(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023161308
(43)【公開日】2023-11-07
(54)【発明の名称】陽極酸化援用研削装置及び陽極酸化援用研削方法
(51)【国際特許分類】
B24B 7/04 20060101AFI20231030BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20231030BHJP
B24B 1/00 20060101ALI20231030BHJP
【FI】
B24B7/04 A
H01L21/304 631
B24B1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022071617
(22)【出願日】2022-04-25
(71)【出願人】
【識別番号】000167222
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトマシンシステム
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001645
【氏名又は名称】弁理士法人谷藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 亘
(72)【発明者】
【氏名】平山 晴之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智久
【テーマコード(参考)】
3C043
3C049
5F057
【Fターム(参考)】
3C043BA03
3C043BA13
3C043CC04
3C043DD02
3C043DD04
3C043DD05
3C043DD06
3C049AA04
3C049AB04
3C049CB04
3C049CB05
5F057AA33
5F057AA37
5F057BA11
5F057BB09
5F057CA11
5F057DA12
5F057DA34
(57)【要約】
【課題】 装置全体を小型化、簡素化できると共に、研削屑の回収、メンテナンスを容易にできるようにする。
【解決手段】 少なくとも陰極7と被加工物1との間に電解液Wを掛け流す掛け流し手段8と、陽極5と陰極7との間で電解液Wを介して被加工物1に直流電流を流して被加工物1の表面に陽極酸化皮膜を生成させる直流電源9と、被加工物1の陽極酸化皮膜を研削する研削砥石6とを含む。研削砥石6は非超砥粒砥石である。電解液Wは陽極5側又は陰極7側から被加工物1上に掛け流す。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも陰極と被加工物との間に電解液を掛け流す手段と、
前記電解液を介して陽極と前記陰極と前記被加工物との間で直流電流を流して前記被加工物の表面に陽極酸化皮膜を生成させる手段と、
前記被加工物の前記陽極酸化皮膜を研削する研削砥石とを含む
ことを特徴とする陽極酸化援用研削装置。
【請求項2】
前記電解液は前記陽極側又は前記陰極側から掛け流す
ことを特徴とする請求項1に記載の陽極酸化援用研削装置。
【請求項3】
前記陽極は前記被加工物に直接的又は前記電解液を介して間接的に正電位を印加する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の陽極酸化援用研削装置。
【請求項4】
前記陽極及び前記陰極は前記被加工物に対して相対的にオシレート動作する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の陽極酸化援用研削装置。
【請求項5】
少なくとも陰極と被加工物との間に電解液を掛け流す工程と、
前記電解液を介して陽極と前記陰極と前記被加工物との間で直流電流を流して前記被加工物の表面に陽極酸化皮膜を生成させる工程と、
前記被加工物の前記陽極酸化皮膜を研削砥石により研削する工程とを含む
ことを特徴とする陽極酸化援用研削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液を介して被加工物に直流電流を流したときに被加工物の表面に生じる陽極酸化反応を応用して、被加工物の表面を研削砥石により研削する陽極酸化援用研削装置及び陽極酸化援用研削方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
