(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158792
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】水を含むペースト状組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/159 20060101AFI20231024BHJP
A61Q 1/12 20060101ALI20231024BHJP
A61K 8/25 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
C01B33/159
A61Q1/12
A61K8/25
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068790
(22)【出願日】2022-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】谷口 貴史
(72)【発明者】
【氏名】三道 光喜
(72)【発明者】
【氏名】福寿 忠弘
【テーマコード(参考)】
4C083
4G072
【Fターム(参考)】
4C083AB171
4C083CC01
4C083CC12
4C083DD22
4C083FF04
4G072AA28
4G072BB07
4G072BB15
4G072CC08
4G072DD03
4G072GG01
4G072GG03
4G072HH21
4G072JJ15
4G072KK17
4G072LL06
4G072MM03
4G072MM04
4G072UU30
(57)【要約】
【課題】 化粧品などに対して添加する多孔質シリカにイオン性不純物が含まれていると吸油量が低下するなどの問題を生じる場合があるため、水洗などを行ってイオン性不純物量の低減を行う必要があるが、洗浄水を多量に要し、それに伴い廃液も増えてしまう。
【解決手段】 エマルション法によりシリカゾルを出発原料としてシリカゲルの水分散液を調製、疎水化処理後、水溶性有機溶媒を加えて、シリカゲルが分散した水溶性有機溶媒層と水層とに分相させ、該水層を除去する。ほとんどのイオン性不純物は水層に溶解するため、これを除去することでその後に行うイオン性不純物を低減する工程を大幅に効率化できる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)水性シリカゾルを調製する工程、
(2)該水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させてW/O型エマルションを形成させる工程、
(3)前記シリカゾルをゲル化させて、前記W/O型エマルションをシリカゲルの分散液へと変換する工程、
(4)有機相と、前記シリカゲルが分散した水相とに分相させた後、該有機相を除去する工程、
(5)シリカゲルが分散した水相に、疎水化剤を添加してシリカゲルを疎水化する工程、
(6)水溶性有機溶媒を加え、シリカゲルが分散した有機相と、水相に分相させる工程、
(7)水相を除去する工程、および
(8)シリカゲルが分散した有機相を脱液してペースト状とする工程
を含んでなる、疎水性シリカと水とを含むペースト状組成物の製造方法。
【請求項2】
前記(8)シリカゲルが分散した有機相を脱液してペースト状とする工程の実施前あるいは実施と同時に、
(9)シリカゲルが分散した有機相への水の添加と除去によるイオン性物質の低減操作
を行う請求項1記載の疎水性シリカと水とを含むペースト状組成物の製造方法。
【請求項3】
(1)水性シリカゾルを調製する工程が、
ケイ酸金属塩と鉱酸から水性シリカゾルを調製する工程
である、請求項1または2記載の疎水性シリカと水とを含むペースト状組成物の製造方法。
【請求項4】
(5)シリカゲルが分散した水相に、疎水化剤を添加してシリカゲルを疎水化する工程が、
シリカゲルが分散した水相に、疎水化剤と鉱酸を添加してシリカゲルを疎水化した後、塩基性物質を添加する工程
である、請求項1または2記載の疎水性シリカと水とを含むペースト状組成物の製造方法。
【請求項5】
(5)シリカゲルが分散した水相に、疎水化剤を添加してシリカゲルを疎水化する工程が、
シリカゲルが分散した水相に、疎水化剤と鉱酸を添加してシリカゲルを疎水化した後、塩基性物質を添加する工程
である、請求項3記載の疎水性シリカと水とを含むペースト状組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性シリカと水とを含むペースト状組成物の新規な製造方法に関する。より詳しくは、イオン性不純物の含有量を少なくするための洗浄に用いる水の使用量を従来よりも削減できる製造方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
エアロゲルは、高い空隙率を有する材料であり、吸油性に優れる。ここで言うエアロゲルとは、多孔質な構造を有し分散媒体として気体を伴う固体材料を意味し、特に空隙率60%以上の固体材料を意味する。なお、空隙率とは、見掛けの体積中に含まれている気体の量を体積百分率で表した値である。エアロゲルは、上記空隙率が高いことに起因して、優れた吸油性を有している。
【0003】
シリカエアロゲルの用途は様々であるが、中でも化粧品材料として有用であり、ファンデーションを例に挙げると、皮膚に塗布した際の、その外観持続性を向上させるための添加剤として用いられている。詳述すれば、シリカエアロゲルの多孔質な構造は、皮脂を良く吸収するため、皮膚が皮脂で濡れて光の正反射率を高まりテカリが生じることが防止できる。しかも、シリカエアロゲルは、疎水化して製造されたものであると、ファンデーション等の化粧品材料の有機成分と親和性が良くなり均一に分散するため、上記テカリ防止の外観持続性効果を一層に高める。
【0004】
例えば、ファンデーションの材料として、粉体の状態で使用される場合、高い吸油量を有するシリカエアロゲルは、テカリの原因となる皮脂を大量に吸収できるため、化粧仕上がり時の外観を長時間にわたって持続させることができる(特許文献1参照)。
【0005】
また、これらシリカエアロゲルは、化粧品に配合した際に、滑らかな触感を得るために、粒径は1~数10μmであり、且つ肌へのローリング性を向上させるために、その形状が球状であることが望ましい。
【0006】
