(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161165
(43)【公開日】2023-11-07
(54)【発明の名称】熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/34 20060101AFI20231030BHJP
C08F 2/00 20060101ALI20231030BHJP
C08F 22/40 20060101ALI20231030BHJP
C08F 4/32 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
B32B27/34
C08F2/00 C
C08F22/40
C08F4/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071347
(22)【出願日】2022-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堤 吉弘
【テーマコード(参考)】
4F100
4J011
4J015
4J100
【Fターム(参考)】
4F100AA16C
4F100AA33C
4F100AA40C
4F100AB11C
4F100AB33C
4F100AH05A
4F100AH05D
4F100AK01A
4F100AK01C
4F100AK01D
4F100AK32A
4F100AK32D
4F100AK42A
4F100AK42D
4F100AK49B
4F100AK52A
4F100AK52D
4F100AT00A
4F100AT00C
4F100AT00D
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA07
4F100CA30B
4F100EJ08
4F100EJ42
4F100GB41
4F100JB13B
4F100JL14A
4F100JL14D
4F100YY00B
4J011AA01
4J011AB01
4J011CA01
4J011CA02
4J011CA05
4J011CA08
4J015BA05
4J100AM55P
4J100BC07P
4J100BC66P
4J100BC67P
4J100CA01
4J100FA03
4J100FA18
4J100FA27
4J100JA43
(57)【要約】
【課題】硬化不良やそれに伴う外観不良を起こさない熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法の提供。
【解決手段】
(A)1分子中にダイマー酸骨格由来の炭化水素基を1個以上有するマレイミド化合物、
及び
(B)ラジカル重合開始剤
を含有する熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法であって、
剥離シート、前記熱硬化性マレイミド樹脂組成物からなる樹脂層及び基材をこの順で積層し、積層体を得る積層工程と、
前記積層体の剥離シートを剥がすことなく、前記積層体を樹脂層の熱硬化性マレイミド樹脂組成物が硬化する温度に加熱する硬化工程
とを有する熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1分子中にダイマー酸骨格由来の炭化水素基を1個以上有するマレイミド化合物
及び
(B)ラジカル重合開始剤
を含有する熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法であって、
剥離シート、前記熱硬化性マレイミド樹脂組成物からなる樹脂層及び基材をこの順で積層し、積層体を得る積層工程と、
前記積層体の剥離シートを剥がすことなく、前記積層体を樹脂層の熱硬化性マレイミド樹脂組成物が硬化する温度に加熱する硬化工程
とを有する熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法。
【請求項2】
積層工程が、基材の樹脂層と接していない面に、さらに別の剥離シートを配置し、剥離シート、前記熱硬化性マレイミド樹脂組成物からなる樹脂層、基材及び剥離シートの少なくとも4層を有する積層体を得る工程である、請求項1に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法。
【請求項3】
(A)成分が下記式(1)及び/または(2)で表されるマレイミド化合物である請求項1又は2に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法。
【化1】
(式(1)中、Aは独立して環状構造を有する4価の有機基であり、Bは独立して炭素数6~60の2価の脂環式炭化水素基であり、Dは独立して炭素数6~200の2価炭化水素基であり、Dの少なくとも1つはダイマー酸骨格由来の炭化水素基であり、mは1~100であり、lは1~200である。m及びlで括られた各繰り返し単位の順序は限定されず、結合様式は、交互であっても、ブロックであっても、ランダムであってもよい。)
【化2】
(式(2)中、Aは独立して環状構造を有する4価の有機基であり、Dは独立して炭素数6~200の2価炭化水素基であり、Dの少なくとも1つはダイマー酸骨格由来の炭化水素基である。nは0~100である。)
【請求項4】
式(1)及び式(2)中のAが下記構造式で示される4価の有機基のいずれかである請求項3に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法。
【化3】
【請求項5】
(B)成分のラジカル重合開始剤が有機過酸化物である請求項1~4のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法。
【請求項6】
剥離シートが、熱硬化性マレイミド樹脂組成物からなる樹脂層と接する面が離型処理されたプラスチックフィルムである請求項1~5のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法。
【請求項7】
基材が、金属箔、シリコーンウエハ、SiCウエハ、サファイアウエハ、化合物半導体ウエハ、有機基板及びセラミック基板から選ばれる少なくとも一種である請求項1~6のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法。
