(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023158986
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】推測装置、推測システム、推測プログラム及び推測方法
(51)【国際特許分類】
D21C 9/08 20060101AFI20231024BHJP
D21H 21/02 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
D21C9/08
D21H21/02
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069109
(22)【出願日】2022-04-19
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】和田 敏
(72)【発明者】
【氏名】森田 亮平
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055CB00
4L055DA08
4L055DA13
4L055DA29
4L055EA19
4L055EA34
4L055FA22
(57)【要約】
【課題】操業中に簡易に測定できる水質情報からピッチの発生を推測することができる推測装置、推測システム、推測プログラム及び推測方法
を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様によれば、水系におけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を推測するための推測装置が提供される。この推測装置は、濁度情報取得部と、関係性モデル情報取得部と、推測部とを備える。濁度情報取得部は、水系の濁度を含む濁度情報を取得する。関係性モデル情報取得部は、事前に作成した、ピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度と、濁度との関係を示す関係性モデル情報を取得する。推測部は、濁度情報及び関係性モデル情報に基づいて、ピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を推測する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系におけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を推測するための推測装置であって、
濁度情報取得部と、関係性モデル情報取得部と、推測部とを備え、
前記濁度情報取得部は、前記水系の濁度を含む濁度情報を取得し、
前記関係性モデル情報取得部は、事前に作成した、前記ピッチの発生の程度又は前記ピッチによる障害の程度と、前記濁度との関係を示す関係性モデル情報を取得し、
前記推測部は、前記濁度情報及び前記関係性モデル情報に基づいて、前記ピッチの発生の程度又は前記ピッチによる障害の程度を推測する
推測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の推測装置において、
前記関係性モデルは、前記ピッチの発生の程度又は前記ピッチによる障害の程度と、前記濁度との回帰分析、時系列分析、決定木、ニューラルネットワーク、ベイズ、クラスタリング又はアンサンブル学習により求められるモデルである
推測装置。
【請求項3】
請求項1に記載の推測装置において、
前記濁度は、前記水系の攪拌時の濁度及び前記水系の静置時の濁度の算術平均濁度又は加重平均濁度である
推測装置。
【請求項4】
請求項1に記載の推測装置において、
前記水系は紙製品を製造する工程における水系である
推測装置。
【請求項5】
水系におけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を推測するための推測システムであって、
濁度情報取得部と、関係性モデル情報取得部と、推測部とを備え、
前記濁度情報取得部は、前記水系の濁度を含む濁度情報を取得し、
前記関係性モデル情報取得部は、事前に作成した、前記ピッチの発生の程度又は前記ピッチによる障害の程度と、前記濁度との関係を示す関係性モデル情報を取得し、
前記推測部は、前記濁度情報及び前記関係性モデル情報に基づいて、前記ピッチの発生の程度又は前記ピッチによる障害の程度を推測する
推測システム。
【請求項6】
水系におけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を推測するための推測プログラムであって、
コンピュータを、濁度情報取得部、関係性モデル情報取得部及び推測部として機能させ、
前記濁度情報取得部は、前記水系の濁度を含む濁度情報を取得し、
前記関係性モデル情報取得部は、事前に作成した、前記ピッチの発生の程度又は前記ピッチによる障害の程度と、前記濁度との関係を示す関係性モデル情報を取得し、
前記推測部は、前記濁度情報及び前記関係性モデル情報に基づいて、前記ピッチの発生の程度又は前記ピッチによる障害の程度を推測する
推測プログラム。
【請求項7】
水系におけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を推測するための推測方法であって、
濁度情報取得工程と、関係性モデル情報取得工程と、推測工程とを備え、
前記濁度情報取得工程では、前記水系の濁度を含む濁度情報を取得し、
前記関係性モデル情報取得工程は、事前に作成した、前記ピッチの発生の程度又は前記ピッチによる障害の程度と、前記濁度との関係を示す関係性モデル情報を取得し、
前記推測工程では、前記濁度情報及び前記関係性モデル情報に基づいて、前記ピッチの発生の程度又は前記ピッチによる障害の程度を推測する
推測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推測装置、推測システム、推測プログラム及び推測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙工程におけるパルプスラリーでは、木材、パルプ及び古紙、損紙などから遊離した天然樹脂やガム物質、更にはパルプ及び紙の製造工程で使用される添加薬品などに由来する、有機物を主成分とする粘着性異物が付着、凝集することで粗大化してピッチを形成する。このようにしてピッチが形成されると、紙製品に付着し欠点となり紙製品の品質を低下させたり、製造装置に付着して汚れとなり清掃を行う必要が生じ生産性を低下させたりすることがある。
【0003】
