(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159700
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】ステージ装置、荷電粒子線装置、及び光学式検査装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/20 20060101AFI20231025BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
H01J37/20 A
H01L21/68 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069576
(22)【出願日】2022-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 孝宜
(72)【発明者】
【氏名】水落 真樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宗大
(72)【発明者】
【氏名】小川 博紀
【テーマコード(参考)】
5C101
5F131
【Fターム(参考)】
5C101BB03
5C101BB04
5C101FF02
5C101FF57
5C101FF58
5C101FF59
5C101FF60
5C101GG19
5C101GG26
5F131AA02
5F131BA39
5F131CA32
5F131DC18
5F131EA02
5F131KA34
5F131KA55
5F131KA63
5F131KA72
(57)【要約】
【課題】下方のテーブルの回転振動に伴う浮上ステージ(上方のテーブル)の残留振動を低減できて、スループットの向上が可能なステージ装置を提供することである。
【解決手段】ベース106の上を移動可能な第1のテーブル104と、第1のテーブル104の上を浮上して移動可能であり、第1部分と、第1部分よりも下方の第2部分とを有する第2のテーブル102と、第2のテーブル102の第1部分の位置を計測する第1の位置計測デバイス600と、第2のテーブル102の第2部分の位置を計測する第2の位置計測デバイス300と、第2のテーブル102を駆動するモータ200を制御するコンピュータ601とを備える。コンピュータ601は、第1の位置計測デバイス600が計測した第1部分の位置についての情報と、第2の位置計測デバイス300が計測した第2部分の位置についての情報とに基づいて、第2のテーブル102を駆動する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースと、
前記ベースの上を移動可能な第1のテーブルと、
前記第1のテーブルの上を浮上して移動可能であり、第1部分と、前記第1部分よりも下方の第2部分とを有する第2のテーブルと、
前記第2のテーブルの前記第1部分の位置を計測する第1の位置計測デバイスと、
前記第2のテーブルの前記第2部分の位置を計測する第2の位置計測デバイスと、
前記第2のテーブルを駆動するモータと、
前記モータを制御するコンピュータと、
を備え、
前記コンピュータは、前記第1の位置計測デバイスが計測した前記第1部分の位置についての情報と、前記第2の位置計測デバイスが計測した前記第2部分の位置についての情報とに基づいて、前記第2のテーブルを駆動する、
ことを特徴とするステージ装置。
【請求項2】
前記コンピュータは、前記第1の位置計測デバイスの計測値と、前記第2の位置計測デバイスの計測値とに基づいて、前記第1のテーブルの回転振動の周波数を導出し、前記周波数を用いて前記第2のテーブルを駆動する、
請求項1に記載のステージ装置。
【請求項3】
前記コンピュータは、前記第1の位置計測デバイスの計測値と、前記第2の位置計測デバイスの計測値とに基づいて、前記第2のテーブルの並進距離と回転角度の少なくとも一方を求める、
請求項1に記載のステージ装置。
【請求項4】
前記コンピュータは、前記第2の位置計測デバイスの計測値から前記周波数の成分を除去するフィルタ処理を行い、前記フィルタ処理が施された前記第2の位置計測デバイスの計測値を用いて前記第2のテーブルを駆動する、
請求項2に記載のステージ装置。
【請求項5】
前記コンピュータは、前記モータに対して前記周波数の成分を相殺する駆動信号を算出し、前記駆動信号を前記モータに与えて前記第2のテーブルを駆動する、
請求項2に記載のステージ装置。
【請求項6】
前記第2のテーブルの前記第1部分は、前記第2のテーブルが浮上しているときの回転中心よりも上方の部分であり、
前記第2のテーブルの前記第2部分は、前記回転中心よりも下方の部分である、
請求項1に記載のステージ装置。
【請求項7】
前記コンピュータは、前記第1の位置計測デバイスの計測値の周波数特性と、前記第2の位置計測デバイスの計測値の周波数特性とに基づいて、前記第1のテーブルの回転振動の周波数を導出し、前記周波数を用いて前記第2のテーブルを駆動する、
請求項6に記載のステージ装置。
【請求項8】
前記第1の位置計測デバイスは、前記第2のテーブルの上部に設置されたミラーを備えるレーザ干渉計であり、
前記第2の位置計測デバイスは、前記第1のテーブルに対する前記第2のテーブルの相対的な位置を計測する光学式センサである、
請求項1に記載のステージ装置。
【請求項9】
前記第1のテーブルの回転振動の周波数が予め既知であり、
前記コンピュータは、前記周波数が前記第1のテーブル上での座標ごとに記録されたマップを保存する、
