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特開2023-158350トリ骨髄芽細胞腫ウイルス逆転写酵素発現ベクターおよび当該ベクターを用いた前記酵素の製造方法
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  • 特開-トリ骨髄芽細胞腫ウイルス逆転写酵素発現ベクターおよび当該ベクターを用いた前記酵素の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158350
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】トリ骨髄芽細胞腫ウイルス逆転写酵素発現ベクターおよび当該ベクターを用いた前記酵素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/54 20060101AFI20231023BHJP
   C12N 15/70 20060101ALI20231023BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231023BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20231023BHJP
   C12N 9/22 20060101ALI20231023BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
C12N15/54 ZNA
C12N15/70 Z
C12N1/21
C12N9/10
C12N9/22
C12N15/55
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068134
(22)【出願日】2022-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野口 惇
(72)【発明者】
【氏名】服部 将人
(72)【発明者】
【氏名】大熊 里佳
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 陽介
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050DD01
4B050LL03
4B065AA26X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA29
4B065CA31
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】 遺伝子組換え大腸菌を用いてトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素を製造する際用いる、前記酵素を大量に発現可能なプラスミドベクターを提供すること。
【解決手段】 AMV逆転写酵素をコードするポリヌクレオチドと、当該ポリヌクレオチドの末端に付加した、少なくとも2残基以上20残基以下の連続したリジン残基を含む融合タグをコードするポリヌクレオチドとを含むプラスミドベクターにより、前記課題を解決する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をコードするポリヌクレオチドと、当該ポリヌクレオチドの5’末端および/または3’末端に付加する融合タグをコードするポリヌクレオチドとを含む、前記酵素を宿主で発現させるためのプラスミドベクターであって、
前記宿主が大腸菌であり、前記融合タグが少なくとも2残基以上20残基以下の連続したリジン残基を含む、前記ベクター。
【請求項2】
融合タグをコードするポリヌクレオチドが、AMV逆転写酵素をコードするポリヌクレオチドの5’末端に付加される、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
請求項1または2に記載のベクターで大腸菌を形質転換して得られる、形質転換体。
【請求項4】
請求項3に記載の形質転換体を培養することでAMV逆転写酵素を発現させる工程と、得られた培養物から発現された前記酵素を回収する工程とを含む、AMV逆転写酵素の製造方法。
【請求項5】
以下の(I)から(III)のいずれかから選択されるAMV逆転写酵素と、当該ポリペプチドの末端に付加した、少なくとも2残基以上20残基以下の連続したリジン残基を含む融合タグとを含む、ポリペプチド;
(I)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド、
(II)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基中の1もしくは数個の位置での、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上さらに生じ、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびリボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有するポリペプチド、
(III)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基に対して70%以上の相同性を有し、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性を有するポリペプチド。
