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特開2023-159014自己修復性高分子を製造するための組成物、自己修復性高分子及び自己修復性材料
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159014
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】自己修復性高分子を製造するための組成物、自己修復性高分子及び自己修復性材料
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/42 20060101AFI20231024BHJP
   C08G 59/20 20060101ALI20231024BHJP
【FI】
C08G59/42
C08G59/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164356
(22)【出願日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2022069100
(32)【優先日】2022-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古海 誓一
(72)【発明者】
【氏名】金田 隆希
(72)【発明者】
【氏名】岩田 直人
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AA01
4J036AB01
4J036AB02
4J036AB03
4J036AB10
4J036DB18
4J036FB18
4J036GA08
4J036GA10
4J036GA11
4J036GA15
4J036GA17
4J036GA29
(57)【要約】
【課題】熱などの外部刺激により自己修復性を有する自己修復性高分子を製造可能な組成物の提供。
【解決手段】カルボキシアルキルセルロースと、エポキシ基を2つ以上含むエポキシ化合物と、を含む、自己修復性高分子を製造するための組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシアルキルセルロースと、エポキシ基を2つ以上含むエポキシ化合物と、を含む、自己修復性高分子を製造するための組成物。
【請求項2】
エステル交換触媒をさらに含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記エポキシ化合物は、水溶性エポキシ化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記エポキシ化合物は、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル及びソルビトールポリグリシジルエーテルからなる群より選択される少なくとも1つを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
カルボキシアルキルセルロースのエーテル化度は、0.5~1.5である請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記カルボキシアルキルセルロースに含まれるカルボキシ基に対する前記エポキシ化合物に含まれるエポキシ基のモル比(カルボキシ基:エポキシ基)は、1:0.5~1.5である請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
ヒドロキシ基を2つ以上含むポリオール化合物をさらに含む請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記ポリオール化合物は、グリセリンを含む請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記ポリオール化合物におけるヒドロキシ基の含有量は、前記カルボキシアルキルセルロースに含まれるカルボキシ基に対して10モル%~150モル%である請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1~請求項9のいずれか1項に記載の組成物を硬化させて得られる自己修復性高分子。
【請求項11】
カルボキシアルキルセルロースに由来する骨格と、前記カルボキシアルキルセルロースに含まれるカルボキシ基に由来し、かつ結合交換反応が可能なエステル結合とを有する自己修復性高分子。
【請求項12】
前記結合交換反応が可能なエステル結合として、エポキシ基を2つ以上含むエポキシ化合物に含まれるエポキシ基と、前記カルボキシアルキルセルロースに含まれるカルボキシ基とが反応することによって形成されたエステル結合を含む請求項11に記載の自己修復性高分子。
【請求項13】
前記結合交換反応が可能なエステル結合として、ヒドロキシ基を2つ以上含むポリオール化合物におけるヒドロキシ基と、前記カルボキシアルキルセルロースに含まれるカルボキシ基とが反応することによって形成されたエステル結合を含む請求項11又は請求項12に記載の自己修復性高分子。
【請求項14】
請求項10に記載の自己修復性高分子を含む自己修復性材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自己修復性高分子を製造するための組成物、自己修復性高分子及び自己修復性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、天然に最も豊富に存在する原料であり、安価な材料であるため、多岐にわたる産業分野で広く利用されている。例えば、セルロース誘導体を原料として用いた液晶材料、液晶フィルム、フォトニックデバイス等の開発も行われている。セルロース誘導体を用いた液晶材料等は、安全性の観点及び環境負荷を低減する観点からも有用であり、セルロース誘導体が持つ液晶性、光学特性等の利用がさらに期待されている。
【0003】
セルロース誘導体を用いた自己修復性材料についても検討されている。
例えば、ダングリング鎖を有し、且つ架橋構造を有する非晶性ポリマーXと、動的粘弾性測定によるガラス転移温度が室温以上である非晶性ポリマーYと、を含み、非晶性ポリマーYがセルロースエステルである自己修復性樹脂体が提案されている(例えば、特許文献1)。
さらに、セルロース材料と、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体から1
