(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157281
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】制御装置、成膜装置、成膜方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
C23C 14/35 20060101AFI20231019BHJP
【FI】
C23C14/35 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067084
(22)【出願日】2022-04-14
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】小沢 帆太郎
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029CA05
4K029DC41
4K029EA00
(57)【要約】
【課題】所望の成膜形状を容易に実現する。
【解決手段】スパッタリング装置で、ターゲットのスパッタ面の背側に位置する複数の電磁石を有するスパッタリングカソードの制御装置500であって、目標の成膜形状を示す目標パターンの入力を受け付ける入力部510と、複数の電磁石の制御によって成形可能な複数の成膜形状の重ね合わせで目標パターンを表した近似パターンを生成する近似処理部530と、近似パターンに係る成膜形状を切り替えながら、複数の電磁石を駆動させる制御部560と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットのスパッタ面の背側に位置する複数の電磁石を有するスパッタリングカソードの制御装置であって、
目標の成膜形状を示す目標パターンの入力を受け付ける入力部と、
複数の前記電磁石の制御によって成形可能な複数の成膜形状の重ね合わせで前記目標パターンを表した近似パターンを生成する近似処理部と、
前記近似パターンに係る成膜形状を切り替えながら、複数の前記電磁石を駆動させる制御部と、
を備える制御装置。
【請求項2】
前記近似パターンを構成する複数の前記成膜形状それぞれについて、当該成膜形状を得るために複数の前記電磁石それぞれに供給すべき電流の物理量を決定する決定部を備え、
前記制御部は、前記物理量に従って、前記近似パターンに係る成膜形状を切り替えながら、複数の前記電磁石を駆動させる、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記決定部は、複数の前記電磁石に係る電流の物理量と当該物理量による制御で得られる成膜形状との組み合わせを含む学習用データセットを用いて、前記成膜形状を入力とし、前記物理量を出力とするようにパラメータが学習されたモデルである電流決定モデルを用いて、前記成膜形状から前記電流の物理量を決定する、
請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記学習用データセットに係る成膜形状は、前記スパッタリングカソードの物理モデルを用いたシミュレーションによって得られたものである、
請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記近似パターンは、複数の成膜形状と、各成膜形状の係数によって表され、
前記制御部は、前記近似パターンに係る成膜形状を前記係数に応じた時間で切り替えながら、複数の前記電磁石を駆動させる、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の制御装置と、
真空チャンバと、
前記真空チャンバ内に設けられた前記ターゲットを有し、前記ターゲットの前記スパッタ面と背向する側に配置されて前記ターゲットの前記スパッタ面側に漏洩磁場を作用させる複数の前記電磁石を備える前記スパッタリングカソードと、
前記真空チャンバ内に前記ターゲットに対向して配置され基板を支持する基板支持部と、
前記スパッタリングカソードにプラズマ形成電力を供給するプラズマ供給電源と、
前記真空チャンバ内のガス雰囲気を設定するガス雰囲気設定機構と、
を備える成膜装置。
【請求項7】
前記制御装置が、複数の前記電磁石により、前記ターゲットに対して回転する回転磁場か、前記ターゲットに対して往復する揺動磁場を形成するように前記スパッタリングカソードを制御する、
請求項6に記載の成膜装置。
【請求項8】
ターゲットのスパッタ面の背側に位置する複数の電磁石を有するスパッタリングカソードを用いた成膜方法であって、
目標の成膜形状を示す目標パターンの入力を受け付けるステップと、
複数の前記電磁石の制御によって成形可能な複数の成膜形状の重ね合わせで前記目標パターンを表した近似パターンを生成するステップと、
前記近似パターンに係る成膜形状を切り替えながら、複数の前記電磁石を駆動させるステップと、
を備える成膜方法。
【請求項9】
ターゲットのスパッタ面の背側に位置する複数の電磁石を有するスパッタリングカソードを制御するコンピュータに、
目標の成膜形状を示す目標パターンの入力を受け付けるステップと、
複数の前記電磁石の制御によって成形可能な複数の成膜形状の重ね合わせで前記目標パターンを表した近似パターンを生成するステップと、
前記近似パターンに係る成膜形状を切り替えながら、複数の前記電磁石を駆動させるステップと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、成膜装置、成膜方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程やフラットパネルディスプレイの製造工程においては、矩形の輪郭を持つガラス基板や円形の輪郭を持つシリコンウエハなどの基板表面に所定の薄膜を成膜する工程がある。このような成膜工程には、マグネトロン方式のスパッタリング装置が広く利用されている。このスパッタリング装置は、真空チャンバを備え、真空チャンバには、内部にセットされるガラス基板に対向させてカソードユニットが備えられている。
【0003】
カソードユニットは、通常、基板に対応する輪郭を持つこの基板より一回り大きい面積のターゲットと、ターゲットのスパッタ面と背向する側に配置されてスパッタ面側に漏洩磁場を作用させる磁石ユニットとで構成されている。
マグネトロンスパッタリング装置では、スパッタリング中、磁石ユニットを直交方向に所定速度で往復動させること、あるいは、磁石ユニットを円周方向に所定速度で回転運動させることがある。
【0004】
特許文献1には、マグネトロン装置のカソードユニットにおいて、マグネットそのものを移動させることなく、複数並べた電磁石群への通電状態を制御して、移動する磁場を形成する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載される技術では、形成される磁場制御、プラズマ分布制御、ターゲットにおける非エロージョン領域への対処が充分でなく、これに対応したいという要求があった。
【0007】
これは、次の状況に起因する。
【0008】
