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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156696
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】ウレタン樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 75/04 20060101AFI20231018BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20231018BHJP
   D06N 3/14 20060101ALI20231018BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20231018BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
C08L75/04
C08K3/04
D06N3/14 102
B32B27/12
B32B27/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066205
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 浩之
(72)【発明者】
【氏名】竹村 潔
【テーマコード(参考)】
4F055
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055AA21
4F055BA12
4F055BA13
4F055EA22
4F055EA24
4F055FA15
4F055GA11
4F100AA37A
4F100AK41A
4F100AK45A
4F100AK51A
4F100AK54A
4F100AL06A
4F100BA01
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100DG06B
4F100DG11B
4F100DG12B
4F100DG13B
4F100DG15B
4F100EJ64C
4F100GB33
4F100JC00A
4F100YY00A
4J002CK021
4J002CK031
4J002CK041
4J002DA036
4J002FD016
4J002GF00
4J002HA05
4J002HA08
(57)【要約】
【課題】持続可能な開発に向けた石油資源の保存、二酸化炭素排出量の削減に貢献することができる、バイオ化度を上げたウレタン樹脂組成物の提供。
【解決手段】カーボンブラックと、ウレタン樹脂とを含有するウレタン樹脂組成物であって、
前記カーボンブラックが植物由来のカーボンブラックである、ウレタン樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックと、ウレタン樹脂とを含有するウレタン樹脂組成物であって、
前記カーボンブラックが植物由来のカーボンブラックである、ウレタン樹脂組成物。
【請求項2】
前記ウレタン樹脂組成物中の前記カーボンブラックの含有量が、前記ウレタン樹脂組成物の固形分に対し、1~30質量%である、請求項1に記載のウレタン樹脂組成物。
【請求項3】
前記ウレタン樹脂が、ポリカーボネート構造、ポリエーテル構造、もしくはポリエステル構造を有するか、又はこれら構造の変性物を有する、請求項1に記載のウレタン樹脂組成物。
【請求項4】
水又は有機溶剤をさらに含有する、請求項1に記載のウレタン樹脂組成物。
【請求項5】
繊維質基材と、前記繊維質基材の少なくとも一方の面上に請求項1に記載のウレタン樹脂組成物により形成される層と、を有する積層体。
【請求項6】
前記ウレタン樹脂組成物により形成される層の表面上にさらに表面処理剤による表面処理層を有する、請求項5に記載の積層体。
【請求項7】
前記繊維質基材の形態が、不織布、編物、及び織物からなる群から選択される1種である、請求項5又は6に記載の積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタン樹脂組成物、該ウレタン樹脂組成物を用いて形成された層を有する積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、欧米を中心とした環境に配慮した自然素材、リサイクル素材、バイオマス素材などを使用することが「高級」というイメージを醸成しつつある。また日本では、2050年までのカーボンニュートラルの実現を政府が宣言したことで、主にバイオマス由来素材の開発を各社が加速してきている。
その中で自動車内装用途でも合成皮革を中心にバイオマス由来素材の導入検討が活発化しているが、素材にウレタン樹脂を用いる樹脂組成物は、バイオ化度を向上させる観点からは充分に開発がなされているとはいえない状況である。
