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特開2023-158420水酸基および(メタ)アクリル基含有シロキサンの精製方法、並びに、水酸基および(メタ)アクリル基含有シロキサン組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158420
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】水酸基および(メタ)アクリル基含有シロキサンの精製方法、並びに、水酸基および(メタ)アクリル基含有シロキサン組成物
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/12 20060101AFI20231023BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20231023BHJP
【FI】
C07F7/12 X
A61L27/16
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068236
(22)【出願日】2022-04-18
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】岡村 薫
【テーマコード(参考)】
4C081
4H049
【Fターム(参考)】
4C081AB21
4C081BB01
4C081BB03
4C081CA081
4C081CA271
4C081EA05
4H049VN01
4H049VP03
4H049VQ30
4H049VQ79
4H049VR22
4H049VR23
4H049VR41
4H049VR42
4H049VS03
4H049VT17
4H049VU06
4H049VV02
4H049VW01
4H049VW02
4H049VW05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、水酸基および(メタ)アクリル基含有シロキサンを高純度、かつ高収率で製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、下記式(I)で表される(メタ)アクリル基含有シロキサンと、該シロキサン及び/又は該シロキサンの原料化合物由来の不純物とを含む混合物を、1分子中に1個以上のニトロキシルラジカルを有し且つ分子量160~2,000を有する重合禁止剤の存在下で減圧蒸留に付して前記不純物を除去する工程を含む、前記(メタ)アクリル基含有シロキサンの精製方法を提供する。

(式中、R’は水素原子又はメチル基であり、Lは、水酸基を少なくとも1つ有しエーテル結合を有してよい2価炭化水素基であり、Aはオルガノ(ポリ)シロキサン残基である)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される(メタ)アクリル基含有シロキサンと、該シロキサン及び/又は該シロキサンの原料化合物由来の不純物とを含む混合物を、1分子中に1個以上のニトロキシルラジカルを有し且つ分子量160~2,000を有する重合禁止剤の存在下で減圧蒸留に付して前記不純物を除去する工程を含む、前記(メタ)アクリル基含有シロキサンの精製方法
【化1】
(式中、R’は水素原子又はメチル基であり、Lは、水酸基を少なくとも1つ有しエーテル結合を有してよい2価炭化水素基であり、Aはオルガノ(ポリ)シロキサン残基である)。
【請求項2】
上記式(I)で表される(メタ)アクリル基含有シロキサンを純度95%以上で得ることを特徴とする、請求項1記載の精製方法。
【請求項3】
Aが下記式(II)又は(II’)で表される、請求項1記載の精製方法。
【化2】
(式中、Rは、互いに独立に、炭素数1~6の1価炭化水素基であり、nは0~10の整数であり、aは0~10の整数であり、bは0~10の整数であり、cは0~10の整数であり、ただしa+b+cは2以上である。**で示される部位は前記式(I)中のLとの結合箇所である。破線は結合手を表す)。
【請求項4】
前記一般式(II)又は(II’)において、Rが、互いに独立に、メチル基又はブチル基であり、nが4であり、aが1であり、bが1であり、cが0である、請求項3記載の精製方法。
【請求項5】
前記一般式(I)において、Lが下記式(1)~(4)及び(1’)~(4’)のいずれかである、請求項1記載の精製方法
【化3】
(式中、*で示される部位は前記式(I)中の酸素原子との結合箇所であり、**で示される部位は前記式(I)中のAとの結合箇所である。破線は結合手を表す)。
【請求項6】
前記一般式(I)において、Lが下記式(1)~(4)及び(1’)~(4’)のいずれかである、請求項3記載の精製方法
【化4】
(式中、*で示される部位は前記式(I)中の酸素原子との結合箇所であり、**で示される部位は前記式(I)中のAとの結合箇所である。破線は結合手を表す)。
【請求項7】
前記重合禁止剤が、下記(a)、(a’)または(b)で示される化合物である、請求項1~6のいずれか1項記載の精製方法
【化5】
(式中、Rは、水素原子、または炭素数2~10のアシル基であり、kは2~10である)。
【請求項8】
前記重合禁止剤が下記式(5)で示される、請求項7記載の精製方法。
【化6】
【請求項9】
前記不純物が、1分子中に水酸基を2つ有するシロキサン、1分子中に(メタ)アクリル基を2つ有するシロキサン、及び1分子中にエポキシ基を1つ有するシロキサンから選ばれる1以上である、請求項1~6のいずれか1項記載の精製方法。
【請求項10】
前記不純物が、1分子中に水酸基を2つ有するシロキサン、1分子中に(メタ)アクリル基を2つ有するシロキサン、及び1分子中にエポキシ基を1つ有するシロキサンから選ばれる1以上である、請求項7記載の精製方法。
【請求項11】
上記式(1)で表される化合物を160℃以上の温度下で減圧蒸留する、請求項1~6のいずれか1項記載の精製方法。
【請求項12】
