(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158769
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の製造方法及び処理方法
(51)【国際特許分類】
C08J 7/02 20060101AFI20231024BHJP
【FI】
C08J7/02 A CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068744
(22)【出願日】2022-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】深澤 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】船橋 誓良
(72)【発明者】
【氏名】桧森 俊男
【テーマコード(参考)】
4F073
【Fターム(参考)】
4F073AA13
4F073AA32
4F073BA32
4F073BB01
4F073EA17
4F073EA19
4F073EA23
4F073EA24
(57)【要約】
【課題】ポリアリーレンスルフィド樹脂のガラス転移温度以下における結晶化を行い、より地球環境に配慮したポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の製造方法を提供すること。
【解決手段】ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形してなる成形品を極性有機溶媒に接触させて結晶化する工程(1)、前記成形品から極性有機溶媒を除去する工程(2)を有する、ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の製造方法、及びポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の処理方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形してなる成形品を極性有機溶媒に接触させて結晶化する工程(1)、前記成形品から極性有機溶媒を除去する工程(2)を有する、ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記工程(2)において、成形品を溶媒に接触させる温度がポリアリーレンスルフィド樹脂のガラス転移温度以下である、請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
前記極性有機溶媒が、アミド類、環状エーテル類、ハロゲン化物類である、請求項1又は2記載のポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
前記工程(2)において、成形品を溶媒に接触させる時間が10時間以下である、請求項1又は2記載の処理方法。
【請求項5】
ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形してなる成形品に含まれるポリアリーレンスルフィド樹脂の非晶部を極性有機溶媒に接触させて結晶化する処理方法。
【請求項6】
溶媒に接触させる温度がポリアリーレンスルフィド樹脂のガラス転移温度以下である、請求項5記載の処理方法。
【請求項7】
前記極性有機溶媒が、アミド類、環状エーテル類、ハロゲン化物類である、請求項5又は6記載の処理方法。
【請求項8】
溶媒に接触させる時間が10時間以下である、請求項5又は6記載の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の製造方法及び処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、これを「PPS樹脂」と略記する。)に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、これを「PAS樹脂」と略記する。)は、成形品表面の結晶性に由来して、耐薬品性等に優れ、電気電子部品、自動車部品、給湯機部品、繊維、フィルム用途等に幅広く利用されている。
【0003】
PAS樹脂は、高いガラス転移温度(Tg)を有するため、PAS樹脂成形品を結晶化させるためには高温環境下での処理が求められる。例えば、PPS樹脂はTgを約90℃に有し、200℃以上における溶融物の徐冷による結晶化が一般的に行われている。これにより、PAS樹脂は結晶化において電力コストが高く、加工におけるCO2排出量が課題となっており、より地球環境に配慮したプロセスが求められていた。
【0004】
一方、PPS樹脂の非晶固体の加熱による結晶化(冷結晶化)は、100℃~200℃付近で行われるが、十分な結晶性を示すには長時間を要する(特許文献1、2等)。また、特に冷結晶化を経た成形品は結晶化前後の寸法変化や反り等の変形が著しくなる傾向にあり、緻密な構造を有する部品に適応する際に製品設計を困難にさせていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-55219号公報
