(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159469
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】肥満症を予防又は治療するための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/403 20060101AFI20231025BHJP
A61K 31/635 20060101ALI20231025BHJP
A61K 31/57 20060101ALI20231025BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20231025BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
A61K31/403
A61K31/635
A61K31/57
A61P3/04
A61P43/00 111
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020141252
(22)【出願日】2020-08-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り A.2019年8月24日 「第24回アディポサイエンス・シンポジウム」(千里ライフサイエンスセンター 第2会場(サイエンスホール))にて公開 B.2019年8月24日 「第24回アディポサイエンス・シンポジウム」(千里ライフサイエンスセンター 第2会場(サイエンスホール))にて公開 C.2019年8月29日 「2019 International Congress on Obesity and Metabolic Syndrome & Asia-Oceania Conference on Obesity(ICOMES & AOCO 2019)講演要旨集」にて公開 D.2019年8月30日 「2019 International Congress on Obesity and Metabolic Syndrome & Asia-Oceania Conference on Obesity(ICOMES & AOCO 2019)」(大韓民国 ソウル Conrad Hotel)にて公開 E.2019年10月18日 「第40回日本肥満学会/第37回日本肥満症治療学会学術集会 抄録集アプリ」にて公開 F.2019年11月3日 「第40回日本肥満学会/第37回日本肥満症治療学会学術集会」(東京国際フォーラム)にて公開 G.2020年7月15日 「日本内分泌学会雑誌第96巻第1号163頁」(第93回日本内分泌学会学術総会抄録集)にて公開 H.2020年7月20日~8月31日 「第93回日本内分泌学会学術総会」(WEB開催)にて公開
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的先端研究開発支援事業ユニットタイプ「エピゲノム研究に基づく診断・治療へ向けた新技術の創出」研究開発領域,「2型糖尿病・肥満における代謝制御機構とその破綻のエピゲノム解析」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】303010452
【氏名又は名称】株式会社LTTバイオファーマ
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】脇 裕典
(72)【発明者】
【氏名】山内 敏正
(72)【発明者】
【氏名】平池 勇雄
(72)【発明者】
【氏名】笠井 智香
(72)【発明者】
【氏名】野田 友人
(72)【発明者】
【氏名】福田 耕一郎
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC12
4C086DA10
4C086DA20
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA70
(57)【要約】
【課題】UCP-1、NFIA、PGC1α、CIDEA、及びCOX8Bからなる群から選択される少なくとも1種、特にUCP-1及び/又はNFIAの発現を増強させて、褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の数や働きを高めることによる肥満症の予防又は治療するための医薬組成物を提供すること。
【解決手段】サルフイソキサゾール(Sulfisoxazole)、クロルマジノン(Chlormadinone)、若しくはラマトロバン(Ramatroban)、又はその薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物若しくは水和物を含む、肥満症を予防又は治療するための医薬組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サルフイソキサゾール(Sulfisoxazole)、クロルマジノン(Chlormadinone)、若しくはラマトロバン(Ramatroban)、又はその薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物若しくは水和物を含む、肥満症を予防又は治療するための医薬組成物。
【請求項2】
前記肥満症が、ベージュ脂肪細胞又は褐色脂肪細胞の白色脂肪細胞に対する数的比率又は質量的比率が健常状態よりも相対的に低いことに起因する、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記肥満症が、UCP-1、NFIA、PGC1α、CIDEA、及びCOX8Bからなる群から選択される少なくとも1種の発現が低いことに起因する、請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記肥満症が、UCP-1の発現が低いことに起因する、請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記肥満症が、NFIAの発現が低いことに起因する、請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記肥満症を予防又は治療することが、脂肪前駆細胞からベージュ脂肪細胞又は褐色脂肪細胞への分化を促進することにより達成される、請求項1~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記肥満症を予防又は治療することが、ベージュ脂肪細胞又は褐色脂肪細胞から脂肪前駆細胞への脱分化を阻害することにより達成される、請求項1~5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記肥満症を予防又は治療することが、UCP-1、NFIA、PGC1α、CIDEA、及びCOX8Bからなる群から選択される少なくとも1種の発現増加を促進することにより達成される、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記肥満症を予防又は治療することが、UCP-1の発現増加を促進することにより達成される、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記肥満症を予防又は治療することが、NFIAの発現増加を促進することにより達成される、請求項1~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥満症を予防又は治療するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満症とそれに起因するメタボリックシンドロームや肥満2型糖尿病は、心血管疾患、腎疾患や悪性腫瘍のリスクを高めることから、健康寿命の延伸を目指す上で大きな障害と言われている。近年、エネルギーの貯蔵を担う白色脂肪組織以外に、細胞が使うエネルギーを生産する細胞内小器官であるミトコンドリアにおけるUncoupled protein-1(UCP-1)というタンパク質による熱産生を介してエネルギーを消費する褐色脂肪組織が、ヒト成人にも存在することがわかってきた。リニエージトレーシングの結果から(古典的)褐色脂肪細胞が実は骨格筋細胞と同一のMyf5陽性前駆細胞から分化し、白色脂肪細胞とは前駆細胞が異なることが報告されている一方、寒冷刺激や交感神経刺激に応じて白色脂肪細胞の一部もUCP-1陽性で発熱能を持つ「ベージュ脂肪細胞(誘導型褐色脂肪細胞)」に変化し得ることが知られている。既に肥満の度合いと褐色脂肪組織の活性が負に相関すること、加齢に伴い褐色脂肪組織の活性が低下することが報告されており、褐色脂肪組織の数や働きを高めることが肥満症の新しい治療につながり得るとして期待されている(非特許文献1~5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】N.Engl.J.Med.360,1500-1508 (2009).