上記式(1)で表される化合物を160℃以上の温度下で減圧蒸留する、請求項7記載の精製方法。
【請求項13】
下記式(I)で表される(メタ)アクリル基含有シロキサンを含む組成物であり、
【化7】
(式中、R’は水素原子又はメチル基であり、Lは、水酸基を少なくとも1つ有しエーテル結合を有してよい2価炭化水素基であり、Aはオルガノ(ポリ)シロキサン残基である)
上記式(I)で示される(メタ)アクリル基含有シロキサンの含有量が組成物中に95質量%以上であり、下記(B)成分、(C)成分、及び(D)成分の量が、組成物中に夫々0.5質量%以下である、前記組成物
(B)1分子中に水酸基を2つ有するシロキサン
(C)1分子中に(メタ)アクリル基を2つ有するシロキサン
(D)1分子中にエポキシ基を1つ有するシロキサン。
【請求項14】
前記(D)成分の量が組成物中に0質量%である、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
Aが下記式(II)又は(II’)で表される基である、請求項13記載の組成物
【化8】
(式中、Rは、互いに独立に、炭素数1~6の1価炭化水素基であり、nは0~10の整数であり、aは0~10の整数であり、bは0~10の整数であり、cは0~10の整数であり、ただしa+b+cは2以上であり、**で示される部位は前記式(I)中のLとの結合箇所であり、破線は結合手を表す)。
【請求項16】
前記一般式(II)又は(II’)において、Rが、互いに独立に、メチル基又はブチル基であり、nが4であり、aが1であり、bが1であり、cが0である、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
前記一般式(I)において、Lが下記式(1)~(4)、(1’)~(4’)のいずれかである、請求項15記載の組成物。
【化9】
(式中、*で示される部位は前記式(I)中の酸素原子との結合箇所であり、**で示される部位は前記式(I)中のAとの結合箇所であり、破線は結合手を表す)。
【請求項18】
上記式(I)で示される(メタ)アクリル基含有シロキサンの含有量が、Lの構造が異なる構造異性体の合計として組成物中に95質量%以上である、請求項17記載の組成物。
【請求項19】
請求項13~18のいずれか1項記載の(メタ)アクリル基含有シロキサン組成物を含む、医療用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水酸基および(メタ)アクリル基含有シロキサンの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用材料の製造用モノマーとして、様々なシロキサン化合物が知られている。例えば、下記式で示される水酸基と(メタ)アクリル基を有するシロキサン化合物:メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセロールメタクリレート(SiGMA)が特によく知られており、眼科デバイス用モノマーとして広く用いられている。
【化1】
【0003】
前記SiGMAは、メタクリル酸とエポキシ変性シロキサン化合物の付加反応により合成されるモノマーであり、分子内に水酸基を有するために良好な親水性を発現する。そのため、親水性モノマーである2-ヒドロキシエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミドやN-ビニル-2-ピロリドンとの相溶性に優れるという利点を有している。しかし、前記製造方法では、エポキシ変性シロキサン化合物の残存や生成する水酸基に由来する副反応やカルボン酸とシロキサン部分との副反応が避けられない。それゆえに、目的とするシロキサン化合物の純度が低下するという問題がある。
【0004】
これを回避する手段として、特許文献1には、グリセロールメタクリレートを有するアリル化合物を用いて、ヒドロシリル化により目的物を合成する方法が記載されている。該製造方法は、エポキシ変性シロキサン化合物の残存を避けられる等優れた手法であるが、存在する水酸基や(メタ)アクリル基に由来する副反応は避けられない。従って、依然として純度が低下する問題は解決できていない。
【0005】
また、特許文献2には、前記SiGMAを薄膜蒸留装置(短経路蒸留装置)にて精製する方法が記載されている。該方法は、高分子物の除去に有効であるが、単蒸留の原理上、目的物と沸点差が小さい物質を分留することはできない。また、多量の重合禁止剤が生成物に混入することが避けられない。すなわち、該方法でも純度の問題は解決できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2009-542674号公報
【特許文献2】特表2010-510316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、水酸基および(メタ)アクリル基を有するシロキサン化合物は、親水性モノマーとの相溶性に優れており、眼科用デバイス等を製造するのに好適である。
化合物を高純度に精製する方法として、蒸留が化学業界において広く用いられている。しかし、水酸基および(メタ)アクリル基含有シロキサンは沸点が高く、従来の蒸留方法では該物質の(メタ)アクリル基の重合が避けられなかった。また、水酸基と(メタ)アクリル基のエステル交換反応により蒸留中の純度低下が避けられず、更には生成する副生物による蒸留中のゲル化が引き起こされる課題が存在した。
このシロキサン化合物を用いた眼科用デバイスは、高酸素透過性を有することが知られているが、より高純度のものが求められている。それに伴って、前記水酸基および(メタ)アクリル基を有するシロキサン化合物を高純度、かつ高収率で製造する方法が求められている。
【0008】
