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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159067
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】蓄冷材粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/14 20060101AFI20231024BHJP
   H01F 6/04 20060101ALI20231024BHJP
   F25B 9/00 20060101ALN20231024BHJP
【FI】
C09K5/14 F ZAA
H01F6/04
F25B9/00 D
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023119573
(22)【出願日】2023-07-24
(62)【分割の表示】P 2019050475の分割
【原出願日】2019-03-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【弁理士】
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】山下 知大
(72)【発明者】
【氏名】河本 崇博
(72)【発明者】
【氏名】江口 朋子
(72)【発明者】
【氏名】久保木 貴志
(57)【要約】
【課題】優れた特性を備える蓄冷材粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】実施形態の蓄冷材粒子の製造方法は、蓄冷物質の粉末をアルギン酸水溶液に加えて混合して、スラリーを形成し、スラリーを、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、ベリリウム(Be)、ストロンチウム(Sr)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、及び、コバルト(Co)から成る群から選ばれる一つの金属元素を含むゲル化溶液に滴下して、前記スラリーをゲル化し、粒子を形成し、粒子を形成する際に、粒子の第1の領域の金属元素の濃度が、第1の領域よりも粒子の外縁に近い第2の領域の金属元素の濃度よりも低くなるようにゲル化の時間を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄冷物質の粉末をアルギン酸水溶液に加えて混合して、スラリーを形成し、
前記スラリーを、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、ベリリウム(Be)、ストロンチウム(Sr)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、及び、コバルト(Co)から成る群から選ばれる一つの金属元素を含むゲル化溶液に滴下して、前記スラリーをゲル化し、粒子を形成し、
前記粒子を形成する際に、前記粒子の第1の領域の前記金属元素の濃度が、前記第1の領域よりも前記粒子の外縁に近い第2の領域の前記金属元素の濃度よりも低くなるように前記ゲル化の時間を制御する、蓄冷材粒子の製造方法。
【請求項2】
前記第1の領域及び前記第2の領域は前記蓄冷物質を含む、請求項1記載の蓄冷材粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第2の領域の前記金属元素の濃度は、2.0原子%以下である、請求項1記載の蓄冷材粒子の製造方法。
【請求項4】
前記第2の領域は前記第1の領域を囲む、請求項1記載の蓄冷材粒子の製造方法。
【請求項5】
前記第2の領域の前記金属元素の濃度は0.1原子%以上である、請求項1記載の蓄冷材粒子の製造方法。
【請求項6】
前記第2の領域の前記金属元素の濃度は、前記第1の領域の前記金属元素の濃度の1.03倍以上である、請求項1記載の蓄冷材粒子の製造方法。
