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特開2023-158455細胞検査方法及び細胞検査装置並びにこれを用いた細胞製造方法及びこれにより得られる細胞
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158455
(43)【公開日】2023-10-30
(54)【発明の名称】細胞検査方法及び細胞検査装置並びにこれを用いた細胞製造方法及びこれにより得られる細胞
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20231023BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20231023BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20231023BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20231023BHJP
   G01N 27/72 20060101ALI20231023BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20231023BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALN20231023BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALN20231023BHJP
【FI】
C12Q1/04
C12M1/34 B
C12N5/074
G01N33/483 E
G01N27/72
C12N5/10
C12N5/0735
C12N5/0775
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068308
(22)【出願日】2022-04-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 大三
(72)【発明者】
【氏名】小山 珠美
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雅博
【テーマコード(参考)】
2G045
2G053
4B029
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045CB01
2G045FA36
2G045GC30
2G053AA04
2G053AB01
2G053BA08
2G053CA04
4B029AA07
4B029BB11
4B029CC02
4B029FA01
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ91
4B063QS31
4B063QS39
4B063QX04
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BA21
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】 再生細胞の製造途中において、常温域において、非侵襲的に、細胞の分化状態、異常増殖ないし癌化の有無、あるいはその他の将来的な癌化などの異常を派生しうる可能性のある細胞の有無を、個々の細胞個体レベルないしはその極小さな集合体レベルで評価することできる細胞検査方法及び細胞検査装置並びにこれを用いた細胞製造方法及びこれにより得られる細胞を提供する。
【解決手段】 生体細胞の磁気変化を計測することによって、細胞を検査する方法であって、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する磁気センサを用いることを特徴とする細胞検査方法、及びこの検査方法による検査工程を製造過程に有する細胞製造方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体細胞の磁気変化を計測することによって、細胞を検査する方法であって、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する磁気センサを用いることを特徴とする細胞検査方法。
【請求項2】
測定は、33~39℃の温度条件下において、前記磁気センサを被検査体に対し、非接触の状態で配置しておこなうものである請求項1に記載の細胞検査方法。
【請求項3】
被検査体が細胞シートであり、目的細胞が検出されない領域の有無ないしは割合を評価するものである請求項1又は2に記載の細胞検査方法。
【請求項4】
被検査体が平板上に載置された細胞ないしは細胞集合体であり、目的外細胞が検出される領域の有無ないしは割合を評価するものである請求項1又は2に記載の細胞検査方法。
【請求項5】
生体細胞の発生する磁気変化を計測することによって、細胞を検査する装置であって、前記磁気変化を検出する磁気センサとして磁気インピーダンス効果により磁界を感受する磁気センサを有し、前記磁気センサが、被検査体を配置するステージの近傍に配置されていることを特徴とする細胞検査装置。
【請求項6】
前記磁気センサが、前記ステージ上に配置される被検査体に対し2mm以下の距離に配置されることを特徴とする請求項5に記載の細胞検査装置。
【請求項7】
幹細胞を培地中において培養し、分化誘導を行って目的細胞を製造する細胞の製造方法であって、請求項1~4のいずれかに記載の細胞検査方法による検査工程を有することを特徴とする細胞の製造方法。
【請求項8】
前記検査工程において、目的細胞が検出されない領域あるいは目的外細胞が検出された領域が検出された場合に、これらの領域を培養物より除去する工程をさらに有することを特徴とする請求項7に記載の細胞の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の製造方法により得られるものである細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞検査方法及び細胞検査装置並びにこれを用いた細胞製造方法及びこれにより得られる細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、患者本人又は提供者の体液や組織から細胞を採取し、それらをイン・ビトロ(in vitro)にて培養、増幅して、患部へ移植するという再生医療、細胞医療が注目されている。
【0003】
すなわち、個体のすべての細胞に分化しうる分化多能性(pluripotency)を保ちつつ、無限に増殖できる自己複製能を併せ持つ胚性幹細胞(ES細胞)がヒトにおいて樹立されて以来、ES細胞を、in vitroで主要臓器細胞へと分化誘導することが研究されており、また、体細胞へ特定の遺伝子を導入することにより、ES細胞のように分化多能性と自己複製能を併せ持つヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)が作られてからは、ES細胞に加え、iPS細胞を用いて、in vitroで主要臓器細胞へと分化誘導する研究が盛んに行われており、その応用分野も、神経細胞、神経幹細胞、心筋細胞、膵臓細胞、肝細胞、網膜・角膜細胞、血小板、免疫細胞、軟骨など多岐にわたっている。
【0004】