本発明は、水酸基および(メタ)アクリル基含有シロキサンを高純度、かつ高収率で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、水酸基および(メタ)アクリル基含有シロキサンの製造方法において該シロキサンと該シロキサンの原料化合物由来の不純物を含む反応混合物を下記特定の構造を有する重合禁止剤の存在下で減圧蒸留することにより、目的構造を有する(メタ)アクリル基含有シロキサンを高純度及び高収率にて得ることができることを見出し、本発明を成すに至った。
【0010】
すなわち本発明は、下記式(I)で表される(メタ)アクリル基含有シロキサンと、該シロキサン及び/又は該シロキサンの原料化合物由来の不純物とを含む混合物を、1分子中に1個以上のニトロキシルラジカルを有し且つ分子量160~2,000を有する重合禁止剤の存在下で減圧蒸留に付して前記不純物を除去する工程を含む、前記(メタ)アクリル基含有シロキサンの精製方法を提供する。
【化2】
(式中、R’は水素原子又はメチル基であり、Lは、水酸基を少なくとも1つ有しエーテル結合を有してよい2価炭化水素基であり、Aはオルガノ(ポリ)シロキサン残基である)。
【0011】
好ましくは、前記重合禁止剤が、下記(a)、(a’)または(b)で示される化合物である、前記(メタ)アクリル基含有シロキサンの精製方法を提供する。
【化3】
(式中、Rは水素原子、または炭素数2~10のアシル基であり、kは2~10の整数である)。
【0012】
本発明はさらに、下記式(I)で表される(メタ)アクリル基含有シロキサンを含む組成物であり、
【化4】
(式中、R’は水素原子又はメチル基であり、Lは、水酸基を少なくとも1つ有しエーテル結合を有してよい2価炭化水素基であり、Aはオルガノ(ポリ)シロキサン残基である)
上記式(I)で示される(メタ)アクリル基含有シロキサンの含有量が組成物中に95質量%以上であり、下記(B)成分、(C)成分、及び(D)成分の量が、組成物中に夫々0.5質量%以下である、前記組成物を提供する。
(B)1分子中に水酸基を2つ有するシロキサン
(C)1分子中に(メタ)アクリル基を2つ有するシロキサン
(D)1分子中にエポキシ基を1つ有するシロキサン。
【発明の効果】
【0013】
本発明の精製方法によれば、上記式(I)で示される、水酸基および(メタ)アクリル基含有シロキサンを高純度にて製造することができる。本発明の製造方法により得られる水酸基および(メタ)アクリル基含有シロキサンは高純度であり、眼科用デバイスをはじめとする医療用材料として好適である。また、本発明の製造方法によれば、従来の方法よりも高収率で目的物が得られる。更に、蒸留精製工程後の蒸留釜内の残渣(釜残)もゲル化しづらいので、バッチ操作で蒸留を行う場合、次バッチへの移行がスムーズに行えて、製造時間の短縮にも繋がる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0015】
本発明の製造方法は、1分子中に1個以上のニトロキシルラジカルを有し且つ分子量160~2,000を有する重合禁止剤の存在下で、上記式(I)で表される(メタ)アクリル基含有シロキサン及び不純物を含む混合物を減圧蒸留することにより、該シロキサンを精製することを特徴とする。即ち、特定のニトロキシルラジカル構造を有する重合禁止剤が、水酸基と(メタ)アクリル基のエステル交換反応による蒸留中の純度低下を抑制し、副生物および(メタ)アクリル基の重合を抑制することで、水酸基および(メタ)アクリル基含有シロキサンの蒸留を可能にし、それにより水酸基および(メタ)アクリル基含有シロキサンを高純度、かつ高収率で得ることができる。不純物とは、上記シロキサン由来の化合物及び/又は上記シロキサンの原料化合物由来の化合物であり、例えば、同一分子内に2つの水酸基を有するシロキサンや、2つの(メタ)アクリル基を有するシロキサン、一分子中にエポキシ基を1つ有するシロキサンが挙げられる。
【0016】
上記式(I)において、R’は水素原子又はメチル基である。Lは、水酸基を少なくとも1つ有しエーテル結合を有してよい2価炭化水素基であり、好ましくは、炭素数4~20のアルキレン基、または、官能基鎖の途中にエーテル結合を有する炭素数4~20のオキシアルキレン基から選ばれる基である。Lは、官能基鎖の途中に水酸基を1つ以上有する。
【0017】
Aはオルガノ(ポリ)シロキサン残基であり、好ましくは、下記式(II)又は(II’)で表される基である。
【化5】
式中、Rは、互いに独立に炭素数1~6の1価炭化水素基であり、nは0~10の整数であり、aは0~10の整数であり、bは0~10の整数であり、cは0~10の整数であり、ただしa+b+cは2以上である。**で示される部位は前記式(I)中のLとの結合箇所である。破線は結合手を表す。
【0018】
上記式(I)において、R’は水素原子又はメチル基である。好ましくはメチル基である。
【0019】
上記式(I)において、Lは、好ましくは炭素数4~20、より好ましくは4~10のアルキレン基、または官能基鎖の途中にエーテル結合を有する炭素数4~20、好ましくは4~10のオキシアルキレン基から選ばれる基である。Lは、水酸基を少なくとも1つ有する。
例えば、下記式(1)~(4)及び(1’)~(4’)のいずれかである。
【化6】
式中、*で示される部位は前記式(I)中の酸素原子との結合箇所であり、**で示される部位は前記式(I)中のAとの結合箇所である。破線は結合手を表す。
【0020】
上記式(1)~(4)を有する化合物と上記式(1’)~(4’)を有する化合物とは、それぞれ相対する番号が構造異性体の関係にある。本発明の精製方法によって得られる化合物は、これら構造異性体の混合物であってもよい。
【0021】
上記式(II)及び(II’)において、Rは、互いに独立に、炭素数1~6の1価炭化水素基である。1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、及びシクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基等のアリール基等が挙げられる。Rは、好ましくは炭素数1~4のアルキル基であり、更に好ましくはメチル基又はブチル基である。ブチル基は、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基があるが、n-ブチル基が特に好ましい。好ましくは式(II)において末端にあるケイ素原子に結合するRがn-ブチル基であるのがよい。