【請求項7】
前記ゲル化の時間は1時間以内である、請求項1記載の蓄冷材粒子の製造方法。
【請求項8】
前記粒子を焼結する、請求項1記載の蓄冷材粒子の製造方法。
【請求項9】
前記蓄冷物質は、酸化物又は酸硫化物を含む、請求項1記載の蓄冷材粒子の製造方法。
【請求項10】
前記アルギン酸水溶液は、アルギン酸ナトリウム水溶液、アルギン酸アンモニウム水溶液、又は、アルギン酸カリウム水溶液である、請求項1記載の蓄冷材粒子の製造方法。
【請求項11】
前記ゲル化溶液は、乳酸カルシウム水溶液、塩化カルシウム水溶液、塩化マンガン(II)水溶液、硫酸マグネシウム水溶液、硫酸ベリリウム水溶液、硝酸ストロンチウム水溶液、塩化アルミニウム水溶液、硝酸アルミニウム水溶液、乳酸アルミニウム水溶液、塩化鉄(II)水溶液、塩化鉄(III)水溶液、塩化銅(II)水溶液、塩化ニッケル(II)水溶液、又は塩化コバルト(II)水溶液である、請求項1記載の蓄冷材粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、蓄冷材粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導機器の冷却などに用いられる極低温冷凍機には、低温領域で高い体積比熱を有する蓄冷物質を含む蓄冷材粒子が用いられる。ここでは、単位体積あたりの比熱を体積比熱と定義する。蓄冷物質には、例えば、鉛(Pb)やビスマス(Bi)などの金属、HoCu、ErNiなどの希土類化合物、又は、AgO、CuOなどの酸化物、GdSなどの酸硫化物が用いられる。
【0003】
極低温冷凍機では、複数の蓄冷材粒子を蓄冷器の中に充填する。例えば、蓄冷材粒子と蓄冷器の中を通るヘリウムガスとの間で熱交換を行うことにより、寒冷を発生させる。蓄冷器に充填される蓄冷材粒子には、例えば、高い体積比熱、高い機械的強度、高い熱伝達率等、優れた特性を備えることが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-58079号公報
【特許文献2】特開2010-64946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、優れた特性を備える蓄冷材粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の蓄冷材粒子の製造方法は、蓄冷物質の粉末をアルギン酸水溶液に加えて混合して、スラリーを形成し、前記スラリーを、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、ベリリウム(Be)、ストロンチウム(Sr)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、及び、コバルト(Co)から成る群から選ばれる一つの金属元素を含むゲル化溶液に滴下して、前記スラリーをゲル化し、粒子を形成し、前記粒子を形成する際に、前記粒子の第1の領域の前記金属元素の濃度が、前記第1の領域よりも前記粒子の外縁に近い第2の領域の前記金属元素の濃度よりも低くなるように前記ゲル化の時間を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1の実施形態の蓄冷材粒子の説明図。
図2】第2の実施形態の冷凍機の要部構成を示す模式断面図。
図3】第3の実施形態の超電導磁石の概略構成を示す斜視図。
図4】第4の実施形態の核磁気共鳴イメージング装置の概略構成を示す断面図。
図5】第5の実施形態の核磁気共鳴装置の概略構成を示す断面図。
図6】第6の実施形態のクライオポンプの概略構成を示す断面図。
図7】第7の実施形態の磁界印加式単結晶引上げ装置の概略構成を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。なお、以下の説明では、同一又は類似の部材などには同一の符号を付し、一度説明した部材などについては適宜その説明を省略する場合がある。
【0009】