このような再生細胞の増殖による細胞の製造においては、細胞の分化状態を評価すること、あるいは異常増殖している、癌化しているなどの「現在、異常状態である細胞」、又は現時点では明確な異常が認められなくても、将来、例えば、移植などを行った後において、癌化などの異常を発生しうる可能性のある細胞を評価することが、その再生細胞製造の効率化の上でまた再生医療、細胞医療の安全性を確立する上で極めて重要である。
【0005】
従来、細胞の分化状態の評価方法としては、免疫染色を利用した方法やマーカー遺伝子の発現レベルを定量する方法(例えば特許文献1を参照)が広く用いられているが、いずれも細胞に対して侵襲的な処理を行う必要がある。そのため、評価を行った後に、該評価に供した細胞を別の目的に利用すること、例えば再生医療用の細胞源とすることができない上に、時間経過に伴う変化を評価することは不可能であり、経時的な変化を評価するためには複数のサンプルに対して並行して培養を行うなど、煩雑な作業が必要であった。
【0006】
ところで、心臓や神経、筋肉などでは、イオンの流れによる膜電位変化により活動電位変化を生じることで、それぞれ組織の機能を発揮することが知られており、生体細胞組織の成熟により生じるこの組織の活動電位変化に伴って発生する磁気変化を、高感度な磁気検出を可能にする高感度磁気センサである、超電導量子干渉素子(Superconducting Quantum Interference Device、一般に「SQUID」と称される。)を用いて、計測することによって、非侵襲的に、前記細胞組織を評価する方法も提案されている(例えば特許文献2を参照。)
【0007】
しかし、SUQUID磁気センサは、超電導ジョセフソン効果及び超電導コイルを用いるものであり、超電導を実現するための超低温を維持するための大規模な装置や、環境磁界を緻密に遮蔽するための設備が必要となる。特に、液体ヘリウム中に配置する必要があり、このような-270℃程度の低温状態とされたSUQUID磁気センサに、検査対象となる細胞組織を近接させると、細胞組織を生存状態に保持することが困難となるため、細胞組織から離れた場所でしか安定的に計測を行うことができないものであり、測定感度が低下し、また測定領域の鈍化を余儀なくされるものであった。
【0008】
さらに、冷却を必要としない常温域で、微弱な磁気の検出が可能な磁気抵抗効果素子(MR素子)を用いたMRセンサの利用も検討されている(例えば、特許文献3及び4参照。)。MRセンサを用いた生体磁気計測装置では、MRセンサを冷却容器(デュワー)内に配置する必要がなく、SQUIDセンサを用いる場合に比べ、低コストで、取り扱いが簡単で、MRセンサを生体に近づけやすい利点がある。
【0009】
また多能性幹細胞より網膜前駆細胞を分化誘導し眼杯様組織を自己形成させることを含む網膜組織のin vitroな製造方法を開示する、特許文献5においては、培養した眼杯様組織を細胞塊より分離し、さらに培養を行った後に、電気生理学的な観察のために、多点平面電極つきプレート(MEDプローブ)の上で培養して、眼杯様組織から出てきた軸索の活動電位を多極電極フィールド電位法で観察した旨が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006-042663号公報
【特許文献2】特開2004-219109号公報
【特許文献3】特開2011-89894号公報
【特許文献4】特開2010-509029号公報
【特許文献5】特許第5787370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献4に示されるようなMRセンサを用いた場合においても、その感度は十分なものではなく、自発的な電位変化挙動をする「活発な」細胞である、心筋細胞、平滑筋、神経細胞などを含む細胞組織を検査対象とできる程度のレベルであり、例えば、上述したような再生細胞の増殖において、例えば、培養シャーレ内の個々の細胞ないしはそのシャーレ内のごく小さな一部領域内の細胞集合レベルにおいて、分化状態、異常増殖や癌化の有無を検知することは不可能であった。さらに、上記したような「活発な」細胞ではなく、例えば、網膜細胞、角膜細胞などのように自発的な電位変化挙動を実質的に示さない「静かな細胞」等に関してはその検出は不可能であった。
【0012】
なお特許文献5においても、組織としての状態で光刺激を与え、眼球と同様に光刺激・結増に応答して電気信号を発することを電極アレイ装置で確認しているのみであり、分化状態の観察は、一般的な免疫染色を利用した方法やマーカー遺伝子の発現レベルを定量する方法を用いており、非侵襲的に再生細胞製造時の分化状態、異常増殖や癌化の有無を非侵襲的に評価することに関しては、何ら示されていない。
【0013】
本発明は、上述したような従来技術における問題点に鑑み、新たな細胞検査方法及び細胞検査装置並びにこれを用いた細胞製造方法及びこれにより得られる細胞を提供することを課題とする。
本発明はさらに、例えば、再生細胞の製造途中において、常温域において、非侵襲的に、細胞の分化状態、異常増殖ないし癌化の有無、あるいはその他の将来的な癌化などの異常を派生しうる可能性のある細胞の有無を、個々の細胞個体レベルないしはその極小さな集合体レベルで評価することできる細胞検査方法及び細胞検査装置並びにこれを用いた細胞製造方法及びこれにより得られる細胞を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討及び研究を重ねた結果、磁気センサとして、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する磁気センサを用いることで、例えば、細胞が活動する上で生じる電気的な流れ(イオンの移動)に伴う微弱な磁気の変動あるいはその細胞同士間での差異を、個々の再生細胞レベルないしはごく小さな一部領域内の細胞集合レベルで変動、異常を検知することができ、再生細胞製造の途中において、非侵襲的、常温域において、迅速かつ簡単に、細胞の分化状態、異常増殖ないし癌化の有無、あるいはその他の将来的な癌化などの異常を発生しうる可能性のある細胞の有無を判別できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、生体細胞の磁気変化を計測することによって、細胞を検査する方法であって、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する磁気センサを用いることを特徴とする細胞検査方法である。
【0016】
本発明の細胞検査方法の一実施形態においては、測定は、33~39℃の温度条件下において、前記磁気センサを被検査体に対し、非接触の状態で配置して行うことが示される。
【0017】
本発明の細胞検査方法の一実施形態においては、被検査体が細胞シートであり、目的細胞が検出されない領域の有無ないしは割合を評価するものであることが示される。
【0018】
本発明の細胞検査方法の別の実施形態においては、被検査体が平板上に載置された細胞ないしは細胞集合体であり、目的外細胞が検出される領域の有無ないしは割合を評価するものであることが示される。
【0019】
上記課題を解決する本発明は、また、生体細胞の磁気変化を計測することによって、細胞を検査する装置であって、前記磁気変化を検出する磁気センサとして磁気インピーダンス効果により磁界を感受する磁気センサを有し、前記磁気センサが、被検査体を配置するステージの近傍に配置されていることを特徴とする細胞検査装置である。
【0020】
本発明の細胞検査装置の一実施形態においては、前記磁気センサが、前記ステージ上に配置される被検査体に対し、好ましくは2mm以下、より好ましくは1mm以下の距離に配置されるものが示される。
