(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156735
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】磁気テープ、磁気テープカートリッジおよび磁気テープ装置
(51)【国際特許分類】
G11B 5/70 20060101AFI20231018BHJP
G11B 5/73 20060101ALI20231018BHJP
G11B 5/735 20060101ALI20231018BHJP
G11B 5/738 20060101ALI20231018BHJP
G11B 5/78 20060101ALI20231018BHJP
G11B 5/008 20060101ALI20231018BHJP
G11B 5/00 20060101ALI20231018BHJP
G11B 21/10 20060101ALI20231018BHJP
G11B 5/29 20060101ALI20231018BHJP
G11B 5/706 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
G11B5/70
G11B5/73
G11B5/735
G11B5/738
G11B5/78
G11B5/008 Z
G11B5/00 D
G11B21/10 W
G11B21/10 B
G11B5/29 A
G11B5/706
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066273
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】村田 悠人
(72)【発明者】
【氏名】笠田 成人
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 渚
【テーマコード(参考)】
5D006
【Fターム(参考)】
5D006BA06
5D006CA01
5D006CA04
5D006CB07
5D006CC01
5D006CC02
5D006EA01
5D006FA02
5D006FA05
5D006FA09
(57)【要約】
【課題】長期保管後の記録および/または再生において、ドライブの動作安定性向上に寄与し得る磁気テープを提供すること。
【解決手段】非磁性支持体と強磁性粉末を含む磁性層とを有する磁気テープであって、温度60℃相対湿度20%の環境下での10日間保管によって生じるテープ幅変形の非線形成分が100nm以下である磁気テープ。この磁気テープを含む磁気テープカートリッジおよび磁気テープ装置。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有する磁気テープであって、
温度60℃相対湿度20%の環境下での10日間保管によって生じるテープ幅変形の非線形成分が100nm以下である磁気テープ。
【請求項2】
前記テープ幅変形の非線形成分が1nm以上100nm以下である、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項3】
前記テープ幅変形の非線形成分が1nm以上50nm以下である、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項4】
前記磁気テープの垂直方向角型比が0.60以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の磁気テープ。
【請求項5】
前記非磁性支持体と前記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を更に有する、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項6】
前記非磁性支持体の前記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を更に有する、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項7】
テープ厚みが5.2μm以下である、請求項1に記載の磁気テープ。
【請求項8】
テープ厚みが5.2μm以下である、請求項4に記載の磁気テープ。
【請求項9】
請求項1に記載の磁気テープを含む磁気テープカートリッジ。
【請求項10】
請求項1に記載の磁気テープを含む磁気テープ装置。
【請求項11】
磁気ヘッドを更に含み、
前記磁気ヘッドは、一対のサーボ信号読み取り素子の間に複数の磁気ヘッド素子を有する素子アレイを含むモジュールを有し、かつ
前記磁気テープ装置は、前記磁気テープ装置内での磁気テープの走行中、前記磁気テープの幅方向に対して前記素子アレイの軸線がなす角度θを変化させる、請求項10に記載の磁気テープ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気テープ、磁気テープカートリッジおよび磁気テープ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体にはテープ状のものとディスク状のものがあり、データバックアップ、アーカイブ等のデータストレージ用途には、テープ状の磁気記録媒体、即ち磁気テープが主に用いられている(例えば特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-524774号公報
【特許文献2】US2019/0164573A1
【特許文献3】特許第6590102号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気テープへのデータの記録は、通常、磁気テープ装置(一般に「ドライブ」と呼ばれる。)内で磁気テープを走行させ、磁気ヘッドを磁気テープのデータバンドに追従させてデータバンド上にデータを記録することにより行われる。これにより、データバンドにデータトラックが形成される。また、記録されたデータの再生時には、磁気テープ装置内で磁気テープを走行させ、磁気ヘッドを磁気テープのデータバンドに追従させてデータバンド上に記録されたデータの読み取りを行う。そして、かかる記録後または再生後、磁気テープは、通常、磁気テープカートリッジ等の内部でリールに巻装された状態で、次に記録および/または再生が行われるまで、保管される。
【0005】
以上のような記録および/または再生において磁気ヘッドが磁気テープのデータバンドに追従する精度を高めるために、サーボ信号を利用してヘッドトラッキングを行うシステム(以下、「サーボシステム」と記載する。)が実用化されている。しかし、上記保管後、記録および/または再生が行われる際、保管により生じた磁気テープのテープ幅変形によって、データを記録および/または再生するための磁気ヘッドが狙いのトラック位置からずれる現象(一般に、「オフトラック」と呼ばれる。)が生じ得る。オフトラックにより、記録済データの上書き、再生不良等が発生するとドライブの動作安定性は低下してしまう。近年、磁気テープの高容量化に伴うトラック密度の高密度化によって、オフトラックが生じ易くなっているため、ドライブの動作安定性向上に対するニーズは高まっている。他方、近年、データストレージ分野では、アーカイブ(archive)と呼ばれる、データの長期保管が行われている。しかし、一般に、保管期間が長くなるほど磁気テープのテープ幅変形は生じ易くなりオフトラックの発生頻度は増加する傾向がある。
【0006】
以上に鑑み、本発明の一態様は、長期保管後の記録および/または再生において、ドライブの動作安定性向上に寄与し得る磁気テープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、以下の通りである。
[1]非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有する磁気テープであって、
温度60℃相対湿度20%の環境下での10日間保管によって生じるテープ幅変形の非線形成分が100nm以下である磁気テープ。
[2]上記テープ幅変形の非線形成分が1nm以上100nm以下である、[1]に記載の磁気テープ。
[3]上記テープ幅変形の非線形成分が1nm以上50nm以下である、[1]または[2]に記載の磁気テープ。
[4]上記磁気テープの垂直方向角型比が0.60以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の磁気テープ。
[5]上記非磁性支持体と上記磁性層との間に、非磁性粉末を含む非磁性層を更に有する、[1]~[4]のいずれかに記載の磁気テープ。
[6]上記非磁性支持体の上記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を更に有する、[1]~[5]のいずれかに記載の磁気テープ。
[7]テープ厚みが5.2μm以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の磁気テープ。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の磁気テープを含む磁気テープカートリッジ。
[9][1]~[7]のいずれかに記載の磁気テープを含む磁気テープ装置。
[10]磁気ヘッドを更に含み、
上記磁気ヘッドは、一対のサーボ信号読み取り素子の間に複数の磁気ヘッド素子を有する素子アレイを含むモジュールを有し、かつ
上記磁気テープ装置は、上記磁気テープ装置内での磁気テープの走行中、上記磁気テープの幅方向に対して上記素子アレイの軸線がなす角度θを変化させる、[9]に記載の磁気テープ装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、長期保管後の記録および/または再生において、ドライブの動作安定性向上に寄与する磁気テープを提供することができる。また、本発明の一態様によれば、かかる磁気テープを含む磁気テープカートリッジおよび磁気テープ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】横軸にトラックポジション、縦軸に再生信号の出力をプロットしたトラックプロファイルの一例を示す。
【
図2】初期の非線形成分に関するグラフの一例を示す。
【
図3】保管後の非線形成分に関するグラフの一例を示す。
【
図4】再生素子毎に求められた、再生素子毎の初期の非線形成分と保管後の非線形成分との差分(非線形成分の保管前後の差分)の絶対値を示すグラフの一例である。
【
図5】磁気ヘッドのモジュールの一例を示す概略図である。
【
図6】磁気テープ装置における磁気テープ走行中のモジュールと磁気テープとの相対的な位置関係の説明図である。
【
図7】磁気テープ走行中の角度θの変化に関する説明図である。
【
図8】磁気テープの製造工程の一例(工程概略図)を示す。
【
図9】データバンドおよびサーボバンドの配置例を示す。
【
図10】LTO(Linear Tape-Open) Ultriumフォーマットテープのサーボパターン配置例を示す。
【
図11】磁気テープ走行中の角度θの測定方法の説明図である。
【
図12】磁気テープ装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[磁気テープ]
本発明の一態様は、非磁性支持体と、強磁性粉末を含む磁性層と、を有する磁気テープに関する。上記磁気テープにおいて、温度60℃相対湿度20%の環境下での10日間保管によって生じるテープ幅変形の非線形成分(以下、単に「テープ幅変形の非線形成分」とも記載する。)は、100nm以下である。
【0011】
先に記載したように、長期保管によって生じるテープ幅変形は、ドライブにおける磁気テープの動作安定性の低下を引き起こし得る。この点に関し、近年、サーボ信号を利用して走行中の磁気テープの幅方向の寸法情報を取得し、取得された寸法情報に応じて、磁気ヘッドのモジュールの軸方向を磁気テープの幅方向に対して傾斜させる角度(以下、「ヘッド傾き角度」とも記載する。)を変化させることが提案されている(特許文献1および2、例えば特許文献1の段落0059~0067および段落0084参照)。また、サーボ信号を利用して走行中の磁気テープの幅方向の寸法情報を取得し、取得された寸法情報に応じて磁気テープの長手方向にかかるテンションを調整することによって、磁気テープの幅方向の寸法を制御することも行われている(一例として、特許文献3の段落0171参照)。例えば上記のような、磁気テープ走行中の動的なトラック位置の制御手段は、オフトラック抑制のための手段となり得る。
しかし本発明者は、長期保管後の記録および/または再生におけるドライブの動作安定性をより一層向上させるために鋭意検討を重ねる中で、動的なトラック位置の制御手段では補償困難なオフトラック因子が存在し得ることに着目した。以下、この点について更に説明する。
ヘッド傾き角度を変化させることで動的なトラック位置の制御を行う場合、テープ幅方向における位置に依らず、ヘッド傾き角度に応じて磁気ヘッド素子(詳しくは記録素子および/または再生素子)のピッチが均等に変化する。磁気テープの長手方向にかかるテンションを調整することで動的なトラック位置の制御を行う場合には、通常、テープ全幅でのテンションを調整するため、テンション調整によって、テープ幅方向の位置に依らずテープ幅が均等に変化する。テープ幅変形の程度が磁気テープ全域において均一な場合であれば、即ちテープ幅変形成分が線形成分のみである場合には、上記制御手段によってオフトラックを完全に補償することは可能である。したがって、データトラックと磁気ヘッド素子とを完全に位置合わせすることが可能となる。これに対し、テープ幅変形の程度が位置によって異なり不均一な場合、即ちテープ幅変形成分に非線形成分が含まれる場合には、上記制御手段では、非線形成分に起因するオフトラックを補償することは困難である。本発明者は、この非線形成分を低減することが、動的なトラック位置の制御手段では補償困難なオフトラック因子に起因するドライブの動作安定性低下を抑制することに寄与し得ると考えた。この点に関し本発明者は、温度60℃相対湿度20%の環境下での10日間保管によって生じるテープ幅変形の非線形成分では、上記のテープ幅変形の非線形成分に関する指標になり得ると考えている。そして本発明者は更に鋭意検討を重ねた結果、かかるテープ幅変形の非線形成分が100nm以下の磁気テープが、長期保管後の記録および/または再生において、ドライブの動作安定性向上に寄与できることを新たに見出した。なお、上記の「温度60℃相対湿度20%の環境下での10日間保管」との保管条件は、アーカイブと呼ばれるデータ長期保管に相当する加速環境下での保管条件の一例として採用したものであって、上記磁気テープは、かかる保管条件で保管されるものに限定されるものではない。
【0012】
<テープ幅変形の非線形成分>
上記のテープ幅変形の非線形成分は、以下の方法によって求められる値である。
以下の操作および測定は、特記しない限り、温度が20~25℃であって相対湿度が40~60%の環境において行われる。
測定対象の磁気テープは長さ200m以上の磁気テープとする。
磁気テープの長手方向にテンションをかけて磁気テープを巻取る巻取り機構を有する装置によって、測定対象の磁気テープを、磁気テープの長手方向に0.6N(ニュートン)のテンションをかけてハブ直径(外径、以下同様)44mmの磁気テープ用リールに巻取る。こうしてリールに巻取られた状態の磁気テープを、以下の測定の前に、温度が20~25℃であって相対湿度が40~60%の環境にて24時間以上保管する。
磁気テープの一方の端部と他方の端部について、リールへの巻取りの始点側の端部をテープ内周端部と呼び、他方の端部をテープ外周端部と呼ぶ。以下の測定は、テープ外周端部から100m以内の領域(以下、「テープ外周領域」と呼ぶ。)と、テープ内周端部から100m以内の領域(以下、「テープ内周領域」と呼ぶ。)とで、各データバンドの中央ラップにおいてそれぞれ実施する。
以下の測定は、一対のサーボ信号読み取り素子の間に素子幅(詳しくは再生素子幅)が0.2μm以上1.0μm以下の再生素子を10チャンネル(channnel)以上有する素子アレイを含む再生用モジュールと、一対のサーボ信号読み取り素子の間に素子幅(詳しくは記録素子幅)が1.2μm以上2.9μm以下の記録素子を10チャンネル以上有する素子アレイを含む記録用モジュールと、を備えた磁気ヘッドを用いて行う。「素子幅」とは、素子幅の物理的な寸法であって、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡等により測定が可能である。記録用モジュールにおいて、隣り合う2つの記録素子のヘッド幅方向における間隔は83.25μmである。再生用モジュールにおいて、隣り合う2つの再生素子のヘッド幅方向における間隔は83.25μmである。上記間隔は、記録用モジュールにおいては隣り合う2つの再生素子の中央部の間隔であり、再生用モジュールにおいては隣り合う2つの記録素子の中央部の間隔であり、光学顕微鏡等によって測定することができる。後述の実施例および比較例についての測定では、一対のサーボ信号読み取り素子の間に記録素子を32チャンネル(0チャンネル~31チャンネル)有する素子アレイを含む記録用モジュールと、一対のサーボ信号読み取り素子の間に再生素子を32チャンネル(0チャンネル~31チャンネル)有する素子アレイを含む再生用モジュールと、を備えた磁気ヘッドを用いた。