本明細書中、極低温とは、例えば、超電導現象を工業的に有用に利用できる温度域を意味する。例えば、20K以下の温度域である。
【0010】
(第1の実施形態)
第1の実施形態の蓄冷材粒子は、温度20K以下における比熱の最大値が0.3J/cm・K以上の蓄冷物質と、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、ベリリウム(Be)、ストロンチウム(Sr)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、及び、コバルト(Co)から成る群から選ばれる一つの金属元素と、を含む。そして、第1の領域と、第1の領域よりも蓄冷材粒子の外縁に近く第1の領域よりも金属元素の濃度が高い第2の領域とを有する。
【0011】
図1は、第1の実施形態の蓄冷材粒子の説明図である。図1(a)は蓄冷材粒子の模式断面図である。図1(b)は蓄冷材粒子の中の添加金属の濃度分布を示す図である。
【0012】
第1の実施形態の蓄冷材粒子10は、例えば、5K以下の極低温を実現する冷凍機に用いられる。
【0013】
蓄冷材粒子10の形状は、例えば、球状である。図1は、蓄冷材粒子10が真球の場合を示す。蓄冷材粒子の粒径(図1(a)中のD)は、例えば、50μm以上500μm以下である。
【0014】
蓄冷材粒子10の粒径Dは、円相当径である。円相当径は、光学顕微鏡画像又は走査電子顕微鏡画像(SEM画像)などの画像で観察される図形の面積に相当する真円の直径である。蓄冷材粒子10の粒径Dは、例えば、光学顕微鏡画像又はSEM画像の画像解析により求めることが可能である。
【0015】
蓄冷材粒子10は、温度20K以下における比熱の最大値が0.3J/cm・K以上の蓄冷物質を含む。
【0016】
蓄冷物質は、例えば、酸化物を含む。蓄冷物質は、例えば、酸化物を主成分として含む。蓄冷物質に含まれる酸化物は、例えば、銀(Ag)及び銅(Cu)の少なくともいずれか一方を含む。蓄冷物質に含まれる酸化物は、例えば、酸化銀、又は、酸化銅である。蓄冷物質に含まれる酸化物は、例えば、AgO、又は、CuOである。
【0017】
蓄冷物質は、例えば、酸硫化物を含む。蓄冷物質は、例えば、酸硫化物を主成分として含む。蓄冷物質に含まれる酸硫化物は、例えば、ガドリニウム(Gd)を含む。蓄冷物質に含まれる酸硫化物は、例えば、酸硫化ガドリニウムである。蓄冷物質に含まれる酸硫化物は、例えば、GdSである。
【0018】
蓄冷物質は、例えば、希土類化合物を主成分として含む。蓄冷物質に含まれる希土類化合物は、例えば、HoCu、ErNiである。
【0019】
蓄冷物質の組成分析は、例えば、エネルギー分散型X線分光法(EDX)や波長分散型X線分析法(WDX)により行うことが可能である。また、蓄冷物質の同定は、例えば、粉末X線回折法により行うことが可能である。
【0020】
蓄冷材粒子10は、添加金属を含む。添加金属は、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、ベリリウム(Be)、ストロンチウム(Sr)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、及び、コバルト(Co)から成る群から選ばれる一つの金属元素である。添加金属は、多価金属イオンとなり得る金属である。
【0021】
蓄冷材粒子10は、低濃度領域10a(第1の領域)と高濃度領域10b(第2の領域)を有する。高濃度領域10bの添加金属濃度は、低濃度領域10aの添加金属濃度よりも高い。
【0022】
高濃度領域10bは、低濃度領域10aよりも蓄冷材粒子10の外縁に近い。高濃度領域10bは低濃度領域10aを囲む。低濃度領域10aは、例えば、蓄冷材粒子10の中心を含む領域であり、高濃度領域10bは低濃度領域10aの外周の領域である。
【0023】
低濃度領域10a及び高濃度領域10bは蓄冷物質を含む。少なくとも高濃度領域10bでは、蓄冷物質と添加金属が混在する。低濃度領域10aに添加金属が含まれない構造とすることも可能である。
【0024】
