(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161193
(43)【公開日】2023-11-07
(54)【発明の名称】材料設計装置、材料設計システム、材料設計方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G16C 20/10 20190101AFI20231030BHJP
G16C 20/70 20190101ALI20231030BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20231030BHJP
G16C 60/00 20190101ALI20231030BHJP
【FI】
G16C20/10
G16C20/70
H01F41/02 Z
G16C60/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071394
(22)【出願日】2022-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】小野 眞
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】岩田 唯冶
(57)【要約】
【課題】 製造因子の設定等の材料設計を容易に行うことが可能な材料設計装置等を提供する。
【解決手段】 材料設計装置1は、データ入力部21、生成モデル構築部22、データ生成部23を備える。データ入力部21は設計対象となる材料を製造するための複数の製造因子と、製造過程を経て得られた少なくとも一つの材料特性値とを含む入力データセット31の入力を受け付ける。生成モデル構築部22は、入力データセット31を用いて教師なし機械学習を行い、生成モデルを構築する。データ生成部23は、生成モデルを用いて出力データを生成する。その後、オペレータが指定した条件に該当する抽出し、材料設計データとして提示することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の項目を有するデータセットであって、前記項目は設計対象となる材料を製造するための複数の製造因子と、前記材料の製造過程を経て得られた少なくとも一つの材料特性値とを含むデータセットを入力するデータ入力部と、
前記データ入力部に入力された前記データセットを用いて教師なし機械学習を行うことにより生成モデルを構築する生成モデル構築部と、
前記生成モデルを用いて前記データセットと対応する項目を有するデータを生成し、出力するデータ生成部と、
を備えることを特徴とする材料設計装置。
【請求項2】
前記データ入力部に入力する前記データセットは、前記製造過程において得られる中間材料から確認される特性値である中間材料特性値を含むことを特徴とする請求項1に記載の材料設計装置。
【請求項3】
前記データ生成部により生成したデータから所望の条件に該当するデータを抽出する抽出部を更に備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の材料設計装置。
【請求項4】
サーバとクライアント端末とがネットワークを介して通信接続された材料設計システムであって、
前記サーバは、
複数の項目を有するデータセットであって、前記項目は設計対象となる材料を製造するための複数の製造因子と、前記材料の製造過程を経て得られた少なくとも一つの材料特性値とを含むデータセットを入力するデータ入力部と、
前記データ入力部に入力された前記データセットを用いて教師なし機械学習を行うことにより生成モデルを構築する生成モデル構築部と、
前記生成モデルを用いて前記データセットと対応する項目を有するデータを生成し、出力するデータ生成部と、
前記データ生成部により生成したデータから所望の条件に該当するデータを抽出する抽出部と、を備え、
前記クライアント端末は、
前記条件を指定し、前記サーバに送信する条件入力部と、
前記抽出部により抽出されたデータを受信し、出力する出力部と、
を備えることを特徴とする材料設計システム。
【請求項5】
複数の項目を有するデータセットであって、前記項目は設計対象となる材料を製造するための複数の製造因子と、前記材料の製造過程を経て得られた少なくとも一つの材料特性値とを含むデータセットをコンピュータに入力するステップと、
入力された前記データセットを用いて教師なし機械学習を行うことにより生成モデルをコンピュータにより構築するステップと、
前記生成モデルを用いて前記データセットと対応する項目を有するデータをコンピュータにより生成し、出力するステップと、
を含むことを特徴とする材料設計方法。
【請求項6】
コンピュータを、
複数の項目を有するデータセットであって、前記項目は設計対象となる材料を製造するための複数の製造因子と、前記材料の製造過程を経て得られた少なくとも一つの材料特性値とを含むデータセットを入力するデータ入力部、