そこで、ピッチ発生による障害を把握するため、パルプスラリー中の粘着異物量を測定することが行われている。このような方法としては、溶媒抽出、染色法、ろ液濁度法、PCD測定等が挙げられる(特許文献1及び非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】陳嘉義,紙パ技協誌,57巻,9号,1283ページ(2003).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の粘着異物量の測定方法のうち、溶媒抽出や染色法では、測定に時間を要するためリアルタイムで測定結果に基づくピッチ発生の状況を把握することが難しい。また、溶媒抽出や染色法では、分析に自動化し難い操作を伴うため、連続的に粘着異物量を測定することが困難である。一方、ろ液濁度法やPCD法では、測定試料は、パルプスラリーをろ過したものであるため、実際のパルプスラリーと状態が異なり、測定の精度が低下することがある。また、ろ液濁度法やPCD法では、ろ液を作製する工程に自動化し難い操作を伴うため、継続的に人的資源を要する。
【0007】
本発明では上記事情に鑑み、操業中に簡易に測定できる水質情報からピッチの発生を推測することができる推測装置、推測システム、推測プログラム及び推測方法を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、水系におけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を推測するための推測装置が提供される。この推測装置は、濁度情報取得部と、関係性モデル情報取得部と、推測部とを備える。濁度情報取得部は、水系の濁度を含む濁度情報を取得する。関係性モデル情報取得部は、事前に作成した、ピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度と、濁度との関係を示す関係性モデル情報を取得する。推測部は、濁度情報及び関係性モデル情報に基づいて、ピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を推測する。
【0009】
本発明は、次に記載の各態様で提供されてもよい。
【0010】
(1)水系におけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を推測するための推測装置であって、濁度情報取得部と、関係性モデル情報取得部と、推測部とを備え、前記濁度情報取得部は、前記水系の濁度を含む濁度情報を取得し、前記関係性モデル情報取得部は、事前に作成した、前記ピッチの発生の程度又は前記ピッチによる障害の程度と、前記濁度との関係を示す関係性モデル情報を取得し、前記推測部は、前記濁度情報及び前記関係性モデル情報に基づいて、前記ピッチの発生の程度又は前記ピッチによる障害の程度を推測する推測装置。
【0011】
(2)上記(1)に記載の推測装置において、前記関係性モデルは、前記ピッチの発生の程度又は前記ピッチによる障害の程度と、前記濁度との回帰分析、時系列分析、決定木、ニューラルネットワーク、ベイズ、クラスタリング又はアンサンブル学習により求められるモデルである推測装置。
【0012】
(3)上記(1)又は(2)に記載の推測装置において、前記濁度は、前記水系の攪拌時の濁度及び前記水系の静置時の濁度の算術平均濁度又は加重平均濁度である推測装置。
【0013】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の推測装置において、前記水系は紙製品を製造する工程における水系である推測装置。
【0014】
(5)水系におけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を推測するための推測システムであって、濁度情報取得部と、関係性モデル情報取得部と、推測部とを備え、前記濁度情報取得部は、前記水系の濁度を含む濁度情報を取得し、前記関係性モデル情報取得部は、事前に作成した、前記ピッチの発生の程度又は前記ピッチによる障害の程度と、前記濁度との関係を示す関係性モデル情報を取得し、前記推測部は、前記濁度情報及び前記関係性モデル情報に基づいて、前記ピッチの発生の程度又は前記ピッチによる障害の程度を推測する推測システム。
【0015】
(6)水系におけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を推測するための推測プログラムであって、コンピュータを、濁度情報取得部、関係性モデル情報取得部及び推測部として機能させ、前記濁度情報取得部は、前記水系の濁度を含む濁度情報を取得し、前記関係性モデル情報取得部は、事前に作成した、前記ピッチの発生の程度又は前記ピッチによる障害の程度と、前記濁度との関係を示す関係性モデル情報を取得し、前記推測部は、前記濁度情報及び前記関係性モデル情報に基づいて、前記ピッチの発生の程度又は前記ピッチによる障害の程度を推測する推測プログラム。
【0016】
(7)水系におけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を推測するための推測方法であって、濁度情報取得工程と、関係性モデル情報取得工程と、推測工程とを備え、前記濁度情報取得工程では、前記水系の濁度を含む濁度情報を取得し、前記関係性モデル情報取得工程は、事前に作成した、前記ピッチの発生の程度又は前記ピッチによる障害の程度と、前記濁度との関係を示す関係性モデル情報を取得し、前記推測工程では、前記濁度情報及び前記関係性モデル情報に基づいて、前記ピッチの発生の程度又は前記ピッチによる障害の程度を推測する推測方法。
もちろん、この限りではない。
【0017】
本発明によれば、操業中に簡易に測定できる水質情報からピッチの発生を推測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係る推測システムの概略図である。
【
図2】本実施形態に係る推測装置の機能構成を示す概略模式図である。
【
図3】本実施形態に係る推測装置のハードウェア構成を示す概略図である。
【
図4】本実施形態に係る推測システムを製紙装置に適用した例を示す模式図である。
【
図5】
図4に示す製紙工程に組み込まれた薬注系の模式図である。
【
図6】本実施形態に係る推測方法のフローチャート図である。
【
図7】ピッチコントロール剤を添加しなかった場合のきょう雑物面積対濁度のプロットである。
【
図8】ピッチコントロール剤を添加しなかった場合のきょう雑物面積対濁度のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図を用いて本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態に示した各構成要素は、互いに組み合わせ可能である。
