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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157009
(43)【公開日】2023-10-25
(54)【発明の名称】細胞培養のためのメロキサポール
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20231018BHJP
【FI】
C12N1/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023064604
(22)【出願日】2023-04-12
(31)【優先権主張番号】22168244.6
(32)【優先日】2022-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】591032596
【氏名又は名称】メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D-64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アントネッロ,アリス
(72)【発明者】
【氏名】ホッフマン,ティム
(72)【発明者】
【氏名】ラップ,アルムト
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA91X
4B065BB05
4B065BC19
(57)【要約】      (修正有)
【課題】泡減少のためにおよびせん断応力保護のために好適な細胞培養培地添加剤を使用した細胞培養培地、並びに細胞培養のためのプロセスを提供する。
【解決手段】1000g/molと8000g/molとの間のピーク分子量Mpおよび55%(重量/重量)と95%(重量/重量)との間のポリエチレンオキシドのパーセンテージをもつメロキサポールを含む、細胞培養培地を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1000g/molと8000g/molとの間のピーク分子量Mおよび55%(重量/重量)と95%(重量/重量)との間のポリエチレンオキシドのパーセンテージをもつメロキサポールを含む、細胞培養培地。
【請求項2】
ピーク分子量Mが、1000g/molと5000g/molとの間にあることを特徴とする、請求項1に記載の細胞培養培地。
【請求項3】
ポリエチレンオキシドのパーセンテージが、55%と80%との間にあることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の細胞培養培地。
【請求項4】
液体培地に関して算出された0.1~10g/Lの間の量のメロキサポールを含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞培養培地。
【請求項5】
化学的に定義された培地であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞培養培地。
【請求項6】
乾燥粉末または乾燥圧縮培地であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の細胞培養培地。
【請求項7】
細胞培養培地が、少なくとも1以上の糖成分、1以上のアミノ酸、1以上のビタミンまたはビタミン前駆体、1以上の塩、1以上の緩衝剤成分、1以上の共存因子および1以上の核酸成分を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の細胞培養培地。
【請求項8】
消泡剤を含まないことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の細胞培養培地。
【請求項9】
細胞培養のためのプロセスであって、それにより細胞が、1000g/molと8000g/molとの間のピーク分子量Mおよび55%(重量/重量)と95%(重量/重量)との間のポリエチレンオキシドのパーセンテージをもつメロキサポールを含む液体培地中で培養される、前記プロセス。
【請求項10】
プロセスが、撹拌および/またはスパージングを包含することを特徴とする、請求項9に記載の細胞培養のためのプロセス。
【請求項11】
ピーク分子量Mが、1000g/molと5000g/molとの間にあることを特徴とする、請求項9または請求項10に記載の細胞培養のためのプロセス。
【請求項12】
ポリエチレンオキシドのパーセンテージが、55%と80%との間にあることを特徴とする、請求項9~11のいずれか一項に記載の細胞培養のためのプロセス。
【請求項13】
液体培地中の消泡剤の量が、それ以外は同一であるが、メロキサポールの代わりに188ポロキサマーを含む細胞培養培地と比較して、減少することを特徴とする、請求項9~12のいずれか一項に記載の細胞培養のためのプロセス。
【請求項14】
液体培地が、消泡剤を含まないことを特徴とする、請求項9~13のいずれか一項に記載の細胞を培養するためのプロセス。
【請求項15】
攪拌されたおよび/またはスパ―ジされた細胞培養において泡形成を減少させるための方法であって、それにより細胞は、1000g/molと8000g/molとの間のピーク分子量M、およびポリエチレンオキシドのパーセンテージ55%(重量/重量)と95%(重量/重量)との間のパーセンテージをもつメロキサポールを含む液体培地中で培養され、1000g/molと8000g/molとの間のピーク分子量Mおよびパーセンテージ55%(重量/重量)と95%(重量/重量)との間のパーセンテージのポリエチレンオキシドをもつメロキサポールの代わりにポロキサマー188を含む細胞培養培地中で同じ条件下で培養された細胞と比較して、泡形成が減少する、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養培地添加剤としての、「逆ポロキサマー」とも呼ばれる、メロキサポールの使用に、関する。メロキサポールは、泡減少のためにならびにせん断応力保護のために好適である。
【0002】
発明の背景
ポロキサマー(特にポロキサマー188)は、多くの工業用途、化粧品、および医薬品において使用される。それらは、細胞培養培地プロセスにおいても使用される。細胞培養培地へのポロキサマー(特にポロキサマ188)の添加は、細胞生存度を著しく改善する。高い細胞生存度は、最適なタンパク質生成のために重要である。なぜポロキサマーが細胞生存度を改善するかは、完全には理解されていない。ポロキサマーがせん断応力を減少させて、そしてこの方法で細胞を損傷から防御すると、信じられている。ポロキサマーは非イオン性界面活性剤であるが、気体泡/培地界面で濃縮する可能性があり、そして気体泡への細胞付着を防御することができ、そして泡が破裂する場合に、この方法で、細胞を損傷から防御することができる。泡が破裂するときに、それは、衝撃を減少させてもよい。いくつかの刊行物は、ポロキサマーが、気体から液体相への酸素移動速度を改善すると主張するが、他の刊行物は、これらの知見を否定する。ポロキサマーが、細胞膜の小さな欠損を「修復し」てもよい徴候もある。
【0003】
残念ながら、ポロキサマー188はスパージド・バイオリアクターで生成される泡の安定化に有意に寄与する。したがって、典型的には、ポロキサマーに加えて消泡剤が使用される。消泡剤の例は、好ましくはポリジメチルシロキサン(PDMS)および任意にシリカ粒子からなる薬剤であり、例えば、ジメチコンまたはシメチコンとも呼ばれる。
【0004】
一般に、消泡剤が手作業で添加され、および泡のレベルを常に監視していない場合、泡が溢れ出るリスクが残るという理由で、消泡剤の添加は、すべての問題を解決しない。シリカベースの消泡剤は、その作用中にシリカの偏析により失活する。加えて、消泡剤は、より高い濃度においてそれらが有毒になる可能性があるため、多量に添加され得ない。シメチコンはシリコンオイルをベースとしており、およびPES膜でろ過され得ないため、PESろ過で滅菌することができず、そのため消泡剤Cを細胞培養培地製剤に直接添加され得ない。泡の問題は、細胞密度の高い培養の観点からは、より多くの酸素を要求するため、より多くのスパージングを要求し、およびそれゆえ、より多くの発泡が生じるため、さらに悪化する。
