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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158312
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】モータ装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/08 20160101AFI20231023BHJP
   H02P 29/028 20160101ALI20231023BHJP
【FI】
H02P25/08
H02P29/028
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068067
(22)【出願日】2022-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】521210667
【氏名又は名称】株式会社A.H.MotorLab
(74)【代理人】
【識別番号】110001667
【氏名又は名称】弁理士法人プロウィン
(72)【発明者】
【氏名】新口 昇
(72)【発明者】
【氏名】平田 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 寛典
(72)【発明者】
【氏名】竹村 望
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501BB04
5H501BB08
5H501CC01
5H501DD09
5H501EE08
5H501HA08
5H501HB08
5H501HB16
5H501JJ03
5H501LL35
5H501MM11
(57)【要約】
【課題】スイッチの故障時にも回転駆動を継続することが可能であり、かつ小型化と軽量化を図ることができるモータ装置を提供する。
【解決手段】ティース部(13)にはA相、B相、C相、D相、E相およびF相の6相巻線が巻回されており、スイッチインバータ部(20)は、第1インバータ部と第2インバータ部を有し、スイッチ制御部は、スイッチインバータ部の故障が検出されていない場合には、第1インバータ部および第2インバータ部を用いた6相スイッチトリトラクタンスモータとしてパルス駆動により制御を行い、故障が検出された場合には、第1インバータ部または第2インバータ部のうち故障に対応した一方からの電流出力を停止するとともに、他方を用いて3相シンクロナスリラクタンスモータとしてベクトル制御で駆動を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部が形成された固定子を有するモータ部と、
前記モータ部に電力を供給するスイッチインバータ部と、
前記スイッチインバータ部に含まれる各スイッチを制御するスイッチ制御部とを備えるモータ装置であって、
前記回転子が強磁性体で構成されたスイッチトリラクタンスモータであり、
前記複数のティース部には、A相、B相、C相、D相、E相およびF相の6相巻線が巻回されており、
前記スイッチインバータ部は、前記A相、前記C相および前記E相に電流を供給する第1インバータ部と、前記B相、前記D相および前記F相に電流を供給する第2インバータ部を有し、
前記スイッチ制御部は、前記スイッチインバータ部の故障が検出されていない場合には、通常モードで前記スイッチインバータ部を制御し、前記スイッチインバータ部の故障が検出された場合には、故障モードで前記スイッチインバータ部を制御し、
前記通常モードは、前記第1インバータ部および前記第2インバータ部を用いた6相パルス駆動により制御を行い、
前記故障モードでは、前記第1インバータ部または前記第2インバータ部のうち故障に対応した一方からの電流出力を停止するとともに、他方を用いて3相ベクトル制御で駆動を行うことを特徴とするモータ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ装置であって、
前記故障モードでのベクトル制御では、前記回転子での検出角度をθとしたとき、θ/2を用いることを特徴とするモータ装置。
【請求項3】
請求項1に記載のモータ装置であって、
前記回転子の極数Pと、前記ティース部のスロット数Sの比は、P:S=5:6であることを特徴とするモータ装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一つに記載のモータ装置であって、
前記A相、前記B相、前記C相、前記D相、前記E相および前記F相は、一端が中性点に接続されて、スター結線されていることを特徴とするモータ装置。
【請求項5】