SiCウエーハ等の被加工物を平面研削する際に使用する平面研削装置には、従来から陽極酸化援用研削装置がある(特許文献1)。この陽極酸化援用研削装置は、電解液を貯留する容器を備え、被加工物の加工時には、容器内に貯留された電解液中に被加工物を浸漬して、その電解液を介して陽極と陰極と被加工物との間で直流電流を流し、被加工物の表面に生じる陽極酸化反応を利用して、研削砥石により被加工物の表面を研削するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような陽極酸化援用研削装置では、SiCウエーハ等の被加工物を研削加工する場合でも、陽極酸化によりSiCウエーハの表面が柔らかくなるため、酸化セリウム等の一般砥粒による研削砥石や遊離砥粒を使用することが可能になり、ダイヤモンド砥石により研削する場合に比較して、SiCウエーハの表面に与えるダメージが減少して加工後の表面粗さが向上すると共に、研削砥石の非超砥粒化によるツールコストを低減できる利点がある。
【0005】
しかし、従来の陽極酸化援用研削装置は、容器内に貯留された電解液中に被加工物を浸漬するために、研削装置全体が大型化し複雑になる上に、研削砥石により被加工物を研削した研削屑が容器の電解液中に溜まり、その研削屑の回収、メンテナンスが困難になる等の問題がある。
【0006】
本発明は、このような従来の問題点に鑑み、装置全体を小型化、簡素化できると共に、研削屑の回収、メンテナンスを容易にできる陽極酸化援用研削装置及び陽極酸化援用研削方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る陽極酸化援用研削装置は、少なくとも陰極と被加工物との間に電解液を掛け流す手段と、前記電解液を介して陽極と前記陰極と前記被加工物との間で直流電流を流して前記被加工物の表面に陽極酸化皮膜を生成させる手段と、前記被加工物の前記陽極酸化皮膜を研削する研削砥石とを含むものである。
【0008】
前記電解液は前記陽極側又は前記陰極側から掛け流すことが望ましい。前記陽極は前記被加工物に直接的又は前記電解液を介して間接的に正電位を印加することが望ましい。前記陽極及び前記陰極は前記被加工物に対して相対的にオシレート動作することが望ましい。
【0009】
本発明に係る陽極酸化援用研削方法は、少なくとも陰極と被加工物との間に電解液を掛け流す工程と、前記電解液を介して陽極と前記陰極と前記被加工物との間で直流電流を流して前記被加工物の表面に陽極酸化皮膜を生成させる工程と、前記被加工物の前記陽極酸化皮膜を研削砥石により研削する工程とを含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、装置全体を小型化、簡素化できると共に、研削屑の回収、メンテナンスを容易にできる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本願発明の第1実施形態を示す陽極酸化援用研削装置の構成図である。
【
図2】(a)はその陰極の底面図、(b)はその陰極の断面図である。
【
図3】(a)は陰極の変形例を示す底面図、(b)はその断面図である。
【
図4】(a)は陰極の変形例を示す断面図、(b)はその底面図である。
【
図5】(a)(b)は陰極の変形例を示す斜視図、(c)は陰極の変形例を示す平面図である。
【
図6】本願発明の第2実施形態を示すオシレート型の陽極酸化援用研削装置の構成図である。
【
図7】本願発明の第3実施形態を示す陽極酸化援用研削装置の構成図である。
【
図8】(a)はその陰極の断面図、(b)はその陰極の底面断面図である。
【
図9】(a)は陰極の変形例を示す断面図、(b)はその底面断面図である。
【
図10】(a)は陰極の変形例を示す断面図、(b)はその底面断面図である。
【
図11】(a)は陰極の変形例を示す断面図、(b)はその底面断面図である。
【
図12】本願発明の第4実施形態を示す陽極酸化援用研削装置の構成図である。
【
図14】本願発明の第5実施形態を示す陽極酸化援用研削装置の構成図である。
【
図15】本願発明の第6実施形態を示す陽極酸化援用研削装置の構成図である。
【
図16】本願発明の第7実施形態を示す陽極酸化援用研削装置の構成図である。
【
図17】本願発明の第8実施形態を示す陽極酸化援用研削装置の構成図である。
【
図18】本願発明の第9実施形態を示す陽極酸化援用研削装置の構成図である。
【