【請求項6】
以下の(i)から(iii)のいずれかから選択されるAMV逆転写酵素と、当該ポリペプチドの末端に付加した、少なくとも2残基以上20残基以下の連続したリジン残基を含む融合タグとを含む、ポリペプチド;
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基からなるポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基中の1もしくは数個の位置での、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上さらに生じ、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基に対して70%以上の相同性を有し、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性を有するポリペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリ骨髄芽細胞腫ウイルス逆転写酵素を宿主で発現させるためのベクター、および当該ベクターを用いた前記酵素の製造方法に関する。特に本発明は、前記酵素を宿主で大量発現可能なベクター、および当該ベクターを用いた前記酵素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
逆転写酵素の一つであるトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素は、cDNA合成等の用途で、遺伝子工学試薬や遺伝子診断試薬などに利用されている。
【0003】
AMV逆転写酵素の製造方法として、古くから、ニワトリを用いてAMVを増殖させ、得られたAMVから前記酵素を抽出・精製し、製造する方法が知られている(特許文献1)。しかしながら生産性に課題があった。
【0004】
AMVを用いないAMV逆転写酵素の製造方法として、タンパク質を安定的に大量生産可能な遺伝子組換え大腸菌を用いた製造方法が知られている。一例として、特許文献2には、融合ペプチド配列(融合タグ)なしでAMV逆転写酵素をコードする遺伝子(AMV逆転写酵素遺伝子)を発現させる方法が、特許文献3には、精製を容易にする目的で連続した8残基のアルギニン残基からなるアルギニンタグや連続した6残基のヒスチジン残基からなるヒスチジンタグを融合させてAMV逆転写酵素遺伝子を発現させる方法が、それぞれ記載されている。しかしながら、工業的にAMV逆転写酵素を大量生産するためには、さらなる発現量の向上が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60-091981号公報
【特許文献2】特開2013-146235号公報
【特許文献3】特開2002-315584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、遺伝子組換え大腸菌を用いてトリ骨髄芽細胞腫ウイルス逆転写酵素を製造する際用いる、前記酵素を大量に発現可能なプラスミドベクターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をコードするポリヌクレオチドと、当該酵素に付加する特定のアミノ酸配列からなる融合タグをコードするポリヌクレオチドとを含む、前記酵素を発現させるためのベクターにより、前記酵素を大量に発現できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は以下<1>から<6>に記載の態様を包含する。
【0008】
<1>AMV逆転写酵素をコードするポリヌクレオチドと、当該ポリヌクレオチドの5’末端および/または3’末端に付加する融合タグをコードするポリヌクレオチドとを含む、前記酵素を宿主で発現させるためのプラスミドベクターであって、
前記宿主が大腸菌であり、前記融合タグが少なくとも2残基以上20残基以下の連続したリジン残基を含む、前記ベクター。
【0009】
<2>融合タグをコードするポリヌクレオチドが、AMV逆転写酵素をコードするポリヌクレオチドの5’末端に付加される、<1>に記載のベクター。
【0010】
<3><1>または<2>に記載のベクターで大腸菌を形質転換して得られる、形質転換体。
【0011】
<4><3>に記載の形質転換体を培養することでAMV逆転写酵素を発現させる工程と、得られた培養物から発現された前記酵素を回収する工程とを含む、AMV逆転写酵素の製造方法。
【0012】
<5>
以下の(I)から(III)のいずれかから選択されるAMV逆転写酵素と、当該ポリペプチドの末端に付加した、少なくとも2残基以上20残基以下の連続したリジン残基を含む融合タグとを含む、ポリペプチド;
(I)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド、
(II)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基中の1もしくは数個の位置での、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上さらに生じ、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびリボヌクレアーゼH(RNase H)活性を有するポリペプチド、