こうした適度な粒径を有する球状シリカエアロゲルの製造方法として、例えば次の方法が提案されている。
【0007】
特許文献2には、水性シリカゾルを調製する工程、該水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させてW/Oエマルションを形成させる工程、シリカゾルをゲル化させて、W/O型エマルションをゲル化体の分散液へと変換する工程、ゲル化体中の水分を、20℃における表面張力が30mN/m以下である溶媒に置換する工程、ゲル化体を疎水化剤(シリル化剤)により疎水化処理(シリル化処理)する工程、上記置換した溶媒を除去する工程を上記順に有する球状シリカエアロゲルを製造する方法が開示されている。
【0008】
特許文献3には、前記W/O型エマルションをゲル化体の分散液へと変換する工程で得られたゲル化体の分散液を、O相とW相の2層に分離させる工程、W相に塩基性物質を加えて、該W相に分散するゲル化体を熟成する工程、W相に分散するゲル化体をシリル化処理する工程、疎水性有機溶媒でゲル化体を抽出する工程、ゲル化体を回収し、疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体を得る工程を順に有する球状シリカエアロゲルを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2014-88307号公報
【特許文献2】国際公開第2012/057086号
【特許文献3】特開2018-177620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記特許文献に記載のようにして得られた疎水性シリカエアロゲル粉末では、疎水性であるが故に水に分散させにくいという問題がある。この問題を解決するために、特許文献2などに記載の製造方法において中間体として製造される疎水化されたゲル化体が分散した水性分散液から、そのまま水量を調製して疎水性シリカと水とを含むペースト状組成物を製造し、これを用いることを本発明者等は既に提案している(特願2021-014785)。即ち、疎水化されたゲル化体が分散したW相における水含有量を、ゲル化体が乾燥してしまわない程度に減少させることによりペースト状とすることができる。ペースト状組成物とすることで、疎水性シリカエアロゲル粉末では困難であった、水あるいは水を主成分とする媒体に分散させることを可能としている。
【0011】
疎水化されたゲル化体が分散した水性分散液には水性シリカゾルの調製や疎水化に際して用いる原料等に由来して生じる塩類が存在し、ゲル化体中に残りやすい。ゲル化体中に塩類が残ると、細孔内が塩類で満たされるため、高い吸油量を維持できなくなり、皮脂を大量に吸収できなくなる。そのため、ペースト状組成物の製造(特願2021-014785)では、ゲル化体が乾燥しないように注意しながら、水の添加と除去を連続的(あるいは断続的)に行う洗浄工程を実施することで塩類を除去している。
【0012】
塩化物塩や硫酸塩等を十分に取り除くには、この洗浄工程においてイオン交換水を大量に使用しなければならないという問題があった。また、この洗浄に伴い、大量の廃液を排出してしまい、経済的ではないという問題があった。
【0013】
そこで本発明は、塩類の含有量の十分に少ない疎水性シリカと水とを含むペースト状組成物の、経済的に優れた製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、水を含むペースト状組成物の製造方法において、多量の塩を含む溶液に水溶性有機溶媒を加えることで、エアロゲルが分散した有機層と、塩を含む水層に分相させることが可能となるため、水層を除去する工程で、塩を除去することができ、さらに水洗に必要な水の量が削減でき、より経済的に製造できることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0015】
即ち、本発明は、
(1)水性シリカゾルを調製する工程、
(2)該水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させてW/O型エマルションを形成させる工程、
(3)前記シリカゾルをゲル化させて、前記W/O型エマルションをシリカゲルの分散液へと変換する工程、
(4)有機相と、前記シリカゲルが分散した水相とに分相させた後、該有機相を除去する工程、
(5)シリカゲルが分散した水相に、疎水化剤を添加してシリカゲルを疎水化する工程、
(6)水溶性有機溶媒を加え、シリカゲルが分散した有機相と、水相に分相させる工程、
(7)水相を除去する工程、および
(8)シリカゲルが分散した有機相を脱液してペースト状とする工程
を含んでなる、疎水性シリカと水とを含むペースト状組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法では、水溶性有機溶媒を加えることでシリカゲルが分散した有機相と、水相に分相させる工程、及び水相を除去する工程を実施することで、洗浄水の使用量を抑えた、従来よりも経済的に優れた方法で疎水性シリカと水とを含むペースト状組成物を製造できることを可能とした。また逆に、水の使用量が同等であれば、相対的にイオン性不純物の含有量を少なくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の水を含むペースト状組成物の製造方法は以下の工程を含む。即ち、
(1)水性シリカゾルを調製する工程、
(2)該水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させてW/O型エマルションを形成させる工程、
(3)前記シリカゾルをゲル化させて、前記W/O型エマルションをシリカゲルの分散液へと変換する工程、
(4)有機相と、前記シリカゲルが分散した水相とに分相させた後、該有機相を除去する工程、
(5)シリカゲルが分散した水相に、疎水化剤を添加してシリカゲルを疎水化する工程、
(6)水溶性有機溶媒を加え、シリカゲルが分散した有機相と、水相に分相させる工程、
(7)水相を除去する工程、および
(8)シリカゲルが分散した有機相を脱液してペースト状とする工程、
を順に行うことである。
【0018】
上記の製造方法を、順序立てて以下に詳述する。
【0019】
(1)水性シリカゾルを調製する工程
