が、アラニン残基(L234A)と置き換わっており、位置235のロイシン残基が、アラニン残基(L235A)と置き換わっており、位置329のプロリン残基が、グリシン残基(P329G)と置き換わっている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0261】
そのような一実施形態では、Fcドメインは、IgG1 Fcドメイン、特にヒトIgG1 Fcドメインである。アミノ酸置換の「P329G LALA」の組み合わせは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2012/130831号に記載されているように、ヒトIgG1 FcドメインのFcγ受容体(同様に補体)結合をほとんど完全に消滅させる。国際公開第2012/130831号は、そのような変異Fcドメインの調製方法及びその特性、例えばFc受容体結合又はエフェクタ機能を決定するための方法も記載する。
【0262】
IgG4抗体は、IgG1抗体と比較して、Fc受容体への結合親和性の低減及びエフェクタ機能の低減を呈する。したがって、いくつかの実施形態では、本発明の(二重特異性)抗体のFcドメインは、IgG4Fcドメイン、特にヒトIgG4Fcドメインである。一実施形態では、IgG4Fcドメインは、位置S228にアミノ酸置換を含み、具体的にはアミノ酸置換S228Pを含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。Fc受容体及び/又はそのエフェクタ機能に対する結合親和性を更に低下させるために、一実施形態では、IgG4Fcドメインは、位置L235にアミノ酸置換を含み、特定的には、アミノ酸置換L235Eを含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。別の実施形態では、IgG4Fcドメインは、位置P329にアミノ酸置換を含み、特定的には、アミノ酸置換P329Gを含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。特定の実施形態では、IgG4Fcドメインは、位置S228、L235及びP329にアミノ酸置換を含み、特異的には、アミノ酸置換S228P、L235E及びP329Gを含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。そのようなIgG4 Fcドメイン変異体及びこれらのFcγ受容体結合特性は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2012/130831号に記載されている。
【0263】
特定の実施形態では、ネイティブIgG1Fcドメインと比較して、Fc受容体に対する結合親和性の低下及び/又はエフェクタ機能の低下を示すFcドメインは、アミノ酸置換L234A、L235A及び任意にP329Gを含むヒトIgG1Fcドメイン、又はアミノ酸置換S228P、L235E及び任意にP329Gを含むヒトIgG4Fcドメインである(Kabat EUインデックスによるナンバリング)。
【0264】
突然変異型Fcドメインは、当該技術分野で周知の遺伝的方法又は化学的方法を用い、アミノ酸の欠失、置換、挿入又は修飾によって調製することができる。遺伝的方法は、コードDNA配列の部位特異的突然変異誘発、PCR、遺伝子合成等を含んでいてもよい。正しいヌクレオチド変化は、例えば、スクリーニングによって確認することができる。
【0265】
Fc受容体に対する結合は、例えば、ELISAによって、又はBIAcore装置(GE Healthcare)等の標準的な装置と組換え発現によって得られ得るFc受容体を用いた表面プラズモン共鳴(SPR)によって、容易に決定することができる。代替的に、Fc受容体に関するFcドメイン又はFcドメインを含む(二重特異性)抗体の結合親和性は、特定のFc受容体を発現することが知られている細胞株、例えば、FcγIIIa受容体を発現するヒトNK細胞を使用して評価してもよい。
【0266】
Fcドメイン又はFcドメインを含む(二重特異性)抗体のエフェクタ機能は、当技術分野に既知の方法によって測定することができる。目的の分子のADCC活性を評価するためのin vitroアッセイの例は、米国特許第5,500,362号;Hellstrom et al.Proc Natl Acad Sci USA 83,7059-7063(1986)及びHellstrom et al.,Proc Natl Acad Sci USA 82,1499-1502(1985);米国特許第5,821,337号;Bruggemann et al.,J Exp Med 166,1351-1361(1987)に記載されている。あるいは、非放射性アッセイ方法を使用してもよい(例えば、フローサイトメトリー(CellTechnology、Inc.Mountain View、CA)のためのACTI(商標)非放射性細胞傷害アッセイ、及びCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞傷害アッセイ(Promega、Madison、WI))。そのようなアッセイに有用なエフェクタ細胞としては、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられる。代替的又は追加的に、目的の分子のADCC活性は、例えば動物モデル、例えば、Clynes et al.,Proc Natl Acad Sci USA 95,652-656(1998)に開示されているものにおいてin vivoで評価されてもよい。
【0267】
いくつかの実施形態では、相補性構成要素に対する(特定的にはC1qに対する)Fcドメインの結合が低下する。したがって、Fcドメインが低減されたエフェクタ機能を有するように操作されるいくつかの実施形態では、当該低減されたエフェクタ機能は、低減されたCDCを含む。Fcドメイン又はFcドメインを含む二重特異性抗体がC1qに結合することができ、したがってCDC活性を有するかどうかを決定するために、C1q結合アッセイを実施してもよい。例えば、国際公開第2006/029879号及び国際公開第2005/100402号のC1q及びC3c結合ELISAを参照されたい。補体活性化を評価するために、CDCアッセイを行ってもよい(例えば、Gazzano-Santoro et al.、J Immunol Methods 202、163(1996);Cragg et al.、Blood 101、1045-1052(2003);及びCragg and Glennie、Blood 103、2738-2743(2004)を参照されたい)。
【0268】
FcRn結合及びin vivoクリアランス/半減期の決定は、当該技術分野に既知の方法を使用して実施することもできる(例えば、Petkova,S.B.et al.,Int’l.Immunol.18(12):1759-1769(2006);国際公開第2013/120929号を参照されたい)。
【0269】
更なる態様では、上記の実施形態のいずれかによる抗HLA-G抗体は、以下の1~6項に記載される特徴のうちのいずれかを、単独又は組み合わせで組み込み得る。
1.抗体親和性
【0270】
ある特定の実施形態では、本明細書に提供される抗体は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、又は≦0.001nM(例えば、10-8M以下、例えば10-8M~10-13M、例えば10-9M~10-13M)の解離定数KDを有する。
【0271】
好ましい一実施形態では、KDは、約10応答単位(RU)の固定化抗原CM5チップを用いて25℃でBIACORE(登録商標)を使用する表面プラズモン共鳴アッセイを使用して測定される。簡潔には、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5、BIACORE,Inc.)を、供給業者の指示に従って、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性化する。10mMの酢酸ナトリウム(pH4.8)を用いて抗原を5μg/ml(約0.2μM)になるまで希釈した後に、5μL/分の流速で注入して、およそ10応答単位(RU)のカップリングしたタンパク質を得る。抗原の注入に続いて、1Mエタノールアミンを注入して未反応基をブロックする。動態測定のため、Fabの二倍連続希釈物(0.78nM~500nM)を、0.05%ポリソルベート20(TWEEN-20(商標))界面活性剤(PBST)を含むPBS中に25℃で約25μl/分の流速で注入する。会合速度(kon又はka)及び解離速度(koff又はkd)を、会合センサグラム及び解離センサグラムを同時に適合することによって、単純1対1Langmuir結合モデル(BIACORE(登録商標)Evaluation Software バージョン3.2)を使用して計算する。平衡解離定数KDは、kd/ka(koff/kon)比として計算される。例えば、Chen,Y.et al.,J.Mol.Biol.293(1999)865-881を参照されたい。上述の表面プラズモン共鳴アッセイによりオン速度が106M-1 s-1を超える場合、オン速度を、ストップフローを装備した分光測色計(Aviv Instruments)又は撹拌キュベットを有する8000シリーズSLM-AMINCO(商標)分光測色計(ThermoSpectronic)等の分光計で測定される抗原の増加した濃度の存在下でPBS(pH7.2)中20nMの抗抗原抗体(Fab形態)の25℃での蛍光発光強度(励起=295nm、発光=340nm、16nm帯域通過)の増加又は減少を測定する蛍光クエンチ技法を使用することによって決定することができる。
2.抗体断片
【0272】
ある特定の実施形態では、本明細書で提供される抗体は、抗体断片である。抗体断片としては、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2、Fv、及びscFv断片、及び以下に記載する他の断片が挙げられるがこれらに限定されない。特定の抗体断片の総説としては、Hudson,P.J.et al.,Nat.Med.9(2003)129-134を参照されたい。scFv断片の総説としては、例えば、Plueckthun,A.,In;The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,Vol.113,Rosenburg and Moore(eds.),Springer-Verlag,New York(1994),pp.269-315、また国際公開第93/16185号、並びに米国特許第5,571,894号及び米国特許第5,587,458号を参照されたい。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含み、in vivo半減期が長くなったFab及びF(ab’)2断片の説明については、米国特許第5,869,046号を参照されたい。
【0273】
ダイアボディは、二価又は二重特異性であり得る2つの抗原結合部位を有する抗体断片である。例えば、欧州特許第0 404 097号、国際公開第1993/01161号、Hudson,P.J.et al.,Nat.Med.9(2003)129-134、及びHolliger,P.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90(1993)6444-6448を参照されたい。トリアボディ及びテトラボディはまた、Hudson,P.J.et al.,Nat.Med.9(20039 129-134)においても記載されている。
【0274】
シングルドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全て又は一部又は軽鎖可変ドメインの全て又は一部を含む抗体断片である。ある特定の実施形態では、シングルドメイン抗体は、ヒトシングルドメイン抗体である(Domantis,Inc.,Waltham,MA;例えば、米国特許第6,248,516号B1を参照されたい)。
【0275】
抗体断片は、本明細書に記載されているように、インタクトな抗体のタンパク質分解消化、及び組換え宿主細胞(例えば、大腸菌(E.coli)又はファージ)による生産を含むがこれらに限定されない様々な技術によって作製することができる。
3.キメラ抗体及びヒト化抗体
【0276】
ある特定の実施形態では、本明細書に提供される抗体は、キメラ抗体である。ある特定のキメラ抗体は、例えば、米国特許第4,816,567号、及びMorrison,S.L.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81(1984)6851-6855に記載されている。一例では、キメラ抗体は、非ヒト可変領域(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、又はサル等の非ヒト霊長類に由来する可変領域)とヒト定常領域を含む。更なる例では、キメラ抗体は、クラス又はサブクラスが親抗体のそれらから変更されている「クラススイッチ」抗体である。キメラ抗体は、その抗原結合断片を含む。
【0277】
ある特定の実施形態では、キメラ抗体はヒト化抗体である。典型的には、非ヒト抗体が、親の非ヒト抗体の特異性及び親和性を保持しながら、ヒトに対する免疫原性を低下させるためにヒト化される。一般に、ヒト化抗体は、CDR、例えば、CDR(又はその一部)が非ヒト抗体由来であり、かつFR(又はその一部)がヒト抗体配列由来である1つ以上の可変ドメインを含む。任意に、ヒト化抗体はまた、ヒト定常領域の少なくとも一部を含む。いくつかの実施形態では、ヒト化抗体のいくつかのFR残基は、例えば、抗体特異性又は親和性を回復するか、又は改善するために、非ヒト抗体(例えば、CDR残基が由来する抗体)由来の対応する残基で置換されている。
【0278】
ヒト化抗体及びその作製方法は、例えば、Almagro,J.C.and Fransson,J.,Front.Biosci.13(2008)1619-1633に概説されており、例えば、Riechmann,I.et al.,Nature 332(1988)323-329;Queen,C.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86(1989)10029-10033;米国特許第5,821,337号、同第7,527,791号、同第6,982,321、及び同第7,087,409号;Kashmiri,S.V.et al.,Methods 36(2005)25-34(SDR(a-CDR)グラフト化を記載);Padlan,E.A.,Mol.Immunol.28(1991)489-498(「リサーフェシング」を記載);Dall’Acqua,W.F.et al.,Methods 36(2005)43-60(「FRシャッフリング」を記載);並びにOsbourn,J.et al.,Methods 36(2005)61-68 and Klimka,A.et al.,Br.J.Cancer 83(2000)252-260(FRシャッフリングに対する「ガイド選択」アプローチを記載)に更に記載されている。
【0279】
ヒト化のために使用され得るヒトフレームワーク領域には、これらに限定されないが、「ベストフィット」法を使用して選択されるフレームワーク領域(例えば、Sims,M.J.et al.,J.Immunol.151(1993)2296-2308を参照されたい;軽鎖可変領域又は重鎖可変領域の特定のサブグループのヒト抗体のコンセンサス配列に由来するフレームワーク領域(例えば、Carter,P.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89(1992)4285-4289;及びPresta,L.G.et al.,J.Immunol.151(1993)2623-2632);ヒト成熟(体細胞変異)フレームワーク領域又はヒト生殖系列フレームワーク領域(例えば、Almagro,J.C.and Fransson,J.,Front.Biosci.13(2008)1619-1633を参照されたい);及びFRライブラリのスクリーニングに由来するフレームワーク領域(例えば、Baca,M.et al.,J.Biol.Chem.272(1997)10678-10684 and Rosok,M.J.et al.,J.Biol.Chem.271(19969 22611-22618を参照されたい)が含まれる。
4.ヒト抗体
【0280】
ある特定の実施形態では、本明細書に提供される抗体は、ヒト抗体である。ヒト抗体は、当技術分野で公知の様々な技術を使用して産生することができる。ヒト抗体は、一般に、van Dijk,M.A.and van de Winkel,J.G.,Curr.Opin.Pharmacol.5(2001)368-374 and Lonberg,N.,Curr.Opin.Immunol.20(2008)450-459に記載されている。
【0281】
ヒト抗体は、免疫原を、インタクトなヒト抗体又は抗原性チャレンジに応答してヒト可変領域を有するインタクト抗体を産生するように改変されたトランスジェニック動物に投与することによって調製されてもよい。そのような動物は、典型的には、内因性免疫グロブリン遺伝子座に取って代わるか、又は染色体外に存在するか、又は動物の染色体にランダムに組み込まれるヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部又は一部を含有する。そのようなトランスジェニックマウスでは、内因性免疫グロブリン遺伝子座は、一般的に不活性化されている。トランスジェニック動物からヒト抗体を得るための方法の総説については、Lonberg,N.,Nat.Biotech.23(2005)1117-1125を参照されたい。また、例えば、XENOMOUSE(商標)技術を記載する米国特許第6,075,181号及び米国特許第6,150,584号;HuMab(登録商標)技術を記載する米国特許第5,770,429号;K-M MOUSE(登録商標)技術を記載する米国特許第7,041,870号;及び、VelociMouse(登録商標)技術を記載する米国特許出願公開第2007/0061900号も参照されたい。そのような動物によって生成されたインタクトな抗体からのヒト可変領域は、例えば、異なるヒト定常領域と組み合わせることによって、更に改変されてもよい。
【0282】
ヒト抗体は、ハイブリドーマに基づく方法によっても作製することができる。ヒトモノクローナル抗体を産生するためのヒト骨髄腫及びマウス-ヒト異種骨髄腫細胞株が記載されている(例えば、Kozbor,D.,J.Immunol.133(1984)3001-3005;Brodeur,B.R.et al.,Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,Marcel Dekker,Inc.,New York(1987),pp.51-63;及びBoerner,P.et al.,J.Immunol.147(1991)86-95を参照されたい)。また、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術を介して作製されたヒト抗体は、Li,J.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 103(2006)3557-3562に記載されている。更なる方法は、例えば、米国特許第7,189,826号(ハイブリドーマ細胞株由来のモノクローナルヒトIgM抗体の産生を記載する)、及びNi,J.,Xiandai Mianyixue 26(2006)265-268(ヒト-ヒトハイブリドーマを記載する)を含む。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)はまた、Vollmers,H.P.and Brandlein,S.,Histology and Histopathology 20(2005)927-937及びVollmers,H.P.and Brandlein,S.,Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology 27(2005)185-191にも記載されている。
【0283】
