(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157417
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】アノードの鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 25/04 20060101AFI20231019BHJP
【FI】
B22D25/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067324
(22)【出願日】2022-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】小出 克将
(72)【発明者】
【氏名】小林 純一
(72)【発明者】
【氏名】森 勝弘
(57)【要約】
【課題】左右の耳部の肉厚がほぼ均一なアノードを鋳造する方法を提供する。
【解決手段】 ターンテーブル1上に載置された複数の鋳型2にバッチ方式で処理された熔湯を順次鋳込むことでアノードを鋳造する方法であって、1又は複数バッチ分の熔湯の鋳造毎に測定したアノードの左右の耳部B
L、B
Rの肉厚差が所定の閾値を超えたときにそのアノードを鋳造した鋳型2に対して、或いは1又は複数バッチ分の熔湯を鋳造した後に該複数の鋳型2のうちの少なくとも1個を新しいものと交換したときにその鋳型2のうち左右方向の傾きが所定の閾値を超えているものに対して、左側の耳部B
Lを形成する側の左縁部2
L又は右側の耳部B
Rを形成する側の右縁部2
Rのうちのいずれか低い方の両端部と該ターンテーブルとの間に、同じ肉厚の2枚の金属製プレート10をそれぞれ差し込んだ後、次バッチの熔湯を鋳造する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間欠的に回転するターンテーブルの上に周方向に等間隔に載置された複数の鋳型にバッチ方式で処理された熔湯を順次鋳込むことでアノードを鋳造する方法であって、
1又は複数バッチ分の熔湯の鋳造毎に測定したアノードの左右の耳部の肉厚差が所定の閾値を超えたときにそのアノードを鋳造した鋳型に対して、或いは前記1又は複数バッチ分の熔湯を鋳造した後に前記複数の鋳型のうちの少なくとも1個を新しいものと交換したときにその鋳型のうち水平器で測定した左右方向の傾きが所定の閾値を超えているものに対して、左側の耳部を形成する側の左縁部又は右側の耳部を形成する側の右縁部のうちのいずれか低い方の両端部と該ターンテーブルとの間に、同じ肉厚の2枚の金属製プレートをそれぞれ差し込んだ後、次バッチの熔湯を鋳造することを特徴とするアノードの鋳造方法。
【請求項2】
前記左右の耳部の肉厚の差が3mmを超え6mm以下の場合には前記金属製プレートに肉厚3mmのものを使用し、前記左右の耳部の肉厚の差が6mmを超え9mm以下の場合には前記金属製プレートに肉厚6mmのものを使用し、前記左右の耳部の肉厚の差が9mmを超え12mm以下の場合には前記金属製プレートに肉厚9mmのものを使用することを特徴とする、請求項1に記載のアノードの鋳造方法。
【請求項3】
前記左右の耳部の肉厚の測定は、前記熔湯を所定の回数鋳造する毎に行なうことを特徴とする、請求項1又は2に記載のアノードの鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾式銅製錬によって生成される精製粗銅からアノードを鋳造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乾式銅製錬においては、原料鉱石を浮遊選鉱することで得た銅含有率20~30質量%程度の銅精鉱を自熔炉、転炉、及び精製炉で順次熔錬処理し、これにより得た精製粗銅を電解精製することで銅含有率99.99質量%以上の電気銅を製造している。具体的には、自熔炉では銅精鉱を酸素富化空気で酸化処理することで銅含有率60質量%程度のマットを生成すると共に比重差により該マットをスラグから分離し、転炉では自熔炉で生成したマットを更に酸化処理することで銅含有率98質量%程度の粗銅を生成し、精製炉では該マットから酸素を除去して銅含有率99質量%以上の精製粗銅を生成している。
