(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159481
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】石英ガラスミルドファイバーおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 13/00 20060101AFI20231025BHJP
C03C 25/68 20060101ALI20231025BHJP
C03C 25/70 20060101ALI20231025BHJP
D01F 9/08 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
C03C13/00
C03C25/68
C03C25/70
D01F9/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069145
(22)【出願日】2022-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】糸川 肇
(72)【発明者】
【氏名】田口 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】野村 龍之介
(72)【発明者】
【氏名】浦中 宗聖
【テーマコード(参考)】
4G060
4G062
4L037
【Fターム(参考)】
4G060BA04
4G060BD21
4G062AA05
4G062BB02
4G062DA08
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4G062MM27
4G062NN29
4G062NN33
4G062NN34
4L037CS23
4L037FA01
4L037FA12
(57)【要約】
【課題】熱膨張係数および誘電正接が低く、信頼性のある石英ガラスミルドファイバーを提供すること。
【解決手段】SiO2を95質量%以上含む石英ガラス繊維の粉砕物であって、平均直径が、3.0~15μm、アスペクト比が、30以下、熱膨張係数が、1ppm以下、かつ表面の炭素量が、0.1質量%以下である石英ガラスミルドファイバー。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO2を95質量%以上含む石英ガラス繊維の粉砕物であって、平均直径が、3.0~15μm、アスペクト比が、30以下、熱膨張係数が、1ppm以下、かつ表面の炭素量が、0.1質量%以下である石英ガラスミルドファイバー。
【請求項2】
10GHzにおける誘電正接が、0.0015以下である請求項1記載の石英ガラスミルドファイバー。
【請求項3】
40GHzにおける誘電正接が、0.0020以下である請求項1または2記載の石英ガラスミルドファイバー。
【請求項4】
表面処理されている請求項1または2記載の石英ガラスミルドファイバー。
【請求項5】
SiO2を95質量%以上含み、SiOH基濃度が1000ppm以下の石英ガラスインゴットを加熱延伸して石英ガラス繊維を形成する繊維形成工程と、
上記石英ガラス繊維を粉砕して粉砕物を作製する粉砕工程と
を含む請求項1または2記載の石英ガラスミルドファイバーの製造方法。
【請求項6】
粉砕工程が、上記石英ガラス繊維をボールミルで粉砕することにより行われるものであり、上記ボールミル用のボールが、SiO2を95質量%以上含む石英ボールまたは少なくともその表面が300℃以上で完全に熱分解する有機樹脂で形成されたものである請求項5記載の石英ガラスミルドファイバーの製造方法。
【請求項7】
上記石英ガラス繊維の表面に付着した有機不純物を除去する第一の有機不純物除去工程および/または上記粉砕物の表面に付着した有機不純物を除去する第二の有機不純物除去工程を含む請求項5記載の石英ガラスミルドファイバーの製造方法。
【請求項8】
第一の有機不純物除去工程が、上記石英ガラス繊維を300℃以上で加熱することにより行われるものである請求項7記載の石英ガラスミルドファイバーの製造方法。
【請求項9】
第二の有機不純物除去工程が、フッ酸水溶液、フッ化アンモニウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、アンモニア水およびアルカリ電解水から選択されるエッチング液で上記粉砕物を処理するものである請求項7または8記載の石英ガラスミルドファイバーの製造方法。
【請求項10】
上記エッチング液が、pH12以上のアルカリ電解水である請求項9記載の石英ガラスミルドファイバーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスミルドファイバーおよびその製造方法に関し、さらに詳述すると、熱膨張係数および誘電正接が低減された石英ガラスミルドファイバーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、スマートフォン等の情報端末の高性能化、高速通信化に伴い、半導体パッケージ基板において、高密度化、極薄化が進んでいる。それに伴って、部品実装時およびパッケージ組み立て時において、チップと基板との熱膨張係数の差によって反りや剥離等の問題が生じている。そのため、基板に用いられる材料には、より一層熱膨張係数の小さい材料が求められている。
【0003】
基板に用いられる熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂の熱膨張係数を低下させる方法としては、シリカなどの無機充填剤を樹脂に混練する方法が知られている。特に、熱膨張係数を低下させるだけでなく、強度を大きく上昇させるためには、チョップドストランドやミルドファイバーといった繊維状の無機充填剤を使用することが有効である。