個の水素原子又はヒドロキシ基が除かれた1価の基であるホスト基及びホスト基を串刺し状に貫通することができる1価の基であるゲスト基を有する重合体とを含む高分子複合材料を含む自己修復材料が提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-260979号公報
【特許文献2】特開2021-70768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように、セルロース誘導体は、人体、地球環境に対して低負荷な材料であり、かつ安価な材料であるため、液晶材料、液晶フィルム、フォトニックデバイス等に加え、特許文献1、2に記載されているような自己修復材料への適用も期待されている。
【0006】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであり、熱などの外部刺激により自己修復性を有する自己修復性高分子を製造可能な組成物、自己修復性を有する自己修復性高分子及びこの高分子を含む自己修復性材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> カルボキシアルキルセルロースと、エポキシ基を2つ以上含むエポキシ化合物と、を含む、自己修復性高分子を製造するための組成物。
<2> エステル交換触媒をさらに含む<1>に記載の組成物。
<3> 前記エポキシ化合物は、水溶性エポキシ化合物である<1>又は<2>に記載の組成物。
<4> 前記エポキシ化合物は、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポ
リグリセロールポリグリシジルエーテル及びソルビトールポリグリシジルエーテルからなる群より選択される少なくとも1つを含む<1>~<3>のいずれか1つに記載の組成物。
<5> カルボキシアルキルセルロースのエーテル化度は、0.5~1.5である<1>~<4>のいずれか1つに記載の組成物。
<6> 前記カルボキシアルキルセルロースに含まれるカルボキシ基に対する前記エポキシ化合物に含まれるエポキシ基のモル比(カルボキシ基:エポキシ基)は、1:0.5~1.5である<1>~<5>のいずれか1つに記載の組成物。
<7> ヒドロキシ基を2つ以上含むポリオール化合物をさらに含む<1>~<6>のいずれか1つに記載の組成物。
<8> 前記ポリオール化合物は、グリセリンを含む<7>に記載の組成物。
<9> 前記ポリオール化合物におけるヒドロキシ基の含有量は、前記カルボキシアルキルセルロースに含まれるカルボキシ基に対して10モル%~150モル%である<7>又は<8>に記載の組成物。
<10> <1>~<9>のいずれか1つに記載の組成物を硬化させて得られる自己修復性高分子。
<11> カルボキシアルキルセルロースに由来する骨格と、前記カルボキシアルキルセルロースに含まれるカルボキシ基に由来し、かつ結合交換反応が可能なエステル結合とを有する自己修復性高分子。
<12> 前記結合交換反応が可能なエステル結合として、エポキシ基を2つ以上含むエポキシ化合物に含まれるエポキシ基と、前記カルボキシアルキルセルロースに含まれるカルボキシ基とが反応することによって形成されたエステル結合を含む<11>に記載の自己修復性高分子。
<13> 前記結合交換反応が可能なエステル結合として、ヒドロキシ基を2つ以上含むポリオール化合物におけるヒドロキシ基と、前記カルボキシアルキルセルロースに含まれるカルボキシ基とが反応することによって形成されたエステル結合を含む<11>又は<12>に記載の自己修復性高分子。
<14> <10>~<13>のいずれか1つに記載の自己修復性高分子を含む自己修復性材料。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、熱などの外部刺激により自己修復性を有する自己修復性高分子を製造可能な組成物、自己修復性を有する自己修復性高分子及びこの高分子を含む自己修復性材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1の架橋膜について、190℃~210℃におけるG(t)/Gを示すグラフである。
図2】実施例1の架橋膜について、190℃~210℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
図3】実施例1の架橋膜における動的粘弾性測定の結果を示すグラフである。
図4】実施例2の架橋膜について、140℃~170℃におけるG(t)/Gを示すグラフである。
図5】実施例2の架橋膜について、140℃~170℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
図6】実施例2の架橋膜における動的粘弾性測定の結果を示すグラフである。
図7】実施例3の架橋膜について、150℃~170℃におけるG(t)/Gを示すグラフである。
図8】実施例3の架橋膜について、150℃~170℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
図9】実施例4の架橋膜について、150℃~170℃におけるG(t)/Gを示すグラフである。
図10】実施例4の架橋膜について、150℃~170℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
図11】実施例5の架橋膜について、150℃~170℃におけるG(t)/Gを示すグラフである。
図12】実施例5の架橋膜について、150℃~170℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
図13】実施例7の架橋膜について、150℃~180℃におけるG(t)/Gを示すグラフである。
図14】実施例7の架橋膜について、150℃~180℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
図15】実施例8の架橋膜について、150℃~170℃におけるG(t)/Gを示すグラフである。
図16】実施例8の架橋膜について、150℃~170℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
図17】実施例9の架橋膜について、150℃~170℃におけるG(t)/Gを示すグラフである。
図18】実施例9の架橋膜について、150℃~170℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
図19】実施例7~9の架橋膜について、各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
図20】実施例10の架橋膜について、150℃~170℃におけるG(t)/Gを示すグラフである。
