(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156538
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】単純ヘルペスウイルス増殖阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20231018BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231018BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20231018BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20231018BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231018BHJP
A61P 31/22 20060101ALI20231018BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20231018BHJP
C12Q 1/6888 20180101ALI20231018BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20231018BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20231018BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20231018BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20231018BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61K48/00
A61K31/7088
A61K31/713
A61P43/00 111
A61P31/22
A61P27/02
C12Q1/6888 Z
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
G01N33/68
C12N15/113 104Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020146608
(22)【出願日】2020-09-01
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100137512
【弁理士】
【氏名又は名称】奥原 康司
(72)【発明者】
【氏名】秋光 信佳
(72)【発明者】
【氏名】裏出 良博
(72)【発明者】
【氏名】蕪城 俊克
(72)【発明者】
【氏名】白濱 新多朗
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA25
2G045AA28
2G045AA40
2G045BA13
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4C086ZB33
4C086ZC41
(57)【要約】
【課題】本発明は、細胞内での単純ヘルペスウイルスの増殖を阻害する物質の提供、および当該物質を含む急性網膜壊死の治療のための医薬または医薬組成物の提供を課題とする。
【解決手段】本発明は、単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV)の増殖阻害剤であって、U90926の発現阻害物質を含有する前記阻害剤、および当該阻害剤を含む医薬または医薬組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内における単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV)の増殖阻害剤であって、U90926の発現阻害物質を含有する前記阻害剤。
【請求項2】
前記HSVがHSV-1であることを特徴とする請求項1に記載の阻害剤。
【請求項3】
前記細胞がヒト視細胞であることを特徴とする請求項1または2に記載の阻害剤。
【請求項4】
前記阻害物質がアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の阻害剤。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の阻害剤を有効成分として含有する医薬または医薬組成物。
【請求項6】
急性網膜壊死を治療対象とする請求項5に記載の医薬または医薬組成物。
【請求項7】
HSV感染細胞内におけるU90926の発現量を指標として、当該細胞内におけるHSV増殖を阻害する候補物質をスクリーニングする方法。
【請求項8】
被験者由来のサンプル中のヒトU90926の発現量を測定することを含む、HSV感染症の診断方法またはHSV感染症の診断補助方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単純ヘルペスウイルスの増殖阻害剤および該阻害剤を含む医薬または医薬組成物に関する。より具体的には、視細胞内における単純ヘルペスウイルスの増殖阻害剤および該阻害剤を含む医薬または医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代シーケンサーを用いた総トランスクリプトーム解析によって、長鎖非コードRNA(long non-coding RNA:lncRNA)と称されるタンパク質をコードしない転写産物が新たに同定された。これらのRNAは、ほ乳類ゲノムの多くの領域から転写されることが知られている。lncRNAは、転写調節、スプライシングおよびエピジェネティクスなどの様々な生命現象に関与することが示唆されている他、感染性因子への応答、ストレス状況への細胞応答において重要な役割を果たすと考えられている。そのため、lncRNAは、種々の疾患に対する新規の治療ターゲットとして注目されている。
【0003】
急性網膜壊死(acute retinal necrosis:ARN)は、ヘルペスウイルス1型(HSV-1)を含むヘルペスウイルス科に属するウイルスによって引き起こされるウイルス感染網膜炎の類型である(非特許文献1)。ステロイド剤、抗ウイルス剤、抗血栓剤がARNの治療に使用されるが(非特許文献2)、視力予後は非常に悪く、それは主としてウイルス感染によって引き起こされる視細胞死によると考えられる(非特許文献3)。3つのクラスの抗ウイルス剤(非環式グアノシンアナログ、非環式ヌクレオチドアナログおよびピロリン酸アナログ)がARN治療に対して承認されており、これら全ての剤はウイルスDNAポリメラーゼが標的である(非特許文献4)。しかしながら、これらの抗ウイルス剤による長期治療は、薬剤耐性を誘導するため、新たなARNに対する抗ウイルス薬が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Waltersら, Curr. Opin. Ophthalmol. 12, 191-195 (2001).
【非特許文献2】Schoenbergerら, Ophthalmology 124, 382-392 (2017).
【非特許文献3】Cochraneら, Eye (Lond). 26, 370-377 (2012).
【非特許文献4】Jiangら, Int. J. Oral Sci. 8, 1-6 (2016).
【非特許文献5】Sabikunnaharら, J Immunol. 202, 187.26 (2019).
