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特開2023-158960荷電粒子ビーム装置、およびプロセッサシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158960
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】荷電粒子ビーム装置、およびプロセッサシステム
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/244 20060101AFI20231024BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20231024BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20231024BHJP
   G01T 1/20 20060101ALN20231024BHJP
【FI】
H01J37/244
H01J37/28 B
H01L21/66 J
G01T1/20 E
G01T1/20 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069048
(22)【出願日】2022-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】李 ウェン
(72)【発明者】
【氏名】水谷 俊介
(72)【発明者】
【氏名】石垣 直也
【テーマコード(参考)】
2G188
4M106
5C101
【Fターム(参考)】
2G188BB10
2G188CC22
2G188EE01
2G188EE03
2G188FF12
4M106AA01
4M106BA02
4M106CA39
4M106DB01
4M106DB05
4M106DJ17
5C101AA03
5C101BB11
5C101FF02
5C101FF06
5C101GG04
5C101GG05
5C101GG28
5C101GG34
5C101GG36
5C101GG49
5C101HH16
5C101HH25
5C101HH66
5C101HH68
5C101JJ10
(57)【要約】
【課題】反射電子(BSE)検出器のダークパルスによる劣化を低減できる技術を提供する。
【解決手段】荷電粒子ビーム装置は、試料からのBSEを検出する複数のBSE検出器と、コントローラとを備え、コントローラは、期間内において、複数のBSE検出器のうちの、第1BSE検出器の出力信号に含まれる第1ピークの第1ピーク時刻と、第1BSE検出器以外の第2BSE検出器の出力信号に含まれる第2ピークの第2ピーク時刻とを取得し、第1ピーク時刻と第2ピーク時刻との時間差が閾値以内である第2ピークが存在する場合には、第1ピークがBSEに起因すると判定し、当該時間差が閾値以内である第2ピークが存在しない場合には、第1ピークがダークパルスに起因すると判定する。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料からの反射電子(BSE)を検出する複数のBSE検出器と、コントローラと、を備える荷電粒子ビーム装置であって、
前記複数のBSE検出器のうちの第1BSE検出器の出力信号に含まれる第1ピークが、BSEに起因するかダークパルスに起因するかを判定するために、
前記コントローラは、
期間内において、前記第1ピークの第1ピーク時刻を取得し、
前記期間内において、前記複数のBSE検出器のうちの前記第1BSE検出器以外の第2BSE検出器の出力信号に含まれる第2ピークの第2ピーク時刻を取得し、
前記第1ピーク時刻と前記第2ピーク時刻との時間差が閾値以内である前記第2ピークが存在する場合には、前記第1ピークがBSEに起因すると判定し、
前記第1ピーク時刻と前記第2ピーク時刻との時間差が閾値以内である前記第2ピークが存在しない場合には、前記第1ピークがダークパルスに起因すると判定する、
荷電粒子ビーム装置。
【請求項2】
試料からの反射電子(BSE)を検出する第1BSE検出器と、コントローラと、を備える荷電粒子ビーム装置であって、
前記第1BSE検出器の出力信号に含まれる第1ピークが、BSEに起因するかダークパルスに起因するかを判定するために、
前記コントローラは、
前記第1BSE検出器の出力信号を対象とした、期間として、複数のフレームによる期間内において、前記第1ピークに対応する第1フレームの第1画素を特定し、前記第1画素に対応する第1ピーク時刻を含む第1サブ信号を選択し、
前記期間内において、前記第1フレームとは異なる第2フレームにおける前記第1画素と同一の画素位置での第2画素を特定し、前記第2画素に対応する第2ピーク時刻を含む第2サブ信号を選択し、
前記第1サブ信号の前記第1ピーク時刻と前記第2サブ信号の前記第2ピーク時刻との時間差が閾値以内である前記第2サブ信号が存在する場合には、前記第1ピークがBSEに起因すると判定し、
前記第1サブ信号の前記第1ピーク時刻と前記第2サブ信号の前記第2ピーク時刻との時間差が閾値以内である前記第2サブ信号が存在しない場合には、前記第1ピークがダークパルスに起因すると判定する、
荷電粒子ビーム装置。
【請求項3】
請求項1に記載の荷電粒子ビーム装置において、
前記コントローラは、
前記期間内において、前記複数のBSE検出器のうち、第1の数(N1)以上のBSE検出器の検出信号で、ピーク間の前記時間差が前記閾値以内であるという条件を満たす場合には、前記条件を満たすピークがBSEに起因すると判定する、
荷電粒子ビーム装置。
【請求項4】
請求項1に記載の荷電粒子ビーム装置において、
前記コントローラは、
前記複数のBSE検出器の出力信号を対象とした、前記期間として、複数のフレームによる期間内において、前記第1ピークに対応する第1フレームの第1画素を特定し、前記第1画素に対応する第1ピーク時刻を含む第1サブ信号を選択し、
前記期間内において、前記第1フレームとは異なる第2フレームにおける前記第1画素と同一の画素位置での第2画素を特定し、前記第2画素に対応する第2ピーク時刻を含む第2サブ信号を選択し、
前記第1サブ信号の前記第1ピーク時刻と前記第2サブ信号の前記第2ピーク時刻との時間差が閾値以内である前記第2サブ信号が存在する場合には、前記第1ピークがBSEに起因すると判定し、
前記第1サブ信号の前記第1ピーク時刻と前記第2サブ信号の前記第2ピーク時刻との時間差が閾値以内である前記第2サブ信号が存在しない場合には、前記第1ピークがダークパルスに起因すると判定する、
荷電粒子ビーム装置。
【請求項5】
請求項1に記載の荷電粒子ビーム装置において、
前記試料からの二次電子(SE)を検出するSE検出器を備え、
前記コントローラは、
前記SE検出器の出力信号に基づいて、前記試料の構造の位置および形状を推定し、
前記構造の位置および形状に基づいて、前記複数のBSE検出器のそれぞれのBSE検出器におけるBSEの受信の確率を推定し、
前記構造の位置に対応した前記第1BSE検出器の出力信号に基づいて、前記第1ピークがBSEに起因するかダークパルスに起因するかを判定し、
前記判定に際して前記確率に応じた重み付けによる補正を行う、
荷電粒子ビーム装置。
【請求項6】
請求項5に記載の荷電粒子ビーム装置において、
前記コントローラは、前記構造の縦横比を推定し、前記縦横比と、前記構造と前記複数のBSE検出器との配置関係とに応じて、前記確率に応じた重み付けを決定する、
荷電粒子ビーム装置。
【請求項7】
請求項1または2に記載の荷電粒子ビーム装置において、
前記コントローラは、前記判定の結果に基づいて、前記出力信号における、前記ダークパルスと判定された部分を除去する、
荷電粒子ビーム装置。
【請求項8】
請求項1または2に記載の荷電粒子ビーム装置において、
前記コントローラは、前記判定の結果に基づいて、前記出力信号におけるシグナルノイズ比(S/N)を演算し、S/N値が目標値未満である場合には、前記閾値を再度設定して再度判定する、
荷電粒子ビーム装置。
【請求項9】
1以上のプロセッサとメモリとを備えるプロセッサシステムであって、
前記プロセッサシステムは、
試料からの反射電子(BSE)を検出する複数のBSE検出器の出力信号を参照し、
前記複数のBSE検出器のうちの第1BSE検出器の出力信号に含まれる第1ピークが、BSEに起因するかダークパルスに起因するかを判定するために、
期間内において、前記第1ピークの第1ピーク時刻を取得し、
前記期間内において、前記複数のBSE検出器のうちの前記第1BSE検出器以外の第2BSE検出器の出力信号に含まれる第2ピークの第2ピーク時刻を取得し、
前記第1ピーク時刻と前記第2ピーク時刻との時間差が閾値以内である前記第2ピークが存在する場合には、前記第1ピークがBSEに起因すると判定し、
前記第1ピーク時刻と前記第2ピーク時刻との時間差が閾値以内である前記第2ピークが存在しない場合には、前記第1ピークがダークパルスに起因すると判定する、
プロセッサシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子ビーム装置は、試料に一次電子による荷電粒子ビームを照射することによって発生する二次電子等の信号電子を検出して、試料の顕微鏡像を画像として得る。荷電粒子ビーム装置としては、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEMと記載する場合がある)などがある。SEMは、半導体デバイスの評価・計測装置として用いられている。
【0003】
近年、半導体デバイスの構造は、微細化や3次元化が進んでおり、半導体デバイスメーカーである顧客が求める評価値は、多様化している。デバイス構造の3次元化に伴い、歩留まり向上のために、半導体基板面上の穴や溝などの構造の形状についての寸法を高精度に計測したいというニーズがある。計測したい寸法は、試料の高さ・深さ方向(例えば鉛直方向)での寸法や、試料の面内方向(例えば水平方向)での底部寸法などがある。
【0004】
上記SEMを用いた計測において、試料面に一次電子による荷電粒子ビームを照射すると、一次電子と試料との相互作用によって、様々なエネルギーを持った信号電子が様々な方向に出射する。その信号電子は、出射エネルギーおよび出射角度に応じて試料に関する異なる情報を持っている。その信号電子の弁別・検出が、多様な計測には不可欠である。なお、信号電子が情報を持つとは、画像や波形として検出される信号電子を調べることでそのような情報が得られるということである。
【0005】
一般に、50eV以下のエネルギーで出射する信号電子を、二次電子(Secondary Electron:SEと記載する場合がある)と呼ぶ。その二次電子のエネルギーよりも大きく一次電子に近いエネルギーで出射する信号電子を、反射電子(Back Scattered Electron:BSEと記載する場合がある)と呼ぶ。これらの信号電子は区別される。
【0006】
二次電子は、試料の表面形状や電位ポテンシャルに敏感であり、半導体デバイス構造のパターン幅などの表面構造の寸法計測に有効である。しかし、二次電子は、穴や溝などの3次元構造に対しては、その構造の側壁に吸収される等してその構造から脱出しにくく、検出および計測が難しい。
【0007】
一方、反射電子は、試料の組成や立体形状の情報を持っており、3次元構造や、試料表面と底部との組成の違い等の情報が得られる。それとともに、反射電子は、高いエネルギーを有するため、穴や溝の構造の底部から側壁を貫通して脱出しやすく、構造の底部からの信号電子の検出および計測が可能となる。
【0008】
先行技術例として、特許文献1には、反射電子を検出する反射電子検出器(BSE detector)などが記載されている。図2の広角検出器25(large angle detector 25)は、4つのセグメント251~254を含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国出願公開第2019/0088444号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
反射電子検出器(BSE検出器と記載する場合がある)は、例えば、シンチレータと、フォトマル(Photomultiplier tube:光電子倍増管)や半導体光検出器とを有して構成される。シンチレータは、反射電子を検出してフォトンに変換するデバイスである。フォトマルや半導体光検出器は、発生したフォトンをパルス波形である反射電子信号(BSE信号と記載する場合がある)に変換するデバイスである。
【0011】
BSE信号の波形は、立ち上がりが例えば10ns程度と高速であり、立ち下がりが例えば100ns程度と遅いパルス状の信号である。BSE検出器に用いられる半導体光検出器は、入射フォトンが無い場合でも、ノイズである暗電流が発生する。このノイズである暗電流は、ダークパルス、ダークノイズ、ダークカウント等とも呼ばれる。
【0012】
このダークパルスは、BSE信号の波形との区別が難しい。このため、従来のSEMでは、BSE検出器で発生するダークパルスにより、検出画像のシグナルノイズ比(S/Nと記載する場合がある)が劣化していた。S/Nが劣化することで、穴・溝などの3次元構造の詳細な情報を得ることができず、測長精度が劣化し、機差が大きくなる。
