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特開2023-160193硬化性樹脂組成物、ドライフィルム、プリプレグ、硬化物、積層板及び電子部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160193
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物、ドライフィルム、プリプレグ、硬化物、積層板及び電子部品
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/08 20060101AFI20231026BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20231026BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
C08G75/08
B32B27/00 A
B32B27/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070359
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】591021305
【氏名又は名称】太陽ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119079
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 佐保子
(72)【発明者】
【氏名】増田 龍哉
(72)【発明者】
【氏名】本松 譲
(72)【発明者】
【氏名】塚原 茜
【テーマコード(参考)】
4F100
4J030
【Fターム(参考)】
4F100AA00A
4F100AA20A
4F100AB17B
4F100AB33B
4F100AH03A
4F100AK49A
4F100AK57A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100CA02A
4F100CA23A
4F100DH01A
4F100EJ82A
4F100GB41
4F100JB12A
4F100JG05
4J030BA03
4J030BB03
4J030BB41
4J030BC02
4J030BC08
4J030BC37
4J030BE02
4J030BF09
4J030BF13
4J030BG09
4J030BG10
4J030BG30
4J030BG31
(57)【要約】
【課題】硬化物が低誘電率及び低誘電正接を有する、硬化性樹脂組成物を提供する
【解決手段】エピスルフィド樹脂と、マレイミド化合物、ベンゾオキサジン化合物及びカルボジイミド化合物からなる群より選ばれる1種以上の硬化剤とを含む、硬化性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エピスルフィド樹脂と、マレイミド化合物、ベンゾオキサジン化合物及びカルボジイミド化合物からなる群より選ばれる1種以上の硬化剤とを含む、硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記エピスルフィド樹脂に含まれるチイラン基のモル数に対する、前記硬化剤の官能基のモル数の比が、0.1以上1.5以下である、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
無機充填剤をさらに含む、請求項1に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項記載の硬化性樹脂組成物からなる樹脂層を基材上に形成してなるドライフィルム。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項記載の硬化性樹脂組成物を基材に含浸してなるプリプレグ。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
【請求項7】
請求項6記載の硬化物を含む積層板。
【請求項8】
請求項6記載の硬化物を含む電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物、ドライフィルム、プリプレグ、硬化物、積層板及び電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、第5世代移動通信方式(5G)に対応する移動体通信機器が出現し、さらに第6
世代を見据えた開発が開始されている。移動体通信機器等では、大容量の情報を高速で伝送・処理するため、高周波数帯(GHzオーダー)の電気信号の使用が増えている。高周波数帯の信号は、減衰しやすく、使用される材料には伝送損失を抑制する工夫が求められている。
【0003】
これを背景として、伝送損失の低減を可能とする低誘電率及び低誘電正接を有する材料の開発が進められている。
【0004】
