(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159137
(43)【公開日】2023-10-31
(54)【発明の名称】球状アルミナ粒子混合物及びその製造方法、並びに当該球状アルミナ粒子混合物を含む樹脂複合組成物及び樹脂複合体
(51)【国際特許分類】
C01F 7/027 20220101AFI20231024BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20231024BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20231024BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20231024BHJP
C09K 5/14 20060101ALN20231024BHJP
【FI】
C01F7/027
C08L101/00
C08L63/00 C
C08K3/22
C09K5/14 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023125671
(22)【出願日】2023-08-01
(62)【分割の表示】P 2022572396の分割
【原出願日】2022-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2021060414
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】沼尾 竜太郎
(72)【発明者】
【氏名】青山 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】阿江 正徳
(72)【発明者】
【氏名】田中 睦人
(72)【発明者】
【氏名】矢木 克昌
(57)【要約】
【課題】樹脂と混錬した際にできる樹脂組成物の熱伝導率を向上させ、且つ粘性を抑えることができる球状アルミナ粒子混合物とその製造方法の提供を課題とする。
【解決手段】湿式粒度試験法によって測定された粒度分布において、180μm以上の粒子が0.04重量%以下であること、
α化率が45%以上であること、
比表面積が0.3~1.0m2/gであること、及び、
円形度が0.85以上であること、を特徴とする、球状アルミナ粒子混合物、およびその製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式粒度試験法によって測定された粒度分布において、180μm以上の粒子が0.04重量%以下であること、
α化率が45%以上であること、
比表面積が0.3~1.0m2/gであること、及び、
円形度が0.85以上であること、を特徴とする、球状アルミナ粒子混合物。
【請求項2】
平均粒径(D50)が30~160μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(a)、D50が4~12μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(b)、D50が2~3μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(c)及びD50が0.8~1.0μmであり、かつ円形度が0.90以上であるアルミナ粒子(d)からなる群から選ばれる少なくとも3種類以上を含有し、
球状アルミナ粒子(a)を50~80重量%、球状アルミナ粒子(b)を10~30重量%及び球状アルミナ粒子(d)を5~30重量%含有し、球状アルミナ粒子(a)、球状アルミナ粒子(b)及び球状アルミナ粒子(d)の合計が90重量%以上であり、
比表面積が0.3~1.0m2/gである、
請求項1に記載の球状アルミナ粒子混合物。
【請求項3】
平均粒径(D50)が30~160μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(a)、D50が4~12μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(b)、D50が2~3μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(c)及びD50が0.8~1.0μmであり、かつ円形度が0.90以上であるアルミナ粒子(d)からなる群から選ばれる少なくとも3種類以上を含有し、
球状アルミナ粒子(a)を50~80重量%、球状アルミナ粒子(b)を10~40重量%及び球状アルミナ粒子(c)を5~30重量%含有し、球状アルミナ粒子(a)、球状アルミナ粒子(b)及び球状アルミナ粒子(c)の合計が90重量%以上であり、
比表面積が0.3~1.0m2/gである、請求項1に記載の球状アルミナ粒子混合物。
【請求項4】
平均粒径(D50)が30~160μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(a)、D50が4~12μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(b)、D50が2~3μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(c)及びD50が0.8~1.0μmであり、かつ円形度が0.90以上であるアルミナ粒子(d)からなる群から選ばれる少なくとも4種類以上を含有し、
球状アルミナ粒子(a)を50~70重量%、球状アルミナ粒子(b)を10~30重量%、球状アルミナ粒子(c)を10~30重量%及び球状アルミナ粒子(d)が5~30重量%含有し、球状アルミナ粒子(a)、球状アルミナ粒子(b)及び球状アルミナ粒子(c)及び球状アルミナ粒子(d)の合計が90重量%以上であり、
比表面積が0.3~1.0m2/gである、請求項1に記載の球状アルミナ粒子混合物。
【請求項5】
球状アルミナ粒子(a)~(d)のいずれも火炎溶融法又はVMC法により製造されてなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の球状アルミナ粒子混合物。
【請求項6】
樹脂中に、請求項1~5のいずれか1項に記載された球状アルミナ粒子混合物を含有することを特徴とする、樹脂複合組成物。
【請求項7】
請求項6に記載された樹脂複合組成物を硬化してなることを特徴とする、樹脂複合体。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載された球状アルミナ粒子混合物の製造方法であって、平均粒径(D50)が30~160μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(a)、D50が4~12μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(b)、D50が2~3μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(c)及びD50が0.8~1.0μmであり、かつ円形度が0.90以上であるアルミナ粒子(d)からなる群から選ばれる少なくとも3種類以上を混合することを特徴とする、球状アルミナ粒子混合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状アルミナ粒子混合物、特に、高い熱伝導率と流動性を兼ね備えた球状アルミナ粒子混合物およびその製造方法、並びに当該球状アルミナ粒子混合物を含む樹脂複合組成物及び樹脂複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などの電子機器の高機能化、高速化によって、電子機器内部の電子部品から発せられる熱量が増大している。電子機器の正常な動作のために、発せられる熱を効率よく外部へ放散させることが重要な課題となっている。熱放散のために多用されているのが放熱シートや放熱接着剤と呼ばれるものである。これらは発熱体と放熱フィンの間に貼り付け或いは塗布し圧着することで発熱体と放熱フィンとの隙間をなくし、効率よく熱を発散することができる。また電子部品の内部にある、半導体自体も同様の高機能化、高速化による発熱が著しく、半導体を保護する封止材についても熱放散性を付与することが求められている。
【0003】
一般に放熱シートや放熱接着剤、半導体封止材は熱伝導性無機フィラーと樹脂とで構成されている。熱伝導性無機フィラーは安価な水酸化アルミニウムや酸化アルミニウム(以下、アルミナ)、さらに高熱伝導を期待した炭化ケイ素や窒化ホウ素、窒化アルミニウムといった素材が使われている。また樹脂としては放熱シートや放熱接着剤であれば、シリコーン樹脂が、半導体封止材についてはエポキシ樹脂が一般的に使用されている。
【0004】