ヒト抗体は、ヒト由来のファージディスプレイライブラリから選択されるFvクローン可変ドメイン配列を単離することによっても作製され得る。その後、そのような可変ドメイン配列は、所望のヒト定常ドメインと組み合わせられ得る。抗体ライブラリからヒト抗体を選択するための技術を以下に記載する。
5.ライブラリ由来の抗体
【0284】
本発明の抗体は、1つ以上の所望の活性を有する抗体についてコンビナトリアルライブラリをスクリーニングすることによって単離され得る。例えば、ファージディスプレイライブラリを生成し、所望の結合特性を有する抗体についてそのようなライブラリをスクリーニングするための様々な方法が当技術分野で知られている。そのような方法は、例えば、Hoogenboom,H.R.et al.,Methods in Molecular Biology 178(2001)1-37に概説されており、例えば、McCafferty,J.et al.,Nature 348(1990)552-554;Clackson,T.et al.,Nature 352(1991)624-628;Marks,J.D.et al.,J.Mol.Biol.222(1992)581-597;Marks,J.D.and Bradbury,A.,Methods in Molecular Biology 248(2003)161-175;Sidhu,S.S.et al.,J.Mol.Biol.338(2004)299-310;Lee,C.V.et al.,J.Mol.Biol.340(2004)1073-1093;Fellouse,F.A.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101(2004)12467-12472;及びLee,C.V.et al.,J.Immunol.Methods 284(2004)119-132に更に記載されている。
【0285】
ある特定のファージディスプレイ法では、VH及びVL遺伝子のレパートリは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって別個にクローニングされ、ファージライブラリ中でランダムに再結合され、次いで、Winter,G.et al.,Ann.Rev.Immunol.12(1994)433-455に記載されているように抗原結合ファージのスクリーニングを行うことができる。ファージは、典型的には、抗体断片を一本鎖Fv(scFv)断片又はFab断片のいずれかとしてディスプレイする。免疫源からのライブラリは、ハイブリドーマを構築する必要なしに、免疫原に対する高親和性抗体を提供する。代替的に、ナイーブレパートリは、Griffiths,A.D.et al.,EMBO J.12(1993)725-734によって記載されているように、免疫化を行わずに、広範囲の非自己抗原及びまた自己抗原に対する抗体の単一の供給源を提供するために、(例えば、ヒトから)クローン化することができる。最後に、ナイーブライブラリは、幹細胞から再配列されていないV遺伝子セグメントをクローニングし、ランダムな配列を含むPCRプライマーを使用して、非常に可変的なCDR3領域をコードし、Hoogenboom,H.R.and Winter,G.,J.Mol.Biol.227(1992)381-388に記載されているように、in vitroで再配列を達成することによって、合成的に作製することもできる。ヒト抗体ファージライブラリについて記載する特許公報としては、例えば:米国特許第5,750,373号、並びに米国特許出願公開第2005/0079574号、同第2005/0119455号、同第2005/0266000号、同第2007/0117126号、同第2007/0160598号、同第2007/0237764号、同第2007/0292936号、及び同第2009/0002360号が挙げられる。
【0286】
ヒト抗体ライブラリから単離された抗体又は抗体断片は、本明細書ではヒト抗体又はヒト抗体断片とみなされる。
6.抗体変異体
【0287】
ある特定の実施形態では、本明細書に提供される抗体のアミノ酸配列変異体が企図される。例えば、抗体の結合親和性及び/又は他の生物学的特性を改善することが望ましい場合がある。抗体のアミノ酸配列変異体は、抗体をコードするヌクレオチド配列中に適正な修飾を導入することによって、又はペプチド合成によって調製されてもよい。そのような改変としては、例えば、抗体のアミノ酸配列内の残基からの欠失、及び/又は抗体のアミノ酸配列内の残基への挿入、及び/又は抗体のアミノ酸配列内の残基の置換が挙げられる。欠失、挿入及び置換の任意の組み合わせは、最終構築物が、所望の特徴(例えば、抗原結合)を有する限り、最終構築物に到達するように行うことができる。
a)置換、挿入及び欠失変異体
【0288】
ある特定の実施形態では、1つ以上のアミノ酸置換を有する抗体変異体が提供される。置換突然変異誘発のための目的の部位には、CDR及びFRが含まれる(好ましい実施形態では、抗体の結合特性に関連しないフレームワーク残基である(例えば、Foote J.and Winter G.,J.Mol.Biol.(1992)224,487-499を参照されたい))。例示的な変化は、表1において、「例示的な置換」という見出しの下に提供され、またアミノ酸側鎖クラスを参照して以下に更に記載されている通りである。保存的置換は、表1において、「好ましい置換」の見出しの下に示される。アミノ酸置換が目的とする抗体に導入され、生成物が所望の活性、例えば、抗原結合の保持/改善、免疫原性の低減、又はADCC又はCDCの改善についてスクリーニングされ得る。
表1
【0289】
アミノ酸は、一般的な側鎖特性に従って分類され得る。
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖配向に影響を及ぼす残基:Gly、Pro;
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
【0290】
非保存的置換は、これらのクラスの1つのメンバーを別のクラスと交換することを伴うであろう。
【0291】
1つのタイプの置換変異体は、親抗体の1つ以上のCDRを置換することを含む(例えば、ヒト化抗体又はヒト抗体)。一般に、更なる試験ために選択される結果として生じる変異体(複数可)は、親抗体と比較して特定の生物学的特性(例えば、親和性の増加、免疫原性の低減)の修正(例えば、改善)を有し、かつ/又は実質的に保持された親抗体の特定の生物学的特性を有する。例示的な置換変異体は、親和性成熟した抗体であり、例えば、本明細書に記載されるようなファージディスプレイに基づく親和性成熟技法を使用して、簡便に生成され得る。簡単に言えば、1つ以上のCDR残基が変異され、そしてファージ上に表示された変異体抗体が、特定の生物学的活性(例えば、結合親和性)のためにスクリーニングされる。
【0292】
抗体親和性を向上させるために、例えば、CDRにおいて改変(例えば、置換)を行ってもよい。そのような改変は、CDR「ホットスポット」、すなわち、体細胞成熟プロセス中に高頻度で突然変異を受けるコドンによってコードされる残基(例えば、Chowdhury,P.S.,Methods Mol.Biol.207(2008)179-196)、及び/又はSDR(a-CDR)において行うことができ、得られた変異体VH又はVLが結合親和性について試験される。二次ライブラリの構築及び二次ライブラリからの再選択による親和性成熟は、例えばMethods in Molecular Biology 178(2002)1-37のHoogenboom,H.R.et al.に記載されている。親和性成熟のいくつかの実施形態では、多様性が、様々な方法(例えば、エラー-プローンPCR、鎖シャッフリング、又はオリゴヌクレオチド指向性変異誘発)のうちのいずれかによって、成熟させるために選択された可変遺伝子に導入される。次いで、二次ライブラリが作製される。次いで、このライブラリをスクリーニングして、所望の親和性を有する抗体変異体を同定する。多様性を導入する別の方法は、いくつかのCDR残基(例えば、一度に4~6残基)がランダム化されるCDR指向手法を含む。抗原結合に関与するCDR残基は、例えば、アラニン走査突然変異誘発又はモデル化を用いて、特異的に同定され得る。特にCDR-H3及びCDR-L3が標的とされることが多い。
【0293】
ある特定の実施形態では、置換、挿入、又は欠失は、そのような改変が抗原に結合する抗体の能力を実質的に低下させない限り、1つ以上のCDR内で起こり得る。例えば、結合親和性を実質的に低下させない保守的な改変(例えば、本明細書で提供されるような保守的な置換)は、CDRにおいて行われてもよい。そのような変更は、CDR「ホットスポット」又はSDRの範囲外であり得る。上記で提供された変異体VH及びVL配列の特定の実施形態では、各CDRは、改変されていないか、又は1以上、2以上、又は3以上のアミノ酸置換を含まない。
【0294】
突然変異誘発を標的とし得る抗体の残基又は領域の同定のための有用な方法は、Cunningham,B.C.and Wells,J.A.,Science 244(1989)1081-1085によって記載されるように、「アラニンスキャンニング突然変異誘発」と呼ばれる。この方法では、抗体と抗原の相互作用が影響を受けるかどうかを決定するために、残基又は標的残基群(例えば、荷電残基、例えば、arg、asp、his、lys及びglu)が同定され、中性又は負に荷電したアミノ酸(例えば、アラニン又はポリアラニン)によって置き換えられる。更なる置換が、初期置換に対する機能的感受性を示すアミノ酸位置に導入されてもよい。あるいは、又は加えて、抗体と抗原との間の接点を特定するための抗原-抗体複合体の結晶構造。そのような接触残基及び隣接残基は、置換の候補として標的とされるか、又は除去されてもよい。変異体は、所望の特性を有するか否かを判定するためにスクリーニングされてもよい。
【0295】
アミノ酸配列挿入には、1個の残基から100個以上の残基を含むポリペプチドまでの長さの範囲のアミノ末端及び/又はカルボキシル末端融合、並びに1個又は複数のアミノ酸残基の配列内挿入が含まれる。末端挿入の例としては、N末端メチオニル残基を有する抗体が挙げられる。抗体分子の他の挿入変異体には、抗体のN末端又はC末端と酵素(例えば、ADEPTの場合)又は抗体の血清半減期を増加させるポリペプチドとの融合が含まれる。
b)Fc領域変異体
【0296】
ある特定の実施形態では、1つ以上のアミノ酸修飾が本明細書に提供される抗体のFc領域に導入され、それにより、Fc領域変異体が生成され得る。Fc領域変異体は、1つ以上のアミノ酸位置でアミノ酸改変(例えば、置換)を含むヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4 Fc領域)を含んでいてもよい。
【0297】
エフェクタ機能が低下した抗体としては、Fc領域の残基238、265、269、270、297、327及び329において1つ以上の置換を含むものが挙げられる(米国特許第6,737,056号)。そのようなFc突然変異体には、アミノ酸位置265、269、270、297及び327のうちの2つ以上に置換を有するFc突然変異体が挙げられ、残基265及び297がアラニンに置換されている、いわゆる「DANA」Fc突然変異体が含まれる(米国特許第7,332,581号)。
FcRに対する結合が改善又は減少したある特定の抗体変異体が記載される。(例えば、米国特許第6,737,056号、国際公開第2004/056312号及びShields,R.L.et al.,J.Biol.Chem.276(2001)6591-6604。を参照されたい)
【0298】
本発明の一実施形態では、そのような抗体は、突然変異L234A及びL235Aを有するか、又は突然変異L234A、L235A及びP329Gを有するIgG1である。別の実施形態では、又は突然変異S228P及びL235E、又はS228P、L235E若しくはP329Gを有するIgG4(Kabat et al,Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991のEUインデックスによるナンバリング)
【0299】
半減期が長くなり、新生児Fc受容体に対する結合が向上した抗体は、胎児に対する成熟IgGの移動を担い(Guyer,R.L.et al.、J.Immunol.117(1976)587-593及びKim,J.K.et al.、J.Immunol.24(1994)2429-2434)、米国特許出願公開第2005/0014934号に記載されている。これらの抗体は、FcRnへのFc領域の結合を改善する1つ以上の置換を有するFc領域を含む。そのようなFc変異体は、Fc領域残基:238、256、265、272、286、303、305、307、311、312、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424又は434のうちの1つ以上での置換、例えば、Fc領域残基434の置換を有する変異体を含む(米国特許第7,371,826号)。
【0300】
Fc領域変異体の他の例に関して、Duncan,A.R.及びWinter,G.、Nature 322(1988)738-740;米国特許第5,648,260号;米国特許第5,624,821号;及び国際公開第94/29351号も参照されたい。
c)システイン操作抗体変異体
【0301】
ある特定の実施形態では、抗体の1つ以上の残基がシステイン残基で置換されているシステイン人工抗体、例えば、「thioMAb」を作成することが望ましい場合がある。特定の実施形態では、置換残基は、抗体の接近可能な部位で生じる。これらの残基をシステインで置換することにより、反応性チオール基は、それによって抗体のアクセス可能な部位に配置され、本明細書に更に記載されるように、抗体を薬物部位又はリンカー薬物部位等のような他の部位に抱合して免疫抱合体を作製するために使用することができる。ある特定の実施形態では、任意の1つ以上の下記の残基が、システインで置換されていてもよい。軽鎖のV205(Kabatナンバリング)、重鎖のA118(EUナンバリング)、及び重鎖Fc領域のS400(EUナンバリング)。システイン操作抗体は、例えば、米国特許第7,521,541号に記載されるように生成され得る。
d)抗体誘導体
【0302】
ある特定の実施形態では、本明細書で提供される抗体は、当技術分野で公知であり、容易に入手可能な更なる非タンパク質性部分を含有するように更に改変され得る。抗体の誘導体化に適した部位としては、水溶性ポリマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。水溶性ポリマーの非限定的な例としては、限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマー又はランダムコポリマーのいずれか)、及びデキストラン又はポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えば、グリセロール)、ポリビニルアルコール、及びこれらの混合物が挙げられる。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは、水中でのその安定性のため、製造時に有利であり得る。このポリマーは、任意の分子量を有していてもよい、分岐していてもよい、又は分岐していなくてもよい。抗体に接続するポリマーの数は変化し得て、1つを超えるポリマーが接続する場合、ポリマーは、同じ分子であってもよく、又は異なる分子であってもよい。一般に、誘導体化のために使用されるポリマーの数及び/又はタイプは、限定するものではないが、改良される抗体の特定の特性又は機能、抗体誘導体が定義された条件下で治療に使用されるかどうか等の考慮事項に基づいて決定することができる。
【0303】
別の実施形態では、放射線への曝露によって選択的に加熱され得る抗体及び非タンパク質性部分の抱合体が提供される。一実施形態では、非タンパク質性部分は、カーボンナノチューブである(Kam,N.W.et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 102(2005)11600-11605)。放射線は、任意の波長を有していてもよく、限定されないが、通常の細胞に有害ではないが、非タンパク質性部分を、抗体非タンパク質性部分に近位の細胞が死滅する温度まで加熱する波長を含む。
B.組換え方法及び組成物
【0304】
抗体は、例えば、米国特許第4,816,567号に記載される組換え法及び組成物を使用して生成されてもよい。一実施形態では、本明細書に記載される抗HLA-G抗体をコードする単離された核酸が提供される。そのような核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列及び/又は抗体のVHを構成するアミノ酸配列(例えば、抗体の軽鎖及び/又は重鎖)をコードしていてもよい。更なる実施形態では、そのような核酸を含む1つ以上のベクター(例えば、発現ベクター)が提供される。更なる実施形態では、そのような核酸を含む宿主細胞が提供される。そのような一実施形態では、宿主細胞は、(例えば、形質転換された)以下を含む:(1)抗体のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸と、抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター、又は(2)抗体のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第1のベクターと、抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第2のベクターとを含むベクター。好ましい一実施形態では、宿主細胞は、真核細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HEK293細胞又はリンパ球細胞(例えば、Y0、NS0、Sp20細胞)である。一実施形態では、抗HLA-G抗体又は二重特異性抗体を作製する方法であって、抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を、抗体の発現に好適な条件下で培養することと、任意に、抗体を宿主細胞(又は宿主細胞培養物)から回収することとを含む、方法が提供される。
【0305】
抗HLA-G抗体の組換え産生のために、例えば、上述のもの等の抗体をコードする核酸が単離され、宿主細胞内での更なるクローニング及び/又は発現のために、1つ以上のベクター中に挿入される。そのような核酸は、従来の手順(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)を使用して容易に単離され、配列決定され得る。
【0306】
本明細書に記載の抗体をコードするベクター真核細胞、好ましくは哺乳動物細胞のクローニング又は発現に最も適した宿主細胞。
【0307】
脊椎動物細胞を宿主として使用してもよい。例えば、懸濁物中で成長するように適合した哺乳動物細胞株が有用であり得る。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40(COS-7)によって形質転換されたサル腎臓CV1株、ヒト胚腎臓株(例えば、Graham et al.、J Gen Virol 36(1977)59-74)に記載されるような293細胞又は293細胞、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK)、マウスセルトリ細胞(例えば、Mather、J.P.、Biol.Reprod.23(1980)243-252)に記載されるようなTM4細胞)、サル腎臓細胞(CV1)、アフリカミドリサル腎臓細胞(VERO-76)、ヒト頸部癌腫細胞(HELA)、イヌ腎臓細胞(MDCK)、バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A)、ヒト肺細胞(W138)、ヒト肝臓細胞(Hep G2)、マウス乳房腫瘍(MMT 060562)、TRI細胞(例えば、Mather et al.、Annals N.Y.Acad.Sci.383(1982)44-68、MRC 5細胞及びFS4細胞である。ほとんどの有用な哺乳動物宿主細胞株としては、DHFR-CHO細胞を含む、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(Urlaub,G.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77(1980)4216-4220)、及び、骨髄腫細胞株、例えば、Y0、NS0及びSp2/0が挙げられる。抗体産生に適した特定の哺乳動物宿主細胞の総説としては、例えば、Yazaki,P.and Wu,A.M.,Methods in Molecular Biology,Vol.248,Lo,B.K.C.(ed.),Humana Press,Totowa,NJ(2004),pp.255-268を参照されたい。
