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特開2023-156779パターニングポリマーゲル及びその作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023156779
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】パターニングポリマーゲル及びその作製方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/16 20060101AFI20231018BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20231018BHJP
   C08J 3/075 20060101ALI20231018BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20231018BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20231018BHJP
   B29C 64/129 20170101ALI20231018BHJP
【FI】
C08J7/16 CEZ
C08J5/00 CER
C08J3/075
B33Y10/00
B33Y80/00
B29C64/129
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022066342
(22)【出願日】2022-04-13
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(72)【発明者】
【氏名】林 幹大
(72)【発明者】
【氏名】福西 遥佳
【テーマコード(参考)】
4F070
4F071
4F073
4F213
【Fターム(参考)】
4F070AA32
4F070AA36
4F070AB11
4F070AB13
4F070AC12
4F071AA33
4F071AA35
4F071AB17A
4F071AE19A
4F071AF04
4F071AF08
4F071AF28
4F071AF52
4F071AG02
4F071AG10
4F071AG12
4F071AG15
4F071AH17
4F071AH19
4F071BA02
4F071BB12
4F071BC01
4F071BC08
4F071BC12
4F073AA01
4F073AA24
4F073BA18
4F073BB01
4F073CA45
4F073FA03
4F213AA44
4F213AB04
4F213AD05
4F213AD08
(57)【要約】
【課題】
大量の水を含むゲル材料は接着力が乏しいため、固体高分子フィルムとの複合化接着は困難という問題に対して、架橋フィルム中に箇所選択的にゲルを有するパターニングポリマーゲル及びその作製方法(光パターニング重合)を提供すること。
【解決手段】
一次重合部分5と、一次重合部分に結合する二次重合部分6、7と、を含むフィルム形状のパターニングポリマーゲル8であって、一次重合部分5と二次重合部分6、7とが交互に配列することによって、対向してフィルム形状をなす一方面11と他方面12の少なくても一つの面に凹凸形状を備えるパターニングポリマーゲル8である。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次重合部分と、前記一次重合部分に結合する二次重合部分と、を含むフィルム形状のパターニングポリマーゲルであって、一次重合部分と二次重合部分のうち何れか一方は疎水性部分であり、他方は親水性部分であり、前記一次重合部分と前記二次重合部分とが交互に配列することによって、対向してフィルム形状をなす一方面と他方面の少なくても一つの面に凹凸形状を備えることを特徴とするパターニングポリマーゲル。
【請求項2】
前記一方面と前記他方面がそれぞれ凹凸形状を備え、前記一方面の凹形状が前記他方面の凹形状に、前記一方面の凸形状が前記他方面の凸形状にそれぞれ対応することを特徴とする請求項1に記載のパターニングポリマーゲル。
【請求項3】
少なくても前記親水性部分が水を吸収することにより体積膨潤したことを特徴とする請求項1又は2に記載のパターニングポリマーゲル。
【請求項4】
第1モノマーの重合による一次重合部分を含む母材樹脂フィルムに、第2モノマーと重合開始剤を含浸させて第2モノマー含浸母材樹脂フィルムを作製する工程と、前記第2モノマー含浸母材樹脂フィルムに光照射型3Dプリンターによる光照射を行い、前記第2モノマーを重合させる工程とを、含み、一次重合部分と二次重合部分のうち何れか一方は疎水性部分であり、他方は親水性部分であることを特徴とするパターニングポリマーゲルの作製方法。
【請求項5】
前記光照射型3Dプリンターは紫外光照射型3Dプリンターであることを特徴とする請求項4に記載のパターニングポリマーゲルの作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターニングポリマーゲル及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子ゲルは、架橋高分子を、大量の溶媒を含ませる(膨潤させる)ことで調製される。構成ポリマーが親水性の場合、水で膨潤することが可能であり、このような材料はハイドロゲルと呼ばれる。従来のゲル材料では、材料全体が一様に膨潤されたものがほとんどである。
【0003】
高分子ゲルの形状・形態としては、代表的には例えば架橋フィルムが挙げられ、膨潤が材料全体で一様であれば、箇所選択的にゲルを作製することは困難である。
【0004】
特許文献1には、(メタ)アクリルアミド系化合物の重合体と、水膨潤性粘土鉱物とが複合化して形成された三次元網目を有する高分子ゲルであって、ゲル膨潤度が、局所的に異なることを特徴とする局所膨潤高分子ゲルが記載されている。
【0005】
非特許文献1には、3Dプリンターを用いたゲル調製の報告がある。非特許文献2は、弾性率パターニングを施したゲル調製の報告がある。一方で、非特許文献1・2には、親水・疎水ポリマーのパターニング試料調製や、部分ゲル作製についての記述はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-156405号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】E. Ergene, et al., ACS Appl. Polym. Mater. 2021, 3, 7, 3272-3277.