【非特許文献6】Chenら, Int. J. Obes. 41, 299-308 (2017).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記事情に鑑み、本発明は、細胞内での単純ヘルペスウイルスの増殖を阻害する物質の提供、および当該物質を含む急性網膜壊死の治療のための医薬または医薬組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、マウス網膜視細胞(661W細胞)に対する単純ヘルペスウイルス1型(herpes simplex virus:HSV-1)の感染下において制御されるlncRNAを探索するためにRNAシーケンシング解析を行った。その結果、lncRNA U90926が、HSV-1の感染によって顕著に上方制御されることが分かった。発明者らは、HSV-1の増殖に対するlncRNA U90926の影響を検討するため、lncRNA U90926をノックダウンしたところ、HSV-1の増殖が顕著に抑制され、宿主視細胞の生存率が増大することが明らかになった。
【0007】
lncRNA U90926に関する報告は非常に少ない。例えば、マウスマクロファージにおいて、Toll-like receptorの刺激によってU90926の発現が上方制御され、インターロイキン-10の産生を正に制御し、CD80およびCD86の発現を負に制御すること(非特許文献5)、U90926の発現が脂肪前駆細胞分化においてダウンレギュレートされること(非特許文献6)が報告されているに過ぎない。
さらに、本発明者らは、U90926のヒトホモログを同定し、HSV-1が感染したヒト臍帯血静脈内皮細胞において、U90926のヒトホモログRNAの発現が有意に上昇していることを確認した。
以上の知見、すなわち、細胞内でのHSV-1の増殖にU90926の発現が影響を与え得るとの知見は、本発明者らによって初めて明らかにされたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(8)である。
(1)細胞内における単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV)の増殖阻害剤であって、U90926の発現阻害物質を含有する前記阻害剤。
(2)前記HSVがHSV-1であることを特徴とする上記(1)に記載の阻害剤。
(3)前記細胞がヒト視細胞であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の阻害剤。
(4)前記阻害物質がアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAであることを特徴とする上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の阻害剤。
(5)上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の阻害剤を有効成分として含有する医薬または医薬組成物。
(6)急性網膜壊死を治療対象とする上記(5)に記載の医薬または医薬組成物。
(7)HSV感染細胞内におけるU90926の発現量を指標として、当該細胞内におけるHSV増殖を阻害する候補物質をスクリーニングする方法。
(8)被験者由来のサンプル中のヒトU90926の発現量を測定することを含む、HSV感染症の診断方法またはHSV感染症の診断補助方法。
なお、本明細書において「~」の符号は、その左右の値を含む数値範囲を示す。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、単純ヘルペスウイルス、特に、HSV-1の細胞(特に、視細胞)内での増殖の抑制または阻害が可能となる。従って、本発明により難治性疾患であるARNの治療方法および治療剤の開発が可能となる。
【0010】
本発明の医薬は、薬剤耐性を惹起する可能性が低く、ARNの長期治療を可能とする効果を発揮し得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】非感染661W細胞(上図)およびHSV-1感染661W細胞(下図)におけるU90926およびβ-アクチンのRNAシーケンスデータを示す。Integrative Genomics Viewer(登録商標)を用いて視覚化した。
【
図2】HSV-1感染後のU90926の発現レベルの経時変化を示す。値は、平均値±標準偏差で示す。
【
図3】HSV-1感染から8時間後の661W細胞内において、細胞全体、核および細胞質でのU90926、Neat1v2および β-アクチンRNAの相対的発現レベルを測定した結果を示す。Neat1v2 RNAおよびβ-アクチンRNAは、各々、核および細胞質でのRNA発現のポジティブコントロールとして使用した。値は、平均値±標準偏差で示す。
【
図4】コントロール細胞、U90926ノックダウン細胞における相対的U90926 RNA発現レベル、相対的ICP-27(HSV-1遺伝子) DNAレベルおよびHSV-1力価の測定結果を示す。HSV-1の感染から3、6、9または12時間後にsiU90926(1)またはsiU90926(2)をトランスフェクションした細胞およびコントロール細胞における相対的U90926 RNA発現量(A)、相対的ICP-27 DNA量(B)およびHSV-1力価(C)を測定した(n=4)。siCTRL、siU90926(1)およびsiU90926(2)は、各々、si control、si U90926(1)およびsi U90926(2)をトランスフェクションした細胞である。値は、平均値±標準偏差で示す。*p < 0.05、**p < 0.01、***p < 0.001および****p < 0.0001はコントロール細胞に対するスチューデントのt検定による。
【