スパッタリングによる成膜では、ターゲットを構成する金属の種類や構成元素に起因して、ターゲットから叩き出されたスパッタ粒子の挙動が異なる。また、スパッタリングの条件の変動により、スパッタ粒子が基板に到達するまでの過程は複雑に変化する。スパッタリングによって所望の成膜分布を得るために、複数の磁石により構成された磁気回路を調整するだけでなく、成膜空間の圧力、T/S距離(ターゲットと基板との距離)、T/M距離(ターゲットと磁石との距離)、基板に対するバイアス電圧、外部磁場等を調整している。
【0009】
近年では、マグネトロンスパッタリング装置によって得られる成膜分布として、±5%未満といった均一性に優れた分布が求められている。しかし、従来のスパッタリングカソードにおける上述した各種調整によって、均一性に優れた分布を得るためには、極めて微細な調整が必要であり、多大な手間と時間を要し、調整を容易に行うことが実現できていないという問題がある。
【0010】
さらに、スパッタリングによる均一性に優れた成膜分布の形状は、複数の基板に対する連続成膜に伴う、ターゲットの形状変化、成膜空間の内部に露出するシールド部材に対する膜の付着等の不可避的な経時変化により、容易に崩れてしまう。このため、成膜分布の再現性が得られにくいという問題もある。
【0011】
しかも、これらを供給電流の制御でおこなおうとすると、各電磁石で形成される磁場状態、および、これらを基板全体に対応する空間で重ね合わせた磁場空間分布及びその時間変動、磁場によって変動するプラズマ三次元分布、および、非エロージョン領域状態を入手する必要があり、さらに、これらの状態から実際の成膜状態(成膜形状)を考慮した上で、制御電流を設定する必要がある。したがって、所望の成膜状態を実現するために必要な電流等の設定条件を求めるには、現実的でないほど多大な作業時間と作業工数を必要としていた。
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、以下の目的を達成しようとするものである。
1.複数の電磁石を並べて発生磁場を切り替える成膜において、所望の成膜状態を得るために必要な磁場制御を可能とすること。
2.上記で必要な磁場制御を可能とする電流設定を容易にして、その算出時間を短縮すること。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明の一態様にかかる制御装置は、
ターゲットのスパッタ面の背側に位置する複数の電磁石を有するスパッタリングカソードの制御装置であって、
目標の成膜形状を示す目標パターンの入力を受け付ける入力部と、
複数の前記電磁石の制御によって成形可能な複数の成膜形状の重ね合わせで前記目標パターンを表した近似パターンを生成する近似処理部と、
前記近似パターンに係る成膜形状を切り替えながら、複数の前記電磁石を駆動させる制御部と、
を備える。
(2)本発明の制御装置は、上記(1)において、
前記近似パターンを構成する複数の前記成膜形状それぞれについて、当該成膜形状を得るために複数の前記電磁石それぞれに供給すべき電流の物理量を決定する決定部を備え、
前記制御部は、前記物理量に従って、前記近似パターンに係る成膜形状を切り替えながら、複数の前記電磁石を駆動させる。
(3)本発明の制御装置は、上記(2)において、
前記決定部は、複数の前記電磁石に係る電流の物理量と当該物理量による制御で得られる成膜形状との組み合わせを含む学習用データセットを用いて、前記成膜形状を入力とし、前記物理量を出力とするようにパラメータが学習されたモデルである電流決定モデルを用いて、前記成膜形状から前記電流の物理量を決定する。
(4)本発明の制御装置は、上記(3)において、
前記学習用データセットに係る成膜形状は、前記スパッタリングカソードの物理モデルを用いたシミュレーションによって得られたものである。
(5)本発明の制御装置は、上記(1)において、
前記近似パターンは、複数の成膜形状と、各成膜形状の係数によって表され、
前記制御部は、前記近似パターンに係る成膜形状を前記係数に応じた時間で切り替えながら、複数の前記電磁石を駆動させる。
(6)本発明の他の態様にかかる成膜装置は、
上記(1)~(5)のいずれか1項に記載の制御装置と、
真空チャンバと、
前記真空チャンバ内に設けられた前記ターゲットを有し、前記ターゲットの前記スパッタ面と背向する側に配置されて前記ターゲットの前記スパッタ面側に漏洩磁場を作用させる複数の前記電磁石を備える前記スパッタリングカソードと、
前記真空チャンバ内に前記ターゲットに対向して配置され基板を支持する基板支持部と、
前記スパッタリングカソードにプラズマ形成電力を供給するプラズマ供給電源と、
前記真空チャンバ内のガス雰囲気を設定するガス雰囲気設定機構と、
を備える。
(7)本発明の成膜装置は、上記(6)において、
前記制御装置が、複数の前記電磁石により、前記ターゲットに対して回転する回転磁場か、前記ターゲットに対して往復する揺動磁場を形成するように前記スパッタリングカソードを制御する。
(8)本発明の他の態様にかかる成膜方法は、
ターゲットのスパッタ面の背側に位置する複数の電磁石を有するスパッタリングカソードを用いた成膜方法であって、
目標の成膜形状を示す目標パターンの入力を受け付けるステップと、
複数の前記電磁石の制御によって成形可能な複数の成膜形状の重ね合わせで前記目標パターンを表した近似パターンを生成するステップと、
前記近似パターンに係る成膜形状を切り替えながら、複数の前記電磁石を駆動させるステップと、
を備える。
(9)本発明の他の態様にかかるプログラムは、
ターゲットのスパッタ面の背側に位置する複数の電磁石を有するスパッタリングカソードを制御するコンピュータに、
目標の成膜形状を示す目標パターンの入力を受け付けるステップと、
複数の前記電磁石の制御によって成形可能な複数の成膜形状の重ね合わせで前記目標パターンを表した近似パターンを生成するステップと、
前記近似パターンに係る成膜形状を切り替えながら、複数の前記電磁石を駆動させるステップと、
を実行させる。
【0014】
(1)本発明の一態様にかかる制御装置は、
ターゲットのスパッタ面の背側に位置する複数の電磁石を有するスパッタリングカソードの制御装置であって、
目標の成膜形状を示す目標パターンの入力を受け付ける入力部と、
複数の前記電磁石の制御によって成形可能な複数の成膜形状の重ね合わせで前記目標パターンを表した近似パターンを生成する近似処理部と、
前記近似パターンに係る成膜形状を切り替えながら、複数の前記電磁石を駆動させる制御部と、
を備える。
【0015】
上記の構成によれば、入力部に目標の成膜形状を示す目標パターンを入力し、近似処理部が、複数の成膜形状の重ね合わせで表した近似パターンを生成し、これに基づいて複数の電磁石を駆動させることができる。これにより、所望の成膜形状を得るための複数の電磁石の制御を好適におこなうことが容易に可能となる。
【0016】
(2)本発明の制御装置は、上記(1)において、
前記近似パターンを構成する複数の前記成膜形状それぞれについて、当該成膜形状を得るために複数の前記電磁石それぞれに供給すべき電流の物理量を決定する決定部を備え、