図21】実施例10の架橋膜について、150℃~170℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
図22】実施例5、6及び8の架橋膜について、各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
図23】実施例7及び8の架橋膜について、引張試験の結果を示すグラフである。
図24】実施例5、6及び8の架橋膜について、圧縮試験の結果を示すグラフである。
図25】実施例5、6及び8の架橋膜について、引張試験の結果を示すグラフである。
図26】実施例11の架橋膜について、150℃~170℃におけるG(t)/Gを示すグラフである。
図27】実施例11の架橋膜について、150℃~170℃の各温度に対して緩和時間をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示において、数値範囲を示す「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本開示において段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の成分の合計量を意味する。
本開示において、置換又は無置換を明記していない化合物については、本開示における効果を損なわない範囲で、任意の置換基を有していてもよい。
なお、本開示において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。本開示において、任意の組み合わせにおいて、2つ以上の好ましい態様を組み合わせてもよい。
【0011】
<自己修復性高分子を製造するための組成物>
本開示の自己修復性高分子を製造するための組成物は、カルボキシアルキルセルロースと、エポキシ基を2つ以上含むエポキシ化合物と、を含む。本開示の組成物は、カルボキシアルキルセルロースと、エポキシ基を2つ以上含むエポキシ化合物とを含むことで、加熱等によりカルボキシ基とエポキシ基とが反応することでエステル結合及びヒドロキシ基が形成された架橋物(自己修復性高分子)が得られる。架橋物に含まれるエステル結合及びヒドロキシ基は、エステル交換反応により結合交換反応が可能である。そのため、本開示の組成物を用いて得られる自己修復性高分子は、熱などの外部刺激により自己修復性を有する。例えば、自己修復性高分子に対して切断等により物理的損傷を与えた場合であっても、物理的損傷が与えられた自己修復性高分子同士を接触させた状態で熱などの外部刺激を与えることで物理的損傷が与えられた自己修復性高分子同士を接合させ、自己修復性高分子を修復することが可能となる。また、自己修復性高分子等を重ねた状態で熱などの外部刺激を与えることで自己修復性高分子同士を接合させることができ、自己修復性高分子を用いた成形が可能となる。
【0012】
(カルボキシアルキルセルロース)
本開示の組成物は、カルボキシアルキルセルロースを含む。カルボキシアルキルセルロースはセルロース骨格を有し、セルロース骨格に含まれるヒドロキシ基の一部がカルボキシアルキル基(-R-COOH:Rはアルキレン基)に置換された化合物である。
【0013】
カルボキシアルキルセルロースとしては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等が挙げられる。
【0014】
カルボキシアルキルセルロースを水に溶解させて得られる1質量%濃度におけるカルボキシアルキルセルロース水溶液の25℃での粘度は、5mPa・s~10,000mPa・sであることが好ましく、5mPa・s~100mPa・sであることがより好ましく、5mPa・s~20mPa・sであることがさらに好ましい。
【0015】
1質量%濃度におけるカルボキシアルキルセルロース水溶液の25℃での粘度は、B型
粘度計を使用し、25℃、60回転の条件で測定した粘度である。
【0016】
カルボキシアルキルセルロースのエーテル化度は、0.5~1.5であることが好ましく、0.7~1.5であることがより好ましく、組成物を架橋させた際の破断ひずみに優れる観点から、1.0~1.5であることがさらに好ましい。
カルボキシアルキルセルロースのエーテル化度を0.5以上とすることで、カルボキシアルキルセルロース中のカルボキシ基の量が増加するため、エステル交換反応が生じやすくなる。その結果、組成物を用いて得られる自己修復性高分子及び自己修復性材料における応力緩和が生じる温度及び緩和時間を低下させることができる傾向にある。また、応力緩和が生じる温度を低下させることで、自己修復性高分子が熱分解するリスクも低減できる。
【0017】
本開示において、エーテル化度とは、セルロース骨格のヒドロキシ基がカルボキシアルキル基に置換されている割合を意味し、具体的には「セルロース骨格の構造単位に含まれるカルボキシアルキル基の合計/セルロース骨格の構造単位×3」を意味する。
【0018】
カルボキシアルキルセルロースのエーテル化度は、例えば、硫酸等の酸でカルボキシアルキルセルロースを解重合した後、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)測定又はH-NMR測定を行うことで導出可能である。このような導出方法については、例えば、“Ramos, L. A.; Frollini, E.; Heinze, T. Carbohydr. Polym. 2005, 60 (2), 259-267.”に記載の方法が挙げられる。
【0019】
(多官能エポキシ化合物)
本開示の組成物は、エポキシ基を2つ以上含むエポキシ化合物(以下、「多官能エポキシ化合物」ともいう。)を含む。多官能エポキシ化合物は、エポキシ基を2つ以上含むエポキシ化合物であれば特に限定されず、2つのエポキシ基を含むエポキシ化合物であってもよく、3つ以上のエポキシ基を含むエポキシ化合物であってもよく、4つ以上のエポキシ基を含むエポキシ化合物であってもよい。
多官能エポキシ化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
本開示の組成物に含まれる多官能エポキシ化合物は、水中でのカルボキシアルキルセルロースとの相溶性の観点から、水溶性エポキシ化合物であることが好ましい。
【0021】
多官能エポキシ化合物としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等が挙げられる。中でも、低粘度及びカルボキシアルキルセルロース水溶液との混合のしやすさの観点から、エチレングリコールジグリシジルエーテル及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテルが好ましい。
