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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023015895
(43)【公開日】2023-02-01
(54)【発明の名称】フィルムロール及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65H 18/28 20060101AFI20230125BHJP
   B65H 75/10 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
B65H18/28
B65H75/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021119970
(22)【出願日】2021-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植村 宣行
(72)【発明者】
【氏名】吉冨 靖真
【テーマコード(参考)】
3F055
3F058
【Fターム(参考)】
3F055AA05
3F055FA13
3F055FA17
3F058AA03
3F058BB19
3F058CA00
3F058CA06
3F058DA04
(57)【要約】
【課題】フィルムロール端部における巻きずれ及び巻芯側での擦り傷の発生が抑制されたフィルムロール及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】巻芯及び長尺フィルムを有し、幅方向両端部に設けられた2つのナール部と、前記2つのナール部との間に配置された平坦部とを有するフィルムロールであって、前記長尺フィルムの最終巻取長がL(m)のときのL/25(m)以上の巻取長において、レーザー変位計により測定される前記フィルムロール表面の形状プロファイルに基づく、ナール段差の高さΔD及びΔDが0.1mm以上1.0mm以下である、フィルムロールを提供することにより、前記目的と達成する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻芯と、前記巻芯に巻き取られた長尺フィルムとを有するフィルムロールであって、
前記長尺フィルムは、幅方向両端部に設けられ、複数の凸部を含む、2つのナール領域と、前記2つのナール領域の間に設けられた平坦領域とを有し、
前記フィルムロールは、幅方向両端部に設けられ、前記長尺フィルムの前記ナール領域が積層された積層部及び前記ナール領域に隣接する平坦領域の積層部を含む、2つのナール部と、前記2つのナール部の間に設けられ、前記長尺フィルムの平坦領域が積層された積層部を含む平坦部とを有し、
前記長尺フィルムの最終巻取長がL(m)のときのL/25(m)以上の巻取長において、
レーザー変位計により測定される前記フィルムロール表面の形状プロファイルに基づき、下記式(1)及び下記式(2)で定義される第1ナール段差の高さΔD及び第2ナール段差の高さΔDが、0.1mm以上1.0mm以下である、フィルムロール。
ΔD=(DN1(MAX)-DF1(AVE))/2 (1)
ΔD=(DN2(MAX)-DF2(AVE))/2 (2)
(前記式(1)中、DN1(MAX)は、前記フィルムロールの前記2つのナール部のうち一方のナール部の直径の最大値であり、DF1(AVE)は前記フィルムロールの前記一方のナール部側の前記平坦部の直径の平均値であり、
前記式(2)中、DN2(MAX)は、前記フィルムロールの前記2つのナール部のうち他方のナール部の直径の最大値であり、DF2(AVE)は前記フィルムロールの前記他方のナール部側の前記平坦部の直径の平均値である。)
【請求項2】
前記フィルムロール表面の前記ナール部の形状プロファイルが、凸型形状又はフラット形状である、請求項1に記載のフィルムロール。
【請求項3】
前記長尺フィルムの樹脂材料が、シクロオレフィン重合体を含む樹脂である、請求項1又は2に記載のフィルムロール。
【請求項4】
前記長尺フィルムの前記ナール領域に含まれる前記凸部の高さが4μm以上15μm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のフィルムロール。
【請求項5】
前記長尺フィルムの全幅に対する、前記ナール領域の幅の割合が、0.3%以上5.0%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のフィルムロール。
【請求項6】
前記平坦領域における、前記長尺フィルムの平均厚みが、10μm以上100μm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のフィルムロール。
【請求項7】
前記長尺フィルムの長さが、2000m以上8000m以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載のフィルムロール。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のフィルムロールの製造方法であって、
レーザー変位計を用いて、前記フィルムロールの縁から前記ナール部及び前記ナール部側の前記平坦部を含む範囲における、前記フィルムロール表面の形状プロファイルを測定し、前記長尺フィルムの最終巻取長がL(m)のときのL/25(m)以上の巻取長における前記ΔD及びΔDが0.1mm以上1.0mm以下となるように、前記長尺フィルムを巻き取る工程を含む、フィルムロールの製造方法。
【請求項9】
前記長尺フィルムを、巻き取り速度10m/min以上100m/min以下で巻き取る、請求項8に記載のフィルムロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムロール端部における巻きずれ及び巻芯側での擦り傷の発生が抑制されたフィルムロールに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、建材、日用品、フラットパネルディスプレイ、太陽光発電、照明、車、家電製品など様々な用途でフィルムやシートが使用されており、フィルムやシートの多くは、高機能化、大型化、薄型化、低価格化、省電力化などを目的としている。しかしさらなるフィルムやシートの低価格化のために、成形時の高速化、薄膜化、長尺化、広幅化が進められており、さらに巻芯に巻き取ったフィルムロールの品質を長期間維持することが重要になってきている。
【0003】
フィルムロールの品質を長期間維持する技術として、例えば、長尺フィルムの幅方向両端部に複数の凸部又は凹凸構造といったナール構造を形成して巻き取ることで、フィルムロールにナール部を形成する技術が知られている。フィルムにナール構造を付与する方法としては、フィルムにナール構造を有する型を当接する方法(特許文献1及び2)、及びフィルムにレーザー光を照射する方法といった各種の方法が知られている。さらに、品質が良好なフィルムロールを得る技術として、フィルムの巻径分布を測定してフィルムロールを巻き取ったり(特許文献3)、巻取ロール間の空気厚みを規定したり(特許文献4)、長尺フィルムを巻き取る際の押圧や張力を巻径の変化に応じて変えたり(特許文献5)、長尺フィルムに高さの異なるナール構造を形成してフィルムロールを製造すること(特許文献6)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-001813号公報