図5】コントロール細胞、U90926過剰発現細胞におけるU90926 RNA発現レベル(A)、ICP-27(HSV-1遺伝子) DNAレベル(B)の測定結果を示す。HSV-1の感染から3、6、9、12時間後にU90926過剰発現ベクターをトランスフェクションした細胞およびコントロール細胞における相対的U90926 RNA発現量、および相対的ICP-27 DNA量を測定した(n=3)。空ベクター、U90926過剰発現ベクターは、各々、空ベクター、U90926過剰発現ベクターをトランスフェクションした細胞である。値は、平均値±標準偏差で示す。*p < 0.05、**p < 0.01、***p < 0.001および****p < 0.0001はコントロール細胞に対するスチューデントのt検定による。
【
図6】コントロール細胞、U90926ノックダウン細胞のHSV-1感染後の細胞生存率を測定した結果を示す。HSV-1感染から3、6、9、12または24時間後にsiU90926(1)またはsiU90926(2)をトランスフェクションした細胞、コントロール細胞の細胞生存率を算出した(n=4)。値は、平均値±標準偏差で示す。*p < 0.05、***p < 0.001および****p < 0.0001はコントロール細胞に対するスチューデントのt検定による。
【
図7】コントロール細胞、U90926ノックダウン細胞における相対的ICP-0(HSV-1遺伝子)RNA発現量、相対的ICP-4(HSV-1遺伝子)RNA発現量の測定結果を示す。HSV-1の感染から3、6、9または12時間後にsiU90926(1)またはsiU90926(2)をトランスフェクションした細胞およびコントロール細胞における相対的ICP-0 RNA量(A)および相対的ICP-4 RNA量(B)を測定した(n=3)。値は、平均値±標準偏差で示す。*p < 0.05、**p < 0.01、***p < 0.001および****p < 0.0001はコントロール細胞に対するスチューデントのt検定による。
【
図8】コントロール細胞、U90926ノックダウン細胞におけるICP-0(HSV-1遺伝子)タンパク質、ICP-4(HSV-1遺伝子)タンパク質の検出結果を示す。HSV-1の感染から3、6、9または12時間後にsiU90926をトランスフェクションした細胞およびコントロール細胞におけるICP-0タンパク質およびICP-4タンパク質を、ウエスタンブロッティング法を用いて検出した(n=1)。
【
図9】HSV-1感染または非感染ヒト臍帯静脈内皮細胞におけるヒトU90926遺伝子の相対的RNA発現量の測定結果を示す。AはヒトU90926遺伝子long form RNAの相対的発現量、BはヒトU90926遺伝子short form RNAの相対的発現量を示す。****p < 0.001は非感染細胞に対するスチューデントのt検定による。
【発明を実施するための形態】
【0012】
第1の実施形態は、細胞内における単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus:HSV)の増殖阻害剤であって、U90926の発現阻害物質を含有する前記阻害剤(以下「本発明の阻害剤」とも記載する)である。
眼内炎症性疾患であるぶどう膜炎のうち感染性ぶどう膜炎は、HSVの他、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)や水痘帯状疱疹ウイルス(varicella zoster virus:VZV)を含めたヘルペスウイルス科に属するウイルスが原因となって発症することが多い疾患である。特に、HSVやVZVが網膜に感染すると急性網膜壊死と称される重篤なぶどう膜炎が生じる。急性網膜壊死が発症すると高い確率で失明に至るが、失明を確実に防ぐための治療法は未だ確立されていない。
本発明の阻害剤のターゲットはU90926(特に付言しない限り、U90926遺伝子のことを指す)である。U90926は、マウスで同定された遺伝子で、National Centre for Biotechnology Information Reference Sequence database (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/RefSeq/)においてアノテーションが付されており、その転写物であるlncRNA(NR_033483.1)は522 bp長である(
図1)。発明者らは、U90926のヒトホモログ(以下「ヒトU90926」とも記載する)として、ヒトゲノムのシンテニー領域にアクセッション番号AC110615.1-201 (long form)(遺伝子位置:chr4: 75,822,966-75,838,389)、AC110615.1-202 (short form)(遺伝子位置:chr4: 75,830,751-75,832,705)で表示される遺伝子を同定しており、マウスU90926と同様に、HSV-1が感染した細胞においてAC110615.1-201、AC110615.1-202の転写物の発現が上昇することを確認している。さらに、発明者らはAC110615.1-201 (long form)の2つの transcript variantの塩基配列(配列番号18および配列番号19)、AC110615.1-202 (short form)の3つのtranscript variantの塩基配列(配列番号20、配列番号21および配列番号22)を明らかにした。
なお、本明細書における「U90926」には、マウスU90926のみならず、他の動物種(例えば、ヒト)のホモログも含まれるものとする。
【0013】
本発明の全実施形態におけるHSVには、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)および単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)が含まれる。また、本実施形態で用いられるHSV-1およびHSV-2は、これらに分類されるあらゆる株(例えば、HSV-1に分類されるKOS株、F株、17株、VR3株、HF株、HF10株およびSC16 株など、ならびに、HSV-2に分類される186株、G株および333株など)およびこれらの亜株に由来するものの全てが含まれるが、特に好ましいHSVはHSV-1である。
また、本発明の全実施形態における「細胞」は、HSVが感染する細胞であれば特に限定されず、敢えて例を挙げるとすれば、血管内皮細胞、口腔粘膜上皮細胞、角膜上皮細胞、視細胞および神経細胞などを挙げることができる。