【0308】
ある程度まで、原核細胞も使用することができるが、時にはより高い努力及びより複雑な手順が可能である。細菌中の抗体断片及びポリペプチドの発現については、例えば、米国特許第5,648,237号、米国特許第5,789,199号及び米国特許第5,840,523号を参照されたい。(また、大腸菌(E.coli)における抗体断片の発現を記載しているCharlton,K.A.,In:Methods in Molecular Biology,Vol.248,Lo,B.K.C.(ed.),Humana Press,Totowa,NJ(2003),pp.245-254も参照されたい)発現後、本発明の抗体は、細菌細胞ペーストから可溶性画分で単離されてもよく、更に精製されてもよい。
【0309】
植物細胞培養物も、宿主として利用することができる。例えば、米国特許第5,959,177号、同第6,040,498号、同第6,420,548号、同第7,125,978号、及び同第6,417,429号(トランスジェニック植物で抗体を産生するためのPLANTIBODIES(商標)技術を記載)を参照されたい。
C.アッセイ
【0310】
本明細書に提供される抗HLA-G抗体は、それらの物理的/化学的特性及び/又は生物活性について、当該技術分野で既知の様々なアッセイによって、特定され得るか、スクリーニングされ得るか、又は特徴付けられ得る。
1.結合アッセイ及び他のアッセイ
【0311】
一態様では、本発明の抗体を、例えばELISA、ウエスタンブロット等の公知の方法によって、その抗原結合活性について試験する。抗体が結合するエピトープをマッピングするための詳細な例示的方法は、Morris,G.E.(ed.),Epitope Mapping Protocols,In:Methods in Molecular Biology,Vol.66,Humana Press,Totowa,NJ(1996)において提供される。
2.活性アッセイ
【0312】
一態様では、生物学的活性を有するその抗HLA-G抗体を特定するためのアッセイが提供される。生物学的活性には、例えば、T細胞を含む異なる免疫細胞の活性化及び/又は増殖を増強する能力が含まれ得る。例えば、それらは免疫調節性サイトカイン(例えば、インターフェロン-ガンマ(IFN-ガンマ)及び/又は腫瘍壊死因子アルファ(TNFアルファ))の分泌を増強する。増強されるか又は増強され得る他の免疫調節サイトカインは、例えば、異なる細胞型に結合するIL1β、IL6、IL12、グランザイムB等である。in vivo及び/又はin vitroでそのような生体活性を有する抗体も提供される。
【0313】
ある特定の実施形態では、例えば以下の実施例に記載されているように、本発明の抗体は、そのような生物学的活性について試験される。
D.診断及び検出のための方法及び組成物
【0314】
ある特定の実施形態では、本明細書に提供される抗HLA-G抗体はいずれも、生体試料中のHLA-Gの存在の検出に有用である。本明細書で使用される「検出」という用語は、定量的又は定性的な検出を包含する。ある特定の実施形態では、生物学的試料は、免疫細胞、又はT細胞浸潤物及び又は腫瘍細胞等の細胞若しくは組織を含む。
【0315】
一実施形態では、診断又は検出の方法で使用するための抗HLA-G抗体が提供される。更なる態様では、生物学的試料中のHLA-Gの存在を検出する方法が提供される。ある特定の実施形態では、上記方法は、抗HLA-G抗体のHLA-Gへの結合を許容する条件下で、生物学的試料を本明細書に記載の抗HLA-G抗体と接触させること、及び抗HLA-G抗体とHLA-Gとの間に複合体が形成されるかどうかを検出することを含む。そのような方法は、in vitro法又はin vivo法であってもよい。一実施形態では、例えば、HLA-Gが患者の選択のためのバイオマーカである場合、抗HLA-G抗体を使用して、抗HLA-G抗体での療法に適格な対象を選択する。
【0316】
ある特定の実施形態では、標識化抗HLA-G抗体が提供される。ラベルには、直接検出されるラベル又は部位(例えば、蛍光ラベル、発色性ラベル、電子密度ラベル、化学発光ラベル、放射性ラベル等)、及び酵素反応又は分子間相互作用を介して間接的に検出される部位(例えば、酵素又はリガンド等)が含まれるが、これらに限定されるものではない。例示的なラベルには、以下のものが含まれる:放射性同位元素32P、14C、125I、3H及び131I、希土類キレート又はフルオレセイン及びその誘導体のようなフルオロフォア、ローダミン及びその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン、ルシフェラーゼ、ルシフェラーゼ、例えば ホタルルシフェラーゼ及び細菌性ルシフェラーゼ(米国特許第4,737,456号)、ルシフェリン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リゾチーム、サッカライドオキシダーゼ、例えばグルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、及びグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、ウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼのような複素環オキシダーゼ、HRP、ラクトペルオキシダーゼ、又はマイクロペルオキシダーゼのような色素前駆体を酸化するために過酸化水素を用いる酵素、ビオチン/アビジン、スピンラベル、バクテリオファージラベル、安定したフリーラジカル、及びそのようなものと結合したもの。
E.医薬製剤
【0317】
本明細書に記載の抗HLA-G抗体又は抗HLA-G/抗CD3二重特異性抗体の薬学的製剤は、所望の純度を有するそのような抗体を1つ以上の任意の薬学的に許容され得る担体(Remington’s Pharmaceutical Sciences,16th edition,Osol,A.(ed.)(1980))と混合することによって、凍結乾燥製剤又は水溶液の形態で調製される。薬学的に許容され得る担体は、一般的に、採用される用量及び濃度において受領者に無毒であり、以下を含むが、これらに限定されるものではない:リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸のような緩衝剤;アスコルビン酸及びメチオニンを含む酸化防止剤;防腐剤(例えば、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベン等のアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリン等のタンパク質;ポリ(ビニルピロリドン)等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、又はリジン等のアミノ酸。単糖類、二糖類、及びグルコース、マンノース、又はデキストリンを含む他の炭水化物;EDTAのようなキレート剤;ショ糖、マンニトール、トレハロース又はソルビトールのような糖類;ナトリウムのような塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);及び/又はポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤。ここにおける例示的な薬学的に許容され得る担体は、可溶性の中性活性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)、例えば、rHuPH20(HYLENEX(登録商標)、Baxter International,Inc.)等のヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質等の介在性薬物分散剤を更に含む。特定の例示的なsHASEGP及び使用方法は、rhuPH20を含め、米国特許出願公開第2005/0260186号及び同第2006/0104968号に記載される。一態様では、sHASEGPを、1つ以上の更なるグリコサミノグリカナーゼ(例えば、コンドロイチナーゼ)と組み合わせる。
【0318】
例示的な凍結乾燥抗体製剤は、米国特許第6,267,958号に記載されている。水性抗体製剤としては、米国特許第6,171,586号及び国際公開第2006/044908号に記載されるものが挙げられ、後者の製剤は、酢酸ヒスチジン緩衝液を含む。
【0319】
本明細書の製剤はまた、治療される特定の適応症に必要に応じて2以上の活性成分を含んでもよく、好ましくは、互いに悪影響を及ぼさない相補的な活性を有するものを含んでもよい。例えば、更に提供することが望ましい場合がある。そのような有効成分は、意図される目的に有効な量で組み合わせて好適に存在する。
【0320】
有効成分は、例えば、コアセルベーション技法によって、又は界面重合、例えば、コロイド状薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、及びナノカプセル)又はマクロエマルジョンにおいて、それぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン-マイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセルによって調製されたマイクロカプセル内に封入することができる。そのような技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,16th edition,Osol,A.(ed.)(1980)に開示されている。
【0321】
徐放性調製物を調製してもよい。持続放出調製物の好適な例としては、本抗体を含有する固体疎水性ポリマーの半透性マトリックスが挙げられ、これらのマトリックスは、成形物品、例えば、フィルム、又はマイクロカプセルの形態である。
【0322】
in vivo投与に使用される製剤は一般に、滅菌される。滅菌性は、例えば、滅菌ろ過膜を通したろ過によって容易に達成され得る。
F.治療方法及び組成物
【0323】
本明細書中に提供される抗HLA-G抗体又は抗HLA-G/抗CD3二重特異性抗体のいずれかは、治療方法において使用され得る。
【0324】
一態様では、医薬として使用するための抗HLA-G抗体又は抗HLA-G/抗CD3二重特異性抗体が提供される。更なる態様では、がんの治療に使用するための抗HLA-G抗体又は抗HLA-G/抗CD3二重特異性抗体が提供される。ある特定の実施形態では、治療の方法で使用するための抗HLA-G抗体又は抗HLA-G/抗CD3二重特異性抗体が提供される。ある特定の実施形態では、本発明は、有効量の抗HLA-G/抗CD3二重特異性抗体を個体に投与することを含む、がんを有する個体を治療する方法において使用するための抗HLA-G抗体又は抗HLA-G/抗CD3二重特異性抗体を提供する。
【0325】
更なる実施形態では、本発明は、例えば、TNFアルファ(TNFa)及びIFNガンマ(IFNg)等の免疫賦活性サイトカインの分泌、又は免疫細胞の更なる動員によって、免疫細胞(T細胞、B細胞、及び単球、マクロファージ、樹状細胞、形質細胞様樹状細胞を含む骨髄系細胞のような)の増殖及び/又は活性化を直接的又は間接的に誘導するための、免疫調節剤として使用するための抗HLA-G抗体又は抗HLA-G/抗CD3二重特異性抗体を提供する。ある特定の実施形態では、本発明は、免疫調節/又は免疫細胞の増殖、例えばTNFa及びIFNガンマのような免疫賦活性サイトカインの分泌による活性化、又は免疫細胞の更なる動員を直接的又は間接的に誘導するために有効な抗HLA-G抗体又は抗HLA-G/抗CD3二重特異性抗体を個体に投与することを含む、免疫調節剤の方法/個体における免疫細胞の増殖、例えばTNFa及びIFNガンマのような免疫賦活性サイトカインの分泌による活性化、又は更なる免疫細胞の動員を直接的又は間接的に誘導する方法において使用するための抗HLA-G抗体又は抗HLA-G/抗CD3二重特異性抗体を提供する。
【0326】
更なる実施形態では、本発明は、免疫賦活剤として使用するための/又は腫瘍壊死因子アルファ(TNFアルファ)分泌を刺激するための、抗HLA-G抗体又は抗HLA-G/抗CD3二重特異性抗体を提供する。ある特定の実施形態では、本発明は、免疫細胞の増殖、例えばTNFa及びIFNgのような免疫賦活性サイトカインの分泌による活性化、又は免疫細胞の更なる動員を直接的又は間接的に誘導するために有効な抗HLA-G抗体又は抗HLA-G/抗CD3二重特異性抗体を個体に投与することを含む、個体における免疫細胞の増殖、例えばTNFa及びIFNgのような免疫賦活性サイトカインの分泌による活性化、又は免疫細胞の更なる動員を直接的又は間接的に誘導するための免疫調節方法において使用するための抗HLA-G抗体又は抗HLA-G/抗CD3二重特異性抗体を提供する。
【0327】
本明細書で使用される「がん」という用語は、例えば、肺がん、非小細胞肺(NSCL)がん、肺細気管支肺胞がん、骨がん、膵臓がん、皮膚がん、頭部若しくは頸部のがん、皮膚若しくは眼内の黒色腫、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、肛門領域のがん、胃がん(stomach cancer)、胃がん(gastric cancer)、結腸がん、乳がん、子宮がん、卵管の癌腫、子宮内膜の癌腫、子宮頸部の癌腫、膣の癌腫、外陰の癌腫、ホジキン病、食道のがん、小腸のがん、内分泌系のがん、甲状腺のがん、副甲状腺のがん、副腎のがん、軟組織の肉腫、尿道のがん、陰茎のがん、前立腺がん、膀胱のがん、腎臓又は尿管のがん、腎細胞癌腫、腎盂の癌腫、中皮腫、肝細胞がん、胆道がん、中枢神経系(CNS)の新生物、脊髄軸腫瘍、脳幹グリオーマ、多形膠芽細胞腫、星細胞種、神経鞘腫、上衣腫、髄芽腫、髄膜腫、扁平上皮がん、下垂体腺腫、リンパ腫、リンパ球性白血病(上述のがんのいずれかの難治性態様を含む)、又は上述のがんの1つ以上の組み合わせであってもよい。
【0328】
上記の実施形態のいずれかによる「個体」は、好ましくはヒトである。更なる態様では、本発明は、医薬の製造又は調製における抗HLA-G抗体の使用を提供する。一実施形態では、医薬は、がんの治療のためのものである。更なる実施形態では、医薬は、がんを治療する方法であって、がんを有する個体に有効量の医薬を投与することを含む方法における使用のためのものである。更なる実施形態では、医薬は、がん細胞の細胞媒介性溶解を誘導するためのものである。更なる実施形態では、医薬は、がんに罹患している個体においてがん細胞の細胞媒介性溶解を誘導する方法において使用するためのものであり、がん細胞におけるアポトーシスを誘導するために/又はがん細胞増殖を阻害するために有効な量の医薬を個体に投与することを含む。上記の実施形態のいずれかに従った「個体」は、ヒトであってもよい。
【0329】
更なる一態様では、本発明は、がんを治療するための方法を提供する。一実施形態では、上記方法は、有効量の抗HLA-G抗体又は抗HLA-G/抗CD3二重特異性抗体を、がんを有する個体に投与することを含む。上記の実施形態のいずれかに従った「個体」は、ヒトであってもよい。
【0330】
更なる態様では、本発明は、がんに罹患している個体においてがん細胞の細胞媒介性溶解を誘導する方法を提供する。一実施形態では、上記方法は、がんに罹患している個体においてがん細胞の細胞媒介溶解を誘導するために、有効量の抗HLA-G抗体又は抗HLA-G/抗CD3二重特異性抗体を個体に投与することを含む。一実施形態では、「個体」は、ヒトである。
【0331】
更なる態様では、本発明は、例えば上記の治療方法のいずれかで使用するための、本明細書で提供される抗HLA-G抗体又は抗HLA-G/抗CD3二重特異性抗体のいずれかを含む医薬製剤を提供する。一実施形態では、薬学的製剤は、本明細書中に提供される抗HLA-G抗体又は抗HLA-G/抗CD3二重特異性抗体のいずれかと、薬学的に許容され得る担体とを含む。
【0332】
本発明の抗体(及び任意の追加の治療剤)は、非経口、肺内、及び鼻腔内、並びに局所治療のために望まれる場合、病変内投与を含む、任意の適切な手段によって投与することができる。非経口輸液には、筋肉内投与、静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、又は皮下投与が含まれる。投薬は、任意の適切な経路によるもの、例えば、一部には、投与が一時的であるか慢性的であるかに依存して、注射によって、例えば、静脈又は皮下への注射によるものであってもよい。単回又は様々な時点にわたる複数回投与、ボーラス投与、及びパルス輸注を含むが、これらに限定されない様々な投薬スケジュールが、本明細書では企図される。
【0333】
本発明の抗体は、良好な医療行為と一致した方法で製剤化され、投与され、投与されるであろう。これに関連して考慮すべき要因としては、治療される特定の障害、治療される特定の哺乳動物、個々の患者の臨床状態、障害の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与スケジュール、及び医療従事者に既知である他の要因が挙げられる。抗体は、必ずしもそうである必要はないが、任意に、問題の障害を予防又は治療するために現在使用されている1つ以上の薬剤とともに製剤化される。有効量のそのような他の作用物質は、製剤中に存在する抗体の量、障害又は治療の種類、及び上述の他の要因に依存する。これらは、一般に、ここに記載されている投与量と同じ投与量で、又はここに記載されている投与量の約1~99%、又は経験的/臨床的に適切であると判断される任意の投与量で、及び任意の投与経路で使用される。
【0334】
疾患の予防又は治療について、本発明の抗体の適切な投薬量は(単独で、又は1つ以上の他の追加の治療剤と組み合わせて使用される場合)、治療される疾患の種類、抗体の種類、疾患の重症度及び経過、抗体が予防目的又は治療目的で投与されるかどうか、以前の療法、患者の病歴及び抗体への応答、並びに主治医の裁量に依存するだろう。本発明の抗体は、好適には、患者に一度に又は一連の治療にわたって投与される。疾患の種類及び重篤度に応じて、約1μg/kg~15mg/kg(例えば0.5mg/kg~10mg/kg)の抗体を、例えば、1回以上の別個の投与によるか、又は連続的な注入によるかにかかわらず、患者に投与するための初期の候補投薬量とすることができる。典型的な1日投薬量は、上述の因子に依存して、約1μg/kg~100mg/kgの範囲であってもよい。数日間又はそれ以上にわたる反復投与において、状態に応じ、治療は通常、疾患症状の所望の抑制が生じるまで続けられる。抗体の1つの例示的な投薬量は、約0.05mg/kg~約10mg/kgの範囲である。したがって、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kg、又は10mg/kg(又はこれらの任意の組み合わせ)のうちの1つ以上の用量が、患者に投与され得る。そのような用量は、間欠的に、例えば、毎週又は3週間に1回(例えば、患者が約2~約20回、又は例えば、約6回用量の抗体を受けるように)投与され得る。最初の多めの投与量、それに続く1回以上の量の少ない用量を投与してよい。例示的な投薬レジメンは、約4mg/kgの初期負荷用量、続いて約2mg/kgの抗体の毎週の維持用量を投与することを含む。しかしながら、他の投薬レジメンが有用であってもよい。この療法の進行は、従来の技術及びアッセイによって容易に監視される。
【0335】
上記の製剤又は治療方法のいずれかは、抗HLA-G抗体又は抗HLA-G/抗CD3二重特異性抗体の代わりに、又はそれに加えて、本発明の免疫抱合体を使用して実施され得ることが理解される。
【0336】
上記の製剤又は治療方法のいずれかは、抗HLA-G抗体又は抗HLA-G/抗CD3二重特異性抗体の代わりに、又はそれに加えて、本発明の免疫抱合体を使用して実施され得ることが理解される。
II.製造物品
【0337】