【0021】
上記課題を解決する本発明は、また、幹細胞を培地中において培養し、分化誘導を行って目的細胞を製造する細胞の製造方法であって、上記に記載の細胞検査方法による検査工程を有することを特徴とする細胞の製造方法である。
【0022】
本発明の細胞の製造装置においては、前記検査工程において、目的細胞が検出されない領域あるいは目的外細胞が検出された領域が検出された場合に、これらの領域を培養物より除去する工程をさらに有するものが示される。
【0023】
上記課題を解決する本発明は、また、上記の製造方法により得られる細胞である。
【発明の効果】
【0024】
以上述べたように、本発明によれば、生体細胞の磁気変化を計測するにおいて、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する磁気センサを用いることによって、各細胞レベルないしはその極小さな集合体レベルにおける微弱な磁気変化を、非常に高感度で、常温域において検知可能であり、非侵襲的、非接触的な測定とすることができるため、例えば、再生細胞の製造過程において、例えば培養シャーレ内の少なくとも小さな領域単位ごとに、細胞の分化状態、異常増殖ないし癌化の有無、あるいはその他の将来的な癌化などの異常を発生しうる可能性のある細胞の有無を判別可能である。このため、再生細胞の製造過程において、経時的に同検査を行えば、同一の培養単位中でも不適切な領域のみを除去するといった処置が可能となり、細胞の製造効率が高まると共に、また得られる細胞の安全性及び信頼性も飛躍的に上昇するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の細胞検査方法に用いられる磁気センサの第1の実施形態を説明する図である。(a)は、平面図、(b)は、(a)のIB-IB線での断面図である。
図2】磁気センサの製造方法の一例を説明する図である。図2(a)~(g)は、磁気センサの製造方法における工程を示す。
図3】本発明の細胞検査方法に用いられる磁気センサの第2の実施形態を説明する(a)は、平面図、(b)は、(a)のIIIB-IIIB線での断面図である。
図4】磁気センサの製造方法の一例を説明する図である。図4(d)~(j)は、磁気センサの製造方法における工程を示す。
図5】本発明の細胞検査方法に用いられる磁気センサの第3の実施形態を説明する図である。(a)は、平面図、(b)は、(a)のVB-VB線での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について実施形態に基づきより具体的に説明する。
(細胞検査方法及び細胞検査装置)
【0027】
本発明に係る細胞検査方法は、生体細胞の磁気変化を計測することによって、細胞を検査する方法であって、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する磁気センサを用いることを特徴とする細胞検査方法である。まず、本発明の要部となる磁気インピーダンス効果により磁界を感受する磁気センサについて説明する。
【0028】
(磁気センサ)
本発明において用いられる磁気センサは、いわゆる磁気インピーダンス効果素子を用いたものである。
【0029】
図1は、第1の実施の形態が適用される磁気センサ1の一例を説明する図である。図1(a)は、平面図、図1(b)は、図1(a)のIB-IB線での断面図である。
図1(b)に示すように、第1の実施の形態が適用される磁気センサ1は、硬磁性体(硬磁性体層103)で構成された薄膜磁石20と、薄膜磁石20に対向して設けられ、軟磁性体(軟磁性体層105)を含んで構成されて磁場(外部磁場)の変化を感受する感受部30と、薄膜磁石20の磁気異方性が膜の面内方向に発現するように制御する制御層102を備える。制御層102は、薄膜磁石20に対して、感受部30が設けられた側と反対側に設けられている。なお、本明細書においては、薄膜磁石20を構成する層、ここでは硬磁性体層103を( )内に表記する。他の場合も同様である。
【0030】
図1(a)に示すように、感受部30は、長手方向と短手方向とを有する短冊状の複数の感受素子31と、隣接する感受素子31の端部をつづら折りに直列接続する、導電体(導電体層106)で構成された接続部材32を備える。複数の感受素子31は、長手方向が並列に配置されている。また、隣接する感受素子31がない端部にも、接続部材32が設けられている。さらに、感受部30は、感受素子31が接続部材32により直列接続された両端部(隣接する感受素子31がない端部の接続部材32)に、通電のための電極パッド33a、33b(導電体層107)(区別しない場合は、電極パッド33と表記する。)を備える。なお、図1(a)では、感受部30は、一例として4個の感受素子31を備えるとするが、感受素子は1個であってもよく、4個以外の複数であってもよい。感受素子31が磁気インピーダンス効果素子である。
【0031】
さらに、図1(b)に示すように、磁気センサ1は、薄膜磁石20のN極とS極(図1(b)では、(N)、(S)と表記する。)から発生する磁束が、感受部30の感受素子31を長手方向に透過するように、薄膜磁石20のN極から感受部30における感受素子31の長手方向の一方の端部に磁束を誘導するヨーク40aと、感受部30における感受素子31の長手方向の他方の端部から薄膜磁石20のS極に磁束を誘導するヨーク40bとを備える。ヨーク40a、40b(区別しない場合は、ヨーク40と表記する。)は、磁束が透過しやすい軟磁性体(軟磁性体層105)で構成されている。つまり、薄膜磁石20は、感受部30にバイアス磁界を付与する。なお、薄膜磁石20のN極とS極とをまとめて両磁極と表記し、N極とS極とを区別しない場合は磁極と表記する。
【0032】
次に、図1(b)により、磁気センサ1の断面構造を詳細に説明する。磁気センサ1は、非磁性の基板10上に、密着層101、制御層102、薄膜磁石20(硬磁性体層103)、絶縁層104及び感受部30がこの順に配置(積層)されて構成されている。密着層101、制御層102、薄膜磁石20(硬磁性体層103)及び絶縁層104は、少なくとも二つの対向する側面が露出するように加工されている。なお、露出させる少なくとも二つの側面は、露出した薄膜磁石20を構成する硬磁性体層103の二つの側面が、N極及びS極となるように設定されている。そして、ヨーク40a、40bは、それぞれ、露出した薄膜磁石20のN極、S極に接して設けられ、磁束が感受素子31を長手方向に透過するように誘導する。なお、ヨーク40a、40bは、露出した薄膜磁石20のN極及びS極に接して設けられていなくてもよく、空隙(ギャップ)があってもよい。なお、ヨーク40a、40bが露出した薄膜磁石20のN極及びS極に接していると磁束が漏れることが抑制される。
【0033】
なお、図1(a)に示すように、ヨーク40(ヨーク40a、40b)は、基板10の上側から見た形状が、感受部30に近づくにつれて狭くなっていくように構成されている。これは、薄膜磁石20が発生した磁束を、感受部30に集中させる(磁束密度を高める)ためである。つまり、薄膜磁石20のN極及びS極の幅を、感受部30における複数の感受素子31が設けられている部分の幅より広くして、感受部30に対するバイアス磁界が強くなるようにしている。よって、ヨーク40(ヨーク40a、40b)の感受部30に対向する部分の幅は、感受部30における複数の感受素子31が設けられている部分の幅より広く設定されていればよい。なお、ヨーク40(ヨーク40a、40b)の感受部30に対向する部分の幅を狭くしなくてもよい。