前記制御部は、前記物理量に従って、前記近似パターンに係る成膜形状を切り替えながら、複数の前記電磁石を駆動させる。
【0017】
上記の構成によれば、決定部は、近似処理部で得られた近似パターンそれぞれを実現するための、複数の電磁石を駆動する電力の物理量条件を決定することができる。
【0018】
(3)本発明の制御装置は、上記(2)において、
前記決定部は、複数の前記電磁石に係る電流の物理量と当該物理量による制御で得られる成膜形状との組み合わせを含む学習用データセットを用いて、前記成膜形状を入力とし、前記物理量を出力とするようにパラメータが学習されたモデルである電流決定モデルを用いて、前記成膜形状から前記電流の物理量を決定する。
【0019】
上記の構成によれば、複数の電磁石それぞれに係る電流の物理量を出力とするように学習された電流決定モデルを用いることで、少ない計算量で所望の成膜形状を得るための複数の電磁石を駆動する電力条件の組み合わせを求めることができる。
【0020】
(4)本発明の制御装置は、上記(3)において、
前記学習用データセットに係る成膜形状は、前記スパッタリングカソードの物理モデルを用いたシミュレーションによって得られたものである。
【0021】
上記の構成によれば、物理モデルは、例えばパラメトリック次元縮退モデルであってよい。また、シミュレーションは有限要素法或いはそれ以外の手法でスパッタリング装置の挙動をシミュレートしてもよい。シミュレーションの結果得られた膜厚の分布を表す波形は記録される。
【0022】
(5)本発明の制御装置は、上記(1)~(4)のいずれかにおいて、
前記近似パターンは、複数の成膜形状と、各成膜形状の係数によって表され、
前記制御部は、前記近似パターンに係る成膜形状を前記係数に応じた時間で切り替えながら、複数の前記電磁石を駆動させる。
【0023】
上記の構成によれば、係数に応じた時間で切り替えることで、所望の成膜形状を得るための複数の電磁石の駆動条件を得ることができる。
【0024】
(6)本発明の他の態様にかかる成膜装置は、
上記(1)~(5)のいずれか1項に記載の制御装置と、
真空チャンバと、
前記真空チャンバ内に設けられた前記ターゲットを有し、前記ターゲットの前記スパッタ面と背向する側に配置されて前記ターゲットの前記スパッタ面側に漏洩磁場を作用させる複数の前記電磁石を備える前記スパッタリングカソードと、
前記真空チャンバ内に前記ターゲットに対向して配置され基板を支持する基板支持部と、
前記スパッタリングカソードにプラズマ形成電力を供給するプラズマ供給電源と、
前記真空チャンバ内のガス雰囲気を設定するガス雰囲気設定機構と、
を備える。
【0025】
上記の構成によれば、ガス雰囲気設定機構により真空チャンバ内のガス雰囲気を設定し、基板支持部により真空チャンバ内に基板を支持し、プラズマ供給電源からスパッタリングカソードにプラズマ形成電力を供給して基板に対向するターゲットにエロージョン領域を形成してプラズマを形成するとともに、制御装置により複数の電磁石を駆動して必要な磁場を印加することで、スパッタリングをおこなって所望の成膜形状を得ることができる。
【0026】
(7)本発明の成膜装置は、上記(6)において、
前記制御装置が、複数の前記電磁石により、前記ターゲットに対して回転する回転磁場か、前記ターゲットに対して往復する揺動磁場を形成するように前記スパッタリングカソードを制御する。
【0027】
上記の構成によれば、ターゲットに対して回転する回転磁場を形成するように制御することで、例えば半導体装置等の製造に用いられる円形の基板へのスパッタリングをおこなって所望の成膜形状を得ることができる。また、ターゲットに対して往復する揺動磁場を形成するように制御することで、例えば液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどのFPD(flat panel display,フラットパネルディスプレイ)などに用いられる矩形の基板へのスパッタリングをおこなって所望の成膜形状を得ることができる。
【0028】
(8)本発明の他の態様にかかる成膜方法は、
ターゲットのスパッタ面の背側に位置する複数の電磁石を有するスパッタリングカソードを用いた成膜方法であって、
目標の成膜形状を示す目標パターンの入力を受け付けるステップと、
複数の前記電磁石の制御によって成形可能な複数の成膜形状の重ね合わせで前記目標パターンを表した近似パターンを生成するステップと、
前記近似パターンに係る成膜形状を切り替えながら、複数の前記電磁石を駆動させるステップと、
を備える。
【0029】
上記の構成によれば、目標パターンの入力を受け付けるステップで目標の成膜形状を示す目標パターンを入力し、近似パターンを生成するステップで、複数の成膜形状の重ね合わせで表した近似パターンを生成し、これに基づいて電磁石を駆動させるステップにより複数の電磁石を駆動させることができる。これにより、所望の成膜形状を得るための複数の電磁石の制御を好適におこなうことが容易に可能となる。
【0030】
(9)本発明の他の態様にかかるプログラムは、
ターゲットのスパッタ面の背側に位置する複数の電磁石を有するスパッタリングカソードを制御するコンピュータに、
目標の成膜形状を示す目標パターンの入力を受け付けるステップと、
複数の前記電磁石の制御によって成形可能な複数の成膜形状の重ね合わせで前記目標パターンを表した近似パターンを生成するステップと、
前記近似パターンに係る成膜形状を切り替えながら、複数の前記電磁石を駆動させるステップと、
を実行させる。
【0031】
上記の構成によれば、目標パターンの入力を受け付けるステップで目標の成膜形状を示す目標パターンを入力し、近似パターンを生成するステップで、複数の成膜形状の重ね合わせで表した近似パターンを生成し、これに基づいて電磁石を駆動させるステップにより複数の電磁石を駆動させることができる。これにより、所望の成膜形状を得るための複数の電磁石の制御を好適におこなうことを容易に可能とすることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、複数の電磁石を並べて発生磁場を切り替える成膜において、所望の成膜状態を得るために必要な磁場制御を可能と市、その際必要な磁場制御を可能とする電流設定を容易にして、その算出時間を短縮することができるという効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本発明に係る制御装置を備える成膜装置の第1実施形態を示す模式断面図である。
【
図2】本発明に係る制御装置を備える成膜装置の第1実施形態における複数の電磁石のブロックとグループの例を示す図である。
【
図3】本発明に係る制御装置の第1実施形態の構成を示す概略ブロック図である。
【
図4】本発明に係る制御装置の第1実施形態における目標パターンPiと近似パターンPaの例を示す図である。
【
図5】本発明に係る制御装置を備える成膜装置の第1実施形態における制御方法を示すフローチャートである。
【
図6】本発明に係る制御装置を備える成膜装置の第1実施形態における学習装置の構成を示す概略ブロック図である。
【
図7】本発明に係る制御方法の第1実施形態における電流決定モデルの学習方法を示すフローチャートである。