【0013】
本発明の目的は、上記荷電粒子ビーム装置の技術に関して、BSE検出器のダークパルスによる劣化を低減できる技術、言い換えると、計測精度向上などを実現できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示のうち代表的な実施の形態は以下に示す構成を有する。実施の形態の荷電粒子ビーム装置は、試料からの反射電子(BSE)を検出する複数のBSE検出器と、コントローラと、を備える荷電粒子ビーム装置であって、前記複数のBSE検出器のうちの第1BSE検出器の出力信号に含まれる第1ピークが、BSEに起因するかダークパルスに起因するかを判定するために、前記コントローラは、期間内において、前記第1ピークの第1ピーク時刻を取得し、前記期間内において、前記複数のBSE検出器のうちの前記第1BSE検出器以外の第2BSE検出器の出力信号に含まれる第2ピークの第2ピーク時刻を取得し、前記第1ピーク時刻と前記第2ピーク時刻との時間差が閾値以内である前記第2ピークが存在する場合には、前記第1ピークがBSEに起因すると判定し、前記第1ピーク時刻と前記第2ピーク時刻との時間差が閾値以内である前記第2ピークが存在しない場合には、前記第1ピークがダークパルスに起因すると判定する。
【発明の効果】
【0015】
本開示のうち代表的な実施の形態によれば、上記荷電粒子ビーム装置の技術に関して、BSE検出器のダークパルスによる劣化を低減できる、言い換えると、計測精度向上などを実現できる。上記した以外の課題、構成および効果等については、発明を実施するための形態において示される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施の形態1の荷電粒子ビーム装置(例えばSEM)を含む、全体のシステム(半導体計測システム)の構成例を示す。
図2】実施の形態1の荷電粒子ビーム装置(例えばSEM)の本体の構成例を示す。
図3】実施の形態1で、SEMの一次電子ビームによる試料の走査についての模式説明図を示す。
図4】実施の形態1で、SEMのBSE検出器における複数のBSE検出器の配置についての模式説明図を示す。
図5】実施の形態1で、BSE検出器の構成例を示す。
図6】実施の形態1で、BSE検出回路の構成例を示す。
図7】実施の形態1で、SEMのコントローラであるプロセッサシステムの構成例を示す。
図8】実施の形態1で、コントローラにおける処理部の構成例を示す。
図9】実施の形態1で、試料の構造の例を示す。
図10】実施の形態1で、試料の構造への一次電子の入射に対する二次電子や反射電子の出射の例を示す。
図11】実施の形態1で、ダークパルス処理部の構成例を示す。
図12】実施の形態1で、複数のチャンネルのBSE検出信号の例を示す。
図13】実施の形態1で、チャンネル間でのパルス信号の組合せの比較の例を示す。
図14】実施の形態1で、コントローラの処理フローを示す。
図15】実施の形態1で、保存するデータ・情報の例を示す。
図16】実施の形態2で、ダークパルス処理部の構成例を示す。
図17】実施の形態2で、複数のチャンネルのBSE検出信号における複数のフレームの期間での信号の例を示す。
図18】実施の形態2で、複数のフレームの期間での信号を1つに合成した例を示す。
図19】実施の形態2で、チャンネル間でのパルス信号の組合せの比較の例を示す。
図20】実施の形態3で、単一のチャンネルのBSE検出信号における複数のフレームの期間での信号を1つに合成した例を示す。
図21】実施の形態4で、処理部の構成例を示す。
図22】実施の形態4で、試料面上の構造の例と4チャンネルのBSE検出器との関係を示す。
図23】実施の形態4で、構造の縦横比に応じた4チャンネルのBSE検出器の検出の割合の例を示す。
図24】実施の形態4で、判定結果に対する重み付けによる補正の例を示す。
図25】実施の形態4で、コントローラの処理フローを示す。
図26】各実施の形態で適用可能であるGUIの画面例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本開示の実施の形態を詳細に説明する。図面において、同一部には原則として同一符号を付し、繰り返しの説明を省略する。図面において、構成要素の表現は、理解を容易にするために、実際の位置、大きさ、形状、範囲等を表していない場合がある。
【0018】
説明上、プログラムによる処理について説明する場合に、プログラムや機能や処理部等を主体として説明する場合があるが、それらについてのハードウェアとしての主体は、プロセッサ、あるいはそのプロセッサ等で構成されるコントローラ、装置、計算機、システム等である。計算機は、プロセッサによって、適宜にメモリや通信インタフェース等の資源を用いながら、メモリ上に読み出されたプログラムに従った処理を実行する。これにより、機能や処理部等が実現される。プロセッサは、例えばCPUやGPU等の半導体デバイス等で構成される。処理は、ソフトウェアプログラム処理に限らず、専用回路でも実装可能である。専用回路は、FPGA、ASIC、CPLD等が適用可能である。
【0019】
プログラムは、対象計算機に予めデータとしてインストールされていてもよいし、プログラムソースから対象計算機にデータとして配布されてもよい。プログラムソースは、通信網上のプログラム配布サーバでもよいし、非一過性のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体(例えばメモリカード)でもよい。プログラムは、複数のモジュールから構成されてもよい。コンピュータシステムは、複数台の装置によって構成されてもよい。コンピュータシステムは、クライアントサーバシステム、クラウドコンピューティングシステム、IoTシステム等で構成されてもよい。各種のデータや情報は、例えばテーブルやリスト等の構造で構成されるが、これに限定されない。識別情報、識別子、ID、名称、番号等の表現は互いに置換可能である。
【0020】
[解決手段等]
実施の形態の荷電粒子ビーム装置は、BSE検出器で発生し得るダークパルスに関して、ダークパルスとBSE信号との弁別・検出を可能とする。
【0021】
実施の形態の荷電粒子ビーム装置は、BSEの検出に関して複数のBSE検出系統(チャンネルと記載する場合もある)を用いるシステムであり、例えば、BSE検出器として、複数のBSE検出器(言い換えると複数のBSE検出部)を備える。各々のBSE検出器は、例えば、シンチレータと半導体光検出器とを有する。
【0022】
半導体ウエハ等の対象試料の形状や構造に依存して、ある一定時間(τとする)内に照射される一次電子数に応じて、複数個のBSEが発生する。このため、複数のBSE検出系統を用いるシステムでは、複数のBSE検出器の各々の半導体光検出器に、ほぼ同時にフォトンが入射される。これにより、複数のBSE検出系統では、立ち上がりが例えば10ns程度と高速で、立ち下がりが例えば100ns程度と遅い、パルス状のBSE信号が受信される。
【0023】
一方、上記BSE信号の受信に対し、ノイズであるダークパルスは、ランダムに発生する。実施の形態では、このダークパルスのランダム性に着目する。実施の形態の荷電粒子ビーム装置を含むシステムは、ある一定時間τ内に、例えば複数のBSE検出器にパルス信号が受信された場合には、そのパルス信号を、BSE起因、BSE信号であると推定・判定する。他方、ある一定時間τ内に、例えば単一のBSE検出器のみにパルス信号が受信された場合には、そのパルス信号を、ダークパルス起因、ダークパルスであると推定・判定する。そして、本システムは、検出信号から、その推定・判定されたダークパルスを除去する。
【0024】
実施の形態の荷電粒子ビーム装置のコントローラは、複数Cの全てのBSE検出器のうち、試料面の対象位置に対応する同じ画素について、時間T内で、複数CのBSE検出器の複数Cの出力信号、言い換えると検出信号のパルス波形を調べる。コントローラは、複数Cの全てのBSE検出器のうち、複数である第1の数(N1とする。2~Cの範囲内の設定値。)以上のBSE検出器の出力信号で、ほぼ同時にパルス信号が受信・出現した場合には、そのパルス信号がBSE起因である、言い換えるとBSE信号であると推測・判定する。
【0025】
コントローラは、対象の画素について、複数CのBSE検出器からの複数Cの出力信号のうち、時間T内で、第1の数N1以上のBSE検出器の出力信号で、ほぼ同時にパルス信号が受信・出現していない場合、言い換えると、第1の数N1未満のBSE検出器の出力信号でほぼ同時にパルス信号が受信・出現した場合には、そのパルス信号がダークパルス起因である、言い換えるとダークパルスであると推定・判定する。例えば実施の形態1では、1個のBSE検出器の出力信号からのパルス信号しか受信していない場合には、ダークパルスであると判定される。
【0026】
時間Tは、前述の一定時間τに対応した判定対象期間であり、例えば対象画素に対応する1画素期間とする。時間Tは、設計上あるいはユーザ設定での設定値とすることができる。時間Tは、対象画素を時間中心として前後まで含んだ複数の画素の範囲の期間としてもよいし、対象画素を含む画像に対応する1フレーム期間などとしてもよい。
【0027】
また、上記パルス信号は、言い換えるとピーク波形であり、ピーク位置、ピーク時刻で表される。
【0028】
また、上記判定は、BSE信号を判定する条件を有する判定として記述した。この判定の条件は、逆に言えば、ダークパルスを判定する条件としても記述できる。その場合、以下のようになる。実施の形態の荷電粒子ビーム装置のコントローラは、対象の画素について、時間T内で、複数CのBSE検出器からの複数Cの出力信号のうち、第1の数N1未満のBSE検出器の出力信号で、ほぼ同時にパルス信号が受信・出現したかを判断し、そのような条件を満たす場合には、そのパルス信号がダークパルス起因である、言い換えるとダークパルスであると推測・判定する。
【0029】
上記判定の際に、パルス信号がほぼ同時に受信・出現することの判断については、より詳しくは、例えば、各BSE検出器のパルス信号間でのピーク位置の時間差が閾値以内かどうかの判断とすることができる。ピーク位置の時間差の閾値についても、判定基準値の1つとして、設計上あるいはユーザ設定での設定値とすることができる。判定は、言い換えると以下のようになる。BSE検出器の出力信号のうち、パルス信号間のピーク位置の時間差が閾値以内となったBSE検出器の出力信号の数が、第1の数N1以上である場合、該当するパルス信号はBSE信号であると判定される。
【0030】
また、上記BSE信号とダークパルスとの弁別の判定の際の判定基準値の1つである第1の数N1については、設計上またはユーザ設定での設定値とすることができる。実施の形態1では、例えばC=4、N1=2とするが、N1=3や4などとしてもよい。例えばC=4,N1=4とした場合、判定は以下のように記述できる。実施の形態の荷電粒子ビーム装置のコントローラは、対象の画素について、時間T内で、複数Cの全てのBSE検出器からの複数Cの出力信号のうち、複数Cの全てのBSE検出器の出力信号で、ほぼ同時にパルス信号が受信・出現した場合には、そのパルス信号がBSE信号であると判定し、複数C未満のBSE検出器の出力信号でしかパルス信号が受信・出現しない場合には、そのパルス信号がダークパルスであると判定する。
【0031】
<実施の形態1>
図1図14等を用いて、本開示の実施の形態1の荷電粒子ビーム装置について説明する。以下の実施の形態1等では、荷電粒子ビーム装置としてSEMに適用した場合の例を説明する。これに限定されず、実施の形態は、BSE検出器を備える構成であれば、他の種類の装置にも、同様に適用可能である。また、以下では、SEMを用いて、試料である半導体デバイスの表面の3次元の構造、例えば穴や溝などの構造を対象として、高さ・深さや底部などの寸法の計測、例えばパターンのCD(Critical Dimension)を測長する場合を説明する。これに限定されず、実施の形態は、試料の観察、評価、検査などに、同様に適用可能である。
【0032】
[半導体計測システム]
図1は、実施の形態1の荷電粒子ビーム装置1を含んで構成される、全体のシステムの構成例として、半導体計測システムを示す。図1の半導体計測システムは、LANなどの通信網9に、荷電粒子ビーム装置1と、クライアント端末5と、製造実行システム(MES)6と、欠陥検査装置7とが接続されている。荷電粒子ビーム装置1は、例えばSEMであり、本体2と、コントローラ100とを備える。コントローラ100は、本体2を制御し、処理を実行するプロセッサシステムである。オペレータ等のユーザは、コントローラ100を操作することでSEM1を操作する。荷電粒子ビーム装置1に対する外部装置の例として、MES6と欠陥検査装置7がある場合を示しているが、これに限定されない。
【0033】
クライアント端末5は、通信網9に接続し、通信網9を通じてSEM1のコントローラ100等と通信可能なPCなどの情報処理端末装置である。オペレータ等のユーザは、クライアント端末5を操作して、コントローラ100等にアクセスし、リモートでSEM1等の機能を利用することができる。
【0034】