本発明の別の態様では、上述の障害の治療、予防及び/又は診断に有用な材料を含む製造物品が提供される。製造物品は、容器と、容器上の又は容器に関連付けられたラベル又は添付文書を含む。適切な容器としては、例えば、瓶、バイアル、シリンジ、静注溶液袋等が挙げられる。容器は、ガラス又はプラスチック等の様々な材料から形成され得る。容器は、状態を治療、予防、及び/又は診断するのに有効な別の組成物と単独で又は組み合わせて使用される組成物を保持し、無菌アクセスポートを有していてもよい(例えば、容器は、静脈内溶液バッグ又は皮下注射針によって穿孔可能なストッパーを有するバイアルであってもよい)。組成物中の少なくとも1つの活性剤は、本発明の抗体である。ラベル又は添付文書は、組成物が、選択される病態を治療するために使用されることを示す。さらに、製造物品は、(a)組成物を含む第1の容器を含み、この組成物は本発明の抗体を含み、(b)組成物を含む第2の容器を含み、この組成物は細胞疾患性又は他の治療剤を更に含む。製造物品は、本発明のこの実施形態では、その組成物を特定の状態を治療するために使用可能であることを示すパッケージ添付文書を更に備えていてもよい。これに代えて、又はこれに加えて、製造物品は、薬学的に許容され得る緩衝液、例えば、注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝化生理食塩水、Ringer溶液及びデキストロース溶液を含む第2の(又は第3の)容器を更に備えていてもよい。他の緩衝剤、希釈剤、フィルタ、針、注射器等、商業的及び使用者の観点から望ましい他の材料を更に含んでいてもよい。
【0338】
以下の実施例及び図は、本発明の理解を助けるために提供されており、本発明の真の範囲は、添付の特許請求の範囲に記載されている。本発明の思想から逸脱することなく、定められた手順に変更を加えることができると理解される。
アミノ酸配列の説明
抗HLA-G抗体/抗原結合部分(可変領域の配列番号及び補体決定領域(CDR)):
配列番号1 重鎖CDR-H1、HLA-G-0090
配列番号2 重鎖CDR-H2、HLA-G-0090
配列番号3 重鎖CDR-H3、HLA-G-0090
配列番号4 軽鎖CDR-L1、HLA-G-0090
配列番号5 軽鎖CDR-L2、HLA-G-0090
配列番号6 軽鎖CDR-L3、HLA-G-0090
配列番号7 重鎖可変ドメインVH、HLA-G-0090
配列番号8 軽鎖可変ドメインVL、HLA-G-0090
配列番号9 軽鎖CDR-L1、HLA-G-0090-VL-N31D
配列番号10 軽鎖可変ドメインVL、HLA-G-0090-VL-N31D
配列番号11 軽鎖CDR-L1、HLA-G-0090-VL-N31L
配列番号12 軽鎖可変ドメインVL、HLA-G-0090-VL-N31L
配列番号13 軽鎖CDR-L1、HLA-G-0090-VL-N31Q
配列番号14 軽鎖可変ドメインVL、HLA-G-0090-VL-N31Q
配列番号15 軽鎖CDR-L1、HLA-G-0090-VL-N31S
配列番号16 軽鎖可変ドメインVL、HLA-G-0090-VL-N31S
配列番号17 軽鎖CDR-L1、HLA-G-0090-VL-N31T
配列番号18 軽鎖可変ドメインVL、HLA-G-0090-VL-N31T
配列番号19 軽鎖CDR-L1、HLA-G-0090-VL-N31Y
配列番号20 軽鎖可変ドメインVL、HLA-G-0090-VL-N31Y
配列番号21 軽鎖CDR-L1、HLA-G-0090-VL-N31Y-N38Y
配列番号22 軽鎖可変ドメインVL、HLA-G-0090-VL-N31Y-N38Y
配列番号23 軽鎖CDR-L1、HLA-G-0090-VL-S32P
配列番号24 軽鎖可変ドメインVL、HLA-G-0090-VL-S32P
配列番号25 軽鎖CDR-L1、HLA-G-0090-VL-S33A
配列番号26 軽鎖可変ドメインVL、HLA-G-0090-VL-S33A
配列番号27 軽鎖CDR-L1、HLA-G-0090-VL-S33D
配列番号28 軽鎖可変ドメインVL、HLA-G-0090-VL-S33D
配列番号29 軽鎖CDR-L1、HLA-G-0090-VL-S33P
配列番号30 軽鎖可変ドメインVL、HLA-G-0090-VL-S33P
更なる配列
配列番号31 例示的なヒトHLA-G
配列番号32 例示的なヒトHLA-G細胞外ドメイン(ECD)
配列番号33 例示的なヒトβ2M
配列番号34 改変ヒトHLA-G(HLA-G特異的アミノ酸はHLA-Aコンセンサスアミノ酸(=デグラフト化HLA-Gも
図1を参照されたい)ECDによって置換されている)
配列番号35 例示的ヒトHLA-A2
配列番号36 例示的なヒトHLA-A2 ECD
配列番号37 例示的なマウスH2Kd ECD
配列番号38 例示的なラットRT1A ECD
配列番号39 例示的なヒトHLA-G β2M MHCクラスI複合体
配列番号40 例示的な改変ヒトHLA-G β2M MHCクラスI複合体(HLA-G特異的アミノ酸はHLA-Aコンセンサスアミノ酸(=デグラフト化HLA-G)によって置き換えられている、
図2も参照されたい)
配列番号41 例示的なマウスH2Kd β2M MHCクラスI複合体
配列番号42 ヒトHLA-Gに特異的な位置がマウスH2Kdフレームワークにグラフトされた例示的なヒトHLA-G/マウスH2Kd β2M MHCクラスI複合体
配列番号43 例示的なラットRT1A β2M MHCクラスI複合体
配列番号44 ヒトHLA-Gに特異的な位置がラットRT1Aフレームワークにグラフトされた例示的なヒトHLA-G/ラットRT1A β2M MHCクラスI複合体
配列番号45 リンカー及びhis-Tag
配列番号46 ペプチド
配列番号47 ヒトκ軽鎖定常領域
配列番号48 ヒトλ軽鎖定常領域
配列番号49 IgG1由来のヒト重鎖定常領域
配列番号50 変異L234A、L235A及びP329Gを有する、IgG1由来のヒト重鎖定常領域
配列番号51 IgG4由来のヒト重鎖定常領域
抗CD3抗体/抗原結合部分(可変領域及び相補性決定領域(CDR)):
配列番号52 重鎖CDR-H1、P035-093(P035と略す)
配列番号53 重鎖CDR-H2、P035-093
配列番号54 重鎖CDR-H3、P035-093
配列番号55 軽鎖CDR-L1、P035-093
配列番号56 軽鎖CDR-L2、P035-093
配列番号57 軽鎖CDR-L3、P035-093
配列番号58 重鎖可変ドメインVH、P035-093
配列番号59 軽鎖可変ドメインVL、P035-093
配列番号60 重鎖CDR-H1、クローン22(Cl22と略記)
配列番号61 重鎖CDR-H2、クローン22
配列番号62 重鎖CDR-H3、クローン22
配列番号63 軽鎖CDR-L1、クローン22
配列番号64 軽鎖CDR-L2、クローン22
配列番号65 軽鎖CDR-L3、クローン22
配列番号66 重鎖可変ドメインVH、クローン22
配列番号67 軽鎖可変ドメインVL、クローン22
配列番号68 重鎖CDR-H1、V9
配列番号69 重鎖CDR-H2、V9
配列番号70 重鎖CDR-H3、V9
配列番号71 軽鎖CDR-L1、V9
配列番号72 軽鎖CDR-L2、V9
配列番号73 軽鎖CDR-L3、V9
配列番号74 重鎖可変ドメインVH、V9
配列番号75 軽鎖可変ドメインVL、V9
二重特異性抗HLA-G/抗CD3 T細胞二重特異性(TCB)抗体:
P1AF7977(HLA-G-0090-VL-S32P/ CD3 P035-093(P035)):
配列番号76 軽鎖1 P1AF7977
配列番号77 軽鎖2 P1AF7977
配列番号78 重鎖1 P1AF7977
配列番号79 重鎖2 P1AF7977
P1AF7978(HLA-G-0090-VL-S32P/ CD3 Clone 22(Cl22)):
配列番号80 軽鎖1 P1AF7978
配列番号81 軽鎖2 P1AF7978
配列番号82 重鎖1 P1AF7978
配列番号83 重鎖2 P1AF7978
P1AF7979(HLA-G-0090-VL-S32P/ CD3 V9):
配列番号84 軽鎖1 P1AF7979
配列番号85 軽鎖2 P1AF7979
配列番号86 重鎖1 P1AF7979
配列番号87 重鎖2 P1AF7979
更なる配列
配列番号88 例示的なヒトCD3
配列番号89 例示的なカニクイザルCD3
配列番号90 ヒトCD3イプシロンストーク-Fc(ノブ)-Avi
配列番号91 ヒトCD3デルタストーク-Fc(ホール)-Avi
配列番号92 CD3
orig VH
配列番号93 CD3
orig VL
配列番号94 CD3
orig IgG HC
配列番号95 P035 IgG HC
配列番号96 CD3
orig/P035 IgG LC
HLA-G-0090抗体のアミノ酸配列(下線付きの相補性決定領域(CDR)及びCDR-L1の非修飾N-グリコシル化部位を有する可変領域(太字)):
配列番号7:重鎖可変ドメインVH、HLA-G-0090:
QVQLQQSGPGLLKPSQTLSLTCAISGDSVS
SNRAAWNWIRQSPSRGLEWLG
RTYYRSKWYNDYAVSVQGRITLIPDTSKNQFSLRLNSVTPEDTAVYYCAS
VRAVAPFDYWGQGVLVTVSS
抗CD3結合部分(下線付きの相補性決定領域(CDR)を有する可変領域)のアミノ酸配列:
配列番号58 重鎖可変ドメインVH、P035-093(P035と略す)
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFS
SYAMNWVRQAPGKGLEWVS
RIRSKYNNYATYYADSVKGRFTISRDDSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCVR
ASNFPASYVSYFAYWGQGTLVTVSS
配列番号59 軽鎖可変ドメインVL、P035-093(P035)
QAVVTQEPSLTVSPGGTVTLTC
GSSTGAVTTSNYANWVQEKPGQAFRGLIG
GTNKRAPGTPARFSGSLLGGKAALTLSGAQPEDEAEYYC
ALWYSNLWVFGGGTKLTVL
配列番号66 重鎖可変ドメインVH、クローン22(Cl22と略す)
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFQFS
SYAMNWVRQAPGKGLEWVS
RIRSKYNNYATYYADSVKGRFTISRDDSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCVR
HTTFPSSYVSYYGYWGQGTLVTVSS
配列番号67 軽鎖可変ドメインVL、クローン22(Cl22)
QAVVTQEPSLTVSPGGTVTLTC
GSSTGAVTTSNYANWVQEKPGQAFRGLIG
GTNKRAPGTPARFSGSLLGGKAALTLSGAQPEDEAEYYC
ALWYSNLWVFGGGTKLTVL
配列番号74 重鎖可変ドメインVH、V9
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGYSFT
GYTMNWVRQAPGKGLEWVA
LINPYKGVSTYNQKFKDRFTISVDKSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCAR
SGYYGDSDWYFDVWGQGTLVTVSS
配列番号75 軽鎖可変ドメインVL、V9
DIQMTQSPSSLSASVGDRVTITC
RASQDIRNYLNWYQQKPGKAPKLLIY
YTSRLESGVPSRFSGSGSGTDYTLTISSLQPEDFATYYC
QQGNTLPWTFGQGTKVEIK
二重特異性抗HLA-G/抗CD3 T細胞二重特異性(TCB)抗体のアミノ酸配列:
P1AF7977(HLA-G-0090-VL-S32P/ CD3 P035-093(P035)):
配列番号76 軽鎖1 P1AF7977
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSSYAMNWVRQAPGKGLEWVSRIRSKYNNYATYYADSVKGRFTISRDDSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCVRASNFPASYVSYFAYWGQGTLVTVSSASVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
配列番号77 軽鎖2 P1AF7977
DIVMTQSPDSLAVSLGERATINCKSSQSVLNPSNNKNNLAWYQQQPGQPPKLLIYWASTRESGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYFCQQYYRTPWTFGQGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDRKLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
配列番号78 重鎖1 P1AF7977
QVQLQQSGPGLLKPSQTLSLTCAISGDSVSSNRAAWNWIRQSPSRGLEWLGRTYYRSKWYNDYAVSVQGRITLIPDTSKNQFSLRLNSVTPEDTAVYYCASVRAVAPFDYWGQGVLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVEDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDEKVEPKSCDKTHTCPPCPAPEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALGAPIEKTISKAKGQPREPQVCTLPPSRDELTKNQVSLSCAVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLVSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSP
配列番号79 重鎖2 P1AF7977
QVQLQQSGPGLLKPSQTLSLTCAISGDSVSSNRAAWNWIRQSPSRGLEWLGRTYYRSKWYNDYAVSVQGRITLIPDTSKNQFSLRLNSVTPEDTAVYYCASVRAVAPFDYWGQGVLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVEDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDEKVEPKSCDGGGGSGGGGGQAVVTQEPSLTVSPGGTVTLTCGSSTGAVTTSNYANWVQEKPGQAFRGLIGGTNKRAPGTPARFSGSLLGGKAALTLSGAQPEDEAEYYCALWYSNLWVFGGGTKLTVLSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALGAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPCRDELTKNQVSLWCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSP
P1AF7978(HLA-G-0090-VL-S32P/ CD3 Clone 22(Cl22)):
配列番号80 軽鎖1 P1AF7978
EVQLLESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFQFSSYAMNWVRQAPGKGLEWVSRIRSKYNNYATYYADSVKGRFTISRDDSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCVRHTTFPSSYVSYYGYWGQGTLVTVSSASVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
配列番号81 軽鎖2 P1AF7978
DIVMTQSPDSLAVSLGERATINCKSSQSVLNPSNNKNNLAWYQQQPGQPPKLLIYWASTRESGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYFCQQYYRTPWTFGQGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDRKLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
配列番号82 重鎖1 P1AF7978
QVQLQQSGPGLLKPSQTLSLTCAISGDSVSSNRAAWNWIRQSPSRGLEWLGRTYYRSKWYNDYAVSVQGRITLIPDTSKNQFSLRLNSVTPEDTAVYYCASVRAVAPFDYWGQGVLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVEDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDEKVEPKSCDKTHTCPPCPAPEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALGAPIEKTISKAKGQPREPQVCTLPPSRDELTKNQVSLSCAVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLVSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSP
配列番号83 重鎖2 P1AF7978
QVQLQQSGPGLLKPSQTLSLTCAISGDSVSSNRAAWNWIRQSPSRGLEWLGRTYYRSKWYNDYAVSVQGRITLIPDTSKNQFSLRLNSVTPEDTAVYYCASVRAVAPFDYWGQGVLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVEDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDEKVEPKSCDGGGGSGGGGGQAVVTQEPSLTVSPGGTVTLTCGSSTGAVTTSNYANWVQEKPGQAFRGLIGGTNKRAPGTPARFSGSLLGGKAALTLSGAQPEDEAEYYCALWYSNLWVFGGGTKLTVLSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALGAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPCRDELTKNQVSLWCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSP
P1AF7979(HLA-G-0090-VL-S32P/CD3 V9):
配列番号84 軽鎖1 P1AF7979
EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGYSFTGYTMNWVRQAPGKGLEWVALINPYKGVSTYNQKFKDRFTISVDKSKNTAYLQMNSLRAEDTAVYYCARSGYYGDSDWYFDVWGQGTLVTVSSASVAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
配列番号85 軽鎖2 P1AF7979
DIVMTQSPDSLAVSLGERATINCKSSQSVLNPSNNKNNLAWYQQQPGQPPKLLIYWASTRESGVPDRFSGSGSGTDFTLTISSLQAEDVAVYFCQQYYRTPWTFGQGTKVEIKRTVAAPSVFIFPPSDRKLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
配列番号86 重鎖1 P1AF7979
