(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159903
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 13/00 20060101AFI20231026BHJP
【FI】
C08B13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069797
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松末 慎太朗
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA05
4C090BA31
4C090BB92
4C090BB97
4C090CA02
4C090CA18
4C090CA19
4C090CA22
4C090CA38
4C090CA39
4C090DA23
(57)【要約】
【課題】脂肪族カルボン酸の使用量を減らしても、脂肪族カルボン酸の量を減らす前と同等の分子量のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)を、生産性良く製造できる方法の提供。
【解決手段】
脂肪族カルボン酸と多価アルコールとの存在下、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、アセチル化剤及びサクシノイル化剤とのエステル化反応を行うことにより、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含有する反応溶液を得るエステル化反応工程を少なくとも含むヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族カルボン酸と多価アルコールとの存在下、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、アセチル化剤及びサクシノイル化剤とのエステル化反応を行うことにより、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含有する反応溶液を得るエステル化反応工程を少なくとも含むヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの製造方法。
【請求項2】
前記エステル化反応工程に加えて、更に、前記反応液と水を混合させることによりヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを析出させた懸濁液を得る析出工程と、
前記懸濁液中のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを洗浄、脱液及び乾燥する工程とを少なくとも含む、請求項1に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの製造方法。
【請求項3】
前記脂肪族カルボン酸とヒドロキシプロピルメチルセルロースの質量比(脂肪族カルボン酸/ヒドロキシプロピルメチルセルロース)が1.1~1.5である請求項1に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの製造方法。
【請求項4】
前記多価アルコールが糖アルコール、グリセリン又はアルキレングリコールの少なくとも1種である請求項1又は2に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腸溶性ポリマーとして、セルロース骨格にメチル基(-CH3)とヒドロキシプロピル基(-C3H6OH)の2つの置換基を導入してエーテル構造とするほか、アセチル基(-COCH3)とスクシニル基(-COC2H4COOH)の2つの置換基を導入してエステル構造として、計4種類の置換基を導入した高分子であるヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(以下、「HPMCAS」ともいう。)が広く知られている。
腸溶性ポリマーであるHPMCASは、水難溶性薬物の溶出改善を行う固体分散体及び腸溶性コーティング基剤として広く使用されている。
【0003】
腸溶性コーティング製剤は、酸に対して不安定な薬物を投与する場合や、胃粘膜の保護等を目的として広く用いられる重要な製剤の一つである。HPMCASの製造方法としては、例えば、アセチル化剤として無水酢酸を、サクシノイル化剤として無水コハク酸を、脂肪族カルボン酸として氷酢酸を使用し、触媒として酢酸ナトリウムの存在下、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下、「HPMC」ともいう。)に対する氷酢酸の比率(質量比)が2.2倍の条件でエステル化反応を行って製造する方法が知られている(特許文献1)。
また、アセチル化剤として無水酢酸を、サクシノイル化剤として無水コハク酸を、脂肪族カルボン酸として氷酢酸を使用し、触媒として酢酸ナトリウムの存在下、HPMCに対する氷酢酸の比率(質量比)が1.6倍の条件で、自転運動しながら公転運動する複数の撹拌羽根を備えるニーダー反応器中でエステル化反応を行って製造する方法が知られている。(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2017-505847号公報
【特許文献2】特開2021-070789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