概して、フィラーは樹脂よりも熱伝導性が高いことから、これら部材の熱伝導率を向上させるための手段として、樹脂に加えるフィラーの充填量を上げることで高熱伝導率化を目指すという方法が多く研究されている。
【0005】
特許文献1では、フィラーとして、平均粒径80μm以上の球状粒子と平均粒径0.5~7μmの非球状微粒子を所定の体積比率で組み合わせることで高熱伝導性を獲得している。
【0006】
特許文献2では、フィラーとして、粒度分布のピーク値が30μm以上の大型の球状粒子と、5μm以下の小型の非球状微粒子と、それらの間の中型の非球状粒子を組み合わせることでさらに高熱伝導化を狙った研究もされている。
【0007】
文献3では、フィラーとして、平均粒径30~60μmの粗粒子と、0.1以上7μm未満の超微粒子と、それらの間の粒径の微粒子を組み合わせること、特にαアルミナ結晶の含有量の多いものを使用することで、さらに高熱伝導化を狙った研究もされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5085050号公報
【特許文献2】特許第5345340号公報
【特許文献3】特開2007-153969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように熱伝導率を向上させるために、無機フィラーの充填率を向上させる研究が多くなされている。ただし、特許文献1、2では微粒子または小径の粒子に非球状粒子を使用している。これは、非球状粒子は球状粒子に比べて当該粒子どうしの接触面積が大きくなり、より大きな熱伝導率得られるためである。さらに、熱伝導率を大きくするために、非球状の微粒子または小径の粒子を使用することによってフィラー充填率を上げている。しかしながら、樹脂と当該非球状粒子を混錬した際に、相対的に樹脂の比率が低く、且つ非球状粒子の接触面積が大きいので、樹脂組成物の粘性が高まり、樹脂組成物の流動性を損ない、作業性に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0010】
文献3では、その実施例において、αアルミナの含有量が90%以上含むアルミナ粒子を使用している。これは、α結晶を多く含むアルミナ粒子を用いることによって、熱伝導性を向上させるためである。そして、それらのアルミナ粒子は粉砕、解砕によって得るとされており、すなわちアルミナ粒子として非球状粒子を使用している。そのために、前述と同じ理由で樹脂組成物の流動性を損なってしまう。
【0011】
そこで本発明は、樹脂と混錬した際にできる樹脂組成物の熱伝導率を向上させ、且つ粘性を抑えることができる球状アルミナ粒子混合物とその製造方法、並びに当該球状アルミナ粒子混合物を含む樹脂複合組成物及び樹脂複合体の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前述の課題を解決するため、鋭意検討の結果なされたものであり、その要旨とするところは特許請求の範囲に記載した通りの以下内容である。
(1)湿式粒度試験法によって測定された粒度分布において、180μm以上の粒子が0.04重量%以下であること、
α化率が45%以上であること、
比表面積が0.3~1.0m2/gであること、及び、
円形度が0.85以上であること、を特徴とする、球状アルミナ粒子混合物。
(2)平均粒径(D50)が30~160μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(a)、D50が4~12μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(b)、D50が2~3μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(c)及びD50が0.8~1.0μmであり、かつ円形度が0.90以上であるアルミナ粒子(d)からなる群から選ばれる少なくとも3種類以上を含有し、球状アルミナ粒子(a)を50~80重量%、球状アルミナ粒子(b)を10~30重量%及び球状アルミナ粒子(d)を5~30重量%含有し、球状アルミナ粒子(a)、球状アルミナ粒子(b)及び球状アルミナ粒子(d)の合計が90重量%以上であり、
比表面積が0.3~1.0m2/gである、(1)の球状アルミナ粒子混合物。
(3)平均粒径(D50)が30~160μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(a)、D50が4~12μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(b)、D50が2~3μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(c)及びD50が0.8~1.0μmであり、かつ円形度が0.90以上であるアルミナ粒子(d)からなる群から選ばれる少なくとも3種類以上を含有し、 球状アルミナ粒子(a)を50~80重量%、球状アルミナ粒子(b)を10~40重量%及び球状アルミナ粒子(c)を5~30重量%含有し、球状アルミナ粒子(a)、球状アルミナ粒子(b)及び球状アルミナ粒子(c)の合計が90重量%以上であり、
比表面積が0.3~1.0m2/gである、(1)の球状アルミナ粒子混合物。
(4)平均粒径(D50)が30~160μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(a)、D50が4~12μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(b)、D50が2~3μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(c)及びD50が0.8~1.0μmであり、かつ円形度が0.90以上であるアルミナ粒子(d)からなる群から選ばれる少なくとも4種類以上を含有し、 球状アルミナ粒子(a)を50~70重量%、球状アルミナ粒子(b)を10~30重量%、球状アルミナ粒子(c)を10~30重量%及び球状アルミナ粒子(d)が5~30重量%含有し、球状アルミナ粒子(a)、球状アルミナ粒子(b)及び球状アルミナ粒子(c)及び球状アルミナ粒子(d)の合計が90重量%以上であり、
比表面積が0.3~1.0m2/gである、(1)に記載の球状アルミナ粒子混合物。
(5)球状アルミナ粒子(a)~(d)のいずれも火炎溶融法又はVMC法により製造されてなる、(1)~(4)のいずれかに記載の球状アルミナ粒子混合物。
【0013】
(6)樹脂中に、(1)~(5)のいずれか記載された球状アルミナ粒子混合物を含有することを特徴とする、樹脂複合組成物。
(7)(6)に記載された樹脂複合組成物を硬化してなることを特徴とする、樹脂複合体。
(8)(1)~(4)いずれかに記載された球状アルミナ粒子混合物の製造方法であって、平均粒径(D50)が30~160μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(a)、D50が4~12μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(b)、D50が2~3μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(c)及びD50が0.8~1.0μmであり、かつ円形度が0.90以上であるアルミナ粒子(d)からなる群から選ばれる少なくとも3種類以上を混合することを特徴とする、球状アルミナ粒子混合物の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一実施態様によれば、熱伝導率を向上させた放熱シート、放熱接着剤、半導体封止材を提供でき、さらに樹脂と混錬した際にできる樹脂組成物の粘性を抑えることができるアルミナ粒子混合物とその製造方法が提供される。また、本発明の一実施態様によれば、当該球状アルミナ粒子混合物を含む樹脂複合組成物及び樹脂複合体も提供される。さらに、本発明の一実施態様によって、所定の範囲内の粒度を好適な範囲内の配合比率で作成されるアルミナ粒子混合物は、5.0W/mK以上という高い熱伝導率を有する放熱シート、放熱グリース、半導体封止材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態である、アルミナ粒子混合物の、比表面積と流動性(粘度)との関係を表したチャートである。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態である、アルミナ粒子混合物の、比表面積と熱伝導率との関係を表したチャートである。
【
図3】
図3は、アルミナ粒子混合物において、主に大粒子の配合比を変化させたときの、熱伝導率および粘度の変化を示すチャートである。