測定対象の磁気テープが巻取られている上記リールと磁気ヘッドを磁気テープ装置のテープ搬送系に取り付けて、データの記録および再生を行う。テープ搬送系は、磁気ヘッドの磁気ヘッド素子(詳しくは記録素子および再生素子)を駆動させることが可能な記録再生アンプに取り付けられる。記録再生アンプは、コントローラーを介してコンピュータ(PC:Personal Computer)から制御可能である。磁気ヘッドは、テープ幅方向に動作するアクチュエータ(ピエゾモーターまたはVCM(ボイスコイルモーター))上に取り付けられ、磁気テープのサーボ信号に基づきテープ走行中に磁気ヘッドが一定のトラック位置になるようにサーボフォロイングすることができる。また、テープ幅変形の線形成分を補償するため、上下2つのサーボ信号読み取り素子により得られたサーボ信号に基づく幅方向の読み取り位置PES(Position Error Signal)信号(PES1、PES2)の差分が一定になるように、磁気ヘッドのヘッド傾き角度を変化させて動的なトラック位置の制御を行うことができる。以下の記録時および再生時には、上記のサーボフォロイングおよび上記の動的なトラック位置の制御を実施する。
次に、磁気テープを3.0m/秒の一定速度で走行させながら、走行方向を同じとする連続する3ラップ(wrap)に対し、第1ラップにDC(Direct Current)パターンを記録し、第2ラップに255kfciの単一周波数信号を記録し、第3ラップにDCパターンを記録する。単位「kfci」は、線記録密度の単位(SI単位系に換算不可)である。(PES1+PES2)/2の差が1200nmとなるように3トラック以上のシングル(Shingled)記録を行う。シングル記録は、瓦記録とも呼ばれる。
次に、連続する3ラップの中心ラップに対して、テープ外周端部から100m以内の領域(テープ外周領域)およびテープ内周端部から100m以内の領域(テープ内周領域)において、それぞれ長さ90mに亘ってデータ再生を行う。再生信号波形およびサーボ信号波形をオシロスコープを用いて取得し保存する。上記測定毎に再生素子のトラックポジションをテープ幅方向に対してトラックピッチの1/30以下の間隔で動かす。上記オシロスコープを用いて取得し保存した再生信号波形から再生素子毎に「再生信号の出力」を算出し、サーボ信号波形からトラックポジションを算出する。これらの結果から、横軸にトラックポジション、縦軸に再生信号の出力をプロットしたトラックプロファイルを作成する。
図1に、こうして作成されたトラックプロファイルの一例を示す。
再生信号の出力の最大値から1dB以上低下したトラックポジション2点間の中央値を求め、再生素子毎に縦軸に中央値をプロットし、最小二乗法による線形フィッティングによって線形近似線を得る。テープ外周領域およびテープ内周領域それぞれについて、再生素子毎に上記線形近似線と実測値の差分を求め、これを「初期の非線形成分」とする。
図2に、初期の非線形成分に関するグラフの一例を示す。
図2に示す例および後述の
図3に示す例では、再生素子数(チャンネル数)は32チャンネル(再生素子番号(No.):0チャンネル~31チャンネル)である。
上記の初期の非線形成分の測定後、磁気テープの長手方向にテンションをかけて磁気テープを巻取る巻取り機構を有する装置によって、測定対象の磁気テープを、磁気テープの長手方向に0.6Nのテンションをかけてハブ直径44mmの磁気テープ用リールに巻取る。かかる巻取り時、初期の非線形成分の測定前のリールへの巻取りにおいてテープ内周端部であった端部がテープ内周端部となるように巻取りを行う。こうしてリールに巻取られた状態の磁気テープを、温度60℃相対湿度20%の環境に10日間保管する。
上記保管後、リールに巻取られた状態のままで測定対象の磁気テープを温度20~25℃相対湿度40~60%の環境下で24時間以上(ただし最長で120時間まで)保管した後、初期の非線形成分の測定のために用いた磁気テープ装置を用いて、測定対象の磁気テープの全長を1回往復走行(順方向(Forward)および逆方向(Reverse))させる。上記の初期の非線形成分の測定時と同じ記録素子、再生素子、磁気テープ装置および再生条件で、テープ外周端部から100m以内の領域(テープ外周領域)およびテープ内周端部から100m以内の領域(テープ内周領域)において、それぞれ長さ90mに亘ってデータ再生を行う。再生信号の出力およびサーボ信号波形は初期の非線形成分の測定時と同じオシロスコープを用いて取得し保存する。上記の初期の非線形成分の測定時と同間隔で測定毎に再生素子のトラックポジションをテープ幅方向に対して動かす。上記オシロスコープを用いて取得し保存した再生信号波形から再生素子毎に「再生信号の出力」を算出し、サーボ信号波形からトラックポジションを算出する。これらの結果から、横軸にトラックポジション、縦軸に再生信号の出力をプロットしたトラックプロファイルを作成する。
図1は、こうして作成されたトラックプロファイルの一例でもある。
再生信号の出力の最大値から1dB以上低下したトラックポジション2点間の中央値を求め、再生素子毎に縦軸に中央値をプロットし、最小二乗法による線形フィッティングによって線形近似線を得る。テープ外周領域およびテープ内周領域それぞれについて、再生素子毎に上記線形近似線と実測値の差分を求め、これを「保管後の非線形成分」とする。
図3に、保管後の非線形成分に関するグラフの一例を示す。
上記再生素子毎の「初期の非線形成分」と「保管後の非線形成分」との差分(非線形成分の保管前後の差分)の絶対値を求める。こうして再生素子毎に求められた上記差分の絶対値を示すグラフの一例が
図4である。テープ外周領域とテープ内周領域における上記絶対値の最大値を、測定対象の磁気テープの「テープ幅変形の非線形成分」とする。初期の非線形成分は、磁気テープ以外の要因によって生じる非線形成分ということができると考えられる。したがって、上記のように非線形成分の保管前後の差分を求めることによって、磁気テープ起因の非線形成分を精度よく評価することが可能になると本発明者は考えている。
【0013】
上記磁気テープについて以上説明した方法によって求められるテープ幅変形の非線形成分は、長期保管後の記録および/または再生におけるドライブの動作安定性向上の観点から、100nm以下であり、95nm以下であることが好ましく、90nm以下、85nm以下、80nm以下、75nm以下、70nm以下、65nm以下、60nm以下、55nm以下、50nm以下の順により好ましい。また、テープ幅変形の非線形成分は、例えば、0nm以上、0nm超、1nm以上、5nm以上、10nm以上、15nm以上、20nm以上、25nm以上、30nm以上、35nm以上または40nm以上であることができる。テープ幅変形の非線形成分は、上記のドライブの動作安定性向上の観点からは、小さいほど好ましい。
【0014】
本発明者は、テープ幅変形の非線形成分は、磁気テープの幅方向における厚みムラに主に起因して生じると推察している。したがって、かかる厚みムラを低減するための手段を採用することは、テープ幅変形の非線形成分を低減することにつながると考えられる。テープ幅変形の非線形成分の制御方法について、詳細は後述する。
【0015】
<ヘッド傾き角度の説明>
先に記載したように、磁気テープ走行中の動的なトラック位置の制御手段の一例としては、ヘッド傾き角度を変化させることを挙げることができる。この点に関し、以下に、磁気ヘッドの構成、ヘッド傾き角度等について説明する。更に、磁気テープ走行中、磁気ヘッドのモジュールの軸方向を磁気テープの幅方向に対して傾斜させることによって、磁気テープ走行中の動的なトラック位置を制御することが可能になる理由についても、以下に説明する。
【0016】
磁気ヘッドは、一対のサーボ信号読み取り素子の間に複数の磁気ヘッド素子を有する素子アレイを含むモジュールを1つ以上有することができ、2つ以上または3つ以上有することができる。かかるモジュールの総数は、例えば5つ以下、4つ以下もしくは3つ以下であることができ、またはここに例示した総数を超える数のモジュールが上記磁気ヘッドに含まれてもよい。複数のモジュールの配置例としては、「記録用モジュール-再生用モジュール」(モジュールの総数:2)、「記録用モジュール-再生用モジュール-記録用モジュール」(モジュールの総数:3)等を挙げることができる。ただし、ここに示した例に限定されるものではない。
【0017】
各モジュールは、一対のサーボ信号読み取り素子の間に複数の磁気ヘッド素子を有する素子アレイ、即ち素子の配列を含むことができる。磁気ヘッド素子として記録素子を有するモジュールは、磁気テープへデータを記録するための記録用モジュールである。磁気ヘッド素子として再生素子を有するモジュールは、磁気テープに記録されたデータを再生するための再生用モジュールである。磁気ヘッドにおいて、複数のモジュールは、例えば、記録再生ヘッドユニットに、それぞれのモジュールの素子アレイの軸線が平行に方向付けられて配置される。かかる「平行」は、必ずしも厳密な意味の平行のみを意味するものではなく、本発明が属する技術分野において通常許容される誤差の範囲を含むものとする。誤差の範囲とは、例えば、厳密な平行±10°未満の範囲を意味することができる。
【0018】
各素子アレイにおいて、一対のサーボ信号読み取り素子と複数の磁気ヘッド素子(即ち記録素子または再生素子)は、通常、直線状に離間して配置されている。ここで「直線状に配置」とは、一方のサーボ信号読み取り素子の中央部と他方のサーボ信号読み取り素子の中央部とを結ぶ直線上に各磁気ヘッド素子が配置されていることをいうものとする。そして、本発明および本明細書における「素子アレイの軸線」とは、一方のサーボ信号読み取り素子の中央部と他方のサーボ信号読み取り素子の中央部とを結んだ直線をいうものとする。
【0019】
次に、図面を参照してモジュールの構成等について更に説明する。ただし、図面に示されている形態は例示であって、本発明を限定するものではない。
【0020】
図5は、磁気ヘッドのモジュールの一例を示す概略図である。
図5に示すモジュールは、一対のサーボ信号読み取り素子(サーボ信号読み取り素子1および2)の間に複数の磁気ヘッド素子を有する。磁気ヘッド素子は、「チャンネル(channel)」とも呼ばれる。図中の「Ch」は、Channnelの略称である。
図5に示すモジュールは、Ch0~Ch31の合計32個の磁気ヘッド素子を有する。
【0021】
図5中、「L」は、一対のサーボ信号読み取り素子間の距離、即ち、一方のサーボ信号読み取り素子と他方のサーボ信号読み取り素子との間の距離である。
図5に示すモジュールでは、「L」は、サーボ信号読み取り素子1とサーボ信号読み取り素子2との間の距離である。詳しくは、サーボ信号読み取り素子1の中央部とサーボ信号読み取り素子2の中央部との間の距離である。かかる距離は、例えば光学顕微鏡等によって測定することができる。
【0022】
図6は、磁気テープ装置における磁気テープ走行中のモジュールと磁気テープとの相対的な位置関係の説明図である。
図6中、点線Aは、磁気テープの幅方向を示す。点線Bは、素子アレイの軸線を示す。角度θは、磁気テープ走行中のヘッド傾き角度ということができ、点線Aと点線Bとがなす角度である。磁気テープ走行中、角度θが0°の場合、素子アレイの一方のサーボ信号読み取り素子と他方のサーボ信号読み取り素子との間の磁気テープ幅方向における距離(以下、「サーボ信号読み取り素子間実効距離」とも記載する。)は、「L」である。これに対し、サーボ信号読み取り素子間実効距離は、角度θが0°超の場合、「Lcosθ」であり、LcosθはLより小さくなる。即ち、「Lcosθ<L」である。
【0023】
先に記載したように、記録または再生時、磁気テープの幅変形によってデータを記録または再生するための磁気ヘッドが狙いのトラック位置からずれてデータの記録または再生を行ってしまうと、記録済データの上書き、再生不良等の現象が発生してしまう。例えば、磁気テープの幅が収縮または伸長すると、狙いのトラック位置で記録または再生を行うべき磁気ヘッド素子が、異なるトラック位置で記録または再生を行ってしまう現象が発生し得る。また、磁気テープの幅が伸長すると、サーボ信号読み取り素子間実効距離が、データバンドを挟んで隣り合う2本のサーボバンドの間隔(「サーボバンド間隔」または「サーボバンドの間隔」とも記載する。詳しくは、磁気テープの幅方向における上記2本のサーボバンドの間の距離。)より短くなってしまい、磁気テープのエッジに近い部分でデータの記録または再生が行われない現象が発生し得る。
これに対し、素子アレイを0°超の角度θで傾けると、先に説明したように、サーボ信号読み取り素子間実効距離は、「Lcosθ」となる。θの値が大きいほどLcosθの値は小さくなり、θの値が小さいほどLcosθの値は大きくなる。したがって、磁気テープの幅方向の寸法変化(即ち収縮または伸長)の程度に応じてθの値を変化させれば、サーボ信号読み取り素子間実効距離を、サーボバンドの間隔に近づけるか一致させることが可能になる。これにより、記録または再生時、磁気テープの幅変形によってデータを記録または再生するための磁気ヘッドが狙いのトラック位置からずれてデータの記録または再生を行ってしまうことによって記録済データの上書き、再生不良等の現象が発生することを防ぐことができるか、またはその発生頻度を下げることができる。
【0024】
図7は、磁気テープ走行中の角度θの変化に関する説明図である。
走行開始時の角度θであるθ
initialは、例えば0°以上または0°超に設定することができる。
図7中、中央の図が、走行開始時のモジュールの状態を示している。
図7中、右図は、角度θを、θ
initialより大きな角度である角度θ
cとしたときのモジュールの状態を示している。サーボ信号読み取り素子間実効距離Lcosθ
cは、磁気テープ走行開始時のLcosθ
initialより小さな値となる。磁気テープ走行中に磁気テープの幅が収縮した(contracted)場合、かかる角度調整を行うことが好ましい。
一方、
図7中、左図は、角度θを、θ
initialより小さな角度である角度θ
eとしたときのモジュールの状態を示している。サーボ信号読み取り素子間実効距離Lcosθ
eは、磁気テープ走行開始時のLcosθ
initialより大きな値となる。磁気テープ走行中に磁気テープの幅が伸長した(expanded)場合、かかる角度調整を行うことが好ましい。
【0025】
以上説明したように、磁気テープ走行中にヘッド傾き角度を変化させることは、記録または再生時、磁気テープの幅変形によってデータを記録または再生するための磁気ヘッドが狙いのトラック位置からずれてデータの記録または再生を行ってしまうことによって記録済データの上書き、再生不良等の現象が発生することを防ぐことに寄与し得るか、またはその発生頻度を下げることに寄与し得る。
ただし、例えば上記のような動的なトラック位置の制御手段では、通常、テープ幅変形の線形成分に起因するオフトラックは補償できるものの、非線形成分に起因するオフトラックは抑制困難である。これに対し、上記磁気テープでは、テープ幅変形の非線形成分が低減されているため、ドライブの動作安定性を向上させることが可能になる。かかる磁気テープは、トラック密度をより高密度化するうえで好ましい。
【0026】
以下、上記磁気テープについて更に詳細に説明する。
【0027】
<磁性層>
(強磁性粉末)
磁性層に含まれる強磁性粉末としては、各種磁気記録媒体の磁性層において用いられる強磁性粉末として公知の強磁性粉末を1種または2種以上組み合わせて使用することができる。強磁性粉末として平均粒子サイズの小さいものを使用することは記録密度向上の観点から好ましい。この点から、強磁性粉末の平均粒子サイズは50nm以下であることが好ましく、45nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることが更に好ましく、35nm以下であることが一層好ましく、30nm以下であることがより一層好ましく、25nm以下であることが更に一層好ましく、20nm以下であることがなお一層好ましい。一方、磁化の安定性の観点からは、強磁性粉末の平均粒子サイズは5nm以上であることが好ましく、8nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることが更に好ましく、15nm以上であることが一層好ましく、20nm以上であることがより一層好ましい。
【0028】
六方晶フェライト粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、六方晶フェライト粉末を挙げることができる。六方晶フェライト粉末の詳細については、例えば、特開2011-225417号公報の段落0012~0030、特開2011-216149号公報の段落0134~0136、特開2012-204726号公報の段落0013~0030および特開2015-127985号公報の段落0029~0084を参照できる。