高濃度領域10bの添加金属濃度は、例えば、0.1原子%以上2.0原子%以下である。
【0025】
高濃度領域10bの添加金属濃度は、例えば、低濃度領域10aの添加金属濃度の1.03倍以上10倍以下である。高濃度領域10bの添加金属濃度が低濃度領域10aの添加金属濃度の1.03倍以上となる高濃度領域10bの蓄冷材粒子10の外縁からの距離(図1(b)中のd)は、例えば、蓄冷材粒子10の粒径Dの1/20以上である。
【0026】
添加金属濃度が添加金属濃度の1.03倍以上となる高濃度領域10bの蓄冷材粒子10の外縁からの距離(図1(b)中のd)は、例えば、10μm以上である。
【0027】
添加金属濃度は、例えば、蓄冷材粒子10の外縁から中心に向かって単調減少する。
【0028】
蓄冷材粒子10に含まれる添加金属の検出、及び、添加金属濃度の測定は、例えば、波長分散型X線分析法(WDX)より行うことが可能である。例えば、蓄冷材粒子10の外縁から中心に向かって、WDXにより複数個所の添加金属濃度を測定し、蓄冷材粒子10の外縁に近い高濃度領域10bが存在するか否かの判定、高濃度領域10bの添加金属濃度の決定、低濃度領域10aの添加金属濃度に対する高濃度領域10bの添加金属濃度の割合、高濃度領域10bの添加金属濃度が低濃度領域10aの添加金属濃度の1.03倍以上となる高濃度領域10bの蓄冷材粒子10の外縁からの距離(図1(b)中のd)の算出、が可能である。また、例えば、WDXにより蓄冷材粒子10の中の添加金属濃度のマッピングを行い、高濃度領域10bが低濃度領域10aを囲んでいるか否かの識別が可能である。
【0029】
次に、第1の実施形態の蓄冷材粒子10の製造方法の一例について説明する。
【0030】
最初に、蓄冷物質の粉末をアルギン酸水溶液に加えて混合し、スラリーを作製する。蓄冷物質の粉末とアルギン酸水溶液の混合には、例えば、ボールミルを使用する。
【0031】
作製したスラリーをゲル化溶液に滴下し、スラリーをゲル化させる。スラリーのゲル化溶液への滴下は、例えば、スポイト、ビューレット、ピペット、シリンジ、ディスペンサー、インクジェット等を用いる。スラリーをゲル化させることで、蓄冷物質を含む球状の粒子がゲル化溶液中で形成される。
【0032】
ゲル化溶液には、イオン化した添加金属が含まれる。ゲル化の時間の経過と共に、粒子の外縁から中心に向かって、添加金属が浸透して行く。ゲル化の時間を制御することで、粒子の中の添加金属の濃度分布を制御する。すなわち、ゲル化の時間を制御することで、粒子の中心領域の添加金属濃度が低く、粒子の外周領域の添加金属濃度が高い分布を形成する。
【0033】
上記分布を形成する観点から、ゲル化の時間は、続く工程で粒子の形状が崩れない限度で、できるだけ短いことが好ましい。ゲル化の時間は、1時間以内であることが好ましく、30分以内であることがより好ましい。
【0034】
ゲル化により粒子が形成された後、粒子を純水で洗浄する。粒子を洗浄することにより、粒子の表面に吸着している添加金属が除去される。
【0035】
粒子を洗浄した後、粒子を乾燥する。粒子の乾燥後、粒子を焼結し、粒子の機械的強度及び粒子中の蓄冷物質密度を高くする。
【0036】
蓄冷物質は、例えば、酸化銀、酸化銅、又は、酸硫化ガドリニウムである。
【0037】
アルギン酸水溶液は、例えば、アルギン酸ナトリウム水溶液、アルギン酸アンモニウム水溶液、又は、アルギン酸カリウム水溶液である。
【0038】
ゲル化溶液は、例えば、乳酸カルシウム水溶液、塩化カルシウム水溶液、塩化マンガン(II)水溶液、硫酸マグネシウム水溶液、硫酸ベリリウム水溶液、硝酸ストロンチウム水溶液、塩化アルミニウム水溶液、硝酸アルミニウム水溶液、乳酸アルミニウム水溶液、塩化鉄(II)水溶液、塩化鉄(III)水溶液、塩化銅(II)水溶液、塩化ニッケル(II)水溶液、塩化コバルト(II)水溶液である。
【0039】
蓄冷物質、アルギン酸水溶液、ゲル化溶液の組み合わせは任意である。ただし、蓄冷物質が酸化銀、ゲル化溶液が塩化カルシウム水溶液を組み合わせると、塩化銀が生成されてしまうため、この組み合わせは除外される。