MES6は、半導体デバイスの製造を実行および管理するシステムであり、例えば、試料である半導体デバイスの設計情報や、製造フローの管理情報などを有する。欠陥検査装置7は、試料である半導体デバイスの欠陥を検査し、検査結果を、欠陥検出情報として有する。欠陥検出情報は、試料面での検出された欠陥の位置を表す情報を含む。荷電粒子ビーム装置1は、欠陥検査装置7による欠陥検出情報を参照し、欠陥検出情報で示される試料面の欠陥位置を観察してもよい。外部装置の他の例は、例えばエッチング装置などの半導体製造装置などが挙げられる。コントローラ100は、適宜にMES6などの外部装置から必要なデータ・情報を参照してもよいし、外部装置にデータ・情報を出力してもよい。
【0035】
[SEM]
図2は、SEM1の本体2の構成例を示す。本体2は、電子顕微鏡カラムであるカラム104、ステージ機構106、電子銃101、偏向器108、対物レンズ107、SE検出器115、BSE検出器110として4個のBSE検出器110A~110D等を備える。鉛直方向に対応するZ軸上に、電子銃101の光軸が配置されている。
【0036】
ステージ機構106の試料台であるステージ上には、試料3が載置・固定される。ステージ機構106のステージの移動は、コントローラ100から駆動制御される。ステージは、少なくとも、X軸、Y軸の方向である水平方向に移動が可能であるが、これに限定されない。
【0037】
真空環境であるカラム104の内部には、電子銃101、偏向器108、対物レンズ107等が配置されている。電子銃101から、電圧Vx、電流Ixの条件で、一次電子102による一次電子ビームが放出される。放出された一次電子ビームは、Z軸の下向きでのビーム光軸に沿って飛行する。一次電子ビームは、偏向器108によって軌道が調整され、対物レンズ107により試料3の面上に収束される。この時、試料3には、負電圧が印加されており、一次電子ビームの一次電子102は、電子銃101で発生した時のエネルギーよりも小さいエネルギーで試料3に衝突する。一次電子の衝突により、試料3から、反射電子105と二次電子103とが発生する。
【0038】
[走査]
図3は、一次電子ビームによる試料3の面の走査についての模式説明図である。試料3の面、言い換えると表面や上面を、X軸、Y軸で構成されるX-Y面とする。試料3の情報を取得するため、一次電子102は、図3のように、試料3面上を順次に走査される。本例では、X軸に沿ったラインの走査をY軸方向に繰り返すライン順次走査の場合を示す。試料3のX-Y面において、計測等の対象位置が複数存在し、各々の対象位置は、検出画像では各々の画素に対応する。各画素を対象画素とも記載する。例えば、ある対象位置の画素30は、検出画像での2次元の位置座標(x,y)で表される。また、対象位置の画素30は、走査時点に対応した時刻情報を有している。なお、ステージ上の試料3の面であるX-Y面に対し、基本的には、垂直な方向であるZ軸の方向から一次電子ビームを照射するものとするが、これに限定されない。例えば、Z軸に対し斜め方向、言い換えるとチルト方向を、ビームの照射の光軸とする形態も可能である。
【0039】
図2のBSE検出器110は、反射電子105を主に検出する検出器である。BSE検出器110は、4つのチャンネル、言い換えると4つの検出系統の、4個のBSE検出器として、BSE検出器110A,110B,110C,110Dを有する。なお、図2では、4個のBSE検出器110A~110Dの配置位置を模式で示しており、実際には、4個のBSE検出器110A~110Dは、図4のようにZ軸で同一の高さ位置の平面内に配置されている。
【0040】
[複数のBSE検出器の配置]
図4は、4個のBSE検出器110A~110Dの配置の例についての模式説明図であり、カラム104の水平断面を上から見たX-Y面を示す。カラム104等は、Z軸に対し軸対称形状として例えば円筒形状を有する。図4のように、4個のBSE検出器110A~110Dは、同じ高さ位置の平面において、Z軸に対応する点Oを中心としたある半径での円周上で90度ずつ離れた関係を有する、東西南北の位置に配置されている。BSE検出器110Aは、第1チャンネルch1として、北(North:N)の位置に配置されている。BSE検出器110Bは、第2チャンネルch2として、南(South:S)の位置に配置されている。BSE検出器110Cは、第3チャンネルch3として、西(West:W)の位置に配置されている。BSE検出器110Dは、第4チャンネルch4として、東(East:E)の位置に配置されている。BSE検出器110の数や配置位置は、これに限定されない。
【0041】
BSE検出器110のチャンネル数をCとする。Cは、BSE検出系統であるチャンネルの数であり、本例ではC=4である。走査フレーム数をFとする。Fは、対象位置の対象画素毎に、図3のようなフレームの走査が行われる数である。本例ではFは2以上の数である。各フレームの画素数をPとする。Pは、フレームに対応する画像内の全画素の数である。チャンネル数Cのうち、着目するチャンネルを、cとする。走査フレーム数Fのうち、着目するフレーム、言い換えると先頭フレームからの順番を、fとする。画素数Pのうち、着目する画素、言い換えると先頭画素からの順番を、pとする。1≦c≦C,1≦f≦F,1≦p≦Pである。ある画素をGとする。すると、図3で、あるチャンネルcの、あるフレームfの、ある順番の画素Gは、(Gc,f,p)で表現できる。例として、(G2,15,50)は、第2チャンネルch2の15フレーム目の50番目の画素である。
【0042】
図2で、一次電子102の衝突によって試料3から発生した反射電子105と二次電子103は、それぞれの出射エネルギー、出射角度に応じて、カラム104内を飛行する。SE検出器115は、主に二次電子103を検出する検出器である。SE検出器115は、二次電子103を捕捉しやすい位置、例えばBSE検出器110の高さ位置よりも上方の位置に配置されている。BSE検出器110は、主に反射電子105を検出する検出器である。BSE検出器110である4個のBSE検出器110A~110Dは、反射電子105を捕捉しやすい位置、例えばある高さ位置に配置されている。
【0043】
4個のBSE検出器110A~110Dは、カラム104内での配置として、図4のように、ビーム光軸から等距離で、互いに直角となる関係で配置されている。このような配置とすることで、試料3の表面で発生した反射電子105は、ほぼ等確率で、ch1~ch4の4個のBSE検出器110に入力される。このBSE検出器110の構成において、電子銃101の電圧Vx、電流Ixが十分に高い場合には、発生する反射電子105の数が十分に多いため、4チャンネルの全てのBSE検出器110に反射電子105が入力、受信される。一方、電子銃101の電圧Vx、電流Ixが低い場合や、試料3での一次電子102が照射される位置が深い穴や溝などの構造である場合には、より少ないチャンネル数、例えば2または3チャンネルのBSE検出器110に反射電子105が入力、受信されることになる。
【0044】
[BSE検出器]
図5は、実施の形態1で、各々のBSE検出器110の構成を示す。実施の形態1で、各々のBSE検出器110には、シンチレータ51と、半導体光検出器52とを備えている。図5では第1チャンネルch1のBSE検出器110A内の構成を示すが、他のチャンネルのBSE検出器も同様の構成である。各々のBSE検出器110は、コントローラ100からの制御電圧112(112a~112d)に基づいて駆動制御される。各々のBSE検出器110のシンチレータ51に反射電子105が衝突すると、その反射電子105はフォトン105bに変換される。変換されたフォトン105bは、各々のBSE検出器110の半導体光検出器52によって、BSE検出信号111に変換される。
【0045】
BSE検出器110(110A~110D)から出力されたBSE検出信号111(111a~111d)は、BSE検出回路211(211A~211D)に伝送される。BSE検出回路211は、チャンネルごとに対応したBSE検出回路211A~211Dを有する。
【0046】
[BSE検出回路]
図6は、BSE検出回路211(211A~211D)の構成例を示す。図6では、第1チャンネルch1(North)のBSE検出回路211Aの構成を示すが、他のチャンネルのBSE検出回路も同様の構成である。BSE検出回路211は、入力側から順に、I/V変換回路201、ADC202、デジタル信号処理回路205を有する。I/V変換回路201は、入力である検出信号111に対応した電流信号を、電圧信号に変換する。ADC202は、その電圧信号であるアナログ信号を、デジタル信号に変換する。
【0047】
デジタル信号処理回路205は、波形整形回路203と、ピーク検出回路204とを有する。波形整形回路203は、デジタル信号の波形を、後段のピーク検出回路204でピークが検出しやすいような波形に整形する。具体的には、BSE検出信号111に基づいたデジタル信号の波形は、前述のように立ち上がりに対し立ち下がりが遅い波形であるため、立ち下がりを早めるように、この整形が行われる。ピーク検出回路204は、整形後の波形の信号に基づいて、パルス波形に対応するピークを検出する。ピークは、例えばピーク時刻、言い換えるとピーク位置で、表現および識別される。BSE検出回路211から出力される信号301(301a~301d)は、コントローラ100に伝送され、コントローラ100の処理部300(図8)によって処理が行われる。
【0048】
一方、図2のSE検出器115では、二次電子103が捕捉される。SE検出器115は、二次電子103を検出信号121に変換して出力する。出力された検出信号121は、SE検出回路116に伝送される。SE検出回路116は、検出信号121に基づいてSE検出信号である信号310を得る。出力された信号310は、コントローラ100に伝送され、コントローラ100の処理部300(図8)によって処理が行われる。
【0049】
[コントローラ]
図7は、コントローラ100であるプロセッサシステムの構成例として、ハードウェアおよびソフトウェアの構成例を示す。コントローラ100は、主に計算機700で構成される。計算機700は、プロセッサ701、メモリ702、通信インタフェース装置703、入出力インタフェース装置704などを備える。それらの構成要素はバスに接続され、相互に通信可能である。計算機700には、入出力インタフェース装置704を通じて、入力装置705や出力装置706が外部接続されている。
【0050】
プロセッサ701は、CPUあるいはMPUやGPUなどの半導体デバイスによって構成される。プロセッサ701は、ROMやRAM、各種周辺機能などを備える。プロセッサ701は、メモリ702の制御プログラム711に従った処理を実行する。これにより、SEM制御機能721や半導体計測機能722、BSE処理機能723などの機能が実現される。SEM制御機能721は、SEM1の本体2を制御する機能である。半導体計測機能722は、半導体計測システムの機能として試料3のパターンの寸法を計測する機能である。BSE処理機能723は、後述(図8)の処理部300と対応した、BSE検出信号に基づいてダークパルスとBSE信号とを弁別し、ダークパルスを除去した画像を生成する機能である。半導体計測機能722は、BSE処理機能723による処理結果を用いて、半導体デバイスのパターンの寸法を計測する。これにより、計測に関して高精度を実現できる。
【0051】
メモリ702には、制御プログラム711、設定情報712、画像データ713、処理データ714、計測結果データ715などが記憶される。制御プログラム711は、プロセッサ701に処理を実行させることで各機能を実現するためのプログラムである。設定情報712は、各機能のシステム設定情報やユーザ設定情報である。画像データ713は、SEM1から取得される検出画像や、生成画像などのデータである。処理データ714は、各機能の処理過程で発生するデータである。計測結果データ715は、半導体計測機能722による処理結果として得られた、計測された寸法などを含むデータである。
【0052】
通信インタフェース装置703は、SEM1の本体2や通信網9等に対する通信インタフェースが実装されている装置である。入出力インタフェース装置704は、入出力インタフェースが実装されている装置であり、入力装置705や出力装置706が外部接続されている。入力装置705は例えばキーボードやマウスが挙げられる。出力装置706は例えばディスプレイやプリンタが挙げられる。なお、コントローラ100であるプロセッサシステムに入力装置705や出力装置706が内蔵されていてもよい。オペレータ等であるユーザは、入力装置705の操作や、出力装置706の画面表示を通じて、コントローラ100を利用してもよい。ユーザは、図1のクライアント端末5から通信網9を通じてコントローラ100にアクセスすることでSEM1を利用してもよい。
【0053】
また、コントローラ100に外部記憶装置(例えばメモリカードやディスク)が接続されてもよく、コントローラ100の入出力データを外部記憶装置に格納してもよい。また、コントローラ100が通信で外部のサーバ装置などにデータを入出力してもよい。
【0054】