請求項1から3の何れか一つに記載のモータ装置であって、
前記A相、前記B相、前記C相、前記D相、前記E相および前記F相は、環状に直列接続されて、ヘキサゴン結線されていることを特徴とするモータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ装置に関し、特に、回転子に強磁性体を用いるスイッチトリラクタンスモータのモータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から様々な技術分野において、交流の周波数を変化させることで回転数を制御でき、安定した回転数を得られる三相モータが動力源のモータ装置として用いられている。また、回転子に強磁性体を用いるスイッチトリラクタンスモータも提案されている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
このようなモータ装置においては、モータ装置の各巻線に適切なタイミングで電流を供給するために、複数の半導体スイッチを有するスイッチインバータを用いている。しかし、スイッチインバータに含まれている半導体スイッチに故障が発生すると、モータ装置の各巻線に適切な電力を供給できなくなり、モータ装置の回転駆動を継続できなくなるという問題があった。特に、モータ装置を動力源に組み込んだ電気自動車やハイブリッドカーにおいては、モータ装置を回転駆動できないと車両の走行に支障が生じるため好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-103957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この問題を解決するために、モータ装置に回転子とスイッチインバータ部を複数備えておくことで、何れかのスイッチインバータ部の半導体スイッチが故障した場合にも、残りのスイッチインバータ部で他の回転子を回転させて動力の供給を継続できる。しかし、サイズと重量の大きな回転子を複数備えるため、モータ装置の小型化と軽量化が困難になるという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、スイッチの故障時にも回転駆動を継続することが可能であり、かつ小型化と軽量化を図ることができるモータ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のモータ装置は、回転軸を中心に回転可能に配置された回転子と、内周に複数のティース部が形成された固定子を有するモータ部と、前記モータ部に電力を供給するスイッチインバータ部と、前記スイッチインバータ部に含まれる各スイッチを制御するスイッチ制御部とを備えるモータ装置であって、前記回転子が強磁性体で構成されたスイッチトリラクタンスモータであり、前記複数のティース部には、A相、B相、C相、D相、E相およびF相の6相巻線が巻回されており、前記スイッチインバータ部は、前記A相、前記C相および前記E相に電流を供給する第1インバータ部と、前記B相、前記D相および前記F相に電流を供給する第2インバータ部を有し、前記スイッチ制御部は、前記スイッチインバータ部の故障が検出されていない場合には、通常モードで前記スイッチインバータ部を制御し、前記スイッチインバータ部の故障が検出された場合には、故障モードで前記スイッチインバータ部を制御し、前記通常モードは、前記第1インバータ部および前記第2インバータ部を用いた6相パルス駆動により制御を行い、前記故障モードでは、前記第1インバータ部または前記第2インバータ部のうち故障に対応した一方からの電流出力を停止するとともに、他方を用いて3相ベクトル制御で駆動を行うことを特徴とする。
【0008】
このような本発明のモータ装置では、一つの回転子に対して6相巻線を設けて、第1インバータ部と第2インバータ部の何れかに故障が検出された場合に、故障側からの電流出力を停止し、他方を用いてベクトル制御で駆動を継続する。これにより、スイッチの故障時にも回転駆動を継続することが可能であり、かつ小型化と軽量化を図ることができる。
【0009】
また、本発明の一態様では、前記故障モードでのベクトル制御では、前記回転子での検出角度をθとしたとき、θ/2を用いる。
【0010】