【0040】
以上の製造方法により、第1の実施形態の蓄冷材粒子10が製造できる。
【0041】
次に、第1の実施形態の蓄冷材粒子10の作用及び効果について説明する。
【0042】
超電導機器の冷却などに用いられる極低温冷凍機では、複数の蓄冷材粒子を蓄冷器の中に充填する。例えば、蓄冷材粒子と蓄冷器の中を通るヘリウムガスとの間で熱交換を行うことにより、寒冷を発生させる。蓄冷器に充填される蓄冷材粒子には、例えば、高い体積比熱、高い機械的強度、高い熱伝導率等、優れた特性を備えることが要求される。
【0043】
第1の実施形態の蓄冷材粒子10は、温度20K以下における比熱の最大値が0.3J/cm・K以上の蓄冷物質を含む。したがって、蓄冷材粒子10は、極低温において、高い体積比熱を備える。
【0044】
また、第1の実施形態の蓄冷材粒子10は、粒子の外周領域に添加金属濃度が高い高濃度領域10bを備える。添加金属は、蓄冷材粒子10を製造する際の焼結時に、粒子の焼結を促進する作用を有する。したがって、高濃度領域10bは焼結度合が高く、高い機械的強度を有する。よって、蓄冷材粒子10は、高い機械的強度を備える。
【0045】
また、高濃度領域10bは焼結度合が高いため、高濃度領域10bの熱伝導率が高くなる。したがって、蓄冷材粒子10は、高い熱伝導率を備える。
【0046】
添加金属濃度が高くなると、粒子の焼結度合があがる一方で、添加金属の体積割合が増えることで、蓄冷物質の体積割合が減少するという問題がある。また、添加金属は蓄冷物質との反応により、比熱の低い化合物を形成する。このため、添加金属濃度が高くなると、蓄冷物質が比熱の低い化合物に変わり、蓄冷物質の体積割合が減少するという問題がある。
【0047】
第1の実施形態の蓄冷材粒子10は、粒子の中心領域に添加金属濃度が低い低濃度領域10aを備える。したがって、粒子の中心領域では添加元素による蓄冷物質の体積割合の低下が抑制されている。したがって、蓄冷材粒子10は、高い体積比熱を備える。
【0048】
第1の実施形態の蓄冷材粒子10は、粒子の外周領域に添加金属濃度が高い高濃度領域10bを備えることで、機械的強度と熱伝導率が向上する。一方、粒子の中心領域に低濃度領域10aを備えることで、体積比熱が向上する。第1の実施形態の蓄冷材粒子10は、粒子の中の添加元素の濃度分布を最適化することにより、高い体積比熱、高い機械的強度、及び、高い熱伝導率を備えている。
【0049】
蓄冷材粒子10の中の添加元素の濃度分布の最適化は、蓄冷材粒子10を製造する際の、ゲル化の時間を最適化することで実現できる。より具体的には、ゲル化の時間をできる限り短くすることで実現できる。ゲル化の時間が長くなりすぎると、蓄冷材粒子10の中の添加元素の濃度が均一となり特性が低下する。ゲル化の時間は、1時間以内であることが好ましく、30分以内であることがより好ましい。
【0050】
蓄冷材粒子10の機械的強度及び熱伝導率を高くする観点から、高濃度領域10bの添加金属濃度は0.1原子%以上であることが好ましく、0.2原子%以上であることがより好ましい。
【0051】
蓄冷材粒子10の高い機械的強度、高い熱伝導率、及び、高い体積比熱を実現する観点から、高濃度領域10bの添加金属濃度は、低濃度領域10aの添加金属濃度の1.03倍以上であることが好ましく、1.05倍以上であることがより好ましく、1.1倍以上であることが更に好ましく、1.2倍以上であることが最も好ましい。
【0052】
蓄冷材粒子10の機械的強度及び熱伝導率を高くする観点から、高濃度領域10bの添加金属濃度が低濃度領域10aの添加金属濃度の1.03倍以上となる高濃度領域10bの蓄冷材粒子10の外縁からの距離(図1(b)中のd)は、蓄冷材粒子10の粒径D(図1(a)中のD)の1/20以上であることが好ましく、1/10以上であることがより好ましい。
【0053】
蓄冷材粒子10の機械的強度及び熱伝導率を高くする観点から、添加金属濃度が添加金属濃度の1.1倍以上となる高濃度領域10bの蓄冷材粒子10の外縁からの距離(図1(b)中のd)は、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。