請求項1に記載のステージ装置。
【請求項10】
前記第1のテーブルの振動を検出するセンサと、
前記第1のテーブルを駆動するアクチュエータと、
を備え、
前記コンピュータは、前記センサが検出した情報を用いて、前記第1のテーブルの振動を制振するように前記アクチュエータを駆動する、
請求項1に記載のステージ装置。
【請求項11】
ベースと、
前記ベースの上を移動可能な第1のテーブルと、
前記第1のテーブルの上を浮上して移動可能な第2のテーブルと、
前記第1のテーブルに対する前記第2のテーブルの相対位置を計測する位置計測デバイスと、
前記第2のテーブルを駆動するモータと、
前記モータを制御するコンピュータと、
を備え、
前記第1のテーブルの回転振動の周波数が予め既知であり、
前記コンピュータは、前記周波数についての情報を保存しており、
前記コンピュータは、前記位置計測デバイスの計測値から前記周波数の成分を除去するフィルタ処理を行い、前記フィルタ処理が施された前記位置計測デバイスの計測値を用いて前記第2のテーブルを駆動する、
ことを特徴とするステージ装置。
【請求項12】
ステージ装置と、
前記ステージ装置を収容したチャンバと、
前記チャンバに設置され、荷電粒子線源を備える鏡筒と、
を備え、
前記ステージ装置は、請求項1から11のいずれか1項に記載のステージ装置である、
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項13】
ステージ装置と、
前記ステージ装置を収容したチャンバと、
前記チャンバに設置され、光源を備える鏡筒と、
を備え、
前記ステージ装置は、請求項1から11のいずれか1項に記載のステージ装置である、
ことを特徴とする光学式検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステージ装置と、ステージ装置を備える荷電粒子線装置と光学式検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造、計測、及び検査などの工程では、ウエハなどの半導体デバイスの位置を正確に決定するために、XYステージがステージ装置に用いられている。ステージ装置には、二段のテーブル(XテーブルとYテーブル)が上下方向に積み重なって配置されたスタック型のステージ装置が用いられることがある。
【0003】
XYステージの駆動機構には、例えば、リニアガイドを用いて、回転モータとボールねじによって駆動する機構やリニアモータを用いて駆動する機構がある。また、XY平面内での運動のみならず、Z軸に平行な運動やZ軸周りの回転運動などを行うステージが、半導体デバイスの位置決めに用いられる場合もある。特に、近年では、超精密な位置決めを実現するために、静圧軸受けや電磁気力を用いた非接触方式の浮上ステージを用いることが多い。
【0004】
スタック型のステージ装置では、上方のテーブルのみを浮上ステージで構成し、下方のテーブルをリニアガイドで案内する構成や、上下両方のテーブルを浮上ステージとする構成が用いられることがある。この場合、高精度な位置決めを実現するために、上方のテーブル(浮上ステージ)を制御性の優れた6軸方向(X、Y、Zの並進方向と、θx、θy、θzの回転方向)の駆動機構で駆動し、上方のテーブルの重心を6軸方向で制御する構成が採用されている。
【0005】
浮上ステージの位置を検出する方法には、光学式センサを用いる方法と、レーザ干渉計を用いる方法がある。光学式センサ(例えば、リニアスケール)を用いる方法では、例えば、リニアスケールのスケール部を下方のテーブルに配置し、受光部を上方のテーブルに配置して、これら2つのテーブルの相対位置を検出することで、浮上ステージの位置を検出する。レーザ干渉計を用いる方法では、レーザ干渉計と反射ミラーを用いてレーザ光と反射波の干渉によって浮上ステージの位置を検出する。これらの方法で検出した位置を用いてフィードバック制御をすることで、浮上ステージの位置を高精度に制御することができる。
【0006】
浮上ステージを備えるスタック型のステージ装置の例は、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載されたステージ装置は、ステージの駆動方向(Y方向)に推力を発生するリニアモータと、リニアモータを覆うヨークを備え、浮上部が永久磁石と電磁石を有し、駆動方向用のリニアモータを利用してZ方向の浮上力を得る構成を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
浮上ステージを備えるスタック型のステージ装置では、本質的に、上方のテーブル(浮上ステージ)と下方のテーブルとの間で重心の高さ位置が互いに異なる。一般的に、浮上ステージの駆動機構は、位置精度の向上のために浮上ステージの重心の高さ位置を制御する。このため、浮上ステージ(上方のテーブル)を駆動した際の駆動反力が、下方のテーブルの重心の高さ位置とは異なる高さ位置に加わり、下方のテーブルに回転モーメントが生じる。
【0009】
ここで、リニアスケールを用いて浮上ステージの位置を計測する場合を例に挙げて、下方のテーブルの回転振動の影響を考える。リニアスケールが計測する信号(浮上ステージの位置を示す信号)には、下方のテーブルの回転振動に起因した成分(ナノメータオーダの微小な成分)が重畳する。この微小な成分(下方のテーブルの回転振動)が重畳した位置信号を用いて浮上ステージを追従制御すると、下方のテーブルの回転振動に合わせて浮上ステージが追従制御されてしまい、浮上ステージの回転振動が増加する。また、浮上ステージを追従制御する際の駆動反力が下方のテーブルに作用するため、下方のテーブルの回転振動の更なる増加を招く。
