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特開2023-160567常磁性ガーネット型透明セラミックス、その製造方法およびその混合材料、並びにそれを用いた磁気光学デバイスおよびその製造方法
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  • 特開-常磁性ガーネット型透明セラミックス、その製造方法およびその混合材料、並びにそれを用いた磁気光学デバイスおよびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160567
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】常磁性ガーネット型透明セラミックス、その製造方法およびその混合材料、並びにそれを用いた磁気光学デバイスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/44 20060101AFI20231026BHJP
   C04B 35/50 20060101ALI20231026BHJP
   C04B 35/645 20060101ALI20231026BHJP
   G02B 27/28 20060101ALN20231026BHJP
【FI】
C04B35/44
C04B35/50
C04B35/645 500
G02B27/28 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071009
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】碇 真憲
(72)【発明者】
【氏名】松本 卓士
(72)【発明者】
【氏名】田中 恵多
【テーマコード(参考)】
2H199
【Fターム(参考)】
2H199AA02
2H199AA04
2H199AA72
2H199AA96
(57)【要約】      (修正有)
【課題】8mmφ以上の大型セラミックスを作製した場合であっても、散乱損失を安定して小さく抑えることができる常磁性ガーネット型透明セラミックス及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックスは、下記式(1)で表される複合酸化物の焼結体を含み、直径が8mm以上であっても光学両端面の全光線透過率が84.1%以上、前方散乱率が0.40%以下である。
(Tb1-x-ySc(Al1-zSc12(1)
(式中、0.05≦x≦0.45、0<y<0.1、0.5<1-x-y<0.95、0.001<z<0.15、0<y+z<0.2である。)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるテルビウム、イットリウム、スカンジウム及びアルミニウムを含有する複合酸化物の焼結体を含む常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法であって、
(Tb1-x-ySc(Al1-zSc12 (1)
(式中、0.05≦x≦0.45、0<y<0.1、0.5<1-x-y<0.95、0.001<z<0.15、0<y+z<0.2である。)
熱履歴が950℃以下に抑えられた上記複合酸化物の混合原料を用いて成形体を得る工程と、
950℃以下の温度に抑えて上記成形体を脱脂処理する工程と、
上記脱脂処理した成形体を減圧焼結処理し、相対焼結密度が93.8%以上97.2%以下の範囲の焼結体を得る工程と、
前記焼結体をさらに熱間等方圧加圧(HIP)処理により相対焼結密度が99.9%以上となるまで緻密化させる工程と
を含む常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
【請求項2】
上記複合酸化物の混合原料は、テルビウム、イットリウム及びスカンジウムの各酸化物と酸化アルミニウムとが化合していない状態で混合された粉末のモル比率が、テルビウム、イットリウム及びスカンジウムの各酸化物と酸化アルミニウムとが化合してモノクリニック相、ペロブスカイト相、及びガーネット相のいずれかの化合物の状態で混合された粉末のモル比率以上で含まれる、請求項1に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
【請求項3】
上記減圧焼結処理する際の成形体が、11mmφ以上の直径を有する請求項1又は2に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
【請求項4】
上記HIP処理後に上記HIP処理の温度を超える温度で、8時間以上にわたり上記緻密化した焼結体を再焼結する工程と、
上記再焼結した焼結体をさらに1300℃以上の温度で酸化雰囲気でアニール処理する工程と
を更に含む請求項1又は2に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
【請求項5】
上記常磁性ガーネット型透明セラミックスが、焼結助剤としてSiOを0質量%超0.1質量%以下で更に含む請求項1又は2に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法。
【請求項6】
下記式(1)で表されるテルビウム、イットリウム、スカンジウム及びアルミニウムを含有する複合酸化物の焼結体を含む常磁性ガーネット型透明セラミックスを製造するための上記複合酸化物の混合原料であって、
(Tb1-x-ySc(Al1-zSc12 (1)
(式中、0.05≦x≦0.45、0<y<0.1、0.5<1-x-y<0.95、0.001<z<0.15、0<y+z<0.2である。)
上記混合原料は、テルビウム、イットリウム及びスカンジウムの各酸化物と酸化アルミニウムとが化合していない状態で混合された粉末のモル比率が、テルビウム、イットリウム及びスカンジウムの各酸化物と酸化アルミニウムとが化合してモノクリニック相、ペロブスカイト相、及びガーネット相のいずれかの化合物の状態で混合された粉末のモル比率以上で含まれる、混合原料。
【請求項7】
下記式(1)で表されるテルビウム、イットリウム、スカンジウム及びアルミニウムを含有する複合酸化物と、焼結助剤として0質量%超0.1質量%以下のSiOを含む常磁性ガーネット型透明セラミックスであって、
(Tb1-x-ySc(Al1-zSc12 (1)
(式中、0.05≦x≦0.45、0<y<0.1、0.5<1-x-y<0.95、0.001<z<0.15、0<y+z<0.2である。)
当該常磁性ガーネット型透明セラミックスの直径が8mm以上の場合の当該常磁性ガーネット型透明セラミックスの光学研磨された光学両端面の全光線透過率が84.1%以上で、且つ前方散乱率が0.40%以下である常磁性ガーネット型透明セラミックス。
【請求項8】
請求項7に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックスを用いて構成される磁気光学デバイス。
【請求項9】