【0034】
ここで、ヨーク40(ヨーク40a、40b)と感受部30の感受素子31の長手方向の端部との間隔は、例えば1μm~100μmであればよい。
【0035】
基板10は、非磁性体からなる基板であって、例えばシリコン等の半導体基板、サファイア、ガラスといった酸化物基板が挙げられる。
密着層101は、基板10に対する制御層102の密着性を向上させる。密着層101としては、Cr又はNiを含む合金を用いるのがよい。Cr又はNiを含む合金としては、CrTi、CrTa、NiTa等が挙げられる。密着層101の厚さは、例えば5nm~50nmである。なお、基板10に対する制御層102の密着性に問題がなければ、密着層101を設けることを要しない。なお、本明細書においては、合金の組成比は、特に示していない。以下同様である。
【0036】
制御層102は、硬磁性体層103で構成される薄膜磁石20の磁気異方性が膜の面内方向に発現するように制御する層である。制御層102としては、Cr、Mo若しくはW又はそれらを含む合金(以下では、制御層102を構成するCr等を含む合金と表記する。)を用いるのがよい。制御層102を構成するCr等を含む合金としては、CrTi、CrMo、CrV、CrW等が上げられる。制御層102の厚さは、例えば5nm~100nmである。
【0037】
薄膜磁石20を構成する硬磁性体(硬磁性体層103)は、Coを主成分とし、Cr又はPtのいずれか一方又は両方を含む合金(以下では、薄膜磁石20を構成するCo合金と表記する。)を用いることがよい。薄膜磁石20を構成するCo合金としては、CoCrPt、CoCrTa、CoNiCr、CoCrPtB等が挙げられる。なお、Feが含まれていてもよい。薄膜磁石20を構成する硬磁性体(硬磁性体層103)の厚さは、例えば50nm~500nmである。
【0038】
制御層102を構成するCr等を含む合金は、bcc(body-centered cubic(体心立方格子))構造を有する。よって、薄膜磁石20を構成する硬磁性体(硬磁性体層103)は、bcc構造のCr等を含む合金で構成された制御層102上において、結晶成長しやすいhcp(hexagonal close-packed(六方最密充填))構造であるとよい。bcc構造上にhcp構造の硬磁性体層103を結晶成長させると、hcp構造のc軸が面内に向くように配向しやすい。よって、硬磁性体層103によって構成される薄膜磁石20が面内方向に磁気異方性を有するようになりやすい。なお、硬磁性体層103は、多結晶であって、各結晶が面内方向に磁気異方性を有する。よって、この磁気異方性は、結晶磁気異方性と呼ばれることがある。
【0039】
なお、制御層102を構成するCr等を含む合金及び薄膜磁石20を構成するCo合金の結晶成長を促進するために、基板10は、100℃~600℃に加熱されているとよい。この加熱により、制御層102のCr等を含む合金が結晶成長し、hcp構造を持つ硬磁性体層103が面内に磁化容易軸を持つように結晶配向されやすくなる。つまり、硬磁性体層103の面内に磁気異方性が付与されやすくなる。
【0040】
絶縁層104は、非磁性の絶縁体で構成され、薄膜磁石20と感受部30との間を電気的に絶縁する。絶縁層104を構成する絶縁物としては、SiO、AlO等の酸化物、又は、Si、AlN等の窒化物等が挙げられる。絶縁層104の厚さは、例えば100nm~500nmである。
【0041】
感受部30における感受素子31は、長手方向に交差する方向、例えば直交する方向(幅方向)に一軸磁気異方性が付与されている。感受素子31を構成する軟磁性体(軟磁性体層105)としては、Coを主成分にした合金(以下では、感受素子31を構成するCo合金と表記する。)に高融点金属Nb、Ta、W等を添加したアモルファス合金が用いうる。感受素子31を構成するCo合金としては、CoNbZr、CoFeTa、CoWZr等が挙げられる。特に、Zrが3at%、Nbが17at%以上且つ21at%未満、残部がCoであるアモルファス合金を用いると、感受素子31の感度を高めることができる。感受素子31を構成する軟磁性体(軟磁性体層105)の厚さは、例えば0.5μm~5μmである。
【0042】
接続部材32(導電体層106)及び電極パッド33(導電体層107)は、導電性に優れた導電体であればよく、例えばCu、Au、Al等が用いうる。
【0043】
ヨーク40(ヨーク40a、40b)は、透磁率の高い軟磁性体から構成されるのがよい。ここでは、ヨーク40は、感受部30の感受素子31を構成する軟磁性体層105で構成されている。
ヨーク40を設けることにより、薄膜磁石20から発生する磁束がヨーク40を介して感受部30(感受素子31)にバイアス磁界として作用する。ヨーク40によって、薄膜磁石20からの磁束の漏れが減り、感受部30(感受素子31)に対して効率的にバイアス磁界が掛けられる。この薄膜磁石20によって、磁界を発生させるためのコイルを設けることを要しない。よって、磁気センサ1の省電力化及び小型化を図ることができる。
【0044】
なお、薄膜磁石20を、感受部30の感受素子31と同様に、複数の薄膜磁石片とし、薄膜磁石片を各感受素子31に対応させて設けてもよい。つまり、薄膜磁石片上に絶縁層104を介して感受素子31が積層された構成としてもよい。このようにすることで、薄膜磁石20内部で発生する反磁界が小さくなり、薄膜磁石20からの磁束発生効率が高くなる。
【0045】
次に磁気センサ1の製造方法の一例を説明する。
図2は、磁気センサ1の製造方法の一例を説明する図である。図2(a)~(g)は、磁気センサ1の製造方法における工程を示す。なお、図2(a)~(g)は、代表的な工程であって、図2(a)~(g)の順に進む。図2(a)~(g)は、図1(b)の断面図に対応する。
【0046】
基板10は、前述したように、非磁性材料からなる基板であって、例えばシリコン等の半導体基板、サファイア、ガラスといった酸化物基板である。基板10には、研磨機などを用いて、例えば曲率半径Raが0.1nm~100nmの筋状の溝又は筋状の凹凸が設けられていてもよい。なお、この筋状の溝又は筋状の凹凸の筋の方向は、硬磁性体層103によって構成される薄膜磁石20のN極とS極とを結ぶ方向に設けられているとよい。このようにすることで、硬磁性体層103における結晶成長が、溝の方向へ促進される。よって、硬磁性体層103により構成される薄膜磁石20の磁化容易軸がより溝方向(薄膜磁石20のN極とS極とを結ぶ方向)に向きやすい。つまり、薄膜磁石20の着磁を、より容易にする。
【0047】
以下で説明する製造方法では、主にリフトオフ法を用いる。なお、エッチング法を用いてもよい。
【0048】
まず、基板10を洗浄した後、図2(a)に示すように、基板10の一方の面(以下、表面と表記する。)上に、薄膜磁石20が形成される部分を開口とするレジストパターン201を、公知のフォトリソグラフィにより形成する。
【0049】
次に、図2(b)に示すように、レジストパターン201が形成された基板10の表面上に、密着層101、制御層102及び薄膜磁石20を構成する硬磁性体層103を順に成膜(堆積)する。例えばスパッタリング法を用いて、密着層101となるCr又はNiを含む合金の層(膜)、制御層102となるCr等を含む合金の層(膜)、及び、硬磁性体層103となるCo合金の層(膜)を順に連続して成膜(堆積)する。前述したように、制御層102及び硬磁性体層103の形成では、結晶成長を促進するために、基板10を例えば100℃~600℃に加熱するとよい。
ここで、制御層102を形成する工程が制御層形成工程の一例である。