(III)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基に対して70%以上の相同性を有し、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性を有するポリペプチド。
【0013】
<6>
以下の(i)から(iii)のいずれかから選択されるAMV逆転写酵素と、当該ポリペプチドの末端に付加した、少なくとも2残基以上20残基以下の連続したリジン残基を含む融合タグとを含む、ポリペプチド;
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基からなるポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基中の1もしくは数個の位置での、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上さらに生じ、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基に対して70%以上の相同性を有し、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性を有するポリペプチド。
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明においてAMV逆転写酵素とは、AMV(Avian Myeloblastosis Virus、トリ骨髄芽球症ウイルス等とも呼称される)が有する逆転写酵素のことである。AMV逆転写酵素の一例として、
(I)配列番号1(GenBank No.AAB31929)に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチドや、
(II)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基中の1もしくは数個の位置での、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上さらに生じ、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性を有するポリペプチドや、
(III)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基に対して70%以上の相同性を有し、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性を有するポリペプチド、があげられる。
【0016】
前記(II)の一例として、配列番号2に記載のアミノ酸配列を少なくとも含むポリペプチドがあげられる。配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドはAMV逆転写酵素の天然型バリアント(variant)であり、具体的には、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから865番目のアラニンまでのアミノ酸残基からなり、ただし当該アミノ酸残基において、以下に示す3箇所のアミノ酸残基の置換が生じたポリペプチドである;
配列番号1の280番目(配列番号2では273番目)のアルギニンのメチオニンへの置換、
配列番号1の311番目(配列番号2では304番目)のアルギニンのグルタミンへの置換、
配列番号1の402番目(配列番号2では395番目)のアスパラギン酸のグルタミン酸への置換。
【0017】
前記(III)において相同性とは、類似性(similarity)または同一性(identity)を意味し、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)等のアラインメント(alignment)プログラムを用いて決定できる。例えば、「アミノ酸残基の同一性」とは、blastpを用いて算出されるアミノ酸配列間の同一性を意味してよく、具体的には、blastpをデフォルトのパラメータで用いて算出されるアミノ酸配列間の同一性を意味してもよい。相同性は70%以上であればよく、80%以上、90%以上、または95%以上の相同性を有していてもよい。
【0018】
なお前述したAMV逆転写酵素はβ鎖と呼ばれるポリペプチドである。一方、AMV逆転写酵素にはβ鎖よりも低分子のポリペプチドであるα鎖も存在する。AMV逆転写酵素α鎖の一例として、
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基からなるポリペプチドや、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基中の1もしくは数個の位置での、1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上さらに生じ、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性を有するポリペプチドや、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち8番目のスレオニンから579番目のチロシンまでのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該アミノ酸残基に対して70%以上の相同性を有し、かつ逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性を有するポリペプチド、があげられる。
