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特開2023-157681治療計画システム、治療計画方法及び治療計画プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157681
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】治療計画システム、治療計画方法及び治療計画プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/06 20060101AFI20231019BHJP
【FI】
A61N5/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022067746
(22)【出願日】2022-04-15
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(72)【発明者】
【氏名】石川 正純
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082PA01
(57)【要約】
【課題】生体内における近赤外光の光量分布を把握すること。
【解決手段】治療計画システム1は、照射された近赤外光の生体内における挙動の計算に基づいて、生体内における近赤外光の光量分布である近赤外光量分布を演算して出力する演算部13を備える。演算部13は、モンテカルロ法を用いた計算に基づいて近赤外光量分布を演算してもよい。計算の少なくとも一部は、GPU(Graphics Processing Unit)により実行されてもよい。治療計画システム1は、生体において関心領域を設定する設定部12をさらに備え、演算部13は、生体のうち設定部12によって設定された関心領域における近赤外光量分布を演算してもよい。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
照射された近赤外光の生体内における挙動の計算に基づいて、前記生体内における前記近赤外光の光量分布である近赤外光量分布を演算して出力する演算部を備える、
治療計画システム。
【請求項2】
前記演算部は、モンテカルロ法を用いた前記計算に基づいて前記近赤外光量分布を演算する、
請求項1に記載の治療計画システム。
【請求項3】
前記計算の少なくとも一部は、GPU(Graphics Processing Unit)により実行される、
請求項1又は2に記載の治療計画システム。
【請求項4】
前記生体において関心領域を設定する設定部をさらに備え、
前記演算部は、前記生体のうち前記設定部によって設定された前記関心領域における前記近赤外光量分布を演算する、
請求項1に記載の治療計画システム。
【請求項5】
光学に関する光学パラメータを設定する設定部をさらに備え、
前記演算部は、前記設定部によって設定された前記光学パラメータ用いた前記計算に基づいて前記近赤外光量分布を演算する、
請求項1に記載の治療計画システム。
【請求項6】
前記演算部は、前記近赤外光量分布に関する情報を前記生体の形態画像上に重ねて表示する、
請求項1に記載の治療計画システム。
【請求項7】
前記演算部は、前記近赤外光量分布に基づいてヒストグラムをさらに演算して出力する、
請求項1に記載の治療計画システム。
【請求項8】
前記演算部による演算結果に基づいて前記計算に関する設定を変更する設定部をさらに備え、
前記演算部は、前記設定部によって変更された前記設定に基づいて前記計算を行う、
請求項1に記載の治療計画システム。
【請求項9】
前記演算部は、前記計算に基づいて前記生体内における熱量分布をさらに演算して出力する、
請求項1に記載の治療計画システム。
【請求項10】
前記演算部は、前記計算に基づいて熱傷に関するリスクをさらに演算して出力する、
請求項1又は9に記載の治療計画システム。
【請求項11】
装置により実行される治療計画方法であって、
照射された近赤外光の生体内における挙動の計算に基づいて、前記生体内における前記近赤外光の光量分布である近赤外光量分布を演算して出力する演算ステップを含む、
治療計画方法。
【請求項12】
照射された近赤外光の生体内における挙動の計算に基づいて、前記生体内における前記近赤外光の光量分布である近赤外光量分布を演算して出力する演算ステップをコンピュータに実行させる、
治療計画プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一側面は、照射された近赤外光の生体内における光量分布である近赤外光量分布を出力する治療計画システム、治療計画方法及び治療計画プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1では、放射線治療の効果を評価するための腫瘍の監視システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2002-525153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
放射線治療で用いられる放射線は、生体を透過する。一方、光免疫療法で用いられる近赤外光は、生体内で散乱などを繰り返すため、例えば生体内における近赤外光の光量分布を把握できない。そこで、生体内における近赤外光の光量分布を把握することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係る治療計画システムは、照射された近赤外光の生体内における挙動の計算に基づいて、生体内における近赤外光の光量分布である近赤外光量分布を演算して出力する演算部を備える。このような側面においては、生体内における近赤外光の光量分布が出力される。これにより、生体内における近赤外光の光量分布を把握することができる。
【0006】
本開示の別の一側面に係る治療計画方法は、装置により実行される治療計画方法であって、照射された近赤外光の生体内における挙動の計算に基づいて、生体内における近赤外光の光量分布である近赤外光量分布を演算して出力する演算ステップを含む。このような側面においては、生体内における近赤外光の光量分布が出力される。これにより、生体内における近赤外光の光量分布を把握することができる。
【0007】
本開示の別の一側面に係る治療計画プログラムは、照射された近赤外光の生体内における挙動の計算に基づいて、生体内における近赤外光の光量分布である近赤外光量分布を演算して出力する演算ステップをコンピュータに実行させる。このような側面においては、生体内における近赤外光の光量分布が出力される。これにより、生体内における近赤外光の光量分布を把握することができる。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一側面によれば、生体内における近赤外光の光量分布を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る治療計画システムの機能構成の一例を示す図である。
図2】実施形態に係る治療計画システムで用いられるコンピュータのハードウェア構成の一例を示す図である。
図3】実施形態に係る治療計画システムが実行する処理の一例を示すフローチャートである。