【特許文献2】特開2016-166431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明が解決しようとする課題は、PAS樹脂のガラス転移温度以下における結晶化を行い、より地球環境に配慮したPAS樹脂成形品の製造方法を提供することにある。また、より地球環境に配慮した成形品表面の結晶化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは種々の検討を行った結果、PAS樹脂組成物を溶融成形してなる非晶部を含む成形品を、極性有機溶媒に接触させることで、常温下においても短時間で結晶化させることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、PAS樹脂組成物を溶融成形してなる成形品を極性有機溶媒に接触させて結晶化する工程(1)、前記成形品から極性有機溶媒を除去する工程(2)を有する、PAS樹脂成形品の製造方法に関する。
【0009】
また、本発明は、PAS樹脂組成物を溶融成形してなる成形品に含まれるPAS樹脂の非晶部を極性有機溶媒に接触させて結晶化する処理方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、PAS樹脂のガラス転移温度以下における結晶化を行い、より地球環境に配慮したPAS樹脂成形品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のPAS樹脂成形品の製造方法、及び、PAS樹脂成形品を結晶化する処理方法の一実施形態について、例示説明する。
【0012】
本発明のPAS樹脂成形品の製造方法は、PAS樹脂組成物を溶融成形してなる成形品を極性有機溶媒に接触させて結晶化する工程(1)、及び、前記成形品から極性有機溶媒を除去する工程(2)を有することを特徴とする。以下詳述する。
【0013】
<工程(1)>
本発明の製造方法は、PAS樹脂組成物を溶融成形してなる成形品を極性有機溶媒に接触させて結晶化する工程(1)を有する。本発明に用いるPAS樹脂組成物は、必須成分としてPAS樹脂を配合してなる。
【0014】
PAS樹脂は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記一般式(1)
【0015】
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~4の範囲のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)で表される構造部位と、必要に応じてさらに下記一般式(2)
【0016】
【化2】
で表される3官能性の構造部位と、を繰り返し単位とする樹脂である。式(2)で表される3官能性の構造部位は、他の構造部位との合計モル数に対して0.001~3モル%の範囲が好ましく、特に0.01~1モル%の範囲であることが好ましい。
【0017】
ここで、前記一般式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR1及びR2は、前記PAS樹脂の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記式(3)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記式(4)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0018】
【化3】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記一般式(3)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記PAS樹脂の耐熱性や結晶性の面で好ましい。
【0019】
また、前記PAS樹脂は、前記一般式(1)や(2)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(5)~(8)
【0020】
【化4】
で表される構造部位を、前記一般式(1)と一般式(2)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本発明では上記一般式(5)~(8)で表される構造部位は10モル%以下であることが、PAS樹脂の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。前記PAS樹脂中に、上記一般式(5)~(8)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
【0021】
また、前記PAS樹脂は、その分子構造中に、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下であることが好ましい。
【0022】
また、PAS樹脂の物性は、本発明の効果を損ねない限り特に限定されないが、以下の通りである。
【0023】
(重量平均分子量)