【特許文献2】特開2002-018944号公報
【特許文献3】特許第3631636号
【特許文献4】特開2002-255409号公報
【特許文献5】特許第3955518号
【特許文献6】特開2012-066922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、フィルムロール輸送中には、ロール幅方向に印加される加速度によって「巻きずれ」や「擦り傷」が発生する場合がある。「巻きずれ」は、フィルムロールの摩擦力が幅方向に印加された力に耐えきれずロール端面がずれてしまうといった、フィルムロールの外観上の不具合である。また、「擦り傷」はロール幅方向に加えられる周期的な振動によってフィルムロールがロール幅方向に揺れることにより、フィルムの半径方向応力の高い巻芯側で、微小な傷が発生するといった、長尺フィルムの面に生じる不具合である。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、フィルムロール端部における巻きずれ及び巻芯側での擦り傷の発生が抑制されたフィルムロール及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意検討し、以下の知見を得た。
長尺フィルムにおいて、複数の凸部を含むナール領域は、凸部を含まない平坦領域に比べて、フィルムの厚みが厚くなる。このような長尺フィルムを巻き取ってフィルムロールとした場合、ナール領域の積層部を含むナール部は、通常、平坦領域の積層部を含む平坦部に比べて、その巻径が大きくなり、フィルムロール表面の形状は、ナール部が平坦部に比べて盛り上がった段差形状を有する。本発明者らは、フィルムロールの巻き取り中における段差形状の高さが、巻きずれ及び擦り傷の発生に影響を及ぼすことを見出し、巻き取り中における段差形状の高さを特定の範囲とすることで、巻きずれ及び擦り傷の発生の両方を抑制できることを見出し本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下を提供する。
【0008】
[1] 巻芯と、前記巻芯に巻き取られた長尺フィルムとを有するフィルムロールであって、前記長尺フィルムは、幅方向両端部に設けられ、複数の凸部を含む、2つのナール領域と、前記2つのナール領域の間に設けられた平坦領域とを有し、前記フィルムロールは、幅方向両端部に設けられ、前記長尺フィルムの前記ナール領域が積層された積層部及び前記ナール領域に隣接する平坦領域の積層部を含む、2つのナール部と、前記2つのナール部の間に設けられ、前記長尺フィルムの平坦領域が積層された積層部を含む平坦部とを有し、前記長尺フィルムの最終巻取長がL(m)のときのL/25(m)以上の巻取長において、レーザー変位計により測定される前記フィルムロール表面の形状プロファイルに基づき、下記式(1)及び下記式(2)で定義される第1ナール段差の高さΔD及び第2ナール段差の高さΔDが、0.1mm以上1.0mm以下である、フィルムロール。
ΔD=(DN1(MAX)-DF1(AVE))/2 (1)
ΔD=(DN2(MAX)-DF2(AVE))/2 (2)
(前記式(1)中、DN1(MAX)は、前記フィルムロールの前記2つのナール部のうち一方のナール部の直径の最大値であり、DF1(AVE)は前記フィルムロールの前記一方のナール部側の前記平坦部の直径の平均値であり、前記式(2)中、DN2(MAX)は、前記フィルムロールの前記2つのナール部のうち他方のナール部の直径の最大値であり、DF2(AVE)は前記フィルムロールの前記他方のナール部側の前記平坦部の直径の平均値である。)
[2] 前記フィルムロール表面の前記ナール部の形状プロファイルが、凸型形状又はフラット形状である、[1]に記載のフィルムロール。
[3] 前記長尺フィルムの樹脂材料が、シクロオレフィン重合体を含む樹脂である、[1]又は[2]に記載のフィルムロール。
[4] 前記長尺フィルムの前記ナール領域に含まれる前記凸部の高さが4μm以上15μm以下である、[1]~[3]のいずれか1項に記載のフィルムロール。
[5] 前記長尺フィルムの全幅に対する、前記ナール領域の幅の割合が、0.3%以上5.0%以下である、[1]~[4]のいずれか1項に記載のフィルムロール。
[6] 前記平坦領域における、前記長尺フィルムの平均厚みが、10μm以上100μm以下である、[1]~[5]のいずれか1項に記載のフィルムロール。
[7] 前記長尺フィルムの長さが、2000m以上8000m以下である、[1]~[6]のいずれか1項に記載のフィルムロール。
[8] [1]~[7]のいずれか1項に記載のフィルムロールの製造方法であって、レーザー変位計を用いて、前記フィルムロールの縁から前記ナール部及び前記ナール部側の前記平坦部を含む範囲における、前記フィルムロール表面の形状プロファイルを測定し、前記長尺フィルムの最終巻取長がL(m)のときのL/25(m)以上の巻取長における前記ΔD及びΔDが0.1mm以上1.0mm以下となるように、前記長尺フィルムを巻き取る工程を含む、フィルムロールの製造方法。
[9] 前記長尺フィルムを、巻き取り速度10m/min以上100m/min以下で巻き取る、[8]に記載のフィルムロールの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フィルムロール端部における巻きずれ及び巻芯側での擦り傷の発生が抑制されたフィルムロール及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るフィルムロールから引き出された長尺フィルムを、長尺フィルムの厚み方向から見て示す模式図である。
図2図2は、長尺フィルムが有するナール領域の一例を模式的に示す部分断面図である。
図3図3は、本発明の一実施形態に係るフィルムロールを、フィルムロールの軸方向に垂直な位置方向から見た模式的な正面図である。
図4図4は、本発明の一実施形態に係るフィルムロール表面の形状プロファイルの測定方法の一例を説明する説明図である。
図5図5は、本発明の一実施形態に係るフィルムロール表面の形状プロファイルの一例を説明する説明図である。
図6図6は、本発明の一実施形態に係るフィルムロール表面の形状プロファイルの他の例を説明する説明図である。
図7図7は、実施例及び比較例フィルムロールの端面のずれ量の測定方法を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0012】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。フィルムの長さの上限は、特に制限は無く、例えば、幅に対して10万倍以下としうる。
