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特開2023-15657モデル生成装置、予測装置、モデル生成方法、予測方法、および樹脂組成物製造システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023015657
(43)【公開日】2023-02-01
(54)【発明の名称】モデル生成装置、予測装置、モデル生成方法、予測方法、および樹脂組成物製造システム
(51)【国際特許分類】
   G16C 20/30 20190101AFI20230125BHJP
   G06Q 10/04 20230101ALI20230125BHJP
   G06Q 50/04 20120101ALI20230125BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230125BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230125BHJP
【FI】
G16C20/30
G06Q10/04
G06Q50/04
C08L101/00
C08K3/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021119567
(22)【出願日】2021-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】田井 みなみ
(72)【発明者】
【氏名】今井 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】浜坂 剛
【テーマコード(参考)】
4J002
5L049
【Fターム(参考)】
4J002AA001
4J002CD001
4J002DE146
4J002DF016
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002DK006
4J002FD016
5L049AA04
5L049CC03
5L049DD01
(57)【要約】
【課題】樹脂組成物についての要求特性充足条件を、従来よりも効率的に見出す。
【解決手段】モデル生成装置(100)において、第1機械学習部(21)は、(i)任意の無機充填材特性データ、(ii)任意の樹脂特性データ、(iii)任意の無機充填材配合データ、および、(iv)任意の樹脂配合データ、のうちの1つ以上から、未知の樹脂組成物特性データを予測する第1予測モデル(MODEL1)を、第1入力データ(110)と当該第1入力データ(110)と対になる第2入力データ(120)とに基づき生成する。第2機械学習部(22)は、任意の樹脂組成物特性データを満たす、(i)予測無機充填材特性データ、(ii)予測樹脂特性データ、(iii)予測無機充填材配合データ、および、(iv)予測樹脂配合データ、のうちの1つ以上を予測する第2予測モデル(MODEL2)を、第1予測モデル(MODEL1)に基づき生成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の無機充填材と1つ以上の樹脂とを含む樹脂組成物の要求特性を満たす、(i)前記無機充填材の特性、(ii)前記樹脂の特性、(iii)前記無機充填材の配合割合、および、(iv)前記樹脂の配合割合、のうちの1つ以上を予測するための予測モデルを生成するモデル生成装置であって、
(i)前記無機充填材の前記特性を示す無機充填材特性入力データ、(ii)前記樹脂の前記特性を示す樹脂特性入力データ、(iii)複数種類の前記無機充填材を前記樹脂へと配合した前記樹脂組成物内の前記無機充填材の前記配合割合に関する無機充填材配合入力データ、および、(iv)前記樹脂の前記配合割合に関する樹脂配合入力データ、のうちの少なくとも1つを含む入力データである第1入力データを取得する第1入力データ取得部と、
前記第1入力データと対になる第2入力データとして、前記樹脂組成物の特性を示す樹脂組成物特性入力データを取得する第2入力データ取得部と、
(i)任意の無機充填材特性データ、(ii)任意の樹脂特性データ、(iii)任意の無機充填材配合データ、および、(iv)任意の樹脂配合データ、のうちの1つ以上から、未知の樹脂組成物特性データを予測する第1予測モデルを、前記第1入力データおよび前記第2入力データに基づいて生成する第1機械学習部と、
任意の樹脂組成物特性データを満たす、(i)予測無機充填材特性データ、(ii)予測樹脂特性データ、(iii)予測無機充填材配合データ、および、(iv)予測樹脂配合データ、のうちの1つ以上を予測する第2予測モデルを、前記第1予測モデルに基づいて生成する第2機械学習部と、を備えている、モデル生成装置。
【請求項2】
前記第1機械学習部は、
前記第2入力データから得られる前記樹脂組成物の前記特性を示すデータに対応する説明変数を導出する第1アルゴリズムを実行する第1アルゴリズム実行部と、
前記説明変数および前記第2入力データに基づいて前記第1予測モデルを生成する第2アルゴリズムを実行する第2アルゴリズム実行部と、を有している、請求項1に記載のモデル生成装置。
【請求項3】
前記第2アルゴリズムは、
ガウス過程回帰、サポートベクターマシン、線形回帰、決定木、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク、および、勾配ブースティング木、のうちの少なくとも1つである、請求項2に記載のモデル生成装置。
【請求項4】
前記第2機械学習部は、前記第1予測モデルに基づいて前記第2予測モデルを生成する第3アルゴリズムを実行する第3アルゴリズム実行部を有している、請求項1から3のいずれか1項に記載のモデル生成装置。
【請求項5】
前記第3アルゴリズムは、
遺伝的アルゴリズム、最急降下法、グリッドサーチ、および、ベイズ最適化のうちの少なくとも1つである、請求項4に記載のモデル生成装置。
【請求項6】
前記無機充填材特性入力データは、
前記無機充填材の、
組成式、結晶度、比重、かさ比重、粒度分布、比表面積、細孔容積、ゼータ電位、電気伝導率、誘電率、誘電正接、屈折率、比熱、熱伝導率、線膨張率、圧壊強度、球形度、アスペクト比、水分量、炭素量、窒素量、表面官能基種、表面官能基量、光吸収波長、吸光度、M値、および、溶解度パラメータ、
のうちの少なくとも1つを、前記無機充填材の前記特性として示す、請求項1から5のいずれか1項に記載のモデル生成装置。
【請求項7】
前記樹脂特性入力データは、
前記樹脂の、
組成式、重合度、分子量分布、立体規則性、反応性官能基種、反応性官能基量、粘度、融点、ガラス転移温度、結晶化度、弾性率、降伏応力、引っ張り強さ、破壊靭性、光吸収波長、吸光度、比重、屈折率、電気伝導率、誘電率、誘電正接、比熱、熱伝導率、水分量、および、溶解度パラメータ、
のうちの少なくとも1つを、前記樹脂の前記特性として示す、請求項1から6のいずれか1項に記載のモデル生成装置。
【請求項8】
前記樹脂組成物特性入力データは、
前記樹脂組成物の、
粘度、流動性、成形性、接着性、透明性、色調、強度、吸水率、線膨張係数、弾性率、降伏応力、引っ張り強さ、破壊靭性、電気伝導率、誘電率、誘電正接、熱伝導率、および、安定性、
のうちの少なくとも1つを、前記樹脂組成物の前記特性として示す、請求項1から7のいずれか1項に記載のモデル生成装置。
【請求項9】
1つ以上の無機充填材と1つ以上の樹脂とを含む樹脂組成物の要求特性を満たす、(i)前記無機充填材の特性、(ii)前記樹脂の特性、(iii)前記無機充填材の配合割合、および、(iv)前記樹脂の配合割合、のうちの1つ以上を予測する予測装置であって、
(i)前記無機充填材の前記特性を示す無機充填材特性入力データ、(ii)前記樹脂の前記特性を示す樹脂特性入力データ、(iii)複数種類の前記無機充填材を前記樹脂へと配合した前記樹脂組成物内の前記無機充填材の前記配合割合に関する無機充填材配合入力データ、および、(iv)前記樹脂の前記配合割合に関する樹脂配合入力データ、のうちの少なくとも1つを含む入力データである第1入力データが予め取得されており、
前記第1入力データと対になる第2入力データとして、前記樹脂組成物の特性を示す樹脂組成物特性入力データが予め取得されており、
(i)任意の無機充填材特性データ、(ii)任意の樹脂特性データ、(iii)任意の無機充填材配合データ、および、(iv)任意の樹脂配合データ、のうちの1つ以上から、未知の樹脂組成物特性データを予測する第1予測モデルが、前記第1入力データおよび前記第2入力データに基づいて予め生成されており、
任意の樹脂組成物特性データを満たす、(i)予測無機充填材特性データ、(ii)予測樹脂特性データ、(iii)予測無機充填材配合データ、および、(iv)予測樹脂配合データ、のうちの1つ以上を予測する第2予測モデルが、前記第1予測モデルに基づいて予め生成されており、