本発明に用いるPAS樹脂の重量平均分子量は、本発明の効果を損なわなければ特に限定されるものではないが、その上限は、結晶化に優れる点から40,000以下であることが好ましく、さらに30,000以下の範囲であることがより好ましい。一方、下限は、機械的強度及び成形性の観点から10,000以上の範囲であることが好ましく、さらに12,500以上の範囲であることがより好ましく、さらに15,000以上の範囲であることが好ましい。なお、本発明のPAS樹脂の重量平均分子量は、下記の測定条件によりゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定される重量平均分子量のことである。校正は6種類の単分散ポリスチレンを用いる。
装置:超高温ポリマー分子量分布測定装置(株式会社センシュー科学製「SSC-7000」)
カラム:UT-805L(昭和電工株式会社製)
カラム温度:210℃
溶媒:1-クロロナフタレン
測定方法:UV検出器(360nm)
【0024】
(溶融粘度)
本発明に用いるPAS樹脂の溶融粘度は特に限定されないが、流動性及び機械的強度のバランスが良好となることから、300℃で測定した溶融粘度(V6)が、好ましくは1Pa・s以上の範囲であり、そして、好ましくは1000Pa・s以下の範囲、より好ましくは500Pa・s以下の範囲であり、さらに好ましくは200Pa・s以下の範囲である。ただし、溶融粘度(V6)の測定は、PAS樹脂を島津製作所製フローテスター、CFT-500Dを用いて行い、300℃、荷重:1.96×106Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した溶融粘度の測定値とする。
【0025】
(非ニュートン指数)
本発明に用いるPAS樹脂の非ニュートン指数は特に限定されないが、0.90以上から2.00以下の範囲以下の範囲であることが好ましい。ただし、本発明において非ニュートン指数(N値)は、キャピログラフを用いて融点+20℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=40の条件下で、剪断速度(SR)及び剪断応力(SS)を測定し、下記式を用いて算出した値である。非ニュートン指数(N値)が1に近いほど線状に近い構造であり、非ニュートン指数(N値)が高いほど分岐が進んだ構造であることを示す。
【0026】
【数1】
[ただし、SRは剪断速度(秒
-1)、SSは剪断応力(ダイン/cm
2)、そしてKは定数を示す。]
【0027】
(製造方法)
PAS樹脂の製造方法としては特に限定されないが、例えば(製造法1)硫黄と炭酸ソーダの存在下でジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、(製造法2)極性溶媒中でスルフィド化剤等の存在下にジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、(製造法3)p-クロルチオフェノールを、必要ならばその他の共重合成分を加えて、自己縮合させる方法、(製造法4)ジヨード芳香族化合物と単体硫黄を、カルボキシ基やアミノ基等の官能基を有していてもよい重合禁止剤の存在下、減圧させながら溶融重合させる方法、等が挙げられる。これらの方法のなかでも、(製造法2)の方法が汎用的であり好ましい。反応の際に、重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩や、水酸化アルカリを添加しても良い。上記(製造法2)方法のなかでも、加熱した極性有機溶媒とジハロゲノ芳香族化合物とを含む混合物に含水スルフィド化剤を水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、極性有機溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを、必要に応じてポリハロゲノ芳香族化合物と加え、反応させること、及び反応系内の水分量を該極性有機溶媒1モルに対して0.02~0.5モルの範囲にコントロールすることによりPAS樹脂を製造する方法(特開平07-228699号公報参照。)や、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下でジハロゲノ芳香族化合物と必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加え、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を、硫黄源1モルに対して0.01~0.9モルの範囲の有機酸アルカリ金属塩及び反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下の範囲にコントロールしながら反応させる方法(WO2010/058713号パンフレット参照。)で得られるものが特に好ましい。ジハロゲノ芳香族化合物の具体的な例としては、p-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、o-ジハロベンゼン、2,5-ジハロトルエン、1,4-ジハロナフタレン、1-メトキシ-2,5-ジハロベンゼン、4,4’-ジハロビフェニル、3,5-ジハロ安息香酸、2,4-ジハロ安息香酸、2,5-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロアニソール、p,p’-ジハロジフェニルエーテル、4,4’-ジハロベンゾフェノン、4,4’-ジハロジフェニルスルホン、4,4’-ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’-ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1~18の範囲のアルキル基を有する化合物が挙げられ、ポリハロゲノ芳香族化合物としては1,2,3-トリハロベンゼン、1,2,4-トリハロベンゼン、1,3,5-トリハロベンゼン、1,2,3,5-テトラハロベンゼン、1,2,4,5-テトラハロベンゼン、1,4,6-トリハロナフタレンなどが挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0028】