図4】実施形態に係る治療計画プログラムの構成を記憶媒体と共に示す図である。
図5】モンテカルロ法による近赤外光挙動計算の一例のフローチャートである。
図6】熱傷リスク評価の一例のフローチャートである。
図7】治療計画良否判定の一例のフローチャートである。
図8】光学パラメータ分布設定の一例のフローチャートである。
図9】体積線量ヒストグラムの一例を示す図である。
図10】体積光量ヒストグラムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本開示での実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、以下の説明における本開示での実施形態は、本発明の具体例であり、特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの実施形態に限定されないものとする。
【0011】
図1は、実施形態に係る治療計画システム1の機能構成の一例を示す図である。治療計画システム1は、照射された近赤外光の生体内における光量分布である近赤外光量分布を出力するコンピュータシステムである。
【0012】
図1に示す通り、治療計画システム1(治療計画システム)は、格納部10、取込部11、設定部12、演算部13(演算部)及び評価部14を含んで構成される。
【0013】
治療計画システム1の各機能ブロックは、治療計画システム1内にて機能することを想定しているが、これに限るものではない。例えば、治療計画システム1の機能ブロックの一部は、治療計画システム1とは異なるコンピュータ装置であって、治療計画システム1とネットワーク接続されたコンピュータ装置内において、治療計画システム1と情報を適宜送受信しつつ機能してもよい。また、治療計画システム1の一部の機能ブロックは無くてもよいし、複数の機能ブロックを一つの機能ブロックに統合してもよいし、一つの機能ブロックを複数の機能ブロックに分解してもよい。
【0014】
図2は、治療計画システム1で用いられるコンピュータのハードウェア構成の一例を示す図である。治療計画システム1は物理的には、図2に示すように、中央処理装置(プロセッサ)であるCPU(Central Processing Unit)100、主記憶装置であるRAM(Random access memory)101及びROM(Read Only Memory)102、キーボード、マイク及びディスプレイなどの入出力装置103、データ送受信デバイスである通信モジュール104、並びに、ハードディスク及びSSD(Solid State Drive)などの補助記憶装置105を含むコンピュータシステムとして構成されている。CPU100、RAM101及びROM102、入出力装置103、通信モジュール104、並びに、補助記憶装置105は、それぞれ複数で構成されてもよい。図1に示す各機能ブロックの機能は、図2に示すCPU100、RAM101などのハードウェア上に所定のコンピュータソフトウェアを読み込ませることにより、CPU100の制御のもとで入出力装置103及び通信モジュール104を動作させるとともに、RAM101及び補助記憶装置105におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。
【0015】
以下、図1に示す治療計画システム1の各機能について説明する。
【0016】
格納部10は、治療計画システム1の処理などで利用又は出力される任意の情報を格納する。格納部10は、治療計画システム1の各機能にて算出される情報を格納してもよい。格納部10によって格納された情報は、治療計画システム1の各機能によって適宜参照されてもよい。
【0017】
取込部11は、患者などの生体に関する画像を取り込む。取込部11は、取り込んだ画像を設定部12、演算部13及び評価部14に出力してもよいし、格納部10によって格納させてもよい。
【0018】
設定部12は、演算部13による演算又は評価部14による評価などに関する各種の設定を行う。設定部12は、生体において関心領域(ROI:Region of Interest)を設定してもよい。設定部12は、光学に関する光学パラメータを設定してもよい。設定部12は、演算部13による演算結果に基づいて挙動計算(後述)に関する設定を変更してもよい。設定部12によって行われた設定は、設定部12自身、演算部13及び評価部14によって参照及び利用される。設定部12によって行われた設定は設定情報として、設定部12自身、演算部13及び評価部14に出力してもよいし、格納部10によって格納させてもよい。
【0019】
演算部13は、照射された近赤外光の生体内における挙動の計算である挙動計算に基づいて、生体内における近赤外光の光量分布である近赤外光量分布を演算して出力する。演算部13は、演算した近赤外光量分布を、評価部14に出力してもよいし、入出力装置103であるディスプレイなどに表示してもよいし、通信モジュール104を介してネットワーク経由で他の装置に送信してもよいし、格納部10によって格納させてもよい。
【0020】
演算部13は、モンテカルロ法を用いた挙動計算に基づいて近赤外光量分布を演算してもよい。挙動計算の少なくとも一部は、GPU(Graphics Processing Unit)により実行されてもよい。演算部13は、生体のうち設定部12によって設定された関心領域における近赤外光量分布を演算してもよい。演算部13は、設定部12によって設定された光学パラメータ用いた挙動計算に基づいて近赤外光量分布を演算してもよい。演算部13は、近赤外光量分布に関する情報を(取込部11によって取り込まれた)生体の形態画像上に重ねて表示してもよい。演算部13は、近赤外光量分布に基づいてヒストグラムをさらに演算して出力してもよい。演算部13は、設定部12によって変更された設定に基づいて挙動計算を行ってもよい。演算部13は、挙動計算に基づいて生体内における熱量分布をさらに演算して出力してもよい。演算部13は、挙動計算に基づいて熱傷に関するリスクをさらに演算して出力してもよい。
【0021】
演算部13は、演算した近赤外光量分布を、取込部11によって取り込まれた画像に対して出力してもよい。演算部13は、設定部12によって行われた設定に基づいて近赤外光量分布を演算してもよい。
【0022】
評価部14は、演算部13によって演算又は出力された近赤外光量分布又は当該近赤外光量分布に基づく情報に関する評価を行う。演算部13は、評価結果を、設定部12、演算部13及び評価部14自身に出力してもよいし、入出力装置103であるディスプレイなどに表示してもよいし、通信モジュール104を介してネットワーク経由で他の装置に送信してもよいし、格納部10によって格納させてもよい。
【0023】
図3は、治療計画システム1が実行する処理(治療計画方法)の一例を示すフローチャートである。まず、取込部11が、画像を取り込む(ステップS1)。次に、設定部12が、各種設定を行う(ステップS2)。次に、演算部13が、生体内における近赤外光量分布を演算して出力する(ステップS3、演算ステップ)。次に、評価部14が、S3にて演算又は出力された近赤外光量分布に関する評価を行う(ステップS4)。なお、S3にて、演算部13は、S1にて取り込んだ画像に対して出力してもよいし、S2にて行われた設定に基づいて近赤外光量分布を演算してもよい。