【
図8】本発明に係る制御装置を備える成膜装置の第2実施形態を示す模式断面図である。
【
図9】本発明に係る制御装置を備える成膜装置の第2実施形態における複数の電磁石のブロックとグループの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係る制御装置、成膜装置、成膜方法およびプログラムの第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態における制御装置を備える成膜装置を示す模式断面図であり、図において、符号100は、成膜装置である。
【0035】
本実施形態に係る成膜装置100は、一例としてスパッタリング装置であり、マグネトロンスパッタリング装置である。このマグネトロンスパッタリング装置は、スパッタダウン方式による平行平板型のスパッタリング装置であり、回転マグネトロンカソード(スパッタリングカソードユニット)に対応するカソードユニットを有する。ここで、スパッタリングカソードユニットとは、スパッタリング装置のカソード側を構成する部材の一群(ターゲットや磁気回路等)を意味する。なお、以下の説明では、マグネトロンスパッタリング装置を、スパッタリング装置と称することがある。
【0036】
本実施形態に係る成膜装置(スパッタリング装置)100は、半導体製造等におけるシリコン基板など、円形輪郭を有する基板への成膜に用いられる。
本実施形態に係る成膜装置(スパッタリング装置)100は、
図1に示すように、真空チャンバ10と、基板ステージ(基板支持部)20と、T/S可変機構20Aと、ターゲットTにプラズマ供給電力を印加するスパッタ電源(プラズマ供給電源)30Aと、基板ステージ20に電力を印加するバイアス電源30Bと、減圧機構としての真空ポンプ(ガス雰囲気設定機構)50と、処理ガスを供給するガス供給部(ガス雰囲気設定機構)60と、スパッタリングカソード70(第1電磁石71及び第2電磁石72)と、コイル電源73と、ヒータ(温度設定機構)80と、ターゲットTと、バッキングプレートBpと、制御装置CONTとを備える。
【0037】
(真空チャンバ)
真空チャンバ10は、下部チャンバ11と上部チャンバ12とを備える。上部チャンバ12は、開口12Aを有している。この開口12Aは、後述するバッキングプレートBpが設けられる部分である。真空チャンバ10及びバッキングプレートBpで囲まれたスパッタリング装置100の内部は、成膜空間Rである。下部チャンバ11には、ゲートバルブ(不図示)が設けられており、成膜空間Rの真空度を維持した状態でゲートバルブを開閉し、基板Sを成膜空間Rの外部と内部との間において、基板Sの搬送が可能となっている。
【0038】
(基板ステージ)
基板ステージ20は、真空チャンバ10内に配置されており、導電性部材であるアルミニウム合金等によって形成されている。基板ステージ20は、基板載置面20aを有する。この基板載置面20a上には、基板Sが載置される。基板ステージ20の厚さ方向の内部には温度設定機構としてのヒータ80が配置されてもよい。ヒータ80は、平面視して基板Sの直径よりも大きく配置される。ヒータ80は、ヒータ電源80Aに接続されて、加熱等の基板温度設定が可能である。
【0039】
(T/S可変機構)
T/S可変機構20Aは、基板ステージ20を上下に移動させることで、後述するターゲットTと基板Sとの距離(T/S距離)を調整する。T/S可変機構20Aの駆動機構としては、ステッピングモータ等を用いた公知の機構が用いられる。
【0040】
(スパッタ電源)
スパッタ電源30Aは、例えば、直流電源であり、真空チャンバ10の外部に設けられており、後述するバッキングプレートBpに電気的に接続されている。なお、スパッタ電源30Aとしては、直流/交流等の公知の電源を採用することができる。また、スパッタ電源30Aは、異なる周波数の電力を重畳させてバッキングプレートBpに供給することも可能である。
【0041】
(バイアス電源)
バイアス電源30Bは、例えば、真空チャンバ10の外部に設けられており、不図示のマッチングボックス及び配線を通じて真空チャンバ10内に設けられた基板ステージ20に電気的に接続されている。バイアス電源30Bは、13.56MHzといった公知の高周波電力を基板ステージ20に供給することができる。なお、バイアス電源30Bは、例えば、2Mzといったバイアス周波数の電力を基板ステージ20に供給することも可能である。
【0042】
なお、上述したスパッタ電源30A及びバイアス電源30Bの構成は、直流電源(DC)や高周波電源(RF)に限定されない。DC、RF以外にも、Pulse-DC、DC+RF等を採用することができる。
スパッタ電源30Aおよびバイアス電源30Bは、真空チャンバ10内にプラズマを形成するプラズマ形成電源を構成する。
なお、バイアス電源30Bを設けないこともできる。この場合、基板ステージ20をフロート、あるいは、グランド電位とすることもできる。
【0043】
(真空ポンプ)
真空ポンプ50は、不図示の圧力調整弁及び配管を介して、真空チャンバ10に形成された排気口に接続されている。ガス雰囲気設定機構としての真空ポンプ50を駆動することで、真空チャンバ10内を減圧して真空状態に維持することが可能である。真空ポンプ50は、プロセス中あるいはプロセス終了後に真空チャンバ10内に残存するガスを排気することが可能である。また、プロセスガスが真空チャンバ10内に供給されている状態で真空ポンプ50及び圧力調整弁が駆動することで、プロセス条件に応じて真空チャンバ10内の圧力を調整することが可能である。
【0044】
(ガス供給部)
ガス供給部60は、不図示のマスフローコントローラ及び配管を介して、真空チャンバ10に形成されたガス供給口に接続されている。ガス供給部60から真空チャンバ10に供給されるガスとしては、スパッタリングに用いられる公知のガスが用いられる。例えば、アルゴン、窒素、酸素含有ガス、その他のガスが用いられる。
【0045】
(コイル電源)
コイル電源73は、後述する第1電磁石(電磁石)71および第2電磁石(電磁石)72に電力を供給する。複数の第1電磁石71及び複数の第2電磁石72について、コイル電源73は、それぞれの電磁石を構成するコイルに電流、電圧を個別に制御することが可能である。なお、図において、コイル電源73は、複数の電磁石71,72に接続された一箇所で示しているが、個々の第1電磁石71および第2電磁石72にそれぞれ接続された構成とすることも可能であり、また、適宜、単独の電磁石に接続されたものと複数の電磁石に接続されたものを備えた構成とすることもできる。
【0046】
さらに、コイル電源73は、例えば、第1電磁石71には直流電流を供給して、第2電磁石72には3相交流電流を供給することが可能である。また、複数の第1電磁石71及び複数の第2電磁石72に供給する電流・電圧の大きさ、向き、周波数、位相、振幅等を個々の電磁石で異なるまたは同期するように制御して供給することが可能である。なお、後述するように、第1電磁石71および第2電磁石72を構成するコイルは、その巻き線が、発生すべき磁場に対して対応する巻き方を有する構成とされることができる。