低誘電率及び低誘電正接を有する材料には、従来、エポキシ樹脂が用いられていたが、例えば、特許文献1には、エピスルフィド樹脂を用いた樹脂材料が提案されている。特許文献1の樹脂材料は、エピスルフィド樹脂と、硬化剤と、無機充填剤とを含み、硬化剤が活性エステル化合物又はシアネートエステル化合物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013-60553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の樹脂材料は、活性エステル化合物又はシアネートエステル化合物、さらには無機充填剤を必須としたものであり、これらを必須とせずに、高次に硬化物が低誘電率及び低誘電正接を実現する樹脂材料が依然として求められている。
【0007】
本発明は、硬化物が低誘電率及び低誘電正接を有する樹脂材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、エピスルフィド樹脂に、マレイミド化合物、ベンゾオキサジン化合物及びカルボジイミド化合物からなる群より選ばれる1種以上の硬化剤を組み合わせた硬化性樹脂組成物により、低誘電率及び低誘電正接の硬化物を提供可能であることを見出し、本発明を完成させた。
これらの樹脂組成では、例えば、チイラン基とマレイミド基は、硬化反応にて炭素―硫黄結合を形成することで柔軟性(伸び率)を有し、低誘電率により優れた硬化物が得られ、チイラン基とベンゾオキサジン基は、チイラン基の開環で生じるチオールの酸性によるベンゾオキサジン基の開環促進や、ベンゾオキサジン基の開環で生じる水酸基によるチイラン基の開環促進により、低熱膨張性にも優れた硬化物が得られ、チイラン基とカルボジイミド基は、硬化反応にてイミダゾリジンチオン環結合が形成され、低熱膨張性と耐熱性にも優れた硬化物が得られる。
【0009】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]エピスルフィド樹脂と、マレイミド化合物、ベンゾオキサジン化合物及びカルボジイミド化合物からなる群より選ばれる1種以上の硬化剤とを含む、硬化性樹脂組成物。
[2]前記エピスルフィド樹脂に含まれるチイラン基のモル数に対する、前記硬化剤の官能基のモル数の比が、0.1以上1.5以下である、[1]の硬化性樹脂組成物。
[3]無機充填剤をさらに含む、[1]又は[2]の硬化性樹脂組成物。
[4][1]~[3]のいずれかの硬化性樹脂組成物からなる樹脂層を基材上に形成してなるドライフィルム。
[5][1]~[3]のいずれかの硬化性樹脂組成物を基材に含浸してなるプリプレグ。
[6][1]~[3]のいずれかの硬化性樹脂組成物、[4]のドライフィルムの樹脂層中の硬化性樹脂組成物又は[5]のプリプレグ中の硬化性樹脂組成物を硬化してなる硬化物。
[7][6]の硬化物を含む積層板。
[8][6]の硬化物を含む電子部品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の硬化性樹脂組成物によれば、低誘電率及び低誘電正接を有する硬化物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<硬化性樹脂組成物>
本発明の硬化性樹脂組成物は、エピスルフィド樹脂と、マレイミド化合物、ベンゾオキサジン化合物及びカルボジイミド化合物からなる群より選ばれる1種以上の硬化剤とを含む。
【0012】
[エピスルフィド樹脂]
エピスルフィド樹脂は、特に限定されず、1個以上のチイラン基を有する樹脂を用いることができる。チイラン基は、良好な硬化性、硬化物の機械強度の点から、好ましくは、2個以上であり、より好ましくは2個以上4個以下である。
【0013】
チイラン基を2個以上有するエピスルフィド樹脂としては、ビスフェノールA型エピスルフィド樹脂、ビスフェノールF型エピスルフィド樹脂、ビスフェノールS型エピスルフィド樹脂、水添ビスフェノールA型エピスルフィド樹脂、水添ビスフェノールF型エピスルフィド樹脂、水添ビスフェノールS型エピスルフィド樹脂、ジシクロペンタジエン型エピスルフィド樹脂、ビフェノール型エピスルフィド樹脂、フルオレン型エピスルフィド樹脂、トリアジン核を骨格に有するエピスルフィド樹脂、ナフタレン型エピスルフィド樹脂、アントラセン型エピスルフィド樹脂、ナフトールアラルキル型エピスルフィド樹脂等が挙げられる。
フェノールノボラック型エピスルフィド樹脂、ビフェニルノボラック型エピスルフィド樹脂、フェノールアラルキル型エピスルフィド樹脂等の多官能エピスルフィド樹脂を用いてもよい。
トリシクロデカン骨格を有するエピスルフィド樹脂、及びアダマンタン骨格を有するエピスルフィド樹脂等の脂肪族型エピスルフィド樹脂を用いてもよい。
【0014】
エピスルフィド樹脂は、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビフェニル等のエピスルフィド樹脂、水添(脂環)構造を有するエピスルフィド樹脂等が好ましく、より低誘電特性化できる点から水添(脂環)構造を有するエピスルフィド樹脂がより好ましい。