前記データ入力部に入力された前記データセットを用いて教師なし機械学習を行うことにより生成モデルを構築する生成モデル構築部、
前記生成モデルを用いて前記データセットと対応する項目を有するデータを生成し、出力するデータ生成部、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、金属、磁石、セラミック、樹脂等の材料を、要求する材料特性に合わせて設計する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報科学、特にデータ科学を効果的に活用して、新材料を開発するマテリアルズインフォマティクスという技術分野が注目されている。マテリアルズインフォマティクスでは、様々な製造条件や製造結果等のデータを関連付けてデータベースに蓄積し、統計解析、機械学習、シミュレーション等を駆使して、新材料の開発に役立つ情報を抽出している。
【0003】
例えば、特許文献1、2では、組成条件や熱処理条件等の複数の製造条件を説明変数とし、引張強さや伸び等の材料特性値を目的変数として、教師あり機械学習を用いて回帰モデル(数理モデル/機械学習モデル)を生成する。そして生成された回帰モデルに対して、仮想的に組成条件や熱処理条件等の複数の製造条件の値をグリッドサーチ(メッシュ/網羅予測点)で回帰モデルに入力し、製造条件に対する材料特性値を予測する。予測された材料特性値の中から、欲しい材料特性値の要件を満たす製造条件を抽出して、材料の設計値とする。特許文献1、2で開示されるような回帰モデルを学習生成する手法は精度が高く、数値データを基本とする材料設計の分野では適用しやすいと考えられている。
【0004】
特許文献3も同様に、試験パラメータを説明変数とし、物質パラメータを目的変数として、ニューラルネットワークやベイズ推定等の統計処理を行い、その結果に基づいて物質情報を最適化するための推奨試験条件と、該推奨試験条件に対応する目的物質の物質情報を推定する機能について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6617842号
【特許文献2】特許第6950119号
【特許文献3】特許第6955811号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の特許文献で利用される回帰モデルは、説明変数(入力)と目的変数(出力)を区別して扱う必要がある。本出願の発明者らの検討によれば、製造過程における種々の条件を含む材料設計においては、説明変数とする製造因子と、目的変数とする材料特性値との関係が明確ではないことが多く、学習に用いるデータが煩雑になる傾向がある。例えば、製造途中において生成された中間材料の特性値は、目的変数として扱うことも説明変数として扱うこともある。また、回帰モデルでは、教師データとして多量の実測データが必要になることが多く、課題がある。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、材料設計を容易に行うことが可能な材料設計装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決するための第1の発明は、複数の項目を有するデータセットであって、前記項目は設計対象となる材料を製造するための複数の製造因子と、前記材料の製造過程を経て得られた少なくとも一つの材料特性値とを含むデータセットを入力するデータ入力部と、前記データ入力部に入力された前記データセットを用いて教師なし機械学習を行うことにより生成モデルを構築する生成モデル構築部と、前記生成モデルを用いて前記データセットと対応する項目を含むデータを生成し、出力するデータ生成部と、を備えることを特徴とする材料設計装置である。
【0009】
第1の発明の材料設計装置によれば、設計対象となる材料を製造するための複数の製造因子と、前記材料の製造過程を経て得られた少なくとも一つの材料特性値とを含むデータセットを用いて教師なし機械学習を行うことにより生成モデルを構築し、構築した生成モデルを用いて前記データセットと対応する項目を有するデータを生成し、出力する。教師なし機械学習により構築される生成モデルを用いることで、従来の回帰モデルを用いた手法と比較して学習用データの準備が簡単になり、材料設計を容易に行うことが可能となる。
【0010】
第1の発明において、前記データ入力部に入力する前記データセットは、前記製造過程において得られる中間材料から確認される特性値である中間材料特性値を含むことが望ましい。生成モデルでは、教師なし機械学習を行うため、中間材料特性値を入力(説明変数)や出力(目的変数)のように区別することなく学習用データに含めることができ、また、中間材料特性値を含む材料設計データを得ることできるようになる。なお、前記データセットに含まれる材料特性値は中間材料特性値のみでもよい。例えば、中間材料特性値である組織画像のみを前記材料設計データとして前記データセットに用いることができる。