【
図4】
図4は、アルミナ粒子混合物において、主に中粒子の配合比を変化させたときの、熱伝導率および粘度の変化を示すチャートである。
【
図5】
図5は、アルミナ粒子混合物において、主に微粒子の配合比を変化させたときの、熱伝導率および粘度の変化を示すチャートである。
【
図6】
図6は、アルミナ粒子混合物において、主に超微粒子の配合比を変化させたときの、熱伝導率および粘度の変化を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明者らは、熱伝導性が高く、且つ、流動性に優れたアルミナ粒子混合物(より詳しくは、樹脂と混合した場合に、当該樹脂混合物の熱伝導率が高く、且つ、粘度の低い、アルミナ粒子混合物)を得るために、鋭意検討を行なった。その中で、球状アルミナ粒子混合物の比表面積と熱伝導率との間に相関関係があること、球状アルミナ粒子混合物の比表面積と流動性との間に相関関係があること、及び、球状アルミナ粒子混合物のα化率と熱伝導率との間に相関関係があること、を発明者らは知見した。その知見に基づいて、本発明者らは、本発明を完成させた。より具体的には、球状アルミナ粒子混合物において、α化率、及び比表面積を所定の範囲に制御することによって、所望する、熱伝導性が高く、且つ、流動性に優れた球状アルミナ粒子混合物、及びその製造方法、当該球状アルミナ粒子混合物を含む樹脂複合組成物及び樹脂複合体を、本発明者らが完成させた。
【0017】
本発明の一実施態様によって提供される、球状アルミナ粒子混合物は、
湿式粒度試験法によって測定された粒度分布において、180μm以上の粒子が0.04重量%以下であること、
α化率が45%以上であること、
比表面積が0.3~1.0m2/gであること、及び、
円形度が0.85以上であること、
を特徴とする。
【0018】
(湿式粒度試験法によって測定された粒度分布において、180μm以上の粒子が0.04重量%以下であること。) 本一実施態様による、球状アルミナ粒子は、概して、樹脂と混合されて、半導体封止材としても用いられることがある。封止される半導体素子は多くのワイヤーが高密度に配線されていることがあり、その配線どうしの間隔は狭隘なことがある。球状アルミナ粒子が、粒度分布において、180μm以上の粒子が0.04重量%超である場合、配線どうしの狭隘な間隔に、回り込めないおそれがある。なお、ここでの重量割合は、球状アルミナ粒子の全体を基準、すなわち100重量%、とするものである。
【0019】
同様に、球状アルミナ粒子は、概して、樹脂と混合されて、放熱シートや放熱接着剤などの放熱部材に用いられることがある。こうした放熱部材は圧力などで圧縮されることによって、熱を別の部材へ伝わりやすくするように使用されることがある。球状アルミナ粒子が、粒度分布において、180μm以上の粒子が0.04重量%超である場合、圧縮した際に180μm以上の粗大粒子によって圧縮が阻害される恐れがある。
【0020】
したがって、本一実施態様による、球状アルミナ粒子混合物は、配線どうしの狭隘な間隔にも廻り込むことができるように、あるいは、放熱部材が十分に圧縮できるように、180μm以上の粒子が0.04重量%以下である。または、実質的に、180μm以上に分布を持たない。なお、配線間隔や圧縮する厚み等の使用環境に応じて、粒度分布の最大値を適宜調整してもよく、例えば、粒度分布の最大値を、150μmとしてもよく、120μmとしてもよい。言い換えると、粒度分布において、150μm以上の粒子が0.04重量%以下であってもよく、120μm以上の粒子が0.04重量%以下であってもよい。
【0021】
なお、湿式粒度試験法とは、容器に試験対象の球状アルミナ粒子10gと水を加え、超音波を用いて球状粒子を十分に分散させスラリーを作成する。スラリーを試験篩の網の上に移して、篩分けを行う。試験篩の網の上に残った粒子を適当な容器にとり、ホットプレートなどを用いて試料を蒸発乾固させ、残渣の重量を測定し、試験対象の球状アルミナ粒子10g中の篩分けされた粒子重量の割合を算出する。
【0022】
(α化率が45%以上であること)
アルミナは結晶系によって熱伝導性に差のあることが知られており、α-アルミナは最も熱伝導率の高い結晶である。従って、α-アルミナを多く含むアルミナ粉末を用いることによって絶縁性樹脂組成物の熱伝導性を向上させることができる。この点で、球状アルミナ粒子混合物のバルクでのα化率(アルミナ粒子混合物に含まれる結晶のうち、α-アルミナの占める割合)が高いほど、当該アルミナ粒子混合物の熱伝導性は高くなり、好ましい。
【0023】
一方で、α-アルミナは出発材料を高温処理して、結晶成長させることにより得られ、例えば水酸化アルミニウムまたはアルミナを高温で加熱することによって得ることが一般的である。加熱方法は、炉内での焼成、高温熱水による加熱等により行うことができる。また、所望の粒径を有するα粒子を効率的に得る観点から、加熱後の粗大化したα粒子を粉砕または解砕することが一般的である。そのため、粒径の小さいαアルミナ粒子は、円形度の低い、非球状粒子であることが多い。言い換えると、粒径の小さいαアルミナ粒子から球状粒子だけを、選択して収集することは、困難であり、それを実現しようとするには高いコストを負担する必要がある。
【0024】
本発明者らは、後段で詳述するように、球状アルミナ粒子混合物のバルクでの比表面積を特定の範囲に制御することにより、高い熱伝導性と優れた流動性を得ることができること、加えてそのときの球状アルミナ粒子混合物のバルクでのα化率が45%以上であれば、十分に高い熱伝導性が得られることを見出した。
【0025】
球状アルミナ粒子混合物のバルクでのα化率が45%未満であると、当該球状アルミナ粒子混合物を混合した樹脂組成物が十分に高い熱伝導性を得られないことがある。したがって、本一実施態様による、球状アルミナ粒子混合物は、当該球状アルミナ粒子混合物を混合した樹脂組成物が十分に高い熱伝導性を得ることができるように、α化率が45%以上である。なお、所望の熱伝導率が得られるように、α化率を適宜調整してもよく、例えば、α化率を、下限値に関して、55%以上としてもよく、65%以上としてもよい。また、α化率の上限値に関しては、球状アルミナ粒子の比表面積や粒子表面の凹凸を制御し樹脂との親和性を向上させる観点から、90%未満としてもよく、85%以下としてもよく、75%以下としてもよい。所望のα化率に適宜調整する場合は、混合する球状アルミナ粒子のα化率を事前に測定し、測定されたα化率と配合比を用いて計算することで所望のα化率に調整することが可能である。
【0026】
<α化率の測定>
α化率は、粉末X線回折装置を用いて測定する。得られた回折ピークの積分面積を求め、その合計に対してαアルミナ由来の回折ピーク面積の割合をリートベルト法によって解析する。
【0027】
(比表面積が0.3~1.0m
2/gであること)
本発明者らは球状アルミナ粒子混合物のバルクでの比表面積が、熱伝導率及び流動性(粘度)と相関を有することを見出した。
図1は球状アルミナ粒子混合物の比表面積と流動性(粘度)との関係を表したチャートであり、
図2は球状アルミナ粒子混合物の比表面積と熱伝導率との関係を表したチャートである。粘度は
図1に示すように比表面積に対してある一定の比表面積の範囲で極小値となるような特性となり、熱伝導率は
図2に示すように比表面積に対して一定の比表面積の範囲で極大値となるような特性を示す。
【0028】
なお、粒径の異なる球状粒子がそれぞれ等重量で存在する場合、粒子数は粒径が小さいほど多くなり、比表面積も粒径が小さいほど大きくなる。したがって、異なる粒径の球状粒子を適宜配合比を調整して組み合わせることにより、球状アルミナ粒子混合物において、所望のバルクの比表面積を得ることができる。概して、球状アルミナ粒子混合物において、大きい粒径の粒子の重量比率が高くなると、バルクの比表面積は低下し、小さい粒径の粒子の重量比率が高くなると、バルクの比表面積は上昇する。
【0029】
ここでは、樹脂に粒子(フィラー)を混合して得られる典型的な樹脂組成物において、熱がどのように伝わり、熱伝導率がどのように変化するか述べる。概して、フィラーは樹脂に比べて熱伝導性が高い。また、一般に熱伝導率は熱が伝わる経路(以下熱伝達パス)の形成の仕方によって変わる。例えば、樹脂の中を多く通過するような熱伝達パスが形成されると、熱伝導率は下がり、フィラーの中を多く通過するような熱伝達パスが形成されると熱伝導率は上がる。
【0030】
また熱伝導パスが等距離の場合、フィラーの中だけを通過する熱伝達パス(例えば、粒径の大きいフィラー内を通る熱伝導パス)とフィラー同士の接触点が多い熱伝達パス(例えば、粒径の小さい複数のフィラーを通る熱伝導パス)を比較すると、フィラー同士の接触点の多い方が熱伝導率は悪くなる。(接触点で熱損失が生まれ、熱の伝わりが悪くなるためである。)しかし、フィラー同士の接触点が少なければ、フィラー内部を熱が通過する長さよりも、樹脂の中を熱が通過する長さが大きくなるため、熱伝導率が悪くなってしまうことから、フィラー同士の接触点はある程度必要である。