【0003】
上記の精製粗銅を鋳型を用いて連続的に鋳造することで電解用アノード(以下、単にアノードとも称する)が形成される。この精製粗銅からのアノードの鋳造では、特許文献1に記載のように、ターンテーブルと称する平面視円形の回転構造物の上に複数個のアノード鋳造用の鋳型が周方向に等間隔に設けられた鋳造装置が一般的に用いられる。ターンテーブルを間欠的に回転させながらこれら複数の鋳型内に樋を介して精製粗銅を順次鋳込むことで、該ターンテーブルが1回転するまでの間に冷却により精製粗銅は固化し、アノードが形成される。
【0004】
このようにして形成されるアノードの電解精製では、電気銅の生産効率を高めるため、上記にて鋳造した複数枚のアノードと別途用意した複数枚のカソードとを1枚ずつ交互に並んだ状態で電解槽内に吊り下げることで電解液に浸漬させ、この状態でアノード群とカソード群との間にできるだけ高い電圧を印加する。このため、電解槽内において互いに隣接するアノードとカソードの間の距離が短すぎると短絡(ショート)の問題が発生するので、電解槽内ではアノードはそのアノード面が水平方向に対して垂直な状態を維持していること、換言すれば該アノード面の法線が常に水平方向を向いていることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、アノードは電解槽内で吊り下げられた状態で電解液に浸漬させるため、アノードのうち該電解液に浸漬させる略矩形板状部の上側の両隅部に耳状に左右に突出する部分(以下、単に耳部と称する)を有している。すなわち、アノードはこれら耳部において電解槽の対向する両側壁に懸架される。従って、上記したように電解槽内においてアノード面の法線が水平方向にほぼ一致する状態を維持するためには、これら左右の両耳部は肉厚が左右でほぼ均一であることが求められる。
【0007】
特許文献1には、アノードの鋳造時に生じる問題として、熔融状態の精製粗銅(熔湯とも称する)が鋳型から飛散したり、鋳型内で大きく波立ったりすることにより熔湯表面の縁部に沿って形成されるひれ状のいわゆる「鋳張り」の問題や、筋状に盛り上がった状態で形成されるいわゆる「額縁」の問題が示されている。また、鋳型が水平でない場合にアノードの厚みが不均一となる「厚み不良」の問題も示されている。
【0008】
これらのうち、「鋳張り」については、堆積した離型剤に含まれる水分が鋳込み時に急激に蒸発することが原因であるため、コの字型形状の配管を介して空気を鋳型内の該堆積した離型剤に向けて吹き付けることで、該離型剤を乾燥させて鋳張りの発生を防止することができると記載されている。具体的には、コの字型形状の配管を構成する1対の腕部配管を鋳型の両側壁にそれぞれ沿うように取り付けると共に、これら1対の腕部配管の先端に各々吹き出し孔を設けることで、該コの字型形状の配管に導入された空気は、該配管内を流れる間に高温の鋳型からの伝熱により加熱された後、上記1対の腕部配管の吹き出し孔から放出されて鋳型の両側壁の底部に堆積した離型剤に吹き付けられるので、効果的に離型剤を乾燥することができる。また、「額縁」については、鋳型に熔湯を鋳込む際に用いる計量樋の形状や鋳込み速度を調整することでほぼ抑えることができると記載されている。
【0009】
しかしながら「厚み不良」については鋳型の水平点検を行なうことで防ぐことができると記載されているにすぎず、水平点検の結果、鋳型が傾斜していた場合の対処方法については記載されておらず、ましてやアノードの左右の耳部の肉厚を均一にするための技術については何ら開示されていない。本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、左右の耳部の肉厚がほぼ均一なアノードを鋳造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明のアノードの鋳造方法は、間欠的に回転するターンテーブルの上に周方向に等間隔に載置された複数の鋳型にバッチ方式で処理された熔湯を順次鋳込むことでアノードを鋳造する方法であって、1又は複数バッチ分の熔湯の鋳造毎に測定したアノードの左右の耳部の肉厚差が所定の閾値を超えたときにそのアノードを鋳造した鋳