【0013】
以下の説明において、長尺のフィルムの斜め方向とは、別に断らない限り、そのフィルムの面内方向であってそのフィルムの長手方向に平行でもなく垂直でもない方向を示す。
【0014】
以下の説明において、「(メタ)アクリル」の文言は、「アクリル」、「メタクリル」及びこれらの組み合わせを包含する。
【0015】
以下の説明において、要素の方向が「平行」、「垂直」及び「直交」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±3°、±2°又は±1°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0016】
以下の説明において、フィルムロールの直径Dとは、フィルムロールの軸方向の断面周形状における、フィルムロールの回転軸を通る直線とフィルムロールの周との2つの交点の間の距離であり、フィルムロールの半径Rとは、断面周形状における、フィルムロールの回転軸とフィルムロールの周との間の距離である。また、フィルムロールの直径D及び半径Rは、巻芯の直径及び半径を含む、フィルムロール全体の直径及び半径を指す。
【0017】
[1.フィルムロール]
本発明におけるフィルムロールは、巻芯と、長尺フィルムとを有する。
【0018】
[1.1.長尺フィルム]
図1は、本発明の一実施形態に係るフィルムロールから引き出された長尺フィルムを、長尺フィルムの厚み方向から見て示す模式図である。
長尺フィルム10は、幅方向の端部11a及び幅方向の端部11bにナール領域12a及びナール領域12bが設けられており、ナール領域12aとナール領域12bの間には、平坦領域13が設けられている。ナール領域12a、12b及び平坦領域13は、それぞれ長尺フィルム10の長さ方向に延びる、帯状の領域である。ナール領域12a及び12bには、複数の凸部14が設けられている。平坦領域13には、複数の凸部14は設けられておらず、平坦領域13は、略平坦、好ましくは平坦である領域である。
【0019】
(1.1.1.ナール領域及び平坦領域)
長尺フィルムのナール領域は、幅方向両端部に設けられ、通常、長尺フィルムの縁から一定の距離の範囲内に設けられる。図1に示すとおり、ナール領域12a及び12bは、長尺フィルムの縁e及びeから離間せずに設けられていてもよく、図示はしないが、長尺フィルムの縁から離間した位置に設けられていてもよい。ナール領域が長尺フィルムの縁から離間した位置に設けられる場合、縁からナールまでの距離は、例えば、10mm以下であり、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下である。
【0020】
ナール領域は、通常、長尺フィルムの長尺方向に平行に延在する帯状の領域である。ナール領域の幅(帯の幅)は、任意の値としうる。ナール領域の幅は、例えば、3mm以上であってもよく、より好ましくは5mm以上、特に好ましくは7mm以上であり、好ましくは20mm以下、より好ましくは18mm以下、特に好ましくは16mm以下である。また、例えば、ナール領域12a、12bの幅は、長尺フィルムの全幅に対して、それぞれ0.3%以上であってもよく、0.5%以上であってもよく、5.0%以下であってもよく、3%以下であってもよい。
【0021】
図2は、長尺フィルムが有するナール領域の一例を模式的に示す、部分断面図である。
図2に示すとおり、長尺フィルム10が有するナール領域12aは、複数の凸部14を備える。複数の凸部14は、長尺フィルム10の一方の面10Uから突出している。一方、長尺フィルム10の他方の面10Dは、略平坦、好ましくは平坦であり、凸部14が形成されていない。
【0022】
凸部の高さは、任意の値としうるが、例えば、好ましくは4μm以上、より好ましくは7μm以上であり、好ましくは15μm以下、より好ましくは12μm以下である。凸部の高さは、図2に示すとおり、ナール領域における、凸部を有さない長尺フィルム10の面10Uを基準とした、凸部14の頂部までの高さ14hをいう。
【0023】
凸部の形状は、任意の形状としうる。凸部の形状としては、例えば、円柱状、角柱状、円錐状、角錐状、円錐台状、角錐台状、球の一部を切り欠いた形状が挙げられる。また、凸部の径、凸部のピッチ及び凸部の密度についても任意の値としうる。凸部の径は、例えば、100μm以上、4000μm以下としうる。凸部のピッチは、例えば、100μm以上、4000μm以下としうる。凸部の密度は、例えば、5個/cm以上、100個/cm以下としうる。なお、凸部の径は、図2において凸部14の底面形状の径rであり、凸部の形状が角柱状、角錐状及び角錐台状である場合、凸部底面形状の内接円の径とする。また、凸部のピッチは、図2において隣合う凸部14の中心間の距離qである。
【0024】
ナール領域を構成する複数の凸部は、それぞれの凸部の高さ、形状、径、ピッチ及び密度が同一となるように設けられていてもよく、少なくともいずれか一つが異なるように設けられていてもよい。例えば、フィルムロール表面のナール部の形状を凸形状とする場合は、ナール領域の端部側に位置する凸部の高さをナール領域の中央側に位置する凸部の高さよりも低くすることにより調整することができる。また、例えばフィルムロール表面のナール形状を凹形状とする場合は、ナール領域の端部側に位置する凸部の高さを中央側に位置する凸部の高さよりも高くすることで調整することができる。
【0025】
凸部の形成方法に制限なく、例えばレーザー光の照射により凸部を形成する方法が挙げられる。
【0026】
長尺フィルムの平坦領域は、前述の2つのナール領域の間に設けられ、通常、平坦領域には、複数の凸部は設けられていない、略平坦、好ましくは平坦である領域である。
平坦領域の平均厚みは、例えば、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下である。
ここで、平坦領域の平均厚みとは、例えば、平坦領域の幅方向に並ぶ複数の位置について厚みを測定し、得られた複数の位置における厚みの算術平均としうる。厚みを測定する位置の、幅方向における間隔は、例えば5mmとしうる。
【0027】
(1.1.2.長尺フィルムの材料)
長尺フィルムを形成する材料は、好ましくは樹脂である。樹脂は、通常重合体と、必要に応じて重合体以外の成分を含みうる。
長尺フィルムを形成する樹脂に含まれうる重合体の例としては、トリアセチルセルロース等のセルロース系重合体、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリオレフィン、シクロオレフィン重合体、及び(メタ)アクリル系重合体が挙げられる。中でも、透明性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、シクロオレフィン重合体が好ましい。
【0028】
長尺フィルムを形成する樹脂は、前記重合体を単独で含んでいても、2種以上の任意の比率の組み合わせで含んでいてもよい。