シリカゾルの原料として、安価であることからケイ酸アルカリ金属塩等を使用する方法を好適に採用することができる。該ケイ酸アルカリ金属塩としては、ケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウム等が挙げられ、組成式は、下記の式(1)で示される。
【0020】
m(M2O)・n(SiO2) (1)
[式(1)中、m及びnはそれぞれ独立に正の整数を表し、Mはアルカリ金属原子を示す。]
上記のシリカゾル調製の原料のなかでも、入手が容易であるケイ酸ナトリウムが特に好適である。
【0021】
以下、原料としてケイ酸アルカリ金属塩等を使用する方法を例に説明する。
【0022】
本発明の水性シリカゾルを調製するための原料として、ケイ酸アルカリ金属塩を用いる場合には、塩酸、硫酸等の鉱酸で中和することによってシリカゾルを調製することが好ましく、具体的には、酸の水溶液に対して、該水溶液を撹拌しながらケイ酸アルカリ金属塩の水溶液を添加する方法や、酸の水溶液とケイ酸アルカリ金属塩の水溶液とを配管内で衝突混合させる方法が挙げられる(例えば特公平4-54619号公報参照)。
【0023】
本発明において、調整したシリカゾルのpHを酸性域とする。具体的には、水性シリカゾルを調製する際用いる酸の量は、ケイ酸アルカリ金属塩のアルカリ金属分に対する水素イオンのモル比として、1.05~1.2とすることが望ましい。酸の量をこの範囲にした場合には調製したシリカゾルのpHは、1~5程度となる。より好ましくは、調製したシリカゾルのpHが2.5~3.5となるよう、酸の量を調整する。
【0024】
上記の方法により作成したシリカゾルの濃度としては、ゲル化が比較的短時間で完了し、またシリカ粒子の骨格構造の形成を十分なものとして乾燥時の収縮を抑制でき、大きな細孔容量を得られやすい点で、シリカ分の濃度(SiO2換算濃度)として50g/L以上とすることが好ましい。その一方で、シリカ粒子の密度を相対的に小さくして、良好な細孔容積を得、また吸油量を多くできやすい点で、160g/L以下とすることが好ましく、100g/L以下とすることがより好ましい。更に好ましくは90~100g/Lである。
【0025】
水性シリカゾルの濃度を上記下限値以上とすることにより、エアロゲルのBJH法による細孔容積を8mL/g以下とすることが容易になるほか、エアロゲルのBJH法による細孔半径のピークを50nm以下とすることが容易になる。また、水性シリカゲルの濃度を上記上限値以下とすることにより、上記特許文献記載のエアロゲルのBJH法による細孔容積を2mL/g以上とすることが容易になるほか、エアロゲルのBJH法による細孔半径のピークを10nm以上とすることが容易になる。
【0026】
(2)該水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させてW/O型エマルションを形成させる工程
本発明の製造方法では、上記のような方法で得られた水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させて、W/Oエマルションを形成させる。このようなW/Oエマルションを形成することにより、シリカゾルは表面張力等により球状になるので、該球状形状で疎水性溶媒中に分散しているシリカゾルをゲル化させることにより、球状のゲル化体を得ることができる。このように、W/Oエマルションを形成するエマルション形成工程を経ることにより、通常は0.8以上の高い円形度を有するエアロゲルを製造することが可能になる。
【0027】
当該疎水性溶媒としては、水性シリカゾルとW/Oエマルションを形成できる程度の疎水性を有した溶媒であればよい。そのような溶媒としては、例えば、炭化水素類やハロゲン化炭化水素類等の有機溶媒を使用することが可能である。より具体的にはヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロプロパン等が挙げられる。これらの中でも、適度な粘度を有するヘプタンを特に好適に用いることができる。なお必要に応じて、複数の溶媒を混合して用いてもよい。また水性シリカゾルとW/Oエマルションを形成できる範囲であれば、低級アルコール類などの水溶性溶媒を併用する(混合溶媒として使用する)ことも可能である。
【0028】
使用する疎水性溶媒の量は、エマルションがW/O型となる程度の量であれば特に限定されることはない。ただし、一般的には、水性シリカゾル1体積部に対して疎水性溶媒が1~10体積部程度となる量を使用する。
【0029】
上記のW/Oエマルションを形成する際には、界面活性剤を添加することが好ましい。使用する界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、及びノニオン系界面活性剤のいずれも使用することが可能である。これらの中でも、W/Oエマルションを形成しやすい点で、ノニオン系界面活性剤が好ましい。本発明においては、シリカゾルが水性であるため、界面活性剤の水溶性及び疎水性の程度を示す値であるHLB値が3以上6以下の界面活性剤を好適に用いることができる。なお本発明において「HLB値」とは、グリフィン法によるHLB値を意味する。
【0030】
上述したように、本発明においては、W/Oエマルションの液滴の形状によってエアロゲル粒子の形状がほぼ定められる。液滴の形状は用いる界面活性剤によって左右される。前記の通り、エアロゲル粒子の形状は球状であることが好ましく、この観点から好適に用いることのできる界面活性剤の具体的としては、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノセスキオレート等が挙げられる。
【0031】
界面活性剤の使用量は、W/Oエマルションを形成させる際の一般的な量と変わるところがない。具体的には、水性シリカゾル100mlに対して0.05g以上10g以下の範囲を好適に採用することができる。界面活性剤の使用量が多いと、W/Oエマルションの液滴がより微細になり易く、逆に界面活性剤の使用量が少ないと、W/Oエマルションの液滴がより大きくなり易い。したがって界面活性剤の使用量を増減することにより、エアロゲルの平均粒径を調整することが可能である。
【0032】