【0022】
多官能エポキシ化合物がポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル等の複数の構成単位を有する化合物である場合、1分子中の構成単位の数(例えば、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルの場合、オキシエチレン構造の数)は、2~20であってもよく、3~15であってもよく、4~10であってもよく、組成物を架橋させた際の破断ひずみに優れる観点から、4~7であってもよい。
1分子中の構成単位の数が小さいほど、エステル交換反応が起こる部位同士の距離が近くなり、結合交換反応がより起こりやすくなる傾向にある。
【0023】
(単官能エポキシ化合物)
本開示の組成物は、エポキシ基を1つ含むエポキシ化合物(以下、「単官能エポキシ化合物」ともいう。)を含んでいてもよい。単官能エポキシ化合物は、水溶性エポキシ化合物であることが好ましい。
単官能エポキシ化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
単官能エポキシ化合物としては、例えば、1,2-エポキシプロパン、1,2-エポキシブタン等のエポキシ基含有アルカン、ラウリルアルコールEO(エチレンオキシド)付
加物グリシジルエーテル、フェノールEO付加物グリシジルエーテル等のEO付加物グリシジルエーテル等が挙げられる。
【0025】
組成物を架橋させた際の架橋密度の観点から、単官能エポキシ化合物の含有量は、多官能エポキシ化合物及び単官能エポキシ化合物の合計に対して、50質量%であってもよく、30質量%以下であってもよく、10質量%以下であってもよい。
【0026】
本開示の組成物は、生体適合性の観点から、ビスフェノール骨格を有するエポキシ化合物を含まないか、その含有量は少ないことが好ましい。本開示の組成物では、ビスフェノール骨格を有するエポキシ化合物の含有量は、エポキシ化合物全量に対して10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、0質量%であることがさらに好ましい。
【0027】
カルボキシアルキルセルロースに含まれるカルボキシ基に対するエポキシ化合物に含まれるエポキシ基のモル比(カルボキシ基:エポキシ基)は、組成物を架橋させた際の架橋密度の観点から、1:0.5~1.5であることが好ましく、1:0.8~1.2であることがより好ましい。
前述の「カルボキシ基:エポキシ基」については、エポキシ化合物として多官能エポキシ化合物のみを用いる場合には、「カルボキシ基:多官能エポキシ化合物に由来のエポキシ基」と読み替えてもよい。エポキシ化合物として多官能エポキシ化合物及び単官能エポキシ化合物を用いる場合には、「カルボキシ基:多官能エポキシ化合物に由来のエポキシ基及び単官能エポキシ化合物に由来するエポキシ基の合計」と読み替えてもよい。
【0028】
(エステル交換触媒)
本開示の組成物は、エステル交換触媒をさらに含むことが好ましい。エステル交換触媒としては、エステル交換反応を促進する触媒であれば特に限定されず、例えば、酢酸亜鉛(II)、亜鉛(II)アセチルアセトナート、ナフテン酸亜鉛(II)、アセチルアセトン鉄(III)、アセチルアセトンコバルト(II)、アルミニウムイソプロポキシド、チタニウムイソプロポキシド、メトキシド(トリフェニルホスフィン)銅(I)錯体、エトキシド(トリフェニルホスフィン)銅(I)錯体、プロポキシド(トリフェニルホスフィン)銅(I)錯体、イソプロポキシド(トリフェニルホスフィン)銅(I)錯体、メトキシドビス(トリフェニルホスフィン)銅(II)錯体、エトキシドビス(トリフェニルホスフィン)銅(II)錯体、プロポキシドビス(トリフェニルホスフィン)銅(II)錯体、イソプロポキシドビス(トリフェニルホスフィン)銅(II)錯体、トリス(2,4-ペンタンジオナト)コバルト(III)、二酢酸すず(II)、ジ(2-エチルヘキサン酸)すず(II)、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン、トリアザビシクロデセン、トリフェニルホスフィン等が挙げられる。強塩基性の観点から、エステル交換触媒は、トリアザビシクロデセンが好ましい。
【0029】
本開示の組成物がエステル交換触媒を含む場合、エステル交換触媒の含有量は、エステル交換反応に寄与する成分の全量に対して、3.6質量%~5.3質量%であってもよく、2.7質量%~3.6質量%であってもよく、1.8質量%~2.7質量%であってもよい。
エステル交換反応に寄与する成分としては、カルボキシアルキルセルロース、多官能エポキシ化合物、並びに必要に応じて用いられる単官能エポキシ化合物及び必要に応じて用いられる後述のポリオール化合物等が挙げられる。
【0030】
(ポリオール化合物)
本開示の組成物は、ヒドロキシ基を2つ以上含むポリオール化合物(以下、「ポリオー
ル化合物」とも称する。)をさらに含んでいてもよい。これにより、ポリオール化合物に含まれるヒドロキシ基は、カルボキシアルキルセルロースに含まれるカルボキシ基と反応することで結合交換反応が可能なエステル結合を形成する。さらに、ポリオール化合物に含まれるヒドロキシ基と、本開示の組成物を用いて得られる自己修復性高分子及び自己修復性材料に含まれるエステル結合とは、エステル交換反応により結合交換反応が可能となる。その結果、エステル交換反応がより生じやすくなり、組成物を用いて得られる自己修復性高分子及び自己修復性材料における応力緩和が生じる温度及び緩和時間を低下させることができる傾向にある。
【0031】
ポリオール化合物は、水中でのカルボキシアルキルセルロースとの相溶性の観点から、水溶性ポリオール化合物であることが好ましい。
【0032】
ポリオール化合物の具体例としては、
エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール等のアルキレングリコール;
ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの共重合体等のポリアルキレングリコール;
グルコース、マルトース、フルクトース、ショ糖、キシリトール、ソルビトール等の糖アルコール;
グリセリン、ポリグリセリン、エリスリトール;などが挙げられる。
【0033】
ポリオール化合物は、低粘度及び高沸点である観点から、グリセリンを含むことが好ましい。グリセリンは低粘度であることから、カルボキシメチルセルロースセルロース水溶液と混合しても粘度の上昇が抑制される傾向にある。グリセリンは高沸点であることから、加熱によって自己修復性を発現させる際にグリセリンの揮発が発生しにくい傾向にある。