HPMCASは、その製造の際、特許文献1に記載のように脂肪族カルボン酸の量を増やすと、合成中の反応液の粘度を低くできるが、バッチ当たりに仕込めるHPMCの量が限られるため、生産効率を上げることができない。反対に、脂肪族カルボン酸の使用量を減らせば溶媒の量が減少するので、その分HPMCの仕込み量を増やすことができ、生産効率を上げることができるが、脂肪族カルボン酸の量を減らすとセルロース鎖同士が反応してしまい、HPMCASの分子量が非常に高くなり、HPMCAS溶液の粘度が高くなってしまうことが問題であった。
また、特許文献2では、自転運動しながら公転運動する複数の撹拌羽根を備えるニーダー反応器中でHPMCASを製造することにより、HPMCAS溶液の粘度を調整できることが記載されているが、特定の攪拌機構を備えた反応器を使用する必要があるため、既存の反応器をそのまま使用することができない。
このように、脂肪族カルボン酸の低減に伴う分子量の上昇を抑制しながら、反応器を変更することなく、HPMCASを生産性よく製造する方法が求められている。本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、脂肪族カルボン酸の使用量を減らしても、脂肪族カルボン酸の量を減らす前と同等の分子量のHPMCASを生産性良く製造できる方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記の目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、HPMCASを製造する反応工程において、脂肪族カルボン酸及び多価アルコールの存在下、HPMCと、アセチル化剤及びサクシノイル化剤とのエステル化反応を行うことにより、HPMCASの分子量の増加を伴わずに、脂肪族カルボン酸の使用量を低減してHPMCASの合成を行うことで1バッチ当たりの生産効率を向上できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明の一つの態様では、脂肪族カルボン酸と多価アルコールとの存在下、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、アセチル化剤及びサクシノイル化剤とのエステル化反応を行うことにより、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含有する反応溶液を得るエステル化反応工程を少なくとも含むヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの製造方法が提供される。
また、本発明は下記のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの製造方法を提供するものである。
[1]
脂肪族カルボン酸と多価アルコールとの存在下、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、アセチル化剤及びサクシノイル化剤とのエステル化反応を行うことにより、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを含有する反応溶液を得るエステル化反応工程を少なくとも含むヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの製造方法。
[2]
前記エステル化反応工程に加えて、更に、前記反応液と水を混合させることによりヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを析出させた懸濁液を得る析出工程と、
前記懸濁液中のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートを洗浄、脱液及び乾燥する工程とを少なくとも含む、[1]に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの製造方法
[3]
前記脂肪族カルボン酸とヒドロキシプロピルメチルセルロースの質量比(脂肪族カルボン酸/ヒドロキシプロピルメチルセルロース)が1.1~1.5である[1]又は[2]に記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの製造方法。
[4]
前記多価アルコールが糖アルコール、グリセリン又はアルキレングリコールの少なくとも1種である[1]~[3]のいずれかに記載のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、HPMCASを生産する場合に脂肪族カルボン酸の使用量を低減しても、HPMCASの分子量の増加を伴わずに反応器へのHPMCの仕込み量を増やすことができる。これにより、反応器の大型化や変更を行わずとも、従来と同等の分子量のHPMCASを生産性よく製造することが可能となる。また、多価アルコールや多価アルコールのエステル化物がHPMCAS中に残存することもない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1、2、3、5、6及び比較例のHPMCASのエタノール抽出液と、比較用のグリセリン、トリアセチン、プロピレングリコール、プロピレングリコールジアセテート及び酢酸とをガスクロマトグラフで分析した際の結果である。
【
図2】実施例1、2、3、5、6及び比較例のHPMCASの酸加水分解溶液と、比較用のグリセリン、トリアセチン、プロピレングリコール、プロピレングリコールジアセテート、及び酢酸とをガスクロマトグラフで分析した際の結果である。
