(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159957
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】静電チャック及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20231026BHJP
H02N 13/00 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H02N13/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069906
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】高橋 鉄兵
(72)【発明者】
【氏名】前平 謙
【テーマコード(参考)】
5F131
【Fターム(参考)】
5F131AA02
5F131AA03
5F131EB12
5F131EB15
5F131EB18
5F131EB19
(57)【要約】
【課題】ジョンソン・ラーベック力とグラディエント力とによる吸着力を発現させて基板Swを吸着する際に、常時、同等の吸着力が得られるようにした静電チャックを提供する。
【解決手段】基台Bp表面に設けられて基板Swを吸着する静電チャックECは、体積抵抗率が10
12Ωcm以上の誘電層1とこの誘電層内に組み込まれる電極層2とを備える。電極層が、平板状の第1電極部21a,21bと第1電極部より狭い線幅を有すると共に互いに近接配置される正負一対の第2電極部22a,22bとを有する。第1電極部の上方に位置する前記誘電層の部分が体積抵抗率を局所的に低下させた低体積抵抗率層1cで構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台表面に設けられて被吸着物を吸着する静電チャックであって、
体積抵抗率が1012Ωcm以上の誘電層とこの誘電層内に組み込まれる電極層とを備え、前記電極層が、平板状の第1電極部とこの第1電極部より狭い線幅を有すると共に互いに近接配置される正負一対の第2電極部とを有するものにおいて、
前記誘電層の被吸着物の吸着面側を上として、前記第1電極部の上方に位置する前記誘電層の部分が体積抵抗率を局所的に低下させた低体積抵抗率層で構成されることを特徴とする静電チャック。
【請求項2】
前記低体積低効率層の体積抵抗率が106Ωcm~1012Ωcmの範囲に設定されることを特徴とする請求項1記載の静電チャック。
【請求項3】
前記低体積低効率層が前記誘電層にドープ材をドープすることで形成されることを特徴とする請求項1記載の静電チャック。
【請求項4】
前記誘電層及び前記低体積抵抗率層が溶射膜で構成されることを特徴とする請求項3記載の静電チャック。
【請求項5】
請求項3または請求項4記載の静電チャックであって、前記誘電層がAl2O3を主成分とするものにおいて、前記ドープ材がTiO2、Cr、Ca、Mg、SiO2及びCの中から選択される少なくとも1種であることを特徴とする静電チャック。
【請求項6】
基台表面に設けられて被吸着物を吸着保持する静電チャックの製造方法において、
基台表面に体積抵抗率が1012Ωcm以上の第1誘電層部を溶射によって形成する第1工程と、
第1誘電層部の表面に、平板状の第1電極部と、この第1電極部より狭い線幅を有すると共に互いに近接配置される正負一対の第2電極部とを形成する第2工程と、
前記第2電極部を覆うように第1誘電層部と同等の体積抵抗率が持つ第2誘電層部を、且つ、前記第1電極部を覆うように第1誘電層部より低い体積抵抗率が持つ第3誘電層部を、溶射によって第1誘電層部の表面に形成する第3工程とを含むことを特徴とする静電チャックの製造方法。
【請求項7】