【0029】
本発明および本明細書において、「六方晶フェライト粉末」とは、X線回折分析によって、主相として六方晶フェライトの結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。主相とは、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが帰属する構造をいう。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが六方晶フェライトの結晶構造に帰属される場合、六方晶フェライトの結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。X線回折分析によって単一の構造のみが検出された場合には、この検出された構造を主相とする。六方晶フェライトの結晶構造は、構成原子として、少なくとも鉄原子、二価金属原子および酸素原子を含む。二価金属原子とは、イオンとして二価のカチオンになり得る金属原子であり、ストロンチウム原子、バリウム原子、カルシウム原子等のアルカリ土類金属原子、鉛原子等を挙げることができる。本発明および本明細書において、六方晶ストロンチウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がストロンチウム原子であるものをいい、六方晶バリウムフェライト粉末とは、この粉末に含まれる主な二価金属原子がバリウム原子であるものをいう。主な二価金属原子とは、この粉末に含まれる二価金属原子の中で、原子%基準で最も多くを占める二価金属原子をいうものとする。ただし、上記の二価金属原子には、希土類原子は包含されないものとする。本発明および本明細書における「希土類原子」は、スカンジウム原子(Sc)、イットリウム原子(Y)、およびランタノイド原子からなる群から選択される。ランタノイド原子は、ランタン原子(La)、セリウム原子(Ce)、プラセオジム原子(Pr)、ネオジム原子(Nd)、プロメチウム原子(Pm)、サマリウム原子(Sm)、ユウロピウム原子(Eu)、ガドリニウム原子(Gd)、テルビウム原子(Tb)、ジスプロシウム原子(Dy)、ホルミウム原子(Ho)、エルビウム原子(Er)、ツリウム原子(Tm)、イッテルビウム原子(Yb)、およびルテチウム原子(Lu)からなる群から選択される。
【0030】
以下に、六方晶フェライト粉末の一形態である六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、更に詳細に説明する。
【0031】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800~1600nm3の範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化された六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気テープの作製のために好適である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、好ましくは800nm3以上であり、例えば850nm3以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、六方晶ストロンチウムフェライト粉末の活性化体積は、1500nm3以下であることがより好ましく、1400nm3以下であることが更に好ましく、1300nm3以下であることが一層好ましく、1200nm3以下であることがより一層好ましく、1100nm3以下であることが更により一層好ましい。六方晶バリウムフェライト粉末の活性化体積についても、同様である。
【0032】
「活性化体積」とは、磁化反転の単位であって、粒子の磁気的な大きさを示す指標である。本発明および本明細書に記載の活性化体積および後述の異方性定数Kuは、振動試料型磁力計を用いて保磁力Hc測定部の磁場スイープ速度3分と30分とで測定し(測定温度:23℃±1℃)、以下のHcと活性化体積Vとの関係式から求められる値である。なお異方性定数Kuの単位に関して、1erg/cc=1.0×10-1J/m3である。
Hc=2Ku/Ms{1-[(kT/KuV)ln(At/0.693)]1/2}
[上記式中、Ku:異方性定数(単位:J/m3)、Ms:飽和磁化(単位:kA/m)、k:ボルツマン定数、T:絶対温度(単位:K)、V:活性化体積(単位:cm3)、A:スピン歳差周波数(単位:s-1)、t:磁界反転時間(単位:s)]
【0033】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、好ましくは1.8×105J/m3以上のKuを有することができ、より好ましくは2.0×105J/m3以上のKuを有することができる。また、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のKuは、例えば2.5×105J/m3以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0034】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含んでいてもよく、含まなくてもよい。六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、鉄原子100原子%に対して、0.5~5.0原子%の含有率(バルク含有率)で希土類原子を含むことが好ましい。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一形態では、希土類原子表層部偏在性を有することができる。本発明および本明細書における「希土類原子表層部偏在性」とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により部分溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子表層部含有率」または希土類原子に関して単に「表層部含有率」と記載する。)が、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を酸により全溶解して得られた溶解液中の鉄原子100原子%に対する希土類原子含有率(以下、「希土類原子バルク含有率」または希土類原子に関して単に「バルク含有率」と記載する。)と、
希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0
の比率を満たすことを意味する。後述の六方晶ストロンチウムフェライト粉末の希土類原子含有率とは、希土類原子バルク含有率と同義である。これに対し、酸を用いる部分溶解は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部を溶解するため、部分溶解により得られる溶解液中の希土類原子含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部における希土類原子含有率である。希土類原子表層部含有率が、「希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0」の比率を満たすことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。本発明および本明細書における表層部とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面から内部に向かう一部領域を意味する。
【0035】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、希土類原子含有率(バルク含有率)は、鉄原子100原子%に対して0.5~5.0原子%の範囲であることが好ましい。上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることは、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することに寄与すると考えられる。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末が上記範囲のバルク含有率で希土類原子を含み、かつ六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に希土類原子が偏在していることにより、異方性定数Kuを高めることができるためと推察される。異方性定数Kuは、この値が高いほど、いわゆる熱揺らぎと呼ばれる現象の発生を抑制すること(換言すれば熱的安定性を向上させること)ができる。熱揺らぎの発生が抑制されることにより、繰り返し再生における再生出力の低下を抑制することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の粒子表層部に希土類原子が偏在することが、表層部の結晶格子内の鉄(Fe)のサイトのスピンを安定化することに寄与し、これにより異方性定数Kuが高まるのではないかと推察される。
また、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末を磁性層の強磁性粉末として用いることは、磁気ヘッドとの摺動によって磁性層表面が削れることを抑制することにも寄与すると推察される。即ち、磁気テープの走行耐久性の向上にも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末が寄与し得ると推察される。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面に希土類原子が偏在することが、粒子表面と磁性層に含まれる有機物質(例えば、結合剤および/または添加剤)との相互作用の向上に寄与し、その結果、磁性層の強度が向上するためではないかと推察される。
繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点および/または走行耐久性の更なる向上の観点からは、希土類原子含有率(バルク含有率)は、0.5~4.5原子%の範囲であることがより好ましく、1.0~4.5原子%の範囲であることが更に好ましく、1.5~4.5原子%の範囲であることが一層好ましい。
【0036】
上記バルク含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる含有率である。なお本発明および本明細書において、特記しない限り、原子について含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められるバルク含有率をいうものとする。希土類原子を含む六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子として1種の希土類原子のみ含んでもよく、2種以上の希土類原子を含んでもよい。2種以上の希土類原子を含む場合の上記バルク含有率は、2種以上の希土類原子の合計について求められる。この点は、本発明および本明細書における他の成分についても同様である。即ち、特記しない限り、ある成分は、1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。2種以上用いられる場合の含有量または含有率とは、2種以上の合計についていうものとする。
【0037】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末が希土類原子を含む場合、含まれる希土類原子は、希土類原子のいずれか1種以上であればよい。繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点から好ましい希土類原子としては、ネオジム原子、サマリウム原子、イットリウム原子およびジスプロシウム原子を挙げることができ、ネオジム原子、サマリウム原子およびイットリウム原子がより好ましく、ネオジム原子が更に好ましい。
【0038】
希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、偏在の程度は限定されるものではない。例えば、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末について、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は1.0超であり、1.5以上であることができる。「表層部含有率/バルク含有率」が1.0より大きいことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。また、後述する溶解条件で部分溶解して求められた希土類原子の表層部含有率と後述する溶解条件で全溶解して求められた希土類原子のバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は、例えば、10.0以下、9.0以下、8.0以下、7.0以下、6.0以下、5.0以下、または4.0以下であることができる。ただし、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末において、希土類原子は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部に偏在していればよく、上記の「表層部含有率/バルク含有率」は、例示した上限または下限に限定されるものではない。
【0039】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の部分溶解および全溶解について、以下に説明する。粉末として存在している六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、部分溶解および全溶解する試料粉末は、同一ロットの粉末から採取する。一方、磁気テープの磁性層に含まれている六方晶ストロンチウムフェライト粉末については、磁性層から取り出した六方晶ストロンチウムフェライト粉末の一部を部分溶解に付し、他の一部を全溶解に付す。磁性層からの六方晶ストロンチウムフェライト粉末の取り出しは、例えば、特開2015-91747号公報の段落0032に記載の方法によって行うことができる。
上記部分溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認できる程度に溶解することをいう。例えば、部分溶解により、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子について、粒子全体を100質量%として10~20質量%の領域を溶解することができる。一方、上記全溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認されない状態まで溶解することをいう。
上記部分溶解および表層部含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。ただし、下記の試料粉末量等の溶解条件は例示であって、部分溶解および全溶解が可能な溶解条件を任意に採用できる。
試料粉末12mgおよび1mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度70℃のホットプレート上で1時間保持する。得られた溶解液を0.1μmのメンブレンフィルタでろ過する。こうして得られたろ液の元素分析を誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)分析装置によって行う。こうして、鉄原子100原子%に対する希土類原子の表層部含有率を求めることができる。元素分析により複数種の希土類原子が検出された場合には、全希土類原子の合計含有率を、表層部含有率とする。この点は、バルク含有率の測定においても、同様である。
一方、上記全溶解およびバルク含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。
試料粉末12mgおよび4mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度80℃のホットプレート上で3時間保持する。その後は上記の部分溶解および表層部含有率の測定と同様に行い、鉄原子100原子%に対するバルク含有率を求めることができる。
【0040】