型に対して、或いは前記1又は複数バッチ分の熔湯を鋳造した後に前記複数の鋳型のうちの少なくとも1個を新しいものと交換したときにその鋳型のうち水平器で測定した左右方向の傾きが所定の閾値を超えているものに対して、左側の耳部を形成する側の左縁部又は右側の耳部を形成する側の右縁部のうちのいずれか低い方の両端部と該ターンテーブルとの間に、同じ肉厚の2枚の金属製プレートをそれぞれ差し込んだ後、次バッチの熔湯を鋳造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アノードの左右の耳部の肉厚をほぼ均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のアノードの鋳造方法が好適に適用される電解用アノード鋳造装置の模式的な平面図である。
【
図2】本発明のアノードの鋳造方法で鋳造される電解用アノードの模式的な斜視図である。
【
図3】
図1の電解用アノード鋳造装置のターンテーブル上にアノード鋳型が設けられている状態を示す部分斜視図である。
【
図4】アノード鋳型を電解用アノードの上辺部が形成される部分で切断した断面図である。
【
図5】アノード鋳型の左縁部又は右縁部の両端部と該ターンテーブルとの間に本発明の実施形態の鋳造方法に従って2枚の金属製プレートが差し込まれている状態を示す斜視図である。
【
図6】金属製プレートが差し込まれている
図5(a)のアノード鋳型を
図4と同様に切断した断面図である。
【
図7】本発明の実施形態の鋳造方法に従ってアノード鋳型の型内の底面2ヶ所にデジタル水平器を当接させている状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1. 電解用アノード鋳造装置
先ず、本発明の電解用アノードの鋳造方法が好適に実施される電解用アノード鋳造装置の一具体例について
図1を参照しながら説明する。この
図1に示す電解用アノード鋳造装置は、2基のターンテーブルからなるいわゆるツインホイールタイプのアノード鋳造装置であり、熔融状態の精製粗銅から連続的に電解用アノードを鋳造することができる。
【0014】
具体的に説明すると、電解用アノード鋳造装置は、白矢印方向に間欠的に回転する2基のターンテーブル1と、各ターンテーブル1上に周方向に等間隔に載置された複数のアノード鋳型2と、これら複数のアノード鋳型2に、図示しない前段の精製炉においてバッチ方式(回分式)で精製処理された熔融状態の精製粗銅(熔湯とも称する)を一定量ずつ鋳込む樋部3と、アノード鋳型2に鋳込まれた熔湯に冷却水を散布することで固化(凝固)させる冷却機4と、該冷却機4において固化した電解用アノードをアノード鋳型2から剥ぎ取る剥取機5と、この剥ぎ取り時の剥離性を高めるためにアノード鋳型2内にスラリー状の離型剤を散布する離型剤散布機6とから主に構成される。なお、
図1にはターンテーブル1の上に18個のアノード鋳型2を設けた例が示されているが、アノード鋳型の個数はこれに限定されるものではない。
【0015】
上記の電解用アノード鋳造装置で鋳造される電解用アノードは、前述したように電解槽の対向する両側壁によって懸架された状態で電解液に浸漬されるため、
図2に示すように、縦横の長さが1000~1500mm程度の矩形板状部Aと、矩形板状部Aの上側両隅部から左右にそれぞれ突出する1対の耳部B
L、B
Rとから構成される。これら左右の耳部B
L、B
Rを支点として電解用アノードは電解槽内に吊り下げられるので、上記の矩形板状部Aのうち、左右の耳部B
L、B
Rが設けられている側を上辺部、この上辺部とは反対側を底辺部と称する。
【0016】
2. 電解用アノードの製造方法
次に、上記のような構造の電解用アノード鋳造装置を用いて行われる本発明の実施形態の電解用アノードの鋳造方法について説明する。電解用アノード鋳造装置においては、上記のアノード鋳型2は、
図3に示すように、一般的に熔湯が注ぎ込まれる凹状の型を上面側に有する略直方体形状の金属製ブロックからなる。このアノード鋳型2は、ターンテーブル1上において、アノードの上辺部を形成する側がターンテーブル1の外周側に位置し、アノードの底辺部を形成する側がターンテーブル1の中心側に位置するように載置される。かかる構成により、樋部3からアノード鋳型2の型内に均質かつ効率よく熔湯を注ぎ込むことが可能になる。