したがって、ポロキサマー188に代わる非発泡性または低発泡性の代替物が、所望される。
【0005】
Schmolka I. R. (Schmolka, Journal of the American Oil Chemists' Society (1977), 54(3), 110-16)とMurhammer (D. W. Murhammer, C. F. Goochee, Biotechnol. Prog. 1990, 6, 142-148)は、ポロキサマー188のほかに他のポロキサマーの特性に関するデータを出版した。彼らはまた、メロキサポールの特性についても議論した。彼らは、せん断応力保護および泡の安定化に関する有望な特徴を示すいくつかの候補を見出したにもかかわらず、彼らは、理想的な候補を特定し得なかった。昆虫細胞に対して毒性があるものもあり、およびほとんどの候補は、依然消泡剤の添加を要求した。
【0006】
結果として、依然、せん断応力の保護のみでなく、一方で、泡の形成を低減し、および細胞に対して無毒な、ポロキサマー188への代替物を見つける必要がある。
【0007】
あるメロキサポールは、毒性、泡形成、せん断応力保護に関するすべての要件を満たすことが判明している。細胞培養における理想的な好適さのための要件は、定義されたPEO(ポリエチレンオキシド)部分のパーセンテージと組み合わされたあるピーク分子量である。これは、ポロキサマー188に匹敵するせん断応力保護、すなわちそれに匹敵する生細胞密度、生存率、IgG生産性をもたらし、および同時に消泡剤を添加する必要を除く。これらのメロキサポールを用いると、プロセスの間に泡が形成されないか、またはほとんど形成されず、それは消泡剤の添加を不要とする。
【0008】
本発明は、よって、1000g/molと8000g/molとの間のピーク分子量M、好ましくは1000g/molと5000g/molの間、および55%と95%との間のポリエチレンオキシドのパーセンテージ(%EO)をもつメロキサポールを含む、細胞培養培地へ向けられる。
好ましい態様において、ピーク分子量Mは、1800g/molと3500g/molとの間である。
別の好ましい態様において、ポリエチレンオキシドパーセンテージは55%と80%(w/w)との間である。
好ましい態様において、細胞培養培地は、液体培地のために算出された、0.1~10g/Lの間の量のメロキサポールを含む。きわめて好ましい態様において、ポロキサマーの量は、液体培地のために算出された0.5~5g/Lの間にある。
【0009】
一態様において、細胞培養培地は、化学的に定義された培地である。
一態様において、細胞培養培地は、乾燥粉末または乾燥凝縮培地である。
【0010】
別の態様において、細胞培養培地は、少なくとも1以上の糖成分、1以上のアミノ酸、1以上のビタミンまたはビタミン前駆体、1以上の塩、1以上の緩衝剤成分、1以上の共存因子、および1以上の核酸成分を含む。
好ましい態様では、細胞培養培地は、いずれの消泡剤をも含まない。
【0011】
本発明はまた、細胞培養のためのプロセスにも向けられ、それにより細胞が、1000g/molと8000g/molとの間のピーク分子量M、好ましくは1000g/molと8000g/mol、および55%と95%との間のポリエチレンオキシドのパーセンテージをもつメロキサポールを含む液体培地中で培養される。好ましくは、プロセスは、撹拌および/またはスパージングを包含する。
好ましい態様において、ピーク分子量MPは、1800g/molと3500g/molとの間である。
別の好ましい態様において、ポリエチレンオキシドのパーセンテージは55%と80%(w/w)との間である。
【0012】
好ましい態様において、液体培地中の消泡剤の量は、さもなければ同一であるが、上で定義されるようなメロキサポールの代わりにポロキサマー188を含む細胞培養培地と比較して低減し、極めて好ましくは、培地はいかなる消泡剤も含まない。
【0013】
本発明は、それゆえ攪拌されおよび/またはスパ―ジされた細胞培養において泡形成を減少させるための方法にもまた向けられ、それにより細胞は、1000g/molと8000g/molとの間のピーク分子量MPおよび55%と95%(w/w)との間のエチレンオキシドのパーセンテージをもつメロキサポールを含む液体培地中で培養され、そして1000g/molと8000g/molとの間のピーク分子量MPおよび55%と95%(w/w)との間のエチレンオキシドのパーセンテージをもつメロキサポールの替わりにポロキサマー188を含む細胞培養培地中で同じ条件下で培養された細胞と比較して、泡形成が、減少する。好ましくは、泡の形成を抑える方法において、消泡剤が使用されない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、選択されたメロキサポールについて37℃において連続空気スパージングの間の泡の発生を示す。メロキサポール溶液は、細胞培養液で調製され、および1000ppmの濃度を有する。報告された曲線は、各ポロキサマーの傾向を最も代表するものとして反復から選択された1つの測定の出力である。詳細は例1において、見出され得る。
図2図2は、選択されたメロキサポールの37℃における連続空気スパージング間の泡の発生を示す。メロキサポール溶液は、細胞培養培地で調製され、および2000ppmの濃度を有する。報告された曲線は、各ポロキサマーの傾向を最も代表するものとして反復から選択された1つの測定の出力である。詳細は、例1において見出され得る。
図3図3は、細胞培養培地中の各メロキサポール溶液の平均最大泡の高さを示す。測定は、37℃において行われた。値は反復の平均値である。薄いグレーのバー、溶液濃度1000ppm;濃いグレーのバー、溶液濃度2000ppm。詳細は、例1において見出され得る。
図4図4は、細胞培養培地中の各メロキサポール溶液を参照した平均プラトーの高さを示す。測定は、37℃において行われた。値は、反復の平均値である。薄いグレーのバー、溶液濃度1000ppm;濃いグレーのバー、溶液濃度2000ppm。詳細は、例1において見出され得る。
【0015】
図5図5は、CHOK1細胞の回転チューブでのフィードバッチ中の生存率(%)を示す。各値は、各条件の4反復の平均値である。
図6図6は、回転チューブでのフィードバッチ中のCHOK1細胞の生存細胞密度(VCD)を示す。各値は、各条件の4反復の平均値である。
図7図7は、CHOK1細胞のIgG生産性を示す。各値は、各条件の4反復の平均値である。
図8図8は、ポロキサマーおよび/またはメロキサポールの添加の必要性を示すため、回転チューブでの流加培養におけるCHOK1細胞の生存率(%)を示す。各数値は、各条件の4反復の平均値である。
図9図9は、バイオリアクターでのフィードバッチ中のCHOK1細胞の生存率(%)を示す。各データポイントは、各条件の3反復の平均値である。エラーバーは平均値の標準偏差を表す。
図10図10は、バイオリアクターでのフィードバッチ中のCHOK1細胞の生存細胞密度(VCD)を示す。各データポイントは、各条件の3反復の平均値である。
図11図11は、CHOK1細胞のIgG生産性を示す。各データポイントは、各条件の3反復の平均値である。エラーバーは、平均値の標準偏差を表現する。あるデータポイントについては、誤差が小さすぎるという理由で、エラーバーは、見ることができない。
図12図12は、バイオリアクターでの供給バッチ培養中の泡の変化を示す。データポイントは、代表的なサンプルとして選択された各サンプルにつき1つのバイオリアクターの泡レベルを示す。泡のオーバーフローを避けるために消泡剤Cの添加が必要な培養は、ポロキサマー188でサポートされたものだけであった。他のメロキサポールはごく少量の泡のみを安定化させ、オーバーフローのリスクはなく、および消泡剤Cの必要はない。
【0016】
図5~12の詳細は、例2に記載されている。図5、6、7、10、11および12において、エラーバーは、平均の標準偏差を表現する。ポロキサマー188を言及するデータ点は、他の資料からよりよく区別するために破線により繋がれる。