【非特許文献2】N.Engl.J.Med.360,1509-17 (2009).
【非特許文献3】N.Engl.J.Med.360,1518-25 (2009).
【非特許文献4】Diabetes 58,1526-1531(2009).
【非特許文献5】J.Clin.Invest.123,3404-3408 (2013).
【非特許文献6】Nat.Cell Biol.2017 Sep;19(9):1081-1092
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
脂肪細胞においてはこれまで、peroxisome proliferator-activated receptor gamma(PPARγ)と呼ばれる転写因子がその分化に必要十分であり、脂肪細胞分化のマスター転写因子と考えられてきた。しかし、本発明者らは、褐色脂肪組織に特異的なDNA上のオープンクロマチン領域の解析から、褐色脂肪組織の新規制御因子としてNuclear factor I-A (NFIA)を同定した。NFIAがPPARγに先行してDNAへ結合し、かつPPARγのDNAへの結合を促進することで、NFIAとPPARγが協調的に褐色脂肪細胞の遺伝子プログラムを活性化することを見出した。すなわち、褐色脂肪特異的な遺伝子プログラムの活性化はPPARγのみでは達成できず、NFIAの存在が必須であることを明らかにした(非特許文献6)。
本発明者らは、NFIAを欠損させたマウスの褐色脂肪組織では褐色脂肪の遺伝子プログラムが著しく障害されていた一方、筋肉や白色脂肪の前駆細胞にNFIAを導入すると褐色脂肪の遺伝子プログラムが活性化されることを見出した。さらに、ヒト成人の褐色脂肪組織でも白色脂肪組織と比較してNFIAが高発現していることも見出した。
従って、本発明の課題は、褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞に特異的な遺伝子プログラムに関連する遺伝子であるUCP-1、NFIA、Pparg coactivator 1α(PGC1α)、Cell death-inducing DNA fragmentation factor-α-like effector a(CIDEA)、及びCytochrome c oxidase subunit 8b(COX8B)からなる群から選択される少なくとも1種、特にUCP-1及び/又はNFIAの発現を増強させて、褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の数や働きを高めることによる肥満症の予防又は治療するための医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者らは、白色脂肪細胞前駆細胞から脂肪細胞へと分化誘導する実験系でUCP-1の発現を増加させる化合物をスクリーニングし、特定の化合物が、褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞に特異的な遺伝子プログラムに関連する遺伝子であるUCP-1、NFIA、PGC1α、CIDEA、及びCOX8Bからなる群から選択される少なくとも1種、特にUCP-1及び/又はNFIAの発現を増強させて、褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の数や働きを高めることによる肥満症の予防又は治療剤として有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の発明[1]~[13]を提供するものである。
[1]サルフイソキサゾール(Sulfisoxazole)、クロルマジノン(Chlormadinone)、若しくはラマトロバン(Ramatroban)、又はその薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物若しくは水和物を含む、肥満症を予防又は治療するための医薬組成物。
[2]前記肥満症が、ベージュ脂肪細胞又は褐色脂肪細胞の白色脂肪細胞に対する数的比率又は質量的比率が健常状態よりも相対的に低いことに起因する、[1]記載の医薬組成物。
[3]前記肥満症が、UCP-1、NFIA、PGC1α、CIDEA、及びCOX8Bからなる群から選択される少なくとも1種の発現が低いことに起因する、[1]又は[2]記載の医薬組成物。
[4]前記肥満症が、UCP-1の発現が低いことに起因する、[1]又は[2]記載の医薬組成物。
[5]前記肥満症が、NFIAの発現が低いことに起因する、[1]又は[2]記載の医薬組成物。
[6]前記肥満症を予防又は治療することが、脂肪前駆細胞からベージュ脂肪細胞又は褐色脂肪細胞への分化を促進することにより達成される、[1]~[5]のいずれかに記載の医薬組成物。
[7]前記肥満症を予防又は治療することが、ベージュ脂肪細胞又は褐色脂肪細胞から脂肪前駆細胞への脱分化を阻害することにより達成される、[1]~[5]のいずれかに記載の医薬組成物。
[8]前記肥満症を予防又は治療することが、UCP-1、NFIA、PGC1α、CIDEA、及びCOX8Bからなる群から選択される少なくとも1種の発現増加を促進することにより達成される、[1]~[7]のいずれかに記載の医薬組成物。
[9]前記肥満症を予防又は治療することが、UCP-1の発現増加を促進することにより達成される、[1]~[7]のいずれかに記載の医薬組成物。
[10]前記肥満症を予防又は治療することが、NFIAの発現増加を促進することにより達成される、[1]~[7]のいずれかに記載の医薬組成物。