磁気テープに記録されたデータを再生する際の再生出力を高める観点から、磁気テープに含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、希土類原子を含むものの希土類原子表層部偏在性を持たない六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、希土類原子を含まない六方晶ストロンチウムフェライト粉末と比べてσsが大きく低下する傾向が見られた。これに対し、そのようなσsの大きな低下を抑制するうえでも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末は好ましいと考えられる。一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末のσsは、45A・m2/kg以上であることができ、47A・m2/kg以上であることもできる。一方、σsは、ノイズ低減の観点からは、80A・m2/kg以下であることが好ましく、60A・m2/kg以下であることがより好ましい。σsは、振動試料型磁力計等の磁気特性を測定可能な公知の測定装置を用いて測定することができる。本発明および本明細書において、特記しない限り、質量磁化σsは、磁場強度15kOeで測定される値とする。1[kOe]=106/4π[A/m]である。
【0041】
六方晶ストロンチウムフェライト粉末の構成原子の含有率(バルク含有率)に関して、ストロンチウム原子含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば2.0~15.0原子%の範囲であることができる。一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、この粉末に含まれる二価金属原子がストロンチウム原子のみであることができる。また他の一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、ストロンチウム原子に加えて1種以上の他の二価金属原子を含むこともできる。例えば、バリウム原子および/またはカルシウム原子を含むことができる。ストロンチウム原子以外の他の二価金属原子が含まれる場合、六方晶ストロンチウムフェライト粉末におけるバリウム原子含有率およびカルシウム原子含有率は、それぞれ、例えば、鉄原子100原子%に対して、0.05~5.0原子%の範囲であることができる。
【0042】
六方晶フェライトの結晶構造としては、マグネトプランバイト型(「M型」とも呼ばれる。)、W型、Y型およびZ型が知られている。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、いずれの結晶構造を取るものであってもよい。結晶構造は、X線回折分析によって確認することができる。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によって、単一の結晶構造または2種以上の結晶構造が検出されるものであることができる。例えば一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、X線回折分析によってM型の結晶構造のみが検出されるものであることができる。例えば、M型の六方晶フェライトは、AFe12O19の組成式で表される。ここでAは二価金属原子を表し、六方晶ストロンチウムフェライト粉末がM型である場合、Aはストロンチウム原子(Sr)のみであるか、またはAとして複数の二価金属原子が含まれる場合には、上記の通り原子%基準で最も多くをストロンチウム原子(Sr)が占める。六方晶ストロンチウムフェライト粉末の二価金属原子含有率は、通常、六方晶フェライトの結晶構造の種類により定まるものであり、特に限定されるものではない。鉄原子含有率および酸素原子含有率についても、同様である。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、少なくとも、鉄原子、ストロンチウム原子および酸素原子を含み、更に希土類原子を含むこともできる。更に、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、これら原子以外の原子を含んでもよく、含まなくてもよい。一例として、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、アルミニウム原子(Al)を含むものであってもよい。アルミニウム原子の含有率は、鉄原子100原子%に対して、例えば0.5~10.0原子%であることができる。繰り返し再生における再生出力低下をより一層抑制する観点からは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子を含み、これら原子以外の原子の含有率が、鉄原子100原子%に対して、10.0原子%以下であることが好ましく、0~5.0原子%の範囲であることがより好ましく、0原子%であってもよい。即ち、一形態では、六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、鉄原子、ストロンチウム原子、酸素原子および希土類原子以外の原子を含まなくてもよい。上記の原子%で表示される含有率は、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を全溶解して求められる各原子の含有率(単位:質量%)を、各原子の原子量を用いて原子%表示の値に換算して求められる。また、本発明および本明細書において、ある原子について「含まない」とは、全溶解してICP分析装置により測定される含有率が0質量%であることをいう。ICP分析装置の検出限界は、通常、質量基準で0.01ppm(parts per million)以下である。上記の「含まない」とは、ICP分析装置の検出限界未満の量で含まれることを包含する意味で用いるものとする。六方晶ストロンチウムフェライト粉末は、一形態では、ビスマス原子(Bi)を含まないものであることができる。
【0043】
金属粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、強磁性金属粉末を挙げることもできる。強磁性金属粉末の詳細については、例えば特開2011-216149号公報の段落0137~0141および特開2005-251351号公報の段落0009~0023を参照できる。
【0044】
ε-酸化鉄粉末
強磁性粉末の好ましい具体例としては、ε-酸化鉄粉末を挙げることもできる。本発明および本明細書において、「ε-酸化鉄粉末」とは、X線回折分析によって、主相としてε-酸化鉄の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークがε-酸化鉄の結晶構造に帰属される場合、ε-酸化鉄の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。ε-酸化鉄粉末の製造方法としては、ゲーサイトから作製する方法、逆ミセル法等が知られている。上記製造方法は、いずれも公知である。また、Feの一部がGa、Co、Ti、Al、Rh等の置換原子によって置換されたε-酸化鉄粉末を製造する方法については、例えば、J. Jpn. Soc. Powder Metallurgy Vol. 61 Supplement, No. S1, pp. S280-S284、J. Mater. Chem. C, 2013, 1, pp.5200-5206等を参照できる。ただし、上記磁気テープの磁性層において強磁性粉末として使用可能なε-酸化鉄粉末の製造方法は、ここで挙げた方法に限定されない。
【0045】
ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300~1500nm3の範囲である。上記範囲の活性化体積を示す微粒子化されたε-酸化鉄粉末は、優れた電磁変換特性を発揮する磁気テープの作製のために好適である。ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、好ましくは300nm3以上であり、例えば500nm3以上であることもできる。また、電磁変換特性の更なる向上の観点から、ε-酸化鉄粉末の活性化体積は、1400nm3以下であることがより好ましく、1300nm3以下であることが更に好ましく、1200nm3以下であることが一層好ましく、1100nm3以下であることがより一層好ましい。
【0046】
熱揺らぎの低減、換言すれば熱的安定性の向上の指標としては、異方性定数Kuを挙げることができる。ε-酸化鉄粉末は、好ましくは3.0×104J/m3以上のKuを有することができ、より好ましくは8.0×104J/m3以上のKuを有することができる。また、ε-酸化鉄粉末のKuは、例えば3.0×105J/m3以下であることができる。ただしKuが高いほど熱的安定性が高いことを意味し、好ましいため、上記例示した値に限定されるものではない。
【0047】
磁気テープに記録されたデータを再生する際の再生出力を高める観点から、磁気テープに含まれる強磁性粉末の質量磁化σsが高いことは望ましい。この点に関して、一形態では、ε-酸化鉄粉末のσsは、8A・m2/kg以上であることができ、12A・m2/kg以上であることもできる。一方、ε-酸化鉄粉末のσsは、ノイズ低減の観点からは、40A・m2/kg以下であることが好ましく、35A・m2/kg以下であることがより好ましい。
【0048】
本発明および本明細書において、特記しない限り、強磁性粉末等の各種粉末の平均粒子サイズは、透過型電子顕微鏡を用いて、以下の方法により測定される値とする。
粉末を、透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粉末を構成する粒子の写真を得る。得られた粒子の写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースし粒子(一次粒子)のサイズを測定する。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
以上の測定を、無作為に抽出した500個の粒子について行う。こうして得られた500個の粒子の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとする。上記透過型電子顕微鏡としては、例えば日立製透過型電子顕微鏡H-9000型を用いることができる。また、粒子サイズの測定は、公知の画像解析ソフト、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて行うことができる。後述の実施例に示す平均粒子サイズは、特記しない限り、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H-9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS-400を用いて測定された値である。本発明および本明細書において、粉末とは、複数の粒子の集合を意味する。例えば、強磁性粉末とは、複数の強磁性粒子の集合を意味する。また、複数の粒子の集合とは、集合を構成する粒子が直接接触している形態に限定されず、後述する結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している形態も包含される。粒子との語が、粉末を表すために用いられることもある。
【0049】
粒子サイズ測定のために磁気テープから試料粉末を採取する方法としては、例えば特開2011-048878号公報の段落0015に記載の方法を採用することができる。
【0050】
本発明および本明細書において、特記しない限り、粉末を構成する粒子のサイズ(粒子サイズ)は、上記の粒子写真において観察される粒子の形状が、
(1)針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、
(2)板状または柱状(ただし、厚みまたは高さが板面または底面の最大長径より小さい)の場合は、その板面または底面の最大長径で表され、
(3)球形、多面体状、不定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものをいう。
【0051】
また、粉末の平均針状比は、上記測定において粒子の短軸の長さ、即ち短軸長を測定し、各粒子の(長軸長/短軸長)の値を求め、上記500個の粒子について得た値の算術平均を指す。ここで、特記しない限り、短軸長とは、上記粒子サイズの定義で(1)の場合は、粒子を構成する短軸の長さを、同じく(2)の場合は、厚みまたは高さを各々指し、(3)の場合は、長軸と短軸の区別がないから、(長軸長/短軸長)は、便宜上1とみなす。
そして、特記しない限り、粒子の形状が特定の場合、例えば、上記粒子サイズの定義(1)の場合、平均粒子サイズは平均長軸長であり、同定義(2)の場合、平均粒子サイズは平均板径である。同定義(3)の場合、平均粒子サイズは、平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)である。
【0052】
磁性層における強磁性粉末の含有率(充填率)は、磁性層の全質量に対して、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。磁性層において強磁性粉末の充填率が高いことは、記録密度向上の観点から好ましい。
【0053】
(結合剤)
上記磁気テープは塗布型の磁気テープであることができ、磁性層に結合剤を含むことができる。結合剤とは、1種以上の樹脂である。結合剤としては、塗布型磁気テープの結合剤として通常使用される各種樹脂を用いることができる。例えば、結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選ばれる樹脂を単独で用いるか、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、ホモポリマーでもよく、コポリマー(共重合体)でもよい。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。
以上の結合剤については、特開2010-24113号公報の段落0028~0031を参照できる。結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下であることができる。結合剤は、強磁性粉末100.0質量部に対して、例えば1.0~30.0質量部の量で使用することができる。
【0054】
(硬化剤)
結合剤として使用可能な樹脂とともに硬化剤を使用することもできる。硬化剤は、一形態では加熱により硬化反応(架橋反応)が進行する化合物である熱硬化性化合物であることができ、他の一形態では光照射により硬化反応(架橋反応)が進行する光硬化性化合物であることができる。硬化剤は、磁性層形成工程の中で硬化反応が進行することにより、少なくとも一部は、結合剤等の他の成分と反応(架橋)した状態で磁性層に含まれ得る。この点は、他の層を形成するために用いられる組成物が硬化剤を含む場合に、この組成物を用いて形成される層についても同様である。好ましい硬化剤は、熱硬化性化合物であり、ポリイソシアネートが好適である。ポリイソシアネートの詳細については、特開2011-216149号公報の段落0124~0125を参照できる。硬化剤は、磁性層形成用組成物中に、結合剤100.0質量部に対して例えば0~80.0質量部、磁性層の強度向上の観点からは好ましくは50.0~80.0質量部の量で使用することができる。
【0055】
(添加剤)
磁性層には、必要に応じて1種以上の添加剤が含まれていてもよい。添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して使用することができる。または、公知の方法で合成された化合物を添加剤として使用することもできる。添加剤は任意の量で使用することができる。添加剤の一例としては、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれる添加剤としては、非磁性粉末(例えば無機粉末、カーボンブラック等)、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等を挙げることができる。例えば、潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030~0033、0035および0036を参照できる。後述する非磁性層に潤滑剤が含まれていてもよい。非磁性層に含まれ得る潤滑剤については、特開2016-126817号公報の段落0030~0031、0034、0035および0036を参照できる。分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061および0071を参照できる。また、ポリアルキレンイミン鎖およびビニルポリマー鎖を有する化合物は、強磁性粉末の分散性向上のための分散剤としての働きを示すことができる。また、上記化合物を含む磁性層を形成することは、テープ幅変形の非線形成分を低減することにも寄与し得ると本発明者は考えている。ポリアルキレンイミン鎖およびビニルポリマー鎖を有する化合物については、特開2019-169225号公報の段落0024~0064および同公報の実施例を参照できる。上記化合物は、磁性層に、強磁性粉末100.0質量部あたり0.5質量部以上含まれることが好ましく、1.0質量部以上含まれることがより好ましい。また、上記化合物の磁性層における含有量は、強磁性粉末100.0質量部あたり、10.0質量部以下または5.0質量部以下とすることができる。なお、上記化合物等の分散剤の1種以上を非磁性層形成用組成物に添加してもよい。非磁性層形成用組成物に添加し得る分散剤については、特開2012-133837号公報の段落0061も参照できる。また、磁性層に含まれ得る非磁性粉末としては、研磨剤として機能することができる非磁性粉末、磁性層表面に適度に突出する突起を形成する突起形成剤として機能することができる非磁性粉末(例えば非磁性コロイド粒子等)等が挙げられる。例えば研磨剤については、特開2004-273070号公報の段落0030~0032を参照できる。突起形成剤としては、コロイド粒子が好ましく、入手容易性の点から無機コロイド粒子が好ましく、無機酸化物コロイド粒子がより好ましく、シリカコロイド粒子(コロイダルシリカ)がより一層好ましい。研磨剤および突起形成剤の平均粒子サイズは、それぞれ好ましくは30~200nmの範囲であり、より好ましくは50~100nmの範囲である。