また、本発明の一態様では、前記回転子の極数Pと、前記ティース部のスロット数Sの比は、P:S=5:6である。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記A相、前記B相、前記C相、前記D相、前記E相および前記F相は、一端が中性点に接続されて、スター結線されている。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記A相、前記B相、前記C相、前記D相、前記E相および前記F相は、環状に直列接続されて、ヘキサゴン結線されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、スイッチの故障時にも回転駆動を継続することが可能であり、かつ小型化と軽量化を図ることができるモータ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態に係るモータ装置の概要を示す図であり、図1(a)はモータ部10の構造例を示す模式図であり、図1(b)はスイッチインバータ部20の構成例を示す回路図である。
図2】通常モードにおけるスイッチインバータ部20の制御を示すタイミングチャートである。
図3】モータ部10のA相巻線~F相巻線をスター結線した場合の、通常モードと故障モードの駆動を説明する模式図である。
図4】モータ部10のA相巻線~F相巻線をヘキサゴン結線した場合の、通常モードと故障モードの駆動を説明する模式図である。
図5】モータ装置における通常モードと故障モードのトルク波形をシミュレーションした結果を示すグラフである。
図6】モータ装置における故障モードの線電流波形をシミュレーションした結果を示すグラフである。
図7】ヘキサゴン結線における故障モードの相電流波形をシミュレーションした結果を示すグラフであり、図7(a)は1200rpmでの波形を示し、図7(b)は6800rpmでの波形を示している。
図8】ヘキサゴン結線における故障モードの相電流波形を高速フーリエ変換した結果を示すグラフであり、図8(a)は1200rpmでの結果を示し、図8(b)は6800rpmでの結果を示している。
図9】ヘキサゴン結線における故障モードの相電流位相を高速フーリエ変換した結果を示すグラフであり、図9(a)は1200rpmでの結果を示し、図9(b)は6800rpmでの結果を示している。
図10】ヘキサゴン結線における故障モードのトルク波形をシミュレーションした結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付すものとし、適宜重複した説明は省略する。図1は、本実施形態に係るモータ装置の概要を示す図であり、図1(a)はモータ部10の構造例を示す模式図であり、図1(b)はスイッチインバータ部20の構成例を示す回路図である。
【0016】
図1(a)に示すように、本実施形態のモータ部10は、回転軸を中心に可能に配置された回転子(ロータ)11と、回転子11の周囲に配置された固定子(ステータ)12を備えている。またモータ部10は、回転子11の回転角度を検出する角度検出部と、各相の線電流を検出する電流検出部備えている(図示省略)。
【0017】
また、回転子11には、外周に沿って強磁性体からなるロータティースが配置されている。また固定子12は、コアバック部とその内周に突出して形成された複数のティース部13を備えている。また、各ティース部13には円周方向に順番にA相、B相、C相、D相、E相およびF相の巻線(コイル)14が2周期巻回されている。ここで、A相巻線、E相巻線、C相巻線によって第1系統の三相巻線が構成され、D相巻線、B相巻線、F相巻線によって第2系統の三相巻線が構成されている。A相~F相の巻線14の接続方法としては、スター結線またはヘキサゴン結線が挙げられる。
【0018】
コアバック部は、回転子11の外側に回転子11の外周を円周状に取り囲むように配置された部分であり、内周に複数のティース部13が等間隔に突出して形成されている。コアバック部には公知のものを用いることができ、構成する材料や構造は限定されない。また、コアバック部よりも外周には別途モータハウジング等の部材が設けられている。
【0019】
ティース部13は、コアバック部の内周面から回転子11に向かって突出して形成された突起状部分であり、各ティース部13は同じ長さと形状で形成されるとともに等間隔に配置されており、各ティース部13の間には間隔が設けられてスロットを構成している。各ティース部13およびスロットには、巻線14が巻回されており、巻線14に電流が流れることでティース部13に磁界が発生する。
【0020】
ここで、A相巻線、E相巻線およびC相巻線は、それぞれ1/3周期の差で配置されており第1系統の三相巻線を構成している。同様に、D相巻線、B相巻線およびF相巻線も、それぞれ1/3周期の差で配置されており第2系統の三相巻線を構成している。図1(a)では、回転子11が10個のロータティースを備え、固定子12が12個のティース部13を備えた10極12スロットのスイッチトリラクタンスモータの例を示している。モータ部10の極数Pとスロット数Sは、10極12スロットには限定されないが、P:S=5:6の比率となっている。また、ティース部13への各相の巻回方法も集中巻きに限定されず分布巻きであってもよい。
