(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157442
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】NASICON型結晶構造を主相として有している粉末、NASICON型結晶構造を主相として有している粉末を成型した成型体、NASICON型結晶構造を主相として有している粉末の製造方法、および、成型体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 25/45 20060101AFI20231019BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
C01B25/45 T
H01B1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067371
(22)【出願日】2022-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】阿部 大介
(72)【発明者】
【氏名】藤田 英史
(72)【発明者】
【氏名】田上 幸治
【テーマコード(参考)】
5G301
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA12
5G301CA16
5G301CA19
5G301CA30
5G301CD01
(57)【要約】
【課題】固体電解質層となる成型体の密度向上(空隙率低下)を図ることができるNASICON型結晶構造を主相として有している粉末を提供する。
【解決手段】
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含み、NASICON型結晶構造を主相として有している粉末であって、前記粉末の組成を一般式Li
1+x+zAl
xGe
2-xP
3+yO
12+δで表記したとき、0.0<x<2.0、0.1≦y≦0.5、0.2≦y/z≦0.6である、NASICON型結晶構造を主相として有している粉末を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含み、NASICON型結晶構造を主相として有している粉末であって、
前記粉末の組成を一般式Li1+x+zAlxGe2-xP3+yO12+δで表記したとき、0.0<x<2.0、0.1≦y≦0.5、0.2≦y/z≦0.6である、NASICON型結晶構造を主相として有している粉末。
【請求項2】
前記主相の有するX線回折ピークが、International Centre for Diffraction Dataの提供するPowder Diffraction FileのNo.01-080-1922に帰属する、請求項1に記載のNASICON型結晶構造を主相として有している粉末。
【請求項3】
前記NASICON型結晶構造を主相として有している粉末が、前記主相とは異なる副相を有している場合、
前記主相における最大のX線回折ピーク強度の値と、前記副相における最大のX線回折ピーク強度の値とにおける、(副相ピーク強度)/(主相ピーク強度)の値が、0.35以下である請求項1に記載のNASICON型結晶構造を主相として有している粉末。
【請求項4】
前記yの値が、0.2以上である、請求項1に記載のNASICON型結晶構造を主相として有している粉末。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の成型物である成型体。
【請求項6】
NASICON型結晶構造を主相として有している粉末の製造方法であって、
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウムおよびリンを含有するスラリーを得る工程と、
前記スラリーを乾燥して、乾燥粉末を得る工程と、
前記乾燥粉末を焼成してNASICON型結晶構造を主相として有している粉末を得る焼成工程と、を有し、
前記スラリー中において、リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンの各原子のモル比率が、比例式Li:Al:Ge:P=(1+x+z):x:(2-x):(3+y)で表され、
前記比例式中のx、y、zが、0.0<x<2.0、0.1≦y≦0.5、0.2≦y/z≦0.6を満たすように前記スラリーを調製する、NASICON型結晶構造を主相として有している粉末の製造方法。
【請求項7】
前記スラリーを得る工程は、ゲルマニウムを含有する水溶液と、リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液とを混合する工程を有する、請求項6に記載のNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の製造方法。
【請求項8】
前記リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液のpH値はpH1~5.5である、請求項7に記載のNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の製造方法。
【請求項9】
前記スラリーのpH値はpH1~6.5である、請求項6に記載のNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の製造方法。
【請求項10】
請求項6から9のいずれかに記載のNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の製造方法にて製造した粉末を、圧縮成型後に焼成する工程によって成型体を製造する、NASICON型結晶構造を主相として有している粉末の成型物である成型体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、NASICON型結晶構造を主相として有している粉末、当該NASICON型結晶構造を主相として有している粉末を使用した成型体、当該NASICON型結晶構造を主相として有している粉末の製造方法、および、成型体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池の固体電解質の材料として、イオン伝導度が高いNASICON型結晶構造を有する固体電解質粉末が用いられている。
前記固体電解質粉末として、例えば、特許文献1に記載されるリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含有する固体電解質粉末が知られている。
そして、特許文献1には、酸化物系の固体電解質粉末を含むグリーンシートと、当該グリーンシートの第1主面上に形成された第1電極層用ペースト塗布物と、当該グリーンシートの第2主面上に形成された第2電極層用ペースト塗布物とを有する積層単位を積層し、当該積層単位を400℃~1000℃の高温により焼成し、積層チップとする焼成工程を経て全固体電池を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
全固体電池においては、固体電解質層が従来の液系リチウムイオン電池におけるセパレーターの役割を担っている。ここで、電池容量向上のために電解質層の密度を上げようとした場合、固体電解質層を薄くし多層化することが考えられる。
しかしながら本発明者らの検討によると、固体電解質層を薄くした場合、当該固体電解質層の密度が低いと、電極同士が短絡する場合があることを知見した。
本発明は上述の状況の下でなされたものであり、その解決しようとする課題は、固体電解質層となる成型体の密度向上(空隙率低下)を図ることができるNASICON型結晶構造を主相として有している粉末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するため、本発明者らは研究を行った結果、リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含み、NASICON型結晶構造を主相として有している粉末において、その組成比を、一般式Li1+xAlxGe2-xP3O12と表記され0<x<2.0であるストイキオメトリ組成よりも、リチウム原子とリン原子とを過剰に含ませてストイキオメトリ組成からずれた組成とし、当該粉末を成型し、焼成して、固体電解質層となる成型体としたときに、当該成型体の密度向上(空隙率低下)を図ることができるという知見を得た。