【非特許文献2】X. Liang, et al., Adv.Mater. 2021, 33, 2102011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
すなわち大量の水を含むゲル材料は接着力が乏しいため、固体高分子フィルムとの複合化接着は困難という問題があった。そこで、本発明では、架橋フィルム中に箇所選択的にゲルを有するパターニングポリマーゲル及びその作製方法(光パターニング重合)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は以下の通りである。
[1]一次重合部分と、一次重合部分に結合する二次重合部分と、を含むフィルム形状のパターニングポリマーゲルであって、一次重合部分と二次重合部分のうち何れか一方は疎水性部分であり、他方は親水性部分であり、一次重合部分と二次重合部分とが交互に配列することによって、対向してフィルム形状をなす一方面と他方面の少なくても一つの面に凹凸形状を備えることを特徴とするパターニングポリマーゲルである。
[2]一方面と他方面がそれぞれ凹凸形状を備え、一方面の凹形状が他方面の凹形状に、一方面の凸形状が他方面の凸形状にそれぞれ対応することを特徴とする[1]に記載のパターニングポリマーゲルである。
[3]少なくても親水性部分が水を吸収することにより体積膨潤したことを特徴とする[1]又は[2]に記載のパターニングポリマーゲルである。
[4]第1モノマーの重合による一次重合部分を含む母材樹脂フィルムに、第2モノマーと重合開始剤を含浸させて第2モノマー含浸母材樹脂フィルムを作製する工程と、第2モノマー含浸母材樹脂フィルムに光照射型3Dプリンターによる光照射を行い、第2モノマーを重合させる工程とを、含み、一次重合部分と二次重合部分のうち何れか一方は疎水性部分であり、他方は親水性部分であることを特徴とするパターニングポリマーゲルの作製方法である。
[5]光照射型3Dプリンターは紫外光照射型3Dプリンターであることを特徴とする[4]に記載のパターニングポリマーゲルの作製方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によるパターニングポリマーゲルによれば、架橋フィルム中に箇所選択的にゲルを有するポリマーゲルとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一つの実施形態である光パターニング重合の概略図(a)~(d)を、それぞれ示す図である。
図2】光パターニング重合の概略図(a-1)~(e-3)を、それぞれ示す別の図である。
図3】光パターニング重合によるフィルム形状のパターニングポリマーゲル(a)~(c)を、それぞれ模式的に示す図である。
図4】フィルム形状のパターニングポリマーゲルの母材樹脂作製に用いた化合物(a)~(d)を、それぞれ示す図である。
図5】フィルム形状のパターニングポリマーゲルのパターニング様式の寸法図例(a)、(b)を、それぞれ示す図である。
図6】フィルム形状のパターニングポリマーゲルの断面のSEMマッピング画像(a)~(d)を、それぞれ示す図である。
図7】パターニングポリマーゲルの作製例(a)~(d)を、それぞれ示す図である。
図8】パターニングポリマーゲルの自発的な屈曲(a)、(b)を、それぞれ示す図である。
図9】光パターニング重合による、別のフィルム形状のパターニングポリマーゲル(一方面に凸形状を備える)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0013】
図1(d)に示すように、本発明の一つの実施形態であるフィルム形状のパターニングポリマーゲル8は母材部(一次重合部分)5とUV照射部(二次重合部分)6、7を含む。
疎水性モノマーが重合した一次重合部分は、疎水性部分を形成することができ、一次重合部分でさらに親水性モノマーが重合した二次重合部分は親水性部分を形成することができる。一方、親水性モノマーが重合した一次重合部分は、親水性部分を形成することができ、一次重合部分でさらに疎水性モノマーが重合した二次重合部分は疎水性部分を形成することができる。
一般的にフィルムは、所定の厚みを有し、その厚み方向と略垂直に2つの略矩形の面(一方面11と他方面12)を有することに即して、母材部(一次重合部分)5、UV照射部(二次重合部分)6、7及びフィルム形状のパターニングポリマーゲル8を説明する次のようである。
