(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159846
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】還元炉、還元処理ユニット、還元処理方法、及び、ニッケル酸化鉱石の製錬方法
(51)【国際特許分類】
C22B 5/02 20060101AFI20231025BHJP
C22B 23/02 20060101ALI20231025BHJP
C22C 33/04 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
C22B5/02
C22B23/02
C22C33/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162079
(22)【出願日】2022-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2022069646
(32)【優先日】2022-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】丹 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】山内 逸平
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001AA19
4K001BA02
4K001CA26
4K001DA05
4K001GA19
4K001HA01
(57)【要約】
【課題】熱処理部と処理対象物貯留部が接続されてなる箱型の還元炉において、還元処理の進行中に、熱処理部内部の温度低下を抑制しながら、処理対象物の出し入れを効率良く行うこと。
【解決手段】処理対象物を加熱して還元処理を行う箱型の熱処理部11と、熱処理部11の側面に、ダンパー111を介して接続されている、箱型の処理対象物貯留部21と、を備え、ダンパー111は、複数の板状のダンパー部材112の組合せによって開閉可能に構成されていて、閉鎖時に処理対象物投入用柄杓3の柄31の部分を挿通させることができる貫通孔113が形成されている、還元炉1とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象物を加熱して還元処理を行う箱型の熱処理部と、
前記熱処理部の側面に、ダンパーを介して接続されている、箱型の処理対象物貯留部と、
を備え、
前記ダンパーは、複数の板状のダンパー部材の組合せによって開閉可能に構成されていて、閉鎖時に処理対象物投入用柄杓の柄の部分を挿通させることができる貫通孔が形成される、
還元炉。
【請求項2】
前記ダンパーは、前記熱処理部と前記処理対象物貯留部とを結ぶ開口面を二つの領域に分割したときに、一方の前記領域を閉鎖する第1のダンパー部材と、他方の前記領域を閉鎖する第2のダンパー部材と、からなり、前記ダンパーの閉鎖時において、処理対象物の挿入方向に沿って見た場合に、前記第1のダンパー部材と前記第2のダンパー部材のそれぞれの先端近傍領域が重なることとなるように、前記第1のダンパー部材と、前記第2のダンパー部材とが配置されている、
請求項1に記載の還元炉。
【請求項3】
前記ダンパーが、アルミナファイバーからなる板材の表面に不定形耐火物用の接着剤がコートされてなる断熱ボードである、
請求項1又は2に記載の還元炉。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の還元炉と、処理対象物投入用柄杓と、からなる還元処理ユニットであって、
前記貫通孔の形状及び大きさが、前記処理対象物投入用柄杓の柄の部分を挿通させることができて、尚且つ、隙間なく契合させることができる形状及び大きさである、
還元処理ユニット。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の還元炉を用いて還元処理を行う還元処理方法であって、
原料鉱石及び還元剤を前記処理対象物として、処理対象物投入用柄杓の先端の処理対象物載置部に載置した状態で前記熱処理部に挿入した後に、前記貫通孔に前記処理対象物投入用柄杓の柄の部分が挿通されている状態で前記ダンパーを閉鎖して、前記処理対象物を、前記処理対象物載置部に載置された状態のままで加熱する、
還元処理方法。
【請求項6】
請求項5に記載の還元処理方法によって、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と前記還元剤とを含む混合物を前記処理対象物載置部に載置された状態のままで加熱して還元することによって、フェロニッケルを製造する、
ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元炉、還元処理ユニット、還元処理方法、及び、ニッケル酸化鉱石の製錬方法に関する。本発明は、詳しくは、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤との混合物を還元することによりフェロニッケルを製造するニッケル酸化鉱石の製錬方法の実施に好適な還元炉及び還元処理方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄とニッケルを主成分とする合金であり、ステンレス鋼及び特殊鋼の原料として用いられているフェロニッケルを製造するニッケル酸化鉱石の製錬においては、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合し、その混合物を加熱処理して還元する還元処理が行われる(特許文献1参照)。
【0003】
上記の還元処理を行う加熱炉の一つとして、
図1及び
図2に示すような箱型の還元炉(還元炉1)を用いることができる。この還元炉1においては、箱型の熱処理部11の側面に、箱型の処理対象物貯留部21が接続されており、熱処理部11と処理対象物貯留部21の間には、熱や炉内ガスの出入りを遮断するためのダンパー(扉)111が設けられている。
【0004】
例えば、原料鉱石と還元剤との混合物を還元処理するために、
図3に示すような柄杓(処理対象物投入用柄杓3)を用いて、上記の混合物を処理対象物貯留部21から熱処理部11に移動させる場合がある。還元処理の進行中は、熱処理部11内の温度低下を防ぐ必要があるが、仮に、ダンパー111を開放して原料鉱石や還元剤等の処理対象物を載置した処理対象物投入用柄杓3を熱処理部11の内部に移動させた後、処理対象物投入用柄杓3を熱処理部11の内部に保持したまま、尚且つ、熱処理部11内の温度低下を防ぎながら、還元処理を行うことができれば、必要に応じて、還元処理の途中での上記の処理対象物の出し入れや還元剤の追加が効率良く行えるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、熱処理部と処理対象物貯留部が接続されてなる箱型の還元炉において、還元処理の進行中に、熱処理部内部の温度低下を抑制しながら、処理対象物の出し入れを効率良く行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、閉鎖時に処理対象物投入用柄杓の柄の部分を挿通させることができる貫通孔が形成されるダンパーを、熱処理部と処理対象物貯留部との間に設置することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
(1) 処理対象物を加熱して還元処理を行う箱型の熱処理部と、前記熱処理部の側面に、ダンパーを介して接続されている、箱型の処理対象物貯留部と、を備え、前記ダンパーは、複数の板状のダンパー部材の組合せによって開閉可能に構成されていて、閉鎖時に処理対象物投入用柄杓の柄の部分を挿通させることができる貫通孔が形成される、還元炉。
【0009】
(1)の還元炉によれば、熱処理部と処理対象物貯留部が接続されてなる箱型の還元炉において、還元処理の進行中に、熱処理部内部の温度低下を抑制しながら、処理対象物の出し入れを効率良く行うことができる。又、これにより、処理対象物の出し入れ時に伴う炉内の温度低下を補填する為の燃料ガスの消費を節約することができる。
【0010】
(2) 前記ダンパーは、前記熱処理部と前記処理対象物貯留部とを結ぶ開口面を二つの領域に分割したときに、一方の前記領域を閉鎖する第1のダンパー部材と、他方の前記領域を閉鎖する第2のダンパー部材と、からなり、前記ダンパーの閉鎖時において、処理対象物の挿入方向に沿って見た場合に、前記第1のダンパー部材と前記第2のダンパー部材のそれぞれの先端近傍領域が重なることとなるように、前記第1のダンパー部材と、前記第2のダンパー部材とが配置されている、(1)に記載の還元炉。
【0011】
(2)の還元炉によれば、(1)に記載の還元炉におけるダンパー閉鎖時において、ダンパーに形成される貫通孔の内縁を、貫通孔に挿通される処理対象物投入用柄杓の柄の外縁に適度な強度で押し付けながら隙間なく契合させることが可能であり、熱処理部の内部の温度低下の抑制効果を更に高めることができる。
【0012】
(3) 前記ダンパーが、アルミナファイバーからなる板材の表面に不定形耐火物用の接着剤がコートされてなる断熱ボードである、(1)又は(2)に記載の還元炉。
【0013】
(3)の還元炉によれば、ダンパー各部の寸法減少を長期間にわたって抑制して、(1)又は(2)に記載の還元炉の耐久性を著しく向上させることができる。
【0014】
(4) (1)又は(2)に記載の還元炉と、処理対象物投入用柄杓と、からなる還元処理ユニットであって、前記貫通孔の形状及び大きさが、前記処理対象物投入用柄杓の柄の部分を挿通させることができて、尚且つ、隙間なく契合させることができる形状及び大きさである、還元処理ユニット。
【0015】
(4)の還元処理ユニットによれば、(1)又は(2)に記載の還元炉におけるダンパー閉鎖時において、貫通孔の内縁の形状及びサイズを、貫通孔に挿通される処理対象物投入用柄杓の柄の外縁の形状及びサイズに正確に適合させ、これらを一体的なユニットとして構成することにより、ダンパー閉鎖時における貫通孔周囲に生じる隙間を最小化して、熱処理部の内部の温度低下の抑制効果を更に高めることができる。
【0016】
