(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156721
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】キレート剤を含む酸化物系基板の研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20231018BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20231018BHJP
C01B 33/12 20060101ALN20231018BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
C01B33/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066245
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大森 恒
(72)【発明者】
【氏名】石水 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】奥永 友貴
【テーマコード(参考)】
4G072
【Fターム(参考)】
4G072AA25
4G072BB05
4G072DD05
4G072DD06
4G072DD07
4G072HH18
4G072TT01
4G072UU30
(57)【要約】
【課題】 タンタル酸リチウムやニオブ酸リチウム等の高い硬度を有する酸化物系基板を高い研磨速度で研磨する研磨用組成物とその研磨方法を提供。
【解決手段】 シリカ粒子と、キレート剤と、アルカリ性物質と水とを含む酸化物系基板の研磨用組成物であって、該キレート剤は酸性OH基又はその塩を有していて上記OH基又はその塩と、ナトリウムイオン(Na)の比率(Naイオンのモル数)/(酸性OH基又はその塩のモル数)が0~1.10である、上記研磨用組成物。シリカ粒子は透過型電子顕微鏡画像解析による円相当径1nm以上50nm未満の割合が5~45体積%であり、円相当径50nm以上250nm以下の割合が55~95体積%である。キレート剤が酸性OH基又はその塩を分子内に2~12個含む化合物である。酸化物系基板がタンタル酸リチウム基板又はニオブ酸リチウム基板である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子と、キレート剤と、アルカリ性物質と水とを含む酸化物系基板の研磨用組成物であって、該キレート剤は酸性OH基又はその塩を有していて上記OH基又はその塩と、ナトリウムイオン(Na)の比率(Naイオンのモル数)/(酸性OH基又はその塩のモル数)が0~1.10である、上記研磨用組成物。
【請求項2】
上記シリカ粒子は透過型電子顕微鏡画像解析による円相当径1nm以上50nm未満の割合が5~45体積%であり、円相当径50nm以上250nm以下の割合が55~95体積%である請求項1に記載の上記研磨用組成物。
【請求項3】
該キレート剤が酸性OH基又はその塩を分子内に2~12個含む化合物である請求項1又は請求項2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
酸性OH基又はその塩を有するキレート剤が、分子内に2~6個のカルボキシル基又はホスホリル基を有する化合物である請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
キレート剤がアミノカルボン酸、アミノホスホン酸、多価カルボン酸、又はそれらの塩である請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、シュウ酸、又はその塩である請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
キレート剤の濃度が2~40mmol/Lである、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
アルカリ性物質がアルカリ金属又はアンモニアである請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
該シリカ粒子の濃度が5~50質量%である、請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項10】
pHが7.7~12.5である、請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項11】
酸化物系基板が、タンタル酸リチウム基板若しくはニオブ酸リチウム基板、又は基板の片面の一部乃至全体がタンタル酸リチウム若しくはニオブ酸リチウムと接合した複合基板である、請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項12】