【0034】
本開示の組成物がポリオール化合物を含む場合、ポリオール化合物におけるヒドロキシ基の含有量は、自己修復性高分子及び自己修復性材料における緩和時間低下の観点から、カルボキシアルキルセルロースに含まれるカルボキシ基に対して、10モル%~150モル%であることが好ましく、10モル%~100%モル%であることがより好ましく、10モル%~50モル%であることがさらに好ましく、10モル%~30モル%であることが特に好ましい。
【0035】
本開示の組成物は、水を含んでいてもよく、前述の各成分が水分中に溶解又は分散していてもよい。
【0036】
(他の成分)
本開示の組成物は、本開示の効果を著しく損なわない範囲で他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、重合性モノマー、架橋剤、難燃剤、相溶化剤、酸化防止剤、離型剤(剥離剤)、耐光剤、耐候剤、改質剤、帯電防止剤、加水分解防止剤等が挙げられる。
【0037】
<自己修復性高分子>
(第1実施形態)
本開示の自己修復性高分子の第1実施形態は、前述の本開示の組成物を硬化させて得られる。例えば、本開示の組成物を加熱することで必要に応じて含まれる水を揮発させ、かつカルボキシ基とエポキシ基とを反応させることにより、架橋物である自己修復性高分子が得られる。自己修復性高分子は、カルボキシ基とエポキシ基とが反応することにより形成されたエステル結合及びヒドロキシ基を含み、エステル結合及びヒドロキシ基は、エス
テル交換反応により結合交換反応が可能である。
【0038】
(第2実施形態)
本開示の自己修復性高分子の第2実施形態は、カルボキシアルキルセルロースに由来する骨格と、前記カルボキシアルキルセルロースに含まれるカルボキシ基に由来し、かつ結合交換反応が可能なエステル結合とを有していてもよい。本実施形態の自己修復性高分子において、カルボキシアルキルセルロースの好ましい構成は、前述の本開示の組成物に含まれるカルボキシアルキルセルロースの好ましい構成と同様である。
【0039】
第2実施形態の自己修復性高分子は、カルボキシアルキルセルロースに含まれるカルボキシ基に由来し、かつ結合交換反応が可能なエステル結合を有することで、加熱等により当該エステル結合が結合交換される。より具体的には、エステル結合及び自己修復性高分子に含まれるヒドロキシ基、ポリオール化合物に含まれるヒドロキシ基等は、エステル交換反応により結合交換反応が可能である。
【0040】
第2実施形態の自己修復性高分子は、結合交換反応が可能なエステル結合として、エポキシ基を2つ以上含むエポキシ化合物に含まれるエポキシ基と、カルボキシアルキルセルロースに含まれるカルボキシ基とが反応することによって形成されたエステル結合を含むことが好ましい。ここで、エポキシ基を2つ以上含むエポキシ化合物の好ましい構成は、前述の多官能エポキシ化合物と同様である。
エポキシ基とカルボキシ基とが反応することで、エステル結合及びヒドロキシ基が形成され、形成されたエステル結合及びヒドロキシ基は、エステル交換反応により結合交換反応が可能となる。
【0041】
第2実施形態の自己修復性高分子は、結合交換反応が可能なエステル結合として、ヒドロキシ基を2つ以上含むポリオール化合物におけるヒドロキシ基と、カルボキシアルキルセルロースに含まれるカルボキシ基とが反応することによって形成されたエステル結合を含むことが好ましい。ヒドロキシ基を2つ以上含むポリオール化合物の好ましい構成は、前述のポリオール化合物と同様である。
ポリオール化合物に含まれるヒドロキシ基は、カルボキシアルキルセルロースに含まれるカルボキシ基と反応することで結合交換反応が可能なエステル結合を形成する。さらに、ポリオール化合物に含まれるヒドロキシ基と、自己修復性高分子に含まれるエステル結合とは、エステル交換反応により結合交換反応が可能となる。その結果、エステル交換反応がより生じやすくなり、自己修復性高分子における応力緩和が生じる温度及び緩和時間を低下させることができる傾向にある。
【0042】
<自己修復性材料>
本開示の自己修復性材料は、前述の本開示の自己修復性高分子を含む。本開示の自己修復性材料は、自己修復性高分子を含んでいてもよく、エステル交換触媒、ヒドロキシ基を2つ以上含むポリオール化合物、他の成分等をさらに含んでいてもよい。本開示の自己修復性材料は、前述の本開示の組成物を硬化させたものであってもよく、自己修復性高分子の成形物であってもよく、フィルム状、板状、棒状等の任意の形状の成形物であってもよい。
【実施例0043】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]
(架橋膜の作製)
下記一般式(1a)で表されるカルボキシメチルセルロース(ダイセルミライズ社製、製品名CMCダイセル、1質量%濃度におけるカルボキシメチルセルロース水溶液の25℃での粘度:10mPa・s~20mPa・s、エーテル化度:0.91)0.901g、ジエポキシ化合物(Sigma-Aldrich社製、製品名Poly(ethylene glycol) diglycidyl ether:ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル)1.922g、エステル交換触媒(トリアザビシクロデセン)0.108g及び水30mLをフラスコにて混合し、混合物(自己修復性高分子を製造するための組成物)を準備した。
【0045】
【化1】
【0046】
混合物を80℃で加熱した後、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の小皿に加熱後の混合物を移し、次いで110℃で加熱することで架橋膜を得た。
【0047】
(FT-IR測定)
前述のようにして作製した架橋膜について、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)測定を行うことで架橋反応が進行しているか否かを確認した。1750cm-1付近にてエステル結合由来のピークを確認し、架橋反応が進行していることを確認した。
【0048】
(応力緩和測定)
前述のようにして作製した架橋膜に対して初期ひずみγを与え、そのひずみを一定に維持したまま応力σ(t)の減少速度を測定する応力緩和測定を行った。具体的には、アントンパール社のMCR102装置を用い、直径8mmのパラレルプレートに架橋膜を設置し、応力緩和測定を行った。応力をひずみで割った値である緩和弾性率Gについて、初期応力における緩和弾性率(G)に対する時間tでの応力における緩和弾性率(G(t))の比率であるG(t)/Gをプロットした。また、応力σが、σ/eとなるまでの時間である緩和時間τを求めた。