【
図3】実施例1、2、3、5、6及び比較例のHPMCASのアルカリ加水分解溶液と、比較用のグリセリン、トリアセチン、プロピレングリコール、プロピレングリコールジアセテート、及び酢酸とをガスクロマトグラフで分析した際の結果である。
【
図4】実施例4のHPMCASのエタノール抽出液、酸加水分解溶液、アルカリ加水分解溶液と、比較用のソルビトール、エタノール(抽出溶媒)、酢酸、コハク酸、塩化ナトリウム(加水分解後の中和工程で生成)を高速液体クロマトグラフで分析した際の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、脂肪族カルボン酸と多価アルコールとの存在下、HPMCと、アセチル化剤及びサクシノイル化剤とのエステル化反応を行うことにより、HPMCASを含有する反応溶液を得るエステル化反応工程について説明する。
【0011】
HPMCは、非イオン性の水溶性セルロースエーテルである。HPMCにおけるメトキシ基の置換度(DS)は、非溶解繊維の個数が少ないHPMCを得る観点から、好ましくは0.73~2.83、より好ましくは1.25~2.37、更に好ましくは1.60~2.00である。ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)は、非溶解繊維の個数が少ないHPMCを得る観点から、好ましくは0.10~1.90、より好ましくは0.12~0.95、更に好ましくは0.15~0.65である。
非溶解繊維とは、HPMC中に含まれる水に溶解しない部分のことである。HPMCは後述するように、セルロースの水酸基を部分的にエーテル化し、セルロースの分子内及び分子間の水素結合を弱めることで水溶性を示す。エーテル化を完全に均一に行うことは工業的には困難であるため、HPMCには、エーテル基の置換度が不足していたり、エーテル基の置換が不均一であったりして水に溶解しない部分、すなわち非溶解繊維が含まれる。HPMCASに多くの非溶解繊維が含まれると、腸溶性被膜が不均一になって腸溶性コーティング製剤の歩留まりが低下したり、コーティング溶液のろ過工程でフィルターの目詰まりが頻発して生産性が低下したりするので、HPMCASの原料であるHPMCは非溶解繊維の個数が少ないものが好ましい。非溶解繊維の個数は、例えばコールターカウンターのような装置でHPMC水溶液を分析することにより求められる。
メトキシ基の置換度(DS)とは、置換度(degree of substitution)を表し、無水グルコース1単位当たりのメトキシ基の平均個数のことをいう。ヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)とは、無水グルコース1モル単位当たりのヒドロキシプロポキシ基の平均モル数である。HPMCにおけるメトキシ基の置換度(DS)とヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)は、第18改正日本薬局方の「ヒプロメロース」の項に記載の方法により、メトキシ基の含有量及びヒドロキシプロポキシ基の含有量を測定し、得られた結果を換算することによって求めることができる。
【0012】
HPMCの20℃における2質量%水溶液の粘度は、エステル化工程における混練性の観点から、好ましくは1.5~30.0mPa・s、より好ましくは2.0~20.0mPa・s、更に好ましくは2.5~15.0mPa・sである。
HPMCの2質量%水溶液の20℃における粘度は、第18改正日本薬局方の「一般試験法」に記載の「粘度測定法」の毛細管粘度計法に準じて測定することができる。
HPMCは、公知の方法により製造したものを用いてもよいし、市販のものを用いてもよい。HPMCは、例えば、シート状、チップ状又は粉末状のパルプに水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物の溶液を接触させてアルカリセルロースとした後に、塩化メチル、酸化プロピレン等のエーテル化剤を加えて反応させることにより得られる。
【0013】
前記アルカリ金属水酸化物溶液は、アルカリセルロースが得られれば特に限定されないが、経済的観点から、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの水溶液が好ましい。また、その濃度は、アルカリセルロースの組成を安定させ、セルロースエーテルの透明性を確保する観点から、好ましくは23~60質量%、より好ましくは35~55質量%である。
【0014】
アルカリセルロースの製造後は、通常の方法で塩化メチル、酸化プロピレン等のエーテル化剤を加えてエーテル化反応を行い、必要に応じて洗浄、脱水、乾燥、粉砕、解重合等の工程を経ることによりHPMCが得られる。
【0015】
脂肪族カルボン酸の例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の炭素数2~4の脂肪族カルボン酸が挙げられるが、経済的観点から酢酸が好ましい。
【0016】
脂肪族カルボン酸の使用量は、エステル化の反応効率及び反応液の粘度、得られるHPMCの分子量の観点から、当該HPMCの質量に対する質量比(脂肪族カルボン酸の質量/HPMCの質量)で、好ましくは1.0~2.0倍、より好ましくは1.1~1.8倍、更に好ましくは1.1~1.5倍である。脂肪族カルボン酸の量が多すぎるとエステル化の反応効率が低くなってしまい、少なすぎるとHPMCASの分子量上昇を抑制するために必要な多価アルコールの添加量が非常に多くなるため、経済的観点から好ましくない。多価アルコールを添加することによる分子量増加を抑制する効果は、前記質量比で1.1~1.5倍のように脂肪族カルボン酸の使用量が少ない場合に、特に高く発揮される。