【0054】
蓄冷材粒子10の高い機械的強度、高い熱伝導率、及び、高い体積比熱を実現する観点から、添加金属濃度は、蓄冷材粒子10の外縁から中心に向かって単調減少することが好ましい。
【0055】
蓄冷材粒子10の機械的強度及び熱伝導率を高くする観点から、添加元素は焼結の促進能力が高いカルシウム(Ca)であることが好ましい。
【0056】
以下、第1の実施形態の蓄冷材粒子10の実施例、比較例、及び、それらの評価結果について説明する。
【0057】
上述した第1の実施形態の蓄冷材粒子の製造方法に従って、蓄冷材粒子を作製した。蓄冷物質として酸化銀、酸化銅、および、酸硫化ガドリニウム、アルギン酸水溶液としてアルギン酸ナトリウム水溶液、ゲル化溶液として乳酸カルシウム水溶液、滴下方法としてシリンジを用いた。アルギン酸ナトリウム水溶液濃度、アルギン酸ナトリウム水溶液に対して加える蓄冷物質の量、乳酸カルシウム水溶液濃度およびゲル化の時間を適宜変化させ、表1に示す蓄冷材粒子を得た(実施例1~18、比較例1~3)。
【0058】
蓄冷材粒子が冷凍機を構成する蓄冷器に充填されて冷凍機が運転した時に蓄冷材粒子に求められる機械強度を評価するために、作製した蓄冷材粒子をそれぞれφ15mm、高さ5cmの円筒容器に充填し、容器に対して最大加速度200m/sの単振動を1,000回与えた。その結果、破壊した蓄冷材粒子の有無を示す。第2の領域の金属元素の濃度(原子%)が0.1を下回ると、焼結が十分に進まず蓄冷材粒子の機械強度が低下することが分かる。
【0059】
また、20Kにおける体積比熱を測定し、蓄冷物質固有の体積比熱、すなわち蓄冷物質体積割合が100vol%のときの体積比熱と比較し、蓄冷物質体積割合が100vol%のときの体積比熱に対する今回得られた蓄冷材粒子(実施例1~18、比較例1~3)の体積比熱低下率を評価した。この結果から、第1の領域の金属元素の濃度(C1)に対する第2の領域の金属元素の濃度(C2)の濃度比(C2/C1)が1.03を下回ると蓄冷材粒子全体に金属元素が行き渡り、金属元素の割合が過剰なため体積比熱の低下が見られる。そして、濃度比が1になる、すなわち、第1の領域の金属元素の濃度(C1)と第2の領域の金属元素の濃度(C2)とが等しくなると、体積比熱の低下が実使用上好ましくない5%を上回ることが分かる。
【0060】
【表1】
【0061】
以上、第1の実施形態によれば、高い体積比熱、高い機械的強度、及び、高い熱伝達率という優れた特性を備えた蓄冷材粒子が実現できる。
【0062】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の冷凍機は、第1の実施形態の蓄冷材粒子が複数充填された蓄冷器を備える冷凍機である。以下、第1の実施形態と重複する内容については、一部記述を省略する。
【0063】
図2は、第2の実施形態の冷凍機の要部構成を示す模式断面図である。第2の実施形態の冷凍機は、超電導機器などの冷却に用いられる2段式の蓄冷型極低温冷凍機100である。
【0064】
蓄冷型極低温冷凍機100は、第1シリンダ111、第2シリンダ112、真空容器113、第1蓄冷器114、第2蓄冷器115、第1シールリング116、第2シールリング117、第1蓄冷材118、第2蓄冷材119、第1膨張室120、第2膨張室121、第1冷却ステージ122、第2冷却ステージ123、コンプレッサ124を備える。
【0065】
蓄冷型極低温冷凍機100は、大径の第1シリンダ111と、第1シリンダ111と同軸的に接続された小径の第2シリンダ112とが設置された真空容器113を有している。第1シリンダ111には第1蓄冷器114が往復運動自在に配置されている。第2シリンダ112には、第2の実施形態の蓄冷器の一例である第2蓄冷器115が往復運動自在に配置されている。
【0066】
第1シリンダ111と第1蓄冷器114との間には、第1シールリング116が配置されている。第2シリンダ112と第2蓄冷器115との間には、第2シールリング117が配置されている。