図13図13は、メロキサポール8R6のサイズ排除クロマトグラフィー(方法1参照)で決定した分子量分布を示す。Mpは特定のメロキサポールのピーク分子量を示す。
【0017】
定義
本発明を詳細に記載する前に、本発明は特定の組成物またはプロセスステップに限定されず、それ自体、変化してもよいことが理解されるべきである。本明細書および添付の請求の範囲において用いられる場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかに他を支持しない限り、複数の参照対象を含む。よってたとえば、「ポロキサマー」に対する言及は、複数のポロキサマーおよびその他同種のものを含む。別様に定義されない限り、本明細書に使用されるすべての技術的および科学的用語は、本発明が関する当業者によって通常理解されるとおり、同じ意味を有する。次の用語は、本明細書に記載された発明のために定義される。
【0018】
用語「バイオリアクター」は、本明細書に使用されるとき、生物学的に活性な環境をサポートする、製造されたまたは操作された任意のデバイスまたはシステムを指す。いくつかの例において、バイオリアクターは、微生物、またはかかる微生物から誘導される生化学的に活性な物質に関わる、細胞培養プロセスが実行される容器またはタンクである。かかるプロセスは、好気的または嫌気性でもよい。一般的に用いられるバイオリアクターは、典型的には円柱状で、リットルから立方メートルのサイズの範囲であり、しばしばステンレス鋼でできている。本明細書に記載されたいくつかの態様において、バイオリアクターは、鋼以外の材料でできている使い捨て可能な構成を含有してもよく、使い捨て可能である。いくつかの態様において、それは、生物学的に活性な環境が維持される、使い捨て可能なバッグである。バイオリアクターの全容量が、特定のプロセスに依存して、100mLから最高10,000リットル以上の範囲のいずれかの容量でもあってもよいことが企図される。
【0019】
撹拌細胞培養は、細胞培養の間に、永続的に、または1または複数回、バイオリアクター中で細胞培養培地を細胞と攪拌することにより果たされる細胞培養である。
【0020】
撹拌は、たとえばかき混ぜ、揺れ、または振盪によってなされることができる。撹拌槽バイオリアクターにおいて、1または複数個の攪拌翼が、容器のジオメトリーに応じて、配備されてもよい。攪拌機タイプは、プロセスの主な混合作業および要件に従い選択されるだろう。
【0021】
スパージ細胞培養は、気体がバイオリアクターに導入される細胞培養である。これは、典型的には、バブラーまたは通気装置とも呼ばれているスパージャーによって、なされる。
【0022】
典型的には、スパージ細胞培養において、空気、酸素、二酸化炭素、および窒素の混合物は、スパージャーによってバイオリアクターに導入される。細胞培養プロセスのための典型的なスパージャーは、ドリル孔リングスパージャー、焼結マイクロスパージャー、開放パイプスパージャー、およびハイブリッドの形態を含む。表面通気は、酸素移動にも寄与するが、しかし、表面通気の影響は、スケールアップの間、減少する。哺乳類細胞の培養プロセスにおける攪拌機およびスパージャーの両方のタイプは、しばしば細胞のせん断感度に従い選択されるだろう(Nienow, A.W., 2006. Reactor engineering in large scale animal cell culture, Cytotechnology, 50(1-3), p.9)。
【0023】
本発明に従う細胞培養培地は、典型的には少なくとも1つの栄養源を細胞に提供することによって、in vitro細胞生長を維持および/または支持し、および/または特定の生理的状態を支持する、いずれかの成分の混合物でもある。それは、複合体培地または化学的特定培地であるかもしれない。細胞培養培地は、in vitro細胞生長を維持および/または支持するのに必要なすべての成分、またはさらなる成分が個別に加えられるように、いくつかの成分だけを、含むことができる。本発明に従う細胞培養培地の例は、in vitro細胞生長を維持および/または支持するのに必要なすべての成分、ならびに培地サプリメントまたは飼料を含む、完全培地である。好ましい態様において、細胞培養培地は、完全培地、灌流培地、またはフィード培地である。ベースの培地と典型的に呼ばれる完全培地は、6.7と7.8の間のpHを有する。フィード培地は、好ましくは8.5未満のpHを有する。
【0024】
典型的には、本発明に従う細胞培養培地は、バイオリアクター中で細胞生長を維持および/または支持するために使用される。
【0025】
飼料またはフィード培地は、細胞培養において、最初の成長および生成を支持するベースの培地ではなく、栄養源の枯渇を防御し、生成相を持続させるために、より後の段階で加えられる培地である、細胞培養培地である。フィード培地は、ベースの培養培地と比較して、いくつかの成分のより高い濃度を有することができる。たとえば、いくつかの成分(例えば、アミノ酸または炭水化物を含む栄養源など)は、フィード培地中に、ベースの培地の濃度の約5×、6×、7×、8×、9×、10×、12×、14×、16×、20×、30×、50×、100×、200×、400×、600×、800×で、または約1000×でさえ、存在してもよい。
【0026】
哺乳類の細胞培養培地は、哺乳類細胞のin vitro成長を維持および/または支持する成分の混合物である。哺乳類の細胞の例は、ヒトまたは動物細胞、好ましくはCHO細胞、コス細胞、Iベロ細胞、BHK細胞、AK-1細胞、SP2/0細胞、L5.1細胞、ハイブリドーマ細胞、またはヒト細胞である。
【0027】
化学的に定義された細胞培養培地は、化学的に未定義のいかなる物質も含まない、細胞培養培地である。これは培地中で使用されるすべての化学物質の化学組成物が、公知であることを、意味する。化学的に定義された培地は、いかなる酵母、動物、または植物組織も含まず;それらは、フィーダー細胞、血清、水解物、抽出物、または消化物、または他の不十分に定義された成分を含まない。化学的に未定義または不十分に定義された化学物質成分は、その化学組成物および構造が、公知でないものであり、様々な組成物中に存在するか、または、タンパク質様のインシュリン、アルブミン、またはカゼインの化学組成物および構造の評価に匹敵する、莫大な実験的努力によってのみ定義されることができる。
【0028】
粉末状の細胞培養培地または乾燥粉末培地は、典型的にミリングプロセスまたは凍結乾燥プロセスから結果としてなる細胞培養培地である。それは、粉末状の細胞培養培地が、顆粒状の、微粒子の培地である-液体培地でないことを、意味する。用語「乾燥粉末」は、用語「粉末;」によって交換可能に使用されてもよいが、しかしながら、本明細書に使用されている「乾燥粉末」は、単に顆粒化された材料の肉眼的外観を指し、そして、特記しない限り、材料が、完全に混合されかたまりになった溶媒がないことを意味することを、意図しない。
【0029】
乾燥した顆粒化された培地は、湿式または乾式造粒プロセスから、例として、スプレー乾燥、湿式造粒、または乾燥コンパクションにより結果としてなる乾燥培地であり、典型的には、0.5mm超、例として、0.5~5mmの粒子サイズを有する。乾燥コンパクションは、典型的にha,ロールプレスでなされる。US 6,383,810 B2は、湿った顆粒化真核細胞培養培地粉末を生成する方法を開示する。該方法は、溶媒により乾燥粉末細胞培養培地を湿らして、そしてその後、湿った培地を再乾燥させて、乾燥顆粒化細胞培養培地を得ることを含む。好ましくは、乾燥顆粒化培地は、乾燥粉末培地のローラーコンパクションから結果としてなる培地である。本明細書に使用される用語「乾燥」は、単に顆粒化された材料の肉眼的外観を指し、そして、特記しない限り、材料が、完全に混合されかたまりになった溶媒がないことを意味することを、意図しない。
【0030】