【請求項8】
樹脂層が厚さ1~300μmである請求項1~7のいずれか1項に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、5Gという次世代通信システムが流行しており、ミリ波領域を超え、さらには6Gという次々世代の通信システムの開発も始まり、今以上の高速、大容量、低遅延通信を実現しようとしている。これらの通信システムを実現するためには、高周波帯用の材料が必要であり、ノイズ対策として伝送損失の低減が必須となる。
伝送損失は導体損失と誘電損失の和であり、導体損失の低減には使用する金属箔の表面の低粗化が必要である。一方、誘電損失は、比誘電率の平方根と誘電正接の積に比例することから、絶縁材としては誘電特性の優れた(低比誘電率かつ低誘電正接の)絶縁材料の開発が求められている。
【0003】
その中でも基板用途で、このような誘電特性の優れた絶縁材料が求められている。リジッド基板では反応性ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、フレキシブルプリント基板(FPC)では液晶ポリマー(LCP)や特性を改良した変性ポリイミド(MPI)と呼ばれる製品が使用されるようになってきている。
【0004】
これに対して、実質的にダイマージアミン骨格を有するマレイミド化合物(特殊マレイミド化合物)を基板用の樹脂として使用することが報告されている(特許文献1~4)。一般的なマレイミド樹脂の特性とは逆で、特殊マレイミド化合物は、低ガラス転移温度(Tg)、高熱膨張係数(CTE)であるが、誘電特性に非常に優れ、フレキシブルな特性を有し、金属などへの接着力に優れ、熱硬化樹脂であるために(高)多層化できる可能性があるなど優位な点も多く、広い範囲にわたって研究開発されている。
【0005】
また、用途によっては特殊マレイミド化合物の誘電特性よりもフレキシブル性が重要視され、反りの小さいウエハなどの保護材としても検討が行われている(特許文献5)。これらの組成は熱ラジカル反応による硬化であるが、ラジカル反応は一般的に酸素阻害を受けるもの(非特許文献1)であり、硬化に際して窒素雰囲気など酸素を除去する環境を整える必要があるが、容易に酸素のない高温雰囲気を作ることは難しく、硬化不良やそれに伴う外観不良が発生してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-131243号公報
【特許文献2】特開2016-131244号公報
【特許文献3】国際公開第2016/114287号
【特許文献4】特開2018-201024号公報
【特許文献5】特開2013-211348号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「金属表面技術」1977年、No.4、Vol28,196-201
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、特殊マレイミド化合物とラジカル重合開始剤とを含有する熱硬化性マレイミド樹脂組成物の、硬化不良やそれに伴う外観不良を起こさない硬化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、下記熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法が、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
<1>
(A)1分子中にダイマー酸骨格由来の炭化水素基を1個以上有するマレイミド化合物
及び
(B)ラジカル重合開始剤
を含有する熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法であって、
剥離シート、前記熱硬化性マレイミド樹脂組成物からなる樹脂層及び基材をこの順で積層し、積層体を得る積層工程と、
前記積層体の剥離シートを剥がすことなく、前記積層体を樹脂層の熱硬化性マレイミド樹脂組成物が硬化する温度に加熱する硬化工程
とを有する熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法。
<2>
積層工程が、基材の樹脂層と接していない面に、さらに別の剥離シートを配置し、剥離シート、前記熱硬化性マレイミド樹脂組成物からなる樹脂層、基材及び剥離シートの少なくとも4層を有する積層体を得る工程である、<1>に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法。
<3>
(A)成分が下記式(1)及び/または(2)で表されるマレイミド化合物である<1>又は<2>に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法。
【化1】
(式(1)中、Aは独立して環状構造を有する4価の有機基であり、Bは独立して炭素数6~60の2価の脂環式炭化水素基であり、Dは独立して炭素数6~200の2価炭化水素基であり、Dの少なくとも1つはダイマー酸骨格由来の炭化水素基であり、mは1~100であり、lは1~200である。m及びlで括られた各繰り返し単位の順序は限定されず、結合様式は、交互であっても、ブロックであっても、ランダムであってもよい。)
【化2】
(式(2)中、Aは独立して環状構造を有する4価の有機基であり、Dは独立して炭素数6~200の2価炭化水素基であり、Dの少なくとも1つはダイマー酸骨格由来の炭化水素基である。nは0~100である。)
<4>
式(1)及び式(2)中のAが下記構造式で示される4価の有機基のいずれかである<3>に記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法。
【化3】
<5>
(B)成分のラジカル重合開始剤が有機過酸化物である<1>~<4>のいずれかに記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法。
<6>
剥離シートが、熱硬化性マレイミド樹脂組成物からなる樹脂層と接する面が離型処理されたプラスチックフィルムである<1>~<5>のいずれかに記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法。