【0024】
続いて、治療計画システム1による一連の処理をコンピュータに実行させるための治療計画プログラム300を説明する。治療計画プログラム300は、図4に示すように、コンピュータに挿入されてアクセスされる、又は、コンピュータが備える記憶媒体200に形成されたプログラム格納領域201内に格納される。より具体的には、治療計画プログラム300は、治療計画システム1が備える記憶媒体200に形成されたプログラム格納領域201内に格納される。
【0025】
治療計画プログラム300は、取込モジュール301、設定モジュール302、演算モジュール303及び評価モジュール304を備えて構成される。取込モジュール301、設定モジュール302、演算モジュール303及び評価モジュール304を実行させることにより実現される機能は、上述した治療計画システム1の取込部11、設定部12、演算部13及び評価部14の機能とそれぞれ同様である。
【0026】
治療計画プログラム300は、治療計画システム1(の一つ以上のCPU)を、画像を取り込む取込部11、各種設定を行う設定部12、生体内における近赤外光量分布を演算して出力する演算部13、及び、近赤外光量分布に関する評価を行う評価部14として機能させるためのプログラムである。
【0027】
なお、治療計画プログラム300は、その一部若しくは全部が、通信回線等の伝送媒体を介して伝送され、他の機器により受信されて記憶(インストールを含む)される構成としてもよい。また、治療計画プログラム300の各モジュールは、1つのコンピュータでなく、複数のコンピュータのいずれかにインストールされてもよい。その場合、当該複数のコンピュータによるコンピュータシステムよって上述した治療計画プログラム300の一連の処理が行われる。
【0028】
以降では、治療計画システム1及び治療計画システム1が備える各機能の詳細について、様々な観点である観点1~4に基づいて説明する。各観点の内容に、別の一つ以上の観点の一部又は全ての内容を適宜取り込む又は融合することができる。
【0029】
<観点1>
治療計画システム1(治療計画装置)では、患者形態情報を利用して治療計画を行うため、取込部11(臨床画像取込部)において、CT画像を取り込む。また、腫瘍の位置や正常組織の形状を把握するために、MRI画像やPET画像を利用することも想定されるため、ベースとなるCT画像に対してMRI画像・PET画像の位置・傾きを調整して重ね合わせる(融合位置合わせ)機能を有してもよい。
【0030】
設定部12(関心領域描画部)では、前記の融合位置合わせされたMRI画像・PET画像を用いてターゲット領域およびリスク臓器領域を関心領域(ROI:Region of Interest)として設定する。関心領域を設定することにより、ターゲットおよびリスク臓器における光量および熱量の算出が可能となる。また、皮膚・粘膜領域はFrontal light diffuser(後述)にて最も強く照射される領域であり、熱傷を生じるおそれがあることから、別途領域を設定して熱量予測を行ってもよい。
【0031】
設定部12(光源設定部)では、使用する光源の種類(Frontal light diffuserまたはCylindrical light diffuser(後述))に応じて、光源の基準となる座標の設定、照射方向ベクトル(Cylindrical light diffuserの場合は光源の両端を結ぶベクトル)、照射される範囲(Frontal light diffuserの場合は直径、Cylindrical light diffuserの場合は長さ)、照射時間を設定する。
【0032】
設定部12(計算条件設定部)では、近赤外光の挙動計算に必要な光学的パラメータ(屈折率、吸収係数、散乱係数など)を領域毎(軟組織、骨、空気など)に設定できる機能を有する。計算領域の設定、計算解像度の設定、発生光子数の設定は計算精度および計算時間に影響するため、必要最小限の領域および解像度にて計算が行えるよう配慮している。また、発生光子数は統計的な計算精度に直接影響することから、推定計算精度を算出することが可能となる。
【0033】
演算部13(近赤外光挙動演算部)では、物理過程を再現した近赤外光の挙動計算を行う。領域毎に設定された光学的パラメータを用いて、反射、屈折、散乱、吸収の各過程を加味した近赤外光量分布の計算を行う。人体内の複雑な体系での計算には、モンテカルロ法を用いてもよい。また、近赤外光の吸収過程により該当箇所で熱量に変換されるため、熱量吸収分布を計算してもよい。
【0034】
評価部14(治療計画評価部)では、近赤外光量分布をCT画像上に重ねて表示し、ターゲット領域に対して適切に近赤外光が照射されていることを定性的に確認する。また、近赤外光量分布を確認しながら、各光源の位置(座標)、方向ベクトル、照射時間を調整する。また、治療に必要な最低限の処方光量を設定し、関心領域の光量体積ヒストグラム(PVH;Photons Volume Histogram)を算出することで、ターゲット領域に処方光量が送達されているか、リスク臓器に過度な近赤外光が照射されていないかを確認する。なお、近赤外光と反応する薬剤(IR-700など)の集積量を加味した反応量体積ヒストグラム(RVH;Reactions Volume Histogram)を用いてもよい。薬剤分布に関して、近赤外光に反応する薬剤の分布を取り込んだ計算を含んでもよい。さらに、算出された皮膚および粘膜の最大温度から、熱傷リスクの有無を判断する。計算精度は治療計画の良否に影響を与えるおそれがあることから、推定計算精度が不十分な場合は、発生光子数を増加して統計精度を高めた計算を行う。
【0035】
図5は、モンテカルロ法による近赤外光挙動計算の一例のフローチャートである。まず、取込部11が、形態画像を読み込む(ステップS10)。取込部11又は設定部12は、読み込んだ形態画像(CT画像)を用いて、3次元ボクセルで計算体系の形状を定義する。次に、設定部12が、光学的パラメータの設定を行う(ステップS11)。具体的には、設定部12は、3次元ボクセル計算体系の各ボクセルに対して、屈折率、吸収係数、散乱係数などの光学的パラメータを設定する。設定部12は、通常は、生体軟組織、骨、空気など、領域毎に共通のパラメータを設定してもよい。次に、演算部13が、光源位置での光子発生を行う(ステップS12)。Frontal light diffuserの場合は、点光源として光子を発生させる。Cylindrical light diffuserの場合は、線光源として乱数を用いて線上に均等な確率で光子を発生させる。
【0036】
次に、設定部12又は演算部13が、光源(又は光子)方向ベクトルの設定を行う(ステップS13)。Frontal light diffuserの場合は、照射方向ベクトルに対して、乱数を用いて円錐状または六角錐状に均一な光量分布となるように各光子のベクトルを設定する。Cylindrical light diffuserの場合は、乱数を用いて各光子のベクトルを等方的に設定する。なお、diffuserの特性に応じて、方向ベクトル分布の形状を変化させてもよい。次に、設定部12又は演算部13が、反応位置を決定する(ステップS14)。具体的には、吸収係数および散乱係数から算出される平均自由行程(散乱・吸収などにより光子が1/eにまで減弱する距離)に合致するような確率分布関数を作成し、乱数を用いて反応点を決定する。