前記予測装置は、
前記樹脂組成物の前記要求特性を示す樹脂組成物要求特性データを第3入力データとして取得する第3入力データ取得部と、
前記樹脂組成物要求特性データを前記第2予測モデルに入力することにより、(i)前記樹脂組成物要求特性データを満たす無機充填材の特性を示す推奨無機充填材特性データ、(ii)前記樹脂組成物要求特性データを満たす樹脂の特性を示す推奨樹脂特性データ、(iii)前記樹脂組成物要求特性データを満たす無機充填材の配合を示す推奨無機充填材配合データ、および、(iv)前記樹脂組成物要求特性データを満たす樹脂の配合を示す推奨樹脂配合データ、のうちの少なくとも1つを含む推奨データを導出する推奨データ導出部と、を備えている、予測装置。
【請求項10】
前記樹脂組成物要求特性データは、
前記樹脂組成物の、
粘度、流動性、成形性、接着性、透明性、色調、強度、吸水率、線膨張係数、弾性率、降伏応力、引っ張り強さ、破壊靭性、電気伝導率、誘電率、誘電正接、熱伝導率、および、安定性、
のうちの少なくとも1つを、前記樹脂組成物の前記要求特性として示す、請求項9に記載の予測装置。
【請求項11】
1つ以上の無機充填材と1つ以上の樹脂とを含む樹脂組成物の要求特性を満たす、(i)前記無機充填材の特性、(ii)前記樹脂の特性、(iii)前記無機充填材の配合割合、および、(iv)前記樹脂の配合割合、のうちの1つ以上を予測するための予測モデルを生成するモデル生成方法であって、
(i)前記無機充填材の前記特性を示す無機充填材特性入力データ、(ii)前記樹脂の前記特性を示す樹脂特性入力データ、(iii)複数種類の前記無機充填材を前記樹脂へと配合した前記樹脂組成物内の前記無機充填材の前記配合割合に関する無機充填材配合入力データ、および、(iv)前記樹脂の前記配合割合に関する樹脂配合入力データ、のうちの少なくとも1つを含む入力データである第1入力データを取得する第1入力データ取得工程と、
前記第1入力データと対になる第2入力データとして、前記樹脂組成物の特性を示す樹脂組成物特性入力データを取得する第2入力データ取得工程と、
(i)任意の無機充填材特性データ、(ii)任意の樹脂特性データ、(iii)任意の無機充填材配合データ、および、(iv)任意の樹脂配合データ、のうちの1つ以上から、未知の樹脂組成物特性データを予測する第1予測モデルを、前記第1入力データおよび前記第2入力データに基づいて生成する第1機械学習工程と、
任意の樹脂組成物特性データを満たす、(i)予測無機充填材特性データ、(ii)予測樹脂特性データ、(iii)予測無機充填材配合データ、および、(iv)予測樹脂配合データ、のうちの1つ以上を予測する第2予測モデルを、前記第1予測モデルに基づいて生成する第2機械学習工程と、を含んでいる、モデル生成方法。
【請求項12】
1つ以上の無機充填材と1つ以上の樹脂とを含む樹脂組成物の要求特性を満たす、(i)前記無機充填材の特性、(ii)前記樹脂の特性、(iii)前記無機充填材の配合割合、および、(iv)前記樹脂の配合割合、のうちの1つ以上を予測する予測方法であって、
(i)前記無機充填材の前記特性を示す無機充填材特性入力データ、(ii)前記樹脂の前記特性を示す樹脂特性入力データ、(iii)複数種類の前記無機充填材を前記樹脂へと配合した前記樹脂組成物内の前記無機充填材の前記配合割合に関する無機充填材配合入力データ、および、(iv)前記樹脂の前記配合割合に関する樹脂配合入力データ、のうちの少なくとも1つを含む入力データである第1入力データが予め取得されており、
前記第1入力データと対になる第2入力データとして、前記樹脂組成物の特性を示す樹脂組成物特性入力データが予め取得されており、
(i)任意の無機充填材特性データ、(ii)任意の樹脂特性データ、(iii)任意の無機充填材配合データ、および、(iv)任意の樹脂配合データ、のうちの1つ以上から、未知の樹脂組成物特性データを予測する第1予測モデルが、前記第1入力データおよび前記第2入力データに基づいて予め生成されており、
任意の樹脂組成物特性データを満たす、(i)予測無機充填材特性データ、(ii)予測樹脂特性データ、(iii)予測無機充填材配合データ、および、(iv)予測樹脂配合データ、のうちの1つ以上を予測する第2予測モデルが、前記第1予測モデルに基づいて予め生成されており、
前記予測方法は、
前記樹脂組成物の前記要求特性を示す樹脂組成物要求特性データを第3入力データとして取得する第3入力データ取得工程と、
前記樹脂組成物要求特性データを前記第2予測モデルに入力することにより、(i)前記樹脂組成物要求特性データを満たす無機充填材の特性を示す推奨無機充填材特性データ、(ii)前記樹脂組成物要求特性データを満たす樹脂の特性を示す推奨樹脂特性データ、(iii)前記樹脂組成物要求特性データを満たす無機充填材の配合を示す推奨無機充填材配合データ、および、(iv)前記樹脂組成物要求特性データを満たす樹脂の配合を示す推奨樹脂配合データ、のうちの少なくとも1つを含む推奨データを導出する推奨データ導出工程と、を含んでいる、予測方法。
【請求項13】
1つ以上の無機充填材と1つ以上の樹脂とを含む樹脂組成物の要求特性を満たす、(i)前記無機充填材の特性、(ii)前記樹脂の特性、(iii)前記無機充填材の配合割合、および、(iv)前記樹脂の配合割合、のうちの1つ以上を予測するための予測モデルを生成するモデル生成装置と、
前記モデル生成装置によって生成された前記予測モデルを用いて、前記樹脂組成物の前記要求特性を満たす、(i)前記無機充填材の前記特性、(ii)前記樹脂の前記特性、(iii)前記無機充填材の前記配合割合、および、(iv)前記樹脂の前記配合割合、のうちの1つ以上を予測する予測装置と、を備えた、樹脂組成物製造システムであって、
前記モデル生成装置は、
(i)前記無機充填材の前記特性を示す無機充填材特性入力データ、(ii)前記樹脂の前記特性を示す樹脂特性入力データ、(iii)複数種類の前記無機充填材を前記樹脂へと配合した前記樹脂組成物内の前記無機充填材の前記配合割合に関する無機充填材配合入力データ、および、(iv)前記樹脂の前記配合割合に関する樹脂配合入力データ、のうちの少なくとも1つを含む入力データである第1入力データを取得する第1入力データ取得部と、
前記第1入力データと対になる第2入力データとして、前記樹脂組成物の特性を示す樹脂組成物特性入力データを取得する第2入力データ取得部と、
(i)任意の無機充填材特性データ、(ii)任意の樹脂特性データ、(iii)任意の無機充填材配合データ、および、(iv)任意の樹脂配合データ、のうちの1つ以上から、未知の樹脂組成物特性データを予測する第1予測モデルを、前記第1入力データおよび前記第2入力データに基づいて生成する第1機械学習部と、
任意の樹脂組成物特性データを満たす、(i)予測無機充填材特性データ、(ii)予測樹脂特性データ、(iii)予測無機充填材配合データ、および、(iv)予測樹脂配合データ、のうちの1つ以上を予測する第2予測モデルを、前記第1予測モデルに基づいて生成する第2機械学習部と、を備えており、
前記予測装置は、
前記樹脂組成物の前記要求特性を示す樹脂組成物要求特性データを第3入力データとして取得する第3入力データ取得部と、
前記樹脂組成物要求特性データを前記第2予測モデルに入力することにより、(i)前記樹脂組成物要求特性データを満たす無機充填材の特性を示す推奨無機充填材特性データ、(ii)前記樹脂組成物要求特性データを満たす樹脂の特性を示す推奨樹脂特性データ、(iii)前記樹脂組成物要求特性データを満たす無機充填材の配合を示す推奨無機充填材配合データ、および、(iv)前記樹脂組成物要求特性データを満たす樹脂の配合を示す推奨樹脂配合データ、のうちの少なくとも1つを含む推奨データを導出する推奨データ導出部と、を備えている、樹脂組成物製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、樹脂組成物についての要求特性充足条件(後述)を予測するための予測モデルを生成するモデル生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