【0019】
前記(ii)の一例として、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうちN末端側572残基からなるポリペプチドである、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドがあげられる。
【0020】
AMV逆転写酵素は、前述したβ鎖のモノマーやホモダイマー、前述したα鎖のモノマーやホモダイマー、ならびにα鎖とβ鎖とのヘテロダイマー(以下、「αβ体」とも表記する)などを構成することが知られているが、本発明のベクターを用いて宿主で発現させるAMV逆転写酵素はこれらのいずれの形態を有していてもよい。
【0021】
本発明では、AMV逆転写酵素の末端(N末端および/またはC末端)に、少なくとも2残基以上20残基以下の、好ましくは3残基以上15残基以下の、より好ましくは3残基以上10残基の、さらにより好ましくは4残基以上6残基以下の、連続したリジン残基を含むポリペプチド(融合タグ)を付加した態様で前記酵素を発現させることを特徴としており、前記酵素を大量に発現できる。
【0022】
連続したリジン残基が2残基以上存在し、かつAMV逆転写酵素の大量発現という機能を有している限り、当該融合タグに存在する連続したリジン残基の内部および/または末端に、リジン残基以外のアミノ酸残基を挿入しても良い。ただし融合タグのアミノ酸残基数が多すぎると、前記酵素の機能や特性、立体構造などに影響を及ぼす恐れがあるため、前記リジン残基以外のアミノ酸残基数は少ない方が好ましい。
【0023】
融合タグを付加する位置は、AMV逆転写酵素のN末端またはC末端のいずれか一方でも良く、N末端およびC末端の両末端に付加しても良いが、N末端のみに付加すると前記融合タグの効果(AMV逆転写酵素発現量向上)が最も発揮できる点で、好ましい。
【0024】
本発明では、融合タグに柔軟性を持たせることや、融合タグとAMV逆転写酵素との間に距離を置き相互作用を防止することなどを目的に、前記融合タグとAMV逆転写酵素との間に任意のポリペプチド(リンカー)を挿入しても良い。リンカーの長さは特に限定しないが、前述したリンカーの効果を発揮し、かつ融合タグやAMV逆転写酵素の機能や特性に与える影響を低くする点から、1残基以上5残基以下、好ましくは1残基以上3残基 以下からなるリンカーが例示できる。リンカーのアミノ酸配列についても特に限定はなく、一般的な例としてグリシン、セリン、および/またはプロリンを用いたリンカー配列が例示される。なお融合タグやAMV逆転写酵素の機能・特性に与える影響を低くする点から、立体障害が少なく柔軟性が高いグリシンやセリンを用いたリンカー(GSリンカー)やグリシンの繰り返し配列などが好ましく、グリシン2残基からなるリンカーがより好ましい。
【0025】
本発明における融合タグを付加したAMV逆転写酵素は、その機能を損ねない範囲で、前記融合タグ以外のタグペプチドを、前記酵素の末端(N末端および/またはC末端)にさらに有しても良い。前記タグペプチドの一例として、分析・精製を容易にするためのタグペプチド(ヒスチジンタグ、FLAGタグなど)や、大腸菌での分泌発現を促すためのシグナルペプチド(OmpAシグナルペプチド、PelBシグナルペプチドなど)、ベクターの開始コドン(メチオニン)やマルチクローニングサイト(メチオニン-グルタミン酸-フェニルアラニン)由来のペプチドなどがあげられる。
【0026】
本発明においてAMV逆転写酵素をコードするポリヌクレオチド(以下、AMV逆転写酵素遺伝子とも表記する)とは、当該酵素と実質的に同一なタンパク質を発現可能な範囲で、当該遺伝子のヌクレオチド配列と実質的に相同的な配列を含む遺伝子であってもよいし、当該遺伝子のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能な配列を含む遺伝子であってもよい。ここで「AMV逆転写酵素と実質的に同一なタンパク質」とは、具体的には、AMV逆転写酵素が有する3つの酵素活性(逆転写酵素活性、DNAポリメラーゼ活性およびRNase H活性)のうち少なくとも1つが、天然型AMV逆転写酵素と同等以上の活性を有するタンパク質のことをいう。例えば、AMVが本来有するAMV逆転写酵素遺伝子のヌクレオチド配列と、少なくとも70%以上(好ましくは80%以上、90%以上、または95%以上)の相同性を有したヌクレオチド配列を含む遺伝子から翻訳されたタンパク質であってよい。またここで「ストリンジェントな条件」とは、通常の状態と比較してDNA同士が二重鎖を形成し難い条件をいい、具体的には、42℃で、50%(v/v)ホルムアミド、0.1%(w/v)Bovine Serum Albumin(BSA)、0.1%(w/v)フィコール(商品名)、0.1%(w/v)ポリビニルピロリドン、50mmol/Lリン酸ナトリウムバッファー(pH6.5)、150mmol/L塩化ナトリウム、または75mmol/Lクエン酸ナトリウムが共存する条件が例示できる。
【0027】
本発明におけるAMV逆転写酵素遺伝子の一例として、