W/Oエマルションを形成する際に、水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させる方法としては、W/Oエマルションの公知の形成方法を採用することができる。工業的な製造の容易性などの観点からは、機械乳化によるエマルション形成が好ましく、具体的には、ミキサー、ホモジナイザー等を使用する方法を例示できる。好適には、ホモジナイザーを用いることができる。
【0033】
W/Oエマルション中のシリカゾル液滴の平均粒径とエアロゲルの平均粒径とは概ね対応関係にあるから、ここでの液滴径を制御することにより、エアロゲルの平均粒径が制御できる。
【0034】
なお、エマルション中のシリカゾル液滴の粒径を十分小さくすることにより、シリカゾル液滴の形状が乱されにくくなるので、より高い円形度を有する球状のエアロゲルを得ることが一層容易になる(ただし、エアロゲルの平均粒径も小さくなる)。
【0035】
(3)前記シリカゾルをゲル化させて、前記W/O型エマルションをシリカゲルの分散液へと変換する工程
当工程においては、前述の操作によってエマルションを形成させた後、水性シリカゾルのゲル化を行う。当該ゲル化は、エマルションの状態が崩れない限り公知のゲル化の方法を特に制限なく採用できる。
【0036】
第1の好ましい方法としては、水性シリカゾル形成時にゲル化までの時間がある程度長くなるようにpH調整を行っておく方法を例示できる。すなわち、前述のシリカゾルの形成時にエマルション形成中はゲル化せず、その後ある温度で一定時間保持することでゲル化が起こる程度のpHに調整しておく方法である。
【0037】
ゲル化温度に調整した後、ゲル化が開始するまでの時間は、pHやゲル化温度、及びシリカゾルの濃度にもよるが、一般にはpHが低く、ゲル化温度が低く、シリカゾルの濃度が薄いほど、同時間は長くなる傾向がある。例えばpH5、温度50℃、シリカゾル中のシリカ濃度(SiO2換算)が80g/Lの場合には、数分程度である。pH3,温度70℃、シリカゾル中のシリカ濃度(SiO2換算)が80g/Lの場合には、60分程度である。
【0038】
また、第2の好ましい方法としては、エマルションに対して塩基性物質を加えることによって、W相のpHを上昇させて弱酸性ないし塩基性にする方法を例示できる。この場合、金属酸化物ゾルを調製する際に該ゾルが比較的安定である低いpH(0.5~2.5程度)に調製しておくことが好ましい。W相のpHを上昇させる具体的な方法としては、W相が目的のpHになる塩基の量を予め決定しておき、その量の塩基をエマルションに加えることにより行うことが好ましい。目的のpHとなる塩基の量の決定は、エマルションに用いる金属酸化物ゾルを一定量分取し、該分取した金属酸化物ゾルのpHをpHメーターにより測定しながら、ゲル化に用いる塩基を該分取した金属酸化物ゾルに加え、目的のpHが達成される塩基の量を測定することにより、行うことができる。
【0039】
エマルションに塩基性物質の添加するに際しては、ミキサー等による攪拌を行うことにより、pHが局所的に偏って上昇すること(局所的なpH上昇)をできるだけ防止することが好ましい。なお、塩基性物質としては、例えばアンモニア、苛性ソーダ、アルカリ金属ケイ酸塩等が挙げられる。
【0040】
(4)有機相と、前記シリカゲルが分散した水相とに分相させた後、該有機相を除去する工程
本発明の製造方法では、上述のようにして調製したゲル化体の分散液をO相とW相とに分離する。分離後、前記工程により得られたゲル化体は、W相側に分散して存在する。
【0041】
当該分離方法としては、エマルションの解乳方法として公知の方法を援用することが可能であるが、具体的には、水溶性有機溶媒の添加、塩の添加、遠心力の付与、酸の添加、容積比の変化(水又は疎水性溶媒の添加)等から選ばれる一つ、あるいは複数を組み合わせて実施することができる。好適には、一定量の水溶性有機溶媒を、必要に応じて水と共にエマルション中に加えてO相とW相に分離することができる。分離工程を経ると、一般に、上層がO相(有機層)、下層がW相(水層)となる。上記の水溶性有機溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。このうち、イソプロピルアルコールは、後述の疎水化処理の際にも、処理の効率を高める上で効果があるため、好適に用いることができる。
【0042】
なお、この工程でW相を形成させるには、必ずしも水の添加は必須ではなく、原料として用いた水のうち、該ゲル化体が分散可能な程度の量の水がゲル化体のなかから排出される方法を採用することができる。この方法としては、具体的には添加する水溶性有機溶媒として、ゲル化体の細孔に侵入し、水を追い出す機能を有する水溶性有機溶媒を選択すれば実施できる。
【0043】
上記の水溶性有機溶媒の添加量は、エマルション形成時に用いた界面活性剤の種類および量によって調整することが好ましい。例えば、W/O型エマルションの界面活性剤としてソルビタンモノオレエートを用いた場合には、O相の量に対して質量で0.1~0.4倍程度の水溶性有機溶媒を加え、必要に応じて撹拌後、静置することにより、O相とW相に分離することができる。ただしこの際には、上記水溶性有機溶媒と供に水も、O相の量に対して質量で0.6~0.9倍程度の添加量で加えるのが好ましい。また、該分離操作を行う際の温度は特に限定されないが、通常は、20~70℃程度で行うことができる。
【0044】
本発明の製造方法を実施するにあたっては、引き続いて熟成を行うことが好ましい。該熟成は、O相と相分離されたW相(ゲル化体が分散)に塩基性物質を加えてW相のpHを弱酸性ないし塩基性に調整して実施する。
【0045】
塩基性物質を加えることで、酸性域下にあるW相のpHは上昇して、弱酸性ないし塩基性が呈される状態になるが、具体的には、W相のpHは4.5~10とすることが好ましく、5.5~8.5とすることがより好ましく、6.0~8.0とすることが特に好ましい。
【0046】
本発明において上記塩基性物質としては、ナトリウムを含む塩基性物質を用いる。当該塩基性物質としては、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等の無機塩基、酢酸ナトリウム等の有機酸のナトリウム塩などを用いることができるが、有機酸が好ましくない不純物となりうる可能性があるため、無機塩基が好ましい。中でも水酸化ナトリウムを用いることがpH調整を容易に行うことができるため、好ましい。
【0047】
また、上記ゲル化体の熟成は、熟成温度を室温~80℃程度で保持することによって行うことができる。熟成時間は、W相のpHと熟成温度によって適宜設定すればよいが、0.5~12時間程度である。