【0037】
次に、演算部13が、計算体系からの逸脱判定を行う(ステップS15)。S15にて、決定された反応位置が計算体系から逸脱していると判定された場合(S15:Yes)、光子の追跡を終了する(ステップS16)。一方、S15にて、決定された反応位置が計算体系から逸脱していないと判定された場合(S15:No)、演算部13が、屈折率が異なる境界の判定を行う(ステップS17)。
【0038】
S17にて、反応位置が屈折率の異なる領域の境界であると判定された場合(S17:Yes)、設定部12又は演算部13が、入射角に応じて反射または屈折として方向ベクトルを新たに設定する(ステップS18)。一方、S17にて、反応位置が屈折率の異なる領域の境界でないと判定された場合(S17:No)、演算部13が、乱数による挙動選択を行う(ステップS19)。具体的には、吸収係数および散乱係数から算出された確率分布関数を用いて、乱数により散乱または吸収を選択する。
【0039】
S18に続き、又は、S19にて散乱が選択された場合(S19:散乱)、設定部12又は演算部13が、光子通過ボクセルへの光量加算を行う(ステップS20)。具体的には、ボクセルを通過する通過長を計算し、通過長に応じた光量をボクセルに加算する。次に、S13に戻る。
【0040】
一方、S19にて吸収が選択された場合(S19:吸収)、演算部13が、反応位置への熱量加算を行う(ステップS21)。具体的には、近赤外光が吸収された場合、熱量に変換されることから、吸収されたボクセルに対して熱量を加算する。次に、S16に進む。
【0041】
図6は、熱傷リスク評価の一例のフローチャートである。まず、演算部13が、初期設定(ステップS30)の光源情報を用いて近赤外光挙動計算を行い(ステップS31)、近赤外光吸収分布を算出する(ステップS32)。次に、演算部13が、近赤外光吸収分布から皮膚・粘膜の温度を算出し(ステップS33)、皮膚・粘膜の最大温度が許容される温度(例えば熱傷が発生するリスクとして50℃で5分間照射など)を超えているかを確認し(ステップS34)、許容温度を超えている場合(S34:No)には熱傷リスクありと判断して(ステップS35)光源設定を変更し(ステップS36)、S31に戻る。一方、許容温度を超えていない場合(S34:Yes)には熱傷リスクは無しと判断する(ステップS37)。
【0042】
図7は、治療計画良否判定の一例のフローチャートである。まず、演算部13が、初期設定の光源情報(ステップS40)を用いて近赤外光挙動計算を行い(ステップS41)、近赤外光量分布を算出する(ステップS42)。次に、演算部13が、ターゲット領域およびリスク臓器に対するPVHまたはRVHを算出し(ステップS43)、ターゲット領域に対して処方光量が送達されているか(ステップS44)、リスク臓器へ過度の光量が照射されていないかを確認する(ステップS45)。さらに、演算部13が、皮膚および粘膜に対して熱傷のリスクがないかを確認する(ステップS46)。これらに問題がある場合(S44:No、S45:No、又は、S46:Yes)には、光源設定を変更した上で(ステップS48)再度近赤外光挙動計算を行い(S41に戻る)、問題が無くなるまで確認作業を繰り返す。すべての条件が満たされれば(S44:Yes、S45:Yes、かつ、S46:No)、治療計画終了となる(ステップS47)。
【0043】
図8は、光学パラメータ分布設定の一例のフローチャートである。まず、設定部12が、形態画像(CT画像)から、3次元ボクセルで計算体系の形状を定義する(ステップS50)。次に、設定部12が、生体軟組織、骨、空気などを関心領域として定義する(ステップS51)。次に、設定部12が、関心領域ごとに屈折率、吸収係数、散乱係数などの光学的パラメータを定義し(ステップS52)、関心領域内の各ボクセルに対して、屈折率、吸収係数、散乱係数などの光学的パラメータを3次元光学パラメータ分布として設定する(ステップS53)。次に、演算部13が、3次元光学パラメータ分布を用いて、複雑な体系における近赤外光挙動計算を実施する(ステップS54)。
【0044】
以上が観点1の説明である。
【0045】
<観点2>
光免疫療法は、Cetuximabなどの抗EGFR抗体に光に反応する試薬(IRDye-700DX)を付加した薬剤を静脈投与し、患部付近に近赤外光を照射するだけで、腫瘍細胞のみに免疫原性細胞死を誘発させることが可能な新しいがん治療法である。光免疫療法では、腫瘍細胞に適切な量の近赤外光を照射することで、その治療効果を得ることができるが、従来、体内における近赤外光量分布を可視化する装置は無かった。また、従来、近赤外光を照射する範囲および位置は術者の経験により決定されていた。
【0046】
治療計画システム1は、体内における近赤外光の挙動をモンテカルロ法で用いてシミュレートし、光源から発せられた近赤外光の体内分布を可視化する近赤外光可視化装置(演算部13)と、腫瘍に対して適切な近赤外光量を送達するための光源位置を算出するための光源配置最適化装置(演算部13)から構成される治療計画装置であってもよい。
【0047】
[治療計画装置の概要]
放射線治療における治療計画装置と同様に、(取込部11が)ベースとなるCT画像等の形態画像を読み込み、(設定部12が)CT画像上に光源位置を設定することで、(演算部13が)近赤外光量分布をCT画像上に表示する。また、(設定部12が)関心領域(ROI)を設定することにより、ROI内の詳細な近赤外光量分布情報を取得し、治療に十分な光量が投与されているかを判断する。(演算部13による)近赤外光の挙動計算には、モンテカルロ法などの理論的な物理過程に基づいた精度の高い計算アルゴリズムを用いる。
【0048】
[モンテカルロ法を用いた近赤外光挙動計算部(治療計画システム1)]
モンテカルロ法を用いた近赤外光挙動計算システム(治療計画システム1)は、任意の光源に対する挙動計算が可能である。(演算部13により)光子1つずつの挙動を計算することで、任意の体系における近赤外光量分布を集計することが可能である。例えば、(演算部13が)光学シミュレーションにより近赤外線の挙動を計算し、近赤外線の強度分布として近赤外線の広がりを計算してもよい。
【0049】
[近赤外光量分布表示部(治療計画システム1)]
光免疫療法における治療計画では、体内における近赤外光量分布の把握が非常に重要であることから、CTなどの形態画像上に上記の近赤外光挙動計算装置(演算部13)によって得られた近赤外光量分布を重ね合わせて表示する機能(演算部13)があってもよい。
【0050】
[ROI描画部(治療計画システム1)]
治療計画では、(設定部12により)CTなどの形態画像上に関心領域(ROI:Region of Interest)を設定し、(演算部13により)ROI内の情報を解析することで治療効果予測を行う。また、PET/MRIなどの機能画像で腫瘍病変を強調表示し、CT画像に重ね合わせてROIを作成できる機能(演算部13)を有してもよい。
【0051】
[体積光量ヒストグラム演算部(治療計画システム1)]