【0020】
本実施形態のソフトウェアを実現するためのプログラムは、コンピュータが読み取り可能な非一時的な記録媒体(Non-Transitory Computer-Readable Medium)として提供されてもよいし、外部のサーバからダウンロード可能に提供されてもよいし、外部のコンピュータで当該プログラムを起動させてクライアント端末でその機能を実現(いわゆるクラウドコンピューティング)するように提供されてもよい。
【0021】
また、本実施形態において「部」とは、例えば、広義の回路によって実施されるハードウェア資源と、これらのハードウェア資源によって具体的に実現されうるソフトウェアの情報処理とを合わせたものも含みうる。また、本実施形態においては様々な情報を取り扱うが、これら情報は、例えば電圧・電流を表す信号値の物理的な値、0又は1で構成される2進数のビット集合体としての信号値の高低、又は量子的な重ね合わせ(いわゆる量子ビット)によって表され、広義の回路上で通信・演算が実行されうる。
【0022】
また、広義の回路とは、回路(Circuit)、回路類(Circuitry)、プロセッサ(Processor)、及びメモリ(Memory)等を少なくとも適当に組み合わせることによって実現される回路である。すなわち、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等を含むものである。
【0023】
<推測システム>
本実施形態に係る推測システムは、水系におけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を推測するための推測装置である。具体的に、この推測システムは、濁度情報取得部と、関係性モデル情報取得部と、推測部とを備える。これらのうち、濁度情報取得部は、水系の濁度を含む濁度情報を取得する。また、関係性モデル情報取得部は、事前に作成した、ピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度と、濁度との関係を示す関係性モデル情報を取得する。さらに、推測部は、濁度情報及び関係性モデル情報に基づいて、ピッチの発生の程度又は前記ピッチによる障害の程度を推測するものである。
【0024】
また、必須の構成要素ではないが、本実施形態に係る推測システムは、関係性モデル作成部、水質情報測定部、ピッチコントロール剤添加モデル作成部、ピッチコントロール防止剤添加モデル情報取得部、添加量決定部、出力部、ピッチコントロール剤添加部のうち、1又は2以上を備えてもよい。なお、以下で説明する
図1には、これら全てを備える予測システムについて主として説明する。
【0025】
〔推測システムの機能的構成〕
図1は、本実施形態に係る推測システムの概略図である。この推測システム1は、推測装置2と、出力装置3、濁度情報測定装置4と、ピッチコントロール剤添加装置5とを備える。
【0026】
このうち、推測装置2は、推測システム1における推測のための情報処理を制御するものである。
図2は、本実施形態に係る推測装置の機能構成を示す概略模式図である。この
図2に示すように、本実施形態に係る推測装置2は、水系におけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を推測するための推測装置であり、濁度情報取得部21と、関係性モデル情報取得部22と、推測部23とを備える。また、本実施形態に係る推測装置2は、関係性モデル作成部24と、ピッチコントロール剤添加モデル作成部25と、ピッチコントロール剤添加モデル情報取得部26と、添加量決定部27とをさらに備える。なお、これらの各部は、ここでは一つの装置の内部に含まれているものとして記載しているが、各部それぞれが別な装置に含まれていてもよいし、各部は複数の装置に含まれていてもよい。また、出力装置3は、出力部の一例であり、濁度情報測定装置4は、濁度情報測定部の一例であり、ピッチコントロール剤添加装置5は、ピッチコントロール剤添加部の一例であるが、以下では特に区別せずに説明する。
【0027】
〔推測システムの機能〕
以下、推測システム1の各部の機能について具体的に説明する。
【0028】
[濁度情報取得部]
濁度情報取得部21は、水系Wの濁度を含む濁度情報を取得するものである。
【0029】
なお、ここでの水系は、一つの槽や流路に存在するものや連続的な流れが存在するものには限られず、複数の槽や流路を持つもの、具体的には、流路に枝分かれや複数の流路の水の合流が存在したり、槽から槽へバッチ単位で移動したり、途中での何らかの処理を施したりするものも一つの水系として考える。
【0030】
水系の濁度としては、攪拌時の濁度及び静置時の濁度のいずれかを用いればよいが、それらの両方を用いることが好ましい。このように攪拌時の濁度及び静置時の濁度の両方を用いる場合、両者の算術平均濁度又は加重平均濁度を用いることが好ましい。また、加重平均濁度を用いる場合、攪拌時の濁度及び静置時の濁度の比率としては、特に限定されず、例えば攪拌時の濁度:静置時の濁度=10:90~90:10、20:80~80:20、30:70~70:30、40:60~60:40であることが好ましい。
【0031】
攪拌時の濁度及び静置時の濁度の両方を用いることが好ましい理由について説明する。攪拌時の濁度は、不溶性懸濁物質に相関している。一方で、静置時の濁度は、灰分濃度に相関している。ピッチ成分は、不溶性懸濁物質中にも灰分濃度にも存在するため、両方の濁度を測定することで精度がよい高い推測が可能になると考えられる。
【0032】
[関係性モデル情報取得部]
関係性モデル情報取得部22は、事前に作成した、ピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度と、濁度との関係を示す関係性モデル情報を取得するものである。
【0033】
関係性モデルは、事前に作成されたものであって、ピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度と、濁度との関係を示すものである。なお、「事前」とは、ピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を推定する以前をいい、かかる水系Wについて実操業の前であっても、実操業中であっても、ピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を推定する以前であればいずれでもよい。
【0034】