【0021】
図1(b)に示すように、本実施形態のスイッチインバータ部20は、電源電圧(+V)と接地電圧(0V)の間に第1インバータ部20aと第2インバータ部20bが並列に接続された6相インバータの構成を有している。スイッチインバータ部20は、図示を省略するスイッチ制御部によって各スイッチが制御され、モータ部10の巻線14に対して電流を供給する。
【0022】
スイッチ制御部は、予め定められたプログラムに従って情報処理を行い、モータ装置の各部を制御する演算部であり、CPU(中央演算処理装置:Central Processing Unit)等で実現される。また、スイッチ制御部はモータ装置の各部から情報を取得してプログラムに従って演算処理を行う。スイッチ制御部には、メモリー装置や入出力装置、表示装置などが接続され、プログラムやデータの記録、演算結果の出力や表示等を行うこととしてもよい。またスイッチ制御部は、記録媒体に記録されたプログラムを読み込み、当該プログラムを実行することで本発明におけるモータ装置の制御方法を実行する。
【0023】
またスイッチ制御部は、スイッチインバータ部20の各スイッチの故障を検出する故障検出部を備えている。スイッチ制御部は、全てのスイッチが正常に動作(故障検出無し)している場合には通常モードでスイッチインバータ部20を制御し、何れかのスイッチにおける故障を検出した場合には故障モードでスイッチインバータ部20を制御する。ここで通常モードは、第1インバータ部20aおよび第2インバータ部20bを用いた6相スイッチトリラクタンスモータとしてパルス駆動により制御を行うものである(6相パルス制御)。また故障モードは、第1インバータ部20aまたは第2インバータ部20bのうち、故障に対応した一方からの電流出力を停止するとともに、他方を用いて3相シンクロナスリラクタンスモータとしてベクトル制御で駆動を行うものである(3相ベクトル制御)。通常モードと故障モードについての詳細な説明は後述する。
【0024】
図1(b)に示した例では、第1インバータ部20aと第2インバータ部20bは、逆流防止スイッチ21a~21dと、上段スイッチ22au~22fuと、下段スイッチ22al~22flと、リレースイッチ23a~23fを有している。各スイッチは、それぞれドレインが電源電圧側(上流側)に接続され、ソースが接地電圧側(下流側)に接続されている。また、各スイッチとしてMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)を用いる場合には、ソースとドレインの間に寄生ダイオードが並列に接続された等価回路となる。
【0025】
逆流防止スイッチ21a~21dは、第1インバータ部20aと第2インバータ部20bの電源電圧側に設けられ、電源から第1インバータ部20aと第2インバータ部20bへの電流の供給を制御するとともに電流の逆流を防止する部分である。図1(b)に示した例では、逆流防止スイッチ21aと逆流防止スイッチ21bが直列に接続されて、寄生ダイオードの一方が順接続され、他方が逆接続されている。同様に、逆流防止スイッチ21cと逆流防止スイッチ21dが直列に接続され、寄生ダイオードの一方が順接続され、他方が逆接続されている。ここでは2つのスイッチを直列接続した例を示したが、電流の供給制御と逆流の防止が可能であれば構成は限定されない。逆流防止スイッチ21a,21bにオン信号が印加されている間は、第1インバータ部20aに電流が供給され、オフ信号が印加されている間は、第1インバータ部20aへの電流が停止される。同様に、逆流防止スイッチ21c,21dにオン信号が印加されている間は、第2インバータ部20bに電流が供給され、オフ信号が印加されている間は、第2インバータ部20bへの電流が停止される。
【0026】
上段スイッチ22au~22fuと下段スイッチ22al~22flは、対応する各々が電源電圧側と接地電圧側に直列接続されており、その中間にリレースイッチ23a~23fのドレインが接続されている。また、直列接続された上段スイッチ22au~22fuと下段スイッチ22al~22flの組み合わせは、互いに並列接続されている。リレースイッチ23a~23fは、上段スイッチ22au~22fuと下段スイッチ22al~22flの直列接続の中間にドレインが接続され、ソースがモータ部10の巻線14に接続されている。図1(b)ではリレースイッチ23a~23fを用いた例を示したが、リレースイッチ23a~23fを省略するとしてもよい。
【0027】