腫瘍に対する治療効果予測を定量的に行うために、(演算部13により)腫瘍ROI内の近赤外光量分布をヒストグラム化してもよい。(演算部13により)放射線治療分野で用いられる体積線量ヒストグラム(DVH:Dose Volume Histogram)と同様に体積光量ヒストグラム(PVH:Photon Volume Histogram)を算出することにより、定量的な解析が可能となる。
【0052】
[熱量分布表示部(治療計画システム1)]
近赤外光は体内で吸収された際に熱に変換される。光免疫療法では、Frontal diffuserで50J/cm、Cylindrical diffuserで100J/cmのエネルギー密度で照射が行われているが、近赤外光が直接照射される部位では温度上昇による熱傷が懸念される。(演算部13による)モンテカルロシミュレーションでは、近赤外光量分布のみならず、近赤外光の吸収分布も算出することが可能であることから、体内における温度上昇分布を表示する機能を実装してもよい。
【0053】
[熱傷予測部(治療計画システム1)]
熱量分布表示装置(演算部13)によって算出された温度上昇分布から、(演算部13により)熱傷の発生リスクを算出することで、熱傷を未然に回避することができる。
【0054】
[治療計画システムGUI]
治療計画装置では、大きく分けて5つの機能から成り立ってもよい。
(1)CT/PET/MRI画像の読み込みおよび位置合わせ機能(Fusion)(取込部11)
(2)関心領域(ROI)描画機能(設定部12及び演算部13)
(3)光源設定機能(設定部12及び演算部13)
(4)計算条件設定および最適化機能(設定部12及び演算部13)
(5)治療計画評価機能(演算部13及び評価部14)
【0055】
(1)CT/PET/MRI画像の読み込みおよび位置合わせ機能(Fusion)
(取込部11が)ベースとなる形態画像としてCT画像を読み込み、腫瘍の位置情報を得るためにPETおよびMRIなどの機能画像を補助的に読み込めてもよい。通常、CT画像とPET/MRIの画像は異なる装置で撮影されることが多いことから、(取込部11は)CT画像との位置合わせ機能を実装してもよい。
【0056】
(2)関心領域(ROI)描画機能
(設定部12は)治療対象部位である腫瘍に加えて、熱傷などが懸念される皮膚表面、粘膜組織に対して関心領域を設定する機能を実装してもよい。関心領域の設定情報は光学パラメータの設定や治療計画評価にも用いてもよい。
【0057】
(3)光源設定機能
光免疫療法では、Frontal diffuserとCylindrical diffuserの2種類の光源を用いることができるため、それぞれの光源位置を設定する機能(設定部12又は演算部13)があってもよい。これらの光源位置についても、(設定部12又は演算部13は)CT画像上および患者皮膚表面をレンダリングした3D画像上に表示できてもよい。
【0058】
(4)計算条件設定および最適化機能
近赤外光量分布計算では、ある程度の時間を要することから、(設定部12は)効率よく計算を実行できるように計算範囲および分解能をあらかじめ設定できてもよい。また、生体組織の光学パラメータは近赤外光の挙動計算精度に大きく影響することから、(設定部12又は演算部13は)患者毎に設定が可能であってもよい。また、設定された光源位置に対して、それぞれの照射時間などを自動的に算出する最適化や、光源位置自体を自動的に微調整することにより腫瘍に適切な照射が可能となる最適化機能(設定部12又は演算部13)があってもよい。
【0059】
(5)治療計画評価機能
(演算部13又は評価部14は)近赤外光分布から、関心領域内における体積光量ヒストグラムを算出し、治療に必要な光量が腫瘍全体にわたって送達されていることを確認できる機能を実装してもよい。また、(演算部13又は評価部14は)各光源の強度(照射時間)を変更した際にリアルタイムでヒストグラムを変化させることにより、効率的な治療計画を可能としてもよい。さらに、(演算部13又は評価部14は)近赤外光の吸収による熱量を計算し、皮膚および粘膜表面の温度上昇を予測し、熱傷を予防してもよい。
【0060】
以上が観点2の説明である。
【0061】
<観点3>
光免疫療法は、抗EGFR抗体に光に反応する試薬を付加した薬剤を静脈投与し、患部付近に近赤外光を照射するだけで、腫瘍細胞のみに免疫原性細胞死を誘発させることが可能な新しいがん治療法である。現行手技の問題点として、照射範囲を正確に把握できていない、照射された量を正確に把握できていない、照射する位置を正確に制御できていない、などが挙げられる。治療計画システム1は、光源から照射される近赤外光の挙動を正確に計算できる(治療計画装置)、高精度な光免疫療法の実現が可能なシステムである。
【0062】
治療計画システム1は、CT画像上に腫瘍ROI(関心領域)を設定する機能(設定部12)、照射された近赤外光の光量分布を計算する機能(演算部13)、腫瘍ROI内の光強度分布を光量体積ヒストグラムとして算出する機能(演算部13)、腫瘍ROIへの均一な照射をするための光源位置最適化機能(設定部12又は演算部13)、などを実装する。
【0063】
治療計画システム1(の演算部13)は、近赤外光の挙動を再現するために、GPUを用いた高速モンテカルロ光学輸送計算アルゴリズムを実装し、体内近赤外光分布を可視化する。
【0064】
治療計画システム1(治療計画装置)(の演算部13)は、主に、近赤外光の挙動を計算するためのモンテカルロ計算、および、GUI(Graphical User Interface)に分けられる。近赤外光用モンテカルロ計算により、(演算部13は)任意の光源に対する体内光量分布の計算が可能である。光学的パラメータが生体軟組織に対する文献値である場合、実患者では値が異なる可能性がある。そこで、例えば、患者個別に近赤外光に対する光学的パラメータを測定してもよい。また、GUIでは、CT画像の取り込み、ROI設定機能、光量体積ヒストグラムなどの機能(取込部11、設定部12又は演算部13)を実装してもよい。
【0065】
近赤外光は生体内で散乱・吸収を繰り返して進行するため、これらの光学的パラメータが計算精度に大きく影響する。光学的パラメータの妥当性を確認するために、実験動物等を用いた検証実験を行ってもよい。また、モンテカルロ法では、追跡する光子数が計算精度に大きく影響することから、多大な計算時間を要する可能性がある。光免疫療法では、術場で撮影したCT画像などによる患者形態画像を用いて治療計画を行う必要があることから、治療計画に要する時間は可能な限り短い方が望ましい。光量分布を計算するための時間を短縮する方法としては、並列化計算が有効であることから、(演算部13は)GPUを用いてもよい。
【0066】
[光免疫療法(頭頚部イルミノックス治療)]
光に反応する薬を投与し、薬ががんに十分集まったところで、がんに対してレーザー光をあてることで治療する方法である。光免疫療法薬は、がん細胞の表面に多く出ている目印(抗原)に付着するタンパク質(抗体例:Cetuximabなどの抗EGFR抗体)に、光に反応する物質(例:IRDye 700 DX)を標識したものである。薬剤が持つ腫瘍選択性のため正常細胞には薬剤が付着しない。作用としては、光免疫療法薬を静脈投与(点滴投与)すると徐々にがんに集積し、約1日でがん細胞への付着が飽和する。そこに近赤外レーザー光を照射することにより光化学反応を誘起し、がん細胞が破裂して死滅する。利点としては、抗がん剤のような治療部位以外での副作用はなく、がん細胞以外でのダメージが無い。直接細胞を殺傷する作用だけではなく、がんに対する免疫を活性化することも可能なため、がんの再発予防にも繋がる。照射方法としては「カテーテルを通じて体内から照射する」及び「体外から照射する」の2通りの方法がある。