例えば、ひまし油ポリオールを用いたポリウレタン樹脂から形成された表皮層を持つ合成皮革が提案されている(例えば、特許文献1参照)が、着色剤は通常の石油由来の素材からなり、バイオ化度としては十分とはいえず、改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6385933号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、持続可能な開発に向けた石油資源の保存、二酸化炭素排出量の削減に貢献することができる、バイオ化度を上げたウレタン樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するため、カーボンブラックを含有するウレタン樹脂組成物において、含有されるカーボンブラックをバイオ由来のカーボンブラックを用いることで、バイオ化度を上げたウレタン樹脂組成物を提供するものである。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含するものである。
[1] カーボンブラックと、ウレタン樹脂とを含有するウレタン樹脂組成物であって、
前記カーボンブラックが植物由来のカーボンブラックである、ウレタン樹脂組成物。
[2] 前記ウレタン樹脂組成物中の前記カーボンブラックの含有量が、前記ウレタン樹脂組成物の固形分に対し、1~30質量%である、[1]に記載のウレタン樹脂組成物。
[3] 前記ウレタン樹脂が、ポリカーボネート構造、ポリエーテル構造、もしくはポリエステル構造を有するか、又はこれら構造の変性物を有する、[1]又は[2]に記載のウレタン樹脂組成物。
[4] 水又は有機溶剤をさらに含有する、[1]~[3]のいずれかに記載のウレタン樹脂組成物。
[5] 繊維質基材と、前記繊維質基材の少なくとも一方の面上に[1]~[4]のいずれかに記載のウレタン樹脂組成物により形成される層と、を有する積層体。
[6] 前記ウレタン樹脂組成物により形成される層の表面上にさらに表面処理剤による表面処理層を有する、[5]に記載の積層体。
[7] 前記繊維質基材の形態が、不織布、編物、及び織物からなる群から選択される1種である、[5]又は[6]に記載の積層体。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、持続可能な開発に向けた石油資源の保存、二酸化炭素排出量の削減に貢献することができる、バイオ化度を上げたウレタン樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、以下に記載する構成要件の説明は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0009】
(ウレタン樹脂組成物)
本発明のウレタン樹脂組成物は、カーボンブラックと、ウレタン樹脂とを含有し、該カーボンブラックは植物由来のカーボンブラックである。
本発明のウレタン樹脂組成物は、上記カーボンブラックと上記ウレタン樹脂の他、水や有機溶剤、その他各種成分をさらに含有することができる。
【0010】
<カーボンブラック>
本発明に係るカーボンブラックは、植物由来のカーボンブラックである。
本発明において、植物由来のカーボンブラックとは、例えば、植物油の生物油由来原料を用いて製造されたカーボンブラックをいい、植物油由来原料を用いて製造されるため、バイオ原料に由来したバイオ(バイオマス)成分が含まれている。
例えば、バイオ(バイオマス)成分が含まれていることは、放射性炭素原子14Cを測定することにより、確認することができる。
【0011】
生物由来と石油由来の化合物や組成物は、分子量や機械的性質・熱的性質のような物性に差を生じない。これらを区別するために、例えば、一般的に放射性炭素原子14Cの測定が用いられる。石油由来の化合物や組成物の炭素には、14C(放射性炭素14、半減期5730年)が含まれていないことから、この14Cの濃度を加速器質量分析により測定することにより、生成されたカーボンブラックやそれを含有する組成物が、石油由来の成分であるか、バイオ由来の成分を含むかを確認することができる。
【0012】
この放射性炭素原子14Cの測定は、例えば、測定対象試料を燃焼して二酸化炭素を発生させ、真空ラインで精製した二酸化炭素を、鉄を触媒として水素で還元し、グラファイトを生成させる。
そして、このグラファイトをタンデム加速器をベースとした14C-AMS専用装置(NEC社製)に装着して、14Cの計数、13Cの濃度(13C/12C)、14Cの濃度(14C/12C)の測定を行い、この測定値から標準現代炭素に対する試料炭素の14C濃度の割合を算出することで求められる。なお、測定では、米国国立標準局(NIST)から提供されるシュウ酸(HOxII)を標準試料とすることができる。
【0013】
<<カーボンブラックの製造方法>>
本発明に係るカーボンブラックは、植物油又はその改質品を原料油として用いて製造される。