【0010】
このように、特許文献1に開示された技術などの従来の技術には、単純な構成で浮上ステージを制御できるものの、下方のテーブルの回転振動に起因して浮上ステージの残留振動(浮上ステージの移動後に浮上ステージに残っている振動)が増加するという課題がある。浮上ステージの残留振動が増加すると、この残留振動が減衰するのを待つ時間が長くなり、ステージ装置のスループットの向上が困難である。
【0011】
本発明の目的は、下方のテーブルの回転振動に伴う浮上ステージ(上方のテーブル)の残留振動を低減できて、スループットの向上が可能なステージ装置と、このステージ装置を備える荷電粒子線装置と光学式検査装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によるステージ装置は、ベースと、前記ベースの上を移動可能な第1のテーブルと、前記第1のテーブルの上を浮上して移動可能であり、第1部分と、前記第1部分よりも下方の第2部分とを有する第2のテーブルと、前記第2のテーブルの前記第1部分の位置を計測する第1の位置計測デバイスと、前記第2のテーブルの前記第2部分の位置を計測する第2の位置計測デバイスと、前記第2のテーブルを駆動するモータと、前記モータを制御するコンピュータとを備える。前記コンピュータは、前記第1の位置計測デバイスが計測した前記第1部分の位置についての情報と、前記第2の位置計測デバイスが計測した前記第2部分の位置についての情報とに基づいて、前記第2のテーブルを駆動する。
【0013】
本発明によるステージ装置は、ベースと、前記ベースの上を移動可能な第1のテーブルと、前記第1のテーブルの上を浮上して移動可能な第2のテーブルと、前記第1のテーブルに対する前記第2のテーブルの相対位置を計測する位置計測デバイスと、前記第2のテーブルを駆動するモータと、前記モータを制御するコンピュータとを備える構成を備えてもよい。前記第1のテーブルの回転振動の周波数が予め既知であり、前記コンピュータは、前記周波数についての情報を保存しており、前記コンピュータは、前記位置計測デバイスの計測値から前記周波数の成分を除去するフィルタ処理を行い、前記フィルタ処理が施された前記位置計測デバイスの計測値を用いて前記第2のテーブルを駆動する。
【0014】
本発明による荷電粒子線装置は、ステージ装置と、前記ステージ装置を収容したチャンバと、前記チャンバに設置され、荷電粒子線源を備える鏡筒とを備える。前記ステージ装置は、上記のステージ装置である。
【0015】
本発明による光学式検査装置は、ステージ装置と、前記ステージ装置を収容したチャンバと、前記チャンバに設置され、光源を備える鏡筒とを備える。前記ステージ装置は、上記のステージ装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、下方のテーブルの回転振動に伴う浮上ステージ(上方のテーブル)の残留振動を低減できて、スループットの向上が可能なステージ装置と、このステージ装置を備える荷電粒子線装置と光学式検査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】従来のスタック型のステージ装置の構成の例を示す図である。
【
図2】従来の、浮上ステージを備えるスタック型のステージ装置の構成の例を示す図である。
【
図3】浮上ステージであるXテーブルの相対位置を計測する方法の例を示す図である。
【
図4A】従来の、浮上ステージを備えるスタック型のステージ装置において、Yテーブルの回転振動がXテーブルに与える影響の例を示す図である。
【
図4B】本発明の実施例によるステージ装置において、Yテーブルに回転振動が生じたときの、Xテーブルの姿勢の例を示す図である。
【
図5A】Xテーブルのみが駆動された場合の、Xテーブルの振動の波形の例を示す図である。
【
図5B】XテーブルとYテーブルが同時に駆動された場合の、Xテーブルの振動の波形の例を示す図である。
【
図6】本発明の実施例1によるステージ装置の構成を示す図である。
【
図7】Yテーブルの回転振動に対する、リニアスケールの計測値とレーザ干渉の計測値との周波数特性の違いを示す図である。
【
図8】実施例1によるステージ装置が浮上ステージであるXテーブルを移動させる処理のフローチャートを示す図である。
【
図9A】コンピュータシステムがフィルタ処理を行う前のリニアスケールの計測値の例を示す図である。
【
図9B】コンピュータシステムが行うフィルタ処理のフィルタ周波数特性の例を示す図である。
【
図9C】コンピュータシステムがフィルタ処理を行った後のリニアスケールの計測値の例を示す図である。
【
図10】本発明の実施例2によるステージ装置の構成を示す図である。
【
図11】Yテーブルの回転振動の周波数についての情報を記録している振動周波数マップの例を示す図である。
【
図12】実施例2によるステージ装置が浮上ステージであるXテーブルを移動させる処理のフローチャートを示す図である。
【
図13】本発明の実施例3によるステージ装置の構成を示す図である。
【
図14】本発明の実施例4によるステージ装置の構成を示す図である。
【
図15】本発明の実施例5による荷電粒子線装置または光学式検査装置の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明によるステージ装置は、2つのテーブルが上下方向に配置されたスタック型のステージ装置であって、少なくとも上方のテーブルが浮上ステージで構成されており、下方のテーブルの回転振動に伴う上方のテーブル(浮上ステージ)の振動(例えば、残留振動)を低減でき、スループットの向上が可能である。