より具体的には、NASICON型結晶構造を主相として有している粉末において、リチウム原子のモル比率およびリン原子のモル比率をストイキオメトリ組成のモル比率より、所定範囲内において過剰なものとし、かつ、ストイキオメトリ組成から過剰にしたリチウム原子とリン原子とのモル比率(P/Li)を所定範囲内とすることにより、当該課題を解決できることを知見し、本発明を完成した。
【0006】
即ち、上述の課題を解決するための第1の発明は、
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含み、NASICON型結晶構造を主相として有している粉末であって、
前記粉末の組成を一般式Li1+x+zAlxGe2-xP3+yO12+δで表記したとき、0.0<x<2.0、0.1≦y≦0.5、0.2≦y/z≦0.6である、NASICON型結晶構造を主相として有している粉末である。
第2の発明は、
前記主相の有するX線回折ピークが、International Centre for Diffraction Dataの提供するPowder Diffraction FileのNo.01-080-1922に帰属する、第1の発明に記載のNASICON型結晶構造を主相として有している粉末である。
第3の発明は、
前記NASICON型結晶構造を主相として有している粉末が、前記主相とは異なる副相を有している場合、
前記主相における最大のX線回折ピーク強度の値と、前記副相における最大のX線回折ピーク強度の値とにおける、(副相ピーク強度)/(主相ピーク強度)の値が、0.35以下である第1の発明に記載のNASICON型結晶構造を主相として有している粉末である。
第4の発明は、
前記yの値が、0.2以上である、第1の発明に記載のNASICON型結晶構造を主相として有している粉末である。
第5の発明は、
第1から第4の発明のいずれかに記載のNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の成型物である成型体である。
第6の発明は、
NASICON型結晶構造を主相として有している粉末の製造方法であって、
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウムおよびリンを含有するスラリーを得る工程と、
前記スラリーを乾燥して、乾燥粉末を得る工程と、
前記乾燥粉末を焼成してNASICON型結晶構造を主相として有している粉末を得る焼成工程と、を有し、
前記スラリー中において、リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンの各原子のモル比率が、比例式Li:Al:Ge:P=(1+x+z):x:(2-x):(3+y)で表され、
前記比例式中のx、y、zが、0.0<x<2.0、0.1≦y≦0.5、0.2≦y/z≦0.6を満たすように前記スラリーを調製する、NASICON型結晶構造を主相として有している粉末の製造方法である。
第7の発明は、
前記スラリーを得る工程は、ゲルマニウムを含有する水溶液と、リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液とを混合する工程を有する、第6の発明に記載のNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の製造方法である。
第8の発明は、
前記リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液のpH値はpH1~5.5である、第7の発明に記載のNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の製造方法である。
第9の発明は、
前記スラリーのpH値はpH1~6.5である、第6の発明に記載のNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の製造方法である。
第10の発明は、
第6から第9の発明のいずれかに記載のNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の製造方法にて製造した粉末を、圧縮成型後に焼成する工程によって成型体を製造する、NASICON型結晶構造を主相として有している粉末の成型物である成型体の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末を成型して、成型体としたとき、当該成型体の空隙率を20%以下にすることができた。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の製造フロー図である。
【
図2】実施例に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末のXRDスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を実施するための形態について、1.本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末、2.本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の製造方法、3.本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の評価、の順で説明する。
【0010】
1.本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末
リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含み、NASICON型結晶構造を主相として有しているリチウムイオン伝導体のストイキオメトリ組成(所謂、LAGP)は、(式1)で表記される。
一般式Li1+xAlxGe2-xP3O12・・・・(式1)
【0011】
一方、本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末は、リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含みNASICON型結晶構造を主相とする粉末であるが、その組成比は上述したリチウムイオン伝導体のストイキオメトリ組成よりもリチウム原子とリン原子とを過剰に含み、ストイキオメトリ組成からずれている。
そして、当該本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末を成型し、焼成して、固体電解質層となる成型体としたときに、当該成型体の密度向上(空隙率低下)を図ることができ、当該空隙率の値が20%以下を示すものである。
即ち、本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末を具体的に、(式2)で表記したとき、0.0<x<2.0、0.1≦y≦0.5、0.2≦y/z≦0.6であるNASICON型結晶構造を主相として有している粉末である。
一般式Li1+x+zAlxGe2-xP3+yO12+δ・・・・(式2)
【0012】
但し、前記(式2)において、
yは、前記(式1)のLi1+xAlxGe2-xP3O12と表記されるリチウムイオン伝導体粉末のストイキオメトリ組成に対する、前記粉末におけるリン原子の過剰量の指標となる。
zは、前記(式1)のLi1+xAlxGe2-xP3O12と表記されるリチウムイオン伝導体粉末のストイキオメトリ組成に対する、前記粉末におけるリチウム原子の過剰量の指標となる。
さらにリチウム原子の過剰量と、リン原子の過剰量との比である(y/z)の値は、0.2≦y/z≦0.6となるように調整されている。
【0013】