ここで、植物油とは、植物の種子、果実、核などから採取される脂肪酸グリセリドを成分とする油脂であり、乾性油、半乾性油、不乾性油などのいずれでもよい。植物油の改質品とは、植物油を物理的、または化学的に処理して得られるものをいう。物理的処理としては、例えば圧搾、抽出、熱処理、乾留、蒸留、濃縮、希釈等があげられる。また、化学的処理としては、水蒸気吹き込みによる熱分解、ゼオライトなどの不均一系触媒による高温下での接触分解、水素化アルミニウムリチウムなどの強力な還元剤によるヒドリド還元などがあげられる。
本発明における改質品とは、本発明の技術思想を逸脱せず、かつ、本発明の効果を奏する範囲内において植物油を改質したものをいう。
【0014】
上記製造方法で製造されたカーボンブラックは、植物油由来の原料を用いて製造されているため、生物由来、いわゆるバイオ由来の成分を含むカーボンブラックとなる。
該カーボンブラックにおけるバイオ由来の成分の含む割合は、100%であることが好ましい。但し、100%でなくても、バイオ由来の成分を所望の量、含んでいれば、持続可能な開発に向けた石油資源の保存、二酸化炭素排出量の削減に貢献することができる。そのため、原料として、生物由来原料を100%用いなくても、例えば、石油由来の原料と、植物油由来のバイオマス原料とを併用することにより、カーボンブラックを製造してもよい。つまり、例えば、原料油の一部として、通常オイルファーネス法で用いられる、石炭系・石油系の原料油を混合して用いることも可能である。
【0015】
植物油の具体的例としては、例えば、なたね油、大豆油、とうもろこし油、こめ油、ごま油、オリーブ油、綿実油、亜麻仁油、エゴマ油、グレープシード、ココナッツ油、パーム油、ひまわり油、べに花油、落花生油、マカダミナッツ油、木タール油、ヒマシ油等が挙げられる。
【0016】
本発明においては、上記条件を満たす植物油又はその改質品を原料油として用いる限り、製造法に特に制限はなく、ファーネス法やチャンネル法等といった、従来から知られている方法が用いられるが、好ましくは以下に示すような、ファーネス法によって製造される。
【0017】
ファーネス法(オイルファーネス法)は、例えば特開2004-43598、特開2004-277443などのように、反応炉内に高温燃焼ガス流を発生させる燃焼帯域、高温燃焼ガス流に原料炭化水素を導入して原料炭化水素を熱分解反応によりカーボンブラックに転化させる反応帯域、及び反応ガスを急冷して反応を停止する反応停止帯域を有する装置を用いるプロセスであって、燃焼条件、高温燃焼ガス流速、反応炉内への原料油の導入条件、カーボンブラック転化から該反応停止までの時間等の諸条件を制御することによって種々の特性のカーボンブラックを製造することができる。
【0018】
燃焼帯域では、高温燃焼ガスを形成させるため、酸素含有ガスとして空気、酸素またはそれらの混合物とガス状または液体の燃料炭化水素を混合燃焼させる。燃料炭化水素としては、水素、一酸化炭素、天然ガス、石炭ガス、石油ガス並びに重油等の石油系液体燃料、クレオソート油等の石炭系液体燃料が使用される。燃焼は、燃焼温度が1400℃~2000℃の範囲となるように制御されるのが好ましい。
【0019】
反応帯域では、燃焼帯域で得られた高温燃焼ガス流に並流又は横方向に設けたバーナーから原料炭化水素を噴霧導入し、原料炭化水素を熱分解させてカーボンブラックに転化させる。好ましくは、ガス流速が100~1000m/sの範囲の高温燃焼ガス流に、原料油を1本以上のバーナーにより分割し導入する。反応効率を向上させる為に反応ゾーンに絞り部を設けるのが好ましい。
【0020】
反応停止帯域では、高温反応ガスを1000~800℃以下に冷却する為、水スプレー等が行われる。原料油を導入してからの反応停止までの時間は2~100msの範囲とするのが好ましい。冷却されたカーボンブラックは、ガスから分離回収された後、造粒、乾燥という通常のプロセスを経て製品とされる。
【0021】
本発明で好適に用いられるカーボンブラックとしては、例えば、植物由来原料を使用し、ファーネス法で製造された、ORION社製のPRINTEX NATURE等が挙げられる。
【0022】
<ウレタン樹脂>
ウレタン樹脂は、ウレタン結合(-NHCOO-)を有する高分子化合物の総称であり、一般にポリオールとポリイソシアネートを反応(架橋・硬化反応)させることによって製造される。
本発明で用いられるウレタン樹脂は、ポリカーボネート構造、ポリエーテル構造、ポリエステル構造を有するか、又はこれら構造が共重合等され変性された構造を有する(つまり、これら構造の変性物)を有することが好ましい。
つまり、本発明で用いられるウレタン樹脂としては、例えば、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリカーボネート系ウレタン樹脂、ポリエステル系ウレタン樹脂等のウレタン樹脂及びこれらの変性物等が挙げられる。この中でも、スポーツ靴や衣料用途で、柔軟性が必要な場合、ポリエーテル系ウレタン樹脂が好適である。また、家具、車両等の用途で長期耐久性が必要な場合、ポリカーボネート系ウレタン樹脂が好適である。
ウレタン樹脂の分子量は、用途や要求性能によって異なるが、数平均分子量で5,000~50,000、好ましくは、5,000~15,000の範囲で、適宜選択すればよい。