【0056】
以上説明した磁性層は、非磁性支持体表面上に直接、または非磁性層を介して間接的に、設けることができる。
【0057】
<非磁性層>
次に非磁性層について説明する。上記磁気テープは、非磁性支持体表面上に直接磁性層を有していてもよく、非磁性支持体表面上に非磁性粉末を含む非磁性層を介して磁性層を有していてもよい。非磁性層に使用される非磁性粉末は、無機物質の粉末でも有機物質の粉末でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質の粉末としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粉末が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2011-216149号公報の段落0146~0150を参照できる。非磁性層に使用可能なカーボンブラックについては、特開2010-24113号公報の段落0040および0041も参照できる。非磁性層における非磁性粉末の含有率(充填率)は、非磁性層の全質量に対して、好ましくは50~90質量%の範囲であり、より好ましくは60~90質量%の範囲である。
【0058】
非磁性層は、結合剤を含むことができ、添加剤を含むこともできる。非磁性層の結合剤、添加剤等のその他詳細については、非磁性層に関する公知技術を適用できる。また、例えば、結合剤の種類および含有量、添加剤の種類および含有量等に関しては、磁性層に関する公知技術も適用できる。
【0059】
本発明および本明細書において、非磁性層には、非磁性粉末とともに、例えば不純物として、または意図的に、少量の強磁性粉末を含む実質的に非磁性な層も包含されるものとする。ここで実質的に非磁性な層とは、この層の残留磁束密度が10mT以下であるか、保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下であるか、または、残留磁束密度が10mT以下であり、かつ保磁力が7.96kA/m(100Oe)以下である層をいうものとする。非磁性層は、残留磁束密度および保磁力を持たないことが好ましい。
【0060】
<非磁性支持体>
次に、非磁性支持体について説明する。非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する。)としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびポリアミドが好ましい。これらの支持体には、あらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、加熱処理等を行ってもよい。
【0061】
<バックコート層>
上記磁気記録媒体は、非磁性支持体の磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末を含むバックコート層を有することもでき、有さなくてもよい。バックコート層には、カーボンブラックおよび無機粉末の一方または両方が含有されていることが好ましい。バックコート層は、結合剤を含むことができ、添加剤を含むこともできる。バックコート層の結合剤および添加剤については、バックコート層に関する公知技術を適用することができ、磁性層および/または非磁性層の処方に関する公知技術を適用することもできる。例えば、特開2006-331625号公報の段落0018~0020および米国特許第7,029,774号明細書の第4欄65行目~第5欄38行目の記載を、バックコート層について参照できる。
【0062】
<各種厚み>
磁気テープの厚み(総厚)に関して、近年の情報量の莫大な増大に伴い、磁気記録媒体には記録容量を高めること(高容量化)が求められている。テープ状の磁気記録媒体(即ち磁気テープ)について、高容量化のための手段としては、磁気テープの厚みを薄くし、磁気テープカートリッジ1巻あたりに収容される磁気テープ長を増すことが挙げられる。この点から、上記磁気テープの厚み(総厚)は、5.6μm以下であることが好ましく、5.5μm以下であることがより好ましく、5.4μm以下であることが更に好ましく、5.3μm以下であることが一層好ましく、5.2μm以下であることがより一層好ましい。また、ハンドリングの容易性の観点からは、磁気テープの厚みは3.0μm以上であることが好ましく、3.5μm以上であることがより好ましい。
【0063】
磁気テープの厚み(総厚)は、以下の方法によって測定することができる。
磁気テープの任意の部分からサンプル(例えば長さ5~10cm)を10枚切り出し、これらサンプルを重ねて厚みを測定する。測定された厚みを10分の1して得られた値(サンプル1枚当たりの厚み)を、総厚とする。上記厚み測定は、0.1μmオーダーでの厚み測定が可能な公知の測定器を用いて行うことができる。
【0064】
非磁性支持体の厚みは、好ましくは3.0~5.0μmである。
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量、ヘッドギャップ長、記録信号の帯域等に応じて最適化することができ、一般には0.01μm~0.15μmであり、高密度記録化の観点から、好ましくは0.02μm~0.12μmであり、更に好ましくは0.03μm~0.1μmである。磁性層は少なくとも一層あればよく、磁性層を異なる磁気特性を有する二層以上に分離してもかまわず、公知の重層磁性層に関する構成が適用できる。二層以上に分離する場合の磁性層の厚みとは、これらの層の合計厚みとする。
非磁性層の厚みは、例えば0.1~1.5μmであり、0.1~1.0μmであることが好ましい。
バックコート層の厚みは、0.9μm以下であることが好ましく、0.1~0.7μmであることが更に好ましい。
磁性層の厚み等の各種厚みは、以下の方法により求めることができる。
磁気テープの厚み方向の断面を、イオンビームにより露出させた後、露出した断面において走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡によって断面観察を行う。断面観察において任意の2箇所において求められた厚みの算術平均として、各種厚みを求めることができる。または、各種厚みは、製造条件等から算出される設計厚みとして求めることもできる。
【0065】
<製造工程>
(各層形成用組成物の調製)
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための組成物は、先に記載した各種成分とともに、通常、溶媒を含む。溶媒としては、塗布型磁気記録媒体の製造に通常用いられる各種溶媒の1種または2種以上を用いることができる。各層形成用組成物の溶媒含有量は特に限定されるものではない。溶媒については、特開2011-216149号公報の段落0153を参照できる。各層形成用組成物の固形分濃度および溶媒組成は、組成物のハンドリング適性、塗布条件および形成しようとする各層の厚みに対応させて適宜調整すればよい。磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための組成物を調製する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含むことができる。個々の工程はそれぞれ二段階以上に分かれていてもよい。各層形成用組成物の調製に用いられる各種成分は、どの工程の最初または途中で添加してもよい。また、個々の成分を2つ以上の工程で分割して添加してもよい。例えば、結合剤を、混練工程、分散工程および分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。上記磁気テープの製造工程では、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程では、オープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダ等の強い混練力をもつものを使用することができる。混練工程の詳細については、特開平1-106338号公報および特開平1-79274号公報に記載されている。分散機としては、ビーズミル、ボールミル、サンドミルまたはホモミキサー等のせん断力を利用する各種の公知の分散機を使用することができる。分散には、好ましくは分散ビーズを用いることができる。分散ビーズとしては、セラミックビーズ、ガラスビーズ等が挙げられ、ジルコニアビーズが好ましい。2種以上のビーズを組み合わせて使用してもよい。分散ビーズのビーズ径(粒径)およびビーズ充填率は、特に限定されるものではなく、分散対象の粉末に応じて設定すればよい。各層形成用組成物を、塗布工程に付す前に公知の方法によってろ過してもよい。ろ過は、例えばフィルタろ過によって行うことができる。ろ過に用いるフィルタとしては、例えば孔径0.01~3μmのフィルタ(例えばガラス繊維製フィルタ、ポリプロピレン製フィルタ等)を用いることができる。
【0066】
(塗布工程、冷却工程、加熱乾燥工程)
磁性層は、磁性層形成用組成物を、非磁性支持体上に直接塗布するか、または非磁性層形成用組成物と逐次もしくは同時に重層塗布することにより形成することができる。各層形成のための塗布の詳細については、特開2010-231843号公報の段落0066を参照できる。
【0067】
先に記載した通り、上記磁気テープは、一形態では、非磁性支持体と磁性層との間に非磁性層を有することができる。かかる磁気テープは、好ましくは、逐次重層塗布により製造することができる。逐次重層塗布を行う製造工程は、好ましくは次のように実施することができる。非磁性層を、非磁性層形成用組成物を非磁性支持体上に塗布することにより塗布層を形成する塗布工程、形成した塗布層を加熱処理により乾燥させる加熱乾燥工程を経て形成する。そして形成された非磁性層上に磁性層形成用組成物を塗布することにより塗布層を形成する塗布工程、形成した塗布層を加熱処理により乾燥させる加熱乾燥工程を経て、磁性層を形成する。
【0068】
かかる逐次重層塗布を行う製造方法の非磁性層形成工程において、非磁性層形成用組成物を用いて塗布工程を行って塗布層を形成し、かつ塗布工程と加熱乾燥工程との間に、塗布層を冷却する冷却工程を行うことは、テープ幅変形の非線形成分を低減するために好ましいと本発明者は考えている。
【0069】
以下、上記磁気テープの製造工程の一例を、
図8に基づき説明する。ただし本発明は、下記の例に限定されるものではない。
【0070】
図8は、非磁性支持体の一方の面に非磁性層と磁性層とをこの順に有し、他方の面にバックコート層を有する磁気テープを製造する工程の一例を示す工程概略図である。
図8に示す例では、非磁性支持体(長尺フィルム)を、送り出し部から送り出し巻取り部で巻取る操作を連続的に行い、かつ
図8に示されている各部または各ゾーンにおいて塗布、乾燥、配向等の各種処理を行うことにより、走行する非磁性支持体上の一方の面に非磁性層および磁性層を逐次重層塗布により形成し、他方の面にバックコート層を形成することができる。
図8に示す例は、冷却ゾーンを含む点以外は、塗布型磁気記録媒体の製造のために通常行われる製造工程と同様にすることができる。
【0071】
送り出し部から送り出された非磁性支持体上には、第一の塗布部において、非磁性層形成用組成物の塗布が行われる(非磁性層形成用組成物の塗布工程)。
【0072】
上記塗布工程後、冷却ゾーンにおいて、塗布工程で形成された非磁性層形成用組成物の塗布層が冷却される(冷却工程)。例えば、上記塗布層を形成した非磁性支持体を冷却雰囲気中に通過させることにより、冷却工程を行うことができる。冷却雰囲気の雰囲気温度は、好ましくは-10℃~0℃の範囲とすることができ、より好ましくは-5℃~0℃の範囲とすることができる。冷却工程を行う時間(例えば、塗布層の任意の部分が冷却ゾーンに搬入されてから搬出されるまでの時間(以下において、「滞在時間」ともいう。)は特に限定されるものではない。滞在時間を長くするほど、テープ幅変形の非線形成分を低減できる傾向がある。冷却工程では、冷却した気体を塗布層表面に吹き付けてもよい。
【0073】
冷却ゾーンの後、第一の加熱処理ゾーンでは、冷却工程後の塗布層を加熱することにより、塗布層を乾燥させる(加熱乾燥工程)。加熱乾燥処理は、冷却工程後の塗布層を有する非磁性支持体を加熱雰囲気中に通過させることにより行うことができる。ここでの加熱雰囲気の雰囲気温度、ならびに、後述する第二の加熱処理ゾーンにおける加熱乾燥工程および第三の加熱処理ゾーンにおける加熱乾燥工程における加熱雰囲気の雰囲気温度を「乾燥温度」とも呼ぶ。各加熱処理ゾーンにおける乾燥温度を高くすることは、テープ幅変形の非線形成分を低減することに寄与し得る。この点から、各加熱処理ゾーンにおける乾燥温度は、95℃以上であることが好ましく、100℃以上であることがより好ましい。また、各加熱処理ゾーンにおける乾燥温度は、例えば140℃以下または130℃以下とすることができ、ここに挙げた温度より高温であることもできる。また任意に、加熱した気体を塗布層表面に吹き付けてもよい。
【0074】
次に、第二の塗布部において、第一の加熱処理ゾーンにて加熱乾燥工程を行い形成された非磁性層上に、磁性層形成用組成物が塗布される(磁性層形成用組成物の塗布工程)。
【0075】
その後、配向処理を行う形態では、磁性層形成用組成物の塗布層が湿潤状態にあるうちに、配向ゾーンにおいて塗布層中の強磁性粉末の配向処理が行われる。配向処理については、特開2010-231843号公報の段落0067の記載をはじめとする各種公知技術を適用することができる。例えば、垂直配向処理は、異極対向磁石を用いる方法等の公知の方法によって行うことができる。配向ゾーンでは、乾燥風の温度、風量および/または配向ゾーンにおける磁気テープの搬送速度によって塗布層の乾燥速度を制御することができる。また、配向ゾーンに搬送する前に塗布層を予備乾燥させてもよい。
【0076】
配向処理後の塗布層は、第二の加熱処理ゾーンにおいて加熱乾燥工程に付される。
【0077】
次いで、第三の塗布部において、非磁性支持体の非磁性層および磁性層が形成された面とは反対側の面に、バックコート層形成用組成物が塗布されて塗布層が形成される(バックコート層形成用組成物の塗布工程)。その後、第三の加熱処理ゾーンにおいて、上記塗布層を加熱処理し乾燥させる。
【0078】
以上の工程により、非磁性支持体の一方の面に非磁性層および磁性層をこの順に有し、他方の面にバックコート層を有する磁気テープを得ることができる。
【0079】
(その他の工程)
磁気テープの製造工程では、通常、磁気テープの表面平滑性を高めるためにカレンダ処理が行われる。カレンダ処理条件を強化することは、テープ幅変形の非線形成分を低減することに寄与し得る。カレンダ処理条件の強化の具体例としては、カレンダ圧力を高くすること、カレンダ温度を高くすること、カレンダ速度を低速にすること等を挙げることができる。カレンダ処理条件について、カレンダ圧力(線圧)は、好ましくは300~500kN/m、より好ましくは310~350kN/mであり、カレンダ温度(カレンダロールの表面温度)は、好ましくは95~120℃、より好ましくは100~120℃であり、カレンダ速度は、好ましくは50~75m/分である。
磁気テープ製造のためのその他の各種工程については、特開2010-231843号公報の段落0067~0070を参照できる。
各種工程を経ることによって、長尺状の磁気テープ原反を得ることができる。得られた磁気テープ原反は、公知の裁断機によって、例えば、磁気テープカートリッジに収容すべき磁気テープの幅に裁断(スリット)される。上記の幅は規格にしたがい決定でき、通常、1/2インチである。1インチ=2.54cmである。
スリットして得られた磁気テープには、通常、サーボパターンが形成される。
【0080】
(サーボパターンの形成)
「サーボパターンの形成」は、「サーボ信号の記録」ということもできる。以下に、サーボパターンの形成について説明する。
【0081】
サーボパターンは、通常、磁気テープの長手方向に沿って形成される。サーボ信号を利用する制御(サーボ制御)の方式としては、タイミングベースサーボ(TBS)、アンプリチュードサーボ、周波数サーボ等が挙げられる。
【0082】