所望の要求特性(性能)を有する樹脂組成物を得るためには、当該要求特性を満たす樹脂組成物の条件(例:樹脂組成物の組成)を見出すことが必要である。但し、従来では、当該条件を見出すためには、実験ベースでの多数の試行錯誤による組成検討が必要であった。例えば、特許文献1には、「ブリードを抑制可能である」という要求特性を満たすエポキシ樹脂組成物の好適な組成を見出すために、多数の実験を行う必要があったことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-105304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一態様の目的は、1つ以上の無機充填材と1つ以上の樹脂とを含む樹脂組成物の要求特性を満たす、(i)前記無機充填材の特性、(ii)前記樹脂の特性、(iii)前記無機充填材の配合割合、および、(iv)前記樹脂の配合割合、のうちの1つ以上(本明細書では、総称的に「要求特性充足条件」と称する)を、従来よりも効率的に見出すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るモデル生成装置は、
1つ以上の無機充填材と1つ以上の樹脂とを含む樹脂組成物の要求特性を満たす、(i)前記無機充填材の特性、(ii)前記樹脂の特性、(iii)前記無機充填材の配合割合、および、(iv)前記樹脂の配合割合、のうちの1つ以上を予測するための予測モデルを生成するモデル生成装置であって、
(i)前記無機充填材の前記特性を示す無機充填材特性入力データ、(ii)前記樹脂の前記特性を示す樹脂特性入力データ、(iii)複数種類の前記無機充填材を前記樹脂へと配合した前記樹脂組成物内の前記無機充填材の前記配合割合に関する無機充填材配合入力データ、および、(iv)前記樹脂の前記配合割合に関する樹脂配合入力データ、のうちの少なくとも1つを含む入力データである第1入力データを取得する第1入力データ取得部と、
前記第1入力データと対になる第2入力データとして、前記樹脂組成物の特性を示す樹脂組成物特性入力データを取得する第2入力データ取得部と、
(i)任意の無機充填材特性データ、(ii)任意の樹脂特性データ、(iii)任意の無機充填材配合データ、および、(iv)任意の樹脂配合データ、のうちの1つ以上から、未知の樹脂組成物特性データを予測する第1予測モデルを、前記第1入力データおよび前記第2入力データに基づいて生成する第1機械学習部と、
任意の樹脂組成物特性データを満たす、(i)予測無機充填材特性データ、(ii)予測樹脂特性データ、(iii)予測無機充填材配合データ、および、(iv)予測樹脂配合データ、のうちの1つ以上を予測する第2予測モデルを、前記第1予測モデルに基づいて生成する第2機械学習部と、を備えている。
【0006】
また、本発明の一態様に係る予測装置は、
1つ以上の無機充填材と1つ以上の樹脂とを含む樹脂組成物の要求特性を満たす、(i)前記無機充填材の特性、(ii)前記樹脂の特性、(iii)前記無機充填材の配合割合、および、(iv)前記樹脂の配合割合、のうちの1つ以上を予測する予測装置であって、
(i)前記無機充填材の前記特性を示す無機充填材特性入力データ、(ii)前記樹脂の前記特性を示す樹脂特性入力データ、(iii)複数種類の前記無機充填材を前記樹脂へと配合した前記樹脂組成物内の前記無機充填材の前記配合割合に関する無機充填材配合入力データ、および、(iv)前記樹脂の前記配合割合に関する樹脂配合入力データ、のうちの少なくとも1つを含む入力データである第1入力データが予め取得されており、
前記第1入力データと対になる第2入力データとして、前記樹脂組成物の特性を示す樹脂組成物特性入力データが予め取得されており、
(i)任意の無機充填材特性データ、(ii)任意の樹脂特性データ、(iii)任意の無機充填材配合データ、および、(iv)任意の樹脂配合データ、のうちの1つ以上から、未知の樹脂組成物特性データを予測する第1予測モデルが、前記第1入力データおよび前記第2入力データに基づいて予め生成されており、
任意の樹脂組成物特性データを満たす、(i)予測無機充填材特性データ、(ii)予測樹脂特性データ、(iii)予測無機充填材配合データ、および、(iv)予測樹脂配合データ、のうちの1つ以上を予測する第2予測モデルが、前記第1予測モデルに基づいて予め生成されており、
前記予測装置は、
前記樹脂組成物の前記要求特性を示す樹脂組成物要求特性データを第3入力データとして取得する第3入力データ取得部と、
前記樹脂組成物要求特性データを前記第2予測モデルに入力することにより、(i)前記樹脂組成物要求特性データを満たす無機充填材の特性を示す推奨無機充填材特性データ、(ii)前記樹脂組成物要求特性データを満たす樹脂の特性を示す推奨樹脂特性データ、(iii)前記樹脂組成物要求特性データを満たす無機充填材の配合を示す推奨無機充填材配合データ、および、(iv)前記樹脂組成物要求特性データを満たす樹脂の配合を示す推奨樹脂配合データ、のうちの少なくとも1つを含む推奨データを導出する推奨データ導出部と、を備えている。
【0007】
また、本発明の一態様に係るモデル生成方法は、
1つ以上の無機充填材と1つ以上の樹脂とを含む樹脂組成物の要求特性を満たす、(i)前記無機充填材の特性、(ii)前記樹脂の特性、(iii)前記無機充填材の配合割合、および、(iv)前記樹脂の配合割合、のうちの1つ以上を予測するための予測モデルを生成するモデル生成方法であって、
(i)前記無機充填材の前記特性を示す無機充填材特性入力データ、(ii)前記樹脂の前記特性を示す樹脂特性入力データ、(iii)複数種類の前記無機充填材を前記樹脂へと配合した前記樹脂組成物内の前記無機充填材の前記配合割合に関する無機充填材配合入力データ、および、(iv)前記樹脂の前記配合割合に関する樹脂配合入力データ、のうちの少なくとも1つを含む入力データである第1入力データを取得する第1入力データ取得工程と、
前記第1入力データと対になる第2入力データとして、前記樹脂組成物の特性を示す樹脂組成物特性入力データを取得する第2入力データ取得工程と、
(i)任意の無機充填材特性データ、(ii)任意の樹脂特性データ、(iii)任意の無機充填材配合データ、および、(iv)任意の樹脂配合データ、のうちの1つ以上から、未知の樹脂組成物特性データを予測する第1予測モデルを、前記第1入力データおよび前記第2入力データに基づいて生成する第1機械学習工程と、
任意の樹脂組成物特性データを満たす、(i)予測無機充填材特性データ、(ii)予測樹脂特性データ、(iii)予測無機充填材配合データ、および、(iv)予測樹脂配合データ、のうちの1つ以上を予測する第2予測モデルを、前記第1予測モデルに基づいて生成する第2機械学習工程と、を含んでいる。
【0008】
また、本発明の一態様に係る予測方法は、
1つ以上の無機充填材と1つ以上の樹脂とを含む樹脂組成物の要求特性を満たす、(i)前記無機充填材の特性、(ii)前記樹脂の特性、(iii)前記無機充填材の配合割合、および、(iv)前記樹脂の配合割合、のうちの1つ以上を予測する予測方法であって、
(i)前記無機充填材の前記特性を示す無機充填材特性入力データ、(ii)前記樹脂の前記特性を示す樹脂特性入力データ、(iii)複数種類の前記無機充填材を前記樹脂へと配合した前記樹脂組成物内の前記無機充填材の前記配合割合に関する無機充填材配合入力データ、および、(iv)前記樹脂の前記配合割合に関する樹脂配合入力データ、のうちの少なくとも1つを含む入力データである第1入力データが予め取得されており、
前記第1入力データと対になる第2入力データとして、前記樹脂組成物の特性を示す樹脂組成物特性入力データが予め取得されており、
(i)任意の無機充填材特性データ、(ii)任意の樹脂特性データ、(iii)任意の無機充填材配合データ、および、(iv)任意の樹脂配合データ、のうちの1つ以上から、未知の樹脂組成物特性データを予測する第1予測モデルが、前記第1入力データおよび前記第2入力データに基づいて予め生成されており、
任意の樹脂組成物特性データを満たす、(i)予測無機充填材特性データ、(ii)予測樹脂特性データ、(iii)予測無機充填材配合データ、および、(iv)予測樹脂配合データ、のうちの1つ以上を予測する第2予測モデルが、前記第1予測モデルに基づいて予め生成されており、
前記予測方法は、
前記樹脂組成物の前記要求特性を示す樹脂組成物要求特性データを第3入力データとして取得する第3入力データ取得工程と、
前記樹脂組成物要求特性データを前記第2予測モデルに入力することにより、(i)前記樹脂組成物要求特性データを満たす無機充填材の特性を示す推奨無機充填材特性データ、(ii)前記樹脂組成物要求特性データを満たす樹脂の特性を示す推奨樹脂特性データ、(iii)前記樹脂組成物要求特性データを満たす無機充填材の配合を示す推奨無機充填材配合データ、および、(iv)前記樹脂組成物要求特性データを満たす樹脂の配合を示す推奨樹脂配合データ、のうちの少なくとも1つを含む推奨データを導出する推奨データ導出工程と、を含んでいる。
【0009】
また、本発明の一態様に係る樹脂組成物製造システムは、
1つ以上の無機充填材と1つ以上の樹脂とを含む樹脂組成物の要求特性を満たす、(i)前記無機充填材の特性、(ii)前記樹脂の特性、(iii)前記無機充填材の配合割合、および、(iv)前記樹脂の配合割合、のうちの1つ以上を予測するための予測モデルを生成するモデル生成装置と、