平均一次粒子径1nm以上50nm未満のシリカ粒子を有するシリカゾル(A)と、平均一次粒子径50nm以上250nm以下のシリカ粒子を有するシリカゾル(B)とをシリカ質量比で、(A):(B)=5:95~40:60の割合で混合する工程(I)、を含む請求項1乃至請求項11の何れか1項に記載の研磨用組成物の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の工程(I)の中、又は工程(I)の終了後にキレート剤を添加するものである請求項11に記載の研磨用組成物の製造方法。
【請求項14】
アルカリ性物質が工程(I)の中、又は工程(I)の終了後のpH調整に用いられるものである請求項12に記載の研磨用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタンタル酸リチウムやニオブ酸リチウム等の酸化物系基板の研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
タンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムは圧電性、焦電性、電気光学効果に優れている。
携帯電話には弾性表面波(SurfaceAcousticWave)デバイスにより、特定の周波数帯域の電気信号を取り出す素子が搭載されていて、それらには圧電体としてタンタル酸リチウム(LiTaO3)、若しくはニオブ酸リチウム(LiNbO3)が用いられている。例えばタンタル酸リチウムやニオブ酸リチウム等の圧電基板上に形成された櫛形電極(InterDigital Transducer)の電気信号による表面波により特定周波数の信号が取り出される。
5G等の高速通信を行う上でより高周波数化(3.4~3.6GHz帯)、広帯域化、高Q(Quakity Factor:共振周波数における信号の感度)が求められている。
【0003】
例えば基体上にタンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムを形成し、タンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムを研磨により薄膜化して弾性表面波デバイスの特性を向上している。
タンタル酸リチウムやニオブ酸リチウムは硬度が高く、化学的にも安定であるため研磨速度は一般的に遅く、研磨速度の向上による生産性向上が求められている。またパフォーマンスを発揮できる薄膜にまで薄化するためには研磨用組成物の供給、回収の繰り返しによる循環供給方式で行われており、研磨性能の持続性も課題である。
特許文献1は、水と粒子径の異なる二種類のコロイダルシリカとキレート剤を含有し、更にpH調整のためにNaOH、KOH、アンモニア等を配合することができる。試験例としては市販のアルカリ性コロイダルシリカにキレート剤と、pH調整のためにNaOHを添加した組成物が記載されている。
【0004】
特許文献2は、水とコロイダルシリカと、キレート剤としてエチレンジアミン四酢酸のカリウム塩またはジエチレントリアミン五酢酸のカリウム塩を含む組成物が記載されている。実施例としては主に水とコロイダルシリカにエチレンジアミン四酢酸の三カリウム塩を添加した組成物が記載されており、同組成物のpHから、コロイダルシリカとしてアルカリ性コロイダルシリカが使用されていると推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-321159
【特許文献2】特開2018-154789
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はタンタル酸リチウムやニオブ酸リチウム等の高い硬度を有する酸化物系基板を高い研磨速度で研磨する研磨用組成物と、その研磨方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は第1観点として、シリカ粒子と、キレート剤と、アルカリ性物質と水とを含む酸化物系基板の研磨用組成物であって、該キレート剤は酸性OH基又はその塩を有していて上記OH基又はその塩と、ナトリウムイオン(Na)の比率(Naイオンのモル数)/(酸性OH基又はその塩のモル数)が0~1.10である、上記研磨用組成物、
第2観点として、上記シリカ粒子は透過型電子顕微鏡画像解析による円相当径1nm以上50nm未満の割合が5~45体積%であり、円相当径50nm以上250nm以下の割合が55~95体積%である第1観点に記載の上記研磨用組成物、
第3観点として、該キレート剤が酸性OH基又はその塩を分子内に2~12個含む化合物である第1観点又は第2観点に記載の研磨用組成物、
第4観点として、酸性OH基又はその塩を有するキレート剤が、分子内に2~6個のカルボキシル基又はホスホリル基を有する化合物である第1観点に記載の研磨用組成物、
第5観点として、キレート剤がアミノカルボン酸、アミノホスホン酸、多価カルボン酸、又はそれらの塩である第1観点に記載の研磨用組成物、
第6観点として、キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、シュウ酸、又はその塩である第1観点に記載の研磨用組成物、
第7観点として、キレート剤の濃度が2~40mmol/Lである、第1観点に記載の研磨用組成物、
第8観点として、アルカリ性物質がアルカリ金属又はアンモニアである第1観点乃至第7観点の何れか一つに記載の研磨用組成物、