図1(b)に示したように、上段スイッチ22au~22fu、下段スイッチ22al~22flおよびリレースイッチ23a~23fの組み合わせは、それぞれ巻線14のA相~F相に対して電流を供給するためのA相スイッチ~F相スイッチを構成している。スイッチ制御部がA相スイッチ~F相スイッチを構成するスイッチ群にオン信号を印加すると、リレースイッチ23a~23fのソースからモータ部10のA相巻線~F相巻線に対して線電流I~IFが供給される。
【0028】
上述したように第1インバータ部20aは、第1系統の三相巻線であるA相巻線、E相巻線およびC相巻線に対してそれぞれ線電流I,I,Iを供給する。また、第2インバータ部20bは、第2系統の三相巻線であるD相巻線、B相巻線およびF相巻線に対してそれぞれ線電流I,I,Iを供給する。スイッチインバータ部20の構成は、第1系統および第2系統の3相巻線に対して個別に線電流I~IFを供給できるものであれば図1(b)に示したものに限定されない。
【0029】
図2は、通常モードにおけるスイッチインバータ部20の制御を示すタイミングチャートである。図2の横軸は電気角(度)を示し、縦軸は各スイッチに印加されるオン信号とオフ信号を示している。図2に示したように通常モードでは、A相スイッチ~F相スイッチには、オン信号とオフ信号が180度(π)ずつ交互に印加される。また、A相スイッチ~F相スイッチのオン信号とオフ信号は、それぞれ60度(π/3)ずつ位相がずれている。また、A相とD相、B相とE相、C相とF相は位相が180度(π)異なって互いに反転した信号が印加されている。換言すると、A相スイッチ~F相スイッチには、A相、C相、E相と、B相、D相、F相の2つの三相交流信号が印加されている。
【0030】
したがって、通常モードにおいてスイッチ制御部は、第1インバータ部20aと第2インバータ部20bの両方を用いてA相巻線~F相巻線に対して6相のパルス電流を供給する6相パルス駆動による制御を行い、モータ装置を6相のスイッチトリラクタンスモータとして駆動する。つまりA相巻線~F相巻線は、A相スイッチ~F相スイッチの全てを用いて制御されることで、それぞれ2つの三相モータを備えた合計6相を有するモータとして機能する。
【0031】
故障モードにおいてスイッチ制御部は、第1インバータ部20aと第2インバータ部20bのうち故障が検出された一方からの電流出力を停止する。一例としては、スイッチ制御部が上段スイッチ22buの故障を検出した場合には、スイッチ制御部は第2インバータ部20bからの電流供給を停止し、第1インバータ部20aからの電流供給を継続する。具体的には、第2インバータ部20bに含まれる全スイッチ(逆流防止スイッチ21c,21d、上段スイッチ22bu,22du,22fu、下段スイッチ22bl,22dl,22flおよびリレースイッチ23b,23d,23f)に対してオフ信号を出力する。
【0032】
また、故障が検出されていない他方を用いて3相ベクトル制御でスイッチインバータ部20を駆動する。上述した上段スイッチ22buの故障が検出された例では、第1インバータ部20aの逆流防止スイッチ21a,21bに対してオン信号を出力し、3相ベクトル制御に基づいてA相スイッチ、C相スイッチ、E相スイッチに対してオン信号とオフ信号を切り替えて出力する。ここで3相ベクトル制御は、モータ部10の各相に供給される電流値と、モータ部10に設けられた角度センサの出力を検出し、検出した角度と電流値に基づいて各スイッチのオン・オフをPWM(Pulth Width Modulation)制御するものであり、公知の方法を用いることができる。
【0033】
ただし、3相ベクトル制御の際に用いられる角度は、角度検出部が検出した回転子11の検出角度θを1/2倍したθ/2を用い、相電流Iが以下の行列の関係を満たすようなベクトル制御を行う。
【数1】
これは、スイッチトリラクタンスモータではなく、シンクロナスリラクタンスモータとして回転させるためである。つまり、ロータティースに挟まれる空隙に永久磁石が存在すると仮定すると図1のロータは10極となり、電気角1周期はスイッチトリラクタンスモータの2倍の周期になる。そのため、ベクトル制御に回転子11の角度θを1/2倍したθ/2を用いることで、シンクロナスリラクタンスモータとして駆動でき、トルクの向上を図ることができる。
【0034】
したがって、故障モードにおいてスイッチ制御部は、第1インバータ部20aまたは第2インバータ部20bの一方を用いて第1系統の巻線14または第2系統の巻線14に対して3相のPWM電流を供給する3相ベクトル制御を行い、モータ装置を3相のシンクロナスリラクタンスモータとして駆動する。
【0035】