【0017】
多価アルコールの例としては、ソルビトール等の糖アルコール、グリセリン、プロピレングリコール等のアルキレングリコールが挙げられるが、安全性及び副生物の除去の容易性などの観点から、ソルビトール、グリセリン、プロピレングリコールが好ましく、グリセリン、プロピレングリコールがより好ましく、グリセリンが更に好ましい。
多価アルコールの使用量は、HPMCASの分子量の制御及びエステル化効率の観点から、HPMC1モルに対して、好ましくは0.01~0.30モル、より好ましくは0.02~0.26モル、更に好ましくは0.03~0.22モルである。
多価アルコールはHPMCASの分子量の上昇を抑制する観点から、アセチル化剤及びサクシノイル化剤よりも先に添加することが好ましい。
【0018】
アセチル化剤の例としては、無水酢酸、塩化アセチル等が挙げられるが、経済的な観点から、無水酢酸が好ましい。
アセチル化剤の使用量は、得られるHPMCASの置換度及び収率の観点から、HPMC1モルに対して、好ましくは0.2~1.8モル、より好ましくは0.4~1.7モル、更に好ましくは0.6~1.6モルである。
【0019】
サクシノイル化剤の例としては、無水コハク酸、塩化スクシニル等が挙げられるが、経済的な観点から、無水コハク酸が好ましい。
サクシノイル化剤の使用量は、得られるHPMCASの置換度及び収率の観点から、HPMC1モルに対して、好ましくは0.1~1.0モル、より好ましくは0.1~0.8モル、更に好ましくは0.3~0.5モルである。
【0020】
エステル化反応は、触媒存在下で行ってもよい。触媒としては、経済的観点から酢酸ナトリウム等のアルカリ金属カルボン酸塩が好ましい。触媒は、必要に応じて、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、触媒は、市販のものを用いることができる。
触媒の使用量は、置換度及び収率の観点から、HPMC1モルに対して、好ましくは0.8~1.5モル、より好ましくは0.9~1.1モルである。
【0021】
HPMCASを含有する反応溶液は、例えば、脂肪族カルボン酸にHPMCを溶解させた溶液に、多価アルコールと、アセチル化剤及びサクシノイル化剤と、必要に応じて触媒とを添加することにより得る方法が挙げられる。アセチル化剤及びサクシノイル化剤の添加方法は特に制限されないが、サクシノイル化剤とHPMCとが反応することにより生成したスクシニル基が更に別のHPMCと反応すると、分子が架橋してHPMCASの分子量が上昇すると考えられるため、分子量の過度な上昇を抑制する観点から、サクシノイル化剤は反応開始時に全量を添加するのではなく、2回以上に分割して添加することが好ましい。
【0022】
エステル化反応にあたっては、高粘性の流体を均一に混合するのに適した双軸撹拌機を用いることができる。具体的には、ニーダー、インターナルミキサー等の名称で市販されている装置を用いることができる。
エステル化反応工程の反応温度は、反応速度又は反応液の粘度の好適化の観点から、好ましくは60~100℃、より好ましくは80℃~90℃である。また、エステル化反応工程の反応時間は、収率又は生産性の観点から、好ましくは2~8時間、より好ましくは3~6時間である。
【0023】
エステル化反応後、未反応の無水酢酸及び無水コハク酸を処理する目的及び反応液の粘度を調節する目的で、必要に応じて反応液に水を加えることができる。水の添加量は、HPMCの質量に対して質量比で、好ましくは0.8~1.5倍、より好ましくは1.0倍~1.3倍である。
【0024】
析出工程では、得られた反応液と水を混合してHPMCASが析出された懸濁液を得る。混合する水の量は、析出度合及び処理時間の観点から前記懸濁液の質量に対して質量比で、好ましくは3.3~8.5倍、より好ましくは3.8~6.5倍である。なお、上述したようにエステル化反応後に水を添加した場合には、析出工程において混合する水の量は、前記懸濁液の質量に対して質量比で、好ましくは1.7~7.7倍、より好ましくは2.5~5.5倍である。
析出工程で混合する水の温度は、好ましくは5~40℃、より好ましくは5~30℃である。また、析出工程における水と混合する直前の前記懸濁液の温度は、好ましくは10~40℃、より好ましくは10~35℃、更に好ましくは15~30℃である。水との接触直前の反応液温度を上記範囲とするために、反応容器のジャケットによる冷却を行ってもよい。
【0025】
析出されたHPMCASは、必要に応じて洗浄し、脱液し、乾燥することができる。前記洗浄工程、脱液工程及び乾燥工程では、遊離酢酸、遊離コハク酸、及びそれらの金属塩、残存多価アルコール及び多価アルコールのエステル化物を除去するために水で十分洗浄し、篩等を用いて濾別することで脱液し、好ましくは60~100℃、より好ましくは70~80℃で、好ましくは1~5時間、より好ましくは2~3時間乾燥を行う。これにより高純度のHPMCASを得ることができる。
【0026】
次に、得られたHPMCASの物性について説明する。
<置換度及び粘度>
HPMCASにおけるメトキシ基の置換度(DS)は、好ましくは0.73~2.83、より好ましくは1.25~2.37、更に好ましくは1.60~2.00である。ヒドロキシプロピル基の置換モル数(MS)は、好ましくは0.10~1.90、より好ましくは0.12~0.95、更に好ましくは0.15~0.65である。アセチル基の置換度(DS)は、好ましくは0.09~2.30、より好ましくは0.18~1.07、更に好ましくは0.20~0.80である。スクシニル基の置換度(DS)は、好ましくは0.07~1.78、より好ましくは0.08~0.62、更に好ましくは0.10~0.60である。