【0067】
第1蓄冷器114には、Cuメッシュなどの第1蓄冷材118が収容されている。第2蓄冷器115には、第1の実施形態の蓄冷材粒子10が、複数個、第2蓄冷材119として充填されている。
【0068】
第1蓄冷器114及び第2蓄冷器115は、第1蓄冷材118や第2蓄冷材119の間隙などに設けられた作動媒質の通路をそれぞれ有している。作動媒質は、ヘリウムガスである。
【0069】
第1蓄冷器114と第2蓄冷器115との間には、第1膨張室120が設けられている。また、第2蓄冷器115と第2シリンダ112の先端壁との間には、第2膨張室121が設けられている。そして、第1膨張室120の底部に第1冷却ステージ122が設けられている。また、第2膨張室121の底部に第1冷却ステージ122より低温の第2冷却ステージ123が形成されている。
【0070】
第1蓄冷器114と第2蓄冷器115との間には、第1膨張室120が設けられている。また、第2蓄冷器115と第2シリンダ112の先端壁との間には、第2膨張室121が設けられている。そして、第1膨張室120の底部に第1冷却ステージ122が設けられている。また、第2膨張室121の底部に第1冷却ステージ122より低温の第2冷却ステージ123が形成されている。
【0071】
上述した2段式の蓄冷型極低温冷凍機100には、コンプレッサ124から高圧の作動媒質が供給される。供給された作動媒質は、第1蓄冷器114に収容された第1蓄冷材118間を通過して第1膨張室120に到達する。そして、第2蓄冷器115に収容された第2蓄冷材119間を通過して第2膨張室121に到達する。
【0072】
この際に、作動媒質は第1蓄冷材118及び第2蓄冷材119に熱エネルギーを供給して冷却される。第1蓄冷材118及び第2蓄冷材119の間を通過した作動媒質は、第1膨張室120及び第2膨張室121で膨張して寒冷を発生させる。そして、第1冷却ステージ122及び第2冷却ステージ123が冷却される。
【0073】
膨張した作動媒質は、第1蓄冷材118及び第2蓄冷材119の間を反対方向に流れる。作動媒質は第1蓄冷材118及び第2蓄冷材119から熱エネルギーを受け取った後に排出される。こうした過程で復熱効果が良好になるに従って作動媒質サイクルの熱効率が向上し、より一層低い温度が実現されるように蓄冷型極低温冷凍機100は構成されている。
【0074】
以上、第2の実施形態によれば、優れた特性を備えた蓄冷材粒子を用いること優れた特性の冷凍機が実現できる。
【0075】
(第3の実施形態)
第3の実施形態の超電導磁石は、第2の実施形態の冷凍機を備える。以下、第2の実施形態と重複する内容については、一部記述を省略する。
【0076】
図3は、第3の実施形態の超電導磁石の概略構成を示す斜視図である。第3の実施形態の超電導磁石は、第2の実施形態の蓄冷型極低温冷凍機100を備える磁気浮上列車用超電導磁石300である。
【0077】
磁気浮上列車用超電導磁石300は、超電導コイル301、この超電導コイル301を冷却するための液体ヘリウムタンク302、この液体ヘリウムタンク302の揮散を防ぐ液体窒素タンク303、積層断熱材305、パワーリード306、永久電流スイッチ307、及び、蓄冷型極低温冷凍機100を備える。
【0078】
第3の実施形態によれば、優れた特性の冷凍機を用いることで優れた特性の超電導磁石が実現できる。
【0079】
(第4の実施形態)
第4の実施形態の核磁気共鳴イメージング装置は、第2の実施形態の冷凍機を備える。以下、第2の実施形態と重複する内容については、一部記述を省略する。
【0080】
図4は、第4の実施形態の核磁気共鳴イメージング装置の概略構成を示す断面図である。第4の実施形態の核磁気共鳴イメージング(MRI)装置は、第2の実施形態の蓄冷型極低温冷凍機100を備える核磁気共鳴イメージング装置400である。
【0081】
