(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023015993
(43)【公開日】2023-02-01
(54)【発明の名称】表面処理剤
(51)【国際特許分類】
D06M 13/513 20060101AFI20230125BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
D06M13/513
C08J5/24 CER
C08J5/24 CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093444
(22)【出願日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2021119876
(32)【優先日】2021-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺沢 淳一
(72)【発明者】
【氏名】田中 亨
【テーマコード(参考)】
4F072
4L033
【Fターム(参考)】
4F072AB09
4F072AB28
4F072AC06
4F072AD28
4F072AD43
4F072AG03
4F072AH02
4F072AH31
4F072AL13
4L033AA09
4L033AB01
4L033AC11
4L033AC15
4L033BA96
(57)【要約】
【課題】ガラスクロスの表面処理剤水溶液の安定性を増加させ、ガラスクロスとマトリックス樹脂との親和性および密着性を向上させ、さらにはプリント回路配線基板の耐熱性を高めることができるガラスクロスの表面処理剤を提供することを目的とする。
【解決手段】アルコキシ基と第4級アンモニウムカチオンを有するシランカップリング剤であるA成分、アルコキシ基と(メタ)アクリル基を有するシランカップリング剤であるB成分、ビニル基を有するシランカップリング剤であるC成分およびエポキシ基を有するシランカップリング剤であるD成分の群から選ばれる少なくとも2成分を含むシランカップリング剤組成物と、界面活性剤とを含む表面処理剤。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシ基と第4級アンモニウムカチオンを有するシランカップリング剤であるA成分、アルコキシ基と(メタ)アクリル基を有するシランカップリング剤であるB成分、ビニル基を有するシランカップリング剤であるC成分、およびエポキシ基を有するシランカップリング剤であるD成分から選ばれる少なくとも2成分を含むシランカップリング剤組成物と、界面活性剤とを含む表面処理剤。
【請求項2】
A成分が式(1)で表される化合物および式(2)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物であり、B成分が式(3)で表される化合物から選択される少なくとも1つの化合物であり、C成分が式(4)で表される化合物から選択される少なくとも1つの化合物であり、D成分が式(5)で表される化合物から選択される少なくとも1つの化合物である、請求項1に記載の表面処理剤。
式(1)から式(5)において、Xはビニルベンジル基であり、Yはハロゲンであり、R
1、R
3、R
5、R
7およびR
9は独立して、炭素数1から4のアルキル基であり、R
2、R
4、R
6、R
8およびR
10は独立して、メチル基、エチル基またはイソプロピル基であり、mは0、1または2であり、nは0、1または2である。
【請求項3】
A成分がN-ビニルベンジル-アミノエチル-γ-アミノプロピルトリアルコキシシラン塩酸塩であり、B成分が3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランであり、C成分がビニルトリメトキシシランであり、D成分が3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランである、請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項4】
シランカップリング剤組成物が、A成分を含み、さらに、
B成分、C成分およびD成分から選ばれる少なくとも1成分を含む、請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項5】
シランカップリング剤組成物中の各成分の割合が、A成分の重量を100重量部としたとき、B成分が0~100重量部であり、C成分が0~100重量部であり、D成分が0~100重量部であり、B成分、C成分およびD成分のいずれか1成分は0重量部ではない、請求項4に記載の表面処理剤。
【請求項6】
シランカップリング剤組成物が、A成分、B成分およびC成分を含む、請求項4に記載の表面処理剤。
【請求項7】
シランカップリング剤組成物が、A成分、B成分、C成分およびD成分を含む、請求項4に記載の表面処理剤。
【請求項8】
シランカップリング剤組成物が、B成分を含み、さらに、
C成分およびD成分から選ばれる少なくとも1成分を含む、請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項9】
シランカップリング剤組成物が、B成分およびD成分を含む、請求項8に記載の表面処理剤。
【請求項10】
シランカップリング剤組成物が、B成分、C成分およびD成分を含む、請求項8に記載の表面処理剤。