(5) (1)又は(2)に記載の還元炉を用いて還元処理を行う還元処理方法であって、原料鉱石及び還元剤を前記処理対象物として、処理対象物投入用柄杓の先端の処理対象物載置部に載置した状態で前記熱処理部に挿入した後に、前記貫通孔に前記処理対象物投入用柄杓の柄の部分が挿通されている状態で前記ダンパーを閉鎖して、前記処理対象物を、前記処理対象物載置部に載置された状態のままで加熱する、還元処理方法。
【0017】
(5)の還元処理方法によれば、(1)又は(2)に記載の還元炉を用いることによって、還元処理の進行中に、熱処理部内部の温度低下を抑制しながら、処理対象物の出し入れを効率良く行うことができる。これにより、処理対象物の出し入れ時に伴う炉内の温度低下を補填する為の燃料ガスの消費を節約することができる。
【0018】
(6) (5)に記載の還元処理方法によって、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と前記還元剤とを含む混合物を前記処理対象物載置部に載置された状態のままで加熱して還元することによって、フェロニッケルを製造する、ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【0019】
(6)のニッケル酸化鉱石の製錬方法によれば、(4)に記載の還元処理方法をニッケル酸化鉱石の製錬に適用することによって、フェロニッケルの生産性及び品質の安定性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、熱処理部と処理対象物貯留部が接続されてなる箱型の還元炉において、還元処理の進行中に、熱処理部内部の温度低下を抑制しながら、処理対象物の出し入れを効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の還元炉の本体部となる熱処理部の構成の説明に供する図面である。
【
図2】本発明の還元炉の熱処理部に接続された処理対象物貯留部の構成の説明に供する図面である。
【
図3】処理対象物投入用柄杓の構成の一例を示す図面である。
【
図4A】本発明の還元炉のダンパーの構成(開放状態)の説明に供する図面である。
【
図4B】本発明の還元炉のダンパーの構成(閉鎖状態)の説明に供する図面である。
【
図5A】本発明の還元炉の他の実施形態におけるダンパーの構成(開放状態)の説明に供する図面である。
【
図5B】本発明の還元炉の他の実施形態におけるダンパーの構成(閉鎖状態)の説明に供する図面である。
【
図6】ダンパーの閉鎖時において処理対象物投入用柄杓の柄が貫通孔に挿通されている状態の説明に供する図面である。
【
図7】ニッケル酸化鉱石の製錬方法の流れを示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下においては、本発明の還元炉、還元処理ユニット、及び、還元処理方法を、ニッケル酸化鉱石の製錬方法に適用する場合の実施形態について、その詳細を説明する。但し、本発明の適用対象は、ニッケル酸化鉱石の製錬方法に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において適宜変更を加えながら、原料鉱石の還元処理を含んでなる様々な金属製錬プロセスに用いることができる。
【0023】
又、近年は、ニッケル品位が高く不純物が少ない鉱石は少なくなりつつあり、上記のニッケル酸化鉱石の製錬において高品質のフェロニッケルを製造するためには様々な鉱石を効率良く処理してデータを蓄積することが求められている。本発明の還元炉は、このようなデータを取得するための試験操業を行うための試験炉としても好ましく用いることができる。試験炉としての実施態様の詳細については別途後述する。
【0024】
以下、先ずは、本発明の還元炉、還元処理ユニット、及び、還元処理方法の好適な適用対象であり、本発明の実施態様の一つでもある、ニッケル酸化鉱石の製錬方法の概要について説明し、その後に、本発明の還元炉、還元処理ユニット、及び、還元処理方法について詳細に説明する。
【0025】
<ニッケル酸化鉱石の製錬方法>
本発明の好適な適用対象プロセスであるニッケル酸化鉱石の製錬は、一例として
図7に示すように、ニッケル酸化鉱石を含む原料と炭素質還元剤と混合する混合処理工程S1、得られた混合物を所定の形状に成形する混合物成形工程S2、成形された混合物(或いは、原料鉱石及び還元剤)を還元炉にて所定の還元温度で還元加熱する還元工程S3、及び、還元工程S3にて生成したメタルとスラグとを分離してメタルを回収する回収工程S4、が順次行われるプロセスである。
【0026】
本発明の「ニッケル酸化鉱石の製錬方法」は、上記各工程のうち、少なくとも、還元工程S3を本発明の還元炉、還元処理ユニット、又は、還元処理方法によって実施することを特徴とする新規な製錬プロセスである。尚、以下においては、上記の4つの工程(S1~S4)について説明するが、本発明の「ニッケル酸化鉱石の製錬方法」においては、上記の混合処理工程S1及び混合物成形工程S2は、必ずしも必須の工程ではない。このような処理を行わずに原料鉱石及び還元剤を還元炉に投入する実施態様としても、本発明の「ニッケル酸化鉱石の製錬方法」を実施することは可能であり、そのような実施態様も本発明の技術的範囲である。