<7>
基材が、金属箔、シリコーンウエハ、SiCウエハ、サファイアウエハ、化合物半導体ウエハ、有機基板及びセラミック基板から選ばれる少なくとも一種である<1>~<6>のいずれかに記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法。
<8>
樹脂層が厚さ1~300μmである<1>~<7>のいずれかに記載の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の特殊マレイミド化合物とラジカル重合開始剤とを含有する熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法は、硬化物の硬化不良やそれに伴う外観不良を起こさないものであり、窒素雰囲気下等酸素のない高温雰囲気を必須とすることなく、比較的簡便な方法で硬化不良や外観不良のない硬化物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の硬化物の製造方法の一例を示す概略図である。
【
図3】2つの剥離シートを有する態様の積層工程前後の積層体を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に関して更に詳しく説明する。
【0014】
本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法は、
剥離シート、後記の(A)成分及び(B)成分を含有する熱硬化性マレイミド樹脂組成物からなる樹脂層及び基材をこの順で積層し、積層体を得る積層工程と、
前記積層体の剥離シートを剥がすことなく、前記積層体を樹脂層の熱硬化性マレイミド樹脂組成物が硬化する温度に加熱する硬化工程
とを有する。
以下に、本発明の製造方法で得られる硬化物の、硬化前の熱硬化性マレイミド樹脂組成物と、該組成物に含まれる各成分について詳述する。
【0015】
<熱硬化性マレイミド樹脂組成物>
[(A)1分子中にダイマー酸骨格由来の炭化水素基を1個以上有するマレイミド化合物]
(A)成分は1分子中にダイマー酸骨格由来の炭化水素基を1個以上有するマレイミド化合物である。ダイマー酸骨格由来の炭化水素基が優れた誘電特性や低応力性、高接着性を示すのに効果的である。
【0016】
ここで言う、ダイマー酸とは、植物系油脂などの天然物を原料とする炭素数18の不飽和脂肪酸の二量化によって生成された、炭素数36のジカルボン酸を主成分とする液状の二塩基酸である。ダイマー酸は単一の骨格ではなく、複数の構造を有し、何種類かの異性体が存在する。ダイマー酸の代表的なものは直鎖型(a)、単環型(b)、芳香族環型(c)、多環型(d)という名称で分類される。本明細書において、ダイマー酸骨格とは、このようなダイマー酸のカルボキシ基を1級アミノメチル基で置換した構造を有するダイマージアミンから誘導される基をいう。すなわち、(A)成分は、ダイマー酸骨格として、下記(a)~(d)で示される各ダイマー酸において、2つのカルボキシ基がメチレン基で置換された基を例示することができるがこれらに限定されるものではない。
また、(A)成分のマレイミド化合物中のダイマー酸骨格由来の炭化水素基は、水添反応により、該ダイマー酸骨格由来の炭化水素基中の炭素-炭素二重結合が低減した構造を有するものが、硬化物の耐熱性や信頼性の観点からより好ましい。
【0017】
【0018】
中でも、(A)成分としては下記式(1)で表されるマレイミド化合物及び/又は下記式(2)で表されるマレイミド化合物が好ましい。
【化5】
(式(1)中、Aは独立して環状構造を有する4価の有機基であり、Bは独立して炭素数6~60の2価の脂環式炭化水素基であり、Dは独立して炭素数6~200の2価の炭化水素基であり、Dの少なくとも1つはダイマー酸骨格由来の炭化水素基であり、mは1~100であり、lは1~200である。m及びlで括られた各繰り返し単位の順序は限定されず、結合様式は、交互であっても、ブロックであっても、ランダムであってもよい。)
【化6】
(式(2)中、Aは上記式(1)中と同じく、独立して環状構造を有する4価の有機基であり、Dは上記式(1)中と同じく、独立して炭素数6~200の2価の炭化水素基であり、Dの少なくとも1つはダイマー酸骨格由来の炭化水素基である。nは0~100である。)
【0019】
前記式(1)で表されるマレイミド化合物を含む組成物は、硬化前の溶融粘度は高いものの、得られる硬化物は一般的な芳香族を多数含有するマレイミド化合物を含む場合よりも誘電特性に優れるだけでなく、銅箔など金属箔との密着力が高く、エポキシ樹脂などの一般的な熱硬化樹脂よりも吸湿が少なく、湿気による影響は小さいものとなる。また、式(1)で表されるマレイミド化合物を含む組成物は、式(2)で表されるマレイミド化合物を含む組成物と比べて、硬化物が高Tgを有し、信頼性の高いものとなる。
【0020】
前記式(1)中、Aは独立して環状構造を有する4価の有機基を示し、中でも下記構造式で示される4価の有機基のいずれかであることが好ましい。
【化7】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
【0021】
また、前記式(1)中、Dは独立して炭素数6~200、好ましくは8~100、より好ましくは10~50の2価炭化水素基である。中でも、前記2価炭化水素基中の水素原子の1個以上が、炭素数6~200、好ましくは8~100、より好ましくは10~50のアルキル基又はアルケニル基で置換されている分岐状2価炭化水素基であることが好ましい。分岐状2価炭化水素基としては、飽和脂肪族炭化水素基、不飽和炭化水素基のいずれでもよく、分子鎖の途中に脂環式構造又は芳香族環構造を有していてもよい。
前記分岐状2価炭化水素基として、具体的には、ダイマージアミンと呼ばれる両末端ジアミン由来の2価炭化水素基が挙げられ、従って、Dは、上記(a)~(d)で示される各ダイマー酸において、2つのカルボキシ基がそれぞれメチレン基で置換された基が特に好ましく、1分子中に少なくとも1つはこのダイマー酸骨格由来の炭化水素基を有する。
【0022】
