(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158912
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】タイトジャンクション形成促進用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/68 20060101AFI20231024BHJP
A61P 17/16 20060101ALI20231024BHJP
A61K 31/164 20060101ALI20231024BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
A61K8/68
A61P17/16
A61K31/164
A61Q19/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022068968
(22)【出願日】2022-04-19
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 百合香
【テーマコード(参考)】
4C083
4C206
【Fターム(参考)】
4C083AC641
4C083AC642
4C083BB51
4C083CC02
4C083EE12
4C206AA01
4C206AA02
4C206GA03
4C206GA25
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206MA75
4C206NA14
4C206ZA89
(57)【要約】
【課題】タイトジャンクションの形成を促進できる新たな技術を提供することを目的とする。
【解決手段】セラミド1、セラミド2、セラミド3、セラミド5及びセラミド6からなる群より選択される少なくとも1種のセラミドを有効成分として含有する、タイトジャンクション形成促進用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミド1、セラミド2、セラミド3、セラミド5及びセラミド6からなる群より選択される少なくとも1種のセラミドを有効成分として含有する、タイトジャンクション形成促進用組成物。
【請求項2】
前記セラミドが、セラミド1、セラミド2及びセラミド3からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のタイトジャンクション形成促進用組成物。
【請求項3】
セラミド1、セラミド2、セラミド3、セラミド5及びセラミド6からなる群より選択される少なくとも1種のセラミドを有効成分として含有する、顆粒層バリア機能改善用組成物。
【請求項4】
セラミド1、セラミド2、セラミド3、セラミド5及びセラミド6からなる群より選択される少なくとも1種のセラミドを組成物に配合することにより、該組成物に対してタイトジャンクション形成促進作用を付与することを特徴とする、該セラミドの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
タイトジャンクション形成促進用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞間脂質は、表皮の角質層に存在し、皮膚からの水分蒸発を防止する、外部からの異物侵入を防止するといった役割(バリア機能)や水分を保持するという役割(保湿機能)を担っている。細胞間脂質は主にセラミド、脂肪酸、コレステロールで構成されている。特にセラミドは、細胞間脂質の主要成分であり、セラミドの親水性部分と疎水性部分とが整列して形成されるラメラ構造が、細胞間脂質における良好なバリア機能、保湿機能に重要である。
【0003】
角質層よりも深部の顆粒層にはタイトジャンクションが存在する。タイトジャンクション(Tight Junction)は密着結合とも呼ばれており、細胞同士を接着(細胞間結合)させることにより異物(細菌、ウイルス、アレルゲン等)の体内への侵入を防止する、物質(水、イオン等)の自由な移動を防止するといった役割(バリア機能)を担うことが知られている。タイトジャンクションは主にオクルディン等のタンパク質で構成され、セラミドが全く関わらない構造である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】久保 亮治、新たな皮膚タイトジャンクションバリア・角質層バリア機能評価方法の開発、コスメトロジー研究報告Vol.21, 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、タイトジャンクションの形成を促進できる新たな技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、特定のセラミドがタイトジャンクションの形成を促進できることを見出した。本発明は該知見に基づき更に検討を重ねて完成されたものであり、本開示は例えば下記に代表される発明を包含する。