関係性モデルとしては、特に限定されないが、例えばピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度と、濁度との関係を示す関数、ルックアップテーブル、又はピッチの発生の程度若しくはピッチによる障害の程度と、濁度との関係の学習済モデル等が挙げられる。
【0035】
[推測部]
推測部23は、濁度情報及び関係性モデル情報に基づいて、ピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を推測するものである。
【0036】
具体的に推測部23では、事前に作成し取得した関係性モデルに、かかる水系W濁度情報を入力し、関係性モデルに対し代入又は照らし合わせ等をして、ピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を推測又は算出する。
【0037】
なお、「ピッチの発生の程度」には、例えばピッチの発生量やきょう雑物面積等が含まれる。
【0038】
また、「ピッチによる障害の程度」には、例えば水系が紙を製造する水系である場合、その水系により製造した紙のピッチ欠点数、ピッチ欠点の面積、ピッチによる断紙回数、ピッチによる損紙量、製紙装置の各部へのピッチ付着量等が含まれる。
【0039】
[関係性モデル作成部]
関係性モデル作成部24は、関係性モデルを作成するものである。この関係性モデルは、関係性モデル情報取得部22で取得し、かつ推測部23でピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度の推測に用いるものである。
【0040】
関係性モデルは、例えば次のようにして作成する。ピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を推測するよりも前に、ピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を測定する。また、同じ水系で、ピッチの発生の有無を確認するか、又は発生の程度を測定する。これらの及びパラメータのデータセットを複数、例えば測定を行う日や時間を変える等して水系の濁度及び事前結果に変動が生じるように用意する。次いで、事前結果を水系の濁度の関数と仮定し、事前結果と対比して、関数の形態や係数を確定し、関係性モデルを構築する。このとき、水系の濁度の関数と事前結果との対比によって関数の係数を確定するに際しては、回帰分析法(線形モデル、一般化線形モデル、一般化線形混合モデル、リッジ回帰、ラッソ回帰、エラスティックネット、サポートベクター回帰、射影追跡回帰等)、時系列分析(VARモデル、SVARモデル、ARIMAXモデル、SARIMAXモデル、状態空間モデル等)、決定木(決定木、回帰木、ランダムフォレスト、XGBoost等)、ニューラルネットワーク(単純パーセプトロン、多層パーセプトロン、DNN、CNN、RNN、LSTM等)、ベイズ(ナイーブベイズ等)、クラスタリング(k-means、k-means++等)、アンサンブル学習(Boosting、Adaboost等)等を用いることができる。
【0041】
一実施形態において、関係性モデルは、事前結果と、水系の濁度との回帰分析により求められるモデルであることが好ましい。なお、回帰分析を行う場合のサンプルセット数は特に限定されるものではない。
【0042】
関係性モデルの作成は、推測対象である水系と同一の水系で行うことが好ましい。また、例えば同一の装置内でも、水系の水質が大きく変化するような場合(例えば、製紙工場の抄紙系において、製紙原料であるパルプを変更した場合等)には、水質が変化した後の水系についての関係性モデルを作成して用いることが好ましい。
【0043】
また、このような観点から、水系Wの操業中に、定期又は不定期に、ピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度及び水系の濁度を測定し、都度関係性モデルを作成したり、データを追加して関係性モデルを更新したりしてもよい。
【0044】
なお、関係性モデル作成部24は必須の構成要素ではないため、関係性モデル作成部24を設けずに関係性モデルの作成を例えばオペレータ等が人的に(手動で)行ってもよい。
【0045】
[ピッチコントロール剤添加モデル作成部]
ピッチコントロール剤添加モデル作成部25は、後述する予測モデル情報取得部26で取得し、かつピッチコントロール剤添加部5で、水系におけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度に応じたピッチコントロール剤を適正量添加するために用いるピッチコントロール剤添加モデルを作成するものである。
【0046】
ここで、ピッチコントロール剤添加モデルとは、水系におけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度とピッチコントロール剤の添加量(例えば最小添加量)との関係を示すモデルをいう。
【0047】
ピッチコントロール剤添加モデルとしては、特に限定されないが、例えば水系におけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度の程度とピッチコントロール剤の添加量との関係を示す関数、ルックアップテーブル、又は水系におけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度とピッチコントロール剤の添加量との関係の学習済モデル等が挙げられる。
【0048】
添加するピッチコントロール剤としては、対象となるピッチの形成を防止できるものであれば特に限定されず、例えば界面活性剤、ポリマー、無機材料、有機化合物、油分、澱粉、蛋白質、酵素、シクロデキストリン、水溶性セルロース、乳化剤、酸化剤及びキレート剤等が挙げられる。
【0049】
界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0050】
ポリマーとしては、水溶性ポリマー、カチオン性ポリマー、アニオン性ポリマー、両性ポリマー、非イオン性ポリマー等が挙げられる。ポリマーとしては、例えば四級アンモニウム系ポリマー、エステル系ポリマー、エーテル系ポリマー、アルコール系ポリマー、グリコール系ポリマー、エーテルエステル系ポリマー、メタアクリル系ポリマー、アミド系ポリマー、アミン系ポリマー、環内窒素化合物、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリエーテルエステルアミド、ポリエチレンイミン、ポリアミン/エピハロヒドリン、ヒドロキシアルキルセルロース、変性シリコーン、フェノール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂及びポロキサマーが挙げられる。アミドとしては、アクリルアミド等が挙げられる。アミンとしては、アルキルアミン、アルキレンジアミン及びジアリルアミン等が挙げられる。