QVQLQQSGPGLLKPSQTLSLTCAISGDSVSSNRAAWNWIRQSPSRGLEWLGRTYYRSKWYNDYAVSVQGRITLIPDTSKNQFSLRLNSVTPEDTAVYYCASVRAVAPFDYWGQGVLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVEDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDEKVEPKSCDKTHTCPPCPAPEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALGAPIEKTISKAKGQPREPQVCTLPPSRDELTKNQVSLSCAVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLVSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSP
配列番号87 重鎖2 P1AF7979
QVQLQQSGPGLLKPSQTLSLTCAISGDSVSSNRAAWNWIRQSPSRGLEWLGRTYYRSKWYNDYAVSVQGRITLIPDTSKNQFSLRLNSVTPEDTAVYYCASVRAVAPFDYWGQGVLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVEDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDEKVEPKSCDGGGGSGGGGGDIQMTQSPSSLSASVGDRVTITCRASQDIRNYLNWYQQKPGKAPKLLIYYTSRLESGVPSRFSGSGSGTDYTLTISSLQPEDFATYYCQQGNTLPWTFGQGTKVEIKSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPEAAGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALGAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPCRDELTKNQVSLWCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSP
【0339】
以下に、本発明の特定の実施形態を列挙する。
1.ヒトHLA-Gに結合する抗体であって、
A)(a)(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号23のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、又は
B)(a)(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号25のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、を含む抗体。
【0340】
2.抗体が、
A)配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含むか、又は
B)配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号26のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む、実施形態1に記載の抗体。
【0341】
3.抗体が、ヒト起源の、特にIgGアイソタイプの、より詳しくはIgG1アイソタイプのFcドメインを含む、実施形態1又は2に記載の抗体。
【0342】
4.抗体が、ヒトCH1、CH2、CH3及び/又はCLドメインを含む、ヒト起源の、特にIgGアイソタイプの、より詳しくはIgG1アイソタイプの定常領域を含む、実施形態1又は2に記載の抗体。
【0343】
5.抗体が、
a)配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン及び配列番号8のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む(親)抗体と比較して、最大結合(Rmax)及び/又は結合親和性(KD)に関して改善された結合特性を有する(実施例2に示す)、
b)改変ヒトHLA-G β2M MHC I複合体と交差反応せず、HLA-G特異的アミノ酸がHLA-Aコンセンサスアミノ酸によって置き換えられており、複合体が配列番号40を含む(実施例2に示す)、及び/又は
c)配列番号41を含むマウスH2Kd β2M MHC I複合体と交差反応しない(実施例2に示す)、及び/又は
d)配列番号43を含むラットRT1A β2M MHC I複合体と交差反応しない(実施例2に示す)、実施形態1~4のいずれか1つに記載の抗体。
【0344】
6.抗体が、
a)JEG3細胞(ATCC番号HTB36)へのILT2結合を阻害する(実施例5に示す);又は
b)JEG3細胞(ATCC番号HTB36)(で発現されるHLA-G)に結合し、JEG-3細胞(ATCC番号HTB36)へのILT2結合を阻害する(実施例5に示す)、実施形態1~3のいずれか1つに記載の抗体。
【0345】
7.抗体が、多重特異性抗体(好ましくは二重特異性抗体)である、実施形態1~4のいずれか1つに記載の抗体。
【0346】
8.抗体が、ヒトHLA-G及びヒトCD3に結合する二重特異性抗体である、実施形態7に記載の抗体。
【0347】
9.抗体がヒトHLA-G及びヒトCD3に結合する二重特異性抗体であって、ヒトHLA-Gに結合する第1の抗原結合部分及びヒトCD3に結合する第2の抗原結合部分を含み、
ヒトHLA-Gに結合する第1の抗原結合部分は、
A)(a)(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号23のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、又は
B)(a)(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号25のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、を含み、
ヒトCD3に結合するT細胞活性化抗原に結合する第2の抗原結合部分は、
C)(a)(i)配列番号52のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号53のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号54のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号55のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号56のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号57のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、又は
D)(a)(i)配列番号60のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号61のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号62のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号63のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号64のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号65のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、又は
E)(a)(i)配列番号68のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号69のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号70のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号71のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号72のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号73のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、を含む、実施形態7に記載の抗体。
【0348】
10.第1の抗原結合部分は、
A)配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含むか、又は
B)配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号26のアミノ酸配列を含むVLドメインを含み、
第2の抗原結合部分は、
C)配列番号58のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号59のアミノ酸配列を含むVLドメインを含むか、又は
D)配列番号66のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号67のアミノ酸配列を含むVLドメインを含むか、又は
E)配列番号74のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号75のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む、実施形態9に記載の二重特異性抗体。
【0349】
11.第1の抗原結合部分は、
配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含み、
第2の抗原結合部分は、
配列番号58のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号59のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む、実施形態10に記載の二重特異性抗体。
【0350】
12.第1の抗原結合部分は、
配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含み、
第2の抗原結合部分は、
配列番号66のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号67のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む、実施形態108に記載の二重特異性抗体。
【0351】
13.第1の抗原結合部分は、
配列番号7のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号24のアミノ酸配列を含むVLドメインを含み、
第2の抗原結合部分は、
配列番号74のアミノ酸配列を含むVHドメイン、及び配列番号75のアミノ酸配列を含むVLドメインを含む、実施形態10に記載の二重特異性抗体。
【0352】
14.二重特異性抗体は、以下を示す
a)HLA-GへのILT2及び/若しくはILT4の結合の阻害(実施例13に示す)、並びに/又は
b)組換えHLA-G(SKOV3 HLA-G)でトランスフェクトしたSKOV3細胞上及び/若しくは内因性HLA-Gを発現するJEG3細胞上でのT細胞による抗体媒介IFNガンマ分泌(IFNガンマ分泌が検出された)(Luminex technologyによる)(実施例14に示す)、並びに/又は
c)組換えHLA-G(SKOV 3HLA-G)でトランスフェクトしたSKOV3細胞及び/若しくは内因性HLA-Gを発現するJEG3細胞に対するT細胞媒介細胞傷害/腫瘍細胞殺傷(細胞傷害は、二重特異性抗体で治療した後の細胞におけるカスパーゼ8活性化を測定することによって検出された)(実施例15に示す)、並びに/又は
d)組換えHLA-G(SKOV3 HLA-G)ヒト化NSGマウスでトランスフェクトしたSKOV3ヒト卵巣癌腫を有するヒト化NSGマウスにおけるin vivo抗腫瘍有効性/腫瘍退縮(実施例16に示す)、並びに/又は
e)ヒト乳がんPDX腫瘍(BC004)を有するヒト化NSGマウスにおけるHLA-G CD3 T細胞二重特異性のin vivo抗腫瘍有効性/腫瘍(実施例17に示す)、を示す、実施形態8~13のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
【0353】
15.第1及び第2の抗原結合部分がFab分子である、実施形態9~14のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
【0354】
16.第2の抗原結合部分が、Fab軽鎖とFab重鎖の可変ドメインVL及びVH又は定常ドメインCL及びCH1、特に可変ドメインVL及びVHが互いに置き換わっているFab分子である、実施形態9~15のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
【0355】
17.第1の抗原結合部分がFab分子であり、定常ドメインにおいて、位置124のアミノ酸が、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって置換され(Kabatによるナンバリング)、位置123のアミノ酸が、独立して、リジン(K)、アルギニン(R)又はヒスチジン(H)によって置換され(Kabatによるナンバリング)、定常ドメインCH1において、位置147のアミノ酸が、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって置換され(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、位置213のアミノ酸が、独立して、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)によって置換されている(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、実施形態9~16のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
【0356】
18.第3の抗原結合部分を含み、第3の抗原部分が第1の抗原結合部分と同一である、実施形態9~17のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
【0357】
19.第1及び第2のサブユニットからなるFcドメインを含む、実施形態9~18のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
【0358】
20.第1の抗原結合部分、第2の抗原結合部分、及び存在する場合には第3の抗原結合部分がそれぞれFab分子であり、
(i)第2の抗原結合部分がFab重鎖のC末端において第1の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合され、第1の抗原結合部分がFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合されるか、又は(ii)第1の抗原結合部分がFab重鎖のC末端において第2の抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合され、第2の抗原結合部分がFab重鎖のC末端においてFcドメインの第1のサブユニットのN末端に融合されるかのいずれかであり、
第3の抗原結合部分が、存在する場合、Fab重鎖のC末端において、Fcドメインの第2のサブユニットのN末端に融合されている、実施形態19に記載の二重特異性抗体。
【0359】
21.FcドメインがヒトIgG Fcドメイン、特にIgG1アイソタイプのものである、実施形態19又は20に記載の二重特異性抗体。
【0360】
22.Fcドメインが、Fc受容体への結合及び/又はエフェクタ機能を低下させる1つ以上のアミノ酸置換を含む、実施形態19又は20に記載の二重特異性抗体。
【0361】
23.抗体が、突然変異L234A、L235A及びP329G(KabatのEUインデックスよるナンバリング)を有するIgG1アイソタイプの抗体である、実施形態22に記載の二重特異性抗体。
【0362】
24.Fcドメインの第1のサブユニットのCH3ドメインのアミノ酸残基が、より大きな側鎖量を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それによって、第2のサブユニットのCH3ドメイン内の空洞内に配置可能な第1のサブユニットのCH3ドメイン内に突起を生成し、Fcドメインの第2のサブユニットのCH3ドメインのアミノ酸残基が、より小さな側鎖量を有するアミノ酸残基で置き換えられ、それによって、第2のサブユニットのCH3ドメイン内に空洞を生成し、その中に、第1のサブユニットのCH3ドメイン内の突起が配置可能である、実施形態19~23のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
【0363】
25.抗体が、Fcドメインの第1のサブユニットに突然変異T366Wを有し、Fcドメインの第2のサブユニットに突然変異Y407V、T366S及びL368Aを有するIgG1アイソタイプ(Kabat EUインデックスによるナンバリング)である、実施形態24に記載の二重特異性抗体。
【0364】
26.抗体が、Fcドメインの第1のサブユニットに更なる突然変異S354Cを含み、Fcドメインの第2のサブユニットに更なる突然変異Y349Cを含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、実施形態25に記載の二重特異性抗体。
【0365】
27.抗体が、Fcドメインの第1のサブユニットに更なる突然変異Y349Cを含み、Fcドメインの第2のサブユニットに更にS354C突然変異を含む(Kabat EUインデックスによるナンバリング)、実施形態25に記載の二重特異性抗体。
【0366】
28.実施形態1~4のいずれか1つに記載の抗体又は実施形態9~27のいずれか1つに記載の二重特異性抗体をコードする、単離された核酸。
【0367】
29.実施形態28に記載の核酸を含む宿主細胞、好ましくは真核生物宿主細胞。
【0368】
30.実施形態29に記載の宿主細胞を培養して、抗体又は二重特異性抗体を産生することを含む、実施形態1~4のいずれか1つに記載の抗体、又は実施形態9~227のいずれか1つに記載の二重特異性抗体の製造方法。
【0369】
31.抗体又は二重特異性抗体を宿主細胞から回収することを更に含む、実施形態30に記載の方法。
【0370】
32.抗体が実施形態30又は31に記載の方法に従って産生され、宿主細胞が真核宿主細胞(好ましい一実施形態では、哺乳動物宿主細胞、別の好ましい実施形態では、CHO細胞)である、実施形態1~4のいずれか1つに記載の抗体又は実施形態9~27のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
【0371】
33.抗体が真核宿主細胞(好ましい一実施形態では、哺乳動物宿主細胞、別の好ましい実施形態では、CHO細胞)で産生される、実施形態1~4のいずれか1つに記載の抗体又は実施形態9~27のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
【0372】
34.医薬として使用するための、実施形態1~4のいずれか1つに記載の抗体又は実施形態9~27のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
【0373】
35.がんの治療において使用するための、実施形態1~4のいずれか1つに記載の抗体又は実施形態9~27のいずれか1つに記載の二重特異性抗体。
【0374】
36.医薬の製造における、実施形態1~4のいずれか1つに記載の抗体又は実施形態9~27のいずれか1つに記載の二重特異性抗体の使用。
【0375】
37.医薬ががんの治療用である、実施形態36に記載の使用。
【0376】
38.がんを有する個体を治療する方法であって、個体に有効量の実施形態1~4のいずれか1つに記載の抗体又は実施形態9~27のいずれか1つに記載の二重特異性抗体を投与することを含む、方法。