【0029】
シクロオレフィン重合体を含む樹脂(シクロオレフィンポリマー)から形成されたフィルムは、例えばトリアセチルセルロースフィルムやポリエチレンテレフタレートフィルムなどの樹脂フィルムと比較して、擦り傷が生じやすい傾向がある。しかし、本実施形態に係るフィルムロールは、このような傷が生じやすい長尺の樹脂フィルムを巻き回したロールであっても、擦り傷を効果的に低減できる。
【0030】
シクロオレフィン重合体とは、シクロオレフィン単量体を重合して得られる構造を有する重合体である。また、シクロオレフィン単量体は、炭素原子で形成される環構造を有し、かつ該環構造中に重合性の炭素-炭素二重結合を有する化合物である。重合性の炭素-炭素二重結合の例としては、開環重合等の重合が可能な炭素-炭素二重結合が挙げられる。また、シクロオレフィン単量体の環構造の例としては、単環、多環、縮合多環、橋かけ環及びこれらを組み合わせた多環等が挙げられる。中でも、多環のシクロオレフィン単量体が好ましい。
【0031】
上記のシクロオレフィン重合体の中でも好ましいものとしては、ノルボルネン系重合体、単環の環状オレフィン系重合体、環状共役ジエン系重合体、及び、これらの水素化物等が挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系重合体は、透明性及び成形性が良好なため、特に好適である。
【0032】
ノルボルネン系重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体及びその水素化物;ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体及びその水素化物が挙げられる。また、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の開環単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の開環共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる他の単量体との開環共重合体が挙げられる。さらに、ノルボルネン構造を有する単量体の付加重合体の例としては、ノルボルネン構造を有する1種類の単量体の付加単独重合体、ノルボルネン構造を有する2種類以上の単量体の付加共重合体、並びに、ノルボルネン構造を有する単量体及びこれと共重合しうる他の単量体との付加共重合体が挙げられる。これらの中で、ノルボルネン構造を有する単量体の開環重合体の水素化物は、成形性、耐熱性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、特に好適である。
【0033】
ノルボルネン系重合体を含む樹脂として、市販品を用いうる。市販品の例としては、日本ゼオン社製「ゼオノア」;JSR社製「アートン」;TOPAS ADVANCED POLYMERS社製「TOPAS」が挙げられる。
【0034】
(1.1.3.長尺フィルムの形態)
長尺フィルムは、単層構造を有していても、複層構造を有していてもよい。また、長尺フィルムは、延伸されていない未延伸フィルムであっても、延伸されている延伸フィルムであってもよい。延伸フィルムの例としては、長手方向に延伸された縦一軸延伸フィルム:幅方向に延伸された横一軸延伸フィルム;長手方向及び横方向に延伸された、二軸延伸フィルム;フィルムの斜め方向に延伸された、斜め延伸フィルムが挙げられる。
【0035】
長尺フィルム10の長さは、例えば、好ましくは2000m以上、より好ましくは3000m以上であり、好ましくは8000m以下、より好ましくは6000m以下である。長尺フィルム10の長さが、前記範囲内にある場合に、効果的にフィルムロールの巻きずれ及び擦り傷の発生を低減できる。
【0036】
[1.2.巻芯]
巻芯について制限はなく、公知のフィルムロールにおいて用いられるものと同様とすることができる。巻芯の直径は、例えば、長尺フィルムの材質、用途、長さ等に応じて、適宜選択されうる。
巻芯の直径としては、例えば、好ましくは100mm以上であり、より好ましくは150mm以上であり、好ましくは400mm以下であり、より好ましくは350mm以下である。
【0037】
[1.3.フィルムロールの形状]
図3は、本発明の一実施形態に係るフィルムロールを、フィルムロールの軸方向に垂直な一方向から見た模式的な正面図である。フィルムロール100は、巻芯1と長尺フィルム10とを有し、幅方向の端部101a及び101bに設けられた、ナール部102a及び102bと、ナール部102a及び102bの間に設けられた平坦部103とを有する。なお、図3中、Cはフィルムロール100の軸方向の中央を表しており、E及びEはフィルムロール100の縁を表している。
【0038】
ナール部102及び102bは、長尺フィルム100のナール領域が積層された積層部112a及び112bと、長尺フィルムのナール領域に隣接する平坦領域の積層部113a及び113bを含み、平坦部103は、長尺フィルム100の平坦領域の積層部113cを含む。フィルムロール100においては、通常、複数の凸部を含むナール領域の積層部112a及び112bの巻径が、複数の凸部を含まない平坦領域の積層部113a、113b及び113cの巻径よりも大きくなる。また、ナール領域に隣接する平坦領域の積層部113a及び113bの巻径はより中央C側に位置する平坦領域の積層部113cに向かって巻径が小さくなり、平坦部における平坦領域の積層部113cの巻径は、概ね一定の巻径となる。このようなフィルムロール100表面の形状は、ナール部が平坦部に対して盛り上がった段差形状を有する。
【0039】
本発明者らは、フィルムロールの巻き取り中における段差形状の高さが、巻きずれ及び擦り傷の発生に影響を及ぼすことを見出した。巻きずれに対しては次のような影響が考えられる。フィルムロールのナール部は、長尺フィルムのナール領域とナール領域に隣接する平坦領域が積層されることにより得られる。巻き取り中における段差形状の高さにばらつきが生じる場合、ナール部を構成する長尺フィルムの平坦領域の幅にもばらつきが生じ、それに起因してフィルムロールに巻き取られた長尺フィルム全体の幅にばらつきが生じる。具体的には、段差形状の高さが高い部分においては段差形状の高さが低い部分に比べて、段差形状を構成する長尺フィルムの平坦領域の幅が大きくなり、平坦部を構成する長尺フィルムの平坦領域の幅が小さくなることから、フィルムロールに巻き取られた長尺フィルム全体の幅は小さくなる。その結果、フィルムロールの巻芯から巻外の積層方向においてフィルムロールの幅が異なる部分が生じることから巻きずれが生じることが考えられる。巻きずれに対する影響は、段差形状の高さが高いほど大きくなることが考えられる。
【0040】
また、擦り傷に対しては次のような影響が考えられる。前記のように、巻きずれに対する影響は、段差形状の高さが高いほど大きくなることが考えられる。これを回避するため、段差形状の高さを小さくした場合、フィルムロールの平坦部において、長尺フィルムの平坦領域の積層部でのフィルム同士が接触しやすくなることから、擦り傷が発生しやすくなることが考えられる。