また、前記式(1)中、Bは独立して炭素数6~60の2価の脂環式炭化水素基であり、好ましくは2価の脂肪族炭化水素基であり、より好ましくは6~30の2価の脂肪族炭化水素基である。該脂肪族炭化水素基としてはシクロヘキサン骨格を有するものが好ましく、該シクロヘキサン骨格を有する様態としては、シクロヘキサン環を1つ有する例えば下記式(3)で示されるものであっても、複数のシクロヘキサン環がアルキレン基を介して結合したもの又は橋掛け構造を有する多環式のものであってもよい。
【化8】
(式(3)中、R
1は独立して、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であって、x1及びx2はそれぞれ独立に0~4の数である。)
【0023】
ここで、R1の具体例は、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基などが挙げられる。中でも水素原子及びメチル基が好ましい。なお、各R1は同じであっても異なっていてもよい。
また、前記x1及びx2はそれぞれ独立に0~4の数であり、好ましくは0~2の数である。なお、x1及びx2は同じであっても異なっていてもよい。
【0024】
前記Bの具体例としては、以下のような構造式で表される2価の脂環式炭化水素基が挙げられる。
【化9】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成する窒素原子と結合するものである。)
【0025】
前記式(1)において、mは1~100であり、好ましくは1~60であり、より好ましくは2~50であり、lは1~200であり、好ましくは1~50であり、より好ましくは3~40である。mやlが大きすぎると流動性が低下し、成形性に劣るおそれがある。
m及びlで括られた各繰り返し単位の順序は限定されず、結合様式は、交互であっても、ブロックであっても、ランダムであってもよいが、高Tg化しやすいという観点からブロックが好ましい。
【0026】
前記式(2)で表されるマレイミド化合物を含む組成物は、他の一般的な芳香族を多数含有するマレイミド化合物を含む場合よりも誘電特性に優れ、特に高周波帯においても誘電特性に優れる硬化物となる。また、式(2)で表されるマレイミド化合物を含む組成物は、式(1)で表されるマレイミド化合物を含む組成物よりもさらに銅箔との密着力が強くなる。
【0027】
前記式(2)中、Aは前記式(1)中のAと同様であり、独立して環状構造を有する4価の有機基を示し、好ましいものも同様であり、下記構造式で示される4価の有機基のいずれかである。
【化10】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(2)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
【0028】
また、前記式(2)中、Dは前記式(1)中のDと同じく、独立して炭素数6~200、好ましくは8~100、より好ましくは10~50の2価炭化水素基である。前記式(1)中のDと同様に、前記式(2)中のDは、前記2価炭化水素基中の水素原子の1個以上が、炭素数6~200、好ましくは8~100、より好ましくは10~50のアルキル基又はアルケニル基で置換されている分岐状2価炭化水素基であることが好ましい。分岐状2価炭化水素基としては、飽和脂肪族炭化水素基、不飽和炭化水素基のいずれでもよく、分子鎖の途中に脂環式構造又は芳香族環構造を有していてもよい。
前記分岐状2価炭化水素基として、具体的には、ダイマージアミンと呼ばれる両末端ジアミン由来の2価炭化水素基が挙げられ、従って、Dは、上記(a)~(d)で示される各ダイマー酸において、2つのカルボキシ基がそれぞれメチレン基で置換された基が特に好ましく、1分子中に少なくとも1つはこのダイマー酸骨格由来の炭化水素基を有する。
【0029】
前記式(2)において、nは0~100であり、好ましくは0~60であり、より好ましくは0~50である。nが大きすぎると溶解性や流動性が低下し、成形性に劣るおそれがある。
【0030】
(A)成分のマレイミド化合物の数平均分子量は特に制限はないが、組成物のハンドリング性の観点から800~50,000が好ましく、より好ましくは900~30,000である。また、(A)成分は前記式(1)及び/又は(2)で表されるマレイミド化合物だけでなく、他の1分子中にダイマー酸骨格由来の炭化水素基を1個以上有するマレイミド化合物を含んでいても構わないし、1種単独で使用しても複数種を併用しても構わない。
なお、本発明中で言及する数平均分子量とは、下記条件で測定したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレンを標準物質とした数平均分子量を指すこととする。
【0031】
[測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流量:0.35mL/min
検出器:示差屈折率検出器(RI)
カラム:TSK Guardcolumn SuperH-L
TSKgel SuperHZ4000(4.6mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperHZ3000(4.6mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperHZ2000(4.6mmI.D.×15cm×2)
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:5μL(濃度0.2質量%のTHF溶液)
【0032】
[(B)ラジカル重合開始剤]
(B)成分であるラジカル重合開始剤は、(A)成分であるマレイミド化合物の架橋反応や(A)成分中のマレイミド基と反応しうる反応基とのラジカル重合反応を促進するために添加するものである。本発明の硬化物の製造方法は特に熱ラジカル重合に関して、高い効果を発揮するものである。
(B)成分としてはラジカル重合反応を促進するものであれば特に制限されるものではなく、ジアリルパーオキシド、ジアルキルパーオキシド、パーオキシドカーボネート、ヒドロパーオキシド等の有機過酸化物;アゾイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)等のアゾ化合物などが挙げられるが、硬化後の特性の観点や反応の制御のしやすさから有機過酸化物が好適に用いられる。