【0027】
[混合処理工程]
混合処理工程S1は、ニッケル酸化鉱石を含む原料粉末を混合して混合物を得る工程である。原料鉱石であるニッケル酸化鉱石としては、リモナイト鉱、サプロライト鉱等を用いることができる。尚、炭素質還元剤としては、石炭粉、コークス粉等を用いることができる。
【0028】
[混合物成形工程]
混合物成形工程S2は、混合処理工程S1で得られた混合物を成形する工程である。具体的には、原料粉末を混合して得られた混合物を、所定の大きさ以上の塊に成形し、次の還元工程S3での還元処理に際して、還元炉内に混合物を例えば積層して投入できるようにする。
【0029】
[還元工程]
還元工程S3は、混合物成形工程S2で得られた混合物(成形物)を、還元炉内において加熱することによって還元反応を進行させて、ニッケル酸化鉱石からメタルとスラグとを生成させる工程である。還元処理の温度(還元温度)としては、1200℃以上1500℃以下とすることが好ましく、1250℃以上1450℃以下とすることがより好ましい。このような範囲の還元温度とすることで、効率的に且つ確実に還元反応を進行させて、所望とする特性のフェロニッケルを得ることができる。尚、この還元工程S3の実施に好適な本発明の還元処理方法の詳細については追って後述する。
【0030】
[回収工程]
回収工程S4は、還元工程S3にて生成したメタルとスラグとを分離してメタルを回収する工程である。具体的には、容器に充填させた状態の混合物に対する還元加熱処理によって得られた、メタル相(メタル固相)とスラグ相(スラグ固相)とを含む混合物(混在物)からメタル相、即ち、フェロニッケルを分離して回収する。固体として得られたメタル相とスラグ相との混在物からメタル相とスラグ相とを分離する方法としては、例えば、篩い分けによる不要物の除去に加えて、比重による分離や、磁力による分離等の方法を利用することができる。
【0031】
<還元炉、還元処理ユニット>
図1及び
図2示す還元炉1は、本発明の還元炉の好ましい実施形態の一例である。還元炉1は、処理対象物を加熱して還元処理を行う箱型の熱処理部11と、熱処理部11の側面の開口部分に、ダンパー111を介して接続されている処理対象物貯留部21と、を備える、箱型の加熱炉である。
【0032】
そして、還元炉1は、ダンパー111に、処理対象物投入用柄杓3(「
図3参照」)の柄31の部分を挿通させ、尚且つ、隙間なく契合させることができる貫通孔113が形成されていることを、主たる特徴とする。
【0033】
又、本明細書においては、本発明の還元炉1と、還元炉1に形成されている貫通孔113に隙間なく契合する形状の柄31を有する処理対象物投入用柄杓3との組合せからなる還元処理用の技術的手段のことを、「還元処理ユニット」と称する。
【0034】
[還元炉]
図1及び
図2に示すように、還元炉1の熱処理部11には、熱処理部11の内部と外部とを仕切る開閉可能な扉であるダンパー111が設けられている。又、
図2に示すように、熱処理部11の外部には、ダンパー111を介して、処理対象物貯留部21が接続されている。又、熱処理部11の内部には、公知の各種の加熱炉と同様に、加熱用のバーナー12、及び、排気口14が設けられている。又、熱処理部11の内部には、その床面におけるダンパー111の設置位置に隣接する位置に、基台13が設けられていることが好ましい。基台13は、本発明における必須の構成ではないが、原料鉱石と還元剤との混合物等の処理対象物を載置した処理対象物載置部32を安定的に支持するための台である。
【0035】
図4A、4Bに示す通り、ダンパー111は、複数の板状のダンパー部材112A、112Bの組合せによって構成されている開閉可能な扉状の仕切り部材である。ダンパー111には、
図4Aに示す閉鎖時の状態において、処理対象物投入用柄杓3(
図3)の柄31の部分を挿通させ、尚且つ、隙間なく契合させることができる貫通孔113が形成される。尚、この貫通孔113の内径は、処理対象物投入用柄杓3の柄31の太さに対する上記の要件を満たす大きさであるとともに、貫通孔113を通じた熱の出入りを最小限に止めるために、熱処理部11と処理対象物貯留部21とを結ぶ開口面の面積に対する貫通孔の面積の比率を、0.05以下とすることが好ましく、0.03以下とすることがより好ましい。一例として、上記開口面が100mm×130mmの矩形状の開口面である場合であれば、貫通孔113の内径は、28mm以下であることが好ましく、22mm以下であることがより好ましい。
【0036】
還元炉1においては、処理対象物貯留部21から熱処理部11への処理対象物の装入、及び、熱処理部11から処理対象物貯留部21への取り出しは、
図4Bに示すようにダンパー111を開放させた状態で、処理対象物を載置した処理対象物投入用柄杓3を、ダンパー111を通じて熱処理部11に速やかに出し入れすることによって行われる。
【0037】
そして、還元炉1における処理対象物の還元処理は、
図4Aに示すようにダンパー111を閉鎖させた状態で行う。この還元処理は、より具体的には、
図6に示すように、熱処理部11の内部に処理対象物投入用柄杓3の処理対象物載置部32を挿入したまま、ダンパー111を閉鎖し、その状態で処理対象物載置部32の載置面321に載置されている処理対象物を加熱することによって行う。この際、ダンパー111は、