【0067】
治療計画システム1によれば、近赤外光の到達範囲を視覚的に確認し、腫瘍に十分な近赤外光が送達されていることを確認することができる。
【0068】
「カテーテルを通じて体内から照射する」場合の治療計画手順としては以下の通りである。
(1)術前に撮影したPET画像などを利用して、腫瘍の位置を同定する。
(2)腫瘍に十分な近赤外光が照射されるように複数のニードルカテーテルを穿刺する。
(3)CT撮影を実施し、(設定部12が)CT画像上に腫瘍のROIを設定する。
(4)(演算部13が)ニードルカテーテル内に配置された光源からの近赤外光挙動計算を行い、体内の近赤外光量分布を取得する。
(5)(評価部14が)腫瘍に対する近赤外光送達量を定量的に評価し、送達量が不足する場合は適宜穿刺箇所を追加する。
(6)腫瘍に対して処方光量が送達されていることを確認し、実際に照射を行う。
「体外から照射する」方法においては、照射位置および照射方向、使用する光源の数などを調整し、同様な治療計画を行う。
【0069】
現在の放射線治療は、既に確立された治療計画装置が市販されているため、放射線の分布がシミュレーションで予想できた。そのため、放射線の治療計画も立てることが出来る。一方、光免疫療法では、確立された治療計画装置が市販されていない。治療計画システム1によれば、近赤外線の挙動をシミュレーションし、カテーテルの置き場所、光の分布具合、照射時間、治療効果の見込みなどが事前に予想出来る。治療計画システム1は、近赤外光の挙動を再現するため、GPUなどによる高速モンテカルロ光学輸送計算アルゴリズムを実装し、体内光強度分布を可視化してもよい。
【0070】
[光学シミュレーション]
レイトレーシング(ray tracing;光線追跡法)は、光線などを追跡することである点において観測される像などをシミュレートする手法である。例えば、光線であれば、物体の表面の反射率・透明度・屈折率などを細かく反映させた像を得られるのが特徴であり、1画素ずつ光線の経路を計算するので、写実的に描画可能な反面、計算量は非常に大きくなる。レイトレーシング用のGPUが開発されている。
【0071】
モンテカルロ法は、光の一つ一つを追跡する方法であり、レイトレーシングのなかでも、乱数によってランダムに選ばれた方向にのみ限定することで演算量を現実的な処理量に抑えた手法である。体内の骨・腫瘍・非腫瘍など光学的パラメータの違いを構造として入れやすいため、治療計画システム1の(演算部13による)シミュレーションに採用してもよい。なお、治療計画システム1の(演算部13による)レイトレーシングは、他の任意のレイトレーシングを採用してもよい。
【0072】
GPUでのレイトレーシングは高速化が可能である。散乱が大きく光の到達する距離が短いため、放射線治療計画装置よりも高速処理が可能である。例えば、CPUベースでのシミュレーションでは10個の光子を計算させるのに1分くらいであるが、GPUで行うと1000倍以上速くすることが可能である。
【0073】
治療計画システム1は、体内の散乱吸収条件のデータベース(格納部10などに格納)を事前に作っておいて適宜利用してもよい。これらは文献値を参考に設定してもよいし、個人によってこれらのパラメータが大きく変化する可能性があるため事前に患者個人が有する光学パラメータを測定したものを設定してもよい。
【0074】
シミュレーションで一番重要視しなければならない条件として、腫瘍への十分な光量が送達されているか(打ち漏らしがないか)、及び、重篤な副作用を生じないか、が挙げられる。
【0075】
[光源]
光免疫療法で利用される光源の波長は近赤外領域である。なお放射線治療で利用されるの波長はX線である。放射線治療とは、使っている波長が違い、体内で届く範囲(約1cm弱)も違う。近赤外光は散乱が多く、ほとんど中に届かなく、集光しようと思ってもできないため、シミュレーションが重要である。光免疫療法では、例えば690nmの近赤外光を使用してもよい。これは、「生体の窓」と呼ばれる生体を透過しやすい波長域の中で、光化学反応でエネルギーを付与できる限界の波長を考えた際の結果である。生体の窓の範囲で限定するのが現実的であるため、波長範囲として650~1000nmとしてもよい。波長によってシミュレーション結果は変わるが、通常は単色光源を使用してもよい。(設定部12は)使用する光源の波長に応じて散乱・吸収などの光学的パラメータを変更してもよい。放射線は体をまっすぐ透過していくのに対して、近赤外光は体内で頻繁に散乱を繰り返し、ほとんど透過しない(表面で吸収される)ため、物理過程が全く異なるため、放射線のシミュレーションと近赤外光シミュレーションはまったく別物である。近赤外光は体内で吸収された際に熱に変換される。光源近傍では温度上昇による熱傷が懸念される。光免疫療法では、4~5分の近赤外光照射が行われるので、50~51℃ぐらいが閾値になってもよい。
【0076】
[照射方法]
照射方法は、体外照射(Frontal diffuserによる)又は体内照射(Cylindrical diffuserによる)である。照射方法は、連続照射であってもよいし、強度変調照射であってもよい。中央と辺縁で強度を変化させてもよい。照射する範囲において照射強度を変化させることにより、ターゲットにおける光量の均一性を向上させてもよい。近赤外線照射で注意しなければならない点として、熱傷と、 薬剤(アキャルクス)が集積する可能性とが挙げられる。その場合は特定臓器(皮膚、血管を含む)に対する影響も考慮してもよい。
【0077】
[熱傷]
熱傷部位の考慮があってもよい。 基本的には光源の近くにある組織に熱傷の恐れがあるが、Cylindrical diffuserの場合は腫瘍に刺入するので、他の臓器への影響は少ない。熱傷も加味して光源強度を強めてもよい(点光源などを使用する)。組織内の熱傷予測も行ってもよい。これは光量分布図と同時に吸熱分布図を作成し、50℃を超える部分に対して警告を出す、あるいは50℃を超えないように治療計画を作成してもよい。吸熱分布図は、吸収係数・散乱係数を元に作成してもよい。温度で臓器ごとのしきい値を設定してもよい。
【0078】
治療計画システム1の治療計画としては、光源の位置及び強度を操作者が(設定部12を介して)設定し、(演算部13が)近赤外光量分布を演算し、(評価部14が)治療計画の良否判断を行う手順を取ってもよい。
【0079】
体積光量ヒストグラム(PVH)は、放射線治療で使用する体積線量ヒストグラム(DVH)をベースに考案した解析手段である。治療効果予測を定量的に行うために、(演算部13により)腫瘍ROI内の近赤外光量分布をヒストグラム化したものである。
【0080】
図9は、体積線量ヒストグラムの一例を示す図である。図9において、横軸は放射線量を示し、縦軸は臓器体積の中で被爆されている割合を示す。ヒストグラムA及びBは、正常組織の体積線量ヒストグラムである。ヒストグラムCは、腫瘍部の体積線量ヒストグラムである。癌のターゲットは、体積線量ヒストグラムの右上に行くほど良い計画となるが、正常組織はなるべく照射されないように計画を立てることが必要である。