【0022】
上記式(II)において、nは0~10の整数である。nは、好ましくは0~4であり、特に好ましくは4である。
【0023】
上記式(II’)において、aは0~10の整数であり、bは0~10の整数であり、cは0~10の整数であり、ただしa+b+cは2以上であり、好ましくは2~20である。a、b、cは、好ましくは0~4であり、特に好ましくはaが1であり、bが1であり、cが0である。
【0024】
上記式(I)で示される(メタ)アクリル基含有シロキサンの合成方法は特に制限されず、従来公知の方法に従い行うことができる。例えば、エポキシ基を有するオルガノ(ポリ)シロキサンと、アクリル酸又はメタクリル酸とを、アクリル酸またはメタクリル酸のアルカリ金属塩の存在下で反応させる方法や、ハイドロジェンシロキサンと(メタ)アクリル基と水酸基を含有する不飽和化合物とを反応させる方法などである。
【0025】
(メタ)アクリル基と水酸基を含有する不飽和化合物とは、好ましくは上述したLの構造を与えるものであればよい。例えば、下記で示される水酸基を少なくとも1つ有する化合物が挙げられる。
【化7】
(R’は水素原子又はメチル基である)
【0026】
ハイドロジェンシロキサンとしては、好ましくは上述したAの構造を与えるものであればよい。例えば、ケイ素原子数2~20、より好ましくは1~12、より好ましくは3~6の直鎖状オルガノハイドロジェンシロキサンであり、ケイ素原子に結合する水素原子を1つ有するのがよい。例えば、1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチルトリシロキサン(MHM)、1-ブチル-1,1,2,2,3,3,4,4,5,5-デカメチルヘプタシロキサン(BD3H)が挙げられる。
【0027】
エポキシ基を含有するオルガノ(ポリ)シロキサンとしては、上述したA-L-の構造を与えるものであればよい。例えば、下記が挙げられる。
【化8】
【化9】
【0028】
本発明は、1分子中に1個以上のニトロキシルラジカルを有し且つ分子量160~2,000を有する重合禁止剤の存在下で、上記式(I)で示される(メタ)アクリル基含有シロキサンと不純物との混合物を減圧蒸留に付して前記不純物を除去する工程を含む、前記(メタ)アクリル基含有シロキサンの精製方法を提供する。
【0029】
本発明の重合禁止剤とは、下記式で示されるニトロキシラジカルを1分子中に1個以上有し、かつ分子量が160~2,000、好ましくは、200~1,000である化合物であることを特徴とする。分子量がこの範囲内であることで所望の沸点を確保できる。これにより、蒸留時に重合禁止剤の留出が抑制され、留出分への重合禁止剤の混入を抑制し、及び釜残の重合を効果的に抑制できる。分子量が大きすぎると、基質への溶解性が低下する恐れや、ニトロキシラジカル当量が小さくなることにより重合禁止能が低下する恐れがある。
【化10】
【0030】
前記重合禁止剤は、好ましくは下記(a)、(a’)または(b)で示される化合物である。
【化11】
(式中、Rは水素原子、または炭素数2~10のアシル基であり、kは2~10である)
【0031】
上記Rのアシル基の例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基などの飽和炭化水素含有アシル基、ベンゾイル基などの芳香族アシル基などが挙げられる。なお、アシル基の炭素数は、カルボニル炭素を含めた数とする。Rとしては、水素原子、アセチル基、ベンゾイル基が好ましい。
上記kは4~8が好ましく、6~8がより好ましい。
【0032】
本発明の重合禁止剤として、より詳細には、上記(a)で示す2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル残基を含む化合物であり、より詳細には、4-アセトアミド-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(分子量:213.30)、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(分子量:276.36)、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(分子量:172.25)や、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルと1,8-オクタンジカルボン酸との縮合物(エステル化物)である下記式(5)で示される化合物(分子量:510.72)等が挙げられる。
【化12】
【0033】
特に、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(分子量:172.25)、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(分子量:276.36)、及び上記式(5)で示される化合物が好ましい。さらに好ましくは上記式(5)で示される化合物である。
【0034】
上記化合物は1種単体でもよいし、複数種を併せて添加してもよい。添加する量は、ニトロキシルラジカルを有する重合禁止剤が、水酸基および(メタ)アクリル基含有シロキサンを含む組成物溶液に溶解する任意の濃度で良い。コスト的観点から、前記水酸基および(メタ)アクリル基含有シロキサンを含む溶液中の、前記水酸基および(メタ)アクリル基含有シロキサンの総質量に対して10~10,000ppm、好ましくは50~5,000ppm、より好ましくは100~2,000ppmである。前記濃度より低い濃度であると、重合禁止剤としての効果が薄く蒸留工程においてゲル化等を生じるおそれがある。また前記濃度より高い濃度である場合、蒸留塔内に析出が起こり塔内の清掃が必要になる場合があり、工業的に不利であるため好ましくない。