上記常磁性ガーネット型透明セラミックスをファラデー回転子として備え、該ファラデー回転子の光学軸上の前後に偏光材料を備えた波長帯0.9μm以上1.1μm以下で利用可能な光アイソレータである請求項8記載の磁気光学デバイス。
【請求項10】
請求項1又は2に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法によって得られた常磁性ガーネット型透明セラミックスを用いて磁気光学デバイスを構成する磁気光学デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常磁性ガーネット型透明セラミックス、その製造方法およびその混合材料、並びにそれを用いた磁気光学デバイスおよびその製造方法に関し、より詳細には、光アイソレータなどの磁気光学デバイスを構成するのに好適なテルビウムを含む常磁性ガーネット型透明セラミックス、その製造方法およびその混合材料、並びにそれを用いた磁気光学デバイスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力化が可能となってきたこともあり、ファイバーレーザーを用いたレーザー加工機の普及が目覚しい。ところで、レーザー加工機に組み込まれるレーザー光源は、外部からの光が入射すると共振状態が不安定化し、発振状態が乱れる現象が起こる。特に発振された光が途中の光学系で反射されて光源に戻ってくると、発振状態は大きく撹乱される。これを防止するために、通常光アイソレータが光源の手前等に設けられる。
【0003】
光アイソレータは、ファラデー回転子と、ファラデー回転子の光入射側に配置された偏光子と、ファラデー回転子の光出射側に配置された検光子とからなる。また、ファラデー回転子は、光の進行方向に平行に磁界を加えて利用する。このとき、光の偏波線分はファラデー回転子中を前進しても後進しても一定方向にしか回転しなくなる。更に、ファラデー回転子は光の偏波線分が丁度45度回転される長さに調整される。ここで、偏光子と検光子の偏波面を前進する光の回転方向に45度ずらしておくと、前進する光の偏波は偏光子位置と検光子位置で一致するため透過する。他方、後進する光の偏波は検光子位置から45度ずれている偏光子の偏波面のずれ角方向とは逆回転に45度回転することになる。すると、偏光子位置における戻り光の偏波面は偏光子の偏波面に対して45度-(-45度)=90度のずれとなり、偏光子を透過できない。こうして前進する光は透過、出射させ、後進する戻り光は遮断する光アイソレータとして機能する。
【0004】
上記光アイソレータを構成するファラデー回転子として用いられる材料では、従来からTGG結晶(TbGa12)とTSAG結晶((Tb(3-x)Scx)ScAl12)が知られている(特開2011-213552号公報(特許文献1)、特開2002-293693号公報(特許文献2))。TGG結晶は現在標準的なファイバーレーザー装置用として広く搭載されている。他方TSAG結晶のベルデ定数はTGG結晶の1.3倍程度あるとされており、こちらもファイバーレーザー装置に搭載されてもおかしくない材料であるが、Scが極めて高価な原料であるため、製造コストの面から採用が進んでいない。
【0005】
上記以外では、TSAGより更にベルデ定数が大きなファラデー回転子として、昔からTAG結晶(TbAl12)も知られている。ただしTAG結晶は分解溶融型結晶であるため、固液界面においてまずペロブスカイト相が最初に生成され、その後にTAG相が生成されるという制約があった。つまりTAG結晶のガーネット相とペロブスカイト相は常に混在した状態でしか結晶育成することができず、良質で大サイズのTAG結晶育成は実現していない。
【0006】
ただし最近になり、国際公開第2018/193848号(特許文献3)に、下記式で表される複合酸化物の焼結体であり、光路長15mmでの波長1064nmにおける直線透過率が83%以上であることを特徴とする常磁性ガーネット型透明セラミックス
(Tb1-x-yScCe(Al1-zSc12
(式中、0<x<0.08、0≦y≦0.01、0.004<z<0.16である。)
が開示された。
【0007】
更にまた、非特許文献1において、組成が(Tb1-xAl12(x=0.5~1.0)である緻密なセラミック焼結体が既存のTGG結晶に比べて消光比が高く(既存の35dBが39.5dB以上に改善)、挿入損失も低減できる(既存の0.05dBが0.01~0.05dBに改善)ことが開示された。この非特許文献1で開示された材料は、Tbイオンの一部をYイオンで置換することで、特許文献3の材料に比べて更なる低損失化が可能になったものであり、きわめて高品質のガーネット型ファラデー回転子を得ることのできる材料である。
【0008】
その後、特開2019-199386号公報(特許文献4)に、下記式で表される複合酸化物の焼結体であり、焼結助剤としてSiOを0質量%超0.1質量%以下含有し、光路長25mmでの波長1064nmにおける直線透過率が83.5%以上であることを特徴とする常磁性ガーネット型透明セラミックス
(Tb1-x-ySc(Al1-zSc12
(式中、0.05≦x<0.45、0<y<0.1、0.5<1-x-y<0.95、0.004<z<0.2である。)
が開示された。
【0009】
特許文献4で開示された材料は、非特許文献1と同様にTbイオンの一部をYイオンで置換することで、非特許文献1と同等の高品質のガーネット型ファラデー回転子を得ることのできる材料である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2011-213552号公報
【特許文献2】特開2002-293693号公報
【特許文献3】国際公開第2018/193848号
【特許文献4】特開2019-199386号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Yan Lin Aung, Akio Ikesue, “Development of optical grade (TbxY1-x)3Al5O12 ceramics as Faraday rotator material”, J. Am. Ceram. Soc, 2017, 100(9), 4081-4087
【非特許文献2】R. G. Beausoleil, E. D’Ambrosio, et al, “Model of thermal wave-front distortion in interferometric gravitational-wave detectors. I. Thermal focusing”, J. Opt. Soc. Am. B, 2003, 20(6), 1247-1268
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献3に記載の常磁性ガーネット型透明セラミックスは、TAGとそん色のないベルデ定数を有しつつ、且つ光路長15mmであっても直線透過率が83%以上確保されるように改善されたため、ほぼ実用レベルに達したといえる。ただし、特許文献3中では明記されていないが、本発明者らが実際に、波長1064nmのレーザー光をビーム径1.6mmに調整した上で入射パワー100Wの出力で、特許文献3の実施例を再現したサンプルに入射してみたところ、熱レンズの発生による入射レーザービーム径の最大変化量が15%を超えていることが明らかとなった。