【0004】
また、高速通信に伴い、高周波帯の使用が進められており、低誘電化、低誘電正接化についても著しく進行している。基板における信号の伝送ロスは、Edward A.Wolff式:伝送損失∝√ε×tanδが示すように、誘電率(ε)および誘電正接(tanδ)が小さい材料ほど改善されることが知られており、特に、上記の式からわかるように、伝送損失に対しては、誘電正接の寄与が大きい。
【0005】
この誘電正接を低減させた繊維状無機充填材として、特許文献1では、組成中のSiO2量が50~60質量%のチョップドストランドが提案されているが、今後の5G通信用用途等において十分な低熱膨張係数、伝送速度性能を達成する観点から、これらのガラス組成は、なお改善の必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的なガラス組成であるEガラスや特許文献1のガラス組成のストランドは、SiO2の含有量が70質量%以下であるため、他の組成であるAl2O3等の影響によりSiO2本来の低熱膨張係数が発揮されないという問題がある。すなわち、これらの組成のガラスを熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂に添加した場合、樹脂の熱膨張係数が下がりきらず、このような樹脂を半導体パッケージ基板に用いると、シリコンチップとの熱膨張差が大きくなってしまい、反りや剥離が生じてしまうという問題がある。また、誘電特性も、5G向け高周波基板用途の熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂の誘電正接を低下させるためには不十分であった。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、熱膨張係数および誘電正接が低く、信頼性のある石英ガラスミルドファイバーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、SiO2を所定量含み、所定の直径、所定のアスペクト比を有し、熱膨張係数および表面炭素量を低減した石英ガラスミルドファイバーが、信頼性の高いものであることを見出すとともに、所定の製法により上記石英ガラスミルドファイバーが得られることを見出した。
【0010】
すなわち、所定のSiO2含有量および所定のSiOH基濃度の原料石英ガラスインゴットを加熱延伸して得られる石英ガラス繊維を粉砕して形成された所定のアスペクト比を有するミルドファイバーであれば、低熱膨張係数、低誘電正接を達成できることを見出した。
【0011】
また、石英ガラスミルドファイバーの表面に存在する有機不純物が、石英ガラスミルドファイバーを樹脂に添加する際に施すシランカップリング剤処理に悪影響を及ぼし、信頼性を低下させるだけでなく、誘電正接を悪化させることを見出した。そこで、石英ガラス繊維や石英ガラスミルドファイバーに付着した有機不純物を所定の方法で除去して有機不純物を大幅に低減させることで、樹脂との密着性に優れ、誘電正接の低い石英ガラスミルドファイバーを得ることができることを見出した。
【0012】
特に、石英ガラス繊維や石英ガラスミルドファイバーを所定温度でヒートクリーニングすることで、表面の有機不純物や水洗で除去できない表面の不要なシランカップリング剤を除去できるだけでなく、得られる石英ガラスミルドファイバーの誘電正接をさらに低下させることができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0013】
従って、本発明は、
1. SiO2を95質量%以上含む石英ガラス繊維の粉砕物であって、平均直径が、3.0~15μm、アスペクト比が、30以下、熱膨張係数が、1ppm以下、かつ表面の炭素量が、0.1質量%以下である石英ガラスミルドファイバー、
2. 10GHzにおける誘電正接が、0.0015以下である1記載の石英ガラスミルドファイバー、
3. 40GHzにおける誘電正接が、0.0020以下である1または2記載の石英ガラスミルドファイバー、
4. 表面処理されている1または2記載の石英ガラスミルドファイバー、
5. SiO2を95質量%以上含み、SiOH基濃度が1000ppm以下の石英ガラスインゴットを加熱延伸して石英ガラス繊維を形成する繊維形成工程と、
上記石英ガラス繊維を粉砕して粉砕物を作製する粉砕工程と
を含む1または2記載の石英ガラスミルドファイバーの製造方法、
6. 粉砕工程が、上記石英ガラス繊維をボールミルで粉砕することにより行われるものであり、上記ボールミル用のボールが、SiO2を95質量%以上含む石英ボールまたは少なくともその表面が300℃以上で完全に熱分解する有機樹脂で形成されたものである5記載の石英ガラスミルドファイバーの製造方法、
7. 上記石英ガラス繊維の表面に付着した有機不純物を除去する第一の有機不純物除去工程および/または上記粉砕物の表面に付着した有機不純物を除去する第二の有機不純物除去工程を含む5記載の石英ガラスミルドファイバーの製造方法、
8. 第一の有機不純物除去工程が、上記石英ガラス繊維を300℃以上で加熱することにより行われるものである7記載の石英ガラスミルドファイバーの製造方法、
9. 第二の有機不純物除去工程が、フッ酸水溶液、フッ化アンモニウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、アンモニア水およびアルカリ電解水から選択されるエッチング液で上記粉砕物を処理するものである7または8記載の石英ガラスミルドファイバーの製造方法、