【0035】
上記重合禁止剤は従来公知の他の重合禁止剤と併せて使用してもよい。例えば4,4’-ブチリデンビス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、2,t-ブチル-ヒドロキシアニソールなどのヒンダートフェノール系重合禁止剤、2,5-ジ-t-アミル-ハイドロキノン、2,5-ジ-t-ブチル-ハイドロキノン、2-t-ブチル-ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、などのハイドロキノン系重合禁止剤などが挙げられる。
【0036】
ジフェニルアミン、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミン、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアンモニウム塩、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩などのアミン系重合禁止剤、フェノチアジンなどのフェノチアジン系重合禁止剤、ジメチルジチオカルバミン酸銅、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩などの金属系重合禁止剤は、水酸基および(メタ)アクリル基含有シロキサンの蒸留工程において、エステル交換反応を促進する恐れがあるため好ましくない。
【0037】
本発明の減圧蒸留は、従来公知の方法に従い行うことができる。たとえば、蒸留塔等を用いた精留や薄膜蒸留のような短経路蒸留であればよい。薄膜蒸留は、1回のみの処理でも良いし、同一か、或いは異なる条件で複数回処理を行ってもよい。減圧蒸留は、蒸留段数の観点から精留が好ましい。短経路蒸留のような単蒸留では目的物の分離が不十分で、好ましい純度が得られない恐れがある。また、これらの蒸留方法を2種以上併用して行ってもよい。
【0038】
減圧蒸留における温度は50~250℃が好ましく、100~220℃がより好ましい。前記下限値よりも低い温度で蒸留を行うと、圧力を低くする必要があり、不純物が減圧装置側に混入して真空度を下げる恐れがあるため好ましくない。上記範囲内にて、不純物分留時の温度と目的物分留時の温度を段階的に設定するのが好ましい。特には、上記式(1)で表される化合物は、160℃以上、好ましくは160℃以上250℃以下の温度下で分留するのが好ましい。また、前記上限値よりも高い温度で蒸留を行うと、前記水酸基および(メタ)アクリル基含有シロキサンのエステル交換反応による純度の低下および熱重合によるゲル化を生じるおそれがあるため好ましくない。
【0039】
減圧蒸留における圧力は任意に変更できるが、好ましくは666.6Pa(5Torr)以下が好ましく、より好ましくは266.6Pa(2Torr)以下である。前記圧力よりも高圧で蒸留を行うと、目的物を気化させるのに高温での加熱を要するために、前記エステル交換反応による純度の低下および熱重合によるゲル化を生じるおそれがあるため好ましくない。
【0040】
減圧蒸留の際、必要に応じて気体によるバブリングをしてもよい。バブリングにより気化物の滞留を抑制することができる。また、気体は、窒素、酸素、アルゴン、空気などが使用される。好ましくは酸素を含む気体であり、酸素による重合抑制効果も期待できる。
【0041】
本発明の精製方法により、目的とする水酸基および(メタ)アクリル基含有シロキサンを高い純度で得ることができる。高い純度を有する水酸基および(メタ)アクリル基含有シロキサンは、他のモノマーと重合させた際の重合物の品質を安定にし、また、重合後の未反応物を抑制する。これにより従来のシロキサンでは困難であった合成工程の合理化や精製工程の合理化などが可能となる。(メタ)アクリル基含有シロキサンの純度は、好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは96質量%以上である。本発明における(メタ)アクリル基含有シロキサンの純度は、上記式(I)で表されLの構造が異なる構造異性体を含んでよい。例えば、Lの構造が上述した式(1)で示される化合物と、Lの構造が上述した式(1’)で示される化合物の合計として、好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは96質量%以上であればよい。
【0042】
本発明の精製方法により得られる水酸基および(メタ)アクリル基含有シロキサンは、同一分子内に2つの水酸基を有するシロキサンや、2つの(メタ)アクリル基を有するシロキサンが少ないことが特徴である。同一分子内に(メタ)アクリル基を2つ有するシロキサンは、重合時の架橋成分となり、予期せぬ分子量増加を招く恐れがある。また、同一分子内に水酸基を2つ有するシロキサンは重合時の未反応物となる。好ましくは、これらのシロキサンがそれぞれ、(メタ)アクリル基含有シロキサンとこれらのシロキサンの合計質量に対して、0.5%以下であり、さらに好ましくはそれぞれ0.3%以下である。
【0043】
また、本発明の精製方法により得られる水酸基および(メタ)アクリル基含有シロキサンは、エポキシ基を含有するシロキサンが少ないことも特徴である。エポキシ基を含有するシロキサンは、(メタ)アクリル酸との縮合反応時の未反応物に由来する。好ましくは、エポキシ基を含有するシロキサンが、(メタ)アクリル基含有シロキサンとエポキシ基が含有シロキサンの合計質量に対して、0.5%以下であり、さらに好ましくは0.3%以下である。
【0044】
すなわち、本発明は、下記式(I)で表される(メタ)アクリル基含有シロキサンを含む組成物であり、
【化13】
(式中、R’は水素原子又はメチル基であり、Lは、水酸基を少なくとも1つ有しエーテル結合を有してよい2価炭化水素基であり、Aはオルガノ(ポリ)シロキサン残基である)