【0051】
無機材料としては、アルカリ金属塩、アルミニウム化合物、鉄化合物、カルシウム化合物、タルク、ベントナイト、ゼオライト、珪藻土、マイカ、ホワイトカーボン及び無機酸等が挙げられる。
【0052】
有機化合物としては、有機酸及びアルコール等が挙げられる。有機酸としては、ホスホン酸、グルコン酸、リンゴ酸、クエン酸、酢酸、スルホン酸、マレイン酸、酒石酸、乳酸及びグリコール酸等が挙げられる。アルコールとしては、テルペンアルコール等が挙げられる。環内窒素化合物としては、ピロリドン等が挙げられる。
【0053】
油分としては、ワックス、鉱物油、植物油及び動物油等が挙げられる。
【0054】
ピッチコントロール剤は、製品名「スパンプラス」(栗田工業株式会社)を商業的に入手可能である。これらのピッチコントロール剤は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0055】
なお、ピッチコントロール剤添加モデル作成部25は必須の構成要素ではないため、ピッチコントロール剤添加モデル作成部25を設けずにピッチコントロール剤添加モデルの作成をオペレータ等が人的に(手動で)行ってもよい。
【0056】
[ピッチコントロール剤添加モデル情報取得部]
ピッチコントロール剤添加モデル情報取得部26は、ピッチコントロール剤添加モデルを取得するものである。ピッチコントロール剤添加モデルとしては、例えばピッチコントロール剤添加モデル作成部25で作成したものであってよい。
【0057】
[添加量決定部]
添加量決定部27は、水系Wにおけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度、及びピッチコントロール剤添加モデルに基づいて、ピッチコントロール剤の添加量を決定するものである。水系Wにおけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度としては、推測部23で算出したものであってよく、スピッチコントロール剤添加モデルとしては、ピッチコントロール剤添加モデル作成部25で作成したものであってよい。
【0058】
水系Wにおけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度と、ピッチコントロール剤添加モデルとにより、水系Wにおけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度が所与の場合におけるピッチコントロール剤の最小添加量が求められる。添加量決定部27においては、最小添加量をそのまま添加量としてもよいし、最小添加量に安全係数等を加えたものとを添加量としてもよい。
【0059】
[出力部]
出力部3は、少なくとも推測部23が算出した水系Wにおけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度かを出力するように構成されるものである。
【0060】
出力部3は、例えば水系Wにおけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を経時的に表示(水系Wにおけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度対時間グラフ等)してもよい。
【0061】
また、出力部3は、例えば水系におけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度が一定の閾値を超えた場合等に警告を出力してもよい。
【0062】
[濁度情報測定部]
濁度情報測定部4は、濁度を含む濁度情報を測定するものである。
【0063】
なお、
図1における濁度情報測定装置4として、便宜上、1つのみを記載しているが、この例に限られず、2以上の濁度情報測定装置を用いてもよい。
【0064】
具体的に、濁度情報測定装置としては、測濁度計を用いることができ、特に光学式濁度計(例えば、吸光度センサ、反射光センサ、透過光センサ)を用いることが好ましい。
【0065】
なお、このようにして測定した濁度は濁度情報測定装置から直接受信してもよいし、装置のオペレータ等が入力してもよい。
【0066】
本実施形態に係る推測システム等の対象とする水系としては、ピッチが発生する水系であれば特に限定されず、例えば紙製品を製造する工程における水系であってよい。具体的に、紙製品を製造する工程であれば、蒸解工程、洗浄工程、黒液濃縮工程、苛性化工程、抄紙工程等が挙げられる。また、対象とする水系としては、紙製品を製造する工程以外の水系以外でもよく、例えば各種の配管、熱交換器、貯蔵タンク、窯、洗浄装置等が挙げられる。
【0067】
〔推測システムのハードウェア構成〕
図3は、本実施形態に係る推測装置のハードウェア構成を示す概略図である。
図3に示されるように、推測装置2は、通信部61と、記憶部62と、制御部63とを有し、これらの構成要素が推測装置2の内部において通信バス64を介して電気的に接続されている。以下、これらの構成要素についてさらに説明する。
【0068】
通信部61は、USB、IEEE1394、Thunderbolt(登録商標)、有線LANネットワーク通信等といった有線型の通信手段が好ましいが、無線LANネットワーク通信、3G/LTE/5G等のモバイル通信、Bluetooth(登録商標)通信等を必要に応じて含めることができる。すなわち、これら複数の通信手段の集合として実施することがより好ましい。これにより推測装置2と通信可能な他の機器との間で情報や命令のやりとりが実行される。
【0069】
記憶部62は、上述記載により定義される様々な情報を記憶する。これは、例えばソリッドステートドライブ(Solid State Drive:SSD)等のストレージデバイスとして、または、プログラムの演算に係る一時的に必要な情報(引数、配列等)を記憶するランダムアクセスメモリ(Random Access Memory:RAM)等のメモリとして実施され得る。また、記憶部62は、これらの組合せであってもよい。また、記憶部62は、後述する制御部63が読み出し可能な各種のプログラムを記憶している。
【0070】
制御部63は、推測装置2に関連する全体動作の処理・制御を行う。この制御部63は、例えば中央処理装置(Central Processing Unit:CPU、図示せず。)である。制御部63は、記憶部62に記憶された所定のプログラムを読み出すことによって、推測装置2に係る種々の機能を実現するものである。すなわち、ソフトウェア(記憶部62に記憶されている。)による情報処理がハードウェア(制御部63)によって具体的に実現されることで、