【実施例0377】
組換えDNA技術
標準的な方法を使用して、Sambrook,J.et al,Molecular cloning:A laboratory manual;Cold Spring Harbor Laboratory press,Cold spring Harbor,New York,1989において説明されるように、DNAを操作した。分子生物学的試薬は、製造元の説明書によって使用した。
遺伝子及びオリゴヌクレオチド合成
【0378】
所望の遺伝子セグメントを、Geneart GmbH(レーゲンスブルク、ドイツ)での化学合成によって調製した。合成した遺伝子断片を増殖/増幅のために大腸菌プラスミドにクローニングした。サブクローン化された遺伝子断片のDNA配列は、DNAシークエンシングによって確認された。あるいは、化学的に合成されたオリゴヌクレオチドをアニーリングすることによって、又はPCRによって短い合成DNA断片を組立てた。それぞれのオリゴヌクレオチドを、Metabion GmbH(プラネグ-マルティンスリート、ドイツ)によって調製した。
基本的/標準的な哺乳動物発現プラスミドの説明
所望の遺伝子/タンパク質(例えば完全長抗体重鎖、完全長抗体軽鎖、若しくはMHCクラスI分子、例えばHLA-G、又はペプチド及びベータ2ミクログロブリンに融合したMHCクラスI分子、例えばHLA-G結合ペプチド及び/又はベータ2ミクログロブリンに融合したHLA-G)の発現のために、以下の機能的要素を含む転写単位が使用される:
-イントロンAを含む、ヒトサイトメガロウイルス(P-CMV)由来の前初期エンハンサー及びプロモーター、
-ヒト重鎖免疫グロブリン5’非翻訳領域(5’UTR)、
-マウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
-発現される遺伝子/タンパク質(例えば完全長抗体重鎖又はMHCクラスI分子)、及び
-ウシ成長ホルモンポリアデニル化配列(BGH pA)。
【0379】
発現される所望の遺伝子を含む発現ユニット/カセットに加えて、塩基性/標準的な哺乳動物発現プラスミドは、
-大腸菌におけるこのプラスミドの複製を可能にするベクターpUC18からの複製起点、及び
-大腸菌にアンピシリン耐性を付与するベータラクタマーゼ遺伝子を含む。
タンパク質決定
【0380】
精製ポリペプチドのタンパク質濃度を、精製ポリペプチドのアミノ酸配列に基づいて算出したモル吸光係数を用いて、280nmにおける光学濃度(OD)を決定することにより求めた。
実施例1
HLA-Gキメラ分子の作製
【0381】
他のMHC I分子との高い相同性(98%超)のため、HLA-G分子による免疫化は、MHC-I交差反応性抗体並びに真にHLA-G特異的抗体の混合物から構成されるポリクローナル血清の生成をもたらす。
【0382】
これまでのところ、他のヒトMHC-I(例えばHLA-A)に対する交差反応性を伴わずに真にHLA-G特異的抗体を選択し、受容体遮断機能を有するものを更に選択するための手段は提供されていない。
【0383】
本発明者らは、構造的適合性及び受容体相互作用に必要な位置と組み合わせて固有のHLA-G位置を同定した(ILT2/4及びKIR2DL4。)。
【0384】
次いで、異なるげっ歯類種(ラットRT1A及びマウスH2kd等)由来のMHCクラスI複合体分子上にヒトHLA-Gの特有な近位位置を「グラフト」して、「キメラ」免疫原/スクリーニング抗原を生成した。
【0385】
生成された抗体を結合/特異性(それぞれ対抗原に対する交差反応性なし/特異性なし)についてのストリンジェントなスクリーニング/試験に供した。
【0386】
結合試験のための抗原:
-レック配列番号43を含むヒトHLA-G β2M MHC複合体として発現されるHLA-G
-ラットRT-1及びマウスH2kdにグラフトしたHLA-G特異的配列(配列番号46:ヒトHLA-Gに特異的な位置がマウスH2KdフレームワークにグラフトされたヒトHLA-G/マウスH2Kd β2M MHCクラスI複合体及び配列番号48:ヒトHLA-Gに特異的な位置がラットRT1AフレームワークにグラフトされたヒトHLA-G/ラットRT1A β2M MHCクラスI複合体)
-天然HLA-G MHCクラスI複合体発現細胞(例えばJeg3細胞)、又はヒトHLA-Gトランスフェクト細胞株SKOV3 HLA-G+及びPA-TU-8902 HLA-G+
交差反応性試験のための対抗原:
-異なるペプチドと組み合わせた他のHLA-A配列(HlA-Aコンセンサス配列でデグラフト化されたHLA-A2及びHLA-G)との対抗原(MHCクラスI複合体)(例えば、HLA-Gフレームワーク上の配列番号35(HLA-A2)及び配列番号40 HLA-Aコンセンサス配列を参照されたい)
-ラットRT-1及びマウスH2kd(配列番号43及び配列番号41)等の他の種からの対抗原(MHCクラスI複合体)
-HLA-G発現の非存在を特徴とする非改変腫瘍細胞株SKOV3及びPA-TU-8902。
抗HLA-G抗体の特異的結合を決定するためのキメラHLA-G抗原の設計(
図2を参照されたい):
結合アッセイで使用するための、HLA-G固有位置(配列番号44)を保有するキメララットMHC I分子(RT1-A)の設計:
IMGT由来の2579個のHLA-A、3283個のHLA-B、2133個のHLA-C、15個のHLA-E、22個のHLA-F及び50個のHLA-G配列のアラインメントによって、HLA-G固有の位置を同定した(2014年2月6日現在)。3つの配列セットHLA-A、HLA-B、及びHLA-C+HLA-E+HLA-Fの組み合わせセットのいずれかの配列の1%未満(ほとんどが約0%)に存在するHLA-Gの残基は、HLA-G固有位置と呼ばれる。
【0387】
4つのコアHLA-G固有位置(アルファ-1では2つ、アルファ-3では2つ)は、HLA-G配列のセットにおいて多型を示さず、他のHLA遺伝子のいずれもこれらの位置にHLA-G特異的残基を含有しない(M100については1×HLA-A、Q103については1×HLA-B、及びQ103については1×HLA-Cを除く)。
【0388】
ヒトHLA-G(Clements,C.S.et al.PROC.NATL.ACAD.SCI.USA 102:3360-3365(2005);PDBコード:1YDP)の結晶構造にラットRT1-A(Rudolph,M.G.et al.J.Mol.Biol.324:975-990(2002);PDBコード:1KJM)の結晶構造を重ねた。アルファ鎖及び関連するベータ2ミクログロブリンの全体構造は保存されている。
【0389】
HLA-G固有の位置を、配列及び構造アラインメントの比較によってRT1-A構造において同定した。第1の工程では、HLA-G及びRT1-Aの分子表面に露出され、したがって抗体にとってアクセス可能な固有のHLA-G位置が同定された。タンパク質フォールド内に埋もれている固有の位置は、操作のために除外された。第2の工程において、対応する領域「HLA-G様」を作製するため、すなわち、人工的であろうHLA-G/ラットRT1-Aキメラエピトープを生成するのではなく、固有の位置を含む実際のHLA-Gエピトープを生成するためにも交換される必要がある構造的に近位の残基を同定した。このようにして突然変異のために選択された全ての位置を、HLA-G由来のそれぞれの残基の構造的適合について分析して、突然変異時の分子構造の起こり得る局所的障害を回避した。
【0390】
結合アッセイで使用するためのHLA-G固有の位置(配列番号42)を有するキメラマウスMHC I分子(H2Kd)を同様に生成した。
交差反応性試験のためのHLA-Aコンセンサス配列に対するHLA-G固有位置の「デグラフト化」によるHLA-Aベースのカウンター抗原の設計(配列番号40=改変ヒトHLA-G β2M MHCクラスI複合体(HLA-G特異的アミノ酸はHLA-Aコンセンサスアミノ酸(=デグラフト化HLA-G)によって置き換えられている)
【0391】
ヒトHLA-G(PDBコード:1YDP)の結晶構造において、多重配列アラインメントに由来する固有の位置を解析した。第1に、HLA-G表面上に露出されておらず、したがって抗体にとってアクセスできない位置を操作のため除外した。第2に、表面露出残基をアミノ酸交換の実現可能性について分析した(すなわち、関連する位置の変異時の分子構造の可能性のある局所的な障害の排除)。合計で14の位置を交換のため検証した。有効位置のアミノ酸を、IMGT(2014年2月6日現在)からダウンロードした2579個のHLA-A配列の多重配列アラインメントに由来するHLA-Aコンセンサス配列に対して変異させた。
可溶性古典的及び非古典的MHCクラスI分子のための発現プラスミドの作製
【0392】
組換えMHCクラスI遺伝子は、それぞれのMHCクラスI分子、ベータ2ミクログロブリン、及びそれぞれのMHCクラスI分子によって結合されることが知られているペプチドからなるN末端伸長融合分子をコードする。
【0393】
可溶性MHCクラスI分子の一過性発現のための発現プラスミドは、可溶性MHCクラスI分子の他に、大腸菌(E.coli)におけるこのプラスミドの複製を可能にするベクターpUC18からの複製起点と、大腸菌(E.coli)におけるアンピシリン耐性を付与するベータラクタマーゼ遺伝子とを含んでいた。
可溶性MHCクラスI分子の転写単位は、以下の機能要素を含んでいた:
-イントロンAを含む、ヒトサイトメガロウイルス(P-CMV)由来の前初期エンハンサー及びプロモーター、
-ヒト重鎖免疫グロブリン5’非翻訳領域(5’UTR)、
-マウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
-核酸をコードするN末端切断S.アウレウス(S.aureus)ソルターゼA、及び
-ウシ成長ホルモンポリアデニル化配列(BGH pA)。
【0394】
様々な種に由来する成熟可溶性MHCクラスI分子のアミノ酸配列は以下の通りである:
配列番号39:例示的なヒトHLA-G β2M MHCクラスI複合体
配列番号40:例示的な改変ヒトHLA-G β2M MHCクラスI複合体(HLA-G特異的アミノ酸はHLAコンセンサスアミノ酸によって置き換えられている(=デグラフト化HLA-G、
図2も参照されたい)
配列番号41:例示的なマウスH2Kd β2M MHCクラスI複合体
配列番号42:ヒトHLA-Gに特異的な位置がマウスH2Kdフレームワークにグラフトされた例示的なヒトHLA-G/マウスH2Kd β2M MHC複合体
配列番号43:例示的なラットRT1A β2M MHCクラスI複合体
配列番号44:ヒトHLA-Gに特異的な位置がラットRT1Aフレームワークにグラフトされた例示的なヒトHLA-G/ラットRT1A β2M MHC複合体
【0395】
例示的なHLA-A2 β2M MHCクラスI複合体について、以下の成分を使用し、複合体を大腸菌(E.Coli)で発現させ、精製した。
MHCI複合体HLA-A2/b2M(配列番号35及び33)(両方とも追加のN末端メチオニンを有する)+VLDFAPPGAペプチド(配列番号46)+リンカー及びhis-Tag(配列番号45)
実施例2
CDR-L1におけるN-グリコシル化モチーフの除去
【0396】
抗HLA-G抗体HLA-G-0090のCDR-L1は、軽鎖(LC)の位置31から33を含む古典的なN-グリコシル化モチーフ「NSS」を含有する。潜在的な開発可能性の責任を構成し得るため、このモチーフを除去することを決定した。HLA-G-0090の可変領域の相同性モデルは、LC位置31~33が非常に溶媒接触性であることを示した。さらに、N31及びS32の側鎖は、CDR-H3の方向に内側を指すと予測され、それらは抗体パラトープの一部である可能性が高い。実際、いくつかの公開されている抗体-抗原X線複合体構造物は、これらの残基が抗原との化学的相互作用を受けていることを実証している。したがって、LC位置31~33に変異を導入することによって抗体の結合親和性が悪化するリスクが高いと考えられた。リスクを改善するために、LC位置31、32及び33に突然変異を有する抗体HLA-G-0090の11個の異なる変異体を設計し、IgG1フォーマットでHEK293F細胞で産生させた。
【0397】
突然変異変異体HLA-G-0090-VL-N31Y-N38Yは、N-グリコシル化モチーフとは別に第2の突然変異(N38Y)を含み、その除去に関連せず、生殖系列同一性を増加させていることに留意されたい。
【0398】
抗HLA-G抗体配列(可変領域及びCDRの配列番号)の要約:
【0399】
得られた抗HLA-G特異的抗体の結合及び他の特性、並びに生物学的活性を以下の実施例に記載されるように決定し、既知の参照であるHLA-G-0090と比較した。
発現及び精製
【0400】
アフィニティークロマトグラフィー(MabSelect Sure)による精製及び透析後のHEK293F細胞における0.5L発現からの発現収率を以下の表に示す。
【0401】
位置LC31(N31X)を含む突然変異を有する変異体は、発現力価の大幅な低下及び多くの場合、材料の質の低下を示したが、LC32及びLC33位の変異体は、良好から許容可能な発現力価及び良好な材料の質を示した。
HLA-G結合
wt-HLA-G親和性/速度論
【0402】
個々の5nM抗HLA-G抗体のwt-HLA-G複合体(配列番号39)に対する親和性を、CM3センサーチップ上の抗hFc(GE Healthcare BR-1008-39)で捕捉し、HBS-P+(GE Healthcare)泳動緩衝液に希釈した11nM~300nMの濃度及び60μl/分の流速で、120秒の会合時間及び600秒の解離時間でwt-HLA-G抗原を注入することによって決定した。各サイクルの後、3M MgCl2で洗浄することによって表面を再生した。T200評価ソフトウェアを使用して速度論結合曲線を評価し、結合特性の計算には1:1ラングミュア結合モデルを使用した。
【0403】
HLAG抗体のRAC(相対活性濃度)(アッセイスキームを
図3に示す)。
【0404】
個々の抗HLA-G抗体(HBS-P+中10nM溶液)のHLA-GバインダのRACを、CM3センサーチップ上の抗hFc(GE Healthcare BR-1008-39)で捕捉し、HBS-P+(GE Healthcare)泳動緩衝液に希釈した300nMの濃度及び10μl/分の流速で、60秒の会合時間及び600秒の解離時間でwt-HLA-G抗原を注入することによって決定した。各サイクルの後、3M MgCl2で洗浄することによって表面を再生した。最終的なRAC及びRmax値を、「結合」報告点及び捕捉レベルから計算する。Rmax=(MW分析物/MWリガンド)×RU捕捉リガンド*相互作用の化学量論。
【0405】
11個の変異体を、Fc部分を介して抗体をCM3チップに固定化し、組換え一本鎖HLA-Gモノマー/ヒトHLA-G β2M MHCクラスI複合体(配列番号39)を分析物として使用するSPR結合実験で評価した。動力学パラメータを、Biacore T200装置での25℃での単回サイクル動力学測定によって決定した。
【0406】
これらのうち、許容可能な発現力価を有する4つの変異体(HLA-G-0090-VL-S32P、HLA-G-0090-VL-S33A、HLA-G-0090-VL-S33D、HLA-G-0090-VL-S33P)を、同じSPR装置及び実験設定を使用したより正確な多重サイクル動態測定で更に評価した。
【0407】
2つの変異体HLA-G-0090-VL-S32P及びHLA-G-0090-VL-S33Aは、親抗体HLA-G-0090と比較して改善された結合親和性を有するが、2つの変異体HLA-G-0090-VL-S33D及びHLA-G-0090-VL-S33Pは、それぞれ5倍及び2倍の結合親和性を失っている。驚くべきことに、試験した変異体では、N-グリコシル化モチーフの除去は、動態測定においてより高いRmax値をもたらし、N-グリコシル化抗体よりも成功した複合体形成の割合が高いことを示している。
可溶性ヒトHLA-G、HLA-Aコンセンサス特異的配列を有する可溶性デグラフト化ヒトHLA-G、及びラット/マウスホモログに対する抗HLA-G抗体及び変異体の交差反応性
【0408】
2つの結合親和性改善変異体HLA-G-0090-VL-S32P及びHLA-G-0090-VL-S33Aの結合特性を更に調べるために、4つのカウンタースクリーニング構築物に対するSPR結合実験を行った。これらの組換え一本鎖ペプチド-MHC複合体構築物は、マウスH2-K1(配列番号41)、ラットRT1(配列番号43)、及びヒトHLA-G β2M MHCクラスI複合体であり、HLA-G特異的アミノ酸はHLA-Aコンセンサスアミノ酸(配列番号40)で置き換えられていた。後者の構築物は、全てのHLA-G特異的残基がそれらのHLA-Aコンセンサス対応物によって置き換えられたHLA-Gのバージョンを構成する。ここでも、抗体をCM3チップに固定化し、一本鎖ペプチド-MHC構築物をBiacore T200装置で分析物として25℃で使用した。
ストレス下での安定性
親抗体並びに2つの派生変異体HLA-G-0090-VL-S32P及びHLA-G-0090-VL-S33Aを、2つの異なる条件下で13日間ストレス負荷を行った:
・pH6.0 20mM His/HisCl、140mM NaCl;40℃にて(His 40℃)
・pH7.4 PBS;37℃にて(PBS 37℃)。
その後、SEC及びSPRを使用して材料を分析して、化学分解及び標的結合に対する起こり得る影響を調査した。参照のため、ストレス負荷された材料を貯蔵条件下で維持された材料と比較した:
・pH6.0 20mM His/HisCl、140mM NaCl;-80℃で凍結(参照)
【0409】
結果を以下の表に列挙する(参照と比較した相対%):
【0410】
3つ全ての抗体が非常に類似した安定性プロファイルを示しているが、変異体HLAG-0090_VL-S32Pは、37℃のPBS中でのストレス後に、親抗体を含む他の2つよりも多くのHLA-G結合(SPR相対活性濃度(RAC))を保持している。
熱安定性試験
【0411】
精製タンパク質の熱安定性試験のために、Uncleデバイスを使用した(UNCHAINED LABS、米国マサチューセッツ州ボストン)。266nm及び473nmでの静的光散乱と並行して固有蛍光を使用して、精製タンパク質の凝集温度(Tagg)及び融解温度(Tm)を決定する。0.1℃/分ステップで30℃から90℃までの温度勾配を実行した。試料あたり9μlの体積を有するガラスキュベットを使用し、濃度は20mMヒスチジン、140mM NaCl、pH6.0緩衝液中1mg/mLであった。解析には、ソフトウェアUNcle解析(UNCHAINED LABS)を用いた。
質量分析及びN-グリコシル化
【0412】
インタクト試料のデコンボリューションされた質量スペクトルは、HLA-G-0090_VL-S32P及びHLA-G-0090_VL-S33AにおけるN-グリコシル化部位/NSSモチーフの除去のN-グリコシル化に対する影響を記録している。サンプルをPNGase Fを用いて調製して、全てのN結合型グリカンを除去し、抗体の分子量のみを得た。PNGase Fは、N結合型Fc-グリカンの切断に完全に特異的であるが、N結合型Fab-グリカンを切断する場合、はるかに低い有効性を示す。HLA-G-0090は、不完全な脱グリコシル化に由来する明確なN-グリコシル化パターンを示しており、したがってFab-グリコシル化を示している(
図4Aを参照されたい)。HLA-G-0090_VL-S32P及びHLA-G-0090_VL-S33Aについては、残留N-グリコシル化の徴候を検出することができない(
図4Bを参照されたい)。
実施例3
抗HLA-G抗体のILT2及びILT4結合阻害
【0413】
Fcタグ付きILT2及びILT4をそれぞれMaxisorpマイクロタイタープレートにコーティングすることによって、ELISAを設定する。インキュベーション及び洗浄工程の後、それぞれの抗体を100nMの濃度で添加する。可溶性Hisタグ化単量体、二量体又は三量体HLA-Gをウェルに添加した。インキュベーション及び洗浄工程の後、結合した受容体の検出を抗His抗体-POD抱合体によって行う。阻害率(%)を、抗HLA-G又はILT2/4抗体を含まないILT2/4+HLA-G(一量体、二量体又は三量体)を有するウェルから得られた値と比較して計算し(100%結合=0%阻害)、表に示す。
実施例4