[11]肥満症を予防又は治療するための、サルフイソキサゾール(Sulfisoxazole)、クロルマジノン(Chlormadinone)、若しくはラマトロバン(Ramatroban)、又はその薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物若しくは水和物。
[12]肥満症の予防又は治療用の医薬組成物を製造するための、サルフイソキサゾール(Sulfisoxazole)、クロルマジノン(Chlormadinone)、若しくはラマトロバン(Ramatroban)、又はその薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物若しくは水和物の使用。
[13]サルフイソキサゾール(Sulfisoxazole)、クロルマジノン(Chlormadinone)、若しくはラマトロバン(Ramatroban)、又はその薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物若しくは水和物を投与することを特徴とする、肥満症を予防又は治療する方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞に特異的な遺伝子プログラムに関連する遺伝子であるUCP-1、NFIA、PGC1α、CIDEA、及びCOX8Bからなる群から選択される少なくとも1種、特にUCP-1及び/又はNFIAの発現を増強させて、褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞の数や働きを高めることによる、全く新しい肥満症の予防又は治療剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】Ucp-1 mRNA発現量が高い66化合物の遺伝子発現プロファイルの確認の結果を示す。
【
図2】クロルマジノン酢酸エステル(Chlormadinone acetate)、サルフイソキサゾール(Sulfisoxazole)、ラマトロバン(Ramatroban)及びロシグリタゾン(Rosiglitazone)のUcp-1 mRNA発現量を示す。
【
図3】クロルマジノン酢酸エステル(Chlormadinone acetate)、サルフイソキサゾール(Sulfisoxazole)、ラマトロバン(Ramatroban)及びロシグリタゾン(Rosiglitazone)のNfia mRNA発現量を示す。
【
図4】クロルマジノン酢酸エステル(Chlormadinone acetate)、サルフイソキサゾール(Sulfisoxazole)、ラマトロバン(Ramatroban)及びロシグリタゾン(Rosiglitazone)のPgc1α mRNA発現量を示す。
【
図5】クロルマジノン酢酸エステル(Chlormadinone acetate)、サルフイソキサゾール(Sulfisoxazole)、ラマトロバン(Ramatroban)及びロシグリタゾン(Rosiglitazone)のCidea mRNA発現量を示す。
【
図6】クロルマジノン酢酸エステル(Chlormadinone acetate)、サルフイソキサゾール(Sulfisoxazole)、ラマトロバン(Ramatroban)及びロシグリタゾン(Rosiglitazone)のCox8b mRNA発現量を示す。
【
図7】Nfiaトランスジェニックマウス作成のためのDNAコンストラクトを示す。
【
図8】Nfiaトランスジェニックマウスの各臓器におけるNfia遺伝子発現(A)及びNFIAタンパク質の検出(B)結果を示す。
【
図9】普通食下におけるNfiaトランスジェニックマウス(Tg)と野生型マウス(WT)の体重(A)及び摂餌量(B)を示す。
【
図10】高脂肪食下におけるNfiaトランスジェニックマウス(Tg)と野生型マウス(WT)の体重(A)及び摂餌量(B)を示す。
【
図11】Nfiaトランスジェニックマウス(Tg)と野生型マウス(WT)の普通食下(NCD)及び高脂肪食下(HFD)における体重(A)、肝臓重量(B)、脂肪組織重量(C)を示す。
【
図12】Nfiaトランスジェニックマウス(Tg)と野生型マウス(WT)の高脂肪食下(HFD)における褐色脂肪組織のHE染色(A)及び脂肪滴サイズ(B)を示す。
【
図13】Nfiaトランスジェニックマウス(Tg)と野生型マウス(WT)の高脂肪食下(HFD)における鼠径部皮下白色脂肪組織(iWAT)のHE染色(A)及び脂肪滴サイズ(B)を示す。
【
図14】Nfiaトランスジェニックマウス(Tg)と野生型マウス(WT)の高脂肪食下(HFD)における褐色脂肪組織(A)鼠径部皮下白色脂肪組織(B)、生殖器周囲脂肪組織(C)における褐色脂肪関連遺伝子群のmRNA発現変化を示す。
【
図15】Nfiaトランスジェニックマウス(Tg)と野生型マウス(WT)の高脂肪食下(HFD)における褐色脂肪組織(A)鼠径部皮下白色脂肪組織(B)、生殖器周囲脂肪組織(C)におけるミトコンドリア関連遺伝子群のmRNA発現変化を示す。
【
図16】Nfiaトランスジェニックマウス(Tg)と野生型マウス(WT)の室温(RT)及び寒冷条件(4℃、Cold)における体温の変化を示す。
【
図17】Nfiaトランスジェニックマウス(Tg)と野生型マウス(WT)の高脂肪食下(HFD)における酸素消費量(A)と呼吸商(B)の変化を示す。
【