10. 上記エッチング液が、pH12以上のアルカリ電解水である9記載の石英ガラスミルドファイバーの製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、有機樹脂に直接添加可能で、熱膨張係数および誘電正接が低く、信頼性のある石英ガラスミルドファイバーを得ることができる。
このような特性を有する本発明の石英ガラスミルドファイバーは、半導体パッケージ基板の熱時の信頼性の向上および伝送損失を抑えることできるため、今後増えていく5G等の高速通信等に用いられる半導体パッケージ基板に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例2で得られた石英ガラスミルドファイバーの誘電正接算出に用いるグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する
[石英ガラスミルドファイバー]
本発明の石英ガラスミルドファイバーは、SiO2を95質量%以上含む石英ガラス繊維の粉砕物を含んで構成され、平均直径が、3.0~15μm、アスペクト比が、30以下、熱膨張係数が、1ppm以下、かつ表面の炭素量が、0.1質量%以下であることを特徴とする。
【0017】
(1)組成
本発明の石英ガラスミルドファイバーの組成は、熱膨張係数や誘電正接の観点から、SiO2の割合が全体の95質量%以上であるが、99.9質量%以上が好ましい。石英ガラスとしては、合成石英ガラスおよび溶融石英ガラスのいずれでもよく、SiO2の含有量が上記範囲であるQガラスが好ましい。SiO2以外の成分としては、Al2O3、CaO、MgO、B2O3、Na2O等が挙げられる。
【0018】
(2)平均直径
本発明において、石英ガラスミルドファイバーの平均直径とは、後述する粉砕工程に用いる石英ガラス繊維の平均直径を指すものとする。粉砕に用いるのが石英ガラスフィラメントの場合は、フィラメントの平均直径を指す。なお、フィラメントの平均直径の測定方法は、後述する実施例の記載のとおりである。
本発明の石英ガラスミルドファイバーの平均直径は、半導体基板の薄層化の観点から、3.0~15μmであるが、3.0~10μmが好ましく、3.0~8.0μmがより好ましい。3.0μm未満では、粉砕によってファイバー形状を保てなくなる。
【0019】
(3)アスペクト比
本発明において、石英ガラスミルドファイバーのアスペクト比とは、石英ガラスミルドファイバーの平均繊維長を長辺、平均直径を短辺として算出した値を指すものとする。また、本発明において、石英ガラスミルドファイバーの平均繊維長とは、石英ガラスミルドファイバーのメジアン径から算出した値を指すものとする。なお、石英ガラスミルドファイバーの平均繊維長の測定方法およびアスペクト比の算出方法は、後述する実施例の記載のとおりである。
本発明の石英ガラスミルドファイバーの平均繊維長は、3~200μmが好ましい。また、本発明の石英ガラスミルドファイバーのアスペクト比は、粉砕時の効率の観点から、30以下が好ましく、15以下がより好ましい。下限値は特に制限されないが、1.4以上が好ましい。アスペクト比が30を超えるミルドファイバーは、均一に平均長を揃えることができず、収率が著しく低くなる。
【0020】
(4)熱膨張係数
本発明において、石英ガラスミルドファイバーの熱膨張係数とは、原料ガラスの熱膨張係数を指すものとする。原料ガラスの熱膨張係数の測定方法は、後述する実施例の記載のとおりである。
本発明の石英ガラスミルドファイバーの熱膨張係数は、パッケージ基板の信頼性の観点から、1ppm以下であるが、0.8ppm以下が好ましく、0.6ppm以下がより好ましい。
【0021】
(5)炭素量
石英ガラスミルドファイバーの表面には、石英ガラス繊維を製造する際に塗布される集束剤やシランカップリング剤、石英ガラス繊維粉砕時に混入する粉砕機等由来の樹脂等(以下、これらを併せて有機不純物という。)が存在する。石英ガラスミルドファイバー表面の炭素源は、これらの有機不純物であり、ミルドファイバー表面の炭素量を測定することで、有機不純物の付着量の程度を知ることができる。
ミルドファイバーの表面に有機不純物が残っていた場合、誘電正接へ悪影響を及ぼすだけではなく、ミルドファイバーに後述するシラン処理を施す場合に、上手く処理ができず、樹脂に添加した際に樹脂との密着性が低下し、基板の信頼性に悪影響が及ぶ。そのため、本発明の石英ガラスミルドファイバー表面の炭素量は、0.1質量%以下であり、0.06質量%以下が好ましく、0.03質量%以下がより好ましく、0質量%がさらに好ましい。なお、炭素含有量の測定方法は、後述する実施例の記載のとおりである。
【0022】
(6)誘電正接
本発明の石英ガラスミルドファイバーの誘電正接は、伝送損失の観点から、10GHzで、0.015以下が好ましく、0.0015以下がより好ましく、0.0010以下がさらに好ましく、0.0007以下が特に好ましい。また、より高周波帯である40GHzでの誘電正接は、0.020以下が好ましく、0.0020以下がより好ましく、0.0015以下がさらに好ましい。なお、石英ガラスミルドファイバーの誘電正接の測定方法は、後述する実施例の記載のとおりである。
【0023】
[石英ガラスミルドファイバーの製造方法]
本発明の石英ガラスミルドファイバーの製造方法としては、上記特性を有する石英ガラスミルドファイバーが得られる限り特に制限されるものではないが、例えば、下記工程を含む方法により製造することができる。