【0050】
なお、密着層101の成膜では、基板10の加熱を行ってもよく、行わなくてもよい。基板10に吸着している水分などを除去するために、密着層101を成膜する前に、基板10を加熱してもよい。
【0051】
次に、絶縁層104となるSiO、AlO等の酸化物、又は、Si、AlN等の窒化物等の層(膜)を成膜(堆積)する。絶縁層104の成膜は、プラズマCVD、反応性スパッタリング法などで行える。
【0052】
そして、図2(c)に示すように、レジストパターン201を除去することで、密着層101、制御層102、硬磁性体層103及び絶縁層104のレジストパターン201上に堆積した部分を除去する(リフトオフ)。このようにして、基板10上に、密着層101、制御層102、硬磁性体層103及び絶縁層104が形成される。この硬磁性体層103が、薄膜磁石20になる。
ここで、硬磁性体層103を形成する工程及びリフトオフにより硬磁性体層103により薄膜磁石20を形成する工程が薄膜磁石形成工程の一例である。なお、薄膜磁石形成工程には、後述する着磁の工程を含むとしてもよい。
【0053】
次に、図2(d)に示すように、基板10上に、感受部30における感受素子31が形成される部分及びヨーク40(ヨーク40a、40b)が形成される部分を開口とするレジストパターン202を形成する。
【0054】
そして、図2(e)に示すように、レジストパターン202が形成された基板10上に、感受素子31及びヨーク40を構成する軟磁性体層105となるCo合金の膜を成膜(堆積)する。成膜は、例えばスパッタリング法を用いて行う。
【0055】
図2(f)に示すように、レジストパターン202を除去することで、軟磁性体層105のレジストパターン202上に堆積した部分を除去する。薄膜磁石20(硬磁性体層103)上に絶縁層104を介して積層された軟磁性体層105が、感受部30における感受素子31となる。そして、一部が薄膜磁石20のN極又はS極に接し、他の一部が感受部30の感受素子31に対向するように延びた軟磁性体層105が、ヨーク40(ヨーク40a、40b)になる。つまり、感受部30の感受素子31とヨーク40とが、1回の軟磁性体層105の成膜で形成される。
【0056】
次に、図2(g)に示すように、感受素子31の端部をつづら折りに接続する接続部材32を、Cu、Au、Al等の導電体によって形成する。接続部材32は、例えば、メタルマスクを用いて、スパッタリング法又は真空蒸着法にて形成することができる。さらに、接続部材32により感受素子31が直列接続された両端部に、電極パッド33(電極パッド33a、33b)(図1参照)を、Cu、Au、Al等の導電体によって形成する。電極パッド33は、メタルマスクを用いて、スパッタリング法又は真空蒸着法にて形成することができる。ここでは、接続部材32と電極パッド33とを別工程で形成している。これは、電極パッド33の膜厚を接続部材32の膜厚より厚く形成するためである。同じ厚さでよい場合は、接続部材32と電極パッド33を一回の工程で形成すればよい。
ここで、軟磁性体層105を形成する工程、リフトオフにより軟磁性体層105で構成された感受素子31を形成する工程、及び、接続部材32及び電極パッド33を形成する工程が、感受部形成工程の一例である。なお、感受部形成工程には、後述する一軸磁気異方性を付与する工程を含むとしてもよい。
【0057】
この後、感受部30を構成する軟磁性体層105には、感受素子31の幅方向に一軸磁気異方性を付与する。軟磁性体層105への一軸磁気異方性の付与は、例えば3kG(0.3T)の回転磁場中における400℃での熱処理と、それに引き続く3kG(0.3T)の静磁場中における400℃での熱処理で行える。この時、ヨーク40を構成する軟磁性体層105にも同様の一軸磁気異方性が付与される。しかし、ヨーク40は、磁気回路としての役割を果たせばよく、一軸磁気異方性が付与されても機能する。
【0058】
次に、薄膜磁石20を構成する硬磁性体層103を着磁する。硬磁性体層103に対する着磁は、静磁場中又はパルス状の磁場中において、硬磁性体層103の保磁力より大きい磁界を、硬磁性体層103の磁化が飽和するまで掛ける(印加する)。こうして、着磁された硬磁性体層103は、薄膜磁石20になり、薄膜磁石20からの磁束がヨーク40を経て感受部30にバイアス磁界を供給する。
このようにして、磁気センサ1が製造される。
【0059】
なお、制御層102を備えない場合には、硬磁性体層103を成膜後、800℃以上に加熱して結晶成長させることで、面内に磁気異方性を付与することが必要となる。しかし、第1の実施の形態が適用される制御層102を備える場合には、制御層102により結晶成長が促進されるため、800℃以上の加熱による結晶成長を要しない。
【0060】
図3は、本発明にかかる磁気センサ2の別の実施形態を説明する図である。図3(a)は、平面図、図3(b)は、図3(a)のIIIB-IIIB線での断面図である。この第2の実施形態にかかる磁気センサ2では、上記した図1、2に示した第1の実施形態の磁気センサ1と感受部30の構成が異なり、感受部30における感受素子31が、間に反磁界抑制層を挟んで設けられた二つの軟磁性体層で構成されている。以下、第1の実施形態の磁気センサ1と異なる部分を主に説明し、同様の部分は同じ符号を付して説明を省略する。
【0061】
図3(b)に示すように、磁気センサ2では、感受部30の感受素子31を構成する磁性体層108は、下層(基板10)側の下層軟磁性体層108aと、反磁界抑制層108bと、上層(基板10と反対)側の上層軟磁性体層108cとを備える。つまり、下層軟磁性体層108aと上層軟磁性体層108cとは、反磁界抑制層108bを挟んで設けられている。下層軟磁性体層108aと上層軟磁性体層108cとには、第1の実施の形態における感受素子31を構成する軟磁性体と同様に、Coを主成分にした合金(Co合金)に高融点金属Nb、Ta、W等を添加したアモルファス合金が用いうる。このCo合金としては、CoNbZr、CoFeTa、CoWZr等が挙げられる。特に、Zrが3at%、Nbが17at%以上且つ21at%未満、残部がCoであるアモルファス合金を用いると、感受素子31の感度を高めることができる。反磁界抑制層108bには、Ru又はRu合金が用いうる。
【0062】
ここで、Ru又はRu合金の反磁界抑制層108bの膜厚を0.4nm~1.0nm又は1.6nm~2.6nmの範囲とすることで、下層軟磁性体層108aと上層軟磁性体層108cとが反強磁性結合(AFC:AntiFerromagnetically-Coupled)構造となる。つまり、反磁界が抑制され、感受部30(感受素子31)の感度が向上する。
【0063】
図4は、磁気センサ2の製造方法の一例を説明する図である。図4(d)~(j)は、磁気センサ2の製造方法における工程を示す。なお、図4(d)~(j)は、第1の実施の形態における磁気センサ1の製造方法を示す図2(c)の後の工程を示し、図4(d)~(j)の順に進む。図4(d)~(j)は、図3(b)に示す断面図に対応する。つまり、磁気センサ2の製造方法は、磁気センサ1の製造方法と、図2(a)~(c)に示した部分が共通する。
【0064】
図4(d)に示すように、感受部30の感受素子31を形成する部分が開口となったレジストパターン203を基板10上に形成する。
図4(e)に示すように、基板10上に、Co合金の下層軟磁性体層108a、Ru又はRu合金の反磁界抑制層108b及びCo合金の上層軟磁性体層108cを成膜(堆積)する。
【0065】