以上説明した、本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の組成は、当該NASICON型結晶構造を主相として有している粉末をアルカリ溶融した溶解液を作製し、当該溶解液に対し、ICP-OES装置を用いて各構成元素の定量分析を行い、得られた各構成元素の定量分析結果から各元素のモル比率を算出し求めたものである。なお、得られたアルミニウムのモル比率と、ゲルマニウムのモル比率との合計の値を2と固定したときの、各元素の換算されたモル比率の値を算出することで、前記(式2)におけるx、y、zの値を求めることができる。そして、前記(式1)のストイキオメトリ組成に対する、本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末におけるリン原子の過剰量、リチウム原子の過剰量を求めることができる。
【0014】
δは、前記(式1)に対するリチウム原子とリン原子の過剰量に応じて計算される値である。具体的には、本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末において、リチウムは1価、アルミニウムは3価、ゲルマニウムは4価、リンは5価となっていると考えられることから、δは(式3)で表記される。
δ=(z×0.5)+(y×2.5)・・・・(式3)
【0015】
本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末を用いて固体電解質層となる成型体を製造する際、焼成段階において低融点のLi3PO4が粒子内に生成し、当該Li3PO4が焼結助剤として働いて、焼成後の成型体の空隙率が低減すると推察される。尤も、成型体にLi3PO4が存在していたとしても、その存在量は、後述するXRD検出下限以下のため、XRDでは検出できていない。
【0016】
本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末は、XRD測定によって得られるXRDスペクトルにおいて、NASICON型結晶構造を有している酸化物のX線回折ピークを主相として有している。ここで主相とは、XRD測定によって得られるXRDスペクトルにおいて最も高強度の回折ピークが帰属する結晶相をいう。
回折ピークが帰属するか否かは、NASICON型結晶構造を主相として有している粉末のXRDスペクトルと、データベースに登録されているNASICON型結晶構造を有している酸化物の回折ピークとを照合することにより判定出来る。例えば、NASICON型結晶構造を有している酸化物であるLiGeP3O12の主相は、ICDD(International Centre for Diffraction Data)のPDF(Powder Diffraction File)No.01-080-1922と照合することで判定することが出来る。より詳細には、NASICON型結晶構造を主相として有している粉末のXRDスペクトルを、NASICON型結晶構造を有している酸化物のICDDのPDF No.01-080-1922と照合した場合、ピークサーチ方法で検出されたピークが25.1±0.5°、30.4±0.5°、33.3±0.5°、34.0°±0.5°の範囲にあり、そのピーク強度が25.1±0.5°、30.4±0.5°、34.0°±0.5°、33.3±0.5°の順で大きくなることを確認することで、PDF No.01-080-1922に帰属する結晶相であると判定できる。
【0017】
本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末は、当該主相とは異なる副相を含んでいる場合がある。NASICON型結晶構造を主相として有している粉末が当該副相を含んでいる場合、後述するXRD測定において、主相における最大のX線回折ピーク強度の値と、前記副相における最大のX線回折ピーク強度の値との比である[(副相ピーク強度)/(主相ピーク強度)]の値が0.35以下であることが好ましい。一方、前記NASICON型結晶構造を主相として有している粉末が前記副相を含まず、[(副相ピーク強度)/(主相ピーク強度)]の値が0であっても、勿論問題は無い。
【0018】
2.本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の製造方法
本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末は、各構成元素を含有する原料の水溶液を混合してスラリーを得て、当該スラリーを乾燥して乾燥粉末を得て、当該乾燥粉末を焼成することで得られる。
【0019】
以下、本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の製造方法について、製造フロー図である
図1を参照しながら、(1)原料水溶液調製、(2)混合、(3)乾燥、(4)焼成、(5)粒径調整、(6)成型体の製造、の順に説明する。
【0020】
(1)原料水溶液調製
本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の構成元素であるリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンの各元素を含む水溶性の原料を、それぞれ水に溶解させて水溶液とする。
具体的には、ゲルマニウムを含有する水溶液と、リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液とを調製する。そこで、(I)ゲルマニウムを含有する水溶液の調製、(II)リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液の調製の順に説明する。
【0021】
(I)ゲルマニウムを含有する水溶液の調製
純水へゲルマニウム化合物粉体を混合し、ゲルマニウムを含有する水溶液を調製する。このとき、ゲルマニウム化合物としてGeO2を用い、さらにアンモニア水を加えてゲルマニウムを含有する水溶液を調製することが好ましい。GeO2をアンモニア水で溶解させることで、後述する乾燥工程後においてゲルマニウムが、(NH4)3HGe7O16の錯体状態になっていると考えられる。そして、NASICON型結晶構造を主相として有している粉末の前駆体内においてゲルマニウムが錯体状態を維持していることにより、焼成においてGeO2が生成することを抑制すると考えられるからである。
【0022】
(II)リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液の調製
純水へリチウム化合物粉体、アルミニウム化合物粉体、リン化合物溶液を混合し、リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液を調製する。このとき、リチウム化合物粉体としては、Li2SO4、Li2CO3、LiCl、LiNO3があげられる。また、アルミニウム化合物粉体としては、Al2(SO4)3、Al2(CO3)3、AlCl3、Al(NO3)3があげられる。リン化合物水溶液としては、(NH4)2HPO4水溶液、H3PO4水溶液、(NH4)H2PO4水溶液、(NH4)3PO4水溶液があげられる。
【0023】
リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液の調製の際、後述するスラリー中に含まれるリチウム、アルミニウム、リンの各原子のモル比率が、比例式Li:Al:P=(1+x+z):x:(3+y)となるように調整し、このとき、yとzとは0.1≦y≦0.5かつ0.2≦y/z≦0.6となるように調整する。
例えば、スラリー中のアルミニウム原子のモル比率を0.5としたときに、リチウム原子のモル比率を(1.5+z)、リン原子のモル比率を(3.0+y)とし、yとzとは0.1≦y≦0.5かつ0.2≦y/z≦0.6となるように調整する。
【0024】