【0013】
また、非特許文献1について、本発明者らが実際に、1064nmのレーザー光をビーム径1.6mmに調整した上で入射パワー100Wの出力で、非特許文献1に記載の材料を再現したサンプルに入射してみたところ、熱レンズの発生による入射レーザービーム径の最大変化量が10%を下回ることが明らかとなった。ただし、非特許文献1に記載の材料はその製造再現性がかなり低く、且つ材料径8mmφ以上の大型焼結体を作製しようとすると悉く散乱損失が悪化することも同時に確認された。
【0014】
さらに、特許文献4について、本発明者らが実際に、1064nmのレーザー光をビーム径1.6mmに調整した上で入射パワー100Wの出力で特許文献4に記載の材料を再現したサンプルに入射してみたところ、熱レンズの発生による入射レーザービーム径の最大変化量は非特許文献1と同様10%を下回った。特許文献4に記載の材料はその製造再現性がかなり向上していた。ただし、材料径が8mmφ以上の大型焼結体を作製しようとすると、低散乱損失の焼結体が得られる割合は比較的低いままであった。
【0015】
なお、同一材料を用いても、材料径が大きくなればその分、熱レンズは劇的に小さくなることが知られている。より具体的には、熱レンズは材料径の2乗に逆比例することが非特許文献2に開示されている。つまり、今後益々高出力化が進むファイバーレーザー用光アイソレータには、当然ながら大口径化というニーズが存在する。
【0016】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、少なくともイットリウムとテルビウムとアルミニウムを主成分として含有し、且つテルビウムのモル濃度がイットリウムのそれ以上である複合酸化物によって、8mmφ以上の大型の常磁性ガーネット型透明セラミックスを作製した場合であっても、散乱損失を安定して小さく抑えることができる常磁性ガーネット型透明セラミックス、その製造方法およびその混合材料、並びにそれを用いた磁気光学デバイスおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明は、第1の一態様として、下記式(1)で表されるテルビウム、イットリウム、スカンジウム及びアルミニウムを含有する複合酸化物の焼結体を含む常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法であって、
(Tb1-x-ySc(Al1-zSc12 (1)
(式中、0.05≦x≦0.45、0<y<0.1、0.5<1-x-y<0.95、0.001<z<0.15、0<y+z<0.2である。)
この製造方法は、熱履歴が950℃以下に抑えられた上記複合酸化物の混合原料を用いて成形体を得る工程と、950℃以下の温度に抑えて上記成形体を脱脂処理する工程と、上記脱脂処理した成形体を減圧焼結処理し、相対焼結密度が93.8%以上97.2%以下の範囲の焼結体を得る工程と、前記焼結体をさらに熱間等方圧加圧(HIP)処理により相対焼結密度が99.9%以上となるまで緻密化させる工程とを含む。
【0018】
上記複合酸化物の混合原料は、テルビウム、イットリウム及びスカンジウムの各酸化物と酸化アルミニウムとが化合していない状態で混合された粉末のモル比率が、テルビウム、イットリウム及びスカンジウムの各酸化物と酸化アルミニウムとが化合してモノクリニック相、ペロブスカイト相、及びガーネット相のいずれかの化合物の状態で混合された粉末のモル比率以上で含まれていることが好ましい。
【0019】
上記減圧焼結処理する際の成形体は、11mmφ以上の直径を有していてもよい。
【0020】
本発明の製造方法は、上記HIP処理後に上記HIP処理の温度を超える温度で、8時間以上にわたり上記緻密化した焼結体を再焼結する工程と、上記再焼結した焼結体をさらに1300℃以上の温度で酸化雰囲気でアニール処理する工程とを更に含むことが好ましい。
【0021】
上記常磁性ガーネット型透明セラミックスは、焼結助剤としてSiOを0質量%超0.1質量%以下で更に含んでいてもよい。
【0022】
本発明は、第2の態様として、下記式(1)で表されるテルビウム、イットリウム、スカンジウム及びアルミニウムを含有する複合酸化物の焼結体を含む常磁性ガーネット型透明セラミックスを製造するための上記複合酸化物の混合原料であって、
(Tb1-x-ySc(Al1-zSc12 (1)
(式中、0.05≦x≦0.45、0<y<0.1、0.5<1-x-y<0.95、0.001<z<0.15、0<y+z<0.2である。)
この混合原料は、テルビウム、イットリウム及びスカンジウムの各酸化物と酸化アルミニウムとが化合していない状態で混合された粉末のモル比率が、テルビウム、イットリウム及びスカンジウムの各酸化物と酸化アルミニウムとが化合してモノクリニック相、ペロブスカイト相、及びガーネット相のいずれかの化合物の状態で混合された粉末のモル比率以上で含まれている。
【0023】
本発明は、第3の態様として、下記式(1)で表されるテルビウム、イットリウム、スカンジウム及びアルミニウムを含有する複合酸化物と、焼結助剤として0質量%超0.1質量%以下のSiOを含む常磁性ガーネット型透明セラミックスであって、
(Tb1-x-ySc(Al1-zSc12 (1)
(式中、0.05≦x≦0.45、0<y<0.1、0.5<1-x-y<0.95、0.001<z<0.15、0<y+z<0.2である。)
この常磁性ガーネット型透明セラミックスの直径が8mm以上の場合のこの常磁性ガーネット型透明セラミックスの光学研磨された光学両端面の全光線透過率は84.1%以上で、且つ前方散乱率は0.40%以下である。
【0024】
本発明は、第4の態様として、磁気光学デバイスであって、上記常磁性ガーネット型透明セラミックスを用いて構成されるものである。
【0025】
本発明の磁気光学デバイスは、上記常磁性ガーネット型透明セラミックスをファラデー回転子として備え、該ファラデー回転子の光学軸上の前後に偏光材料を備えた波長帯0.9μm以上1.1μm以下で利用可能な光アイソレータとしてもよい。
【0026】
本発明は、第5の態様として、磁気光学デバイスの製造方法であって、上記の常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法によって得られた常磁性ガーネット型透明セラミックスを用いて、磁気光学デバイスを構成する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、所定の混合原料を用いて所定の条件で処理することで、8mmφ以上の大型の常磁性ガーネット型透明セラミックスを作製した場合であっても、散乱損失を安定して小さく抑えることができる。そのため材料径を大きくし、熱レンズを劇的に小さくすることができる。また、この常磁性ガーネット型透明セラミックスを用いて、高出力レーザー装置への適用が可能な光アイソレータなどの磁気光学デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明に係る常磁性ガーネット型透明セラミックスの混合原料を室温から昇温させて焼結した際の熱重量示差熱分析(TG-DTA)法による測定結果を示すグラフである。