AMV逆転写酵素(β鎖)である、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードし、かつ宿主である大腸菌におけるコドン使用頻度に最適化されたポリヌクレオチド(配列番号4)や、
AMV逆転写酵素α鎖である、配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードし、かつ宿主である大腸菌におけるコドン使用頻度に最適化されたポリヌクレオチド(配列番号5)があげられる。
【0028】
本発明のベクターにおけるAMV逆転写酵素遺伝子の位置は、プラスミドベクターの複製機能、所望の抗生物質マーカー、または伝達性に関わる領域を破壊しない範囲で適宜設定してよい。挿入するプラスミドベクターは、形質転換する大腸菌内で安定に存在し、複製できるものであれば特に制限はない。プラスミドベクターの具体例として、大腸菌内で安定に存在し複製できるプラスミドベクターとして知られている、pTrc系プラスミドベクター、pUC系プラスミドベクター、pBR系プラスミドベクター、pET系プラスミドベクター、広宿主域(Broad-Host-Range)プラスミドベクターがあげられる。その中でもpTrc系プラスミドベクターであるpTrc99Aは、形質転換した大腸菌内で安定に存在できるため、好ましい。
【0029】
本発明のベクターは、前記AMV逆転写酵素をコードするポリヌクレオチドの5’末端および/または3’末端に、前述した融合タグ(以降、「融合タグ」は前述したリンカーをさらに挿入した態様も含む)をコードするポリヌクレオチドを付加していることを特徴としている。なお本発明のベクターを用いてαβ体のAMV逆転写酵素を発現させる場合、AMV逆転写酵素α鎖の遺伝子と同酵素β鎖の遺伝子とを、本発明の形質転換体内で共発現させてもよい。この場合、前記α鎖遺伝子および前記β鎖遺伝子の双方に前述した融合タグをコードするポリヌクレオチドを付加しても良いし、前記α鎖遺伝子の発現量と前記β鎖遺伝子の発現量とのバランスを調整する目的などから、どちらか一方にのみ前述した融合タグをコードするポリヌクレオチドを付加しても良い。また、αβ体のAMV逆転写酵素を製造する方法として、後述した方法でAMV逆転写酵素β鎖遺伝子を含む本発明のプラスミドベクターで形質転換して得られた組換え大腸菌(形質転換体)を用いて、AMV逆転写酵素β鎖を発現後、大腸菌の内在性のプロテアーゼによってα鎖を形成することで、αβ体を製造する方法もあげられ、当該方法は本発明のベクター構築が容易な点で好ましい。
【0030】
本発明のベクターは、大腸菌内でAMV逆転写酵素を発現させるためのベクターである。当該大腸菌の好ましい態様として、大腸菌MV1184株(ATCC 47108)、大腸菌GM31株(NBRP ME7741)、大腸菌HB101株(ATCC 33694)、大腸菌JM101株(NBRP ME9043)および大腸菌W3110株(ATCC 27325)があげられる。なお前述した大腸菌に対し、ニトロソグアニジンやメタンスルホン酸エチル等の化学物質、紫外線、放射線等の従来公知の手段により変異処理した大腸菌変異株を使用してもよい。
【0031】
本発明のベクターを用いて大腸菌を形質転換するには、公知の方法(例えば、Method in Enzymology,216,469-631,1992,Academic PressやMethod in Enzymology,204,305-636,1991,Academic Pressに記載の方法)で行なえばよい。
【0032】
前述した方法で得られた本発明の形質転換体の培養は、公知の方法を利用すればよく、例えばLB(Luria-Bertani)培地や2YT培地を用いる方法があげられる。なお本発明のベクターに薬剤耐性遺伝子を有している場合、当該遺伝子に対応した薬剤を選抜剤として培地に添加すると、本発明の形質転換体を選択して培養できる点で好ましい。例えば、本発明のベクターがアンピシリン耐性遺伝子を有している場合、培地にアンピシリンやカルベニシリンを添加すればよい。また培地には、炭素、窒素、無機塩や、適当な栄養源を添加してもよい。培養温度は、例えば10℃以上40℃以下の範囲であればよく、好ましくは25℃以上37℃以下の範囲、より好ましくは37℃付近である。pHは例えば5.9以上8.1以下の範囲であればよく、好ましくはpH6.0付近である。培養時間は、例えば3時間以上であればよく、好ましくは16時間以上、より好ましくは50時間以上、さらに好ましくは72時間以上である。
【0033】
本発明のベクターがtrcプロモーターなど誘導性のプロモーターを有している場合、IPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)などの誘導剤を培地に添加し、AMV逆転写酵素の発現を誘導してもよい。この場合、培養開始時に誘導剤を添加してAMV逆転写酵素の発現を誘導させてもよいし、良好なAMV逆転写酵素の生産性が得られる程度まで菌体を増殖させた後に誘導剤を添加し、AMV逆転写酵素の発現を誘導させてもよい。好ましくは、培養液の濁度(660nmにおける吸光度)が概ね0.1以上20.0以下を示す増殖期間、より好ましくは濁度が0.5以上10.0以下を示す増殖期間に、誘導剤を添加する誘導操作を行ない、引き続き培養する方法が例示できる。IPTGの添加濃度は、一例として終濃度で概ね0.1mmol/L以上10.0mmol/L以下の範囲の中から適宜選択すればよいが、好ましくは1.0mmol/L以上10.0mmol/L以下の範囲、より好ましくは5.0mmol/L付近である。なお、誘導操作後(誘導剤添加後)の培養温度を大腸菌の至適培養温度よりも低い温度まで下げると好ましく、具体的には10℃以上30℃以下の範囲、より好ましくは15℃以上25℃以下の範囲、さらにより好ましくは25℃付近である。具体的には、特開2014-113106号公報に記載の方法を用いると、AMV逆転写酵素を効率的に生産できる点で好ましい。