図1のSEM1のコントローラ100とユーザのクライアント端末5との間でのクライアント・サーバ通信で機能を利用する場合、例えば以下のように実現できる。ユーザは、クライアント端末5からコントローラ100のサーバ機能にアクセスする。コントローラ100のサーバ機能は、例えばGUI(グラフィカル・ユーザ・インタフェース)を含むWebページ等のデータをクライアント端末5に送信する。クライアント端末5は、受信したデータに基づいて、ディスプレイにWebページ等を表示する。ユーザは、そのWebページ等を見て、半導体計測などに係わる情報を確認し、必要に応じて設定や指示を入力する。クライアント端末5は、ユーザが入力した情報をコントローラ100に送信する。コントローラ100は、ユーザが入力した情報に基づいて、半導体計測などに係わる処理を実行し、結果を保存する。コントローラ100は、処理結果等を含むWebページ等のデータを、クライアント端末5に送信する。クライアント端末5は、処理結果等を含むWebページをディスプレイに表示する。ユーザは、その処理結果等を確認する。
【0055】
[処理部]
図8は、図7のコントローラ100の構成に基づいて実現される、BSE処理機能723に係わる処理部300等の構成例を示す。図8では、処理部300と、制御部400と、GUI500とを有する。処理部300および制御部400は、コントローラ100のプロセッサ701によるプログラム処理によって実現される。GUI500は、コントローラ100のプロセッサ701による処理に基づいて、Webページ等の態様で生成された画面データに基づいて、例えば図7の出力装置706(あるいは図1のクライアント端末5)としてディスプレイに画面として表示されることで実現される。
【0056】
処理部300は、機能ブロックとして、ダークパルス処理部304と、画像生成部307とを有する。ダークパルス処理部304は、機能ブロックとして、信号ピーク位置検出部302と、ダークパルス判定部303と、ダークパルス除去部331と、判定基準記憶部309とを有する。いずれの機能ブロックも、プロセッサ701によるプログラム処理で実現できるが、一部の機能ブロックを専用回路などで実装することも可能である。
【0057】
制御部400は、処理部300を制御する。制御部400は、GUI500を介して、ユーザからの指示や設定などの入力情報、制御情報801を受け取る。制御部400は、制御情報801に基づいて生成した制御信号811を、処理部300に送信する。処理部300は、制御信号811に従って各部が制御される。処理部300は、適宜に、処理結果や処理状態などの状態信号812を制御部400に送信する。制御部400は、状態信号812に基づいて処理を把握し、GUI500に出力するための状態情報802を生成する。制御部400は、状態情報802に基づいて、GUI500の画面に、処理結果や処理状態などの情報を表示させる。
【0058】
図8の処理部300の構成例は、オンライン処理を実現する場合の構成例である。コントローラ100は、オンライン処理として、BSE検出信号に基づいて、殆どリアルタイムで、ダークパルスの弁別などの処理を行う。
【0059】
信号ピーク位置検出部302は、BSE検出回路211からの検出信号111における4チャンネルの信号111a~111dを入力し、それぞれ、信号のピーク位置としてピーク時刻を検出する処理を行う部分である。信号ピーク位置検出部302から出力されたピーク位置の信号306は、4チャンネル分の情報を有し、ダークパルス判定部303に入力され、また、制御部400にも状態情報として送信される。
【0060】
ダークパルス判定部303は、ピーク位置の信号306と、判定基準情報341とに基づいて、対象位置の画素について、ダークパルスであるかBSE信号であるかを判定する。ダークパルス判定部303から出力された判定結果情報の信号342は、ダークパルス除去部331に入力される。
【0061】
ダークパルス除去部331は、判定結果情報の信号342に従って、4チャンネルの検出信号から、ダークパルスの部分を除去する。ダークパルス除去後の信号332は、画像生成部307に入力される。また、ダークパルス除去部331は、後述(図11)のS/N演算を行う部分を含んでいる。演算結果のS/Nの情報に基づいて、判定基準記憶部309の判定基準情報341が更新される。判定基準記憶部309には、判定基準情報341が記憶・設定されている。
【0062】
画像生成部307は、ダークパルス除去後の信号332と、SE検出信号である信号310とに基づいて、試料3のパターンの寸法の計測のための画像を生成する。画像生成部307の処理によって生成した画像は、例えば図7のメモリ702などに画像データ713として保存される。また、生成した画像は、図8のGUI500の画面において表示させることができる。
【0063】
[SEとBSE]
ここで、図9等を用いて、SEM1の計測・観察等の対象である試料3の面において例えば深溝構造がある場合における、二次電子103(SE)と反射電子105(BSE)との一般的なふるまい、特性等について説明する。
【0064】
図9には、SEMの試料3の表面であるX-Y面において露出する深溝構造がある場合を示す。(A)は、試料3の面のうちの深溝構造901を拡大して上方から観察した場合のX-Y面の模式図を示す。(B)は、その深溝構造901の高さ・深さ方向を含む一断面として、(A)のA-A線に対応したX-Z面の模式図を示す。(C)は、(A)のB-B線に対応したY-Z面の模式図を示す。
【0065】
(A)で、本例では、深溝構造901は、X-Y面での開口が概略的に矩形であり、X方向に幅901aを有しY方向に幅901bを有する。X方向の幅901aの方を短辺、Y方向の幅901bの方を長辺とも記載する。
【0066】
(B)で、深溝構造901は、試料3の上面902を基準として高さをZ=0とすると、Z軸の下方向に深さ901cを有する。また、深溝構造901は、一般的な加工プロセスの例に応じて、図示のように概略台形状の断面となっている。高さZ=0での開口部の面積、例えば短辺の幅901aと、深さ901cでの底部の面積、例えば短辺の幅901dとにおいて、後者の方が小さい。
【0067】
(C)で、深溝構造901は、長辺でも同様の構造を有する。深溝構造901は、高さZ=0での開口部の長辺の幅901bと、深さ901cでの底部903の長辺の幅901eとにおいて、後者の方が小さい。
【0068】
なお、この深溝構造901は、例えば短辺の幅901aよりも深さ901cの方が十分に大きいものとし、このような構造を深溝あるいは深穴と記載する。また、パターンによっては、このような深溝構造901の例に限らず、X方向やY方向などにより長く溝または穴が続いている場合もある。また、開口は矩形に限らず、楕円形などの場合もある。これらを総称して、溝構造あるいは穴構造と捉えることができる。
【0069】
また、図10は、図9の深溝構造901に対応して、SEとBSEとの入射・出射の軌跡の例を示す模式説明図である。図10の(A)は、図9の(B)と同様に深溝構造901の短辺を含む断面において、深溝構造901に対し一次電子、例えば一次電子401,402が入射する場合に、発生する信号電子のうちの反射電子の軌跡の例を示す。また、図10の(B)は、図9の(B)と同様に深溝構造901の短辺を含む断面において、深溝構造901に対し一次電子、例えば一次電子401,402が入射する場合に、発生する信号電子のうちの二次電子の軌跡の例を示す。
【0070】
図10の(A)および(B)で、試料3の深溝構造901の付近の上面902に対し一次電子401が入射した場合、(A)では、反射電子B1が発生し、(B)では、二次電子S1が発生している。上面902では、発生する反射電子B1に比べて、発生する二次電子S1の方が、数が多いことが一般的である。
【0071】
一方、深溝構造901の底部903まで一次電子402が入射した場合、(A)では、反射電子B2が発生し、(B)では、二次電子S2が発生している。(A)では、一次電子402が底部903まで入射し、底部903に衝突して、反射電子B2が発生し、反射電子B2がX方向で側壁904を通過して、Z方向で上面902から上側に出射している。(B)では、一次電子402が底部903まで入射し、底部903に衝突して、二次電子S2が発生するが、二次電子S2がX方向で側壁904を通過できず、Z方向で上面902から上側には出射しない。
【0072】
深溝構造901の底部903まで一次電子402が入射した場合、反射電子B2は、二次電子S2に比べて高いエネルギーを持つため、(A)のように、反射電子B2は、側壁904を通過でき、上面902から出射することが多い。この反射電子B2は、BSE検出器110で捕捉可能である。他方、二次電子S2は、反射電子B2に比べて低いエネルギーを持つため、(B)のように、側壁904を通過できず、上面902から出射しないことが多い。この二次電子S2は、SE検出器115で補足できない。
【0073】
すなわち、深溝構造901については、反射電子による画像情報を得ることはしやすいが、二次電子による画像情報を得ることは難しい。
【0074】
図10の(C)は、図9の(C)と同様に深溝構造901の長辺を含む断面において、一次電子403が入射し、底部903に衝突して、反射電子B3が発生し、反射電子B3がY方向で側壁904を通過して、上面902から上側に出射する場合の軌跡の例を示す。
【0075】
深溝構造901の底部903にまで一次電子403が入射した場合、長辺に対応したY方向では、短辺に対応したX方向に比べて、反射電子B3が試料3の側壁904を通過する際の距離が短くなる。例えば距離905に対し距離906が小さい。言い換えると、Y方向では、底部903の幅901eが幅901dよりも大きく、深さ901cに対しての幅901eがより大きいので、底部903からZ方向の上側に反射電子B3が脱出しやすい。そのため、BSE検出器110で補足できる反射電子の数は、(C)での反射電子B3の方が、(A)での反射電子B2の数よりも多くなる。
【0076】
すなわち、深溝構造901のような3次元構造について、反射電子による画像情報を得る際には、構造の形状・寸法や、BSE検出器との位置関係などが、検出に影響する。
【0077】
上記説明では、BSE検出器110の複数のBSE検出器110A~110Dの配置位置や方向などによる影響は捨象している。詳しくは、後述のように、BSE検出器の配置位置や方向に応じても、反射電子の検出のしやすさに違いがある。
【0078】
図2のSE検出器151から出力された検出信号121は、SE検出回路116で信号処理されて、画像化に適した信号310として出力される。その信号310は、図8の画像生成部307で画像化される。
【0079】
一方、図2のBSE検出器110(110A~110D)から出力されたBSE検出信号111(111a~111d)は、図6のBSE検出回路211(211A~211D)でそれぞれ信号処理される。例として、検出信号111aは、I/V変換回路201で電圧に変換され、ADC202でデジタル信号に変換される。そのデジタル信号は、波形整形回路203でパルス波形の立ち下がり時間が短縮された後、ピーク検出回路204でパルス波形のピーク位置、言い換えるとピーク時刻と、振幅とが検出される。他のチャンネルの検出信号111も同様に処理される。これらの4チャンネルのBSE検出信号111(111a~111d)のピーク位置および振幅は、信号301(301a~301d)として、図8のダークパルス処理部304に入力される。
【0080】
[ダークパルス処理部]
図11等を用いて、ダークパルス処理部304の処理などについて説明する。図11は、図8のダークパルス処理部304についてのより詳しい構成を示している。ダークパルス処理部304における信号ピーク位置検出部302は、ピーク位置比較部305と、メモリ311とを有する。
【0081】
ピーク位置比較部305は、4チャンネルのBSE検出回路211から送信されてきた信号301(301a~301d)を入力する。信号301は、前述のピーク位置、言い換えるとピーク時刻(tとする)の情報や、振幅などの情報を有している。ピーク位置比較部305は、信号301の1画素分に含まれるパルス信号についてチャンネル間で比較するため、ピーク位置の時間差(ΔTとする)を算出する。ピーク位置比較部305は、比較したパルス信号のピーク位置や振幅と、ピーク位置の時間差ΔTとを含む情報を、メモリ311に保存するとともに、信号306として出力する。
【0082】
ダークパルス判定部303は、各々のパルス信号間で、信号306の時間差ΔTと、判定基準情報341の判定基準値とを比較する。ダークパルス判定部303は、信号306の時間差ΔTが判定基準値以下である場合、比較したパルス信号はBSE信号であると判定し、信号306の時間差ΔTが判定基準値を超える場合、比較したパルス信号はダークパルスであると判定する。ダークパルス判定部303は、パルス信号とともに、判定結果、すなわちBSE信号とダークパルスとの弁別の結果を表す信号342を出力する。なお、ダークパルス判定部303は、判定結果を含む情報を、メモリに保存してもよいし、制御部400に状態情報として送信してもよい。
【0083】
ダークパルス除去部331は、パルス信号および判定結果の信号342を入力し、信号342で示されるダークパルスと判定されたパルス信号の部分を除去する。ダークパルス除去部331は、除去した結果の信号332を出力し、画像生成部307に送信する。