細胞上に発現された天然又は組換えHLA-GへのHLA-G抗体の結合(FACS分析によって評価)
【0414】
フローサイトメトリー分析のため、細胞を4℃で抗HLA-G mAbで染色した。簡潔には、各細胞懸濁液をポリプロピレンチューブ(2×105細胞/チューブ)に移し、5℃で10分間予冷した。次いで、細胞を2mlのFACS緩衝液(4℃)で洗浄し、300gで5分間遠心分離した。抗HLA-G抗体HLAG-0090-VL-S32P、HLAG-0090-VL-S33A、HLAG-0090を染色緩衝液で50μg/mlの開始濃度に希釈した。抗体の5倍段階希釈を実施して、最終濃度を得た(10μg/ml、2μg/ml、0.4μg/ml、0.08μg/ml、0.016μg/ml、0.0032μg/ml)。次いで、FACS緩衝液をチューブから吸引し、細胞ペレットを100μlの抗体溶液に再懸濁し、5℃で1時間インキュベートした。次いで、細胞を2mlの染色緩衝液で1回洗浄し、300gで5分間遠心分離した。
【0415】
検出のために、蛍光標識抗種抗体(Alexa 488に抱合化させたヤギ抗ヒトIgG(H+L)、Life technologies#A11013)を染色緩衝液で10μg/mlに希釈し、細胞ペレットを100μlの検出抗体に再懸濁した。5℃で1時間インキュベートした後、細胞を2mlの染色緩衝液で再び1回洗浄し、500μlの染色緩衝液に再懸濁し、FACS CELESTAで測定した。
【0416】
抗HLA-G抗体HLA-G-0090、HLA-G-0090-VL-S32P及びHLA-G-0090-VL-S32P(10μg/ml)についての例示的なFACS染色を
図5のFACSオーバーレイで示す:HLA-G 0090、HLA-G-0090-VL-S32P及びHLA-G-0090-VL-S32Pの両方の脱グリコシル化変異体は、HLA-G発現SKOV3細胞及びJEG細胞に良好な結合を示すが、親SKOV3細胞には結合しない。それぞれのHLA-G抗体のMFI値をヒストグラムに示す。
実施例5
抗HLA-G抗体は、JEG3細胞上に発現されたHLA-GへのILT2の結合を阻害/調節する
【0417】
分析のため、JEG3細胞(ATCC HTB36)を、異なる抗HLA-G抗体とのプレインキュベーションの有無にかかわらず、ILT2-c-Myc-Fc融合タンパク質(対照=阻害なし)で染色した。
【0418】
結合/結合阻害を以下のように決定した:組換えILT2-c-Myc-Fcタンパク質を、記載のように抗HLA-G mAbとプレインキュベートしたJEG3細胞又は参照としての未処理JEG3細胞のいずれかに添加した。抗HLA-G抗体とのプレインキュベーションのため、2×105個の細胞をポリプロピレンチューブに移した。抗HLA-G抗体HLAG-0090-VL-S32P、HLAG-0090-VL-S33A及びHLA-G-0090を染色緩衝液で80μg/mlの濃度に希釈し、抗体溶液25μlを調製した細胞に添加し、5℃で1時間インキュベートした。ILT2-c-Myc-Fc又は(対照ヒトIgG(Jackson-Immuno-Research#009-000-003))を染色緩衝液で20μg/mlの2倍濃度に希釈し、調製した細胞に10μg/mlの最終濃度で添加し、5℃で2時間インキュベートした。細胞を200μlの染色緩衝液で2回洗浄した。ヒトILT2-c-Myc-Fcタンパク質を、染色緩衝液中10μg/mlの希釈で蛍光標識抗Mycタグ(9E10)Alexa Fluor 647(abcam;#ab223895)で検出した。細胞を50μlの検出抗体希釈液に再懸濁し、5℃で1時間インキュベートした。次いで、細胞を2mlの染色緩衝液で1回洗浄し、500μlの染色緩衝液に再懸濁した後、FACS CELESTAで測定した。
【0419】
対照として、JEG-3プレインキュベーション細胞に結合した抗HLA-G抗体を、抗種抗体(Alexa 488に抱合させたヤギ抗ヒトIgG(H+L)、Life technologies#A11013)を使用することによって検出し、染色緩衝液で10μg/mlに希釈し、細胞ペレットを100μl/ウェルの検出抗体に再懸濁した。5℃で1時間インキュベートした後、細胞を染色緩衝液で再び1回洗浄し、500μlの染色緩衝液に再懸濁し、FACS CELESTAで測定した。
【0420】
図6のヒストグラムは、JEG3腫瘍細胞上に天然に発現されたHLA-Gに対する組換えILT2の相互作用及び結合を改変/阻害するHLA-G抗体のそれぞれの能力を示す。
【0421】
以下の表は、実験の結果を要約する。JEG3細胞への抗HLA-G抗体の結合は、+=弱い結合-+++=強い結合として示されている。HLA-G発現JEG3細胞へのILT2の結合を阻害/遮断又は増加させる抗HLA-G抗体の能力。最後の列では、細胞への組換えILT2の結合又はその阻害/遮断を示す/定量する(抗HLA-G抗体の非存在下でのILT2-c-Myc-Fcの染色を100%結合=0%阻害に設定した):
実施例6
最適化CD3バインダの生成
【0422】
配列番号92及び93のVH及びVL配列を含む本明細書において「CD3orig」と呼ばれる以前に記載されたCD3バインダ(詳細については、例えば、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2014/131712号を参照されたい)から出発して、本発明者らは、重鎖CDR3のカバット方式による位置97及び100における2つのアスパラギン脱アミド化配列モチーフの除去によってこのバインダの特性を最適化することを目的とした。
【0423】
この目標に対して、本発明者らは、ファージディスプレイに適した、Kabat位置97と100の両方のアスパラギンが除去された重鎖の抗体ライブラリを生成し、更にAsn97及びAsn100を置き換えることによって引き起こされる親和性の喪失を親和性成熟プロセスを通して補償するためにランダム化されたCDR H1、H2及びH3を生成した。
【0424】
このライブラリは、マイナーコートタンパク質p3への融合を介して線状ファージに置かれ(Marks et al.(1991)J Mol Biol 222,581-597)、組み換えCD3εへの結合のために選択された。
【0425】
初期のスクリーニングにおいて10の候補クローンが特定され、SPRによってFab断片(大腸菌内で産生された)として測定された、組み換え抗原上の許容可能な結合を示した。
【0426】
しかしながら、これらクローンのうち1つだけが、IgGフォーマットへの変換後、フローサイトメトリーによって測定された、CD3を発現する細胞への許容可能な結合活性を示した。
【0427】
本明細書においてP035-093(P035)(=「CD3opt」)と呼ばれ、それぞれ配列番号58及び59のVH配列及びVL配列を含む、選択されたクローンを更に評価し、以下に記載されるように二重特異性フォーマットに変換した。
実施例7
最適化CD3バインダのCD3への結合
組み換えCD3への結合
【0428】
組換えCD3への結合を、Fc領域にP329G、L234A、L235A(「PGLALA」、EUナンバリング)変異を有するヒトIgG1フォーマット(配列番号94及び96(CD3orig)、並びに配列番号95及び96(P035=CD3opt))の両方において、最適化CD3バインダP035-093(P035)(=”CD3opt”)及び元のCD3バインダ「CD3orig」についての表面プラズモン共鳴(SPR)によって決定した。
【0429】
脱アミド部位除去の効果と抗体の安定性へのその効果とを評価するために、元々の最適化CD3バインダの組み換えCD3への結合を、37℃又は40℃の14日間の温度ストレス後に試験した。-80℃で保存した試料を参照として使用した。基準試料及び40℃でストレスを加えられた試料は、20mM His、140mM NaCl中、pH6.0であり、37℃でストレスを加えられた試料は、PBS中、pH7.4であり、全て濃度1.2~1.3mg/mlであった。ストレス期間(14日間)後、更なる分析のために、PBS中の試料を透析して20mM His、140mM NaCl、pH6.0に戻した。
【0430】
試料の相対活性濃度(RAC)を、以下の通りSPRにより決定した。
【0431】
SPRは、Biacore T200機器(GE Healthcare)で行われた。抗Fab捕捉抗体(GE Healthcare,#28958325)は、標準的なアミンカップリングケミストリーを用いて、結果として4000~6000共鳴単位(RU)の表面密度で、Series S Sensor Chip CM5(GE Healthcare)に固定化された。泳動用及び希釈緩衝液として、HBS-P+(10mM HEPES、150mM NaCl pH7.4、0.05%界面活性剤P20)を使用した。2μg/mlの濃度のCD3抗体を、5μl/分の流量で60秒間注入した。CD3抗原(以下を参照されたい)は、10μg/mlの濃度で120秒間注入され、解離は、5μl/分の流量で120秒間監視された。チップ表面は、10mMグリシンpH2.1のそれぞれ60秒間の2つの連続した注入によって再生された。容積屈折率の差は、ブランク注入を差し引くことによって、及びブランク制御フローセルから得られる応答を差し引くことによって訂正された。評価のために、結合反応は、注入終了から5秒後に取られた。結合シグナルを正規化するために、CD3結合は、抗Fab応答(固定化された抗Fab抗体上でのCD3抗体の捕捉の際に得られるシグナル(RU))によって分けられた。相対活性濃度は、各温度ストレスを加えられた試料を、対応するストレスを加えられていない試料に対して参照することにより計算した。
【0432】
使用された抗原は、ノブ・イントゥ・ホール改変及びC末端Avi-tagを伴うヒトFcドメインに融合された、CD3デルタ及びCD3イプシロン外部ドメインのヘテロ二量体であった(配列番号90及び91を参照されたい)。
【0433】
この実験の結果を
図15に示す。見てわかるように、最適化CD3バインダであるCD3
opt P035-093(P035)(=CD3
opt)は、元々のCD3バインダであるCD3
origと比較して、温度ストレス(37℃、pH7.4で2週間)後、CD3への強く改善された結合を示した。この結果は、in vivo半減期とともに中性pHでの抗体の製剤に関連して、脱アミド部位除去が成功であったことと、脱アミド部位除去によって優れた安定性特性を有する抗体が得られたことを示している。
Jurkat細胞上のCD3への結合
【0434】
ヒトレポーターT細胞株Jurkat NFAT上のCD3への結合を、Fc領域にP329G、L234A、L235A(「PGLALA」、EUナンバリング)変異を有するヒトIgG1フォーマット(配列番号94及び96(CD3orig)並びに配列番号95及び96(P035=CD3opt))の両方において、最適化CD3バインダP035-093(P035)(=CD3opt)及び元のCD3バインダ「CD3orig」について、FACSによって決定した。
【0435】
Jurkat-NFATレポーター細胞(GloResponse Jurkat NFAT-RE-luc2P;Promega #CS176501)は、NFATプロモーターを伴うヒト急性リンパ性白血病レポーター細胞株であり、ヒトCD3を発現する。細胞を、RPMI1640、2g/lグルコース、2g/l NaHCO3、10% FCS、25mM HEPES、2mM L-グルタミン、1x NEAA、1x ピルビン酸ナトリウム中、1mlあたり0.1~0.5mio細胞で培養した。最終濃度であるハイグロマイシンB 1mlあたり200μgを、細胞を継代するときにはいつでも添加した。
【0436】
結合アッセイのために、Jurkat NFAT細胞を採取し、PBSで洗浄し、FACS緩衝液中で再懸濁した。抗体染色を、96ウェル丸底プレート内で行った。したがって、1ウェルあたり100,000~200,000細胞が、播種された。プレートを4分間400×gで遠心分離し、上清を取り除いた。試験抗体をFACS緩衝液で希釈し、20μlの抗体溶液を4℃で30分間細胞に添加した。未結合抗体を除去するため、細胞をFACS緩衝液で2回洗浄した後、希釈二次抗体(PE抱合化AffiniPure F(ab’)2断片ヤギ抗ヒトIgG Fcg Fragment Specific;Jackson ImmunoResearch#109-116-170)を添加した。4℃で30分のインキュベーションの後、未結合の二次抗体を洗い流した。測定の前に、細胞を200μl FACS緩衝液中で再懸濁し、次いでBD Canto II装置を使用してフローサイトメトリーによって分析した。
【0437】
図16に示すように、最適化されたCD3バインダP035-093(P035)(=CD3
opt)及び元のCD3バインダ「CD3
orig」は、Jurkat細胞上のCD3に比較的良好に結合した。
実施例8
最適化CD3バインダの機能活性
【0438】
最適化CD3バインダ「CD3
opt」の機能活性を、Jurkatレポーター細胞アッセイで試験し、元々のCD3バインダ「CD3
orig」の活性と比較した。IgGの機能活性を試験するために、抗PGLALA発現CHO細胞を、増加する濃度のCD3
optヒトIgG1 PGLALA又はCD3
origヒトIgG1 PGLALAの存在下で、Jurkat NFATレポーター細胞と共インキュベートした。T細胞架橋のJurkat NFATレポーター細胞上のCD3の活性化は、ルシフェラーゼの産生を誘発するのであり、活性化マーカーとして発光を測定することができる。CD3
origヒトIgG1 wtが、抗PGLALA発現CHO細胞に結合できず、したがってJurkat NFAT細胞に架橋されることができない、陰性対照として含まれていた。アッセイの概略図を
図17に示す。
【0439】
抗PGLALA発現CHO細胞は、ヒトIgG1 Fc(PGLALA)に特異的に結合する抗体を、その表面上に発現するように操作されているCHO-K1細胞である(本明細書に参照により組み込まれる、国際公開第2017/072210号を参照されたい)。これらの細胞は、5%FCS+1%GluMaxを含有するDMEM/F12培地で培養された。Jurkat NFATレポーター細胞は、実施例7で説明されている通りである。
【0440】
CD3 huIgG1 PGLALAが、CHO上に発現された抗PGLALA及びJurkat NFATレポーター細胞上に発現されたCD3に同時に結合する際、NFATプロモーターが、活性化されて、活性ホタルルシフェラーゼの発現を引き起こす。(ルシフェラーゼ基質の付加時に得られる)発光シグナルの強度は、CD3活性化及びシグナル伝達の強度に比例する。Jurkat-NFATレポーター細胞は、懸濁物中で成長するのであり、RPMI1640、2g/lグルコース、2g/l NaHCO3、10%FCS、25mM HEPES、2mM L-glutamin、1x NEAA、1x ピルビン酸ナトリウム中、1mlあたり0.1~0.5mio細胞、ハイグロマイシン1mlあたり200μgで培養された。アッセイのために、CHO細胞を採取し、ViCellを使用して生存度を決定した。平底、白壁の96ウェルプレート(Greiner bio-one#655098)内で、100μl培地に30000標的細胞/ウェルをプレートし、50μl/ウェルの希釈された抗体又は培地(対照のため)を、CHO細胞に添加した。続いて、Jurkat-NFATレポーター細胞を回収し、ViCellを使用して生存度を評価した。細胞を、1.2mio細胞/mlで細胞培地内でハイグロマイシンBなしで再懸濁し、60000細胞/ウェル(50μl/ウェル)でCHO細胞に添加し、最終エフェクタ対標的(E:T)比2:1、及び1ウェルあたり最終体積200μlを得た。次いで、4μlのGloSensor(Promega #E1291)を、各ウェルに添加した(最終体積の2%)。細胞を、加湿したインキュベーター内において37℃で24時間インキュベートした。インキュベーション時間の終わりに、TECAN Spark 10Mを使用して発光を検出した。
【0441】
図18に示されるように、最適化されたCD3バインダP035-093(P035)(=CD3
opt)は、架橋時にCD3
origと同様の活性をJurkat NFAT細胞に対して有した。
実施例9
ヒトHLA-G及びヒトCD3に結合する二重特異性抗体(抗HLA-G/抗CD3抗体)の作製
組換えDNA技術
【0442】
標準的な方法を使用して、Sambrook,J.et al,Molecular cloning:A laboratory manual;Cold Spring Harbor Laboratory press,Cold spring Harbor,New York,1989において説明されるように、DNAを操作した。分子生物学的試薬は、製造元の説明書によって使用した。
遺伝子及びオリゴヌクレオチド合成
【0443】
所望の遺伝子セグメントを、Geneart GmbH(レーゲンスブルク、ドイツ)での化学合成によって調製した。合成した遺伝子断片を増殖/増幅のために大腸菌プラスミドにクローニングした。サブクローン化された遺伝子断片のDNA配列は、DNAシークエンシングによって確認された。あるいは、化学的に合成されたオリゴヌクレオチドをアニーリングすることによって、又はPCRによって短い合成DNA断片を組立てた。それぞれのオリゴヌクレオチドを、Metabion GmbH(プラネグ-マルティンスリート、ドイツ)によって調製した。
基本的/標準的な哺乳動物発現プラスミドの説明
【0444】
所望の遺伝子/タンパク質(例えば、抗体重鎖又は抗体軽鎖)の発現のため、以下の機能的要素を含む転写単位を使用する。
-イントロンAを含む、ヒトサイトメガロウイルス(P-CMV)由来の前初期エンハンサー及びプロモーター、
-ヒト重鎖免疫グロブリン5’非翻訳領域(5’UTR)、
-マウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列、
-発現される遺伝子/タンパク質(例えば完全長抗体重鎖又はMHCクラスI分子)、及び
-ウシ成長ホルモンポリアデニル化配列(BGH pA)。
発現される所望の遺伝子を含む発現ユニット/カセットに加えて、塩基性/標準的な哺乳動物発現プラスミドは、
-大腸菌におけるこのプラスミドの複製を可能にするベクターpUC18からの複製起点、及び
-大腸菌にアンピシリン耐性を付与するベータラクタマーゼ遺伝子を含む。
タンパク質決定
【0445】
精製ポリペプチドのタンパク質濃度を、精製ポリペプチドのアミノ酸配列に基づいて算出したモル吸光係数を用いて、280nmにおける光学濃度(OD)を決定することにより求めた。
組換えモノクローナル二重特異性抗体のための発現プラスミドの作製
【0446】
組換えモノクローナル抗体遺伝子は、それぞれの免疫グロブリン重鎖及び免疫グロブリン軽鎖をコードする。
【0447】
一過性発現モノクローナル抗体分子のための発現プラスミドは、免疫グロブリン重鎖又は軽鎖発現カセットの他に、大腸菌(E.coli)におけるこのプラスミドの複製を可能にするベクターpUC18からの複製起点と、大腸菌(E.coli)におけるアンピシリン耐性を付与するベータラクタマーゼ遺伝子とを含んでいた。
それぞれの抗体重鎖又は抗体軽鎖の転写単位は、以下の機能要素を含んでいた:
-イントロンAを含む、ヒトサイトメガロウイルス(P-CMV)由来の前初期エンハンサー及びプロモーター、
-ヒト重鎖免疫グロブリン5’非翻訳領域(5’UTR)、
--マウス免疫グロブリン重鎖シグナル配列、及び
【0448】
-ウシ成長ホルモンポリアデニル化配列(BGH pA)。
一過性発現及び分析特性評価
【0449】
組換え産生を、F17培地(Invitrogen Corp.)中で培養したHEK293細胞(ヒト胎児腎臓細胞株293由来)の一過性トランスフェクションによって行った。モノクローナル抗体の産生のため、細胞を、それぞれの免疫グロブリン重鎖及び軽鎖を含有するプラスミドで同時トランスフェクトした。トランスフェクション「293-フェクチン」には、トランスフェクション試薬(Invitrogen)を使用した。トランスフェクションは、製造業者の説明書に明記されているように実施した。細胞培養上清をトランスフェクションの3~7日後に回収した。上清を低温(例えば-80℃)で保存した。
【0450】
例えばHEK293細胞におけるヒト免疫グロブリンの組換え発現に関する一般情報を以下に示す:Meissner,P.et al.,Biotechnol.Bioeng.75(2001)197-203.