【0011】
また、第1の発明において、前記データ生成部により生成したデータから所望の条件に該当するデータを抽出する抽出部を更に備えることが望ましい。
【0012】
第2の発明は、サーバとクライアント端末とがネットワークを介して通信接続された材料設計システムであって、前記サーバは、複数の項目を有するデータセットであって、前記項目は設計対象となる材料を製造するための複数の製造因子と、前記材料の製造過程を経て得られた少なくとも一つの材料特性値とを含むデータセットを入力するデータ入力部と、前記データ入力部に入力された前記データセットを用いて教師なし機械学習を行うことにより生成モデルを構築する生成モデル構築部と、前記生成モデルを用いて前記データセットと対応する項目を有するデータを生成し、出力するデータ生成部と、前記データ生成部により生成したデータから所望の条件に該当するデータを抽出する抽出部と、を備え、前記クライアント端末は、前記条件を指定し、前記サーバに送信する条件入力部と、前記抽出推定部により抽出されたデータを受信し、出力する出力部と、を備えることを特徴とする材料設計システムである。
【0013】
第3の発明は、複数の項目を有するデータセットであって、前記項目は設計対象となる材料を製造するための複数の製造因子と、前記材料の製造過程を経て得られた少なくとも一つの材料特性値とを含むデータセットをコンピュータに入力するステップと、入力された前記データセットを用いて教師なし機械学習を行うことにより生成モデルをコンピュータにより構築するステップと、前記生成モデルを用いて前記データセットと対応する項目を有するデータをコンピュータにより生成し、出力するステップと、を含むことを特徴とする材料設計方法である。
【0014】
第4の発明は、コンピュータを、複数の項目を有するデータセットであって、前記項目は設計対象となる材料を製造するための複数の製造因子と、前記材料の製造過程を経て得られた少なくとも一つの材料特性値とを含むデータセットを入力するデータ入力部、前記データ入力部に入力された前記データセットを用いて教師なし機械学習を行うことにより生成モデルを構築する生成モデル構築部、前記生成モデルを用いて前記データセットと対応する項目を有するデータを生成し、出力するデータ生成部、として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、製造因子の設定等の材料設計を容易に行うことが可能な材料設計装置等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】材料設計装置1として利用するコンピュータのハードウェア構成を示す図。
【
図2】材料設計装置1の機能構成を示すブロック図。
【
図6】材料設計装置1が実行する処理の流れを示すフローチャート。
【
図7】生成モデル構築までの流れを示すフローチャート。
【
図8】
図7の処理で構築した生成モデルから推定材料設計データ52を得るまでの流れを示すフローチャート。
【
図9】中間材料特性値を含む入力データセット32の一例を示す図。
【
図11】本発明に係る材料設計方法を検証するための手順を示すフローチャート。
【
図12】本発明の手法により得た材料特性値と、従来のラッソ回帰により得た材料特性値とを比較するための散布図。(a)敵対的生成ネットワーク(GAN)を用いた場合、(b)変分オートエンコーダ(VAE)を用いた場合、(c)ガウシアンコピュラを用いた場合。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0018】
[第1の実施形態]
図1は本発明の第1の実施形態に係る材料設計装置1のハードウェア構成の一例を示す図である。例えば、一般的なパーソナルコンピュータを材料設計装置1として利用する場合、材料設計装置1は、
図1に示すように、制御部101、記憶部102、通信部103、入力部104、表示部105、周辺機器I/F部106等がバス109を介して接続される。なお、
図1に示す構成は一例であり、材料設計装置1は用途、目的に応じて様々な構成を採ることが可能である。
【0019】
制御部101は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only
Memory)、RAM(Random Access Memory)等を有する。CPUは、記憶部102やROM等の記録媒体に格納されるプログラムをRAM上のワークメモリ領域に呼び出して実行し、バス109を介して接続された各部を駆動制御して材料設計装置1の後述する各処理を実現する。ROMは不揮発性メモリであり、コンピュータのブートプログラムやBIOS等のプログラム、データ等を恒久的に保持している。RAMは揮発性メモリであり、記憶部102やROM等の記録媒体からロードしたプログラムやデータを一時的に保持するとともに、制御部101が各種処理を行うために使用するワークエリアを備える。