図18】高脂肪食下におけるNfiaトランスジェニックマウス(Tg)と野生型マウス(WT)のブドウ糖負荷試験(A)及びインスリン負荷試験(B)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の肥満症を予防又は治療するための医薬組成物の有効成分は、サルフイソキサゾール(Sulfisoxazole)、クロルマジノン(Chlormadinone)、若しくはラマトロバン(Ramatroban)、又はその薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物若しくは水和物である。
【0010】
サルフイソキサゾールは、次の式(1)で表される4-アミノ-N-3,4-ジメチル-5-イソオキサゾリル)ベンゼンスルホンアミドであり、スルホンアミド系抗菌薬、いわゆるサルファ剤の1種であり、主として結膜炎、眼瞼炎、角膜炎などの治療薬として用いられている。
【0011】
【0012】
しかし、UCP-1、NFIA、PGC1α、CIDEA、及びCOX8Bからなる群から選択される少なくとも1種、特にUCP-1及び/又はNFIAに対する作用、並びに肥満症に対する作用は知られていない。
【0013】
クロルマジノンは、6-クロロ-3,20-ジオキソプレグナ-4,6-ジエン-17-オールであり、その酢酸エステルであるクロルマジノン酢酸エステルは、次の式(2)で表される6-クロロ-3,20-ジオキソプレグナ-4,6-ジエン-17-イル アセテートであり、プロゲステロン受容体作動薬、アンドロゲン受容体拮抗薬としての作用を有し、前立腺肥大症、前立腺癌などの治療薬として用いられている。
【0014】
【0015】
しかし、UCP-1、NFIA、PGC1α、CIDEA、及びCOX8Bからなる群から選択される少なくとも1種、特にUCP-1及び/又はNFIAに対する作用、並びに肥満症に対する作用は知られていない。
【0016】
ラマトロバンは、次の式(3)で表される(+)-(3R)-3-(4-フルオロベンゼンスルホンアミド)-1,2,3,4-テトラヒドロカルバゾール-9-プロピオン酸であり、トロンボキサンA2受容体拮抗剤であり、アレルギー性鼻炎治療薬として用いられている。
【0017】
【0018】
しかし、UCP-1、NFIA、PGC1α、CIDEA、及びCOX8Bからなる群から選択される少なくとも1種、特にUCP-1及び/又はNFIAに対する作用、並びに肥満症に対する作用は知られていない。
【0019】
サルフイソキサゾール、クロルマジノン、ラマトロバンの塩としては、化合物の性状に応じて、塩酸塩、硫酸塩などの鉱酸塩、酢酸塩などの有機酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩などが挙げられる。また、エステルとしては酢酸エステルなどの脂肪酸エステルが挙げられる。また、これらの化合物は、水和物、溶媒和物として用いてもよい。
【0020】
サルフイソキサゾール、クロルマジノン、ラマトロバン又はその薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物若しくは水和物は、後記実施例に示すように、ベージュ脂肪細胞又は褐色脂肪細胞に特異的な遺伝子プログラムに関連する遺伝子であるUCP-1、NFIA、PGC1α、CIDEA、及びCOX8Bからなる群から選択される少なくとも1種、特にUCP-1及び/又はNFIAの発現増加を促進する作用を有し、ベージュ脂肪細胞又は褐色脂肪細胞から脂肪前駆細胞への脱分化を阻害し及び/又は脂肪前駆細胞からベージュ脂肪細胞又は褐色脂肪細胞への分化を促進し、ベージュ脂肪細胞又は褐色脂肪細胞の数や働きを高めることによって、肥満症の予防又は治療作用を発揮する。
従って、本発明の医薬組成物は、ベージュ脂肪細胞又は褐色脂肪細胞の白色脂肪細胞に対する数的比率又は質量的比率が健常状態よりも相対的に低いことに起因する肥満症、さらにベージュ細胞又は褐色脂肪細胞に特異的な遺伝子プログラムに関連する遺伝子であるUCP-1、NFIA、PGC1α、CIDEA、及びCOX8Bからなる群から選択される少なくとも1種、特にUCP-1及び/又はNFIAの発現が低いことに起因して、ベージュ脂肪細胞又は褐色脂肪細胞の白色脂肪細胞に対する数的比率又は質量的比率が健常状態よりも相対的に低くなっている肥満症に対して有効である。
【0021】
なお、ベージュ脂肪細胞又は褐色脂肪細胞の白色脂肪細胞に対する数的比率又は質量的比率が健常状態よりも相対的に低いことに起因する肥満症については、当該技術分野において公知の方法で調べることができる。例えば、上記肥満症は、寒冷刺激をかけた上でFDG-PETと呼ばれるグルコースの取り込みを定量する検査を用いて褐色脂肪細胞の活性を定量することにより、調べることができる。
この検査において、FDGとしては、18F-fluoro-2-deoxyglucose(例えば、日本メジフィジックス株式会社から入手可能)を用いることができ、PET/CT systemについては、「Aquiduo; Toshiba Medical Systems, Otawara, Tochigi, Japan」を用いることができる。
「寒冷刺激」の条件としては、6-12時間の絶食後、1時間に渡って軽装で19℃過ごしてもらい、その間、脚は5分ごとに4分間ずつ氷で冷やすことにより行うことができる。
「褐色脂肪細胞の活性」は、CT値において脂肪組織として矛盾しない領域のうち、FDG-PETにおいて閾値以上のグルコース取り込みを認める領域を褐色脂肪細胞、残りを白色脂肪細胞と判定することにより、定量することができる。