【請求項11】
水を添加することでシランカップリング剤組成物がプレ加水分解液となる、請求項1~10のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項12】
プレ加水分解液が酸を含む、請求項11に記載の表面処理剤。
【請求項13】
プレ加水分解液のpHが3~7である、請求項12に記載の表面処理剤。
【請求項14】
請求項1または2に記載の表面処理剤で表面処理されたガラスクロス。
【請求項15】
請求項14に記載のガラスクロスにマトリックス樹脂が含浸されているプリプレグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子機器またはコンピューターなどのプリント回路配線基板に用いられるガラスクロスの表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的にプリント回路配線基板は、主に無機補強材とマトリックス樹脂との複合体によって構成されており、無機補強材としてはガラスクロスが最も一般的に使用されている。また、マトリックス樹脂としては近年、プリント回路配線基板の低誘電率化、低誘電正接化により、比較的低い誘電率、および低誘電正接を有するポリフェニレンエーテル(PPE)と、エポキシ樹脂等の混合物が使用されている(例えば、特許文献1参照)。より具体的には、ガラスクロスにマトリックス樹脂を含浸させて、いわゆるプリプレグを作成し、これを1枚または複数枚重ね、更に金属箔を重ねて積層成形しプリント回路配線基板の基材としている。上記プリント回路配線基板の基材を製造するに際し、ガラスクロスとマトリックス樹脂との親和性および密着性を向上させる目的で、予めシランカップリング剤でガラスクロスを表面処理することが従来から行われている。
【0003】
上記シランカップリング剤は、一般にケイ素原子に有機官能基および2~3個のアルコキシ基が結合した構造を有しており、アルコキシ基が加水分解を受け、ガラスクロスの表面とオキサン結合を作り、有機官能基がマトリックス樹脂と反応することにより、ガラスクロスとマトリックス樹脂との橋かけを行う。したがって、シランカップリング剤のアルコキシ基は加水分解される必要がある。ゆえに、該シランカップリング剤を含む従来のガラスクロスの表面処理剤としては、水と加水分解助剤の混合液にシランカップリング剤を溶解したものが多く使用されている。このときの加水分解助剤としては酢酸やギ酸などの有機酸などが用いられている。
【0004】
しかし、このような従来のガラスクロスの表面処理剤(以下、「処理剤」と略すことがある)においては、加水分解されたシラン化合物同士が処理剤中で重合し、または処理剤をガラスクロスに含浸または塗布させたときに余剰のシラン化合物同士が重合し、オリゴマー化するという問題があった。オリゴマー化するとガラスクロスとマトリックス樹脂との間の密着が不十分になる。また、ガラスクロスとマトリックス樹脂との親和性および密着性を処理剤により向上させることは重要だが、これまでの処理剤では充分な性能とは言えなかった(例えば、特許文献2参照)。その結果、得られるプリント回路配線基板の吸湿耐熱性等が十分でなく、また剥離等を起こすなど特性上の問題が生じていた。
【0005】
【特許文献1】特開2021-77786号公報
【特許文献2】国際公開第2019/167391号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ガラスクロスとマトリックス樹脂との親和性および密着性を向上させ、さらにはプリント回路配線基板の電気絶縁信頼性を高めることができる表面処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた。その結果、アルコキシ基と第4級アンモニウムカチオンを有するシランカップリング剤(A成分)、アルコキシ基と(メタ)アクリル基を有するシランカップリング剤(B成分)、ビニル基を有するシランカップリング剤(C成分)およびエポキシ基を有するシランカップリング剤(D成分)の群から選ばれる少なくとも2成分を含むシランカップリング剤組成物は水溶性であるため、従来のアミノ系シランカップリング剤と同様にガラスクロスの表面処理剤として使用することができ、しかも従来のアミノ系シランカップリング剤よりもガラスクロスとマトリックス樹脂との親和性や密着性を向上させ、さらには、ガラスクロスとマトリックス樹脂との密着性が高まる事でプリント回路配線基板の層間剥離が防止されることから、プリント回路配線基板の電気絶縁信頼性を向上させることが出来ることを見出した。これらの知見に基づいて本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、以下によって構成される。
[1] アルコキシ基と第4級アンモニウムカチオンを有するシランカップリング剤であるA成分、アルコキシ基と(メタ)アクリル基を有するシランカップリング剤であるB成分、ビニル基を有するシランカップリング剤であるC成分、およびエポキシ基を有するシランカップリング剤であるD成分から選ばれる少なくとも2成分を含むシランカップリング剤組成物と、界面活性剤とを含む表面処理剤。
