IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テクニオン リサーチ アンド ディベロップメント ファウンデーション リミテッドの特許一覧 ▶ 日亜化学工業株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023157877
(43)【公開日】2023-10-26
(54)【発明の名称】半導体レーザ素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/12 20210101AFI20231019BHJP
   H01S 5/22 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
H01S5/12
H01S5/22 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023065427
(22)【出願日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】17/721,073
(32)【優先日】2022-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】504127647
【氏名又は名称】テクニオン リサーチ アンド ディベロップメント ファウンデーション リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】モルデカイ セゲヴ
(72)【発明者】
【氏名】ガル ハラリ
(72)【発明者】
【氏名】土肥 慎爾
(72)【発明者】
【氏名】大前 邦途
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 巧
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AA26
5F173AB13
5F173AB25
5F173AB49
5F173AH22
5F173AR04
(57)【要約】
【課題】高輝度および高出力単一モードのレーザ発振が実現される半導体レーザ素子の提供。
【解決手段】半導体レーザ素子は、第1のリング共振器を有する。第1のリング共振器は、第1のn-側半導体層、第1のp-側半導体層、および第1のn-側半導体層と第1のp-側半導体層の間に配置された第1の活性層を有する、第1の半導体スタックを有し、第1のリング共振器は、回折格子を有する。当該半導体レーザ素子は、さらに、エバネッセント場結合により、第1のリング共振器に光学的に結合された第2のリング共振器を有する。第2のリング共振器は、第2のn-側半導体層、第2のp-側半導体層、および第2のn-側半導体層と第2のp-側半導体層の間に配置された第2の活性層を有する、第2の半導体スタックを有し、第2のリング共振器により放射される光のピーク波長は、第1のリング共振器により放射される光のピーク波長と同じである。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体レーザ素子であって、
第1のn-側半導体層、第1のp-側半導体層、および前記第1のn-側半導体層と前記第1のp-側半導体層の間に配置された第1の活性層を有する、第1の半導体スタックを有し、
回折格子を有する、
第1のリング共振器と、
第2のn-側半導体層、第2のp-側半導体層、および前記第2のn-側半導体層と前記第2のp-側半導体層の間に配置された第2の活性層を有する、第2の半導体スタックを有する、
エバネッセント場結合により、前記第1のリング共振器に光学的に結合された第2のリング共振器と、
を有し、
前記第2のリング共振器により放射される光のピーク波長は、前記第1のリング共振器により放射される光のピーク波長と同じである、半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記第1の活性層および前記第2の活性層は、同じ材料で構成される、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記第1の活性層の上側表面および前記第2の活性層の上側表面は、同一平面上にある、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記回折格子は、前記第1のリング共振器の内側側表面および前記第1のリング共振器の外側側表面の少なくとも一方に配置される、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記回折格子は、前記第1のリング共振器の上側表面に配置される、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項6】
前記回折格子は、前記第1のリング共振器に埋設される、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項7】
前記第1のリング共振器は、1または2以上の直線部と、1または2以上の曲線部とを有し、
前記第1のリング共振器と前記第2のリング共振器の間の距離は、前記1または2以上の直線部の一つで最小となる、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項8】
前記距離は、10nmから400nmの範囲である、請求項7に記載の半導体レーザ素子。
【請求項9】
前記回折格子は、(i)前記1または2以上の直線部、または(ii)前記1または2以上の曲線部の一方のみに配置される、請求項7または8に記載の半導体レーザ素子。
【請求項10】
前記第1のリング共振器は、丁度4つの直線部と丁度4つの曲線部とを有し、
前記回折格子は、前記4つの直線部の全てに配置される、請求項1から8のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項11】
前記第1のリング共振器は、丁度4つの直線部と丁度4つの曲線部とを有し、
前記回折格子は、前記4つの曲線部の全てに配置される、請求項1から8のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項12】
前記回折格子は、前記第1のリング共振器の内側側表面の全体、または前記第1のリング共振器の外側側表面の全体に配置される、請求項1から8のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項13】
前記第1のリング共振器は環状であり、3μmから5000μmの範囲の半径を有する、請求項1から8のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項14】
前記第1の半導体スタックと前記第2の半導体スタックの各々は、第III-V族半導体材料または第II-VI族半導体材料で構成される、請求項1から8のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項15】
前記第1のリング共振器および前記第2のリング共振器は、窒化物半導体材料で構成された半導体スタックを有する、請求項1から8のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項16】
さらに出力導波路を有し、
前記出力導波路および前記第2のリング共振器は、光学的に結合される、請求項1から8のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項17】
前記出力導波路の第3の活性層の上側表面は、前記第2の活性層の上側表面と同一平面上にある、請求項16に記載の半導体レーザ素子。
【請求項18】
前記第3の活性層および前記第2の活性層は、同じ材料で構成される、請求項17に記載の半導体レーザ素子。
【請求項19】
半導体レーザ素子を製造する方法であって、
n-側半導体層、
p-側半導体層、および
前記n-側半導体層と前記p-側半導体層の間に配置された活性層、
を有する、半導体スタックを形成することと、
第1のリング状部分および第2のリング状部分を有し、前記第1のリング状部分の内側側表面または外側側表面には周期構造が配置されるマスクを、前記半導体スタック上に形成することと、
前記半導体スタックをドライエッチングして、前記第1のリング状部分に対応する第1のリング共振器、および前記第2のリング状部分に対応する第2のリング共振器を形成することと、
を有し、
前記第1のリング共振器は、前記周期構造に対応する回折格子を有し、
前記ドライエッチングは、0.1Paから5Paの範囲の圧力で実施される、半導体レーザ素子を製造する方法。
【請求項20】
前記ドライエッチングは、CHF/OガスおよびCl/SiClガスを用いて反応性イオンエッチングすることである、請求項19に記載の半導体レーザ素子を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全般に半導体レーザ素子に関し、特に、光学的に結合されたリング共振器を有する半導体レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光リング共振器(または「リングレーザ」)は、リング状導波路で形成され、その中を光が循環してレーザ発振が生じる。回折格子が導波路に一体化された光リング共振器は、分布帰還型(DFB)リング共振器(または「DFBリングレーザ」)として知られている。DFBリング共振器は、単一モードのレーザ発振を含み、該単一モードは、回折格子のピッチと整合する。