リチウム、アルミニウム、リンの化合物が酸性なので、リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液の液性も酸性のほうが好ましい。これは水溶液がアルカリ側であると、結晶性のLi3PO4が生成することが考えられることによる。添加したリチウムとリンとが結晶性のLi3PO4となり、NASICON型結晶構造の主相とは異なる副相を含むことを抑制するため、リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液のpH値の好ましい範囲はpH1~5.5である。
【0025】
(2)混合
前記「(1)原料水溶液調製」にて調製した2種類の水溶液を混合して、NASICON型結晶構造を主相として有している粉末の構成元素を含むスラリーを得る工程である。
例えば、アンモニアで溶解させたアルカリ性のゲルマニウムを含有する水溶液へ、酸性のリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液を添加すると直後に濁り、共沈によってリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含有したスラリーを得ることができる。この混合工程では液温は特に検討する必要はなく、加温しても、しなくても良い。当該スラリー中には、水酸化物として析出した構成元素と、イオンとして存在している構成元素とが存在していると考えられる。
構成元素のイオン濃度積が溶解度積よりも高くなる過飽和状態を実現し、共沈法を用いてスラリーを生成させるのは、構成元素の均一性向上を果たすことが、NASICON型結晶構造を有するNASICON型酸化物粉末を得るのに肝要なためである。
混合の際はリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンの各原子のモル比率が、比例式Li:Al:Ge:P=(1+x+z):x:(2-x):(3+y)となるように調整する。このとき、xは0.0<x<2.0、yとzは0.1≦y≦0.5かつ0.2≦y/z≦0.6になるように調整する。
なお、上述した結晶性のLi3PO4の生成を回避する観点から、当該スラリーにおいても酸性を保つことが好ましい。例えばスラリーのpH値の好ましい範囲はpH1~6.5である。さらに好ましくはpH2~5である。
【0026】
(3)乾燥
前記「(2)混合」にて得られたスラリーの水分を乾燥させて、NASICON型結晶構造を主相として有している粉末の前駆体である乾燥粉末を得る工程である。乾燥方法は特に限られないが、スプレードライヤー等を用いた噴霧乾燥が好ましい。噴霧乾燥によれば、短時間でスラリー中においてイオンで存在している構成元素を急速に析出させるので、構成元素間の溶解度の差から生じる、析出の不均一さを低減することができる。これにより、組成の均一な乾燥粉末を得ることができ、GeO2の生成が抑制されたNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の前駆体である乾燥粉末を、より確実に製造することができる。乾燥温度は、得られるNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の前駆体に水分が残らない温度に適宜設定すればよい。
【0027】
(4)焼成
前記「(3)乾燥」にて得られたNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の前駆体を焼成し、NASICON型結晶構造を主相として有している焼成粉末を得る工程である。具体的には、大気雰囲気下で室温から600℃以上900℃以下まで、昇温速度0.1℃/min以上20℃/min以下にて昇温し、さらに大気雰囲気で120分間焼成することでNASICON型結晶構造を主相として有している焼成粉末を得ることができる。また、600℃以上900℃以下で本焼成を行う際に、まず200℃以上400℃未満の温度で、粉末の前駆体を仮焼成することも好ましい。仮焼成の方法は、特に限られないが、ロータリーキルン炉を用いた仮焼成が好ましい。
【0028】
(5)粒径調整
NASICON型結晶構造を主相として有している粉末の製造において、NASICON型結晶構造を主相として有している焼成粉末を、そのままNASICON型結晶構造を主相として有している粉末としてもよいが、所望により、粒径、比表面積を適宜調整してもよい。粒径、比表面積調整の方法は、公知の方法が使用可能ではあるが、ビーズミル等を用いた湿式粉砕が好ましい。
【0029】
ビーズミルを用いた湿式粉砕法での粒径、比表面積の調整は、メディア(ビーズ)の材質、メディア(ビーズ)の径、メディア(ビーズ)とスラリーの比、スラリー濃度、粉砕時間、回転数など既知の方法により適宜調整できる。
湿式粉砕を実施した場合は、湿式粉砕処理後に固液分離し、回収した湿式粉砕後のNASICON型結晶構造を主相として有している粉末を乾燥する。
本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の粒径は、体積基準の累積粒度分布(D50)の値が0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0030】
湿式粉砕時の溶媒としては、NASICON型結晶構造を主相として有している粉末中のリチウムがプロトンとイオン交換してしまい、固体電解質である成型体のイオン伝導が低減することを防ぐ観点から、有機溶媒が好ましく、具体的にはIPAが好ましい。IPAは粉砕後の乾燥にて揮発するので、NASICON型酸化物粉末に残存しないからである。粉砕にビーズミルを使用する場合は、ビーズの材質としては、アルミナ、ジルコニアが不純物混入の観点から好ましい。湿式粉砕後のNASICON型酸化物粉末は、使用した溶媒の沸点以上の温度、且つ、前記「(4)焼成」の際における焼成温度以下の温度範囲で乾燥させて、使用した溶媒を除去することが好ましい。また、得られたNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の水分量が過度に低い場合は、水分を含む雰囲気中に所定時間曝露して、粉末の水分量を調整する工程を入れてもよい。
【0031】
(6)成型体の製造
製造されたNASICON型結晶構造を主相として有している粉末を成型型に充填後、加圧を行い圧縮成型し、得られた圧縮成型体を焼成することによって、NASICON型結晶構造を主相として有している粉末を使用した成型体を製造することができる。
圧縮成型時の圧力は1MPa以上300MPa以下で、1秒以上10時間以下の圧縮成型を行うことが好ましい。成型型、プレス装置は通常のものが使用可能である。
焼成温度は、600℃以上1000℃以下が好ましい。
【0032】
3.本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の評価
本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末に対し、組成分析、XRD測定、成型体作成および空隙率測定、を行って評価を行った。
その結果、本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末は、組成分析の結果から、リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含み、XRD測定からNASICON型結晶構造を主相として有していることが判明した。さらに、当該NASICON型結晶構造を主相として有している粉末を用いて作製した成型体の空隙率は20%以下であることも判明した。
なお、本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の組成分析、XRD測定、当該NASICON型結晶構造を主相として有している粉末を用いた成型体作成、および、空隙率測定の具体的内容は、後述する実施例において説明する。
【実施例0033】
〈実施例1〉
上述したNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の製造工程を示すフローに拠って、実施例1に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末を製造し、分析および特性を評価した。(1)ゲルマニウムを含有する水溶液の調製、(2)リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液の調製、(3)原料スラリーの調製、(4)乾燥、(5)焼成、(6)NASICON型結晶構造を主相として有している粉末の分析および特性評価、の順で説明する。