図3は、モータ部10のA相巻線~F相巻線をスター結線した場合の、通常モードと故障モードの駆動を説明する模式図である。図3に示したように、スター結線においては、A相巻線~F相巻線の一端は共通の中性点に接続されており、他端はスイッチインバータ部20のリレースイッチ23a~23fのソースに接続されている。スター結線の通常モードでは、図3の左側に示したように、A相巻線~F相巻線に対して第1インバータ部20aおよび第2インバータ部20bから線電流I~IFが供給される。
【0036】
一例としてB相スイッチ、D相スイッチ、F相スイッチに故障が検出された場合の故障モードを図3の右側に示す。故障モードでは、第1系統の3相巻線であるA相巻線、C相巻線、E相巻線のみに第1インバータ部20aから線電流I,I,Iが供給される。したがってスター結線の故障モードでは、3相のスター結線に対するベクトル制御が行われ、3箇所の巻線14で生じる磁束によって回転子11が回転される。
【0037】
図4は、モータ部10のA相巻線~F相巻線をヘキサゴン結線した場合の、通常モードと故障モードの駆動を説明する模式図である。図4に示したように、ヘキサゴン結線においては、A相巻線~F相巻線は両端が互いに接続されて環状に直列接続されており、A相巻線~F相巻線の一端はそれぞれリレースイッチ23a~23fに接続されている。ヘキサゴン結線の通常モードでは、図4の左側に示したように、A相巻線~F相巻線に対して第1インバータ部20aおよび第2インバータ部20bから線電流I~IFが供給され、A相巻線~F相巻線には相電流i~iが流れる。
【0038】
一例としてB相スイッチ、D相スイッチ、F相スイッチに故障が検出された場合の故障モードを図4の右側に示す。故障モードでは、第1系統の3相巻線であるA相巻線、C相巻線、E相巻線のみに第1インバータ部20aから線電流I,I,Iが供給される。このとき、A相巻線とB相巻線、C相巻線とD相巻線、E相巻線とF相巻線のそれぞれの直列接続の組み合わせで、3相のデルタ結線が構成され、それぞれに相電流Iac,Icd,Iefが流れる。したがってヘキサゴン結線の故障モードでは、3相のデルタ結線に対するベクトル制御が行われ、6箇所の巻線14で生じる磁束によって回転子11が回転される。
【0039】
図5は、モータ装置における通常モードと故障モードのトルク波形をシミュレーションした結果を示すグラフである。図5中の横軸は回転角度(deg)を示し、縦軸はトルク(Nm)を示している。グラフ中において、太い実線、細い実線、二点鎖線は、それぞれスター結線での通常モード、上段故障時、下段故障時を示している。またグラフ中において、一点鎖線、細い破線、太い破線は、それぞれヘキサゴン結線での通常時、上段故障時、下段故障時を示している。
【0040】
シミュレーションには有限要素法を用い、回転子11の直径が180mm、長さが55mmとし、回転子11の極数Pを10とし、スロット数Sは12としている。また、巻線14の巻き数をスター結線では20ターンとし、ヘキサゴン結線で35ターンとして、図1(a)に示した対角に配置された同相が直列接続されているものとした。また、電流密度を6Arms/mmとした。また、B相スイッチのうち上段スイッチ22buまたは下段スイッチ22blが短絡故障した場合を想定した。ここでは短絡故障の例を示しているが、地絡故障やオープン故障でも通常モードから故障モードでの制御切り替えは同じであるため、全ての故障において同様の結果が得られる。
【0041】
図5に示したように、スター結線においてもヘキサゴン結線においても、故障モードでトルクが継続して出力されており、回転子11の回転を継続できることがわかる。また、トルクのリップル周期は、故障モードが通常モードの約2倍であることもわかる。これは、スター結線の故障モードでは磁束を生じる巻線14の間隔が通常モードの2倍になっているためである。また、ヘキサゴン結線の故障モードでは上述したように回転子11の角度θの1/2倍を用いたベクトル制御を行っているためである。
【0042】
また、図5に示したように、故障モードにおけるトルクは通常モードよりも小さくなるが、スター結線よりもヘキサゴン結線のほうが大きい傾向がみられる。表1に、通常時(平常時)、上段故障時および下段故障時のスター結線とヘキサゴン結線でのトルクの平均値とリップル率を示す。表1に示したように、ヘキサゴン結線では平均トルクが通常モードの50%以上も得られており、故障モードでのトルク向上を図るためにはヘキサゴン結線が優れていることがわかる。また、スター結線でも平均トルクは通常モードの30%以上を得られており、リップル率はヘキサゴン結線よりも小さく、故障モードでの低リップルを優先する場合にはスター結線が優れていることがわかる。
【表1】
【0043】