【0031】
次に粘度について考える。フィラーを樹脂と混合すると、樹脂は粒子同士の隙間に入り込むものと粒子の外側に存在し流動に関与するものの2種類に分かれる。このとき粒子同士の隙間が大きい場合や隙間が小さいが多く存在する場合は多くの樹脂が隙間に取り込まれやすく、流動に関与する樹脂が少なくなり粘度が高くなる。逆に隙間が小さく且つ少なく存在する場合は樹脂が隙間に取り込まれにくく、流動に関与する樹脂が多くなり、粘度は下がる。
【0032】
以上のこと踏まえて、本発明者らが見出した球状アルミナ粒子混合物のバルクでの比表面積が、熱伝導率及び流動性(粘度)との相関関係を説明する。
【0033】
まず粒子混合物のバルクの比表面積が小さい場合を考える。比表面積が小さいと大きな粒子の比率が大きいため、粒子同士間の大きな隙間が多く存在しており隙間に樹脂が取り込まれ、流動に関与する樹脂が少なくなるために粘度は悪化する。また熱伝導率は大きな粒子同士が接触して熱が伝わる経路(以下熱伝達パス)が形成されるが、接触点が少なく樹脂の中を熱が通過する場合が多くなるため、熱伝導率は低くなる。
【0034】
この状態に少しずつ粒径が小さい粒子を加えて比表面積を大きくしていくと、隙間に樹脂の代わりに小さい粒子が充填されていき、隙間に取り込まれていた樹脂は隙間から追い出され、流動に関与する樹脂となる。このときバルクの比表面積は上昇しているため、
図1に示したように比表面積が大きくなるほど、粘度は下がっていくことになる。
【0035】
このとき、粒径の大きい球状粒子と粒径の小さい球状粒子同士を組み合わせると、角状粒子を組み合わせる場合よりも粘度を大きく下げることができる。これは、大小の粒子同士が接触している状態で、流動させると球状粒子は樹脂の中で回転するためであると考えられる。(球状粒子が回転することによってベアリングのように力を効率よく受け流し、粒子同士の摩擦を低減する。)
【0036】
また、熱伝導率は、大きい粒子同士の隙間に細かい粒子が入り込み、粒子同士の接触点が増えることで熱伝達パスが形成され熱伝導率は向上する。
【0037】
この状態にさらに小さな粒子を加えていくと、密充填となっていき粘度は下がるが、ある一定の量を加えると、今度は粒子同士の接触機会が多くなり、球状粒子がうまく回転できなくなるため、加えられた力を受け流すことができず粒子が流動しなくなることによって粘度が悪化し始める。このことから、
図1のように比表面積が或る値を超えると比表面積の増加に従って粘度が上昇する要因になっている。
【0038】
熱伝導率については、比表面積が大きくなると相対的に大きな粒子の量が減るため、ある一定の比表面積を超えると、フィラーの中だけを通過する熱伝達パスが少なくなり、バルクの熱伝導率は下がり始める。さらに大きな粒子よりも小さな粒子量が多くなると、小さな粒子同士の接触が増え、当該フィラー同士の接触熱抵抗が増えることで熱伝導率はさらに悪くなる。
【0039】
上記に基づいて、球状アルミナ粒子混合物のバルクでの比表面積は、0.3~1.0m2/gであり、より好ましくは0.35~1.0m2/gであり、さらに好ましくは0.4~1.0m2/gである。この範囲の比表面積であることにより、高い熱伝導率と流動性が得られる。
【0040】
<比表面積の測定>
比表面積はBET法にて測定する。典型的には、以下の手順で比表面積を測定する。
約5gの試料を測り採り、250℃で5分真空乾燥した。ついで、自動比表面積測定装置(マウンテック社製、Macsorb)に試料をセットし、純窒素及び窒素-ヘリウム混合ガス(混合比率窒素30%、He70%)を用いて77Kの測定温度で相対圧P/P0が0.291の値の窒素ガス吸着量を測定し、1点法にてBET比表面積を算出する。
【0041】
(球状アルミナ粒子混合物)
本実施態様における球状アルミナ粒子混合物は、複数の粒径の球状アルミナ粒子を混合することによって得られる。球状とは、球状アルミナ粒子混合物としての円形度が0.85以上であることを意味する。好ましくは0.9以上である。この球状アルミナ粒子混合物を構成する、それぞれの球状アルミナ粒子はいずれの粒径の粒子も円形度が0.85以上であるアルミナ粒子であることが好ましく、0.9以上であるアルミナ粒子であることがより好ましい。アルミナ粒子混合物の円形度が0.85未満であると、当該アルミナ粒子混合物と樹脂とを混錬してできた成型体の硬度や液状混錬物の粘度が大きく悪化してしまうことがあるためである。角状粒子のような円形度の低い粒子は真球粒子に比べて粒子表面に平面が生じやすい。そのため粒子同士が接触したときに、真球粒子が点接触なのに対して、角状粒子のような円形度の低い粒子は面接触が形成され、摩擦が生じやすい。そのため粒子が流動しようとすると摩擦の大きい角状粒子は動きにくく、成型体の硬度や粘度が悪化してしまう。これらの不都合は、円形度は高いほど、生じにくくなる。そのため、円形度は高いほど好ましく、0.90以上であってもよく、さらに0.91以上であってもよい。一方で、円形度は理論的には、1.0が上限となるが、円形度を1.0にすることは現実的には困難である。また、球状アルミナ粒子の比表面積や粒子表面の凹凸を制御し樹脂との親和性を向上させる観点から、円形度の上限について、0.99以下、0.98以下、0.97以下としてもよい。それぞれの球状アルミナ粒子の円形度は溶射(火炎溶融法)等を用いて調整することができる。具体的には火炎の温度をアルミナの融点以上に保つことによって調整することができる。アルミナの融点以下の温度になるとアルミナ原料が溶融しなくなり、円形度が悪化する。火炎の温度は使用する燃料ガスの流量などによって調整することができる。
【0042】
<円形度の測定>
円形度の測定は電子顕微鏡や光学顕微鏡と画像解析装置を用いて測定することができる。例えばシスメックス社製FPIA等である。これら装置を用いて粒子の円形度(面積相当円の周囲長/粒子の投映像の周囲長)を測定する。100個以上の粒子について円形度を測定し、その平均値をその粉末の円形度とする。
【0043】
(球状アルミナ粒子混合物の配合)
球状アルミナ粒子混合物は、異なる平均粒径を有する球状アルミナ粒子を配合して、得ることができる。配合される球状アルミナ粒子の性状(比表面積、α化率等)に応じて、組成比を適宜調整することによって、球状アルミナ粒子混合物のバルクとしての所望の性状を得ることができる。
【0044】
配合される球状アルミナ粒子として、以下の平均粒径を有する球状アルミナ粒子(a)~(d)を用いることができる。
球状アルミナ粒子(a):平均粒径(D50)が30~160μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子。
球状アルミナ粒子(b):平均粒径(D50)D50が4~12μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子。
球状アルミナ粒子(c):平均粒径(D50)D50が2~3μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子。
球状アルミナ粒子(d):平均粒径(D50)D50が0.8~1.0μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子。
平均粒径が大きい順に、球状アルミナ粒子(a)~(d)を分類することができる。球状アルミナ粒子(a)~(d)は、便宜的に、それぞれ、大粒子(または粗粉)、中粒子(または中粉)、微粒子(または微粉)、超微粒子(または超微粉)と称することもある。
【0045】
<平均粒径の測定>
アルミナ粒子の平均粒子径の測定は、レーザー回折/散乱法によって行った。装置はMalvern社製MS3000を用い、水を分散媒として測定した。本明細書で言う平均粒径は、特に断りのない限り、メディアン径と呼ばれるもので、レーザー回折法等の方法で粒径分布を測定して、粒径の頻度の累積が50%となる粒径を平均粒径(D50)とする。
【0046】
球状アルミナ粒子混合物は、上記の球状アルミナ粒子(a)~(d)からなる群から選ばれる少なくとも3種類以上を含有することが好ましい。球状アルミナ粒子(a)~(d)は、互いに平均粒径が異なっており、平均粒径の大きい粒子間の間隙に平均粒径の小さい粒子が入り込むことができ、当該間隙の熱伝導性が向上する。これは、熱が、間隙すなわち空間ではなく、入り込んだ小さい粒子を介して、伝えることができるためである。少なくとも3種類の平均粒径の粒子を含有することにより、さらに、もう一つの大小関係が成り立ち、さらに熱伝導性を向上することができる。
【0047】
