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特開2023-159784アデノ随伴ウイルス結合性タンパク質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159784
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】アデノ随伴ウイルス結合性タンパク質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/02 20060101AFI20231025BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20231025BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20231025BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
C12P21/02 C ZNA
C07K14/47
C12N15/12
C12N15/10 200Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069708
(22)【出願日】2022-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【弁理士】
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】栗原 桃
(72)【発明者】
【氏名】大江 正剛
【テーマコード(参考)】
4B064
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA16
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045EA50
4H045EA61
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】アデノ随伴ウイルス(AAV)結合性タンパク質を発現可能な遺伝子組換え大腸菌を用いた前記タンパク質の製造において、前記遺伝子組換え大腸菌によるAAV結合性タンパク質の大量発現が可能な培地を提供すること。
【解決手段】前記遺伝子組換え大腸菌を、少なくとも10mg/L(培地)以上2000mg/L(培地)以下のナトリウムを添加した培地を用いて培養することで、前記課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えタンパク質を発現可能な遺伝子組換え大腸菌の培養工程と、得られた培養物中に含まれる前記大腸菌が発現した組換えタンパク質の回収工程とを含む、組換えタンパク質の製造方法であって、
前記組換えタンパク質がアデノ随伴ウイルス(AAV)結合性タンパク質であり、かつ前記培養工程を、10mg/L(培地)以上2000mg/L(培地)以下のナトリウムを添加した培地で培養する、前記製造方法。
【請求項2】
培養工程が、遺伝子組換え大腸菌の菌体濃度が一定濃度に達した時点で誘導剤を添加する工程をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
一定濃度が600nmの吸光度で70以上120以下であり、誘導剤が添加後の終濃度で0.04mmol/L以上4mmol/L以下のイソプロピル-β-チオガラクトピラノシドである、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
遺伝子組換え大腸菌を培養する工程を、炭素源および窒素源を含む流加液を培養途中に流加する、流加培養で実施し、かつ培養開始時の培地ならびに前記流加液に含まれる炭素源および窒素源が、それぞれ以下に示す態様である、請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法;
[培養開始時の培地]炭素源:20g/L以下のグルコース、窒素源:80g/L以下の酵母エキス
[流加液]炭素源:300g/L以上900g/L以下のグルコース、窒素源:100g/L以上500g/L以下の酵母エキス。
【請求項5】
AAV結合性タンパク質が、以下の(i)から(iii)のいずれかから選択されるポリペプチドである、請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法;
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列の312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において、1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつAAV結合活性を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列の312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有し、かつAAV結合活性を有するポリペプチド。