【0041】
本発明者らは、上記知見に基づき、フィルムロールの巻き取り中における、フィルムロールのナール部及び平坦部の巻径差であるナール段差を、レーザー変位計によるフィルムロール表面の形状プロファイルから定義し、ナール段差の高さを所定の範囲とすることで、巻きずれ及び擦り傷の発生の両方を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0042】
すなわち、本発明の一実施形態に係るフィルムロールは、長尺フィルムの最終巻取長がL(m)のときのL/25(m)以上の巻取長において、レーザー変位計により測定されるフィルムロール表面の形状プロファイルに基づき、下記式(1)及び下記式(2)で定義される第1ナール段差の高さΔD及び第2ナール段差の高さΔDが、0.1mm以上1.0mm以下である。
ΔD=(DN1(MAX)-DF1(AVE))/2 (1)
ΔD=(DN2(MAX)-DF2(AVE))/2 (2)
(前記式(1)中、DN1(MAX)は、前記フィルムロールの前記2つのナール部のうち一方のナール部の直径の最大値であり、DF1(AVE)は前記フィルムロールの前記一方のナール部側の前記平坦部の直径の平均値であり、前記式(2)中、DN2(MAX)は、前記フィルムロールの前記2つのナール部のうち他方のナール部の直径の最大値であり、DF2(AVE)は前記フィルムロールの前記他方のナール部側の前記平坦部の直径の平均値である。)
【0043】
「長尺フィルムの最終巻取長がL(m)のときのL/25(m)以上の巻取長において、ΔD及びΔDが0.1mm以上1.0mm以下である」とは、長尺フィルムの巻取長がL/25~L(m)の範囲の全域において、ΔDの最大値及び最小値、並びにΔDの最大値及び最小値が全て0.1mm以上1.0mm以下となることを指す。
【0044】
本実施形態に係るフィルムロール表面の形状プロファイルの測定方法について、例を挙げて詳細に説明する。図4は、本発明の一実施形態に係るフィルムロール表面の形状プロファイルの測定方法の一例を説明する説明図である。図4に示すように、巻芯1への長尺フィルム10の巻き取り中におけるフィルムロール100に対し、フィルムロール100表面から離れた位置にレーザー変位計200aを設置する。この際、レーザー変位計200aの位置は、フィルムロール100の巻芯1の中心軸2方向に対し垂直方向となる位置に設置する。また、レーザー変位計200aからフィルムロール100の巻芯1の表面までの距離をyとする。距離yは、例えば580mmとしうる。次に、フィルムロール100の軸方向(幅方向)において、フィルムロールの縁Eから中央C側までの所定の範囲において、レーザー変位計200aからフィルムロール100の表面までの距離yを測定する。得られた距離yを距離yから指し引いた値に、巻芯1の半径yを加えることにより、巻芯1の中心軸2からフィルムロール100表面までの距離R、すなわちフィルムロール100の半径Rを算出する。フィルムロール100の軸方向中央Cからの測定位置までの距離を横軸とし、フィルムロール100の半径Rを縦軸としてプロット図を作成することにより、図5に示すようなフィルムロール表面の形状プロファイルが得られる。上述した形状プロファイルを、L/25~L(m)の範囲において、一定の周期で行う。周期は、例えば、50msとしうる。なお、形状プロファイルの測定は、例えば、レーザー変位計200a及び200bを用いて、ナール部102bを含む形状プロファイルと、ナール部102bを含む形状プロファイルとを同時に測定してもよい。
【0045】
図5は、フィルムロール表面の形状プロファイルの一例を説明する説明図である。フィルムロール表面の形状プロファイルにおいて、ナール部及び平坦部は以下のように定義する。フィルムロールの形状プロファイル(曲線)においては、通常、軸方向の中央側から端部側に向かって、フィルムロールの半径Rが増加する範囲が存在する。通常、この範囲は、フィルムロールのナール部における平坦領域の積層部に該当する。
この範囲における曲線の接線の傾きをαとした場合、α=0となる点を、形状プロファイルのナール部及び平坦部の境界点Pとする。上記境界点Pからフィルムロールの中央側を平坦部103とする。また、長尺フィルムにおいてナール領域が長尺フィルムの縁から離間せずに設けられている場合、上記境界点Pからフィルムロールの縁までをナール部102と定義する。また、長尺フィルムにおいてナール領域が長尺フィルムの縁から離間した位置に形成されている場合、上記境界点Pからナール領域までをナール部102と定義する。
【0046】
図5に示すように、フィルムロール表面の形状プロファイルにおいては、軸方向の中央側から端部側に向かって、フィルムロールの半径Rが減少してから増加する範囲を有する場合がある。この場合、前記の範囲における曲線の接線の傾きαがα=0となる点は曲線の極小値となることから、極小値において境界点Pを有する。
【0047】
ここで、フィルムロールの断面周形状は、通常、円形状となりうることから、フィルムロールの直径Dを用いて表すと、半径Rは、D/2と表現しうる。
【0048】
フィルムロール表面の形状プロファイルに基づき、ナール部および平坦部の巻径差である第1ナール段差ΔD及び第2ナール段差ΔDを次のように定義する。
ΔD=(DN1(MAX)-DF1(AVE))/2 (1)
ΔD=(DN2(MAX)-DF2(AVE))/2 (2)
(前記式(1)中、DN1(MAX)は、前記フィルムロールの前記2つのナール部のうち一方のナール部の直径の最大値であり、DF1(AVE)は前記フィルムロールの前記一方のナール部側の前記平坦部の直径の平均値であり、前記式(2)中、DN2(MAX)は、前記フィルムロールの前記2つのナール部のうち他方のナール部の直径の最大値であり、DF2(AVE)は前記フィルムロールの前記他方のナール部側の前記平坦部の直径の平均値である。)
【0049】
ΔD中、DN1(MAX)はナール部におけるフィルムロールの直径の最大値であり、DN1(MAX)/2はナール部におけるフィルムロールの半径の最大値である。上記DN1(MAX)/2は、前述の形状プロファイルのナール部におけるRの最大値に相当する。
【0050】
F1(AVE)は、ナール部側の平坦部の直径の平均値であり、DF1(AVE)/2は、ナール部側の平坦部の半径の平均値である。DF1(AVE)/2は、前述の形状プロファイルのナール部側の平坦部におけるRの平均値に相当する。DF1(AVE)/2は、具体的には、ナール部側の平坦部における半径Rを10点測定して求められる10点平均値に相当する。ナール部側の平坦部は、平坦部の全幅をwとした場合、ナール部及び平坦部の境界点Pから0.1w内側の範囲とする。ナール部側の平坦部における測定点については任意とすることができるが、境界点Pの位置は、巻き取り過程において多少変化する可能性があることから、境界点Pから0.005w内側に離間した位置から0.1w内側の範囲で、測定点を選択することが好ましい。