【0003】
最近提案され実証されたトポロジカル絶縁体レーザは、単一のコヒーレントな高出力レーザ源として一緒に機能する多くのダイオードレーザのロバストなアレイが可能となるため、現在注目を集めている。そのようなレーザは、2次元リングレーザアレイで構成され、アレイの周囲に局在化されたレーザ発振モードを有する。その結果、レーザ発振モードは、製造上の不完全性により引き起こされる欠陥や障害に対してロバストとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第2015/0380900号明細書
【特許文献2】特開2009-170450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
単一のコヒーレントな高出力レーザ源を構築するには、予め設計された方法で、構成レーザ発振素子が相互に結合される必要があり、できれば各共振器は、シングルキャビティモードでレーザ発振される必要がある。これらの要求は、現在のGaNレーザで認められるように、短波長で強く閉じこめられた高マルチモードキャビティにおいて達成することは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願に記載のある実施形態では、高輝度および高出力単一モードのレーザ発振が実現される半導体レーザ素子が提供でき、これは、高出力レーザオンチップ集積フォトニックシステムなどのレーザ発振アレイで使用され得る。
【0007】
ある実施形態では、半導体レーザ素子は、第1のリング共振器を有する。第1のリング共振器は、第1のn-側半導体層、第1のp-側半導体層、および第1のn-側半導体層と第1のp-側半導体層の間に配置された第1の活性層を含む、第1の半導体スタックを有し、第1のリング共振器は、回折格子を有する。半導体レーザ素子は、さらに、エバネッセント場結合により、第1のリング共振器に光学的に結合された第2のリング共振器を有する。第2のリング共振器は、第2のn-側半導体層、第2のp-側半導体層、および第2のn-側半導体層と第2のp-側半導体層の間に配置された第2の活性層を含む、第2の半導体スタックを有し、第2のリング共振器から放射される光のピーク波長は、第1のリング共振器から放射される光のピーク波長と等しい。
【0008】
別の実施形態では、半導体レーザ素子を製造する方法は、半導体スタックを形成するステップを有し、この半導体スタックは、n-側半導体層、p-側半導体層、およびn-側半導体層とp-側半導体層の間に配置された活性層を有する。本方法は、さらに、半導体スタック上にマスクを形成するステップを有し、マスクは、第1のリング状部分および第2のリング状部分を有し、第1のリング状部分の内側側表面または外側側表面には、周期構造が配置される。本方法は、さらに、半導体スタックをドライエッチングして、第1のリング状部分に対応する第1のリング共振器と、第2のリング状部分に対応する第2のリング共振器とを形成するステップを有し、第1のリング共振器は、周期構造に対応する回折格子を有し、ドライエッチングするステップは、0.1Paから5.0Paの範囲の圧力で実施される。
【0009】
この概要は、単なる説明用であり、いかなる方法で限定することも意図するものではない。
【0010】
本開示は、添付図面と併せて考慮される以下の詳細な説明から、より完全に理解される。図面において、同様の参照符号は、同様の素子を表す。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】一例の実施形態による一様なリング共振器である。
図1B図1Aの一様なリング共振器のスペクトルグラフである。
図1C】一例の実施形態によるDFBリング共振器である。
図1D図1のDFBリング共振器のスペクトルグラフである。
図2A】一例の実施形態による半導体レーザ素子の上面図である。
図2B図2Aの半導体レーザ素子の線IIB-IIBに沿った側断面図である。
図3A図2Aの半導体レーザ素子の第1のリング共振器の曲線部に対応する導波路の上面図である。
図3B】一例の実施形態によるDFB導波路上の回折格子の拡大図である。
図3C図2の半導体レーザ素子の第1のリング共振器の曲線部に対応するDFB導波路の別の上面図である。
図3D図3Cの導波路の線IIID-IIIDに沿った一例の側断面図である。
図3E図3Cの導波路の線IIID-IIIDに沿った別の一例の断面図である。
図4A】一例の実施形態によるリング共振器の別の実施形態である。
図4B】一例の実施形態によるリング共振器の別の実施形態である。
図5A】一例の実施形態によるDFBリング共振器のスペクトルグラフである。
図5B】一例の実施形態による半導体レーザ素子のスペクトルグラフである。
図6】一例の実施形態による半導体レーザ素子を形成する方法のフロー図である。
図7A】一例の実施形態による図6の方法のステップの描写である。
図7B】一例の実施形態による図6の方法のステップの描写である。
図7C】一例の実施形態による図6の方法のステップの描写である。
図7D】一例の実施形態による図6の方法のステップの描写である。
図7E】一例の実施形態による図6の方法のステップの描写である。
図7F】一例の実施形態による図6の方法のステップの描写である。
図7G】一例の実施形態による図6の方法のステップの描写である。
図7H】一例の実施形態による図6の方法のステップの描写である。
図7I】一例の実施形態による図6の方法のステップの描写である。
図8】一例の実施形態による半導体スタックの側面図である。
図9A】一例の実施形態による異なる圧力下で形成された回折格子の拡大図である。
図9B】一例の実施形態による異なる圧力下で形成された回折格子の拡大図である。
図10】一例の実施形態による半導体レーザ素子の上面図である。
図11図10の半導体レーザ素子の側面断面図である。
図12A】一例の実施形態による半導体レーザ素子の実験結果のレーザ発振モードのグラフである。
図12B】一例の実施形態による半導体レーザ素子の実験結果のレーザ発振モードのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ある一例の実施形態が詳細に記載されている図面に移る前に、本開示は、説明に記載されまたは図面に示された、細部または方法に限定されないことを理解する必要がある。また、本願で使用される用語は、説明することのみを目的とし、限定するものと見なしてはならないことを理解する必要がある。特定の実施形態および適用の例は、主として、説明の目的で提供される。
【0013】
本願における実施形態は、レーザシステムにおいて、単一モードのレーザ発振(例えば、レーザ発振スペクトルの単一ピーク)を生成するように構成された半導体レーザ素子に関するシステム、方法、および装置に関する。半導体レーザ素子は、結合されたリング共振器を有する。各リング共振器は、少なくともn-側半導体層、p-側半導体層、およびn-側半導体層とp-側半導体層の間に配置された活性層を含む、半導体スタックを有する。2つのリング共振器の一方は、設定された波長の単一モードのレーザ発振を生成する回折格子を有する。他方のリング共振器(例えば、回折格子を有しないリング共振器)は、設定された波長を有する光を増幅する。2つのリング共振器は、エバネッセント場結合を介して光学的に結合される。
【0014】
本願において使用される「p-側/p-型」という用語は、複数の電子正孔を含む正の側を表し、「n-側/n-型」という用語は、電気的に中性な原子の外殻に過剰の電子を含む負の側を表す。
【0015】
本願に使用される「導波路」、「光導波路」等の用語は、電磁波(例えば光など)のような波を誘導する構造を表し、電磁波の方向を制限することにより、エネルギーの損失が最小限に抑制される。導波路の形状は、導波路の機能および導波路に形成される波のモードを変化させる。
【0016】
本願に使用される「リング共振器」、「光リング共振器」等の用語は、閉ループで構成された導波路を表す。リング共振器は、全内部反射および強め合う干渉の原理に基づいて作動し、共振波長の光が生成される。リング共振器は、フィルタとして機能し、ある波長のみがループ内で共振できる。リング共振器の形状は、ループ内で共振し得る波長に影響を与える。
【0017】
(リング共振器)
全般に図1A乃至図1Dを参照すると、リング共振器に対する回折格子の効果が示されている。図1A乃至図1Dに見られるように、DFBリング共振器(例えば、回折格子を含むリング共振器)は、一様な(uniform)リング共振器により形成されたモードをフィルタ化し、縦モードにおける単一モードのレーザ発振を引き起こす。
【0018】