【0014】
本発明の阻害剤は、HSVの細胞内における増殖を阻害(または抑制)する作用を有し、本阻害剤非存在下におけるHSVの増殖を、50%以上、好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上阻害することができる。
また、本発明の阻害剤に含まれるU90926の発現阻害物質としては、lncRNAであるU90926の発現を阻害または抑制する物質であれば、特に限定はされず、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNAなどを挙げることができる。
ここで、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNAなどは、核酸のみならず、核酸アナログ、例えば、LNA(locked nucleic acid)、ホスホロチオエート(phosphorothioate:PS)、モルフォリノオリゴ、ボラノホスフェート、2’-O-メチル化RNA(2’-OMe)、2’-O-メトキシエチル化RNA(2’-MOE)などからなるものであってもよい。
【0015】
第2の実施形態は、U90926の発現阻害物質(すなわち、本発明の阻害剤)を有効成分として含む、医薬または医薬組成物(以下「本発明の医薬等」とも記載する。)である。
本発明の医薬等は、HSV(特にHSV-1)が感染することで惹起される疾患、すなわち、HSV感染症の治療薬としての薬効を有する。本発明の医薬等が治療効果を有するHSV感染症の病態は、特に限定されるものではないが、敢えて例示すれば、口内炎、口唇炎、角膜炎、虹彩炎、急性網膜壊死、脳炎および髄膜炎などを挙げることができる。
【0016】
本発明の医薬は、有効成分であるU90926の発現阻害物質自体を投与するための形態でもよいが、一般的には、これらの有効成分の他、1または2以上の製剤用添加物を含む医薬組成物(以下「本発明の医薬組成物」とも記載する)の形態で投与することが望ましい。また、本発明の実施形態にかかる医薬組成物中には、公知の他の薬剤を併せて配合してもよい。
【0017】
本発明の医薬または医薬組成物の剤形は、特に限定されず、例えば、液体製剤などを挙げることができ、用時、水または他の適当な溶媒に溶解または懸濁するものであってもよい。注射剤の場合には、本発明の抗体またはその機能的断片を水に溶解させて調製されるが、必要に応じて生理食塩水あるいはブドウ糖溶液に溶解させてもよく、また、緩衝剤や保存剤を添加してもよい。
本発明の医薬等の製造に用いられる製剤用添加物の種類、有効成分に対する製剤用添加物の割合、あるいは、医薬または医薬組成物の製造方法は、その形態に応じて当業者が適宜選択することが可能である。製剤用添加物としては無機または有機物質、あるいは、固体または液体の物質を用いることができ、一般的には、有効成分重量に対して、例えば、0.1重量%~99.9重量%、1重量%~95.0重量%、または1重量%~90.0重量%の間で配合することができる。具体的には、製剤用添加物の例として乳糖、ブドウ糖、マンニット、デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、蔗糖、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルデンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、イオン交換樹脂、メチルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、タルク、トラガント、ベントナイト、ビーガム、酸化チタン、ソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセリン、脂肪酸グリセリンエステル、精製ラノリン、グリセロゼラチン、ポリソルベート、マクロゴール、植物油、ロウ、流動パラフィン、白色ワセリン、フルオロカーボン、非イオン性界面活性剤、プロピレングルコールまたは水等が挙げられる。
【0018】
注射剤を製造するには、有効成分を必要に応じて、塩酸、水酸化ナトリウム、乳糖、乳酸、ナトリウム、リン酸一水素ナトリウムまたはリン酸二水素ナトリウムなどのpH調整剤、塩化ナトリウムまたはブドウ糖などの等張化剤と共に注射用蒸留水に溶解し、無菌濾過してアンプルに充填するか、さらに、マンニトール、デキストリン、シクロデキストリンまたはゼラチンなどを加えて真空凍結乾燥し、用事溶解型の注射剤としてもよい。また、有効成分にレチシン、ポリソルベート80またはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などを加えて水中で乳化させ、注射剤用乳剤とすることもできる。
【0019】
本発明の医薬等の投与量および投与回数は特に限定されず、治療対象疾患の治療の目的、疾患の種類、患者の体重や年齢などの条件に応じて、医師または薬剤師の判断により適宜選択することが可能である。
一般的には、注射剤として用いる場合には、成人に対して1日量0.001~100mg(有効成分重量)を連続投与または間欠投与することが望ましい。
【0020】
本発明の医薬等は、投与方法等の説明書と共にキットの形態で提供してもよい。キット中に含まれる医薬等は、有効成分の活性を長期間有効に持続し、剤等が容器内側に吸着することなく、また、構成成分を変質させることのない材質で製造された容器により供給される。例えば、封着されたガラスアンプルは、窒素ガスのような中性で不反応性を示すガスの存在下で封入されたバッファーなどを含んでもよい。
また、本キットの使用説明は、紙などに印刷されたものであっても、CD-ROMまたはDVD-ROMなどの電磁的に読み取り可能な媒体に保存され、供給されてもよい。
【0021】
本発明の第3の実施形態は、本発明の医薬等を患者に投与することを含む、疾患、とく特に、HSV感染症の治療方法である。
ここで「治療」とは、すでに疾患を発症した患者において、その病態の進行および悪化を阻止または緩和することを意味し、これによって当該疾患の進行および悪化を阻止または緩和することを目的とする処置のことである。