【0034】
(1)ゲルマニウムを含有する水溶液の調製、
純水327.22gへGeO2(富士フイルム和光純薬株式会社製99.999%)34.54gを添加し、さらに濃度28質量%のアンモニア水(ナカライテスク社製28%)8.24gを添加し、24時間、室温にて攪拌し、370gの透明なゲルマニウムを含有する水溶液を得た。当該配合を表1に記載する。
【0035】
(2)リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液の調製
純水480gに85%H3PO4水溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製)を70.47g添加し、Al(OH)3(富士フイルム和光純薬株式会社製)を4.9g添加後、70℃に加温して透明な水溶液を得た。得られた水溶液に対して、LiOH・H2O(富士フイルム和光純薬株式会社製)を13.63g添加し、透明な水溶液になるまで攪拌してリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液を得た。得られたリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液のpH値は2.3であった。当該配合およびpH値を表1に記載する。
【0036】
(3)原料スラリーの調製
前記ゲルマニウムを含有する水溶液を攪拌しながら、そこへ前記リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液の全量を添加したところ、水溶液は当該添加直後に白濁し、実施例1に係る白色の原料スラリーを得た。得られた原料スラリーのpH値は3.3であった。当該pH値を表1に記載する。そして、当該原料スラリーにおける、仕込み組成から各元素のmol量を算出したところ、リチウムは0.32mol、アルミニウムは0.06mol、ゲルマニウムは0.33mol、リンは0.61molであった。そして、アルミニウムのサイトのモル比率と、ゲルマニウムのサイトのモル比率との合計の値を2と固定して、各元素のモル比率の値を換算したところ、リチウムのモル比率は1.64、アルミニウムのモル比率は0.31、ゲルマニウムのモル比率は1.69、リンのモル比率は3.13であった。これらの値を表2に記載する。
前記各元素の換算したモル比率の値を、比例式Li:Al:P=(1+x+z):x:(3+y)へ代入した。この結果、1.64:0.31:3.13=(1+x+z):x:(3+y)となり、x=0.31、y=0.13、z=0.33が導出され、y/z=0.39が導出された。これらの値を表2に記載する。
【0037】
(4)乾燥
前記原料スラリーを、噴霧乾燥機(東京理化器械株式会社製 SD-1000)を用いて噴霧乾燥して、前記原料スラリー中の水分を蒸発させて一気に固相析出させ、白色の前駆体粉末を得た。なお、噴霧乾燥の条件としては、入口温度180℃、出口温度90℃、前記原料スラリーの添加速度10g/minとした。
【0038】
(5)焼成
アルミナ製の容器に、前記噴霧乾燥で得られた前駆体粉末を入れ、大気雰囲気下で昇温速度5℃/minにて室温から600℃まで昇温し、600℃で120分間焼成することで、実施例1に係るリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含みNASICON型結晶構造を主相として有している粉末が得られた。
【0039】
(6)NASICON型結晶構造を主相として有している粉末の分析および特性評価
得られた実施例1に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末に対して、(I)組成分析、(II)XRD測定、(III)成型体作成および空隙率測定、を行った。以下、それぞれの方法および結果について説明する。
【0040】
(I)組成分析
実施例1に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末へ、溶融剤として炭酸ナトリウムを添加して、アルカリ溶融塩を作製した。当該アルカリ溶融塩を硝酸に溶解し、得られた溶解液に対し、ICP-OES装置(Agilent社製 ICP-720)を用いて元素分析を行った。リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リン、の各構成元素の定量分析値(質量%)は、リチウムが2.81質量%、アルミニウムが2.09質量%、ゲルマニウムが27.7質量%、リンが22.3質量%、であった。この値を表3に記載する。
【0041】
次に、当該各構成元素の定量分析値(質量%)を各々の元素の原子量で除した、各構成元素の定量分析値(質量%)/各構成元素の原子量の値(質量%/原子量)の値は、
リチウムが0.40質量%/原子量、アルミニウムが0.08質量%/原子量、ゲルマニウムが0.38質量%/原子量、リンが0.72質量%/原子量であった。この値を表3に記載する。
【0042】
上述したように、本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末を示す前記(式2)において、ゲルマニウムのモル比率とアルミニウムのモル比率との合計の値は2と固定している。一方、[ゲルマニウムとアルミニウムとの元素の定量分析値(質量%)/(各構成元素の原子量)]の合計の値は0.46である。
従って、[各元素の定量分析値(質量%)/各構成元素の原子量の合計]の値ヘ、2/0.46=4.35を係数として乗じる換算をおこなうことで、本発明に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の前記(式2)における各元素のモル比率の値を得ることができる。当該係数の値を表3に記載する。
当該得られた各元素のモル比率の値は、リチウムが1.74、アルミニウムが0.35、ゲルマニウムが1.65、リンが3.13であった。これらの値を表3に記載する。
【0043】
次に、(式2)におけるy、zを算出するため、前記得られた各元素のモル比率の値を比例式Li:Al:P=(1+x+z):x:(3+y)へ代入した。この結果、1.74:0.35:3.13=(1+x+z):x:(3+y)となり、x=0.35、y=0.13、z=0.39が導出され、y/z=0.33が導出された。これらの値を表4に記載する。
そして、上述した組成分析の結果から、ゲルマニウムのモル比率とアルミニウムのモル比率との合計の値を2と固定したときの、実施例1に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末のストイキオメトリ組成は、Li1.32Al0.32Ge1.68P3O12となる。
また、(式3)にy=0.13、z=0.39を代入した。この結果、δ=0.52が導出された。
この値を表4に記載する。
また、実施例1に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の体積基準の累積粒度分布(D50)の値は、6.0μmであった。この値を表4に記載する。
【0044】
(II)XRD測定
実施例1に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末に対して、下記測定条件にてXRD測定を実施した。得られたXRDスペクトルを
図2に示す。なお図中に示される丸印(●)はNASICON型結晶構造に帰属する回折ピークであり、図中に示される矢印(↓)は、後述する副相に係るもっとも強いピークの位置である。
得られた実施例1に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の主相は、リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを有するNASICON型結晶構造であった。
