(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156762
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】光ファイバケーブル
(51)【国際特許分類】
G02B 6/44 20060101AFI20231018BHJP
【FI】
G02B6/44 366
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066305
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】安冨 徹也
【テーマコード(参考)】
2H201
【Fターム(参考)】
2H201AX20
2H201BB06
2H201BB07
2H201BB08
2H201BB31
2H201BB60
2H201BB67
2H201BB68
2H201BB76
2H201DD06
2H201DD13
2H201KK08
2H201KK34A
2H201KK67
2H201KK72
2H201MM02
(57)【要約】
【課題】 軽量であり、取り扱い性に優れた光ファイバケーブルを提供する。
【解決手段】 複数の光ファイバ心線3が撚り合わせられて光ファイバユニット6が形成され、複数の光ファイバユニット6がさらに撚り合わせられて、コア5が形成される。光ファイバケーブル1の長手方向に垂直な断面において、コア5の外周には、コア5を中心として互いに対向する部位には、テンションメンバ9が設けられる。コア5(複数の光ファイバ心線3)及びテンションメンバ9等を覆うように外被13が設けられる。外被13の外形は略円形である。ここで、外被13は、1層の高密度ポリエチレン製の発泡樹脂からなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光ファイバ心線からなる光ファイバユニットが撚り合わせられて形成されたコアと、
光ファイバケーブルの長手方向に垂直な断面において、前記コアを中心に対向する部位に設けられるテンションメンバと、
前記コア及び前記テンションメンバを覆うように設けられる外被と、
を具備し、
前記外被が、1層の高密度ポリエチレン製の発泡樹脂からなることを特徴とする光ファイバケーブル。
【請求項2】
前記発泡樹脂の気泡の体積比率が29%以上61%以下であることを特徴とする請求項1記載の光ファイバケーブル。
【請求項3】
前記外被のヤング率が、810MPa以上1170MPa以下であることを特徴とする請求項1記載の光ファイバケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の光ファイバ心線からなる光ファイバケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバケーブルとしては、多数の光ファイバ心線からなるコアと、コアの外周に配置されたテンションメンバとが、外被で被覆されたものが用いられている(例えば特許文献1)。このような光ファイバケーブルは、一対のテンションメンバがコアを中心として対向する位置に配置される。
【0003】
また、コアを挟んで対向する位置にテンションメンバを配置し、このテンションメンバを結ぶ線と垂直方向にも、同様のテンションメンバを配置した光ファイバケーブルが提案されている(特許文献2)。すなわち、互いに直交する方向に、コアを挟んでそれぞれテンションメンバを配置した光ファイバケーブルが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-157062号公報
【特許文献2】特開2020-204752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光ファイバケーブルは、テンションメンバが外被に埋め込まれている。このため、側圧や衝撃等の外圧に対するテンションメンバ部分の外被の強度を上げるために、必然的にテンションメンバ部分の外被厚を厚くする必要がある。例えば、少なくともテンションメンバの外径以上に外被の厚みを厚くせざるを得なかった。
【0006】
特に、スロットレス型の光ファイバケーブルは、内部の光ファイバ心線が、スロットロッドあるいはチューブと言った高強度部材に保護されていないため、コアが柔らかい。このため、光ファイバケーブルに側圧、衝撃等の外圧が付加されると外被が容易に変形し、光ファイバの損失増加につながる。このため、テンションメンバ部分以外についても、十分な外被の厚みが必要であった。このため、一般的には3~5mm程度の外被厚が施され、この結果、光ファイバケーブルの重量の大半を外被が占め、ケーブルが重くなるという課題があった。
【0007】
一方、外被が厚くなると引き裂き用の紐で外被を切裂く際、紐が破断して外被を切裂けなくなるおそれがある。このため、外被には直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)あるいは低密度ポリエチレン(LDPE)といった柔らかい材料を使うことが一般的である。しかし、それでも低温(例えば-10℃)で外被を切裂こうとすると、切り裂き時の荷重が大きくなり、作業性が悪いと言った課題があった。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、軽量であり、取り扱い性に優れた光ファイバケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達するために本発明は、複数の光ファイバ心線からなる光ファイバユニットが撚り合わせられて形成されたコアと、光ファイバケーブルの長手方向に垂直な断面において、前記コアを中心に対向する部位に設けられるテンションメンバと、前記コア及び前記テンションメンバを覆うように設けられる外被と、を具備し、前記外被が、1層の高密度ポリエチレン製の発泡樹脂からなることを特徴とする光ファイバケーブルである。