[1]石英ガラスインゴットを所望の形状に成型し、必要によりアニール処理した後、加熱延伸して石英ガラス繊維を形成する繊維形成工程
[2]必要により、上記石英ガラス繊維に付着している有機不純物を除去して不純物除去処理石英ガラス繊維を得る第一の有機不純物除去工程
[3]必要により、上記石英ガラス繊維または上記不純物除去処理石英ガラス繊維の表面を表面処理剤で処理する第一の表面処理工程
[4]上記石英ガラス繊維等を粉砕して粉砕物を作製する粉砕工程
[5]必要により、上記粉砕物の表面に付着している有機不純物を除去する第二の有機不純物除去工程
[6]必要により、第二の有機不純物除去処理した粉砕物の表面を表面処理剤で処理する第二の表面処理工程
【0024】
[1]繊維形成工程
繊維形成工程は、石英ガラスインゴットを所望の形状に成型し、必要によりアニール処理した後、加熱延伸して石英ガラス繊維を形成する工程である。
【0025】
・インゴット
本発明の繊維形成工程で用いられる石英ガラスインゴットは、熱膨張係数と誘電正接の信頼性の観点から、SiOH基濃度は、1000ppm以下が好ましく、500ppm以下がより好ましい。1000ppmを超えるものは、加熱延伸の際にインゴットの軟化点および粘度が低下するため、安定した直径のガラス繊維を得ることができない場合がある。なお、SiOH基濃度の測定方法は、後述する実施例の記載のとおりである。
また、石英ガラスインゴットの組成は、石英ミルドファイバーの組成と同じであり、SiO2の割合が全体の95質量%以上であるが、99.9質量%以上が好ましい。
【0026】
本発明の繊維形成工程で用いられる石英ガラスインゴットの製造方法としては、例えば、天然の石英(水晶)を原料とした電気溶融法、火炎溶融法;四酸化ケイ素を原料とした直接合成法、プラズマ合成法、スート法;アルキシルケートを原料としたゾルゲル法等が挙げられるが、SiO2含有量およびSiOH基濃度が上記範囲のものが得られる限り、これらの製造方法に限定されるものではない。中でも、天然の石英(水晶)を原料とした電気溶融法;四酸化ケイ素を原料としたプラズマ合成法、スート法が、不純物としてシラノール基(SiOH基)を含みにくいため好ましく、天然の石英(水晶)を原料とした電気溶融法がより好ましい。
【0027】
・石英ガラス繊維
・フィラメント
石英ガラスインゴットを加熱溶融、延伸して石英ガラス繊維を得る方法としては、公知の方法を採用することができ、例えば、直径50~500mmの石英ガラスインゴットを酸素と水素の混合火炎等により1700~2300℃で溶融させ、延伸して、糸状(フィラメント状)になったものを巻き取ることで直径3~300μm、好ましくは100~300μmの石英糸(フィラメント)を得ることができる。溶融温度が1700℃未満の場合は、石英ガラスを溶かすことができない場合があり、2300℃を超えると粘度が低下しすぎて安定的な延伸ができない場合がある。
【0028】
石英糸(フィラメント)は、強度が非常に弱いため、巻き取るためにコーティング剤を塗布することが好ましい。コーティング剤としては、硬化性に優れたアクリレート系の官能基を持つUV硬化樹脂を含むものが好ましい。コーティング厚みとしては、5μm以上が好ましい。5μm未満となると、コーティング厚みが不十分で補強効果が得られない場合がある。
【0029】
また、生産性を上げるために、石英ガラスの溶融からコーティングまでの間に冷却を行うことができる。冷却方法としては、水冷、空冷等が挙げられ、水冷および空冷の両方を行うことが効果的である。
【0030】
上記石英糸(フィラメント)は、そのまま次工程で用いることができるが、さらに、酸素と水素の混合火炎にて1700~2300℃で再延伸することで直径2~15μmの石英ガラスフィラメントを得ることができる。
【0031】
上記方法で得られるのは石英ガラスフィラメントであるが、繊維形成工程で得られる石英ガラス繊維の形態としては、ストランド、チョップドストランド、ヤーン等であってもよい。また、これらを用いた平織りクロス、朱子織クロス、扁平クロス等のガラスクロス、不織布等であってもよい。
【0032】
・ストランド
石英ガラスストランドは、石英ガラスフィラメントを20~400本集束して製造できる。ストランドを集束させるために、集束剤を用いる。集束剤は、澱粉を主原料とした組成物であり、機能性付与のため、柔軟剤や潤滑剤を配合することができる。
【0033】
・チョップドストランド
石英ガラスチョップドストランドは、石英ガラスストランドを所定の長さに切断することで得ることができる。
【0034】
・ヤーン
石英ガラスヤーンは、作製したストランドに撚りをかけることで得られる。撚りの頻度としては、25mmあたり0.1~5.0回が好ましい。
【0035】
・ガラスクロスおよび不織布
石英ガラスクロスおよび不織布は、石英ガラスヤーンを製織することで得られる。製織方法としては、特に限定はされず、従来公知の方法を採用することができるが、例えば、エアージェット織機、ウォータージェット織機、レピア織機、シャトル織機等の織機を用いた方法が挙げられる。
【0036】
[2]第一の有機不純物除去工程
第一の有機不純物除去工程は、必要により、粉砕工程前の石英ガラス繊維(以下、未処理の石英ガラス繊維ということがある。)の表面に付着している有機不純物を除去して不純物除去処理石英ガラス繊維を得る工程である。