また、球状アルミナ粒子(a)~(d)は、いずれも円形度が0.90以上であるため、これらを配合して得られる球状アルミナ粒子混合物も、0.90以上の円形度を得ることができる。円形度が0.9以上であることにより、上述のように、当該アルミナ粒子混合物と樹脂とを混錬してできた成型体の硬度や液状混錬物の粘度が大きく悪化することを回避することができる。
【0048】
球状アルミナ粒子(a)~(d)は、球状アルミナ粒子混合物のバルクとしての所望の性状を得ることができるように、適宜その配合比(組成比)を調整することができる。典型的な配合比として、以下の配合比(組成比)を用いてもよい。
配合比1:球状アルミナ粒子(a)を50~80重量%、球状アルミナ粒子(b)を10~30重量%及び球状アルミナ粒子(d)を5~30重量%で配合し、かつ、球状アルミナ粒子(a)、球状アルミナ粒子(b)及び球状アルミナ粒子(d)の合計が90重量%以上または90重量%超とする。好ましくは、球状アルミナ粒子(a)、球状アルミナ粒子(b)及び球状アルミナ粒子(d)の合計が95質量%以上、より好ましくは、98質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。所望の性状を得ることができるように、球状アルミナ粒子(a)を55重量%以上、または60重量%以上としてもよく、78重量%以下、または75重量%以下としてもよく;球状アルミナ粒子(b)を14重量%以上、16重量%以上、または18重量%以上としてもよく、25重量%以下、または20重量%以下としてもよく;球状アルミナ粒子(d)を10重量%以上、または15重量%以上としてもよく、25重量%以下、または20重量%以下としてもよい。
配合比2:球状アルミナ粒子(a)を50~80重量%、球状アルミナ粒子(b)を10~40重量%及び球状アルミナ粒子(c)を5~30重量%で配合し、かつ、球状アルミナ粒子(a)、球状アルミナ粒子(b)及び球状アルミナ粒子(c)の合計が90重量%以上または90重量%超とする。好ましくは、球状アルミナ粒子(a)、球状アルミナ粒子(b)及び球状アルミナ粒子(c)の合計が95質量%以上、より好ましくは、98質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。所望の性状を得ることができるように、球状アルミナ粒子(a)を55重量%以上、または60重量%以上としてもよく、75重量%以下、または70重量%以下としてもよく;球状アルミナ粒子(b)を10重量%以上、または15重量%以上としてもよく、35重量%以下、または30重量%以下としてもよく;球状アルミナ粒子(c)を10重量%以上、または15重量%以上としてもよく、25重量%以下、または20重量%以下としてもよい。
配合比3:球状アルミナ粒子(a)を50~70重量%、球状アルミナ粒子(b)を10~30重量%、球状アルミナ粒子(c)を10~30重量%及び球状アルミナ粒子(d)が5~30重量%で配合し、かつ、球状アルミナ粒子(a)、球状アルミナ粒子(b)、球状アルミナ粒子(c)及び球状アルミナ粒子(d)の合計が90重量%以上または90重量%超とする。好ましくは、球状アルミナ粒子(a)、球状アルミナ粒子(b)、球状アルミナ粒子(c)及び球状アルミナ粒子(d)の合計が95質量%以上、より好ましくは、98質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。所望の性状を得ることができるように、球状アルミナ粒子(a)を55重量%以上、または60重量%以上としてもよく、65重量%以下、または60重量%以下としてもよく;球状アルミナ粒子(b)を13重量%以上、15重量%以上、または17重量%以上としてもよく、25重量%以下、または20重量%以下としてもよく;球状アルミナ粒子(c)を13重量%以上、15重量%以上、または17重量%以上としてもよく、25重量%以下、または20重量%以下としてもよく;球状アルミナ粒子(d)を10重量%以上、14重量%以上、または15重量%以上としてもよく、25重量%以下、または20重量%以下としてもよい。
【0049】
上記の配合比1~3で配合された球状アルミナ粒子混合物は、所望する比表面積等の性状を得ることができる。より詳しくは、球状アルミナ粒子混合物のバルクの比表面積等は、0.3~1.0m2/gであり、好ましくは0.35~1.0m2/gであり、より好ましくは0.4~1.0m2/gである。
【0050】
上記の配合比1~3について以下に各粒子の配合効果を示す。
【0051】
アルミナ球状粒子(a)の配合比率はフィラー中を熱が伝わるような熱伝達パスを形成する効果と粘度を下げる2つの効果が本発明者らによって確認されている。これはアルミナ球状粒子(a)の配合比率が少ないと相対的に小さな粒子の量が増え、小さな粒子同士の接触による熱伝達パスが形成され、熱伝導率が低下してしまうためである。さらに比表面積が不必要に増大し、粘度が悪化する要因となる。またアルミナ球状粒子(a)の配合比率が過剰となると相対的に小粒子の配合量が少なくなり、フィラー同士間の大きな隙間が形成されやすく、当該隙間に樹脂が取り込まれることによって粘度が悪化する要因となる。
【0052】
アルミナ球状粒子(b)の配合比率は大粒子同士の大きな隙間を埋め、フィラー同士の接触点が増え、熱伝導率が向上する効果がある。アルミナ球状粒子(b)は比表面積がアルミナ球状粒子(c)や(d)に比べて、小さいため配合量を多くしてもほとんど粘度に悪影響を及ぼさない。しかし、ある一定以上配合されると、大型のアルミナ球状粒子(a)間の隙間はほとんど埋め尽くされ、余剰の中型のアルミナ球状粒子(b)が比表面積を増大させ粘度を悪化させる。
【0053】
アルミナ球状粒子(c)はバルクの球状アルミナ粒子混合物の比表面積を調整し、小さな隙間を埋めることによって、粘度を下げる効果がある。しかし、先に記したように配合比率を多くしすぎると、比表面積が大きくなりすぎることで粘度が悪化してしまう要因となる。
【0054】
アルミナ球状粒子(d)の配合効果はアルミナ球状粒子(c)と同様である。しかし、比表面積が(c)に比べて大きいため、配合効果も(c)よりも高い効果を得られる。
【0055】
なお、前記配合比1~3において、それぞれの球状アルミナ粒子(a)~(d)の配合効果、又は、配合比1~3で配合された球状アルミナ混合物の性状を損なわない程度に、配合比1~3を構成する組成以外の粒子(以下、「その他粒子」という。)を含んでもよい。
前記その他粒子としては、公知の無機粒子を使用することができ、CaCO3、BaSO4、タルク、マイカ、カオリンクレイ、ウラストナイト、セピオライト、ハイドロタルサイト、モンモリロナイト、チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、カーボンブラック、黒鉛が挙げられる。好ましくは、樹脂複合体とした際に優れた寸法安定性又は熱伝導性が期待される、シリカ、酸化亜鉛、アルミナ、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウムであり、より好ましくは、アルミナである。
その他粒子がアルミナである場合、球状アルミナ混合物の性状を損なわないという観点から、球状アルミナ粒子(a)~(d)のうち、配合比1~3を構成する組成以外の球状アルミナ粒子を含まないことが好ましい。具体的には、配合比1の場合、球状アルミナ粒子(c)を含まないことが好ましく、配合比2の場合、球状アルミナ粒子(d)を含まないことが好ましい。
【0056】
その他粒子の配合量は、球状アルミナ混合物の性状を損なわないという観点から、球状アルミナ混合物の10重量%以下、または10重量%未満が好ましく、より好ましくは5重量%未満、さらに好ましくは2重量%未満、さらに好ましくは0重量%である。
【0057】
その他粒子のD50は、球状アルミナ混合物の性状を損なわない範囲であれば限定しないが、好ましくは、0.1~150μmである。
【0058】
(球状アルミナ粒子の原料)
球状アルミナ粒子の原料はアルミナ粉末や水酸化アルミニウム粉末等を使用する。また金属アルミニウムを用いてもよい。
【0059】
(球状アルミナ粒子の製造方法)
球状アルミナ粒子は、火炎溶融法又はVMC法により製造することができる。
火炎溶融法は、公知の溶射方法の一種であり、原料粒子を火炎中に噴射して、前記原料を球状化する。このとき、時間当たりの火炎への投入量や燃料ガス種によって平均球形度を調整することができる。また使用する原料粉末の粒径を調整することで、球状アルミナ粉末の粒径を調整することができる。α-アルミナの含有率は溶融炉内の温度を高く保つことで含有率を向上することができる。溶融炉内の温度はα-アルミナの結晶成長を促す観点から、1200℃以上が好ましい。また固化した直後の球状粒子を空気や水などの冷媒によって急冷することによって、含有率を下げることができる。冷媒は特に制限されるものではないが、球状粒子の純度を低下させないという観点から、空気や不純物としてナトリウムイオンや塩素イオンなどを含まない蒸留水やイオン交換水が望ましい。