重合工程により得られたPAS樹脂を含む反応混合物の後処理方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、(後処理1)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸又は塩基を加えた後、減圧下又は常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回又は2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過及び乾燥する方法、或いは、(後処理2)重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともPAS樹脂に対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、PAS樹脂や無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、水洗、乾燥する方法、或いは、(後処理3)重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回又は2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過及び乾燥をする方法、(後処理4)重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄の時に酸又は塩基を加えて処理し、乾燥をする方法、(後処理5)重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回又は2回以上洗浄し、更に水洗浄、濾過及び乾燥する方法、等が挙げられる。いずれの後処理方法においても、水洗工程の際に酸や塩基を添加してpH調整をすることによって、PAS樹脂の反応性や結晶化速度、ナトリウム含有量等を制御することができ、熱水洗工程後のpHが6.5~11.5の範囲、より好ましくは6.5~8.5の範囲となるように制御することができる。
【0029】
なお、上記(後処理1)~(後処理5)に例示したような後処理方法において、PAS樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
【0030】
本発明に用いるPAS樹脂組成物は、エラストマーを任意成分として配合することができる。前記エラストマーを含むことによって、PAS樹脂組成物の靭性や耐冷熱衝撃性をより高めることができる。同様の観点から、前記エラストマーとして熱可塑性エラストマーを用いることが好ましい。前記熱可塑性エラストマーとしては、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリオレフィン系エラストマー、フッ素系エラストマー及びシリコーン系エラストマー等が挙げられる。
【0031】
前記エラストマーを配合する場合、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基及びカルボキシル基からなる群より選ばれる少なくとも一種の基と反応し得る官能基をものが挙げられる。係る官能基としては、エポキシ基、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、イソシアネート基、オキサゾリン基、及び、式:R(CO)O(CO)-又はR(CO)O-(式中、Rは炭素原子数1~8のアルキル基を表す。)で表される基が挙げられる。係る官能基を有する熱可塑性エラストマーは、例えば、α-オレフィンと前記官能基を有するビニル重合性化合物との共重合により得ることができる。α-オレフィンは、例えば、エチレン、プロピレン及びブテン-1等の炭素数2~8のα-オレフィン類が挙げられる。前記官能基を有するビニル重合性化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステル等のα,β-不飽和カルボン酸及びそのアルキルエステル、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びその他の炭素数4~10のα、β-不飽和ジカルボン酸及びその誘導体(モノ若しくはジエステル、及びその酸無水物等)、並びにグリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、エポキシ基、カルボキシル基、及び、式:R(CO)O(CO)-又はR(CO)O-(式中、Rは炭素原子数1~8のアルキル基を表す。)で表される基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するエチレン-プロピレン共重合体及びエチレン-ブテン共重合体が、靭性及び耐衝撃性の向上の点から好ましい。本発明において、エラストマーは任意成分であるが、配合する際の割合は特に限定されず、例えば、PAS樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上から、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは15質量部以下である。