ここで図1Aを参照すると、一例の実施形態による一様なリング共振器100が示されている。一様なリング共振器100は、光を増幅して放射する。一様なリング共振器100は、半径Rを有する環状リング共振器である。半径Rは、一様なリング共振器100の外表面で測定された、一様なリング共振器100の半径として定義される。いくつかの実施形態では、半径Rは、3μmから5000μmの範囲であってもよい。一様なリング共振器100は、一様な導波路102で形成される。一様な導波路102は、実質的に一様な(例えば、一定、不変等の)横方向厚さTを有する導波路であり、Tは、一様な導波路102の内表面と外表面の間の距離により定められる。いくつかの実施形態では、横方向厚さTは、0.3μmから10μm、好ましくは0.4μmから2.0μmの範囲である。いくつかの実施形態では、横方向厚さTは、480ナノメートル(nm)である。半径Rおよび横方向厚さTは、一様なリング共振器100の特定の用途用に設定されてもよい。
【0019】
ここで図1Bを参照すると、図1Aの一様なリング共振器100のような、一様なリング共振器のスペクトルグラフが示されている。スペクトルグラフには、一様なリング共振器100により形成される光の波長の正規化された強度を示す。スペクトルグラフは、複数のピーク110を有し、従って、一様なリング共振器100は、マルチモードの光を形成することが示されている。複数のピーク110の各ピークは、一様なリング共振器100により放射される光の異なる波長に対応する。単一モードのレーザ発振が望まれ得る用途では、一様なリング共振器100により生成されるマルチモードのレーザ発振は、望ましくない場合がある。
【0020】
ここで図1Cを参照すると、一例の実施形態によるDFBリング共振器120が示されている。一様なリング共振器と同様、DFBリング共振器120は、半径Rを定める環状リング共振器である。半径Rは、DFBリング共振器120の外表面で測定されたDFBリング共振器120の半径として定められる。DFBリング共振器120は、一様なリング共振器100と同様、光を増幅して放射する。ただし、DFBリング共振器120は、DFB導波路122で形成される。DFB導波路122は、回折格子を含む導波路である。回折格子は、導波路の側表面(例えば、内側側表面および/または外側側表面)に配置されても、上表面に配置されてもよく、あるいは導波路内に埋設されてもよい。回折格子は、単一の意図された波長を放射させ、従って単一モードのレーザ発振を誘導する。DFB導波路122の半径Rおよび回折格子は、DFBリング共振器120の特定の用途用に設定されてもよい。回折格子のピッチは、DFBリング共振器120により放射される光の波長を決定する。DFB導波路122は、回折格子を有するため、DFB導波路122の横方向厚さは、変化してもよい。ただし、DFB導波路122は、最大横方向厚さTを有し、これは、DFB導波路122の内表面と外表面におけるピーク間の距離により定められる。最大横方向厚さTは、DFBリング共振器120の特定の用途用に設定されてもよい。
【0021】
ここで図1Dを参照すると、図1CのDFBリング共振器120のようなDFBリング共振器のスペクトルグラフが示されている。スペクトルグラフには、DFBリング共振器120により放射される光の波長の正規化された強度を示す。スペクトルグラフには、単一の波長ピーク130のみが含まれ、これはDFBリング共振器120により放射される光の単一ピークに対応するため、DFBリング共振器120は、単一モードの光を生じさせる。
【0022】
(半導体レーザ素子の一例の実施形態)
ここで図2Aを参照すると、一実施形態による半導体レーザ素子200の上面図が示されている。半導体レーザ素子200は、光学的に結合されたリング共振器を有し、該リング共振器は、単一モードのレーザ発振を形成、増幅し、主発振器出力増幅器(MOPA)として機能する。半導体レーザ素子200は、第1のリング共振器202と、エバネッセント場結合により第1のリング共振器202に光学的に結合された第2のリング共振器204と、を有する。半導体レーザ素子200は、さらに、第2のリング共振器204に光学的に結合された出力導波路206を有する。
【0023】
図2Bは、図2Aの半導体レーザ素子200の線IIB-IIBに沿った側断面図である。第1のリング共振器202は、第1の半導体スタック220を有し、該第1の半導体スタックは、第1のn-側半導体層222、第1のp-側半導体層224、および第1のn-側半導体層222とp-側半導体層224の間の第1の活性層226を有する。第2のリング共振器204は、第2の半導体スタック230を有し、該第2の半導体スタックは、第2のn-側半導体層232、第2のp-側半導体層234、および第2のn-側半導体層232と第2のp-側半導体層234の間の第2の活性層326を有する。出力導波路206は、第3の半導体スタック240を有し、該第3の半導体スタックは、第3のn-側半導体層242、第3のp-側半導体層244、および第3のn-側半導体層242と第3のp-側半導体層244の間の第3の活性層246を有する。
【0024】
いくつかの実施形態では、第1のリング共振器202は、n-側半導体層により、第2のリング共振器204に接続される。換言すれば、第1のn-側半導体層222の一部と第2のn-側半導体層232の一部が、連続的に接続されてもよい。同様に、第2のリング共振器204は、n-側半導体層により、出力導波路206に接続されてもよい。換言すれば、第2のn-側半導体層232の一部と第3のn-側半導体層242の一部が、連続的に接続されてもよい。いくつかの実施形態では、基板250により図2Bに示されているように、第1のリング共振器202、第2のリング共振器204、および出力導波路206は、同じ基板上にモノリシックに集積されてもよい。
【0025】
本願に使用される「第1のn-側半導体層」、「第2のn-側半導体層」、「第3のn-側半導体層」という用語は、単に「n-側半導体層」とも称される。本願に使用される「第1のp-側半導体層」、「第2のp-側半導体層」、「第3のp-側半導体層」という用語は、単に「p-側半導体層」とも称される。本願に使用される「第1の活性層」、「第2の活性層」、「第3の活性層」という用語は、単に「活性層」とも称される。
【0026】
さらに図2Bを参照すると、第1の活性層226の上側表面と第2の活性層236の上側表面は、同一平面上にある。従って、第1のリング共振器202を第2のリング共振器204に強く光学的に結合させることができる。出力導波路206の第3の活性層246の上側表面は、第2のリング共振器204の第2の活性層236の上側表面と同一平面上にある。従って、出力導波路206を第2のリング共振器204に強く光学的に結合させることができる。各半導体スタックは、例えば第III-V族化合物半導体または第II-VI族化合物半導体で構成されてもよい。第III-V族化合物半導体で構成される各半導体スタックは、例えばInN、AlN、GaN、InGaN、AlGaN、InGaAlNのような、窒化物系半導体で構成されてもよい。いくつかの実施形態では、第1のリング共振器202の半導体スタック220と第2のリング共振器204の半導体スタック230は、同じ材料で構成される。いくつかの実施形態では、出力導波路206の半導体スタック240と第2のリング共振器204の半導体スタック230は、同じ材料で構成される。いくつかの実施形態では、第1のリング共振器202、第2のリング共振器204、および出力導波路206の半導体スタックは、同じ材料で構成される。いくつかの実施形態では、第1のリング共振器202の活性層226と第2のリング共振器204の活性層236は、同じ材料で構成される。いくつかの実施形態では、第2のリング共振器204の活性層236と出力導波路206の活性層246は、同じ材料で形成される。特に、いくつかの実施形態では、第1のリング共振器202、第2のリング共振器204、および出力導波路206の活性層は、同じ材料で構成される。
【0027】
いくつかの実施形態では、第1のリング共振器202および第2のリング共振器204の両方には、希土類元素がドープされない。希土類元素には、例えば、エルビウム(Er)、プラセオジム(Pr)、ユーロピウム(Eu)、およびネオジム(Nd)などが含まれる。第2のリング共振器204により放射される光のピーク波長は、第1のリング共振器202により放射される光のピーク波長と等しくできる。MOPAとして作動する場合、半導体レーザ素子200は、単一モードの光のような高品質な光を増幅することができ、半導体レーザ素子200から出力される光の波長は、回折格子のピッチを変えることにより、変化させることができる。
【0028】
第1のリング共振器202は、1または2以上の直線部208と、1または2以上の曲線部210とを有する。図2Aに示すように、第1のリング共振器202は、直線部208と曲線部210が交互に形成された矩形状のリング共振器である。本出願において、「矩形」という用語は、丸くされたコーナー部を含む形状を含む。第1のリング共振器202は、4つの直線部208と4つの曲線部210とを含む。直線部208は、実質的に直線状(例えば、直線に沿った形状)であり、直線部208の一端から直線部208の他端までで測定される長さLを定める。いくつかの実施形態では、直線部208の長さLは、0.01μmから20μm、好ましくは5μmから15μmの範囲である。直線部208は、回折格子を有しない一様な導波路212で形成される。直線部208は、横方向厚さを有し、この寸法は、図1Aに関して示した横方向厚さTと同じであってもよい。曲線部210は、直線部208同士の間に配置され、直線部と結合される。曲線部210は、回折格子を含むDFB導波路214で形成される。DFBリング共振器120と同様、第1のリング共振器202のDFB導波路214では、第1のリング共振器202は、単一モードのレーザ発振を生じさせることができる。曲線部210は、最大横方向厚さを有し、この寸法は、図1Cに関して説明した横方向厚さTと同じであってもよい。