上記式(I)で示される(メタ)アクリル基含有シロキサンの含有量が組成物中に95質量%以上であり、下記(B)成分、(C)成分、及び(D)成分の量が、組成物中に夫々0.5質量%以下、さらに好ましくはそれぞれ0.3質量%以下である、前記組成物を提供する。
(B)1分子中に水酸基を2つ有するシロキサン
(C)1分子中に(メタ)アクリル基を2つ有するシロキサン
(D)1分子中にエポキシ基を1つ有するシロキサン。
特に好ましくは、前記(D)成分の量が組成物中に0質量%である。
【0045】
本発明の方法で得られる化合物は上述した不純物が少ないため、目的物である水酸基および(メタ)アクリル基含有シロキサンを、眼科用デバイスをはじめとする医療用材料として好適に用いることができる。なお、これらの不純物の量(%)は、後述する条件で測定したガスクロマトグラフィー分析で得られるクロマトグラムの面積%を指す。
【0046】
本発明の方法で得られる上記式(I)で示される(メタ)アクリル基含有シロキサンは、他のモノマーと共重合させて共重合体を製造することができる。他のモノマーとしては、アクリル系モノマー、例えば(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;アクリル酸誘導体、例えばN,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-アクリロイルモロホリン、N-メチル(メタ)アクリルアミド;N,N-ジメチルホルムアミド;その他の不飽和脂肪族もしくは芳香族化合物、例えばクロトン酸、桂皮酸、ビニル安息香酸;及び重合性基含有シリコーン化合物等が挙げられる。好ましくは、アクリル系モノマー及びアクリル酸誘導体である。上記他のモノマーから選ばれる1種以上と本発明のシリコーンを重合してポリマーを与える。
【0047】
本発明のシリコーンと他の重合性モノマーとから導かれる繰り返し単位を含む共重合体の製造において、本発明のシリコーンの配合割合は、本発明のシリコーンと他の重合性モノマーとの合計100質量部に対して、本発明のシリコーンの量が好ましくは1~70質量部、より好ましくは10~60質量部であるのがよい。尚、本発明のシリコーンを単独重合してポリマーを形成することもできる。
【0048】
本発明の化合物と上記他の重合性モノマーとの共重合は従来公知の方法により行えばよい。例えば、熱重合開始剤や光重合開始剤など既知の重合開始剤を使用して行うことができる。該重合開始剤としては、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどがあげられる。これら重合開始剤は単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。重合開始剤の配合量は、重合成分の合計100質量部に対して0.001~2質量部、好ましくは0.01~1質量部であるのがよい。
【0049】
本発明の化合物から導かれる繰返し単位を含む共重合体は、コンタクトレンズ(例えば、親水性コンタクトレンズ、シリコーンハイドロゲル)、眼内レンズ、人工角膜等の眼科デバイスを製造するのに好適である。該重合体を用いた眼科デバイスの製造方法は特に制限されるものでなく、従来公知の眼科デバイスの製造方法に従えばよい。例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズなどレンズの形状に成形する際には、切削加工法や鋳型(モールド)法などを使用できる。
【実施例0050】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
下記実施例及び比較例で行った分析方法は以下の通りである。
a.ガスクロマトグラフィー分析(GC)
i.装置とパラメータ
装置:Agilent製GC system 7890A型
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
カラム:J&W HP-5MS(0.25mm×30m×0.25μm)
キャリアガス:ヘリウム
一定流量:1.0mL/分
サンプル注入量:1.0μL
スプリット比:50:1
注入口温度:250℃
検出器温度:300℃
ii.温度プログラム
開始温度50℃。開始時間:2分間。勾配:10℃/分;
終了時温度:300℃(保持時間:15分間)。
iii.サンプル調製
サンプルをアセトンで5質量%に希釈し、GC用バイアル瓶に入れた。
b.H-NMR分析
i.装置とパラメータ
装置:JEOL ECS400
パルス取り込み時間:2.1秒
パルス緩和時間:5秒
積算回数:256回
ii.サンプル調製
サンプルを重クロロホルムで10質量%に希釈し、内径5mmNMRチューブに入れた。
【0052】
下記実施例および比較例に使用した使用した化合物は以下の通りである。
AHPM:下記(a)又は(b)で示される構造異性体の混合物((a):(b)=80:20)
【化14】
MHM:1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチルトリシロキサン
BD3H:1-ブチル-1,1,2,2,3,3,4,4,5,5-デカメチルヘプタシロキサン
【0053】
また、エポキシ基を含有するシロキサンとしては、下記式(6)~(9)で示されるシロキサンを用いた。
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【0054】
下記実施例および比較例に用いた重合禁止剤は下記の通りである。
重合禁止剤1: 下記式(5)で示される重合禁止剤(Mw=510.72)
【化19】
重合禁止剤2:4-アセトアミド-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(Mw=213.30、Am-TEMPO)
重合禁止剤3:4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(Mw=276.36、Bz-TEMPO)