なお、HPMCASにおけるメトキシ基、アセチル基及びスクシニル基のDSは、置換度(degree of substitution)を表し、各々無水グルコース1単位当たりのメトキシ基、アセチル基及びスクシニル基の平均個数であり、HPMCASにおけるヒドロキシプロポキシ基のMSは、置換モル数(molar substitution)を表し、無水グルコース1モル当たりのヒドロキシプロポキシ基の平均モル数である。
HPMCASにおけるメトキシ基、アセチル基及びスクシニル基の置換度(DS)とヒドロキシプロポキシ基の置換モル数(MS)は、第18改正日本薬局方の「ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル」の項に記載の方法により、メトキシ基、アセチル基、スクシニル基、及びヒドロキシプロポキシ基の含有量を測定し、得られた結果を換算することによって求めることができる。
【0027】
HPMCASを2質量%含む0.43質量%水酸化ナトリウム水溶液の20℃における粘度は、好ましくは1.0~10.0mPa・s、より好ましくは1.5~5.0mPa・sである。HPMCASを2質量%含む0.43質量%水酸化ナトリウム水溶液の20℃における粘度は、第18改正日本薬局方の「ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル」の項に記載の方法により測定することができる。
【0028】
HPMCASを10質量%含むアセトン溶液の20℃における粘度は、HPMCASをコーティング基剤として用いる場合のコーティング溶液中のHPMCASの濃度を高くする観点から、好ましくは150mPa・s以下、より好ましくは10~100mPa・s、更に好ましくは10~80mPa・sである。HPMCASを10質量%含むアセトン溶液の20℃における粘度は、第18改正日本薬局方の「一般試験法」の項に記載の毛細管粘度計法によって求めることができる。
【0029】
<分子量(Mw、Mn)及び多分散度>
HPMCASの重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び多分散度(Mw/Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)等のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)と多角度光散乱(MALS)の組合せによる絶対分子量測定法によって求めることができる(例えば、Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 56(2011)743-748)。
【0030】
HPMCASのMwは、HPMCASをコーティング基剤として用いる場合の腸溶性コーティング液中のHPMCASの濃度とコーティング溶液の粘度のバランスの観点から、好ましくは80000~350000ダルトン、より好ましくは80000~300000ダルトン、更に好ましくは80000~280000ダルトンである。
【0031】
HPMCASのMnは、HPMCASをコーティング基剤として用いる場合の腸溶性コーティング液中のHPMCASの濃度とコーティング溶液の粘度のバランスの観点から、好ましくは20000~50000ダルトン、より好ましくは22000~48000ダルトン、更に好ましくは25000~45000ダルトンである。
【0032】
HPMCASの多分散度(Mw/Mn)は、好ましくは3.8~8.0、より好ましくは3.8~7.0、更に好ましくは3.8~6.0である。
【0033】
本発明の方法で得られたHPMCASに多価アルコール由来の不純物が含まれていないことは、適切な方法で前処理したHPMCASをガスクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィー等で分析することにより確認できる。
多価アルコール由来の不純物としては、主に多価アルコールの残存及び多価アルコールのエステル化物が挙げられる。前記多価アルコールの残存及び多価アルコールのエステル化物の有無は、例えば、HPMCASを、多価アルコール及び多価アルコールのエステル化物が可溶な溶媒、例えば、水又はエタノール等の1価のアルコールに分散させて抽出操作を行った後、溶媒中に多価アルコール及び多価アルコールのエステル化物が含まれるか、ガスクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィー等で分析することにより確認することができる。
多価アルコールがHPMCASと結合していないことは、酸性水溶液又は塩基性水溶液中でそれぞれHPMCASの加水分解を行った後に、加水分解溶液をガスクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィー等で分析することにより確認することができる。
【実施例0034】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
実施例1