前記第1誘電層部及び前記第2誘電層部の溶射材料として同一の誘電性材料を用い、前記第3誘電層部の溶射材料として前記誘電性材料に所定の重量比でドープ材をドープしたものを用いることを特徴とする請求項6記載の静電チャックの製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の静電チャックの製造方法であって、前記誘電層がAl2O3を主成分とするものにおいて、前記ドープ材がTiO2、Cr、Ca、Mg、SiO2及びCの中から選択される少なくとも1種であることを特徴とする静電チャックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基台表面に設けられて被吸着物を吸着保持する静電チャック及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、フラットパネルディプレイの製造工程においては、ガラス、石英や樹脂製で比較的大面積の基板に対してプラズマ雰囲気を利用した成膜処理、イオン注入処理やエッチング処理といった各種の真空処理が施される。このような真空処理を行う真空処理装置では、真空雰囲気中の真空チャンバ内で基板を位置決め保持する静電チャックを備えるステージが一般に設けられている。真空処理中には、ステージとの熱交換で静電チャックに吸着された被吸着物としての基板を所定温度以下に冷却保持する場合があり、これには、真空処理の終了までの間、静電チャックに基板をその全面に亘って密着した状態で吸着保持できることが求められる。
【0003】
この種の静電チャックは、例えば特許文献1で知られている。このものは、Al2O3(アルミナ)を主成分とし、体積抵抗率が108Ωcm~1014Ωcmの範囲のセラミックス材で構成される誘電層(保持台)を有し、その内部には正負一対の電極層が組み込まれている。そして、誘電層の基板の吸着面側を上とし、電極層より上方に位置する誘電層の部分の厚さを薄くすることで、ジョンソン・ラーベック力が支配的な吸着力を発現させて基板を吸着できるようにしている。このとき、各電極をジョンソン・ラーベック力に加えてグラディエント力も発現するように電極層を構成することができる。
【0004】
上記構成を採用すれば、例えば、絶縁性の基板に対する成膜処理によりその表面に導電膜を成膜するような場合、分極が起こり難い真空処理開始前の基板は、グラディエント力が支配的な吸着力により吸着でき、基板表面に導電膜が成膜されてくると、ジョンソン・ラーベック力が支配的な吸着力により基板の保持状態を維持することができる。然し、ジョンソン・ラーベック力及びグラディエント力による吸着力を発現可能にした場合、電極層より上方に位置する誘電層の部分が同質のセラミック材で構成されていると、ジョンソン・ラーベック力とグラディエント力とのいずれか一方が支配的な吸着力を発現させときの当該吸着力を効果的に強めることができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑みなされたものであり、ジョンソン・ラーベック力またはグラディエント力が支配的な吸着力を発現させて被吸着物を吸着する際に、常時、同等の吸着力が得られるようにした静電チャック及びその製法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、基台表面に設けられて被吸着物を吸着する本発明の静電チャックは、体積抵抗率が1012Ωcm以上の誘電層とこの誘電層内に組み込まれる電極層とを備え、前記電極層が、平板状の第1電極部とこの第1電極部より狭い線幅を有すると共に互いに近接配置される正負一対の第2電極部とを有し、前記誘電層の被吸着物の吸着面側を上として、前記第1電極部の上方に位置する前記誘電層の部分が体積抵抗率を局所的に低下させた低体積抵抗率層で構成されることを特徴とする。
【0008】
以上によれば、例えば、被吸着物としてのガラス等の絶縁性の基板に対して導電膜を成膜するような場合、静電チャックに基板を載置した後、第2電極部の正極と負極との間に直流電圧(例えば、1kV~5kV)を印加すると、グラディエント力が支配的な吸着力を発現させて基板が誘電層上面に吸着される。そして、基板表面に導電膜が成膜されてくると、第1電極部に直流電圧(例えば、10V~10000V)を印加し、ジョンソン・ラーベック力が支配的な吸着力を発現させて基板の誘電層上面への吸着状態が維持される。このように本発明では、第1電極部及び第2電極部より上方に位置する誘電層の部分を体積抵抗率の異なる層とする構成を採用することで、ジョンソン・ラーベック力またはグラディエント力が支配的な吸着力を発現させて被吸着物を吸着する場合でも、常時、同等の吸着力が得られる。このため、基板に対して導電膜を成膜する間、略一定の吸着力で基板Swを吸着保持することができる。この場合、第2電極部の上方に位置する誘電層の体積抵抗率が1012Ωcmより小さいと、正極と負極との間に印加する直流電圧を高くしても、グラディエント力が支配的な強い吸着力が発現しない。一方、第1電極部の上方に位置する誘電層の体積抵抗率もまた106Ωcm~1012Ωcmの範囲から外れると、ジョンソン・ラーベック力が支配的な強い吸着力が発現しない。なお、第1電極部としては、通常、同等の面積を持つ一対の電極で構成されるが(双極型)、プラズマ雰囲気を利用して成膜処理を施すような場合には、単極型としてもよい。