【0032】
本発明に用いるPAS樹脂組成物は、必要に応じて、シランカップリング剤を任意成分として配合することができる。シランカップリング剤としては、本発明の効果を損ねなければ特に限定されないが、カルボキシ基と反応する官能基、例えば、エポキシ基、イソシアナト基、アミノ基又は水酸基を有するシランカップリング剤が好ましいものとして挙げられる。このようなシランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリクロロシラン等のイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等の水酸基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。本発明においてシランカップリング剤は必須成分ではないが、配合する場合、その配合量は、本発明の効果を損ねなければその添加量は特に限定されないが、PAS樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下までの範囲である。かかる範囲において、樹脂組成物が良好な成形性、特に離型性を有し、かつ成形品の機械的強度が向上するため好ましい。
【0033】
本発明に用いるPAS樹脂組成物は、必要に応じて、充填剤を任意成分として配合することができる。これら充填剤としては本発明の効果を損なうものでなければ公知慣用の材料を用いることもでき、例えば、繊維状のものや、粒状や板状などの非繊維状のものなど、さまざまな形状の無機充填剤等が挙げられる。具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、珪酸カルシウム、ワラストナイト等の繊維、天然繊維等の繊維状充填剤が使用でき、またガラスビーズ、ガラスフレーク、硫酸バリウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、マイカ、タルク、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ゼオライト、ミルドファイバー、硫酸カルシウム等の非繊維状充填剤も使用できる。無機充填剤を表面処理する表面処理剤としては、具体的には、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物、ボラン処理、セラミックコート等があげられる。なかでも、エポキシ系化合物またはシラン系化合物が好ましい。充填剤の配合量としては、例えば、PAS樹脂100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、10量部以上であることがより好ましく、20質量部以上であることがさらに好ましい。一方、より優れた樹脂組成物の流動性や加工性、成形品表面の平滑性を得る観点から、前記PAS樹脂100質量部に対して350質量部以下であることがより好ましく、300質量部以下であることがさらに好ましく、250質量部以下であることが特に好ましい。
【0034】
本発明に用いるPAS樹脂組成物は、上記成分に加えて、さらに用途に応じて、適宜、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ四フッ化エチレン樹脂、ポリ二フッ化エチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等の合成樹脂(以下、単に合成樹脂という)を任意成分として配合することができる。本発明において前記合成樹脂は必須成分ではないが、配合する場合、その配合の割合は本発明の効果を損ねなければ特に限定されるものではなく、また、それぞれの目的に応じて異なり、一概に規定することはできないが、本発明に係る樹脂組成物中に配合する合成樹脂の割合として、例えばPAS樹脂(A)100質量部に対し5質量部以上の範囲であり、15質量部以下の範囲の程度が挙げられる。換言すれば、PAS樹脂(A)と合成樹脂との合計に対してPAS樹脂の割合は質量基準で、好ましくは(100/115)以上の範囲であり、より好ましくは(100/105)以上の範囲である。
【0035】
また本発明に用いるPAS樹脂組成物は、その他にも着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、防錆剤、及び離型剤(ステアリン酸やモンタン酸を含む炭素原子数18~30の脂肪酸の金属塩やエステル、ポリエチレン等のポリオレフィン系ワックスなど)等の公知慣用の添加剤を必要に応じ、任意成分として配合してもよい。これらの添加剤は必須成分ではなく、例えば、PAS樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上の範囲であり、そして、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは100質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下の範囲で、本発明の効果を損なわないよう目的や用途に応じて適宜調整して用いればよい。