【0019】
初めに、スタック型のステージ装置について、図面を参照して説明する。以下では、水平面内で互いに直交する方向をX方向とY方向とし、水平面に垂直な方向をZ方向または高さ方向とする。X方向、Y方向、及びZ方向を、それぞれX軸の方向、Y軸の方向、及びZ軸の方向と呼ぶこともある。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0020】
図1は、従来のスタック型のステージ装置の構成の例を示す図である。
図1に示すステージ装置は、XYステージとも呼ばれ、ベース106と、下方のテーブルであるYテーブル104と、上方のテーブルであるXテーブル102を備える。Xテーブル102は、上部にトップテーブル101を備える。
【0021】
ベース106は、Yテーブル104とXテーブル102を支持する部材である。
【0022】
Yテーブル104は、リニアガイド105yとガイドキャリッジ103yを介して、ベース106の上部に位置する。Yテーブル104は、Yリニアモータ(図示せず)に駆動されて、ベース106の上をY方向(紙面に平行な方向)に移動可能である。Yリニアモータは、ベース106とYテーブル104との間に配置され、Yテーブル104をY方向に移動させる推力を発生する。
【0023】
ベース106とYテーブル104には、ベース106とYテーブル104との相対位置を計測するためのリニアスケール(図示せず)が配置されている。このリニアスケールは、ベース106に対するYテーブル104のY方向の相対変位量を計測する。
【0024】
Xテーブル102は、リニアガイド105xとガイドキャリッジ103xを介して、Yテーブル104の上部に位置する。Xテーブル102は、Xリニアモータ(図示せず)に駆動されて、Yテーブル104の上をX方向(紙面に垂直な方向)に移動可能である。Xリニアモータは、Yテーブル104とXテーブル102との間に配置され、Xテーブル102をX方向に移動させる推力を発生する。
【0025】
Yテーブル104とXテーブル102には、Yテーブル104とXテーブル102との相対位置を計測するためのリニアスケール(図示せず)が配置されている。このリニアスケールは、Yテーブル104に対するXテーブル102のX方向の相対変位量を計測する。
【0026】
トップテーブル101の上面には、半導体ウエハなどの対象物が載置される。Xテーブル102とYテーブル104がXY平面上を移動することで、半導体ウエハなどの対象物の位置を決めることができる。
【0027】
次に、浮上ステージを備えるスタック型のステージ装置と、下方のテーブルであるYテーブル104の回転振動について説明する。
【0028】
図2は、従来の、浮上ステージを備えるスタック型のステージ装置の構成の例を示す図である。
図2に示すステージ装置では、Yテーブル104は、
図1に示した従来のステージ装置(XYステージ)と同様に、リニアガイド105yとガイドキャリッジ103yを介してY方向に移動可能である。以下では、
図2に示すステージ装置について、
図1に示したステージ装置と異なる構成を主に説明する。
【0029】
Xテーブル102は、電磁気力による推力によって浮上力と推進力を得る浮上ステージである。Xテーブル102は、モータ200によりY方向の推力を得て駆動される。モータ200は、Yテーブル104に配置されたYモータヨーク201と、Xテーブル102に配置されたYモータコイル202を備え、Xテーブル102を移動させる。Xテーブル102は、モータ200だけでなく、6軸方向に推力を発生する複数のモータ(図示せず)により駆動され、6自由度で姿勢が制御される。6軸方向とは、X軸、Y軸、Z軸、θx軸、θy軸、及びθz軸の方向である。θx軸、θy軸、及びθz軸は、それぞれX軸周り、Y軸周り、及びZ軸周りの方向である。
【0030】
浮上ステージであるXテーブル102を駆動する複数のモータは、一般に、トップテーブル101の位置を高精度に定めることができるように、浮上ステージの駆動重心に推力を与えるように配置される。
【0031】
図2に示すようなステージ装置では、以下のようにして、Xテーブル102が駆動されたときと、Yテーブル104が駆動されたときに、Yテーブル104に回転振動が発生する。
【0032】
図2に示すステージ装置では、従来のXYステージ(
図1)とは異なり、Xテーブル102は、Y方向に推力が発生して駆動される。Xテーブル102が駆動されると、この推力の駆動反力203は、Yモータヨーク201を介してYテーブル104に作用する。駆動反力203は、Yテーブル104の重心の高さ位置(高さ方向の位置)と異なる高さ位置に作用するので、Yテーブル104には、回転振動(特に、X軸周りの回転振動)が発生する。
【0033】
また、Yテーブル104を位置決めするためにYテーブル104が駆動されると、Yテーブル104の駆動力204は、駆動反力203と互いに逆方向に作用するので、Yテーブル104には、X軸周りの回転モーメント205によってX軸周りの回転振動が発生する。
【0034】
図2には、Yテーブル104が、リニアガイド105yとガイドキャリッジ103yを介して移動する例を示している。Yテーブル104が浮上ステージである場合でも、スタック型のステージ装置では、上方のテーブル(Xテーブル102)と下方のテーブル(Yテーブル104)との間で重心の高さ位置が本質的に互いに異なるため、Yテーブル104には、