【0051】
ΔDにおけるDN2(MAX)/2及びDF2(AVE)/2についても、フィルムロールの他方のナール部を含む、形状プロファイルから、ΔDにおけるDN1(MAX)/2及びDF1(AVE)/2と同様に測定することができる。
【0052】
ΔD及びΔDは、フィルムロールの半径Rを用いて、例えば、下記式(3)及び(4)と表すこともできる。
ΔD=RN1(MAX)-RF1(AVE)(3)
ΔD=RN2(MAX)-RF2(AVE)(4)
(上記式(3)中、RN1(MAX)は、前記フィルムロールの前記2つのナール部のうち一方のナール部の半径の最大値であり、RF1(AVE)は前記フィルムロールの前記一方のナール部側の前記平坦部の半径の平均値であり、上記式(4)中、RN2(MAX)は、前記フィルムロールの前記2つのナール部のうち他方のナール部の半径の最大値であり、RF2(AVE)は前記フィルムロールの前記他方のナール部側の前記平坦部の半径の平均値である。)
【0053】
ΔD及びΔDはそれぞれ0.10mm以上1.00mm以下である。ΔD及びΔDの下限は、0.10mm以上であればよく、0.20mm以上であってもよく、0.30mm以上であってもよく、0.40mm以上であってもよい。一方、ΔD及びΔDの上限は、1.00mm以下であればよく、0.80mm以下であってもよく、0.60mm以下であってもよい。
【0054】
ΔDの最大値及び最小値は、いずれも0.10mm以上1.00mm以下であればよい。ΔDの最大値及び最小値の差の下限は、例えば、0.10mm以上であってもよく、0.30mm以上であってもよい。一方ΔDの最大値及び最小値の差の上限は、0.60mm以下であってもよく、0.50mm以下であってもよい。
【0055】
ΔD及びΔDは一方が他方よりも高くてもよく、同等であってもよいが、フィルムロールを良好に保存する観点からは、ΔD及びΔDは同等であることが好ましい。ΔD1及びΔD2の高低差は、例えば、0.05mm以下であってもよく、0.04mm以下であってもよく、0.03mm以下であってもよい。
【0056】
長尺フィルムの最終巻取長がL(m)のときのL/25(m)以上の巻取長において、レーザー変位計により測定されるフィルムロール表面の形状プロファイルにおける、フィルムロールの平坦部全体の直径の平均値をDFC(AVE)とした際、下記式(5)及び下記(6)で定義される、ナール部と平坦部における中央部の高低差ΔD及びΔDが、それぞれ0.10mm以上1.00mm以下であることが好ましい。
ΔD=DN1(MAX)-DFC(AVE)(5)
ΔD=DN2(MAX)-DFC(AVE)(6)
(前記式(5)中、DN1(MAX)は、前記フィルムロールの前記2つのナール部のうち一方のナール部の直径の最大値であり、前記式(6)中、DN2(MAX)は、前記フィルムロールの前記2つのナール部のうち他方のナール部の直径の最大値であり、前記式(5)及び(6)中、DFC(AVE)は前記フィルムロールの前記平坦部全体の直径の平均値である。)
【0057】
FC(AVE)/2は、フィルムロール表面の形状プロファイルにおいて、一方のナール部及び平坦部の境界点から他方のナール部及び平坦部の境界点までの間の平坦部におけるフィルムロールの半径Rを20点測定した20点平均値としうる。測定間隔は、例えば、50mm間隔とすることができる。
【0058】
図6(a)~(d)はフィルムロール表面の形状プロファイルの他の例を示す図である。
フィルムロール表面のナール部の形状プロファイルとしては、例えば図6(a)に示すように凸形状であってもよく、図6(b)及び(c)に示すようにフラット形状であってもよく、図6(d)に示すように凹形状であってもよい。本実施形態においては、中でも、ナール部の形状プロファイルが、フラット形状または凸形状であることが好ましい。フィルムロールのナール形状がフラット形状及び凸形状の場合、フィルムロール自重を安定して支えやすく、輸送中のフィルムロールの揺れによる擦り傷欠陥を抑制しやすいからである。
【0059】
フィルムロール表面のナール部の形状プロファイルが凸形状であるとは、形状プロファイルの上部が盛り上がった形状であることを指す。また、ナール部の形状プロファイルがフラット形状であるとは、形状プロファイルの上部が平坦な形状であることを指す。また、ナール部の形状プロファイルが凹形状であるとは、形状プロファイルの上部が窪んだ形状であることを指す。ナール部の形状プロファイルの形状は、その全体形状から判断するものとする。また、ナール部の形状プロファイルは、凸形状、フラット形状及び凹形状に影響がない程度に、その上部に微細な凹凸を有していてもよい。
【0060】
フィルムロールの表層におけるナール部の形状が、凸形状である場合、図6(a)に示すように、ナール部の形状プロファイルにおいて、ナール部の全幅をWとし、ナール部の軸方向中央cから両側0.25Wの距離の範囲内を中央領域202としたとき、中央領域202に極大値を少なくとも1つ有し、かつ、中央領域202における極大値がナール部における半径Rの最大値RN(MAX)となることが好ましい。
【0061】
ナール部の形状がフラット形状である場合、図6(b)に示すように、(i)ナール部の形状プロファイルが極大値を2つ以上かつ極小値を1つ以上有し、(ii)極大値の最大値VN(MAX)及び極小値の最小値VN(min)の差を、ナール段差の高さΔDで除した値が0.3未満となる((VN(MAX)-VN(min))/ΔD<0.3)、との(i)及び(ii)の2つの条件を満たすことが好ましい。また、ナール部の形状がフラット形状である場合、図6(c)に示すように、形状プロファイルが明確な極大値及び極小値を有さず、ナール部の中央領域における半径Rの最大値RN(MAX)及び最小値RN(min)の差を、ナール段差の高さΔDで除した値が0.3未満((RN(MAX)-RN(min))/ΔD<0.3)となることも好ましい。なお、極大値の最大値とは、2つ以上の極大値のうち最も半径Rが大きい極大値の値をいい、極小値の最小値とは、極小値が1つだけの場合はその極小値の半径Rの値をいい、極小値が2つ以上の場合は最も半径Rが小さい極小値の値をいう。
【0062】
ナール部の形状が凹形状である場合、例えば、ナール部の形状プロファイルが極大値を2つ以上かつ極小値を1つ以上有し、極小値の最小値VN(min)がナール部の中央領域202に存在し、極大値の最大値VN(MAX)及び極小値の最小値VN(min)の差を、ナール段差の高さで除した値が0.3以上((VN(MAX)-VN(min))/ΔD≧0.3)となるといった形状をとりうる。この場合、(VN(MAX)-VN(min))/ΔDの上限は、例えば、(VN(MAX)-VN(min))/ΔD≦0.7である。
【0063】