図6は、モータ装置における故障モードの線電流波形をシミュレーションした結果を示すグラフである。図6中の横軸は回転角度(deg)を示し、縦軸は相電流(A)を示している。図6ではスター結線での上段故障時のシミュレーション結果のみを示しているが、スター結線およびヘキサゴン結線において上段故障時も下段故障時も全て同じ線電流波形となった。図6に示したように、B相スイッチの故障を想定したシミュレーションであるため、リレースイッチ23a,23c,23eからの3相交流のみが線電流I,I,Iとして供給されていることが確認できる。
【0044】
図7は、ヘキサゴン結線における故障モードの相電流波形をシミュレーションした結果を示すグラフであり、図7(a)は1200rpmでの波形を示し、図7(b)は6800rpmでの波形を示している。図7中の横軸は電気角(deg)を示し、縦軸は相電流(A)を示している。グラフ中において、太い実線、破線、一点鎖線は、それぞれA相巻線とB相巻線の直列接続(AB相)、C相巻線とD相巻線の直列接続(CD相)、E相巻線とF相巻線の直列接続(EF相)に流れる相電流を示している。
【0045】
本シミュレーションにおいても有限要素法を用い、回転子11の直径が180mm、長さが55mmとし、回転子11の極数Pを10とし、スロット数Sは12としている。また、巻線14の巻き数をスター結線では20ターンとし、ヘキサゴン結線で35ターンとして、図1(a)に示した対角に配置された同相が直列接続されているものとした。また、幅45Aの正弦波電流入力で回転数1200rpm(低速回転)と6800rpm(高速回転)の2パターンについて解析した。
【0046】
図7(a)(b)に示したように、ヘキサゴン結線の故障モードにおいては、AB相、CD相、EF相の3相交流でベクトル制御により相電流が流れていることを確認できる。また、低速回転の1200rpmでも高速回転の6800rpmでも同様の相電流波形が得られており、回転数に依存せずに回転子11の回転を継続できることがわかる。
【0047】
図8は、ヘキサゴン結線における故障モードの相電流波形を高速フーリエ変換した結果を示すグラフであり、図8(a)は1200rpmでの結果を示し、図8(b)は6800rpmでの結果を示している。図8中の横軸は次数を示し、縦軸は相電流(A)を示している。図8(a)(b)に示したように、低速回転の1200rpmでも高速回転の6800rpmでも、一次の相電流に加えて三次の相電流が発生していることがわかる。
【0048】
図9は、ヘキサゴン結線における故障モードの相電流位相を高速フーリエ変換した結果を示すグラフであり、図9(a)は1200rpmでの結果を示し、図9(b)は6800rpmでの結果を示している。図9中の横軸は次数を示し、縦軸は位相(deg)を示している。図8(a)(b)に示したように、低速回転の1200rpmでも高速回転の6800rpmでも、一次の相電流では位相差が120度の3相交流となっているが、三次の相電流では3相の位相が一致している。したがって、三次の相電流はデルタ結線を流れる循環電流であることがわかる。しかし三次の循環電流は、低速回転の1200rpmでも高速回転の6800rpmでもAB相、CD相、EF相で位相が同じであり、回転速度によって循環電流は変化しないことがわかる。
【0049】
図10は、ヘキサゴン結線における故障モードのトルク波形をシミュレーションした結果を示すグラフである。図10中の横軸は電気角(deg)を示し、縦軸はトルク(Nm)を示している。グラフ中において、実線は低速回転である1200rpmの結果を示し、破線は高速回転である6800rpmの結果を示している。また、平均トルクは1200rpmで5.38Nmであり、6800rpmで5.42Nmであった。図10に示したように、低速回転の1200rpmでも高速回転の6800rpmでもトルク波形はほぼ同じであり、三次の循環電流の発生に関わらず同程度のトルクを得られることがわかる。
【0050】
上述したように本実施形態のモータ装置では、一つの回転子11に対して6相巻線を設けて、第1インバータ部20aと第2インバータ部20bの何れかに故障が検出された場合に、故障側からの電流出力を停止し、他方を用いてベクトル制御で駆動を継続する。これにより、スイッチの故障時にも回転駆動を継続することが可能であり、かつ小型化と軽量化を図ることができる。
【0051】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0052】
10…モータ部
11…回転子
12…固定子
13…ティース部
14…巻線
20…スイッチインバータ部
20a…第1インバータ部
20b…第2インバータ部
21a~21d…逆流防止スイッチ
22au~22fu…上段スイッチ
22al~22fl…下段スイッチ
23a~23f…リレースイッチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10