図2】本発明に係る磁気光学材料をファラデー回転子として用いた光アイソレータの構成例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<常磁性ガーネット型透明セラミックス>
先ず、本発明に係る常磁性ガーネット型透明セラミックスの一実施の形態について説明する。本実施の形態の常磁性ガーネット型透明セラミックスは、下記式(1)で表されるテルビウム(Tb)、イットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)及びアルミニウム(Al)を含有する複合酸化物の焼結体を含む。
(Tb1-x-ySc(Al1-zSc)O12 (1)
(式中、0.05≦x≦0.45、0<y<0.1、0.5<1-x-y<0.95、0.001<z<0.15、0<y+z<0.2である。)
【0030】
この複合酸化物焼結体では、ガーネット構造中の6配位サイトと4配位サイトの主成分をアルミニウム(Al)とすることが必須である。これらのサイトの主成分をアルミニウムで構成することで、結晶の結合性が向上し、ひいては波長1064nmにおける30℃±10℃でのdn/dtの平均値を小さくできる。そして、このアルミニウムの6配位サイトと4配位サイトとを占める割合を1-z(0≦z<0.15)とすることで、波長1064nmにおける30℃±10℃でのdn/dtの平均値を9.0×10-6-1以下に管理することができる。
【0031】
本実施の形態の複合酸化物焼結体では、8配位サイトの主成分としてテルビウム(Tb)とイットリウム(Y)を選定し、且つテルビウムの濃度を1-x-y(0.5<1-x-y<0.95)、イットリウムの濃度をx(0.05≦x≦0.45)の範囲で管理する。テルビウムの濃度が前記の範囲で管理されていると、波長1064nmでのベルデ定数を30rad/(T・m)以上にすることができる。また、テルビウムの濃度が前記の範囲にあり、且つイットリウムの濃度を前記の範囲で管理すると、波長1064nmにおける30℃±10℃でのdn/dtの平均値を9.0×10-6-1以下にすることができる。なお、この2つの主成分はそれぞれが同時に前記の範囲を満たした際に、この2つの特性を同時に満たすことができる。
【0032】
本実施の形態の複合酸化物焼結体では、スカンジウム(Sc)を前述の式(1)の範囲内で添加する。式(1)中、先ず、スカンジウムの濃度を示すyの範囲は0<y<0.1であり、0.001<y<0.008が好ましく、0.002<y<0.004がより好ましい。yがこの範囲にあると、ペロブスカイト型異相をX線回折(XRD)分析で検出されないレベルまで減少させることができる。更にまた、焼結体の均質性や粒界散乱に起因する熱伝導率の過度な低下を防止することができる。
【0033】
また、式(1)中、スカンジウムの濃度を示すzの範囲は0.001<z<0.15であり、0.02≦z<0.004がより好ましい。zがこの範囲にあると、ペロブスカイト型異相をX線回折(XRD)分析で検出されないレベルまで減少させることができる。更にまた、焼結体の均質性や粒界散乱に起因する熱伝導率の過度な低下を防止することができる。
【0034】
このように、スカンジウムの添加量は、yが0を超えて0.1未満、zが0.001を超えて0.15未満である。yの下限値が0を超えて、かつzの下限値が0.001を超えて式(1)の範囲内でスカンジウムが添加されていると、高度に透明な焼結体を安定して製造することが可能となる。
【0035】
本実施の形態の常磁性ガーネット型透明セラミックスは、上記式(1)で表される複合酸化物の焼結体を主成分として含有する。ここで、「主成分として含有する」とは、式(1)で表される複合酸化物焼結体を90質量%以上含有することを意味する。式(1)で表される複合酸化物焼結体の含有量は99質量%以上であることが好ましく、99.9質量%以上であることがより好ましく、99.99質量%以上であることが更に好ましく、99.999質量%以上であることが特に好ましい。
【0036】
本実施の形態の常磁性ガーネット型透明セラミックスは、焼結助剤としてSiOを0質量%超0.1質量%以下で含有することが好ましい。SiOが前記の範囲で含有されていると、得られる常磁性ガーネット型セラミックスの透明性が実用に耐えるレベルまで向上し、且つ安定するため好ましい。
【0037】
本実施の形態の常磁性ガーネット型透明セラミックスは、上記の主成分と副成分(焼結助剤)とで構成されるが、更に他の元素を含有していてもよい。その他の元素としては、ルテチウム(Lu)、セリウム(Ce)等の希土類元素、あるいは様々な不純物群として、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、燐(P)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)等が典型的に例示できる。
【0038】
その他の元素の含有量は、Tb及びYの全量を100質量部としたとき、10質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以下であることが更に好ましく、0.001質量部以下(実質的にゼロ)であることが特に好ましい。
【0039】
そして、本実施の形態の常磁性ガーネット型透明セラミックスは、材料径8mmφ以上の大型焼結体を作製した場合であっても、光学研磨された光学両端面の全光線透過率が84.1%以上、前方散乱率が0.40%以下であるため、散乱損失を安定して小さく抑えることができる。これについて図1を参照して説明する。
【0040】
図1は、熱重量示差熱分析(TG-DTA)装置を用いて上記式(1)で表される複合酸化物の混合原料(後述する組成1)を室温から約1100℃まで加熱昇温した際の熱重量(TG)の測定結果(質量損失)を表すグラフである。焼結前のテルビウム、イットリウム及びスカンジウムの各酸化物(これらをまとめて「希土類酸化物」とも呼ぶ)と酸化アルミニウムの混合原料の圧粉体は、室温から昇温していくと、図1のグラフのTGが0mgである左上の出発点から徐々に重量が減少した。これは、吸着水分が揮散することによる重量減少である。その後、300~350℃で重量減少率が変化しており、酸化テルビウムの第1の相変化(価数変化に伴う酸素の放出)が起こったことがわかる。更に550℃付近でも重量減少率が変化し、酸化テルビウムの第2の相変化(価数変化に伴う酸素の放出)が起こったことがわかる。その後、900℃付近から重量減少率が大きく変化し、希土類酸化物と酸化アルミニウムとの化合反応とそれに伴う酸素の放出が始まったことがかわる。そして、この化合反応は950℃付近で約半分が完了し、1100℃超で全量が完了したことが確認された。
【0041】
次に、焼結の完了後、室温まで冷却させたが、重量増加はほとんど観察されなかった。これから、一度化合反応した原料ではテルビウムの相変化(価数変化に伴う酸素の吸収)はほとんど起こらないことがわかる。室温付近で重量微増が見られたのは、おそらく吸着水分と考えられる。