前記モデル生成装置によって生成された前記予測モデルを用いて、前記樹脂組成物の前記要求特性を満たす、(i)前記無機充填材の前記特性、(ii)前記樹脂の前記特性、(iii)前記無機充填材の前記配合割合、および、(iv)前記樹脂の前記配合割合、のうちの1つ以上を予測する予測装置と、を備えており、
前記モデル生成装置は、
(i)前記無機充填材の前記特性を示す無機充填材特性入力データ、(ii)前記樹脂の前記特性を示す樹脂特性入力データ、(iii)複数種類の前記無機充填材を前記樹脂へと配合した前記樹脂組成物内の前記無機充填材の前記配合割合に関する無機充填材配合入力データ、および、(iv)前記樹脂の前記配合割合に関する樹脂配合入力データ、のうちの少なくとも1つを含む入力データである第1入力データを取得する第1入力データ取得部と、
前記第1入力データと対になる第2入力データとして、前記樹脂組成物の特性を示す樹脂組成物特性入力データを取得する第2入力データ取得部と、
(i)任意の無機充填材特性データ、(ii)任意の樹脂特性データ、(iii)任意の無機充填材配合データ、および、(iv)任意の樹脂配合データ、のうちの1つ以上から、未知の樹脂組成物特性データを予測する第1予測モデルを、前記第1入力データおよび前記第2入力データに基づいて生成する第1機械学習部と、
任意の樹脂組成物特性データを満たす、(i)予測無機充填材特性データ、(ii)予測樹脂特性データ、(iii)予測無機充填材配合データ、および、(iv)予測樹脂配合データ、のうちの1つ以上を予測する第2予測モデルを、前記第1予測モデルに基づいて生成する第2機械学習部と、を備えており、
前記予測装置は、
前記樹脂組成物の前記要求特性を示す樹脂組成物要求特性データを第3入力データとして取得する第3入力データ取得部と、
前記樹脂組成物要求特性データを前記第2予測モデルに入力することにより、(i)前記樹脂組成物要求特性データを満たす無機充填材の特性を示す推奨無機充填材特性データ、(ii)前記樹脂組成物要求特性データを満たす樹脂の特性を示す推奨樹脂特性データ、(iii)前記樹脂組成物要求特性データを満たす無機充填材の配合を示す推奨無機充填材配合データ、および、(iv)前記樹脂組成物要求特性データを満たす樹脂の配合を示す推奨樹脂配合データ、のうちの少なくとも1つを含む推奨データを導出する推奨データ導出部と、を備えている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、樹脂組成物についての要求特性充足条件を、従来よりも効率的に見出すことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態1の樹脂組成物製造システムの要部の構成を示すブロック図である。
図2】第1予測モデルの概要について説明する図である。
図3】第2予測モデルの概要について説明する図である。
図4】推奨データ導出部の概要について説明する図である
図5】無機充填材配合入力データおよび第2入力データの一例を示す図である。
図6】無機充填材特性入力データの一例を示す図である。
図7】第1アルゴリズム実行部における説明変数の導出例を示す図である。
図8】第2アルゴリズム実行部における第1予測モデルの生成例を示す図である。
図9】第1予測モデルにおける入出力の例を示す図である。
図10】第3アルゴリズム実行部によって生成された第2予測モデルにおける演算例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔実施形態1〕
実施形態1の樹脂組成物製造システム1について、以下に説明する。説明の便宜上、実施形態1にて説明した構成要素(コンポーネント)と同じ機能を有する構成要素については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。簡潔化のため、公知技術と同様の事項についても、説明を適宜省略する。本明細書において述べる各構成および各数値は、特に明示されない限り、単なる一例であることに留意されたい。本明細書では、2つの数XおよびYに関する「X~Y」という記載は、特に明示されない限り、「X以上かつY以下」を意味する。
【0013】
(樹脂組成物製造システム1の概要)
図1は、樹脂組成物製造システム1の要部の構成を示すブロック図である。樹脂組成物製造システム1は、モデル生成装置100と予測装置300とを備える。後述の通り、モデル生成装置100は、1つ以上の無機充填材と1つ以上の樹脂とを含む樹脂組成物についての要求特性充足条件を予測するための予測モデルを生成する。具体的には、モデル生成装置100は、前記予測モデルとして、後述する第2予測モデル(MODEL2)を生成する。そして、予測装置300は、MODEL2を用いて、要求特性充足条件を予測する。
【0014】
以下の説明では、1つ以上の無機充填材を総称的に無機充填材Aと称し、1つ以上の樹脂を総称的に樹脂Bと称する。そして、無機充填材Aと樹脂Bとを含む樹脂組成物を、樹脂組成物Cと称する。
【0015】
無機充填材Aの主要な例としては、セラミックス(例:シリカ、アルミナ、窒化アルミ、窒化ケイ素、および窒化ホウ素)を挙げることができる。無機充填材は、無機フィラーとも称される。樹脂組成物Cに対する無機充填材Aの添加量を変化させることにより、樹脂組成物Cの特性を変化させることができる。例えば、無機充填材Aの添加量を適切に設定することにより、樹脂組成物Cの弾性率および線膨張係数を改善できる。実施形態1では、無機充填材Aがシリカである場合を主に例示する。
【0016】
樹脂Bの主要な例としては、任意の有機高分子化合物を挙げることができる。樹脂組成物Cは、無機充填材Aと樹脂Bと含むが、その他の材料(例:硬化剤、エラストマー、イオントラップ剤、顔料、染料、消泡剤、応力緩和剤、pH調整剤、促進剤、界面活性剤、およびカップリング剤)をさらに含んでいてもよい。樹脂組成物Cの主要な例としては、接着剤および封止剤を挙げることができる。
【0017】
なお、本明細書における「要求特性充足条件」は、「樹脂組成物Cの要求特性を完全に満たす条件」に限定されないことに留意されたい。本明細書における「要求特性充足条件」には、例えば、「樹脂組成物Cの完全な要求特性に最も近い要求特性」および「樹脂組成物Cの完全な要求特性にある程度近い要求特性」も含まれる。従って、樹脂組成物製造システム1は、樹脂Cの完全な要求特性を概ね満たす条件を、要求特性充足条件として予測できればよい。このため、例えば、後述の通り、樹脂組成物製造システム1は、確率論的な数理モデルに基づいて要求特性充足条件を予測してよい。
【0018】
(モデル生成装置100)
樹脂組成物製造システム1の処理は、学習フェーズ(モデル生成装置100における処理)と予測フェーズ(予測装置300における処理)とに大別される。予測フェーズは、推論フェーズとも称される。まず、学習フェーズについて説明する。モデル生成装置100は、第1入力データ取得部11、第2入力データ取得部12、第1機械学習部21、および第2機械学習部22を備える。
【0019】
第1入力データ取得部11は、第1入力データ110を取得する。第1入力データ110は、
・無機充填材特性入力データ111、
・樹脂特性入力データ112、
・無機充填材配合入力データ113、および、
・樹脂配合入力データ114、
のうちの1つを含む入力データである。
【0020】
無機充填材特性入力データ111は、無機充填材Aの特性を示す。樹脂特性入力データ112は、樹脂Bの特性を示す。無機充填材配合入力データ113は、複数種類の無機充填材Aを樹脂Bへと配合した樹脂組成物C内における、無機充填材Aの配合割合に関するデータである。一例として、無機充填材配合入力データ113は、無機充填材Aの配合割合を示すデータである。樹脂配合入力データ114は、樹脂組成物C内における、樹脂Bの配合割合に関するデータである。一例として、樹脂配合入力データ114は、樹脂Bの配合割合を示すデータである。
【0021】
第1入力データ取得部11は、任意のデータ取得インターフェースであってよい。一例として、第1入力データ取得部11は、ユーザの入力操作を受け付ける入力部であってよい。この場合、第1入力データ取得部11は、ユーザによって入力された第1入力データ110を取得する。別の例として、第1入力データ取得部11は、モデル生成装置100内の記憶部(不図示)に予め格納された第1入力データ110を取得してもよい。さらに別の例として、第1入力データ取得部11は、モデル生成装置100の外部装置(不図示)と通信し、当該外部装置から第1入力データ110を取得してもよい。外部装置の例としては、ストレージサーバおよび測定装置等を挙げることができる。第1入力データ取得部11についてのこれらの説明は、以下に述べる第2入力データ取得部12および後述する第3入力データ取得部33についても同様に当てはまる。