不純物を除去し、誘電正接を低下させるために、粉砕工程前に石英ガラス繊維の表面に付着している有機不純物を除去することが好ましいが、除去方法としては、有機不純物を除去できれば特に制限されず、例えば、石英ガラス繊維を加熱処理する方法が挙げられる。加熱温度は、300℃以上が好ましく、300~1000℃がより好ましく、確実に不純物を除去するためには400~1000℃がより一層好ましい。1000℃を超えて加熱するとガラス繊維が軟化してファイバー形状を保てなくなる場合がある。加熱時間は、1~60時間が好ましく、5~50時間がより好ましい。
また、表面の不純物が水溶性である場合は、イオン交換水で水洗して取り除いてもよい。
【0037】
[3]第一の表面処理工程
第一の表面処理工程は、必要により、粉砕工程前の未処理の石英ガラス繊維または不純物除去処理石英ガラス繊維の表面を予め表面処理剤で処理して表面処理石英ガラス繊維を得る工程である。
表面処理工程で用いられる表面処理剤としては、特に制限されないが、例えば、シラン化合物等が挙げられる。シラン化合物の具体例としては、メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、メタクリロキシメチルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、アクリロキシメチルトリメトキシシラン、アクリロキシメチルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の(メタ)アクリロイル基含有アルコキシシラン;N-2-(アミノエチル)-アミノメチルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-アミノメチルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノメチルトリメトキシシラン、アミノメチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン;3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3,4-エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基含有アルコキシシランなどが挙げられる。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
表面処理の方法や表面処理剤の使用量は特に制限されないが、石英ガラス繊維に対して表面処理剤が好ましくは0.05~3質量%、より好ましくは0.1~1.5質量%となるように塗布等の方法により石英ガラス繊維を処理することが好ましい。
【0039】
[4]粉砕工程
粉砕工程は、繊維形成工程で得られた未処理の石英ガラス繊維、第一の有機不純物除去工程で得られた第一の不純物除去処理石英ガラス繊維、または表面処理工程で得られた表面処理石英ガラス繊維を粉砕して、それぞれ、未処理の粉砕物、第一の不純物除去処理粉砕物、第一の表面処理粉砕物(以下、これらを併せて粉砕物という。)を作製する工程である。
粉砕方法としては、目的とする繊維長、アスペクト比を有するミルドファイバーを得ることができれば特に制限されないが、例えば、ボールミルやディスクミルなどの一般的な粉砕機を用いることができる。生産効率の観点から、ボールミルが好ましい。
【0040】
ボールミルで石英ガラス繊維等を粉砕する際は、石英ガラスが非常に硬いため、ボールミル用のボールの材質が少なからず混入してしまう。アルミナ等のセラミックなどの無機物のボール材質は、粉砕物に混入すると除去が困難であり、最終的に得られる石英ガラスミルドファイバーの誘電正接に非常に悪影響を及ぼす。そのため、本発明では、ボールミル用のボールは、SiO2量が好ましくは95質量%以上、より好ましくは99.9質量%以上の石英ボール、または表面が有機物で覆われているボールが好ましい。
SiO2量が95質量%以上の石英ボールは、異物の混入を防ぐ点において最も好ましいが、非常に高価である。
一方、表面が有機物で覆われているボールは、石英ボールに比べて経済的であり、表面の有機物が粉砕物に混入しても、加熱処理等の方法により除去することができる点において好ましい。このような点から、表面が有機物で覆われているボールは、好ましくは300℃以上、より好ましくは300~1000℃、さらに好ましくは400~1000℃で加熱することで完全に熱分解する有機物のみで形成されたボールまたは芯部は無機物であるものの表面が上記有機物で覆われているものが好ましい。
ボールを形成する有機物の具体例としては、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、PTFE等の有機樹脂などが挙げられる。
ボールのサイズ、使用個数、粉砕時間は、粉砕後のミルドファイバーの繊維長、アスペクト比が上述した範囲となるように調整することが好ましいが、ボールのサイズは、10~30mmφが好ましく、使用個数は、50~1000個/Lが好ましく、粉砕時間は、1~60分が好ましく、3~30分がより好ましい。
なお、上記と同じ理由から、ボールミル本体の材質も、上記と同様であることが好ましい。
【0041】
得られた粉砕物は、目的とする繊維長、アスペクト比に合わせた目開きの篩を通過させることが好ましい。
【0042】
[5]第二の有機不純物除去工程
第二の有機不純物除去工程は、必要により、粉砕工程で得られた粉砕物の表面に付着している有機不純物を除去して第二の不純物除去処理粉砕物を調製する工程である。
第二の有機不純物除去工程における有機不純物の除去方法も、有機不純物を除去できれば特に制限されないが、第一の有機不純物除去工程と同様に、加熱処理により行うことができる。加熱による有機不純物の除去は、粉砕前後で二度行うこともできるが、集束剤の除去とボールミルに由来する樹脂等の有機物の除去を一度に行うことができるため、粉砕工程後に行うことが好ましい。加熱処理の条件は、第一の有機不純物除去工程と同じである。