190℃以上で明確な応力の緩和を確認できたため、190℃から10℃刻みにて上記と同様の条件で応力緩和測定を行った。190℃~210℃におけるG(t)/Gのプ
ロットを図1に示す。図1に示すように、応力の緩和が確認された。図1に示す曲線は、以下に示すKohlrausch-Williams-Watts(KWW)式に基づく曲線である。式中、G(t)は緩和弾性率であり、βは緩和時間の分布である(参考文献:M. Hayashi and A. Katayama, ACS Appl. Polym. Mater., 2, 6, 2452-2457 (2020).)。
【0049】
【数1】
【0050】
さらに、緩和時間τを用い、以下の式に基づいて平均緩和時間<τ>を求めた。式中、βは緩和時間の分布、Γはガンマ関数を表す。平均緩和時間<τ>の結果を表1に示す。
【0051】
【数2】
【0052】
【表1】
【0053】
図2に示すように、190℃~210℃の各温度(具体的には、1000/T(K))に対して緩和時間(具体的には、In<τ>)をプロットすることで、アレニウスの式(In<τ>=A+RT/E、R:気体定数、T:絶対温度、E:活性化エネルギー)に従う直線が得られた。この結果は、先行研究(L. Leibler et al., Science, 2011, 334, 965-968.)と同様の挙動であるため、前述のようにして作製した架橋膜は自己修復性があると推測された。
【0054】
(架橋膜の自己修復性の確認1)
前述のようにして作製した架橋膜が自己修復性を有することを、以下のようにして確認した。まず、架橋膜同士を重ねた後に140℃でヒートプレスを行うことで、重ねた架橋膜が接合することを確認した。さらにヒートプレスを行う時間が経過するにつれて重ねた架橋膜の接合が進行していることも確認した。次に、架橋膜に裂け目を形成し、裂け目が形成された架橋膜に対して160℃で2時間ヒートプレスを行うことで、裂け目がふさがっていることを確認した。以上のように、接合によって架橋膜が自己修復性を有することを確認できた。
【0055】
(架橋膜の自己修復性の確認2)
前述のようにして作製した架橋膜が自己修復性を有することを、以下のようにして確認した。まず、架橋膜の表面にCDの凹凸構造を転写させた。凹凸構造の転写前に対して、CDの凹凸構造を転写させることで架橋膜表面での光の回折を確認した。次いで、CDの
凹凸構造を転写させた架橋膜に対して150℃で5時間ヒートプレスを行った。凹凸構造転写前の架橋膜表面、及びヒートプレス前後での架橋膜表面を対比したところ、凹凸構造転写前の架橋膜及びヒートプレス後の架橋膜について、同程度の光の回折が確認された。以上のように、光の回折により架橋膜が自己修復性を有することを確認した。
【0056】
(動的粘弾性測定)
前述のようにして作製した架橋膜に対して一定の周波数のひずみを与え、温度を変化させたときの弾性率を測定する動的粘弾性測定を行った。具体的には、アントンパール社の動的粘弾性測定装置を用い、直径8mmのパラレルプレートに架橋膜を設置し、周波数1Hz、測定温度-80℃~20℃、温度変化速度1.5℃/minの条件で貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G’’)を測定した。G’’が最大値となる温度をガラス転移温度(Tg)とした。
図3に実施例1の架橋膜における動的粘弾性測定の結果を示す。図3に示すように実施例1の架橋膜のTgは-63.0℃であった。
【0057】
[実施例2]
(架橋膜の作製)
実施例1で用いたカルボキシメチルセルロース(ダイセルミライズ社製、製品名CMCダイセル、1質量%濃度におけるカルボキシメチルセルロース水溶液の25℃での粘度:10mPa・s~20mPa・s、エーテル化度:0.91)1.503g、ジエポキシ化合物(Sigma-Aldrich社製、製品名Poly(ethylene glycol) diglycidyl ether:ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル)3.201g、エステル交換触媒(トリアザビシクロデセン)0.178g、グリセリン0.590g(カルボキシメチルセルロースに含まれるカルボキシ基に対してヒドロキシ基の割合100モル%)及び水50mLをフラスコにて混合し、混合物(自己修復性高分子を製造するための組成物)を準備した。実施例1と同様にして架橋膜を作製した。
【0058】
(応力緩和測定)
実施例1と同様にして実施例2の架橋膜について応力緩和測定を行った。140℃~170℃におけるG(t)/Gのプロットを図4に示す。また、平均緩和時間<τ>の結果を表2に示す。
【0059】
【表2】
【0060】
図4に示すように、140℃~170℃にて応力の緩和が確認された。
さらに、図5に示すように、140℃~170℃の各温度(具体的には、1000/T(K))に対して緩和時間(具体的には、In<τ>)をプロットすることで、アレニウスの式に従う直線が得られた。
実施例1と比較してグリセリンを架橋膜に導入したことで、緩和するために必要な温度及び緩和時間が短くなった。この理由は、グリセリンがフリーのヒドロキシ基を供給したことで、エステル交換反応が促進されたからであると推測される。
【0061】
(動的粘弾性測定)
実施例1と同様にして、実施例2の架橋膜に対して動的粘弾性測定を行った。
図6に実施例2の架橋膜における動的粘弾性測定の結果を示す。図6に示すように実施例1の架橋膜のTgは-75.4℃であった。
実施例1と比較してグリセリンを架橋膜に導入したことで、Tgが下がった。このことから、分子運動が盛んになった結果、エステル交換反応が促進されたことが推測される。
【0062】
[実施例3]
(架橋膜の作製)
上記一般式(1a)で表されるカルボキシメチルセルロース(ダイセルミライズ社製、製品名CMCダイセル、1質量%濃度におけるカルボキシメチルセルロース水溶液の25℃での粘度:10mPa・s~20mPa・s、エーテル化度:0.91)1.504g、ジエポキシ化合物(Sigma-Aldrich社製、製品名Poly(ethylene glycol) diglycidyl ether:ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル)3.176g、エステル交換触媒(トリアザビシクロデセン)0.177g、グリセリン0.117g(カルボキシメチルセルロースに含まれるカルボキシ基に対してヒドロキシ基の割合20モル%)及び水50mLをフラスコにて混合し、混合物(自己修復性高分子を製造するための組成物)を準備した。実施例1と同様にして架橋膜を作製した。
【0063】
(応力緩和測定)