ECMA(European Computer Manufacturers Association)―319(June 2001)に示される通り、LTO(Linear Tape-Open)規格に準拠した磁気テープ(一般に「LTOテープ」と呼ばれる。)では、タイミングベースサーボ方式が採用されている。このタイミングベースサーボ方式において、サーボパターンは、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(「サーボストライプ」とも呼ばれる。)が、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置されることによって構成されている。本発明および本明細書において、「タイミングベースサーボパターン」とは、タイミングベースサーボ方式のサーボシステムにおけるヘッドトラッキングを可能とするサーボパターンをいう。上記のように、サーボパターンが互いに非平行な一対の磁気ストライプにより構成される理由は、サーボパターン上を通過するサーボ信号読み取り素子に、その通過位置を教えるためである。具体的には、上記の一対の磁気ストライプは、その間隔が磁気テープの幅方向に沿って連続的に変化するように形成されており、サーボ信号読み取り素子がその間隔を読み取ることによって、サーボパターンとサーボ信号読み取り素子との相対位置を知ることができる。この相対位置の情報が、データトラックのトラッキングを可能にする。そのために、サーボパターン上には、通常、磁気テープの幅方向に沿って、複数のサーボトラックが設定されている。
【0083】
サーボバンドは、磁気テープの長手方向に連続するサーボパターンにより構成される。このサーボバンドは、通常、磁気テープに複数本設けられる。例えば、LTOテープにおいて、その数は5本である。隣接する2本のサーボバンドに挟まれた領域が、データバンドである。データバンドは、複数のデータトラックで構成されており、各データトラックは、各サーボトラックに対応している。
【0084】
また、一形態では、特開2004-318983号公報に示されているように、各サーボバンドには、サーボバンドの番号を示す情報(「サーボバンドID(identification)」または「UDIM(Unique DataBand Identification Method)情報」とも呼ばれる。)が埋め込まれている。このサーボバンドIDは、サーボバンド中に複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のものを、その位置が磁気テープの長手方向に相対的に変位するように、ずらすことによって記録されている。具体的には、複数ある一対のサーボストライプのうちの特定のもののずらし方を、サーボバンド毎に変えている。これにより、記録されたサーボバンドIDはサーボバンド毎にユニークなものとなるため、一つのサーボバンドをサーボ信号読み取り素子で読み取るだけで、そのサーボバンドを一意に(uniquely)特定することができる。
【0085】
なお、サーボバンドを一意に特定する方法には、ECMA―319(June 2001)に示されているようなスタッガード方式を用いたものもある。このスタッガード方式では、磁気テープの長手方向に連続的に複数配置された、互いに非平行な一対の磁気ストライプ(サーボストライプ)の群を、サーボバンド毎に磁気テープの長手方向にずらすように記録する。隣接するサーボバンド間における、このずらし方の組み合わせは、磁気テープ全体においてユニークなものとされているため、2つのサーボ信号読み取り素子によりサーボパターンを読み取る際に、サーボバンドを一意に特定することも可能となっている。
【0086】
また、各サーボバンドには、ECMA―319(June 2001)に示されている通り、通常、磁気テープの長手方向の位置を示す情報(「LPOS(Longitudinal Position)情報」とも呼ばれる。)も埋め込まれている。このLPOS情報も、UDIM情報と同様に、一対のサーボストライプの位置を、磁気テープの長手方向にずらすことによって記録されている。ただし、UDIM情報とは異なり、このLPOS情報では、各サーボバンドに同じ信号が記録されている。
【0087】
上記のUDIM情報およびLPOS情報とは異なる他の情報を、サーボバンドに埋め込むことも可能である。この場合、埋め込まれる情報は、UDIM情報のようにサーボバンド毎に異なるものであってもよいし、LPOS情報のようにすべてのサーボバンドに共通のものであってもよい。
また、サーボバンドに情報を埋め込む方法としては、上記以外の方法を採用することも可能である。例えば、一対のサーボストライプの群の中から、所定の対を間引くことによって、所定のコードを記録するようにしてもよい。
【0088】
サーボパターン形成用ヘッドは、サーボライトヘッドと呼ばれる。サーボライトヘッドは、通常、上記一対の磁気ストライプに対応した一対のギャップを、サーボバンドの数だけ有する。通常、各一対のギャップには、それぞれコアとコイルが接続されており、コイルに電流パルスを供給することによって、コアに発生した磁界が、一対のギャップに漏れ磁界を生じさせることができる。サーボパターンの形成の際には、サーボライトヘッド上に磁気テープを走行させながら電流パルスを入力することによって、一対のギャップに対応した磁気パターンを磁気テープに転写させて、サーボパターンを形成することができる。各ギャップの幅は、形成されるサーボパターンの密度に応じて適宜設定することができる。各ギャップの幅は、例えば、1μm以下、1~10μm、10μm以上等に設定可能である。
【0089】
磁気テープにサーボパターンを形成する前には、磁気テープに対して、通常、消磁(イレース)処理が施される。このイレース処理は、直流磁石または交流磁石を用いて、磁気テープに一様な磁界を加えることによって行うことができる。イレース処理には、DC(Direct Current)イレースとAC(Alternating Current)イレースとがある。ACイレースは、磁気テープに印加する磁界の方向を反転させながら、その磁界の強度を徐々に下げることによって行われる。一方、DCイレースは、磁気テープに一方向の磁界を加えることによって行われる。DCイレースには、更に2つの方法がある。第一の方法は、磁気テープの長手方向に沿って一方向の磁界を加える、水平DCイレースである。第二の方法は、磁気テープの厚み方向に沿って一方向の磁界を加える、垂直DCイレースである。イレース処理は、磁気テープ全体に対して行ってもよいし、磁気テープのサーボバンド毎に行ってもよい。
【0090】
形成されるサーボパターンの磁界の向きは、イレースの向きに応じて決まる。例えば、磁気テープに水平DCイレースが施されている場合、サーボパターンの形成は、磁界の向きがイレースの向きと反対になるように行われる。これにより、サーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号の出力を、大きくすることができる。なお、特開2012-53940号公報に示されている通り、垂直DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、単極パルス形状となる。一方、水平DCイレースされた磁気テープに、上記ギャップを用いた磁気パターンの転写を行った場合、形成されたサーボパターンが読み取られて得られるサーボ信号は、双極パルス形状となる。
【0091】
<垂直方向角型比>
一形態では、上記磁気テープの垂直方向角型比は、例えば0.55以上であることができ、0.60以上であることが好ましい。上記磁気テープの垂直方向角型比が0.60以上であることは、電磁変換特性向上の観点から好ましい。角型比の上限は、原理上、1.00以下である。上記磁気テープの垂直方向角型比は、1.00以下であることができ、0.95以下、0.90以下、0.85以下または0.80以下であることができる。磁気テープの垂直方向角型比の値が大きいことは、電磁変換特性向上の観点から好ましい。磁気テープの垂直方向角型比は、垂直配向処理の実施等の公知の方法によって制御することができる。
【0092】
本発明および本明細書において、「垂直方向角型比」とは、磁気テープの垂直方向において測定される角型比である。角型比に関して記載する「垂直方向」とは、磁性層表面と直交する方向であり、厚み方向ということもできる。本発明および本明細書において、垂直方向角型比は、以下の方法によって求められる。
測定対象の磁気テープから振動試料型磁力計に導入可能なサイズのサンプル片を切り出す。このサンプル片について、振動試料型磁力計を用いて、最大印加磁界3979kA/m、測定温度296K、磁界掃引速度8.3kA/m/秒にて、サンプル片の垂直方向(磁性層表面と直交する方向)に磁界を印加し、印加した磁界に対するサンプル片の磁化強度を測定する。磁化強度の測定値は、反磁界補正後の値として、かつ振動試料型磁力計のサンプルプローブの磁化をバックグラウンドノイズとして差し引いた値として得るものとする。最大印加磁界における磁化強度をMs、印加磁界ゼロにおける磁化強度をMrとしたとき、角型比SQ(Squareness Ratio)は、SQ=Mr/Msとして算出される値である。測定温度はサンプル片の温度をいい、サンプル片の周囲の雰囲気温度を測定温度にすることにより、温度平衡が成り立つことによってサンプル片の温度を測定温度にすることができる。
【0093】
[磁気テープカートリッジ]
本発明の一態様は、上記磁気テープを含む磁気テープカートリッジに関する。
【0094】
上記磁気テープカートリッジに含まれる磁気テープの詳細は、先に記載した通りである。上記磁気テープカートリッジは、磁気ヘッドを備えた磁気テープ装置に装着させ、データの記録および/または再生を行うために用いることができる。
【0095】
磁気テープカートリッジでは、一般に、カートリッジ本体内部に磁気テープがリールに巻取られた状態で収容されている。リールは、カートリッジ本体内部に回転可能に備えられている。磁気テープカートリッジとしては、カートリッジ本体内部にリールを1つ具備する単リール型の磁気テープカートリッジおよびカートリッジ本体内部にリールを2つ具備する双リール型の磁気テープカートリッジが広く用いられている。単リール型の磁気テープカートリッジは、磁気テープへのデータの記録および/または再生のために磁気テープ装置に装着されると、磁気テープカートリッジから磁気テープが引き出されて磁気テープ装置側のリールに巻取られる。磁気テープカートリッジから巻取りリールまでの磁気テープ搬送経路には、磁気ヘッドが配置されている。磁気テープカートリッジ側のリール(供給リール)と磁気テープ装置側のリール(巻取りリール)との間で、磁気テープの送り出しと巻取りが行われる。例えば、この間に磁気ヘッドと磁気テープの磁性層表面とが接触し摺動することにより、データの記録および/または再生が行われる。これに対し、双リール型の磁気テープカートリッジには、供給リールと巻取りリールの両リールが、磁気テープカートリッジ内部に具備されている。
【0096】
上記磁気テープカートリッジは、一形態では、カートリッジメモリを含むことができる。カートリッジメモリは、例えば不揮発メモリであることができ、一形態では、ヘッド傾き角度調整情報が既に記録されているか、またはヘッド傾き角度調整情報が記録される。ヘッド傾き角度調整情報は、磁気テープ装置内での磁気テープ走行中、ヘッド傾き角度を調整するための情報である。例えば、ヘッド傾き角度調整情報としては、データ記録時の磁気テープの長手方向の各位置におけるサーボバンド間隔の値を記録することができる。例えば、磁気テープに記録されたデータを再生する際、再生時にサーボバンド間隔の値を測定し、カートリッジメモリに記録された同じ長手位置における記録時のサーボバンド間隔との差分の絶対値が0に近づくように、磁気テープ装置の制御装置によってヘッド傾き角度を変化させることができる。ヘッド傾き角度は、例えば先に記載した角度θであることができる。
【0097】
上記磁気テープおよび磁気テープカートリッジは、異なるヘッド傾き角度でデータの記録および/または再生を行う磁気テープ装置(換言すれば磁気記録再生システム)において、好適に使用され得る。かかる磁気テープ装置では、一形態では、磁気テープ走行中にヘッド傾き角度を変化させてデータの記録および/または再生を行うことができる。例えば、ヘッド傾き角度を、磁気テープ走行中に取得される磁気テープの幅方向の寸法情報に応じて変化させることができる。また、例えば、ある回の記録および/または再生におけるヘッド傾き角度と次の回以降の記録および/または再生におけるヘッド傾き角度とを変えたうえで、各回の記録および/または再生のための磁気テープ走行中にはヘッド傾き角度を変化させず固定する使用形態もあり得る。
【0098】
[磁気テープ装置]
本発明の一態様は、上記磁気テープを含む磁気テープ装置に関する。上記磁気テープ装置において、磁気テープへのデータの記録および/または磁気テープに記録されたデータの再生は、例えば、磁気テープの磁性層表面と磁気ヘッドとを接触させて摺動させることにより行うことができる。
【0099】
一形態では、磁気テープは取り外し可能な媒体(いわゆる可換媒体)として扱われ、磁気テープを収容した磁気テープカートリッジが磁気テープ装置に挿入され、取り出される。他の一形態では、磁気テープは可換媒体として扱われず、磁気ヘッドを備えた磁気テープ装置のリールに磁気テープが巻取られ、磁気テープ装置内に磁気テープが収容される。
【0100】
本発明および本明細書において、「磁気テープ装置」とは、磁気テープへのデータの記録および磁気テープに記録されたデータの再生の少なくとも一方を行うことができる装置を意味するものとする。かかる装置は、一般にドライブと呼ばれる。
【0101】
<磁気ヘッド>
上記磁気テープ装置は、磁気ヘッドを含むことができる。磁気ヘッドの構成およびヘッド傾き角度である角度θについては、先に
図5~
図7を参照して説明した通りである。磁気ヘッドが再生素子を含む場合、再生素子としては、磁気テープに記録された情報を感度よく読み取ることができる磁気抵抗効果型(MR:Magnetoresistive)素子が好ましい。MR素子としては、公知の各種MR素子(例えば、GMR(Giant Magnetoresistive)素子、TMR(Tunnel Magnetoresistive)素子等)を用いることができる。以下において、データの記録および/または記録されたデータの再生を行う磁気ヘッドを、「記録再生ヘッド」とも呼ぶ。データの記録のための素子(記録素子)とデータの再生のための素子(再生素子)を、「磁気ヘッド素子」と総称する。
【0102】
データの記録および/または記録されたデータの再生の際には、まず、サーボ信号を用いたトラッキングを行うことができる。即ち、サーボ信号読み取り素子を所定のサーボトラックに追従させることによって、磁気ヘッド素子が、目的とするデータトラック上を通過するように制御することができる。データトラックの移動は、サーボ信号読み取り素子が読み取るサーボトラックを、テープ幅方向に変更することにより行われる。
また、記録再生ヘッドは、他のデータバンドに対する記録および/または再生を行うことも可能である。その際には、先に記載したUDIM情報を利用してサーボ信号読み取り素子を所定のサーボバンドに移動させ、そのサーボバンドに対するトラッキングを開始すればよい。
【0103】
図9に、データバンドおよびサーボバンドの配置例を示す。
図9中、磁気テープMTの磁性層には、複数のサーボバンド1が、ガイドバンド3に挟まれて配置されている。2本のサーボバンドに挟まれた複数の領域2が、データバンドである。サーボパターンは、磁化領域であって、サーボライトヘッドにより磁性層の特定の領域を磁化することによって形成される。サーボライトヘッドにより磁化する領域(サーボパターンを形成する位置)は規格により定められている。例えば業界標準規格であるLTO Ultriumフォーマットテープには、磁気テープ製造時に、
図10に示すようにテープ幅方向に対して傾斜した複数のサーボパターンが、サーボバンド上に形成される。詳しくは、
図10中、サーボバンド1上のサーボフレームSFは、サーボサブフレーム1(SSF1)およびサーボサブフレーム2(SSF2)から構成される。サーボサブフレーム1は、Aバースト(
図10中、符号A)およびBバースト(
図10中、符号B)から構成される。AバーストはサーボパターンA1~A5から構成され、BバーストはサーボパターンB1~B5から構成される。一方、サーボサブフレーム2は、Cバースト(
図10中、符号C)およびDバースト(
図10中、符号D)から構成される。CバーストはサーボパターンC1~C4から構成され、DバーストはサーボパターンD1~D4から構成される。このような18本のサーボパターンが5本と4本のセットで、5、5、4、4、の配列で並べられたサブフレームに配置され、サーボフレームを識別するために用いられる。
図10には、説明のために1つのサーボフレームを示した。ただし、実際には、タイミングベースサーボ方式のヘッドトラッキングが行われる磁気テープの磁性層には、各サーボバンドに、複数のサーボフレームが走行方向に配置されている。