第3の実施形態の治療方法において、HSV感染症の病態が急性網膜壊死である場合、本発明の医薬等の投与経路は、特に限定はしないが、例えば、硝子体内投与が好ましい。
【0022】
第4の実施形態は、被験者由来のサンプル中のヒトU90926の発現量を測定することを含む、HSV感染症の診断方法またはHSV感染症の補助的診断方法(以下「本発明の診断方法および診断補助方法」とも記載する)である。本実施形態における診断対象疾患は、HSV感染症であり、その病態として、例えば、上述の口内炎、口唇炎、角膜炎、虹彩炎、急性網膜壊死、脳炎および髄膜炎などを挙げることができる。また、被験者由来のサンプルは、HSV感染症の病態によって異なるが、例えば、口腔内粘膜組織、角膜上皮、前房水、硝子体液、髄液などを挙げることができる。
本発明の診断方法および診断補助方法は、被験者由来のサンプルと対照サンプル(例えば、健常者(診断対象疾患に罹患していないことが確認されている者)由来のサンプル)中に存在するヒトU90926 RNAの量を比較し、被験者由来のサンプル中のヒトU90926 RNAの量の方が有意に多ければ、当該被験者はHSVに感染症に罹患している、または罹患している可能性があると判断するものである。
【0023】
本発明の第5の実施形態は、HSV感染細胞内におけるU90926の発現量を指標として、当該細胞内におけるHSV増殖を阻害する候補物質をスクリーニングする方法である。
本発明者らは、視細胞にHSV-1が感染するとU90926の発現が上昇すること、U90926の発現を阻害(または抑制)するとHSV-1の増殖が阻害(または抑制)されることを見出した。この知見に基づくと、HSV感染細胞、特に、HSV-1感染視細胞内におけるU90926の発現を阻害(または抑制)する物質は、感染細胞内におけるHSVの増殖を阻害(または抑制)する候補物質として、その後の解析に使用することができる。ここで「候補物質」とは、少なくともin vitroにおいて、細胞内でのHSVの増殖を阻害(または抑制)する機能を有する物質のことで、in vivoにおけるさらなる解析に使用することができる。また、「候補物質」は、特に限定されるものではなく、アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびsiRNAなどを含む核酸およびそのアナログ、あるいはタンパク質などであってもよい。
【0024】
より具体的には、HSV感染細胞に対し、被験物質を当該細胞内に導入した後、当該細胞におけるU90926の発現量を常法(例えば、RT-qPCR法など)で測定する。被験物質を導入していない細胞と比較し、被験物質導入細胞内でのU90926の発現量が低下した場合、当該被験物質は、HSV増殖を阻害する候補物質として同定することができる。
【0025】
本明細書が英語に翻訳されて、単数形の「a」、「an」、および「the」の単語が含まれる場合、文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り、単数のみならず複数のものも含むものとする。
以下に実施例を示してさらに本発明の説明を行うが、本実施例は、あくまでも本発明の実施形態の例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例0026】
1.実験方法
1-1.細胞培養
マウス視細胞株661WおよびVero細胞は大阪バイオサイエンス研究所から入手した。661W細胞およびVero細胞は、L-グルタミン、フェノールレッド、HEPESおよびピルビン酸ナトリウムを含む、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s modified Eagle’s medium:DMEM)/Ham’s F12(661W)または高グルコースDMEM(Vero)(以上、富士フイルム和光純薬)に10% の熱不活性化ウシ胎児血清(GIBCO)を添加した培地中にて、5% CO2の加湿インキュベーターで培養した。
ヒト臍帯静脈内皮細胞は、ATCCから入手した。ヒト臍帯静脈内皮細胞はEGM-2 Bullet Kit(Lonza)に10% の熱不活性化ウシ胎児血清(GIBCO)を添加した培地中にて、5% CO2の加湿インキュベーターで培養した。
【0027】
1-2.HSV-1の感染
HSV-1(KOS株)は単層のVero細胞中で増殖させた。
661W細胞への感染ついては、感染の1日前に培養プレートに播種し、その後、multiplicity of infection (MOI)5でHSV-1を感染させた。
また、ヒト臍帯静脈内皮細胞への感染についても、感染の1日前に培養プレートに播種し、その後、MOI 5でHSV-1を感染させた。
【0028】
1-3.RNAシーケンス解析
RNA配列ライブラリは、TruSeq Stranded mRNA Sample Prep Kit(Illumina)を用いて、添付の使用説明書に従って構築した。標準的なプロトコールに基づき、50-ベースペアsingle-endリードRNAサンプルをIllumina Hiseq2500 sequencerで調製した。RNAの発現はRNA配列データに基づいて定量化した。配列データは、Centre for Computational Biology at Johns Hopkins University(ftp://ftp.ccb.jhu.edu/pub/infphilo/hisat2/data/)から取得したマウスゲノム配列およびアノテーションデータ(mm10)に対し、HISAT2 v2.1.0(Kimら, Nat. Methods 12, 357-360 (2015).)を用い、デフォルトパラメーターでアライメントを行った。アライメントデータは、デフォルトパラメーターでStringTie v1.3.4d (Perteaら, Nat. Biotechnol. 33, 290-295 (2015):Perteaら, Nat. Protoc. 11, 1650-1667 (2016).)にインプットし、個々の転写物の発現をFPKM(fragments per kilobase of transcript per million mapped reads)として評価した。