図2に示した例と同様の回転振動が生じる。
【0035】
なお、Yテーブル104には、Y軸周りの回転モーメントによってY軸周りの回転振動が発生したり、Z軸周りの回転モーメントによってZ軸周りの回転振動が発生したりすることもある。以下の説明では、代表例として、Yテーブル104に、X軸周りの回転モーメント205によってX軸周りの回転振動が発生する場合について説明する。
【0036】
図3は、浮上ステージであるXテーブル102の相対位置を計測する方法の例を示す図である。
図3には、一例として、光学式センサであるリニアスケール300を用いて、Xテーブル102の位置を計測する方法を示している。なお、Xテーブル102の位置を計測するセンサには、リニアスケール300以外の光学式センサや静電容量を用いた位置センサを用いてもよい。
【0037】
リニアスケール300は、光を発する光源と、光源からの光を反射するスケール部302と、スケール部302で反射した光を読み取る受光部301を備える。
図3に示すリニアスケール300では、一例として、受光部301が光源を備えている。
【0038】
スケール部302は、Yテーブル104の上部(上面)に設置されている。受光部301は、Xテーブル102の下部(下面)に設置されている。このような配置により、リニアスケール300は、Yテーブル104に対するXテーブル102の相対的な位置を計測することができる。また、Xテーブル102は、Xテーブル102の6軸方向の姿勢を検出するための6個または6個以上のリニアスケール(図示せず)を備えることができる。リニアスケール300の計測値は、Xテーブル102を駆動するためのフィードバック制御演算に用いられる。
【0039】
図4Aは、従来の、浮上ステージを備えるスタック型のステージ装置において、Yテーブル104の回転振動がXテーブル102に与える影響の例を示す図である。
【0040】
Yテーブル104に回転振動が生じると、リニアスケール300の計測値にYテーブル104の回転振動の成分が重畳する。この計測値を用いて浮上ステージであるXテーブル102を追従制御すると、Xテーブル102は、Yテーブル104との相対的な変位量がゼロになるようにフィードバック制御されるため、Xテーブル102には、Yテーブル104の回転振動に追従して回転振動が生じる。この回転振動は、
図4Aに示すようにXテーブル102を水平面400に対して傾かせて、Xテーブル102の位置決め精度を低下させるので、振動(残留振動)が減衰するまでの時間が待ち時間となってステージ装置のスループットを低下させる。
【0041】
図4Bは、本発明の実施例によるステージ装置において、Yテーブル104に回転振動が生じたときの、Xテーブル102の姿勢の例を示す図である。本発明の実施例によるステージ装置では、以下に説明するように、Yテーブル104に回転振動が生じた場合でも、この回転振動の影響を低減することができるので、Xテーブル102が理想的な姿勢(例えば、
図4Bに示すようなXテーブル102が水平面400に平行な姿勢)を維持できて、ステージ装置のスループットを向上させることができる。
【0042】
図5Aと
図5Bは、浮上ステージであるXテーブル102の振動の波形の例を示す図である。
【0043】
図5Aには、Xテーブル102のみが駆動された場合の、Xテーブル102の振動の波形の例を示している。Xテーブル102だけが駆動されているため、駆動反力203(
図2)のみがYテーブル104に作用する。Xテーブル102には、駆動反力203のみによって発生したYテーブル104の回転振動により、
図5Aに示すような振動が生じる。
【0044】
図5Bには、Xテーブル102とYテーブル104が同時に駆動された場合の、Xテーブル102の振動の波形の例を示している。この場合は、Yテーブル104に駆動力204(
図2)が作用してX軸周りの回転モーメント205が発生するので、Yテーブル104の回転振動は、Xテーブル102のみを駆動した場合よりも増加する。従って、
図5Bに示すように、Xテーブル102には、
図5Aに示した振動よりも大きな振動が生じる。
【0045】
すなわち、Xテーブル102とYテーブル104を同時に駆動すると、Xテーブル102のみを駆動した場合よりも、Yテーブル104の回転振動によるXテーブル102の振動は、増大する。
【0046】
以下では、本発明の実施例によるステージ装置と荷電粒子線装置と光学式検査装置について、図面を参照して説明する。
【実施例0047】
図6は、本発明の実施例1によるステージ装置の構成を示す図である。本実施例によるステージ装置は、浮上ステージを備えるスタック型のステージ装置である。以下では、本実施例によるステージ装置について、
図2に示した従来のステージ装置と異なる構成を主に説明する。
【0048】
本実施例によるステージ装置は、Xテーブル102の第1部分の位置を計測する第1の位置計測デバイスと、Xテーブル102の第2部分の位置を計測する第2の位置計測デバイスと、コンピュータシステム601を備える。Xテーブル102の第1部分とは、トップテーブル101の上面である。すなわち、Xテーブル102の第1部分の位置は、トップテーブル101に載置された対象物(例えば、半導体ウエハなど)の位置に近い位置であり、Xテーブル102の回転中心604よりも上方の位置である。Xテーブル102の第2部分とは、Xテーブル102において、第1部分よりも下方で、Xテーブル102の回転中心604よりも下方の部分である。Xテーブル102の回転中心604は、Xテーブル102が浮上しているときの回転中心である。