図10中、矢印は磁気テープ走行方向を示している。例えば、LTO Ultriumフォーマットテープは、通常、磁性層の各サーボバンドに、テープ長1mあたり5000以上のサーボフレームを有する。
【0104】
一形態では、上記磁気テープ装置において、磁気テープ装置内での磁気テープの走行中、ヘッド傾き角度を変化させることができる。ヘッド傾き角度は、例えば、磁気テープの幅方向に対して素子アレイの軸線がなす角度θである。角度θについては、先に説明した通りである。例えば、磁気ヘッドの記録再生ヘッドユニットに磁気ヘッドのモジュールの角度を調整する角度調整部を設けることによって、磁気テープ走行中に角度θを可変に調整することができる。かかる角度調整部は、例えばモジュールを回転させる回転機構を含むことができる。角度調整部については、公知技術を適用できる。
【0105】
磁気テープ走行中のヘッド傾き角度について、磁気ヘッドに複数のモジュールが含まれる場合には、無作為に選択したモジュールについて、
図5~
図7を参照して説明した角度θを規定することができる。磁気テープ走行開始時の角度θであるθ
initialは、0°以上または0°超に設定することができる。θ
initialが大きいほど、角度θの変化量に対するサーボ信号読み取り素子間実効距離の変化量は大きくなるため、磁気テープの幅方向の寸法変化に対応させてサーボ信号読み取り素子間実効距離を調整する調整能力の点から好ましい。この点からは、θ
initialは、1°以上であることが好ましく、5°以上であることがより好ましく、10°以上であることが更に好ましい。一方、磁気テープが走行して磁気ヘッドと接触する際に磁性層表面と磁気ヘッドの接触面とがなす角度(一般に、「ラップ角」と呼ばれる。)については、テープ幅方向に関する偏差を小さく保つことが、磁気テープ走行中に磁気ヘッドと磁気テープとが接触して生じる摩擦のテープ幅方向における均一性を高めるうえで有効である。また、上記の摩擦のテープ幅方向における均一性を高めることは、磁気ヘッドの位置追随性および走行安定性の観点から望ましい。上記のラップ角のテープ幅方向における偏差を小さくする観点からは、θ
initialは、45°以下であることが好ましく、40°以下であることがより好ましく、35°以下であることが更に好ましい。
【0106】
磁気テープ走行中の角度θの変化について、磁気テープへのデータの記録のために、および/または、磁気テープに記録されたデータの再生のために、磁気テープ装置において磁気テープが走行している間、磁気ヘッドの角度θが走行開始時のθinitialから変化する場合、磁気テープ走行中の角度θの最大変化量Δθは、以下の式によって算出されるΔθmaxとΔθminとの中で、より大きな値である。磁気テープ走行中の角度θの最大値がθmaxであり、最小値がθminである。なお、「max」はmaximumの略称であり、「min」はminimumの略称である。
Δθmax=θmax-θinitial
Δθmin=θinitial-θmin
【0107】
一形態では、Δθは、0.000°超であることができ、磁気テープの幅方向の寸法変化に対応させてサーボ信号読み取り素子間実効距離を調整する調整能力の観点からは0.001°以上であることが好ましく、0.010°以上であることがより好ましい。また、データの記録時および/または再生時、複数の磁気ヘッド素子間で記録データおよび/または再生データの同期を確保する容易性の観点からは、Δθは、1.000°以下であることが好ましく、0.900°以下であることがより好ましく、0.800°以下であることが更に好ましく、0.700°以下であることが一層好ましく、0.600°以下であることがより一層好ましい。
【0108】
図6および
図7に示す例では、素子アレイの軸線は、磁気テープ走行方向に向かって傾いている。ただし、本発明は、かかる例に限定されない。上記磁気テープ装置において、素子アレイの軸線が、磁気テープ走行方向と反対の方向に向かって傾く実施形態も本発明に包含される。
【0109】
磁気テープ走行開始時のヘッド傾き角度であるθ
initialは、磁気テープ装置の制御装置等によって設定することができる。
磁気テープ走行中のヘッド傾き角度に関して、
図11は、磁気テープ走行中の角度θの測定方法の説明図である。磁気テープ走行中の角度θは、例えば以下の方法によって求めることができる。以下の方法によって磁気テープ走行中の角度θを求める場合、磁気テープ走行中、角度θは、0~90°の範囲で変化させるものする。即ち、磁気テープ走行開始時に素子アレイの軸線が磁気テープ走行方向に向かって傾いていたならば、磁気テープ走行中、素子アレイの軸線が磁気テープ走行開始時の磁気テープ走行方向と反対の方向に向かって傾くように素子アレイを傾けることはなく、磁気テープ走行開始時に素子アレイの軸線が磁気テープ走行方向と反対の方向に向かって傾いていたならば、磁気テープ走行中、素子アレイの軸線が磁気テープ走行開始時の磁気テープ走行方向に向かって傾くように素子アレイを傾けることはないものとする。
一対のサーボ信号読み取り素子1および2の再生信号の位相差(即ち時間差)ΔTを計測する。ΔTの計測は、磁気テープ装置に備えられている計測部によって行うことができる。かかる計測部の構成は公知である。サーボ信号読み取り素子1の中央部とサーボ信号読み取り素子2の中央部との間の距離Lは、光学顕微鏡等によって測定することができる。磁気テープの走行速度が速度vのときに、上記2つのサーボ信号読み取り素子の中央部の磁気テープ走行方向における距離は、Lsinθであり、Lsinθ=v×ΔTの関係が成り立つ。したがって、磁気テープ走行中の角度θは、「θ=arcsin(vΔT/L)」の式によって算出できる。なお、
図11右図には、素子アレイの軸線が磁気テープ走行方向に向かって傾いている例を示した。この例では、サーボ信号読み取り素子1の再生信号の位相に対するサーボ信号読み取り素子2の再生信号の位相の位相差(即ち時間差)ΔTを計測する。素子アレイの軸線が磁気テープの走行方向と反対方向に向かって傾いている場合には、サーボ信号読み取り素子2の再生信号の位相に対するサーボ信号読み取り素子1の再生信号の位相の位相差(即ち時間差)としてΔTを計測する点以外、上記方法によってθを求めることができる。
なお、角度θの測定ピッチ、即ち、テープ長手方向に関する角度θの測定間隔は、テープ長手方向に関するテープ幅変形の周波数に応じて適したピッチを選定することができる。一例として、測定ピッチは例えば250μmとすることができる。
【0110】
<磁気テープ装置の構成>
図12に示す磁気テープ装置10は、制御装置11からの命令により記録再生ヘッドユニット12を制御し、磁気テープMTへのデータの記録および再生を行う。
磁気テープ装置10は、磁気テープカートリッジリールと巻取りリールを回転制御するスピンドルモーター17A、17Bおよびそれらの駆動装置18A、18Bから磁気テープの長手方向に加わるテンションの検出および調整が可能な構成を有している。
磁気テープ装置10は、磁気テープカートリッジ13を装填可能な構成を有している。
磁気テープ装置10は、磁気テープカートリッジ13内のカートリッジメモリ131について読み取りおよび書き込みが可能なカートリッジメモリリードライト装置14を有している。
磁気テープ装置10に装着された磁気テープカートリッジ13からは、磁気テープMTの端部またはリーダーピンが自動のローディング機構または手動により引き出され、磁気テープMTの磁性層表面が記録再生ヘッドユニット12の記録再生ヘッド表面に接する向きでガイドローラー15A、15Bを通して記録再生ヘッド上をパスし、磁気テープMTが巻取りリール16に巻取られる。
制御装置11からの信号によりスピンドルモーター17Aとスピンドルモーター17Bの回転およびトルクが制御され、磁気テープMTが任意の速度とテンションで走行される。テープ速度の制御およびヘッド傾き角度の制御には、磁気テープ上に予め形成されたサーボパターンを利用することができる。テンションの検出のために、磁気テープカートリッジ13と巻取りリール16との間にテンション検出機構を設けてもよい。テンションの制御は、スピンドルモーター17Aおよび17Bによる制御の他に、ガイドローラー15Aおよび15Bを用いて行ってもよい。
カートリッジメモリリードライト装置14は、制御装置11からの命令により、カートリッジメモリ131の情報の読み出しと書き込みが可能に構成されている。カートリッジメモリリードライト装置14とカートリッジメモリ131との間の通信方式としては、例えば、ISO(International Organization for Standardization)14443方式を採用できる。
【0111】
制御装置11は、例えば、制御部、記憶部、通信部等を含む。
【0112】
記録再生ヘッドユニット12は、例えば、記録再生ヘッド、記録再生ヘッドのトラック幅方向の位置を調整するサーボトラッキングアクチュエータ、記録再生アンプ19、制御装置11と接続するためのコネクタケーブル等から構成される。記録再生ヘッドは、例えば、磁気テープにデータを記録する記録素子、磁気テープのデータを再生する再生素子および磁気テープ上に記録されたサーボ信号を読み取るサーボ信号読み取り素子から構成される。1つの磁気ヘッド内に、記録素子、再生素子、サーボ信号読み取り素子は、例えば、それぞれ1個以上搭載されている。または、磁気テープの走行方向に応じた複数の磁気ヘッド内に別々にそれぞれの素子を有していてもよい。
【0113】
記録再生ヘッドユニット12は、制御装置11からの命令に応じて、磁気テープMTに対してデータを記録することが可能に構成されている。また、制御装置11からの命令に応じて、磁気テープMTに記録されたデータを再生することが可能に構成されている。
【0114】
制御装置11は、磁気テープMTの走行時にサーボバンドから読み取られるサーボ信号から磁気テープの走行位置を求め、狙いの走行位置(トラック位置)に記録素子および/または再生素子が位置するように、サーボトラッキングアクチュエータを制御する機構を有している。このトラック位置の制御は、例えば、フィードバック制御により行われる。制御装置11は、磁気テープMTの走行時に隣り合う2本のサーボバンドから読み取られるサーボ信号から、サーボバンド間隔を求める機構を有している。制御装置11は、求めたサーボバンド間隔の情報を、制御装置11の内部の記憶部、カートリッジメモリ131、外部の接続機器等に保存することができる。また、制御装置11は、ヘッド傾き角度を、走行中の磁気テープの幅方向の寸法情報に応じて変化させることができる。これにより、サーボ信号読み取り素子間実効距離を、サーボバンドの間隔に近くするか一致させることができる。上記寸法情報は、磁気テープ上に予め形成されたサーボパターンを利用して取得することができる。例えばこうして、磁気テープ装置内での磁気テープの走行中、磁気テープの幅方向に対して素子アレイの軸線がなす角度θを、走行中に取得される磁気テープの幅方向の寸法情報に応じて変化させることができる。ヘッド傾き角度の調整は、例えば、フィードバック制御により行うことができる。また、例えば、ヘッド傾き角度の調整は、特開2016-524774号公報(特許文献1)またはUS2019/0164573A1(特許文献2)に記載の方法によって行うこともできる。
【実施例0115】
以下に、本発明を実施例に基づき説明する。ただし、本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。以下に記載の「部」および「%」は、それぞれ、「質量部」および「質量%」を示す。また、以下に記載の工程および評価は、特記しない限り、温度23℃±1℃の環境において行った。以下に記載の「eq」は、当量( equivalent)であり、SI単位に換算不可の単位である。
【0116】
[強磁性粉末]
表1中、「BaFe」は、六方晶バリウムフェライト粉末(保磁力Hc:196kA/m、平均粒子サイズ(平均板径)24nm)である。
【0117】
表1中、「SrFe1」は、以下の方法により作製された六方晶ストロンチウムフェライト粉末である。
SrCO3を1707g、H3BO3を687g、Fe2O3を1120g、Al(OH)3を45g、BaCO3を24g、CaCO3を13g、およびNd2O3を235g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで溶融温度1390℃で溶融し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ローラーで圧延急冷して非晶質体を作製した。
作製した非晶質体280gを電気炉に仕込み、昇温速度3.5℃/分にて635℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持して六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、ガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gおよび濃度1%の酢酸水溶液800mlを加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の平均粒子サイズは18nm、活性化体積は902nm3、異方性定数Kuは2.2×105J/m3、質量磁化σsは49A・m2/kgであった。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって部分溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子の表層部含有率を求めた。
別途、上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって全溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子のバルク含有率を求めた。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の鉄原子100原子%に対するネオジム原子の含有率(バルク含有率)は、2.9原子%であった。また、ネオジム原子の表層部含有率は8.0原子%であった。表層部含有率とバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は2.8であり、ネオジム原子が粒子の表層に偏在していることが確認された。
上記で得られた粉末が六方晶フェライトの結晶構造を示すことは、CuKα線を電圧45kVかつ強度40mAの条件で走査し、下記条件でX線回折パターンを測定すること(X線回折分析)により確認した。上記で得られた粉末は、マグネトプランバイト型(M型)の六方晶フェライトの結晶構造を示した。また、X線回折分析により検出された結晶相は、マグネトプランバイト型の単一相であった。
PANalytical X‘Pert Pro回折計、PIXcel検出器
入射ビームおよび回折ビームのSollerスリット:0.017ラジアン
分散スリットの固定角:1/4度
マスク:10mm
散乱防止スリット:1/4度
測定モード:連続
1段階あたりの測定時間:3秒
測定速度:毎秒0.017度
測定ステップ:0.05度
【0118】
表1中、「SrFe2」は、以下の方法により作製された六方晶ストロンチウムフェライト粉末である。
SrCO3を1725g、H3BO3を666g、Fe2O3を1332g、Al(OH)3を52g、CaCO3を34g、BaCO3を141g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで溶融温度1380℃で溶融し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ローラーで圧延急冷して非晶質体を作製した。
得られた非晶質体280gを電気炉に仕込み、645℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持し六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、ガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gおよび濃度1%の酢酸水溶液800mlを加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の平均粒子サイズは19nm、活性化体積は1102nm3、異方性定数Kuは2.0×105J/m3、質量磁化σsは50A・m2/kgであった。
【0119】
表1中、「ε-酸化鉄」は、以下の方法により作製されたε-酸化鉄粉末である。
純水90gに、硝酸鉄(III)9水和物8.3g、硝酸ガリウム(III)8水和物1.3g、硝酸コバルト(II)6水和物190mg、硫酸チタン(IV)150mg、およびポリビニルピロリドン(PVP)1.5gを溶解させたものを、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、大気雰囲気中、雰囲気温度25℃の条件下で、濃度25%のアンモニア水溶液4.0gを添加し、雰囲気温度25℃の温度条件のまま2時間撹拌した。得られた溶液に、クエン酸1gを純水9gに溶解させて得たクエン酸溶液を加え、1時間撹拌した。撹拌後に沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で乾燥させた。