【請求項6】
AAV結合性タンパク質が、以下の(i)から(iii)のいずれかから選択されるポリペプチドである、請求項4に記載の製造方法;
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列の312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において、1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつAAV結合活性を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列の312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有し、かつAAV結合活性を有するポリペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アデノ随伴ウイルス(AAV)結合性タンパク質の製造方法に関する。特に本発明は、AAV結合性タンパク質を発現可能な遺伝子組換え大腸菌を培養して当該タンパク質を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アデノ随伴ウイルス(Adeno Associated Virus、以下、AAV)はパルボウイルス科(Parvoviridae)ディペンドウイルス属(Dependovirus)の非エンベロープ型一本鎖DNAウイルスである。野生型のAAVは、正二十面体構造の直径20nmから30nm程の粒子であり、3種類のカプシドタンパク(VP1、VP2、およびVP3)約60分子が、VP1:VP2:VP3=1:1:10の比率で混在し集合することで構成されている。自立した増殖能は無く、増殖にはアデノウイルスやヘルペスウイルス等のヘルパーウイルスを必要とする。ウイルス粒子の中には約5kbの一本鎖ゲノムDNAが格納されている。ゲノムDNAの構成としては、両末端にITR(Inverted terminal repeat)と言われる、複製やウイルス粒子中へのゲノムDNAのパッケージングに関与するT字型のヘアピン構造を有し、2つのITRに挟まれる形で、複製や転写を調節するRepタンパク(Rep78、Rep68、Rep52、Rep40)、ウイルス粒子を形成するカプシドタンパク(VP1、VP2、VP3)、およびウイルス粒子の形成を促進するAAP(Assembly Activating Protein)をコードしたポリヌクレオチドを有している。
【0003】
AAVは近年、遺伝子治療用ベクターとしての開発が急速に押し進められている。一例として、2012年に遺伝子治療薬として初めてEMD(European Medicines Agency)に承認されたリポ蛋白リパーゼ欠損症の治療薬であるGlybera(uniQure社製)や、2017年に遺伝子治療薬として初めてFDA(Food and Drug Administration)に承認された希少疾患遺伝性網膜ジストロフィーの治療薬であるLuxturna(Spark Therapeutics社製)があり、新たな治療法として注目されている。
【0004】
遺伝子治療用ベクターとしてのAAVの特長は、非分裂細胞(神経細胞、筋細胞、肝細胞等)へ効率良く遺伝子導入が可能なこと、標的細胞で遺伝子発現が長期間持続すること、AAVが非病原性ウイルスであり他のウイルスベクターと比較し高い安全性が期待できること、等が挙げられる。一方で、遺伝子発現効率が高くないため、治療効果を発揮するためには膨大な量のベクターを必要とするといった欠点がある。
【0005】
遺伝子組換えAAVベクター(以下、単にAAVベクターとも表記)の製造は、通常、AAV粒子形成に必須な要素をコードするポリヌクレオチドを細胞に導入することで、AAVを産生する能力を有する細胞(以下、AAV産生細胞とも表記)を作製し、当該細胞を培養してAAV粒子形成に必須な要素を発現させることで行なう。製造したAAVベクターはAAV産生細胞から回収精製し、治療用AAVベクター製剤を得る。
【0006】
AAVベクターの精製にあたっては、不溶性担体と、当該担体に固定化したAAV結合性タンパク質とを含むAAV吸着剤を用いたアフィニティクロマトグラフィによる方法が知られている(特許文献1)。しかしながら前記吸着剤で使用する、AAV結合性タンパク質の製造を、遺伝子工学的手法により得られた、前記タンパク質を発現可能な大腸菌を用いて行なう場合、培地当たりの前記タンパク質の発現量が低いという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2021/106882号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、アデノ随伴ウイルス(AAV)結合性タンパク質を発現可能な遺伝子組換え大腸菌を用いた前記タンパク質の製造において、前記遺伝子組換え大腸菌によるAAV結合性タンパク質の大量発現が可能な培地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、アデノ随伴ウイルス(AAV)結合性タンパク質を発現可能な遺伝子組換え大腸菌を、少なくとも所定の濃度のナトリウムを添加した培地を用いて培養することで、AAV結合性タンパク質を大量発現できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明の第一の態様は、