【0048】
本発明の製造方法では、次いで分相させたO相を除去する。これは、さらにこの後に行うゲル化体を疎水化処理する工程に際して、その処理効率を向上させるためである。除去方法は特に限定されないが、2相に分かれているO相とW相とを、例えばデカンテーション等でO相を除去し、W相を回収することで容易に達成できる。
【0049】
ここで、完全にO相を分離除去する必要はないが、当該W相に含まれるゲル化体を疎水化処理する工程において、効率的に疎水化処理を行うためには除去されずに残るO相の割合はなるべく少ない方が良く、W相の量(ゲル化体質量含む)に対して20質量%以下となるようにすることが好ましく、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0050】
(5)シリカゲルが分散した水相に、疎水化剤を添加してシリカゲルを疎水化する工程
疎水化剤としては、Si-OHと反応して、Si-O-Si結合を生じさせる化合物を用いればよく、当該疎水化剤としては、疎水性シリカエアロゲルの製造において使用される公知の疎水化剤を採用することができる。
【0051】
より具体的に、本発明において使用可能な疎水化剤としては、シラノール基:
M-OH (2)
[式中、Mはゲル化体を形成しているSi原子を表す。式(2)においてはMの残りの原子価は省略されている。以下の式において、すべて同じ。]
と反応し、これを
(M-O-)(4-n)SiRn (3)
[式(3)中、nは1~3の整数であり、Rは炭化水素基であり、nが2以上である場合には、複数のRは同一でも相互に異なっていてもよい。]へと変換することが可能なシリル化剤を一例として挙げることができる。
【0052】
このような疎水化剤を用いて疎水化処理を行うことにより、エアロゲル粉体表面のヒドロキシ基が疎水性のシリル基でエンドキャッピングされて不活性化されるので、表面ヒドロキシ基相互間での脱水縮合反応を抑制できる。よって、臨界点未満の条件で乾燥を行っても乾燥収縮を抑制できるので、2mL/g以上のBJH細孔容積を有する疎水性シリカエアロゲル粉末を得ることが可能になる。
【0053】
上記の疎水化剤としては、以下の一般式(4)~(6)で示される化合物が知られている。
【0054】
RnSiX(4-n) (4)
[式(4)中、nは1~3の整数を表し;Rは炭化水素基等の疎水基を表し;Xはヒドロキシ基を有する化合物との反応においてSi原子との結合が開裂して分子から脱離可能な基(脱離基)を表す。nが2以上のとき複数のRは同一でも異なっていてもよい。また、nが2以下のとき複数のXは同一でも異なっていてもよい。]
【0055】
【0056】
[式(5)中、R1はアルキレン基を表し;R2及びR3は各々独立に炭化水素基を表し;R4及びR5は各々独立に水素原子又は炭化水素基を表す。]
【0057】
【0058】
[式(6)中、R6及びR7は各々独立に炭化水素基を表し、mは3~6の整数を表す。複数のR6は同一でも異なっていてもよい。また、複数のR7は同一でも異なっていてもよい。]
前記式(4)において、Rは炭化水素基であり、好ましくは炭素数1~10の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1~4の炭化水素基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0059】
Xで示される脱離基としては、塩素、臭素等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;-NH-SiR3で示される基(式中、Rは式(4)におけるRと同義である)等を例示できる。
【0060】
上記式(4)で示されるシリル化剤を具体的に例示すると、クロロトリメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、トリクロロメチルシラン、モノメチルトリメトキシシラン、モノメチルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン等が挙げられる。反応性が良好である点で、クロロトリメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、トリクロロメチルシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン及び/又はヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルジシロキサンが特に好ましい。
【0061】
脱離基Xの数(4-n)に応じて、エアロゲル粉体骨格上のヒドロキシ基と結合する数は変化する。例えば、nが2であれば:
(M-O-)2SiR2 (7)
という結合が生じることになる。
【0062】
また、nが3であれば:
M-O-SiR3 (8)
という結合が生じることになる。このようにヒドロキシ基がシリル化されることにより、疎水化処理がなされる。
【0063】
前記式(5)において、R1はアルキレン基であり、好ましくは炭素数2~8のアルキレン基であり、特に好ましくは炭素数2~3のアルキレン基である。
【0064】
前記式(5)において、R2及びR3は各々独立に炭化水素基であり、好ましい基としては、前記式(4)におけるRと同様の基を挙げることができる。R4およびR5は水素原子又は炭化水素基を示し、炭化水素基である場合には、好ましい基としては、式(4)におけるRと同様の基を挙げることができる。この式(5)で示される化合物(環状シラザン)でゲル化体を処理した場合には、ヒドロキシ基との反応によりSi-N結合が開裂するので、ゲル化体中のエアロゲル粉体骨格表面上には
(M-O-)2SiR2R3 (9)
という結合が生じることになる。このように上記式(7)の環状シラザン類によっても、ヒドロキシ基がシリル化され、疎水化処理がなされる。
【0065】
上記式(5)で示される環状シラザン類を具体的に例示すると、ヘキサメチルシクロトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン等が挙げられる。
【0066】