核磁気共鳴イメージング装置400は、人体に対して空間的に均一で時間的に安定な静磁界を印加する超電導静磁界コイル401、発生磁界の不均一性を補正する図示を省略した補正コイル、測定領域に磁界勾配を与える傾斜磁界コイル402、ラジオ波送受信用プローブ403、クライオスタット405、及び、放射断熱シールド406を備える。そして、超電導静磁界コイル401の冷却用として、蓄冷型極低温冷凍機100が用いられている。
【0082】
第4の実施形態によれば、優れた特性の冷凍機を用いることで優れた特性の核磁気共鳴イメージング装置が実現できる。
【0083】
(第5の実施形態)
第5の実施形態の核磁気共鳴装置は、第2の実施形態の冷凍機を備える。以下、第2の実施形態と重複する内容については、一部記述を省略する。
【0084】
図5は、第5の実施形態の核磁気共鳴装置の概略構成を示す断面図である。第5の実施形態の核磁気共鳴(NMR)装置は、第2の実施形態の蓄冷型極低温冷凍機100を備える核磁気共鳴装置500である。
【0085】
核磁気共鳴装置500は、サンプル管501に入れられた有機物等のサンプルに磁界を印加する超電導静磁界コイル502、磁場中のサンプル管501にラジオ波を印加する高周波発振器503、サンプル管501の周りの図示しないコイルに発生する誘導電流を増幅する増幅器504を備える。また、超電導静磁界コイル502を冷却する蓄冷型極低温冷凍機100を備える。
【0086】
第5の実施形態によれば、優れた特性の冷凍機を用いることで優れた特性の核磁気共鳴装置が実現できる。
【0087】
(第6の実施形態)
第6の実施形態のクライオポンプは、第2の実施形態の冷凍機を備える。以下、第2の実施形態と重複する内容については、一部記述を省略する。
【0088】
図6は、第6の実施形態のクライオポンプの概略構成を示す断面図である。第6の実施形態のクライオポンプは、第2の実施形態の蓄冷型極低温冷凍機100を備えるクライオポンプ600である。
【0089】
クライオポンプ600は、気体分子を凝縮又は吸着するクライオパネル601、クライオパネル601を所定の極低温に冷却する蓄冷型極低温冷凍機100、クライオパネル601と蓄冷型極低温冷凍機100の間に設けられたシールド603、吸気口に設けられたバッフル604、及び、アルゴン、窒素、水素等の排気速度を変化させるリング605を備える。
【0090】
第6の実施形態によれば、優れた特性の冷凍機を用いることで優れた特性のクライオポンプが実現できる。
【0091】
(第7の実施形態)
第7の実施形態の磁界印加式単結晶引上げ装置は、第2の実施形態の冷凍機を備える。以下、第2の実施形態と重複する内容については、一部記述を省略する。
【0092】
図7は、第7の実施形態の磁界印加式単結晶引上げ装置の概略構成を示す斜視図である。第7の実施形態の磁界印加式単結晶引上げ装置は、第2の実施形態の蓄冷型極低温冷凍機100を備える磁界印加式単結晶引上げ装置700である。
【0093】
磁界印加式単結晶引上げ装置700は、原料溶融用るつぼ、ヒータ、単結晶引上げ機構等を有する単結晶引上げ部701、原料融液に対して静磁界を印加する超電導コイル702、単結晶引上げ部701の昇降機構703、電流リード705、熱シールド板706、及び、ヘリウム容器707を備える。そして、超電導コイル702の冷却用として、蓄冷型極低温冷凍機100が用いられている。
【0094】
第7の実施形態によれば、優れた特性の冷凍機を用いることで優れた特性の磁界印加式単結晶引上げ装置が実現できる。
【0095】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。例えば、一実施形態の構成要素を他の実施形態の構成要素と置き換え又は変更してもよい。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0096】
10 蓄冷材粒子
10a 低濃度領域
10b 高濃度領域
100 蓄冷型極低温冷凍機
300 超電導磁石
400 核磁気共鳴イメージング装置
500 核磁気共鳴装置
600 クライオポンプ
700 磁界印加式単結晶引上げ装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7