【0029】
いくつかの実施形態では、第1のリング共振器202は、丁度4つの直線部208と、丁度4つの曲線部210とを含む。回折格子は、(i)4つの直線部208の全て、または(ii)4つの曲線部210の全て、のいずれか一方のみに配置されてもよい。回折格子は、単一モードのレーザ発振を誘導することができ、この場合、単一モードは、回折格子ピッチと整合する。
【0030】
第2のリング共振器204は、矩形リング共振器であり、第1のリング共振器202と実質的に同じ概略形状を有する。いくつかの実施形態では、第1のリング共振器202の形状と第2のリング共振器204の形状は、異なっている。しかしながら、第1のリング共振器202の形状と第2のリング共振器204の形状は、実質的に同じであることが望ましい。第2のリング共振器204は、4つの直線部208および4つの曲線部210を含む。第2のリング共振器204の全体は、一様な導波路212で形成され、回折格子は含まれない。第2のリング共振器204の一様な導波路212の横方向厚さは、第1のリング共振器202の一様な導波路212の横方向厚さTと同じであってもよい。
【0031】
第2のリング共振器204は、第1のリング共振器202により放射される単一モードの光を増幅してもよい。半導体レーザ素子200は、MOPAとして作動するため、第2のリング共振器204により放射される光のピーク波長は、第1のリング共振器202により放射される光のピーク波長と同じである。MOPAとして作動する際、半導体レーザ素子200が単一モードのレーザ発振を誘起した場合、第1のリング共振器202および第2のリング共振器204により放射される光の波長は、同じになる。半導体レーザ素子200から生じた光は、第1のリング共振器202または第2のリング共振器204に導入されたグレーティングカプラにより、あるいは出力導波路206により、取り出すことができる。MOPAでは、第1のリング共振器202は、主発振器と見なされ、第2のリング共振器204は、出力増幅器と見なされ得る。あるいは、第2のリング共振器204が主発振器と見なされ、第1のリング共振器202が出力増幅器と見なされてもよい。増幅が可能となるのは、第2のリング共振器204および第1のリング共振器202が、結合領域216で光学的に結合されるためである。結合領域216は、第1のリング共振器202および第2のリング共振器204の直線部208に対応する。第1のリング共振器202と第2のリング共振器204の直線部208同士は、実質的に平行であってもよい。第1のリング共振器202と第2のリング共振器204の間の距離は、直線部208のいずれかにおいて最小となってもよい。第1のリング共振器202と第2のリング共振器204の間の距離は、直線部208のいずれかにおいて一定に維持されてもよい。これにより、第1のリング共振器202を第2のリング共振器204に安定に光学的に結合させることができる。第1のリング共振器202および第2のリング共振器204は、第1のリング共振器202と第2のリング共振器204がエバネッセント場結合により光学的に結合されるような距離に配置される。従って、第1のリング共振器202により生じた単一モードの光が第2のリング共振器204に出力され、第2のリング共振器は、単一モードの光を増幅する。第1のリング共振器202と第2のリング共振器204の間の距離は、第1のリング共振器202が放射する光の波長の長さ以下である。距離は、10nmから400nmの範囲であってもよく、10nmから100nmの範囲であることが好ましい。これにより、第1のリング共振器202を第2のリング共振器204に強く光学的に結合させることができる。いくつかの実施形態では、距離は30nmである。第2のリング共振器204からの光は、第1のリング共振器202に戻ってもよい。ただし、第2のリング共振器204と第1のリング共振器202は、同じ周波数で振動するため、システムは安定性を維持する。
【0032】
出力導波路206は、エバネッセント場結合により、第2のリング共振器204に光学的に結合される。従って、出力導波路206は、第2のリング共振器204により増幅された、単一モードの光を受光することができる。出力導波路206は、回折格子を有しない一様な導波路212で形成される。出力導波路206は、直線状であってもよく、あるいは光を対象位置に向けて誘導するための曲線(例えば、曲がり部)を含んでもよい。出力導波路206は、結合領域216において、第2のリング共振器204に光学的に結合される。結合領域216は、第2のリング共振器の直線部208に対応する。出力導波路206は、第2のリング共振器204からの増幅された単一モードの光を対象位置に向かって誘導する。いくつかの実施形態では、出力導波路206の活性層の上側表面は、第2のリング共振器204の活性層の上側表面と同一平面上にある。従って、出力導波路206は、エバネッセント場結合により、第2のリング共振器204と強く光学的に結合される。
【0033】
いくつかの実施形態では、半導体レーザ素子200は、第1のリング共振器202と、出力導波路206を有しない第2のリング共振器204とを有する。いくつかの実施形態では、半導体レーザ素子200は、追加のリング共振器を有する。追加のリング共振器は、回折格子を含んでも含まなくてもよい。例えば、半導体レーザ素子200は、特定の規則で配列された2次元リングアレイである、トポロジカル絶縁体レーザに含まれてもよい。アレイの周囲の少なくとも1つのリングを第1のリング共振器202とすることにより、トポロジカルなレーザ発振モードを第1のリング共振器202の波長にロックすることができる。
【0034】
全般に図3A乃至図3Eを参照すると、一例の実施形態によるDFB導波路上の各種回折格子の様々な図面が示されている。回折格子は、単一モードのレーザ発振を生じさせるDFB導波路の一部である。回折格子の幅、高さ等は、導波路が放射するように設定された波長用に、特別に設定されてもよい。
【0035】
図3Aは、図2Aの第1のリング共振器202の曲線部210に対応するDFB導波路300の上面図である。図3Bは、図2Aの第1のリング共振器202の曲線部210に対応するDFB導波路300上の回折格子302の拡大図である。図3Bには、側表面304に沿った回折格子302を有するDFB導波路300を示す。回折格子302は、半導体レーザ素子200における所望の波長に対応する周期構造を有する。回折格子302のピッチは、50nmから5000nmの範囲であってもよく、100nmから200nmの範囲であることが好ましい。回折格子302は、第1のリング共振器202の内側側表面304および第1のリング共振器202の外側側表面の少なくとも一方に配置されてもよい。従って、回折格子302は、単一モードのレーザ発振を誘起することができ、この単一モードは、回折格子302のピッチに整合する。図3Bにおいて、回折格子302を有する側表面304は、内側側表面であるが、他の実施形態では、回折格子は、DFB導波路300の外側側表面に配置されてもよい。
【0036】
回折格子302は、DFB導波路300の上側表面306から下側表面308まで完全に延在しても、上側表面306と下側表面308の間で部分的にのみ延在してもよい。いくつかの実施形態では、回折格子302は、特に、p-側半導体層224の上側表面と下側表面の間、またはn-側半導体層222の上側表面と下側表面の間で、部分的にのみ延在してもよい。
【0037】
いくつかの実施形態では、DFB導波路は、DFB導波路の上側表面に回折格子を有する。図3Cは、図2Aの半導体レーザ素子の第1のリング共振器の曲線部に対応するDFB導波路310の上面図である。図3Dは、図3CのDFB導波路310の線IIID-IIIDに沿った一例の側断面図である。回折格子312は、DFB導波路310の上側表面314に配置されている。回折格子312は、DFB導波路310の内側側表面316からDFB導波路310の外側側表面318まで、上側表面314の横方向厚さの全体にわたって延在している。
【0038】
いくつかの実施形態では、DFB導波路310は、埋設された回折格子を有する。図3Eは、図3CのDFB導波路310の線IIID-IIIDに沿った別の一例の側断面図である。回折格子312は、第1のリング共振器202に埋設される。いくつかの実施形態では、n-側半導体層320が回折格子312を有し、および/またはp-側半導体層322が回折格子312を有してもよい。いくつかの実施形態では、導波路は、側表面回折格子、上側表面回折格子、および/または埋設回折格子の任意の組み合わせを含んでもよい。
【0039】