[2] A成分が式(1)で表される化合物および式(2)で表される化合物の群から選択される少なくとも1つの化合物であり、B成分が式(3)で表される化合物から選択される少なくとも1つの化合物であり、C成分が式(4)で表される化合物から選択される少なくとも1つの化合物であり、D成分が式(5)で表される化合物から選択される少なくとも1つの化合物である、[1]に記載の表面処理剤。
式(1)から式(5)において、Xはビニルベンジル基であり、Yはハロゲンであり、R
1、R
3、R
5、R
7およびR
9は独立して、炭素数1から4のアルキル基であり、R
2、R
4、R
6、R
8およびR
10は独立して、メチル基、エチル基またはイソプロピル基であり、mは0、1または2であり、nは0、1または2である。
[3] A成分がN-ビニルベンジル-アミノエチル-γ-アミノプロピルトリアルコキシシラン塩酸塩であり、B成分が3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランであり、C成分がビニルトリメトキシシランであり、D成分が3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシランである、[1]または[2]に記載の表面処理剤。
[4] シランカップリング剤組成物が、A成分を含み、さらに、
B成分、C成分およびD成分から選ばれる少なくとも1成分を含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の表面処理剤。
[5] シランカップリング剤組成物中の各成分の割合が、A成分の重量を100重量部としたとき、B成分が0~100重量部であり、C成分が0~100重量部であり、D成分が0~100重量部であり、B成分、C成分およびD成分のいずれか1成分は0重量部ではない、[4]に記載の表面処理剤。
[6] シランカップリング剤組成物が、A成分、B成分およびC成分を含む[4]または[5]に記載の表面処理剤。
[7] シランカップリング剤組成物が、A成分、B成分、C成分およびD成分を含む、[4]または[5]に記載の表面処理剤。
[8] シランカップリング剤組成物が、B成分を含み、さらに、
C成分およびD成分から選ばれる少なくとも1成分を含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の表面処理剤。
[9] シランカップリング剤組成物が、B成分およびD成分を含む、[8]に記載の表面処理剤。
[10] シランカップリング剤組成物が、B成分、C成分およびD成分を含む、[8]に記載の表面処理剤。
[11] 水を添加することでシランカップリング剤組成物がプレ加水分解液となる、[1]~[10]のいずれか1項に記載の表面処理剤。
[12] プレ加水分解液が酸を含む、[11]に記載の表面処理剤。
[13] プレ加水分解液のpHが3~7である、[12]に記載の表面処理剤。
[14] [1]~[13]のいずれか1項に記載の表面処理剤で表面処理されたガラスクロス。
[15] [14]に記載のガラスクロスにマトリックス樹脂が含浸されていることを特徴とするプリプレグ。
【発明の効果】
【0009】
表面処理剤の安定性や操作性を向上させるとともに、ガラスクロスとマトリックス樹脂との親和性および密着性を向上させる。ガラスクロスとマトリックス樹脂との密着性が高まる事でプリント回路配線基板の層間剥離が防止され、さらにはプリント回路配線基板の電気絶縁信頼性を向上させることができるガラスクロスの表面処理剤として有用な表面処理剤を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の表面処理剤は、アルコキシ基と第4級アンモニウムカチオンを有するシランカップリング剤(A成分)、アルコキシ基と(メタ)アクリル基を有するシランカップリング剤(B成分)、ビニル基を有するシランカップリング剤(C成分)およびエポキシ基を有するシランカップリング剤(D成分)の群から選ばれる少なくとも2成分を含むシランカップリング剤組成物と、界面活性剤とを含む。本明細書において、(メタ)アクリル基は、アクリル基とメタクリル基のどちらか一方または両方を指す。
【0011】
A成分であるアルコキシ基と第4級アンモニウムカチオンを有するシランカップリング剤としては、式(1)で表される化合物および式(2)で表される化合物が挙げられる。
式(1)および式(2)において、Xはビニルベンジル基であり、Yはハロゲンであり、R
1およびR
3はそれぞれ炭素数1から4のアルキル基であり、R
2およびR
4はそれぞれメチル基、エチル基またはイソプロピル基であり、nは0、1または2である。
【0012】
式(1)で表されるビニルベンジル-アミノプロピルトリアルコキシシラン塩酸塩またはビニルベンジル-アミノプロピルアルキルジアルコキシシラン塩酸塩としては、ビニルベンジル-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、ビニルベンジル-アミノプロピルトリエトキシシラン塩酸塩、ビニルベンジル-アミノプロピルメチルジメトキシシラン塩酸塩などが例示される。また、式(2)で表されるN-ビニルベンジルアミノエチル-γ-アミノプロピルアルキルジアルコキシシラン塩酸塩またはN-ビニルベンジルアミノエチル-γ-アミノプロピルトリアルコキシシラン塩酸塩としては、N-ビニルベンジル-アミノエチル-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン塩酸塩、N-ビニルベンジル-アミノエチル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩、N-ビニルベンジル-アミノエチル-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン塩酸塩などが例示される。