双軸撹拌羽根(PNV-5T用Z型撹拌羽根、材質SUS316L、株式会社入江商会製)を備える5L横型ニーダー反応器(PNV-5T型、株式会社入江商会製)に、氷酢酸910gを仕込み、メトキシ基のDSが1.87、ヒドロキシプロポキシ基のMSが0.24、2質量%水溶液の20℃のおける粘度が3.4mPa・sであるHPMC700g、グリセリン30.2g、無水酢酸400g、無水コハク酸68g、及び酢酸ナトリウム306gを加えて、85℃、撹拌羽根の回転数43rpmで1時間攪拌した後、無水コハク酸68gを加えてさらに4時間攪拌することによりエステル化反応を行った。
得られたHPMCASを含有する反応溶液に水を加えて反応を停止した後、更に反応溶液の質量に対して質量比で5.0倍質量の20℃の水を徐々に添加し、HPMCASが析出した懸濁液を得た。析出させたHPMCASを80メッシュの篩上で濾別し、粗HPMCASを得た。得られた粗HPMCASを、原料HPMCに対して20倍質量の30℃の水に再懸濁させ、10分間撹拌後、80メッシュの篩上で濾別する操作を8回繰り返して洗浄されたHPMCASを得た。最後に80℃で3時間乾燥させることにより、HPMCASを得た。エステル化反応工程における反応条件を表1に示す。
【0036】
腸溶コーティングに使用する際の有用性を判断するため、得られたHPMCASを10質量%含むアセトン溶液の20℃における粘度を測定した。アセトン198.0gをガラス瓶に入れ、200rpmの速度で撹拌羽根を用いて5分間撹拌した。そこにHPMCAS22.0gを添加し、更に同じ速度で60分間撹拌した後に撹拌を停止し、得られたHPMCASを10質量%含むアセトン溶液の20℃における粘度を、第18改正日本薬局方の「一般試験法」の項に記載の毛細管粘度計法に従ってウベローデ粘度計を用いて測定した。
HPMCASの置換度、HPMCASを2質量%含む0.43質量%水酸化ナトリウム水溶液の20℃における粘度、及びHPMCASを10質量%含むアセトン溶液の20℃における粘度を表2に示す。
【0037】
<分子量測定方法>
リン酸二水素ナトリウム無水物(関東化学社製、鹿特級)7.20g及び硝酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬社製、特級)10.2gを1.2Lの精製水に投入し、完全に溶解するまで室温で撹拌して水性緩衝液を調製した。水性緩衝液1.2Lにアセトニトリル(関東化学社製、高速液体クロマトグラフィー用グレード)800mLを混合し、室温で3時間攪拌後、10MのNaOH(シグマアルドリッチ社製)を加えてpHを8.0に調節し、孔径0.45μmの親水性PTFE(polytetrafluoroethylene)フィルターでろ過して移動相を調製した。
HPMCASをガラスバイアルに秤量し、HPMCASの質量に応じた量の移動相を添加して室温で3時間マグネチックスターラーを用いて攪拌することにより、2mg/mLのHPMCAS溶液を調製した。調製したHPMCAS溶液は孔径0.45μmの親水性PTFEシリンジフィルターを通して測定に使用した。
【0038】
GPCの測定装置は、Prominence HPLCシステム(島津製作所製)と、DAWN NEON 18アングルレーザー光散乱検出器(ワイアット・テクノロジー社製)及びOPTILABrex NEON示差屈折率検出器(ワイアット・テクノロジー社製)によって構成されるものを使用した。分析用のカラムにはTSK-GEL(登録商標)GMPWXL、300×7.8mm(東ソー社製)を使用し、分析用カラムを25±2℃、示差屈折率検出器を25℃、移動相の流量を0.5mL/minで操作し、ポリエチレンオキシド20K(アジレント・テクノロジー社製)の5mg/mL溶液を標準物質とする装置較正を行ってから、HPMCASの測定を行った。
測定したデータはWyatt Astra6ソフトウェア(ワイアット・テクノロジー社製、バージョン7.3.2.19)にて、HPMCASのdn/dc=0.120mL/gの条件で解析を行い、HPMCASの分子量(Mw、Mn)及び多分散度(Mw/Mn)を求めた。
測定結果を表2に記す。
【0039】
<不純物分析>
HPMCAS1.0gをガラスバイアルに秤量し、エタノール10.0gを添加した。マグネチックスターラーを用いて室温で6時間攪拌し、エタノールに可溶な不純物を抽出した。HPMCASのエタノール分散液を3000rpmで5分間遠心分離して固液分離を行い、上澄み部分を孔径0.45μmの親水性PTFEシリンジフィルターを通してろ過することにより、HPMCASのエタノール抽出液を調製した。
【0040】
HPMCAS1.0gをガラスバイアルに秤量し、5質量%塩酸20.0gを添加した。マグネチックスターラーを用いて60℃で4時間攪拌し、HPMCASの酸加水分解を行い、酸加水分解後の溶液を室温に冷却した後、pHが約5.0になるまで1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液で中和した。中和後の分散液を3000rpmで5分間遠心分離した後、上澄み部分を孔径0.45μmの親水性PTFEシリンジフィルターを通してろ過することにより、HPMCASの酸加水分解溶液を調製した。
【0041】
HPMCAS1.0gをガラスバイアルに秤量し、1mol/L水酸化ナトリウム水溶液20.0gを添加した。マグネチックスターラーを用いて60℃で4時間攪拌し、HPMCASのアルカリ加水分解を行い、アルカリ加水分解後の溶液を室温に冷却した後、pHが約7.0になるまで5質量%の塩酸で中和した。中和後の溶液を3000rpmで5分間遠心分離した後、上澄み部分を孔径0.45μmの親水性PTFEシリンジフィルターを通してろ過することにより、HPMCASのアルカリ加水分解溶液を調製した。
【0042】