組換えタンパク質を発現可能な遺伝子組換え大腸菌の培養工程と得られた培養物中に含まれる前記大腸菌が発現した組換えタンパク質の回収工程とを含む、組換えタンパク質の製造方法であって、
前記組換えタンパク質がAAV結合性タンパク質であり、かつ前記培養工程を少なくとも10mg/L(培地)以上2000mg/L(培地)以下のナトリウムを添加した培地で培養する、前記製造方法である。
【0011】
また本発明の第二の態様は、培養工程が、遺伝子組換え大腸菌の菌体濃度が一定濃度に達した時点で誘導剤を添加する工程をさらに含む、前記第一の態様に記載の製造方法である。
【0012】
また本発明の第三の態様は、一定濃度が600nmの吸光度で70以上120以下であり、誘導剤が添加後の終濃度で0.04mmol/L以上4mmol/L以下のイソプロピル-β-チオガラクトピラノシドである、前記第二の態様に記載の製造方法である。
【0013】
また本発明の第四の態様は、
遺伝子組換え大腸菌を培養する工程を、炭素源および窒素源を含む流加液を培養途中に流加する、流加培養で実施し、かつ培養開始時の培地ならびに前記流加液に含まれる炭素源および窒素源が、それぞれ以下に示す態様である、前記第一から第三の態様のいずれかに記載の製造方法である;
[培養開始時の培地]炭素源:20g/L以下のグルコース、窒素源:80g/L以下の酵母エキス
[流加液]炭素源:300g/L以上900g/L以下のグルコース、窒素源:100g/L以上500g/L以下の酵母エキス。
【0014】
また本発明の第五の態様は、AAV結合性タンパク質が、以下の(i)から(iii)のいずれかから選択されるポリペプチドである、前記第一から第四の態様のいずれかの態様に記載の製造方法である;
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列の312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において、1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつAAV結合活性を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列の312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有し、かつAAV結合活性を有するポリペプチド。
【発明の効果】
【0015】
本発明の遺伝子組換え大腸菌を用いたアデノ随伴ウイルス(AAV)結合性タンパク質の製造方法は、前記遺伝子組換え大腸菌を、少なくとも10mg/L(培地)以上2000mg/L(培地)以下のナトリウムを添加した培地を用いて培養することを特徴としている。本発明の製造方法は、他の方法と比較して培養液当たりのAAV結合性タンパク質の生産量が大幅に増大している。したがって本発明は、AAV結合性タンパク質の工業的製造に有用といえる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の製造方法では、AAV結合性タンパク質を発現可能な、遺伝子組換え大腸菌を培養して製造する。前記組換え大腸菌を得るには、例えば、AAV結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド(以下、単に「AAV結合性タンパク質遺伝子」とも表記する)を適切な発現ベクターに挿入し、当該挿入したベクターを用いて大腸菌を形質転換して得ればよい。
【0017】
AAV結合性タンパク質遺伝子の発現ベクターへの挿入は、挿入するベクターの適切な位置に遺伝子工学的に挿入すればよい。ここでいう適切な位置とは、発現ベクターの複製機能、所望の抗生物質マーカー、または伝達性に関わる領域を破壊しない範囲で自由に決定してよい。また発現ベクターに挿入する場合、例えばプロモーター機能を有するオリゴヌクレオチドを付加してもよい。大腸菌で機能するプロモーターとして、例えばlacプロモーター、trcプロモーターまたはT7プロモーターが例示できる。挿入する発現ベクターは、形質転換する大腸菌内で安定に存在し、複製できるものであれば特に制限はない。発現ベクターの具体例として、大腸菌内で安定に存在し複製できるプラスミドベクターとして知られている、pTrc系、pUC系、pBR系、pET系、広宿主域(Broad-Host-Range)プラスミドベクターがあげられる。
【0018】
本発明において、大腸菌(Escherichia coli)株の限定は特になく、