図19】本願発明の第10実施形態を示す陽極酸化援用研削装置の構成図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、発明の各実施形態を図面に基づいて詳述する。
図1、
図2は平面研削装置に採用した陽極酸化援用研削装置の第1の実施形態を示す。この陽極酸化援用研削装置は、
図1に示すように、上面に被加工物1が着脱自在に装着され且つ縦軸心2a回りにa矢示方向に回転する被加工物回転装置2と、縦軸心3a回りにb矢示方向に回転しながら上下方向に前進後退可能な砥石軸3と、砥石軸3の下端の砥石軸フランジ4に着脱自在に装着され且つ被加工物回転装置2上の被加工物1を研削可能な陽極5兼用の研削ホイール6と、研削ホイール6の側方近傍で被加工物回転装置2上の被加工物1の上側に微小間隙Sをおいて配置された陰極7と、被加工物1上に電解液Wを掛け流す掛け流し手段8と、電解液Wを介して陽極5から被加工物1を経て陰極7へと直流電流を流す直流電源9とを備えている。
【0013】
被加工物回転装置2は回転テーブル等により構成されており、上面の装着面側にバキュームチャック等の適宜チャック手段(図示省略)を有し、そのチャック手段により被加工物1が着脱自在に装着されている。被加工物1は、例えば導電性を有するSiCウエーハであるが、導電性を有するものであれば、他のものでもよい。
【0014】
研削ホイール6は被加工物1を研削する研削砥石(研削手段)を構成するもので、陽極5を兼用している。研削ホイール6はカップ型等であって、砥石軸フランジ4の下側に着脱自在に装着可能な砥石母材10と、この砥石母材10の下側に固定された導電性砥石11とを有する。導電性砥石11はその刃幅内を被加工物1の中心を通るように配置されている。
【0015】
砥石軸3、砥石軸フランジ4、砥石母材10は金属製であり、その砥石軸3の上端側、その他の適当箇所に直流電源9の正電位側給電線12がb矢示方向に相対摺動可能に接続され、直流電源9の正電位を研削ホイール6の導電性砥石11から被加工物1に印加するようになっている。
【0016】
陰極7は電解液Wの掛け流し手段8を兼用しており、研削ホイール6の側方で被加工物1の上側に所定の間隙、例えば微小間隙Sをおいて配置されている。この間隙は、具体的には1mm以下、好ましくは500μm以下の微小間隙Sである。以下、この間隙を微小間隙Sというが、特定の寸法の間隙を指称するものではない。陰極7は金属等の導電性材料により構成され、絶縁性を有する支持部材13の下側に固定されると共に、直流電源9の負電位側給電線14が接続されており、被加工物1、電解液Wを介して直流電源9、陽極5、陰極7間で閉回路を構成するようになっている。
【0017】
なお、被加工物1、電解液Wを介して直流電源9、陽極5、陰極7間で構成される閉回路により、被加工物1に直流電流を流して被加工物1の表面に陽極酸化皮膜を生成させる工程が実行される。陰極7は被加工物1と上下に重なる面積が多くなる位置関係に配置されている。
【0018】
掛け流し手段8を兼用する陰極7は電解液供給路15を有し、支持部材13側に接続された電解液供給管路16を経て供給される電解液Wを電解液供給路15から被加工物1上に掛け流すようになっている。掛け流し手段8は電解液供給路15と電解液供給管路16とにより構成されている。
【0019】
この掛け流し手段8は、研削の都度、被加工物1に掛けた電解液Wを循環させずに排出する使い切り型の他、一度研削で使用した電解液Wを被加工物回転装置2の下流側等の適当部位で回収してフィルタリングや化学反応処理により浄化した後、その電解液Wを循環させて再度被加工物1に供給する循環型とすることも可能である。従って、本実施形態における「掛け流し」は、電解液Wを被加工物1に掛けてそのまま流す場合と、一旦被加工物1に掛けた電解液Wを回収して浄化し循環させて、再度、被加工物1に掛ける場合とを含むものである。なお、この掛け流し手段8により、被加工物1に対して電解液Wを掛け流す工程が実行される。
【0020】
電解液Wの掛け流し量は、少なくとも研削中に陰極7と被加工物1との間の微小間隙Sを電解液Wで満たし得る量である。なお、研削ホイール6による被加工物1の研削中は、研削ホイール6の導電性砥石11が被加工物1の上面に接触する接触部分を介して直接正電位を印加することも可能である。そのため導電性砥石11と被加工物1との間の電解液Wは、両者間の接触部分の電気抵抗を抑え得る程度でも良い。従って、電解液Wは少なくとも被加工物1と陰極7との間に溜まれば十分である。なお、導電性砥石11と被加工物1との間に供給される電解液Wとしては、研削熱の冷却や研削屑の洗い流しのために掛け流される水等の電解性のクーラントを利用することも可能である。