【0042】
ここで、基本的に、焼結工程を行う前に、粉末原料である希土類酸化物と酸化アルミニウムとが混合物の状態で管理されていると、その混合原料は極めて均質で柔らかく仕上げることが可能となる。もちろん、混合原料の不均一さに由来するダマ、ジャリなども防止することができる。ところが、混合原料中の希土類酸化物と酸化アルミニウムとが化合反応していると(例えば、モノクリニック相、ペロブスカイト相またはガーネット相が生成)、その反応化合物を含む混合原料は、そのような反応化合物を含まない混合原料よりも状態が格段に硬くなり、さらに化合進行ムラに起因する凝集状態のばらつきが生じ、ダマ、ジャリなども累積する。また、このような混合原料を造粒すると、当然、顆粒の硬さ及びばらつき等も悪化する。そして、このような不均質な混合原料を用いて大型成形体を作製すると、成形体内部に応力伝達ムラが生じることや、意図しない粗大な空隙の発生を防止できなくなる。
【0043】
一方、このような硬くて不均質な反応化合物の混合原料中の割合が混合原料中の半分未満に抑えられていれば、混合原料を用いて作製される成形体は均質で、応力伝達ムラも少なく、望まない粗大空隙の発生も防止することが可能となる。この硬くて不均質な反応化合物(例えば、モノクリニック相、ペロブスカイト相、ガーネット相)の焼結開始時の混合原料全体に占める割合(モル比率)は半分未満が不可欠であり、三分の一未満が好ましく、四分の一未満が更に好ましく、十分の一未満が特に好ましい。出発混合原料全体に占める硬くて不均質な反応化合物の割合が前記の割合の範囲内に抑えられていると、特に大型の成形体を作製する場合であっても、低散乱で高品質な透明焼結体が得られる良質な成形体に仕上げることができる。
【0044】
希土類酸化物と酸化アルミニウムとの化合反応が始まる温度は、図1からおおよそ900℃と読み取れる。また、この化合反応は950℃で約半分が完了することが読み取れる。また、図1に示すように、一度化合反応した原料は冷却しても元の化合していない状態に戻ることはできない。よって、成形体の作製には、熱履歴が950℃以下に抑えられた混合原料を用いることで、成形体作成時の混合原料中の希土類酸化物と酸化アルミニウムとが化合していない状態の粉末のモル比率を、希土類酸化物と酸化アルミニウムとが化合したモノクリニック相、ペロブスカイト相およびガーネット相のいずれかの化合物の状態の粉末のモル比率以上にすることができる。例えば、成形体の作製前に、混合材料を仮焼処理したり、あるいは加熱乾燥処理する場合は、熱履歴を950℃以下に抑えるため、その温度を950℃以下にする必要がある。熱履歴は920℃以下に抑えることが好ましく、900℃以下に抑えることがより好ましい。
【0045】
また、本実施の形態の常磁性ガーネット型透明セラミックスは、成形体作製後、有機バインダーなどを焼成除去するために脱脂処理を施す場合、脱脂処理温度を950℃以下に抑えたものが好ましく、920℃以下に抑えたものがより好ましい。成形体の脱脂処理温度が当該範囲に管理されていると、脱脂体の加熱による、減圧環境下ではない雰囲気での意図しない熱収縮を防止できる。
【0046】
更に、本実施の形態の常磁性ガーネット型透明セラミックスは、減圧雰囲気で焼結処理されたものである。減圧雰囲気で焼結処理すると、加熱によってTb4価がTb3価に変化する際に大量に脱離してくる酸素ガスを効率よく焼結体外部に排出、揮散させることができる。また、減圧雰囲気で焼結処理する際、得られる焼結体の相対焼結密度を93.8%以上97.2%以下の範囲とする。得られる焼結体の相対焼結密度がこの範囲内に管理されていると、焼結体内部の残留気泡をクローズドポアにすることができ、一方で、焼結粒径は過剰に大きくさせずに管理できる。減圧雰囲気で焼結処理して得られる焼結体の相対焼結密度は、93.8%以上96.5%以下の範囲とすることがより好ましい。
【0047】
そして、本実施の形態の常磁性ガーネット型透明セラミックスは、上記の焼結密度の範囲内である焼結体をさらに熱間等方圧加圧(HIP:Hot Isostatic Pressing)処理して、焼結体の相対焼結密度が99.9%以上となるまで緻密化させる。こうすることにより、焼結粒径が小さい状態で効果的にHIP処理することが可能となるため、直径が8mmφ以上の大型の焼結体であっても、その中心部まで十分に緻密化が進む。
【0048】
このような熱履歴の管理および各種処理をして得られた本実施の形態の常磁性ガーネット型透明セラミックスは、外径が8mmφ以上と大型であっても、光学研磨された光学両端面の全光線透過率を84.1%以上、前方散乱率を0.40%以下とすることができる。また、本実施の形態の常磁性ガーネット型透明セラミックスは、目的とする磁気光学材料に用いるため、その長さが17mm以上となるように加工処理されてもよい。常磁性ガーネット型透明セラミックスの長さが17mm以上あると、外装する磁石の構成やサイズの如何に関わらず、波長帯0.9μm以上1.1μm以下の入射光を45度回転させることが可能となるため好ましい。
【0049】
なお、本実施の形態の常磁性ガーネット型透明セラミックスは、HIP処理後に、さらにHIP処理温度を超える温度で8時間以上にわたり再焼結処理することが好ましい。これにより、内部歪みや残留気泡を除去することができる。再焼結処理時間は8時間以上が好ましく、10時間以上がさらに好ましい。再焼結処理時間をこのように十分に長くすることで、直径が8mmφ以上の大型の焼結体であっても、その中心部にいたるまで十分に残留歪みや残留気泡を排除することができる。
【0050】
また、実施の形態の常磁性ガーネット型透明セラミックスは、再焼結処理後、得られた焼結体をさらに1300℃以上の酸化雰囲気でアニール処理することが好ましい。これにより、酸素欠損を解消させることができる。この時のアニール処理時間は8時間以上が好ましく、20時間以上がさらに好ましく、30時間以上が特に好ましい。アニール処理時間をこのように十分に長くすることで、直径が8mmφ以上の大型の焼結体であっても、その中心部にいたるまで十分に酸素欠損が回復可能となる。
【0051】
<常磁性ガーネット型透明セラミックスの製造方法>
次に、本発明に係る常磁性ガーネット型透明セラミックスを製造する方法の一実施の形態について説明する。本実施の形態では、熱履歴が950℃以下に抑えられた上記式(1)で表される複合酸化物の混合原料を用いて成形体を得る成形工程と、950℃以下の温度に抑えて成形体を脱脂処理する脱脂工程と、脱脂処理した成形体を減圧焼結処理し、相対焼結密度が93.8%以上97.2%以下の範囲の焼結体を得る焼結工程と、焼結体をさらに熱間等方圧加圧(HIP)処理により相対焼結密度が99.9%以上となるまで緻密化させる工程と主に含む。以下に、用いる混合原料および各工程について説明する。
【0052】
(1.混合原料)
本実施の形態で用いる原料としては、テルビウム、イットリウム、スカンジウム、アルミニウムの各酸化物の粉末を利用することが好ましい。この時の原料純度は99.9質量%以上が好ましく、99.99質量%以上が特に好ましい。そして、上記式(1)で表される複合酸化物の組成となるように各原料を所定量秤量し、混合して混合原料を得る。