不純物分析にはガスクロマトグラフGC-2010(島津製作所製)を、分析用のカラムにはDB-WAX(カラム長30m、カラム内径0.25mm、キャピラリー厚み0.25μm、アジレント・テクノロジー社製)を使用した。キャリアガスにはヘリウムを使用し、35cm/s定流量モードでキャリアガスを流した。サンプルの注入量は1μL、サンプル注入口の温度は250℃に設定し、スプリット比20:1でサンプルをカラムに導入した。カラムオーブンは、100℃で1分間保持した後、10℃/minの速度で250℃まで昇温し、その後250℃で4分間保持した。分析用カラムを通過したサンプルは、250℃に設定した水素炎イオン化型検出器(FID)で検出した。
【0043】
HPMCASのエタノール抽出液、酸加水分解溶液、アルカリ加水分解溶液をそれぞれガスクロマトグラフィーで分析した。比較用の多価アルコールであるグリセリン及び多価アルコールのエステル化物であるトリアセチン、アセチル基の加水分解で生じる酢酸のガスクロマトグラフィー分析結果と合わせて、HPMCASのエタノール抽出液、酸加水分解溶液及びアルカリ加水分解溶液それぞれのガスクロマトグラフィー分析結果を
図1~3に示す。
図1~3中の実施例1のガスクロマトグラムでは、グリセリンや、トリアセチン等のグリセリンのエステル化物のピークは検出されなかったので、多価アルコールや多価アルコールのエステル化物は洗浄操作で除去できていること、HPMCASに多価アルコールが結合していないことが確認された。
ガスクロマトグラフィーによる不純物分析の結果、多価アルコールのピーク及び多価アルコールのエステル化物のピークが確認されなかった場合を「非検出」、同ピークがそれぞれ確認された場合を「検出」として、その評価結果を不純物分析の結果として表3に示す。
【0044】
実施例2
HPMCASを合成する際の氷酢酸を770g、グリセリンを45.3g、無水酢酸を423g、無水コハク酸の1回の添加量を69gにした以外は、実施例1と同様の操作を行い、HPMCASを得た。エステル化反応工程における反応条件を表1に、得られたHPMCASの置換度、HPMCASを2質量%含む0.43質量%水酸化ナトリウム水溶液の20℃における粘度、HPMCASを10質量%含むアセトン溶液の20℃における粘度及び分子量測定結果を表2に、不純物分析の結果を、比較用の多価アルコールであるグリセリン及び多価アルコールのエステル化物であるトリアセチン、アセチル基の加水分解で生じる酢酸のガスクロマトグラフィー分析結果と合わせて、
図1~3及び表3に示す。
【0045】
実施例3
HPMCASを合成する際の多価アルコールをプロピレングリコールに変え、その添加量を37.8gにした以外は、実施例1と同様の操作を行い、HPMCASを得た。エステル化反応工程における反応条件を表1に、得られたHPMCASの置換度、HPMCASを2質量%含む0.43質量%水酸化ナトリウム水溶液の20℃における粘度、HPMCASを10質量%含むアセトン溶液の20℃における粘度及び分子量測定結果を表2に、不純物分析の結果を、比較用の多価アルコールであるプロピレングリコール及び多価アルコールのエステル化物であるプロピレングリコールジアセテート、アセチル基の加水分解で生じる酢酸のガスクロマトグラフィー分析結果と合わせて、
図1~3及び表3に示す。
【0046】
実施例4
HPMCASを合成する際の多価アルコールをソルビトールに変えた以外は、実施例1と同様の操作を行い、HPMCASを得た。エステル化反応工程における反応条件を表1に、得られたHPMCASの置換度、HPMCASを2質量%含む0.43質量%水酸化ナトリウム水溶液の20℃における粘度、HPMCASを10質量%含むアセトン溶液の20℃における粘度及び分子量測定結果を表2に示す。
【0047】
ソルビトールは沸点が高くガスクロマトグラフィーでは分析が難しいため、実施例4の不純物分析には高速液体クロマトグラフを使用した。送液ユニットにProminence HPLCシステム(島津製作所製)を、分析用のカラムにはRezex RCM-Monosaccharide Ca+2(8%) 300×7.8mm(フェノメネクス社製)を、示差屈折率検出器にはRID-10A(島津製作所製)を使用した。分析用カラムを85±2℃、示差屈折率検出器を40℃、移動相の流量を0.5mL/minで操作し、移動相に蒸留水を用いて測定を行った。
【0048】
HPMCASのエタノール抽出液、酸加水分解溶液、アルカリ加水分解溶液をそれぞれ高速液体クロマトグラフィーで分析した。比較用の多価アルコールであるソルビトール、抽出溶媒であるエタノール、アセチル基の加水分解で生じる酢酸及びスクシニル基の加水分解で生じるコハク酸、加水分解後の中和操作で生じる塩化ナトリウムの高速液体クロマトグラフィー分析結果と合わせて、HPMCASのエタノール抽出液、酸加水分解溶液及びアルカリ加水分解溶液の高速液体クロマトグラフィー分析結果を
図4に示す(水溶性のソルビトールのエステル化物が市販されていなかったので、多価アルコールのエステル化物のクロマトグラムは記載していない)。
図4中の実施例4の高速液体クロマトグラムではソルビトールのピークは検出されなかったので、多価アルコールや多価アルコールのエステル化物は洗浄操作で除去できていること、HPMCASに多価アルコールが結合していないことが確認された。
高速液体クロマトグラフィーによる不純物分析の結果、多価アルコールのピークが確認されなかった場合を「非検出」、同ピークがそれぞれ確認された場合を「検出」として、その評価結果を不純物分析の結果として表3に示す。
【0049】
実施例5