【0021】
陰極7と被加工物1との間隙は、被加工物回転装置2上の被加工物1が陰極7と接触せずに縦軸心2a回りに回転するに必要な微小間隙Sに設定されている。そのため被加工物1上に掛け流された電解液Wは、被加工物1上の微小間隙Sに溜まりながら被加工物1の遠心力を受けて機外方向へと流れて行く。なお、電解液Wは直流電流が通電可能な液体であり、水溶性クーラント液であっても良いし、市水であっても良い。
【0022】
陰極7は、例えば
図2(a)(b)又は
図3(a)(b)に示すように平面視矩形状、その他の枡形状に構成されている。
図2(a)(b)の陰極7は周壁部7aと底壁部7bとを有する枡形状であり、その内部側に電解液供給管路16に連通する貯留部17が設けられ、また底壁部7b側に貯留部17と連通する上下方向の供給口18が縦横に複数設けられている。電解液供給路15は貯留部17と供給口18とにより構成され、電解液供給管路16からの電解液Wを貯留部17に受け入れた後、各供給口18から被加工物1側へと掛け流すようになっている。
【0023】
図3(a)(b)の陰極7も枡形状であり、この陰極7には貯留部17と複数個の供給口18とを含む電解液供給路15が設けられているが、供給口18は長孔状に形成されている。長孔状の供給口18は例えば3個あり、その2個の供給口18は平面視矩形状の下面側の隣り合う二辺に沿って配置され、1個の供給口18は二辺に沿う2個の供給口18間に対角線方向に配置されている。
【0024】
このように陰極7に設けられる電解液供給路15の供給口18は、丸孔、長孔の何れでも良いし、丸孔、長孔以外の角孔、三角孔等でもよい。供給口18は、電解液Wを被加工物1側に効率的に供給できる配置であれば良い。例えば
図2の陰極7の場合には、できるだけ多くの供給口18が被加工物1と対応する向きに配置し、また
図3の陰極7の場合には、供給口18の集中する隅部18a側が被加工物1の中心寄りに位置するように配置する等、供給口18の形状、位置、その他の状況等を考慮しながら適宜配置すれば良い。また電解液Wを通すことができれば、掛け流し手段8として、多孔質金属を採用することも可能である。
【0025】
被加工物1の研削加工に際しては、上面に被加工物1が装着された状態の被加工物回転装置2をa矢示方向に回転させて、被加工物1上に配置された陰極7の電解液供給路15から被加工物1の上面に対して電解液Wを掛け流す。被加工物1の上面に掛け流された電解液Wは、被加工物1の上面側へと流動するが、このときにa矢示方向に回転する被加工物1からの遠心力を受けて、被加工物1の上面に沿って薄膜状に拡散しながら、被加工物1の上面外周側から被加工物回転装置2の上面外周側へと流れて行く。
【0026】
次にb矢示方向に回転する砥石軸3を被加工物1側へとc矢示方向に前進させて行くと、研削ホイール6の導電性砥石11が被加工物1上の電解液Wに接触する。導電性砥石11と電解液Wが接触すると、直流電源9の正電位が砥石軸3、導電性砥石11、電解液Wを介して被加工物1に印加するので、陽極5を構成する導電性砥石11から電解液W、被加工物1、電解液Wを経て陰極7へと直流電流が流れる。
【0027】
導電性砥石11がc矢示方向に更に前進して被加工物1に接触すると、導電性砥石11から被加工物1へと正電位が直接印加することになり、導電性砥石11と被加工物1との間の電気抵抗が更に低下する。そのため被加工物1の陰極7と対向する部分が陽極化し、その表面側の陽極化に伴って陽極酸化が生じて、被加工物1の表面に柔らかい陽極酸化皮膜が生成される。これによって被加工物1の上表面の研削性が向上し、研削ホイール6を切り込むことにより、陽極酸化反応で柔らかくなった被加工物1の表面の陽極酸化皮膜を研削し除去することができる。被加工物1の表面の陽極酸化皮膜は、被加工物1と陰極7との微小間隙Sが小さくなるほど効率的に生成される。
【0028】
この陽極酸化援用研削装置によれば、従来のように容器に貯留した電解液中に被加工物1を浸漬する必要がないので、容器が必要不可欠であった従来に比較して、装置全体を小型化、単純化することができる。また電解液Wを掛け流しながら研削ホイール6により陽極酸化皮膜を研削し除去するため、その研削屑は掛け流される電解液Wにより洗い流すことができる。そのため研削屑の回収を機外で容易に行うことができ、しかも装置のメンテナンスを容易にすることができる。