【0045】
<XRD測定条件>
測定装置 :XRD-6100(島津製作所製)
管球 :Cu
管電圧 :40kv
管電流 :30mA
発散スリット:1.0°
散乱スリット:1.0°
受光スリット:0.3mm
ステップ幅 :0.02°/step
計測時間 :0.25sec
ピークサーチは島津製作所製XRD-6100ソフトウェアを使用した。
ピークサーチ条件は以下の条件にて実施した。
スムージング処理:自動
バックグラウンド処理:自動
Ka1-a2比:50
ピークサーチ:自動
【0046】
図2に示す、実施例1に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末のXRDスペクトルを、NASICON型結晶構造を有している酸化物であるLiGeP
3O
12のICDDのPDF No.01-080-1922と照合した。
すると、ピークサーチ方法で検出されたピークが25.1±0.5°、30.4±0.5°、33.3±0.5°、34.0°±0.5°の範囲にあり、そのピーク強度が25.1±0.5°、30.4±0.5°、34.0°±0.5°、33.3±0.5°の順で大きいことから、PDF No.01-080-1922に帰属すると判定できた。従って、実施例1に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末は、上述す組成分析の結果から、リチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンを含み、XRD測定結果からNASICON型結晶構造を主相として有していることがわかった。なお、後述する実施例2、3および比較例1~4も同様に、PDF No.01-080-1922と照合した結果、No.01-080-1922に帰属することがわかった。
次に、XRD測定結果において、25.9°付近に、GeO
2の副相が確認されたため、主相に係るもっとも強いピークと、副相に係るもっとも強いピークとのピーク強度比を検討したところ、副相/主相のピーク強度比の値は0.18であった。この結果を表4に記載する。
【0047】
(III)成型体作成および空隙率測定
実施例1に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末0.25gを秤量し、φ11mmの成型型に充填し、油圧プレス機を使用して105MPaの荷重を10秒間保持して、圧縮成型されたペレットを得た。成型したペレットを室温から800℃まで昇温し、800℃で2時間焼成して成型体試料を得た。
得られた成型体試料を110℃で乾燥させ、乾燥後の成型体試料の質量を測定して乾燥質量W1とした。
【0048】
乾燥後の成型体試料を真空容器の底に置き、ゲージ圧-96kPaの真空下で、真空ポンプを用いて真空容器を15分間吸引し、成型体試料の細孔中の空気を十分に排除した。
次いで、真空容器中へ成型体試料が完全に浸るまでIPA(イソプロピルアルコール)を注入した。そして、真空容器に設けられたコックを徐々に開いて、真空容器内をゲージ圧0Paに復圧し、30分間放置した。
【0049】
IPA中に浸した成型体試料を針金で懸架し、懸架した状態でIPA中の成型体試料の質量を測定し、針金により懸架される分を補正した質量をIPA中質量W2とした。
次いで、成型体試料をIPA中から取り出し、その表面をIPAで湿らせたガーゼで手早く拭ってIPAを除去した後、成型体試料の質量を測定して飽和質量W3とした。
なお、ガーゼは十分にIPAを含ませた後、成型体試料表面のIPAだけを取る程度に絞って用いた。
【0050】
以上、得られた質量W1~W3を用いて、実施例1に係る成型体試料の空隙率Poを、(式4)から算出したところ19%であった。この値を表4に記載する。
Po(%)=(W3-W1)/(W3-W2)×100・・・・(式4)
なお、当該測定方法は、JIS R1634.1998(ファインセラミックスの焼結体密度・開気孔率の測定方法)を参考とした。
【0051】
〈実施例2〉
実施例1にて説明した「(2)リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液の調製」において、純水480gに85%H3PO4水溶液を72.94g添加し、Al(OH)3を4.9g添加後、70℃に加温して透明な水溶液を得た。得られた水溶液に対して、LiOH・H2Oを16.32g添加し透明な水溶液になるまで攪拌して、実施例2に係るリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液を得た。得られたリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液のpHは2.5であった。これらの値を表1に記載する。
【0052】
実施例1にて説明した「(3)原料スラリーの調製」において、実施例1に係るリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液に代えて、実施例2に係るリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液を用いたこと。そして、「(5)焼成」において、まず内径305mmのロータリーキルンを用い、キルン内温度を250℃とし、回転数1.2rpm、角度0.5°とし、前記噴霧乾燥で得られた前駆体粉末を入れて120分間の仮焼成を行い、そして、ロータリーキルンから排出された粉体をアルミナ製の容器に入れ、箱型炉にて室温から昇温速度5℃/minにて600℃まで昇温し、大気雰囲気で120分間本焼成したこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例2に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末を調製した。
【0053】
調製した実施例2に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の分析および特性評価を、実施例1と同様に実施した。
実施例2に係る原料スラリーのpH値を表1に記載する。そして、当該原料スラリーにおける、仕込み組成(mol)、算出した各元素の濃度、各元素の配合比、アルミニウムのサイトのモル比率と、ゲルマニウムのサイトのモル比率との合計の値を2と固定したときの、各元素の換算したモル比率の値を表2に記載する。
また、実施例1と同様に、実施例2に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末のリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンの各構成元素の定量分析値(質量%)、各構成元素の定量分析値(質量%)/各構成元素の原子量の値(質量%/原子量)の値、係数の値、[各元素の定量分析値(質量%)/各構成元素の原子量の合計]の値ヘ当該係数を乗じて算出した各元素の換算したモル比率の値(アルミニウムのサイトのモル比率と、ゲルマニウムのサイトのモル比率との合計の値を2と固定したとき。)を表3に記載する。
さらに実施例1と同様にしてもとめた、x、y、z、y/zの値、δの値、累積粒度分布(D50)の値、および、成型体試料の空隙率の値を表4に記載する。
そして、実施例1と同様の測定条件にて、実施例2に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末のXRD測定を実施した。得られたXRDスペクトルを
図2に示す。次に、XRD測定結果において、25.9°付近に、GeO
2の副相が確認されたため、主相に係るもっとも強いピークと、副相に係るもっとも強いピークとのピーク強度比を検討したところ、副相/主相のピーク強度比の値は0.23であった。この結果を表4に記載する。
【0054】
〈実施例3〉