HPMCASを合成する際の無水酢酸を560g、無水コハク酸の1回の添加量を48gにした以外は、実施例1と同様の操作を行い、HPMCASを得た。エステル化反応工程における反応条件を表1に、得られたHPMCASの置換度、HPMCASを2質量%含む0.43質量%水酸化ナトリウム水溶液の20℃における粘度、HPMCASを10質量%含むアセトン溶液の20℃における粘度及び分子量測定結果を表2に、不純物分析の結果を、比較用の多価アルコールであるグリセリン及び多価アルコールのエステル化物であるトリアセチン、アセチル基の加水分解で生じる酢酸のガスクロマトグラフィー分析結果と合わせて、
図1~3及び表3に示す。
【0050】
実施例6
HPMCASを合成する際の無水酢酸を410g、無水コハク酸の1回の添加量を114gにした以外は、実施例1と同様の操作を行い、HPMCASを得た。エステル化反応工程における反応条件を表1に、得られたHPMCASの置換度、HPMCASを2質量%含む0.43質量%水酸化ナトリウム水溶液の20℃における粘度、HPMCASを10質量%含むアセトン溶液の20℃における粘度及び分子量測定結果を表2に、不純物分析の結果を、比較用の多価アルコールであるグリセリン及び多価アルコールのエステル化物であるトリアセチン、アセチル基の加水分解で生じる酢酸のガスクロマトグラフィー分析結果と合わせて、
図1~3及び表3に示す。
【0051】
比較例1
HPMCASを合成する際の氷酢酸を1120g、無水酢酸を354g、無水コハク酸1回の添加量を62gにし、グリセリンを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、HPMCASを得た。エステル化反応工程における反応条件を表1に、得られたHPMCASの置換度、HPMCASを2質量%含む0.43質量%水酸化ナトリウム水溶液の20℃における粘度、HPMCASを10質量%含むアセトン溶液の20℃における粘度及び分子量測定結果を表2に、不純物分析の結果を
図1~3及び表3に示す。
【0052】
比較例2
HPMCASを合成する際の氷酢酸の量を910gとし、グリセリンを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、HPMCASを得た。エステル化反応工程における反応条件を表1に、得られたHPMCASの置換度、HPMCASを2質量%含む0.43質量%水酸化ナトリウム水溶液の20℃における粘度、HPMCASを10質量%含むアセトン溶液の20℃における粘度及び分子量測定結果を表2に、不純物分析の結果を
図1~3及び表3に示す。
【0053】
比較例3
HPMCASを合成する際の無水酢酸を508g、無水コハク酸1回の添加量を41gにしたこと以外は、比較例1と同様の操作を行い、HPMCASを得た。エステル化反応工程における反応条件を表1に、得られたHPMCASの置換度、HPMCASを2質量%含む0.43質量%水酸化ナトリウム水溶液の20℃における粘度、HPMCASを10質量%含むアセトン溶液の20℃における粘度及び分子量測定結果を表2に、不純物分析の結果を
図1~3及び表3に示す。
【0054】
比較例4
HPMCASを合成する際の無水酢酸を373g、無水コハク酸1回の添加量を97gにしたこと以外は、比較例1と同様の操作を行い、HPMCASを得た。エステル化反応工程における反応条件を表1に、得られたHPMCASの置換度、HPMCASを2質量%含む0.43質量%水酸化ナトリウム水溶液の20℃における粘度、HPMCASを10質量%含むアセトン溶液の20℃における粘度及び分子量測定結果を表2に、不純物分析の結果を
図1~3及び表3に示す。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
実施例1、2に示すように、グリセリンを添加してHPMCASを合成した場合、比較例1よりも脂肪族カルボン酸(氷酢酸)の使用量を低減しても、比較例1のHPMCASと同程度の置換度、HPMCASを2質量%含む0.43質量%水酸化ナトリウム水溶液の20℃における粘度、分子量、及びHPMCASを10質量%含むアセトン溶液の20℃における粘度のHPMCASが得られた。また、各種粘度が同程度であることから、腸溶コーティング操作におけるHPMCAS溶液の取り扱い性も同等であることが確認された。更に、このように脂肪族カルボン酸の使用量を低減することにより、1バッチあたりのHPMCの仕込み量を増やすことができるため、生産効率の向上につながることが考えられる。
実施例3、4に示すように、プロピレングリコールやソルビトールを添加してHPMCASを合成した場合も、多価アルコールの種類によらずグリセリンを添加した場合と同様の効果を得られることが分かった。
実施例1と比較例1、実施例5と比較例3、実施例6と比較例4の結果から、HPMCASの置換度によらず、多価アルコール共存下でHPMCASを合成することにより、脂肪族カルボン酸の使用量を減らしても、脂肪族カルボン酸の量を減らす前と同等の物性を示すHPMCASを製造できることが確認された。
【0059】
比較例2に示すように、多価アルコールを添加せずに脂肪族カルボン酸(氷酢酸)の使用量を低減すると、分子量及びHPMCASを10質量%含むアセトン溶液の20℃における粘度が非常に大きくなってしまい、腸溶コーティング操作におけるHPMCAS溶液の取り扱い性が低下することが確認された。
これより、多価アルコール共存下でHPMCASを合成することにより、脂肪族カルボン酸の使用量を減らしても、脂肪族カルボン酸の量を減らす前と同等の物性を示すHPMCASを生産性良く製造できることが確認された。