大腸菌JM109株(ATCC 53323)、大腸菌MV1184株(ATCC 47108)、大腸菌GM31株(NBRP ME7741)、大腸菌HB101株(ATCC 33694)、大腸菌JM101株(NBRP ME9043)、大腸菌W3110株(ATCC 27325)、および大腸菌BL21(DE3)株(NBRC 108896)が例示できる。中でも、より好ましくは大腸菌W3110株である。なお前述した大腸菌に対し、ニトロソグアニジンやメタンスルホン酸エチル等の化学物質、紫外線、放射線等の従来公知の手段により変異処理した大腸菌変異株を使用してもよい。
【0019】
前記発現ベクターを用いた大腸菌の形質転換は、公知の方法(例えば、Method in Enzymology,216,469-631,1992,Academic PressやMethod in Enzymology,204,305-636,1991,Academic Pressに記載の方法)で行なえばよい。
【0020】
本発明の製造方法で製造するAAV結合性タンパク質は、AAVと結合可能なポリペプチドであれば特に制限はなく、インテグリンなどのラミニン受容体、抗AAV抗体やAAV受容体(AAVR)が例示できる。
【0021】
AAV結合性タンパク質がAAVRである場合の好ましい態様として、以下の(i)から(iii)のいずれかに示すポリペプチドがあげられる。
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含むポリペプチド、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列の312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において、1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加を含むアミノ酸配列を有し、かつAAV結合活性を有するポリペプチド、
(iii)配列番号1に記載のアミノ酸配列の312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有し、かつAAV結合活性を有するポリペプチド。
【0022】
なお配列番号1に記載のアミノ酸配列は、AAVRの一態様であるKIAA0319L(公式データベース:UniProt、アクセッションナンバー:Q8IZA0)のアミノ酸配列であり、配列番号1に記載のアミノ酸配列の312番目のセリン(Ser)から500番目のアスパラギン酸(Asp)までのアミノ酸残基は、KIAA0319Lの細胞外領域ドメイン1(PKD1)およびドメイン2(PKD2)に相当する領域である。
【0023】
前記(i)から(iii)のいずれかに示すポリペプチドは、前述したKIAA0319LのPKD1およびPKD2に相当する領域を少なくとも含んでいればよく、例えば、
PKD2のC末端側にある他の細胞外領域ドメイン(ドメイン3(PKD3)、ドメイン4(PKD4)およびドメイン5(PKD5))に相当する領域の全てまたは一部を含んでもよいし、PKD1のN末端側にあるMANSC(Motif At N terminus with Seven Cysteines)ドメインなどのシグナル配列に相当する領域やシステインリッチな領域の全てまたは一部を含んでもよいし、細胞外領域のN末端側および/またはC末端側にある膜貫通領域ならびに細胞内領域の全てまたは一部を含んでもよい。
【0024】
前記(ii)の一例として、配列番号2に記載のアミノ酸配列を少なくとも含むポリペプチドや、WO2021/106882号で開示のAAV結合性タンパク質、があげられる。また前記(ii)に記載の置換、欠失、挿入、または付加の例として、WO2021/106882号で開示しているアミノ酸残基の置換があげられる。
【0025】
前記(ii)における、「1もしくは数個」とは、AAVRの立体構造におけるアミノ酸置換の位置やアミノ酸残基の種類によっても異なるが、一例として、1個以上50個以下、1個以上30個以下、1個以上20個以下、1個以上10個以下、1個以上9個以下、1個以上8個以下、1個以上7個以下、1個以上6個以下、1個以上5個以下、1個以上4個以下、1個以上3個以下、1個以上2個以下、1個のいずれかを意味する。「1もしくは数個」のアミノ酸残基の置換は、例えば、AAV結合活性を有する限り、WO2021/106882号で開示のアミノ酸残基の置換以外の位置に生じてよい。
【0026】
なお前記(ii)における「1もしくは数個のアミノ酸残基の置換」には、前述した特定位置におけるアミノ酸置換の他に、物理的性質および/または化学的性質が類似したアミノ酸間で置換が生じる保守的置換が生じてもよい。保守的置換は、一般に、置換が生じているものと置換が生じていないものとの間でタンパク質の機能が維持されることが当業者において知られている。保守的置換の一例としては、グリシンとアラニン間、セリンとプロリン間、またはグルタミン酸とアラニン間での置換があげられる(タンパク質の構造と機能、メディカル・サイエンス・インターナショナル社、9、2005)。また前記(ii)における「1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加」には、AAVRの由来の違いや、種の違いなどに基づく、天然にも存在する変異(mutantまたはvariant)も含まれる。
【0027】