【0036】
本発明におけるPAS樹脂組成物の溶融成形は、公知の方法であれば特に限定されない。例えば、射出成形、圧縮成形、コンポジット、シート、パイプなどの押出成形、引抜成形、ブロー成形、トランスファー成形等、各種成形に供することが可能である。射出成形にて成形する場合、各種成形条件は特に限定されず、通常一般的な方法にて成形することができる。例えば、射出成形機内で、樹脂温度がPAS樹脂の融点以上の温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上の温度範囲、より好ましくは融点+10℃~融点+100℃の温度範囲、さらに好ましくは融点+20℃~融点+50℃の温度範囲で前記PAS樹脂組成物を溶融する工程を経た後、樹脂吐出口よりを金型内に注入して成形すればよい。その際、金型温度も公知の温度範囲、例えば、室温(23℃程度)~300℃、好ましくは180℃以下に設定すればよい。
【0037】
PAS樹脂組成物を溶融成形して得た成形品は非晶部を含む。本発明における非晶部を含む成形品とは、表面/及び内部が非晶性を示す成形品のことを示す。ここで、非晶部とは、PAS樹脂が非晶状態で固化した部位を示す。含まれる非晶部の割合については特に限定されないが、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。非晶部の割合の確認は、示差走査熱量計やFT-IR測定によって行うことができる。例えば、FT-IR測定を用いる場合、非晶部に由来する波長1074cm-1のピーク強度と結晶部に由来する波長1093cm-1のピーク強度を用いて評価することができ、(1074cm-1のピーク強度)/(1093cm-1のピーク強度)の値が大きいほど非晶部の割合が大きいことを示す。
【0038】
本発明で成形品に接触させる極性有機溶媒は、特に限定されず公知のものを用いることができる。例えば、ホルムアミド、アセトアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンなどのアミド類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,4-ベンゾジオキサンなどの環状エーテル類;クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、1,4-ジクロロベンゼン、1-ブロモプロパンなどのハロゲン化物類;尿素及びラクタム類;スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン類;ベンゾニトリル等のニトリル類、及び、これらの混合物を挙げることができる。これらの中でもアミド類、環状エーテル類、ハロゲン化物類の極性有機溶媒が好ましく、N-メチル-2-ピロリドン、テトラヒドロフラン、クロロホルムがさらに好ましい。
【0039】
成形品を極性有機溶媒に接触させる際の温度は特に限定されないが、0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましく、20℃以上がさらに好ましい。また、PAS樹脂のガラス転移温度以下が好ましく、例えば、90℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましい。かかる範囲において、PAS樹脂成形品の結晶化に係る電力コストの低減と時間のバランスに優れる。
【0040】
成形品を極性有機溶媒に接触させる時間については特に限定されないが、10時間以下が好ましく、5時間以下がより好ましい。かかる範囲において、PAS樹脂成形品の結晶化を十分に促進しながら電力コストの低減ができる。
【0041】
<工程(2)>
本発明の製造方法は、工程(1)を経た成形品から極性有機溶媒を除去する工程(2)を有する。
【0042】
本発明において、成形品から極性有機溶媒を除去する方法については特に限定されず、公知の方法や機器を用いることができる。例えば、風乾や、加熱式乾燥機、熱風乾燥機、真空乾燥機、マイクロ波乾燥機等を用いる方法が挙げられる。その際の温度は特に限定されないが、電力コストの低減の観点から、PAS樹脂のガラス転移温度以下の温度範囲が好ましく、90℃以下がより好ましい。また、本工程は空気中で行ってもよく、窒素ガス等の不活性ガス中で行ってもよい。
【0043】
本発明の製造方法により得られた成形品は、少なくとも表面に含まれるPAS樹脂が十分に結晶化されたものとなる。ここで、十分に結晶化されたとは、例えば、DSC測定において、実施例に記載の方法で成形品を室温からPAS樹脂の融点まで加熱する過程で、結晶化に由来するピークが観察されないことで確認できる。試験片形状としては、例えば、厚さ1mm以下のフィルムを用いることができる。ピークが確認できない場合のPAS樹脂の結晶化度は、その構造に依存し、特に限定されないが、一般的には40質量%~60質量%である。かかる範囲において、成形品は良好な機械的性質や耐薬品性等を呈することができる。