【0084】
ここで、ダークパルス除去部331は、ダークパルス除去後の信号について、S/Nを確認・評価するためのS/N演算を行ってもよい。実施の形態1では、ダークパルス除去部331内のS/N演算部331bによってこのS/N演算も行われる。S/N演算の結果、ダークパルス除去後の信号についてのS/Nを表す情報が得られる。ダークパルス除去部331は、このS/Nの値を、S/N目標値記憶部345に設定・記憶されている目標値344と比較する。ダークパルス除去部331は、比較の結果、S/Nが目標値344未満である場合には、判定基準記憶部309の判定基準値を調整する。ダークパルス除去部331は、判定基準記憶部309に、調整後の判定基準情報343を記憶する。その場合、ダークパルス判定部303は、判定基準情報341として、調整後の判定基準情報343を用いて、再度、ダークパルス判定を同様に行う。
【0085】
ダークパルス除去部331で得たS/Nが目標値344以上である場合には、ダークパルス判定部303は、ダークパルス除去後の信号332を画像生成部307に送信する。画像生成部307は、ダークパルス除去後の信号332に基づいて画像を生成する。
【0086】
ダークパルス除去部331でのダークパルス除去の手法としては、例えば以下を適用できる。ダークパルス除去部331は、4チャンネルの信号301について、ダークパルスであると判定されたパルス信号の部分を、ゼロ値に設定する。これによりダークパルスを除去できる。
【0087】
上述したダークパルス処理部304の構成は、オンライン処理、すなわちほぼリアルタイムでの信号処理に対応可能な構成である。また、実施の形態1では、オフライン処理でのダークパルス判定やダークパルス除去にも対応可能とする。オフライン処理は、信号111の発生時よりも後の任意の時にダークパルス判定などの処理を行うことである。そのため、ダークパルス処理部304では、上記ピーク位置および振幅を含む信号301(301a~301d)や、信号ピーク位置検出部302の出力する時間差ΔT等を含む信号306などに対応したデータ・情報を、制御部400にも送信する。制御部400は、それらのデータ・情報を、メモリ702などの記憶資源に保存する。オフライン処理を行う場合には、制御部400は、記憶資源に保存されているデータ・情報を参照して、プログラム処理により、上述と同様のダークパルス判定などの処理を行う。
【0088】
[ダークパルス判定]
図12図13は、図11のダークパルス処理部304による処理の具体例を示す模式説明図である。図12は、試料3の面の走査によって得られた、ある1つの対象位置の同一画素についての、4チャンネル(ch1, ch2, ch3, ch4)の検出信号である信号301(301a~301d)の波形の例を示す。横軸は時間軸である。この波形は、BSE信号波形およびダークパルス波形を内在している。同一フレームについて、各チャンネルの同一画素は、それぞれ、G1,f,p、G2,f,p、G3,f,p、G4,f,p,と表される。これらの画素は、同じ期間として、1画素期間PTを有する。
【0089】
本例では、第1チャンネルch1で受信した信号301aにおいて、パルス信号として、波形W1、波形W2を有する。第2チャンネルch2で受信した信号301bにおいて、パルス信号として、波形W3を有する。第3チャンネルch3で受信した信号301cにおいて、パルス信号として、波形W4を有する。第4チャンネルch4で受信した信号301dにおいて、パルス信号として、波形W5を有する。各波形は、ピーク位置であるピーク時刻を有している。例えば、波形W1のピーク位置であるピーク時刻がt1である。
【0090】
実施の形態1で、信号ピーク位置検出部302に送られてくる信号301のデータは、前述のように各波形のピーク位置および振幅を含むが、図12では、理解の容易のために、パルス波形として図示している。
【0091】
反射電子は、先述のように、電子銃101の電圧Vx、電流Ixや、試料3の状態に応じて、ほぼ同時に4チャンネルの全てのBSE検出器110でBSE検出信号が検出される場合や、より少ない数のチャンネルで検出される場合があるが、これらのBSE検出信号は、ほぼ同時にそれらの複数のチャンネルのBSE検出器110に入力、受信される。これに対し、ダークパルスはランダムに発生する。このことから、ダークパルスは、それらの複数のチャンネルのBSE検出器において、同時に発生する確率は小さい。実施の形態1では、このようなメカニズムを利用する。
【0092】
ダークパルス処理部304のダークパルス判定部303は、全数である4チャンネルのうち、いずれかの第1の数(例えばN1=2個)のチャンネルのBSE検出器110で、パルス信号のピーク位置の時間差ΔTが、判定基準値(αとする)以下となるか超えるかを判断する。ピーク位置の時間差ΔTであるピーク時間差が判定基準値α以下となることが、第1の数N1以上のチャンネル内で、ほぼ同時に発生した場合、例えば1画素期間PT内で発生した場合、ダークパルス判定部303は、これに該当するパルス信号がBSE信号であると判定する。
【0093】
一方、ピーク時間差が判定基準値α以下となることが、第1の数(例えばN1=2個)未満のチャンネル内で、ほぼ同時に発生した場合、ダークパルス判定部303は、これに該当するパルス信号がダークパルスであると判定する。ダークパルス判定部303は、4チャンネルのパルス信号を各チャンネル間で比較して、ピーク時間差が判定基準値αよりも大きい場合には、それに該当するパルス信号がダークパルスであると判定する。
【0094】
図13には、上記パルス信号の波形についてのピーク時間差を比較する手法の例を示している。ダークパルス判定部303は、4チャンネルの信号301(301a~301d)における1画素期間PT内にピーク位置として含まれている波形W1~W5について、2つの波形同士の組み合わせを網羅的かつ重複無く調べる。図13にはそのような組み合わせの比較の例を示している。ダークパルス判定部303は、基本としては、異なるチャンネル間の波形間のピーク時間差を判断し、さらに、同じチャンネル内に複数の波形がある場合には同じチャンネル内でも波形間のピーク時間差を判断する。
【0095】
本例では、第1に、基準波形として、第1チャンネルch1の波形W1とし、比較波形として、第2チャンネルch2の波形W3、第3チャンネルch3の波形W4、第4チャンネルch4の波形W5とする。基準波形と比較波形との比較の組として、(W1-W3)、(W1-W4)、(W1-W5)とする。第2に、基準波形として、第1チャンネルch1の波形W2とし、比較波形として、波形W3、波形W4、波形W5とする。第3に、基準波形として、第2チャンネルch2の波形W3とし、比較波形として、波形W4、波形W5とする。第4に、基準波形として、第3チャンネルch3の波形W4とし、比較波形として、波形W5とする。
【0096】
ダークパルス判定部303は、これらの組について、それぞれのピーク時間差を、判定基準値αと比較する。本例では、右側に示すように、全組合せのうち、波形W2と波形W3との組でのピーク時間差として、ピーク時刻t2とピーク時刻t3との時間差ΔTが、判定基準値α以下である(ΔT≦α)。他の組は、時間差ΔTが判定基準値αを超える。ΔTがα以下となることに対応したチャンネルの数が2である。
【0097】
このことから、ダークパルス判定部303は、この波形W2と波形W3との組を、BSE信号であると判定する。ダークパルス判定部303は、この組に該当しない他の波形(W1,W4,W5)については、それぞれの組合せで時間差ΔTが判定基準値αを超えることから、いずれもダークパルスであると判定する。他のフレーム、他の画素についても、時系列で同様に処理が行われる。
【0098】
上記のように、ダークパルス判定部303により、チャンネル間でパルス信号のピーク時間差を調べ、判定基準値αやチャンネルの数(例えばN1=2個)を用いた条件を満たすかどうかによって、BSE信号とダークパルスとを弁別することができる。なお、条件を構成するパラメータとして、時間差ΔTが判定基準値α以下となるチャンネルの数(例えばN1=2個)についても、設定値として、判定基準記憶部309に記憶されてもよい。
【0099】
上記のように、実施の形態1は、4チャンネルがあるBSE検出器110(110A~110D)において、BSE信号の発生する位置・時間には各チャンネル間で相関があること、および、ダークパルスの発生する位置・時間は各チャンネル間で無相関であることを利用する。実施の形態1によれば、このようなメカニズムに基づいて、検出パルスのピーク位置を比較することで、BSE信号とダークパルスとを弁別することができる。
【0100】
[処理フロー]
図14は、実施の形態1の荷電粒子ビーム装置1における主にコントローラ100による処理フローを示す。本フローはステップS101~S113を有する。なお、本フローは、図8の処理部300を処理フローとして記述したものに相当し、処理内容は対応している。一部の処理内容は図6のBSE検出回路211で行われる。
【0101】
ステップS101で、コントローラ100(詳しくはプロセッサ701。以下同様。)は、BSE検出を開始する。この開始は、試料3の計測の開始などと対応している。ステップS102で、荷電粒子ビーム装置1は、4チャンネルのBSE検出系統の出力信号を検出する。すなわち、荷電粒子ビーム装置1は、前述の4個のBSE検出器110(110A~110D)から出力する信号111(111a~111d)を得る。
【0102】
ステップS103で、荷電粒子ビーム装置1は、信号111(111a~111d)に基づいて、BSE検出回路211により、各チャンネルの各フレームの各対象位置の画素(Gc,f,p)について、ピーク位置であるピーク時刻や振幅の値を検出する。コントローラ100は、ピーク位置などが検出された信号301(301a~301d)を入力・取得する。
【0103】
ステップS104で、コントローラ100は、信号301(301a~301d)に基づいて、対象の画素毎に、各パルス信号のピーク時間差(ΔT)を算出する。
【0104】
ステップS105で、コントローラ100は、信号301に基づいて、対象の画素毎に、ピーク位置、振幅、ピーク時間差などを含む情報をメモリに保存する。
【0105】
ステップS106で、コントローラ100は、ピーク時間差(ΔT)に関する判定基準値(α)を設定する、または設定済みの判定基準値(α)を参照する。
【0106】
ステップS107で、コントローラ100は、対象の画素毎に、チャンネル間で、ピーク時間差を比較し、時間差ΔTが判定基準値α以下であるかを判断する。判定基準値α以下である場合(Y)にはステップS108へ進み、判定基準値αを超える場合(N)にはステップS112へ進む。より詳しくは、前述のように、時間差ΔTが判定基準値α以下であるパルス信号の組に対応するチャンネルの数が第1の数(例えばN1=2個)以上であるかどうかも、条件として判断される。
【0107】
ステップS108で、コントローラ100は、ステップS107の条件を満たしたパルス信号の組については、BSE信号であると判定する。
【0108】
ステップS109で、コントローラ100は、ステップS107の条件を満たさないパルス信号の組については、ダークパルスであると判定する。言い換えると、コントローラ100は、ステップS108でBSE信号であると判定されたパルス信号以外のパルス信号については、ダークパルスであると判定する。
【0109】
さらに、ステップS112からはステップS113に進む。ステップS113では、コントローラ100は、検出信号からダークパルスと判定された部分を除去する。
【0110】
ステップS109で、コントローラ100は、対象である全フレーム、全画素について、上記処理が終了したかを確認し、まだである場合(N)にはステップS103へ戻り、同様に繰り返す。終了した場合にはステップS110へ進む。
【0111】
ステップS110では、コントローラ100は、ダークパルス除去後の効果を確認するために、前述のS/N演算を行う。コントローラ100は、演算で得たS/N値が、S/N目標値以上になったかを確認する。目標値に到達しない場合(N)には、ステップS106に戻る。この場合、ステップS106で、コントローラ100は、判定基準値αを再設定する。目標値に到達した場合(Y)には、ステップS111に進む。
【0112】
ステップS111では、コントローラ100は、上記処理後のBSE信号(図8の信号332)に基づいて、画像生成部307による画像化を行い、その結果として生成された画像を得る。また、ステップS111で、コントローラ100は、上記処理で扱った、ピーク位置、振幅、ピーク時間差、判定基準値、および画像などの関連するデータ・情報を出力する。この出力は、メモリへの保存と、外部出力として、図1のユーザに対する出力とを含む。例えば、表示画面において、GUIとともに、BSE検出に基づいた画像などが表示される。
【0113】
上記実施例では、BSE検出器110として4チャンネル、言い換えると4検出系統を有する場合で説明したが、これに限らず、4チャンネルより少ない場合でも多い場合でも、同様に適用可能である。
【0114】