前記(iii)におけるアミノ酸配列の相同性は70%以上あればよく、それ以上の相同性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上または95%以上)を有してもよい。なお本明細書において「相同性」とは、類似性(similarity)または同一性(identity)を意味してよく、特に同一性を意味してもよい。「アミノ酸配列の相同性」とは、アミノ酸配列全体に対する相同性を意味する。アミノ酸配列間の「同一性」とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率を意味する(実験医学、31(3)、羊土社)。アミノ酸配列間の「類似性」とは、それらアミノ酸配列における種類が同一であるアミノ酸残基の比率と側鎖の性質が類似したアミノ酸残基の比率の合計を意味する(実験医学、31(3)、羊土社)。アミノ酸配列の相同性は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)やFASTA等のアラインメントプログラム(alignment program)を利用して決定できる。
【0028】
本発明の製造方法で製造するAAV結合性タンパク質は、そのN末端側またはC末端側に、夾雑物質が存在する溶液からの分析・精製の迅速化やタンパク質の安定化等に有用なオリゴペプチドをさらに付加してもよい。前記オリゴペプチドとしては、ポリヒスチジン、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、C-mycタグ等があげられる。
【0029】
さらに本発明の製造方法で製造するAAV結合性タンパク質のN末端側には、宿主での効率的な発現を促すためのシグナルペプチドを付加してもよく、PelB、OmpA,DsbA、DsbC、MalE、TorTなどといったペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドを例示できる(特開2011-097898号公報)。
【0030】
本発明において、発現ベクターに挿入するAAV結合性タンパク質遺伝子は例えば、
(I)AAV結合性タンパク質のアミノ酸配列からヌクレオチド配列に変換し、当該ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを人工的に合成する方法や、
(II)AAV結合性タンパク質の全体または部分配列を含むポリヌクレオチドを直接人工的に、またはAAV結合性タンパク質のcDNA等からPCR法といったDNA増幅法を用いて調製し、調製した当該ポリヌクレオチドを適当な方法で連結する方法、
で作製できる。
【0031】
前記(I)の方法において、アミノ酸配列からヌクレオチド配列に変換する際、形質転換させる大腸菌におけるコドンの使用頻度を考慮して変換するのが好ましい。具体的には、アルギニン(Arg)ではAGA/AGG/CGG/CGAが、イソロイシン(Ile)ではATAが、ロイシン(Leu)ではCTAが、グリシン(Gly)ではGGAが、プロリン(Pro)ではCCCが、それぞれ使用頻度が少ないため(いわゆるレアコドンであるため)、それらのコドンを避けるように変換すればよい。コドンの使用頻度の解析は公的データベース(例えば、かずさDNA研究所のウェブサイトにあるCodon Usage Databaseなど)を利用することによっても可能である。
【0032】
本発明の製造方法は、前述したAAV結合性タンパク質を発現可能な形質転換体(遺伝子組換え大腸菌)を、少なくとも10mg/L(培地)以上2000mg/L(培地)以下のナトリウムを添加した培地(すなわち、10mg/L(培地)以上2000mg/L(培地)以下のナトリウムを含む培地、以下同様)で培養することを特徴としている。例えば、培地へのナトリウム添加濃度範囲の好適な例として、10mg/L(培地)以上1800mg/L(培地)以下、10mg/L(培地)以上1500mg/L(培地)以下、10mg/L(培地)以上1200mg/L(培地)以下、20mg/L(培地)以上1000mg/L(培地)以下、20mg/L(培地)以上800mg/L(培地)以下、20mg/L(培地)以上500mg/L(培地)以下、20mg/L(培地)以上300mg/L(培地)以下、25mg/L(培地)以上200mg/L(培地)以下等が挙げられる。培地へのナトリウム添加濃度を20mg/L(培地)以上300mg/L(培地)以下とするとより好ましく、25mg/L(培地)以上200mg/L(培地)以下とするとさらに好ましい。培地へのナトリウムの添加方法(培地に含まれるナトリウム濃度の調整方法)は特に限定はなく、例えばナトリウム塩を培地に添加することで、ナトリウムの濃度調整を容易に行なえる。培地に添加するナトリウム塩としては、培地中に所望の量を溶解し得るものであれば特に限定はなく、具体例として、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、および炭酸水素ナトリウムがあげられる。
【0033】