【0060】
VMC法は、酸素を含む雰囲気中でバーナーにより化学炎を形成し、この化学炎中に金属粉末を粉塵雲が形成される程度の量投入し、爆燃を起こして球状の酸化物粒子を得る方法である。VMC法(爆燃法)により、アルミニウムなどの金属材料と酸素とを反応してアルミナなどの金属酸化物を得ることができる。
【0061】
球状化したアルミナ粒子は必要に応じてサイクロン等によって粗粒・微粒に分離することができる。このようにして得られた球状アルミナ粒子を所定の目開きを持つ篩によるか、或いは風力分級機などを用いて、180μm以上の粒子を取り除くこと、および所望の平均粒径の粒子を分級することが可能である。使用する網の目開きは180μm以下のものであれば特に制限はない。
【0062】
(混合)
混合方法についてはロッキングミキサーやV型混合器、エアブレンダーなど公知の方法によって混合する。混合の際に、球状アルミナ粒子の円形度を低下して、球状アルミナ粒子混合物の所望の円形度が得られないことを、回避するために、混合条件を適宜調整してもよい。典型的には、混合時間および混合密度等を調整してもよい。
【0063】
球状アルミナ粒子混合物それ自身の熱伝導率及び流動性(粘度)の測定は困難である。そこで、熱伝導率については、所定の条件で、当該球状アルミナ粒子混合物を樹脂と混合して得られた樹脂組成物の熱伝導率を測定し、それらの測定結果に基づいて、当該球状アルミナ粒子混合物の熱伝導率を評価する。また、流動性(粘度)についても、所定の条件で、当該球状アルミナ粒子混合物を樹脂と混合して得られた樹脂組成物の流動性(粘度)を測定し、それらの測定結果に基づいて、当該球状アルミナ粒子混合物の流動性(粘度)を評価する。
【0064】
<熱伝導率の測定>
より具体的には、以下の手順で、熱伝導率を測定する。球状アルミナ粒子混合物を92質量部と、シリコーン樹脂A(東レダウコーニング社製CY-52-276A)を4質量部と、シリコーン樹脂B(東レダウコーニング社製CY-52-276B)を4質量部とを真空混錬機によって混合し、得られた樹脂組成物を金型に流し込み、任意の厚みになるように加熱加圧成型する。成形条件は圧力6Mpa、120℃の温度で、1時間加熱する。加熱後、成型したシートを金型から取り出し、140℃の乾燥機で後加熱する。後加熱したシートを冷却する。作成したシートを20mm角に切り出し、ASTM-D5470法を用いて圧力1.25kgf/cm2の条件で熱伝導率を測定する。
本実施態様に係る球状アルミナ粒子混合物を用いた例では、フィラー充填量が92wt%の場合、熱伝導率の下限が3.40W/m・Kであってもよく、好ましくは4.40W/m・Kであってもよい。一方、熱伝導率の上限は5.10であってもよい。また、フィラーが最大充填量である95wt%の場合、熱伝導率の下限は3.40W/m・Kであってもよく、好ましくは4.70W/m・Kであってもよく、より好ましくは6.00W/m・Kであってもよく、さらに好ましくは7.00W/m・Kであってもよい。一方、熱伝導率の上限は8.00W/m・Kであってもよい。
【0065】
<流動性(粘度)の測定>
より具体的には、以下の手順で、流動性(粘度)を測定する。球状アルミナ粒子混合物を87質量部と、エポキシ樹脂(エピコート801N)を13質量部とを真空混錬機によって混合し、得られた樹脂組成物をウォータバスにて30分冷却させたのち、レオメータ(アントンパール社製MCR-101)を用いて、25mm径パラレルプレート、ギャップ0.5mm、温度25℃の設定でせん断速度を変化させて回転粘度を測定した。せん断速度1[1/s]と10[1/s]の2種類の粘度を測定する。
本実施態様に係る球状アルミナ粒子混合物を用いた例では、粘度(剪断速度1/s)は、下限が50.0であってもよく60.0であってもよい。一方、上限は510であってもよく、好ましくは350であってもよく、より好ましくは180であってもよく、さらに好ましくは150であってもよく、なおいっそう好ましくは100であってもよい。粘度(剪断速度10/s)は、下限は50.0であってもよく60.0であってもよい。一方、上限は、270であってもよく、好ましくは200であってもよく、より好ましくは100であってもよく、さらに好ましくは85であってもよい。
【0066】
(球状アルミナ粒子混合物の用途)
本発明の一態様によって、最終的に得られた球状アルミナ粒子混合物と樹脂との複合組成物、さらには当該樹脂複合組成物を硬化した樹脂複合体を製造することができる。樹脂複合組成物の組成等について、以下により詳細に説明する。
【0067】
球状アルミナ粒子混合物と樹脂とを含むスラリー組成物を用いて、半導体封止材(特に固形封止材)、層間絶縁フィルム等の樹脂複合組成物を得ることができる。さらには、これらの樹脂複合体組成物を硬化させることで、封止材(硬化体)、半導体パッケージ用基板等の樹脂複合体を得ることができる。
【0068】
前記樹脂複合組成物を製造する場合、例えば、球状アルミナ粒子混合物及び樹脂の他に、硬化剤、硬化促進剤、難燃剤、シランカップリング剤等を必要により配合し、混錬等の公知の方法で複合化する。そして、ペレット状、フィルム状等、用途に応じて成型する。
【0069】
さらに、前記樹脂複合組成物を硬化して樹脂複合体を製造する場合、例えば、樹脂複合組成物に熱を加えて溶融して、用途に応じた形状に加工し、溶融時よりも高い熱を加えて完全に硬化させる。この場合、トランスファーモールド法等の公知の方法を使用することができる。
【0070】
例えば、パッケージ用基板や層間絶縁フィルム等の半導体関連材料を製造する場合には、樹脂複合組成物に使用する樹脂として、公知の樹脂が適用できるが、エポキシ樹脂を採用することが好ましい。エポキシ樹脂は、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂等を用いることができる。これらの中の1種類を単独で用いることもできるし、異なる分子量を有する2種類以上を併用することもできる。これらの中でも、硬化性、耐熱性等の観点から、1分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂が好ましい。具体的には、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノール類とアルデヒド類のノボラック樹脂をエポキシ化したもの、ビスフェノールA、ビスフェノールF及びビスフェノールS等のグリシジルエーテル、フタル酸やダイマー酸等の多塩基酸とエポクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルエステル酸エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、アルキル変性多官能エポキシ樹脂、β-ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、1,6-ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、2,7-ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ビスヒドロキシビフェニル型エポキシ樹脂、更には難燃性を付与するために臭素等のハロゲンを導入したエポキシ樹脂等が挙げられる。これら1分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂中でも特にビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。
【0071】
また、半導体封止材用複合材料以外の用途、例えば、プリント基板用のプリプレグ、各種エンジニアプラスチックス等の樹脂複合組成物に使用する樹脂としては、エポキシ系以外の樹脂も適用できる。具体的には、エポキシ樹脂の他には、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のポリアミド;ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリフェニレンスルフィド、芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変成樹脂、ABS樹脂、AAS(アクリロニトリルーアクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂が挙げられる。
【0072】