なお、表面の不純物が水溶性である場合は、イオン交換水で水洗して取り除いてもよい。
【0043】
また、粉砕物の表面をエッチング液で処理して残存炭素や金属不純物を除去することもできる。エッチング液としては、公知のものを使用することができ、例えば、フッ酸水溶液、フッ化アンモニウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、アンモニア水、アルカリ電解水等が挙げられる。中でもアルカリ電解水が好ましく、pH12以上のアルカリ電解水がより好ましい。
アルカリ電解水の処理方法としては、特に制限されないが、処理温度は、室温(23℃)~100℃が好ましく、40~80℃がより好ましい。処理時間は、処理温度や粉砕物の平均直径や表面のエッチング速度に依存するため、特に限定されず、エッチング溶液の温度が低いほどエッチングが進まず、温度が高いほどエッチング速度は速くなるが、処理時間は、実用上10分~168時間が好ましい。さらに好ましくは、1~72時間、より好ましくは10~24時間である。また、大気圧あるいは加圧雰囲気下でも上記温度、時間の範囲で、処理することが可能である。
【0044】
エッチング終了後、粉砕物をろ過などの手法で分離し、更に、イオン交換水や純水で、洗浄水が中性になるまで洗浄を繰り返す。洗浄後、ろ過や遠心分離などによりミルドファイバーを分離し、100~200℃の温度で乾燥し、水分を除去する。乾燥による凝集が強固である場合は、イオン交換水で洗浄後メタノールなどのアルコールで洗浄し、ろ過や遠心分離などでミルドファイバーを分離した後、乾燥することで凝集を防止することができる。
【0045】
粉砕工程で篩にかけない場合、第二の不純物除去処理をした後に篩にかけて、目的とする繊維長、アスペクト比の粉砕物を得ることができる。
【0046】
[6]第二の表面処理工程
第二の有機不純物除去工程後の粉砕物に対して、所望のシランカップリング剤処理等の表面処理を施し直すことも可能であり、第二の表面処理工程は、必要により、粉砕工程で得られた粉砕物または第二の不純物除去処理粉砕物の表面を表面処理剤で処理して、第二の表面処理粉砕物を調製する工程である。
表面処理剤の具体例および処理方法は、第一の表面処理工程で説明したものと同じである。
【0047】
なお、本発明の石英ガラスミルドファイバーの製造においては、少なからず廃棄となるフィラメント、ストランド、チョップドストランド、ヤーン、ガラスクロス等の廃棄石英ガラス繊維が存在するが、本発明の繊維製造工程で形成する石英ガラス繊維に代えて、上記の廃棄石英ガラス繊維を再利用することができ、これにより廃棄石英ガラス繊維を減少させることができる。また、一般的なガラス繊維の製造において生じる上記と同様の廃棄石英ガラス繊維を本発明の製造方法に用いることもできる。
廃棄石英ガラス繊維を用いる場合も、第一の不純物除去工程以降は、上記と同じ条件で行うことができる。
【実施例0048】
以下、実施例および比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0049】
〔1〕石英ガラスミルドファイバーの製造
[実施例1]
天然の石英を原料として電気溶融法によって得られた、SiO2を99.9質量%含み、SiOH基濃度が158ppmの石英ガラスインゴットを電気溶融し、酸水素火炎によって加熱延伸してフィラメントを形成し、表面に、澱粉3.0質量%、牛脂0.5質量%、乳化剤0.1質量%、残りが水からなる集束剤を塗布して、直径が5.3μmの石英ガラスフィラメント100本からなる石英ガラスストランドを得た。
【0050】
得られた石英ガラスストランドを石英ボールミルおよび石英ボール((株)伊藤製作所製)を用いて室温で10分粉砕した後、篩で繊維長の平均長が50μm、アスペクト比が9.4となるように調整した粉砕物を得た。
【0051】
得られた粉砕物を電気炉B80×85×200-3Z12-10(ネムス(株)製)を用いて400℃で24時間加熱して上記粉砕物に付着した有機不純物を除去して石英ガラスミルドファイバーを得た。
【0052】
[実施例2]
実施例1と同様にして得られた、SiO2を99.9質量%含み、SiOH基濃度が158ppmの石英ガラスインゴットを電気溶融し、酸水素火炎によって加熱延伸してフィラメントを形成し、表面に、澱粉3.0質量%、牛脂0.5質量%、乳化剤0.1質量%、残りが水からなる集束剤を塗布して、直径が5.3μmの石英ガラスフィラメント100本からなる石英ガラスストランドを得た。
【0053】
得られた石英ガラスストランドをナイロンボールミルおよびナイロンボール(三庄インダストリー(株)製)を用いて室温で10分粉砕した後、篩で繊維長の平均長が50μm、アスペクト比が9.4となるように調整した粉砕物を得た。
【0054】
得られた粉砕物を電気炉B80×85×200-3Z12-10(ネムス(株)製)を用いて400℃で24時間加熱して上記粉砕物に付着した有機不純物を除去して石英ガラスミルドファイバーを得た。
【0055】
[実施例3]
実施例1と同様にして得られた、SiO2を99.9質量%含み、SiOH基濃度が158ppmの石英ガラスインゴットを電気溶融し、酸水素火炎によって加熱延伸してフィラメントを形成し、実施例1と同じ集束剤を塗布して、直径が14.7μmのフィラメント100本からなる石英ガラスストランドを得た。
【0056】
得られた石英ガラスストランドを実施例2と同様に粉砕後、加熱して粉砕物に付着した有機不純物を除去し、篩にかけ、平均繊維長が50μm、アスペクト比が3.4となるように調整して石英ガラスミルドファイバーを得た。