これらのうち、N-ビニルベンジル-アミノエチル-γ-アミノプロピルトリエトキシシラン塩酸塩、N-ビニルベンジル-アミノエチル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩が好ましい。入手のし易さと、得られるシランカップリング剤組成物の性能の点から、N-ビニルベンジル-アミノエチル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩がより好ましい。これらは、単独で、または2種以上の併用で、本発明のシランカップリング剤組成物のA成分として用いられる。
N-ビニルベンジル-アミノエチル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩を含む市販品としては、S350(JNC社製)、KBM-575(信越化学工業社製)、Z-6032(ダウ・東レ社製)が挙げられる。
【0013】
B成分であるアルコキシ基と(メタ)アクリル基を有するシランカップリング剤としては、式(3)で表される化合物が挙げられる。
式(3)において、R
5は炭素数1から4のアルキル基であり、R
6はメチル基、エチル基またはイソプロピル基であり、mは0、1または2である。
【0014】
式(3)で表される3-メタクリルオキシプロピルアルコキシシランとしては、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリルオキシプロピルメチルジエトキシシランなどが例示される。これらのうち、入手のし易さと得られるシランカップリング剤組成物の性能の点から、3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシランが好ましい。
【0015】
C成分であるビニル基を有するシランカップリング剤としては、式(4)で表される化合物が挙げられる。
式(4)において、R
7は炭素数1から4のアルキル基であり、R
8はメチル基、エチル基またはイソプロピル基であり、nは0、1または2である。
【0016】
式(4)で表される化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシランなどが例示される。これらのうち、入手のし易さと得られるシランカップリング剤組成物の性能の点から、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好ましい。
【0017】
D成分であるエポキシ基を有するシランカップリング剤としては、式(5)で表される化合物が挙げられる。
式(5)において、R
9は炭素数1から4のアルキル基であり、R
10はメチル基、エチル基またはイソプロピル基を表し、mは0、1または2である。
【0018】
式(5)で表される化合物としては、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシランなどが例示される。これらのうち、入手のし易さと得られるシランカップリング剤組成物の性能の点から、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0019】
前記A成分、B成分、C成分およびD成分から選ばれる少なくとも2成分を混合して、本発明の表面処理剤に用いるシランカップリング剤組成物を得る。
【0020】
本発明のシランカップリング剤組成物は水溶性であるため、従来のシランカップリング剤と同様な取扱いが可能であり、得られる表面処理剤は、従来のビニルベンジルアミノ系塩酸塩のシランカップリング剤を単独で用いたものに対して、水溶液としての安定性に優れることから取り扱いも容易になる。また、本発明の表面処理剤を用いて表面処理されたガラスクロスは、マトリックス樹脂に対し優れた親和性および密着性を示し、密着性が高まる事で、プリント回路配線基板の層間剥離が防止され、さらにはプリント回路配線基板の電気絶縁信頼性も向上することが期待できる。
【0021】
本発明の好ましい形態として、A成分を含み、さらに、B成分、C成分およびD成分から選ばれる少なくとも1成分を含む形態がある。B成分、C成分およびD成分の含有量は、A成分の重量を100重量部としたとき、B成分は0~100重量部、C成分は0~100重量部、D成分は0~100重量部の範囲である。ただし、B成分、C成分およびD成分のいずれか1成分は0重量部ではない。
【0022】
A成分と、B成分またはC成分を使用する場合のシランカップリング剤組成物中の各成分の割合は、A成分の割合は50~80重量%、B成分およびC成分の合計の割合が20~50重量%であることが好ましく、A成分の割合は50~60重量%、B成分およびC成分の合計の割合が40~50重量%であることが更に好ましい。A成分とD成分を使用する場合のシランカップリング剤組成物中の各成分の割合は、A成分の割合は50~90重量%、D成分の割合は10~50重量%であることが好ましく、A成分の割合は75~90重量%、D成分の割合は10~25重量%であることが更に好ましい。