【0047】
(制御装置)
制御装置CONTは、スパッタリング装置100を制御する装置である。制御装置CONTは、ターゲットTに電力を印加するスパッタ電源30A、基板ステージ20に電力を印加するバイアス電源30B、T/S可変機構20A、真空ポンプ50、ガス供給部60、ヒータ電源80A、コイル電源73に電気的に接続されている。制御装置CONTによって、スパッタリング装置100を構成する各種の部材、装置、機構の動作が制御される。
制御装置CONTによるコイル電源73の制御については後述する。
【0048】
(バッキングプレート)
バッキングプレートBpは、上部チャンバ12の開口12Aに配置されており、シール部材12Sを介して上部チャンバ12に固定されている。バッキングプレートBpは、下面Baと上面Bbとを有する。下面Baは、成膜空間Rに面しており、ターゲットTが固定される面である。上面Bbは、下面Baの反対側に位置し、後述する第1電磁石71および第2電磁石72が配置される。
【0049】
(ターゲット)
本実施形態のターゲットTは、平面視において、円形輪郭形状を有する。ターゲットTを構成する金属の種類は成膜する膜組成等に応じて設定され、特に限定されない。金属材料は、単一材料であってもよいし、複数の材料が所定の比率で含有された合金であってもよい。ターゲットTは、成膜空間R内において基板Sに対向するスパッタ面TSを有する。
ここで、「平面視」とは、
図1に示すZ方向の下方から上方を見た平面を意味している。このZ方向は、
図1の符号Zに示された方向と同じである。
【0050】
(スパッタリングカソード)
スパッタリングカソード70は、バッキングプレートBpの上面Bbに面しており、成膜空間Rの外側に配置されている。言い換えると、スパッタリングカソード70は、スパッタ面TSとは反対側に配置されている。スパッタリングカソード70は、第1電磁石71と第2電磁石72とを備える。
【0051】
第1電磁石71及び第2電磁石72は、ターゲットTの平面に対する鉛直方向に沿った軸線を有して配置されている。第1電磁石71及び第2電磁石72は、いずれもターゲットTの平面に平行な上面Bbに沿って配置されている。第1電磁石71は、平面視してターゲットTの中央と周縁部とに位置することができる。第1電磁石71は、コイル電源73に電気的に接続されたコイルを備え、第1電磁石71は、コイル電源73から直流電流を供給されることができる。
【0052】
一方、第2電磁石72は、第1電磁石71とは異なり、ターゲットTの平面に沿って敷き詰められるように複数配置されてもよい。第2電磁石72は、コイル電源73に電気的に接続された第1コイル及び第2コイルを備え、コイル電源73から異なる電流状態、例えば位相等の異なる交流電流を供給されることもできる。
【0053】
図2は、本実施形態に係るスパッタリング装置の複数の電磁石のブロックとグループの例を示す図である。なお、
図2において、電磁石は、交流の印加される第2電磁石72のみを示すが、この限りではない。
【0054】
制御装置500は、複数の電磁石72を略3回対称となるような3つのブロックB1-B3に分け、各ブロックB1-B3の電磁石72に120度ずつ位相がずれた交流電流を印加する。例えば、ブロックB1の電磁石72に、三相交流電流のU相電流を流し、ブロックB2の電磁石72に、三相交流電流のV相電流を流し、ブロックB3の電磁石72に、三相交流電流のW相電流を流す。これにより、制御装置500は、複数の電磁石72によって形成される漏洩磁場を回転させる。
【0055】
また、制御装置500は、複数の電磁石72を略同心円状の複数のグループG1-G5に分け、各グループG1-G5の電磁石72に流す交流電力の振幅を異ならせる。これにより、制御装置500は、ターゲットに所望の成膜形状の膜を生成する。なお、
図2の下部に示す例では複数の電磁石72が5つのグループG1-G5に分けられるが、グループGの数はこれに限られない。また、
図2の上部に示す例では複数の電磁石72が3つのブロックB1-B3に分けられるが、ブロックBの数はこれに限られない。ただし、スパッタリング装置に三相交流電流を流す場合、ブロックBの数は3の倍数となる。また、単相交流電流の位相を遅延させることで、任意の数のブロックBにおいても回転する漏洩磁場を実現することができる。
【0056】
図3は、本実施形態に係る制御装置500の構成を示す概略ブロック図である。
図3において、制御装置は、特に電磁石の制御を説明するために、符号500で示し、制御装置CONTに含まれるものとする。
制御装置500は、入力部510、波形記憶部520、近似処理部530、モデル記憶部540、決定部550および制御部560を備える。
【0057】
入力部510は、目標の成膜形状を示す目標パターンPiの入力を受け付ける。漏洩磁場が回転するため、ターゲットTの中心から等距離の位置における膜厚は等しくなる。したがって、目標パターンPiは、例えばターゲットTの断面における膜厚の変化を表す二次元の波形で表されるものであってよい。つまり目標パターンPiは、ターゲットTの中心からの距離と、当該距離における膜厚とによって表されてよい。
【0058】
波形記憶部520は、予め実験またはシミュレーションによって、スパッタリング装置100で実現可能な膜厚を表す複数の波形を記憶する。例えば、予めスパッタリング装置100の物理モデルを用いて、複数のグループGに任意の電流を印加させたときの挙動を、有限要素法に基づいてシミュレートすることで、実現可能な膜厚を表す複数の波形を得ることができる。当該波形は、後述する学習用データセットの生成時に得られるものであってよい。
【0059】
近似処理部530は、入力部510に入力された目標パターンPiを複数の成膜形状の重ね合わせで表した近似パターンPaを生成する。具体的には、近似処理部530は、波形記憶部520が記憶する複数の波形の重ね合わせによって得られる波形と、入力部510に入力された目標パターンとの誤差が最小となるような波形の組み合わせを探索する。以下、近似処理部530によって探索される波形の組み合わせを近似パターンと呼ぶ。近似パターンPaは、以下の式(1)のように表される。
【0060】
【0061】
式(1)においてwkは波形記憶部520が記憶する第k番目の波形を示し、akは第k番目の波形の重み係数を示す。nは、波形記憶部520が記憶する波形の数を示す。近似処理部530は、式(1)における重み係数a1-anを求める。なお、最適化アルゴリズムにおいて組み合わせる波形の数mが指定されている場合、上位m個以外の重み係数akはゼロとなる。
【0062】
図4は、本実施形態に係る目標パターンP
iと近似パターンP
aの例を示す図である。
図4に示す例では、近似パターンP
aは、4つの波形w
1-w
4から構成される。各波形wに所定の係数aを乗算して重ね合わせた近似パターンP
aは、目標パターンP
iと必ずしも一致しないが、目標パターンP
iと近似したものとなる。なお、
図4に示す波形wはいずれも正弦波様であるが、実際にはより複雑な波形であり得る。
【0063】