有機過酸化物としては、ジクミルパーオキシド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-アミルパーオキシベンゾエート、ジベンゾイルパーオキシド、ジウラロイルパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、ジ-t-ブチルパーオキシド、ジベンゾイルパーオキシド等が挙げられる。
【0033】
ラジカル重合開始剤は、(A)成分100質量部に対して0.05~10質量部配合することが好ましく、0.1~5質量部配合することがより好ましい。また、組成物中に後述するその他の熱硬化性樹脂を配合する場合は、(A)成分及びその他の熱硬化性樹脂成分の総和100質量部に対して0.05~10質量部、特に0.1~5質量部の範囲内で配合することが好ましい。上記範囲内であると、マレイミド樹脂組成物の成形時に硬化が非常に遅くなったり速くなったりするおそれがなく好ましい。また、得られた硬化物の耐熱性及び耐湿性のバランスも良いものとなる。
(B)成分のラジカル重合開始剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、後述するその他の反応開始剤(反応促進剤)を(B)成分の効果を損なわない範囲で併用しても構わない。
【0034】
本発明の硬化物の製造方法に用いる熱硬化性マレイミド樹脂組成物において、(A)成分の含有量は、組成物全量に対し、30~99質量%であることが好ましく、40~99質量%であることがより好ましい。
【0035】
[その他の添加剤]
本発明の硬化物の製造方法に用いる熱硬化性マレイミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、更に必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。その他の添加剤を以下に例示する。
【0036】
[無機充填材]
無機充填材は、本発明の硬化物の製造方法に用いる熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の強度や剛性を高めたり、熱膨張係数や硬化物の寸法安定性を調整したりする目的で配合することができる。無機充填材としては、通常エポキシ樹脂組成物やシリコーン樹脂組成物に配合されるものを使用することができるが、硬化物の比誘電率を上げないようにするために球状シリカ、溶融シリカ及び結晶性シリカ等のシリカ粒子や窒化ホウ素の使用が好ましい。アルミナ、タルク、水酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの無機粒子は、誘電正接は低いものの比誘電率が高いものや、比誘電率及び誘電正接ともに高いものなどが多く好ましくない。
【0037】
無機充填材の平均粒径及び形状は特に限定されないが、フィルムや基板を成形する場合は平均粒径が0.5~5μmの球状のものが好適に用いられ、特に平均粒径が0.5~5μmの球状シリカが好適に用いられる。なお、平均粒径は、レーザー光回折法による粒度分布測定における質量平均値D50(又はメジアン径)として求めた値である。
【0038】
さらに無機充填材は特性を向上させるために、マレイミド基と反応しうる有機基を有するシランカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。このようなシランカップリング剤としては、エポキシ基含有アルコキシシラン、アミノ基含有アルコキシシラン、(メタ)アクリル基含有アルコキシシラン、及びアルケニル基含有アルコキシシラン等が挙げられる。
前記シランカップリング剤としては、(メタ)アクリル基及び/又はアミノ基含有アルコキシシランが好適に用いられ、具体的には、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0039】
[マレイミド基と反応しうる反応性基を有する熱硬化性樹脂]
本発明の硬化物の製造方法に用いる熱硬化性マレイミド樹脂組成物にはさらに、マレイミド基と反応しうる反応性基を有する熱硬化性樹脂を添加してもよい。
熱硬化性樹脂としてはその種類を限定するものではなく、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、(A)成分以外のマレイミド化合物を始めとする環状イミド樹脂、ユリア樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、エポキシ・シリコーンハイブリッド樹脂など(A)成分以外の各種樹脂が挙げられる。また、マレイミド基と反応しうる反応性基としては、エポキシ基、マレイミド基、水酸基、酸無水物基、アリル基やビニル基のようなアルケニル基、(メタ)アクリル基、チオール基などが挙げられる。ただし、マレイミド基と反応しうる反応性基の中にはエポキシ基のように例えばイミダゾールと反応して活性種を作り、マレイミド基と反応してアニオン重合するようなものも含んでいる。
【0040】
反応性の観点から、熱硬化性樹脂の反応性基は、エポキシ基、マレイミド基、水酸基、及びアルケニル基の中から選ばれるものであることが好ましく、さらに誘電特性の観点からはアルケニル基又は(メタ)アクリル基がより好ましい。
ただし、マレイミド基と反応しうる反応性基を有する熱硬化性樹脂の配合量は、熱硬化性樹脂の総和中、0~60質量%である。
【0041】
[反応開始剤・反応促進剤]
本発明の硬化物の製造方法に用いる熱硬化性マレイミド樹脂組成物にはさらに、(B)成分とは異なる反応開始剤や反応促進剤を添加しても構わない。これは、マレイミド基同士の反応やマレイミド基とマレイミド基と反応しうる反応性基を有する熱硬化性樹脂中の二重結合とのラジカル重合以外の反応を開始させたり、促進させるために使用されるものである。例えば、上述のマレイミド基と反応しうる反応性基を有する熱硬化性樹脂としてエポキシ基を有する化合物を使用する場合、イミダゾールを反応開始剤・反応促進剤として添加することで、エポキシ基にイミダゾール基が作用して活性種を作り、該活性種がマレイミド基と反応してアニオン重合が開始する。このような反応に好適に用いられる反応開始剤・反応促進剤としては、イミダゾール、有機リン系化合物、アミン化合物が挙げられる。また、反応開始剤・反応促進剤としては、アルミキレート、ステアリン酸亜鉛などの有機金属化合物が挙げられる。