【0017】
しかしながら、ターンテーブル1を構成する架構のゆがみ等の理由により、アノード鋳型2がその左右方向(すなわち、ターンテーブル1の周方向)に傾いて、
図4に示すようにアノードの左側の耳部B
Lを形成する左縁部2
L側が右側の耳部B
Rを形成する右縁部2
R側よりも低くなったり、逆にアノードの右側の耳部B
Rを形成する右縁部2
R側が左耳部B
Lを形成する左縁部2
L側よりも低くなったりすることがあった。
【0018】
上記のように、アノード鋳型2が左右方向で傾いた状態のまま電解用アノードの鋳造を行なうと、電解用アノードの矩形板状部Aにおいて右側と左側とで肉厚に差異が生じて電解精製の生産性が低下するのみならず、
図4に示すように、一般的にアノード鋳型2は、左右の耳部B
L、B
Rを形成する部分の底部が矩形板状部Aを形成する部分の底部よりも浅くなっているため、これら左右の耳部B
L、B
Rの肉厚が互いに大きく異なることになる。このように、左右の耳部B
L、B
Rの肉厚が互いに大きく異なる電解用アノードを用いて電解精製を行なうと、電解精製が進んで矩形板状部Aの肉厚が薄くなるに従って重心が大きく移動し、結果的にアノード面の法線が当初は水平方向を向いていても、徐々に水平方向から傾斜してカソードとの短絡が生じるおそれがある。
【0019】
そこで、本発明のアノードの鋳造方法の実施形態においては、1又は複数バッチ分の熔湯を鋳造した後に測定したアノードの左右の耳部BL、BRの肉厚差が所定の閾値を超えたときに、そのアノードを鋳造した鋳型に対して、或いは1又は複数バッチ分の熔湯を鋳造した後にターンテーブル1上の複数のアノード鋳型2のうちの少なくとも1個を新しいものと交換したときに、その新しい鋳型のうち水平器で測定した左右方向の傾きが所定の閾値を超えているものに対して、左側の耳部BLを形成する側の左縁部2L又は右側の耳部BRを形成する右縁部2Rのうちのいずれか低い方の両端部の下側に同じ肉厚の2枚の金属製プレートをそれぞれ差し込むことでアノード鋳型2の左右方向のレベルを調整する。そして、このアノード鋳型2のレベル調整後に、次バッチの熔湯を鋳造する。
【0020】
具体的には、上記のように、鋳造したアノードの耳部B
L、B
Rの肉厚差が所定の閾値を超えたアノード鋳型や、新しく交換したアノード鋳型のうち左右方向の傾きが所定の閾値を超えているものに対して、
図5(a)に示すように、右側の耳部B
Rを形成する側の右縁部2
Rが左側の耳部B
Lを形成する側の左縁部2
Lよりも低い場合は、右縁部2
Rの両端部の下側に2枚の金属製プレート10をそれぞれ差し込む。逆に、
図5(b)に示すように、アノード鋳型2の左縁部2
Lが右縁部2
Rよりも低い場合は、左縁部2
Lの両端部の下側に同様に2枚の金属製プレート10をそれぞれ差し込む。このようにしてアノード鋳型2の左右方向の傾きを調整した後に次バッチの熔湯を鋳造する。
【0021】
従来は、アノード鋳型2を平面視したときの矩形形状の4隅のうちのいずれか1か所の下側に金属製のプレートを1枚だけ差し込むことでアノード鋳型2のレベル調整を行なっていたが、この場合は、金属製プレートを差し込んでいない他の3か所の隅部の接地状況によっては狙い通りにレベル調整することが難しく、結果的にアノードの左右の耳部BL、BRの肉厚を均等にするのが困難であった。
【0022】
これに対して、本発明の実施形態のアノード鋳造方法では、上記のようにアノードの左右の耳部BL、BRに大きな肉厚差を生じさせるアノード鋳型2に対して、その左縁部2L又は右縁部2Rのいずれか一方の両端部とターンテーブル1との間にレベル調整用の同じ厚さの2枚の金属製プレート10をそれぞれ差し込んでライナーの役割を担わせるので、アノード鋳型2の左右方向の傾きを精度良く減らして水平に調整することが可能になり、結果的にアノードの左右の耳部BL、BRの肉厚を容易に均等にすることができる。なお、より確実にアノード鋳型2のレベル調整が可能となるように、アノード鋳型2をその幅方向(左右方向)に延在する1対の長尺板状部材1aを介してターンテーブル1の上に載置してもよい。