【0020】
記憶部102は、HDD(Hard Disc Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等であり、制御部101が実行するプログラム、プログラム実行に必要なデータ、OS(Operation System)等が格納される。特に本実施形態では、後述する処理を材料設計装置1に実行させるためのアプリケーションプログラムが記憶部102に格納される。
【0021】
通信部103は、材料設計装置1の通信を媒介する通信インタフェース及び通信制御回路を含み、ネットワークを介した通信の制御を行う。ネットワークは、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、インターネット等を含み、有線、無線を問わない。
【0022】
入力部104は、キーボード、マウス、またはタッチパネル等の入力装置、及び各種操作ボタン等を含む。入力部104は、入力されたデータや操作指示を制御部101に送信する。
【0023】
表示部105は、液晶パネル等のディスプレイ等を備え、制御部101の指示に従って画像やテキスト等のデータをディスプレイに表示する。
【0024】
周辺機器I/F(インタフェース)部106は、周辺機器を接続するためのポートであり、USB、Bluetooth(登録商標)等の近距離無線通信等を含む。制御部101は周辺機器I/F部106を介して周辺機器とのデータの送受信を行う。周辺機器I/F部106には、例えばプリンタ等が接続される。
【0025】
次に、材料設計装置1の機能構成を説明する。
図2は、第1の実施形態に係る材料設計装置1の機能構成を示すブロック図である。図に示すように、材料設計装置1は、データ入力部21、生成モデル構築部22、及びデータ生成部23を備える。材料設計装置1の制御部101が、記憶部102またはROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することで、これらの機能を実現する。
【0026】
データ入力部21は、複数の項目を有するデータセットであって、上記複数の項目には設計対象となる材料を製造するための複数の製造因子と、製造過程を経て得られた少なくとも一つの材料特性値とを含むデータセットを入力データセット31として入力する。本実施形態では、材料設計装置1を用いて焼結磁石の材料設計データを探し出すことを例として説明する。なお、材料は、焼結磁石に限定されず、例えば、金属、セラミック、樹脂等を含む各種の材料についても適用可能である。
【0027】
図3は、入力データセット31の例を示す図である。入力データセット31の各列の項目31a~31yは変数名を表す。
図3の例では、項目31a、31b、31cに製造因子に関する変数が設定される。具体的には、項目31aには原料Prの配合比[質量%]、項目31bには原料Cuの配合比[質量%]、項目31cには熱処理条件として熱処理時間[分]が設定されている。また、項目31x、31yには製造過程を経て得た材料の特性値である材料特性値がそれぞれ設定される。具体的には、項目31xには焼結磁石の残留磁束密度Br[T]、項目31yには保磁力HcJ[kA/m]が設定されている。なお、どの項目にどの変数を設定するかは任意であり、項目数も任意に設定可能である。本明細書においては、入力データセット31の各行を1データセットとし、各データセットは、ある製造条件で材料を製造したときの製造因子と最終的な製造結果である材料の特性値(材料特性値)とを含む材料設計データを意味する。入力データセット31における製造因子の値は、実測値または設定値のいずれかとし、材料特性値は実測値とする。生成モデルを構築するにあたり、入力データセット31の行数は、複数必要である。好ましくは20以上である。
【0028】
ここで、焼結磁石の製造過程について一例を説明する。
図4は、焼結磁石の製造過程を示すフローチャートである。図に示すように、まず、原料を所定の比率で配合し(ステップS1)、溶解(ステップS2)、粉砕(ステップS3)等の工程を経た後に、粒径測定(ステップS4)が行われる。次に、磁場成形(ステップS5)、熱処理(ステップS6)、その他の加工(ステップS7)を行った後に、成分分析(ステップS8)、組織観察・特徴抽出(ステップS9)等が行われる。その後、表面処理(ステップS10)、着磁(ステップS11)等の工程を経て焼結磁石を得る。完成した焼結磁石のサンプルを用いて、例えば磁気特性(残留磁束密度Brや保磁力HcJ)等の材料特性値が測定される(ステップS12)。