【0042】
[その他]
上記以外に、無官能シリコーンオイル、反応性希釈剤、熱可塑性樹脂、有機ゴム、熱可塑性エラストマー、有機充填材、光増感剤、光安定剤、重合禁止剤、難燃剤、顔料、染料、接着助剤、イオントラップ材等を配合してもよい。
また、上述した無機充填材を表面処理するエポキシ基含有アルコキシシラン、アミノ基含有アルコキシシラン、(メタ)アクリル基含有アルコキシシラン、及びアルケニル基含有アルコキシシラン等のシランカップリング剤は、別途本発明の硬化物の製造方法に使用される熱硬化性マレイミド樹脂組成物に配合されていてもよく、具体的なものも上述したものと同様のものが挙げられる。
【0043】
本発明で使用する熱硬化性マレイミド樹脂組成物は、上記成分を適宜混合し、また必要に応じて三本ロール、ボールミル、ビーズミル、サンドミル等の混練装置や高速回転ミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサー等の撹拌装置により調製することができる。
【0044】
本発明で使用する熱硬化性マレイミド樹脂組成物は、有機溶剤に溶解してワニスとして扱うこともできる。該組成物をワニスとすることによってフィルム化しやすくなり、また、Eガラス、低誘電ガラス、石英ガラスなどでできたガラスクロスへも塗布・含浸しやすくなる。有機溶剤に関しては(A)成分、(B)成分及びその他の添加剤としてのマレイミド基と反応しうる反応性基を有する熱硬化性樹脂が溶解するものであれば制限なく使用することができるが、例えば、アニソール、テトラリン、メシチレン、キシレン、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル等が挙げられ、なかでもアニソール、テトラリン、メシチレン、キシレン、トルエンのような芳香族系有機溶剤が好ましい。メチルエチルケトン(MEK)やメチルイソブチルケトン(MIBK)のようなケトン系溶剤もワニス化するのによく用いられるが、本発明で用いる(A)成分のマレイミド化合物はこれらのようなケトン系溶剤に対する溶解性が低く、使用はあまり好ましくない場合がある。なお、これら有機溶剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、上記ワニスの熱硬化性マレイミド樹脂組成物と有機溶剤の比率は、熱硬化性マレイミド樹脂組成物が30~70質量%となるよう調整することが作業性の点で好ましい。
【0045】
次に、本発明の硬化物の製造方法で使用する部材等について詳述する。
【0046】
<剥離シート>
剥離シートは、本発明の熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物の製造方法において、硬化工程までは剥がすことなく用いられ、硬化工程により熱硬化性マレイミド樹脂組成物が硬化した後に、剥離されるものである。本発明で使用される剥離シートとしては、通常、この分野で剥離シートとして用いられる薄膜状のものなら特に限定されないが、プラスチックフィルムや金属箔が好適に用いられ、特に好適に用いられるのはプラスチックフィルムである。プラスチックフィルムの素材としては、例えばポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂などのポリエステル樹脂、フッ素化樹脂などが挙げられるが、中でも入手のしやすさからPET樹脂からなるフィルムが好適に用いられる。なお、剥離シートの厚さは作業性の点で10~150μmが好ましく、20~70μmが更に好ましい。また、剥離シートの表面粗さ(Ra)は得られる硬化物の外観や微細配線形成向上のために100nm以下が好ましく、50nm以下が更に好ましい。特に剥離シートが金属箔の場合は表面のクラックを防止するためその厚さは上記範囲とされる。また、樹脂層の漏れを防いだり、硬化工程における酸素の侵入を防いだりする観点から、剥離シートの大きさは、平面視における樹脂層の面積より大きいことが好ましく、平面視における樹脂層の面積に対して5%以上大きいことがより好ましい。
【0047】
また、熱硬化性マレイミド樹脂組成物を硬化させてから剥離シートを除去する観点から、剥離シートは離型処理されていることが好ましく、少なくとも熱硬化性マレイミド樹脂組成物からなる樹脂層と接する面が離型処理された剥離シートが好ましい。離型処理に使用される離型処理剤としては、特に限定されるものではなく、例えばシリコーン系離型剤、フッ素系離型剤、アルキッド樹脂系離型剤などが使用できる。
【0048】
<基材>
本発明で使用される基材としては、金属箔、シリコーンウエハ、SiCウエハ、サファイアウエハ、化合物半導体ウエハ、有機基板及びセラミック基板から選ばれるものが使用できる。
【0049】
金属箔としては銅箔やアルミニウム箔などが挙げられる。化合物半導体ウエハとしては、窒化ガリウムウエハ、リン化インジウムウエハ、ヒ化ガリウムウエハ、リン化ガリウムウエハなどが挙げられる。また、有機基板としては、ガラスエポキシ基板、ポリエステル基板、ポリイミド基板、BT基板やその他熱硬化性樹脂組成物とガラスクロスからなる基板などが挙げられるが、パターン加工された(回路形成された)導体層を有するかは問わないものである。
【0050】
<硬化物の製造方法>
本発明の硬化物の製造方法は、
剥離シート、前記熱硬化性マレイミド樹脂組成物からなる樹脂層及び基材をこの順で積層し、積層体を得る積層工程と、
前記積層体の剥離シートを剥がすことなく、前記積層体を樹脂層の熱硬化性マレイミド樹脂組成物が硬化する温度に加熱する硬化工程
とを有する。なお、「この順」とは位置的な順番を意味し、時間的な順番を意味するものではない。
本発明の効果を損なわない範囲で別の工程を加えることは構わない。
【0051】
[積層工程]
熱硬化性マレイミド樹脂組成物からなる樹脂層2と剥離シート1との積層体の概略図(切断端面図)を