【0029】
1-4.RT-qPCR(Reverse transcription-quantitative real-time polymerase chain reaction)
1-4-1.661W細胞
HSV-1感染661W細胞の総RNAは、NucleoSpin RNA kit(Macherey-Nagel)を使用して調製し、Prime Script RT master Mix(Takara)を用いてcDNAに逆転写した。cDNAは、SYBR Premix Ex Taq II(Takara)を用いて、以下に示すプライマーセットで増幅した。qPCRは、Thermal Cycler Dice Real Time System(Takara)を用いて行った。Gapdh mRNAは転写物の標準化のために使用した。
U90926遺伝子
フォワードプライマー:5’- GTGATTCTGATGGCCCTTCT -3’(配列番号1)
リバースプライマー:5’- ATCTTGCCAGGGAATCTTGA -3’(配列番号2)
β-アクチン遺伝子
フォワードプライマー:5’- GTACCCAGGCATTGCTGACA -3’(配列番号3)
リバースプライマー:5’- CGCAGCTCAGTAACAGTCCG -3’(配列番号4)
Neat1v2遺伝子
フォワードプライマー:5’- CTTGCCACACCTTGTCTTGC -3’(配列番号5)
リバースプライマー:5’- TAGCTGGTGCATCCTGTGTG -3’(配列番号6)
ICP-27遺伝子
フォワードプライマー:5’- TCCGACAGCGATCTGGAC -3’(配列番号7)
リバースプライマー:5’- TCCGACGAGGAACACTCC -3’(配列番号8)
GAPDH遺伝子
フォワードプライマー:5’- GGTCCCAGCTTAGGTTCATCA -3’(配列番号9)
リバースプライマー:5’- CCAATACGGCCAAATCCGTT -3’(配列番号10)
【0030】
1-4-2.ヒト臍帯静脈内皮細胞
HSV-1感染ヒト臍帯静脈内皮細胞の総RNAは、NucleoSpin RNA kit(Macherey-Nagel)を使用して調製し、Prime Script RT master Mix(Takara)を用いてcDNAに逆転写した。cDNAは、SYBR Premix Ex Taq II(Takara)を用いて、以下に示すプライマーセットで増幅した。qPCRは、Thermal Cycler Dice Real Time System(Takara)を用いて行った。Gapdh mRNAは転写物の標準化のために使用した。
ヒトU90926ホモログ遺伝子 long form
フォワードプライマー:5’- CCCCACTCCTTTTTCTGTGA -3’(配列番号23)
リバースプライマー:5’- AGGGGGTGGCCTATGATACT -3’(配列番号24)
ヒトU90926ホモログ遺伝子 short form
フォワードプライマー:5’- TTGTTCCTGAAGCCGTATCA -3’(配列番号25)
リバースプライマー:5’- TGATCATATAGCTTGGGCTCCT -3’(配列番号26)
【0031】
1-5.Rapid Amplification of cDNA End(RACE)法を用いたヒトU90926遺伝子の全塩基配列の決定
ヒトU90926ホモログ遺伝子(long formおよびshort form)の5’末端の塩基配列は、5’- Full RACE Core Set(Takara)と以下に示すプライマーセットを用いて、5’末端の未知領域を含むcDNAをPCR法により増幅した。
ヒトU90926ホモログ遺伝子 long form
RTプライマー:5’- AGTGCAGTGGCAGAA -3’(配列番号27)
S1プライマー:5’- CCATGAGTTGAAGTGGTGTG -3’(配列番号28)
A1プライマー:5’-TAGTGGGGACAAACCACATC -3’(配列番号29)
S2プライマー:5’- TGCCTGTAATCCCAGCACTT -3’(配列番号30)
A2プライマー:5’- CAAACTCCTGACCTCCAGTGAT -3’(配列番号31)
ヒトU90926ホモログ遺伝子 short form
RTプライマー:5’- GATGAAGACTGCTC -3’(配列番号32)
S1プライマー:5’- CTCAATGCAGGACAAAGGACA -3’(配列番号33)
A1プライマー:5’- AGACAGCTGTGCTTCCTGAA -3’(配列番号34)
S2プライマー:5’- GCATGTCTGATTGCTTCCACT -3’(配列番号35)
A2プライマー:5’- GTCTCTGCTTCATCCTACTCTGC -3’(配列番号36)
【0032】
増幅したcDNAはpGEM-T-vector(Promega)にクローニングし、T7プロモータープライマーならびにSP6プロモータープライマーを使用して、5’末端の未知領域の塩基配列をサンガー法により決定した。一方で、ヒトU90926ホモログ遺伝子の3’末端の塩基配列は、3’- Full RACE Core Set(Takara)と以下に示すプライマーセットを用いて、3’末端の未知領域を含むcDNAをPCR法により増幅した。
ヒトU90926ホモログ遺伝子 long form
フォワードプライマー:5’- GGTGGCTCATGCCTGTAAT -3’(配列番号37)
ヒトU90926ホモログ遺伝子 short form
フォワードプライマー:5’- CTCAATGCAGGACAAAGGACA -3’(配列番号38)
増幅したcDNAはpGEM-T-vector(Promega)にクローニングし、T7プロモータープライマーならびにSP6プロモータープライマーを使用して、5’末端の未知領域の塩基配列をサンガー法により決定した。
【0033】
1-6.細胞分画