項1.セラミド1、セラミド2、セラミド3、セラミド5及びセラミド6からなる群より選択される少なくとも1種のセラミドを有効成分として含有する、タイトジャンクション形成促進用組成物。
項2.前記セラミドが、セラミド1、セラミド2及びセラミド3からなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載のタイトジャンクション形成促進用組成物。
項3.セラミド1、セラミド2、セラミド3、セラミド5及びセラミド6からなる群より選択される少なくとも1種のセラミドを有効成分として含有する、顆粒層バリア機能改善用組成物。
項4.セラミド1、セラミド2、セラミド3、セラミド5及びセラミド6からなる群より選択される少なくとも1種のセラミドを組成物に配合することにより、該組成物に対してタイトジャンクション形成促進作用を付与することを特徴とする、該セラミドの使用方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示は、特定のセラミドを有効成分として含有するタイトジャンクション形成促進用組成物を提供する。本開示によれば、特定のセラミドを用いることにより、タイトジャンクションの形成を促進できる。また、本開示は、特定のセラミドを有効成分として含有する顆粒層バリア機能改善用組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】セラミド無添加(比較例)の場合の結果を示す。
【
図2】ヒト表皮モデルにセラミド1を添加した場合(実施例1)の結果を示す。
【
図3】ヒト表皮モデルにセラミド2を添加した場合(実施例2)の結果を示す。
【
図4】ヒト表皮モデルにセラミド3を添加した場合(実施例3)の結果を示す。
【
図5】ヒト表皮モデルにセラミド5を添加した場合(実施例4)の結果を示す。
【
図6】ヒト表皮モデルにセラミド6を添加した場合(実施例5)の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示に包含される実施形態について更に詳細に説明する。なお、本開示において「含有する」は、「実質的にからなる」、「からなる」という意味も包含する。
【0010】
本開示は、セラミド1、セラミド2、セラミド3、セラミド5及びセラミド6からなる群より選択される少なくとも1種のセラミドを有効成分として含有する、タイトジャンクション形成促進用組成物を包含する。以下、セラミド1、セラミド2、セラミド3、セラミド5及びセラミド6からなる群より選択される少なくとも1種のセラミドを、促進セラミドと記載する場合がある。
【0011】
セラミドはスフィンゴ脂質の一種であり、セラミド1(セラミドEOP)、セラミド2(セラミドNDSまたはセラミドNG)、セラミド3(セラミドNP)、セラミド5(セラミドADSまたはセラミドAG)、セラミド6(セラミドAP)はいずれも本分野において公知である。
【0012】
これらのセラミドは商業的に入手可能であり、本開示を制限するものではないが、例えば、セラミド1として商品名:CERAMIDE I(エボニックジャパン株式会社製)、セラミド2として商品名:CERAMIDE TIC-001(高砂香料工業株式会社製)、セラミド3として商品名:CERAMIDE III(エボニックジャパン株式会社製)、セラミド5として商品名:セラミド5(高砂香料工業株式会社製)、セラミド6として商品名:Ceramide VI(エボニックジャパン株式会社製)等が例示される。
【0013】
促進セラミドとして、より好ましくはセラミド1、セラミド2、セラミド3が例示される。促進セラミドは、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0014】
タイトジャンクション形成促進用組成物中、促進セラミドの含有量は制限されず、通常、0.0001質量%以上50質量%以下が例示され、好ましくは0.001質量%以上20質量%以下、より好ましくは0.005質量%以上10質量%以下、更に好ましくは0.01質量%以上2質量%以下が例示される。
【0015】