図3に示されるように、制御部63における各機能部として実行され得る。なお、
図3においては、単一の制御部63として表記されているが、実際にはこれに限るものではなく、機能ごとに複数の制御部63を有するように構成してもよく、また、単一の制御部と複数の制御部を組合せてもよい。
【0071】
〔推測システムの適用例〕
以下、本実施形態に係る推測システムを、製紙装置に適用した具体例について説明する。
【0072】
図4は、本実施形態に係る推測システムを製紙装置に適用した例を示す模式図である。製紙装置100は、原料系130、調成・抄紙系140、回収系150、薬注系110を備える。
【0073】
原料系130は、製紙原料を貯留するタンク131、132、133及び134と、ミキシングチェスト137と、マシンチェスト138と、種箱139と、を含んで構成される。一方、調成・抄紙系140は、原料系130から供給されたパルプスラリーを送出するファンポンプ141と、スクリーン142と、クリーナ143と、インレット144と、ワイヤパート145と、プレスパート146とを含んで構成される。また、調成・抄紙系140には後述する白水を貯留する白水サイロ148が設けられている。また、回収系150は、シールピット151と、回収装置152と、回収水タンク153と、離解水ポンプ154と、濃調水ポンプ155とを含んで構成される。
【0074】
また、薬注系110は、白水の濁度を測定する濁度測定ユニット120と、パルプスラリーへの内添薬品の添加量を制御する推測装置2と、タンク111と、薬注ポンプ112とを含んで構成される。
【0075】
原料系130は、化学パルプタンク131、再生パルプタンク132、ブロークタンク133及び回収原料タンク134を有し、化学パルプタンク131には針葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)等の化学パルプ、再生パルプタンク132には脱墨系から移送された脱墨パルプ(DIP)や段ボール古紙等の古紙を古紙パルパ135によりスラリーとした再生パルプ、ブロークタンク133にはブロークパルパ136によりスラリーとしたパルプ、回収原料タンク134は白水を回収装置152で固液分離したパルプがそれぞれ紙原料として収容されている。
【0076】
化学パルプタンク131の上流には、紙原料を製造し供給する装置が設けられていてもよい。すなわち、化学パルプタンク131の上流には、木材チップを蒸解する蒸解釜、パルプを漂白する装置、異物を除去するスクリーン等が設けられてよい。なお、ブロークタンク133には、プレスパート146以降で生じたブロークパルプが供給される。
【0077】
古紙パルパ135及びブロークパルパ136には、古紙及びブロークを離解するための離解水が離解水ポンプ154から供給される。パルパ155,156で離解された後の再生パルプ及びブロークパルプ、化学パルプ及び回収原料は、濃調水ポンプ155からの、濃度を調整する濃調水と合流し、各タンクに貯留される。離解水及び濃調水としては、本実施形態では、濾過白水の回収水を用いているが、無処理の濾過白水、清水、原料系130のスラリーを脱水した濾液や絞水、他工程の余剰水を用いてもよい。
【0078】
化学パルプタンク131、再生パルプタンク132、ブロークタンク133及び回収原料タンク134に収容されたパルプは、製造しようとする銘柄に応じて適切な比率でミキシングチェスト137へと供給され、このミキシングチェスト137で混合される。混合されたパルプはマシンチェスト138で抄紙薬品が添加された後、種箱139へと移送される。
【0079】
種箱139に収容されたパルプは、後述の白水サイロ148からの濾過白水とともに、調成・抄紙系140のファンポンプ141によってスクリーン142、クリーナ143へと順次供給され、ここで異物を除去された後、インレット144へと供給される。インレット144は、ワイヤパート145のワイヤに、パルプを適正な濃度、速度、角度で供給する。供給されたパルプは、ワイヤパート145、プレスパート146で水を脱水され、図示しないリール・ワインダーを経て、紙へと製造される。
【0080】
ワイヤパート145及びプレスパート146でパルプから脱水された水は、白水としてワイヤパート145及びプレスパート146の下部に配置された白水ピット147に受容される。白水ピット147に受容された白水は、導管149を介して白水サイロ148に導入され、そこで貯留される。白水サイロ148に貯留された白水は、その一部がファンポンプ141へと供給され、残りがシールピット151へと供給される。ファンポンプ141に供給された白水は、調成・抄紙系140においてパルプスラリーを希釈する。シールピット151に供給された白水は、回収装置152へと移送され、回収装置152で濾過されて固液分離され、濾液が回収水タンク153へと回収される。
【0081】
ここで、インレット144よりワイヤパート145に供給されるパルプスラリーは、懸濁性物質として、不溶性懸濁物(SS)、すなわち長さ20μm以上のパルプ繊維の他、填料として加えられている炭酸カルシウムやタルク等の微細な灰分(長さ20μm未満の懸濁性物質)を含む。これらの不溶性懸濁物(SS)及び灰分は、それぞれワイヤパート145によって捕捉されて、それぞれ残りがワイヤ下へ濾過され白水中に分散する。従って、白水は、懸濁性物質として、不溶性懸濁物(SS)、すなわち長さ20μm以上のパルプ繊維の他、填料として加えられている炭酸カルシウムやタルク等の微細な灰分(長さ20μm未満の懸濁性物質)を含む。
【0082】
以下、薬注系110について説明する。
【0083】
ファンポンプ141の下流には、ピッチコントロール剤を収容したタンク111がポンプ112を介して接続されている(タンク111及びポンプ112が、ピッチコントロール剤添加装置5に相当する)。ポンプ112は、推測装置2の出力側に電気的に接続されており、推測装置2の入力側には濁度測定ユニット120が電気的に接続されている。
【0084】
濁度測定ユニット120(濁度情報測定装置4に相当する)は、白水ピット147に接続された導管149から白水を採取して白水の濁度を測定し、その測定結果を推測装置2に伝達する。推測装置2は、伝達された測定結果に応じてポンプ112を作動させることによって、パルプスラリーへの、タンク111内のピッチコントロール剤の注入量を制御する。
【0085】
尚、ここではピッチコントロール剤をパルプスラリーに添加する際、ファンポンプ141の下流の調成・抄紙系140に注入するものとして示してあるが、これらの内添薬品を原料系130(例えばマシンチェスト138)に注入することも、原料系130から調成・抄紙系140の何れかの箇所に注入することも、これらの複数個所に注入することも可能である。