核画分および細胞質画分は、PARIS kit(Invitrogen)を用い、使用説明書に従って分離した。661W細胞の核および細胞質のRNAを抽出し、核および細胞質におけるU90926の発現レベルを、RT-qPCR法で調べた。Neat1(v2)およびβ-アクチンは分画の指標として検出した。
【0034】
1-7.トランスフェクション
1-7-1.siRNA
全てのsiRNAはAmbio(登録商標)(Thermo Fisher Scientific Inc)から購入した。siRNA配列を以下に示す。siRNAを、4D-Nucleofector X Unit(Lonza)を用い使用説明書に従い、エレクトロポレーション法で661W細胞にトランスフェクションした。簡単に説明すると、SF solution(Lonza)と混合したsiRNA二重鎖(最終濃度10 nM)を、プログラムEN-138を使用してトランスフェクションした。
silencer select-si control
センス配列:5’- GUACCUGACUAGUCGCAGA -3’(配列番号11)
アンチセンス配列:5’- UCUGCGACUAGUCAGGUAC -3’(配列番号12)
silencer select-si U90926 (1)
センス配列:5’- CCACUGAGCAGAAGAACUA -3’(配列番号13)
アンチセンス配列:5’- UAGUUCUUCUGCUCAGUGG -3’(配列番号14)
silencer select-si U90926 (2)
センス配列:5’- UGCUCAUACUGAUAAAGAA -3’(配列番号15)
アンチセンス配列:5’- UUCUUUAUCAGUAUGACCA -3’(配列番号16)
【0035】
1-7-2.U90926過剰発現ベクター
U90926過剰発現ベクターはU90926のcDNAをpEGFP-C1ベクターのCMVプロモーター直下にIn-Fusion HD Cloning Kit (Takara) を用いてクローニングすることで作成した。U90926過剰発現ベクターは4D-Nucleofector X Unit(Lonza)を用い使用説明書に従い、エレクトロポレーション法で661W細胞にトランスフェクションした。簡単に説明すると、SF solution(Lonza)と混合したU90926過剰発現ベクター(最終濃度10 ng/μL)を、プログラムEN-138を使用してトランスフェクションした。
【0036】
1-8.HSV-1 DNAのqPCR解析
NucleoSpin RNA kitおよびNucleoSpin RNA/DNA buffer set(Macherey-Nagel)を用いて、HSV-1感染661W細胞から総DNAを抽出した。HSV-1 DNAは、HSV-1のICP-27遺伝子に特異的なプライマーを用いてqPCRを行い定量化した。結果は、Gapdhに対して標準化した。
【0037】
1-9.HSV-1プラークアッセイ
段階希釈したHSV-1サンプルを単層のVero細胞(12ウェルプレート)に添加し、37℃、1時間インキュベートして、ウイルスを細胞に接着させ、内部に侵入させた。上清を除去し、細胞をPBS(-)で2回洗浄した。プラークを形成させるために、細胞をL-グルタミン、フェノールレッドおよびピルビン酸ナトリウムを含む1% FBS-DMEM(高グルコース)に0.2% γ-グロブリン(Sigma-Aldrich)を添加した培地中にて、5%CO2の条件で、37℃、3日間インキュベートした。HSV-1力価はプラーク数をカウントすることにより算出し、プラーク形成ユニット(plaque forming units:PFU)/mlとして示した。
【0038】
1-10.HSV-1が感染した661W細胞の生存率の測定
96ウェルプレートに播種した661W細胞の生存率は、HSV-1の感染後3、6、9、12および24時間後の時点で、Cell Counting Kit-8(Dojindo)を使用して評価した。生存率の評価は以下の計算式により算出した:
[(HSV-1感染後3、6、9、12および24時間後にsiRNAをトランスフェクトした661W細胞の450 nmの吸光度)-(培地のみの450 nmの吸光度)]/[(各時点における非感染感661W細胞の450 nmの吸光度)-(培地のみの450 nmの吸光度)]
吸光度は、Tecan Infinite F200 Microplate Reader(Tecan)で測定した。
【0039】
1-11.ウエスタンブロッティング法によるウイルスタンパク質の検出
HSV-1感染させたコントロ-ル細胞、U90926ノックダウン細胞から細胞溶解液(50 mmol/L Tris-HCl [pH 7.4]、1 mmol/L EDTA、1% Triton X-100、1% SDS、5% Glycerol)を用いて総タンパク質を抽出した。タンパク質抽出液は4-15% Mini-PROTECAN TGX Precast Gels(Bio-Rad)を用いて、電気泳動を行った後に、ポリフッ化ビニリデン膜(Millipore)に転写した。ポリフッ化ビニリデン膜は0.1% Triton X-100を含有する3% BSA/Tris緩衝生理食塩水を用いて、室温で30分間ブロッキングを行った。次に、ポリフッ化ビニリデン膜は300倍希釈抗マウスICP-0抗体(Abcam、ab6513)、5000倍希釈抗マウスICP-4抗体(ATCC、hb-8183)、5000倍希釈抗マウスGAPDH抗体の各1次抗体溶液の中で、室温で1時間振盪した。全ての1次抗体はIMMUNO SHOT reagent1(Cosmobio)を用いて希釈した。その後、ポリフッ化ビニリデン膜は5000倍希釈ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウス免疫グロブリン抗体(Dako、P0447)溶液の中で、室温で1時間振盪した。2次抗体はIMMUNO SHOT reagent2(Cosmobio)を用いて希釈した。最後に各タンパク質はホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ基質を用いて視覚化し、化学発光シグナルはLuminescent Image Analyzer LAS-4000 mini(Fujifilm)を用いて検出した。
【0040】
1-12.統計学的解析