【0023】
上記の金属製プレート10は、肉厚の異なるものを複数枚用意しておき、アノードの左右の耳部BL、BRの肉厚差に応じて該アノードを鋳造したアノード鋳型2とターンテーブル1との間に差し込む金属製プレート10の肉厚を適宜選択するのが好ましい。具体的には、アノードの左右の耳部BL、BRの肉厚差が3mmを超え6mm以下の場合にはこれを鋳造したアノード鋳型2とターンテーブル1との間に肉厚3mmの金属製プレート10を差し込み、該肉厚差が6mmを超え9mm以下の場合にはこれを鋳造したアノード鋳型2とターンテーブル1との間の下側に肉厚6mmの金属製プレート10を差し込み、該肉厚差が9mmを超え12mm以下の場合にはこれを鋳造したアノード鋳型2とターンテーブル1との間に肉厚9mmの金属製プレート10を差し込むのが好ましい。
【0024】
このように、アノード鋳型2の左右方向の傾きを調整するに際し、左右の耳部BL、BRの肉厚差が大きくなるに従ってより肉厚の厚い金属製プレート10を使うことで、アノードの左右の耳部BL、BRの肉厚差を2~8mm程度減らして、一般的な適正範囲内に収めることができる。これにより、アノードをその左右の耳部BL、BRで電解槽の対向する両側壁に懸架させることで電解槽内の電解液に浸漬させて電解精製を行ったとき、該アノードが電解液内に徐々に溶け出して薄くなっても、アノード面の法線が常にほぼ水平方向を向くようにすることができるので、隣接するカソードとの短絡の問題を防ぐことができる。
【0025】
上記のように左右の耳部BL、BRの肉厚差を複数の範囲に区分し、それらの各々においてその下限値に一致する肉厚を有する金属製プレート10を用いる理由は、上記の肉厚差の範囲の上限値やこれに近い値の肉厚を有する金属製プレート10を使用すると、左右の耳部BL、BRの肉厚差が上記範囲の下限値に近いアノード鋳型2の場合は、左右の耳部BL、BRの肉厚が一致するレベルを超えて逆転することになるからである。すなわち、左側の耳部BLが右側の耳部BRよりも例えば3mm薄く形成されるアノード鋳型2に肉厚6mmの金属製プレート10を用いてレベル調整すると、右側の耳部BRが左側の耳部BLよりも約3mm薄くなってしまうからである。
【0026】
なお、
図6に示すように金属製プレート10はアノード鋳型2の平面視左右方向の端部に差し込まれるため、例えば肉厚tの金属製プレート10をアノード鋳型2の右縁部2
Rの下側に差し込むことで、該アノード鋳型2の右縁部2
Rを左縁部2
Lよりもtだけ高くすることができても、左右の両耳部が形成される部分を含んだアノードの型部分の幅W
Aはアノード鋳型2の左右方向の幅W
Cよりも小さいので、下記式1に示すようにアノードの左右の耳部B
L、B
Rの肉厚差の減少分Δはtよりも小さくなる。
【0027】
[式1]
Δ=(WA/WC)・t
【0028】
上記のアノードの左右の耳部BL、BRの肉厚差を求めるための測定は、前段の精製炉でバッチ式で精製処理した熔湯の1バッチ分を全て鋳造する毎に行なってもよいが、上記肉厚差を正確に把握することを考慮すると、各バッチの熔湯の鋳造開始から各アノード鋳型2において所定の複数回鋳造する毎に測定するのが好ましい。具体的には、各バッチの熔湯の鋳造開始から各アノード鋳型2において、熔湯を5~15回鋳造する毎に測定を行なうことが好ましい。上記の測定のタイミングが5回未満では、アノードの左右の耳部BL、BRの測定のために作業員にかかる負担が大きくなりすぎる。逆に、上記の測定のタイミングが15回を超えると、その間にアノードの左右の耳部BL、BRの肉厚差を正確に把握することが出来なくなるおそれがある。
【0029】
また、測定対象のアノードは、1バッチ分の熔湯の鋳造を開始してからターンテーブル1が少なくとも7回転した後、すなわち同じアノード鋳型2を用いて少なくとも7回の鋳造を行った後に鋳造したアノードを測定対象とすることが好ましい。同じアノード鋳型2を用いて少なくとも7回の鋳造を行なうことで、アノード鋳型2の温度がほぼ定常状態になるので、当該アノード鋳型2の左右方向の傾きが正しく正映されたアノードの左右の耳部BL、BRの肉厚差を測定することができるからである。
【0030】