【0015】
エピスルフィド樹脂は、単独でも、2種以上を任意の比率の組み合わせで用いてもよい。
【0016】
エピスルフィド樹脂の分子量は、200以上2,000以下であることができ、安全性の点から、350以上が好ましく、また、組成物における流動性等のハンドリング性の点から、1,000以下が好ましい。
本明細書における分子量は、特段の断りがない限り、数平均分子量を意味することとする。
【0017】
エピスルフィド樹脂のエピスルフィド当量(エピスルフィド基1当量あたりの樹脂の質量)は、100以上1,000以下であることができる。良好な反応性が得られることから、500以下が好ましい。
【0018】
エピスルフィド樹脂は、エポキシ樹脂のエポキシ基を、硫化剤を用いてチイラン基に変換することで容易に得られる。硫化剤としては、チオ尿素やチオシアン酸カリウムが挙げられる。チイラン基の開環による重合反応を抑制するため、反応温度は70℃以下が好ましい。反応温度は、反応の効率性の点から、40℃以上とすることができる。
【0019】
[硬化剤]
硬化剤は、マレイミド化合物、ベンゾオキサジン化合物及びカルボジイミド化合物からなる群より選ばれる。マレイミド化合物、ベンゾオキサジン化合物及びカルボジイミド化合物のいずれか1種であっても、これらのうち2種又は全部を任意の比率で組み合わせたものであってもよい。
中でも、良好な機械的特性と低誘電率に優れる点から、マレイミド化合物が好ましく、良好な熱寸法安定性が得られる点から、ベンゾオキサジン化合物が好ましく、良好な熱寸法安定性と高耐熱性が得られる点からカルボジイミド化合物が好ましい。
【0020】
(マレイミド化合物)
マレイミド化合物は、特に限定されず、1個以上のマレイミド基を有する化合物を用いることができる。マレイミド基は、良好な硬化性、硬化物の靭性の点から、好ましくは、2個以上であり、より好ましくは2個以上4個以下である。
【0021】
マレイミド化合物としては、多官能脂肪族マレイミド、多官能芳香族マレイミドが挙げられる。多官能脂肪族マレイミドには、脂環構造を含むマレイミドが包含され、多官能芳香族マレイミドにおける芳香環は炭素環であっても、複素環であってもよい。
【0022】
多官能脂肪族マレイミドとしては、例えば、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌレートと脂肪族マレイミドカルボン酸とを脱水エステル化して得られるイソシアヌレート骨格のマレイミドエステル化合物;トリス(カーバメートヘキシル)イソシアヌレートと脂肪族マレイミドアルコールとをウレタン化して得られるイソシアヌレート骨格のマレイミドウレタン化合物等のイソシアヌル骨格ポリマレイミド類;脂肪族マレイミドカルボン酸と各種脂肪族ポリオールとを脱水エステル化、又は脂肪族マレイミドカルボン酸エステルと各種脂肪族ポリオールとをエステル交換反応して得られる脂肪族ポリマレイミドエステル化合物類;脂肪族マレイミドカルボン酸と各種脂肪族ポリエポキシドとをエーテル開環反応して得られる脂肪族ポリマレイミドエステル化合物類;脂肪族マレイミドアルコールと各種脂肪族ポリイソシアネートとのウレタン化反応して得られる脂肪族ポリマレイミドウレタン化合物類等が挙げられる。
【0023】
多官能芳香族マレイミドとしては、マレイミドカルボン酸と各種芳香族ポリオールとを脱水エステル化、又はマレイミドカルボン酸エステルと各種芳香族ポリオールとをエステル交換反応して得られる芳香族ポリマレイミドエステル化合物類;マレイミドカルボン酸と各種芳香族ポリエポキシドとをエーテル開環反応して得られる芳香族ポリマレイミドエステル化合物類;マレイミドアルコールと各種芳香族ポリイソシアネートとのウレタン化反応して得られる芳香族ポリマレイミドウレタン化合物類等が挙げられる。
【0024】
多官能脂肪族マレイミド及び多官能芳香族マレイミドは、複素環を包含でき、具体的にはテトラカルボン酸二無水物(例えば、脂環式テトラカルボン、芳香族テトラカルボン酸二無水物等)とジアミン(例えば、脂肪鎖構造を有するジアミン、芳香族ジアミン等)とを重合した末端アミンを無水マレイン酸にて封止したマレイミド基含有イミド化合物;ジカルボン酸誘導体とビス(o-アミノフェノール)とを重合した末端アミンを無水マレイン酸にて封止したマレイミド基含有ベンゾオキサゾール化合物等がある。
【0025】
マレイミド化合物は、硬化物の低誘電特性の改善の点から、骨格中に脂環構造を含むマレイミド化合物が好ましく、硬化物の高靭性化の点から、骨格中に脂肪鎖を含むマレイミド化合物が好ましく、硬化物の高剛性化の点から、骨格中に芳香環や複素環、あるいはそれらが縮環した構造を含むマレイミド化合物が好ましい。
【0026】
マレイミド化合物の分子量は、300以上8,000以下であることができる。硬化物の柔軟性の点から、1,000以上が好ましい。
【0027】
マレイミド化合物のマレイミド当量(マレイミド基1当量あたりの化合物の質量)は、150以上4,000以下であることができる。マレイミド当量は、硬化物の靭性の点から、1,000以上が好ましい。