近似処理部530は、例えば最適化アルゴリズムによって近似パターンを探索する。なお、最適化アルゴリズムは、組み合わせ最適化の近似解を得る近似アルゴリズムであってもよい。最適化アルゴリズムにおける目的関数は、少なくとも目標パターンPiと近似パターンPaとの誤差を含むが、目標パターンPiと近似パターンPaとの誤差と、他の値との組み合わせによって表されてもよい。例えば、目的関数は、目標パターンPiと近似パターンPaとの誤差と、近似パターンPaに係る波形w同士の距離との組み合わせであってもよい。波形w同士の距離が小さいほど、成膜時の漏洩磁場の形状の変化がスムーズになるため、実際の成膜形状がなめらかになる可能性が高い。
【0064】
モデル記憶部540は、成膜形状を表す波形wを入力とし、複数のグループGそれぞれの交流電流の振幅を出力とする電流決定モデルを記憶する。電流決定モデルは、学習済みの機械学習モデルである。例えば、電流決定モデルは、ニューラルネットワークモデルによって構成されてよい。電流決定モデルの学習方法については、後述する。
【0065】
決定部550は、モデル記憶部540が記憶する電流決定モデルを用いて、近似処理部530で得られた近似パターンに係る複数の波形wそれぞれを実現するための、複数のグループGの交流電流の振幅を決定する。なお、近似パターンに係る波形wとは、重み係数がゼロでない波形wである。
【0066】
制御部560は、決定部550が決定した振幅に従って、複数のグループGの第2電磁石72を駆動させる。このとき、制御部560は、第2電磁石72によって実現する近似パターンに係る波形wを順次切り替える。具体的には、制御部560は、波形wkを実現する交流電流のパターンを、重み係数akに所定の単位時間を乗算した時間だけ流した後、次の波形wk+1に切り替える。
【0067】
(制御装置による制御方法)
図5は、本実施形態に係るスパッタリング装置の制御方法を示すフローチャートである。
制御装置500の入力部510は、利用者から目標パターンP
iの入力を受け付ける(ステップS1)。次に、近似処理部530は、ステップS1で入力された目標パターンを、m個の波形および重み係数の組み合わせで表した近似パターンP
aを生成する(ステップS2)。
【0068】
次いで、スパッタリング装置100の成膜空間Rにおいては、予め、真空ポンプ50の駆動によって、所定の真空度が維持されている。その後、ゲートバルブが開いた状態で、成膜空間Rの外部から内部に向けて不図示の搬送アームが基板Sを搬送し、基板ステージ20の基板載置面20a上に基板Sが載置される。基板Sが載置された基板ステージ20では、ヒータ電源80Aから電力を供給されたヒータ80によりその温度を制御する(ステップS10)。
【0069】
この状態で、T/S可変機構20Aが駆動し、ターゲットTと基板Sとの距離が調整され、ターゲットTと第1電磁石71および第2電磁石72との距離が調整される。さらに、ガス供給部60からスパッタガスが成膜空間Rの内部に導入され、圧力調整弁を制御することで成膜空間R内の圧力が所定圧力に調整される。この状態で、ターゲットTに電気的に接続されたスパッタ電源30Aから所定の電力がターゲットTに印加され、真空チャンバ10内にプラズマが発生し、スパッタリングが可能となる。また、この際、バイアス電源30Bから所定の電力が基板ステージ20に印加されてもよい(ステップS10)。
なお、真空チャンバ10内にプラズマを所望の形成する準備が可能であれば、これらの成膜準備工程S10における手順は、ステップS3~ステップS6を含めて、適宜その順番等を調整してよい。
【0070】
次に、制御装置500は、生成された近似パターンPaに係るm個の波形wを1つずつ選択し(ステップS3)、以下のステップS4からステップS6の処理を実行する。
まず、決定部550は、モデル記憶部540が記憶する電流決定モデルに、ステップS3で選択した波形wを入力することで、当該波形wを実現するための、複数のグループGの交流電流の振幅を得る(ステップS4)。制御部560は、ステップS3で選択した波形wに係る重み係数aに基づいて、交流電流を流す時間を決定する(ステップS5)。制御部560は、ステップS4で決定した振幅で、ステップS5で決定した時間aの間、複数のグループGの電磁石72を駆動させる(ステップS6)。
このとき、第1電磁石71に関しては、直流電流を流す制御を維持していることができる。
【0071】
m個の波形wそれぞれについて上記のステップS4からステップS6の処理を実行すると、制御装置500は処理を終了する。
これにより、制御装置500は、入力された目標パターンPiとの誤差の小さい膜を得ることができる。すなわち、複数のグループGの交流電流をどのように組み合わせても、入力された目標パターンPiに係る成膜形状を形成することができないことがある。これに対し、本実施形態に係る制御装置500によれば、複数のグループGの交流電流で得られる成膜形状を組み合わせることで、目標パターンPiに係る成膜形状との誤差を小さく抑えることができる。
【0072】
また、所望の成膜形状を得るための複数のグループGの交流電力の組み合わせを求めることは容易ではない。交流電力の組み合わせから成膜形状を求める場合にも、上述した有限要素法によるシミュレーションが必要であり、計算量が多い。これを繰り返し行って所望の成膜形状を得るための組み合わせを探索する場合、組み合わせを求めるために時間がかかってしまう。これに対し、本実施形態に係る制御装置500は、機械学習によって成膜形状を表す波形を入力とし、複数のグループGそれぞれの交流電流の振幅を出力とするように学習された電流決定モデルを用いることで、少ない計算量で所望の成膜形状を得るための複数のグループGの交流電力の組み合わせを求めることができる。
【0073】
以下に、電流決定モデルの学習方法について説明する。
【0074】
図6は、本実施形態に係る学習装置の構成を示す概略ブロック図である。
本実施形態に係る学習装置600は、制御装置500が用いる電流決定モデルのパラメータを学習させる。
学習装置600は、生成部610、シミュレータ620、データ記憶部630、学習部640、出力部650を備える。
【0075】
生成部610は、スパッタリング装置100の複数の電磁石72のグループGそれぞれの電流の振幅の組み合わせを生成する。生成部610は、振幅の組み合わせをランダムに生成してもよいし、予め与えられた条件に従って生成してもよい。また利用者から組み合わせの入力を受け付けてもよい。
【0076】
シミュレータ620は、生成部610が生成した電流の振幅の組み合わせを用いて、スパッタリング装置100の挙動をシミュレートし、当該組み合わせに係る電流を流すことで得られる膜厚の分布を演算する。具体的には、シミュレータ620は、スパッタリング装置100の物理モデルを用いて、複数のグループGに電流を印加させたときの3次元電磁界の分布やプラズマの発生を、有限要素法に基づいてシミュレートする。物理モデルは、例えばパラメトリック次元縮退モデルであってよい。また、シミュレータは有限要素法以外の手法でスパッタリング装置100の挙動をシミュレートしてもよい。シミュレータ620は、シミュレーションの結果得られた膜厚の分布を表す波形をデータ記憶部630に記録する。
【0077】