【0029】
図3の入力データセット31における製造因子として、上述の製造過程の各工程における各種のパラメータを設定できる。例えばステップS1における原料の配合比率、ステップS6における熱処理時間、ステップS9における結晶粒界の面積等である。また、材料特性値は、上述の製造過程を経て最終的に得られる材料の特性値である。また、パラメータは数値に限らず、例えば画像でもよい。
【0030】
生成モデル構築部22は、データ入力部21に入力された複数の入力データセット31を用いて教師なし機械学習を行うことにより、生成モデルを構築する。
【0031】
本発明において、生成モデルを構築するための教師なし機械学習モデルは、その種類を問わない。例えば、敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Networks;GAN)、変分オートエンコーダ(Variational Auto-encoder;VAE)やガウシアンコピュラ(Gaussian
Copula)を用いることができるが、これらに限定されず、その他の教師なし機械学習モデルを用いてもよい。
【0032】
データ生成部23は、生成モデル構築部22において構築された生成モデルを用いて、入力データセット31と対応する項目を有するデータ(以下、出力データという)を生成し、出力する。データ生成部23は、乱数を生成モデルに入力すると出力データを生成し、出力する。
【0033】
更に、材料設計装置1は、抽出部を備えることが望ましい。抽出部は、オペレータからの指示の入力を受け付け、指示に従って出力データを並べ替えたり、オペレータからの条件の指定を受け付け、指定された条件に該当するデータを抽出し、推定材料設計データ51として推定する。条件に該当するデータを抽出するとは、材料特性値条件に該当する製造因子を出力データから抽出することや、或いは、オペレータにより指定された製造因子条件に該当する材料特性値を出力データから抽出することを含む。抽出部は、オペレータが条件を指定したり、推定材料設計データ51の提示方法を指定したりするための入力画面を表示する等、ユーザインターフェースを提供することが望ましい。
【0034】
図5は、生成モデルとしてGANを使用して生成した推定材料設計データ51の一例を示す図である。
図5に示すように、推定材料設計データ51の各項目51a、51b、51c、…51x、51yは、それぞれ入力データセット31の項目31a、31b、31c、…31x、31yに対応している。
図5の推定材料設計データ51は、生成モデルの出力データから残留磁束密度Brの値が1.45[T]以上、かつ、保磁力HcJの値が1740[kA/m]以上、かつ熱処理時間が850[分]以下の条件で絞り込んだデータを示している。
【0035】
次に、
図6を参照して、材料設計装置1が実行する処理の流れを説明する。
図6の各ステップの処理を材料設計装置1の制御部101が実行することで、材料設計装置1の各機能を実現する。
【0036】
材料設計装置1の制御部101(データ入力部21)は、入力データセット31の入力を受け付ける(ステップS101)。入力データセット31には、
図3に示すように、例えば、原料成分として、Prを70[質量%]、Cuを7[質量%]、熱処理時間を500[分]等の製造条件で製造したときの最終的な製造結果(材料)の特性として、残留磁束密度Brが1.45[T]、保磁力HcJが1412[kA/m]であった等のように、実際の製造過程における材料設計データが複数記録されている。
【0037】
次に、制御部101(生成モデル構築部22)は、入力データセット31を用いて、教師なし機械学習を行い、生成モデルを構築する(ステップS102)。ステップS101~ステップS102により、入力データセット31に対応する項目を含む出力データを生成する生成モデルが構築される。ステップS102の処理について、
図7のフローチャートを参照して説明する。
図7は、生成モデルとして敵対的生成ネットワーク(GAN)を採用した場合の生成モデル構築処理の流れを示すフローチャートである。敵対的生成ネットワークは、生成モデルと識別モデルという二つのニューラルネットワークを有し、両方のモデルを互いに競争させて学習させるという特徴がある。
【0038】
図7に示すように、材料設計装置1の制御部101(データ入力部21)は、乱数を生成し(ステップS201)、敵対的生成ネットワークに入力してデータを生成する(ステップS202)。次に、制御部101は、ステップS202で生成したデータと、
図5に示すような入力データセット31とを識別モデルに入力し(ステップS203)、2種類のデータの違いとして誤差を計算する(ステップS204)。学習初期は誤差が大きい。誤差が所定の閾値以上の場合は(ステップS205;No)、誤差の値を生成モデルと識別モデルにフィードバックして学習を進める(ステップS206)。繰り返し学習を行い、ステップS204で計算される誤差が所定の閾値より小さくなったら(ステップS205;Yes)、入力データセット31と類似する出力データを生成できる生成モデルが完成したと判断して、学習を完了する。