【0057】
[実施例4]
粉砕物の繊維長の平均長が7.0μm、アスペクト比が1.3となるように室温で30分粉砕した以外は実施例2と同様にして石英ガラスミルドファイバーを得た。
【0058】
[実施例5]
粉砕物の繊維長の平均長が150μm、アスペクト比が28.3となるように室温で5分粉砕した以外は実施例2と同様にして石英ガラスミルドファイバーを得た。
【0059】
[実施例6]
電気炉の加熱温度を700℃に変更した以外は実施例2と同様にして石英ガラスミルドファイバーを得た。
【0060】
[実施例7]
電気炉の加熱温度を900℃に変更した以外は実施例2と同様にして石英ガラスミルドファイバーを得た。
【0061】
[実施例8]
実施例1と同様にして得られた、SiO2を99.9質量%含み、SiOH基濃度が158ppmの石英ガラスインゴットを電気溶融し、酸水素火炎によって加熱延伸してフィラメントを形成し、表面に、澱粉3.0質量%、牛脂0.5質量%、乳化剤0.1質量%、残りが水からなる石英ガラス繊維用集束剤を塗布して、直径が5.3μmの石英ガラスフィラメント100本からなる石英ガラスストランドを得た。
【0062】
得られた石英ガラスストランドをナイロンボールミルおよびナイロンボール(三庄インダストリー(株)製)を用いて室温で10分粉砕した後、篩で繊維長の平均長が50μm、アスペクト比が9.4となるように調整した粉砕物を得た。その後、得られた粉砕物をイオン交換水で3度洗浄して有機不純物を除去し、乾燥して石英ガラスミルドファイバーを得た。
【0063】
[実施例9]
実施例8で得られた石英ガラスミルドファイバーをさらにアルカリ電解水(鈴木油脂工業(株)製)に70℃で10時間浸漬した後に、ろ過によって分離し、イオン交換水で洗浄水が中性になるまで洗浄を繰り返した。
洗浄後、ろ過により石英ミルドファイバーを分離し、105℃で3時間乾燥して、アルカリ電解水処理石英ミルドファイバーを得た。
【0064】
[実施例10]
実施例1と同様にして得られた、SiO2を99.9質量%含み、SiOH基濃度が158ppmの石英ガラスインゴットを電気溶融し、酸水素火炎によって加熱延伸してフィラメントを形成し、表面に、澱粉3.0質量%、牛脂0.5質量%、乳化剤0.1質量%、残りが水からなる集束剤を塗布して、直径が5.3μmの石英ガラスフィラメント100本からなる石英ガラスストランドを得た。
【0065】
得られた石英ガラスストランドに24T/mの撚りを掛け、石英ガラスヤーンを作製した。
得られた石英ガラスヤーンに、二次集束剤として、PVA1.5質量%、澱粉1.5質量%を含む水溶液を塗布した後、エアージェット織機ZAX9200i(津田駒工業(株)製を用いて、IPC規格1035石英ガラスクロスを製織した。
【0066】
得られた1035石英クロスを電気炉B80×85×200-3Z12-10(ネムス(株)製)を用いて400℃で48時間加熱してクロス表面に付着した不純物を除去した。
続いて、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-503、信越化学工業(株)製)を表面に0.1質量%付着させてプリント配線板用1035石英ガラスクロスを作製した。
【0067】
得られたプリント配線板用1035石英ガラスクロスをナイロンボールミルおよびナイロンボール(三庄インダストリー(株)製)を用いて室温で10分粉砕した後、篩で繊維長の平均長が50μm、アスペクト比が9.4となるように調整した粉砕物を得た。
得られた粉砕物を電気炉B80×85×200-3Z12-10(ネムス(株)製)を用いて700℃で10時間加熱して粉砕物に付着したKBM-503および有機不純物を除去して石英ガラスミルドファイバーを得た。
【0068】
[比較例1]
電気炉による加熱工程を省略した以外は実施例2と同様にして石英ガラスミルドファイバーを得た。
【0069】
[比較例2]
粉砕前の石英ガラスストランドを、SiO2を53質量%含むEガラスを電気溶融によって加熱延伸した直径5.3μmのEガラスストランドに変更した以外は実施例2と同様にして石英ガラスミルドファイバーを得た。
【0070】
[比較例3]
ミルドファイバーの繊維長の平均長が250μm、アスペクト比が47.2となるように調整した以外は実施例2と同様にして石英ガラスミルドファイバーを得た。
【0071】
[比較例4]
電気炉の加熱温度を1100℃に変更した以外は実施例2と同様にして石英ガラスミルドファイバーを得た。
【0072】
[比較例5]
粉砕前のガラスストランドを、SiO2を99.9質量%含み、SiOH基濃度が1579ppmの石英ガラスインゴットを電気溶融し、酸水素火炎によって加熱延伸して石英ガラスフィラメントを形成し、直径が5.3μmの石英ガラスストランドを用いた以外は実施例2と同様にして石英ガラスミルドファイバーを得た。
【0073】
〔2〕特性評価
上記で得られたミルドファイバーについて下記方法で評価を行った。結果を下記表2および3に記載する。
【0074】
1.ミルドファイバー平均直径(フィラメント(単繊維)の平均直径)
粉砕前のガラスストランドを1km引き出し、625℃で2時間加熱して表面に付着した不純物等を除去した後に、質量を測定して、以下の式に当てはめてフィラメントの平均直径を算出した。得られた値をミルドファイバーの平均直径とした。
【0075】
【数1】
なお、石英ガラスの比重d
qおよびEガラスの比重d
eは、
d
q=2.2g/cm
3
d
e=2.6g/cm
3
として計算した。
【0076】