細胞培養における使用、すなわち細胞を培養するために、液体細胞培養培地は、細胞に加えられる。乾燥粉末または乾燥圧縮細胞培養培地は、よって水または水性緩衝剤などの液体の好適な量で溶解され、細胞によって接触されることができる、液体細胞培養培地を発生させる。液体細胞培養培地の組成物が、直接細胞に影響するものなので、細胞培養培地の濃度は、細胞に加えられるべき液体培地における成分の濃度を定義するのに、しばしばmgパーリットルなどの、重量パーリットルで提供される。乾燥粉末または乾燥凝縮培地の成分の量は、一定量の液体中で溶解される場合に、結果として生じる液体培地中の成分の、目的とする濃度が達成されるように、調整されることを必要とする。
【0031】
本発明に従い、培地によって培養される細胞は、細菌細胞などの原核細胞、または植物または動物細胞などの真核細胞でもよい。細胞は、正常細胞、不死化細胞、疾患細胞、形質転換細胞、突然変異細胞、体細胞、胚細胞、幹細胞、前駆細胞、または胎児細胞であることができ、そのいずれも、確立されまたは形質転換した細胞株であるか、または天然の供給源から得られてもよい。
【0032】
SECによって決定される平均分子量は、以下の通りに決定される:
重量平均分子量:Mw=Σ /(Σ
数平均分子量:M=Σ/(Σ
ピーク分子量:M=最大Nでの分子量
=画分i中のポリマー種の数
=画分i中のポリマー種の分子量
SEC条件:
較正標準:PEG(詳細は、例(方法1)を参照)
溶離液:THF
流速:1ml/min
注入容量:100μl
カラム:粒子サイズ=5μm、材料=スチレン-ジビニルベンゼン
温度:40℃
【0033】
細胞培養培地は、水性液体の形、または、使用のために、水または水性緩衝剤中に溶解される乾燥粉末の形であることができる。当業者は、具体的な、想定された目的のために好適な細胞培養培地を、選ぶことが可能である。
【0034】
本発明に従う細胞培養培地、特にin vitro細胞生長を維持しおよび/または支持するのに必要なすべての成分を備える完全な培地は、典型的には、少なくとも1以上の糖成分、1以上のアミノ酸、1以上のビタミンまたはビタミン前駆体、1以上の塩、1以上の緩衝剤成分、1以上の共存因子、および1以上の核酸成分を含む。それらは、例としてrインシュリン、rBSA、rトランスフェリン、rサイトカイン等々の、組換えタンパク質などの、化学的に定義された生化学物質を、追加で備えていてもよい。
【0035】
糖成分は、グルコース、ガラクトース、リボース、またはフルクトース(単糖の例)、またはスクロース、ラクトース、またはマルトース(二糖の例)の類の、すべての単または二糖である。
【0036】
本発明に従うアミノ酸の例は、チロシン、タンパク質を構成するアミノ酸、特に必須アミノ酸、ロイシン、イソロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、アルギニン、トレオニン、トリプトファン、およびバリン、ならびにD-アミノ酸の類のタンパク質を構成しないアミノ酸であり、これによって、Lアミノ酸が、好ましい。アミノ酸の用語は、ナトリウム塩の類のアミノ酸の塩、またはそれぞれの水和物または塩酸塩をさらに含む。
たとえば、チロシンは、L-またはD-チロシン、好ましくはL-チロシン、ならびにそれらの塩または水和物または塩酸塩を意味する。
【0037】
ビタミンの例は、ビタミンA(レチノール、レチナール、様々なレチノイド、および4つのカロテノイド)、ビタミンB(チアミン)、ビタミンB(リボフラビン)、ビタミンB(ナイアシン、ナイアシンアミド)、ビタミンB(パントテン酸)、ビタミンB(ピリドキシン、ピリドキサミン、ピリドキサール)、ビタミンB(ビオチン)、ビタミンB(葉酸、フォリン酸)、ビタミンB12(シアノコバラミン、ヒドロキシコバラミン、メチルコバラミン)、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンD(エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール)、ビタミンE(トコフェロール、トコトリエノール)、およびビタミンK(フィロキノン、メナキノン)である。ビタミン前駆体も、含まれる。
【0038】
塩の例は、バイカルボナート、カルシウム、クロライド、マグネシウム、ホスファート、カリウム、およびナトリウム、またはCo、Cu、F、Fe、Mn、Mo、Ni、Se、Si、Ni、Bi、V、およびZnなどのトレース元素などの、無機のイオンを含む成分である。例は、硫酸銅(II)五水和物(CuSO.5HO)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カルシウム(CaCl.2HO)、塩化カリウム(KCl)、硫酸鉄(II)、クエン酸鉄アンモニウム(FAC)、無水リン酸二水素ナトリウム(NaHPO)、無水硫酸マグネシウム(MgSO)、無水リン酸一水素ナトリウム(NaHPO)、塩化マグネシウム六水和物(MgCl6HO)、硫酸亜鉛七水和物である。
【0039】
緩衝剤の例は、CO/HCO(カルボナート)、ホスファート、HEPES、PIPES、ACES、BES、TES、MOPS、およびTRISである。
補因子の例は、チアミン誘導体、ビオチン、ビタミンC、NAD/NADP、コバラミン、フラビンモノヌクレオチドおよび誘導体、グルタチオン、ヘムヌクレオチドホスファート、および誘導体である。
【0040】
本発明に従う核酸成分は、シトシン、グアニン、アデニン、チミンまたはウラシルの類の核酸塩基、シチジン、ウリジン、アデノシン、グアノシン、およびチミジンの類のヌクレオシド、およびアデノシン一リン酸またはアデノシン二リン酸またはアデノシン三リン酸の類のヌクレオチドである。
【0041】
フィード培地は、完全な培地と比較して、種々の組成物を有してもよい。それらは、アミノ酸、トレース元素、およびビタミンを典型的に含む。それらは糖成分も含むかもしれないが、しかし、時々生産上の理由で、糖成分は、別々の飼料中に加えられる。
【0042】
多くの生物医薬品生産プラットホームは、流加細胞培養プロトコルに基づく。目標は、典型的には、増大する市場需要に応じて、生産コストを削減させるために、高力価細胞培養プロセスを開発することである。高パフォーマンスの組換え細胞株の使用のほかに、細胞培養培地およびプロセスパラメーターの改善が、最大生産能力を実現するために要求される。
【0043】
流加プロセスにおいて、ベースの培地は、最初の成長および生産を支持し、およびフィード培地は、栄養源の枯渇を防御し、そして生産相を持続させる。培地は、種々の生産相の間の異なった代謝要件に適応するために、選ばれる。プロセスパラメーター設定 -フィード戦略および制御パラメーターを含む-は、細胞成長およびタンパク質生産のために好適な化学物質および物理的環境を定義する。
【0044】
灌流プロセスにおいて、細胞が細胞保持装置を通してバイオリアクターに保持されると共に、細胞培養培地が、連続的に加えられ、ポンプを通して、バイオリアクターから取り除かれる。灌流の利点は、生成物が、バイオリアクターから毎日取り除かれることができ、したがって高温への組換えタンパク質の暴露時間を短縮し、酸化還元電位または放出された細胞酵素を減少させるので、きわめて高い細胞密度に到達する可能性(安定した培地交換に起因する)、およびきわめて脆弱な組換えタンパク質を生成する可能性である。
【0045】
灌流細胞培養のためのプロセスは、典型的には、培地インレットおよび収穫アウトレットを伴なうバイオリアクターを含むバイオリアクターシステム中の培養細胞を含み、それによって
i.連続的に、または、1もしくは複数回、好ましくは連続的に、細胞培養プロセスの間、新しい細胞培養培地は、バイオリアクターに培地インレットを介して注入され、
ii.細胞培養プロセスの間に連続的に、または、1もしくは複数回、好ましくは連続的に、収穫は、バイオリアクターから収穫アウトレットを介して取り除かれる。収穫は、典型的には、細胞、細胞および液体細胞培養培地によって生成される標的生成物を含む。
【0046】
ポロキサマーは、2つの親水性ブロックおよび中央の疎水性ブロックをもつ、両親媒性ポリマーである。ポロキサマーは、ポリエチレングリコール(PEG)/ポリプロピレングリコール(PPG)トリブロック共重合体であり、それにより、1つのPPGブロックが、PEGブロックを伴なう両側に隣接される。ポリエチレングリコール(PEG)部分は、しばしばポリエチレンオキシド(PEO)部分とも呼ばれる。ポリプロピレングリコール(PPG)部分は、しばしばポリプロピレンオキシド(PPO)部分とも呼ばれる。