【0009】
本発明において、前記低体積低効率層が前記誘電層にドープ材をドープすることで形成され、このとき、前記誘電層及び前記低体積抵抗率層が溶射膜で構成されることが好ましい。ここで、例えば、Al2O3を主成分とするもので誘電層を形成する場合、その製作には焼結法を用いることが考えられる。然し、このような焼結法では、焼結時の熱膨張や熱収縮によって一様な界面を持って体積抵抗率の異なる層を形成することが困難であり、例えば、絶縁破壊を招来するといった問題が招来する。それに対して、誘電層及び低体積抵抗率層を溶射膜とすれば、一様な界面を持って体積抵抗率の異なる層を容易に形成することができ、有利である。なお、誘電層がAl2O3を主成分とする場合、前記ドープ材がTiO2、Cr、Ca、Mg、SiO2及びCの中から選択される少なくとも1種であれば、体積抵抗率が106Ωcm~1012Ωcmの範囲内の誘電層を簡単に実現することができる。
【0010】
また、上記課題を解決するために、基台表面に設けられて被吸着物を吸着保持する静電チャックの本発明の製造方法は、基台表面に体積抵抗率が1012Ωcm以上の第1誘電層部を溶射によって形成する第1工程と、第1誘電層部の表面に、平板状の第1電極部と、この第1電極部より狭い線幅を有すると共に互いに近接配置される正負一対の第2電極部とを形成する第2工程と、前記第2電極部を覆うように第1誘電層部と同等の体積抵抗率が持つ第2誘電層部を、且つ、前記第1電極部を覆うように第1誘電層部より低い体積抵抗率が持つ第3誘電層部を、溶射によって第1誘電層部の表面に形成する第3工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明においては、前記第1誘電層部及び前記第2誘電層部の溶射材料として同一の誘電性材料を用い、前記第3誘電層部の溶射材料として前記誘電性材料に所定の重量比でドープ材をドープしたものを用いることが好ましく、前記誘電層がAl2O3を主成分とするような場合には、前記ドープ材がTiO2、Cr、Ca、Mg、SiO2及びCの中から選択される少なくとも1種とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態の静電チャックを基板の吸着状態で示す模式断面図。
【
図3】(a)~(d)は、
図1に示す静電チャックの製作手順を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、被吸着物をガラス製基板(以下「基板Sw」という)とし、図外の真空チャンバ内で基板Swを吸着するための本発明の静電チャック及びその製造方法の実施形態を説明する。以下においては、上、下、左、右といった方向を示す用語は
図1を基準とする。
【0014】
図1及び
図2を参照して、本実施形態の静電チャックECは、基板Swに対応する矩形の輪郭を有し且つ上面が平坦面に形成されるチタンやアルミニウムといった金属製の基台Bp上面に設けられる誘電層1とこの誘電層1内に組み込まれる電極層2とを備える。誘電層1は、10
12Ωcm以上の体積抵抗率を有するように、Al
2O
3(アルミナ)、AlN(窒化アルミ)やSiC(炭化ケイ素)といった誘電性材料を溶射材料とし、この溶射材料を溶射することで形成された50μm以上の膜厚の溶射膜で構成される。なお、溶射膜の形成に利用できる溶射装置としては、公知のものが利用できるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0015】
電極層2は、誘電層1の長手方向(
図1中、左右方向)両側に夫々設けられる正負一対の第1電極部21a,21bと、第1電極部21a,21bの間に位置する中央領域に設けられる正負一対の第2電極部22a,22bとを有する。同一面積を持つ第1電極部21a,21bは、タングステンやモリブデン等の比較的電気伝導率に優れた高融点材料を真空蒸着法やスパッタリング法によって平板状に成膜した1μm以上の膜厚の金属膜で夫々構成される。第1電極部21a,21bの面積(線幅:
図1中、左右方向の幅)は、基板Swの面積、基板Swを吸着するのに必要な吸着力、後述の低体積抵抗率層の厚さ及び体積抵抗率などを考慮して適宜設定される。第2電極部22a,22bもまた、タングステンやモリブデン等の比較的電気伝導率に優れた高融点材料を真空蒸着法、スパッタリング法やCVD法によって所定のパターンで成膜した1μm以上の膜厚の金属膜で構成される。本実施形態では、電圧を印加したときに効率よく電界が発生するように、正の第2電極部22aと負の第2電極部22bとが、第1電極部21a,21bより狭い(細い)線幅で互いに対向して直線状にのびるように狭い間隔で交互に配置されるパターンで形成されている。この場合、線路長が、好ましくは5cm/cm
2以下となるように設定される。なお、正の第2電極部22aと負の第2電極部22aとのパターンは、対向面の長さを長くできるものであれば、これに限定されるものではなく、曲線状、櫛歯状や円周状にしてもよい。
【0016】
第1電極部21a,21b及び第2電極部22a,22bの上方に位置する誘電層1の厚さは、例えば、ジョンソン・ラーベック力が支配的な吸着力が基板Swと第1電極部21a,21bとの間の距離の二乗で変化することを考慮して50μm以上に設定される。これに加えて、第1電極部21a,21bの上方に位置する誘電層1の部分が体積抵抗率を局所的に低下させた低体積抵抗率層(後述の第3誘電層部1c)で構成される。低体積抵抗率層1cの体積抵抗率は、ジョンソン・ラーベック力が支配的な吸着力を発現させたときの吸着力を効果的に強めるために、106Ωcm~1012Ωcmの範囲に設定される。そして、直流電源E1によって、正負一対の第1電極部21a,21b間に所定電圧(例えば、10V~10000V)を印加すると、ジョンソン・ラーベック力が支配的な吸着力が発現する。他方、直流電源E2によって、正負一対の第2電極部22a,22b間に所定電圧(例えば、1kV~5kV)を印加すると、グラディエント力が支配的な吸着力が発現する。
【0017】
ここで、誘電層1(具体的には、第2電極部22a,22bが形成された領域の上方に位置する部分)の体積抵抗率が10
12Ωcmより小さいと、第2電極部22a,22bに印加する直流電圧を高くしても、効果的にグラディエント力が支配的な吸着力を発現させることができない。同様に、低体積抵抗率層の体積抵抗率が10
6Ωcm~10
12Ωcmの範囲から外れると、ジョンソン・ラーベック力が支配的な吸着力を発現させることができない。また、低体積低効率層1cは、例えば、上記誘電性材料に所定のドープ材を予めドープ(添加)したもの溶射材料とし、これを溶射することで形成することができる。誘電性材料がAl
2O
3を主成分とするような場合、ドープ材としては、TiO
2、Cr、Ca、Mg、SiO
2及びCの中から選択される少なくとも1種を用いることができる。なお、低体積低効率層1cの形成方法は、これに限定されるものではなく、例えば、イオン注入装置を用いてドープ材をドーブ(注入)することもできる。以下に、
図3を参照して、本実施形態の静電チャックECの製造方法の一例を説明する。
【0018】
Al
2O
3(アルミナ)を主成分とする誘電性材料を溶射材料とし、
図3(a)に示すように、公知の溶射装置を用い、基台Bpの上面にその全面に亘って溶射することで体積抵抗率が10
12Ωcm以上の誘電層(これを第1誘電層1aとする)を所定膜厚で形成する(第1工程)。次に、モリブデンを主成分とする金属材料をスパッタリングターゲットとし、
図3(b)に示すように、公知のスパッタリング装置を用い、第1誘電層1aの上面に正負一対の第1電極部21a,21bと、正負一対の第2電極部22a,22bとを同時にパターニング形成する(第2工程)。パターニング形成には、第1電極部21a,21b及び第2電極部22a,22bに対応する開口を開設したマスクプレートを利用すればよい。
【0019】
次に、
図3(c)に示すように、第1誘電層部1aの上面と同等の面積を有し、第2電極部22a,22bが形成された領域に上下方向で合致する開口Moを設けたマスクプレートMp1を第1電極部21a,21b及び第2電極部22a,22bが形成された第1誘電層部1a上に設置する。この状態で、第1工程で使用されたものと同質の誘電性材料を溶射材料とし、公知の溶射装置を用い、第1誘電層部1aの上面に、第2電極部22a,22bが形成された領域を覆うように溶射することで体積抵抗率が10
12Ωcm以上の誘電層(これを第2誘電層1bとする)を所定膜厚で形成する。このとき、(
図1中、左右方向で)互いに隣接する第1電極部21a,21bと第2電極部22a,22bとの間にも溶射材料が充填されるようになる。