図4A乃至図4Bは、一例の実施形態によるリング共振器の別の実施形態の上面図である。半導体レーザ素子200のような半導体レーザ素子の、第1のリング共振器202および第2のリング共振器204のようなリング共振器は、いかなる形状およびサイズであってもよい。例えば、リング共振器は、環状または多角形(三角形、矩形など)であってもよい。第2のリング共振器204は、一様な導波路で形成されるが、第1のリング共振器202は、第1のリング共振器202の一部のみに存在する回折格子、または導波路の全体に沿って含まれる回折格子を有してもよい。回折格子は、内側側表面、外側側表面、上側表面の少なくとも1つに含まれ、および/または導波路に埋設されてもよい。例えば、回折格子は、第1のリング共振器202の内側側表面または外側側表面の全体に沿って含有されてもよい。
【0040】
ここで図4Aを参照すると、特定の実施形態による部分回折格子を有する環状DFB共振器400が示されている。DFB共振器400は、環状リング共振器であり、DFB共振器400の一部のみに回折格子402を有する。DFB共振器400の残りの部分は、一様な導波路404であり、これは一様な導波路102と実質的に等しい。回折格子402は、全周の5%から100%の範囲で、DFB共振器400の円周の一部にのみ存在してもよい。回折格子402は、隣接的(例えば連続的)であってもよく、または一様な導波路404の区画を挟んで、円周の周囲に配置されてもよい。
【0041】
ここで図4Bを参照すると、特定の実施形態による、回折格子を有する矩形DFB共振器410が示されている。DFB共振器410は、矩形リング共振器であり、4つの直線部412と、4つの曲線部414とを含む。DFB共振器410は、DFB共振器410の全周に沿って回折格子416を有する。いくつかの実施形態では、回折格子416は、曲線部414のみに認められ、または直線部412のみに認められてもよい。いくつかの実施形態では、回折格子416は、非対称な構成に含まれてもよい。例えば、4つの曲線部414の1つだけが回折格子416を含んでもよい。
【0042】
(実験結果)
図5Aには、第1のリング共振器202のようなDFBリング共振器の47.2μWのポンプパワーでのスペクトルグラフを示す。この共振器は、11.6μWのレーザ発振の閾値ポンプパワーを有する。スペクトルグラフには、47.2μWのポンプパワーにおいて、第1のリング共振器202が第1のピーク500および第2のピーク502を形成し、従って、意図された単一モードのレーザ発振からずれていることが示されている。この装置では、レーザ発振閾値(例えば、レーザが主要な誘導放出を出力する最小励起レベル)の約4倍までのポンプパワーで、単一モードのレーザ発振が維持される。
【0043】
図5Bには、本発明の一実施形態による光学的に結合されたリング共振器を有する、半導体レーザ素子200のような半導体レーザ素子の、95.9μWのポンプパワーでのスペクトルグラフを示す。スペクトルグラフには、95.9μWのポンプパワーで、半導体レーザ素子200が単一のピーク510を形成することが示されており、単一モードのレーザ発振が維持されることが実証されている。この装置では、縦モードにおいて、レーザ発振閾値よりも少なくとも9倍大きなポンプパワーで、単一モードのレーザ発振が維持される。従って、半導体レーザ素子200では、高輝度で高出力の単一モードのレーザ発振が可能となる。
【0044】
(半導体レーザ素子を製造する方法)
ここで図6を参照すると、一例の実施形態による半導体レーザ素子を形成する方法600のフロー図が示されている。形成された半導体レーザ素子は、増幅された単一モードのレーザ発振を生成する。
【0045】
電極を含む方法600のステップは、半導体レーザ素子が光学的ポンピングにより駆動される場合、任意であってもよい。光学的ポンピングの間、半導体レーザ素子は、予備光源により照射され、この波長は、半導体レーザ素子の発光波長よりも短い。
【0046】
ステップ602では、半導体スタックが形成される。半導体スタックは、n-側半導体層、p-側半導体層、およびn-側半導体層とp-側半導体層の間に配置された活性層を有する。ステップ602の一例の結果は、図7Aに示されており、図7Aを参照して説明される。
【0047】
ステップ604では、ステップ602で形成された半導体スタックのp-側半導体層の上に、p-電極層(「p電極」とも称される)が成膜される。p-電極は、半導体スタックの導電性コーティングとして機能する。いくつかの実施形態では、p-電極層は、所定の高さに成膜される。ステップ604の一例の結果は、図7Bに示されており、図7Bを参照して説明される。
【0048】
ステップ606では、ステップ604で形成されたp-電極層の上にマスキング材料が成膜される。マスキング材料は、エッチング処理中の保護を提供し、エッチングマスクを付着するための表面が提供される。いくつかの実施形態では、マスキング材料は、所定の高さに成膜されてもよい。ステップ606の一例の結果は、図7Cに示されており、図7Cを参照して説明される。
【0049】
ステップ608では、ステップ606において成膜されたマスキング材料の上に、パターン化マスクが成膜される。パターン化マスクは、ステップ610でのエッチング処理中に半導体レーザ素子となる部分が除去されないように、活性層の一部を遮蔽する。パターン化マスクは、周期構造を含む部分を含んでもよく、半導体レーザ素子の一部に回折格子が形成される。ステップ608の一例の結果は、図7Dに示されており、図7Dを参照して説明される。
【0050】
ステップ610では、表面がエッチングされ、半導体レーザ素子が形成される。エッチング処理では、ステップ608で成膜されたパターン化マスクにより被覆されていない領域における、マスキング材料、p-電極層、p-側半導体層、活性層、およびn-側半導体層の一部が除去される。従って、エッチング処理では、パターン化マスクの第1のリング部分に対応する第1のリング共振器と、パターン化マスクの第2のリング部分に対応する第2のリング共振器とが形成される。また、エッチング処理では、第1のリング共振器の上に、パターン化マスクの周期構造に対応する回折格子が形成される。ステップ610の一例の結果は、図7Eに示されており、図7Eを参照して説明される。
【0051】
ステップ612では、半導体スタック上に残留するパターン化マスクおよびマスキング材料が除去される。除去処理は、被除去材料に適したエッチングプロセスにより行われ、ドライエッチングプロセスまたはウェットエッチングプロセスを含んでもよい。パターン化マスクおよびマスキング材料が除去されると、半導体レーザ素子が残留し、該半導体レーザ素子は、第1の共振器リングおよび第2の共振器リングに形成された、p-電極層、p-側半導体層、活性層、およびn-側半導体層を有する。第1の共振器リングは、回折格子を有する。ステップ612の一例の結果は、図7Fに示されており、図7Fを参照して説明される。
【0052】
ステップ614では、半導体レーザ素子が絶縁体に埋設される。絶縁体は、半導体レーザ素子を、該半導体レーザ素子の他の部材(およびレーザシステムの他の部材)から絶縁し、p-側半導体からn-側半導体への好適な電流の流れが確保される。ステップ614の一例の結果は、図7Gに示されており、図7Gを参照して説明される。
【0053】
ステップ616では、絶縁体の表面がエッチングされ、半導体レーザ素子が現れる。エッチング深さは、所定の距離に設定されてもよく、あるいはエッチング処理は、半導体レーザ素子が露出するまで継続されてもよい。ステップ616の一例の結果は、図7Hに示されており、図7Hを参照して説明される。
【0054】
ステップ618では、パッド電極が設置され、蒸着プロセス、スパッタリングプロセスなどを経て、半導体レーザ素子が形成される。露出した半導体レーザ素子を含む表面に、正のパッド電極が設置され、n-側半導体層に、負のパッド電極が設置される。パッド電極を有し、絶縁体に埋設されて得られた半導体レーザ素子は、半導体レーザシステムに使用されてもよい。ステップ618の一例の結果は、図7Iに示されており、図7Iを参照して説明される。
【0055】
いくつかの実施形態では、方法600は、表面調製ステップ(例えば、スクライビング処理、清浄化等)のような、追加のステップを有してもよい。いくつかの実施形態では、追加のステップは、追加の層を形成するステップを有してもよい。
【0056】
全般に図7A乃至図7Iを参照すると、一例の実施形態による図6の方法600のステップの描写が示されている。図7A乃至図7Iにおいて製造された半導体レーザ素子は、方法600の実施形態に基づいて製造された一例の半導体レーザ素子である。方法600により、図面に示されていない他の各種半導体レーザ素子が形成されてもよい。
【0057】