ターンテーブル1上に載置されている複数のアノード鋳型2のうちの少なくとも1個を新しいものと交換したときは、その交換した新しいアノード鋳型2が左右方向に傾いているか否かを確認する方法としては、一般的な気泡管式の水準器をアノード鋳型2の型内の底面に当接させることで確認してもよい。この場合は、気泡管式の水準器をアノード鋳型2の左右方向に延在させたときに、気泡の中心が偏っている程度に応じて、肉厚3mm、6mm、及び9mmのうちのいずれかの金属製プレート10を選択し、この選択した同じ厚みの2枚の金属製プレート10を前述した肉厚差3mmを超えた場合のレベル調整と同様にアノード鋳型2とターンテーブル1との間に差し込む。
【0031】
上記の気泡管式の水準器には、デジタル角度計が付属したデジタル水平器を使用するのがより好ましい。デジタル水平器を用いる場合は、気泡管において気泡が水平を示すと共に、デジタル角度計において表示値が0.1度以下となるようにアノード鋳型2の左右方向の傾きを調整することが好ましい。具体的には、デジタル角度計の表示値が0.1度を超え0.3度以下の場合はアノード鋳型2とターンテーブル1との間に肉厚3mmの金属製プレート10を差し込み、0.3度を超え0.5度以下の場合はアノード鋳型2とターンテーブル1との間に肉厚6mmの金属製プレート10を差し込み、0.5度を超えた場合はアノード鋳型2とターンテーブル1との間に肉厚9mmの金属製プレート10を差し込むのが好ましい。
【0032】
なお、
図4に示すように、幅W
Cのアノード鋳型2がその幅方向(左右方向)に傾いているときにデジタル角度計で表示される表示値θと、アノード鋳型2の左縁部2
Lと右縁部2
Rとの高低差hとはh=W
C・sinθの関係があるので、左右方向の幅W
Cが異なるアノード鋳型2を用いる場合は、上記の金属製プレート10の肉厚を上記の3mm、6mm、及び9mmから変更してもよい。このようにして傾きが調整されたアノード鋳型2を用いてアノードを鋳造することで、該アノードをその左右の耳部B
L、B
Rで電解槽の対向する両側壁に懸架させることで電解槽内の電解液に浸漬させて電解精製を行ったとき、該アノードが電解液内に徐々に溶け出して薄くなっても、アノード面の法線が常にほぼ水平方向を向くようにすることができるので、隣接するカソードとの短絡の問題を防ぐことができる。
【0033】
デジタル水平器を用いてアノード鋳型2の左右方向の傾きを測定するときは、
図7に示すように、デジタル水平器11の長手方向を、アノード鋳型2の上辺M
1及び下辺M
2に平行であって、かつ熔湯が注がれる型の底面のうち中央部を除く点線で囲んだ領域内で当接させることが好ましい。このようにして熔湯が注がれる底面にデジタル水平器11を当接させることで、アノードの左右の耳部B
L、B
Rの肉厚差に影響する型内の左右方向の傾きを直接測定できるので、該肉厚差を確実に小さくすることができる。
【実施例0034】
精製炉を用いてバッチ方式で精製処理された1バッチ当たり400から620tの熔湯としての精製粗銅を
図1に示すような2基のターンテーブル1からなる電解用アノード鋳造装置に樋部3を介して注ぎ込むことでアノードを鋳造した。その際、アノード1枚当たりの質量を390kgから420kgの範囲内で変えることで3種類のアノードを、1バッチ分の熔湯から970枚から1580枚鋳造した。各ターンテーブル1上には18個のアノード鋳型2が周方向に等間隔に設けられており、これら18個のアノード鋳型2に順次熔湯を鋳込むことで、1日当たり3バッチ分の熔湯を鋳造することができた。この鋳造操業を10日間行って合計30バッチの熔湯からアノードを鋳造した。
【0035】
上記の鋳造処理の際、各バッチの熔湯の鋳造開始から各アノード鋳型2において鋳造することで得た全アノードのうち、10回目、20回目等のように10回毎に鋳造したアノードに対して左右の耳部BL、BRの肉厚を測定して肉厚差を求めてアノード鋳型2ごとに算術平均した。そして、この肉厚差が3mmを超えるアノードを鋳造したアノード鋳型2に対して、その左縁部2L又は右縁部2Rのうち、鋳造したアノードの耳部の肉厚が厚かった方の両端部とターンテーブル1との間に同じ肉厚の2枚の金属製プレート10をそれぞれ差し込んだ。
【0036】