【0010】
前記発泡樹脂の気泡の体積比率が29%以上61%以下であってもよい。
【0011】
前記外被のヤング率が、810MPa以上1170MPa以下であってもよい。
【0012】
本発明によれば、外被を発泡樹脂で構成するため、軽量である。また、外被を従来では切り裂き性や可撓性のため、あまり使用されることのない高密度ポリエチレン製とすることで、発泡樹脂とした際の強度低下をベース樹脂で補うことができる。また、外被が1層であるため(例えば異なる樹脂が積層された複数層ではないため)、製造性が良好であり、切り裂き性も良好である。
【0013】
例えば、従来の低密度ポリエチレン製の外被では、前述したように重量増の問題がある。しかし、低密度ポリエチレンを発泡させたのでは、側圧等に対して十分な強度を得ることができない。
【0014】
一方、高密度ポリエチレンは低密度ポリエチレンと比較して硬いため、切り裂き性や可撓性などの通常取り扱い性が劣化する。しかし、高密度ポリエチレンを発泡させることで、適度な強度と取り扱い性を確保しつつ軽量を達成することができる。
【0015】
特に、発泡樹脂の気泡の体積率が29%以上61%以下であれば、切り裂き性が良好であり、側圧に対する損失増加も効率よく抑制することができる。
【0016】
また、外被のヤング率が、810MPa以上1170MPa以下であれば、上述した効果をより確実に得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、軽量であり、取り扱い性に優れた光ファイバケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、第1の実施形態について説明する。
図1は、光ファイバケーブル1の断面図である。光ファイバケーブル1は、スロットを用いないスロットレス型ケーブルであり、コア5、テンションメンバ9、引き裂き紐11、外被13等により構成される。
【0020】
コア5は、複数の光ファイバ心線3からなる。より詳細には、複数の光ファイバ心線3が撚り合わせられて光ファイバユニット6が形成され、複数の光ファイバユニット6がさらに撚り合わせられて、コア5が形成される。なお、光ファイバ心線3は、例えば、長手方向に対して間欠的に接着された、間欠接着型の光ファイバテープ心線であってもよい。
【0021】
図1に示すように、コア5(複数の光ファイバ心線3)の外周には、押さえ巻き7が設けられる。押さえ巻き7は、テープ状の部材や不織布等であり、例えば縦添え巻きによってコア5の外周を一括して覆うように配置される。すなわち、押さえ巻き7の長手方向が光ファイバケーブル1の軸方向と略一致し、押さえ巻き7の幅方向が光ファイバケーブル1の周方向となるようにコア5の外周に縦添え巻きされる。なお、押さえ巻き7は必ずしも必須ではなく、また、押さえ巻き7を含めてコア5と呼ぶ場合がある。
【0022】
光ファイバケーブル1の長手方向に垂直な断面において、コア5の外周には、コア5を中心として互いに対向する部位には、テンションメンバ9が設けられる。テンションメンバ9は、光ファイバケーブル1の張力を負担する部材である。
【0023】
なお、図示した例では、コア5を中心として互いに対向するように、4対(計8本)のテンションメンバ9が配置される。このように、複数対のテンションメンバ9を一定の間隔で配置することで、必要な張力を多数のテンションメンバで分散して受け持つことができるため、1本当たりのテンションメンバ径を小さくすることができる。このため、テンションメンバ9は、複数対(3対以上)等間隔で配置することが望ましい。
【0024】
なお、テンションメンバ9の材質は特に限定されないが、例えば、アラミド繊維、ガラス繊維等による繊維補強プラスチック(FRP)等が使用できる。
【0025】
また、テンションメンバ9とは異なる周方向位置であって、コア5を挟んで互いに対向する位置には引き裂き紐11が設けられる。また、コア5の外周には、外被13が設けられる。テンションメンバ9および引き裂き紐11は、外被13に埋設される。すなわち、コア5(複数の光ファイバ心線3)及びテンションメンバ9等を覆うように外被13が設けられる。外被13の外形は略円形である。
【0026】
ここで、外被13は、1層の高密度ポリエチレン製の発泡樹脂からなる。なお、外被13が1層であるとは、異なる種類(材質の違いや、発泡部と非発泡部の違い等)が存在せず、全体が略均一な構成であることをいう。すなわち、外被13は略全体が発泡体で構成される。このため、いわゆる2層押出等が不要である。
【0027】
発泡樹脂の気泡の体積比率(発泡率)は、29%以上61%以下であることが望ましい。気泡の体積率が小さすぎると軽量化の効果が小さい。また、気泡の体積率が大きすぎると、側圧による損失増加が大きくなる。なお、外被13の気泡の体積率は、外被13のベース樹脂(高密度ポリエチレン)の比重と外被13(発泡樹脂)の比重の比から算出可能である。
【0028】