【0049】
第1の位置計測デバイスは、例えばレーザ干渉計600である。レーザ干渉計600は、レーザ光603を照射する光源605と、トップテーブル101の上面に設置された反射ミラー602を備える。レーザ干渉計600は、光源605から照射されたレーザ光603と反射ミラー602によるレーザ光603の反射光との干渉に基づいて、Xテーブル102のY方向とZ方向の位置を計測する。なお、
図6には、レーザ干渉計600がXテーブル102のY方向の位置を計測するための構成を示しているが、レーザ干渉計600は、Xテーブル102のX方向の位置を計測するための構成(例えば、図示していない反射ミラー)を備えて、Xテーブル102のX方向とZ方向の位置を計測することができる。
【0050】
レーザ干渉計600を用いることにより、トップテーブル101に載置された対象物(例えば、半導体ウエハなど)の位置に近い位置での計測が可能であり、対象物を載置するXテーブル102の位置をアッベ誤差の少ない高精度で計測することができる。なお、第1の位置計測デバイスとして、レーザ干渉計600の代わりに、トップテーブル101上に配置された平面スケールを用いることもできる。
【0051】
第2の位置計測デバイスは、例えばリニアスケール300である。リニアスケール300は、Yテーブル104に対するXテーブル102の相対位置を計測する。
【0052】
コンピュータシステム601は、コンピュータで構成された装置であり、ステージ装置に関する演算と制御などを実行する。例えば、コンピュータシステム601は、モータ200を制御することで、Xテーブル102を移動させる。コンピュータシステム601は、レーザ干渉計600が計測したXテーブル102の位置についての情報と、リニアスケール300が計測したXテーブル102の位置についての情報を用いてフィードバック制御演算を行い、モータ200を駆動することで、Xテーブル102の浮上力や推進力を発生させ、Xテーブル102を制御する。
【0053】
Xテーブル102は、浮上ステージであり、コンピュータシステム601により制御されて移動したり姿勢を変更したりする。Xテーブル102は、浮上しているときに、Yテーブル104の回転振動に合わせて追従制御され、回転振動を起こすことがある。この回転振動の中心が、Xテーブル102の回転中心604である。
【0054】
第1の位置計測デバイスであるレーザ干渉計600は、Xテーブル102の第1部分の位置を計測する。第2の位置計測デバイスであるリニアスケール300は、Xテーブル102の第2部分の位置を計測する。すなわち、レーザ干渉計600は、Xテーブル102の回転中心604よりも上方の部分の位置を計測するように設置され、リニアスケール300はXテーブル102の回転中心604よりも下方の部分の位置を計測するように設置されている。
【0055】
本実施例によるステージ装置は、このような、レーザ干渉計600とリニアスケール300とが高さ方向においてXテーブル102の回転中心604に対して互いに反対の位置にある構成により、Yテーブル104に回転振動が発生した場合に、Xテーブル102の振動をレーザ干渉計600とリニアスケール300とで互いに逆位相で計測可能である。すなわち、本実施例によるステージ装置では、レーザ干渉計600の計測値の符号と、リニアスケール300の計測値の符号とが、互いに逆に変化する。
【0056】
コンピュータシステム601は、
図7を用いて後述する方法を用いて、Yテーブル104の回転振動の周波数を算出する。本実施例によるステージ装置は、Yテーブル104の回転振動の周波数を、FPGA(field-programmable gate array)を用いてリアルタイムに高速に算出してもよく、コンピュータシステム601以外のコンピュータシステムを用いてオフラインで算出してもよい。
【0057】
Yテーブル104の回転振動によるXテーブル102の振動を防止する方法として、例えば、リニアスケール300の計測値(Yテーブル104に対するXテーブル102の相対的な位置の信号)からYテーブル104の回転振動の周波数成分を除去するフィルタ処理を行う方法がある。このフィルタ処理の計算には、コンピュータシステム601がデジタル処理で実行してもよく、FPGAを用いて実行してもよい。
【0058】
コンピュータシステム601は、Yテーブル104の回転振動の周波数成分を除去した位置信号(リニアスケール300の計測値)を用いてXテーブル102を制御することで、Yテーブル104の回転振動によるXテーブル102への影響を低減することが可能である。すなわち、コンピュータシステム601は、Yテーブル104の回転振動に伴うXテーブル102(浮上ステージ)の残留振動を低減することができる。
【0059】
また、Yテーブル104の回転振動によるXテーブル102への影響を低減する他の方法として、次のような方法がある。すなわち、コンピュータシステム601は、Xテーブル102のモータ200に対して、Yテーブル104の回転振動の周波数成分を相殺する駆動信号を算出し、この駆動信号をモータ200に与えてXテーブル102を駆動してもよい。コンピュータシステム601は、この駆動信号をモータ200に与えることにより、Yテーブル104の回転振動の周波数成分が除去された信号でXテーブル102を制御することができる。
【0060】
図7は、Yテーブル104の回転振動に対する、リニアスケール300の計測値とレーザ干渉計600の計測値との周波数特性の違いを示す図である。