【0047】
ポロキサマー(CAS番号9003-11-6)は、典型的には、細胞培養適用で使用されるが、ポロキサマー188と呼ばれ、好ましくは独立して75~85であるxおよびz、およびを好ましくは25~30であるものをもつ一般式I
【化1】
を有している。本発明のポロキサマーは、x=z=3~72およびy=5~12を領域において、見いだされ得る。
ポロキサマーについてのさらなる情報は、Hagers Handbuch der Pharmazeutischen Praxis, volume 9 "Stoffe P-Z", 1994, pages 282 to 284に掲載されている。
【0048】
メロキサポールは、ポロキサマーと比較して逆の配列を有する。これは、それらが一般的に「逆ポロキサマー」と呼ばれる理由である。メロキサポールの中心ブロックはPEO(ポリエチレンオキシド)で、両側においてPPO(ポリプロピレンオキシド)ブロックに挟まれる(Schmolka 1977)。
【化2】
本発明において報告されるメロキサポールは、x=z=1~31、y=13~173をもつ領域において見出され得る。
【0049】
ポロキサマーとメロキサポールとは、同じCAS番号9003-11-6を有する。
ポロキサマーとメロキサポールの命名法は、類似し、および上述のSchmolkaのレビュー(Schmolka 1977)においてード化されている。最初のデジットに100を掛けたものが、PPOブロックの分子量を言及し、最後のデジットに10を掛けたものが、その分子の%EOを与える。メロキサポールを区別するために、頻繁に最初のデジットと最後のデジットとの間にRが追加され、その逆構造を指摘する。
【0050】
いくつかのポロキサマーおよびメロキサポールは、商業的に入手可能であり、ポロキサマーについては、Pluronic(登録商標)またはLutrol(登録商標)(例として、プルロニック(登録商標)F-68などのプルロニック(登録商標)溶液、ゲル、または固体)またはメロキサポールについては、Pluronic(登録商標)R。
【0051】
代替に、ポロキサマーおよびメロキサポールは、当該技術分野において公知の方法(たとえば、米国特許第3,036,118号および第3,740,421号を参照)に従い、原材料から合成されることができる。
【0052】
表1は、例示的なメロキサポールを要約する。
すべてのリストされたメロキサポールは、それらのポリエチレンオキシドのパーセンテージ(%EO、重量/重量)および分子量分布を決定することによって特徴づけられる。%EOは、H NMRを用いて決定された。分子量分布は、サイズ排除クロマトグラフィー(例、方法1を参照)によって決定された。ピーク分子量(Mp)は、各ポリマーを特徴づけるために使用された。
【表1】
表2は、例で参照として用いたポロキサマー188の同じデータを示す。
【表2】
【0053】
発明の詳細な説明
本発明の本質は、一定のメロキサポールが、細胞培養における使用に関して改善された特性を示すという発見である。それらは、ポロキサマー188のようにせん断保護を提供するだけでなく、減少された泡形成も示す。好適なメロキサポールは、培養される細胞のために無毒でもある。
【0054】
ポロキサマー188は、スパージングおよび/または撹拌によって引き起こされる水力学的ストレスを防御するために、しばしば細胞培養液に加えられる。それは、表面張力を減少させ、また、典型的には、泡形成を増加させる。細胞は泡の表面に付着する傾向があるので、それらは、泡によって表面に上昇して、泡層でトラップされ、死滅する。ここで、種々の組成物とメロキサポールを用いて、プラスの、せん断応力防御特性が、保たれることができるが、しかし、加えて、泡形成は減少されることが見いだされた。
【0055】
その結果として、消泡剤Cのような、泡形成を減少させるための消泡剤の量は、本発明に従う細胞培養菌培地を使用する場合に、減少されることができるか、または好ましくは除かれることさえできる。好ましい態様において、本発明に従う培地は、より少なく、好ましくは少なくとも25%(w/w)未満、より好ましくは同じ条件下で等価の細胞培養において、およびポロキサマー188以外の本発明において定義されたメロキサポールを含まないことを除いて同じ培地で、使用される最も好ましい非消泡剤、消泡剤Cのような消泡剤の量の半分未満を含有する。典型的な消泡剤は、油(炭化水素またはポリ(ジメチルシロキサン))、分散した疎水性固体粒子、またはその両方の混合物からなる。消泡剤の例は、好ましくは、例としてジメチコンまたはシメチコンとも呼ばれる、Dow-Corning Q7-2587 (30.4%PDMS,1.2~2.1%SiO粒子のO/Wエマルジョン)、 Antifoam C from Sigma Aldrich (29.4%PDMS、1.2~2~1%のSiO粒子のO/Wエマルジョン) 、およびFoam Away from Gibco (水中30%のシメチコンエマルジョン)のような、ポリジメチルシロキサン(PDMS)ならびに任意にシリカ粒子を含む剤である。
【0056】
好ましくは、本発明による、または本発明で使用される細胞培養培地は、ポロキサマー188を含まない。
【0057】
特に好適であると同定されたメロキサポールは、1000g/molと8000g/molとの間の、好ましくは1000g/molと5000g/molのピーク分子量M、および55%と95%(w/w)との間のエチレンオキシドのパーセンテージをもつメロキサポールである。
【0058】
好ましい態様において、ピーク分子量MPは、1800g/molと3500g/molとの間である。
別の好ましい態様において、PEOパーセンテージは、55%と80%との間である。
きわめて好ましくは、メロキサポールは、800g/molと3500g/molとの間のピーク分子量MPを有し、およびPEOパーセンテージは、55%と80%との間である。
【0059】
当業者は、メロキサポールを細胞培養培地中の成分として、いかに使用するかを知っている。当業者は、使用するための好適な量およびフォーマットを認識している。典型的には、メロキサポールは、細胞培養に、細胞培養培地の一部として適用される。しかし、それは、個別に適用されることもできる。
メロキサポールは、典型的には、固体、例として粒子、または液体、例として油、またはペーストのような高粘度液、または水性溶液の形態において、存在する。
【0060】
本発明は、1000g/molと8000g/molとの間のピーク分子量MP、および55~95%(w/w)の間のエチレンオキシドのパーセンテージをもつメロキサポールを含む、細胞培養培地である。
好ましい態様において、メロキサポールは、1800g/molと3500g/molとの間のピーク分子量Mを有し,およびPEOパーセンテージは55%と95%(w/w)との間である。
【0061】
他の好ましい態様において、細胞培養培地は、消泡剤を含まず、または減少された量の消泡剤、好ましくはポロキサマー188以外の本発明のポロキサマーを含まない細胞培養液と比較して50%未満を含む。好ましくは、培地はまた、ポロキサマー188も含まない。
【0062】
細胞培養培地のメロキサポールの濃度は、好ましくは液体培地のために算出された0.1~10g/Lの間にある。きわめて好ましい態様において、メロキサポールの量は、液体培地のために算出された0.5~2g/Lの間にある。メロキサポールは、上で定義されたとおり、メロキサポールの1つのタイプ、または上で定義されたとおり、メロキサポールの2つ以上の混合物であることができる。
【0063】
好ましくは、細胞培養培地は、乾燥粉末または乾燥顆粒化培地または液体培地である。乾燥培地の場合には、培地は、使用の前に好適な量の水または水性緩衝剤で溶解される。
本発明の細胞培養培地は、細胞培養の任意のタイプのためにも使用されることができる。細胞培養は、細胞が培養されるいずれかのセットアップである。
【0064】