第9観点として、該シリカ粒子の濃度が5~50質量%である、第1観点乃至第8観点のいずれか一つに記載の研磨用組成物、
第10観点として、pHが7.7~12.5である、第1観点乃至第9観点のいずれか一つに記載の研磨用組成物、
第11観点として、酸化物系基板が、タンタル酸リチウム基板若しくはニオブ酸リチウム基板、又は基板の片面の一部乃至全体がタンタル酸リチウム若しくはニオブ酸リチウムと接合した複合基板である、第1観点乃至第10観点のいずれか一つに記載の研磨用組成物、
第12観点として、平均一次粒子径1nm以上50nm未満のシリカ粒子を有するシリカゾル(A)と、平均一次粒子径50nm以上250nm以下のシリカ粒子を有するシリカゾル(B)とをシリカ質量比で、(A):(B)=5:95~40:60の割合で混合する工程(I)、を含む第1観点乃至第11観点の何れか一つに記載の研磨用組成物の製造方法、
第13観点として、第12観点に記載の工程(I)の中、又は工程(I)の終了後にキレート剤を添加するものである第11観点に記載の研磨用組成物の製造方法、及び
第14観点として、アルカリ性物質が工程(I)の中、又は工程(I)の終了後のpH調整に用いられるものである第12観点に記載の研磨用組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
タンタル酸リチウムやニオブ酸リチウム等の酸化物系材料は、弾性表面波デバイス用基板材料として有用視されている。これら酸化物系材料は精密研磨加工が必要であり、被研磨物の表面の凹凸や、化合物が原子レベルでの欠陥を生じさせることなく研磨する事が必要である。
【0009】
タンタル酸リチウムやニオブ酸リチウム等の酸化物は高い硬度有するため、所望の機能を発揮するまでに薄化するまでの時間を短縮し生産性を向上させるために、高い研磨速度で研磨加工を行うことが求められる。
【0010】
本発明は水とコロイダルシリカとキレート剤とを含む研磨用組成物において、そこに含まれるナトリウムイオンとキレート剤分子中の酸性OH基又はその塩とのモル比率を一定以下にすることで、研磨速度を向上する事が可能である事を見出した。
【0011】
ナトリウムイオンは研磨用組成物の原料の一つであるコロイダルシリカ、特にアルカリ性コロイダルシリカに多量に含まれる場合が多いため、キレート剤とpH調整剤に含まれるナトリウムイオンを一定量以下にするだけでなく、コロイダルシリカに含まれるナトリウムイオンも合わせた合計量を、キレート剤分子中の酸性OH基又はその塩の量に対して一定以下にすることが重要である。
【0012】
酸化物系基板の研磨において研磨液中のアルカリ成分は、研磨速度にアンモニウムイオンとカリウムイオンよりも、ナトリウムイオンが支配的になる事が判明した。上述のキレート剤を用いる場合において、ナトリウムイオンは低減する事が好ましい。従って、ナトリウムイオンとキレート剤分子中の酸性OH基又はその塩の量を適切な比率に調整する事で研磨速度を向上させる事が判明した。
キレート剤分子中の酸性OH基又はその塩が、酸化物系基板中のLiイオンと相互作用することで、研磨が促進されると考えられる。組成物中にNaイオンが多い場合、Naイオンは該酸性OH基又はその塩と強く相互作用するため、該Liイオンとの相互作用が阻害され、研磨促進効果が小さくなると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明はシリカ粒子と、キレート剤と、アルカリ性物質と水とを含む酸化物系基板の研磨用組成物であって、該キレート剤は酸性OH基又はその塩を有していて上記OH基又はその塩と、ナトリウムイオン(Na)の比率(Naイオンのモル数)/(酸性OH基又はその塩のモル数)が0~1.10である、上記研磨用組成物である。
【0014】
本発明においてシリカ粒子は透過型電子顕微鏡画像解析による円相当径1nm以上50nm未満の割合が5~45体積%であり、円相当径50nm以上250nm以下の割合が55~95体積%である事が好ましい。
【0015】
上記シリカ粒子は平均一次粒子径1nm以上50nm未満のシリカ粒子を有するシリカゾル(A)と、平均一次粒子径50nm以上250nm以下のシリカ粒子を有するシリカゾル(B)とをシリカ質量比で、(A):(B)=5:95~40:60の割合で混合する事によって上記割合に配合する事が可能である。
シリカ粒子の平均一次粒子径は窒素ガス吸着法(BET法)による表面積から算出した球相当粒子径として表すことができる。
上記シリカ粒子は水性シリカゾルをベースに研磨用組成物を作成する事が可能である。例えば、水ガラスを陽イオン交換して得られた活性珪酸を加熱下に粒子成長させて得る事ができる。これらのシリカゾルは例えば日産化学株式会社製、商品名スノーテックスを用いる事が可能である。
【0016】
このシリカゾルにアルカリ成分、及びキレート剤を加えて研磨用組成物を調製する事ができる。シリカ粒子の濃度は5~50質量%である事が好ましい。
アルカリ成分は水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、水酸化第1級アンモニウム、水酸化第2級アンモニウム、水酸化第3級アンモニウム、水酸化第4級アンモニウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、又は水酸化カリウムを用いる事ができる。特にアルカリ金属水酸化物とアンモニアが好ましい。