【0028】
これらのマレイミド化合物は、公知の方法で合成されてもよく、市販品を用いてもよい。
市販品としては、例えばBMI、BMI-70及びBMI-80(ケイアイ化成社製)、BMI-1000、BMI-1000H、BMI-1000S、BMI-1100、BMI-1100H、BMI-2000、BMI-2300、BMI-3000、BMI-3000H、BMI-4000、BMI-5100、BMI-7000、BMI-7000H、及びBMI-TMH(以上、大和化成工業株式会社製)、MIA-200(DIC社製)、BMI-2500、BMI-3000J、BMI-6000及びBMI-6100(Designer Molecules社製)、SLK-2600(信越化学工業社製)、MIR-3000-70MT(日本化薬社製)等を挙げることができる。
【0029】
(ベンゾオキサジン化合物)
ベンゾオキサジン化合物は、特に限定されず、1個以上のベンゾオキサジン環を有する化合物を用いることができる。ベンゾオキサジン環は、良好な硬化性、硬化物の脆性の点から、好ましくは、2個以上であり、より好ましくは2個以上4個以下である。
【0030】
ベンゾオキサジン化合物は、公知のベンゾオキサジン化合物を用いることができ、例えば、P-d型ベンゾオキサジン化合物、F-a型ベンゾオキサジン化合物、ALP-d型ベンゾオキサジン化合物、T-ala型ベンゾオキサジン化合物等が挙げられる。
【0031】
ベンゾオキサジン化合物は、単独でも、2種以上を任意の比率の組み合わせで用いてもよい。
【0032】
ベンゾオキサジン化合物の分子量は、300以上2,000以下であることができ、300以上1,000以下が好ましい。
【0033】
ベンゾオキサジン化合物のベンゾオキサジン当量(ベンゾオキサジン環1当量あたりの化合物の質量)は、150以上1,000以下であることができる。ベンゾオキサジン当量は、好ましくは500以下であり、より好ましくは300以下である。
【0034】
(カルボジイミド化合物)
カルボジイミド化合物は、特に限定されず、カルボジイミド基(-N=C=N-)を2個以上含む化合物を用いることができる。カルボジイミド基は、良好な硬化性の点から、好ましくは、2個以上であり、より好ましくは2個以上10個以下である。
【0035】
カルボジイミド化合物は、公知の方法にて合成することができる(例えば、特開2019-38960号公報参照)。具体的には、ジイソシアネートを縮合重合して合成することができる。
【0036】
カルボジイミド化合物の合成に用いるジイソシアネートとしては、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートがある。具体的には、1,5-ナフチレンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、o-キシリレンジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、2,5-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン等の脂環族ジイソシアネート等が挙げられる。
これらのジイソシアネートは、1種単独でも、2種以上併用してもよく、反応性や硬化物としての耐熱性の観点から芳香族ジイソシアネート、有機溶剤への溶解性や硬化物としての柔軟性や低誘電特性の観点から脂肪族ジイソシアネートや脂環族ジイソシアネートを適宜用いることができる。
特に、本発明において用いられるカルボジイミド化合物としては、有機溶剤への溶解性、保存安定性、反応性、硬化物の耐熱性といった特性をバランスよく実現することから、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートと4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを併用して縮合重合させてなる化合物が好ましい。
【0037】
このようにして得られるカルボジイミド化合物は、末端イソシアネート基をイソシアネート基と反応する官能基を1つ有する化合物で封止反応することが好ましい。このイソシアネート基と反応する化合物としては、モノイソシアネート、モノアルコール、モノアミン、酸無水物等が挙げられる。
【0038】
モノイソシアネートとしては、例えば、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、プロピルイソシアネート、n-、sec-或いはtert-ブチルイソシアネート等の低級アルキルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート等の脂環式脂肪族イソシアネート、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ジメチルフェニルイソシアネート、2,6-ジイソプロピルフェニルイソシアネート等の芳香族イソシアネート等が挙げられる。
モノアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、シクロヘキサノール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
前記モノアミンとしては、例えば、ブチルアミン、シクロヘキシルアミン等の1級アミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の2級アミンが挙げられる。
酸無水物としては、無水フタル酸、無水酢酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水安息香酸等が挙げられる。
これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、反応性の観点から、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネートが好ましく、フェニルイソシアネートがより好ましい。
【0039】
カルボジイミド化合物は、単独でも、2種以上を任意の比率の組み合わせで用いてもよい。
【0040】
カルボジイミド化合物の分子量は、500以上8,000以下であることができ、良好な成膜性の点から、1,000以上が好ましく、より好ましくは1,400以上であり、また、組成物中での相溶性の点から、5,000以下が好ましく、より好ましくは3,500以下である。
【0041】
カルボジイミド化合物のカルボジイミド当量(カルボジイミド基1当量あたりの化合物の質量)は、50以上4,000以下であることができる。硬化物の靭性の点から、100以上が好ましく、より好ましくは130以上であり、また、良好な硬化性の点から、1,000以下が好ましく、より好ましくは500以下であり、さらに好ましくは260以下である。
【0042】
[配合量]
本発明の硬化性樹脂組成物は、エピスルフィド樹脂に含まれるチイラン基のモル数に対する、前記硬化剤の官能基のモル数の比が、0.1以上1.5以下であることが好ましい。この範囲であれば、チイラン基と硬化剤の官能基が過不足なく反応し、優れた低誘電特性・機械特性・熱特性の両立が可能である。
ここで、硬化剤の官能基は、マレイミド化合物についてはマレイミド基、ベンゾオキサジン化合物についてはベンゾオキサジン環、カルボジイミド化合物についてはカルボジイミド基である。
具体的には、エピスルフィド樹脂に含まれるチイラン基のモル数に対する、前記マレイミド化合物のマレイミド基のモル数の比は、機械特性に優れた硬化物が得られることから0.1以上0.5以下がより好ましく、エピスルフィド樹脂に含まれるチイラン基のモル数に対する、前記ベンゾオキサジン化合物のベンゾオキサジン環のモル数の比は、熱特性に優れた硬化物が得られることから0.1以上1.5以下がより好ましく、エピスルフィド樹脂に含まれるチイラン基のモル数に対する、前記カルボジイミド化合物のカルボジイミド基のモル数の比は、熱特性に優れた硬化物が得られることから0.8以上1.5以下がより好ましい。
【0043】
本発明の硬化性樹脂組成物は、不揮発成分に占める、エピスルフィド樹脂とマレイミド化合物、ベンゾオキサジン化合物及びカルボジイミド化合物からなる群より選ばれる1種以上の硬化剤の合計の割合が30質量%以上であることが好ましく、より好ましくは40質量%以上である。
【0044】
[任意成分]
本発明の硬化性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、エピスルフィド樹脂とマレイミド化合物、ベンゾオキサジン化合物及びカルボジイミド化合物からなる群より選ばれる1種以上の硬化剤に加えて、任意成分を含むことができる。
【0045】
(無機充填剤)
硬化物の熱寸法安定性の向上の点から、無機充填剤を配合することが好ましい。無機充填剤は、特に限定されず、シリカ(溶融シリカ、無定形シリカ、結晶性シリカ等)、タルク、硫酸バリウム、チタン酸バリウム、クレー、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等が挙げられる。中でも低熱膨張性と低誘電正接の点から、シリカが好ましい。
【0046】
無機充填剤の平均粒子径は、0.1μm以上1.0μm以下であることができ、誘電率低減の点から、0.3μm以上が好ましい。ここで、平均粒子径は、レーザー解析式粒度分布計により測定した値である。
【0047】
無機充填剤は、カップリング剤で表面処理されていたものであってもよい。カップリング剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等が挙げられる。
【0048】
無機充填剤の含有量は、特に限定されないが、配合の効果を十分に得る点からは、本発明の硬化性樹脂組成物の不揮発成分量中、40質量%以上が好ましく、より好ましくは50質量%以上である。また、80質量%以下が好ましく、より好ましくは75質量%以下である。
無機充填剤を使用する場合、無機充填剤は、単独でも、2種以上の任意の比率での組み合わせでもよい。