ここで図7Aを参照すると、一例の実施形態による図6のステップ602の結果の描写が示されている。図7Aには、層状エピタキシャル膜で形成された半導体スタック700を示す。いくつかの実施形態では、半導体スタック700は、第III-V族半導体材料または第II-VI族半導体材料で構成された半導体スタックを有する。いくつかの実施形態では、半導体スタック700は、化学気相成膜法(CVD)(例えば、大気圧CVD(APCVD)、金属有機CVD(MOCVD)等)、または物理気相成膜法(PVD)(例えば、分子線エピタキシー(MBE)、スパッタリング等)により、形成される。示された実施形態では、半導体スタック700は、窒化ガリウム(GaN)を含む。いくつかの実施形態では、半導体スタック700は、圧力および温度の調整が可能なチャンバー内でのMOCVD法により製造される。各窒化物半導体層は、チャンバー内に、キャリアガスおよびソースガスを導入することにより形成できる。キャリアガスには、水素(H)または窒素(N)ガスを使用することができる。窒素源として、アンモニア(NH)ガスを使用することができる。Ga源ガスとして、トリメチルガリウム(TMG)またはトリエチルガリウム(TEG)ガスを使用することができる。In源ガスとして、トリメチルインジウム(TMI)ガスを使用することができる。Al源ガスとして、トリメチルアルミニウム(TMA)ガスを使用することができる。Si源ガスとして、モノシラン(SiH)ガスを使用することができる。Mg源ガスとして、ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム(CpMg)ガスを使用することができる。
【0058】
半導体スタック700は、n-側半導体層702、活性層704、およびp-側半導体層706を有する。活性層704は、n-側半導体層702とp-側半導体層706の間に配置される。n-側半導体層702は、n-側層高さ708を有する。活性層704は、活性層高さ710を有する。p-側半導体層706は、p-側層高さ712を有する。n-側層高さ708、活性層高さ710、およびp-側層高さ712は、方法600により形成される半導体レーザ素子の用途に合わせて特別に設定されてもよく、あるいは半導体レーザ素子の高さ、重量等の制約に適合するように設定されてもよい。いくつかの実施形態では、活性層704は、該活性層の下側表面および/または上側表面が平面を形成するように形成される。これにより、形成された半導体レーザ素子が、同一平面の活性層表面を含む部材を有することが可能となる。例えば、第1のリング共振器202の活性層の上側表面と、第2のリング共振器204の活性層の上側表面は、同一平面上にあってもよく、および/または出力導波路206の活性表面の上側表面と第2のリング共振器204の上側表面は、同一平面上にあってもよい。いくつかの実施形態では、半導体レーザ素子の両方の共振器に同じ活性層材料が使用される。
【0059】
図8は、図7Aに示す半導体スタック700として使用され得る半導体スタック800の代替例を示す。半導体スタック800は、n-側半導体層802を有する。n-側半導体層802は、基板804、n-側クラッド層806、およびn-側導波層808を有する。半導体スタック800は、さらに、活性層810およびp-側半導体層812を有する。p-側半導体層812は、p-側導波層およびp-側クラッド層を有してもよい。示された実施形態では、基板804は、n-型GaNを有し、n-側クラッド層806の下側に配置される。n-側クラッド層806は、n-型AlGaNを有し、2400nmの厚さであり、n-側導波層808の下側に配置される。n-側導波層808は、GaNを有し、170nmの厚さであり、活性層810の下側に配置される。活性層810は、InGaN井戸層を含む多重量子井戸構造を有し、136nmの厚さであり、p-側半導体層812の下側に配置される。p-側半導体層812は、GaN導波層を有し、170nmの厚さである。
【0060】
ここで図7Bを参照すると、一例の実施形態による図6のステップ604の結果の描写が示されている。図7Bには、半導体スタック700のp-側半導体層706の上に成膜されたp-電極層720が示されている。いくつかの実施形態では、p-電極層720は、スパッタリング法により形成される。示された実施形態では、p-電極層720は、インジウムスズ酸化物(ITO)およびアルミドープ亜鉛酸化物(AZO)のような透明電極、またはTi、Ni、Cr、Al、Au、RhまたはPtを含む金属電極を有する。いくつかの実施形態では、p-電極層720は、ITOのような導電性酸化物を有し、これはエッチング処理に好適である。p-電極層720は、p-電極層高さ722を有する。p-電極層高さ722は、半導体レーザ素子の用途に合わせて設定されてもよく、あるいは制約に整合するように設定されてもよい。
【0061】
ここで図7Cを参照すると、一例の実施形態による図6のステップ606の結果の描写が示されている。図7Cには、ステップ606において形成された、p-電極層720の上のマスキング材料730を示す。いくつかの実施形態では、マスキング材料730は、CVD法により成膜されてもよい。いくつかの実施形態では、マスキング材料730は、絶縁体膜である。いくつかの実施形態では、マスキング材料730は、SiO、SiNまたはAlNであってもよい。マスキング材料730は、マスキング材料高さ732で形成されてもよい。マスキング材料高さ732は、パターン化マスクが接着される際に、十分な保護(例えば、エッチング処理では所望の部分だけがエッチングさせる)、および十分な接着(例えば、エッチング処理中にマスクがマスキング材料730から剥離しない)を提供するように設定されてもよい。
【0062】
ここで図7Dを参照すると、一例の実施形態による図6のステップ608の結果の描写が示されている。図7には、ステップ608において形成され、マスキング材料730の上に成膜されるパターン化マスク740を示す。いくつかの実施形態では、パターン化マスクは、半導体スタック700のn-側半導体層702またはp-側半導体層706の上に成膜されてもよい。パターン化マスク740は、マスキング材料高さ742で形成されてもよい。パターン化マスク740は、エッチングステップ610により半導体レーザ素子が製造されるように、マスキング材料730上に成膜される。マスキング材料高さ742は、ステップ610におけるエッチング処理中に、パターン化マスク740が十分な保護(例えば、エッチング処理では目的の部分だけがエッチングされる)を提供するように設定されてもよい。パターン化マスクは、ネガトーンレジストを有してもよい。いくつかの実施形態では、パターン化マスクは、電子線リソグラフィを介して設置される。
【0063】
パターン化マスク740の形状は、形成される半導体レーザ素子における半導体レーザ素子の形状に対応する、少なくとも第1のリング状部分および第2のリング状部分を有してもよい。例えば、パターン化マスクは、第1のリング共振器202および第2のリング共振器204の形状に対応してもよい。また、パターン化マスク740は、周期構造を有してもよい。周期構造は、第1のリング状部分の内側側表面または外側側表面に配置されてもよい。周期構造の形状(例えば振幅、周期等)は、半導体レーザ素子における所望の波長に対応する。
【0064】
ここで図7Eを参照すると、一例の実施形態による図6のステップ610の結果の描写が示されている。図7Eには、エッチングステップ610の結果を示す。エッチング処理により、マスキング材料730、p-電極層720、p-側半導体層706、活性層704、およびn-側半導体層702の一部が除去される。エッチング処理では、パターン化マスク740の下側の材料は除去されない。表面は、エッチング深さ750でエッチングされてもよい。エッチング深さ750は、n-側半導体層702の一部のみが露出され、または基板へのエッチングが回避されるように、設定される。いくつかの実施形態では、エッチング深さ750は、予め定められた深さであってもよく、あるいは半導体レーザ素子が形成される後まで、エッチング処理が継続されてもよい。いくつかの実施形態では、エッチング深さ750は、1.5μm(マイクロメートル)である。
【0065】
いくつかの実施形態では、エッチング処理は、ドライエッチング処理であってもよく、この場合、表面がイオンに晒され、露出された(例えば未マスク化)表面から、材料の一部が放出される。いくつかの実施形態では、エッチング処理は、反応性イオンエッチングを介してもよい。被エッチング材料に応じて、エッチング処理に異なるガスが使用されてもよい。例えば、CHFおよびOが使用され、マスキング層がエッチングされ、ClおよびSiClが使用され、半導体スタックの層がエッチングされてもよい。エッチング処理は、流量(例えばイオンの流量)、温度、周囲圧力、時間等の、多くのパラメータで操作されてもよい。いくつかの実施形態では、エッチング中の圧力は、0.1Paから5Paの範囲である。
【0066】
ここで図7Fを参照すると、一例の実施形態による図6のステップ612の結果の描写が示されている。図7Fには、ステップ612において、マスキング材料730およびパターン化マスク740が除去された際の、半導体スタック700上にp-電極層720を有する半導体レーザ素子760を示す。
【0067】
ここで図7Gを参照すると、一例の実施形態による図6のステップ614の結果の描写が示されている。図7Gには、半導体レーザ素子760を埋設するステップ614で形成された、絶縁体770を示す。示された実施形態では、絶縁体770は、n-側半導体層702の下側エッチング表面774から、絶縁体高さ772だけ遠ざかるように延在してもよい。絶縁体高さ772は、絶縁体770が半導体レーザ素子760を完全に包み込むように設定される。示された実施形態では、絶縁体は、SiO、SiN、またはAlNとすることができる。
【0068】