本発明において、研磨液中のアルカリ成分は、アンモニウムイオンとカリウムイオンよりも、ナトリウムイオンが研磨速度に支配的に影響する事が判明した。本発明に用いられるキレート剤との併用では、ナトリウムイオンは低減する事が好ましい。
【0017】
これらシリカゾルを含む研磨用組成物は、シリカ粒子の溶解や二次粒子径の経時による増大を抑制する観点から、有機酸やアルカリ成分の添加によりpHを7.7~12.5に調製する事が可能である。
【0018】
本発明に用いられるキレート剤は、酸性OH基又はその塩を有していて分子内に上記OH基又はその塩を2~12個有している事が好ましい。酸性OH基はカルボキシル基のOH基や、ホスホリル基のOH基や、フェノール性OH基が挙げられるが、特にカルボキシル基やホスホリル基が好ましい。キレート剤が、分子内に2~6個のカルボキシル基又はホスホリル基を有する化合物である事が好ましい。
【0019】
キレート剤がアミノカルボン酸、アミノホスホン酸、又は多価カルボン酸である事が好ましい。
【0020】
これら酸性OH基はカルボニル基が挙げられ、官能基としてはカルボキシル基が例示される。例えば、アミノカルボン酸構造を有するキレート剤は、アミノ基とカルボキシル基を分子内に有する化合物であり、このアミノカルボン酸部位を分子内に複数個有する構造を取り得る。アミノカルボン酸構造はイミノ二酢酸構造が挙げられる。例えばイミノ二酢酸構造を複数個有するエチレンジアミン四酢酸及びその塩を例示する事ができる。エチレンジアミン四酢酸は溶解性を向上させるためナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩や、アンモニウム塩、アミン塩として用いる事ができる。
【0021】
また、キレート剤中の酸性OH基はホスホリル基を有する化合物が挙げられ、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸が例示される。
多価カルボン酸を有する化合物は、アミノカルボン酸構造を有するキレート剤と同様に、キレート剤の機能を有している。
多価カルボン酸は2価以上の飽和脂肪族カルボン酸が好ましく、2~4価のカルボン酸が好ましく用いることができる。これらカルボン酸は官能基としてカルボキシル基以外にヒドロキシル基を有していてもよい。
【0022】
ジカルボン酸は例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸等が挙げられる。
また、ヒドロキシカルボン酸として例えば乳酸、リンゴ酸、クエン酸が挙げられる。
これらの多価カルボン酸はナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩として用いる事ができる。
【0023】
上記キレート剤の濃度が2~40mmol/L、又は2~25mmol/Lであることが好ましい。
キレート剤は酸性OH基を有していて上記OH基又はその塩と、ナトリウムイオン(Na)の比率(Naのモル数)/(酸性OH基又はその塩のモル数)が0~1.10であることが研磨速度を維持する上で好ましい。上記OH基又はその塩と、ナトリウムイオン(Na)の比率(Naのモル数)/(酸性OH基又はその塩のモル数)は、下限値が0.05、上限値が0.7、又は0.8、又は1.0の範囲を有することができる。
酸化物系基板が、タンタル酸リチウム基板若しくはニオブ酸リチウム基板、又は基板の片面の一部乃至全体がタンタル酸リチウム若しくはニオブ酸リチウムと接合した複合基板である事が好ましい。
【0024】
即ち、酸化物系基板が少なくとも片方の面にタンタル酸リチウム、又はニオブ酸リチウムを含む。即ち、酸化物系基板が、タンタル酸リチウム基板若しくはニオブ酸リチウム基板、又は基板の片面の一部乃至全体がタンタル酸リチウム若しくはニオブ酸リチウムと接合した複合基板である。
タンタル酸リチウム、又はニオブ酸リチウムの単独基板であっても、基板の片面の全面、又は一部にタンタル酸リチウム、又はニオブ酸リチウムが接合された基板であっても良い。
【0025】
タンタル酸リチウム若しくはニオブ酸リチウムと接合する基板としては、シリコン、サファイア、ガラス、石英、水晶、セラミックス等が挙げられる。
また本発明のタンタル酸リチウム、又はニオブ酸リチウムは単結晶であることが好ましく、金属タンタル、又は金属ニオブを実質的に含まないことが好ましい。
本発明の研磨剤はシリカ粒子として、透過型電子顕微鏡画像解析による円相当径1nm以上50nm未満の割合が5~45体積%であり、円相当径50nm以上250nm以下の割合が55~95体積%であるシリカ粒子を使用するが、このシリカ粒子を得るための研磨用組成物は、平均一次粒子径1nm以上50nm未満のシリカ粒子を有するシリカゾル(A)と、平均一次粒子径50nm以上250nm以下のシリカ粒子を有するシリカゾル(B)とをシリカ質量比で、(A):(B)=5:95~40:60の割合で混合する工程(I)を含む製造方法により得られる。
【0026】
工程(I)の中、又は工程(I)の終了後にキレート剤を添加する事ができる。