なお、金属製プレート10には肉厚が3mm、6mm、及び9mmの3種類を用意し、上記肉厚差が大きいものほど肉厚の厚い金属製プレート10を用いた。具体的には、アノードの左右の耳部BL、BRの肉厚差が3mmを超え6mm以下の場合は肉厚3mmの金属製プレート10を用い、該肉厚差が6mmを超え9mm以下の場合は肉厚6mmの金属製プレート10を用い、該肉厚差が9mmを超え12mm以下の場合は肉厚9mmの金属製プレート10を用いた。上記のようにして2枚の金属製プレート10をアノード鋳型の2の左縁部2L又は右縁部2Rのいずれか低い方とターンテーブル1との間に差し込んでレベルを調整した後、次バッチの熔湯を鋳造した。このようにして、1バッチ目から30バッチ目までの熔湯を鋳造した。
【0037】
また、熔湯を鋳造した後にアノード鋳型2を点検し、破損や変形が生じていたものを新しいアノード鋳型2と交換した。その際、1バッチ目から20バッチ目までは、2枚の金属製プレート10による上記のレベル調整を行なう前、
図7の1点鎖線で示すように、気泡管方式の水準器12をアノード鋳型2の型の外側の表面において、平面視矩形のアノード鋳型2の4辺にそれぞれ平行に当接させたときに気泡が水平位置を示すように、同じ肉厚の金属製プレート10を2枚用いてアノード鋳型2の左縁部2
Lの両端部又は右縁部2
Rの両端部とターンテーブル1との間に差し込むことでレベルを調整した。また、21バッチ目から30バッチ目までは、新しく設置したアノード鋳型2に対して、気泡管式水準器にデジタル角度計が付属したデジタル水平器を用いて左右方向の傾きを確認し、デジタル角度計の表示値が0.1度を超えるものについては、上記のアノードの左右の耳部B
L、B
Rの肉厚差が3mmを超えたアノード鋳型2に対して行った場合と同様に、アノード鋳型2の左縁部2
L又は右縁部2
Rのうちいずれか低い方の両端部とターンテーブル1との間に同じ肉厚の2枚の金属製プレートを差し込んだ。
【0038】
具体的には、
図7に示すように、新しく設置したアノード鋳型2の型内の底面のうち、上辺M
1の近傍の点線で囲む領域及び下辺M
2の近傍の点線で囲む領域の両方においてデジタル水平器11をその長手方向がこれら上辺M
1及び下辺M
2にそれぞれ平行になるようにして当接させてレベルを測定した。そして、上記の型内の底面の2か所の点線で囲む領域のいずれかにおいて、デジタル角度計の表示値が0.1度を超え0.3度以下の場合は肉厚3mmの金属製プレート10を用い、0.3度を超え0.5度以下の場合は肉厚6mmの金属製プレート10を用い、0.5度を超えた場合は肉厚9mmの金属製プレート10を用いた。上記のように、新しく交換したアノード鋳型2に対してレベルを調整した後、次バッチの熔湯を鋳造した。
【0039】
比較のため、上記した本発明の実施形態の鋳造方法に従ってアノード鋳型のレベル調整を行なう前に、別途30バッチ分の熔湯から、気泡管方式の水準器12を用いた測定結果に基づいて金属製プレート10を1枚のみアノード鋳型2の平面視矩形の4隅のうちのいずれか1か所とターンテーブル1との間に差し込んでレベル調整を行なう従来の方法でレベル調整したアノード鋳型2を用いてアノードを鋳造した。この比較例で鋳造した第1アノード群と、本発明の実施形態の鋳造方法に従ってアノードの左右の耳部BL、BRの肉厚差に基づいてアノード鋳型2のレベル調整を行ってから鋳造を行った1~20バッチ目の熔湯から鋳造した第2アノード群と、デジタル角度計をさらに使用してレベル調整を行ってから鋳造を行った21~30バッチ目の熔湯から鋳造した第3アノード群とのうち、アノード鋳型2を新しいものと交換したものを対象として、上述の方法でサンプリングしてその左右の耳部BL、BRの肉厚差を求めた。その結果を下記表1に示す。
【0040】
【0041】
上記の表1の結果から、本発明の鋳造方法に従って鋳造を行なうことにより、アノード鋳型2の左右方向の傾きを精度よく調整できることが分かる。具体的には、アノードの左右の耳部BL、BRの肉厚差を所定の管理目標値以下に抑えることができた割合が、第1アノード群では55%であったのに対して、第2アノード群では66%、第3アノード群では69%であり、それぞれ11%及び14%改善することができた。