該組成物は、本開示の効果を妨げない範囲で、必要に応じて、薬学的に許容される成分、香粧品科学的に許容される成分、可食性の成分といった任意の他の成分を含有してもよい。該他の成分として、水、低級アルコール類(炭素数1以上5以下、好ましくは炭素数1以上3以下)、高級アルコール類等のアルコール類、油分、賦形剤、崩壊剤、希釈剤、滑沢剤、香料、着色料、甘味料、矯味剤、懸濁剤、湿潤剤、乳化剤、可溶化剤、分散剤、緩衝剤、結合剤、浸透促進剤、安定剤、増量剤、防腐剤、増粘剤、ゲル化剤、pH調整剤、界面活性剤、コーティング剤、吸収促進剤、吸着剤、充填剤、酸化防止剤、血行促進成分、抗炎症成分、局所麻酔成分、鎮痒成分、ステロイド剤、抗ヒスタミン剤、清涼剤、皮膜形成剤、紫外線散乱剤、紫外線吸収剤、アミノ酸、ビタミン類、動植物抽出物、酵素、保湿成分、美白成分、栄養成分等の各種機能性成分、促進セラミド以外のセラミド類等が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよく、その配合量も適宜決定すればよい。促進セラミドは、例えば保湿成分ともいえるが、本開示において促進セラミドは該他の成分には包含されない。
【0016】
該組成物は、経口、非経口の別を問わず、好ましくは経皮(粘膜含む)または経口による適用(投与(摂取))が例示される。このことから、該組成物として好ましくは外用組成物、経口組成物が例示される。
【0017】
該組成物の形態も制限されず、目的に応じて適宜設定すればよい。該形態として、液剤、乳剤、懸濁剤、シロップ剤、エキス剤、酒精剤、エリキシル剤等の液状形態、散剤、顆粒剤、細粒剤、錠剤(糖衣錠等の被覆錠剤を含む)、丸剤、カプセル剤(ハードカプセル、ソフトカプセルを含む)、トローチ剤、チュアブル剤、ゲル状、クリーム状、ペースト状、ムース状、シート状、液状形態の凍結乾燥物等の半固形または固形形態、この他、エアゾール剤等、貼付剤、ハップ剤、経皮吸収型製剤等の各種形態が例示される。
【0018】
該組成物の使用態様も制限されず、目的に応じて適宜設定すればよい。使用態様として、化粧水、美容液、乳液、クリーム等の基礎化粧料、ファンデーション、リップクリーム等のメイクアップ化粧料、洗顔剤、クレンジング剤、ボディーソープ、シャンプー、リンス等の洗浄剤、日焼け止め剤、育毛剤、整髪剤等が例示される。また、該組成物は、例えば食品組成物(飲料を含む、サプリメント等を含む)、医薬組成物、医薬部外品組成物、飼料組成物、また、食品組成物、医薬組成物、医薬部外品組成物、飼料等への添加剤等として使用できる。該組成物のpHは、使用態様等に応じて適宜決定すればよい。
【0019】
該組成物を適用する対象者(対象動物)も制限されず、ヒト、ヒト以外の哺乳動物(イヌ、ネコ等)が例示される。
【0020】
該組成物は、形態、使用態様等に応じて従来公知の通常の手順に従い製造すればよく、促進セラミドと、必要に応じて前記他の成分とを混合等して製造できる。
【0021】
促進セラミドの適用量(投与(摂取)量)は、本開示の効果が奏される限り制限されず、組成物の形態、使用態様、適用対象者(対象動物)の症状、体格、年齢、期待される効果の程度等に応じて適宜設定すればよい。本開示を制限するものではないが、該組成物が外用組成物の場合、1日適用量としてヒトの皮膚1cm2あたり促進セラミドを通常、0.001~30μg、好ましくは0.003~10μg、より好ましくは0.01~3μgとなるように適用することが例示される。該組成物は、1日あたり単回適用であってもよく複数回適用であってもよく、また、任意の期間及び間隔で適用される。
【0022】
該組成物によれば、促進セラミドを用いることにより、タイトジャンクションの形成を促進できる。このことから、該組成物は、促進セラミドをタイトジャンクション形成促進の有効成分として含有する。
【0023】
また、タイトジャンクションは、表皮の顆粒層に存在し、細胞同士を接着させて隙間を塞ぐことで、異物(細菌、ウイルス、アレルゲン等)の体内への侵入防止、物質(イオン、水等)の移動防止等の役割(バリア機能)を担う。タイトジャンクションは、主にオクルディン、クローディン、ゾニューラオクルディン等のタンパク質で構成され、タイトジャンクションの増強は、バリア機能の改善に有用であることが知られている。このことから、本開示は、促進セラミドを有効成分として含有する、顆粒層におけるバリア機能改善用組成物を提供するといえる。このように、本開示の組成物は、低下した顆粒層バリア機能の向上、顆粒層バリア機能の低下抑制、健全な状態の顆粒層バリア機能の維持等に有用である。
【0024】
また、本開示の組成物によれば、促進セラミドを用いることにより、タイトジャンクションの形成を促進できる。このことから、本開示はまた、促進セラミドを組成物に配合することにより、該組成物に対してタイトジャンクション形成促進作用を付与することを特徴とする、該セラミドの使用方法を提供するともいえる。また、本開示は、促進セラミドを用いることを特徴とする、タイトジャンクション形成促進方法を提供するともいえる。該方法において、促進セラミド等は前述と同様に説明され、促進セラミドを配合することにより得られる組成物は、前記タイトジャンクション形成促進作用組成物と同様に説明される。
【実施例0025】