【0053】
この混合原料には、焼結助剤として、酸化シリコン(SiO)を0質量%超0.1質量%以下で添加してもよい。混合原料は、適宜、湿式ボールミル、ビーズミル、またはジェットミルによって処理する。
【0054】
また、この混合原料には、複合酸化物の焼結体の製造工程での品質安定性や歩留り向上の目的で、各種の有機添加剤が添加される場合がある。本実施の形態においては、これらについても特に限定されず、各種の分散剤、結合剤、潤滑剤、可塑剤等が好適に利用できる。ただし、これらの有機添加剤としては、不要な金属イオンが含有されない、高純度のタイプを選定することが好ましい。また、それぞれの有機添加剤の添加順序は、製造しようとする原料の性状(粒度分布等)を管理することを阻害しないよう、適切に設計される必要がある。
【0055】
そして、この混合原料は、熱履歴が950℃以下に抑えられたものを使用する。熱履歴が950℃以下に抑えられていることで、混合原料中の希土類酸化物と酸化アルミニウムとが化合していない状態で混合されている粉末のモル比率は、希土類酸化物と酸化アルミニウムとが化合したモノクリニック相、ペロブスカイト相およびガーネット相のいずれかの化合物の状態で混合されている粉末のモル比率以上となっている。
【0056】
(2.成形工程)
本実施の形態の製造方法においては、通常のプレス成形工程を好適に利用できる。即ち、ごく一般的な、型に充填して一定方向から加圧する一軸プレス工程や変形可能な防水容器に密閉収納して静水圧で加圧する冷間静水圧加圧(CIP:Cold Isostatic Pressing)工程や温間静水圧加圧(WIP:Warm Isostatic Pressing)工程が好適に利用できる。なお、印加圧力は得られる成形体(圧粉体)の相対密度を確認しながら適宜調整すればよく、特に制限されないが、例えば市販のCIP装置やWIP装置で対応可能な300MPa以下程度の圧力範囲で管理すると製造コストが抑えられてよい。あるいはまた、成形時に成形工程のみでなく一気に焼結まで実施してしまうホットプレス工程や放電プラズマ焼結工程、マイクロ波加熱工程なども好適に利用できる。また、プレス成形法ではなく、上記の混合原料から湿式スラリーを調製して、鋳込み成形法によっても、成形体の作製が可能である。加圧鋳込み成形や遠心鋳込み成形、押出し成形等の成形法も、出発原料である酸化物粉末の形状やサイズと各種の有機添加剤との組合せを最適化することで、採用可能である。
【0057】
なお、本実施の形態の製造方法では、得られる常磁性ガーネット型透明セラミックスの外径を外周研削後で8mmφ以上とするために、一軸プレス成形冶具の内径が11mmφ以上である太径冶具を用いることにより作製することが好ましい。なお、治具内径の上限値は、特に限定されないが、例えば、150mmφ以下としてもよい。
【0058】
(3.脱脂工程)
本実施の形態の製造方法においては、通常の脱脂工程を好適に利用できる。例えば、加熱炉による昇温脱脂工程を経ることが可能である。また、この時の雰囲気ガスの種類も特に制限はなく、空気、酸素、水素等が好適に利用できる。脱脂温度については、添加される有機添加剤の有機成分が十分に分解除去できる温度以上であって、かつ950℃以下に抑えられた範囲とし、920℃以下に抑えられた範囲がより好ましい。脱脂処理温度をこのような範囲内に管理することで、脱脂済成形体が加熱によって、減圧環境下ではない雰囲気での意図しない熱収縮が発生することを防止できる。
【0059】
(4.焼結工程)
本実施の形態の製造方法においては、一般的な焼結工程を好適に利用できる。例えば、抵抗加熱方式、誘導加熱方式等の加熱焼結工程を好適に利用できる。また、この時の雰囲気については減圧環境(真空中)とする。このように減圧焼結処理をすることで、直径が8mmφ以上の大型の焼結体であっても、その中心部まで十分に脱脂済成形体からの脱離酸素ガスを系外排出することができる。真空度は、例えば、1×10-3torr以下が好ましい。
【0060】
本実施の形態の焼結工程における焼結温度は、1400~1780℃が好ましく、1500~1750℃が特に好ましい。焼結温度がこの範囲にあると、異相析出を抑制しつつ緻密化が促進されるため好ましい。
【0061】
本実施の形態の焼結工程における焼結保持時間は、数時間程度で十分であるが、焼結体の相対密度を93.8%以上97.2%以下の範囲となるように管理する。このような焼結密度を得るための焼結工程の管理は、数回予備実験を重ねることで実施することが可能である。
【0062】
(5.HIP処理工程)
本実施の形態の製造方法においては、焼結工程を経た後に更に熱間等方圧プレス(HIP)処理を行う。HIP処理に用いる加圧ガス媒体種類は、アルゴン、窒素等の不活性ガス、又はAr-Oが好適に利用できる。加圧ガス媒体により加圧する圧力は、50~300MPaが好ましく、100~300MPaがより好ましい。圧力50MPa未満では透明性改善効果が得られない場合があり、300MPa超では圧力を増加させてもそれ以上の透明性改善が得られず、装置への負荷が過多となり装置を損傷するおそれがある。印加圧力は市販のHIP処理装置で処理できる196MPa以下であると簡便で好ましい。
【0063】
また、HIP処理の温度(所定保持温度)は1100~1780℃、好ましくは1200~1730℃の範囲で設定される。熱処理温度が1780℃超では酸素欠損発生リスクが増大するため好ましくない。また、熱処理温度が1100℃未満では焼結体の透明性改善効果がほとんど得られない。なお、熱処理温度の保持時間については特に制限されないが、あまり長時間保持すると酸素欠損発生リスクが増大するため好ましくない。典型的には1~3時間の範囲で好ましく設定される。
【0064】
なお、HIP処理に用いるヒーター材、断熱材、処理容器は、特に制限されないが、グラファイト、ないしはモリブデン(Mo)、タングステン(W)、白金(Pt)が好適に利用でき、処理容器としてさらに酸化イットリウム、酸化ガドリニウムも好適に利用できる。特に処理温度が1500℃以下である場合、ヒーター材、断熱材、処理容器として白金(Pt)が使用でき、かつ加圧ガス媒体をAr-Oとすることができるため、HIP処理中の酸素欠損の発生を防止できるため好ましい。処理温度が1500℃を超える場合にはヒーター材、断熱材としてグラファイトが好ましいが、この場合は処理容器としてグラファイト、モリブデン(Mo)、タングステン(W)のいずれかを選定し、さらにその内側に二重容器として酸化イットリウム、酸化ガドリニウムのいずれかを選定したうえで、容器内に酸素放出材を充填しておくと、HIP処理中の酸素欠損発生量を極力少なく抑えられるため好ましい。
【0065】
(6.再焼結工程)
本実施の形態の製造方法においては、HIP処理後に、さらにHIP処理温度を超える温度で8時間以上、再焼結処理してもよい。これにより、内部歪みや残留気泡を除去することができる。特に、一軸プレス成形冶具の内径が11mmφ以上である太径冶具を用いて大型焼結体を製造する際に、その中心部にいたるまで十分に残留歪みや残留気泡を排除することができ、より高品質なものを再現性良く製造することが可能となる。なお、再焼結の上限温度は1780℃以下が好ましい。1780℃を超えると、酸素欠損発生リスクが増大するため好ましくない。再焼結処理時間は、処理する焼結体の直径が太いほど長めに取るとよく、10時間以上がさらに好ましい。