実施例1にて説明した「(2)リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液の調製」において、純水480gに85%H3PO4水溶液を75.43g添加し、Al(OH)3を4.9g添加後、70℃に加温して透明な水溶液を得た。得られた水溶液に対して、LiOH・H2Oを19.05g添加し、透明な水溶液になるまで攪拌して実施例3に係るリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液を得た。得られたリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液のpHは2.5であった。これらの値を表1に記載する。
実施例1にて説明した「(3)原料スラリーの調製」において、実施例1に係るリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液に代えて、実施例3に係るリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例3に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末を調製した。
【0055】
調製した実施例3に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の分析および特性評価を、実施例1と同様に実施した。
実施例3に係る原料スラリーのpH値を表1に記載する。そして、当該原料スラリーにおける、仕込み組成(mol)、算出した各元素の濃度、各元素の配合比、アルミニウムのサイトのモル比率と、ゲルマニウムのサイトのモル比率との合計の値を2と固定したときの、各元素の換算したモル比率の値を表2に記載する。
また、実施例1と同様に、実施例3に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末のリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンの各構成元素の定量分析値(質量%)、各構成元素の定量分析値(質量%)/各構成元素の原子量の値(質量%/原子量)の値、係数の値、[各元素の定量分析値(質量%)/各構成元素の原子量の合計]の値ヘ当該係数を乗じて算出した各元素の換算したモル比率の値(アルミニウムのサイトのモル比率と、ゲルマニウムのサイトのモル比率との合計の値を2と固定したとき。)を表3に記載する。
さらに実施例1と同様にしてもとめた、x、y、z、y/zの値、δの値、累積粒度分布(D50)の値、および、成型体試料の空隙率の値を表4に記載する。
そして、実施例1と同様の測定条件にて、実施例3に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末のXRD測定を実施した。得られたXRDスペクトルを
図2に示す。次に、XRD測定結果において、20.5°付近に、帰属不明の副相が確認されたため、主相に係るもっとも強いピークと、副相に係るもっとも強いピークとのピーク強度比を検討したところ、副相/主相のピーク強度比の値は0.11であった。この結果を表4に記載する。
【0056】
〈比較例1〉
実施例1にて説明した「(2)リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液の調製」において、純水480gに85%H3PO4水溶液を67.96g添加し、Al(OH)3を4.9g添加後、70℃に加温して透明な水溶液を得た。得られた水溶液に対して、LiOH・H2Oを10.88g添加し、透明な水溶液になるまで攪拌して比較例1に係るリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液を得た。得られたリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液のpHは2.3であった。これらの値を表1に記載する。
実施例1にて説明した「(3)原料スラリーの調製」において、実施例1に係るリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液に代えて、比較例1に係るリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、比較例1に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末を調製した。
なお、比較例1に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末はストイキオメトリ組成を目論んだものである。
【0057】
調製した比較例1に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の分析および特性評価を、実施例1と同様に実施した。
比較例1に係る原料スラリーのpH値を表1に記載する。そして、当該原料スラリーにおける、仕込み組成(mol)、算出した各元素の濃度、各元素の配合比、アルミニウムのサイトのモル比率と、ゲルマニウムのサイトのモル比率との合計の値を2と固定したときの、各元素の換算したモル比率の値を表2に記載する。
また、実施例1と同様に、比較例1に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末のリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンの各構成元素の定量分析値(質量%)、各構成元素の定量分析値(質量%)/各構成元素の原子量の値(質量%/原子量)の値、係数の値、[各元素の定量分析値(質量%)/各構成元素の原子量の合計]の値ヘ当該係数を乗じて算出した各元素の換算したモル比率の値(アルミニウムのサイトのモル比率と、ゲルマニウムのサイトのモル比率との合計の値を2と固定したとき。)を表3に記載する。
さらに実施例1と同様にしてもとめた、x、y、z、y/zの値、δの値、累積粒度分布(D50)の値、および、成型体試料の空隙率の値を表4に記載する。
そして、実施例1と同様の測定条件にて、比較例1に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末のXRD測定を実施した。得られたXRDスペクトルを
図2に示す。次に、XRD測定結果において、33.2°付近に、帰属不明の副相が確認されたため、主相に係るもっとも強いピークと、副相に係るもっとも強いピークとのピーク強度比を検討したところ、副相/主相のピーク強度比の値は0.04であった。この結果を表4に記載する。
【0058】
〈比較例2〉
実施例1にて説明した「(2)リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液の調製」において、純水480gに85%H3PO4水溶液を67.96g添加し、Al(OH)3を4.9g添加後、70℃に加温して透明な水溶液を得た。得られた水溶液に対して、LiOH・H2Oを13.19g添加し、透明な水溶液になるまで攪拌して比較例2に係るリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液を得た。得られたリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液のpHは2.9であった。これらの値を表1に記載する。
実施例1にて説明した「(3)原料スラリーの調製」において、実施例1に係るリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液に代えて、比較例2に係るリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、比較例2に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末を調製した。
【0059】
調製した比較例2に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の分析および特性評価を、実施例1と同様に実施した。
比較例2に係る原料スラリーのpH値を表1に記載する。そして、当該原料スラリーにおける、仕込み組成(mol)、算出した各元素の濃度、各元素の配合比、アルミニウムのサイトのモル比率と、ゲルマニウムのサイトのモル比率との合計の値を2と固定したときの、各元素の換算したモル比率の値を表2に記載する。