以下、例を示して本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示の実施形態は下記の例に限定されるものではない。
【0026】
試験例
次の手順に従い、ヒト三次元表皮モデルを用いてセラミドによるタイトジャンクション形成促進について評価した。本試験例で用いたセラミドは、次の通りである。
セラミド1:商品名CERAMIDE I、エボニックジャパン株式会社製
セラミド2:商品名CERAMIDE TIC-001、高砂香料工業株式会社製
セラミド3:商品名CERAMIDE III、エボニックジャパン株式会社製
セラミド5:商品名セラミド5、高砂香料工業株式会社製
セラミド6:商品名CERAMIDE VI、エボニックジャパン株式会社製
【0027】
・細胞培養
予め75cm2フラスコで培養した正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)を150000cellsになるように市販のカルチャーインサートに播種し、4日間培養した。カルチャーインサートを静置した24 wellプレートに0.5 ml/wellとなるよう正常ヒト表皮角化細胞増殖用培地(商品名Humedia-KG2、Kurabo社製)を添加した。
【0028】
・気液界面培養(ヒト表皮モデルの作製)
インサート内の培地をアスピレートし、一般的な手順に従い、室温(25℃)で気液界面培養を開始した。インサートを静置する24wellプレートには1 ml/wellの培地(商品名Assay培地、J-TEC社製)を添加した。培地は2~3日に1回交換し、7日間培養を行った。このようにして、ヒト三次元表皮モデルを作製した。
【0029】
・セラミドの添加
各セラミド(ストック濃度:2 mg/ml)を25μg/mlになるように前記プレートに添加し、気液界面培養を更に3日間続けた。
【0030】
・ホールマウント免疫染色
1. 気液界面培養後、培地をアスピレートし、セルカルチャーインサート内外をPBS (-)(NaCl 137 mM、KCl 2.7mM、Na2HPO4 10 mM、KH2PO4 1.76 mM)で2回洗浄したのち、セルカルチャーインサート内外に冷メタノールを添加し、-20℃で10分間固定した。
2. 固定後、PBS(-)でセルカルチャーインサート内外を洗浄し(5分×3回)、4℃で保存した。
3. 次いで、セルカルチャーインサート上の表皮モデルをメスを用いてメンブレンごと切り出したのち、メンブレンを表皮モデルから取り除いた。
4. 切り出した表皮モデルを0.5% TritonX100/PBS(0.5% Triton X-100含有PBS)に浸漬させ、室温で1時間反応させた。
5. 反応後、表皮モデルをPBS(-)で洗浄したのち(5分×3回)、10%FBS/PBS(0.5%ウシ胎児血清含有PBS)で室温、30分間ブロッキングを行った。
6. ブロッキング後、一次抗体(抗オクルディン抗体(商品名Occludin monoclonal antibody (OC-3F10)、Invitrogen社製))を抗体希釈液(Tris-HCl/Tween20/水)で希釈し(一次抗体:希釈液=1:100)、得られた混合液と表皮モデルとを4℃で一晩反応させた。
7. 一次抗体との反応後、表皮モデルをPBS(-)で洗浄した。二次抗体(抗-mouse Alexa568)を抗体希釈液で希釈後(二次抗体:希釈液=1:2000)、得られた溶液とDAPIとを混合し(1000:1)、得られた混合液と表皮モデルとを室温で1時間反応させた。
8. 二次抗体及びDAPIとの反応後、表皮モデルをPBS (-)で洗浄し(5分間×3回)、観察するまで4℃で保管した。
9. 蛍光顕微鏡下で観察を行った。
【0031】
セラミドを添加していない以外は同様にして試験を行い、これを比較例とした。
【0032】
・結果
結果を
図1~6に示す。
図1はセラミド無添加の結果(比較例)、
図2~6はセラミド1、2、3、5及び6を添加した結果(それぞれ実施例1~5)である。本試験例では、オクルディンによる網目状構造を、タイトジャンクション(TJs)形成促進の指標とした。オクルディンは、TJsを形成する主なタンパク質であり、オクルディンによる網目状構造の増加は、TJsの形成が促進されたことを意味する。
【0033】
セラミド1、2、3、5または6を添加した三次元表皮モデルでは、比較例と比べて、オクルディンによる網目状構造が増加した。特に、セラミド1、2、3を添加した場合、オクルディンによる網目状構造が一層顕著に増加した。このことから、セラミド1、2、3、5、6によればTJsの形成を促進できることが分かった。
【0034】
TJsは、表皮の顆粒層に存在し、細胞同士を接着させることによる異物侵入防止等のバリア機能を担っている。このことから、セラミド1、2、3、5及び6は、顆粒層におけるバリア機能の改善に有用であることが分かった。