【0022】
第2入力データ取得部12は、第2入力データ120を取得する。具体的には、第2入力データ取得部12は、第2入力データ120として、樹脂組成物特性入力データを取得する。樹脂組成物特性入力データは、樹脂組成物Cの特性を示す。このことから、第2入力データ120は、第1入力データ110と対になるデータであると言える。
【0023】
第1機械学習部21は、第1入力データ取得部11から第1入力データ110を、第2入力データ取得部12から第2入力データ120を、それぞれ取得する。第1機械学習部21は、第1入力データ110および第2入力データ120に基づいて、第1予測モデル(以下、MODEL1と称する)を生成する。
【0024】
図2は、MODEL1の概要について説明する図である。図2に示される通り、MODEL1は、
・任意の無機充填材特性データ1110、
・任意の樹脂特性データ1120、
・任意の無機充填材配合データ1130、および、
・任意の樹脂配合データ1140、
のうちの1つ以上から、未知の樹脂組成物特性データ1200を予測するためのモデル(数理モデル)である。本明細書では、任意の無機充填材特性データ1110、任意の樹脂特性データ1120、任意の無機充填材配合データ1130、および、任意の樹脂配合データ1140、のうちの1つ以上を含むデータセットを、任意の入力データセット1100と称する。
【0025】
図2の例において、任意の入力データセット1100は、説明変数(X)の一例である。そして、未知の樹脂組成物特性データ1200は、目的変数(y)の一例である。なお、説明変数は、独立変数とも称される。これに対し、目的変数は、従属変数または被説明変数とも称される。図2の例において、MODEL1は、y=f(X)の関係を示す関数fとして表すことができる。このように、MODEL1は、順問題を解くためのモデル(Xからyを導出するためのモデル)である。
【0026】
なお、本明細書では、任意の入力データセット1100に含まれるデータの種類は、MODEL1の生成に用いた教師データの種類と一致しているものとする。すなわち、任意の入力データセット1100のデータ構造は、MODEL1の生成に用いた教師データのデータ構造と一致しているものとする。従って、例えば、任意の入力データセット1100のデータ構造は、第1入力データ110のデータ構造と一致している。
【0027】
第2機械学習部22は、第1機械学習部21からMODEL1を取得する。第2機械学習部22は、MODEL1に基づいて、第2予測モデル(以下、MODEL2と称する)を生成する。
【0028】
図3は、MODEL2の概要について説明する図である。図3に示される通り、MODEL2は、任意の樹脂組成物特性データ2200を満たす、
・予測無機充填材特性データ2310、
・予測樹脂特性データ2320、
・予測無機充填材配合データ2330、および、
・予測樹脂配合データ2340、
のうちの1つ以上を予測するためのモデルである。なお、本明細書における記載「任意の樹脂組成物特性データ2200を満たす」は、「任意の樹脂組成物特性データ2200によって示されている樹脂組成物Cの要求特性を満たす」ことを意味する。また、本明細書では、予測無機充填材特性データ2310、予測樹脂特性データ2320、予測無機充填材配合データ2330、および、予測樹脂配合データ2340、のうちの1つ以上を含むデータセットを、予測データセット2300と称する。
【0029】
図3の例において、任意の樹脂組成物特性データ2200は、目的変数(y)の一例である。そして、予測データセット2300は、説明変数(X)の一例である。図3の例において、MODEL2は、X=g(y)の関係を示す関数gとして表すことができる。なお、g≒f-1である。すなわち、関数gは、関数fの近似的な逆関数である。このように、MODEL2は、逆問題を解くためのモデル(yからXを導出するためのモデル)である。以上の通り、MODEL2は、MODEL1と対になるモデルである。
【0030】
なお、本明細書では、任意の樹脂組成物特性データ2200の種類は、MODEL2の生成に用いた教師データの種類と一致しているものとする。すなわち、任意の樹脂組成物特性データ2200のデータ構造は、MODEL2の生成に用いた教師データのデータ構造と一致しているものとする。従って、例えば、任意の樹脂組成物特性データ2200のデータ構造は、第2入力データ120のデータ構造と一致している。
【0031】
図1の例では、第1機械学習部21は、第1アルゴリズム実行部211および第2アルゴリズム実行部212を有している。第1アルゴリズム実行部211は、第1入力データ取得部11から第1入力データ110を取得する。第1アルゴリズム実行部211は、第2入力データ120から得られる樹脂組成物Cの特性を示すデータに対応する説明変数(X)を導出する第1アルゴリズムを実行する。第1アルゴリズムの例については、後述する。
【0032】
第2アルゴリズム実行部212は、第1アルゴリズム実行部211から説明変数(X)を取得するとともに、第2入力データ取得部12から第2入力データ120を取得する。第2アルゴリズム実行部212は、Xおよび第2入力データ120に基づいてMODEL1を生成する第2アルゴリズムを実行する。
【0033】
第2アルゴリズムは、Xおよび第2入力データ120に基づいてMODEL1を生成することが可能な任意のアルゴリズムであってよい。言い換えれば、第2アルゴリズムは、順問題を解くためのモデルを生成することが可能な任意のアルゴリズムであってよい。一例として、第2アルゴリズムは、
・ガウス過程回帰、
・サポートベクターマシン、
・線形回帰、
・決定木、
・ランダムフォレスト、
・ニューラルネットワーク、および、
・勾配ブースティング木、
のうちの少なくとも1つである。
【0034】
図1の例では、第2機械学習部22は、第3アルゴリズム実行部223を有している。第3アルゴリズム実行部223は、MODEL1に基づいてMODEL2を生成する第3アルゴリズムを実行する。
【0035】
第3アルゴリズムは、MODEL1に基づいてMODEL2を生成することが可能な任意のアルゴリズムであってよい。言い換えれば、第3アルゴリズムは、逆問題を解くためのモデルを生成することが可能な任意のアルゴリズムであってよい。一例として、第3アルゴリズムは、
・遺伝的アルゴリズム、
・最急降下法、
・グリッドサーチ、および、
・ベイズ最適化、
のうちの少なくとも1つである。
【0036】
本発明の一態様において、無機充填材特性入力データ111は、無機充填材Aの任意の特性を示すデータであってよい。一例として、無機充填材特性入力データ111は、無機充填材Aの、
組成式、結晶度、比重、かさ比重、粒度分布、比表面積、細孔容積、ゼータ電位、電気伝導率、誘電率、誘電正接、屈折率、比熱、熱伝導率、線膨張率、圧壊強度、球形度、アスペクト比、水分量、炭素量、窒素量、表面官能基種、表面官能基量、光吸収波長、吸光度、M値、および、溶解度パラメータ、
のうちの少なくとも1つを、無機充填材Aの特性として示す。なお、無機充填材特性入力データ111に関する当該説明は、無機充填材特性入力データ111に対応する各データにも同様に当てはまる。
【0037】
本発明の一態様において、樹脂特性入力データ112は、樹脂Bの任意の特性を示すデータであってよい。一例として、樹脂特性入力データ112は、樹脂Bの、
組成式、重合度、分子量分布、立体規則性、反応性官能基種、反応性官能基量、粘度、融点、ガラス転移温度、結晶化度、弾性率、降伏応力、引っ張り強さ、破壊靭性、光吸収波長、吸光度、比重、屈折率、電気伝導率、誘電率、誘電正接、比熱、熱伝導率、水分量、および、溶解度パラメータ、
のうちの少なくとも1つを、樹脂Bの特性として示す。なお、樹脂特性入力データ112に関する当該説明は、樹脂特性入力データ112に対応する各データにも同様に当てはまる。
【0038】
本発明の一態様において、樹脂組成物特性入力データ(第2入力データ120)は、樹脂組成物Cの任意の特性を示すデータであってよい。一例として、樹脂組成物特性入力データは、樹脂組成物Cの、
粘度、流動性、成形性、接着性、透明性、色調、強度、吸水率、線膨張係数、弾性率、降伏応力、引っ張り強さ、破壊靭性、電気伝導率、誘電率、誘電正接、熱伝導率、および、安定性、
のうちの少なくとも1つを、樹脂組成物Cの特性として示す。なお、樹脂組成物特性入力データに関する当該説明は、当該樹脂組成物特性入力データに対応する各データにも同様に当てはまる。
【0039】
(予測装置300)
続いて、予測フェーズについて説明する。予測装置300は、第3入力データ取得部33、推奨データ導出部34、および出力部35を備える。
【0040】