【0022】
さらには、本発明の医薬組成物は、褐色脂肪細胞又はベージュ脂肪細胞に特異的な遺伝子プログラムに関連する遺伝子であるUCP-1、NFIA、PGC1α、CIDEA、及びCOX8Bからなる群から選択される少なくとも1種、特にUCP-1及び/又はNFIAの働きを高めることによって、エネルギー摂取の抑制ではなく、エネルギー消費の促進に基づく肥満症、メタボリックシンドローム、及び/又は肥満2型糖尿病の治療薬として有用である。
従って、本発明の予防及び/又は治療の対象となる疾患又は症状は、肥満症、メタボリックシンドローム、及び肥満2型糖尿病からなる群から選択される少なくとも1種であり、好ましくは肥満症である。
【0023】
本発明の医薬組成物は、前記サルフイソキサゾール、クロルマジノン、ラマトロバン又はその薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物若しくは水和物を含有すればよいが、これに薬学的に許容される担体を配合して種々の投与形態の医薬組成物とするのが好ましい。
このような医薬組成物の投与形態としては、注射剤、経口剤(錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤)、軟膏剤、クリーム剤、貼付剤、坐剤等が挙げられる。このうち、注射剤、経口剤が特に好ましい。
【0024】
これらの医薬組成物の形態とするために用いられる薬学的に許容される担体としては、例えば、溶解補助剤、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、矯味剤、防腐剤、界面活性剤などが挙げられる。
より具体的には、水、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、乳糖、ブドウ糖、D-マンニトール、澱粉、結晶セルロース、炭酸カルシウム、カオリン、デンプン、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、エタノール、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム塩、ステアリン酸マグネシウム、タルク、アセチルセルロース、白糖、酸化チタン、安息香酸、パラオキシ安息香酸エステル、デヒドロ酢酸ナトリウム、アラビアゴム、トラガント、メチルセルロース、卵黄、非イオン界面活性剤、白糖、単シロップ、クエン酸、蒸留水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、マクロゴール、リン酸-水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、ブドウ糖、塩化ナトリウム、フェノール、チメロサール、パラオキシ安息香酸エステル、亜硫酸水素ナトリウム、カルメロース、ヒプロメロース等が挙げられる。
経口剤とする場合には、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、矯味剤などが用いられ、常法によって製造できる。経口剤としては、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などが好ましい。
注射剤とする場合には、水、溶解補助剤などが用いられる。注射剤としては、静脈内投与剤、皮下注射剤、筋肉内投与剤が好ましく、凍結乾燥製剤、粉末充填剤の形態が挙げられる。
【0025】
本発明のクロルマジノン又はその薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物若しくは水和物を含有する医薬組成物としては、既存薬の組成を好ましく使用することができ、例えば、クロルマジノン酢酸エステル(好ましくは25mg)に加えて、アルファー化デンプン、カルメロースカルシウム、結晶セルロース、ステアリン酸マグネシウム、トウモロコシデンプン、及び乳糖水和物を含有することができる。
【0026】
本発明のラマトロバン又はその薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物若しくは水和物を含有する医薬組成物としては、既存薬の組成を好ましく使用することができ、例えば、ラマトロバン(好ましくは50mg又は75mg)に加えて、乳糖水和物、ヒドロキシプロピルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、ヒプロメロース、マクロゴール(好ましくはマクロゴール6000)、及び酸化チタンを含有することができる。
【0027】
本発明の医薬組成物には、他の肥満症治療剤、メタボリックシンドローム治療剤、2型糖尿病治療剤などを配合してもよく、これらの薬剤と併用してもよい。
併用可能な薬剤としては、公知の2型糖尿病治療剤がより好ましく、例えば、本発明に係る化合物と同じく脂肪細胞を標的とするピオグリタゾンが更に好ましい。
【0028】
本発明の医薬組成物中における本発明の有効成分の含有量は、有効成分、投与形態によって大きく変動し、特に限定されるものではないが、通常は、組成物全量に対して0.01~100質量%、好ましくは1~100質量%である。
有効成分は、経口剤の場合には、通常一投与単位当たり、5質量%~70質量%程度含有するのが好ましい。
【0029】
本発明の医薬組成物の投与量は、有効成分、投与する患者の症状、年齢、投与方法によって異なるが、前記有効成分量として、成人に対して1日あたり1.0μg~500mgであるのが好ましい。またこの投与量は1日に1~4回に分けて投与することもできる。