ここで図7Hを参照すると、一例の実施形態による図6のステップ616の結果の描写が示されている。図7Hには、絶縁体770が除去されたため露出されたp-電極層720を示す。いくつかの実施形態では、p-電極層720の上側表面および絶縁体770の上側表面は、同一平面上にある。p-電極層を露出するために使用されるエッチング処理は、反応性イオンエッチング処理であってもよい。いくつかの実施形態では、エッチング処理にCHFおよびOが使用されてもよい。
【0069】
ここで図7Iを参照すると、一例の実施形態による図6のステップ618の結果として得られる半導体レーザ素子760の描写が示されている。図7Iには、ステップ618において、半導体レーザ素子760に設置された、n-パッド電極790およびp-パッド電極792を示す。示された実施形態では、p-パッド電極792は、絶縁体770およびp-電極層720の上に積層され、n-パッド電極790は、n-側半導体層702の下側に積層される。正パッド電極および負パッド電極の構成により、半導体レーザ素子を介して、電荷が負パッド電極から正パッド電極に流れることが可能になる。いくつかの実施形態では、半導体スタック700の配向に応じて、正パッド電極と負パッド電極の配置が切り替えられてもよい。いくつかの実施形態では、半導体レーザ素子および該半導体レーザ素子のパッドの構成により、パッド電極へのアクセスが容易となり得る(例えば、フリップチップ構成、制御された破壊チップ接続等)。
【0070】
一実施形態では、半導体レーザ素子を形成する方法は、半導体スタックを形成するステップを有し、このスタックは、n-側半導体層、p-側半導体層、およびn-側半導体層とp-側半導体層の間に配置された活性層を有する。本方法は、さらに、半導体スタック上にマスクを形成するステップを有し、マスクは、第1のリング状部分および第2のリング状部分を含み、第1のリング状部分の内側側表面または外側側表面に、周期構造が配置される。本方法は、さらに、半導体スタックをドライエッチングして、第1のリング状部分に対応する第1のリング共振器、および第2のリング状部分に対応する第2のリング共振器を形成するステップを有し、第1のリング共振器は、周期構造に対応する回折格子を有し、ドライエッチング処理は、0.1Paから5Paの範囲の圧力で実施される。
【0071】
図9A乃至図9Bには、一例の実施形態による、異なる圧力下で回折格子を形成することの効果の拡大図を示す。導波路の側表面に回折格子が認められ、該回折格子は、図6のステップ610を参照して説明したように、異なる圧力下でのエッチング処理により形成される。
【0072】
図9Aには、側表面904に回折格子902を含む導波路900の拡大図を示す。回折格子902は、12Paの圧力下で形成される。この圧力では、回折格子902は、上側表面908から下側表面910までの回折格子高さ906に沿って、鮮明度(例えば所望の形状)を喪失する。鮮明度の喪失は、エッチング処理中のエッチャントの跳ね返りの結果であり得、この場合、除去することが意図されていない材料が除去される。鮮明度の喪失は、導波路900により形成される光のモードに悪影響を及ぼす可能性があり、これは、意図された単一モードを超えて導入される追加のモードに対応し得る。
【0073】
図9Bには、側表面924に回折格子922を含む導波路920の拡大図を示す。回折格子922は、0.5Paの圧力下で形成される。この圧力下では、形成された回折格子922は、導波路900の回折格子902に比べて、回折格子長さ926に沿って実質的に均一である。従って、エッチング処理中の周囲の圧力の低下は、エッチャントの跳ね返り量の低減に対応し、回折格子の忠実度が高められる。いくつかの実施形態では、5Pa以下の圧力において、より高い忠実度の回折格子が得られる。より好ましくは、3Pa以下の圧力において、さらに高い忠実度の回折格子が得られる。さらに好ましくは、1Pa以下の圧力において、さらに高い忠実度の回折格子が得られる。
【0074】
(他の実施形態)
ここで図10を参照すると、別の実施形態による半導体レーザ素子1000の上面図が示されている。半導体レーザ素子1000は、両方のパッド電極が半導体レーザ素子1000の同じ側に配置された構成を有する。半導体レーザ素子1000は、第1のリング共振器1002と実質的に同様の第1のリング共振器1002と、第2のリング共振器1004と実質的に同様の第2のリング共振器1004とを有する。第1のリング共振器1002および第2のリング共振器1004は、光学的に結合され、絶縁体770と実質的に等しい絶縁体1006に埋設される。絶縁体は、さらに、n-パッド電極790と実質的に等しいn-パッド電極1008と、p-パッド電極792と実質的に等しいp-パッド電極1010とを分離する。半導体レーザ素子を介して、n-パッド電極1008からp-パッド電極1010に電荷が流れてもよい。
【0075】
ここで図11を参照すると、図10の半導体レーザ素子1000の線X-Xに沿った断面図が示されている。図11に示すように、n-側半導体層702と実質的に等しいn-側半導体層1100の上に、n-パッド電極1008が積層される。n-パッド電極1008は、絶縁体1006上に積層されたp-パッド電極1010から、およびp-電極層720と実質的に等しいp-電極層1102から、オフセットされる。半導体レーザ素子1000の構成により、n-側半導体層1100、活性層1104(活性層704と実質的に等しい)、p-側半導体層1106(p-側半導体層706と実質的に等しい)、およびp-電極層1102を介して、n-パッド電極1008からp-パッド電極1010に電荷が流れるようになる一方で、一方の側からパッド電極にアクセスすることが可能になる。
【0076】
いくつかの実施形態では、p-パッド電極1010とn-パッド電極1008は、第1のリング共振器1002および第2のリング共振器1004により分離される。第1のリング共振器1002に印加される電流および第2のリング共振器1004に印加される電流は、独立して制御されてもよい。第1のリング共振器1002に印加される電流密度の大きさは、第2のリング共振器1004に印加される電流密度の大きさよりも小さい。第2のリング共振器1004は、縦モードの単一モードの光を増幅して維持することができる。
【0077】
(実験結果)
全般に図12A乃至図12Bを参照すると、第1のリング共振器202および第2のリング共振器204のような、リング共振器同士の間の距離が異なる、半導体レーザ素子200のような、一例の実施形態による半導体レーザ素子の実験結果のレーザ発振モードのグラフが示されている。半導体レーザ素子は、355nmのNd:YAG半導体レーザにより、光学的にポンピングされる。試料からの放射線が対物レンズにより集光され、分光器に接続された光ファイバーに結合される。半導体レーザ素子のモード安定化効果を評価するため、ポンプ強度を変化させてスペクトルをモニターした。
【0078】
次に図12Aを参照すると、半導体レーザ素子のスペクトルグラフが示されている。2つのリングは、500nmの距離で離間され、これは相互に十分に離れているため、十分な光学的結合を得ることは難しい。スペクトルグラフに見られるように、単一モードのレーザ発振1200およびマルチモードのレーザ発振1202の両方が生成される。しかしながら通常、マルチモードのレーザ発振は、閾値1204よりも上側に現れる。これは、一様なリング共振器(第2のリング共振器204に対応)のポンピングパワーに対応し、DFBリング共振器(第1のリング共振器202に対応)のポンピングパワーには実質的に依存しない。閾値1204は、2つのリング共振器の間に結合がなく、両リング共振器が500nmの距離で独立に作動することを表す。
【0079】
次に図12Bを参照すると、半導体レーザ素子のスペクトルグラフが示されている。2つのリング共振器は、30nmの距離で離間され、これにより、光学的結合が可能となる。スペクトルグラフに見られるように、半導体レーザ素子においても、単一モードのレーザ発振1210およびマルチモードのレーザ発振1212が生じる。しかしながら、2つのリング共振器が同時にレーザ発振する場合、単一モードのレーザ発振が観測される。従って、DFBリング共振器では、両方のリング共振器において単一モードのレーザ発振が強制され、マルチモードの高出力リングレーザのモードは、回折格子により定められたモードにロックされる。この構成では、縦モードの単一モードのレーザ発振をレーザ発振閾値の最大約11倍に維持しながら、強度をかなり高めることができる。
【0080】
さらに、例えば、本開示は以下の構成を有してもよい。
(1)
半導体レーザ素子であって、
第1のn-側半導体層、第1のp-側半導体層、および前記第1のn-側半導体層と前記第1のp-側半導体層の間に配置された第1の活性層を有する、第1の半導体スタックを有し、
回折格子を有する、
第1のリング共振器と、
第2のn-側半導体層、第2のp-側半導体層、および前記第2のn-側半導体層と前記第2のp-側半導体層の間に配置された第2の活性層を有する、第2の半導体スタックを有する、
エバネッセント場結合により、前記第1のリング共振器に光学的に結合された第2のリング共振器と、
を有し、
前記第2のリング共振器により放射される光のピーク波長は、前記第1のリング共振器により放射される光のピーク波長と同じである、半導体レーザ素子。