細胞培養は、シャーレ、アイレット、瓶、管、ウェル、容器、バッグ、フラスコ、および/またはタンクなどの、細胞の培養のために好適な任意の容器でも実行される。好ましくは、それは、バイオリアクター中で実行される。典型的に、容器は、使用の前に滅菌される。培養は、典型的には、好適な温度、モル浸透圧濃度、通気、撹拌等々などの好適な条件の下で、水性細胞培養培地中の、細胞のインキュベーションによって実行され、それは、環境からの外来の微生物による汚染を制限する。当業者は、細胞の成長/培養を支持または維持するための、好適なインキュベーション条件を認識している。
【0065】
本発明は、よって細胞培養のためのプロセスにも関し、それにより細胞が、1000g/molと8000g/molとの間のピーク分子量MPおよび55%と95%(w/w)との間のエチレンオキシドのパーセンテージをもつメロキサポールを含む液体培地中で培養される。
【0066】
細胞培養は、培養細胞のために好適な任意のセットアップであることもできる。好ましくは、それは、バッチ、流加、または灌流細胞培養である。
好ましくは、培養細胞のためのプロセスは、次のステップを含む:
a)バイオリアクターを提供すること
b)培養される細胞を本発明に従う細胞培養培地と混合すること。
c)ステップb)の混合物をインキュベートすること。
好ましい態様において、プロセスは、消泡剤の追加を関与しない。
【0067】
一態様において、プロセスは、次のステップを含む:
a)バイオリアクターを提供すること
b)培養される細胞を本発明に従う細胞培養培地と混合すること
c)ステップb)の混合物をインキュベートすること、それにより細胞培養培地、この場合、フィード培地であるが、それが、ステップc)の細胞インキュベーション時間の範囲内の全部の時間または一度または数回にわたって連続的に、バイオリアクターへと加えられる。
フィード培地は、本発明に従う細胞培養培地でもよく、しかし、それは、メロキサポールを含まないフィード培地でもよい。好ましくは、それは、メロキサポールを含まない。
【0068】
一態様において、バイオリアクターは、灌流バイオリアクターである。灌流バイオリアクターは、灌流細胞培養が実行されることができるバイオリアクターである。それは、典型的には細胞培養の間、密閉されているバイオリアクター容器、容器中の攪拌機、新鮮な培地を導入するためのライン、細胞、液体培地、および標的生成物を含む収穫流をバイオリアクターから取り除くための収穫ライン、および収穫の液体部分が収集されることができる一方で、細胞を保持する収穫ライン中の細胞保持装置を含む。好ましいセットアップについての詳細を提供する灌流細胞培養についてレビューは、"Perfusion mammalian cell culture for recombinant protein manufacturing - A critical review" Jean-Marc Bielser et al., Biotechnology Advances 36 (2018) 1328-1340中に見出されることができる。
【0069】
灌流プロセスにおいて、細胞が細胞保持装置を通してバイオリアクターに保持されると共に、細胞培養培地が、連続的に加えられ、ポンプを通して、バイオリアクターから取り除かれる。灌流の利点は、生成物が、バイオリアクターから毎日取り除かれることができ、したがって高温への組換えタンパク質の暴露時間を短縮し、酸化還元電位または放出された細胞プロテアーゼを減少させるので、きわめて高い細胞密度に到達する可能性(安定した培地交換に起因する)、およびきわめて脆弱な組換えタンパク質を生成する可能性である。
【0070】
一態様において、本発明のプロセスは、培地インレットおよび収穫アウトレットを伴なうバイオリアクターを含むバイオリアクターシステム中の培養細胞を含み、それによって
i.連続的に、または、1もしくは複数回、好ましくは連続的に、細胞培養プロセスの間、本発明に従う新しい細胞培養培地は、バイオリアクターに培地インレットを介して注入され、
ii.細胞培養プロセスの間に連続的に、または、1もしくは複数回、好ましくは連続的に、収穫は、バイオリアクターから収穫アウトレットを介して取り除かれる。収穫は、典型的には、細胞、細胞および液体細胞培養培地によって生成される標的生成物を含む。
【0071】
本発明に従う細胞培養培地を用いた場合に、上で定義されたメロキサポールの代わりにポロキサマー188を含む培地による以外は同じ条件の下で実行される細胞培養と比較して、該培養は、等しい生産力および減少された泡形成を示す。
【0072】
本発明は、それゆえ攪拌されおよび/またはスパ―ジされた細胞培養において泡形成を減少させるための方法にも関し、それにより細胞は、1000g/molと8000g/molとの間のピーク分子量MPおよび55%と95%(w/w)との間のエチレンオキシドのパーセンテージをもつメロキサポールを含む液体培地中で培養され、そして1000g/molと8000g/molとの間のピーク分子量MPおよび55%と95%(w/w)との間のエチレンオキシドのパーセンテージをもつメロキサポールの替わりにポロキサマー188を含む細胞培養培地中で同じ条件下で培養された細胞と比較して、泡形成が、減少する。好ましくは、泡の形成を抑える方法において、消泡剤が使用されない。
【0073】
本発明は、攪拌されおよび/またはスパ―ジされた細胞培養において細胞を培養するための方法にも関し、それにより細胞は、1000g/molと8000g/molとの間のピーク分子量MPおよび55%と95%(w/w)との間のエチレンオキシドのパーセンテージをもつメロキサポールを含む液体培地中で培養され、そして1000g/molと8000g/molとの間のピーク分子量MPおよび55%と95%(w/w)との間のエチレンオキシドのパーセンテージををもつのメロキサポールの替わりにポロキサマー188を含む細胞培養培地中で同じ条件下で培養された細胞と比較して、液体培地中の消泡剤の量が、減少した。好ましくは、消泡剤の量は、少なくとも25%、好ましくは少なくとも50%減少される。最も好ましいのは、攪拌培養および/またはスパージ培養された細胞の培養方法において、消泡剤が使用されない。
【0074】
本発明の培地および方法は、初めて、一方ではせん断応力保護を提供し、他方では、泡の安定化に典型的に関連する合併症およびその結果として生じる消泡剤の追加の必要性を回避する可能性を提供する。せん断応力保護は、泡の形成と安定化に悪影響を与えることなく提供される。泡形成に悪影響を及ぼすことなく、細胞培養液中のメロキサポールの量を増やすことさえ可能である。このことは、細胞培養の専門家にとって、理想的な培養条件を設定するための柔軟性を提供する。
【0075】
これらの結果は予想できないものであった。例えば、ポロキサマー188とメロキサポール12R8は、ピーク分子量(M)、%EO、PPOブロックの分子量、および細胞培養培地中の溶液の表面張力の値が類似しているが、それにもかかわらず非常に異なる泡の挙動を示す。例2からみられるように、メロキサポール12R8溶液は泡分析器のカラムの上部に達しない泡を生じ、最終的には5cmと6cmとの間のプラトー高さに平衡化した。それとは対照的に、ポロキサマー188を添加した試料は、極めて短時間で分析器カラムの最大泡高さに達した。
【0076】
上および下で引用されたすべての出願、特許、および刊行物ならびに対応する2022年4月13日に提出された対応する特許出願のEP22168244.6の全開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0077】

方法1
すべてのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)測定は、以下の通りに実行する:
較正標準:
PEG(Mp:430、982、1,960、3,020、6,690、12,300、26,100および44000g/モル)
溶離液:THF
流速:1mL/min
注入容量:100μl
カラム:粒子サイズ=5μm、材料=スチレン-ジビニルベンゼン
温度:40℃
検出器:屈折率(RI)
【0078】
分子量分布曲線は、すべてのメロキサポールに関して測定し、Mp(ピーク最大値)を、決定した(表1および2)。例示的な分布曲線は、メロキサポール8R6のためにサイズ排除クロマトグラフィーによって決定した分子量分布を示す、図13において、示される。Mpは、具体的なメロキサポールのピーク分子量を指し示す。