図7を用いて、コンピュータシステム601がYテーブル104の回転振動の周波数を算出する方法について説明する。
【0061】
スケール振動特性701は、リニアスケール300を用いて計測したXテーブル102の振動の周波数特性である。スケール振動特性701は、リニアスケール300の計測信号、すなわちリニアスケール300が計測したXテーブル102の位置の時間変化(振幅)を周波数領域へ変換することで、求めることができる。
【0062】
レーザ振動特性702は、レーザ干渉計600を用いて計測したXテーブル102の振動の周波数特性である。レーザ振動特性702は、レーザ干渉計600の計測信号、すなわちレーザ干渉計600が計測したXテーブル102の位置の時間変化(振幅)を周波数領域へ変換することで、求めることができる。
【0063】
リニアスケール300は、Yテーブル104を基準にしてXテーブル102の位置を計測する。このため、リニアスケール300の計測値、すなわちスケール振動特性701には、Yテーブル104の回転振動の情報が豊富に含まれている。一方、レーザ干渉計600は、Xテーブル102の位置を、Yテーブル104を基準にせずに直接計測する。このため、レーザ干渉計600の計測値、すなわちレーザ振動特性702には、Yテーブル104の回転振動の情報があまり含まれていない。
【0064】
従って、スケール振動特性701は、レーザ振動特性702よりも振動の振幅が大きい。スケール振動特性701の振幅は、Yテーブル104の回転振動の周波数で最も大きくなると考えられる。
【0065】
また、上述したように、本実施例によるステージ装置では、Yテーブル104に回転振動が発生した場合に、レーザ干渉計600とリニアスケール300とが互いに逆位相でXテーブル102の振動を検出する。すなわち、レーザ干渉計600の計測値の符号とリニアスケール300の計測値の符号とが互いに逆に変化し、スケール振動特性701とレーザ振動特性702とは、
図7に示すように互いに逆位相の関係にある。
【0066】
以上のことから、コンピュータシステム601は、スケール振動特性701とレーザ振動特性702とが互いに逆位相の関係(レーザ干渉計600の計測信号とリニアスケール300の計測信号とが互いに逆位相の関係)にあって、かつスケール振動特性701の振幅が最も大きい周波数を、Yテーブル104の回転振動の周波数703とすることができる。
【0067】
コンピュータシステム601は、例えばフーリエ変換などを用いて、Yテーブル104に回転振動が発生した場合の、Xテーブル102の振動の位相と、Yテーブル104の回転振動の周波数703を求めることができる。具体的には、コンピュータシステム601は、リニアスケール300の計測値の信号とレーザ干渉計600の計測値の信号に対してフーリエ変換を実施して、
図7に示すようなXテーブル102の振動の周波数特性(スケール振動特性701とレーザ振動特性702)を求め、スケール振動特性701とレーザ振動特性702の位相と振幅を算出することで、Yテーブル104の回転振動の周波数703を算出することができる。
【0068】
なお、以上の説明では、Yテーブル104にX軸周りの回転振動(
図2)が発生した場合について説明したが、Yテーブル104にY軸周りの回転振動やZ軸周りの回転振動が発生した場合にも、同様にしてYテーブル104の回転振動の周波数703を算出することができる。
【0069】
Yテーブル104の回転振動の周波数703の算出には、フーリエ変換を用いる方法だけでなく、制御対象であるXテーブル102の周波数特性を計測する方法や、振動の伝達関数モデルを用いてモデル出力と位置検出信号とを一致させるように周波数を同定する方法や、人口知能(AI)を用いて学習的に算出する方法などを用いてもよい。
【0070】
図8は、本実施例によるステージ装置が浮上ステージであるXテーブル102を移動させる処理のフローチャートを示す図である。
【0071】
処理S801では、コンピュータシステム601は、トップテーブル101に載置された対象物(例えば、半導体ウエハ)上の指定された座標を基に、Xテーブル102を移動させる位置の座標(目標座標)を決定する。対象物上の指定された座標とは、例えば、ステージ装置のユーザやステージ装置に接続された装置によって指定された座標であり、対象物におけるユーザが観察したい位置の座標のうちの1つとすることができる。
【0072】
処理S802では、コンピュータシステム601は、Xテーブル102の現在の座標と目標座標に基づいてモータ200の駆動指令を作成し、モータ200を駆動させてXテーブル102の移動を開始する。
【0073】
処理S803では、コンピュータシステム601は、移動中のXテーブル102の位置をリニアスケール300で計測する。リニアスケール300がXテーブル102の6軸方向(X軸、Y軸、及びZ軸の並進方向と、θx軸、θy軸、及びθz軸の回転方向)について計測すると、コンピュータシステム601は、Xテーブル102の6軸方向の位置と姿勢を算出することができる。
【0074】
処理S804では、コンピュータシステム601は、
図7を用いて説明した方法に従って、レーザ干渉計600の計測値とリニアスケール300の計測値を用いて、Yテーブル104の回転振動の周波数703を導出する。
【0075】
処理S805では、コンピュータシステム601は、リニアスケール300の計測値に対してフィルタ処理を行い、リニアスケール300の計測値(Xテーブル102の位置を示す信号)から、Yテーブル104の回転振動の周波数703の成分を除去する。このフィルタ処理については、