比較用重合禁止剤4:2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)
比較用重合禁止剤5:スミライザーGA-80(GA-80、住友化学工業株式会社製:低揮発性フェノール系重合禁止剤)
比較用重合禁止剤6:4-メトキシナフトール(4-MN)
比較用重合禁止剤7:2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(Mw=156.25、TEMPO)
比較用重合禁止剤8:N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩(Q1301)
比較用重合禁止剤9:ジメチルジチオカルバミン酸銅(TTCU)
比較用重合禁止剤10:フェノチアジン
【0055】
[合成例1]
ジムロート、温度計を付けた5,000mLの三口丸底フラスコに、MHM1,000g、AHPM1,350g、塩化白金酸重曹中和物・ビニルシロキサン錯体のトルエン溶液(白金含有量0.5wt%)0.6gを添加し、100℃まで加熱し、6時間熟成した。反応後にn-ヘキサンを1,200g添加し、メタノール水溶液(メタノール:水=4:1)で8回洗浄し、内温80℃で溶媒を減圧留去することで無色透明液体を得た。得られた生成物は、下記式(10)で表される2種の構造異性体を含む反応混合物である。収量1,230g。
【化20】
【0056】
[合成例2]
合成例1においてMHMをBD3Hに変えた以外は合成例1の工程を繰り返し、下記式(11)で表される2種の構造異性体を含む反応混合物を得た。
【化21】
【0057】
[合成例3]
ジムロート、温度計を付けた5,000mLの三口丸底フラスコに、上記式(6)で表されるエポキシ基含有シロキサン1,000g、メタクリル酸757g、メタクリル酸ナトリウム96gを添加し、80℃まで加熱した。反応をGCにより追跡し、上記式(6)化合物の量が上記式(10)で表される2種の構造異性体を含む反応混合物に対して2%以下となったところで熟成を止め、室温まで冷却した。反応後にn-ヘキサンを1,000g添加し、4%水酸化ナトリウム水溶液で6回洗浄、次いで純水で3回洗浄後、内温80℃で溶媒を減圧留去することで無色透明液体を得た。得られた生成物は、上記式(10)で表される2種の構造異性体を含む反応混合物である。収量1,310g
【0058】
[合成例4]
合成例3において、反応をGCにより追跡し、上記式(6)で表されるエポキシ基含有シロキサンの量が上記式(10)で表される2種の構造異性体を含む反応混合物に対して0.1%以下となったところで熟成を止めた以外は合成例3の工程を繰り返し、無色透明液体を得た。得られた生成物は、上記式(10)で表される2種の構造異性体を含む反応混合物である。
【0059】
[合成例5]
合成例3においてエポキシ基含有シロキサンを上記化合物(7)で表されるエポキシ基含有シロキサンに変えた以外は合成例3の工程を繰り返し、下記式で表される2種の構造異性体を含む反応混合物(無色透明液体)を得た。
【化22】
【0060】
[合成例6]
合成例3においてエポキシ基含有シロキサンを上記化合物(8)で表されるエポキシ基含有シロキサンに変えた以外は合成例3の工程を繰り返し、下記式で表される2種の構造異性体を含む反応混合物(無色透明液体)を得た。
【化23】
【0061】
[合成例7]
合成例3においてエポキシ基含有シロキサンを上記化合物(9)で表されるエポキシ基含有シロキサンに変えた以外は合成例3の工程を繰り返し、下記式で表される2種の構造異性体を含む反応混合物(無色透明液体)を得た。
【化24】
【0062】
上記合成例1~7で得た反応混合物は、上記の目的化合物と、原料のエポキシ基含有シロキサン及び/または下記式(12)~(20)で示される化合物(以下、不純物という)との混合物であった。合成例で合成した反応混合物のGC分析結果を下記表1に示す。各反応混合物中の不純物の含有割合は下記表1の通りである。なお、表1において目的化合物の純度とは、反応混合物の総質量に対する上記式(I)におけるLの構造が異なる構造異性体の合計質量%である。
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
【化30】
【化31】
【0063】
【表1】
【0064】
[実施例1]
上記合成例1で得られた反応混合物1,000gに上記式(5)で表される重合禁止剤を1,000ppmとなる濃度で溶解した。ディクソンパッキン充填材(SUS304)を蒸留塔に充填した理論段数5段の蒸留装置を用いて下記条件で減圧蒸留を行った。減圧蒸留後、室温まで冷却した後に釜残の様子を観察し、下記指標で評価した。結果を表2に記載した。
A:流動性あり
B:一部流動性あり(半ゲル状)
C:流動性なし(完全ゲル化)
【0065】
条件1(前留)
目的物よりも低沸点の化合物を分留した。条件は以下の通りである。
真空度66Pa~400Pa、塔頂部温度20℃~180℃、溶液温度200℃以下、還流比1、蒸留時間2~4時間
条件2(本留)
本留にて目的物を得た。条件は以下の通りである。
真空度26Pa~266Pa、塔頂部温度160℃~200℃、溶液温度250℃以下、全留出、蒸留時間6~10時間
【0066】
実施例2~10及び比較例1~8についても、下記表2に示す化合物及び重合禁止剤を用いたほかは実施例1を繰り返して(メタ)アクリル基を有するシロキサン化合物を精製した。
なお、表2及び3において純度とは、上記本留で得た目的化合物の総質量に対する上記式(I)におけるLの構造が異なる構造異性体の合計質量%である。
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
表3に示す通り、フェノール系重合禁止剤を用いた比較例1~4の精製では、減圧蒸留中のシロキサンの重合が避けられず、得られた生成物の純度は低く、また蒸留収率も低く、釜残はゲル化した。TEMPOを用いた比較例5の精製では、TEMPOが減圧蒸留中に留出するために重合禁止能が不十分であり、得られた生成物の純度は低く、また蒸留収率も低く、釜残はゲル化した。