【0014】
UV照射部(二次重合部分)6、7は、フィルム形状のパターニングポリマーゲル8の長辺と略平行に所定の幅と厚みを有して複数(同図では3つ)配置され、隣り合ったUV照射部(二次重合部分)6、7の間には母材部(一次重合部分)5が存在する。UV照射部(二次重合部分)6、7の厚さは、母材部(一次重合部分)5の厚さより厚い。そのため、フィルム形状のパターニングポリマーゲル8の略矩形の一方面11と他方面12は、それぞれ凹凸状(凹凸形状)を有する。そして、それぞれの凹凸状(凹凸形状)は、一方面11と他方面12とで対応している。すなわち一方面11の凹状は他方面12の凹状と対応し、一方面11の凸状は他方面12の凸状と対応する。
母材部5に注目すれば、母材部5がUV照射部6、7の間で一方面11から他方面12に貫通しているとも言える。
【0015】
母材部5はUV照射部6と、そしてUV照射部7とそれぞれ結合している。そのため、フィルム形状のパターニングポリマーゲル8は、架橋フィルム中に箇所選択的にゲルを有するパターニングポリマーゲルとなる。すなわち一次重合部分を形成するポリマー鎖と二次重合部分を形成するポリマー鎖とが化学的に連結している。
【0016】
フィルム形状のパターニングポリマーゲル8の作製方法は、母材樹脂フィルム3´へのモノマー4(第2モノマー)の含浸(母材樹脂フィルム3´は第2モノマー含浸母材樹脂フィルム3となる)と、好ましくは紫外光照射型3Dプリンターによる光Lを利用した箇所選択的な光重合という2ステップを介し行う技術(光パターニング重合)によるものである。さらに説明すると次のようであるが、光Lを箇所選択的に第2モノマー含浸母材樹脂フィルム3に照射する方法として、パソコン上で描いたデザインに沿って光透過箇所が作成された液晶パネル10を使用した方法により行う。
【0017】
図1(a)に示すように、光パターニング重合の構成1は、容器2に重合開始剤を含むモノマー(第2モノマー)溶液4が納められ、第1モノマーの重合による一次重合部分を含む母材樹脂フィルム3´が作製されることにより構成される。モノマー溶液4への浸漬により、母材樹脂フィルム3´は膨潤して第2モノマー含浸母材樹脂フィルム3となる。
光源9からのUV光は、好ましくは複数のスリットを有する液晶パネル10を介して、第2モノマー含浸母材樹脂フィルム3に照射される。そのため、第2モノマー含浸樹脂フィルム3に箇所選択的にUV照射が行われ、UV照射が行われた箇所の樹脂内部で第2モノマーの重合による二次重合が起こり(同(b))、その箇所はUV照射部である二次重合部分6´、7´となる。
【0018】
一方、UV照射が行われず二次重合が起こらない箇所(一次重合部分)では、第2モノマーは未反応モノマーとして母材樹脂フィルム3に残留して、第2モノマー含浸母材樹脂フィルム3は、二次重合部分6´、7´と一次重合部分5´を備える、フィルム形状のパターニングポリマーゲル(未反応モノマーを含む)8´となる(同(c))。その後、フィルム形状のパターニングポリマーゲル(未反応モノマーを含む)8´から未反応モノマーを除去して、フィルム形状のパターニングポリマーゲル8を得ることができる。
【0019】
フィルム形状のパターニングポリマーゲル(未反応モノマーを含む)8´から未反応モノマーが除去されると、図1(d)に示すように、二次重合が起こらなかった母材部(一次重合部分)5の高さ方向の寸法は、未反応モノマーが除去されたことにより、一次重合部分5´と対比して小さくなる。一方、二次重合部分6、7の高さ方向の寸法は、二次重合が起こっているため、未反応モノマーが除去されても、二次重合部分6´、7´と対比してほとんど変化しない寸法である。
その結果、一次重合部分5の高さ方向の寸法は、二次重合部分6、7の高さ方向の寸法と比較して小さくなるため、フィルム形状のパターニングポリマーゲル8は一方面11と他方面12に凹凸状を有することになる。
【0020】
図2は、図1で説明した第2モノマー14を図示したものであり、光Lを第2モノマー含浸母材樹脂フィルム3に箇所選択的に照射するため、光照射型3Dプリンター9を使用している。同(a-2)に示すように、第1重合部分を含む母材樹脂フィルム3´は、第2モノマー14を含む(含浸する)母材樹脂フィルム3となる(なお、以下の説明において特に断らない限り、同じ記号を付したものは同じ機能を有するものである)。