【0029】
被加工物1に向かって研削ホイール6がc矢示方向に切り込む際の制御には、一定の切込み速度に制御する一定速度制御方式、一定の切込み負荷に制御する一定負荷制御方式、任意の回転負荷となるように切込み速度を制御する任意負荷制御方式、被加工物1の表面の陽極酸化速度に合わせて制御する酸化速度即応方式等がある。任意負荷制御方式の場合には、回転負荷が小さいほど速く切込み、回転負荷が高くなり過ぎた場合は、被加工物1から研削ホイール6が離れるように制御する。
【0030】
陰極7の電解液供給路8は、
図4(a)(b)に示すように下向きに開口する電解液Wの貯留部17を設けても良い。即ち、陰極7は上壁部7cと周壁部7aとを備えた下向き開口状に構成し、その内部を貯留部17として、電解液供給管路16から供給される電解液Wを貯留部17で貯留しながら、陰極7の下側に配置される被加工物1上に掛け流すようにしても良い。
【0031】
電解液供給路15を含む陰極7は、
図5(a)に示す平面視円形状、(b)に示す平面視扇形状は勿論のこと、その他の形状を採用することも可能である。
【0032】
例えば
図5(c)示すように、貯留部17を取り囲む周壁部7aの内、研削ホイール6に近い内側周壁部7dを研削ホイール6の外周側に沿って略円弧状に構成し、研削ホイール6から離れた外側周壁部7eを被加工物1の外周側に沿って略円弧状に構成しても良い。内側周壁部7dは研削ホイール6の近傍に配置することが望ましい。また外側周壁部7eは、被加工物1の外周縁よりも内側に配置しても良いし、外側に配置してもよい。
【0033】
図6は本発明の第2の実施形態を例示する。この陽極酸化援用研削装置はオシレート型であって、
図6(a)(b)に示すように、研削ホイール6及び陰極7と被加工物1とが被加工物1の略径方向(d,e矢示方向)に相対的にオシレート動作可能に構成されている。
【0034】
オシレート手段としては、研削ホイール6と陰極7とを定位置に配置しておき、被加工物1が装着された被加工物回転装置2をオシレート方向に往復移動させる方式と、被加工物1が装着された被加工物回転装置2を定位置に配置しておき、研削ホイール6と陰極7とをオシレート方向に往復移動させる方式とがある。なお、他の構成等は第1の実施形態と同様である。
【0035】
このように研削ホイール6及び陰極7と被加工物1とをd,e矢示方向に相対的にオシレート動作させながら研削加工を行うことにより、被加工物1の上面の酸化と、被加工物1の上面の研削とを効率よく行う。
【0036】
即ち、研削ホイール6にカップ型砥石19を使用する場合、カップ型砥石19の刃幅内を被加工物1の中心が通るように研削位置を調整するが、被加工物1の中心が陰極7下にないため、被加工物1の中心付近の陽極酸化効率が極端に低下する。
【0037】
しかし、被加工物1の上面の酸化と、被加工物1の上面の研削とを効率よく行うために、被加工物1の中心が陰極7下又はその近傍に入る位置まで被加工物回転装置2を被加工物1の略径方向に往復移動させて、研削ホイール6と陰極7との被加工物1に対するオシレート動作を繰り返す。これによってカップ型砥石19を使用する場合でも、被加工物1と陰極7との重なり量が大きくなり、被加工物1の陽極酸化効率が著しく向上する利点がある。
【0038】
なお、研削加工の終了前にスパークアウトする場合には、直流電源9をオフして被加工物1の上面の陽極酸化を止めて、通常研削と同じ状態でオシレート動作を継続する。
【0039】
通常の仕上げ研削後の表面粗さの指標は1nmRa 前後、研削の後工程にあるCMP(化学機械研磨)後の表面粗さの指標は0.1nmRa とされており、仕上げ研削後の表面粗さが0.1nmRa に近づけば近づくほど、後工程のCMP加工負担が軽減されることになる。
【0040】
従って、この陽極酸化援用研削装置をSiCウエーハ加工工程に適用することで研削後の表面粗さを向上させ、CMP工程の負担を減らすことにより、SiCウエーハ製造のトータルコスト低減に貢献することができる。
【0041】
なお、この陽極酸化援用研削装置に用いる砥粒は、一般砥粒(酸化セリウムや酸化ジルコニウムを含む)とする。一般砥粒は、超砥粒(ダイヤモンド・CBN)以外を指す。また超砥粒を用いる必要がないので、ツールコストの低減を図ることができる。