図6に示すように、処理対象物投入用柄杓3の柄31をダンパー111の貫通孔113に挿通させて尚且つ隙間なく契合させた状態で閉鎖するようにする。
【0038】
一例として、ダンパー111は、
図4A及び
図4Bに示すように、それぞれの先端近傍領域にダンパー111の閉止時に貫通孔113を形成することができるように半円形の貫通孔形成用の切り欠き部113A、113B(
図4B参照)が形成されているダンパー部材112A、112Bによって構成することができる。
【0039】
又、他の一例として、ダンパー111は、
図5A及び
図5Bに示すように、熱処理部11と処理対象物貯留部21とを結ぶ開口面を二つの領域に分割したときに、一方の領域を閉鎖する第1のダンパー部材112Cと、他方の領域を閉鎖する第2のダンパー部材112Dで構成し、ダンパー111の閉鎖時において、処理対象物の挿入方向に沿って見た場合に、第1のダンパー部材112Cと第2のダンパー部材Dのそれぞれの先端近傍領域が重なることとなるように、両ダンパーを配置することもできる。この場合、第1のダンパー部材112C及び第2のダンパー部材112Dは、
図5Bに示すように先端が半円形状とされているスリット状の貫通孔形成用の切り欠き部113C、113D(
図5B参照)が形成されているものする。尚、上述の先端近傍領域同士の重なり幅は、特に限定されるものではないが、20mm程度以上とすることが好ましい。この重なり幅をこのように適度に大きくすることにより、先端近傍領域間の隙間からの輻射熱の出入りをより確実に防ぐことができるようになる。
【0040】
ここで、本発明の還元炉及び還元処理ユニットの代表的な使用対象プロセスとして想定されるニッケル酸化鉱石の製錬においては、上述した通り、還元炉の炉内温度は、最大1500℃程度に達するため、ダンパー部材112の耐熱温度を1500℃以上とすることが好ましい。又、このような高温での還元処理の実施時には、熱処理部11の内外における温度差が極めて大きくなるので、ダンパー111を構成する各々のダンパー部材112の材料としては、このような過酷な温度環境下でも十分な耐久性を有するものとすることが好ましい。以上より、ダンパー部材112の材料としては、上記各条件を満たす各種の板状の断熱ボードを適宜用いることができる。
【0041】
但し、ダンパー部材112の材料として、炭化ケイ素(SiC)製のダンパー、或いは、その他の各種のセラミックス製のダンパーを選択した場合には、使用中にダンパー111が割れてしまうリスクがある。ダンパー111が割れてしまうと、熱処理部11と処理対象物貯留部21との間の熱遮断ができなくなるので、処理対象物貯留部21内における冷却が困難となり、還元物の酸化が起こりやすくなる。又、割れたダンパーを回収することが困難になり、更に、処理対象物投入用柄杓3を介した処理対象物貯留部21から熱処理部11への処理対象物の装入、及び、熱処理部11から処理対象物貯留部21への取り出しが困難となる等、様々な不都合が生じる。一方、ダンパー部材112の材料として、金属製ダンパーを選択した場合には、耐熱性金属を用いたとしても、熔融、軟化、或いは、酸化によって早々に使用に支障をきたす程度にまで劣化してしまうリスクがある。
【0042】
そこで、ダンパー111を構成する各々のダンパー部材112の材料としては、上述の各リスクが小さい材料として、アルミナファイバー製の断熱ボードであって、密度が250kg/m3以上の断熱ボードを、特に好ましく用いることができる。ダンパー部材の材料として、このような断熱ボードを採用することにより、適切な貫通孔を形成するための加工が容易に行えるようになる。又、上記の断熱ボードの採用により、ダンパー111全体の重量も軽量化されて開閉が容易になる。
【0043】
又、ダンパー111を構成する各々のダンパー部材112の材料としては、各種の断熱ボードの表面にコーティングを施すことも有効である。例えば、リフラクトリーセラミックファイバー(RCF)同士の接着に用いられ、バルクと結合剤を混錬した不定形耐火物用の接着剤である、コーティングセメント(イソライト工業製)、MBセメント(イソライト工業製)或いは、17Dセメント(イソライト工業製)等を、上記のコーティングを行うコート剤として好ましく使用することができる。これらは、一般的には、各種の断熱ボード等、不定形耐火物用の接着剤として用いられているものではあるが、コート性に優れるうえ、ダンパーの強度を向上することでダンパー各部の寸法減少を長期間抑制することが可能である。従って、ダンパー111を構成する各々のダンパー部材112の極めて好ましい材料として、アルミナファイバーからなる板材の表面に上述した各種の不定形耐火物用の接着剤がコートされてなる断熱ボードを挙げることができる。
【0044】