【0081】
図10は、体積光量ヒストグラムの一例を示す図である。図10において、横軸は近赤外光量を示し、縦軸は臓器体積の中で近赤外照射されている割合を示す。ヒストグラムTumor、ヒストグラムPTV、ヒストグラムSkin及びヒストグラムMucosaは、それぞれ腫瘍、後脛骨静脈、皮膚及び粘膜の体積光量ヒストグラムである。ヒストグラムSkin及びヒストグラムMucosaは、近赤外光が最も多く照射される部位で、ダメージが無いとは言えないのと、光量が多ければ近赤外光の吸収も多くなるので、熱傷の観点から同じグラフ上に表示してもよい。
【0082】
[良否判断方法]
(評価部14による)腫瘍の治療効果判定は、(演算部13によって演算された)腫瘍内の最低到達光量が治療に必要な光量を上回っているか、PVH(またはRVH)から判断する。ここでPVHまたはRVHとしているのは、治療計画装置では光量分布を計算できるが、腫瘍に取り込まれた薬剤量は別途評価する必要があるので、それを加味した場合にはRVHとして算出することになるからである。熱傷の判定について、(演算部13による)吸熱分布の算出により、しきい温度を超える場合は光源の強度を下げるなどの対策を行う。さらに、サーモグラフィによって皮膚表面の温度をリアルタイムでモニタしてもよい。
【0083】
治療計画システム1によれば、体外や体内で、近赤外光がどのような挙動をするのか把握できていなかったことが、可視化出来るようになる。また、プローブと腫瘍の位置関係で、照射する位置・広さ・光量・距離・角度の最適化が可能となる。
【0084】
以上が観点3の説明である。
【0085】
<観点4>
治療計画システム1は、光免疫療法のための治療計画システムである。治療計画システム1は、光免疫療法で治療するための事前計画(最適な照射時間/光源位置の予測)するためのシミュレーションシステムに関する。
【0086】
光免疫療法とは、光に反応する薬を投与し、薬ががんに十分集まったところで、がんに対してレーザー光を当てることで治療する方法である。利点としては、抗がん剤のような治療部位以外での副作用はなく、がん細胞以外でのダメージが無い。直接細胞を殺傷する作用だけではなく、がんに対する免疫を活性化することも可能なため、がんの再発予防にも繋がる。適用できるがんの種類としては、頭頚部、胸部、肝臓・胆のう・脾臓、消化器、泌尿器系、婦人科系が挙げられるが、これらに限るものではない。
【0087】
光免疫療法薬(光に反応する薬剤)は、がん細胞の表面に多く出ている目印(抗原)にくっつくタンパク質(抗体例:Cetuximabなどの抗EGFR抗体)に、光に反応する物質(例:IRDye 700 DX)をつけたものである。正常細胞にはほとんどくっつかない。薬自体は細胞にダメージを与えない。
【0088】
まず、光免疫療法薬を点滴により投与する。そして1日後などに、1日程度で薬ががんに結合する。レーザー光を照射することで、がん細胞から放出された物質(がん抗原)により、がんに対する免疫の活性化が行われる。
【0089】
照射方法としては、カテーテルを体内に入れて照射する方法と、体外から照射する方法とが挙げられる。
【0090】
治療計画システム1によれば、光がどのようにどのくらい当たるのか、どこに当てれば精度高く照射できるのかが把握できる。
【0091】
治療計画システム1では、(取込部11により)CT/PET/MRI画像の読込が行われ、合成(Fusion)が行われ、(設定部12又は演算部13により)関心領域(ROI)描画が行われ(腫瘍・皮膚表面・粘膜組織など目的に応じて、ROI設定)、(設定部12により)光源設定が行われ(Frontal diffuser又はCylindrical diffuser)、(設定部12により)計算条件設定(計算範囲、分解能、患者設定毎にDefault変更、照射時間・光源位置の設定)が行われ、(演算部13又は評価部14により)治療計画評価(良否判定を含む)(光量分布表示と吸熱分布表示、体積光量ヒストグラム(PVH)の算出、腫瘍の治療効果判定、熱傷判定)が行われる。
【0092】
治療計画システム1によれば、(演算部13による)モンテカルロ法を用いた光学シミュレーション、(演算部13又は評価部14による)吸熱分布/熱傷予測判定、腫瘍の治療効果判定を実行することができる。モンテカルロ法を用いた光学シミュレーションでは、腫瘍部にどのように光量分布されるかを調べることができる。吸熱分布/熱傷予測判定では、近赤外光は放射線と比べて熱を発生するため、近赤外光量分布(吸収係数・散乱係数)から、吸熱分布を算出し、熱傷の発生リスクを算出することで、発熱による影響を調べることができる。腫瘍の治療効果判定では、腫瘍・PTV(腫瘍含む照射対象範囲)・皮膚・粘膜の照射量による体積を算出し、最適光量を決定することで、最適な光量を調べることができる。
【0093】
以上が観点4の説明である。
【0094】
続いて、治療計画システム1の作用効果について説明する。
【0095】
治療計画システム1によれば、照射された近赤外光の生体内における挙動の計算(挙動計算)に基づいて、生体内における近赤外光の光量分布である近赤外光量分布を演算して出力する演算部13を備える。このような治療計画システム1においては、生体内における近赤外光の光量分布が出力される。これにより、生体内における近赤外光の光量分布を把握することができる。
【0096】
治療計画システム1の演算部13は、モンテカルロ法を用いた計算(挙動計算)に基づいて近赤外光量分布を演算してもよい。このような治療計画システム1においては、挙動計算をより確実に行うことができる。
【0097】
治療計画システム1において、計算(挙動計算)の少なくとも一部は、GPU(Graphics Processing Unit)により実行されてもよい。このような治療計画システム1においては、挙動計算をより高速に行うことができる。
【0098】
治療計画システム1は、生体において関心領域を設定する設定部12をさらに備え、演算部13は、生体のうち設定部12によって設定された関心領域における近赤外光量分布を演算してもよい。このような治療計画システム1においては、関心領域における近赤外光量分布を演算することができる。また、例えば、関心領域における近赤外光量分布のみを演算することで、より高速に演算することができる。
【0099】
治療計画システム1は、光学に関する光学パラメータを設定する設定部12をさらに備え、演算部13は、設定部12によって設定された光学パラメータ用いた計算(挙動計算)に基づいて近赤外光量分布を演算してもよい。このような治療計画システム1においては、光学パラメータに基づくより詳細・正確な近赤外光量分布を演算することができる。
【0100】
治療計画システム1の演算部13は、近赤外光量分布に関する情報を生体の形態画像上に重ねて表示してもよい。このような治療計画システム1においては、例えばユーザは、生体の形態画像上で近赤外光量分布に関する情報を確認することができる。
【0101】
治療計画システム1の演算部13は、近赤外光量分布に基づいてヒストグラムをさらに演算して出力してもよい。このような治療計画システム1においては、例えばユーザは、近赤外光量分布に基づくヒストグラムを確認することができる。
【0102】