A成分、B成分およびC成分を使用する場合のシランカップリング剤組成物中の各成分の割合は、A成分の割合は33~80重量%、B成分の割合は10~50重量%、C成分の割合は10~50重量%であることが好ましく、A成分の割合は33~50重量%、B成分の割合は20~40重量%、C成分の割合は20~40重量%であることが更に好ましい。このシランカップリング剤組成物は、水溶液安定性とPPE樹脂の浸透のバランスが良い。
より接触角を低下させることを重視する場合には、A成分、B成分、C成分およびD成分を使用する形態が好ましい。この場合のシランカップリング剤組成物中の各成分の割合は、A成分の割合は25~70重量%、B成分の割合は5~25重量%、C成分の割合は5~50重量%、D成分の割合は5~25重量%であることが好ましく、A成分の割合は40~60重量%、B成分の割合は5~15重量%、C成分の割合は20~40重量%、D成分の割合は5~20重量%であることが更に好ましい。
【0023】
その他の好ましい形態として、B成分を含み、さらに、A成分、C成分およびD成分から選ばれる少なくとも1成分を含む形態がある。この形態のシランカップリング剤組成物は、PPE樹脂との親和性が特に優れている。さらに水溶液としての安定性を重視する場合には、B成分、C成分およびD成分を使用する形態、または、B成分とD成分を使用する形態が好ましく、B成分とD成分を使用する形態が更に好ましい。
B成分とC成分を使用する場合のシランカップリング剤組成物中の各成分の割合は、B成分の割合は50~90重量%、C成分の割合は10~50重量%であることが好ましく、B成分の割合は65~75重量%、C成分の割合は25~35重量%であることがさらに好ましい。
B成分、C成分およびD成分を使用する場合のシランカップリング剤組成物中の各成分の割合は、B成分の割合は50~80重量%、C成分の割合は10~50重量%、D成分の割合は3~30重量%であることが好ましく、B成分の割合は60~75重量%、C成分の割合は20~40重量%、D成分の割合は5~20重量%であることがさらに好ましい。
B成分とD成分を使用する場合のシランカップリング剤組成物中の各成分の割合は、B成分の割合は10~40重量%、D成分の割合は60~90重量%であることが好ましく、B成分の割合は10~30重量%、D成分の割合は70~90重量%であることがさらに好ましい。
【0024】
なお、シランカップリング剤を混合させる場合、溶媒は用いなくてもよいが、必要に応じてアルコール等の溶媒を用いてもよい。
【0025】
本発明において用いられる界面活性剤は公知のものを用いてよい。陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤または非イオン界面活性剤のいずれを用いてもよいが、作業性または特性面などから非イオン界面活性剤が好ましい。非イオン界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、しょ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、脂肪酸ポリエチレングリコール、脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン、脂肪酸アルカノールアミドなどが挙げられる。
陰イオン界面活性剤としては、脂肪酸モノカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、N-アシルサルコシン塩、N-アシルグルタミン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩-ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩、N-メチル-N-アシルタウリン塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、油脂硫酸エステル塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩などが挙げられる。
陽イオン界面活性剤としては、モノアルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、トリアルキルアミン塩、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化アルキルベンザルコニウムなどが挙げられる。両性界面活性剤としては、アルキルベタイン、脂肪酸アミドプロピルベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルジエチレントリアミノ酢酸、アルキルアミンオキシドなどが挙げられる。
【0026】
前記界面活性剤のHLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)値としては、6~19を採用することができる。ここで、界面活性剤のHLB値は、界面活性剤の化学構造に基づいて算出することができる。なかでも、HLB値が10以上のものが好ましく、さらにHLB値の範囲が13~15のものがより好ましい。ポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルが特に好ましく用いられる。処理剤中の界面活性剤の濃度は、固形分で約0.1~50.0g/L程度が好ましく、より好ましくは約0.5~10.0g/L程度である。