処理対象物貯留部21は、ダンパー111を介して、熱処理部11と接続されている。尚、処理対象物貯留部21には、ダンパー111と対向する位置に、「処理対象物」を出し入れするための装入/取出口212が設けられている。装入/取出口212は、蓋体であり、開閉可能な扉状の構造を有している。又、装入/取出口212は、極力空気が入らないように、二重構造の扉(二重扉)とすることが好ましい。処理対象物貯留部21に「処理対象物」を装入する際には、装入/取出口212を開放して行い、熱処理部11での還元処理時、処理対象物貯留部21での還元剤供給時、及び処理対象物貯留部21での冷却時には、装入/取出口212を閉めた状態で各操作を実行する。
【0045】
尚、処理対象物貯留部21は、雰囲気ガスを置換できる構造を有していることが好ましい。置換するガスとしては、不活性ガスであることが好ましい。不活性ガスを流して雰囲気を置換することで、還元済みの処理対象物を処理対象物貯留部21にて冷却する際に、流通させた不活性ガスが冷却用ガスとして作用して冷却を促進することができる。処理対象物貯留部21の内部の雰囲気ガスが不活性ガスであることにより、還元済みの処理対象物の酸化を抑制することもできる。尚、上記の不活性ガスとしては、比較的安価で、安定的に入手できる点から、窒素、アルゴン等を用いることができる。又、二酸化炭素も不活性ガスとして用いることができる。又、処理対象物貯留部21の内供に不活性ガスを流通させることによって、貫通孔113を通じた熱の対流によって起る処理対象物貯留部21の内部の温度上昇も抑制することができる。
【0046】
又、処理対象物貯留部21の熱処理部11側の開口部には、ダンパー111とは別途に、上述のような貫通孔113が形成されることなく当該開口部の全体を閉鎖することが可能な「補助ダンパー(図示せず)」を更に併設しておくこともできる。還元炉1においてこの「補助ダンパー」を設置した場合には、熱処理部11の内部に処理対象物投入用柄杓3の処理対象物載置部32が挿入されている状態においては、「補助ダンパー」を開放しておき、熱処理部11の外部に処理対象物投入用柄杓3が取り出されている状態においては、「補助ダンパー」を閉鎖すればよい。これにより、還元処理の進行中に、熱処理部内部の温度低下を抑制しながら、処理対象物の出し入れを効率良く行うことができるという本願発明の基本的な作用・効果を享受しながら、尚且つ、熱処理部11の外部に処理対象物投入用柄杓3が取り出されている状態である場合を含めて、処理対象物貯留部の内部の処理対象物貯留部21の内部の温度上昇を更に抑制することができる。
【0047】
[還元処理ユニット]
本発明の還元処理ユニットとは、一例として、
図1及び
図2に示す本発明に係る還元炉1と、
図3に示す処理対象物投入用柄杓3との組合せからなる還元処理の実施を目的とする技術的手段である。この還元処理ユニットにおいては、還元炉1のダンパー111に形成されている貫通孔113の内縁の形状及び大きさが、処理対象物投入用柄杓3の柄31の部分の中心軸に直交する断面(即ち軸の外縁)の形状及び大きさに等しくなるように、両者の形状及び大きさがそれぞれ最適化されている。これにより、還元処理ユニットにおいては、
図6に示すように、処理対象物投入用柄杓3の柄31の部分を、ダンパー111の閉鎖時において、貫通孔113に挿通させることができて、尚且つ、その状態において、貫通孔113と処理対象物投入用柄杓3の柄31の部分を隙間なく契合させることができるので、還元処理の進行中に、熱処理部内部の温度低下を抑制しながら、処理対象物の出し入れを、効率良く行うことができる。
【0048】
(処理対象物投入用柄杓)
図3は、本発明の還元処理ユニットを構成する処理対象物投入用柄杓3の構成を示す図面である。処理対象物投入用柄杓3は、柄31と、柄31の先端に連結された処理対象物載置部32とを備えている。柄31は、作業者がその手により、或いは、機械により把持する部分であり、棒状体により構成されている。処理対象物載置部32は、柄31の先端に連結されており、その上面(載置面321)に処理対象物が載置される。尚、
図3では、処理対象物載置部32が直方体状である実施形態の一例を示しているが、処理対象物載置部の形状は、これに限られず、載置面が凹部を構成し、四方に壁面が立設され、上面が開口した容器のような物で構成されていてもよい。処理対象物投入用柄杓3の材料は、使用条件に応じた一定以上の耐熱性を有する各種のセラミックとすることができるが、アルミナ質のセラミック、或いは、マグネシア質のセラミックとすることが特に好ましい。
【0049】
<還元処理方法>
本発明の「還元処理方法」(以下、単に「還元処理方法」とも言う)は、還元炉1、或いは、それを含んで構成される上述の「還元処理ユニット」を用いて、処理対象物の還元処理を行う方法である。以下、この「還元処理方法」の具体的な手順の一例を説明する。
【0050】
「還元処理方法」においては、先ず、処理対象物貯留部21の装入/取出口212を開けて処理対象物貯留部21の内部に装入し、更に、ダンパー111を開放して、処理対象物貯留部21に接続されている熱処理部11の内部へと装入し、基台13に載置する。
【0051】