【0079】
方法2:
37℃での細胞培養培地中のメロキサポール溶液の泡発生測定
細胞培養培地中のメロキサポール溶液の調製
ポロキサマー188(Merck KGaA)のない細胞培養培地Cellvento(登録商標)4CHO中の標的メロキサポールの溶液を、選択された濃度で調製し、そしてその後完全分散まで、ローラーミキサーを介して、少なくとも2時間かき混ぜ、または混合した。溶液を、重量によって調製した。細胞培養培地は、製造者の指示に従って調製された。
【0080】
泡の測定
泡の発生は、Dynamic Foam Analyzer DFA 100 (Kruess GmbH)を使用することにより、試験した。
以下のパラメーターを、採用した:
温度:37℃
発泡方法:量制御(空気)
流速:0.3L/分
液体容量:15mL
コラムCY4575-40mm t.プリズム
フィルターFL4551-ペーパー、12-25μm、
【化3】
高さ照明 青-λ=469nm
サンプルホルダーSH4511 スパージング
カメラ高さ:60mm
カメラ位置:2
構造照明:30%
高さ照明:20%
【0081】
溶液を、Foam Analyzer DFA 100のガラスカラムに注入した。溶液は、これがバイオリアクターで用いられる温度であるので、37℃まで加熱した。
【0082】
気体フローが開始され、泡形成(泡高さ、液体高さ、および泡構造)は、Foam Analyzerによって記録した。
【0083】
泡がカラムの最大高さ(210mm)に達した場合、オーバーフローを防ぐためにガスフローは自動的に停止し、選択された時間、ガス・スパージングなしで泡の減衰がモニターされた。泡がカラムの最上部に達しなかった場合は、選択した時間(通常60分)ガスは流れることを継続し、次いで止まり、泡の減衰をモニターした。
【0084】
方法3:
静的表面張力の測定
静的表面張力は、フォーステンシオメーターK100C(Kruss GmbH)を用いて測定した。測定にはウィルヘルミープレートを用いた。
【0085】
以下のパラメーターを採用した。
測定温度:37°C
測定時間:300s
データポイント:200
周波数:1Hz
測定した表面張力の標準偏差が、200データポイントの平均値から0.07mN/m未満になるまでデータを取得する。
【0086】
フォーステンシオメーターK100Cのガラスベッセルに溶液を、注いだ。この温度はバイオリアクターにおいて用いられる温度であるため、溶液を、37℃まで加熱した。測定を開始する直前に、ウィルヘルミープレートを赤く輝くまで炎であぶり、汚れを除去し、接触角がゼロになることを確実にした。
【0087】
方法4
回転チューブにおける流加細胞培養
流加細胞培養を、実行し、培養することの間、メロキサポールの保護能力を評価した。CHOK1GS細胞を、用いた。培養は、30mLの最終的な容量ををもつ回転チューブ(TPP、Art. No.87050)中で、37℃、5%COの加湿雰囲気、および320rpm回転速度で、実行した(インキュベーターのたわみ25mm)。
【0088】
流加の開始の前に、細胞を、2g/Lポロキサマー188を含有する細胞培養培地Cellvento(登録商標)4CHO(Merck KGaA、103795)中で培養した。この培地に、HT-supplements 100x(ナトリウム-ヒポキサンチン(10mM)およびチミジン(1.6mM)、Gibco(登録商標)、Life technologies, Art. No. 11067-030)およびLメチオニンスルホキシイミン(Sigma Aldrich M5379)を、添加した。各条件について、ポロキサマー188(Merck KGaA)を含まない細胞培養培地Cellvento(登録商標)4CHOを使用し、選択されたメロキサポールを、添加し、1g/Lの濃度を達成した。溶液を、少なくとも2時間撹拌し、完全に分散させた。
【0089】
流加の0日目に、細胞を、5分間2000rpmで遠心分離し、次いでポロキサマー188のない4CHO+HT中で再懸濁して、プールした。
CHOK1 GS細胞を異なるポロキサマー条件(各4反復)で、0.2・10細胞/mLで播種した。
細胞を、フィード溶液によりフィードした。
【0090】
グルコース濃度を、D3から開始して、毎日測定した。要求に応じて、グルコースの連続フィードを、全発酵プロセスの間、維持した。
培養を、17日間、実行した。
【0091】
ViCell(Beckman Coulter)のよるVCDおよび生存率の分析、およびCedex(Bio HT Analyzer, Roche)を使用したIgGの決定を、毎日実行した。
【0092】
バイオリアクターでの流加細胞培養
CHOK1 GS細胞の培養におけるメロキサポールの保護性能と低発泡性能を評価するために、バイオリアクターにおいて流加細胞培養を行った。
【0093】
ガラスバイオリアクター(Eppendorf, DASGIP(登録商標)Parallel bioreactor system Catalog. 76DG08CCおよび76DG04CCBB)を使用した。バイオリアクターに、L-スパージャーとピッチドブレードインペラーを装備した。
泡のオーバーフローを防ぐため、泡トラップを、加えた。
【0094】
フィードバッチの開始前に、細胞培養培地Cellvento(登録商標)4CHO(製剤にポロキサマーを含まない、Merck KGaA、4.74000.9999)中のメロキサポールおよびポロキサマー188の各溶液でそれぞれ細胞を培養し、適合させた。濃度は2g/Lであった。この培地にHT-サプリメント100x(ナトリウム-ヒポキサンチン(10mM)およびチミジン(1,6mM)、Gibco(登録商標)、Life technologies、Art. 11067-030)およびL-メチオニンスルホキシミン(Sigma Aldrich M5379)を添加した。
【0095】
フィードバッチは以下のパラメーターに従って行われた。
【表3】
0.2~0.4%の消泡剤Cを、泡が泡トラップに回収され始めたときのみ添加した。この現象はポロキサマー188でのみ起こった。試験した他のすべてのメロキサポールによる、有意な泡の形成は起こらず、したがって、消泡剤Cを添加する必要はなかった。
【0096】
例1 発泡分析
選択したメロキサポールの泡発生の挙動を、調べた。実験セットアップと手順方法2において記載する。
【0097】
メロキサポールで安定化した泡を、動物を含まない細胞培養培地のベンチマークであるポロキサマー188で安定化した泡と比較した。異なる溶液を調製した。メロキサポールをCellvento(登録商標)4CHO細胞培養培地(ポロキサマー188の存在なし)に1000ppm(1g/L)と2000ppm(2g/L)の濃度で添加した。
【0098】
メロキサポール濃度が1000ppmの培地については図1に、メロキサポール濃度が2000ppmの培地については図2に、泡発生プロットを報告する。
【0099】
どちらの濃度でもポロキサマー188によって安定化された泡は、50秒以内に最大泡高さ210mm(すなわち、泡分析器のカラムの長さ)に達した。その時点で、オーバーフローを防ぐため、測定を、装置によって自動的に停止した。
【0100】
メロキサポールは大きく異なる挙動を示した。メロキサポールによって安定化した泡は泡沫分析計のカラムの最上部まで到達せず、測定時間中全体について空気のスパージングが続いた。泡はガスパージングの最初の数秒間(the first seconds)で迅速に成長し、1000ppmの溶液では30~69mm、2000ppmの溶液では24~162mmの間で最大高さに達した。その後、泡の高さは迅速に減少し、1000ppm溶液では24~51mm、2000ppm溶液では24~63mmの間で一定の高さに安定した(図1、2、3、および4参照)。
【0101】
泡の高さが減少し、一定の泡レベル、すなわちプラトーの高さ、が形成されることは、スパージングによる泡の形成と、排水と泡の合体による泡の崩壊との間の平衡という観点から説明し得る。
【0102】