データ記憶部630は、シミュレータ620によるシミュレーションの条件である電流の組み合わせと、シミュレーションの結果である膜厚の分布を表す波形とを、関連付けて記憶する。
【0078】
学習部640は、データ記憶部630に記録された膜厚の分布を表す波形を入力サンプルとし、電流の振幅の組み合わせを出力サンプルとする学習用データセットを用いて、電流決定モデルのパラメータを学習させる。具体的には、学習部640は、入力サンプルに係る波形を電流決定モデルに入力して電流の振幅の組み合わせを算出し、算出された組み合わせと出力サンプルとの距離を算出し、当該距離が小さくなるように、電流決定モデルのパラメータを更新する。
【0079】
出力部650は、学習部640による学習済みの電流決定モデルと、データ記憶部630が記憶する複数の波形とを、制御装置500に出力する。学習済みの電流決定モデルは制御装置500のモデル記憶部540に記憶され、複数の波形は制御装置500の波形記憶部520に記憶される。
【0080】
図7は、本実施形態に係る電流決定モデルの学習方法を示すフローチャートである。
学習装置600の生成部610は、スパッタリング装置の複数の電磁石のグループGそれぞれの電流の振幅の組み合わせを生成する(ステップS21)。次に、シミュレータ620は、ステップS1で生成した電流の振幅の組み合わせを用いて、スパッタリング装置の挙動をシミュレートし、当該組み合わせに係る電流を流すことで得られる膜厚の分布を演算する(ステップS22)。
【0081】
シミュレータ620は、ステップS21で得られた電流の振幅の組み合わせと、シミュレーションの結果得られた膜厚の分布を表す波形とを関連付けてデータ記憶部630に記録する(ステップS23)。学習装置600は、データ記憶部630が記憶する波形と振幅の組み合わせの数が、予め定められた必要サンプル数に達したか否かを判定する(ステップS24)。波形と振幅の組み合わせの数が必要サンプル数に達していない場合(ステップS24:NO)、ステップS21に処理を戻し、次の波形と振幅の組み合わせを生成する。
【0082】
波形と振幅の組み合わせの数が必要サンプル数に達した場合(ステップS24:YES)、学習部640による電流決定モデルの学習を開始する。学習部640は、データ記憶部630に記録された波形と振幅の組み合わせから、ランダムに所定数の組み合わせを抽出することで、学習用データセットを得る(ステップS25)。
【0083】
学習部640は、抽出した学習用データセットを用いて、入力サンプルに係る波形から算出された電流の振幅の組み合わせと出力サンプルとの距離が小さくなるように、電流決定モデルのパラメータを更新する(ステップS26)。学習部640は、学習処理の回数が所定エポック数に達したか否かを判定する(ステップS27)。処理回数が所定エポック数未満である場合(ステップS27:NO)、ステップS25に処理を戻し、学習処理を繰り返す。
【0084】
他方、所定のエポック数の学習処理を終えた場合(ステップS27:YES)、出力部650は、学習済みの電流決定モデルと、データ記憶部630が記憶する複数の波形とを、制御装置500に出力する(ステップS28)。
【0085】
上記の手順で、学習装置600は、成膜形状を表す波形を入力とし、3つのグループそれぞれの交流電流の振幅を出力とするように電流決定モデルを学習させることができる。
【0086】
制御装置500および学習装置600は、それぞれバスで接続されたプロセッサ、メモリ、補助記憶装置などを備えたコンピュータであってよい。プロセッサの例としては、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphic Processing Unit)、マイクロプロセッサなどが挙げられる。
【0087】
このようなコンピュータは、所定のプログラムを実行することで、制御装置500または学習装置600として機能する。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えば磁気ディスク、光磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等の記憶装置である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0088】
なお、制御装置500または学習装置600の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)等のカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を用いて実現されてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。このような集積回路も、プロセッサの一例に含まれる。
【0089】
また、上述した例では、制御装置500と学習装置600とが別個の装置として構成されるが、これに限られず、制御装置500と学習装置600とが1つの装置によって構成されてもよい。この場合、制御装置CONTが制御装置500と学習装置600とを含む構成とすることができる。
【0090】
また他の例においては、制御装置500のうち制御部560以外の構成がネットワークを介して接続されたサーバ装置(例えばクラウドサーバ)に設けられてもよい。この場合、サーバ装置が複数のグループGに係る電流の振幅を演算し、制御装置500がサーバ装置による演算結果を受信し、スパッタリング装置を制御する。
【0091】
本実施形態に係るスパッタリング装置100によれば、コイル電源73から供給する第1電磁石71及び第2電磁石72への電流を制御することにより、印加する磁場を所望の成膜形状を得るために必要な状態に形成することができる。しかも、決定モデルの学習により、磁場形状そのものを算出するために、長大な作業時間を必要としない。
【0092】
これにより、スパッタリング装置100によって得られる成膜分布として±5%未満といった均一性に優れた成膜特性分布が求められている場合でも、均一性に優れた成膜分布を容易に得ることができる。特に、円形の基板Sに対して、その径方向における膜厚等の成膜特性の均一性を実現することが可能となる。
【0093】
このような微細な調整においては、従来は必要であった多大な手間や時間が不要となるため、制御条件の設定にかかる多大な時間を要することがなく、スパッタリング装置100の生産性の向上に寄与する。
【0094】
さらに、ターゲットTの非エロージョンが発生するか否かを検討することなく必要な成膜形状を実現することができる。このため、非エロージョンを起因とするターゲットTからの発塵を抑制することも容易に可能となる。
【0095】
なお、本実施形態においては、制御装置CONTによる電磁石72に対する制御・決定モデルの学習について説明したが、これ以外にも、ターゲットTに電力を印加するスパッタ電源30A、基板ステージ20に電力を印加するバイアス電源30B、T/S可変機構20A、真空ポンプ50、ガス供給部60、ヒータ電源80A、に対する制御条件から適宜選択した1つまたはそれ以上の物理量を、成膜形状を表す波形に含めて制御・決定モデルの学習をおこなうことが可能である。