【0027】
本発明の表面処理剤は、本発明に用いるシランカップリング剤組成物を含有するものであれば、その組成や物性等で特に限定されるものではない。すなわち、本発明のシランカップリング剤組成物をそのまま処理剤として用いてもよく、溶媒で希釈した液を処理剤として用いてもよい。溶媒で希釈して処理剤とするのが好ましい。溶媒としては、アルコール等の有機溶媒や水が挙げられるが、安全性と衛生性の点から水が好ましい。溶媒として水を使用することで、後述するプレ加水分解液となる。溶媒として水を用いる場合は、酸を加えてpHを3~7に調整することは処理剤の貯蔵安定性の点から好ましい。このときに加える酸は特に限定はされないが、酢酸が好ましく用いられる。
【0028】
溶媒として水を用いる場合は、シランカップリング剤組成物の全重量に対し、好ましくは0.001~1の重量比、より好ましくは0.001~0.1の重量比、さらに好ましくは0.001~0.05の重量比で水を添加混合したプレ加水分解液とし、これをそのまま、もしくは希釈して処理剤とすることが好ましい。シランカップリング剤組成物は、プレ加水分解液とすることにより、水に対する溶解性が向上する。また、プレ加水分解液を希釈して得られる処理剤は、プレ加水分解液を経由しない場合に比べ優れた界面密着性を発現する。プレ加水分解液の構成成分として用いられる水は、純水が好ましく用いられる。
プレ加水分解液には、均一なプレ加水分解液を得るため、更にアルコールを添加することができる。用いられるアルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が好ましい。アルコールを添加する場合は、シランカップリング剤組成物の全重量に対し0.02~5の重量比であれば、プレ加水分解液およびこれより調製される処理剤を、均一に調製することができる。
【0029】
プレ加水分解液は、必要に応じて酸を加えてpHを調整することにより貯蔵安定性を向上させることができる。好ましい酸は、酢酸、マレイン酸等である。プレ加水分解液のpHは、好ましくは3~7、より好ましくは3~5、さらに好ましくは4~5である。pHが上記の範囲であれば、プレ加水分解液およびこれから調製される処理剤は透明で均一であり、白濁やゲル化等が起き難い。
【0030】
プレ加水分解液は、シランカップリング剤組成物に水、更に必要に応じてアルコールおよび/または酸を添加し、室温(20~30℃)で10分~2時間、撹拌して製造するのが好ましい。撹拌時間は、0.2時間以上が好ましく、0.5~1時間程度がより好ましい。
【0031】
本発明の表面処理剤は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、本発明に用いるシランカップリング剤組成物、界面活性剤、溶媒および酸に加えて、顔料、消泡剤、潤滑剤、防腐剤、pH調節剤、フィルム形成剤、帯電防止剤、抗菌剤、染料等から選択される、その他の添加剤の1種以上を含有してもよい。
【0032】
本発明の表面処理剤に含まれる該シランカップリング剤組成物の割合は、該表面処理剤中、好ましくは0.01~40重量%、より好ましくは0.01~10重量%の範囲である。
【0033】
本発明の表面処理剤を用いてガラスクロスを処理する方法は、公知の方法を用いてよい。具体的には、該処理剤にガラスクロスを浸漬するか、もしくは該処理剤を霧状にしてガラスクロスに塗布し、熱処理(例えば、約100~150℃程度で、約0.1~10分間程度)することによって行われる。このとき、ガラスクロスに対するシランカップリング剤の付着量は約0.030~0.300重量%程度、界面活性剤の付着量は約0.015~0.300重量%程度が好ましい。また、ガラスクロスに対するシランカップリング剤と界面活性剤の付着量の和は約0.045~0.600重量%程度が好ましい。この付着量とは、強熱減量試験(JIS規格R3420:2013に記載)により測定される有機成分の重量減分である。
【0034】
無機補強材である上記ガラスクロスは公知のものを用いてよい。具体的には、ガラスクロスの製織に使用される経糸および緯糸として、フィラメント径が好ましくは約5~10μm程度のモノフィラメントを約100~800本程度集束したガラス糸を用いるのが好ましい。織り組織としては平織り、朱子織、ななこ織、綾織等で製織されたものが挙げられ、平織りが好ましい。ガラスの種類としては、プリント回路配線基板の基材として使用されるEガラス(無アルカリ)、Dガラス(低誘電)、Tガラス(高強度)、Cガラス(アルカリ石灰)およびHガラス(高誘電)等が使用できる。好ましくは、JIS R 3414に記載されたEP03C、EP06、EP08A、EP11C、EP10AまたはEP18B等が挙げられる。
【0035】
上記のようにして得られる本発明のガラスクロスにマトリックス樹脂を含浸させて、本発明のプリプレグを作製できる。マトリックス樹脂は公知のものを用いてよい。具体的には、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂もしくはビスマレイミドトリアジン(BT)樹脂などの熱硬化性樹脂、またはPPE樹脂、ポリエーテルイミド樹脂もしくはフッ素樹脂などの熱可塑性樹脂などが挙げられる。マトリックス樹脂には硬化剤など公知の添加物を含有させてもよい。本発明のプリプレグを用いて単層板や積層板を製造することができる。例えば、本発明に係るガラスクロスに上記マトリックス樹脂を含浸させてプリプレグを作製し、該プリプレグを所定複数枚積層し、上下に銅箔を置くか又は内層コア板の上に積層して加熱加圧成形することによりプリント回路配線基板の基材である積層板を得ることができる。