【0020】
次に、
図3(d)に示すように、第2誘電層部1bの上面に合致する面積を有するプレートMp2を第2誘電層部1b上に設置する。この状態で、第1工程で使用される導電性材料に所定の重量比でドープ材を添加したものを溶射材料とし、公知の溶射装置を用い、第1誘電層部1aの上面に、第1電極部21a,21bが形成された領域を覆うように溶射することで体積抵抗率が10
6Ωcm~10
12Ωcmの範囲の低体抵抗率層としての誘電層(第3誘電層部1cとする)を所定膜厚で形成する(第3工程)。ドープ材としては、TiO
2,Cr,Ca,Mg,SiO
2及びCの中から選択される少なくとも1種が用いられ、所定の重量比で添加される。最後に、第2誘電層部1b及び第3誘電層部1cの上面が平坦になるように機械加工が施される。
【0021】
以上の実施形態によれば、基板Swに対して導電膜を成膜するような場合、静電チャックEcに基板を載置した後、第1電源E1によって正負一対の第2電極部22a,22bの間に直流電圧が印加されると、グラディエント力が支配的な吸着力を発現させて基板Swが誘電層1の上面に吸着される。そして、基板Sw表面に導電膜が成膜されてくると、第1電極部21a,21bの間に直流電圧を印加し、ジョンソン・ラーベック力が支配的な吸着力を発現させて基板Swの誘電層1の上面への吸着状態が維持される。このように本実施形態の静電チャックECでは、第1電極部21a,21b及び第2電極部22a,22bより上方に位置する誘電層の部分を体積抵抗率の異なる(第2誘電層部1b及び第3誘電層部1cで構成することで、ジョンソン・ラーベック力またはグラディエント力が支配的な吸着力を発現させて基板Swを吸着する場合でも、常時、同等の吸着力が得られる。このため、基板Swに対して導電膜を成膜する間、略一定の吸着力で基板Swを吸着保持することができる。また、溶射により第2誘電層1bと第3誘電層1cとを形成したことで、上下方向に一様な界面を持って体積抵抗率の異なる第2誘電層1bと第3誘電層1cとが形成されるため、絶縁破壊が生じるといった不具合は生じない。なお、第2誘電層1cと第3誘電層1bの界面は、互いに隣接する第1電極部21a,21bと第2電極部22a,22bとの略中間点を通る上下線に沿って位置することが好ましい。
【0022】
次に、本発明の効果を確認するため、誘電性材料がAl
2O
3を主成分とするもの、低体積抵抗率層を構成する誘電性材料が上記誘電性材料にTiO
2を所定の重量比で添加したものとし、上記製造方法により作製した静電チャック(発明品)を用いて、基板Swを吸着したときの吸着力を測定した。なお、比較品として、上記第3工程で、第1工程で使用された同質の誘電性材料を溶射材料とし、公知の溶射装置を用い、第1誘電層1c上にその全面に亘って誘電層を一体に形成したものを作製した。これによれば、
図4に示すように、比較品では、直流電源E1により第1電極部21a,21bに3Vの電圧を印加したときの吸着力は500Pa程度であった。それに対して、発明品では、直流電源E1により第1電極部21a,21bに印加する電圧が高くなるのに従い、吸着力が増加し、電圧が3Vのときには、2000Pa程度の強い吸着力が得られることが確認された。
【0023】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、第1電極部21a,21bとしては、所謂双極型のものを例に説明したが、プラズマ雰囲気を利用して成膜処理を施す装置に適用されるような場合には、所謂単極型として構成することもできる。また、上記実施形態では、中央に第2電極部22a,22bを、その両側に第1電極部21a,21bを配置したものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、ジョンソン・ラーベック力またはグラディエント力が支配的な吸着力を発現させて吸着しようとする基板Swのサイズや形状に応じて電極配置を適宜変更することができる。また、第1及び第2の各電極部21a,21b,22a,22bの形成方法は上記に例示したものに限定されるものではなく、溶射やメッキ法により形成することもできる。
【符号の説明】
【0024】
EC…静電チャック、1…誘電層、1a…第1誘電層部(誘電層の構成要素)、1b…第2誘電層部(誘電層の構成要素)、1c…第3誘電層部(低体積抵抗値層:誘電層の構成要素)、2…電極層、21a,21b…第1電極部、22a,22b…第2電極部、Bp…基台、Sw…基板。