【0021】
光照射型3Dプリンター9は、モノマーの光ラジカル重合性およびラジカル発生のための吸収波長の観点から、紫外光照射型が好ましい。その場合光Lは紫外光である。そして、次のような特徴を有することができる。光照射箇所のデザインは、モデリングソフト((1)AutoDesk社、Fusion360 (2) RobertMcNeel & Associates社、Rhinoceros) で可能であり、そのデザインは液晶パネル上に転写される。液晶パネルでは、パソコン上で描いたデザインに沿って光透過箇所が作成され、光透過箇所を通り抜けた紫外光が母材樹脂フィルム3に投影される。
【0022】
図1(d)では、二次重合部分6(7)はフィルム形状のパターニングポリマーゲル8の略矩形の一方面(他方面)の長辺と略平行な位置関係にあったが、図2(e-1)では、フィルム形状のパターニングポリマーゲル8の略矩形の一方面(他方面)の短辺と略平行な位置関係となっている。また、同(e-2)では、二次重合部分6の幅の寸法が2種類の組み合わせであって、相対的にその寸法の大きいものの間にその寸法が小さいものが離間して配置している。同(e-3)では、二次重合部分6が略円形状を形成し、複数の略円形状が碁盤の目状に配列している。不図示ではあるが、その配列に対応して他方面も同様に碁盤の目状に配列している。
【0023】
図3(b)では、二次重合部分6が複数のX字形状を形成し、複数のX字形状が配列している。なお、図3(b)(同(a)、(c)も同様)は、図1(c)に相当するものであって、未反応モノマーを除去すれば、図1(d)に相当するものとなる。UV照射部を適宜に変更すれば、それに応じて二次重合部分6は変更することができるため、上記に示すパターンに限られず、その他、格子状・同心円状などパターニングポリマーゲル8内において、二次重合部分6による様々なパターン(形状)をとることができるのである。
【0024】
すなわち本発明では、(1)架橋樹脂フィルムへのモノマー浸漬と、(2)紫外光照射型3Dプリンターを利用した箇所選択的な光重合という2ステップを介して、架橋樹脂フィルム中に親水性ポリマーをパターニングし(光パターニング重合)、水中で膨潤させることにより、架橋フィルム中に箇所選択的にゲルを作成する技術を開発した。
【実施例0025】
<母材架橋樹脂の合成>
図4(a)~(d)の化合物に従って母材架橋樹脂3´を調製した。光重合性モノマーとして、疎水性モノマーである(a)アクリル酸メチル(MA)と(b)アクリル酸エチル(EA)を用いた。両モノマーを、(c)ジビニル架橋性モノマー(1,4-ブタンジオールジアクリレート,BDGA)および(d)光ラジカル開始剤(ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド,TPO)と混合した。
【0026】
混合時のビニルモノマーのモル比は、[MA]:[EA]:[BDGA]=210 :90:1であった。TPOの重量分率は1wt%とした。紫外光照射装置(朝日分光株式会社製、光反応用LED光源 CLシリーズ、波長365nm)を用いて、光重合を行った。紫外光照射は室温において、30分行った。結果として、ほぼすべてのモノマーが消費された母材架橋樹脂が得られ、ゲル分率は約95%であった。母材樹脂としては、その他のアクリル酸系モノマー(例えばアクリル酸ブチル)・メタクリル酸系モノマー(例えばメタクリル酸メチル)でも同様の手法で調製が可能である。
【0027】
<母材架橋樹脂に対する第2モノマーの導入>
上記で得られた母材架橋樹脂に、第2モノマーを内包させた。第2モノマーとしては、親水性の高いアミド系モノマー(親水性モノマー)であるN,N-ジメチルアクリルアミド(DMAm)を用いて行った。モノマー溶液として、BDGAとTPOをDMAmに溶解させたものを調製した。DMAmとBDGAのモル比は、[DMAm]:[BDGA]= 300:1であった。TPOの重量分率は1wt%とした。
【0028】
厚み0.04cmの母材架橋樹脂フィルムを、第2モノマー溶液に、室温にて浸漬させた。膨張率は、モノマーへの浸漬時間によって調節可能であることがわかっている。例えば、6分の浸漬で厚みは1.5倍となり、2分の浸漬で厚みは1.2倍となる。その他、浸漬モノマー(第2モノマー)としては、アクリル酸系モノマー(例えばアクリル酸2-ヒドロキシエチル)・メタクリル酸系モノマー(例えばメタクリル酸2-ヒドロキシエチル)でも同様の手法が適用可能である。