(2)
半導体レーザ素子であって、
第1のn-側半導体層、第1のp-側半導体層、および前記第1のn-側半導体層と前記第1のp-側半導体層の間に配置された第1の活性層を有する、第1の半導体スタックを有し、
回折格子を有する、
第1のリング共振器と、
第2のn-側半導体層、第2のp-側半導体層、および前記第2のn-側半導体層と前記第2のp-側半導体層の間に配置された第2の活性層を有する、第2の半導体スタックを有する、
エバネッセント場結合により、前記第1のリング共振器に光学的に結合された第2のリング共振器と、
を有し、
前記第1のリング共振器および前記第2のリング共振器には、希土類元素がドープされていない、半導体レーザ素子。

(3)
前記第1の活性層および前記第2の活性層は、同じ材料で構成される、(1)または(2)に記載の半導体レーザ素子。

(4)
前記第1の活性層の上側表面および前記第2の活性層の上側表面は、同一平面上にある、(1)乃至(3)のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子。

(5)
前記回折格子は、前記第1のリング共振器の内側側表面および前記第1のリング共振器の外側側表面の少なくとも一方に配置される、(1)乃至(4)のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子。

(6)
前記回折格子は、前記第1のリング共振器の上側表面に配置される、(1)乃至(4)のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子。

(7)
前記回折格子は、前記第1のリング共振器に埋設される、(1)乃至(4)のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子。

(8)
前記第1のリング共振器は、1または2以上の直線部と、1または2以上の曲線部とを有し、
前記第1のリング共振器と前記第2のリング共振器の間の距離は、前記1または2以上の直線部の一つで最小となる、(1)乃至(7)のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子。

(9)
前記距離は、10nmから400nmの範囲である、(8)に記載の半導体レーザ素子。

(10)
前記回折格子は、(i)前記1または2以上の直線部、または(ii)前記1または2以上の曲線部の一方のみに配置される、(8)または(9)に記載の半導体レーザ素子。

(11)
前記第1のリング共振器は、丁度4つの直線部と丁度4つの曲線部とを有し、
前記回折格子は、前記4つの直線部の全てに配置される、(1)乃至(8)のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子。

(12)
前記第1のリング共振器は、丁度4つの直線部と丁度4つの曲線部とを有し、
前記回折格子は、前記4つの曲線部の全てに配置される、(1)乃至(8)のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子。

(13)
前記回折格子は、前記第1のリング共振器の内側側表面の全体、または前記第1のリング共振器の外側側表面の全体に配置される、(1)乃至(8)のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子。

(14)
前記第1のリング共振器は環状であり、3μmから5000μmの範囲の半径を有する、(1)乃至(7)のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子。

(15)
前記第1の半導体スタックと前記第2の半導体スタックの各々は、第III-V族半導体材料または第II-VI族半導体材料で構成される、(1)乃至(14)のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子。

(16)
前記第1のリング共振器および前記第2のリング共振器は、窒化物半導体材料で構成された半導体スタックを有する、(1)乃至(15)のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子。

(17)
さらに出力導波路を有し、
前記出力導波路および前記第2のリング共振器は、光学的に結合される、(1)乃至(16)のいずれか一つに記載の半導体レーザ素子。

(18)
前記出力導波路の第3の活性層の上側表面は、前記第2の活性層の上側表面と同一平面上にある、(17)に記載の半導体レーザ素子。

(19)
前記第3の活性層および前記第2の活性層は、同じ材料で構成される、(18)に記載の半導体レーザ素子。

(20)
半導体レーザ素子を製造する方法であって、
n-側半導体層、
p-側半導体層、および
前記n-側半導体層と前記p-側半導体層の間に配置された活性層、
を有する、半導体スタックを形成することと、
第1のリング状部分および第2のリング状部分を有し、前記第1のリング状部分の内側側表面または外側側表面には周期構造が配置されるマスクを、前記半導体スタック上に形成することと、
前記半導体スタックをドライエッチングして、前記第1のリング状部分に対応する第1のリング共振器、および前記第2のリング状部分に対応する第2のリング共振器を形成することと、
を有し、
前記第1のリング共振器は、前記周期構造に対応する回折格子を有し、
前記ドライエッチングは、0.1Paから5Paの範囲の圧力で実施される、半導体レーザ素子を製造する方法。

(21)
前記ドライエッチングは、CHF/OガスおよびCl/SiClガスを用いて反応性イオンエッチングである、(20)に記載の半導体レーザ素子を製造する方法。

(22)
主発振器出力増幅器であって、
第1のn-側半導体層、第1のp-側半導体層、および前記第1のn-側半導体層と前記第1のp-側半導体層の間に配置された第1の活性層を有する、第1の半導体スタックを有し、
回折格子を有する、
第1のリング共振器と、
第2のn-側半導体層、第2のp-側半導体層、および前記第2のn-側半導体層と前記第2のp-側半導体層の間に配置された第2の活性層を有する、第2の半導体スタックを有する、
エバネッセント場結合により、前記第1のリング共振器に光学的に結合された第2のリング共振器と、
を有する、主発振器出力増幅器。
【0081】
本明細書には、多くの特定の実施形態の詳細が含まれるが、これらは、主張される範囲を限定するものと解してはならず、むしろ特定の実施形態に固有の特徴を説明するものと解される必要がある。また、個別の実施形態の文脈において、本明細書に記載されたある特徴は、単一の実施形態において組み合わせて実施され得る。また逆に、単一の実施形態の文脈において記載された各種特徴は、複数の実施形態において別個に、または任意の好適なサブコンビネーションで実施され得る。さらに、特徴は、ある組み合わせにおいて作動するように記載され、最初はそのように主張されることもあり得るが、ある場合には、主張される組み合わせから、1つ以上の特徴が組み合わせから削除することができ、主張される組み合わせは、サブコンビネーションに誘導され、またはサブコンビネーションのバリエーションに誘導されてもよい。
【0082】
本願で使用される数値範囲に関する「ほぼ」、「約」、「実質的に」という用語、および同様の用語は、一般に、開示された値の±10%を意味する。「ほぼ」、「約」、「実質的に」と言う用語、および同様の用語が構造的特徴(例えば、その形状、サイズ、配向、方向等を記載するため)に適用される場合、これらの用語は、例えば、製造または組み立ての段階で生じる可能性のある構造のわずかな変化を網羅することを意味し、本開示の主題に関する当業者により広く受け入れられている使用法と調和した、広い意味を有することが意図される。従って、これらの用語は、記載され請求された主題に対する本質的でなく重要でない改変または変更が、添付の特許請求の範囲に記載された開示の範囲内にあると見なされることを示すものと解される必要がある。
【0083】
本願において各種実施形態を説明するために使用される「一例の」という用語およびその変化形は、そのような実施形態が、想定される実施形態の可能な例、表現、または説明であること(およびそのような用語は、そのような実施形態が必ずしも特別のまたは最上位の例であることを意味するものではない)を示すことを意図することに留意する必要がある。
【0084】
本願に使用される方向に関する用語(例えば、「上」、「下」、「上側」、「下側」)は、絶対的な位置ではなく、単に相対的な位置を記述するために使用される。素子の絶対位置は、実際の装置では異なってもよい。
【0085】
また、「または」という用語は、(排他的な意味ではなく)包括的な意味で使用され、例えば、素子のリストを接続するために使用される場合、「または」という用語は、リスト内の素子の1つ、一部、または全てを意味する。特に明記されない限り、「X、Y、Zの少なくとも1つ」という語句のようなの接続用語は、項目、用語等がX、Y、Z、XとY、XとZ、YとZ、またはX、YおよびZのいずれか(すなわちX、Y、Zの任意の組み合わせ)であることを伝えるための、通常使用される文脈で理解される。従って、そのような接続用語は、特に示唆されていない限り、通常、ある実施形態において、Xの少なくとも1つ、Yの少なくとも1つ、およびZの少なくとも1つがそれぞれ存在する必要があることを意図するものではない。
【0086】
各種一例の実施形態で示される装置の構成および配置は、単なる一例であり、特性を限定するものではないことに留意することが重要である。記載された実施形態の思想および/または範囲内にある全ての改変および変更は、保護されることが望ましい。いくつかの特徴は、必要ではない場合があり、各種特徴のない実施形態が本願の範囲内として考慮されてもよく、範囲は、添付の特許請求の範囲により定められることが理解される必要がある。「一部」という言語が使用される場合、特に逆のことが記載されていない限り、事項は、該事項の一部および/または全体を含むことができる。
【0087】
本開示では、いくつかの実施形態のみについて詳細に説明したが、本開示をレビューする当業者には、本願に記載の主題の新たな教示および利点から実質的に逸脱することなく、多くの変更(例えば、各種素子のサイズ、寸法、構造、形状、割合、パラメータの値、取り付けの配置、材料の使用、色、配向等の変更)が可能であることが容易に理解される。例えば、素子の配置は、反転されても変更されてもよく、個別の素子の数または配置の性質は、変化し、変更されてもよい。任意の方法ステップの順番は、別の実施形態により変更されても、再順序付けされていてもよい。本開示の範囲から逸脱することなく、各種一例としての実施形態の設計、動作条件、および配置において、他の置換、修正、変更、および省略が行われてもよい。
【符号の説明】
【0088】
200 半導体レーザ素子
202 第1のリング共振器
204 第2のリング共振器
206 出力導波路
208 直線部
210 曲線部
212 一様な導波路
214 DFB導波路
216 結合領域
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図7G
図7H
図7I
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12A
図12B
【外国語明細書】