【0049】
(硬化促進剤)
硬化速度及び硬化物の架橋構造の制御の点から、硬化促進剤を配合することが好ましい。硬化促進剤は、特に限定されず、イミダゾール化合物、アミン化合物、リン化合物、有機金属錯体又は有機金属塩等が挙げられる。
イミダゾール化合物としては、例えば、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、4-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-(2-シアノエチル)-2-エチル-4-メチルイミダゾール等が挙げられる。
アミン化合物としては、ジシアンジアミド、ベンジルジメチルアミン、4-(ジメチルアミノ)-N,N-ジメチルベンジルアミン、4-メトキシ-N,N-ジメチルベンジルアミン、4-メチル-N,N-ジメチルベンジルアミン等のアミン化合物が挙げられる。
リン化合物としては、トリフェニルホスフィン等が挙げられる。
有機金属錯体又は有機金属塩としては、コバルト、銅、亜鉛、鉄、ニッケル、マンガン等アセチルアセトナート錯体が挙げられる
【0050】
硬化促進剤の含有量は、特に限定されないが、配合の効果を十分に得る点からは、本発明の硬化性樹脂組成物の固形分量中、0.05質量%以上が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上である。また、1質量%以下が好ましく、より好ましくは0.6質量%以下である。
硬化促進剤を使用する場合、無機充填剤は、単独でも、2種以上の任意の比率での組み合わせでもよい。
【0051】
(熱可塑性樹脂)
本発明の硬化性樹脂組成物は、造膜性、柔軟性、密着性等のため、熱可塑性樹脂を含むことができる。熱可塑性樹脂としては、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
熱可塑性樹脂を使用する場合、無機充填剤は、単独でも、2種以上の任意の比率での組み合わせでもよい。
【0052】
(溶剤)
本発明の硬化性樹脂組成物は、塗布における粘度調整等のため、溶剤を含むことができる。溶剤は、特に限定されず、有機溶剤が好ましい。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;セロソルブ、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセタート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールブチルエーテルアセテート等のエステル類;エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類;オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素;石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサ等の石油系溶剤;N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。溶解性と硬化時の揮発性の点から、ケトン類、エステル類等が好ましい。
溶剤は、単独でも、2種以上の任意の比率での組み合わせでもよい。
【0053】
(その他の成分)
本発明の硬化性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の成分を含むことができる。例えば、;導電粒子;着色剤;湿潤分散剤;紫外線吸収剤;シランカップリング剤;可塑剤;難燃剤;帯電防止剤;老化防止剤;酸化防止剤;抗菌・防黴剤;消泡剤;レベリング剤;増粘剤;密着性付与剤;チキソ性付与剤;離型剤;表面処理剤;分散剤;分散助剤;表面改質剤;安定剤;蛍光体等が挙げられる。
【0054】
本発明の硬化性樹脂組成物は、熱硬化性であるが、各種成分(例えば、光重合性モノマー、光重合性オリゴマー等のエチレン性不飽和基を有する化合物;光重合開始剤、光酸発生剤、光塩基発生剤等の感光剤;光開始助剤;増感剤等)の配合により感光性や光硬化性が付与されていてもよい。
【0055】
本発明の硬化性樹脂組成物は、エピスルフィド樹脂以外の熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂等)を含んでいてもよいが、好ましくは含まない。また、マレイミド化合物、ベンゾオキサジン化合物及びカルボジイミド化合物以外の硬化剤(例えば、活性エステル化合物、シアネートエステル化合物等)を含んでいてもよいが、好ましくは含まない。
【0056】
[製造方法]
本発明の硬化性樹脂組成物は、エピスルフィド樹脂、マレイミド化合物、ベンゾオキサジン化合物及びカルボジイミド化合物からなる群より選ばれる1種以上の硬化剤、任意成分を混合することによって調製することができる。組成物の粘度は、塗布性の点から、100mPa・s以上100,000mPa・s以下であることが好ましい。粘度の調整は、溶剤を配合することにより行うことができ、組成物中の成分との相溶性、組成物の塗布性や乾燥性の点から任意の量で配合することができる。