乾燥させた粉末に純水800gを加えて再度粉末を水に分散させて分散液を得た。得られた分散液を液温50℃に昇温し、撹拌しながら濃度25%アンモニア水溶液を40g滴下した。50℃の温度を保ったまま1時間撹拌した後、テトラエトキシシラン(TEOS)14mLを滴下し、24時間撹拌した。得られた反応溶液に、硫酸アンモニウム50gを加え、沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で24時間乾燥させ、強磁性粉末の前駆体を得た。
得られた強磁性粉末の前駆体を、大気雰囲気下、炉内温度1000℃の加熱炉内に装填し、4時間の加熱処理を施した。
加熱処理した強磁性粉末の前駆体を、4mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に投入し、液温を70℃に維持して24時間撹拌することにより、加熱処理した強磁性粉末の前駆体から不純物であるケイ酸化合物を除去した。
その後、遠心分離処理により、ケイ酸化合物を除去した強磁性粉末を採集し、純水で洗浄を行い、強磁性粉末を得た。
得られた強磁性粉末の組成を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES:Inductively Coupled Plasma-Optical Emission Spectrometry)により確認したところ、Ga、CoおよびTi置換型ε-酸化鉄(ε-Ga0.28Co0.05Ti0.05Fe1.62O3)であった。また、先にSrFe1について記載した条件と同様の条件でX線回折分析を行い、X線回折パターンのピークから、得られた強磁性粉末が、α相およびγ相の結晶構造を含まない、ε相の単相の結晶構造(ε-酸化鉄の結晶構造)を有することを確認した。
得られたε-酸化鉄粉末の平均粒子サイズは12nm、活性化体積は746nm3、異方性定数Kuは1.2×105J/m3、質量磁化σsは16A・m2/kgであった。
【0120】
上記の六方晶ストロンチウムフェライト粉末およびε-酸化鉄粉末の活性化体積および異方性定数Kuは、各強磁性粉末について、振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて、先に記載の方法により求められた値である。
また、質量磁化σsは、振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて磁場強度15kOeで測定された値である。
【0121】
[実施例1]
(1)磁性層形成用組成物の処方
(磁性液)
強磁性粉末(表1参照):100.0部
分散剤:表1参照
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂:14.0部
重量平均分子量:70,000、SO3Na基:0.4meq/g
シクロヘキサノン:150部
メチルエチルケトン:150部
(研磨剤液A)
アルミナ研磨剤(平均粒子サイズ:100nm):3.0部
スルホン酸基含有ポリウレタン樹脂:0.3部
重量平均分子量:70,000、SO3Na基:0.3meq/g
シクロヘキサノン:26.7部
(研磨剤液B)
ダイヤモンド研磨剤(平均粒子サイズ:100nm):1.0部
スルホン酸基含有ポリウレタン樹脂:0.1部
重量平均分子量:70,000、SO3Na基:0.3meq/g
シクロヘキサノン:26.7部
(シリカゾル)
コロイダルシリカ(平均粒子サイズ:100nm):0.2部
メチルエチルケトン:1.4部
(その他の成分)
ステアリン酸:2.0部
ブチルステアレート:10.0部
ポリイソシアネート(日本ポリウレタン社製コロネート):2.5部
シクロヘキサノン:200.0部
メチルエチルケトン:200.0部
【0122】
上記分散剤は、特開2019-169225号公報において、実施例1の磁性層形成用組成物の成分として記載されている化合物(ポリアルキレンイミン鎖およびビニルポリマー鎖を有する化合物)である。磁性層形成用組成物の成分として、上記化合物の合成後に得られた反応溶液を使用した。後掲の表1に示されている磁性層の分散剤の含有量は、かかる反応溶液中の上記化合物の量である。
【0123】
(2)非磁性層形成用組成物の処方
非磁性無機粉末(α-酸化鉄):100.0部
平均粒子サイズ(平均長軸長):10nm
平均針状比:1.9
BET(Brunauer-Emmett-Teller)比表面積:75m2/g
カーボンブラック:25.0部
平均粒子サイズ:20nm
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂:18部
重量平均分子量:70,000、SO3Na基:0.2meq/g
ステアリン酸:1.0部
シクロヘキサノン:300.0部
メチルエチルケトン:300.0部
【0124】
(3)バックコート層形成用組成物の処方
カーボンブラック:100.0部
キャボット社製BP-800、平均粒子サイズ:17nm
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂(SO3Na基:70eq/ton):20.0部
OSO3K基含有塩化ビニル樹脂(OSO3K基:70eq/ton):30.0部
シクロヘキサノン:140.0部
メチルエチルケトン:170.0部
ブチルステアレート:2.0部
ステアリン酸アミド:0.1部
【0125】
(4)各層形成用組成物の調製
磁性層形成用組成物については、磁性液の上記成分をバッチ式縦型サンドミルを用いて24時間分散させ、磁性液を調製した。分散ビーズとしては、ビーズ径0.5mmのジルコニアビーズを使用した。
研磨剤液については、研磨剤液Aおよび研磨剤液Bの上記成分をそれぞれバッチ型超音波装置(20kHz、300W)で24時間分散させ、研磨剤液Aおよび研磨剤液Bを得た。
磁性液、研磨剤液Aおよび研磨剤液Bを、上記のシリカゾルおよびその他の成分と混合後、バッチ型超音波装置(20kHz、300W)で30分間分散処理を行った。その後、0.5μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過し、磁性層形成用組成物を調製した。
非磁性層形成用組成物については、上記成分をバッチ式縦型サンドミルを用いて、24時間分散した。分散ビーズとしては、ビーズ径0.1mmのジルコニアビーズを使用した。得られた分散液を0.5μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過し、非磁性層形成用組成物を調製した。
バックコート層形成用組成物については、上記成分を連続ニーダで混練した後、サンドミルを用いて分散させた。得られた分散液にポリイソシアネート40.0部(日本ポリウレタン工業社製コロネートL)、メチルエチルケトン1000.0部を添加した後、1μmの孔径を有するフィルタを用いてろ過し、バックコート層形成用組成物を調製した。
【0126】
(5)磁気テープの作製
図8に示す製造工程にしたがって磁気テープを作製した。詳しくは、次の通りとした。
厚み4.1μmのポリエチレンナフタレート製支持体を送り出し部から送り出し、一方の表面に、第一の塗布部において乾燥後の厚みが0.7μmになるように非磁性層形成用組成物を塗布して塗布層を形成した。形成した塗布層が湿潤状態にあるうちに雰囲気温度0℃に調整した冷却ゾーンに表1に示す滞在時間で通過させて冷却工程を行い、その後に表1に示す乾燥温度(雰囲気温度、以下同様)の第一の加熱処理ゾーンを通過させ加熱乾燥工程を行い非磁性層を形成した。
その後、第二の塗布部において乾燥後の厚みが0.1μmになるように上記で調製した磁性層形成用組成物を非磁性層上に塗布し塗布層を形成した。この塗布層が湿潤状態にあるうちに配向ゾーンにおいて磁場強度0.3Tの磁場を、磁性層形成用組成物の塗布層表面に対し垂直方向に印加し垂直配向処理を行った後、表1に示す乾燥温度の第二の加熱処理ゾーンにて乾燥させた。
その後、第三の塗布部において、上記ポリエチレンナフタレート製支持体の非磁性層および磁性層を形成した表面とは反対の表面に乾燥後の厚みが0.3μmになるように上記で調製したバックコート層形成用組成物を非磁性支持体表面に塗布して塗布層を形成し、形成した塗布層を表1に示す乾燥温度の第三の加熱処理ゾーンにて乾燥させた。
その後、金属ロールのみから構成されるカレンダロールを用いて、表1に示すカレンダ処理条件でカレンダ処理(表面平滑化処理)を行った。
その後、雰囲気温度70℃の環境で36時間加熱処理を行った。加熱処理後1/2インチ幅にスリットして磁気テープを作製した。
作製した磁気テープの磁性層を消磁した状態で、磁性層に市販のサーボライターによってサーボ信号を記録することにより、LTO(Linear Tape-Open) Ultriumフォーマットにしたがう配置でデータバンド、サーボバンド、およびガイドバンドを有し、かつサーボバンド上にLTO Ultriumフォーマットにしたがう配置および形状のサーボパターン(タイミングベースサーボパターン)を有する磁気テープを得た。こうして形成されたサーボパターンは、JIS(Japanese Industrial Standards) X6175:2006およびStandard ECMA-319(June 2001)の記載にしたがうサーボパターンである。サーボバンドの合計本数は5、データバンドの合計本数は4である。 こうしてサーボ信号が記録された磁気テープ(長さ960m)を作製した。
【0127】
[実施例2~14、比較例1~5]
表1に示す項目を表1に示すように変更した点以外、実施例1について記載した方法によって磁気テープを得た。 表1中、冷却ゾーン滞在時間の欄に「なし」と記載されている比較例では、非磁性層形成工程に冷却ゾーンを含まない製造工程により磁気テープを作製した。
【0128】
各実施例および各比較例について、長さ960mの磁気テープを3つ作製し、それぞれを下記(1)~(3)の評価のために使用した。
【0129】
[評価方法]
(1)テープ幅変形の非線形成分
実施例および比較例の各磁気テープについて、先に記載した方法によって、温度60℃相対湿度20%の環境下での10日間保管によって生じるテープ幅変形の非線形成分の測定を行った。
【0130】
(2)磁気テープの総厚(テープ厚み)
実施例および比較例の各磁気テープの任意の部分からテープサンプル(長さ5cm)を10枚切り出し、これらテープサンプルを重ねて厚みを測定した。厚みの測定は、MARH社製Millimar 1240コンパクトアンプとMillimar 1301誘導プローブのデジタル厚み計を用いて行った。測定された厚みを10分の1して得られた値(テープサンプル1枚当たりの厚み)を、テープ厚みとした。いずれの磁気テープについても、テープ厚みは、5.2μmであった。
【0131】
(3)記録再生性能
実施例および比較例の各磁気テープについて、以下の方法によって記録再生性能の評価を行った。
磁気ヘッドとしては、一対のサーボ信号読み取り素子の間に再生素子幅が0.2μm以下の再生素子を10チャンネル以上有する素子アレイを含む再生用モジュールと、一対のサーボ信号読み取り素子の間に記録素子幅が再生素子幅の1.5倍以上の記録素子を10チャンネル以上有する素子アレイを含む記録用モジュールと、を備えた磁気ヘッドを用いた。上記素子アレイにおいて、隣り合う2つの素子(即ち、隣り合う2つの再生素子および隣り合う2つの記録素子)のヘッド幅方向における間隔は40μm以上ある。
データの記録および再生を行う環境は、温度が20~25℃であって相対湿度が40~60%とした。かかる環境下に、磁気テープおよび磁気ヘッドをテープ搬送系(リールテスター)に取り付けた磁気テープ装置を24時間以上配置した後にデータの記録および再生を行った。磁気テープ装置のテープ搬送系に取り付ける記録再生アンプとしては、先にテープ幅変形の非線形成分の測定について記載した記録再生アンプとする。データの記録時および再生時には、先に記載したサーボフォロイングおよび動的なトラック位置の制御(ヘッド傾き角度の変化)を実施した。データの記録および再生は、詳しくは、以下のように実施した。
磁気テープを5m/秒の一定速度で走行させながら、記録素子によって信号の記録を行った。記録するビット系列は生成多項式x^8+x^6+x^5+x^4+1にしたがって生成された255bitの疑似ランダムビット系列(PRBS:Pseudo Random Bit Sequence)を用いた。記号「^」は、べき乗を表す。線記録密度は600kbpiとした。単位「kbpi」は線記録密度の単位(SI単位系に換算不可)である。隣接トラック間の(PES1+PES2)/2の差が再生トラック幅の1.5倍となるように3トラック以上のシングル(Shingled)記録を行った。
磁気テープ上に記録された磁化パターンは直後の再生素子(即ち、同じチャンネル番号の再生素子)で再生され、再生アンプによって信号増幅される。再生信号は、PLL(Phase Lock Loop)とAGC(Auto Gain Control)の処理の後、DD-NPML(Data Dependent Noise Predictive Maximum Likelihood)信号処理に基づいてビット系列に復号化される。記録したビット系列と再生および復号したビット系列を1ビットごとに比較していき、両者が異なるビットだった場合、1ビットのエラーが発生したとカウントする。10Mbitに亘ってデータを比較し、積算のエラービットカウントを10Mbitで除した値を、ビットエラーレートと定義した。記録直後の再生信号について、すべてのチャンネルにおいて1/1000以下のビットエラーレートであることを確認した。
次に、磁気テープを、上記リールテスターのリールに巻かれた状態で、温度60℃相対湿度20%の環境下に10日間保管した。
上記保管後、保管環境から磁気テープを取り出して、保管前に用いた磁気テープ装置と同じ磁気テープ装置に取り付けた状態で温度が20~25℃であって相対湿度が40~60%の環境下に24時間以上配置した後、同環境下で、保管前に記録したデータトラックの再生を行った(記録は行わない)。この際、両側にデータトラックが記録されたデータトラックに対してのみ再生を行った。全チャンネルのビットエラーレートの計算を行い、ビットエラーレートが1/100以上になったチャンネルを不良チャンネルとして、以下の評価基準によって記録再生性能を評価した。
(評価基準)
A:全チャンネル数に対する不良チャンネル数の割合が5%未満
B:全チャンネル数に対する不良チャンネル数の割合が5%以上かつ10%未満
C:全チャンネル数に対する不良チャンネル数の割合が10%以上
【0132】
以上の結果を表1(表1-1~表1-3)に示す。
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
表1に示すように、実施例の磁気テープは、比較例の磁気テープと比べて、長期保管相当の加速環境下で保管された後、優れた記録再生性能を示した。この結果から、実施例の磁気テープが、ドライブ(磁気テープ装置)の動作安定性向上に寄与したことが確認できる。
【0137】
磁気テープ作製時に垂直配向処理を行わなかった点以外、実施例1について記載した方法で磁気テープを作製した。
上記磁気テープからサンプル片を切り出した。このサンプル片について、振動試料型磁力計として玉川製作所製TM-TRVSM5050-SMSL型を用いて、先に記載した方法によって垂直方向角型比を求めたところ、0.55であった。
実施例1の磁気テープから切り出したサンプル片について同様に垂直方向角型比を求めたところ、0.60であった。
【0138】
上記2つの磁気テープを、それぞれ1/2インチリールテスターに取り付け、以下の方法によって電磁変換特性(SNR:Signal-to-Noise Ratio)を評価した。その結果、実施例1の磁気テープについて、垂直配向処理なしで作製された上記磁気テープと比べて、2dB高いSNRの値が得られた。
温度23℃相対湿度50%の環境において、磁気テープの長手方向に0.7N(ニュートン)のテンションをかけて記録および再生を10パス行った。磁気テープと磁気ヘッドとの相対速度は6m/秒とし、記録は、記録ヘッドとしてMIG(Metal-in-gap)ヘッド(ギャップ長0.15μm、トラック幅1.0μm)を使用し、記録電流を各磁気テープの最適記録電流に設定して行った。再生は、再生ヘッドとしてGMR(Giant-magnetoresistive)ヘッド(素子厚み15nm、シールド間隔0.1μm、再生素子幅0.8μm)を使用して行った。ヘッド傾き角度は0°とした。線記録密度300kfciの信号を記録し、再生信号をシバソク社製のスペクトラムアナライザーで測定した。単位kfciとは、線記録密度の単位(SI単位系に換算不可)である。信号としては、磁気テープ走行開始後に信号が十分に安定した部分を使用した。