【0066】
(7.アニール工程)
本実施の形態の製造方法においては、再焼結処理を終えた後に、得られた透明セラミックス中の酸素欠損を回復させる目的で、1300℃以上の酸素雰囲気でアニール処理を施すことが好ましい。これにより、特に直径が8mm以上の大型の焼結体であっても、無色透明の欠陥吸収のない常磁性ガーネット型透明セラミックスを得ることができる。アニール処理の上限温度は、典型的には1500℃以下とすることが好ましい。
【0067】
(8.光学研磨)
本実施の形態の製造方法においては、上記一連の製造工程を経た常磁性ガーネット型透明セラミックスについて、その光学的に利用する軸上にある両端面を光学研磨することが好ましい。このときの光学面精度は測定波長λ=633nmの場合、λ/2以下が好ましく、λ/8以下が特に好ましい。なお、光学研磨された面に適宜反射防止膜を成膜することで光学損失を更に低減させることも可能である。
【0068】
また、本実施の形態の製造方法においては、得られた常磁性ガーネット型透明セラミックスを外周研磨して、直径が8mm以上の大型の焼結体とすることが好ましい。なお、直径の上限値は、特に限定されないが、例えば、150mm以下としてもよい。更に、得られた常磁性ガーネット型透明セラミックスを磁気光学材料に用いるため、その長さが17mm以上となるように加工処理してもよい。常磁性ガーネット型透明セラミックスの長さを17mm以上とすることで、外装する磁石の構成やサイズの如何に関わらず、波長帯0.9μm以上1.1μm以下の入射光を45度回転させることが可能となるため好ましい。
【0069】
以上のようにして、上記式(1)で表されるテルビウム、イットリウム、スカンジウム及びアルミニウムを含有する複合酸化物の焼結体を含み、直径が8mmφ以上であっても、光学研磨された光学両端面の全光線透過率が84.1%以上、且つ前方散乱率が0.40%以下である常磁性ガーネット型透明セラミックスを得ることができる。この常磁性ガーネット型透明セラミックスは波長帯0.9μm以上1.1μm以下で動作可能なファラデー回転子として利用できる。
【0070】
<磁気光学デバイス>
更に、本発明に係る磁気光学デバイスの一実施形態について説明する。本発明に係る磁気光学デバイスは、上記の常磁性ガーネット型透明セラミックスを用いて構成されるものである。上記の常磁性ガーネット型透明セラミックスは磁気光学材料として利用することができ、具体的には、この常磁性ガーネット型透明セラミックスにその光学軸と平行に磁場を印加したうえで、偏光子、検光子とを互いにその光軸が45度ずれるようにセットして磁気光学デバイスを構成、利用することが好ましい。
特に、本発明に係る常磁性ガーネット型透明セラミックスは、磁気光学デバイスとして、波長0.9~1.1μmの光アイソレータのファラデー回転子として好適に使用される。
【0071】
図2は、本発明の常磁性ガーネット型透明セラミックスからなるファラデー回転子を光学素子として備える磁気光学デバイスである光アイソレータの一例を模式的に示す断面図である。図2に示すように、光アイソレータ100は、その筐体102の内部に、上記の常磁性ガーネット型透明セラミックスからなるファラデー回転子110と、偏光材料からなる偏光子120及び検光子130とを備える。これらは、ファラデー回転子の光学軸104に沿って、偏光子120、ファラデー回転子110、検光子130の順序で配置されている。偏光子120の偏光振動面と検光子130の偏光振動面は、相対角度が45°になるよう配置される。また、光アイソレータ100は、筐体102内のファラデー回転子110の周囲に、ファラデー回転子110に磁界を印加するための磁石140を備える。
【0072】
このような光アイソレータ100は産業用ファイバーレーザー装置(図示省略)に好適に利用できる。レーザー光源から発したレーザー光の反射光が光源に戻り、発振が不安定になるのを光アイソレータによって防止することができる。
【実施例0073】
以下に、実施例、比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
[実施例1~7、比較例1~7]
信越化学工業株式会社製の酸化テルビウム粉末、酸化イットリウム粉末、酸化スカンジウム粉末、及び大明化学株式会社製の酸化アルミニウム粉末を入手した。さらにキシダ化学株式会社製のオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)液体を入手した。純度は粉末原料がいずれも99.95質量%以上、液体原料が99.999質量%以上であった。そして、上記原料を用いて、混合比率を調整して表1に示す組成1及び組成2の2種類の最終組成となる混合原料を作製した。なお、混合比率の調整方法としては、テルビウム、イットリウム、アルミニウム及びスカンジウムのモル数がそれぞれ表1の各組成のモル比率となるよう各々の酸化物粉末を秤量して混合した。続いてTEOSを、その添加量がSiO換算で表1の質量%になるように秤量して混合原料に加えた。
【0074】
【表1】
【0075】
そして、それぞれ互いの混入を防止するよう注意しながらエタノール中でアルミナ製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は15時間とした。その後、スプレードライ処理を行って、いずれも平均粒径が20μmの顆粒状原料を作製した。得られた2種類の顆粒状原料につき、それぞれ内径の異なる7種類の一軸プレス成形冶具を用いて、表2に示す成形体を各々10本ずつ作製した。長さはいずれも成形体長さが33mmになるよう原料充填量を調整した。その後、すべての成形体につき198MPaの圧力で静水圧プレス処理を施してCIP成形体を得た。得られた成形体をすべてマッフル炉中で800℃、3時間の条件にて脱脂処理して脱脂済成形体を得た。
【0076】
【表2】
【0077】
続いて前記すべての脱脂済成形体を各5本ずつに分け、片方のグループを真空焼結炉で1510~1570℃の焼結温度に調整して3時間処理して、焼結密度が97.2%以下となる焼結体を得た。さらに残りの5本ずつの脱脂済成形体を、同じく真空焼結炉で1580~1640℃の焼結温度に調整して3時間処理して焼結密度が98%以上となる焼結体を得た。この時の各サンプルグループの焼結密度を表3にまとめた。
【0078】
【表3】
【0079】
得られた各焼結体をカーボンヒーター製HIP炉に仕込み、Ar中、200MPa、1600℃、3時間の条件でHIP処理した。得られた焼結体はいずれも相対密度が99.9%以上となっていた。また、それらの外観は青みがかった灰色(酸素欠損吸収)を呈していた。
【0080】
その後、焼結体中心部まで含めた全領域にわたって残留気泡を排除するために、すべてのHIP処理済焼結体を真空焼結炉で1730℃の焼結温度にて15時間にわたり再焼結処理した。