【0034】
前述した方法で得られた形質転換体の培養液からAMV逆転写酵素を抽出するには、当該形質転換体による発現の形態によって、適宜抽出方法を選択すればよい。例えば、発現したAMV逆転写酵素が大腸菌内に蓄積する場合は遠心分離操作等により菌体を集めた後、酵素処理剤や超音波破砕等により菌体を破砕して抽出すればよい。なお前記抽出段階では核酸など種々の夾雑物が混在しているが、ストレプトマイシン塩酸塩やポリエチレンイミン(商品名:ポリミンP)などの除核酸剤を添加し、前記核酸と共沈させることで、効率的にAMV逆転写酵素を沈澱回収できる。さらに、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーといったクロマトグラフィーを単独または組み合わせて適用することにより、AMV逆転写酵素を高純度に精製できる。クロマトグラフィーを用いたAMV逆転写酵素精製の一例として、ポリプロピレングリコール基を導入した疎水性相互作用クロマトグラフィーを用いてAMV逆転写酵素を精製後、ホスホセルロース担体を用いたイオン交換クロマトグラフィーを用いてさらに精製することで、AMV逆転写酵素α鎖と、AMV逆転写酵素β鎖と、αβ体のAMV逆転写酵素とを、分離精製できる。
【発明の効果】
【0035】
本発明のベクターは、トリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素をコードするポリヌクレオチドの5’末端および/または3’末端に、少なくとも2残基以上20残基以下の連続したリジン残基を含む融合タグをコードするポリヌクレオチドを付加していることを特徴としている。本発明のベクターで大腸菌を形質転換して得られる形質転換体(組換え大腸菌)は、従来のベクターで形質転換して得られる形質転換体と比較し、前記酵素の発現量が増大している。したがって本発明により、AMV逆転写酵素の工業的な製造に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】実施例および比較例で用いたプラスミドベクターにより発現されるトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素の構造を示す図である。
図2】AMV逆転写酵素の発現量を、ウェスタンブロッティングで解析した結果を示す図である。なお発現量は、融合タグを付加しなかったとき(比較例2)の前記酵素の発現量(ウェスタンブロッティングでのバンド輝度)を1とした、相対値で示している。
【実施例0037】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら例に限定されるものではない。
【0038】
実施例1 遺伝子組換え大腸菌を用いたトリ骨髄芽細胞腫ウイルス(AMV)逆転写酵素発現(融合タグ:5残基連続したリジン残基)
(1)以下に示す方法でAMV逆転写酵素を発現するためのベクターを調製した。
(1-1)配列番号4に記載のヌクレオチド配列からなるAMV逆転写酵素β鎖遺伝子の5’末端に開始コドン(ATG)を、3’末端に終止コドン(TAA)を、それぞれ付加したポリヌクレオチドを合成した。
(1-2)あらかじめ制限酵素EcoRIおよびKpnIで消化したpTrc99Aプラスミドベクターに、(1)で合成したポリヌクレオチドを挿入し、プラスミドベクターpAMVbを調製した。
(1-3)Q5 Site-Directed Mutagenesis Kit(New England BioLabs)を用いて、(1-2)で調製したpAMVbに、5残基連続したリジン残基を含む融合タグをコードするポリヌクレオチドを挿入することで、AMV逆転写酵素を発現するためのプラスミドベクターを構築した。なお構築したプラスミドベクターのうち、AMV逆転写酵素β鎖遺伝子の3’末端に、5残基連続したリジン残基を含む融合タグ(配列番号6)をコードするポリヌクレオチド(配列番号7)を挿入したプラスミドベクターをpAMVb-C5Kと命名し、AMV逆転写酵素β鎖遺伝子の5’末端に、5残基連続したリジン残基を含む融合タグ(配列番号8)をコードするポリヌクレオチド(配列番号9)を挿入したプラスミドベクターをpAMVb-N5Kと命名する(表1)。
【0039】
【表1】
【0040】
(2)(1)で得られたプラスミドベクターを用いて大腸菌W3110株を形質転換し、AMV逆転写酵素発現大腸菌を作製した。作製した前記大腸菌が発現する、AMV逆転写酵素の構造を図1に示す。
【0041】
(3)(2)で作製したAMV逆転写酵素生産大腸菌を、適量のカルベニシリンを含む2YT培地(トリプトン 16g/L、酵母エキス 10g/L、塩化ナトリウム 5g/L)3mLに植菌し、30℃、150rpmで一晩前培養した。
【0042】