また、実施例1と同様に、比較例2に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末のリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンの各構成元素の定量分析値(質量%)、各構成元素の定量分析値(質量%)/各構成元素の原子量の値(質量%/原子量)の値、係数の値、[各元素の定量分析値(質量%)/各構成元素の原子量の合計]の値ヘ当該係数を乗じて算出した各元素の換算したモル比率の値(アルミニウムのサイトのモル比率と、ゲルマニウムのサイトのモル比率との合計の値を2と固定したとき。)を表3に記載する。
さらに実施例1と同様にしてもとめた、x、y、z、y/zの値、δの値、累積粒度分布(D50)の値、および、成型体試料の空隙率の値を表4に記載する。
そして、実施例1と同様の測定条件にて、比較例2に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末のXRD測定を実施した。得られたXRDスペクトルを
図2に示す。XRD測定結果において、25.9°付近に、GeO
2の副相が確認されたため、主相に係るもっとも強いピークと、副相に係るもっとも強いピークとのピーク強度比を検討したところ、副相/主相のピーク強度比の値は0.12であった。この結果を表4に記載する。
【0060】
〈比較例3〉
実施例1にて説明した「(2)リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液の調製」において、純水480gに85%H3PO4水溶液を67.96g添加し、Al(OH)3を4.9g添加後、70℃に加温して透明な水溶液を得た。得られた水溶液に対して、LiOH・H2Oを15.42g添加し、透明な水溶液になるまで攪拌して比較例3に係るリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液を得た。得られたリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液のpHは3.3であった。これらの値を表1に記載する。
実施例1にて説明した「(3)原料スラリーの調製」において、実施例1に係るリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液に代えて、比較例3に係るリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、比較例3に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末を調製した。
【0061】
調製した比較例3に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の分析および特性評価を、実施例1と同様に実施した。
比較例3に係る原料スラリーのpH値を表1に記載する。そして、当該原料スラリーにおける、仕込み組成(mol)、算出した各元素の濃度、各元素の配合比、アルミニウムのサイトのモル比率と、ゲルマニウムのサイトのモル比率との合計の値を2と固定したときの、各元素の換算したモル比率の値を表2に記載する。
また、実施例1と同様に、比較例3に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末のリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンの各構成元素の定量分析値(質量%)、各構成元素の定量分析値(質量%)/各構成元素の原子量の値(質量%/原子量)の値、係数の値、[各元素の定量分析値(質量%)/各構成元素の原子量の合計]の値ヘ当該係数を乗じて算出した各元素の換算したモル比率の値(アルミニウムのサイトのモル比率と、ゲルマニウムのサイトのモル比率との合計の値を2と固定したとき。)を表3に記載する。
さらに実施例1と同様にしてもとめた、x、y、z、y/zの値、δの値、累積粒度分布(D50)の値、および、成型体試料の空隙率の値を表4に記載する。
そして、実施例1と同様の測定条件にて、比較例3に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末のXRD測定を実施した。得られたXRDスペクトルを
図2に示す。XRD測定結果において、25.9°付近に、GeO
2の副相が確認されたため、主相に係るもっとも強いピークと、副相に係るもっとも強いピークとのピーク強度比を検討したところ、副相/主相のピーク強度比の値は0.03であった。この結果を表4に記載する。
【0062】
〈比較例4〉
実施例1にて説明した「(2)リチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液の調製」において、純水480gに85%H3PO4水溶液を75.51g添加し、Al(OH)3を4.9g添加後、70℃に加温して透明な水溶液を得た。得られた水溶液に対して、LiOH・H2Oを13.63g添加し、透明な水溶液になるまで攪拌して比較例4に係るリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液を得た。得られたリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液のpHは2.1であった。これらの値を表1に記載する。
実施例1にて説明した「(3)原料スラリーの調製」において、実施例1に係るリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液に代えて、比較例4に係るリチウム、アルミニウム、リンを含有する水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行って、比較例4に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末を調製した。
【0063】
調製した比較例4に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末の分析および特性評価を、実施例1と同様に実施した。
比較例4に係る原料スラリーのpH値を表1に記載する。そして、当該原料スラリーにおける、仕込み組成(mol)、算出した各元素の濃度、各元素の配合比、アルミニウムのサイトのモル比率と、ゲルマニウムのサイトのモル比率との合計の値を2と固定したときの、各元素の換算したモル比率の値を表2に記載する。
また、実施例1と同様に、比較例4に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末のリチウム、アルミニウム、ゲルマニウム、リンの各構成元素の定量分析値(質量%)、各構成元素の定量分析値(質量%)/各構成元素の原子量の値(質量%/原子量)の値、係数の値、[各元素の定量分析値(質量%)/各構成元素の原子量の合計]の値ヘ当該係数を乗じて算出した各元素の換算したモル比率の値(アルミニウムのサイトのモル比率と、ゲルマニウムのサイトのモル比率との合計の値を2と固定したとき。)を表3に記載する。
さらに実施例1と同様にしてもとめた、x、y、z、y/zの値、δの値、累積粒度分布(D50)の値、および、成型体試料の空隙率の値を表4に記載する。
そして、実施例1と同様の測定条件にて、比較例4に係るNASICON型結晶構造を主相として有している粉末のXRD測定を実施した。得られたXRDスペクトルを
図2に示す。XRD測定結果において、副相に係るピークは確認されたなかった。この結果を表4に記載する。
【0064】
実施例および比較例のNASICON型結晶構造を主相として有している粉末を用いた成型体試料の空隙率を評価したところ、実施例1~3においては、比較例1~4と比較して成型体試料の空隙率が低くなることが確認された。つまり、本発明の構成によれば、成型体の密度向上(空隙率低下)を図ることができ、全固体電池において、固体電解質層を薄く多層化した場合であっても、電極同士が短絡することを抑制することを実現できる。
【0065】