【0023】
ウレタン樹脂の原料であるポリオール成分としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール、ポリオレフィンポリオール、又はシリコーン変性ポリオール等を用いることができる。
より具体的には、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ポリエチレンアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリオキシテトラエチレンアジペート等を用いることもできる。これらのポリオール成分は、単独で用いることも、2種類以上を併用して用いることもできる。
【0024】
また、ウレタン樹脂の原料であるイソシアネート成分としては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、3,3’-ジクロロ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、1,5-テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられる。これらのポリイソシアネートは、単独で用いることも、2種類以上を併用して用いることもできる。
【0025】
<ウレタン樹脂組成物中のカーボンブラックの含有量>
ウレタン樹脂組成物中のカーボンブラックの含有量は、ウレタン樹脂組成物の固形分に対し、1~30質量%であると好ましく、1~10質量%であるとより好ましい。
【0026】
<その他の成分>
本発明のウレタン樹脂組成物は、上記カーボンブラックと上記ウレタン樹脂の他、水や有機溶剤、その他各種成分をさらに含有することができる。
本発明のウレタン樹脂組成物には、必要に応じて、架橋促進剤、有機顔料等の着色剤、難燃剤、酸化防止剤等の各種添加剤、ウレタン樹脂以外の樹脂等も加えることもできる。
より具体的には、ウレタン樹脂組成物には、必要に応じて、硬化して得られるポリウレタン樹脂の物性を損なわない範囲内で、例えば、フィラー、架橋剤、乳化剤、消泡剤、レベリング剤、増粘剤、粘弾性調整剤、消泡剤、湿潤剤、分散剤、防腐剤、可塑剤、浸透剤、香料、殺菌剤、殺ダニ剤、防かび剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料(例えば、チタン白、ベンガラ、フタロシアニン、カーボンブラック、パーマネントイエロー等)等を用いることができる。これらの添加剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0027】
本発明のウレタン樹脂組成物には、塗布性を付与するため、有機溶剤を添加することもできる。有機溶剤は、上記ウレタン樹脂を溶解するものであれば、特に限定されない。このような有機溶剤としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略す。)等の有機溶剤が挙げられる。また、樹脂溶液の塗布後の乾燥性を向上させるため、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、シクロヘキサノン、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、N-メチルピロリドン等が使用できる。これらの中でも、シクロヘキサノン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール等の沸点が100℃未満のものが、特に好ましい。これらの乾燥性を向上させるために用いる溶剤は、単独で用いることも、2種類以上を併用して用いることもできる。
【0028】
有機溶剤及び必要に応じて乾燥性を向上させるために用いる溶剤の合計の配合量は、ウレタン樹脂組成物の固形分濃度が5~60質量%となる範囲が好ましい。
【0029】
また、本発明のウレタン樹脂組成物には、水を添加することもできる。
【0030】
本発明のウレタン樹脂組成物の好ましい実施態様として、例えば、油性タイプのウレタン樹脂組成物や、水性タイプのウレタン樹脂組成物が挙げられる。
油性タイプのウレタン樹脂組成物、又は水性タイプのウレタン樹脂組成物のいずれに対しても、上述した有機溶剤や水、その他上述した各種添加剤から任意成分を適宜選択して、それぞれのウレタン樹脂組成物に含有させることができる。
特に水性タイプのウレタン樹脂組成物に対して、架橋剤を添加することは有効である。
【0031】
<<水性のウレタン樹脂組成物>>