本発明において、遺伝子組換え大腸菌の培養に用いる培地は、ナトリウム濃度が前述した濃度範囲となる限り、前記大腸菌が増殖し、かつAAV結合性タンパク質が発現し得るものであればよい。炭素源の一例として、グルコース、フルクトース、マルトース、ショ糖、粗糖、糖蜜が挙げられ、中でもグルコースが好ましい。窒素源は酵母エキス(例えば、CAS番号:8013-01-2)が好ましいが、ポリペプトン、カゼインおよびその代謝物、コーンスティープリカー、大豆タンパク質、肉エキス、魚肉エキス等を窒素源として用いても良い。ナトリウム塩以外の無機塩の一例としては、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム等のリン酸塩、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、クエン酸鉄、硫酸アンモニウム鉄、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸銅(II)、塩化銅(II)、硫酸マンガン(II)、塩化マンガン(II)があげられる。ビタミン類の一例としては、ビオチン、ニコチン酸、チアミン、リボフラビン、イノシトール、ピリドキシンがあげられる。
【0034】
本発明において、遺伝子組換え大腸菌の培養方法に特に限定はなく、回分培養、半回分培養(流加培養ともいう)、および潅流培養のいずれかで培養してもよく、それらを組み合せて培養してもよい。ただし培養開始時に炭素源や窒素源といった栄養源を一度に培地に投入すると、大腸菌の増殖および前記大腸菌によるAAV結合性タンパク質の発現が阻害され、かつ有機酸などの副生成物も生産されるため、前記タンパク質の発現効率および得られた前記タンパク質の品質に悪影響を与える可能性がある。そのため、培養開始時に投入する栄養源は最小限とし、培養中に栄養源を適宜供給(流加)しながら培養する流加培養で遺伝子組換え大腸菌を培養すると好ましい。
【0035】
本発明において、遺伝子組換え大腸菌の培養を流加培養で行なう際、培養開始時に投入する炭素源および窒素源の濃度は、炭素源がグルコースの場合は20g/L以下に、窒素源が酵母エキスの場合は80g/L以下に、それぞれすると好ましい。流加する炭素源と窒素源は高濃度の溶液とすると培養液の液量増加を抑えられるため好ましい。具体的には、炭素源がグルコースの場合は300g/L以上900g/L以下に、窒素源が酵母エキスの場合は100g/L以上500g/L以下に、それぞれすると好ましい。なお前述したナトリウム塩を含む無機塩をさらに加えても良い。
【0036】
流加培養で遺伝子組換え大腸菌を培養する際、炭素源および窒素源の流加は、培地中における当該炭素源および窒素源の濃度を所定の低濃度を維持しながら行なう必要がある。なお本明細書において「所定の低濃度」とは、炭素源が枯渇せず有機酸等の副生成物が生産しない濃度のことをいう。具体例として、グルコースを炭素源とした場合、炭素源濃度が5g/Lを超えた状態で培養を行なうと、副生成物である有機酸の蓄積により大腸菌の増殖やAAV結合性タンパク質の発現を抑制する可能性があることから、少なくとも5g/L以下、好ましくは1g/L以下、さらに好ましくは0.5g/L以下、最も好ましくは0.1g/L以下である。炭素源の枯渇をモニターする方法に特に限定はなく、一例として呼吸活性の低下によりモニターできる。呼吸活性の低下は、例えば培養液の溶存酸素濃度(Dissolved oxygen、以下、DO)の上昇、排ガス中の酸素濃度の上昇、炭酸ガス濃度の低下、pHの上昇として現れる。特に、DOは炭素源が枯渇すると微生物の呼吸活性が低下し急激に上昇することから、応答が速い点で、炭素源の枯渇をモニターするのに好ましい指標である。
【0037】
本発明における、遺伝子組換え大腸菌の培養条件は、大腸菌が増殖し、かつAAV結合性タンパク質を発現し得るものであれば特に限定は無いが、培養温度は15℃以上50℃以下が好ましく、特に好ましい温度は20℃以上33℃以下である。pHは6以上8以下が好ましい。培養時間は任意に設定できるが、通常は数時間以上100時間以下に設定される。
【0038】
遺伝子組換え大腸菌が、誘導性のプロモーターおよびAAV結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド(AAV結合性タンパク質遺伝子)を挿入した発現ベクターを含んでいる場合、本発明における培養工程に、前記大腸菌の菌体濃度が一定濃度に達した時点で誘導剤を添加する工程をさらに含ませると、前記大腸菌当たりのAAV結合性タンパク質発現量が向上するため、好ましい。本発明において、誘導剤とは、発現ベクターに挿入された遺伝子の発現を誘導する遺伝子発現誘導剤を指す。このような誘導剤として、例えばイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)が挙げられる。特に、誘導剤を添加するときの菌体濃度が600nmの吸光度(OD600)で70以上120以下、および/または前記誘導剤が終濃度で0.04mmol/L以上4mmol/L以下(好ましくは終濃度で0.08mmol/L以上0.4mmol/L以下)のイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)とすると、前記大腸菌当たりのAAV結合性タンパク質発現量が特に向上するため、さらに好ましい。