第3入力データ取得部33は、第3入力データ330を取得する。具体的には、第3入力データ取得部33は、樹脂組成物要求特性データを第3入力データ330として取得する。樹脂組成物要求特性データは、樹脂組成物Cの要求特性を示す。
【0041】
推奨データ導出部34は、第3入力データ取得部33から樹脂組成物要求特性データ(第3入力データ330)を取得するとともに、モデル生成装置100(より具体的には、第2機械学習部22)からMODEL2を取得する。
【0042】
図4は、推奨データ導出部34の概要について説明する図である。図4に示される通り、推奨データ導出部34は、樹脂組成物要求特性データをMODEL2に入力することにより、推奨データ340を導出する。推奨データ340は、
・推奨無機充填材特性データ341、
・推奨樹脂特性データ342、
・推奨無機充填材配合データ343、および、
・推奨樹脂配合データ344、
のうちの少なくとも1つを含む。
【0043】
推奨無機充填材特性データ341は、樹脂組成物要求特性データを満たす無機充填材Aの特性を示す。推奨樹脂特性データ342は、樹脂組成物要求特性データを満たす樹脂Bの特性を示す。推奨無機充填材配合データ343は、樹脂組成物要求特性データを満たす無機充填材Aの配合を示す。推奨樹脂配合データ344は、樹脂組成物要求特性データを満たす樹脂Bの配合を示す。なお、本明細書における記載「樹脂組成物要求特性データを満たす」は、「樹脂組成物要求特性データによって示されている樹脂組成物Cの要求特性を満たす」ことを意味する。推奨データ導出部34によって推奨データ340を導出する処理の具体例については、後述する。
【0044】
上述の通り、本明細書における「要求特性充足条件」は、「樹脂組成物Cの要求特性を完全に満たす条件」に限定されない。このため当然ながら、本明細書における推奨データ340は、「樹脂組成物要求特性データを完全に満たすデータ」に限定されない。本明細書における推奨データ340には、「樹脂組成物要求特性データを概ね満たすデータ」も含まれる。
【0045】
従って、本明細書における推奨無機充填材特性データ341は、樹脂組成物要求特性データを概ね満たす無機充填材Aの特性を示していればよい。同様に、推奨樹脂特性データ342は、樹脂組成物要求特性データを概ね満たす樹脂Bの特性を示していればよい。また、推奨無機充填材配合データ343は、樹脂組成物要求特性データを概ね満たす無機充填材Aの配合を示していればよい。同様に、推奨樹脂配合データ344は、樹脂組成物要求特性データを概ね満たす樹脂Bの配合を示していればよい。なお、推奨無機充填材特性データ341、推奨樹脂特性データ342、推奨無機充填材配合データ343、および推奨樹脂配合データ344に関するこれらの説明は、上述の予測無機充填材特性データ2310、予測樹脂特性データ2320、予測無機充填材配合データ2330、および予測樹脂配合データ2340についても同様に当てはまる。
【0046】
出力部35は、推奨データ導出部34から推奨データ340を取得する。そして、出力部35は、推奨データ340を出力する。出力部35は、任意の出力インターフェースであってよい。一例として、出力部35は、ディスプレイ(表示装置)であってよい。この場合、出力部35は、推奨データ340を表示することにより、当該推奨データ340をユーザに視覚的に提示できる。このように、出力部35は、推奨データ340を視覚的態様によって出力してもよい。別の例として、出力部35は、モデル生成装置100内の記憶部に、推奨データ340を転送してもよい。さらに別の例として、出力部35は、モデル生成装置100の外部装置に、推奨データ340を転送してもよい。
【0047】
本発明の一態様において、樹脂組成物要求特性データ(第3入力データ330)は、樹脂組成物Cの任意の要求特性を示すデータであってよい。上述の樹脂組成物特性入力データに関する説明から明らかである通り、一例として、樹脂組成物要求特性データは、樹脂組成物Cの、
粘度、流動性、成形性、接着性、透明性、色調、強度、吸水率、線膨張係数、弾性率、降伏応力、引っ張り強さ、破壊靭性、電気伝導率、誘電率、誘電正接、熱伝導率、および、安定性、
のうちの少なくとも1つを、樹脂組成物Cの要求特性として示す。
【0048】
(樹脂組成物製造システム1における処理の一例)
以下、樹脂組成物製造システム1における処理の一例について説明する。以下の例では、無機充填材Aの種類が5つであり、かつ、樹脂Bの種類が1つである場合について説明する。以下の例では、樹脂Bの特性および樹脂Bの配合割合はいずれも、一定の固定値(固定条件)に設定されているものとする。
【0049】
従って、以下の例では、樹脂Bの特性および樹脂Bの配合割合については、説明変数として考慮しない。それゆえ、以下の説明では、樹脂特性入力データ112および樹脂配合入力データ114については言及しない。このことから、以下では、無機充填材Aの配合割合を、単に配合割合とも略称する。なお、以下の例では、樹脂組成物Cの特性として、樹脂組成物Cの粘度(単位:Pa・s)を例示する。また、樹脂組成物Cの粘度を、単に粘度とも略称する。
【0050】
(第1入力データ110および第2入力データ120の一例)
図5は、無機充填材配合入力データ113および第2入力データ120の一例を示す図である。図5の例における無機充填材配合入力データ113は、5種類の無機充填材の配合割合を、重量%(wt%)によって示すデータである。以下の説明では、5種類の無機充填材をそれぞれ、無機充填材0~無機充填材4と称する。そして、無機充填材iの配合割合を、x0iと称する。iは、0≦i≦4を満たす整数である。例えば、x01は、無機充填材1の配合割合を表す。
【0051】
ここで、当業者であれば明らかである通り、
x00+x01+x02+x03+x04=100
という関係が成立する。従って、x00は、
x00=100-x01-x02-x03-x04
の通り、予め設定されたx01~x04に応じて一義的に決定される。そこで、図5の例における無機充填材配合入力データ113では、説明変数の次元数を削減するために、x01~x04のみが設定されている。
【0052】
無機充填材配合入力データ113では、配合割合パターン(x01~x04の組み合わせのパターン)が複数個設定されている。図5のidは、配合割合パターンの識別番号である。例えば、id=1は、1番目の配合割合パターン(以下、第1配合割合パターンとも称する)を示す。図5の例における第1番配合割合パターンでは、「x00=60、x01=10、x02=30、x03=0、x04=0」である。なお、以下では、例えば、id=1を、id1と適宜略記する。
【0053】
図5の例における第2入力データ120は、各配合割合パターンに対応する、樹脂組成物Cの粘度(y01)を示す。具体的には、第2入力データ120におけるy01には、各配合割合パターンに対して実測された粘度の値が記録されている。本例における計算機シミュレーションに先立ち、本願の発明者ら(以下、単に「発明者ら」と略称する)は、上述の第1配合割合パターンに従って樹脂組成物Cを製造した。そして、発明者らが樹脂組成物Cの粘度を実測したところ、当該実測値として455という値が得られた。このため、図5の例における第2入力データ120では、id1に対して、y01=455という値が設定されている。
【0054】
図5の例では、各配合割合パターンとy01との対応関係を示すデータセットが、idごとに作成されている。図5の例において、j番目のid(idj)に対応するデータセットを、DATASET_idjと称する。一例として、DATASET_id1は、第1番配合割合パターンとy01との対応関係を示すデータセットである。以下、j番目の配合割合パターンを、第j配合割合パターンとも称する。
【0055】
図6は、無機充填材特性入力データ111の一例を示す図である。図6の例における無機充填材特性入力データ111は、無機充填材0~無機充填材4の粒度分布を示す。
【0056】
(第1アルゴリズム実行部211における説明変数の導出例)
図7は、第1アルゴリズム実行部211における説明変数の導出例を示す図である。第1アルゴリズム実行部211は、第1入力データ110から得られる樹脂組成物Cの特性を示すデータに対応する説明変数(X)を導出する。本例では、第1アルゴリズム実行部211は、無機充填材配合入力データ113および無機充填材特性入力データ111から得られる樹脂組成物Cの粘度を示すデータに対応する説明変数を導出する。このように、本例では、目的変数である粘度を説明するための説明変数が、Xとして導出される。
【0057】
具体的には、第1アルゴリズム実行部211は、第1アルゴリズムを実行することにより、無機充填材配合入力データ113および無機充填材特性入力データ111に基づいて、Xを導出する。図7の例では、第1機械学習部21は、第1アルゴリズムとして加重平均算出および主成分分析を実行する。