クロルマジノン酢酸エステルの場合には、通常成人に対し1回25mg~50mgを1日1~3回投与するのが好ましい。また、ラマトロバンの場合には、通常成人に対し1回75mg~100mgを1日1~3回投与するのが好ましい。スルフイソキサゾールの場合には、通常成人に対し、1回200mg~800mgを1日1~3回投与するのが好ましい。
【0030】
本発明の好ましい別の実施態様は、肥満症を予防又は治療するための、サルフイソキサゾール(Sulfisoxazole)、クロルマジノン(Chlormadinone)、若しくはラマトロバン(Ramatroban)、又はその薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物若しくは水和物である。
本発明の好ましい別の実施態様は、肥満症の予防又は治療用の医薬組成物を製造するための、サルフイソキサゾール(Sulfisoxazole)、クロルマジノン(Chlormadinone)、若しくはラマトロバン(Ramatroban)、又はその薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物若しくは水和物の使用である。
本発明の好ましい別の実施態様は、サルフイソキサゾール(Sulfisoxazole)、クロルマジノン(Chlormadinone)、若しくはラマトロバン(Ramatroban)、又はその薬学的に許容される塩、エステル、溶媒和物若しくは水和物を投与することを特徴とする、肥満症を予防又は治療する方法である。
【実施例0031】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
試験例1(クロルマジノン酢酸エステル)、サルフイソキサゾールおよびラマトロバンの抗肥満作用)
UCP-1発現の増加は、脂肪細胞における熱産生増加による基礎代謝の増加を誘導し、抗肥満効果に寄与すると考えられている。そこで、抗肥満効果に寄与する化合物を探索するため、白色脂肪細胞前駆細胞およびベージュ脂肪細胞前駆細胞の混合物であるマウス鼠径部間質血管細胞由来不死化細胞を脂肪細胞へと分化誘導する細胞実験系において種々の化合物を添加し、UCP-1 mRNA発現を増加させる化合物のスクリーニングを行った。
【0033】
(方法)
1.1stスクリーニング
1)分化誘導
マウス鼠径部間質血管細胞由来不死化細胞を基本培地(10%FBSおよび1%Penicilline-Streptomycin含有DMEM/F-12 GlutaMAX, GIBCO)を用いてゼラチンコートをしたplateに播種し、コンフルエント(day0)になるまで培養を行った。培地を分化培地1(基本培地に1μM Dexamethazone, 0.5mM Isobutylmethylxanthine, 5μg/mL Insulin, 1nM T3, 125μM Indomethacinを含む)に置換し、終濃度10μMとなるようにスクリーニング化合物を添加した。Day2に分化培地1を分化培地2(基本培地に5μg/mL Insulin, 1nM T3を含む)に置換し、終濃度10μMとなるようにスクリーニング化合物を添加した。Day4に分化培地2を新しい分化培地2に置換し、終濃度10μMとなるようにスクリーニング化合物を添加した。ポジティブコントロールとして1μM Rosiglitazoneをスクリーニング化合物と同様に培地交換を行いながらday0―day7まで添加した。
【0034】
2)RNA抽出、逆転写反応
Day7の細胞からSuperPrepII Cell Lysis & RT Kit for qPCR(TOYOBO)を用いてRNA lysateを作製し、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix with gDNA Remover (TOYOBO)を用いてcDNAを作製した。
【0035】
3)qPCR
Power SYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)を用いてQuant Studio 7 Flex Real-Time PCR System(Applied Biosystems)でqPCRを行い、UCP-1 mRNA量を測定した。内在性コントロールにはRplp0を用いた。用いたプライマーを表1に示す。
【0036】
【0037】
2.遺伝子発現プロファイルの確認
1)分化誘導
前記1.1stスクリーニング に同じ。
2)RNA抽出、逆転写反応
Day7の細胞からRNeasy mini kit(QIAGEN)を用いてRNAを抽出し、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix with gDNA Remover (TOYOBO)を用いてcDNAを作製した。
3)qPCR
KOD SYBR qPCR Mix(TOYOBO)を用いてViiA7 リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)でqPCRを行い、Ucp-1、Nfia、Pgc1α、Cidea、 Cox8b mRNA量を測定した。内在性コントロールにはRplp0を用いた。プライマーは表1。
【0038】
(結果)
1.1stスクリーニング
結果は
図1に示す。Ucp-1 mRNA発現量が高い66化合物を用いて再度分化誘導実験を行い、遺伝子発現プロファイルの確認を行った。