図4(f)に示すように、レジストパターン203を除去することで、レジストパターン203上に堆積した下層軟磁性体層108a、反磁界抑制層108b及び上層軟磁性体層108cを除去する(リフトオフ)。これにより、感受部30の感受素子31が形成される。
【0066】
次に、図4(g)に示すように、ヨーク40(ヨーク40a、40b)を構成する部分が開口となったレジストパターン204を基板10上に形成する。
そして、図4(h)に示すように、ヨーク40を構成する軟磁性体層109をスパッタリング法などで成膜(堆積)する。
【0067】
図4(i)に示すように、レジストパターン204を除去することで、レジストパターン204に堆積した軟磁性体層109を除去する(リフトオフ)。これにより、ヨーク40(ヨーク40a、40b)が形成される。
【0068】
感受部30の磁性体層108への一軸磁気異方性の付与及び薄膜磁石20を構成する硬磁性体層103への着磁は、第1の実施の形態の場合と同じである。よって、説明を省略する。
【0069】
図5は、本発明にかかる磁気センサ3のさらに別の一実施形態を説明する図である。図5(a)は、平面図、図5(b)は、図5(a)のVB-VB線での断面図である。図5に示す第3の実施形態の磁気センサ3は、前記した第2の実施形態の磁気センサ2とは、ヨーク40(ヨーク40a、40b)が異なる。
【0070】
図5(b)に示すように、磁気センサ3では、ヨーク40(ヨーク40a、40b)は、第2の実施の形態が適用される磁気センサ2の感受部30の感受素子31と同じ磁性体層108で構成されている。つまり、ヨーク40(ヨーク40a、40b)は、下層(基板10)側の下層軟磁性体層108aと、反磁界抑制層108bと、上層(基板10と反対)側の上層軟磁性体層108cとを備える。
【0071】
このようにすることで、磁気センサ3の製造方法は、第1の実施の形態の磁気センサ1と同様に、感受部30の感受素子31とヨーク40(ヨーク40a、40b)とが、1回の磁性体層108の成膜で形成される。つまり、磁気センサ1の製造方法を説明する図2(e)において、軟磁性体層105の代わりに、下層軟磁性体層108a、反磁界抑制層108b及び上層軟磁性体層108cを順に成膜(堆積)すればよい。
【0072】
以上本発明に係る磁気センサを、第1の実施形態から第3の実施形態に基づきを説明したが、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する磁気センサという特性に反しない限りにおいて様々な変形を行っても構わない。
【0073】
検査装置の構成としては特に限定されるものではないが、上記したような磁気インピーダンス効果により磁界を感受する磁気センサを少なくとも、被検査体を把持するステージの近傍に有している構成を挙げることができる。例えば、前記ステージは、水平面内の直交する2方向(「X方向」、「Y方向」ということがある)に可動であり、前記磁気センサは前記ステージに把持された被検体直下に配置され垂直方向(「Z方向」ということがある)に可動である。
【0074】
このような装置とすることにより、磁気センサと被検査体との距離を一定に保ちながら、被検査体をXY方向に走査することにより、被検査体のXY方向の磁気情報をマッピングすることができる。磁気センサは少なくとも1つ有していればよいが、例えば、被検査体に対してXY方向のみならず、Z方向にも別途磁気センサを配置するというように、磁気センサを2つないしそれ以上用いることで、3次元方向からも磁気の変化を計測することができ、より正確な検査が可能となる。
【0075】
本発明に係る細胞検査方法の測定条件としては、特に限定されるものでないが、例えば、33~39℃の温度条件下、好ましくは34~38℃の温度条件下、特に好ましくは36~37℃程度の被検査体である細胞の活動温度条件下において行う。
【0076】
なお、被検査体に対し、前記磁気センサ3は、接触状態で配置することも可能であるが、好ましくは非接触の状態で配置することが、検査による培養細胞の汚染を防止する上で好ましい。なお、非接触であっても磁気センサ3は被検査体に対して極力近接して配置すことが、検出感度を高める上で望ましく、例えば、磁気センサ3と被検査体との距離は、2mm以内、より好ましくは1mm以内、さらに好ましくは0.1mm~0.5mmとすることが望ましい。代表的な構成を挙げれば、磁気センサは、被検査体を載置するステージの裏面側であるとか、被検査体を収納した培養シャーレや培養皿といった容器体の外面に直接接する程度に近接して配置される。
日して行うことができる。
【0077】
本発明に係る検査方法において、被検査体である細胞ないし細胞群の形態としても、特に限定されるものではなく、例えば、培養シャーレや培養皿といった容器体の培地中ないし培地上に存在する細胞ないし細胞群であるとか、細胞シート(シート状細胞培養物)といった形態を取り得る。細胞構造体として、シート状以外にも、柱状、塊状、栓状などの種々の形状としても検査は可能である。なお、細胞は流動体中に存在する状態でも、例えばある程度の体積範囲に存在する細胞をバルクとしてとらえる等により、検査可能である。ただし、より正確な検査を行う上では、細胞は固相培地中ないし上に存在するもの、あるいは上記したようにシート状のものであることが、望ましい。
【0078】
なお、本明細書において「細胞シート」ないし「シート状細胞培養物」とは、細胞培養の分野において通常意味するように、細胞が互いに連結してシート状になったものを指す。細胞同士は、直接(接着分子などの細胞要素を介するものを含む)及び/又は介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも物理的(機械的)に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックスなどが挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも物理的(機械的)に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。シート状細胞培養物は、1の細胞層から構成されるもの(単層)であっても、2以上の細胞層から構成されるもの(積層(多層)、例えば、2層、3層、4層、5層、6層など)であってもよい。シート状細胞培養物は、培養基材に付着していても遊離(剥離)していてもよいが、典型的には、培養基材からシート形状を維持したまま遊離しているもの(単離シート状細胞培養物又は遊離シート状細胞培養物と称する場合もある)を指す。
【0079】
後述するように検出しようとする対象が、目的細胞であるかあるいは逆に目的外細胞であるかによっても異なるが、被検査体は細胞以外にスキャフォールド(支持体)を含んでも含まなくてもよい。スキャフォールドは、その表面上及び/又はその内部に細胞を付着させ、細胞培養物の物理的一体性を維持するために当該技術分野において用いられることがあり、例えば、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)製の膜等が知られているが、好ましい細胞培養物は、かかるスキャフォールドがなくともその物理的一体性を維持することができるものである。
【0080】