【0058】
図7の例では、第1機械学習部21は、無機充填材配合入力データ113を、無機充填材特性入力データ111に基づいて加重平均する。続いて、第1機械学習部21は、加重平均後の無機充填材配合入力データを主成分分析することにより、粒度分布起因ベクトル(図7のxx01~xx05を成分として有するベクトル)を説明変数として導出する。なお、加重平均算出における重み値は、例えば無機充填材特性入力データ111に基づいて、公知の手法によって設定されてよい。主成分分析により削減される次元は、任意に設定されてよい。第1機械学習部21は、idごとに粒度分布起因ベクトルを算出する。従って、例えば、図7に示す通り、第1機械学習部21によって導出される説明変数には、以下に述べる第1粒度分布起因ベクトル(id1に対応する粒度分布起因ベクトル)が含まれている。
【0059】
本明細書では、第j配合割合パターンに対応する粒度分布起因ベクトル(換言すれば、idjに対応する粒度分布起因ベクトル)を、第j粒度分布起因ベクトルと称する。第j粒度分布起因ベクトルは、第j配合割合パターンが適用された場合の、樹脂組成物Cにおける無機充填材0~無機充填材4の粒度分布から算出される。従って、例えば、第1粒度分布起因ベクトルは、上述の第1配合割合パターンが適用された場合の、樹脂組成物Cにおける無機充填材0~無機充填材4の粒度分布から算出される。
【0060】
(第2アルゴリズム実行部212におけるMODEL1の生成例)
図8は、第2アルゴリズム実行部212におけるMODEL1の生成例を示す図である。第2アルゴリズム実行部212は、(i)第1アルゴリズム実行部211によって導出された説明変数(X)と、(ii)第2入力データ120と、に基づいて、MODEL1を生成する。具体的には、第2アルゴリズム実行部212は、第2アルゴリズムを実行することにより、Xと第2入力データ120とに基づいて、MODEL1を生成する。
【0061】
図8の例では、第2アルゴリズム実行部212は、第2アルゴリズムとして、ニューラルネットワークを実行する。具体的には、第2アルゴリズム実行部212は、各idについて、Xに対応する目的変数を、第2入力データ120から取得する。例えば、第2アルゴリズム実行部212は、id1におけるXに対応する目的変数(y)の正解データとして、DATASET_id1において示されている粘度(y01)を取得する。そして、第2アルゴリズム実行部212は、当該正解データを用いてニューラルネットワークを実行することにより、各idにおけるXとyとの関係を満たす関数fを導出する。このように、第2アルゴリズム実行部212は、y=f(X)の関係を示す関数fとして、MODEL1を生成する。
【0062】
以下では、第2アルゴリズム実行部212が、バギング法によるアンサンブル学習を行うことにより、MODEL1が生成された場合を例示する。それゆえ、本例におけるMODEL1は、異なるハイパーパラメータを有する複数のニューラルネット(弱学習器)を含んでいる。このように、本例におけるMODEL1は、複数の弱学習器が統合された強学習器として生成されている。
【0063】
(MODEL1における入出力の例)
図9は、MODEL1における入出力の例を示す図である。図9では、上述の第1粒度分布起因ベクトル(id1に対応する粒度分布起因ベクトル)がXとして例示されている。図9に示す通り、MODEL1にXを入力することにより、yの分布を示すヒストグラム(y_Hist)を得ることができる。具体的には、MODEL1内の複数の弱学習器のそれぞれにXを入力することによって、当該複数の弱学習器から出力された複数のyを統合することにより、y_Histが得られる。
【0064】
なお、本例では、上述の第2アルゴリズムによるMODEL1の生成に先立ち、正解データの前処理が実行されている。具体的には、本例では、MODEL1の生成に先立ち、正解データの対数変換が実行されている。このため、MODEL1は、厳密には、log(y)を出力するモデルとして生成されている。このため、図9の例におけるy_Histにおける横軸は、log(y)である。但し、本明細書では、簡単のために、MODEL1がyを出力するモデルであるものとして説明する。さらに、y_Histは、yの分布を示すヒストグラムであると読み替えて説明する。
【0065】
そして、本例におけるMODEL1は、y_Histに基づく所定のデータを、最終的な予測値(強学習器としての予測値)として決定し、当該最終的な予測値を出力する。具体的には、本例におけるMODEL1は、y_Histの平均値(μ)を、最終的な予測値(y)として出力する。μは、期待値とも称される。
【0066】
強学習器として生成されたMODEL1によれば、上述の図2に示す通り、任意の入力データセット1100を説明変数(X)として取得することにより、未知の樹脂組成物特性データ1200を目的変数(y)として出力できる。例えば、MODEL1に上述の第1配合割合パターンをXとして入力することにより、当該第1配合割合パターンに対応する粘度の予測値をyとして出力できる。
【0067】
なお、MODEL1は、y_Histの分散(σ)を、μとともに出力してもよい。当該分散は、MODEL1の予測値の不確かさの指標の一例である。あるいは、MODEL1は、y_Histの標準偏差(σ)を、μとともに出力してもよい。当該標準偏差は、MODEL1の予測値の不確かさの指標の別の例である。
【0068】
(第3アルゴリズム実行部223によって生成されたMODEL2における演算例)
図10は、第3アルゴリズム実行部223によって生成されたMODEL2における演算例を示す図である。第3アルゴリズム実行部223は、第3アルゴリズムを実行することにより、MODEL1に基づいてMODEL2を生成する。言い換えれば、第3アルゴリズム実行部223は、第2アルゴリズム実行部212によって予め決定された関数fに基づいて、上述の関数g(関数fの近似的な逆関数)を決定する(上述の図3も参照)。
【0069】
図10の例では、第3アルゴリズム実行部223は、第3アルゴリズムとしてグリッドサーチを用いることにより、MODEL2を生成する。生成されたMODEL2の内部では、以下に述べる2段階(第1段階および第2段階)の計算が実行される。
【0070】
まず、第1段階では、MODEL2は、MODEL1を用いて、取り得る複数の配合割合パターン(x01~x04の組み合わせ)のそれぞれに対し、粘度の予測値(μ)を算出する。具体的には、MODEL2は、各配合割合パターンに対応する説明変数(X)をMODEL1に入力することにより、当該MODEL1にμを目的変数として出力させる。本例では、MODEL1は、各配合割合パターンについて、μに加えてσをさらに出力する。
【0071】
続いて、第2段階では、MODEL2は、第1段階において算出されたμおよびσに基づき、当該MODEL2に入力された任意の粘度データが得られる確率が最大である、配合割合パターン(X)を出力する(上述の図3も参照)。
【0072】
図10の例において、MODEL2は、任意の樹脂組成物特性データ2200が得られる確率が最大である予測データセット2300を予測する。図10の例では、任意の樹脂組成物特性データ2200が「μ=290~310」という粘度を示すデータである場合が例示されている。
【0073】
μ=290~310という上記数値範囲は、樹脂組成物Cを接着剤として用いる場合を想定して設定された数値範囲の一例である。例えば、接着剤の粘度が高すぎる場合には、当該接着剤を所望の形に整形して使用することは困難である。他方、接着剤の粘度が低すぎる場合には、当該接着剤に液だれが生じやすくなる。従って、接着剤の粘度には、好適な数値範囲が存在すると考えられる。μ=290~310という上記数値範囲は、当該好適な数値範囲の一例である。
【0074】
図10の例では、MODEL2は、「μが290~310という目標範囲内に収まる確率」(以下、「目標範囲に対する確率」と称する)が最も高い配合割合パターンを、最適配合割合パターンとして選択する。そして、MODEL2は、当該最適配合割合パターンを、予測結果(すなわち、予測データセット2300)として出力する。図10の例では、MODEL2は、取り得る複数の配合割合パターンの全ての組み合わせに対し、目標範囲に対する確率を算出する。具体的には、図10の例では、MODEL2は、μが正規分布に従うとの仮定の下にて、目標範囲に対する確率を算出する。
【0075】
図10の例では、「各配合割合パターン」と「μおよびσ」と「目標範囲に対する確率」との対応関係を示すデータセットが、idごとに作成されている。図10の例において、j番目のid(idj)に対応するデータセットを、DATASET2_idjと称する。