2.遺伝子発現プロファイルの確認
クロルマジノン酢酸エステル、サルフイソキサゾールおよびラマトロバンを添加した細胞において、Ucp-1 mRNA発現量が対照群に比べて増加することが明らかとなった(
図2)。なお、Nfia、Pgc1α、Cidea、Cox8b mRNA発現量も同様にqPCRで測定を行い、各化合物の遺伝子発現プロファイルを明らかにした(
図3-
図6)。
【0039】
(解釈)
クロルマジノン酢酸エステル、サルフイソキサゾールおよびラマトロバンは、それぞれの化合物を添加した細胞においてUcp-1 mRNA発現の増加を示したことから(
図2)、UCP-1の熱産生効果による抗肥満効果をもつと考えられる。
また、クロルマジノン酢酸エステル、サルフイソキサゾールはNfia mRNA発現を増加した(
図3)。NFIAは脂肪細胞分化のマスター転写因子PPARγの褐色脂肪細胞特異的遺伝子エンハンサーへ結合を促進することでこれら遺伝子の転写を促進し、体重減少作用を誘導することから(試験例2を参照)、クロルマジノン酢酸エステルおよびサルフイソキサゾールはNFIAの誘導またUCP-1発現の誘導を介して、抗肥満効果を持つ可能性がある。なお、Nfia mRNA増加作用は肥満に伴う糖尿病治療薬であるロシグリタゾンおよびラマトロバンには認められなかったことから、少なくともクロルマジノン酢酸エステルとサルフイソキサゾールはロシグリタゾンとは異なる経路で抗肥満作用を有している可能性がある。
また、クロルマジノン酢酸塩、サルフイソキサゾールおよびラマトロバンはPgc1α、Cidea、Cox8bの発現も増加した。PGC1αはPPARγの転写共役因子として褐色脂肪細胞特異的遺伝子発現を誘導し、CIDEAは褐色脂肪細胞の脂肪滴の維持に関与する。また、COX8Bはミトコンドリアのシトクロームcオキシダーゼ酵素複合体の構成要素であることから、各化合物は白色脂肪細胞のベージュ化誘導に寄与することが示唆される。
以上のことから、クロルマジノン酢酸エステル、サルフイソキサゾールおよびラマトロバンはそれぞれ異なる褐色脂肪細胞及び/又はベージュ脂肪細胞関連遺伝子の発現増加プロファイルを持つ抗肥満薬として利用できる可能性がある。
【0040】
試験例2(脂肪細胞のNFIA遺伝子の発現制御による体重および全身代謝に与える作用の検討)
【0041】
(概要)
褐色脂肪細胞はミトコンドリアに富み、エネルギー消費が高く、ヒト成人において鎖骨上窩や深部頸部などに存在することが知られている。本発明者らはマウスの褐色脂肪組織のオープンクロマチン解析により転写因子NFIAが褐色脂肪細胞特異的な転写プログラムの重要な制御因子であることを明らかにし報告した(非特許文献4.)。NFIAは褐色脂肪特異的な遺伝子群の転写を制御することから、脂肪組織におけるNFIAの発現を増加させることにより、全身のエネルギー代謝を亢進させ、肥満もしくは肥満症の治療戦略となる可能性が期待される。このことを検討するために、遺伝子改変技術で、マウスの脂肪組織のNFIA発現を増加させるもしくは減少させるモデルマウスを作製し、全身の体重および代謝に与える影響を検討した。
【0042】
(方法)
1.Nfiaトランスジェニックマウスの開発
1)DNAコンストラクトの作成(
図7)
脂肪組織に選択的に発現するFabp4遺伝子のプロモーター(-5.4kb)の下流に、マウスNfia遺伝子をコードするデオキシリボ核酸(cDNA)配列を挿入した。
【0043】
2)マウスの作成
C57BL/6の受精卵に、上記DNAコンストラクトをマイクロインジェクションにより注入し、ゲノムDNAにランダムインテグレーションされたマウス仔を得た。脂肪組織に選択的なNfia遺伝子の過剰発現は、トラスジェニックマウスの各種臓器からTRI reagent(コスモバイオ)を用いてmRNAを抽出し、Power SYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)を用いてQuant Studio 7 Flex Real-Time PCR System(Applied Biosystems)で定量的PCR(qPCR)を行い、Nfia遺伝子のmRNA量を測定した。内在性コントロールにはRplp0遺伝子を用いた。NFIAタンパクの検出にはNFIA抗体(Abcam社ab41851)を用いて、Westernブロッティングを施行した。
【0044】
2.体重や摂餌量の影響の検討
マウスは東京大学医学部動物実験委員会の承認された実験計画のもと、温度、湿度、照明、Specific pathogen free(SPF)が制御された動物舎で飼育し、通常の普通食、もしくは図に記載された週数、高脂肪食(High Fat Diet 32、日本クレア)を与え、体重および摂餌量を測定した。
【0045】
3.脂肪組織および他の臓器の解析
マウスは頸椎脱臼による安楽死を行い、解剖の後、各種臓器重量を測定した。特に脂肪組織はホルマリン固定を行い、組織切片のHE染色を施行した。脂肪細胞のサイズは、組織切片の脂肪滴もしくは脂肪細胞の画像をImageJ(NIH)で解析した。
【0046】
4.脂肪組織および他の臓器のRNA解析
臓器サンプルは、ビーズ式細胞破砕装置(トミー精工)でホモジナイズし、TRI reagent(コスモバイオ)を用いてmRNAを抽出し、ReverTra Ace qPCR RT Master Mix with gDNA Remover (TOYOBO)を用いてcDNAを作製した。さらにPower SYBR Green PCR Master Mix(Applied Biosystems)を用いてQuant Studio 7 Flex Real-Time PCR System(Applied Biosystems)で定量的PCR(qPCR)を行い、各種遺伝子のmRNA量を測定した。用いたプライマーを表2~表4に示す。