(4)(3)の前培養液0.2mLを、適量のカルベニシリンを含む2YT-PNa培地(トリプトン 16g/L、酵母エキス 10g/L、リン酸二水素ナトリウム・二水和物 14.5g/L、リン酸水素二ナトリウム・十二水和物 2.5g/L)20mLに植菌し、37℃、150rpmで3時間培養した。
【0043】
(5)IPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)を終濃度5mmol/Lとなるように添加し、25℃、150rpmでさらに3日間培養した。
【0044】
(6)培養液を遠心分離し、AMV逆転写酵素を発現した大腸菌を回収した。
【0045】
(7)(6)で回収した大腸菌が発現したAMV逆転写酵素の量を、以下に示す方法で評価した。
(7-1)(6)で回収した各大腸菌を、破砕バッファー(グリセロール 10%(w/v)、リン酸カリウム 20mmol/L、ジチオトレイトール 4mmol/L、pH7.2)2mLに懸濁し、超音波破砕機UD-100(トミー精工)で破砕した。
(7-2)(7-1)で得られた菌体破砕液を、ジチオトレイトールを含むSDS-PAGEサンプル緩衝液に添加し、98℃で5分間熱処理後、5%(w/v)から20%(w/v)濃度勾配SDS-ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動した。
(7-3)電気泳動後、トランスブロットTurbo転写システム(Bio-Rad)を用いて、ゲル中のタンパク質をPVDF(ポリフッ化ビニリデン)メンブレンに転写した。
(7-4)(7-3)のメンブレンに対して、1次抗体として抗AMV逆転写酵素ラビットポリクローナル抗体を、2次抗体として抗ラビットIgG抗体-HRP(Bethyl)を、発色試薬としてSuper Signal West Pico PLUS(サーモフィッシャー)を用いて染色し、ウェスタンブロッティング解析を実施した。
(7-5)(7-4)で染色したメンブレンを、Amersham ImageQuant 800(Cytiva)を用いて撮影し、画像解析ソフトImageQuant TL(Cytiva)を用いて各バンドの輝度を定量解析した。
【0046】
比較例1 遺伝子組換え大腸菌を用いたAMV逆転写酵素発現(融合タグ:5残基連続したアルギニン残基)
実施例1(1-3)でpAMVbに挿入する、融合タグをコードするポリヌクレオチドとして、5残基連続したアルギニン残基を含む融合タグをコードするポリヌクレオチドとした他は、実施例1と同様な方法で、AMV逆転写酵素を発現するためのプラスミドベクターを構築し、前記酵素を発現可能な大腸菌を作製し、前記酵素を発現させた。
【0047】
なお構築したプラスミドベクターのうち、AMV逆転写酵素β鎖遺伝子の3’末端に、5残基連続したアルギニン残基を含む融合タグ(配列番号10)をコードするポリヌクレオチド(配列番号11)を挿入したプラスミドベクターをpAMVb-C5Rと命名し、AMV逆転写酵素β鎖遺伝子の5’末端に、5残基連続したアルギニン残基を含む融合タグ(配列番号12)をコードするポリヌクレオチド(配列番号13)を挿入したプラスミドベクターをpAMVb-N5Rと命名する(表1)。また本例で作製したAMV逆転写酵素発現大腸菌が発現する、AMV逆転写酵素の構造を図1に示す。
【0048】
比較例2 遺伝子組換え大腸菌を用いたAMV逆転写酵素発現(融合タグなし)
実施例1(2)で形質転換に用いるプラスミドベクターとして、pAMVbを用いた他は、実施例1と同様な方法で、AMV逆転写酵素を発現するためのプラスミドベクターを構築し、前記酵素を発現可能な大腸菌を作製し、前記酵素を発現させた。なお本例で作製したAMV逆転写酵素発現大腸菌が発現する、AMV逆転写酵素の構造を図1に示す。
【0049】
ウェスタンブロッティング解析に基づく、実施例1ならびに比較例1および2で得られたAMV逆転写酵素発現大腸菌による前記酵素の発現量を比較した結果を図2に示す。なお図2において発現量は、pAMVb(融合タグなし、比較例2)で形質転換して得られたAMV逆転写酵素発現大腸菌での発現量(バンドの輝度に相当)を1とした相対値で表している。連続したリジン残基を含む融合タグ(C末端:配列番号6、N末端:配列番号8)をAMV逆転写酵素(実施例1)の末端に付加することで、融合タグなしのAMV逆転写酵素(比較例2)と比較し、AMV逆転写酵素の発現量が向上した。特に、前記融合タグをAMV逆転写酵素のN末端に付加して発現させる(pAMVb-N5K、融合タグ:配列番号8)と、AMV逆転写酵素の発現量がさらに向上した。以上の結果から、AMV逆転写酵素の末端(N末端および/またはC末端)に、少なくとも2残基以上20残基以下の連続したリジン残基を含む融合タグを付加することで、前記酵素の発現量が向上することがわかる。
【0050】
一方、連続したアルギニン残基を含む融合タグ(C末端:配列番号10、N末端:配列番号12)をAMV逆転写酵素の末端に付加すると(比較例1)、融合タグなしのAMV逆転写酵素(比較例2)と比較し、AMV逆転写酵素の発現量が減少した。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のベクターにより、大腸菌宿主を用いたAMV逆転写酵素の大量発現が可能となるため、工業規模でのAMV逆転写酵素の製造を効率的に行なえる。
図1
図2
【配列表】
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