【0096】
以下、本発明に係る成膜装置の第2実施形態を、図面に基づいて説明する。
図8は、本実施形態における成膜装置を示す模式断面図であり、本実施形態において、上述した第1実施形態と異なるのは、スパッタ方式に関する点であり、これ以外の上述した第1実施形態と対応する構成には同一の符号を付している。
【0097】
本実施形態におけるスパッタリング装置(成膜装置)100は、ガラス基板などの矩形の基板Sに対して所定の薄膜を成膜するため装置である。第1実施形態におけるスパッタリング装置100がスパッタアップによる成膜だったのに対して、本実施形態ではスパッタダウンとされる。以下において、基板Sは、その搬送方向に長手の長方形の輪郭を持つものとされる。
【0098】
本実施形態におけるスパッタリング装置(成膜装置)100は、
図8に示すように、真空チャンバ10を備える。真空チャンバ10には、特に図示しないターボ分子ポンプやロータリーポンプで構成される真空ポンプ50が接続され、真空チャンバ10内を所定圧力まで真空引きできるようになっている。真空チャンバ10にはまた、ガス導入部が設けられ、ガス導入部には、ガス導入管、マスフローコントローラを介してアルゴン等の希ガスや必要に応じて酸素等の反応ガス(スパッタガス)を導入するガス供給機構が接続されて、流量制御されたスパッタガスを真空チャンバ10内に導入できるようになっている。真空チャンバ10の上部空間には基板搬送機構(基板支持部)20が設けられている。この基板搬送機構20は、基板Sが夫々セットされるキャリア21を有し、図外の駆動手段を間欠駆動させて、後述するターゲットTと対向する位置に各基板Sを(
図1中、左側から右側に向けて)順次搬送できるようにしている。なお、基板搬送機構20自体は公知のものが利用できるため、これ以上の説明は省略する。そして、真空チャンバ10の下部空間に、スパッタリングカソード70が設けられている。
【0099】
スパッタリングカソード70は、基板Sに対応する輪郭を持ち、この基板Sより一回り大きい面積のターゲットTと、ターゲットTの下方(ターゲットT上面のスパッタ面TSと背向する側)に配置されて、スパッタ面TS側に漏洩磁場を作用させる複数の電磁石71,72と、を備える。ターゲットTは、Al、Al合金やTiなどの基板S下面に成膜しようとする薄膜の組成に応じて選択される。ターゲットTの下面にはバッキングプレートBpが接合され、ターゲットTのスパッタリング時、バッキングプレートBpに冷媒を循環させてターゲットTを冷却できるようにしている。そして、ターゲットTは、そのスパッタ面TSが基板Sに対向する姿勢で絶縁板14を介して真空チャンバ10に設けられる。
【0100】
ターゲットTには、直流電源や交流電源などのスパッタ電源30からの出力が接続され、ターゲットTの種類に応じて、ターゲットTに対して負の電位を持つ直流電力や所定周波数の交流電力が投入できるようになっている。また、真空チャンバ10には、ターゲットTの周囲を囲うようにして環状のシールド板16が設けられている。シールド板16は、金属製のものであり、アース接地されている。そして、シールド板16がターゲットTのスパッタリング時、アノードとして機能するようになっている。
【0101】
スパッタリングカソード70は、ターゲットTと同等以上の面積を有してスパッタ面TSと平行に設置される板状の支持体75を備え、この支持体75に電磁石71,72が設けられる。支持体75には、磁心にコイルを所定の巻数、所定の配置で巻回してなる電磁石71,72が複数個設けられている。各電磁石71,72の磁心は、同一径を有する円柱状である。この場合、スパッタ面TS(支持体75)内で互いに直交する二軸をX軸方向及びY軸方向とすると、各電磁石71,72は、第1実施形態と同様に、磁心どうしの間隔がほぼ等しく、支持体75の面内全域に亘って配置されている。あるいは、各電磁石71,72は、その磁心が支持体75の面内全域に亘ってX軸方向及びY軸方向に等間隔で列設されていてもよい。
【0102】
各電磁石71,72のコイルの両自由端は、真空チャンバ10外に設けられる、所定電流値の電流が夫々通電可能で且つ通電電流の向きが可変のコイル電源73に夫々接続されている。そして、各電磁石72の一部で構成されるものを電磁石のブロックB、あるいは、グループGとし、コイル電源73から、電磁石72のブロックB、グループGを構成する各電磁石72に処置の周波数・振幅向の電流を夫々通電して、ターゲットTのスパッタ面TS側に釣り合った閉ループの漏洩磁場を局所的に作用させることができるようにしている。このようなコイル電源73としては、所定の電源回路やスイッチングトランジスタ等を備える公知のものが利用できるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0103】
ターゲットTに電力を印加するスパッタ電源30、基板搬送機構20を駆動する駆動機構、真空ポンプ50、ガス供給部60、コイル電源73は、いずれも制御装置CONTに電気的に接続されている。制御装置CONTによって、スパッタリング装置100を構成する各種の部材、装置、機構の動作が制御される。
【0104】
図9は、本実施形態に係るスパッタリング装置の複数の電磁石のブロックとグループの例を示す図である。
本実施形態においても、
図9に示すように、複数の電磁石72をブロックB1~、あるいは、グループG1~に分けて、第1実施形態と同様に、それぞれ制御装置500は、複数の電磁石72によって形成される漏洩磁場を回転させる。または、制御装置500は、複数の電磁石72によって形成される漏洩磁場を揺動させる。
【実施例0105】
以下、本発明にかかる実施例を説明する。
【0106】
ここで、本発明における成膜方法の具体例としておこなう確認試験について説明する。
【0107】
第1実施形態と同様に、磁石の回転ステージを用いずに空間中の磁場のみを回転させて回転磁場を発生させ、成膜形状を検討した。その際のコイルに印加する交流電流を
図10に示す。また、発生した回転磁場を
図11に示す。回転磁界とは、モータをはじめとする交流機にて、トルクを発生させる原理と同等である。これは、円環状に配置したコイルに交流電流を印加することによって、疑似的に円環に沿って回転する磁石と同等の磁場を作り出すものである。ここで、平面に沿って複数配置した電磁石を
図2の下側に示すように、グループGに分ける。
【0108】
また、電磁石72には、
図12に示すように、3相6極巻き線と、3相2極巻き線とによりコイルを形成する。また、
図13に示すように、円形輪郭を有するスパッタリングカソード70には、径方向で中心と周縁とにDC電流領域BDCを形成し、径方向でその間にAC電流領域BACを形成するように、コイル電源73から供給する電流を設定する。
なお、3相6極巻き線と、3相2極巻き線とで、それぞれ形成される磁場を、
図14および
図15にそれぞれ示す。これらを、回転状態を維持して重ね合わせることで、
図11に示した回転磁場を形成する。
【0109】
ここで、コイル電源73から複数の電磁石72に印加する電流は、上述した第1実施形態のように学習したモデルから算出する。