【0086】
図5は、
図4に示す製紙工程に組み込まれた薬注系の模式図である。
【0087】
濁度測定ユニット120は、白水を導管149から所定の手順で採取して測定容器121に貯留し、その濁度を測定するように構成されている。具体的には、濁度測定ユニット120は、導管149を流れる白水を汲み上げて測定容器121に供給するためのサンプリングポンプ123を備えた供給系127と、測定容器121の容量以上の白水を測定容器121から流出させ導管149に戻す循環系128とを備える。これらの供給系127及び循環系128には、推測装置2によりそれぞれ選択的に開閉制御される供給バルブ124及び循環バルブ125が設けられており、濁度測定ユニット120は、これらの供給バルブ124及び循環バルブ125の開閉制御とサンプリングポンプ123の運転制御とを行うことで、導管149を流れる白水を測定容器121に採取できる。
【0088】
サンプリングポンプ123が容積式のものである場合には供給バルブ124は不要であり、また測定容器121を開放系のものとして採取液をオーバーフローさせる構造のものとすれば、循環バルブ125も不要となる。また、ここでは白水を導管149から採取するとしているが、白水を白水ピット147から直接採取する構成としてもよい。
【0089】
濁度測定ユニット120としては、本実施形態に示すように1つのみを用いることがシステム構成の簡素化の点で好ましいが、複数を用いてもよい。複数の濁度測定ユニットを採用する場合、攪拌時の濁度と、静止時の濁度とが別々の容器で測定されるため、静止までの時間を待たずに、両濁度を並行して測定することができる。
【0090】
測定容器121は、例えば0.3~1.5m程度の深さを有して白水を2~100L、好ましくは3~5L程度貯留する容積を有するもので、その底部に排水系をなす排水バルブ126を備えている。また測定容器121の内壁面の上部であって、例えば水面から50~200mm下がった位置には測定容器121に貯留された白水の上部における濁度を測定する濁度計122が設けられている。なお、測定容器121の内壁面の満水位置に、白水の水面が満水位置に達したことを検知するための水面センサ(図示せず)が設けられていてもよい。
【0091】
濁度計122の近傍には、濁度計122の周囲やその表面を洗浄する水ジェットノズルやワイパー(図示せず)等を備えた洗浄機構129が設けられている。この洗浄機構129は、測定容器121に採取した白水の濁度を濁度センサ122によって測定し、その後、排水バルブ126を開けて白水を排水した後に選択的に作動して、濁度センサ122のセンサ面やその周囲を洗浄し、測定容器121の内部を清浄に保つ役割を担う。
【0092】
ここで、供給系127の供給速度(及び循環系128の排出速度)[L/sec]及び測定容器121の容量[L]は、測定容器121内の白水が供給系127から流入する白水の水流によって十分に攪拌されるように設定されている。
【0093】
推測装置2は、上述したとおり測定容器121に採取され濁度計122によって測定される白水の濁度に基づきパルプスラリーに対するピッチコントロール剤の注入量を決定している。
【0094】
このようなピッチコントロール剤の注入量制御のための処理は、測定容器121、供給バルブ124及び循環バルブ125、及び排水バルブ126が「測定容器121:空、排水バルブ126:開、供給バルブ124及び循環バルブ125:閉」であるときを初期状態として、まず、排水バルブ126を閉じ、供給バルブ124及び循環バルブ125を開き、サンプリングポンプ123を作動させ、白水を供給系127を介して導管149から汲み上げ、測定容器121に供給することから開始される。同時に測定容器121への白水の供給開始に伴い、図示しないタイマーを起動してその供給時間を計測する。
【0095】
白水を供給することによって測定容器121内における白水の貯留量は増加し、測定容器121内に貯留された白水が満水に達すると測定容器121の容量以上の白水は循環系128を介して導管149に流出する。この状態になると、測定容器121に供給される白水の供給量と測定容器121から流出する白水の流出量とが等しくなり、測定容器121内における白水の水面位置は満水位置に保たれる。このとき、測定容器121内に貯留された白水は、白水が連続的に測定容器121に供給されることによって攪拌状態にある。
【0096】
そして供給時間が、予め設定した所定時間t1に達したとき、つまり白水が時間t1にわたって供給され、測定容器121内の白水が満水になったとき、濁度計122を用いて白水の濁度を測定する。
【0097】
上述したとおり、このとき測定容器121内に貯留された白水は白水の連続的な供給によって攪拌状態にあるので、測定される濁度は、白水の攪拌時の濁度であり、不溶性懸濁物(SS)相当濁度として白水の不溶性懸濁物(SS)濃度との相関関係を有する。
【0098】
ここで、所定時間t1は、測定容器121の容積と白水の供給速度に基づき、測定容器121内における白水の水面位置が所定の満水高さに達するまでに要する時間に予め設定されている。また、ここでは白水の供給開始と共にタイマーを起動し所定の時間t1が経過することによって白水の水面位置が満水高さに達したことを検知しているが、タイマーに代えて、又はタイマーと併用して、測定容器121の満水位置に設けられた水面センサ(図示せず)によって白水の水面位置が満水高さに達したことを検知してもよい。
【0099】
白水の攪拌時の濁度の測定が終了すると、次に、サンプリングポンプ123を停止させ、排水バルブ126を閉じた状態で供給バルブ124及び循環バルブ125を閉じ、これによって、白水の測定容器121への供給と測定容器121からの流出を停止させる。そして白水の供給と流出の停止によって、測定容器121に貯留された白水を静置させる。
【0100】
測定容器121に貯留された白水の静置開始と同時に、上述したとおり、測定容器121に貯留された白水の上部における濁度を測定する位置に配置されている濁度計122を用いて白水の濁度の連続的な測定を開始する。この白水の濁度の連続的な測定は、濁度計122の計測値を所定のサンプリング周波数(例えば、サンプリング周波数=0.1~5Hz)でサンプリングすることによって行うものであってよい。
【0101】