【0044】
このような効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、以下のメカニズムによるものと推測される。すなわち、成形品を極性有機溶媒に接触させると、溶媒が成形品表面から浸透し、樹脂が膨潤する。通常、ガラス転移温度以下の環境では、PAS樹脂の分子運動は抑制されているが(ガラス状態)、溶剤の浸透によりPAS樹脂の自由体積が増加し分子運動が発現する(ゴム状態)。これにより、PAS非晶部において分子鎖の再配列が起こり、結晶化に至る。よって、成形品の少なくとも表面の非晶部が結晶部となるが、結晶化は表面のみに限定されず、成形品が溶媒に膨潤する範囲で生じる。なお、上記メカニズムはあくまで推測のものであり、他の理由により本発明の効果が奏される場合であっても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0045】
<処理方法>
そして、本発明の他の実施形態の一つとしては、PAS樹脂組成物を溶融成形してなる成形品に含まれるPAS樹脂の非晶部を極性有機溶媒に接触させて結晶化する処理方法に係るものである。
【0046】
本発明に用いる極性有機溶媒は、特に限定されず公知のものを用いることができる。例えば、ホルムアミド、アセトアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンなどのアミド類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,4-ベンゾジオキサンなどの環状エーテル類;クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、1,4-ジクロロベンゼン、1-ブロモプロパンなどのハロゲン化物類;尿素及びラクタム類;スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン類;ベンゾニトリル等のニトリル類、及び、これらの混合物を挙げることができる。これらの中でもアミド類、環状エーテル類、ハロゲン化物類の極性有機溶媒が好ましく、N-メチル-2-ピロリドン、テトラヒドロフラン、クロロホルムがさらに好ましい。
【0047】
PAS樹脂を極性有機溶媒に接触させる際の温度は特に限定されないが、0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましく、20℃以上がさらに好ましい。また、PAS樹脂のガラス転移温度以下が好ましく、例えば、90℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましい。かかる範囲において、PAS樹脂の結晶化に係る電力コストの低減と時間のバランスに優れる。
【0048】
成形品を極性有機溶媒に接触させる時間については特に限定されないが、10時間以下が好ましく、5時間以下がより好ましい。かかる範囲において、PAS樹脂成形品の結晶化を十分に促進しながら電力コストの低減ができる。
【0049】
本発明の処理方法を経たPAS樹脂は、十分に結晶化されたものとなる。ここで、十分に結晶化されたとは、DSC測定において成形品を室温からPAS樹脂の融点まで加熱する過程で、結晶化に由来するピークが確認できないことを示す。ピークが確認できない場合のPAS樹脂の結晶化度は、その構造に依存し、特に限定されないが、一般的には40質量%~60質量%である。かかる範囲において、成形品は良好な機械的性質や耐薬品性等を呈することができる。
【0050】
<用途>
本発明の製造方法ないし処理方法により得られた成形品を用いた製品は、特に限定されることはなく、以下のような各種用途に利用可能である。例えば、コネクタ・プリント基板・封止成形品などの電気・電子部品、ランプリフレクター・各種電装部品などの自動車部品、各種建築物や航空機・自動車などの内装用材料、あるいはOA機器部品・カメラ部品・時計部品などの精密部品等の射出成形・圧縮成形品、あるいは繊維・フィルム・シート・パイプなどの押出成形・引抜成形品、3Dプリンタ造形品等として幅広く利用可能である。
【実施例0051】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0052】
<評価>
【0053】
(1)DSC測定
各実施例、比較例、参考例で得られたフィルムを試験片として、示差走査熱量計(Perkin Elmer社製『DSC8500』)を用いて評価した。昇温速度20℃/minで40℃から350℃まで昇温して、ガラス転移点(Tg、℃)、結晶化に伴う発熱ピーク(Tc、℃)、及び結晶化に伴うエンタルピー変化(ΔH、J/g)を測定した。結果を表1、2に示す。本評価において、試験片に非晶部が含まれない場合、ガラス転移点(Tg)及び結晶化に伴う発熱ピーク(Tc)は観察されない。
【0054】
(2)フィルムの外観評価
各実施例、比較例、参考例で得られたフィルムの外観を、蛍光灯の下で目視にて評価した。格子模様のある板の上にフィルムを静置、蛍光灯を照射した際に、フィルム越しに格子模様が鮮明に見えるものを透過と、鮮明に見えないものを非透過と判断した。結果を表1、2に示す。