ウレタン樹脂組成物には、必要に応じ、架橋剤を添加することができる。この架橋剤は、本発明で用いられるウレタン樹脂と架橋できるものであれば、特に限定されない。このような架橋剤としては、ウレタン樹脂中の活性水素原子等の官能基と反応することができる官能基を1分子中に2つ以上有する化合物、もしくは、環状化合物であって、その環が開環することにより、ウレタン樹脂中の活性水素原子等の官能基と反応して結合を形成し、ウレタン樹脂を架橋することのできる化合物が挙げられる。具体的な例としては、例えば、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、ポリイソシアネート化合物、オキサゾリン化合物、メラミンホルムアミド化合物、ユリアメチロール化合物等が挙げられる。これらの中でも、ポリイソシアネート化合物が好ましい。これらの架橋剤は、単独で用いることも、2種類以上を併用して用いることもできる。
【0032】
<ウレタン樹脂組成物の適用>
ウレタン樹脂組成物が使用される具体的な態様について説明する。
本発明におけるウレタン樹脂組成物は、例えば、繊維質基材用のコーティング剤として用いることができる。コーティング剤とは基材の表面上に形成される皮膜を得る剤であって、表面処理剤の概念を含む。繊維質基材の表面上にウレタン樹脂組成物をコーティングすることで、該ウレタン樹脂組成物からなる層を有する積層体を得ることができる。
該ウレタン樹脂組成物からなる層は、例えば、繊維質基材の表面上に表皮層として、形成することができる。また、該ウレタン樹脂組成物からなる層は、表皮層の他、接着層や中間層としても形成することができる。
該ウレタン樹脂組成物により形成される層の表面上に、さらに表面処理剤による表面処理層を形成し、繊維質基材の表面上に表皮層及び表面処理層を有する積層体を得ることもできる。
【0033】
(ウレタン樹脂組成物を用いて形成された層を有する積層体)
本発明の積層体は、本発明のウレタン樹脂組成物を用いて形成された層を有する。
本発明のウレタン樹脂組成物を用いて形成された層は、繊維質基材の表皮層として好適に用いることができる。また、表皮層の他、接着層や中間層、あるいは表皮層の表面上の表面処理層としても好適に用いることができる。
本発明の積層体は、上記本発明のウレタン樹脂組成物を用いて形成された表皮層の表面上に、さらに表面処理剤による表面処理層を形成させてもよい。
繊維質基材の材質の例としては、例えばコットン(綿)、リネン(麻)、シルク(絹)等の天然繊維(植物繊維・動物繊維);ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリウレタン等の化学繊維が挙げられる。
【0034】
繊維質基材の形態の例としては、例えば編物、織物、不織布等が挙げられる。
【0035】
本発明における積層体を有する物品の具体例としては、例えば、合成皮革、人工皮革、天然皮革、ポリ塩化ビニル(PVC)レザーを用いた自動車内装シート、スポーツ靴、衣料、家具、熱可塑性オレフィン(TPO)レザー、ダッシュボード、インスツルメントパネル等が挙げられる。
【0036】
本発明における積層体は、公知の乾式成膜法もしくは湿式成膜法によって製造することができる。例えば、乾式成膜法の例としては、以下の方法が挙げられる。
【0037】
離型紙上に表皮層用樹脂組成物をドクターナイフで塗布した後、乾燥させる。次に、その表皮層の乾燥塗膜上に接着層用樹脂組成物をドクターナイフで塗布した後、予備乾燥させる。更に不織布と貼り合わせた後、乾燥させる。その後、エージングした後、離型紙を剥がすことにより、積層体が得られる。
【0038】
また、例えば、湿式成膜法の例としては、以下の方法が挙げられる。
有機溶剤を含有するウレタン樹脂組成物を基材に塗布した後、水に浸漬することによって、ウレタン樹脂組成物中の溶剤と水が置換し、ウレタン樹脂組成物中の固形物が析出して成膜する。次いで、残留溶剤を水でよく洗い流し、マングルロール等で絞った後、乾燥することによって、積層体が得られる。
湿式成膜法によって積層体を製造する場合は、成膜速度の調整、良好な平面平滑り性のために、本発明のウレタン樹脂組成物に湿式成膜助剤を適宜配合しても良い。湿式成膜助剤としては、例えば、ヒマシ油、グリセリン・トリパルミテート、シリコンオイル等が挙げられる。これらの湿式成膜助剤は、1種で用いることも2種以上併用することもできる。
【0039】
前記ウレタン樹脂組成物による層の厚さとしては、例えば、0.1~100μmの範囲であることが好ましい。
【実施例0040】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例の組成物における「%」は「質量%」を意味する。
【0041】
(製造例1)
N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)2kg(40質量部)にホモディスパーで撹拌しながらPrintex Nature(植物油由来カーボンブラック(Orion社製)、バイオ化度100%)0.25kg(5質量部)、クリスボンNB-130(ポリエーテル-ポリエステル系難黄変ウレタン樹脂溶液(DIC社製)、1液型ウレタン樹脂、樹脂固形分:30質量%、DMF:70質量%)5kg(100質量部)を入れ、30分間撹拌した。この液をビーズミルを用いて混錬し、表皮層用塗料Aを得た(加熱残分24.1%、全固形分におけるバイオ化度14.3%)。
【0042】