フィルムロール表面のナール部の形状プロファイルは、フィルムロールの巻き取り周期(T秒)、サンプリング周期(S秒)としたとき、時間方向(巻取方向)の移動平均がT/S点となるようにサンプリングして得られる、フィルムロール1周当たりの平均プロファイルの形状から評価することができる。上記の評価は、長尺フィルムの最終巻取長がL(m)のときのL/25(m)以上の全域において同一の形状となるかを評価するものとする。また、上述した(VN(MAX)-VN(min))/ΔD及び(RN(MAX)-RN(min))/ΔDは、上述の巻取長の測定範囲の全域において(VN(MAX)-VN(min))/ΔDの最大値及び最小値、並びに(RN(MAX)-RN(min))/ΔDの最大値及び最小値の両方が、同一の関係式を満たすことが好ましい。
【0064】
ナール部の形状は、例えば、長尺フィルムのナール領域に形成される凸部の高さに差を設けることにより調整することができる。
【0065】
[2.フィルムロールの製造方法]
本発明のフィルムロールは、巻芯に長尺フィルムを巻き取る工程(1)を含み、前記工程(1)が、レーザー変位計を用いて、前記フィルムロールの端部から前記ナール部及び前記ナール部側の前記平坦部を含む範囲における、形状プロファイルを測定し、前記長尺フィルムの最終巻取長がL(m)のときのL/25(m)以上の巻取長における前記ΔD及びΔDが0.1mm以上1.0mm以下となるように、前記長尺フィルムを巻き取る工程を含む、製造方法により製造しうる。
【0066】
形状プロファイルの測定方法については、上述した[1.フィルムロール]の項で説明した内容と同様であるため、ここでの説明は省略する。ΔD及びΔDが所定の範囲内に調整する方法としては、例えば、巻き取り速度、フィルム張力、巻き取り装置の巻方式等を調整する方法を挙げることができる。
【0067】
工程(1)において、巻き取り速度(ライン速度)は、好ましくは10m/min以上、より好ましくは20m/min以上であり、好ましくは100m/min以下、より好ましくは80m/min以下である。
【0068】
工程(1)において、巻き取り開始時における長尺フィルムの巻き取り張力(フィルム張力)は、好ましくは10N/m以上、より好ましくは50N/m以上であり、好ましくは200N/m以下、より好ましくは170N/m以下である。
【0069】
工程(1)において、長尺フィルムの巻き取り張力を変化させてもよい。例えば、長尺フィルムの巻き取り開始時における巻き取り張力Tsから、巻き取りが進むにしたがって次第に張力を低下させてもよい。長尺フィルムの巻き取り終了時における巻き取り張力をTeとすると、張力テーパ比率(%)=(Ts-Te)/Ts×100は、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上であり、好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下である。
【0070】
工程(1)において、巻き取り装置の巻方式は制限されない。巻方式としては、例えば、タッチ巻き取りロールのフィルム表面に、ニアロールを接触させてもよい。この場合、ニアロールのタッチ圧は、好ましくは5N/m以上、より好ましくは15N/m以上、好ましくは100N/m以下、より好ましくは80N/m以下である。
【0071】
工程(1)において、巻き取り装置の巻方式としては、巻き取りロールのフィルム表面と、ニアロールとの間に、ギャップを設けながら長尺フィルムを巻き取ってもよい。この場合、ギャップ量は、好ましくは3mm以上、より好ましくは5mm以上であり、好ましくは20mm以下、より好ましくは15mm以下である。
【0072】
フィルムロールの製造方法は、前記の工程(1)の他に、任意の工程を含みうる。任意の工程の例としては、長尺フィルムを用意する工程及び長尺フィルムを搬送する工程が挙げられる。
【実施例0073】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0074】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0075】
[評価方法]
(フィルムの厚み)
フィルムの幅方向に沿って赤外線吸収方式膜厚計の測定ヘッドを移動させ、フィルム幅1490mmに対して幅5mm間隔で、計298点における厚みを測定し、その算術平均値を、フィルムの平均厚みとした。
【0076】
(ナール(凸部)の高さ)
下記の方法により、長尺フィルムのナール(凸部)高さを測定した。
長尺フィルムの最外層より、ナール領域を含んだ100mm×100mmのフィルムサンプルを両端部から採取した。長尺フィルムにレーザ光により付与したナール各点をデジマチックマイクロメータ(ミツトヨ社製)で計測した。具体的には、最初にナール(凸部)が付与されてない平端部をマイクロメータで挟みゼロ点補正をした。その次にナール(凸部)をマイクロメータで挟み込み、その計測値をナール高さとした。片側端部につき、50点(両端部で100点)のナール高さを計測し、その算術平均値を、長尺フィルムのナール高さとした。
【0077】
(ナール段差の高さΔD及びΔD
フィルムロールを巻き取り中、非接触式レーザー変位計(キーエンス社LJ-X8400)を使用し、ナールを付与しているフィルムロール両端部100mmに対して、サンプリング周期50msで、フィルムロール表面の形状プロファイルを測定した。得られたフィルムロール表面の形状プロファイルより、両端部のナール段差大きさを計測した。実施例1~5及び7~8、並びに比較例1~3においては、フィルムロールの巻取長5,200mのため、巻取長208m以降のΔDとΔDの最大値と最小値を求めた。実施例6及び比較例4においては、フィルムロールの巻取長5,800mのため、巻取長232m以降のΔDとΔDの最大値と最小値を求めた。
【0078】
(ナール部の形状プロファイル)
ナール部の形状プロファイルは、最終巻取長がL(m)であるときのL/25(m)以上の範囲で測定を行った。ナール部の形状プロファイルは、サンプリング周期50ms(0.05秒)とし、フィルムロールの巻き取り周期をT(秒)としたときの時間方向(巻き取り方向)の移動平均をT÷0.05点として、フィルムロール1周当たりの平均プロファイル形状として測定した。得られたナール形状のプロファイルの全体形状からナール部の形状を評価した。ナール部の形状がフラット形状であって極大値及び極小値を有するもの、及びナール部の形状が凹形状であるものについて、極大値の最大値VN(MAX)及び極小値の最小値VN(min)を測定してVN(MAX)-VN(min))/ΔDを算出し、長尺フィルムの巻取長がL/25~L(m)の範囲の全域における、VN(MAX)-VN(min))/ΔDの最大値及び最小値を求めた。
凸(凸形状):形状プロファイルの上部が盛り上がった形状である。
フラット(フラット形状):形状プロファイルの上部が平坦な形状である。
凹(凹形状):形状プロファイルの上部が窪んだ形状である。
【0079】
(端面ずれ量及び巻きずれ)
巻取直後のロール端面プロファイルを型取りゲージで取得し、ノギスで距離を測定した。その測定距離をフィルム端面として、図7のようにグラフ化した。その端面プロファイルの最大値と最小値の差を“端面ずれ量”(図7中、z)とした。また、端面ずれの程度を、次のA及びBで評価した。