メロキサポールはポロキサマー188と比較して泡を安定化しにくいにもかかわらず、泡の安定化能力に関する有意差が異なるメロキサポールについて観察された。メロキサポール9R8と12R8は、他のメロキサポールに比べて、泡をより安定化しやすく、およびより高い泡の高さをもたらした。特に、メロキサポール8R6は両方の濃度にて、最も低い泡のプラトー泡の最大高さを表した。
【0103】
ポロキサマー188とメロキサポール9R8は極めて異なる泡の挙動を有する。ポロキサマー188で安定化された泡は、1分以内に最大の泡の高さ21cmに達するが、代わりにメロキサポール9R8の泡は、両方の濃度にて最大の泡の高さ約7cmを有し、1000ppmにて5cm、2000ppmにて6cm前後のプラトーの高さで平衡に達する。
【0104】
もう一つの驚くべき観察は、濃度を2倍にしても、平均最大泡の高さとプラトーの高さは類似のままであったことである。メロキサポール12R8についてのみ、平均最大泡の高さは、1000ppmにて、に比べ、2000ppmにて、顕著に、より高かった。
【0105】
これらの予期されない泡分析のデータは、泡分析の直前に同じ溶液を用いて37℃で行った静的表面張力測定によって説明され得た。濃度の増加は表面張力の大きな低下にはつながらず、その差は1~2.5mN/mであった。2倍の濃度による表面張力の最大の差は、メロキサポール12R8溶液(すなわち、4mN/M)について測定され、平均泡の高さでも最大の差が生じたのと同じ試料であった。
【0106】
各サンプルの表面張力値と平均プラトーの高さまたは平均最大の泡の高さとの間に、有意な相関関係を、見出さなかった。原理的には、表面張力が低ければ低いほど、より高い界面領域の安定化につながり、したがって、より多くのバブルおよびより多くの泡を導く。しかしながら、メロキサポール8R6溶液は、他の資料と比較して表面張力が低い(1000ppmで(48.7±0.2)mN/m、2000ppmで(46.5±0.3)mN/m)が、しかし最も低い泡の高さをもたらす。
【0107】
ポロキサマー188とメロキサポール12R8は、類似するピーク分子量(Mp)、%EO、PPOブロックの分子量、細胞培養液中の溶液の表面張力の値を有するが、しかしそれらは、極めて異なる泡の挙動を表す。メロキサポール12R8溶液は、泡沫分析器のカラムの上端まで到達しない泡をもたらし、およびそれは、5cmと6cmとの間のプラトー高さに、結果的に平衡化した。
【0108】
表3は、1000ppmおよび2000ppm濃度の細胞培養培地中のメロキサポール溶液の静的表面張力を示している。報告されたデータは、37℃における反復測定の平均値と標準偏差である。
【表4】
【0109】
例2:
流加培養におけるメロキサポールの使用
回転チューブ培養
流加細胞培養(方法4参照)を行い、ベンチマークであるポロキサマー188と比較した各種メロキサポールのせん断応力保護特性を調べた。
【0110】
泡分析データで観察されたように、メロキサポールはポロキサマー188と比較して大いに低い泡の高さをもたらし、せん断応力保護剤であれば細胞培養に極めて魅力的であろう。
【0111】
CHOK1 GS細胞の流加培養を、方法4に記載した手順に従い、回転チューブ中で17日間実行した。すべてのメロキサポールを、ポロキサマー188を含まないCellvento(登録商標)4CHO細胞培養培地で試験した。各溶液は、1g/Lメロキサポール(すなわち、1000ppm)の濃度を有した。
【0112】
図5、6および7に示されるように、メロキサポールで培養した細胞の生存率、生存細胞密度、IgG生産性は、188の濃度を2倍(2g/L)にしても、ポロキサマー188で培養した細胞のデータに匹敵する。
【0113】
図6は、異なるサンプル間の違いをより明確に指摘する。7日目まで、すべてのサンプルが、誤差の範囲内で匹敵するVCDを有する。培養の10日目の後、両濃度のポロキサマー188で培養された細胞は減少し始め、代わりに他のメロキサポールで培養された細胞は13日目まで増殖し続けた。
メロキサポール、特に8R7と8R6で培養した細胞の抗体産生は、ポロキサマー188で培養した細胞に匹敵する。
【0114】
この実験は、記載されたメロキサポールは、回転チューブにおける流加培養に効果的なせん断応力保護剤であり、および抗体生産性はポロキサマー188を用いた培養に匹敵することを示した。メロキサポールが細胞増殖をいかにうまくサポートしているかを観察することは、特に回転チューブの流加のようなせん断応力の低い条件下においてさえ、ポロキサマー188が培養に不可欠であることを考慮すると、顕著である。ポロキサマー188の必須の役割は図8において指摘されており、そこで、いずれのポロキサマーも存在しない培養中の細胞生存率が、1g/Lのポロキサマー188を包含する条件と比較される。ポロキサマー188または本発明に記載のメロキサポールのような低発泡性の代替物のいずれかが、懸濁培養において細胞増殖を達成するために、必要である。
【0115】
回転チューブにおける培養は、そのセットアップ(スパージングが存在せず、したがって泡が形成されない)により、異なる条件の泡形成を比較することを許容しない。低発泡能力と組み合わされたせん断応力保護の評価は、バイオリアクター培養で行われることになる。
【0116】
バイオリアクター培養
バイオリアクターでの流加細胞培養は、ベンチマークであるポロキサマー188と比較して、異なるメロキサポールのせん断応力保護と泡安定化特性を同時に評価するために行われた。バイオリアクターにおける培養は、回転チューブ培養とは対照的に、空気スパージングと機械的攪拌を関与するため、泡の形成につながり得た。したがって、バイオリアクターは、メロキサポールの性能を評価するのに適している。
【0117】
CHOK1 GS細胞の流加培養を、方法4において記載された手順に従って、ガラス製バイオリアクターにおいて14日間実行した。すべてのメロキサポールは、ポロキサマー188を含まないCellvento(登録商標)4CHO細胞培養培地で試験した。各条件は、2g/L(すなわち、2000ppm)のメロキサポールまたはポロキサマー188の濃度を有した。
【0118】
図9、10および11に示されるように、メロキサポール8R7および8R6中で培養された細胞の生存率、生存細胞密度およびIgG生産性は、ポロキサマー188で培養された細胞のデータに匹敵する。メロキサポール12R8で培養された細胞は、より低いVCDおよびIgG力価を表すが、しかし匹敵する生存率を表す。この観察は、メロキサポール12R8が他の条件と比較して、より低い効率のせん断応力保護剤であることのヒントであり得る。増大したせん断応力をともなうこの培養セットアップは、私たちに保護性能をより深く評価し、およびメロキサポールを区別することを許容した。
メロキサポール8R7と8R6中で培養された細胞の抗体産生は、ポロキサマー188で培養した細胞に匹敵する。
【0119】
メロキサポールとポロキサマー188で安定化された泡の違いは顕著である。メロキサポールを含有するバイオリアクターで形成された泡は、培養全体にわたって極めてわずかである。最大泡レベルを、14日目の培養終了時に記録し、メロキサポール8R7について150mL、メロキサポール8R6について50mL、メロキサポール12R8についてなしであった。
【0120】
代わりに、ポロキサマー188は、わずか7日後に800mLの泡レベルに達し、泡のオーバーフローを避けるために消泡剤Cが必要となった。消泡剤Cの添加がなければ、オーバーフローは過圧、漏出、汚染、および最終的には実験の中断につながり得た。10日目から始まり、ポロキサマー188を含有する3つのバイオリアクターに消泡剤Cを毎日添加した。それにもかかわらず、泡は、ますます安定された。メロキサポールで支えられた培養には消泡剤Cを要求せず、およびそれらは泡切れのリスクも呈さなかった。
【0121】
メロキサポール8R7および8R6の使用は、ポロキサマー188に匹敵する細胞増殖および抗体生産性をもたらし、および同時に消泡剤Cの必要性を回避して泡の形成を大幅に減少させることが実証された。選択されたメロキサポールの使用は、バイオプロセスにおいて非常に有用であり得、リスクを低減し、消泡剤の添加に関する問題を回避する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【外国語明細書】