【0036】
ガラスクロスにマトリックス樹脂を含浸させる際には、マトリックス樹脂を溶媒に溶解させて用いることが好ましい。溶媒は、マトリックス樹脂を溶解できば限定されないが、例としてトルエン、アセトン、メチルセロソルブ、ジメチルホルムアミド、シクロヘキサノン等が挙げられる。トルエンはPPE樹脂を用いる際の溶媒として一般的に用いられている。
【0037】
本発明にかかる単層板および積層板は、ガラスクロスとマトリックス樹脂との密着性が優れている。そのため、従来の処理剤により表面処理したガラスクロスを用いた積層板に比べ、密着性が高まる事で、プリント回路配線基板の層間剥離が防止され、さらにはプリント回路配線基板の電気絶縁信頼性も向上する。
【実施例0038】
以下、本発明を実施例により具体的かつ詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。尚、実施例および比較例で用いられた化合物の略号と化学式および試験方法は、下記の通りである。
S350:N-ビニルベンジル-アミノエチル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩40%メタノール溶液(JNC社製)。
S710:3-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(JNC社製)。
S210:ビニルトリメトキシシラン(JNC社製)。
S510:3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン(JNC社製)。
【0039】
S350、S710、S210およびS510の化学式は、それぞれ、式(2-1)、式(3-1)、式(4-1)、式(5-1)である。
【0040】
[表面処理剤(プレ加水分解液)の作成]
A成分のシランカップリング剤としてS350を、B成分のシランカップリング剤としてS710を、C成分のシランカップリング剤としてS210を、D成分のシランカップリング剤としてS510を用い、A成分、B成分、C成分およびD成分から2成分以上を用いてシランカップリング剤組成物とした。シランカップリング剤組成物に、界面活性剤としてポリオキシエチレンアルキルエーテルおよび、溶媒として純水を混合させた。さらに、有機酸として酢酸を用いてpH4に調整し、プレ加水分解液を作成した。シランカップリング剤組成物に用いたシランカップリング剤とその比率は表1-1、表1-2、表2、および表3に、実施例での評価結果と共に記載した。
【0041】
[スライドガラスの表面処理]
JISR3703を満たす、無色透明のスライドガラスを用意した。前記プレ加水分解液をシランカップリング剤の濃度が1重量%になるように純水と酢酸を用いて調整し、表面処理剤として用いた。前記表面処理剤に前記スライドガラスを浸漬させた後、スライドガラスの片方を持ち液滴が落ちなくなるまで待ち、さらに110℃で5分間乾燥させて本実施例の表面処理されたスライドガラスを得た。
【0042】
[ガラスクロスの表面処理]
IPC規格スタイル7628のガラスクロスにヒートクリーニングを行い、ガラスクロス表面に存在する有機物を除去したガラスクロスを用意した。前記プレ加水分解液をシランカップリング剤の濃度が1重量%になるように純水と酢酸を用いて調整し、表面処理剤として用いた。前記表面処理剤に前記ガラスクロスを浸漬させた後、これをガラス棒により絞液し、さらに110℃で5分間乾燥させて本実施例の表面処理されたガラスクロスを得た。ガラスクロスに対するシランカップリング剤と界面活性剤の付着量の和を、強熱減量試験で測定される有機成分の重量減分から算出したところ、0.20重量%であった。強熱減量試験はJIS規格R3420:2013に則って行った。
【0043】
[マトリックス樹脂の調整]
マトリックス樹脂1は、両末端ヒドロキシ基のポリフェニレンエーテル樹脂としてNORYL SA90(SABIC社製)と、ビスフェノールA樹脂としてjER1001(三菱ケミカル社製)と、多官能樹脂としてjER154(三菱ケミカル社製)、溶媒としてシクロヘキサノンを使用し、SA90:jER1001:jER154が重量比で110.94:100:10.94となり、固形分が56.8重量%となるように調整した。
【0044】
マトリックス樹脂2は、ビスフェノールA樹脂としてjER1001(三菱ケミカル社製)、多官能樹脂としてjER154(三菱ケミカル社製)、溶媒としてシクロヘキサノンを使用し、jER1001:jER154が重量比で100:10.94となり、固形分が56.8重量%となるように調整した。
【0045】
マトリックス樹脂3は、両末端メタクリル基のポリフェニレンエーテル樹脂としてNORYL SA9000(SABIC社製)、架橋助剤としてトリアリルイソシアヌレート(TCI社製)、溶媒としてシクロヘキサノンを使用し、SA9000:トリアリルイソシアヌレートが重量比で70:30となり、固形分が56.8重量%となるように調整した。
【0046】
[加水分解試験]