【0039】
次に、材料設計装置1は、ステップS102で構築した生成モデルを用いて出力データを生成する(ステップS103)。ステップS103の処理について、
図8のフローチャートを参照して説明する。
図8は、
図7の処理で構築した生成モデルから出力データを得るまでの流れを示している。材料設計装置1の制御部101は、オペレータの操作に従って乱数を生成し(ステップS301)、生成した乱数をステップS102で構築した生成モデルに入力する。
【0040】
材料設計装置1の制御部101(データ生成部23)は、生成モデルを用いて乱数を処理し、出力データを生成する(ステップS302)。出力データは、入力データセット31と対応する項目(製造因子、材料特性値)を含むリストとして出力される。
【0041】
制御部101は、生成モデルの出力データをどのように出力するかの指示を受け付けることが望ましい。例えば、材料特性値である残留磁束密度Br値を降順または昇順で出力するといった指示の入力を受け付ける。
【0042】
次に、制御部101(抽出部)は、オペレータから条件の指定を受け付け、指定された条件に従って、生成した多数の出力データからデータを絞り込む(ステップS104)。ステップS104において、制御部101(抽出部)は、出力データから、オペレータが指定する条件に該当するデータを抽出し、推定材料設計データ51として提示する。条件は、製造因子の条件としてもよいし、材料特性値の条件としてもよい。制御部101(抽出部)は、抽出した推定材料設計データ51(
図5)をオペレータに提示する。
【0043】
推定材料設計データ51の提示の仕方は、例えば、画面表示、印刷、記憶媒体への記憶、及びネットワークを介して通信接続されたコンピュータ端末への送信等を含む。
【0044】
なお、本発明は、材料設計装置1の機能をネットワーク上のサーバに設けた材料設計システムとすることもできる。材料設計システムはサーバ(材料設計装置1)とクライアント端末とがネットワークを介して通信接続される。クライアント端末は、生成モデルの出力データから推定材料設計データ51を抽出するための条件を指定し、サーバ(材料設計装置1)に送信する条件入力部と、サーバ(材料設計装置1)のデータ生成部23により生成されたデータを受信し、出力する出力部とを備える。サーバ(材料設計装置1)は、上述のデータ入力部21、生成モデル構築部22、及びデータ生成部23、抽出部等を備え、クライアント端末の条件入力部から入力された条件を満たす推定材料設計データ51を、生成モデル構築部22により構築した生成モデルを用いて生成したデータから抽出して、クライアント端末に返す。クライアント端末の出力部は、抽出されたデータを受信し、オペレータの指示に従って出力(画面表示、印刷、送信等)する。
【0045】
また、材料設計装置1は複数のコンピュータで構成してもよい。例えば、実際の製造過程における実測値や設定値からなるデータセットを集約し、所定フォーマットの入力データセット31を生成する第1コンピュータと、生成モデルを構築するための第2コンピュータと、構築した生成モデルを用いてデータを生成・出力する第3コンピュータ、出力データから所定条件に該当する推定材料設計データ51を抽出する第4コンピュータのように機能別に複数のコンピュータで構成してもよい。
【0046】
以上説明したように、本発明に係る材料設計装置1は、設計対象となる材料を製造するための複数の製造因子と、製造過程を経て得られた少なくとも一つの材料特性値とを含むデータセットを用いて教師なし機械学習を行い、上記複数の製造因子と材料特性値とを含むデータを出力する生成モデルを構築する。そして構築した生成モデルを用いて出力データを生成し、出力する。教師なし機械学習を用いることで、製造因子及び材料特性値を、入力とするか出力とするか区別して扱う必要がない。そのため、回帰モデルを用いた従来の手法と比較して学習用データの準備が簡素なものとなる。また、出力データからオペレータが指定した条件に該当するデータを抽出して提示することができる。
【0047】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態では、生成モデルを構築するための入力データセット32に、複数の製造因子と少なくとも一つの材料特性値と少なくとも一つの中間材料特性値とを含む。
【0048】