【0029】
<光パターニング重合>
デジタル・ライト・プロセッシング(DLP)方式の3Dプリンター(ELEGOO社製、Mars2、波長405nm)を用いて、モノマー溶液に5min浸漬させた母材樹脂フィルムに対して、箇所選択的に光パターニング重合を施した。光(UV)照射部は、事前にパソコン上のソフトを用いて設計した。一例を図5(a)、(b)に示す。
【0030】
DMAmを内包させたフィルムに対して、光重合の進行を確認した(図5(a)に沿って行ったものを実施例1、図5(b)に沿って行ったものを実施例2と示す)。残存モノマーは、真空乾燥やテトラヒドロフランなどを用いた溶媒抽出により、完全な除去が可能であった。一方で、室温で固体状態のビニルモノマー(例えばアクリルアミド)では、モノマーが内包させられないため、光パターニング重合を行うことができないことがわかっている。
【0031】
以上は第1モノマーが疎水性モノマーであって、母材架橋樹脂3´が疎水性部分である第一次重合部分を含み、第2モノマーが親水性モノマーであって、二次重合部分が親水性部分であるパターニングポリマーゲルやその作製方法について説明した。一方、第1モノマーが親水性モノマーであって、母材架橋樹脂3´が親水性部分である第一次重合部分を含み、第2モノマーが疎水性モノマーであって、二次重合部分が疎水性部分であるパターニングポリマーゲル場合も同様にして作製することができるが、以下は主に前者のパターニングポリマーゲルについて記載する。
【0032】
<パターニングの確認>
箇所選択的な重合の進行は、走査電子顕微鏡(SEM)観察および光学顕微鏡にて確認した(JEOP,JSM7800F)。観察用試料としては窒素原子を含むDMAmを光パターニング重合した実施例1(フィルム形状のパターニングポリマーゲル18)を用いた。本試料は、モノマー溶液に5min浸漬させた樹脂フィルムに対して、図5(a)の様式で箇所選択的に光パターニング重合を施してある。試料断面を、白金パラジウムによりコーティングした。観察時の加速電圧は5kVとした。観察位置決定後、元素マッピングにより、窒素(N)原子の相対分布情報を得た(図6)。
【0033】
まず、光学顕微鏡図(図6(d))では、光照射部(親水性部分、二次重合部分)16(幅0.52mm)と非照射部(疎水性部分、一次重合部分)15での凹凸形状が明確に確認できる。元々の樹脂厚みに対して、約1.5倍の高さを示す凹凸形状が形成されていた。SEMによる元素マッピングでは、N原子がパターニング部に選択的に存在していることを確認できた。また、光照射部(二次重合部分)16と非照射部(一次重合部分)の界面は明確に存在しており、非光照射部15へのモノマーおよびポリマーの拡散は起きていないことがわかる。さらに、フィルム厚み方向に関して、N原子の濃度はほぼ一定であり、重合ポリマーの(厚み方向での)濃度勾配はほとんどないことも確認できた。
なお、光照射部(親水性部分、二次重合部分)16に含まれるポリマー鎖26は、非照射部(疎水性部分、一次重合部分)15を組成するポリマー鎖25とは異なり、光照射によって生成したポリマー鎖を示す。
【0034】
箇所選択的なゲルの作成は、パターニングフィルムを水に浸漬させることで行った。疎水性ポリマーは水を吸収せず、親水性ポリマーは水を吸収する。図7(b)に、母材樹脂をMA、第2モノマーとしてDMAmを用いて、図5(b)のパターニング様式に従って作成したパターニングフィルム18(同(a))を、水中に1時間浸漬することで調製したパターニングゲル18´(実施例3)の外観を示す。水を吸収することで、親水性ポリマーパターニング部36´が膨らんでいるのがわかる。なお、1時間の水への浸漬により、親水性ポリマーパターニング部のもともと36の厚み0.7mmから、厚みは1mmへと膨らみ、部分ゲル形成によるフィルム内での強調された凹凸が形成された。なお、疎水性母材樹脂部35の厚みは、水へ浸漬しても、0.4mmから変化していなかった。
また、図7(c)、(d)にはそれぞれ、親水性部分36を備えるパターニンゲル28と、親水性部分46を備えるパターニンゲル38を示した。
【0035】