上記式(6)において、R6及びR7は各々独立に炭化水素基であり、好ましい基としては、式(4)におけるRと同様の基を挙げることができる。mは3~6の整数を示す。この式(6)で示される化合物(環状シロキサン)でゲル化体を処理した場合、ゲル化体中のエアロゲル粉体骨格表面上には、
(M-O-)2SiR6R7 (10)
という結合が生じることになる。このように上記式(6)の環状シロキサン類によっても、ヒドロキシ基がシリル化され、疎水化処理がなされる。
【0067】
上記式(6)で示される環状シロキサン類を具体的に例示すると、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等が挙げられる。
【0068】
上記の疎水化処理の際に使用する疎水化剤の量としては、処理剤の種類にもよるが、ヘキサメチルジシロキサンを疎水化剤として用いる場合には、シリカ(使用したシリカゾル量から計算されるSiO2量)100質量部に対して10~150質量部が好適である。より好ましくは20~130質量部であり、更に好ましくは30~120質量部である。
【0069】
上記の疎水化処理の条件は、W相に対して、疎水化剤を加え、一定時間反応させることにより行うことができる。例えば、疎水化剤としてヘキサメチルジシロキサンを用い、処理温度を50℃とした場合には、6~12時間程度以上保持することで行うことでき、処理温度を70℃とした場合には3~12時間程度以上保持することで行うことができる。
【0070】
また、シリル化処理剤としてオクタメチルシロクテトラシロキサン等の環状シロキサン類を用いる場合には、鉱酸を添加することで溶液のpHを0.3~1.0とすることが、反応の効率を高める上で好ましい。
【0071】
上記の鉱酸としては、硫酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、チオシアン酸、リン酸が好ましく、なかでも硫酸がより好ましい。
【0072】
当該疎水化処理工程においては、W相中への疎水化剤の溶解度を高めて、反応の効率を高める目的で、水溶性有機溶媒を加えることが好ましい。この水溶性有機溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。このうち、イソプロピルアルコールを好適に用いることができる。添加量は、ゲル化体を含むW相中の濃度で15~80wt%程度にすればよい。
【0073】
(6)水溶性有機溶媒を加え、シリカゲルが分散した有機相と、水相に分相させる工程
シリカゲルを疎水化した後のW相に水溶性有機溶媒を加えて液相をO相とW相に分相する。これはW相に、これまでの工程で生じた塩が溶解しているため、水溶性有機溶媒の溶解度が低下し、W相に溶解しきれない水溶性有機溶媒がO相として遊離する塩析現象によるものである。シリカゲルは疎水化されているためO相に分散し、塩のほとんどがW相に溶解した状態となる。なお、分相したO相にも水は含まれており、その割合は水溶性有機溶媒にもよるが30~50質量%程度である。使用する水溶性有機溶媒の量は、W相の1倍から10倍を目処に適宜設定すればよい。使用する水溶性有機溶媒の制限はなく任意であるが、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ターシャリーブチルアルコール、ノルマルブチルアルコール、エタノール、メタノール、アセトン、テトラヒドロフランが好ましい。なかでもイソプロピルアルコールが特に好ましい。
【0074】
当工程の液相が分相した状態を得るためには、水溶液中に硫酸イオン、炭酸イオン、リン酸二水素イオン、塩化物イオンが存在していることが好ましく、なかでも硫酸イオンがより好ましい。
【0075】
また分相状態を形成する際の温度は限定されないが、30℃から70℃程度に加熱することが好ましい。
【0076】
シリカゲルが分散したW相に、疎水化剤を添加してシリカゲルを疎水化する工程において反応の効率を高めるために硫酸等の鉱酸を添加した場合、液相をより容易に分相させることができることから、本工程において水溶性有機溶媒を加える前に、塩基性物質を添加して鉱酸を中和することが好ましい。即ち、(5)シリカゲルが分散した水相に、疎水化剤を添加してシリカゲルを疎水化する工程を、シリカゲルが分散した水相に、疎水化剤と鉱酸を添加してシリカゲルを疎水化した後、塩基性物質を添加する工程とすることが好ましい。
【0077】
塩基性物質を加えることで、W相のpHが中性から弱酸性に呈される状態になるが、具体的には、W相のpHは1.0~7.5とすることが好ましく、1.5~7.0とすることがより好ましい。
【0078】
当該塩基性物質としては、水酸化物塩、炭酸塩、炭酸水素塩、アンモニア水等の無機塩基、酢酸塩等の有機酸塩などを用いることができる。
【0079】
また、この工程は、35℃~80℃程度で保持することによって行うことができる。この工程では発熱反応である酸塩基中和反応が生じているため、特に加熱しなくてもこの温度範囲とすることができる。塩基性物質を加えるのに要する時間は、W相の温度によって適宜設定すればよいが、0.5時間~1時間程度である。
【0080】
(7)水相を除去する工程
上述したW相には製造工程中に生ずる塩の大部分が溶解している状態であるため、W相を除去する当工程で製造工程中から塩のほとんどを除くことが可能となる。除去の方法としては、分液漏斗に移液し、下側から自重で抜き出す方法が最も簡便である。
【0081】
(8)シリカゲルが分散した有機相を脱液してペースト状とする工程
前述したW相を除去する工程によりW相を除去したのちのO相は、ゲル化体が水溶性有機溶媒と水の混合物に分散したスラリー状(自己流動性あり)のものであるから、当該スラリーに含まれる溶液の一部を除去することで、ペースト状組成物(自己流動性が実質なし)とすることができる。
【0082】
脱液する方法は、ゲル化体が通過しない目開き(開口径)のフィルターにかけることで実施できる。上記スラリーはろ過性が悪く、フィルターにかけたとしてもキレイに固液分離され、ゲル化体が湿った粉末のような状態で回収されることはなく、フィルター上に粘着したペースト(ゲル化体+水+水溶性有機溶媒)として回収される。ペースト状を呈した後も、フィルター上でろ過し続ければ徐々にではあるが溶液量は減っていくから、所望の溶液量となった時点で回収すればよい。
【0083】
(9)シリカゲルが分散した有機相への水の添加と除去によるイオン性物質の低減操作