中間材料特性値とは、製造過程において得られる中間材料から確認される特性値である。例えば、焼結磁石の製造過程であれば、熱処理後の組成比や収縮率、材料を電子顕微鏡で観察して得られたミクロ組織の粒界幅の平均値等の中間材料特性値を得ることができる。これらの中間材料特性値は、回帰モデルであれば説明変数にも目的変数にもなり得るため、学習用データが複雑化する傾向があった。本発明の第2の実施形態では、中間材料特性値を、製造因子や材料特性値と同様に入力データセットに含めて扱う。
【0049】
なお、第2の実施形態に係る材料設計装置1の装置構成、機能構成、及び処理手順は、第1の実施形態と同様であり、以下、同一の各部は同一の符号を付して説明する。
【0050】
第2の実施形態において、材料設計装置1の制御部101(データ入力部21)は、入力データセット32の入力を受け付ける(
図6のステップS101)。
【0051】
図9は、入力データセット32の例を示す図である。入力データセット32の各列の項目32a~32yは変数名を表し、列数は任意である。
図9の例では、項目32a、32b、32cに製造因子が設定され、具体例として、項目32aには原料Prの配合比[質量%]、項目32bには原料Cuの配合比[質量%]、項目32cには熱処理条件として熱処理時間[分]が設定されている。また、項目32x、32yには材料特性値がそれぞれ設定され、具体例として、項目32xには焼結磁石の残留磁束密度Br[T]、項目32yには保磁力HcJ[kA/m]が設定されている。また、項目32pには、中間材料特性値として、熱処理後に含まれるネオジム(Nd)の比率(熱処理後Nd)[質量%]が設定されている。
【0052】
なお、入力データセット32のどの項目にどの変数を設定するかは任意である。また、入力データセット32の各行(1データセット)は、ある製造条件で製造したときの製造因子、中間材料特性値、及び最終的な製造結果である材料の特性(材料特性値)を含む材料設計データを意味する。製造因子の値は、実測値または設定値であり、中間材料特性値及び材料特性値は実測値である。入力データセット32の行数は、複数必要である。好ましくは20以上である。
また、入力データセット32の変数は数値に限らず、例えば画像でもよい。
【0053】
制御部101(生成モデル構築部22)は、入力データセット32を用いて教師なし機械学習を行い、生成モデルを構築する(ステップS102)。ステップS101~ステップS102により、製造対象とする材料を製造するための材料設計値を生成する生成モデルが構築される。
【0054】
次に、材料設計装置1は、ステップS102で構築した生成モデルを用いて出力データを生成する(ステップS103)。ステップS103において、材料設計装置1の制御部101は、オペレータの操作に従って乱数を生成し、生成した乱数をステップS102で構築した生成モデルに入力する。材料設計装置1の制御部101(データ生成部23)は、生成モデルを用いて乱数処理し、出力データを生成する。出力データは、入力データセット32と対応する項目(製造因子、中間材料特性値、材料特性値)を含むリストとして複数出力される。
【0055】
その後、第1の実施形態と同様に、制御部101(抽出部)は、オペレータから指定された条件に従って、生成した多数の出力データからデータを絞り込む(ステップS104)。ステップS104において、制御部101(抽出部)は、出力データから、オペレータが指定する条件に該当するデータを推定材料設計データ52として抽出する。条件は、製造因子の条件としてもよいし、中間材料特性値の条件としてもよいし、材料特性値の条件としてもよい。制御部101(抽出部)は、抽出した推定材料設計データ52をオペレータに提示する。
【0056】
図10は、生成モデルとしてGANを使用して生成した推定材料設計データ52の一例を示す図である。
図10に示すように、推定材料設計データ52の各項目52a、52b、52c、…、52p、…、52x、52yは、それぞれ入力データセット32の項目32a、32b、32c、…、32p、…、32x、32yに対応している。
図10の推定材料設計データ52は、生成モデルの出力データから、残留磁束密度Brの値が1.45[T]以上、かつ、保磁力HcJの値が1740[kA/m]以上、かつ熱処理時間が850[分]以下、かつ熱処理後のネオジムNdの組成比が26[質量%]以上27[質量%]未満の条件で絞り込んだデータを示している。
【0057】
このように、第2の実施形態の材料設計装置1では、製造因子や材料特性値と同様に、中間材料特性値を入力データセット32に含めることができる。そのため、従来の回帰モデルを利用する場合のように、中間材料特性値を説明変数とするか目的変数とするかといった区別をする必要がなく、学習用データ(入力データセット32)の設定が簡素となり、材料設計を容易に行えるようになる。
【0058】
なお、入力データセット32は材料特性値(最終的に得られる材料の特性値)を含まず、製造因子と中間材料特性値のみとしてもよい。例えば、中間材料特性値である組織画像のみで構成される場合も考えられる。