【0057】
<ドライフィルム>
本発明の硬化性樹脂組成物は、基材上に塗布・乾燥し、樹脂層を形成することにより、ドライフィルムとすることができる。
基材としては、金属箔(例えば、銅箔等)、キャリアフィルム等が挙げられる。
キャリアフィルムは、特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルム等のフィルムを使用することができる。
塗布や乾燥の方法は、特に限定されず、公知の方法を使用することができる。
ドライフィルムの樹脂層の表面に保護フィルムをラミネートしてもよい。保護フィルムとしては、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等が挙げられる。
【0058】
<プリプレグ>
本発明の硬化性樹脂組成物は、基材に含浸させ、プリプレグとすることができる。基材としては、ガラスクロス、ガラス不織布、アラミド不織布等が挙げられる。硬化性樹脂組成物を基材に含浸した後、乾燥させて半硬化物としてもよい。
【0059】
<硬化物>
本発明の硬化性樹脂組成物、本発明のドライフィルムの樹脂層、本発明のプリプレグ中の硬化性樹脂組成物を硬化させることにより硬化物とすることができる。本発明の硬化性樹脂組成物を用いる場合、所望の対象に、組成物を塗布、乾燥し、160℃以上280℃以下の温度で加熱することにより、硬化物を得ることができる。加熱時間は、適宜、設定することができ、例えば、30分以上120分以下とすることができる。本発明のドライフィルムを用いる場合、所望の対象に、ドライフィルムをラミネートして160℃以上280℃以下の温度で加熱することにより、樹脂層の硬化物を得ることができる。加熱時間は、適宜、設定することができ、例えば、40分以上90分以下とすることができる。
【0060】
<積層板>
本発明はまた、本発明の硬化物を含む積層板に関する。本発明の積層板は、本発明のプリプレグを用いて作製することができる。例えば、本発明のプリプレグを一枚又は複数枚重ね、さらにその上下の両面又は片面に銅箔等の金属箔を重ねて、その積層体を加熱加圧成形することにより、積層一体化された両面に金属箔又は片面に金属箔を有し、硬化性樹脂組成物の硬化物を有する積層板を得ることができる。
【0061】
<電子部品>
本発明さらに、本発明の硬化物を含む電子部品に関する。電子部品としては、プリント配線板、インダクタ等が挙げられる。ソルダーレジスト、層間絶縁材、カバーレイ等の硬化膜として、また、スルーホール、ビアホール等の穴埋めとして、本発明の硬化物を備えた電子部品が好ましい。
【実施例0062】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0063】
以下の成分を用いた。
<エピスルフィド樹脂>
エピスルフィド樹脂1:田岡化学工業社製TBIS-AHSP。水添ビスフェノールA型エピスルフィド樹脂、エピスルフィド当量214g/eq
エピスルフィド樹脂2:下記エポキシ樹脂2のエポキシ基を以下のようにしてチイラン基に変換したビスフェノールA型エピスルフィド樹脂。エピスルフィド当量約207g/eq
50mLバイアル中でメタノール42mLにチオ尿素2.1gを溶解させて得られた溶液を、エポキシ樹脂2 2.9gをテトラヒドロフラン(THF)18mLに溶解させた溶液を含む120mLバイアルに、室温(約25℃)で6分間かけて滴下した後、50℃に昇温し、当該温度で2時間半保持した。次いで、室温に冷却し、24時間放置した。
得られた反応液を、メタノール10mLを用いて、200mLフラスコに移し、エバポレーターで濃縮した後、蒸留水29mLを加え、酢酸エチル(AcOEt)32mLで抽出し、さらにAcOEt 16mLで抽出した。抽出液をブライン30mLで洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過後溶媒を留去し、残渣として3.7gのビスフェノールA型エピスルフィド樹脂を得た。
【0064】
<その他の樹脂>
エポキシ樹脂1:三菱ケミカル社製YX-8034。水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量270g/eq
エポキシ樹脂2:三菱ケミカル社製JER828。ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量185g/eq
チオール化合物:川口化学工業社製SS32。3官能性チオール化合物、分子量532。チオール当量177.3g/eq
【0065】
<硬化剤>
マレイミド化合物:Designer Molecules社製BMI-6000、末端ビスマレイミド樹脂、数平均分子量 6626、 重量平均分子量 21733、マレイミド当量3313g/eq
ベンゾオキサジン化合物:四国化成社製P-d型ベンゾオキサジン化合物、分子量435、ベンゾオキサジン当量217.5g/eq