図9を用いて後述する。なお、コンピュータシステム601は、フィルタ処理を、6軸方向のうち1軸(例えばY軸)方向だけのリニアスケール300の計測値に対して行ってもよく、6軸方向全てのリニアスケール300の計測値に対して行ってもよい。
【0076】
処理S806では、コンピュータシステム601は、Xテーブル102を駆動するモータ200の駆動指令を生成する。コンピュータシステム601は、フィルタ処理が施されたリニアスケール300の計測値から、フィードバック制御方法を用いて、Xテーブル102を6軸方向(X軸、Y軸、及びZ軸の並進方向と、θx軸、θy軸、及びθz軸の回転方向)のうち少なくとも1軸方向に駆動するモータ200の駆動指令を計算する。フィードバック制御の計算には、例えば、PID制御などの既存の制御則を用いることができる。このようにして、コンピュータシステム601は、Xテーブル102を移動させるときの、Xテーブル102の並進距離と回転角度の少なくとも一方を求めることができる。
【0077】
処理S807では、コンピュータシステム601は、生成した駆動指令を基にモータ200を駆動して、Xテーブル102の位置と姿勢を制御してXテーブル102を移動させる。
【0078】
処理S803から処理S807は、Xテーブル102の移動中に周期的に実施される。
【0079】
処理S808では、コンピュータシステム601は、Xテーブル102が目標座標に到達している場合に、Xテーブル102の移動を完了する。Xテーブル102の移動が完了したら、例えば、対象物(例えば、半導体ウエハ)の観察などの対象物についての処理が実行される。
【0080】
処理S809では、コンピュータシステム601は、対象物についての処理が終了したか否かを判定する。コンピュータシステム601は、例えば、ステージ装置のユーザやステージ装置に接続された装置を介して提供された情報を基に、対象物についての処理が終了したか否かを判定することができる。対象物についての処理が終了していなければ、処理S801に戻る。
【0081】
以下では、
図9Aから
図9Cを参照して、
図8に示したフローチャートの処理S805で実行するフィルタ処理について説明する。上述したように、コンピュータシステム601は、リニアスケール300の計測値(Xテーブル102の位置を示す信号)から、Yテーブル104の回転振動の周波数703の成分を除去するフィルタ処理を行う。
【0082】
図9Aは、コンピュータシステム601がフィルタ処理を行う前のリニアスケール300の計測値の例を示す図である。リニアスケール300が計測したXテーブル102の位置は、Xテーブル102の回転振動に、Yテーブル104の回転振動に起因した微小な振動成分が重畳した波形で表される。
【0083】
図9Bは、コンピュータシステム601が行うフィルタ処理のフィルタ周波数特性902の例を示す図である。フィルタ周波数特性902は、Yテーブル104の回転振動の周波数703と、回転振動の周波数703の幅901を用いて定めることができる。回転振動の周波数703の幅901は、任意に定めることができる。フィルタ周波数特性902は、Yテーブル104の回転振動の周波数703の近傍の周波数成分(幅901で定められる周波数成分)を低減する特性を持つ。このようなフィルタ周波数特性902を持つデジタルフィルタとして、既存の任意のフィルタ、例えばノッチフィルタを用いることができる。
【0084】
図9Cは、コンピュータシステム601がフィルタ処理を行った後のリニアスケール300の計測値の例を示す図である。コンピュータシステム601は、
図9Aに示すリニアスケール300の計測値に対し、
図9Bに示すフィルタ周波数特性902を持つフィルタ処理を行うことで、リニアスケール300の計測値からYテーブル104の回転振動の周波数703の成分を除去する。
図9Cに示すリニアスケール300の計測値では、
図9Aに見られる、Yテーブル104の回転振動に起因した微小な振動成分が除去されており、Xテーブル102の回転振動に起因する振動成分だけが残っている。
【0085】
コンピュータシステム601は、
図9Cに示すようなフィルタ処理が施されたリニアスケール300の計測値に基づいて、Xテーブル102を移動させる(
図8の処理S806、処理S807)。このため、本実施例によるステージ装置は、Yテーブル104の回転振動の影響を低減することができ、Xテーブル102の位置と姿勢の制御を精度良く行うことができるとともにXテーブル102の残留振動を低減できて、スループットを向上させることができる。
本実施例では、Yテーブル104の回転振動の周波数703は、事前の計測や構造解析から既知である。Yテーブル104の回転振動の周波数703は、打撃試験や振動モードの測定などにより実測する方法や、3次元解析ツールなどを用いて計算する方法で、予め求めることができる。
本実施例によるステージ装置は、Yテーブル104の回転振動の周波数703が予め既知であるので、レーザ干渉計600によるXテーブル102の第1部分の位置の計測を省略することができる。Yテーブル104の回転振動の周波数703についての情報は、コンピュータシステム601が保存している。コンピュータシステム601は、Yテーブル104の回転振動の周波数703が記録された振動周波数マップを保存することもできる。
本実施例によるステージ装置は、実施例1によるステージ装置と同様に、Yテーブル104の回転振動の影響を低減することができ、Xテーブル102の位置と姿勢の制御を精度良く行うことができるとともにXテーブル102の残留振動を低減できて、スループットを向上させることができる。