前記プレ加水分解液をシランカップリング剤の濃度が2重量%になるように、またpHが3~5の範囲になるように純水と酢酸を用いて調整し、このプレ加水分解液を1Lビーカーに500mL入れた。ウォーターバスにより30℃に保ちながら、メカニカルスターラーにより300rpmにて攪拌し白濁するまでの時間を観察した。
処理剤はシランカップリング剤が加水分解することでガラスクロスとマトリックス樹脂との橋かけがおこり表面処理剤としての特性を発揮するが、徐々に加水分解したシランカップリング剤同士の重合が起こり、白濁が見られる。シランカップリング剤同士の重合が起こると作業性や表面処理剤の特性が悪くなるため、水溶液は白濁が起こりにくく、長時間安定していることが好ましい。白濁するまでの時間が長いほど水溶液安定性が良好であり、本発明では、白濁するまでの時間が20時間未満であれば水溶液安定性が不良、20時間以上であれば可、40時間以上であれば良であると判断した。
[接触角測定]
前記表面処理させたスライドガラスに、マトリックス樹脂1~3を18Gシリンジ針の先より着滴させ、その接触角度を5回測定し、平均値 を接触角とした。測定にはKYOWA社製自動接触角計DM-501を用いた。接触角の数値が小さいほどマトリックス樹脂の濡れ広がり性がよく、本発明では、接触角の数値が35°以上であれば不良、35°未満であれば可と判断した。
[ウェットアウト試験]
前述した表面処理されたガラスクロスを5cm四方の大きさに切り出し、試験片を作成した。次にマトリックス樹脂1~3に浮かべ、樹脂通過後のガラスクロスへのマトリックス樹脂の浸透(ウェットアウト)の度合いを5段階(1(不良)~5(良好)の感応評価)で評価した。ウェットアウト評価が1を不良、2以上を可と判断した。
【0047】
本発明では、水溶液安定性、接触角およびウェットアウト評価がいずれも可以上である場合に総合評価を「可」と判断し、いずれか1つでも不良である場合に総合評価を「不可」と判断した。
【0048】
実施例1~11
上述の方法に従い、加水分解試験、接触角測定、ウェットアウト試験を実施した。マトリックス樹脂は、マトリックス樹脂1を使用した。使用した表面処理剤のシランカップリング剤組成は表1-1または表1-2に示した。結果を表1-1または表1-2に示す。
【0049】
比較例1~3
S350、S710、S210をそれぞれ単独で使用した以外は、実施例1~11と同様に表面処理剤を調整し、同じ方法で加水分解試験、接触角測定、ウェットアウト試験を実施した。比較例1~3の結果を表1-2に示す。
【0050】
【0051】
【0052】
表1―1および表1-2に示した通り、実施例1~11は加水分解試験にて白濁するまでの時間が20時間以上で、水溶液安定性が可または良であり、良好な水溶液安定性を示した。接触角も30°以下であり可であった。特に実施例10は22.7°と良好な濡れ広がり性を示した。ウェットアウト評価も全実施例において2以上で可であり、総合評価は可となった。一方、比較例1は接触角測定の結果は可であったものの実施例と比較するとやや高めであった。白濁するまでの時間は3時間と短く不可であり、ウェットアウト評価も不可であり、総合評価は不可であった。比較例2は白濁するまでの時間および接触角は可であったが、ウェットアウト評価は不可であり、総合評価は不可であった。比較例3は白濁するまでの時間は200時間以上と良好であり、接触角測定の結果は可であった。しかし接触角は実施例と比較するとやや高めであった。ウェットアウト評価は不可であり、総合評価は不可であった。
【0053】
実施例12~30、比較例4~5
マトリックス樹脂1を、マトリックス樹脂2またはマトリックス樹脂3に変更した以外は、実施例1~11と同じ方法で、接触角測定、ウェットアウト試験を実施した。マトリックス樹脂2またはマトリックス樹脂3を用いた場合、特開2002―194670号公報の比較例1開示の方法と同様に、比較例をS350とした。使用した表面処理剤のシランカップリング剤組成は表2または表3に示した。結果を表2または表3示す。
【0054】
【0055】
【0056】
表2および表3に示した通り、実施例12~30は、白濁するまでの時間が20時間以上で水溶液安定性が可または良であり、接触角も35°以下で可であり、ウェットアウト評価も2以上で可であり、総合評価は可となった。一方、比較例4は接触角、ウェットアウト評価は可であったものの、接触角は多くの実施例と比較するとやや高めであった。また白濁するまでの時間が3時間と短く、総合評価は不可であった。比較例5は、水溶液安定性の不良に加えて、接触角も38°以上と不良であり、総合評価は不可であった。
【0057】
本発明の実施例は、水溶液安定性、濡れ広がり性、良好なウェットアウトの全てを満たすことができた。一方、シランカップリング剤を単独で使用した比較例では、いずれかの特性を満たすことができなかった。
【0058】
上記結果は、本発明により得られる表面処理剤が、水溶液としての安定性に優れ、かつ、種々のマトリックス樹脂において、濡れ広がり性、樹脂通過後の樹脂の浸透といった親和性に優れている事を示しており、密着性が高まると期待され、ガラスクロスの表面処理剤として有効であることがわかる。
本発明に係る表面処理剤を用いれば、保存安定性に優れるので操作性が向上し、ガラスクロスとマトリックス樹脂の親和性が良好であることから、ガラスクロスとマトリックス樹脂の密着性が高まり、プリント回路配線基板の層間剥離が防止され、さらにはプリント回路配線基板の電気絶縁信頼性も向上することが期待される。