本発明の製造方法では、(7)水相を除去する工程において同時に塩の除去を実施しているため、上記ペースト状組成物においても相対的にイオン性不純物の含有量は少なくなっているが、その量をより低減させて吸油量等の物性をさらに良好なものとするために、この段階でイオン性物質の低減操作を行うことが好ましい。
【0084】
イオン性物質を低減するためには、水で洗浄を行うことが好ましい。水での洗浄方法としては、例えば、濾過機にゲル化体を含むO相を投入し、そこに水を流す、即ち、水の添加と除去を同時に行うことで洗浄を行うことができる。この際、加圧または吸引することで、投入する水と排出する水のバランスを調整することが可能となる。また、ゲル化体に残存している水溶性有機溶媒の沸点を超えない範囲で、高温にすることが洗浄効率を高める上では好ましい。通常は、20~60℃の範囲で行うことができる。なおこの洗浄で、各工程で用いた有機溶媒やシリル化剤の反応残渣等も除去される。また水の添加と除去は交互に行っても良い。
【0085】
用いる水は、イオン交換水、純水などのイオン性不純物の含有量の少ないものを用いることが好ましい。
【0086】
水での洗浄を終える目安は、排出される水の電気伝導率を測定することで確認することができる。排出される水の電気伝導率は、100μS/cm以下にすることが好ましく、70μS/cmにすることがより好ましく、40μS/cmにすることがさらに好ましい。排出される水の電気伝導率を100μS/cmにすることで、最終的に得られる疎水性シリカが高吸油量を有している状態となる。
【0087】
排出される水の電気伝導率が所定の値を下回った後、前記のようにして水分量を調整すればペースト状組成物を得ることができる。
【0088】
上記方法で製造されるペースト状組成物における組成比は特に限定されないが、ペーストとしての扱いやすさを考慮すると、疎水性シリカ100質量部に対して、水を300~1900質量部の範囲で含んでいることが好ましい。なお、ペースト状組成物に含まれる水の量が多いということは、ペースト状組成物に含まれるシリカの空隙が大きいことを意味している。
【0089】
上記のようにして製造したペースト状組成物は、疎水性シリカと水とを含んでいる。また水溶性有機溶媒が残存するが、これは液体であり、シリカの空隙を塞ぐことはないため、残存した水溶性有機溶媒が吸油量に影響を及ぼしにくい。水溶性有機溶媒の低減が必要になれば、(9)水の添加と除去によるイオン性物質の低減操作を行うことで調整することができる。ここでいうシリカとは二酸化ケイ素のことであって、二酸化ケイ素で構成されている物質の総称を指し、化学組成はSiO2で表される。
【0090】
当該疎水性シリカは、製造方法に由来して多孔質であり、残存物中の水分量が1質量%以下となるまで温度が60℃以上150℃以下で、かつゲージ圧力が-100kPaG以上-20kPaG以下である雰囲気下におき、水分を揮発させれば、細孔容積と吸油量が少なく、細孔半径のピークが小さい以外な点は、特許文献1~3に記載された方法で製造した疎水性シリカエアロゲル粉末と同等の物性を有するものとなる。
【0091】
細孔容積と吸油量及び細孔半径のピークが異なるのは、疎水性シリカエアロゲル粉末の製造に分散媒をいったん表面張力の低い疎水性有機溶媒に置換してから乾燥するのに対し、上記方法では水から直接乾燥をかけるため乾燥収縮を生じるためである。
【0092】
(物性、及び用途)
本発明で製造されるペースト状組成物は、水と混合した場合、含まれるシリカが疎水性であるにも係わらず、容易に水に分散する。さらに、化粧品用添加剤として適度な粒度分布及び比表面積となるように製造条件を選択すれば、同用途、具体的には液体化粧品の添加剤として利用した際に、外観保持性に優れ、滑らかな触感が得られる。加えて、疎水性シリカが多孔質シリカである場合、吸油量が高く、皮膚及び頭皮表面の脂分を効率良く吸収し、また、疎水性を呈し汗をはじく効果もあることから、上記液体化粧品以外の、ペースト、クリームタイプのメイクアップ・スキンケア化粧料、さらにはデオドラント用品、整髪料などの化粧品としても好適に用いることができる。
【0093】
無論、水を含むペースト状組成物は前記適度な粒子性状を備えていることから、断熱性付与剤、艶消し剤等の各種用途材料にも好適に用いることができる。
【実施例0094】
以下、本発明を具体的に説明するため、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではない。なお、実施例及び比較例の評価は以下の方法で実施した。
【0095】
<評価方法>
実施例1及び比較例5で製造したペースト状組成物に対して、以下の項目について試験を行った。
【0096】
なお「ペースト状組成物に含まれていた疎水性シリカ」とは、ペースト状組成物の水分量が1質量%以下となるまで、真空乾燥機で150℃、-100kPaG(ゲージ圧)条件下で16時間乾燥し、水を除去した後に残るシリカについてのものである。
【0097】
(電気伝導率)
株式会社堀場製作所製のCOND METER ES-51を用いて、電気伝導率を測定した。
【0098】
塩を取り除くための洗浄で排出される水(洗浄液)の電気伝導率は、直接測定した。
【0099】
乾燥して得られるペースト状組成物に含まれていた疎水性シリカの電気伝導率は、50mlスクリュー管瓶に、ペースト状組成物に含まれていた疎水性シリカを1g、イソプロピルアルコールを7g、イオン交換水を30g加えた後、超音波で30分分散させた混合液について測定した。
【0100】
(水分量)
ペースト状組成物の水分量の測定は、オーハウス社製のハロゲン水分計(MB25)を使用し、以下の方法で測定した。
【0101】
専用のアルミ皿に疎水性シリカを含むペースト状組成物3.0gを載せて、水分計にセットし、分析した。測定条件は、160℃、30分間とした。
【0102】
(塩化物イオン含有量)
200mlビーカーに疎水性シリカを含むペースト状組成物6.7g、超純水100mlを加え、撹拌子で15分間撹拌して分散液を調製した。この分散液を0.45μmシリンジフィルターでろ過後、Thermo Fisher SCIENTIFIC社製のイオンクロマトグラフィー(ICS-2100)で塩化物イオン含有量の測定を行った。結果は、シリカ質量に対する塩化物イオン含有量として記載した。
【0103】
(体積基準累計50%径(D50))