このとき、熱処理部11内に入れた処理対象物投入用柄杓3を、基台13の中央部付近まで移動させた後、処理対象物投入用柄杓3それ自体を基台13の上に置き、その状態のまま(原料鉱石や還元剤等の処理対象物(以下、単に「処理対象物」とも言う)を、収容した処理対象物投入用柄杓3を載置させた状態のまま)還元処理を開始する。即ち、還元処理に際して、処理対象物投入用柄杓3を熱処理部11内に残したまま加熱を開始する。このような方法によれば、処理対象を処理対象物投入用柄杓3に載置し、その後は、処理対象物投入用柄杓3を、処理対象物貯留部21を経由して熱処理部11に出し入れする操作を行うだけで、還元処理を実行することができる。これにより、ダンパー111を通じて熱処理部11に出し入れする際のダンパー111の開放時間を短縮して、ダンパー111開放中の熱処理部11内部の温度低下を抑制することができる。又、処理対象物投入用柄杓3から基台13上に「処理対象物」を移し変えるとき等にその「処理対象物」が基台13から落下するといった誤操作を防いだり、バーナー12による加熱が均一に生じなくなるといった不具合を防いだりすることができる。尚、このような実施態様の場合において、処理対象物投入用柄杓3の処理対象物載置部32に、灰や炭素質還元剤等を敷いておいてもよい。これにより、その処理対象物載置部32の載置面での「処理対象物」の融着を防ぐことができる。
【0052】
又、このように処理対象物投入用柄杓3を熱処理部11内に残した状態においては、その処理対象物投入用柄杓3の柄31の主な部分は、処理対象物貯留部21に位置するようになる(
図2参照)。そして、処理対象物投入用柄杓3の柄31の部分が処理対象物貯留部21内に位置するようにして還元処理を開始することで、還元処理の加熱によって処理対象物投入用柄杓3の柄31が熱変形してしまうことを防ぐことができる。
【0053】
又、「還元処理方法」においては、還元処理の途中の段階において「処理対象物」を熱処理部11から処理対象物貯留部21に移動させることもできる。この場合は、ダンパー111を開放した後に、処理対象物投入用柄杓3の柄31を把持して処理対象物貯留部21の側からその処理対象物投入用柄杓3を引き出すようにして、「処理対象物」が載置された処理対象物載置部32の部分を処理対象物貯留部21内に移動させ、速やかにダンパー111を閉鎖する。そして、例えば、処理対象物載置部32に載置した「処理対象物」に更に炭素質還元剤を追加する作業等、必要な追加作業を処理対象物貯留部21の内部において、適宜行うことができる。このように、熱処理部11と処理対象物貯留部21との間の「処理対象物」の移動を、処理対象物投入用柄杓3を移動させることによって行うことで、円滑に且つ確実に移動させることができる。
【0054】
そして、還元処理の終了後には、処理対象物貯留部21の内部からダンパー111を開放して、還元処理により得られた還元物を、熱処理部11から処理対象物貯留部21を経由して取り出す。還元物の取り出しに際しては、処理対象物貯留部21において還元物の冷却を行う。処理対象物貯留部21での還元物の冷却は、処理対象物貯留部21の内部からダンパー111を閉鎖した状態で行う。これにより、熱処理部11からの高温の熱が処理対象物貯留部21内に入り込むことを防いで、効率的に冷却を行うことができる。
【0055】
又、処理対象物貯留部21での還元物の冷却を行う際には、処理対象物貯留部21の内部に、不活性ガスを流通させることが好ましい。これにより、不活性ガスが冷却用ガスとして作用して、還元処理により得られた還元物を所定の温度にまで効率良く冷却することができる。又、不活性ガスが充満している環境下では、還元処理により得られた還元物の酸化を抑制することもできる。又、還元炉1が上記の「補助ダンパー」を備えている場合であれば、「補助ダンパー」も閉鎖した状態で冷却処理を行うことにより、熱処理部11からの高温の熱が処理対象物貯留部21の内部に入り込むことによる処理対象物貯留部21内部の温度をより好ましい低温度範囲内により確実に防ぐことができる。
【0056】
又、処理対象物貯留部21は、熱処理部11に連続して接続されているため、熱処理部11での還元処理により得られた還元物を大気中に取り出すことなく冷却することができる。高温に加熱された状態の還元物をそのまま大気中に取り出した場合、生成したメタルの酸化が急速に進行して、メタル特性が低下するとともに、メタルの回収率が大きく低下する。この点、処理対象物貯留部21が熱処理部11に接続された還元炉1を用いて還元処理を行うことで、高温の還元物に対する冷却操作を、その処理対象物貯留部21にて効率的に行うことができ、メタルの酸化を効果的に防ぐことができる。
<試験操業としての実施形態>
【0057】
本発明の「還元炉」、「還元処理ユニット」、「還元処理方法」は、何れも、還元処理を含む実装業に反映させるための各種データを取得することを目的とした還元処理の試験操業を行うための技術的手段としても好ましく用いることができる。例えば、還元炉1に少量のペレットを装入し、還元処理を行い、生成した還元物の取り出しを行って、上述の各種データを取得することができる。
【0058】
還元炉に限らず、一般的に炉には、試料等の処理産物の出し入れのための開口部が必要となる。酸素の巻き込みや熱の拡散、外気の影響等を防ぐために、その開口部の大きさは小さい方が好ましい。ところが、特に、試験操業用に比較的小規模な炉を用いる場合、相対的に開口部のサイズは大きくなり、試験によって得られるデータの誤差発生の要因になるという問題がある。この問題に対して、本発明の適用により、還元炉1を試験炉として用いることによって、開口部の大きさを確保しながら、急激な温度変化を抑制することができるので、炉内での還元状況の正確なデータを得て操業に反映させることができるようになる。