ここで、前述したように、外被13は1層で形成され、気泡は外被13の全体に略均一に分布するが、部分的に気泡の少ない領域を形成してもよい。例えば、テンションメンバ9の界面部分や、コア5の界面部分においては、わずかに気泡の量を減らしてもよい。このようにすることで、コア5やテンションメンバ9と外被13とをより確実に密着させることができる。
【0029】
例えば、コア5やテンションメンバ9の界面近傍での気泡体積率を、他の部位に対して5%程度低くしてもよい。なお、部分的な気泡量については、各部の断面観察において樹脂部分と気泡部分との面積率から算出することができる。
【0030】
このように、部分的に気泡量の少ない分布を形成するためには、外被を押し出した後に、水冷するまでの時間を調整すればよい。通常、冷却時間を十分に取ると略均一な気泡分布となる。しかし、樹脂押出から冷却までの時間をやや短めにすることで、樹脂を押し出した際のコア5及びテンションメンバ9の温度によって樹脂がわずかに冷却され、部分的に発泡を遅らせることができる。このため、気泡分布が均一になるよりも少し早めに冷却を開始することで、前述したような気泡分布を形成することができる。
【0031】
一方、樹脂押出から冷却までの時間が短すぎると、十分な発泡を起こすことができなくなる。このため、外被13の全体として適量な気泡を発生させつつ、テンションメンバ9等の界面近傍での気泡の発生が遅れているタイミングで冷却することが望ましい。
【0032】
なお、外被のヤング率は、810MPa以上1170MPa以下であることが望ましい。ヤング率が低すぎると、側圧による損失が増加する。また、ヤング率が大きすぎると、引き裂き紐による切り裂き性が悪くなるとともに、可撓性が悪くなる。
【0033】
以上説明したように、本実施の形態によれば、外被13を発泡樹脂で構成するため、軽量であり、引き裂き紐による切り裂き作業も容易である。また、外被13が高密度ポリエチレン製であるため、発泡樹脂としても、側圧に対して損失増大を抑制することができる。
【0034】
特に、発泡率を適切に設定することで、引き裂き紐による切り裂き性を向上させることができるとともに、側圧に対する損失増大を抑制することができる。
【実施例0035】
外被の構成を変化させた種々の光ファイバケーブルについて評価した。まず、直径200umのITU-T G.657.A1準拠の光ファイバ12本を間欠的に接着し12心の間欠テープを作成し、それを6本束ね、2mm幅のプラスチックテープを巻付けた72心のユニットを構成した。
【0036】
次に、72心のユニットを8本サプライし、撚り合わせた上で、吸水性不織布を縦添えし、フォーミング治具で丸めた上に、ナイロン製の押え糸を巻付け、576心のコアを作成した。こうして作成したコアと、φ1.0mmのガラスFRPを使用したテンションメンバ8本と、外被を切裂く切裂き紐の外周に外被材を円筒状に押出被覆し、シース後に水槽で約20℃に冷却して光ファイバケーブルを作成した。
【0037】
外被材は直鎖状低密度ポリエチレンあるいは高密度ポリエチレンをベース材として重曹系発泡剤を混合し、混合比率と押出機の設定温度等を調整し発泡率を変化させた。外被厚は3.5mmとした。切り裂き紐は、繊度830dtex×3本撚りのポリエステル撚糸とした。
【0038】
外被のベース材と発泡率(樹脂に対する気泡の体積比率)を変化させて、各種の光ファイバケーブルを作成した。得られた光ファイバケーブルに対して、それぞれ、ケーブル重量と外被切り裂き性と側圧強度を比較した。
【0039】
外被切り裂き性は、ケーブルを-10℃の恒温槽内に1時間以上放置した後、その恒温槽内で外被を切り裂き、評価した。この際、1m裂いた際に途中で紐が切れてしまったものを×、引き裂き力が20kg以上であり作業性が悪かったものの紐が切れずに外被を裂けたものを△、引き裂き力が15kg以上20kg未満であり作業性が悪かったものの紐が切れずに外被を裂けたものを〇、引き裂き力が15kg未満で紐が切れずに容易に裂けたものを◎とした。
【0040】
側圧強度は2200N/100mmの側圧を付与した際の光ファイバの損失増加値の最大値で判断した。損失増加値が0.10dB以上のものを×、0.05dB以上0.10dB未満のものを△、0.02dB以上0.05dB未満のものを○、0.02dB未満のものを◎とした。結果を表1~表3に示す。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
結果より、実施例1~実施例10は、いずれもケーブル重量が150kg/km以下であった。また、外被の切り裂き性が、△以上の評価であり、側圧時の損失増加も△以上となった。さらに、発泡率(気泡体積率)が29%~61%の実施例2~実施例4及び実施例7~実施例9は、外被の切り裂き性及び側圧時の損失増加がいずれも○以上と良好であった。
【0045】
一方、比較例1、3、4は、外被が発泡樹脂ではないため、重量が165kg/km以上と重かった。また、比較例2は、外被のベース樹脂として従来の直鎖状低密度ポリエチレンを用いたため、側圧時の損失増大が×となった。
【0046】
また、比較例3は、外被に高密度ポリエチレンを用いたため、外被の切り裂き性が×となった。
【0047】
また、同様に、比較例4は、外被に高密度ポリエチレンを用いたため、外被の切り裂き性が×となった。
【0048】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。