製造した疎水性シリカを含むペースト状組成物をエタノールに添加し、30分超音波分散を行った。得られたエタノール分散液は、ベックマン・コールター株式会社製精密粒度分布測定装置Multisizer3を用い、100μmのアパチャーチューブを使用して、体積基準累計50%径(D50)を測定した。
【0104】
(比表面積、細孔容積、細孔半径のピーク及び吸油量)
ペースト状組成物に含まれていた疎水性シリカの比表面積をBET法、細孔容積及び細孔半径のピークをBJH法によって算出した。これらの計算に用いられる吸着等温線の測定はマイクロトラック・ベル株式会社製BELSORP-maxにより行った。
【0105】
BET法による比表面積は、測定対象のサンプル粉末を、1kPa以下の真空下において、150℃の温度で2時間以上乾燥させ、その後、液体窒素温度における窒素の吸着側のみの吸着等温線を取得し、BET法により解析して求めた値であり、解析時の分圧(P/P0)の範囲は0.1~0.25である。
【0106】
BJH細孔容積は、前記BET比表面積測定の際と同様に吸着等温線を取得し、BJH法(Barrett, E. P.; Joyner, L. G.; Halenda, P. P., J. Am. Chem. Soc. 73, 373 (1951)により、解析して得られたものである。本方法により測定される細孔は、半径1~100nmの細孔であり、この範囲の細孔の容積の積算値が本発明における細孔容積となる。
【0107】
細孔半径のピークは、前記BET比表面積測定の際と同様に吸着等温線を取得し、BJH法により解析して得られたものである。細孔半径の対数による累積細孔容積(体積分布曲線)が最大のピーク値をとる細孔半径の値である。
【0108】
吸油量の測定は、JIS K6217-4「オイル吸収量の求め方」により行った。
【0109】
(M値)
疎水性シリカは水には浮遊するが、メタノールには完全に懸濁する。このことを利用し、以下の方法によって測定した修飾疎水度をM値として、疎水化の程度の指標とした。
【0110】
ペースト状組成物に含まれていた疎水性シリカ0.2gを容量200mLのビーカー中の50mlの水に加え、マグネティックスターラーで攪拌した。これに、ビュレットを使用してメタノールを加え、ペースト状組成物に含まれていた疎水性シリカの全量がビーカー内の溶媒に濡れて懸濁した時点を終点として、滴下した。この際、メタノールが直接試料に触れないように、チューブで溶液内に導いた。終点におけるメタノール-水混合溶媒中のメタノールの容量%を疎水度(M値)とした。
【0111】
M値 = メタノール滴下量 / (メタノール滴下量+50ml)
(炭素含有量)
ペースト状組成物に含まれていた疎水性シリカについて、エレメンター・ジャパン株式会社製の元素分析装置(vario MICRO cube)を用い、炭素含有量を測定した。
【0112】
(平均円形度)
ペースト状組成物に含まれていた疎水性シリカについて日立ハイテクノロジーズ製SEM(S-5500)を用いて、加速電圧3.0kV、二次電子検出、倍率1000倍で観察した。得られたSEM画像を画像解析することにより、下記式によりペースト状組成物に含まれていた疎水性シリカの円形度を算出した。なお、平均円形度は、2000個以上のペースト状組成物に含まれていた疎水性シリカについて円形度を算出し、平均したものである。
【0113】
C=4πS/L2
[上記式において、Sは当該粒子が画像中に占める面積(投影面積)を表す。Lは画像中における当該粒子の外周部の長さ(周囲長)を表す。]
【0114】
<実施例1>
9%硫酸0.8kgを撹拌羽で撹拌しながら、ケイ酸ナトリウム1kgを徐々に添加し、水性シリカゾルを調整した。このとき、pHは2.9であった。
【0115】
上記調整した水性シリカゾル1.8kgに、1.7kgのヘプタンを加え、ソルビタンモノオレエートを0.02kg添加した。この溶液をホモジナイザーを用いて、4600回転/分の条件で2.5分撹拌することで、W/Oエマルションを形成させた。
【0116】
得られたW/Oエマルションを撹拌羽で撹拌しながら、70℃、1時間かけてゲル化した。続けて、イソプロピルアルコール1kgとイオン交換水0.7kgを加えて、攪拌羽で攪拌しながら上層(O相)と下層(W相)とに分離させた。続けて、0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液を0.09kg添加した。このとき、W相のpHは6.8であった。60℃、1時間かけて、ゲル化体の熟成を行った。デカンテーションにより、O相を除去することで、W相を回収した。
【0117】
得られたW相に30%硫酸を1.1kg、ヘキサメチルジシロキサンを0.1kg添加し、撹拌しながら60℃のウォーターバスで4時間保持することにより、シリル化処理を行った。
【0118】
シリル化処理後、攪拌羽で攪拌しながら24%水酸化ナトリウム水溶液を1kg添加し、60℃で中和処理を行った。このときのpHは2.3であった。
【0119】
中和処理後、イソプロピルアルコール1kgを添加し、60℃で攪拌羽で攪拌後、静置することで疎水性シリカを含むO相とW相とに分相させた。分相したO相の水及びイソプロピルアルコールの含有量はそれぞれ43、45質量%であった。
【0120】
W相を除去後、O相を加圧濾過機に移液し、イオン交換水を流し、フィルターを通過した液の電気伝導率が100μS/cm以下になるまで洗浄を行った。洗浄に使用したイオン交換水は、4.2kgであった。
【0121】
ダイヤフラムポンプで吸引し、水分の一部を除去することで。疎水性シリカと水とを含むペースト状組成物を1.7kg得た。
【0122】
ペースト状組成物における水分含有量は89質量%であり、イソプロピルアルコール約0.3質量%であった。水分量が1質量%以下になるまで、真空乾燥機で150℃、-100kPaG(ゲージ圧)条件下で16時間乾燥し、水を除去した後に残る疎水性シリカ(ペースト状組成物に含まれていた疎水性シリカ)を分析した結果を表1に示す。
【0123】
<比較例1~5>
(6)水溶性有機溶媒を加え、シリカゲルが分散した有機相と、水相に分相させる工程、及び(7)水相を除去する工程を行わなかった以外は、実施例2と同様の操作を行った。洗浄のため加圧濾過機に通水したイオン交換水の量が表1に示す時点における洗浄水の電気伝導率を測定し、比較例2~5とした。洗浄水の電気伝導率が実施例1と同様となった時点の比較例5ではペースト状組成物を得て、これを実施例1と同様に評価した。
【0124】