フィルム形状のパターニングポリマーゲルを水へ浸漬させると、フィルム内で局所的な膨潤が起こり、局所的な応力の発生から、試料が自発的に屈曲する。なお、3Dプリンターにより作成した材料が、その後時間経過とともに形状を変える場合、4Dプリンター樹脂と呼ばれる。本試料は、水への浸漬中に徐々に屈曲が増していくため、4Dプリンター樹脂と呼ぶことができる。その屈曲の進展過程を、図8に示した。用いた試料は、母材樹脂をMA、第2モノマーとしてDMAmを用いて作成したパターニングフィルムである。パターニングは図5(a)、(b)に示した二通りで行った(直線状・ドット状)。
【0036】
図8(a)に示すように、直線状のパターニング試料(パターニングポリマーゲル、実施例4)58は、パターニング方向と並行方向にフィルムが屈曲し、10分間の浸漬でフィルム試料が完全に丸まったパターニング試料58´となった。これは吸水した親水ポリマー部(親水性部分)56の体積膨張により、パターニング方向に並行方向に大きな応力が発生するためである。同(b)に示すように、一方で、ドット状のパターニング28をフィルム内で等方的に並べた場合(パターニングポリマーゲル28、実施例3)は、直線状パターニングフィルムのような明確な屈曲は観られないパターニング28´であった。この理由は、吸水した親水性ポリマー部(親水性部分)36の体積膨張が起きた場合でも、等方的に応力が発生するためである。
【0037】
<母材架橋樹脂に対する別の第2モノマーの導入>
上記で得られた母材架橋樹脂3´に、第2モノマーを内包させた。第2モノマーとしては、アクリル酸 tert-ブチル(t-BA)を用いて行った。モノマー溶液として、BDGAとTPOをt-BAに溶解させたものを調製した。t-BAとBDGAのモル比は、[t-BA]:[BDGA]=300:1であった。TPOの重量分率は1wt%とした。
厚み0.04cm,横1cm,縦2cmの母材架橋樹脂フィルムの片面をテフロン(登録商標)シートでカバーした。その状態で、モノマー溶液4に、室温にて浸漬させた。モノマーはテフロン(登録商標)シートでカバーされていない面から内包されていくため、30分のモノマー溶液4への浸漬では、母材樹脂の片面のみのモノマーの内包が可能であった。モノマーを内包した面に対して紫外光照射を行った。その後、残存モノマーを真空乾燥により除去し、片面のみのパターニングを作成した(図9、パターニングポリマーゲル68、実施例5)。
【0038】
図9に示すように、別の実施形態であるフィルム形状のパターニングポリマーゲル68は母材部(一次重合部分、凹形状)65とUV照射部(二次重合部分、凸形状)56を含む。母材部(二次重合部分、凸形状)65は、図1(d)等と異なり一方面に配置され、幅が0.59mmであって、他方面にはないため、一方面から他方面に貫通はしていない。なお、母材部65とUV照射部56の境は界面37として観察することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によるパターニングポリマーゲルは、空気中/水中/水蒸気中での高摩擦(摩擦状態可変)を示すフィルム(水中で高グリップ性を有するロボット技術などへ応用)や箇所選択的な撥水性/親水性/酸素透過性を示す新規フィルムとして利用可能である。また、局面での細胞培養可能なフィルム母材、固体・ゲルのパターニングが可能となることから、新しいデザイン性を持ったフィルム材料・ゲル材料への応用が可能である。
さらに、水への浸漬により、フィルム内で局所的な膨潤が起こり、局所応力の発生から、試料が自発的に屈曲するため、アクチュエーターや4Dプリンターとしても利用可能である。
【符号の説明】
【0040】
1:光パターニング重合の構成
2:容器
3:第2モノマー含浸母材樹脂フィルム
3´:母材樹脂フィルム
4、14:モノマー(第2モノマー)
5:母材部(一次重合部分)
15、35、55、65:母材部(疎水性部分、一次重合部分)
6、7、6´、7´:UV照射部(二次重合部分)
16、36、46、56:UV照射部(親水性部分、二次重合部分)
8、18、28、38、58、68:フィルム形状のパターニングポリマーゲル
18´、28´、58´:親水性部分が体積膨潤したフィルム形状のパターニングポリマーゲル
8´:フィルム形状のパターニングポリマーゲル(未反応モノマーを含む)
9:光源
10:液晶パネル
11:一方面
12:他方面
25:非照射部を組成するポリマー鎖
26:照射部を組成するポリマー鎖
37:界面
L:光

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9