データ値は、平均値±標準偏差で示した。2グループ間の連続変数の比較は、スチューデントのt検定で行った。0.05未満のp値を有意差有りとした。スチューデントのt検定はGraphPad Prism software version 7(GraphPad Software、San Diego、CA、USA)を用いて行った。
【0041】
2.結果
2-1.HSV-1感染661W細胞において最も発現が上昇したlncRNAの同定
HSV-1感染661W細胞内で発現誘導されたlncRNAを同定するために、HSV-1感染661W細胞(2時間感染させた細胞)または非感染細胞からポリAで選択したRNAを大規模シークエンス法で解析した。U90926は、感染細胞において、2番目に発現が上昇したlncRNAとして同定した(表1)。U90926(NR_033483.1:配列番号17)は、National Centre for Biotechnology Information Reference Sequence database (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/RefSeq/)においてアノテーションが付されており、522 bp長で5つのエクソンからなる(
図1)。HSV-1感染後の661W細胞におけるU90926の誘導現象を解析したところ、U90926 RNAの発現レベルは、HSV-1感染10時間後まで徐々に増大し、その後、HSV-1感染後24時間ではおよそ100倍にまで劇的に増大した(
図2)。しかし、非感染細胞では、U90926遺伝子の転写はほとんど認められなかった(
図1)。細胞分画による解析により、HSV-1感染661W細胞において、U90926 RNAは核に局在することが明らかとなった(
図3)。
【表1】
【0042】
2.HSV-1の複製、増殖に対するU90926の影響
2種類の異なる低分子干渉RNA(small interfering RNA:siRNA)を導入してU90926のノックダウン細胞(661W細胞)における、U90926 RNAの発現レベルは、HSV-1感染後に測定した全ての時点において、コントロール細胞の発現レベルの20%未満であった(
図4A)。
U90926ノックダウン細胞におけるHSV-1のDNA複製とHSV-1の増殖の程度を調べるために、HSV-1ゲノムDNA量およびHSV-1力価を測定した。その結果、U90926ノックダウン細胞におけるHSV-1 ゲノムDNA量は、コントロール細胞に比べて、HSV-1感染後、有意に低下していた(感染後3時間(p<0.05)、感染後6時間および9時間(p<0.01)および感染後12時間(p<0.001))。特に、HSV-1感染から12時間後では、U90926ノックダウン細胞におけるHSV-1 ゲノムDNA量はコントロール細胞のDNA量より、約80%低下していた(
図4B)。さらに、U90926ノックダウン細胞のHSV-1力価は、感染後3時間、6時間、9時間および12時間の時点で有意(p<0.0001)に減少していた(
図4C)。
【0043】
次に、U90926過剰発現細胞におけるHSV-1ゲノムDNA量を測定した。その結果、U90926過剰発現細胞(
図5A)におけるHSV-1 ゲノムDNA量は、コントロール細胞に比べて、HSV-1感染後、有意に上昇していた(
図5B、感染後3時間および6時間(p<0.01)、感染後9時間および12時間(p<0.05))。特に、感染後9時間では、U90926過剰発現細胞におけるHSV-1 DNA量はコントロール細胞のDNA量と比較して、約30倍上昇していた(
図5)。
最後に、HSV-1感染細胞の生存率を調べたところ、HSV-1感染後24時間において、U90926ノックダウン細胞の生存率は、80.2%(siU90926(1))および82.6%(siU90926(2))であったのに対し、コントロール細胞の生存率は21.3%であった(
図6)。
【0044】
3.HSV-1遺伝子発現に対するU90926の影響
U90926ノックダウン細胞(661W細胞)におけるHSV-1遺伝子の発現を調べるために、ICP-0(HSV-1遺伝子)ならびにICP-4(HSV-1遺伝子)のRNA量を測定した。その結果、U90926ノックダウン細胞におけるICP-0 RNA量ならびにICP-4 RNA量は、コントロール細胞に比べて、HSV-1感染後、有意に低下していた(ICP-0 RNA:感染後3時間(p<0.05)、感染後6時間(p<0.001)、感染後9時間および感染後12時間(p<0.05))(ICP-4 RNA: 感染後3時間および感染後6時間(p<0.01)、感染後9時間および感染後12時間(p<0.01))(
図7)。さらにコントロール細胞、U90926ノックダウン細胞におけるICP-0タンパク質、ICP-4タンパク質をウエスタンブロッティング法で検出した。その結果、コントロール細胞では感染後6、9、12時間後でICP-0タンパク質ならびにICP-4タンパク質が検出されたが、U90926ノックダウン細胞ではICP-0タンパク質ならびにICP-4タンパク質はHSV-1感染3、6、9、12時間後のいずれの時点でも検出されなかった(
図8)。
【0045】
4.HSV-1感染ヒト臍帯静脈内皮細胞におけるヒトU90926ホモログ遺伝子(long formおよびshort form)の発現
非感染ヒト臍帯静脈内皮細胞、HSV-1感染8 時間後のヒト臍帯静脈内皮細胞におけるヒトU90926ホモログ遺伝子のRNA量を測定した。その結果、ヒトU90926ホモログ遺伝子(long form)RNAは非感染臍帯静脈内皮細胞では検出できなかったが、HSV-1感染臍帯静脈内皮細胞では有意に発現が上昇していた(p<0.001)(
図9A)。さらに、ヒトU90926ホモログ遺伝子(short form)RNAはHSV-1感染8時間後の臍帯静脈内皮細胞において、非感染臍帯静脈内皮細胞と比較して、約4.5倍に発現が上昇していた(p<0.001)(
図9B)。
本発明にかかる医薬または医薬組成物は薬剤抵抗性を惹起する可能性が低く長期治療に使用することが可能である。従って、本発明は、医療分野における利用が大いに期待される。