実施例1と同様にして実施例3の架橋膜について応力緩和測定を行った。150℃~170℃におけるG(t)/Gのプロットを図7に示す。また、平均緩和時間<τ>の結果を表3に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
図7に示すように、150℃~170℃にて応力の緩和が確認された。
さらに、図8に示すように、150℃~170℃の各温度(具体的には、1000/T(K))に対して緩和時間(具体的には、In<τ>)をプロットすることで、アレニウスの式に従う直線が得られた。
【0066】
[実施例4]
(架橋膜の作製)
上記一般式(1a)で表されるカルボキシメチルセルロース(ダイセルミライズ社製、製品名CMCダイセル、1質量%濃度におけるカルボキシメチルセルロース水溶液の25℃での粘度:50mPa・s~100mPa・s、エーテル化度:1.30)1.506g、ジエポキシ化合物(Sigma-Aldrich社製、製品名Poly(ethylene glycol) diglycidyl ether:ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル)4.108g、エステル交換触媒(トリアザビシクロデセン)0.229g、グリセリン0.151g(カルボキシメチルセルロースに含まれるカルボキシ基に対してヒドロキシ基の割合20モル%)及び水50mLをフラスコにて混合し、混合物(自己修復性高分子を製造するための組成物)を準備した。実施例1と同様にして架橋膜を作製した。
【0067】
(応力緩和測定)
実施例1と同様にして実施例4の架橋膜について応力緩和測定を行った。150℃~1
70℃におけるG(t)/Gのプロットを図9に示す。また、平均緩和時間<τ>の結果を表4に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
図9に示すように、150℃~170℃にて応力の緩和が確認された。
さらに、図10に示すように、150℃~170℃の各温度(具体的には、1000/T(K))に対して緩和時間(具体的には、In<τ>)をプロットすることで、アレニウスの式に従う直線が得られた。
【0070】
実施例2及び3を比較すると、グリセリンの量が少ない実施例3の方が架橋膜の緩和時間が短く、よりきれいな緩和時間の傾向が確認された。これにより、グリセリンの量によって、架橋膜の緩和時間を調整可能であることが分かった。この理由は、グリセリン由来のフリーのヒドロキシ基の量が過剰傾向となることでグリセリン由来のフリーのヒドロキシ基とジエポキシ化合物のエポキシ基とが反応してしまい、エステル結合部位が相対的に少なくなった結果、エステル交換反応が抑制されたからと推測される。
【0071】
実施例3及び4を比較すると、カルボキシメチルセルロースのエーテル化度が大きい実施例4の方が架橋膜の緩和時間が短かった。これにより、カルボキシメチルセルロースのエーテル化度によって、架橋膜の緩和時間を調整可能であることが分かった。緩和時間が短くなった理由としては、エーテル化度がより大きいことで結合交換反応が起こる部位がより増加するからと推測される。
【0072】
[実施例5]
(架橋膜の作製)
まず、100mLビーカーを用いて、下記一般式(1b)で表されるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(ダイセルミライズ社製、製品名CMCダイセル、品番1120、1質量%濃度におけるカルボキシメチルセルロース水溶液の25℃での粘度:38mPa・s、エーテル化度:0.68)1.5gを水50mLに溶解させてCMC水溶液1を得た。その後、CMC水溶液1にイオン交換樹脂(水溶液の全量に対して10質量%)を加えて6時間撹拌することで脱塩を行った。100mLナスフラスコに脱塩後のCMC水溶液1を移し、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(PEGDE、n=8~9)のみを加えて60℃で1時間撹拌した。次に、グリセリンとトリアザビシクロデセン(TBD)を加えて、80℃で撹拌することで水を除去した。ある程度溶液量が減ってきたところで、フラスコ内の溶液をPTFE製の小皿に移して、60℃のオーブンで16時間静置した。その後、110℃に設定したアルミビーズバス上で3時間加熱することで、架橋膜を作製した。
【0073】
【化2】
【0074】
[実施例6]
(架橋膜の作製)
まず、100mLビーカーを用いて、上記一般式(1b)で表されるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(ダイセルミライズ社製、製品名CMCダイセル、品番1220、1質量%濃度におけるカルボキシメチルセルロース水溶液の25℃での粘度:14mPa・s、エーテル化度:0.91)1.5gを水50mLに溶解させてCMC水溶液2を得た。その後、CMC水溶液2を用い、かつ表5に示すポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(PEGDE)を用いた以外は実施例5と同様にして架橋膜を作製した。
【0075】
[実施例7~9]
(架橋膜の作製)
まず、100mLビーカーを用いて、上記一般式(1b)で表されるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(ダイセルミライズ社製、製品名CMCダイセル、品番1330、1質量%濃度におけるカルボキシメチルセルロース水溶液の25℃での粘度:98mPa・s、エーテル化度:1.30)1.5gを水50mLに溶解させてCMC水溶液3を得た。その後、CMC水溶液3を用い、かつ表5に示すポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(PEGDE)を用いた以外は実施例5と同様にして架橋膜を作製した。
【0076】
実施例5~9について、架橋膜の作製条件を表5に示す。表5中の(eq.)は、カルボキシメチルセルロースに含まれるカルボキシ基に対する当量を意味する。
【0077】
【表5】
【0078】
[実施例10]
(架橋膜の作製)
ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(PEGDE)の替わりにポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(PPGDE、ナガセケムテックス株式会社製)を使用した以外は実施例7と同様にして架橋膜を作製した。脱塩後のCMC水溶液3に対するPPGDEの添加量は、カルボキシメチルセルロースに含まれるカルボキシ基に対して2eq.であった。