【0076】
図10の例において、MODEL2は、全てのjについて、目標範囲に対する確率が最大であるデータセット(以下、確率最大データセットと称する)を探索する。図10の例では、MODEL2による探索の結果、DATASET2_id1が、確率最大データセットであることが見出された。なお、図10の例における第1配合割合パターンは、「x00=65、x01=5、x02=20、x03=0、x04=10」という配合割合パターンである。
【0077】
MODEL2は、確率最大データセットを、最適データセット(DATASET2_OPT)として選択する。そして、MODEL2は、最適データセットに対応する配合割合パターンを、最適配合割合パターンとして決定する。図10の例では、MODEL2は、DATASET2_id1を、最適データセットとして選択する。そして、第3アルゴリズム実行部223は、DATASET2_id1に対応する上述の第1配合割合パターンを、最適配合割合パターンとして決定する。このように、図10の例では、第1配合割合パターンが予測結果として出力される。
【0078】
以上の通り、第3アルゴリズム実行部223は、第3アルゴリズム(例:グリッドサーチ)によって、MODEL2(任意の樹脂組成物特性データ2200を満たす予測データセット2300を予測するモデル)を生成する。但し、当業者であれば明らかである通り、最適配合割合パターンの決定手法は、上記の例に限定されない。
【0079】
例えば、MODEL2は、図10の例における全ての配合割合パターンの内、300(上述の粘度の数値範囲の中央値)に最も近い予測値(μ)が得られているデータセット(以下、予測値最近データセットと称する)に対応する配合割合パターンを探索してもよい。そして、MODEL2は、予測値最近データセットに対応する配合割合パターンを、最適配合割合パターンとして決定してもよい。
【0080】
(推奨データ導出部34における推奨データの導出例)
上述の通り生成されたMODEL2を使用することにより、推奨データ導出部34において、第3入力データ330(樹脂組成物要求特性データ)に基づいて、推奨データ340を導出できる(上述の図4も参照)。
【0081】
一例として、第3入力データ330は、「μ=350~370」という粘度を示すデータであってよい。この場合、推奨データ導出部34は、第3入力データ330をMODEL2に入力することにより、当該第3入力データ330に応じた推奨データ340を導出できる。本例における推奨データ340は、例えば、μ=350~370という粘度に対応する最適配合割合パターンである。
【0082】
(効果)
モデル生成装置100によれば、任意の樹脂組成物特性データ2200を満たす予測データセット2300を予測するMODEL2を生成できる。言い換えれば、樹脂組成物についての要求特性充足条件に関する予測結果として、予測データセット2300を出力するMODEL2を、予測モデルとして生成できる。
【0083】
そして、予測装置300によれば、モデル生成装置100において予め生成されたMODEL2を用いて、樹脂組成物についての要求特性充足条件を予測できる。具体的には、予測装置300では、樹脂組成物要求特性データをMODEL2に入力することにより、推奨データ340を導出できる。上述の各説明から明らかである通り、推奨データ340は、樹脂組成物要求特性データについての予測結果である。
【0084】
以上の通り、樹脂組成物製造システム1では、(i)機械学習によってMODEL2を生成し、かつ、(ii)当該MODEL2を用いて、樹脂組成物についての要求特性充足条件を予測できる。このため、樹脂組成物製造システム1によれば、公知技術(例:特許文献1の技術)とは異なり、実験ベースでの多数の試行錯誤によって、要求特性充足条件を検討することが不要となる。それゆえ、樹脂組成物についての要求特性充足条件を、従来よりも効率的に見出すことができる。
【0085】
このため、樹脂組成物製造システム1によれば、例えば、所望の要求特性を有する樹脂組成物を、従来よりも低いコストによって開発できる。また、持続可能な開発目標(SDGs)への貢献が期待される新規な樹脂組成物を、従来よりも容易に実現することもできる。
【0086】
(補足)
ところで、「樹脂組成物の推奨組成データを導出するために、機械学習を用いる」こと自体は、公知である。但し、発明者らが調査した限りでは、「実施形態1において開示されている各入力データの具体的な組み合わせに基づいて、MODEL2(無機充填材Aと樹脂Bと含む樹脂組成物Cについての要求特性充足条件を予測するモデル)を生成すること」を開示または示唆する文献は、現時点では何ら存在していない。それゆえ、樹脂組成物製造システム1(より具体的には、モデル生成装置100および予測装置300)は、従来技術とは十分に差別化された斬新な技術的思想に基づいていると言える。
【0087】
〔実施形態2〕
実施形態1では、第1アルゴリズムの一例として加重平均算出(特徴量の加重平均を算出するアルゴリズム)および主成分分析(特徴量の次元を削減するアルゴリズム)を例示した。但し、当業者であれば明らかである通り、第1アルゴリズムは、これらのアルゴリズムに限定されない。
【0088】
例えば、第1アルゴリズムは、n次モーメント算出アルゴリズム(特徴量のn次モーメントを算出するアルゴリズム)であってよい。nは、任意の自然数である。なお、実施形態1における加重平均算出アルゴリズムは、n=1におけるn次モーメント算出アルゴリズムに相当する。あるいは、第1アルゴリズムは、特徴量についての公知の統計量(例:平均値、分散、最大値、最小値等)を算出するアルゴリズムであってもよい。
【0089】
〔ソフトウェアによる実現例〕
樹脂組成物製造システム1(以下、「システム」と呼ぶ)の機能は、当該システムとしてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該システムの各制御ブロック(特に、モデル生成装置100および予測装置300に含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0090】
この場合、上記システムは、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0091】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記システムが備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記システムに供給されてもよい。
【0092】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の一態様の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0093】
また、上述の通り、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0094】
〔付記事項〕
本発明の一態様は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の一態様の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0095】
1 樹脂組成物製造システム
11 第1入力データ取得部
12 第2入力データ取得部
21 第1機械学習部
22 第2機械学習部
33 第3入力データ取得部
34 推奨データ導出部
35 出力部
100 モデル生成装置
110 第1入力データ
111 無機充填材特性入力データ
112 樹脂特性入力データ
113 無機充填材配合入力データ
114 樹脂配合入力データ
120 第2入力データ(樹脂組成物特性入力データ)
211 第1アルゴリズム実行部
212 第2アルゴリズム実行部
223 第3アルゴリズム実行部
300 予測装置
330 第3入力データ(樹脂組成物要求特性データ)
340 推奨データ
341 推奨無機充填材特性データ
342 推奨樹脂特性データ
343 推奨無機充填材配合データ
344 推奨樹脂配合データ
1100 任意の入力データセット
1110 任意の無機充填材特性データ
1120 任意の樹脂特性データ
1130 任意の無機充填材配合データ
1140 任意の樹脂配合データ
1200 未知の樹脂組成物特性データ
2200 任意の樹脂組成物特性データ
2300 予測データセット
2310 予測無機充填材特性データ
2330 予測無機充填材配合データ
2340 予測樹脂配合データ
MODEL1 第1予測モデル
MODEL2 第2予測モデル
X 説明変数
y 目的変数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10