本発明の細胞検査方法において、検査対象とされる細胞は、任意の種類のものを包含するが、細胞培養において製造される再生細胞を特に対象とするものである。このような細胞としては、特に限定されるわけではないが、例えば、心筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、網膜細胞、角膜細胞などの体細胞、及び例えば、筋芽細胞、心臓幹細胞、脂肪幹細胞、肝幹細胞などの組織幹細胞、胚性幹細胞、iPS(induced pluripotent stem)細胞などの多能性幹細胞、間葉系幹細胞等の幹細胞などが挙げられる。体細胞は、上述したように、幹細胞、特にES細胞、iPS細胞等から分化させたものが対象である。なお、細胞シートを形成し得る細胞の例としては、例えば、筋芽細胞(例えば、骨格筋芽細胞など)、間葉系幹細胞(例えば、骨髄、脂肪組織、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、胎盤、臍帯血由来のものなど)、心筋細胞、線維芽細胞、心臓幹細胞、脂肪幹細胞、肝幹細胞、胚性幹細胞、iPS細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞(例えば、口腔粘膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、鼻粘膜上皮細胞など)、内皮細胞(例えば、血管内皮細胞など)、肝細胞(例えば、肝実質細胞など)、膵細胞(例えば、膵島細胞など)、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0081】
好ましい細胞の例としては、特に多能性幹細胞由来の細胞が挙げられる。多能性幹細胞は、当該技術分野で周知の用語であり、生体の様々な組織に分化する能力を有する細胞を意味する。多能性幹細胞としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、核移植胚性幹細胞(ntES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などが挙げられが、これらに限定されるわけではない。
【0082】
なお、本発明に係る細胞検査方法においては、上述したように磁気インピーダンス効果により磁界を感受する磁気センサを用いることで、細胞が活動する上で生じる電気的な流れ(イオンの移動)に伴う微弱な磁気の変動あるいはその細胞同士間での差異を高感度かつ細胞単位といった極狭い範囲を対象として検出することが可能であるため、心筋細胞、平滑筋、神経細胞などといった自発的な電位変化挙動をする細胞のみならず、例えば、網膜細胞、角膜細胞などのように自発的な電位変化挙動を実質的に示さない「静かな細胞」に関しても、再生細胞製造時の分化状態、異常増殖や癌化の有無を、細胞に対し電気的刺激を加える等の操作なしに非侵襲的に検出できるため、その検査対象とすることができる。
【0083】
本発明に係る細胞検査方法においては、具体的には、例えば、以下のような2つの測定態様を、好ましく挙げることができる。
【0084】
すなわち、第1の測定態様は、被検査体が細胞シートであり、目的細胞が検出されない領域の有無ないしは割合を評価するものである。すなわち、このように目的細胞が検出されない領域を評価することによって、例えば、細胞シートを利用してさらなる増殖、分化行う際に、当該部位を除去することで、より効率よく高収率で安定した細胞製造ができることとなる。このような目的細胞領域が検出されない領域は、本発明にかかる磁気センサにおいて検出された磁気インピーダンスの変化が、目的細胞が存在する領域におけるものに比べ異なることから、容易に検出できる。より具体的には、例えば癌化等は細胞活動が通常よりも大きいと考えられ、その細胞増殖に伴うイオン電流が大きくなり、目的細胞が存在する通常領域よりも強い磁気信号が観察され得る。一方、細胞が死滅したものも考慮され得、その場合は目的細胞が存在する通常領域よりも磁気信号が弱くなる。
【0085】
また、第2の測定態様は、被検査体が平板上に載置された細胞ないしは細胞集合体であり、目的外細胞が検出される領域の有無ないしは割合を評価するものである。すなわち、このように目的外細胞が検出される領域を評価することによって、例えば、細胞シートを利用してさらなる増殖、分化行う際に、当該部位を除去することで、培養中の分化停止、異常増殖、癌化、あるいは将来的な異常化の可能性を排除し、より効率よく安全で信頼性の高い細胞を製造ができることとなる。このような目的外細胞が検出される領域は、本発明にかかる磁気センサにおいて検出された磁気インピーダンスの変化が、目的細胞が存在する正常な領域と異なることから、容易に検出できる。
【0086】
(細胞製造方法)
本発明に係る細胞製造方法は、幹細胞を培地中において培養し、分化誘導を行って目的細胞を製造する細胞の製造方法であって、上述したような細胞検査方法による検査工程を有することを特徴とするものである。
【0087】
すなわち、細胞増殖、分化誘導を繰り返す上で、上述したような細胞検査方法による検査を、非侵襲的に実施することにより、培養中の分化停止、異常増殖、癌化、あるいは将来的な異常化の可能性を、確認できることとなり、特に細胞単位ないしはごく狭い領域での細胞状態を確認できることから、例えば、1つの培養系において異常部分のみを除去し、同一培養系で培養を続けるといったことが可能となり、分化停止、異常増殖、癌化、あるいは将来的な異常化の可能性を排除した細胞系統を効率良く製造できるものである。また、非侵襲的に検査を実施できるため、個々の検査毎に細胞培養系を無駄とすることなく、検査を行った同一細胞系においてそのまま製品化することができ、製造効率が高く、また検査の信頼性及び得られる細胞の安全性を高めることができる。また、非侵襲的に検査できるため、同一細胞系における製造工程中に経時的に一定間隔ないしは不定間隔で複数回、あるいは連続的に検査を行って、細胞の様子を確認できるため、さらに信頼性の高い細胞の製造を行えるものである。
【0088】
なお本発明に係る細胞製造方法において、幹細胞を培地中において培養し、分化誘導を行って目的細胞を製造するという細胞増殖に関する方法及び対象となる目的細胞に関しては、特に限定されるものではなく、従来、再生細胞の製造技術として公知の手法、あるいは将来的にこの分野に応じて見出される手法のいずれを用いてもよく、要はこのような再生細胞の製造において、上述したような検査方法による検査工程が少なくとも1度行われれば良いものである。
【0089】
使用される幹細胞としは、上記したようなもののいずれでもよく、特に、胚性幹細胞(ES細胞)、核移植胚性幹細胞(ntES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの多能性幹細胞が用いられるが、これらに限定されるわけではない。また、目的細胞としても、上記したように、心筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、網膜細胞、角膜細胞などの体細胞、及び例えば、筋芽細胞、心臓幹細胞、脂肪幹細胞、肝幹細胞などの組織幹細胞、胚性幹細胞等のいずれであってもよく、またこれらに限定されるものでもない。
【0090】
以下、特に限定されるわけではないが、代表的な製造過程に関して、いくつか例示的に説明する。
【0091】
(幹細胞の培養)
哺乳動物由来のES細胞の培養方法は常法により行うことができる。例えば、フィーダー細胞としてマウス胎児線維芽細胞(MEF細胞)を用い、白血病阻害因子、KSR(ノックアウト血清代替物)、ウシ胎仔血清(FBS)、非必須アミノ酸、L-グルタミン、ピルビン酸、ペニシリン、ストレプトマイシン、β-メルカプトエタノールを加えた培地、例えばDMEM培地を用いて維持することができる。
【0092】