【0055】
<参考例、実施例1~7、比較例1~5>
【0056】
参考例(1-1) PPS製造
圧力計、温度計、コンデンサー、デカンター、精留塔を連結した撹拌翼付き150Lオートクレーブにp-ジクロロベンゼン(以下、p-DCBと略す)33.222kg(226モル)、NMP2.280kg(23モル)、47.23質量%NaSH水溶液27.300kg(NaSHとして230モル)、及び49.21質量%NaOH水溶液18.533g(NaOHとして228モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水27.300kgを留出させた後、釜を密閉した。脱水時に共沸により留出したp-DCBはデカンターで分離して、随時釜内に戻した。脱水終了後の釜内は微粒子状の無水硫化ナトリウム組成物がp-DCB中に分散した状態であった。上記脱水工程終了後に、内温を160℃に冷却し、NMP47.492kg(479モル)を仕込み、185℃まで昇温した。圧力が0.00MPaに到達した時点で、精留塔を連結したバルブを開放し、内温200℃まで1時間掛けて昇温した。この際、精留塔出口温度が110℃以下になる様に冷却とバルブ開度で制御した。留出したp-DCBと水の混合蒸気はコンデンサーで凝縮し、デカンターで分離して、p-DCBは釜へ戻した。留出水量は179gであった。内温200℃から230℃まで3時間掛けて昇温し、230℃で3時間撹拌した後、250℃まで昇温し、1時間撹拌した。最終圧力は0.30MPaであった。
【0057】
参考例(1-2) 固液分離
冷却後に得られたスラリー101.35kgのうち、260gを分取した。スラリー中に含まれるNMPを、真空乾燥機で150℃、2時間減圧留去した。
【0058】
参考例(1-3) 熱水洗浄
乾燥後の混合物に70℃のイオン交換水360gを加えて10分間攪拌した後にろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水480gを加えケーキ洗浄を行った。得られた含水ケーキ、イオン交換水180gを0.5Lオートクレーブに仕込んだ。オートクレーブを密閉し、スラリーを220℃で30分間攪拌した。室温まで冷却した後、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水480gを加えケーキ洗浄を行った。その後、120℃で4時間乾燥し、PPS樹脂を得た。溶融粘度は210Pa・s(300℃、荷重:20kgf/cm2、L/D=10(mm)/1(mm)で6分間予熱)であった。
【0059】
参考例(1-4) フィルム作製
得られたPPS樹脂300mgを分取して2枚のポリイミドフィルムで挟み、350℃/1分間で溶融させてから厚さ1mmになるようにプレスした。その後、溶融物をポリイミドフィルムの外側から、常温の2枚の金属板を用いて挟んでプレスすることで急冷し、透明外観の非晶フィルム(R1)を作製した。
【0060】
実施例(1)
50cc蓋付バイアル瓶に参考例で得られた非晶フィルム(R1)30mg、NMP30gを加えて密栓し、水浴にて25℃で4.0時間保持してフィルムを浸漬処理した。その後、フィルムを取出してアセトンで洗浄してから、設定温度30℃の真空乾燥機内で4時間乾燥し、フィルム(1)を得た。
【0061】
実施例(2)
浸漬溶媒をNMPから、テトラヒドロフランに変更したこと以外は、実施例(1)と同様に行い、フィルム(2)を得た。
【0062】
実施例(3)
浸漬溶媒をNMPから、クロロホルムに変更したこと以外は、実施例(1)と同様に行い、フィルム(3)を得た。
【0063】
実施例(4)
浸漬温度を25℃から、50℃に変更したこと以外は、実施例(1)と同様に行い、フィルム(4)を得た。
【0064】
実施例(5)
浸漬温度を25℃から、80℃に変更したこと以外は、実施例(1)と同様に行い、フィルム(5)を得た。
【0065】
実施例(6)
浸漬時間を4.0時間から、2.0時間に変更したこと以外は、実施例(5)と同様に行い、フィルム(6)を得た。
【0066】
実施例(7)
浸漬時間を4.0時間から、1.0時間に変更したこと以外は、実施例(5)と同様に行い、フィルム(7)を得た。
【0067】
比較例(1)
浸漬溶媒をNMPから、n-ヘキサンに変更したこと以外は、実施例(1)と同様に行い、フィルム(C1)を得た。
【0068】
比較例(2)
浸漬溶媒をNMPから、ジエチルエーテルに変更したこと以外は、実施例(1)と同様に行い、フィルム(C2)を得た。
【0069】
比較例(3)
実浸漬溶媒をNMPから、水に変更したこと以外は、実施例(1)と同様に行い、フィルム(C3)を得た。
【0070】
比較例(4)
浸漬温度を25℃から、80℃に変更したこと以外は、比較例(3)と同様に行い、フィルム(C4)を得た。
【0071】
比較例(5)
浸漬時間を4.0時間から、8.0時間に変更したこと以外は、比較例(3)と同様に行い、フィルム(C5)を得た。
【0072】
【0073】
【0074】
以上の結果から、極性有機溶媒に接触させた実施例のフィルムは、比較例のフィルムと対比して、ポリアリーレンスルフィド樹脂の結晶化が十分促進されていることが認められた。