【実施例0059】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0060】
[実施例]
図1及び
図2に示す構成からなる還元炉1及び
図3に示す処理対象物投入用柄杓3と同様の形状・構成からなる還元炉と処理対象物投入用柄杓とからなる「還元処理ユニット」を用いて、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤との混合物を処理対象物とし、本発明の上述した「還元処理方法」の手順に則り、還元処理の試験操業を行った。
【0061】
(還元炉と処理対象物投入用柄杓(還元処理ユニット))
実施例で用いる還元炉1のダンパーの形状と配置は、
図4A及び
図4Bに示す通りとした。又、上記の還元炉において、ダンパーによって閉鎖される熱処理部の開口部のサイズは、130mm×100mmとし、処理対象物投入用柄杓の外径とダンパーの閉鎖時に形成される貫通孔の内径は20mmとした。
【0062】
(還元処理方法)
実施例の具体的な作業手順は以下の通りとした。先ず、処理対象物投入用柄杓に載置した処理対象物を、載置面に載置した状態のまま、処理対象物投入用柄杓を移動させることによって熱処理部内に挿入し、処理対象物を上記の載置面に載置したままの状態で、且つ、処理対象物投入用柄杓の柄の部分はダンパーの閉鎖時に形成される上記の貫通孔に挿通されている状態で、ダンパーを閉鎖し、1400℃×30分の加熱条件で還元処理を行った。そして、その後、ダンパーを開放し、処理対象物投入用柄杓に載置されたまま還元処理を終えた処理対象物が載置面に載置されている状態のままで、処理対象物投入用柄杓を移動させることによって、処理対象物貯留部に移動させ、還元処理済の処理対象物を、同室内において、ダンパーを閉鎖した状態で、15分冷却してから、大気中に取り出した。処理対象物貯留部の内部には窒素を常時流して処理した。尚、ダンパーの重なり部分の幅を実施例1では1mm、実施例2では20mmとした。
【0063】
【0064】
ここで、ニッケル酸化鉱石の還元処理を含む一般的なニッケル酸化鉱石の製錬プロセスにおいて求められる「Niメタル化率」は、通常、97%~99%程度である。実施例1、2の試験操業においては、十分な「Niメタル化率」を維持できているが、併せて、熱処理部と処理対象物貯留部との間の「処理対象物」の全ての移動を、処理対象物投入用柄杓を略平行に移動させることのみによって簡単に行うことができるようにされていることにより、処理対象物の載置面からの零れ落ちも全くなく、速やかに各移動を完了させることができた。
【0065】
[ダンパーの材料選択について]
追加試験として、更に、本発明の還元炉における、ダンパーの最適な材料選択について検証するための試験も行った。ここで、試験は、アルミナファイバー製の断熱ボードの表面に以下の各種のコート剤(上述した不定形耐火物用の接着剤)でコーティングしたものと、コーティングを行わなかったものとを、それぞれ各試験用還元炉のダンパーとし、ダンパーの開閉を繰り返したときのダンパー(即ち、断熱ボード)の各部寸法の減少を確認する方法により行った。コート剤として用いる「不定形耐火物用の接着剤」としては、「17Dセメント(イソライト工業製)」、「MBセメント(イソライト工業製)」の何れかを用いた。又、各還元炉の熱処理部内の初期温度は1400°とした。この状態の熱処理部に、処理対象物投入用柄杓の処理対象物載置部を挿入し、その状態で30分保持した後、処理対象物載置部を処理対象物貯留部内に引き出す作業を繰り返し、尚且つ、ダンパーの開閉回数が10回、20回、40回、60回、80回となる時点で作業を停止し、その時点でのダンパーの各部寸法の測定を行い、下記の評価基準で各ダンパー材料の可否を評価した。評価結果は表2に示す通りであった。
(評価基準)
ダンパーの幅、高さ、及び厚みの減少が、1.00mm未満:A
ダンパーの幅、高さ、及び厚みの減少が、1.00mm以上2.00mm未満:B
ダンパーの幅、高さ、及び厚みの減少が、2.00mm以上:C
【0066】
【0067】
表2より、コーティングが施されていない場合では、開閉回数10回を超えた頃からから摩耗が発生し、60回を超えると摩耗が2.00mm以上になり、長期の継続使用は困難であることが窺える。一方、コーティングを施した場合では、開閉回数60回までは、断熱ボードの摩耗は1.00mm未満とほぼ無視できる程度であり、80回を超えても2mm未満であるため、長期の継続使用が可能であることが窺える。このように、不定形耐火物用の接着剤を断熱ボードの表面にコートすることで、ダンパー各部の寸法減少を長期間抑制することができることが確認された。
【0068】
以上より、本発明によれば、熱処理部と処理対象物貯留部が接続されてなる箱型の還元炉において、還元処理の進行中に、熱処理部内部の温度低下を抑制しながら、処理対象物の出し入れを効率良く行うことができることが確認された。