また、第2の実施形態における推定材料設計データ52の提示の仕方は、第1の実施形態と同様の例が考えられる。すなわち、推定材料設計データ52は、例えば、画面表示、記憶媒体への記憶、印刷、及びネットワークを介して通信接続されたコンピュータ端末への送信等によりオペレータに提示される。また、材料設計装置1の機能をネットワーク上のサーバに設けたり、材料設計装置1を複数のコンピュータで構成したりすることも可能である。
【0059】
(実施例)
本発明に係る材料設計装置1により推定した材料特性値と、公知の回帰モデルを用いて予測した材料特性値とを比較検証した。
【0060】
図11は、検証方法の手順を示すフローチャートである。まず、材料設計装置1の制御部101は乱数を生成し(ステップS401)、第1~第3の実施形態のいずれかの手法で構築した生成モデルを用いて出力データを生成する(ステップS402)。ステップS401~ステップS402は、
図10のステップS301~ステップS302と同じ手順である。入力データセットとして、
図3の入力データセット31または
図7の入力データセット32を用いるものとする。
【0061】
次に、同じ入力データセット31(または32)を用いて教師あり機械学習を行った学習済み回帰モデルに、ステップS402で生成した出力データの中の説明変数の値を代入して、材料特性値を予測する(ステップS403)。そして、生成モデルで生成した材料特性値と回帰モデルで予測した材料特性値とを比較する(ステップS404)。
【0062】
上述の検証方法で、敵対的生成ネットワーク(GAN)を用いた生成モデル、変分オートエンコーダ(VAE)を用いた生成モデル、及びガウシアンコピュラを用いた生成モデルについて、それぞれ回帰モデルと比較した。各生成モデルを構築するためのサンプル数は128とし、各サンプルは製造因子の数を8、中間材料特性値の数を37、材料特性値の数を4とした。回帰モデルは、ラッソ回帰を用いたものとする。検証結果を
図12に示す。
【0063】
図12(a)の散布
図71は、縦軸に生成モデルとして敵対的生成ネットワーク(GAN)を用いて生成した1万点の出力データのうち任意の500点の残留磁束密度Br[T]を、横軸に回帰モデルを用いて予測した残留磁束密度Br[T]を打点した結果である。
図12(b)の散布
図72は、縦軸に生成モデルとして変分オートエンコーダ(VAE)を用いて生成した1万点の出力データのうち任意の500点の残留磁束密度Br[T]を、横軸に回帰モデルを用いて予測した残留磁束密度Br[T]を打点した結果である。
図12(c)の散布
図73は、縦軸に生成モデルとしてガウシアンコピュラを用いて生成した1万点の出力データのうち任意の500点の残留磁束密度Br[T]を、横軸に回帰モデルを用いて予測した残留磁束密度Br[T]を打点した結果である。
【0064】
散布
図71、72、73を確認すると、散布
図73が残留磁束密度Brの最小値から最大値まで満遍なく類似したデータが生成及び予測されるという結果になった。ここで、材料特性を向上するための材料特性値を探索するという目的において、残留磁束密度Brが大きい領域で相関関係があればよいので、散布
図71や散布
図72でも材料設計をする上ではなんら問題ない。なお、散布
図71や散布
図72でのばらつきは、入力データセット31、32に残留磁束密度Brが小さいデータを増やせば改善されると考えられる。このように、どの手法で構築した生成モデルを用いても良好な材料設計データを得ることができ、またチューニングの仕方によってはこの結果以上に良好な結果が得られることも考えられる。
【0065】
図12の検証結果からわかるように、本発明の材料設計装置1によれば、実際の材料設計データに対して教師なし機械学習を用いることにより材料設計データを推定することができる。特に、教師なし機械学習では、製造過程における中間的な材料特性も、製造因子や最終的な材料特性値とともに学習用データ(入力)として扱うことができるので、多数のパラメータの関係が煩雑にならずに材料設計を行うことが可能となる。
【0066】
なお、上述の各実施形態では、焼結磁石の残留磁束密度Brと保磁力HcJという材料特性を向上するための材料設計データを推定する例を示したが、本発明はこの例に限定されない。例えば、セラミックの熱伝導率と曲げ強度の材料特性を向上するための材料設計データを推定したり、電線の被膜材のような樹脂の引張強さ、伸び、耐熱性等の材料特性を向上するための材料設計データを推定したりすることも可能である。
【0067】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0068】
1: 材料設計装置
21: データ入力部
22: 生成モデル構築部
23: データ生成部
31、32:入力データセット
51、52:推定材料設計データ