尚、実施例におけるウレタン樹脂組成物のバイオ化度が示す値は、植物油由来のカーボンブラック(バイオ化度100%)が、ウレタン樹脂組成物の固形分に対して占める割合を計算することにより求めることができる。
例えば、製造例1であれば、{5/(100×0.3+5)}×100=14.3より算出した。
【0043】
(製造例2)
製造例1のPrintex Natureを、MA100(石油由来カーボンブラック(三菱化学製)、バイオ化度0%)に変更した以外は、製造例1と同様にして、表皮層用塗料Bを得た(加熱残分24.1%、全固形分におけるバイオ化度0%)。
【0044】
(製造例3)
水0.46kg(9.2質量部)に、フローレンGW-1500(ポリマー系界面活性剤(共栄社化学製)、固形分100%)0.04kg(0.8質量部)を入れ、ホモディスパーで5分撹拌し、Printex Nature0.25kg(5質量部)を撹拌しながら加え、さらにハイドランWLS-210(ポリカーボネート系無黄変ポリウレタンディスパージョン(DIC社製)、樹脂固形分:35質量%、水:65質量%)5kg(100質量部)を追加してそのまま30分撹拌した。この液をビーズミルを用いて混錬し、さらにアデカノールUH-420(増粘剤(ADEKA製)、固形分30%)0.05kg(1質量部)、V-02(カルボジイミド系架橋剤(日清紡ケミカル製)、固形分40%)0.15kg(3質量部)を加えて10分撹拌することで表皮層用塗料Cを得た(加熱残分35.5%、全固形分におけるバイオ化度11.8%)。
【0045】
(製造例4)
製造例3のPrintex Natureを、#45(石油由来カーボンブラック(三菱化学製)、バイオ化度0%)に変更した以外は、製造例3と同様にして、表皮層用塗料Dを得た(加熱残分35.5%、全固形分におけるバイオ化度0%)。
【0046】
(製造例5)
N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)1kg(20質量部)、メチルエチルケトン(MEK)1kg(20質量部)混合溶剤に、ホモディスパーで撹拌しながらPrintex Nature0.25kg(5質量部)、クリスボンTA-265(ポリエーテル系難黄変ウレタン樹脂溶液(DIC社製)、2液型ウレタン樹脂、樹脂固形分:65質量%、DMF:35質量%)5kg(100質量部)を入れ、30分間撹拌した。この液をビーズミルを用いて混錬し、さらにバーノックDN-950(ポリイソシアネート化合物(DIC社製)、樹脂固形分:75質量%、酢酸エチル:25質量%)0.6kg(12質量部)、クリスボンアクセルT-81E(架橋促進剤(DIC社製))0.15kg(3質量部)を加えることで接着層用塗料Aを得た(加熱残分51.3%、全固形分におけるバイオ化度6.1%)。
【0047】
(製造例6)
製造例5のPrintex Natureを、MA100(石油由来カーボンブラック(三菱化学製)、バイオ化度0%)に変更した以外は、製造例5と同様にして、接着層用塗料Bを得た(加熱残分51.3%、全固形分におけるバイオ化度0%)。
【0048】
(実施例1)
[人工皮革サンプルの作製方法]
次の乾式成膜法によって人工皮革を作製した。
離型紙(旭ロール株式会社製の製品名「アサヒリリースAR-191」)上に、表皮層用塗料Aを乾燥時膜厚約30μmになるようにドクターナイフで塗布した後、120℃で2分間熱風乾燥させた。次に、その表皮層の乾燥塗膜上に、接着層用塗料Aを乾燥時膜厚約50μmになるようにドクターナイフで塗布した後、70℃で1分間熱風で予備乾燥させた。更に、予備乾燥させた接着層を不織布と貼り合わせた後、120℃で2分間熱風乾燥させた。その後、70℃で12時間エージングした後、離型紙を剥がすことにより、評価用人工皮革を作製した。評価用人工皮革におけるウレタン樹脂層のバイオ化度を表1に示す。
尚、この場合のウレタン樹脂層とは、表皮層と接着層を合わせたものを指し、ウレタン樹脂層のバイオ化度とは、ウレタン樹脂層におけるバイオ化度の平均値である。具体的には、各層を構成する塗料のバイオ化度と各層の乾燥時膜厚の積を合計し、ウレタン樹脂層の乾燥時膜厚で除することにより求めることができる。
例えば、表皮層用塗料A及び接着層用塗料Aを使用した実施例1であれば、{14.3%×30+6.1%×50}/(30+50)=9.2より算出した。
【0049】
(実施例2、比較例1~2)
表皮層用塗料及び接着層用塗料を表1に記載のものに変更した以外は、実施例1と同様の方法にて評価用人工皮革をそれぞれ作製した。評価用人工皮革におけるウレタン樹脂層のバイオ化度を算出し、表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
植物油由来のカーボンブラックを含有する表皮層用塗料A又はC、及び接着層用塗料Aを用いた実施例1及び2ではウレタン樹脂層のバイオ化度を向上させることができた。このように植物油由来のカーボンブラックを含有する組成物を用いることで、例えば合成皮革分野において、持続可能な開発に向けた石油資源の保存、二酸化炭素排出量の削減に貢献することができる。