【0081】
続いて、得られた各セラミックスについて、各々のロット(実施例番号、比較例番号)を管理しながら大気加熱炉にて、1400℃で30時間アニール処理して、酸素欠損を十分に回復させる処置を施した。こうして実施例と比較例を合わせて合計28種類の焼結体セットを各々5本ずつ用意した。また、この時点での各セラミックスの外径を測定した。それらの結果も表3にまとめた。
【0082】
その後、得られた各セラミックスについて、それぞれセンタレス外周研削することで外径を以下のように整えた。すなわち、実施例1、8、比較例1、8については直径4.2mmに、実施例2、9、比較例2、9については直径5.8mmに、実施例3、10、比較例3、10については直径7.3mmに、実施例4、11、比較例4、11については直径8.7mmに、実施例5、12、比較例5、12については直径11.1mmに、実施例6、13、比較例6、13については直径22.4mmに、実施例7、14、比較例7、14については直径8.1mmにセンタレス加工した。なお、一般的に焼結体の外径は収縮度合いのばらつきを反映して仕上りサイズがばらつくことが知られている。よってファイバーレーザー加工機などの光学機器に搭載するためには、その外径は高精度に加工されて揃えられていることが好ましい。
【0083】
その後、いずれも長さ23mmに揃うように切断および研磨処理し、且つ、それぞれのサンプルの光学両端面が光学面精度λ/8(測定波長λ=633nmの場合)になるように精密鏡面研磨処理した。なお、長さが同じであっても、外形が大きくなるほど入射光が45度回転するのに必要な印加磁場は増大することが知られている。本明細書においては詳しい説明を省くが、実際のファラデーローテータとして機能させるためには、各焼結体外径に合わせて適宜外筒磁石の材質や厚み、磁界印加パターンなどを調整することが必須である。
【0084】
上記のようにして得られた実施例および比較例の各セラミックスについて、全光線透過率、前方散乱率、消光比をそれぞれ以下のように測定した。
【0085】
(全光線透過率および前方散乱率の測定方法)
全光線透過率および前方散乱率は、JIS K7105(ISO 13468-2:1999)およびJIS K7136(ISO 14782:1999)を参考に測定した。日本分光株式会社製の分光光度計V-670を用いて、波長1064nmについて測定した。まず、全光線透過率の測定は、分光光度計V-670にワーク(サンプル)をセットせずに分光器で分光させた光を照射し、この光を予め装置にセットされている積分球で受けて、集光された光を検知器で受光する。得られた照度をIとし、続いてワークを装置にセットして、今度は分光させた光をワークに入射し、透過してきた光を再度積分球で集めて検知器で受光する。得られた照度をIとして次式により全光線透過率を求めた。
全光線透過率(%/25mm)=I/I×100
【0086】
次に、前方散乱率の測定は、前記のワークがセットされた状態から積分球裏面の反射板を取り除いた以外はすべて同じ測定系で、再び分光された光をワークに入射し、透過してきた光を再度積分球で集めて検知器で受光する。得られた照度は直線透過成分以外の散乱成分を表し、これをIとして次式により前方散乱率を求めた。
前方散乱率(%/25mm)=I/I×100
【0087】
なお、再現性やバラツキの影響を考慮するため、すべての条件につき各々5個ずつ測定し、その平均値を算出して各々の実施例、比較例の全光線透過率および前方散乱率の値とした。なお、ビーム径は焼結体の直径に関わらず2mmφのものを利用し、その入射位置は光学有効面の略中心となるよう調整した。
【0088】
(消光比の測定方法)
以下のようにして、ファラデー回転子としての消光比を測定した。消光比は、NKT Photonics社製の光源と、コリメータレンズ、偏光子、ワークステージ、検光子、Gentec社製のパワーメータ並びにGeフォトディテクタを用いて内製した光学系を用い、波長1064nmの光をビーム径1.5mmφになるようにコリメータレンズで調整してサンプル中を透過させ、この状態で検光子の偏光面を偏光子の偏光面と一致させた際の光の強度I’(レーザー光強度として最大値)を測定し、続いて検光子の偏光面を90度回転して偏光子の偏光面と直交させた状態で再度受光強度I’(レーザー光強度として最小値)を測定したうえで、以下の式に基づいて計算により消光比を求めた。
消光比(dB)=-10×log10(I’/I’)
【0089】
以上の全光線透過率、前方散乱率、消光比の測定結果をまとめて表4に示す。
【0090】
【表4】
【0091】
表4の結果から、本発明の複合酸化物焼結体を作製するにあたり、焼結工程での焼結密度が93.9%~97.1%の範囲になるよう調整した実施例のグループは、センタレス後の直径が4.2mmから22.4mmまでのすべての焼結体について、その外径寸法に依存することなく、いずれも全光線透過率84.1%以上で前方散乱率が0.4%以下におさまった極めて低散乱な焼結体が作製できていた。また、消光比もすべて42dB以上であった。
【0092】
他方、焼結工程での焼結密度が98%以上である比較例のグループでは、センタレス後の直径が7.3mm以下の比較的細い焼結体の場合には全光線透過率が84%以上で前方散乱率が0.4%以下の低散乱で高品質な焼結体が得られているが、センタレス後の直径が8.1mm以上と大きくなると、その外径サイズに比例するように全光線透過率も84%未満に劣化し、且つ前方散乱率も0.45%以上に悪化しており、焼結体の散乱が増加していることが確認された。
【0093】
本実施例、比較例の総合的な結果から、次のことが結論づけられる。すなわち、直径8mm以下の細い焼結体を作製する場合には、HIP処理の前の焼結密度を一定の範囲に管理する必要は無い。他方、直径8mm以上の太い焼結体を作製しようとする場合には、HIP処理前の段階の焼結密度を93.8%以上97.2%以下の範囲で厳密に管理する必要がある。なお、焼結密度が93.7%以下になると、焼結体内部の残留気孔の一部がオープンポアとして残ってしまい、該オープンポアは、HIP処理でつぶすことができないことに起因する空隙となってしまうため、HIP工程で焼結体の焼結密度を99.9%まで高めることは不可となる。
【0094】
このように、HIP工程前の段階の焼結密度を93.8%以上97.2%以下の範囲で厳密に管理することで、複合酸化物の焼結体はその成形サイズ、特に外径サイズが8mmφ以上のものであっても問題なく低散乱に仕上り、そのためハイパワーレーザーシステムに搭載可能な複合酸化物焼結体を高品質に再現性良く作製することが可能となる。実際、当該焼結体をハイパワーレーザーシステムに搭載することにより、ハイパワーレーザーを出射させてもそのビームプロファイルが崩れない、高品質のハイパワーレーザーシステムを提供することが可能となる。
【0095】
なお、これまで本発明を上述した実施形態をもって説明してきたが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0096】
100 光アイソレータ
110 ファラデー回転子
120 偏光子
130 検光子
140 磁石
図1
図2