図15は、BSE処理機能に係わり、コントローラ100がメモリに例えばデータベースのテーブルとして保存するデータ・情報の例を示す。図15の上側のテーブルは、項目として、試料3のID、画素Gc,f,p、パルス信号の波形のID、ピーク位置(言い換えるとピーク時刻t)、振幅、および画像のファイル名などを有する。また、下側のテーブルは、項目として、パルス信号の波形の組合せのID、ピーク時間差(ΔT)、判定基準値(例えばα)、判定結果としてダークパルスかBSE信号かの値などを有する。
【0115】
コントローラ100は、図15のテーブルの情報を、GUIを介した画面に表示させてもよい。下側のテーブルは、処理過程で一時的に生成するテーブルとしてもよい。
【0116】
[実施の形態1の効果等]
以上説明したように、実施の形態1の荷電粒子ビーム装置1によれば、BSE検出器110で発生するダークパルスによる検出の劣化を低減できる、言い換えると、計測精度向上などを実現できる。実施の形態1によれば、BSE検出器110の出力信号について、ダークパルスとBSE信号とを弁別して検出でき、検出結果においてダークパルスを除去することができる。これにより、実施の形態1によれば、BSE検出器110に基づいた取得画像のS/Nが向上し、また、穴・溝などの3次元構造の詳細な情報を得ることができ、高い測長精度などが実現でき、機差も低減できる。
【0117】
なお、前述のオンライン処理の場合では、オンライン処理に必要なデータ・情報のみを取得して記憶資源に一時記憶しながら、ほぼリアルタイムで処理が行われる。処理済みの一時記憶データは適宜に削除される。この場合、システムに必要な記憶資源は比較的少なくて済む。前述のオフライン処理の場合では、オフライン処理に必要なすべてのデータ・情報が一旦取得されて記憶資源に保存された後、必要な時に、その保存されたデータ・情報を参照してまとめて処理が行われる。この場合、ある程度計算に時間がかかってもよい。
【0118】
<実施の形態2>
図16以降を用いて、実施の形態2の荷電粒子ビーム装置について説明する。実施の形態2等の基本的な構成は、実施の形態1と同様であり、以下では、実施の形態2等における実施の形態1とは異なる構成部分について主に説明する。実施の形態2は、実施の形態1に対し主に異なる構成点として以下がある。
【0119】
実施の形態1での図8のダークパルス判定部303は、1フレームの対象画素の信号を用いて、時間Tとして1画素期間PTごとに、ダークパルスかBSE信号かの判定を行う構成とした。実施の形態1では、フレーム期間ごとに別の判定とした。それに対し、実施の形態2では、ダークパルス判定部は、対象画素について、その画素を含んだ複数のフレームに対応した期間の信号を用いて、ダークパルスかBSE信号かの判定を行う構成とする。実施の形態2では、実施の形態1と同様に、ほぼ同時のパルス信号の発生に関して、チャンネル間でパルス信号の波形の組合せ同士でピーク時間差を比較する。実施の形態2では、その比較の対象となる時間範囲、言い換えると判定対象期間が、複数のフレームに対応した期間として拡張される。実施の形態2では、対象位置の画素ごとに、複数のフレームに対応した期間内において、チャンネル間でパルス信号の波形の組合せ同士でピーク時間差を比較し、BSE信号かダークパルスかの弁別を行う。
【0120】
[ダークパルス処理部]
図16は、実施の形態2でのダークパルス処理部304内で、ダークパルス判定部303の前段にある、信号ピーク位置検出部302Bの機能ブロック構成例を示す。この信号ピーク位置検出部302Bは、入力側から順に、ピーク位置記憶部312、ピーク位置合成部330、ピーク位置比較部313を有し、また、判定フレーム数記憶部314を有する。ピーク位置記憶部312は、メモリを含んでいる。
【0121】
ダークパルス処理部304は、判定フレーム数記憶部314に、判定基準値の1つとして、判定フレーム数351を設定する。判定フレーム数351をFDとする。判定フレーム数記憶部314には、判定フレーム数FDを含む情報が記憶される。判定フレーム数FDは、最大フレーム数Fよりも小さい数であり、設計上あるいはユーザ設定での設定値とすることができる。制御部400は、予め、ユーザ設定等に基づいて、判定フレーム数FDを指定し、判定フレーム数記憶部314に設定してもよい。
【0122】
ピーク位置記憶部312は、入力の信号301に対し、判定フレーム数記憶部314に設定されている判定フレーム数351(FD)を参照する。ピーク位置記憶部312は、複数のチャンネルの信号301における対象画素について、判定フレーム数FDに対応した複数のフレームの範囲内で、対象画素に対応した1画素期間に含まれるパルス信号の各波形についてのピーク位置を記憶する。すなわち、対象画素(Gc,f,p)ごとに、ピーク位置が記憶される画素数は、各フレームに波形が出現している場合には、FDを掛け算した個数となる。全画素および全チャンネルでは、C×P×FDを掛け算した個数となる。
【0123】
ピーク位置記憶部312に一旦記憶された、ピーク位置などを含む信号352は、ピーク位置合成部330に入力される。ピーク位置合成部330は、判定フレーム数FDによる判定対象期間内の各波形のピーク位置について、合成処理を行う。この合成処理は、後段のピーク位置比較部313での比較のための処理である。
【0124】
図17等は、ピーク位置合成部330による合成処理についての説明図である。図17には、試料3の面の走査によって得られた、4チャンネルの信号301(301a~301d)について、ある対象位置の画素として各フレーム内でp番目の画素に対応した1画素期間PTについて、複数のフレームの例としてフレームf1,f2,f3という3個のフレームでのパルス信号の波形の例を示している。本例では、判定フレーム数FD=3である。例えば、第1チャンネルch1について、3個のフレームf1,f2,f3の対象画素G1,f,pは、画素G1,1,p、画素G1,2,p、画素G1,3,pと表せる。他のチャンネルについても同様である。
【0125】
これらの信号301内に、BSE信号やダークパルスが内在している。本例では、フレームf1では、第1チャンネルch1の波形w1、第2チャンネルch2の波形w2を有し、フレームf2では、第3チャンネルch3の波形w3、第4チャンネルch4の波形w4を有し、フレームf3では、第1チャンネルch1の波形w5、第2チャンネルch2の波形w6を有する。各波形はピーク位置であるピーク時刻tを有する。例えば波形w1のピーク位置がピーク時刻tw1である。
【0126】
なお、対象位置の画素について、例えばフレームf2を基準にする場合、1つ前のフレームf1と、1つ後のフレームf3との、前後のフレームを参照することで、判定対象期間となる複数(FD=3)のフレームをとることができる。これに限らず、例えばフレームf1を基準にする場合、1つ後のフレームf2と2つ後のフレームf3との時間的に後のフレームを参照することで複数(FD)のフレームをとってもよい。例えばフレームf3を基準にする場合、1つ前のフレームf2と2つ前のフレームf1との時間的に前のフレームを参照することで複数(FD)のフレームをとってもよい。
【0127】
ピーク位置合成部330は、チャンネルごとに、複数(FD=3)のフレーム(f1,f2,f3)の波形を、画素期間PTごとの波形群として合成する。ピーク位置合成部330は、合成結果の信号353を出力する。
【0128】
図18は、図17の信号301に基づいて、チャンネルごとに波形を合成した結果の例を示す。なお、複数のフレームの合成後を合成フレーム1701とし、対応して複数の画素期間の合成後を合成画素期間1702とも記載する。図18の合成後の信号を、チャンネルごとに、信号353a,353b,353c,353dとして示す。第1チャンネルch1の合成画素期間1702の信号353aでは、波形w1と波形w5が含まれている。波形w1と波形w5はほぼ同じ時刻に重なっている。第2チャンネルch2の合成画素期間1702の信号353bでは、波形w2と波形w6が含まれている。第3チャンネルch3の合成画素期間1702の信号353cでは、波形w3が含まれている。第4チャンネルch4の合成画素期間1702の信号353dでは、波形w4が含まれている。
【0129】
ここで、BSE検出器110での反射電子105の検出数が少ない場合には、複数のチャンネルのBSE検出器110(110A~110D)でBSE信号に対応したパルス信号として受信されない場合がある。この場合、実施の形態1で説明した手法では、複数のチャンネルでBSE信号に対応したパルス信号が出現する数が少ないことから、BSE信号とダークパルスとの弁別のための判定が難しい場合が生じ得る。
【0130】
そのため、実施の形態2では、反射電子105の検出数が少ない場合でも判定しやすいように、判定対象期間を、複数(FD)のフレームによる合成フレーム1701の合成画素期間1702に拡大している。このように、チャンネルごとに複数のフレームの信号を合成することで、合成フレーム1701の合成画素期間1702内では、BSE信号に対応したパルス信号が、より多く受信すると期待できる。この合成画素期間1702では、BSE信号に対応したパルス信号が、複数のチャンネルでほぼ同時に発生する確率が高いと期待できる。他方、ダークパルスはランダムに発生するため、合成フレーム1701の合成画素期間1702内でも、ダークパルスが各チャンネルにほぼ同時に発生する確率は低いと期待できる。このようなメカニズムに基づいて、実施の形態2では、合成後の信号を対象として、実施の形態1と同様に条件を用いて、BSE信号とダークパルスとの弁別のための判定が行われる。
【0131】
ピーク位置比較部313では、合成後の信号353(353a~353d)に基づいて、各チャンネルのパルス信号の波形について、チャンネル間での組合せごとにピーク時間差(ΔT)を算出し、各チャンネルの各画素のパルス信号のピーク位置、ピーク時間差などの情報を含む信号を、信号306として出力する。
【0132】
ダークパルス判定部303は、実施の形態1と同様に、信号306のピーク時間差と、判定基準値αとを比較し、時間差ΔTが判定基準値α以下であることに該当するチャンネル数が第1の数(例えばN1=2)以上である場合には、当該比較したパルス信号はBSE信号であると判定する。ダークパルス判定部303は、この条件を満たさないパルス信号についてはダークパルスであると判定する。その後のダークパルス除去部331などの処理は実施の形態1と同様である。
【0133】
図19には、図18の合成後の信号353に基づいて、波形の組合せ同士でピーク時間差を調べる例を示している。実施の形態1と同様に、波形の全ての組合せについて網羅的かつ重複無く、ピーク時間差が調べられる。同じチャンネル内での異なるフレームの複数の波形(例えば波形w1と波形w5)についても、組として調べられる。
【0134】
本例では、図18の第1チャンネルch1のフレームf1の波形w1と、第1チャンネルch1のフレームf3の波形w5と、第4チャンネルch4のフレームf2の波形w4との3つの波形において、それぞれピーク時間差が判定基準値α以下である。このことから、ダークパルス判定部303は、波形w1、波形w4、および波形w5を、BSE信号であると判定し、波形w2、波形w3、および波形w6については、ダークパルスであると判定する。
【0135】
[処理フロー]
実施の形態2でのコントローラ100の処理フローは、実施の形態1の図14のフローと概略的に同様であるが、異なる構成点として、以下のようになる。前述のステップS102では、コントローラ100は、最初、複数Fのフレームのうち、第1のフレームから順に処理を開始する。前述の図16のように、コントローラ100は、メモリにフレームごとの情報を記憶しながら処理を行う。ステップS103では、コントローラ100は、対象画素ごとに、対象画素を含むフレームで、画素期間の信号を取得し、ピーク位置などを検出する。
【0136】
ステップS104では、コントローラ100は、対象画素ごとに、例えば前後のフレームを含む複数FDのフレームを範囲として、メモリに記憶されたフレームごとの情報を参照しながら、画素期間の信号を取得し、パルス信号間でのピーク時間差などを算出する。ステップS105では、コントローラ100は、算出されたピーク時間差などをメモリに記憶する。コントローラ100は、フレームごとに順次に、ステップS102~S105の処理を同様に繰り返す。
【0137】
その後、コントローラ100は、メモリの情報に基づいて、図17のような合成処理を行い、合成後の信号を対象として、ステップS106以下の処理を同様に行う。合成処理は、言い換えると、異なるフレームの各画素期間を、同じ1つの合成フレーム1701の合成画素期間1702としてまとめることで、ピーク時刻を比較可能とすることである。
【0138】
[実施の形態2の効果等]
実施の形態2では、複数(4個)のチャンネルのBSE検出器110において、複数(FD)のフレームにおけるBSE信号の発生の位置・時間には同一チャンネル間および各チャンネル間で相関があること、およびダークパルスの発生の位置・時間は各チャンネル間で無相関であることを利用する。実施の形態2では、このようなメカニズムに基づいて、複数のチャンネルの検出信号におけるパルスのピーク位置を比較することで、BSE信号とダークパルスとを弁別できる。また、実施の形態2では、異なるチャンネル間の相関だけではなく、図18の例にも示したように、同一チャンネルの異なるフレーム間で信号の相関がある場合でも、その信号についてBSE信号とダークパルスとの弁別が可能となる。これにより、反射電子の検出が少ない場合でも、BSE信号の検出精度が向上できる。