樹脂複合組成物に用いられる硬化剤としては、前記樹脂を硬化するために、公知の硬化剤を用いればよいが、例えばフェノール系硬化剤を使用することができる。フェノール系硬化剤としては、フェノールノボラック樹脂、アルキルフェノールノボラック樹脂、ポリビニルフェノール類等を、単独あるいは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0073】
前記フェノール硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂との当量比(フェノール性水酸基当量/エポキシ基当量)が0.1以上、1.0未満が好ましい。これにより、未反応のフェノール硬化剤の残留がなくなり、吸湿耐熱性が向上する。
【0074】
本発明の球状アルミナ粒子混合物の、樹脂複合組成物における添加量は、耐熱性、熱膨張率の観点から、多いことが好ましいが、通常、70質量%以上95質量%以下、好ましくは80質量%以上95質量%以下、更に好ましくは85質量%以上95質量%以下であるのが適当である。これは、アルミナ粒子混合物の配合量が少なすぎると、封止材料の強度向上や熱膨張抑制などの効果が得られにくいためであり、また逆に多すぎると、アルミナ粒子混合物の表面処理に関わらず複合材料においてアルミナ粒子混合物の凝集による偏析が起きやすく、複合材料の粘度も大きくなりすぎるなどの問題から、封止材料として実用が困難となるためである。
【0075】
また樹脂のほかに、添加材、例えばシランカップリング剤、硬化剤、着色剤、硬化遅延材等の公知の添加剤を使用することができる。
【0076】
また、シランカップリング剤については、公知のカップリング剤を用いればよいが、エポキシ系官能基を有するものが好ましい。
【0077】
球状アルミナ粒子混合物と樹脂とを含むスラリー組成物を用いて、放熱シート、放熱グリース等を得ることができる。
【0078】
前記放熱シートを得る際には、球状アルミナ粒子混合物と、樹脂のほかに、添加剤を適宜配合し、混錬等の公知の方法で複合化する。得られた複合体を公知の方法で、シート状に成型する。
【0079】
例えば、放熱シートを製造する場合には、樹脂複合組成物に使用する樹脂として、公知の樹脂が適用できるが、具体的にシリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のポリアミド;ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリフェニレンスルフィド、芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変成樹脂、ABS樹脂、AAS(アクリロニトリルーアクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂が挙げられる。中でもシリコーン樹脂を用いることが好ましい。シリコーン樹脂は特に限定されないが、例えば、過酸化物硬化型、付加硬化型、縮合硬化型、紫外線硬化型等を用いることができる。
【0080】
また樹脂のほかに、添加材、例えばシランカップリング剤、硬化剤、着色剤、硬化遅延材等の公知の添加剤を使用することができる。
【0081】
前記放熱グリースを得る際には、球状アルミナ粒子混合物と、樹脂のほかに、添加剤を適宜配合し、混錬等の公知の方法で複合化する。ここで、放熱グリースに使用する樹脂は基油ともいう。
【0082】
例えば、放熱グリースを製造する場合には、樹脂複合組成物に使用する樹脂として、公知の樹脂ができるが、具体的にはシリコーン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のポリアミド;ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリフェニレンスルフィド、芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変成樹脂、ABS樹脂、AAS(アクリロニトリルーアクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂、鉱油、合成炭化水素油、エステル油、ポリグリコール油、シリコーン油、フッ素油が挙げられる。
【0083】
また樹脂のほかに、添加材、例えばシランカップリング剤、着色剤、増ちょう剤等の公知の添加剤を使用することができる。増ちょう剤は、カルシウム石けん、リチウム石けん、アルミニウム石けん、カルシウムコンプレックス、アルミニウムコンプレックス、リチウムコンプレックス、バリウムコンプレックス、ベントナイト、ウレア、PTFE、ナトリウムテレフタラメート、シリカゲル、有機化ベントナイト等の公知のものを使用できる。
【0084】
(作用および効果)
以上の構成において、本発明の球状アルミナ粒子混合物では、湿式粒度測定法によって測定された粒度分布は180μm以上の粒子は0.04重量%以下、XRDによって測定されたα化率は45%以上、比表面積は0.3m2/g以上1.0m2/g以下、円形度は0.85以上であった。破砕粒子を使用しないため、流動性が向上した、球状アルミナ粒子混合物を提供できる。
【0085】
さらに、特許文献3では、α化率を向上するために、微粒アルミナを高温にて焼成後、粉砕し、粒度調整した破砕粒子を用いているが、本実施態様では、破砕粒子を用いずとも、熱伝導率は特許文献3と同等、もしくは向上している。
【実施例0086】
以下の実施例・比較例を通じて、本発明について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0087】
(実施例1~実施例12)
LPGと酸素によって形成される高温火炎中に、アルミナ粒子原料を投入し、球状化処理を行った。投入するアルミナ粒子原料の粒径を制御することで、球状アルミナ粒子を製造した。さらに溶融炉内の温度を1200℃以上に制御し、高α化率のアルミナを得た。得られた球状アルミナ粒子は、サイクロンで粗粒と微粒に分離し、粗粒、微粒どちらも任意の目開きの篩にかけ、篩下のみ回収することで表1にある球状アルミナ粒子を得た。得られた球状アルミナ粒子と比較例で使用する破砕粒子の物性は表1にまとめた。所望の比表面積、α化率となるように表1にある球状アルミナ粒子を表2にある配合率で混合し球状アルミナ粒子混合物を得た。
【0088】
得られた球状アルミナ粒子混合物 について(1)粘度、(2)熱伝導率、(3)吸油量、(4)最大フィラー充填量を以下の方法に従い、測定した。
【0089】
(1) 粘度
表2の割合で配合された球状アルミナ粒子混合物を87質量部と、エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製エピコート801N)を13質量部とを真空混錬機によって混合し、得られた樹脂組成物をウォータバスにて30分冷却させたのち、レオメータ(アントンパール社製MCR-101)を用いて、25mm径パラレルプレート、ギャップ0.5mm、温度25℃の設定でせん断速度を変化させて回転粘度を測定した。表2にはせん断速度1[1/s]と10[1/s]の2種類の粘度(Pa・s)を記載した。
【0090】
(2) 熱伝導率
表2の割合で配合された球状アルミナ粒子混合物を92質量部と、シリコーン樹脂A(東レダウコーニング社製CY-52-276A)を4質量部と、シリコーン樹脂B(東レダウコーニング社製CY-52-276B)を4質量部とを真空混錬機によって混合し、得られた樹脂組成物を金型に流し込み、1.5、3.5,5.5,7.5mmの厚みになるように加熱加圧成型した。成形条件は圧力6Mpa、120℃の温度で、1時間加熱した。加熱後、成型したシートを金型から取り出し、140℃の乾燥機で後加熱した。後加熱したシートを冷却した。作成したシートを20mm角に切り出し、ASTM-D5470法を用いて圧力1.25kgf/cm2の条件で熱伝導率(W/m・K)を測定した。なお実施例6は最大フィラー充填量が91質量%であったため、実施例6に記載の割合で配合された球状アルミナ粒子混合物を91質量部と、シリコーン樹脂A(東レダウコーニング社製CY-52-276A)を4.5質量部と、シリコーン樹脂B(東レダウコーニング社製CY-52-276B)を4.5質量部とを混合することで樹脂組成物を得た。
【0091】
(3) 吸油量
表2の割合で配合された球状アルミナ粒子混合物をJIS-K-5101-13-1法に則り、精製アマニ油の代わりに、試薬一級のアマニ油(富士フイルム和光純薬株式会社製 和光一級)を用いて吸油量(ml/10g)を測定した。ガラス板上に球状アルミナ粒子混合物にアマニ油を滴下し、パレットナイフで練りこみながら、終点(ペースト状)に達した時のアマニ油滴下量を吸油量として算出した。吸油量が高い球状アルミナ粒子は液状組成物になるために必要な樹脂量が多く必要になるため、充填性が悪い粒子混合物であるといえる。
【0092】
(4) 最大フィラー充填量