【0039】
前述した方法で発現したAAV結合性タンパク質を回収するには、遺伝子組換え大腸菌における前記タンパク質の発現形態に適した方法で、当該培養物から分離/精製して前記タンパク質を回収すればよい。例えば、培養上清に発現する場合は菌体を遠心分離操作によって分離し、得られる培養上清からAAV結合性タンパク質を精製すればよい。また、細胞内(ペリプラズムを含む)に発現する場合には、遠心分離操作により菌体を集めた後、酵素処理剤や界面活性剤等を添加することで菌体を破砕し、AAV結合性タンパク質を抽出後、精製すればよい。
【0040】
回収したAAV結合性タンパク質を精製するには、当該技術分野において公知の方法を用いればよく、一例として液体クロマトグラフィーを用いた分離/精製があげられる。液体クロマトグラフィーには、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等があり、これらのクロマトグラフィーを組み合わせて精製操作を行なうことにより、前記タンパク質を高純度に調製できる。
【実施例0041】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものでは無い。
【0042】
比較例1 遺伝子組換え大腸菌からのAAV結合性タンパク質製造(その1、通常培地)
(1)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるAAV結合性タンパク質AVR10sをコードするポリヌクレオチド(配列番号3)および誘導性のプロモーターを挿入した発現ベクターで大腸菌W3110株を形質転換し得られた、AAV結合性タンパク質を発現可能な遺伝子組換え大腸菌を、2×YT培地(トリプトン:16g/L、酵母エキス(CAS番号:8013-01-2):10g/L、NaCl:5g/L、カナマイシン硫酸塩:50mg/L)に植菌し、30℃で16時間、前培養を行なった。なおAVR10s(配列番号2)は、KIAA0319L(UniProtアクセッション番号:Q8IZA0、配列番号1)の細胞外ドメイン1および2(PKD1およびPKD2)に相当する、312番目のセリン(Ser)から500番目のアスパラギン酸(Asp)までのアミノ酸残基(以下、野生型AAV結合性タンパク質とも表記)において、以下の(i)から(x)に示すアミノ酸置換が生じたポリペプチドであり、野生型AAV結合性タンパク質と比較し、アルカリへの安定性が向上したAAV結合性タンパク質である(WO2021/106882号)。
(i)配列番号1の317番目(配列番号2では6番目)のバリンがアスパラギン酸に置換
(ii)配列番号1の342番目(配列番号2では31番目)のチロシンがセリンに置換
(iii)配列番号1の362番目(配列番号2では51番目)のリジンがグルタミン酸に置換
(iv)配列番号1の371番目(配列番号2では60番目)のリジンがアスパラギンに置換
(v)配列番号1の381番目(配列番号2では70番目)のバリンがアラニンに置換
(vi)配列番号1の382番目(配列番号2では71番目)のイソロイシンがバリンに置換
(vii)配列番号1の390番目(配列番号2では79番目)のグリシンがセリンに置換
(viii)配列番号1の399番目(配列番号2では88番目)のリジンがグルタミン酸に置換
(ix)配列番号1の476番目(配列番号2では165番目)のセリンがアルギニンに置換
(x)配列番号1の487番目(配列番号2では176番目)のアスパラギンがアスパラギン酸に置換
(2)表1に示す組成からなる通常培地1.2Lを調製後、(1)の前培養液36mLを添加して、本培養を行なった。培養装置はエイブル社製BMS-03PIを使用し、撹拌速度400から700rpm、空気の通気量1.5L/分、培養温度30℃、pH6.8から7.2とした。なお培養中におけるpHの変動は、14%(w/v)アンモニア水または50%(w/v)リン酸の添加により前記範囲に制御した。
【0043】
【表1】
(3)BMS-03PIに付属のDO(溶存酸素濃度)電極により測定したDOが40%飽和を超えた時点で流加ポンプを起動し、DOが再び40%飽和以下となるまで表2に示す組成からなる流加培地を供給する操作を、培養終了まで継続した。
【0044】
【表2】
(4)培養開始19時間後から21時間後の時点で、培養温度を25℃、撹拌速度を600rpmに変更し、イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加することで、AAV結合性タンパク質の発現誘導をかけた。なお培養開始19時間後から21時間後の時点で、培養液の600nmの吸光度(OD600)は70以上120以下の範囲内にあり、添加したIPTGは終濃度で0.10mmol/Lである。
(5)培養開始から48時間後、培養を終了し、培地の遠心分離により、培養湿菌体を回収した。
(6)得られた湿菌体を、市販の抽出試薬(BugBuster、メルク社製)を用いて、試薬に添付の標準プロトコルに従い抽出し、遠心分離操作により上清(無細胞抽出液)を得た。