【0139】
<実施の形態3>
図20以降を用いて、実施の形態3の荷電粒子ビーム装置について説明する。実施の形態3は、実施の形態2の変形例としても捉えられる。実施の形態2および実施の形態1では、弁別のための判定の対象として、複数のチャンネルのBSE検出器110からの複数の検出信号を対象とした。実施の形態3では、実施の形態2と同様に判定対象期間を複数FDのフレームなどの期間に拡張する。実施の形態3では、複数のチャンネルのBSE検出器110からの複数の検出信号を対象とするのではなく、単一のチャンネルのBSE検出器110からの単一の検出信号を対象として、実施の形態2と同様に弁別のための判定を行う。コントローラ100は、単一のBSE検出器110からの単一の検出信号を対象として、対象位置の画素について、複数FDのフレームを範囲として、BSE信号とダークパルスとの弁別の判定を行う。
【0140】
[単一のBSE検出器]
図20は、実施の形態3でのダークパルス判定に関する模式説明図である。実施の形態3の例では、図2のBSE検出器110のうち例えば第1チャンネルch1のBSE検出器110Aの検出信号111a(図6での信号301a)のみを判定対象として使用する場合を説明する。なお、これに限らず、変形例としては、荷電粒子ビーム装置において単一のBSE検出器しか備えない場合でも、その単一のBSE検出器を対象として、同様の判定が可能である。
【0141】
実施の形態3で、コントローラ100のダークパルス処理部304の構成は図11図16と同様であり、異なる構成点としては、図16のピーク位置記憶部312は、単一のBSE検出器からの検出信号、例えば信号301aのみを入力し、時系列でフレームごとに処理を行う。ピーク位置記憶部312は、対象位置の画素ごとに、判定フレーム数FDに対応した複数のフレームを判定対象期間として、各フレームでパルス信号のピーク位置を算出し、メモリに記憶する。ピーク位置記憶部312は、単一のBSE検出器の検出信号に基づいた、各フレームでのパルス信号のピーク位置などの信号を、単一の系列の信号352として出力する。
【0142】
ピーク位置合成部330は、その信号352に基づいて、図20の例のように、実施の形態2と同様に、対象画素ごとに、複数FDのフレームの画素期間の信号を1つに合成して、合成フレーム1901での合成画素期間1902の信号とする。図20の例は、図17図18のうち第1チャンネルch1の信号301aの部分を抽出したものに相当している。ピーク位置合成部330は、合成後の信号353を出力する。
【0143】
ピーク位置比較部313は、合成後の信号353に基づいて、対象画素ごとに、合成画素期間1902に含まれているパルス信号の波形同士のピーク時間差(ΔT)を判定基準値(α)として閾値と比較して、BSE信号とダークパルスとの弁別の判定を行う。この判定は、以下のようになる。
【0144】
実施の形態3の荷電粒子ビーム装置1のコントローラ100は、単一のBSE検出器からの単一の系統の出力信号について、対象位置の画素ごとに、時間Tとして複数FDのフレームの期間内で、受信・出現するパルス信号を対象とする。そして、コントローラ100は、複数FDのフレームの期間内で、複数、少なくとも2つのパルス信号が、受信・出現している場合において、それらのパルス信号の波形間でピーク時間差が閾値以下となるかどうかを判断する。コントローラ100は、それらのパルス信号の波形間でピーク時間差が閾値以下となる場合には、それらのパルス信号はBSEに起因する、言い換えるとBSE信号であると推測・判定する。
【0145】
逆に言えば、コントローラ100は、複数FDのフレームによる期間内で、単一のパルス信号しか受信・出現していない場合や、複数のパルス信号が受信・出現していても波形間でピーク時間差が閾値を超える場合には、それらのパルス信号はダークパルスに起因する、言い換えるとダークパルスであると推測・判定する。
【0146】
[実施の形態3の効果等]
上記のように、実施の形態3によれば、SEMなどにおいて、単一のBSE検出器、単一のBSE検出系統の検出信号を対象とする場合にも、BSEとダークパルスとの弁別が可能である。
【0147】
また、実施の形態3の変形例としては、SEMなどにおいて、図2のように複数のBSE検出器、複数のBSE検出系統を備える場合に、それらから選択した任意の1つのBSE検出器の出力信号を対象として、上記実施の形態3と同様の判定を行うことが可能である。また、それぞれのBSE検出器の出力信号ごとに、独立して、上記実施の形態3と同様の判定を行うことも可能である。
【0148】
また、実施の形態3や実施の形態2の変形例として、判定対象期間は、複数FDのフレームによる期間とすることに限らず、対象画素を含んだ時間T、例えば複数の画素期間などとしてもよい。また、実施の形態3の変形例として、判定対象期間内において、受信・出現するパルス信号の波形の数を判断してもよい。すなわち、コントローラ100は、単一のBSE検出器からの出力信号について、対象位置の画素ごとに、判定対象期間内で、ある数(例えば3個)以上のパルス信号の波形間でピーク時間差が閾値以下となるかどうかを判断する。この波形数に係わる数についても、判定基準情報の1つとして、設計上あるいはユーザ設定等での設定値とすることができる。
【0149】
<実施の形態4>
図21以降を用いて、実施の形態4の荷電粒子ビーム装置について説明する。実施の形態4は、複数のチャンネルのBSE検出器を備える実施の形態1や2のいずれをベースとしても構成でき、実施の形態1や2に対し追加・修正される特徴を有する。実施の形態4は、BSE信号とダークパルスとの弁別に関して、BSE検出系統の信号のみならず、SE検出系統の信号を補助として参照し、補正として反映することで、精度を高める。実施の形態4では、実施の形態1をベースとして、実施の形態1での単一フレームを用いた判定の手法と、実施の形態2での複数フレームを用いた判定の手法との両方を用いる例を説明する。
【0150】
[処理部]
図21は、実施の形態4でのコントローラ100の処理部308の構成例を示す。図21の構成は、実施の形態1に対し主に異なる構成点としては、処理部308において、形状推定部317が追加されており、ダークパルス処理部304において、重み付け部316が追加されている。
【0151】
実施の形態4では、図2のSE検出器115からSE検出回路116を通じて出力されたSE検出信号310が形状推定部317に入力される。形状推定部317は、SE検出信号310に基づいて、試料3の面上の構造の位置や形状を推定する。前述の図10のように、例えば上面902と深溝構造901とで二次電子の検出されやすさが異なるので、SE検出信号310から、例えば輝度の違いから、構造の位置や形状を推定可能である。例えば図9の(A)のように、試料3の上面902において深溝構造901の開口部の形状が概略矩形状であると推定でき、長辺や短辺の寸法、深さ901cの寸法なども推定できる。形状推定部317は、推定した形状などを表す信号318を出力する。
【0152】
重み付け部316は、信号318に基づいて、4チャンネルのBSE検出系統の信号301(301a~301d)における同一画素間で得られるBSE信号の数に重み付けを行う。これにより、ダークパルスの判定率を向上させる。重み付け部316は、重み付けを表す信号323を出力する。ダークパルス除去部331は、信号323の重み付けの値に基づいて、ダークパルス判定部303からの判定結果の信号322を補正する。ダークパルス除去部331は、補正された結果に基づいて、ダークパルスを除去する。
【0153】
前述の図10のように、試料3の穴・溝などの構造、例えば底部から得られる二次電子は数が少ないのに対し、試料表面から得られる二次電子は反射電子に比べて数が多い。そのため、SE検出信号を利用することで、試料表面のどの箇所に穴・溝などの構造があるかを推定・判定可能である。
【0154】
この場合、特定された構造に関連する画素については、実施の形態2で示した複数FDのフレームによる判定対象期間を用いて、BSE信号とダークパルスとを弁別し、特定された構造以外の試料表面の箇所に対応したその他の画素については、実施の形態1で示した単一フレームの判定対象期間を用いて、BSE信号とダークパルスとを弁別する。これにより、処理時間の低減や、必要な記憶資源(例えばピーク位置記憶部312内のメモリ)の容量の低減などに効果がある。
【0155】
図21図22等を用いて、構造の特定に基づいて弁別の精度を向上する手法について説明する。図21で、信号ピーク位置検出部302のピーク位置比較部305からは、4チャンネルの各チャンネルの信号301(301a~301d)に基づいた、画素ごとに含まれるパルス信号のピーク位置などの信号321(321a~321d)がダークパルス判定部303に入力される。ダークパルス判定部303では、実施の形態1または実施の形態2での判定の手法と同様にして、ピーク時間差と判定基準値αとの比較などによって、BSE信号とダークパルスとを弁別する。
【0156】
弁別の結果の各チャンネルの信号322(322a~322d)がダークパルス除去部331に入力される。ここで、ダークパルス除去部331では、重み付け部316からの重み付けの信号323を用いて、弁別の結果に対し、BSE信号の個数に重み付けによる補正を行い、チャンネルごとにBSE信号とダークパルスとの数量の比率を調整する。この重み付けは、試料3の構造に応じた各チャンネルの検出感度に基づいて決定される。
【0157】
図22および図23は、重み付けに関する模式説明図である。図22は、試料3の表面における深溝構造などの構造2100の箇所および形状の例と、その構造2100に対する4チャンネルのBSE検出器110(110A~110D)との配置関係とを示す。図22では、X-Y面での模式説明図として、ビーム光軸に対応する中心の点Oの位置に存在する構造2100を拡大して図示しており、右側に示すように、左側と同様のトップビュー画像としての検出画像2101を有すると捉えてもよい。
【0158】
本例では、構造2100は、図9の深溝構造901と同様に、概略的に矩形形状であり、底部までの深さを有する。構造2100の開口部は、X方向での短辺と、Y方向での長辺とを有する。ここでは、短辺の長さをD、長辺の長さをHとする。構造2100の位置は、例えば試料3の座標系などにおいて位置座標(x,y)で表せる。なお、試料3の座標系や、ステージの座標系や、検出画像の座標系などの各種の座標系は、対応関係を有し、適宜に変換可能である。
【0159】
本例では、構造2100の長辺がY軸に沿って伸びており、そのY軸の方向では、中心の点Oに対し、一方側(図22での上側)の位置に第1チャンネルch1(North)のBSE検出器110Aが配置されており、他方側(図22での下側)の位置に第2チャンネルch2(South)のBSE検出器110Bが配置されている。短辺が伸びているX軸の方向には第3チャンネルch3(West)のBSE検出器110C、第4チャンネルch4(East)のBSE検出器110Dが配置されている。
【0160】
前述の図10のように、深溝構造901の長辺の方向では、反射電子が相対的に多く出射するのに対し、短辺の方向では、反射電子が出射する数が相対的に少なくなる、という関係がある。このような関係を、構造2100の縦横比としてD/Hを用いて表現できる。本例では、この縦横比のパラメータは、Y方向の長辺の長さHを分母とし、X方向の短辺の長さDを分子とした比率とする。構造2100の形状として、Y方向の辺が長くD/Hの値が1に対して小さい形状であるほど、Y軸に配置されたBSE検出器110A,110BのBSE検出感度が相対的に高いと言える。
【0161】
そこで、実施の形態4では、上記のような構造2100の位置および形状と、各チャンネルのBSE検出器110との配置関係に基づいて、BSE検出感度に重み付けによる補正を行うものである。詳しくは、この重み付けによる補正は、BSE検出器110を含むBSE検出系統自体や、ダークパルス判定部303の判定自体での重み付けによる補正とするのではなく、判定結果に対する重み付けによる補正とする。
【0162】
図23の表は、構造2100に対して、4チャンネルのBSE検出器110における東西南北の4方向に出射して各BSE検出器110で受信されるBSEの数量の割合の例を示している。本例では、D/Hの値が小さくなるほど、Y方向に長く構造2100が伸びており、Y方向に配置されたBSE検出器110A,110Bで受信するBSEの割合が高くなる。一方、D/Hの値が大きくなるほど、X向に構造2100が伸びており、Y方向に配置されたBSE検出器110C,110Dで受信するBSEの割合が高くなる。D/Hが1に近い場合には、X方向とY方向で長さが同程度であり、各チャンネルのBSE検出器110でのBSEの受信の割合は同程度となる。
【0163】