図1(A)に示す。なお、熱硬化性マレイミド樹脂組成物からなる樹脂層2と剥離シート1との積層体を「積層体A」10といい、また、熱硬化性マレイミド樹脂組成物からなる樹脂層2と接する剥離シートを後記の別の剥離シートと区別するため「剥離シートa」という場合がある。
この積層体A10は、例えば、前述の熱硬化性マレイミド樹脂組成物のワニスを剥離シート1の一方の面に塗工し、有機溶剤を揮発させることで得ることができる。
例えば、有機溶剤に溶解した熱硬化性マレイミド樹脂組成物のワニスを剥離シート1の一方の面に塗布した後、通常70℃以上、好ましくは80℃以上の温度で0.5~30分加熱することによって有機溶剤を除去し、性状均一性の高い樹脂層2を剥離シート1の一方の面に形成することができる。ワニスの塗布方法として、スピンコーター、スリットコーター、スプレー、ディップコーター、バーコーター等が挙げられるが特に制限はない。また、塗工層の厚さも特に限定されないが、1~300μmであることが好ましく、さらに1~200μmがより好ましい。
【0052】
他にも、熱硬化性マレイミド樹脂組成物の各成分をあらかじめ予備混合し、溶融混練機を用いてシート状又はフィルム状に押し出したものを剥離シート1の一方の面に配置してもよく、熱硬化性マレイミド樹脂組成物を粉砕してタブレット状や顆粒状にしたものを熱プレスで伸ばしてシート状又はフィルム状にしたものを剥離シート1の一方の面に配置してもよい。このように成形したシート状又はフィルム状の熱硬化性マレイミド樹脂組成物(熱硬化性マレイミド樹脂組成物のシート又はフィルム)は、一層を剥離シート1の一方の面に配置してもよく、複数のシート又はフィルムを用いて複層となるよう剥離シート1の一方の面に配置してもよい。
また、熱硬化性マレイミド樹脂組成物の樹脂層2として、熱硬化性マレイミド樹脂組成物を、好ましくは熱硬化性マレイミド樹脂組成物のワニスを、繊維基材に含浸したプリプレグを剥離シート1の一方の面に配置してもよい。
【0053】
樹脂層2を保護する目的で、積層体A10の樹脂層2側にカバーフィルム6を施してもよいが(
図2に切断端面図を示す)、後述する基板3と積層する工程で使用する際には該カバーフィルム6は外しておく必要がある。なお、カバーフィルム6は保護フィルムとして用いられるもので、基材と積層する際は除去されるものであり、剥離シートとは異なるものである。カバーフィルム6の材質は、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂などのポリエステル樹脂等が挙げられ、表面(樹脂層2と接する面)に粘着層を有しており、カバーフィルム6の厚さは3~100μmが好ましく、更に好ましくは3~50μmである。
【0054】
次に、積層体Aの樹脂層2の面と接するように積層体A10と基材3と積層し、剥離シート1、前記熱硬化性マレイミド樹脂組成物からなる樹脂層2及び基材3の順で積層された積層体を得る。この剥離シート1、前記熱硬化性マレイミド樹脂組成物からなる樹脂層2及び基材3の3層を有する積層体を他の積層体と区別するため「積層体B」11という場合がある。
具体的には、
図1(A)の積層体A10を反転して、
図1(B)に示すように基材3上に配置し、積層することが好ましい。
積層工程としては、均一な接触状態が得られやすい観点や作業性の良さから、積層体Bをロールやプレス圧力等で圧着する方法が好ましい。中でも、真空ラミネート法が好適に用いられる。また、積層方法はバッチ式でも連続式でも構わない。
【0055】
真空ラミネーターとしては市販の真空ラミネーターを使用することができる。
真空ラミネーターを使用した積層工程の一例の概略図を
図1(B)に示す。
まず、積層体Aの樹脂層2の面が接するように基板3上に配置し、ラミネーター20にセットする。
続いて、ラミネーター20の系内を減圧すると、上面のラバープレート4が下方に動いて剥離シート1と樹脂層2が基材3に接触した状態になる。
ラミネーター20のヒーター(図示せず)搭載のプレート5の加熱により樹脂層2が軟化し、かつ、上面プレート5の加圧によって、剥離シート1と樹脂層2は基材3に圧着する。なお、このとき、ラミネーター20のプレート5による加熱は樹脂層2が軟化する程の短時間で行われるものであり、例えば5分以下、好ましくは15秒以上5分以下で行われるものであり、この間、樹脂層2の硬化は進行しない範囲の時間内で行われるものである。
最後に系内の減圧を解除し、積層体B11が得られる。
加熱温度としては40~160℃が好ましく、この範囲にあると熱硬化性マレイミド樹脂組成物が軟化するものの、流れ出しが発生せずに基材3に圧着させやすい。また、この時温度設定が上面プレート5と下面プレート5で異なっていても構わない。また、圧着圧力としては0.1~1.5MPaの範囲が好ましく、この範囲にあると樹脂組成物の流れ出しが発生せずに基材3に圧着できる。なお、空気圧が30hPa以下の減圧下で積層するのが好ましい。
【0056】
積層工程において、前記剥離シートaに加え、さらに別の剥離シートbを配してもよい。すなわち、ラミネーター20にセットする際など、剥離シート1bの上に基材3を配置し、該基材3上に積層体A10の樹脂層2の面が接するように配置し、積層し、剥離シート1a、前記熱硬化性マレイミド樹脂組成物からなる樹脂層2、基材3及び剥離シート1bの少なくとも4層を有する積層体としてもよい。本実施形態の積層した状態を示す概略図(切断端面図)を
図3(A)に、積層工程後に得られる積層体の概略図(切断端面図)を
図3(B)に示す。
剥離シートbを有する態様は、積層工程で真空ラミネーターを使用する場合は樹脂層2の漏れを防げ、また後述する硬化工程での酸素の侵入をより防ぐことができるため好ましい。
また、このとき使用する2枚の剥離シートa及び剥離シートbは同種のものであっても異種のものであっても構わない。
【0057】
[硬化工程]
硬化工程では、前記積層体B11の剥離シート1を剥がすことなく、前記積層体B11を樹脂層2の熱硬化性マレイミド樹脂組成物が硬化する温度に加熱することにより、樹脂層2の熱硬化性マレイミド樹脂組成物を硬化する。硬化条件は、使用する(B)成分の種類等によっても異なるが、一般的に硬化温度120~200℃、硬化時間15~600分である。硬化前に剥離シート1を剥離してから硬化させると、例え窒素雰囲気で硬化しても硬化が不十分となり、特に熱時に樹脂層2の表面に強いタックが生じたり、外観不良が起こりやすくなったりする。