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
5.寒冷耐性の検討
マウスを小動物用温度調節機能付チャンバー(シンファクトリー、HC-10)で4oCの寒冷環境でモニターしながら、記載された時間間隔で直腸温をマイクロプローブ・サーモメータ(Physitemp BAT-12R)で測定した。
【0051】
6.酸素消費量および呼吸商の測定
マウスを代謝ケージ(小動物用代謝計測システム、室町機械株式会社 Model MK-5000)内で飼育し、酸素消費量と二酸化炭素排出量を測定した。
【0052】
7.ブドウ糖負荷試験とインスリン負荷試験
尾静脈から少量の血液を採取し、血糖はグルテストセンサー(三和化学株式会社)を用いて測定した。ブドウ糖水溶液をゾンデ用いて規定量(2g/kg)経口摂取させ、記載された時間後に尾静脈から得た少量の血液で測定した。インスリン水溶液は0.75U/kgの用量で腹腔内投与を行い、ブドウ糖負荷試験と同様に、記載された時間後に尾静脈から得た少量の血液で測定した。
【0053】
(結果)
1.Nfiaトランスジェニックマウスの解析結果
Nfiaトランスジェニックマウスにおいては、mRNAの解析結果から、脂肪組織において選択的にNfia遺伝子のmRNAおよび蛋白の発現量が増加していることを確認した(
図8)。普通食下においては、Nfiaトランスジェニックマウスと野生型に体重と摂餌量には差が認められなかったが(
図9)、高脂肪食を負荷すると、摂餌量には差がないにもかかわらず、Nfiaトランスジェニックマウスにおいて体重の増加が有意に抑制された(
図10)。解剖時の組織重量の検討では、高脂肪食下ではNfiaトランスジェニックマウスは野生型と比較して、白色脂肪組織で有意な臓器重量の減少が認められた(
図11)。脂肪組織のHE染色では、褐色脂肪組織では変化はないものの、鼠径部皮下白色脂肪では高脂肪食による脂肪細胞の肥大化が抑制されていた(
図12、13)。遺伝子レベルにおいても、Nfiaトランスジェニックマウスの白色脂肪組織(鼠径部皮下および生殖器周囲)では、野生型マウスと比較して、Ppargc1a、Cidea、Cox8b、Dio2、S100bなどの褐色脂肪関連遺伝子群や(
図14)、ミトコンドリア関連遺伝子群(
図15)が誘導されていることが分かった。更に、Nfiaトランスジェニックマウスは、野生型マウスと比較して、寒冷環境下における体温低下が有意に抑制されていること(
図16)、また代謝ケージによる酸素消費量の測定で、酸素消費量が有意に高いことから(
図17)、Nfiaトランスジェニックマウスは、熱産生によるエネルギー消費が増加していることが示唆された。更に、ブドウ糖負荷試験、インスリン負荷試験の結果から、Nfiaトランスジェニックマウスは野生型と比較して、耐糖能ならびにインスリン感受性が高く、高脂肪食による糖尿病の悪化が抑制されていた(
図18)。
【0054】
(解釈)
遺伝子改変技術で、マウスの脂肪細胞のNfia発現を増加させるモデルマウスを作製した。脂肪細胞におけるNfia遺伝子の発現が増加すると、酸素消費量が増大し、高脂肪食下の体重増加や糖代謝の異常を緩和することが明らかとなった。このことから、脂肪組織のNfia遺伝子の発現量を増加させることで、高脂肪食により悪化する肥満や2型糖尿病を改善することが示唆された。
従って、本発明の医薬組成物を高脂肪食による肥満患者や2型糖尿病患者に投与することにより、当該患者における脂肪組織のNFIA遺伝子の発現量を増加させ、当該肥満や2型糖尿病を予防及び/又は治療できることが示唆された。
【0055】
(新規スクリーニングによる新しいNfia増加化合物の探索)
(1)Nfia増加化合物を探索するため、3T3-F442A細胞もしくはその他の細胞を使用して、Nfiaをターゲットとしたスクリーニングを行う。
(2)Nfia増加化合物を探索するため、3T3-F442A細胞もしくはその他の細胞にルシフェラーゼもしくはその他の酵素の遺伝子を付与したNfia発現ベクターを導入し、発光シグナルもしくはその他の酵素反応を利用したスクリーニングを行う。
(3)Nfia増加化合物を探索するため、サルフイソキサゾールやクロルマジノンがNfia mRNA発現を誘導する作用機序を解析し、その作用機序に基づいたスクリーニングを行う。
(4)Nfia増加化合物を探索するため、Nfia mRNAもしくはNfiaタンパク発現の作用機序を解析し、その作用機序に基づいたスクリーニングを行う。
【0056】
(Nfia増加化合物の動物における評価)
(1)Nfia増加化合物の作用を動物において評価するため、高脂肪食摂取マウスにNfia増加化合物を投与し、体重測定を行う。
(2)Nfia増加化合物の作用を動物において評価するため、動物にNfia
増加化合物を投与し、酸素消費量の測定を行う。
(3)Nfia増加化合物の作用を動物において評価するため、動物にNfia増加化合物を投与し、耐糖能および糖代謝の測定を行う。
【0057】
(Nfia増加化合物のUcp-1依存性/非依存性の確認)
(1)Nfia誘導性抗肥満作用のUcp-1依存性を評価するため、Nfia遺伝子ノックダウン動物もしくは細胞またはノックアウト動物もしくは細胞に対して、Nfia増加化合物を処置し、Ucp-1発現を評価する。