また、アルカリ性物質が工程(I)の中、又は工程(I)の終了後のpH調整に用いられることができる。pH調整ではアルカリ性物質の添加と共に、必要であれば有機酸や無機酸による酸性物質を加えることができる。
【実施例0027】
(BET法(窒素ガス吸着法)による比表面積径:BET法による平均一次粒子径、BET粒子径とも称する)
シリカゾルを110℃で乾燥したものを測定試料とした。比表面積測定装置 Monosorb(カンタクローム・インスツルメンツ・ジャパン合同会社製)を用い、窒素吸着法(BET法)により測定試料の比表面積値を測定し、得られた比表面積値より平均一次粒子径を求めた。
【0028】
(透過型電子顕微鏡画像解析による粒子径分布の測定)
シリカ粒子の配合比はTEM画像解析による体積基準粒度分布の分析結果を示すものであり、透過型電子顕微鏡(日本電子社製JEM-1010)を用いて観察した累計2000個のシリカ粒子を、画像解析ソフトウェア(ニレコ社製LUZEX AP)を用いて測定した。平均粒子径の異なる複数種類のシリカゾルを混合した例の粒度分布は、まず単一種類のシリカゾルの体積基準粒度分布をそれぞれ求めた後に、複数種類のシリカゾルのシリカ重量基準での混合比率に準じて該単一種類のシリカゾルの体積基準粒度分布を足し合わせることにより求めた。
【0029】
(アンモニア、ナトリウム、カリウムの濃度の測定)
イオンクロマトグラフィー測定結果から得られる値を示すものであり、イオンクロマトグラフィー(サーモサイエンティフィック社製Dionex Integrion HPIC)を用いて測定した。
【0030】
(pH測定)
pH測定結果から得られる値を示すものであり、pHメーター(東亜ディーケーケー社製マルチ水質計MM-60R、pH電極GST-5741C)を用いて測定した。
【0031】
(実施例1)
窒素ガス吸着法から求められる平均一次粒子径60nmのコロイダルシリカ(シリカゾルに基づくシリカ粒子、日産化学(株)製)16質量%と、同9nmのコロイダルシリカ4質量%と、エチレンジアミンテトラ酢酸19ミリモル/リットルを添加し、残部は水と、組成物がpH8.9となる量の塩基性化合物であるアンモニアおよびナトリウムからなる、金属酸化物粒子とキレート剤とを含む実施例1の研磨用組成物を製造し
図1に示した。
【0032】
表中、エチレンジアミン四酢酸はEDTA、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸はEDTMP、アンモニアはNH
3、ナトリウムはNa、カリウムはK、キレート剤中について酸性OH基又はその塩は、ナトリウムと酸性OH基のモル比率をNa/酸性OH基で示す。BETとはBET法による平均一次粒子径(nm)の値を示す。%は質量%、mmol/Lは、ミリモル/リットルを示す。
(実施例2~実施例20、及び比較例1~比較例6)
上記同様に
図1~
図4の通りに各研磨用組成物を製造した。
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
【表4】
市販のタンタル酸リチウムウェハーを以下の方法で研磨した。
研磨条件(1)
研磨機:スピードファム製両面研磨機10.5B
圧力:300g/cm
2
上定盤回転数:13.3rpm
下定盤回転数:40.0rpm
研磨パッド:ニッタ・ハース社製SUBA800
研磨用組成物の使用量:15L
研磨用組成物の供給速度:4L/min
研磨時間:2時間
ウェハー:42°Y-Cutタンタル酸リチウム、直径100mm
ウェハー枚数:9枚
【0037】
研磨条件(2)
研磨機:スピードファム製両面研磨機10.5B
圧力:300g/cm2
上定盤回転数:13.3rpm
下定盤回転数:40.0rpm
研磨パッド:ニッタ・ハース社製SUBA800
研磨用組成物の使用量:15L
研磨用組成物の供給速度:4L/min
研磨時間:2時間×5回
研磨用組成物の2時間毎の補充量:1.3L
ウェハー:42°Y-Cutタンタル酸リチウム、直径100mm
ウェハー枚数:9枚
(研磨速度の測定方法)
研磨速度は9枚のウェハーの研磨前後での重量減少量の平均値から、ウェハーの密度を7.4g/cm2として算出した。
【0038】
下記表5、6中の研磨速度μm/hはマイクロメートル/時間を示す。研磨速度の条件(1)は上記研磨条件(1)で1回目~4回目を研磨した際の研磨速度を、条件(2)5回目は上記研磨条件(2)で繰り返し研磨した際の5回目の研磨速度を示す。(-)は未測定を示す。
【0039】
【0040】
【表6】
上記実施例のように、シリカ粒子とキレート剤と水とを含む酸化物系基板の研磨用組成物において、該研磨用組成物中のナトリウムイオンのモル数と、該キレート剤分子が有する酸性OH基又はその塩のモル数の比率を1.1以下にすることで、表3の条件(1)の研磨速度の示す通り、高い研磨速度を得ることができる。
【0041】
更にシリカ粒子の粒度分布について、透過型電子顕微鏡観察と画像解析により解析される2000個の粒子の円相当径から求められる体積基準粒度分布にて、1nm以上50nm未満の粒子と50nm以上250nm未満の粒子の比率を5:95~45:55となる範囲にすることで、表3の条件(2)の研磨速度の示す通り、研磨速度の持続性を高めることができる。