金属系またはアミン系重合禁止剤を用いた比較例6~8の精製では、重合禁止剤がエステル交換反応を促進するために混合物中の純度が低下することに加え、同一分子内に水酸基または(メタ)アクリル基を2つ有するシロキサンが増加し、得られた生成物の純度は低くなった。
【0070】
これに対し、表2の実施例1~10に示す通り、本発明の重合禁止剤を用いた精製は、減圧蒸留中のシロキサンの重合を効果的に抑制し、釜残をゲル化させることなく減圧蒸留を実施できる。また、重合禁止剤はエステル交換等の副反応を促進することが無いため、得られた生成物の純度は95%以上という高純度を有する。さらには、本発明の(メタ)アクリル基含有シロキサン製造方法は、工業的に不利な精製方法を必要とせず、簡便かつ高純度で、目的とする水酸基及び(メタ)アクリル基含有シロキサンを与える。
【0071】
[実施例11]
共重合体の製造
50mLのナスフラスコに実施例1で得た水酸基及び(メタ)アクリル基含有シロキサン10g、テトラヒドロフラン10g、N,N-ジメチルホルムアミド0.1g、アゾビスイソブチロニトリル0.002gを添加し、アルゴンを用いたバブリングによる脱気操作を5分間行った。次いで60℃まで加熱し、20時間熟成(重合)を行った。熟成後、反応溶液をH-NMRで測定し、N,N-ジメチルホルムアミドを内部標準とした(メタ)アクリル基のピーク面積値から重合率を算出した。結果を表4に示す。
【0072】
実施例12~20及び比較例9~16では、下記表4に示す化合物を用いた他は実施例11を繰り返して共重合体を製造した。
【0073】
【表4】
【0074】
上記表4に示す通り、比較例9、10、及び13の重合反応では、比較例1,2、5のシロキサンが減圧蒸留の際に生成物側に重合禁止剤が留出しているために重合を阻害していること、生成物の純度が低く非重合性の化合物が多いことから、重合率は低くなっている。また、比較例3,4、6~8のシロキサンは、生成物の純度が低く、更には架橋成分となり得る同一分子内に(メタ)アクリル基を2つ有するシロキサンが多いことから、これらを用いた比較例11、12、14~16の重合反応では、重合後の溶液はゲル化してしまい、期待した重合物を得ることができなかった。
これに対し、上記表4に示す通り、本発明の方法で得た95%以上の高純度を有するシロキサンを用いた実施例11~20の重合反応では、重合率は非常に高かった。
すなわち本発明により得られた、水酸基及び(メタ)アクリル基を有するシロキサン化合物は、未反応物が少なく、副反応を抑制できるため、工業的に不利な精製工程等を最小限に抑えることができる可能性があり有用である。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の製造方法によれば、高純度を有する水酸基及び(メタ)アクリル基を有するシロキサン化合物を高収率にて得ることができる。
【0076】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。

【手続補正書】
【提出日】2022-11-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される(メタ)アクリル基含有シロキサンと、該シロキサン及び/又は該シロキサンの原料化合物由来の不純物とを含む混合物を、1分子中に1個以上のニトロキシルラジカルを有し且つ分子量160~2,000を有する重合禁止剤の存在下で減圧蒸留に付して前記不純物を除去する工程を含む、前記(メタ)アクリル基含有シロキサンの精製方法であって、
【化1】
(式中、R’は水素原子又はメチル基であり、Lは、水酸基を少なくとも1つ有しエーテル結合を有してよい2価炭化水素基であり、Aはオルガノ(ポリ)シロキサン残基である)
前記重合禁止剤が、下記(a)、(a’)または(b)で示される化合物である、前記精製方法
【化5】
(式中、R は、水素原子、または炭素数2~10のアシル基であり、kは2~10である)。
【請求項2】
上記式(I)で表される(メタ)アクリル基含有シロキサンを純度95%以上で得ることを特徴とする、請求項1記載の精製方法。
【請求項3】
Aが下記式(II)又は(II’)で表される、請求項1記載の精製方法。
【化2】
(式中、Rは、互いに独立に、炭素数1~6の1価炭化水素基であり、nは0~10の整数であり、aは0~10の整数であり、bは0~10の整数であり、cは0~10の整数であり、ただしa+b+cは2以上である。**で示される部位は前記式(I)中のLとの結合箇所である。破線は結合手を表す)。
【請求項4】
前記一般式(II)又は(II’)において、Rが、互いに独立に、メチル基又はブチル基であり、nが4であり、aが1であり、bが1であり、cが0である、請求項3記載の精製方法。
【請求項5】
前記一般式(I)において、Lが下記式(1)~(4)及び(1’)~(4’)のいずれかである、請求項1記載の精製方法
【化3】
(式中、*で示される部位は前記式(I)中の酸素原子との結合箇所であり、**で示される部位は前記式(I)中のAとの結合箇所である。破線は結合手を表す)。
【請求項6】
前記一般式(I)において、Lが下記式(1)~(4)及び(1’)~(4’)のいずれかである、請求項3記載の精製方法
【化4】
(式中、*で示される部位は前記式(I)中の酸素原子との結合箇所であり、**で示される部位は前記式(I)中のAとの結合箇所である。破線は結合手を表す)。
【請求項7】
前記重合禁止剤が下記式(5)で示される、請求項記載の精製方法。
【化6】
【請求項8】
前記不純物が、1分子中に水酸基を2つ有するシロキサン、1分子中に(メタ)アクリル基を2つ有するシロキサン、及び1分子中にエポキシ基を1つ有するシロキサンから選ばれる1以上である、請求項1~のいずれか1項記載の精製方法。
【請求項9】
上記式(1)で表される化合物を160℃以上の温度下で減圧蒸留する、請求項1~のいずれか1項記載の精製方法。