(7)得られた無細胞抽出液を、濃度既知のAAV結合性タンパク質標準品と並べて、SDS-PAGE(ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミド電気泳動)に供した。
(8)画像解析ソフト(ImageQuant TL 10.0、Cytiva社製)を用いてAAV結合性タンパク質に相当するバンドの濃度を定量し、前記標準品における前記バンド濃度との比較から、無細胞抽出液中に含まれるAAV結合性タンパク質を定量し、培養液当たりの生産量を算出した。
【0045】
実施例1 遺伝子組換え大腸菌からのAAV結合性タンパク質生産(その1、ナトリウム低減培地A)
比較例1(2)の本培養で用いる培地を表1に記載の組成からなるナトリウム低減培地Aに変更した他は比較例1と同様な方法でAAV結合性タンパク質を生産した。
比較例1および実施例1における培養およびAAV結合性タンパク質生産の結果を表3に示す。遺伝子組換え大腸菌をナトリウム低減培地Aで培養(実施例1)すると、通常培地で培養(比較例1)したときと比較し、培養液当たりのAAV結合性タンパク質生産量が向上した(実施例1:8.8g/L(培養液)、比較例1:3.8g/L(培養液))。
【0046】
【表3】
【0047】
表1に示す組成からなる通常培地(比較例1)またはナトリウム低減培地A(実施例1)に含まれる無機元素濃度、表2に示す組成からなる流加培地に含まれる無機元素濃度、およびあらかじめICP発光分光分析装置(装置名:Vista-PRO[セイコーインスツルメンツ])で測定した酵母エキスに含まれる無機元素濃度(表4)から計算した、比較例1および実施例1における培養終了時の培地に含まれる無機元素濃度を表5に示す。実施例1における培養終了時の培地に含まれるナトリウム濃度が、比較例1における培養終了時の培地に含まれるナトリウム濃度の約15分の1(実施例1:152mg/L(培地)、比較例1:2318mg/L(培地))である一方、他の無機元素濃度はほぼ同等であった。
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
【0050】
比較例2 遺伝子組換え大腸菌からのAAV結合性タンパク質製造(その2、通常培地)
発現ベクターに挿入するAAV結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを、配列番号4に記載のアミノ酸配列からなるAAV結合性タンパク質AVR11aをコードするポリヌクレオチド(配列番号5)に変更した他は、比較例1と同様な方法でAAV結合性タンパク質を生産した。なおAVR11a(配列番号4)は、AVR10s(配列番号2)のアミノ酸残基において、さらに以下の(xi)に示すアミノ酸置換が生じたポリペプチドであり、野生型AAV結合性タンパク質やAVR10sと比較し、アルカリへの安定性が向上したAAV結合性タンパク質である。
(xi)配列番号1の330番目(配列番号2では19番目)のアラニンがバリンに置換
【0051】
実施例2 遺伝子組換え大腸菌からのAAV結合性タンパク質生産(その2、ナトリウム低減培地B)
発現ベクターに挿入するAAV結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを、前述したAAV結合性タンパク質AVR11a(配列番号4)をコードするポリヌクレオチド(配列番号5)に変更し、比較例1(2)の本培養で用いる培地を表1に記載の組成からなるナトリウム低減培地Bに変更した他は、比較例1と同様な方法でAAV結合性タンパク質を生産した。
【0052】
比較例2および実施例2における培養およびAAV結合性タンパク質生産の結果を表6に示す。遺伝子組換え大腸菌をナトリウム低減培地Bで培養(実施例2)すると、通常培地で培養(比較例2)したときと比較し、培養液当たりのAAV結合性タンパク質生産量が向上した(実施例2:6.9g/L(培養液)、比較例2:3.2g/L(培養液))。
【0053】
【表6】
【0054】
表1に示す組成からなる通常培地(比較例2)またはナトリウム低減培地B(実施例2)に含まれる無機元素濃度、表2に示す組成からなる流加培地に含まれる無機元素濃度、および表4に示す酵母エキスに含まれる無機元素濃度から計算した、比較例2および実施例2における培養終了時の培地に含まれる無機元素濃度を表7に示す。実施例2における培養終了時の培地に含まれるナトリウム濃度が、比較例2における培養終了時の培地に含まれるナトリウム濃度の約90分の1(実施例1:27mg/L(培地)、比較例2:2427mg/L(培地))である一方、他の無機元素濃度はほぼ同等であった。
【0055】
【表7】
【0056】
比較例1および2ならびに実施例1および2の結果から、AAV結合性タンパク質を発現可能な遺伝子組換え大腸菌を用いて前記タンパク質を製造する際、前記組換え大腸菌の培養に用いる培地へのナトリウム添加濃度(すなわち、前記培地に含まれるナトリウム濃度)を10mg/L(培地)以上2000mg/L(培地)以下に低減させることで、前記組換え大腸菌からのAAV結合性タンパク質の生産性が向上することがわかる。
【配列表】
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