そして測定を開始した後、十分な時間が経過して白水の濁度の連続的な測定値が安定した場合(例えば連続的な測定値の変化率が所定値以下になった場合)に終点とし、安定した測定値を、白水の静止時の濁度とする。白水の静止の時濁度は、灰分相当濁度として白水の灰分濃度との相関関係を有する。なお、静止時を画定する変化率の所定値は、低い方が灰分濃度とより高く相関した濁度が得られやすいが、過剰に低くても、相関性の上昇は飽和する一方で、静止時濁度を測定するまでの待機時間が長期化する。このため、具体的な所定値は、求められる制御の正確性と効率とのバランスに基づき適宜設定されてよいが、例えば1NTU/分以下の低下率になった時点を終点としてよい。
【0102】
その後排水バルブ126を開けて測定容器121に貯留させた白水の全てを排水し、さらに洗浄機構239を作動させて濁度計122のセンサ面やその周囲を洗浄し、測定容器121の内部を清浄化することによって、上述した初期状態に戻すことができる。
【0103】
その後、以上説明した工程をバッチ連続的に繰り返すことによって、白水の攪拌時の濁度及び静止時の濁度を連続的に測定することができる。すなわち、薬注系110は、ワイヤパート145、プレスパート146で生成する白水の攪拌時の濁度及び静止時の濁度を連続的に、またリアルタイムに測定することができる。
【0104】
このようにして求めた攪拌時の濁度及び/又は静止時の濁度に基づき、推測装置2がピッチコントロール剤の添加量を算出し、ポンプ112を制御することでパルプスラリーに注入する内添薬品Aの注入量を調整する。
【0105】
以上のような推測システム1、推測装置2によれば、水系Wにおけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を簡便な方法で定量的に推測することができる。
【0106】
<推測プログラム>
本実施形態に係る推測プログラムは、水系におけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を推測するための推測プログラムである。具体的に、この推測プログラムは、コンピュータを、濁度情報取得部、関係性モデル情報取得部及び推測部として機能させるものである。このうち、濁度情報取得部は、水系の濁度を含む濁度情報を取得するものである。また、関係性モデル情報取得部は、事前に作成した、ピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度と、濁度との関係を示す関係性モデル情報を取得するものである。さらに、推測部は、濁度情報及び関係性モデル情報に基づいて、ピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を推測するものである。
【0107】
なお、濁度情報取得部、関係性モデル情報取得部及び推測部については、上述した推測システムと同様のものを用いることができるため、ここでの説明は省略する。また、本実施形態に係る推測システムは、関係性モデル作成部と、ピッチコントロール剤添加モデル作成部と、ピッチコントロール剤添加モデル情報取得部と、添加量決定部とをさらに備えることができる。これらについても上述した推測システムと同様のものを用いることができるため、ここでの説明は省略する。
【0108】
<推測方法>
本実施形態に係る推測方法は、水系におけるピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を推測するための推測方法である。具体的に、この推測方法は、濁度情報取得工程と、関係性モデル情報取得工程と、推測工程とを備えるものである。このうち、濁度情報取得工程では、水系の濁度を含む濁度情報を取得する。また、関係性モデル情報取得工程では、事前に作成した、ピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度と、濁度との関係を示す関係性モデル情報を取得する。さらに推測工程では、濁度情報及び関係性モデル情報に基づいて、ピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を推測する。
【0109】
図6は、本実施形態に係る推測方法のフローチャート図である。
図6に示すとおり、本実施形態に係る支援方法においては、濁度情報を取得する(濁度情報取得工程S1)とともに、関係性モデル情報を取得し(関係性モデル情報取得工程S2)、これらを入力情報として、ピッチの発生の程度又はピッチによる障害の程度を推測する(推測工程S3)。
【実施例0110】
以下、本発明について実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0111】
市中で回収した段ボールをFRANK-PTI社製離解機で固形分濃度約2%になるように離解し、約6L作成し、試料とした。段ボールの種類を変えて6種類のサンプルを作成した。
【0112】
次いで、サンプルそれぞれを2つに分取し、そのうち1つはEYELA製攪拌機で攪拌しつつ、ピッチコントロール剤「スパンプラス520」(栗田工業株式会社製)を500g/t対固形分添加し1分間攪拌を継続した。その1つは何も処理を施さなかった。
【0113】
6種類のサンプルにそれぞれついて、ピッチコントロール剤を添加したサンプルと添加しなかったサンプル(合計12種類)を、熊谷理機製シートマシン抄紙装置を用いて、乾燥後の単位面積あたりの質量が100g/m2になるように湿紙を作成し、熊谷理機製回転型乾燥機で乾燥させ、紙面のきょう雑物の面積を、朝陽会製きょう雑物測定図表を用いて求めた。湿紙を10枚作成しその面積の合計値を求めた。
【0114】
きょう雑物面積は、JIS P 8208(1993)の「パルプ中の異物測定方法」に準拠して測定した。
【0115】
また、同様の12種類のサンプルを固形分濃度0.5%に調整し、
図5に示される濁度測定ユニット120を用いて、撹拌濁度と静置濁度を測定した。
【0116】
【0117】
ピッチコントロール剤を添加した場合と添加しなかった場合、それぞれについてきょう雑物面積対濁度のプロットを作成し、回帰式を求めた。
図7は、ピッチコントロール剤を添加しなかった場合のきょう雑物面積対濁度のプロットである。また、
図8は、ピッチコントロール剤を添加しなかった場合のきょう雑物面積対濁度のプロットである。
【0118】
図7より、攪拌濁度のみを用いた場合、静置濁度のみを用いた場合、攪拌濁度と静置濁度の平均値を用いた場合、いずれの場合においても高い相関係数が得られた。特に、攪拌濁度と静置濁度の平均値を用いた場合、攪拌濁度のみを用いた場合及び静置濁度のみを用いた場合に比べてより高い相関係数が得られた。
【0119】
また、
図8のようにピッチコントロール剤を添加した場合にも、
図7と同様に高い相関係数が得られており、相関係数に影響がないことが分かった。また、ピッチコントロール剤を添加した場合には、きょう雑物面積を低減させることができることも分かった。