治療計画システム1は、演算部13による演算結果に基づいて計算(挙動計算)に関する設定を変更する設定部12をさらに備え、演算部13は、設定部12によって変更された設定に基づいて計算(挙動計算)を行ってもよい。このような治療計画システム1においては、例えば、演算部13による演算を行うたびに、前回の演算結果に基づくより適切な設定に基づいて挙動計算を行うことができる。すなわち、演算部13による演算を行うたびにより適切な挙動計算を行うことができる。
【0103】
治療計画システム1の演算部13は、計算(挙動計算)に基づいて生体内における熱量分布をさらに演算して出力してもよい。このような治療計画システム1においては、例えばユーザは、生体内における熱量分布を確認することができる。
【0104】
治療計画システム1の演算部13は、計算(挙動計算)に基づいて熱傷に関するリスクをさらに演算して出力してもよい。このような治療計画システム1においては、例えばユーザは、熱傷に関するリスクを確認することができる。
【0105】
近赤外光を用いた癌治療法の一つである光免疫療法では、1cm程度の深部まで近赤外光が到達すると考えられてきたが、臨床結果からはその到達距離が想定よりも短いことが指摘されている。治療計画システム1によれば、生体内における近赤外光の光量分布を定量的に評価することにより、効果的な治療計画立案することが可能となる。また、治療計画システム1によれば、生体内における近赤外光の光量分布を把握し、定量的な評価を行うことにより効果的な治療計画を立案することができる。また、治療計画システム1によれば、腫瘍への近赤外光送達量を定量的に評価し、治療効果を予測することができる。
【0106】
治療計画システム1は、以下の項目1~10の装置として捉えることもできる。
【0107】
[項目1]
照射された近赤外光の生体内における挙動の計算に基づいて、前記生体内における前記近赤外光の光量分布である近赤外光量分布を演算して出力する演算部を備える、
治療計画システム。
【0108】
[項目2]
前記演算部は、モンテカルロ法を用いた前記計算に基づいて前記近赤外光量分布を演算する、
項目1に記載の治療計画システム。
【0109】
[項目3]
前記計算の少なくとも一部は、GPU(Graphics Processing Unit)により実行される、
項目1又は2に記載の治療計画システム。
【0110】
[項目4]
前記生体において関心領域を設定する設定部をさらに備え、
前記演算部は、前記生体のうち前記設定部によって設定された前記関心領域における前記近赤外光量分布を演算する、
項目1~3の何れか一項に記載の治療計画システム。
【0111】
[項目5]
光学に関する光学パラメータを設定する設定部をさらに備え、
前記演算部は、前記設定部によって設定された前記光学パラメータ用いた前記計算に基づいて前記近赤外光量分布を演算する、
項目1~4の何れか一項に記載の治療計画システム。
【0112】
[項目6]
前記演算部は、前記近赤外光量分布に関する情報を前記生体の形態画像上に重ねて表示する、
項目1~5の何れか一項に記載の治療計画システム。
【0113】
[項目7]
前記演算部は、前記近赤外光量分布に基づいてヒストグラムをさらに演算して出力する、
項目1~6の何れか一項に記載の治療計画システム。
【0114】
[項目8]
前記演算部による演算結果に基づいて前記計算に関する設定を変更する設定部をさらに備え、
前記演算部は、前記設定部によって変更された前記設定に基づいて前記計算を行う、
項目1~7の何れか一項に記載の治療計画システム。
【0115】
[項目9]
前記演算部は、前記計算に基づいて前記生体内における熱量分布をさらに演算して出力する、
項目1~8の何れか一項に記載の治療計画システム。
【0116】
[項目10]
前記演算部は、前記計算に基づいて熱傷に関するリスクをさらに演算して出力する、
項目1~9の何れか一項に記載の治療計画システム。
【0117】
治療計画システム1は、以下の項目1A~11Aのシステムとして捉えることもできる。
【0118】
[項目1A]
光免疫療法のための治療計画システムであって、
近赤外光の挙動を計算することで体内における近赤外光量分布を可視化する表示装置と、
前記表示装置の近赤外光量分布に基づいて腫瘍に照射される近赤外光量を定量的に解析することを特徴とする治療計画システム。
【0119】
[項目2A]
項目1Aに記載の治療計画システムであって、
前記表示装置ではX線断層撮影画像(X線CT)等の患者形態画像上に近赤外光量分布を重ねて表示することを特徴とする治療計画システム。
【0120】
[項目3A]
項目2Aに記載の治療計画システムであって、
前記X線断層撮影画像(X線CT)等から得られた患者の形態情報に対して、近赤外光に対する光学的パラメータを分布として設定する機能を有する治療計画システム。
【0121】
[項目4A]
項目3Aに記載の治療計画システムであって、
前記近赤外光の挙動計算にはモンテカルロ法を用い、複雑な体系における近赤外光の挙動を計算する近赤外光挙動計算装置を有する治療計画システム。
【0122】
[項目5A]
項目4Aに記載の治療計画システムであって、
前記光学的パラメータ分布を用いて正確な近赤外光量分布を算出する近赤外光挙動計算装置を有する治療計画システム。
【0123】
[項目6A]
項目4Aまたは5Aに記載の治療計画システムであって、
前記近赤外光のモンテカルロ法を用いた計算を行うために、GPU(Graphics Processing Unit)等を用いた高速並列計算装置を有する治療計画システム。
【0124】
[項目7A]
項目6Aに記載の治療計画システムであって、
腫瘍に照射される近赤外光量を定量に解析するために、腫瘍の範囲を関心範囲(関心領域)(ROI:Region of Interest)として描画する描画装置を有する治療計画システム。
【0125】
[項目8A]
項目7Aに記載の治療計画システムであって、
関心領域に照射された近赤外光の量について、関心領域の特定の場所ごとに集計し、ヒストグラムとして定量的に解析する体積光量ヒストグラム(Photons Volume Histogram)演算装置を有する治療計画システム。
【0126】
[項目9A]
項目8Aに記載の治療計画システムであって、
前記体積光量ヒストグラムに基づき、光源の位置や角度を調整し、治療に必要な条件を探索することを特徴とする治療計画システム。
【0127】
[項目10A]
項目9Aに記載の治療計画システムであって、
近赤外光が体内に吸収されることによって生じる体内での熱量分布を算出する熱量分布表示装置を有する治療計画システム。
【0128】
[項目11A]
項目10Aに記載の治療計画システムであって、
前記熱量分布表示装置の算出結果に基づき、熱傷等の副反応を予想する熱傷予測装置を有する治療計画システム。
【符号の説明】
【0129】
1…治療計画システム、10…格納部、11…取込部、12…設定部、13…演算部、14…評価部、100…CPU、101…RAM、102…ROM、103…入出力装置、104…通信モジュール、105…補助記憶装置、200…記憶媒体、201…プログラム格納領域、300…治療計画プログラム、301…取込モジュール、302…設定モジュール、303…演算モジュール、304…評価モジュール。
図1
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図10