2.ミルドファイバーの平均繊維長
粒子径・粒子形状分析装置 SYNC(MicrotracBEL(株)製)によってミルドファイバーのメジアン径から算出した繊維長を平均繊維長とした。
【0077】
3.アスペクト比
上記1.および2.で求めた値を用いて、下記式より求めた。
アスペクト比=ミルドファイバーの平均繊維長/ミルドファイバーの平均直径
【0078】
4.ミルドファイバーの熱膨張係数
原料となるガラスインゴットを長さが0.4cm×0.4cm×5cmtの角柱となるように加工して、JIS R 3102-1995に準拠して測定を行った。得られた熱膨張係数をミルドファイバーの熱膨張係数とした。
【0079】
5.ミルドファイバーの誘電正接計算方法
実施例2を例にして、ミルドファイバーの10GHzでの誘電正接の計算方法を示す。
下記表1に示す割合で、ミルドファイバーを低誘電率マレイミド樹脂(SLK-3000、信越化学工業(株)製)と、硬化剤としてラジカル重合開始剤であるジクミルパーオキサイド(パークルD、日油(株)製)を含むアニソール溶剤に混合して分散させ、溶解してワニスを作製した。
ミルドファイバーを樹脂に対して体積%で0%、11.1%、33.3%、66.7%となるように添加し、バーコーターで厚さ200mmに引き延ばし、80℃で30分間、乾燥機に入れてアニソール溶剤を除去することで未硬化のマレイミド樹脂組成物を調製した。
【0080】
【0081】
調製した未硬化のマレイミド樹脂組成物を60mm×60mm×100μmの型に入れ、ハンドプレスにて180℃で10分、30MPaにて硬化後、乾燥器にて180℃で1時間で完全に硬化させて樹脂硬化シートを作製した。
得られた樹脂硬化シートを50mm×50mmの大きさに切り、誘電率測定用SPDR(Split post dielectric resonators)誘電体共振器周波数10GHz(キーサイト・テクノロジー(株)製)を用いて10GHzにおける誘電正接を測定した。
【0082】
得られた誘電正接の値を
図1に示すように横軸にミルドファイバーの体積%を、縦軸に測定した誘電正接を取ることで得られるプロットからミルドファイバーの体積%vs誘電正接の直線を作成した。この直線を外挿し、ミルドファイバー100%の誘電正接をミルドファイバーの誘電正接の値とした。他の実施例および比較例の10GHzおよび40GHzでの計算も同様にして行った。
【0083】
なお、粉体を直接測定できるとする測定機もあるが、測定ポットの中にミルドファイバーを充填して測定するため、混入した空気の除去が困難である。そこで混入した空気の影響を排除し、実際の使用態様に近い状態での値を得るために、本発明では、上記した測定方法からミルドファイバーの誘電正接を求めた。
【0084】
6.石英ガラスインゴットのSiOH基濃度の測定
石英ガラスインゴットを5cm×5cm×0.1cmtに切り出し、該サンプルの赤外吸収スペクトルを、フーリエ変換赤外分光光度計(IRAffinity-1S、(株)島津製作所製)を用いて透過法によってシラノール起因である3680cm-1付近のピークの吸光度Aを測定した。得られた吸光度の値を基に、下記式からシラノール基の濃度C(ppm)を求めた。
C=100/d(cm)×A
d:サンプルの厚さ(光路長)(0.1cm)
【0085】
7.ミルドファイバー表面の炭素量の測定
1000℃で2時間空焼きした磁製るつぼに、上記実施例および比較例で得られた石英ガラスミルドファイバーを100mg秤量し、助燃剤としてタングステン1.0gとスズコートされた銅1.5gを添加して炭素硫黄分析装置CS774(LECO社製)を用いて2.2kWで燃焼させた際のガス量から炭素量を測定した。
【0086】
8.加工性
ミルドファイバーを作製する際に、問題なく作製できたものを○、作製が困難だったものを×とした。
【0087】
【0088】
【0089】
表2に示したように、実施例1~10のSiO2の含有量が95質量%以上、かつ表面の炭素量が0.1質量%以下のミルドファイバーは、熱膨張係数が1ppm以下であり、誘電正接は10GHzで0.0015以下であり、40GHzで0.0020以下である。
また、実施例10の石英ガラスクロスから作製した石英ガラスミルドファイバーも、石英ガラスストランドから作製した実施例6と同様の特性であることから、石英ガラス繊維であれば原料は問わないことがわかる。
【0090】
一方、表3に示したように、比較例1では、有機不純物の除去工程を行っていないため、残存炭素量が多く、誘電正接も非常に高くなっている。また、比較例2のSiO2の含有量が53質量%のEガラスを用いたミルドファイバーでは、熱膨張係数および誘電正接が劣っている。比較例3では、アスペクト比を47.2とすると均一に粉砕するのが困難であり、収量が10質量%以下となってしまい、生産には不適である。比較例4では、加熱温度を1100℃にするとファイバーがもろくなり、粉砕時にファイバー形状を保てなくなるため、不適である。また、比較例5では、原料の石英インゴットに関して、SiOH基濃度が1579ppmのものは、軟化点と粘度が低下するため、安定して加熱延伸が行えず、狙った平均直径のミルドファイバーを得ることができない。
【0091】
本発明によれば、有機樹脂に直接添加可能で、熱膨張係数および誘電正接が低く、信頼性のある石英ガラスミルドファイバーを得ることができ、今後増えていく5G等の高速通信等に用いられる半導体パッケージ基板の熱時の信頼性を向上させ、伝送損失を抑えることができるという著大な効果を奏する。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。