硬化工程では、加圧してもよいが、必ずしも加圧する必要はなく、例えば、
図1(B)~(C)に示すように、積層工程で得られた積層体B11から剥離シート1を剥離することなく、そのままの状態で硬化温度に設定したオーブン30に投入して熱硬化させることができる。
【0058】
硬化工程後、得られた硬化樹脂層2’を有する積層体B12(
図1(D))から、使用に際して適宜剥離シート1を除去すればよく(
図1(E))、剥離シート1を除去する方法としては、手動や自動剥離装置による機械的に剥離することによって除去するのが一般的である。このような観点からも、剥離シート1としては少なくとも樹脂層2と接する面は離型処理されたものであることが好ましい。剥離シート1に金属箔を用いた場合は、エッチングにより剥離シート1を除去することもできる。
【0059】
本発明の硬化物の製造方法で得られる熱硬化性マレイミド樹脂組成物の硬化物(硬化皮膜)は、耐熱性、機械的特性、電気的特性、基材に対する接着性及び耐溶剤性に優れている上、低比誘電率を有している。そのため、例えばリジッド/フレキシブルプリント配線板や半導体装置、具体的にはソルダーレジストやカバーレイフィルム、半導体素子表面のパッシベーション膜や保護膜、ダイオード、トランジスタ等の接合部のジャンクション保護膜、VLSIのα線遮蔽膜、層間絶縁膜、イオン注入マスク等のほか、プリントサーキットボードのコンフォーマルコート、液晶表面素子の配向膜、ガラスファイバーの保護膜、太陽電池の表面保護膜に応用することができる。
【実施例0060】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0061】
[熱硬化性マレイミド樹脂組成物からなる樹脂層を有する積層体A1の作製]
ジムロート冷却管及び攪拌装置を備えた500mLの4つ口フラスコに、下記式(4)で示されるダイマー酸骨格由来の炭化水素基含有ビスマレイミド化合物(商品名:SLK-3000、信越化学工業(株)製、数平均分子量:5500)100部とジ-t-ブチルパーオキシド(商品名:トリゴノックスB、化薬ヌーリオン(株)製)1部とトルエン85部とを入れ、50℃で1時間撹拌しながら加熱溶融させワニスを作製した。
厚さ50μmの離型処理されたPETフィルム(商品名:TNT-010、東洋紡STC製)上に上記ワニスをダイコーターにより塗布し、熱風乾燥炉を用いて100℃で、5分で加熱し溶剤を除去し、
図1(A)に示すような、熱硬化性マレイミド樹脂組成物なる樹脂層を有する積層体A1を得た。樹脂層の厚さは50μmであった。
【化11】
-C
36H
70-はダイマー酸骨格由来の構造を示す。
n≒5(平均値)
【0062】
[熱硬化性マレイミド樹脂組成物からなる樹脂層を有する積層体A2の作製]
ジムロート冷却管及び攪拌装置を備えた500mLの4つ口フラスコに、下記式(5)で示されるダイマー酸骨格由来の炭化水素基含有ビスマレイミド化合物(商品名:BMI-2500、Designer Molecules Inc.製、数平均分子量:6000)100部とジ-t-ブチルパーオキシド(商品名:トリゴノックスB、化薬ヌーリオン(株)製)1部とトルエン85部とを入れ、50℃で1時間撹拌しながら加熱溶融させワニスを作製した。
厚さ50μmの離型処理されたPETフィルム(商品名:TNT-010、東洋紡STC製)上に上記ワニスをダイコーターにより塗布し、熱風乾燥炉を用いて100℃で、5分で加熱し溶剤を除去し、
図1(A)に示すような、熱硬化性マレイミド樹脂組成物なる樹脂層を有する積層体A2を得た。樹脂層の厚さは50μmであった。
【化12】
-C
36H
70-はダイマー酸骨格由来の構造を示す。
l≒5(平均値)、m≒1(平均値)
【0063】
[積層工程]
剥離シートbとしての離型処理されたPETフィルム(商品名:TNT-010、東洋紡STC製)上に、基板としての8インチのシリコーンウエハを配置し、該シリコーンウエハ上に、上記で作製した積層体A1又は積層体A2の樹脂層がシリコーンウエハに接するよう配置し、剥離シート(PETフィルム)-シリコーンウエハ-樹脂層-剥離シート(PETフィルム)の4層の順に重ね、バッチ式真空ラミネーター(ニッコー・マテリアルズ社製)を用いて積層及び圧着し、積層体を得た。積層条件は20秒間減圧して空気圧が10hPa以下になったことを確認し、その後、温度90℃、圧力0.4MPaで30秒間圧着した。なお、真空ラミネーターに配置する際は、
図3(A)に示すように、剥離シートa及び剥離シートbは、共に、平面視における積層体A1又は積層体A2の樹脂層の面積に対して8%以上大きいものを使用し、
図3(B)に示すような積層体を得た。
【0064】
[硬化工程]
下記の表1のように、実施例1~3は積層体の最表面の両剥離シートを剥がすことなく、積層体をヤマト科学(株)製イナートオーブンDN411Iに入れ、180℃、90分の条件で加熱し、樹脂層の熱硬化性マレイミド樹脂組成物を硬化した。
硬化後、積層体の最表面の両剥離シートを手で剥がした。
一方、比較例1~4は先に積層体から最表面の両剥離シートを剥がしてから、実施例と同様の条件で硬化を行った。なお、オーブン中の雰囲気(硬化雰囲気)を表1に示す。
【0065】
[外観確認]
上記硬化条件で硬化を行いオーブンから取り出した後の硬化物を目視で観察し、樹脂層にしわや寄りが無いものは〇、しわや寄りが発生したものは×とし、外観を評価した。
【0066】
[硬化性確認]
硬化後、両剥離シートを剥がした後の樹脂層を有するシリコーンウエハを120℃のホットプレートに乗せ、表面をスパチュラでつついたときに樹脂層上に傷がつかず、かつ、タックが無いものを〇、容易に傷がついたり、タックがあってスパチュラに樹脂がくっついてしまうものを×とした。
【表1】
【0067】
実施例1~3では、硬化雰囲気が窒素雰囲気であっても空気雰囲気であっても、得られる硬化物の外観及び硬化性が良好であった。一方、比較例1~3は硬化雰囲気によらず、オーブン内で発せられる熱風により外観にしわや寄りが多数発生したが、比較例4では窒素雰囲気でやや表面のラジカル反応が進行したせいか外観は良好であったものの、すべての比較例において硬化性が不十分であり、熱時に外力によって樹脂が大きく変形したり傷が発生したりするなどの結果となった。