A:端面ずれ量が10mm未満である。
B:端面ずれ量が10mm以上である。
【0080】
(擦り傷数)
巻取フィルムロールを1週間保管した後、フィルム幅方向に0.3~1.0Gの加速度を60分間ランダムに振動を与え続ける振動試験を行った。振動の周波数は2~200Hzとした。振動試験後のフィルムロールをライン速度50m/minで繰り出して、欠陥検知器で擦りキズ総数を評価した。欠陥検知器の照明は透過散乱方式となるように設置し、フィルム上にキズがあると光が散乱して検出することができる設定とした。0.55mm以上の傷を1個として検知した。
【0081】
[実施例1]
(1-1)原反フィルムの製造
脂環式構造含有重合体樹脂(ZEONOR1215:日本ゼオン(株)製)のペレットを100℃で5時間乾燥した。該ペレットを押出機に供給し、押出機内で溶融させ、ポリマーパイプ及びポリマーフィルターを経て、Tダイからキャスティングドラム上にシート状に押出し、冷却し、厚さ80μm、幅1600mmの未延伸フィルムを得た。
【0082】
(1-2)フィルムの延伸
得られた未延伸のフィルムを、易接着層を塗布してから、延伸温度135℃で、MD方向に延伸倍率1.15倍及びTD方向に延伸倍率1.44倍に同時二軸延伸し、厚さ52μm、幅1490mmのフィルムを得た。
【0083】
(1-3)ナール領域の形成
延伸後のフィルム端部から10mm内側の範囲に対して、9.4μmレーザー発振器を使用して、COレーザーを照射して熱加工を施すことにより、長尺フィルムの両端部にナール高さ10μmのナールを付与した。
【0084】
(1-4)長尺フィルムの巻き取り
ナール領域が形成された長尺フィルムを、直径が169mm(半径84.5mm)である巻芯に巻き取ってフィルムロールを製造した。巻き取りは、ニアロールを、ニアロールを巻き取りロールのフィルム表面に接触させず、ニアロールとフィルム表面とのギャップ量を常に10mmに保った状態で長尺フィルムを巻き取った。巻き取りの条件は、ライン速度(フィルム搬送速度、巻き取り速度)50m/min、巻き取り張力140N/m(20%ダウンテーパ)、巻長さ5,200m巻き取った。
【0085】
[実施例2及び3]
実施例1の(1-3)において、凸部の高さを13μm(実施例2)及び7μm(実施例3)とした点以外は実施例1と同様にして、フィルムロールを製造し、評価を行った。
【0086】
[実施例4及び5]
実施例1の(1-4)において、巻き取り張力を、100N/m(20%ダウンテーパ)(実施例4)、及び180N/m(20%ダウンテーパ)(実施例5)とした点以外は実施例1と同様にして、フィルムロールを製造し、評価を行った。
【0087】
[実施例6]
実施例1の(1-4)において、下記の条件により、フィルムの巻き取りを行った点以外は、実施例1と同様にしてフィルムロールを製造し、評価を行った。巻き取りの条件は、ニアロールを巻き取りロールのフィルム表面に接触させて巻き取りを行い、ライン速度80m/min、巻き取り張力100N/m(0%ダウンテーパ)、ニアロールのタッチ圧34N/m、巻長さ5,800m巻き取った。
【0088】
[実施例7]
実施例1の(1-3)において、1つのナール領域の幅を10mmとし、ナール領域の両端部から幅方向2.5mmまでの範囲に形成される凸部の高さを7μmとし、中央領域に形成される凸部の高さを13μmとして凸部を形成した点以外については、実施例1と同様にしてフィルムロールを製造し、評価を行った。
【0089】
[実施例8]
実施例1の(1-3)において、1つのナール領域の幅を10mmとし、ナール領域の両端部から幅方向2.5mmまでの範囲に形成される凸部の高さを13μmとし、中央領域に形成される凸部の高さを7μmとして凸部を形成した点以外については、実施例1と同様にしてフィルムロールを製造し、評価を行った。
【0090】
[比較例1]
実施例1の(1-3)において、凸部の高さを20μmとした点以外は、実施例1と同様にしてフィルムロールを製造し、評価を行った。
【0091】
[比較例2]
実施例1の(1-3)において、凸部の高さを16μmとした点、及び(1-4)において巻き取り張力を180N/mとした点以外は、実施例1と同様にしてフィルムロールを製造し、評価を行った。
【0092】
[比較例3]
実施例1の(1-3)において、凸部の高さを3μmとした点、及び(1-4)において巻き取り張力を100N/mとした点以外は、実施例1と同様にしてフィルムロールを製造し、評価を行った。
【0093】
[比較例4]
実施例1の(1-3)において、凸部の高さを3μmとした点以外は実施例6と同様にしてフィルムロールを製造し、評価を行った。
【0094】
[結果]
結果を表1~3に示す。なお、表1~3における略語は、以下の意味を示す。
「タッチ」:巻き取りが、ニアロールを巻き取りロールのフィルム表面に接触させて行われたことを意味する。
「ギャップ」:巻き取りが、ニアロールを巻き取りロールのフィルム表面に接触させず、ニアロールとフィルム表面とのギャップ量を常に10mmに保った状態で行われたことを意味する。
「巻取張力」:巻き取り開始時における張力(Ts)
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
表3中、極大値及び極小値の有無について、「どちらも有り」とは、極大値及び極小値の両方を有することを指す。実施例7においてはナール部の中央領域において半径Rが最大値となる極大値が確認された。また、実施例8においてはナール部の中央領域において極小値の最小値が確認された。
【0099】
表1及び2に示すように、ΔD及びΔDが0.1mm~1.0mmの範囲内にある、実施例1~8においては、フィルムロールの端面ずれが抑制され、かつ、擦り傷の発生が抑制されることが確認された。
一方、ΔD及びΔDが1.0mmを超える比較例1及び2においては、擦り傷の発生は抑制されるものの端面ずれを十分に抑制することが困難であった。また、ΔD及びΔDが0.1mm未満となる比較例3及び4においては、端面ずれの発生は抑制されるものの、擦り傷の発生を十分に抑制することが困難であった。
【0100】
実施例1~8において、ナール部の形状プロファイルがフラット形状及び凸形状である場合は、凹形状に比べ特に擦り傷の発生の抑制に効果的であることが確認された。
【符号の説明】
【0101】
1 巻芯
10 長尺フィルム
10U 面
11 長尺フィルムの端部
12a及び12b ナール領域
13 平坦領域
14 凸部
及びe 長尺フィルムの縁
100 フィルムロール
C フィルムロールの軸方向の中央
及びE フィルムロールの縁
101a及び101b 端部
102a及び102b ナール部
103 平坦部
104a及び104b ナール部側の平坦部
112a及び112b ナール領域の積層部
113a、113b、113c 平坦領域の積層部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7