組換えDNA技術のための上記の方法、組換えモノクローナル抗体のための発現プラスミドの作製、並びに一過性発現及び分析的特徴づけを使用して、ヒトHLA-G及びヒトCD3に結合する以下の二重特異性抗体を作製し、分析した:
ヒトHLA-G及びヒトCD3に結合する二重特異性抗体(抗HLA-G/抗CD3抗体)(ヒトHLA-Gに結合する抗原結合部分/部位及びヒトCD3に結合する抗原結合部分/部位の可変領域VH/VL及び超可変領域(HVR)の配列番号):
【0451】
「クローン22(「Cl22」と略す)」は、最適化CD3バインダである(国際公開第2020/127619号を参照されたい);「P035-093(「P035」と略す)は別の最適化された変異体CD3バインダである;V9は、例えばRodrigues et al.,Int J Cancer Suppl(1992)7,45-50及び国際公開第1992/22653号に記載されている別のCD3バインダである(国際公開第1992/22653号の配列番号20及び17はVH配列及びVL配列である)
【0452】
二重特異性抗HLA-G/抗CD3 T細胞二重特異性(TCB)抗体:
P1AF7977(HLA-G-0090-VL-S32P/ CD3 P035-093(P035)):
配列番号76 軽鎖1 P1AF7977
配列番号77 軽鎖2 P1AF7977
配列番号78 重鎖1 P1AF7977
配列番号79 重鎖2 P1AF7977
P1AF7978(HLA-G-0090-VL-S32P/ CD3 Clone 22(Cl22)):
配列番号80 軽鎖1 P1AF7978
配列番号81 軽鎖2 P1AF7978
配列番号82 重鎖1 P1AF7978
配列番号83 重鎖2 P1AF7978
P1AF7979(HLA-G-0090-VL-S32P/ CD3 V9):
配列番号84 軽鎖1 P1AF7979
配列番号85 軽鎖2 P1AF7979
配列番号86 重鎖1 P1AF7979
配列番号87 重鎖2 P1AF7979
実施例10
HLA-Gに対する二重特異性抗HLA-G/抗CD3抗体(T細胞二重特異性(TCB)抗体)の結合及び安定性
ストレス下での安定性
【0453】
同じHLA-G標的化バインダHLAG-0090-VL-S32P及び3つの異なるCD3eバインダを特徴とする3つのTCB分子を、2つの異なる条件下で14日間ストレス負荷を行った:
・pH6.0 20mM His/HisCl、140mM NaCl;40℃にて(His 40℃)
・pH7.4 PBS;37℃にて(PBS 37℃)。
【0454】
その後、CD-SDS、SEC、及び表面プラズモン共鳴(Surface plasmon resonance)SPRを使用して材料を分析して、化学分解及び標的結合に対して起こり得る影響を調査した。参照のため、ストレス負荷された材料を貯蔵条件下で維持された材料と比較した:
・pH6.0 20mM His/HisCl、140mM NaCl;-80℃で凍結(参照)
結果を以下の表に列挙する:
【0455】
3つ全てのTCBが、ストレス負荷後に中程度の結合喪失を伴う許容され得る安定性プロファイルを示す。さらに、熱安定性は、DLS(Tagg)によって測定され、ヒトIgGについて知られている正常範囲内である。RAC結合は、実施例2に記載のように表面プラズモン共鳴(Biacore)によって決定した。
実施例11
T細胞上に発現したCD3への二重特異性抗HLA-G/抗CD3抗体(T細胞二重特異性(TCB)抗体)の結合(フローサイトメトリーによって評価した場合)
【0456】
簡潔には、100mlの新鮮な血液を三角フラスコに採取し、100mlの単離緩衝液(2%FBS及び2mM EDTAを含むPBS)と混合した。次いで、25mlの懸濁液を50mlチューブ内の15mlのフィコール上に慎重に移し、制動なしで800gで15分間遠心分離した。次いで、フィコール勾配中のPBMC層を、単離緩衝液を含む新しい50mlチューブに移し、4℃で10分間300gで遠心分離した。次いで、PBMCを2回洗浄し、細胞を10mlの単離緩衝液にプールした。PBMCを更に使用するまで-80℃で凍結した。T細胞を、EasySep陰性選択ヒトT細胞単離キット(Stem cell、#17951)を製造業者の説明書に従って使用してPBMCから単離した。次いで、T細胞へのHLA-G TCBの結合をフローサイトメトリーによって測定した。簡潔には、500μlのT細胞(5×105細胞)を各FACSチューブに添加した。T細胞を2mlの染色緩衝液(2%FBSを含むPBS)で洗浄し、300gで4℃で5分間遠心分離した。HLA-G TCBを培地中5~0.05μg/mlの範囲の異なる濃度で希釈した。次いで、T細胞を100μlのHLA-G TCB希釈液に再懸濁し、4℃の暗所で30分間インキュベートした。2mlの染色緩衝液で1回洗浄した後、細胞を300gで5分間遠心分離し、次いで、暗所において4℃で30分間、100μlの二次抗体希釈物(Alexa Fluor 488標識抗ヒトIgG、1:200)に再懸濁した。T細胞を2mlの染色緩衝液で2回洗浄し、4℃で5分間、300gで遠心分離した。最後に、細胞を500μlの培地に再懸濁し、T細胞へのHLA-G TCBの結合をBD LSR上で検出した。HLA-G TCB P1AF7977(HLA-G-0090-VL-S32P/CD3 P035);異なる濃度のT細胞上のCD3に対するP1AF7978(HLA-G-0090-VL-S32P/CD3 Cl22)及びP1AF7979(HLA-G-0090-VL-S32P/CD3 V9)の結合を
図7に示す。
実施例12
細胞上に発現した天然又は組換えHLA-Gへの二重特異性抗HLA-G/抗CD3抗体(T細胞二重特異性(TCB)抗体)の結合(フローサイトメトリーによって評価した場合)
【0457】
異なる細胞及び細胞株で発現されたHLA-Gに対する抗HLA-G TCB mAbの結合能をFACS分析によって評価した。天然のHLA-G発現JEG3腫瘍細胞又はSkov3トランスフェクタント及びそれぞれの親の非トランスフェクト細胞への結合が記載されれる。
【0458】
フローサイトメトリー分析のため、細胞を4℃で抗HLA-G TCB mAbで染色した。簡潔には、25μl/ウェルの各細胞懸濁液(5×104細胞/ウェル)をポリプロピレン96ウェルV底プレートに移し、5℃の冷蔵庫で10分間予冷した。抗HLA-G試料を染色緩衝液で80μg/mlの2倍の開始濃度に希釈した。抗体の4倍連続希釈を行い、25μl/ウェルの抗体溶液を調製した細胞に添加し、5℃で1時間インキュベートした。細胞を200μl/ウェルの染色緩衝液で2回洗浄し、300gで5分間遠心分離した。その後、細胞ペレットを25μlの染色緩衝液に再懸濁した。検出のため、蛍光標識抗種抗体(PEに抱合化したロバ抗ヒトIgG(H+L)、Jackson Immuno Research#709-116-149)を染色緩衝液で1:100に希釈し、25μl/ウェルの検出抗体を細胞懸濁液に添加した。5℃で1時間インキュベートした後、細胞を染色緩衝液で再び2回洗浄し、70μlの染色緩衝液に再懸濁し、FACS Canto IIで測定した。二重特異性抗HLA-G/抗CD3抗体(T細胞二重特異性(TCB)抗体)P1AF7977(HLA-G-0090-VL-S32P/CD3 P035);P1AF7978(HLA-G-0090-VL-S32P/CD3 Cl22)及びP1AF7979(HLA-G-0090-VL-S32P/CD3 V9)は、HLAGでトランスフェクトされたJEG3細胞及びSKOV3細胞への結合を示した(
図8を参照されたい)。FACS結合のEC50値を以下の表に列挙する。
実施例13
二重特異性抗HLA-G/抗CD3抗体(T細胞二重特異性(TCB)抗体)のILT2及び-4結合阻害
【0459】
Fcタグ付きILT2及びILT4をそれぞれMaxisorpマイクロタイタープレートにコーティングすることによって、ELISAを設定した。インキュベーション及び洗浄工程の後、それぞれの抗体を100nMの濃度で添加する。可溶性Hisタグ化単量体、二量体又は三量体HLA-Gをウェルに添加した。インキュベーション及び洗浄工程の後、結合した受容体の検出を抗His抗体-POD抱合体によって行った。阻害率(%)を、抗HLA-G又はILT2/4抗体を含まないILT2/4+HLA-G(一量体、二量体又は三量体)を有するウェルから得られた値と比較して計算し(100%結合=0%阻害)、以下の表に示す。
実施例14
二重特異性抗HLA-G/抗CD3抗体(T細胞二重特異性(TCB)抗体)はT細胞によるIFNガンマ分泌を媒介した
【0460】
組換えHLA-GでトランスフェクトしたSKOV3細胞(SKOV3 HLA-G)及び内因性HLA-Gを発現するJEG3細胞を使用して、HLA-G発現腫瘍細胞の存在下でT細胞によるIFNガンマ分泌を誘導する抗HLA-G TCBの能力を試験した。IFNガンマ分泌をLuminex technologyによって検出した。TCB治療後のT細胞によるIFNガンマ分泌の測定のため、PBMCとSKOV3 HLA-G細胞又はJEG3細胞との共培養物を抗HLA-G TCBと共にインキュベートした。簡潔には、PBMCを、Lymphocyte Separating Medium Tubes(PAN#P04-60125)を使用する密度勾配遠心分離によってヒト末梢血から単離した。PBMC及びSKOV 3 HLA-G細胞を10:1の比率で96ウェルU字底プレートに播種する。次いで、共培養物を、図(
図9)に示されるように異なる濃度でHLA-G-TCBと共にインキュベートし、5%Co2を含むインキュベーター中、37℃で24時間インキュベートした。翌日、上清を回収し、Milliplex MAPキット(Luminex technology)を製造業者の説明書に従って使用してIFNガンマ分泌を測定した。二重特異性抗HLA-G/抗CD3(T細胞二重特異性(TCB))抗体P1AF7977(HLA-G-0090-VL-S32P/CD3 P035);P1AF7978(HLA-G-0090-VL-S32P/CD3 Cl22)及びP1AF7979(HLA-G-0090-VL-S32P/CD3 V9)は、T細胞によるIFNガンマ分泌を誘導した(
図9)。EC50値を以下の表に列挙する。
実施例15
二重特異性抗HLA-G/抗CD3抗体(T細胞二重特異性(TCB)抗体)によるT細胞媒介性細胞傷害/腫瘍細胞殺傷の誘導
【0461】
HLA-G発現腫瘍細胞の存在下でT細胞媒介性細胞傷害を誘導する抗HLA-G TCBの能力を、組換えHLA-G(SKOV 3 HLA-G)でトランスフェクトしたSKOV3細胞及び内因性HLA-Gを発現するJEG3細胞で試験した。細胞傷害を、HLA-G TCBによる治療後の細胞におけるカスパーゼ8活性化を測定することによって検出した。HLA-G/抗CD3抗体(TCB)治療後のカスパーゼ8活性化の測定のため、PBMCとSKOV3 HLA-G細胞又はJEG3細胞との共培養物を抗HLA-G TCBと共に24時間インキュベートし、カスパーゼ8活性化を、カスパーゼ8 Gloキット(Promega、#G8200)を用いて測定した。簡潔には、PBMCを、Lymphocyte Separating Medium Tubes(PAN#P04-60125)を使用する密度勾配遠心分離によってヒト末梢血から単離した。PBMC及びSKOV3 HLA-G又はJEG3細胞を、黒色透明底96ウェルプレートに10:1(100μl/ウェル)の比で播種した。次いで、共培養物を、図(
図10)に示されるように異なる濃度でHLA-G-TCBと共にインキュベートし、5%Co2を含むインキュベーター中、37℃で24時間又は48時間インキュベートした。翌日、100μlのCaspase8 Glo基質を各ウェルに添加し、室温で1時間シェーカー上に置いた。発光をBioTek Synergy 2機で測定した。カスパーゼ8活性化/細胞傷害に対応する相対発光単位(RLU)をグラフにプロットする(
図10)。二重特異性抗HLA-G/抗CD3(T細胞二重特異性(TCB))抗体P1AF7977(HLA-G-0090-VL-S32P/CD3 P035);P1AF7978(HLA-G-0090-VL-S32P/CD3 Cl22)及びP1AF7979(HLA-G-0090-VL-S32P/CD3 V9)は、T細胞媒介性細胞傷害/腫瘍細胞殺傷を誘導した。腫瘍細胞殺傷のEC50値を以下の表に列挙する。
実施例16
組換えHLA-G(SKOV3 HLA-G)でトランスフェクトしたSKOV3ヒト卵巣癌腫を有するヒト化NSGマウスにおける二重特異性抗HLA-G/抗CD3(T細胞二重特異性(TCB))抗体のin vivo抗腫瘍有効性
【0462】
ヒト化NSG(Jackson Laboratories、米国によるCD34でヒト化されたNOD/scid/IL-2Rγnull+臍帯血細胞)マウス(n=15)に、5×10
6個のSKOV3 HLA-G細胞を総体積100μlで皮下注射した。腫瘍が200mm3の平均体積に達すると、マウスを無作為化し、毎週二重特異性抗HLA-G/抗CD3(T細胞二重特異性(TCB))抗体(P1AF7977(HLA-G-0090-VL-S32P/CD3 P035))(5mg/kg)で治療した。対照として、1群のマウスに週1回ヒスチジン緩衝液(ビヒクル)のi.v.注射を行った。腫瘍体積を研究終了まで週2回測定した。この実験の結果を
図11に示す。結果は、2つの試験群においてノギスによって測定された腫瘍体積データ(中央値及び四分位範囲(IQR))を示す。抗HLA-G/抗CD3 T細胞二重特異性(TCB)抗体P1AF7977は、SKOV3-HLA-G腫瘍モデルにおいて強い腫瘍増殖阻害/腫瘍退縮を示した。
実施例17
ヒト乳がんPDX腫瘍(BC004)を有するヒト化NSGマウスにおける二重特異性抗HLA-G/抗CD3(T細胞二重特異性(TCB))抗体の用量応答研究
【0463】
ヒト化NSG(マウスあたり1×10
5個のCD34+臍帯血細胞の静脈内注射によってヒト化されたNOD/scid/IL-2 Rγnull)マウスに、2×10
6個のBC004乳がん細胞を50μLの総体積で乳腺脂肪体内に注射した。腫瘍が約200mm3の平均体積に達すると、マウスを無作為化し(n=動物15匹/群)、二重特異性抗HLA-G/抗CD3(T細胞二重特異性(TCB))抗体(P1AF7977(HLA-G-0090-VL-S32P/CD3 P035))を用いて3つの異なる用量(5mg/kg、2.5mg/kg、0.5mg/kg)で毎週治療した。対照として、1群のマウスに週1回ヒスチジン緩衝液(ビヒクル)のi.v.注射を行った。ノギス測定によって腫瘍体積を週2回測定した。
図12に示される実験の結果は、腫瘍体積データ(中央値及び四分位範囲(IQR))を実証する。抗HLA-G/抗CD3 T細胞二重特異性(TCB)抗体の3つの用量は全て、BC004腫瘍モデルにおいて強い腫瘍成長阻害/腫瘍退縮を示した。最高用量(5mg/kg)は、2.5mg/kg及び0.5mg/kgの治療群と比較してわずかに高い有効性を示す。
実施例18
【0464】
組換えHLA-G(SKOV3 HLA-G)をトランスフェクトしたSKOV3細胞において、HLA-G発現腫瘍細胞の存在下でのT細胞活性化の誘導を二重特異性抗HLA-G/抗CD3抗体(T細胞二重特異性(TCB)抗体)によって試験した。
【0465】
HLA-G発現腫瘍細胞の存在下でT細胞を活性化する抗HLA-G/抗CD3 TCBの能力を、組換えHLA-G(SKOV3 HLA-G)でトランスフェクトしたSKOV3細胞で試験した。T細胞の活性化を、T細胞上の細胞表面活性化マーカーCD25及び初期活性化マーカーCD69のFACS分析によって評価した。簡潔には、末梢血単核細胞(PBMC)を、Lymphocyte Separating Medium Tubes(PAN#P04-60125)を使用する密度勾配遠心分離によってヒト末梢血から単離する。PBMC及びSKOV3 HLA-G細胞を10:1の比率で96ウェルU字底プレートに播種する。次いで、共培養物を抗HLA-G/抗CD3(T細胞二重特異性(TCB))抗体(P1AF7977(HLA-G-0090-VL-S32P/CD3 P035))(0.01nM)と共にインキュベートし、5%Co2を含むインキュベーター中、37℃で24時間インキュベートした。翌日、CD25及びCD69の発現をフローサイトメトリーによって測定した。
【0466】
フローサイトメトリー分析のため、細胞を、PerCP-Cy5.5マウス抗ヒトCD8(BD Pharmingen#565310)、PE-Cy7マウス抗ヒトCD4(Biologend#317414)、FITCマウス抗ヒトCD25(Biolegend#356106)及びAPCマウス抗ヒトCD69(BD Pharmingen#555533)により4℃で染色する。簡潔には、抗体を2倍の濃度に希釈し、25μlの抗体希釈液を25μlの予備洗浄した共培養物と共に各ウェルに添加する。細胞を4℃で30分間染色し、200μl/ウェルの染色緩衝液で2回洗浄し、300gで5分間遠心分離する。細胞ペレットを200μlの染色緩衝液に再懸濁し、2μg/mlの最終濃度で生死識別のためにDAPIで染色する。次いで、試料を、BD LSRフローサイトメーターを使用して測定する。FlowJo V.10.1ソフトウェアを使用してデータ分析を行った。
図14は、SKOV3 HLAG細胞の存在下での二重特異性抗HLA-G/抗CD3抗体P1AF7977(HLA-G-0090-VL-S32P/CD3 P035)によるT細胞活性化の誘導を示す。
前記抗体がヒトHLA-G及びヒトCD3に結合する二重特異性抗体であって、ヒトHLA-Gに結合する第1の抗原結合部分及びヒトCD3に結合する第2の抗原結合部分を含み、
ヒトHLA-Gに結合する第1の抗原結合部分が、
A)(a)(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号23のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、又は
B)(a)(i)配列番号1のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号25のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号5のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、を含み、
ヒトCD3に結合する第2の抗原結合部分が、
C)(a)(i)配列番号52のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号53のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号54のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号55のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号56のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号57のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、又は
D)(a)(i)配列番号60のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号61のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号62のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号63のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号64のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号65のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、又は
E)(a)(i)配列番号68のアミノ酸配列を含むCDR-H1、(ii)配列番号69のアミノ酸配列を含むCDR-H2、及び(iii)配列番号70のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むVHドメイン、並びに(b)(i)配列番号71のアミノ酸配列を含むCDR-L1、(ii)配列番号72のアミノ酸配列を含むCDR-L2、及び(iii)配列番号73のアミノ酸配列を含むCDR-L3を含むVLドメイン、を含む、請求項11に記載の抗体。