【0079】
(応力緩和測定)
実施例1と同様にして実施例5の架橋膜について応力緩和測定を行った。150℃~170℃におけるG(t)/Gのプロットを図11に示す。また、実施例5について、緩和時間τ、緩和時間の分布β、及び平均緩和時間<τ>の結果を表6に示す。
【0080】
【表6】
【0081】
図11に示すように、実施例5にて150℃~170℃にて応力の緩和が確認された。
さらに、図12に示すように、150℃~170℃の各温度(具体的には、1000/T(K))に対して緩和時間(具体的には、In<τ>)をプロットすることで、アレニウスの式に従う直線が得られた。
【0082】
実施例1と同様にして実施例7~9の架橋膜について応力緩和測定を行った。実施例7の150℃~180℃におけるG(t)/Gのプロットを図13に示し、実施例8及び9の150℃~170℃におけるG(t)/Gのプロットを図15及び図17に示す。実施例7~9について、緩和時間τ、緩和時間の分布β、及び平均緩和時間<τ>の結果を表7~9に示す。
【0083】
【表7】
【0084】
【表8】
【0085】
【表9】
【0086】
図13に示すように、実施例7にて150℃~180℃にて応力の緩和が確認され、図15及び図17に示すように、実施例8及び9にて150℃~170℃にて応力の緩和が確認された。
さらに、図14図16及び図18に示すように、各温度(具体的には、1000/T(K))に対して緩和時間(具体的には、In<τ>)をプロットすることで、アレニウスの式に従う直線が得られた。
【0087】
分子鎖の長さが異なるPEGDEを用いて作製した実施例7~9について、架橋膜の150℃~170℃における平均緩和時間<τ>の結果を表10及び図19に示す。
【0088】
【表10】
【0089】
表10及び図19に示すように、用いたエポキシ化合物の分子鎖が短いほど各温度における架橋膜の<τ>が短くなる傾向が得られた。この理由は、エポキシ化合物の分子鎖が短くなることで、エステル交換反応が起こる部位同士の距離が近くなり、結合交換反応がより起こりやすくなっているためと推測される。
【0090】
実施例1と同様にして実施例10の架橋膜について応力緩和測定を行った。実施例10について、緩和時間τ、緩和時間の分布β、及び平均緩和時間<τ>の結果を表11及び図20に示す。
【0091】
【表11】
【0092】
図20に示すように、実施例10にて150℃~170℃にて応力の緩和が確認された。
さらに、図21に示すように、150℃~170℃の各温度(具体的には、1000/T(K))に対して緩和時間(具体的には、In<τ>)をプロットすることで、アレニウスの式に従う直線が得られた。
実施例10の結果から、PEGDE以外のエポキシ化合物を使用して作製した架橋膜であっても、自己修復性材料に見られる特有の性質を示すことがわかった。
【0093】
実施例1と同様にして実施例6の架橋膜について応力緩和測定を行った。前述のように測定した実施例5及び実施例8、並びに、実施例6について、平均緩和時間<τ>の結果を表12に示す。
【0094】
【表12】
【0095】
表12及び図22に示すように、用いたCMCのエーテル化度が大きいほど各温度における架橋膜の<τ>が短くなる傾向が得られた。この理由は、CMCのエーテル化度が大きくなることで架橋構造内に存在するエステル交換反応が起こる部位の数が多くなり、結合交換反応がより起こりやすくなっているためと推測される。
【0096】
(引張試験)
実施例7及び8にて作製した架橋膜をJIS-7形状に切り取り、延伸過程における架橋膜の破断ひずみを測定した。測定の際、試験速度は10mm/min、予備負荷は0.002Nとした。試験結果を図23に示す。
【0097】
引張試験の結果、破断ひずみの値は、実施例7では152.1%であり、実施例8では81.0%であった。分子鎖が短いエポキシ化合物を用いた実施例7の方が、分子鎖が長いエポキシ化合物を用いた実施例8よりも破断ひずみの値が大きいことが分かった。
【0098】
(圧縮試験及び引張試験)
実施例5、6及び8にて作製した架橋膜を用いて圧縮試験及び引張試験を行った。
圧縮試験では、架橋膜を直径5mmのポンチでくり抜き、ひずみ20%までの圧縮・解放過程における応力を測定した。測定の際、圧縮速度はいずれも0.5mm/minとした。試験結果を図24及び表13に示す。
引張試験では、架橋膜をJIS-7形状に切り取り、延伸過程におけるフィルムの破断ひずみを測定した。測定の際、試験速度は10mm/min、予備負荷は0.002Nとした。試験結果を図25及び表13に示す。
【0099】
【表13】
【0100】
表13、図24及び図25に示すように、実施例8のようにCMCのエーテル化度が大きいほど架橋膜が柔らかく、破断ひずみの値が大きいことが分かった。
【0101】
[実施例11]
(架橋膜の作製)
上記一般式(1a)で表されるカルボキシメチルセルロース(ダイセルミライズ社製、製品名CMCダイセル、1質量%濃度におけるカルボキシアルキルセルロース水溶液の25℃での粘度:98mPa・s、エーテル化度:1.30)1.503g、ソルビトールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製)0.868g(カルボキシメチルセルロースに含まれるカルボキシ基に対してエポキシ基の割合100モル%)、TBD 0.229g(20mol%)、グリセリン0.155g(カルボキシメチルセルロースに含まれるカルボキシ基に対してヒドロキシ基の割合20モル%)及び水50mLを100mLナスフラスコ内で混合し、混合物(自己修復性高分子を製造するための組成物)を準備した。実施例5と同様にして架橋膜を作製した。
【0102】
(応力緩和測定)
実施例1と同様にして実施例11の架橋膜について応力緩和測定を行った。150℃~170℃におけるG(t)/Gのプロットを図26に示す。また、実施例11について、緩和時間τ、緩和時間の分布β、及び平均緩和時間<τ>の結果を表14に示す。
【0103】
【表14】
【0104】
図26に示すように、実施例11にて150℃~170℃にて応力の緩和が確認された。
さらに、図27に示すように、150℃~170℃の各温度(具体的には、1000/T(K))に対して緩和時間(具体的には、In<τ>)をプロットすることで、アレニウスの式に従う直線が得られた。
実施例11の結果から、2官能以外の多官能エポキシ化合物(例えば、4官能エポキシ化合物)を使用して作製した架橋膜であっても、自己修復性材料に見られる特有の性質を示すことがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27