カルボジイミド化合物:以下のようにして調製した化合物。数平均分子量2997、重量平均分子量17193、カルボジイミド基当量205g/eq
還流管及び撹拌機付き反応容器にジイソシアネートとして、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート54質量部、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート46質量部との混合物(東ソー製、モノメリックMDI;ミリオネートNM)、イソシアネート基と反応する官能基を1つ有する化合物として、フェニルイソシアネート10質量部、カルボジイミド化触媒として、3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレン-1-オキシド0.6質量部を入れ、窒素気流下100℃で2時間撹拌し、赤外吸収(IR)スペクトル測定による波長2270cm-1前後のイソシアネート基による吸収ピークがほぼ消失したことを確認して、カルボジイミド化合物を得た。
活性エステル化合物:DIC社製HPC-8000-65T、不揮発成分65重量%、活性エステル基当量223g/eq
シアネート化合物:ロンザジャパン社製BA-230S、不揮発成分75重量%、シアネートエステル基当量235g/eq
【0066】
<その他成分>
無機充填剤:シリカフィラー(球状、平均粒子径0.5μm)
溶剤1:シクロヘキサノン
溶剤2:メチルエチルケトン
【0067】
各種測定は、以下のようにして行った。
<樹脂組成物の作製>
表1に示す量(表1中、各成分の量は質量部表示である。)で各成分を公転自転撹拌脱泡装置(写真化学社製、カクハンター SK-300S)を用いて2000rpmで5分間撹拌、2200rpmで2分間脱泡し、実施例・比較例の組成物を作製した。
【0068】
<硬化膜の作製>
実施例・比較例の組成物を銅箔にアプリケーターで塗布し、ボックス乾燥炉にて90℃で10分間乾燥させた。次いで、乾燥塗膜を有する銅箔を炉内の温度が室温(約25℃)の乾燥炉にいれ、30分間かけて表1に示す温度まで昇温した後、当該温度で1時間保持し、加熱処理を行った。硬化塗膜を有する銅箔乾燥炉から出して、エッチング液で銅箔を除去し、水洗して、膜厚約30μmの硬化膜を得た。
【0069】
<誘電特性>
上記方法で作製した硬化膜をボックス乾燥炉にて120℃10分間乾燥し、SPDR法を用いて10GHzにおける誘電率及び誘電正接を測定した。
【0070】
<機械特性>
上記と同様の方法にて作製した各組成物の硬化物からなるフィルムサンプルを5mm幅×70mm長にカットし、試験片とした。
この試験片について、島津製作所社製のEZ-SXを用いて、つかみ具間距離は30mm、引張速度は3mm/minとして引張試験の測定を5回行った。
引張強度5~10MPaにおける弾性率を測定し、その平均値を弾性率(GPa)とした。試験片が破断するまでの応力を測定し、その最大値の平均値を最大点応力(MPa)とした。試験片が破断するまでの伸び率を測定し、その最大値を引張破断伸び率(%)とした。
【0071】
<熱特性>
上記方法で作製した硬化膜を3mm幅×30mm長にカットし、TAインスツルメンツ社製のTMA「Q400-1330」を用いて、昇温速度10℃/分、測定温度範囲30~300℃の条件で、熱膨張率及びガラス転移温度を測定した。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示されるように、実施例の硬化物は低誘電率及び低誘電正接を有しており、エポキシ樹脂又はチオール化合物と組み合わせた比較例に対して、特に低誘電正接の点で改善していることがわかる。
中でも、硬化剤としてマレイミド化合物を使用した実施例1及び2は、最大点応力及び破断伸びが著しく改善している。
また、硬化剤としてカルボジイミド化合物を使用した実施例4は、熱膨張係数が改善され、高いガラス転移温度を有している。
【0074】
表2に示す量(表2中、各成分の量は質量部表示である。)で各成分を用いて、実施例・比較例の樹脂組成物を作製したほかは、上記と同様にして硬化膜を作製し、各種特性の測定を行った。表2に示される樹脂組成物は、無機充填剤を含む。
【0075】
【表2】
【0076】
表2に示されるように、無機充填剤を使用した場合においても、実施例の硬化物は低誘電率及び低誘電正接を有しており、エポキシ樹脂と組み合わせた比較例に対して、特に低誘電正接の点で改善していることがわかる。
中でも、硬化剤としてマレイミド化合物を使用した実施例5は、最大点応力及び破断伸びが著しく改善している。
また、硬化剤としてカルボジイミド化合物を使用した実施例7は、熱膨張係数が改善され、高いガラス転移温度を有する。
一方、硬化剤として活性エステル化合物又はシアネート化合物を使用した比較例6及び7は、誘導特性が実施例よりも劣ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の硬化性樹脂組成物によれば、低誘電率及び低誘電正接を有する硬化物を提供することができるため、産業上有用性が高い。