iPS細胞の培養も定法により行うことができる。例えば、フィーダー細胞としてMEF細胞を用いて、bFGF、KSR(ノックアウト血清代替物)、非必須アミノ酸、L-グルタミン、ペニシリン、ストレプトマイシン、β-メルカプトエタノールを加えた培地、例えばDMEM/F12培地を用いて維持することができる。
【0093】
(誘導分化)
多能性幹細胞、例えばES細胞又はiPS細胞の分化誘導は、フィーダー細胞を含む培養系、フィーダーフリーの培養系のいずれも含む。フィーダー細胞としては、例えば、mmcM15細胞をあげることができるが、これに限定されるものではない。また、フィーダーフリーの培養系としては、例えば、擬似基底膜sBM(synthesized Basement Membrane substratum)を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0094】
本発明で言う多能性幹細胞の「分化」又は「分化誘導」とは、多能性幹細胞が、内胚葉、中胚葉又は外胚葉のいずれかに分化誘導されることを含む意味で用いられ、さらにはまた、それらが、いずれかの生体を構成する臓器又は器官細胞へと分化することを含む意味でも用いられる。
【0095】
用いられる培地は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、BME培地、BGjB培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagles MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、ハム培地、RPMI 1640培地、Fischer’s、及びこれらの混合培地等を挙げることができるが、動物細胞の培養に用いることのできる培地であれば特に限定されない。
【0096】
本発明の細胞製造方法で用いられる培地は、血清含有培地、無血清培地であり得るが、異種成分の排除による細胞移植の安全性の確保という観点からは、無血清培地が好ましい。ここで、無血清培地とは、無調整又は未精製の血清を含まない培地を意味し、精製された血液由来成分や動物組織由来成分(例えば、増殖因子)が混入している培地は無血清培地に該当するものとする。かかる無血清培地としては、例えば、市販のKSRを適量(例えば、1~20%)添加した無血清培地、インスリン及びトランスフェリンを添加した無血清培地、細胞由来の因子を添加した培地等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0097】
培地はまた、血清代替物を含んでいても、また含んでいなくともよい。血清代替物は、例えば、アルブミン(例えば、脂質リッチアルブミン)、トランスフェリン、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール又は3’-チオールグリセロール、あるいはこれらの均等物などを適宜含有するものが可能である。かかる血清代替物は、例えば、国際公開第93/30679号公報に記載の方法により調製することができるが、市販のものを利用することもできる。かかる市販の血清代替物としては、例えば、上記KSRがあげられる。
【0098】
培地はまた、脂肪酸又は脂質、アミノ酸(例えば、非必須アミノ酸)、ビタミン、増殖因子、サイトカイン、抗酸化剤、2-メルカプトエタノール、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類等、任意の成分を含有できる。
【0099】
多能性幹細胞、例えば、ES細胞やiPS細胞を分化する際に、用いる分化培地としては、特に限定されないが、例えば消化管、肝臓、膵臓等への分化を望む場合は、特定のアミノ酸を含有しない内胚葉分化培地が該当し、例えば体腔、血管、心臓等への分化を望む場合は、特定のアミノ酸を含有しない中胚葉分化培地、例えば表皮や神経への分化を望む場合は、特定のアミノ酸を含有しない外胚葉分化培地が該当する。その他、特定の器官細胞への分化誘導を行う培地、例えば、肝臓分化培地や膵臓分化培地も、特定のアミノ酸を含有しないものとすることができる。
【0100】
本発明に係る細胞製造方法は、幹細胞を培地中において培養し、分化誘導を行って目的細胞を製造する上で、上述したような細胞検査方法による検査を行う工程は、幹細胞の培養、幹細胞の分化又は分化誘導のいずれの時期においても任意で行うことができ、さらに分化誘導の時期としても、分化誘導の初期(内胚葉、中胚葉又は外胚葉への分化の時期)であっても又は後期(内胚葉、中胚葉又は外胚葉から各種細胞への分化の時期)であっていずれの時期であっても良い。
【実施例0101】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0102】
(実施例1)
細胞としてiPS細胞より分化たさせた網膜細胞を用意した。前記細胞は96ウェルマイクロプレートに播種され、底面にほぼ隙間なく並ぶように培養されている。
前述したような本発明にかかる磁気センサを被検査体を把持するステージの近傍に有した検査装置を用い、このマイクロプレートを被検査体として、検査装置のステージに把持し、次の細胞検査条件によって細胞検査を実施し、得られた磁束変化を記録した。
測定温度: 37℃
被検査体との距離: 1mm
ステージの移動条件
X方向: 走査速度100mm/秒、走査距離126mm
Y方向: X方向1走査終了ごとに300μm移動、全280ステップ(84mm)移動
なお、磁束変化の測定は、外部環境の磁気の影響を遮断するために、磁気シールド内において行った。
【0103】
(実施例2)
細胞を分化していないiPS細胞としたことを除き、実施例1と同様に実施した。
【0104】
(比較例1)
細胞塊のない培地のみのコントロールに対して、実施例1と同様に実施した。
【0105】
ここで、実施例1で記録した磁束変化と比較例1で記録したの磁束変化との差分、及び、実施例2で記録した磁束変化と比較例1で記録したの磁束変化との差分、をそれぞれ得た。その結果、培養した細胞が入っていたマイクロプレートのウェルの形状に対応して、いずれの前記差分値においても有意な変化が観測でき、その解析能(マイクロプレートのウェルの形状との差)は300μm程度の範囲と非常にすぐれたものであった。
また、実施例1で記録した磁束変化と実施例2で記録したの磁束変化との差分を用いても上記同様の結果を得た。すなわち、コントロールに対する細胞の検出だけでなく、異種細胞の検出にも本発明は適用できることが示された。
【0106】
(比較例2)
実施例1で用いた検査装置の磁気センサをTMR(Tunnel Magneto Resistance)センサとしたことを除き、実施例1と同様に実施した。
【0107】
(比較例3)
細胞塊のない培地のみのコントロールに対して、比較例2と同様に実施した。
【0108】
ここで、比較例2で記録した磁束変化と比較例3で記録したの磁束変化とを対比して、差分を得ようと試みた。しかしながら、網膜細胞に関して、比較例2と比較例3との間で有意な磁束変化の差を観察できなかった。
【符号の説明】
【0109】
1、2、3…磁気センサ、10…基板、20…薄膜磁石、30…感受部、31…感受素子、32…接続部材、33、33a、33b…電極パッド、40、40a、40b…ヨーク、101…密着層、102…制御層、103…硬磁性体層、104…絶縁層、105、109…軟磁性体層、106、107…導電体層、108…磁性体層、108a…下層軟磁性体層、108b…反磁界抑制層、108c…上層軟磁性体層、201~204…レジストパターン
図1
図2
図3
図4
図5