表2の割合で配合された球状アルミナ粒子混合物とシリコーン樹脂A(東レダウコーニング社製CY-52-276A)を任意の配合で真空混錬し、混錬物の中に混錬されていないフィラー(球状アルミナ粒子混合物)が残っていないか、目視確認を行った。目視確認の結果、フィラーが残っていなければフィラーが樹脂に充填できたものとみなし、充填できなくなるまで、フィラーの配合量を増やしていくことで、最大フィラー充填量(重量%)を求めた。最大フィラー充填量が高いものほど少ない樹脂に多くのフィラーを充填できるため、充填性のよいフィラーであるといえる。
【0093】
(比較例1~5)
表1にある球状アルミナ粒子及び破砕粒子を使用し、表2にある配合でアルミナ粒子混合物を得た。実施した試験例は前述した通りである。
【0094】
表1、表2にあるように、本発明の球状アルミナ粒子混合物は破砕粒子を使用するよりも粘度、熱伝導率、最大フィラー充填量において優位であることが分かる。例えば、実施例4と比較例3を比較すると、最大フィラー充填量は実施例の方が高く、最大充填時の熱伝導率も高い。さらに粘度も実施例4の方が低いため、実施例4の方が優位であるといえる。加えて、実施例2と比較例2、実施例3と比較例1をそれぞれ比較すると、最大フィラー充填量はほぼ同等であるが、粘度はいずれの場合も、比較例2よりも実施例2が低く、比較例1よりも実施例3の方が低いので、どちらの場合も実施例が優位であるといえる。比較例4は、破砕粒子(2)を含んでおり、実施例(7)と比較すると最大フィラー充填量はほぼ同等であるが、円形度が低く、粘度が高くなるため実施例(7)が優位であった。であった。また、比較例5と実施例4を比較すると実施例4の方が熱伝導率が高く、粘度も低いことから実施例の方が優位である。これは、比較例4では、超微粒子(2)を含み、比表面積が大きくなってしまったことによると考えられる。
【0095】
【0096】
【0097】
(各粒子の配合効果)
本発明による、球状アルミナ粒子混合物は、異なる平均粒径を有する球状アルミナ粒子を配合して、得ることができる。配合する球状アルミナ粒子を、表3に示すように、平均粒径で、大粒子、中粒子、微粒子、超微粒子に分類する。(それぞれ、粗粉、中粉、微粉、超微粉と称することもある。)分類された球状アルミナ粒子の中から選択した1種について、配合比を大きく変化させ、球状アルミナ粒子混合物の性状の変化について調査した。
なお、当該選択した1種の配合比率の変化により、選択されなかった粒子の配合比も変化するが、できるだけその変化が大きくならないように調整をした。典型的には、表4-1のように、大粒子の配合比を10質量%刻みで増加させるときに、(大粒子以外の)中粒子及び微粒子は、できるだけそれらの存在比率を保ったまま、それらの配合比を低下させることなどを行い、大粒子ほど配合比が変化しないようにした。
【0098】
【0099】
表4-1は、大粒子、中粒子、および微粒子を含む球状アルミナ粒子混合物において、主に大粒子の配合比を変化させたときの、球状アルミナ粒子混合物の性状を示す。特に、粘度と熱伝導率の変化について、
図3に示す。
図3に示すとおり、大粒子の配合比率が50~80質量%の範囲で、それ以外の範囲よりも優れた熱伝導率と粘度が得られることを確認した。
【0100】
【0101】
表4-2は、大粒子、中粒子、および微粒子を含む球状アルミナ粒子混合物において、主に中粒子の配合比を変化させたときの、球状アルミナ粒子混合物の性状を示す。特に、粘度と熱伝導率の変化について、
図4に示す。
図4に示すとおり、中粒子の配合比率が10~40質量%の範囲で、それ以外の範囲よりも優れた熱伝導率と粘度が得られることを確認した。
【0102】
【0103】
表4-3は、大粒子、中粒子、および微粒子を含む球状アルミナ粒子混合物において、主に微粒子の配合比を変化させたときの、球状アルミナ粒子混合物の性状を示す。特に、粘度と熱伝導率の変化について、
図5に示す。
図5に示すとおり、微粒子の配合比率が5~30質量%の範囲で、それ以外の範囲よりも優れた熱伝導率と粘度が得られることを確認した。
【0104】
【0105】
表4-4は、大粒子、中粒子、および超微粒子を含む球状アルミナ粒子混合物において、主に超微粒子の配合比を変化させたときの、球状アルミナ粒子混合物の性状を示す。特に、粘度と熱伝導率の変化について、
図6に示す。
図6に示すとおり、超微粒子の配合比率が5~30質量%の範囲で、それ以外の範囲よりも優れた熱伝導率と粘度が得られることを確認した。
【0106】
【0107】
表4-5は、大粒子、中粒子、微粒子、および超微粒子を含む球状アルミナ粒子混合物において、主に大粒子の配合比を変化させたときの、球状アルミナ粒子混合物の性状を示す。大微粒子の配合比率が50~70質量%の範囲で、それ以外の範囲よりも優れた熱伝導率と粘度が得られることを確認した。
【0108】
【0109】
なお、表4-1から表4-5で配合された球状アルミナ粒子混合物は、表3に示される円形度が0.85以上の大粒子、中粒子、微粒子、超微粒子を配合したものであり、当該球状アルミナ粒子混合物の円形度も0.85以上であることを確認した。
平均粒径(D50)が30~160μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(a)、D50が4~12μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(b)、D50が2~3μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(c)及びD50が0.8~1.0μmであり、かつ円形度が0.90以上であるアルミナ粒子(d)からなる群から選ばれる少なくとも3種類以上を含有し、
球状アルミナ粒子(a)を50~80重量%、球状アルミナ粒子(b)を10~30重量%及び球状アルミナ粒子(d)を5~30重量%含有し、球状アルミナ粒子(a)、球状アルミナ粒子(b)及び球状アルミナ粒子(d)の合計が90重量%以上であり、
比表面積が0.3~1.0m2/gである、
請求項1に記載の球状アルミナ粒子混合物。
平均粒径(D50)が30~160μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(a)、D50が4~12μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(b)、D50が2~3μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(c)及びD50が0.8~1.0μmであり、かつ円形度が0.90以上であるアルミナ粒子(d)からなる群から選ばれる少なくとも3種類以上を含有し、
球状アルミナ粒子(a)を50~80重量%、球状アルミナ粒子(b)を10~40重量%及び球状アルミナ粒子(c)を5~30重量%含有し、球状アルミナ粒子(a)、球状アルミナ粒子(b)及び球状アルミナ粒子(c)の合計が90重量%以上であり、
比表面積が0.3~1.0m2/gである、請求項1に記載の球状アルミナ粒子混合物。
平均粒径(D50)が30~160μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(a)、D50が4~12μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(b)、D50が2~3μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(c)及びD50が0.8~1.0μmであり、かつ円形度が0.90以上であるアルミナ粒子(d)からなる群から選ばれる少なくとも4種類以上を含有し、
球状アルミナ粒子(a)を50~70重量%、球状アルミナ粒子(b)を10~30重量%、球状アルミナ粒子(c)を10~30重量%及び球状アルミナ粒子(d)が5~30重量%含有し、球状アルミナ粒子(a)、球状アルミナ粒子(b)及び球状アルミナ粒子(c)及び球状アルミナ粒子(d)の合計が90重量%以上であり、
比表面積が0.3~1.0m2/gである、請求項1に記載の球状アルミナ粒子混合物。
請求項1~4のいずれか1項に記載された球状アルミナ粒子混合物の製造方法であって、平均粒径(D50)が30~160μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(a)、D50が4~12μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(b)、D50が2~3μmであり、かつ円形度が0.90以上である球状アルミナ粒子(c)及びD50が0.8~1.0μmであり、かつ円形度が0.90以上であるアルミナ粒子(d)からなる群から選ばれる少なくとも3種類以上を混合することを特徴とする、球状アルミナ粒子混合物の製造方法。