例として、構造2100の形状について、D/H=0.6の場合、Y方向のNorthのBSE検出器110AとSouthのBSE検出器110Bとで受信する割合がそれぞれ0.4であり、X方向のEastのBSE検出器110DとWestのBSE検出器110Cとで受信する割合がそれぞれ0.1とする。全体を1として、0.4+0.1+0.1+0.4=1である。図23の表では、D/Hが「0.5~0.7」である行において、これらのN,E,W,Sの各BSE検出器110でのBSEの受信の割合を示している。
【0164】
このような各チャンネルでのBSEの受信の割合、言い換えると検出感度を、別の表現として、確率でも表現できる。例えば、D/H=0.6の場合、N,E,W,Sの各BSE検出器110でのBSEの受信の確率を、{40%,10%,10%,40%}と表せる。図23の表のような割合は、予めテーブルのデータとして設定しておいてもよい。
【0165】
上記例のように、形状推定部317は、SE検出信号に基づいて構造2100の位置および形状を推定し、重み付け部316は、推定結果に基づいて、各チャンネルのBSE検出の割合、検出感度を想定する。重み付け部316は、例えばD/Hの値に基づいて図23の表から各チャンネルの割合を参照してもよいし、都度に割合を算出してもよい。そして、重み付け部316は、各チャンネルの割合に基づいて、判定結果の信号322(322a~322d)における各チャンネルの判定結果を補正するための重み付けを決定する。
【0166】
この重み付けの決定の手法としては、例えば以下が適用できる。ダークパルス判定部303による判定結果の信号322(322a~322d)は、チャンネルごとに、含まれる各パルス信号について、BSE信号かダークパルスかの推定・判定結果の情報を持っている。Y方向(N,S)のBSE検出器110A,110Bに対応した信号322a,322bではそれぞれ割合0.4に近付き、X方向(W,E)のBSE検出器110C,110Dに対応した信号322c,322dではそれぞれ割合0.1に近付くように、重み付けを決定し、信号323として出力する。ダークパルス除去部331は、その重み付けの信号323に従って、判定結果の信号322(322a~322d)における、BSE信号と判定されているパルス信号について、BSE信号かダークパルスかの再判定を行うことで、BSE信号数を補正する。
【0167】
なお、本実施例では、ダークパルス除去部331が重み付けに従って再判定を行う構成としたが、これに限定されない。ダークパルス判定部303内に重み付けに従って再判定を行う機能ブロックを設ける構成としてもよいし、ダークパルス判定部303とダークパルス除去部331との間にその機能ブロックを設ける構成としてもよい。
【0168】
図22の例では、構造2100の位置に対して4個のBSE検出器が等距離であるとして検出の割合を想定しているが、これに限定されない。構造2100の位置に対して4個のBSE検出器が異なる距離にある場合に、その距離に応じて、検出の割合を異ならせてもよい。すなわち、距離が近いほど検出の割合を高くしてもよい。
【0169】
また、図22の例では、構造2100に対するビームの入射の方向を、面垂直であるZ方向として、検出の割合を想定しているが、これに限定されない。構造2100に対してビームが斜め方向から入射する場合、その斜め方向に応じて、検出の割合を異ならせてもよい。構造2100に対してビームが斜め方向から入射する場合とは、ビーム光軸がチルト方向のようになる場合や、ビームの走査の方向を考慮する場合が挙げられる。
【0170】
図24には、上記重み付けを用いた再判定、補正の具体例を示し、以下の通りである。例えば、図24の表に示すように、ある対象画素の期間について、ダークパルス判定部303の判定結果として、第1チャンネルch1(North)でBSE信号と判定されたパルス信号の個数がAS個、ダークパルスと判定されたパルス信号の個数がAD個とする。同様に、第2チャンネルch2(South)では、それぞれBS個、BD個、第3チャンネルch3(West)では、それぞれCS個、CD個、第4チャンネルch4(East)では、それぞれDS個、DD個とする。
【0171】
BSEの判定結果に関して、AS:BS:CS:DSの比が、例えば0.4:0.1:0.1:0.4という前述の割合の比とは異なるとする。この場合、ダークパルス処理部304は、ダークパルスと判定されているパルス信号(AD,BD,CD,DD)の一部を、BSE信号として判定しなおすことで、AS:BS:CS:DSの比が、その0.4:0.1:0.1:0.4という割合に近付くように、補正を行う。
【0172】
例として、BSE信号の個数として、AS=2,BS=0,CS=1,DS=2であり、BSE信号の比が0.2:0:0.1:0.2であり、ダークパルスの個数として、AD=3,BD=3,CD=4,DD=1であったとする。その場合、BSE信号の個数として、AS=2+2=4、BS=0+1=1、CS=1+0=1、DS=2+1=3といったように増やし、ダークパルスの個数として、AD=3-2=1、BD=3-1=2,CD=4-0=4、DD=1-1=0といったように減らして、ダークパルスと判定されたパルス信号の一部をBSE信号として移すように、再判定が行われる。再判定では、AS:BS:CS:DSの比が、BSE検出の割合{0.4:0.1:0.1:0.4}に近付くように、重み付けによる補正が行われる。補正前のBSE信号の比は、AS:BS:CS:DS={0.2:0:0.1:0. 2}であり、補正後には例えば{0.4:0.1:0.1:0.3}となり、BSE検出の割合{0.4:0.1:0.1:0.4}に近付く。
【0173】
上記のように、実施の形態4では、試料3の3次元構造に応じた各チャンネルのBSE検出の割合を考慮して、BSE信号とダークパルスとの弁別の判定結果が、その割合に近くなることが自然であると想定し、判定結果に対し重み付けによる補正を行うものである。
【0174】
[処理フロー]
図25は、実施の形態4での処理フローを示す。本フローは、実施の形態1または実施の形態2のフローをベースとして、SE検出系統に係わるステップS411等が追加されている。ステップS401およびステップS402は、実施の形態1または実施の形態2のフローと同様であるため詳細を省略する。ステップS401では、対象の試料3について、4チャンネルのBSE検出器110を用いたBSE検出を開始する。
【0175】
ステップS402では、コントローラ100は、実施の形態1または実施の形態2で説明した手法を用いて、対象画素ごとに、BSE信号かダークパルスかの弁別のための判定を行う。この際、手法の使い分けの例としては、前述のように、試料3の表面が対象である場合には実施の形態1の手法を適用し、深溝構造などが対象である場合には実施の形態2の手法を適用する。これに限らず、変形例としては、使い分けずに、実施の形態1または実施の形態2のいずれかの手法のみを適用してもよい。
【0176】
他方、ステップS411~S414は、ステップS401~S402とは時間的に並列で行うことが可能である。ステップS411では、コントローラ100は、対象の試料3について、SE検出器115を用いたSE検出を開始する。ステップS412で、コントローラ100は、前述の形状推定部317のように、試料3の面における穴・溝などの構造について、位置および形状を推定する。ステップS413で、コントローラ100は、前述の図22図23のように、推定された構造に応じた、4チャンネルのBSE検出器110のBSE検出の割合を推定する。ステップS414で、コントローラ100は、推定された割合に基づいて、BSE信号とダークパルスとの重み付けを決定する。重み付けの情報は、例えば、チャンネルごとに、BSE信号やダークパルスの個数の増減を表す情報である。
【0177】
一方、ステップS403では、コントローラ100は、ステップS402の判定結果の信号について、前述の図24のように、BSE信号判定の比が、BSE検出の割合に近付くように、重み付けによる補正を行う。重み付けによる補正は、前述の例のように、ダークパルス個数の一部をBSE信号個数として移すような再判定である。
【0178】
ステップS404では、実施の形態1等と同様に、コントローラ100は、上記補正が反映された判定結果に対し、ダークパルスの除去を行う。その後、省略するが、前述と同様に、検出信号の画像化などが行われる。
【0179】
[実施の形態4の効果等]
上記のように、実施の形態4では、SE検出系統の検出信号を用いて、試料3の構造と複数のチャンネルのBSE検出器との関係に基づいたBSE信号の検出の割合を想定して、判定結果に重み付けによる補正を行う。これにより、実施の形態4によれば、BSE信号とダークパルスとの弁別の精度が向上でき、取得画像のS/Nが向上できる。
【0180】
[GUI例]
図26には、各実施の形態で適用可能である、図8のGUI500の画面表示例を示す。
図26の画面では、設定値欄2601と、出力値欄2602とを有する。設定値欄2601では、実施の形態で扱った各種の設定値が表示されている。ユーザは、本画面で設定値を確認でき、必要に応じて設定値を入力して変更できる。本例では、BSE/ダークパルス判定基準値として、ピーク時間差の閾値である前述の判定基準値α、BSE判定チャンネル数である前述の第1の数N1、判定対象期間に係わる前述の判定フレーム数FDが表示されている。判定基準値αは、チャンネルごとに設定可能となっている。
【0181】
出力値欄2602では、ダークパルス除去前のS/N値と除去後のS/N値が比較して表示されている。また、無信号時の画像やパターン画像の取得画像などが表示されている。取得画像は、ダークパルス除去前の検出画像と、ダークパルス除去後の検出画像とから選択して表示可能としてもよいし、両方を並列で表示してもよい。画面表示データは、これらに限らずに可能である。
【0182】
[付記]
実施の形態1~4は、SEMに適用した例を説明したが、これに限らず、例えば、CT装置(CT:Computed Tomography、コンピュータ断層撮影)などの、X線を用いる検査装置・システムにも、同様に適用可能である。
【0183】
各実施の形態の荷電粒子ビーム装置のコントローラ100であるプロセッサシステムは、SEMに備えるプロセッサシステムとして説明したが、これに限定されず、SEMなどの荷電粒子ビーム装置とは別体のプロセッサシステムとしてもよい。そのプロセッサシステムは、SEM等の装置から、前述のBSE検出信号等に相当するデータ・情報を、通信あるいは記憶媒体等を介して参照・取得し、同様の処理を実行すればよい。
【0184】
各実施の形態の荷電粒子ビーム装置に対応した半導体計測方法などの方法、言い換えると、反射電子検出処理方法あるいはダークパルス検出処理方法は、例えば以下のような方法として構成できる。実施の形態1に対応した方法は、試料からのBSEを検出する複数のBSE検出器と、コントローラとを備える荷電粒子ビーム装置において実行されるステップを有する方法であって、複数のBSE検出器のうちの第1BSE検出器の出力信号に含まれる第1ピークが、BSEに起因するかダークパルスに起因するかを判定するために、コントローラが、期間内において、第1ピークの第1ピーク時刻を取得するステップと、コントローラが、期間内において、複数のBSE検出器のうちの第1BSE検出器以外の第2BSE検出器の出力信号に含まれる第2ピークの第2ピーク時刻を取得するステップと、コントローラが、第1ピーク時刻と第2ピーク時刻との時間差が閾値以内である第2ピークが存在する場合には、第1ピークがBSEに起因すると判定し、第1ピーク時刻と第2ピーク時刻との時間差が閾値以内である第2ピークが存在しない場合には、第1ピークがダークパルスに起因すると判定するステップと、を有する。
【0185】
各実施の形態の装置および方法に対応したプログラムとして、荷電粒子ビーム装置のコントローラであるプロセッサシステムを実現するためのコンピュータプログラムは、例えば上記方法の各ステップに対応した処理をプロセッサに実行させるプログラムとして構成できる。実施の形態のプログラムに対応するデータは、非一過性のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に格納された形態で提供されてもよい。
【0186】
以上、本開示の実施の形態を具体的に説明したが、前述の実施の形態に限定されず、要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。各実施の形態は、必須構成要素を除き、構成要素の追加・削除・置換などが可能である。特に限定しない場合、各構成要素は、単数でも複数でもよい。各実施の形態を組み合わせた形態も可能である。
【符号の説明】
【0187】
1…荷電粒子ビーム装置、2…本体、3…試料、51…シンチレータ、52…半導体光検出器、100…コントローラ(プロセッサシステム)、102…一次電子、105…反射電子、110(110A,110B,110C,110D)…BSE検出器、115…SE検出器、300…処理部、304…ダークパルス処理部、400…制御部、500…GUI。
図1
図2
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図9
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