【0042】
図7、
図8は本発明の第3の実施形態を例示する。この陽極酸化援用研削装置は、
図7に示すように、矩形状の陰極7の外周に電解液供給路15が形成されている。陰極7は、
図8(a)(b)に示すように絶縁性の支持部材13の下側に設けられている。支持部材13の下側には、所定の間隔(例えば数ミリ程度)をおいて陰極7の外周を取り囲む絶縁性の周壁部20が設けられ、その陰極7と周壁部20との間に、下端側の供給口18から被加工物1上に電解液Wを掛け流す電解液供給路15が形成されている。陰極7、周壁部20は支持部材13の下側に固定されている。
【0043】
電解液供給路15は陰極7の外周側の4辺に沿って四角形に配置されており、その一辺側の電解液供給路15には支持部材13側に電解液供給管路16が接続されている。他の構成は各実施形態と同様である。
【0044】
このように陰極7の外周側に電解液供給路15を設けた場合には、
図2に示すように陰極7の底壁部7bに上下に貫通する供給口18を設ける場合に比較して製作が容易であると共に、陰極7の下側全面を被加工物1の上面と対向させることができるため、陰極7と被加工物1との重なり量を十分に確保することができ、被加工物1の上面の酸化効率が高くなる利点がある。
【0045】
陰極7の外側の電解液供給路15は、
図9~
図11に示すように構成することも可能である。
図9(a)(b)の電解液供給路15は、陰極7と周壁部20との三辺に跨がってコ字状に形成されており、その通路長手方向の略中央部分に電解液供給管路16が接続されている。
【0046】
図10(a)(b)の電解液供給路15は、陰極7と周壁部20と間の一辺に形成されており、その電解液供給路15の略中央部分の支持部材13側に電解液供給管路16が接続されている。
図11(a)(b)の電解液供給路15は、陰極7と周壁部20間の相対向する二辺に形成されており、その各電解液供給路15の略中央部分に電解液供給管路16が接続されている。なお、電解液供給路15は、陰極7と周壁部20と間の四辺の内、隣り合う二辺に設けることも可能である。
【0047】
図12は本発明の第4の実施形態を例示する。この陽極酸化援用研削装置では、砥石軸3、研削ホイール6に跨がってその中心部分に上下方向に電解液供給路15が設けられ、この電解液供給路15に砥石軸3の上端側で電解液供給管路16が接続されている。
【0048】
この実施形態では、電解液供給管路16から電解液供給路15を経て供給される電解液Wを、砥石軸3の下端で陽極5を兼用する導電性砥石11の内周側から遠心力を利用して被加工物1の上面に掛け流すように構成されている。
【0049】
即ち、電解液供給管路16を経て供給される電解液Wは、電解液供給路15を経て研削ホイール6の下端まで流下した後、b矢示方向に回転する研削ホイール6の遠心力を受けて砥石母材10の下面10aに沿って膜状に拡散しながら、導電性砥石11の内周側に到達する。
【0050】
導電性砥石11の内周側に到達した電解液Wは、導電性砥石11の内周に沿って順次下方へと流下して被加工物1の上面側へと掛け流される。そして、被加工物1の上面側の電解液Wは、被加工物1の回転による遠心力を受けて、被加工物1と導電性砥石11間の微小な間隙を経て被加工物1の上面を外周側へと流れる。これによって陽極5と被加工物1、陰極7と被加工物1の隙間部分に電解液Wを充満させることができる。
【0051】
導電性砥石11は、
図13(a)に示すようにブロック状のセグメント砥石11aを周方向に所定の隙間11bを置いて環状に配置したもの、
図13(b)に示すように周方向に所定間隔をおいて放射状に流通路11d設けたものなどを使用すれば、その隙間11b、流通路11dを経て電解液Wが外側へと流れ出るので、電解液Wを容易に拡散させることができる。
【0052】
このように陽極5側に電解液Wの掛け流し手段8を設けて、陽極5側から被加工物1上に電解液Wを掛け流すことも可能である。また掛け流し手段8によって陰極7の大きさを制限することがないので、陰極7の配置箇所の面積に応じて陰極7の大きさを十分に確保でき、陰極7と被加工物1との重なり量を大きくして陽極酸化反応の効率を向上させることもできる。
【0053】
図14は本発明の第5の実施形態を例示する。この陽極酸化援用研削装置では、研削ホイール6と陰極7との間、又はそれらの側方近傍等の適当箇所に、掛け流し手段8を構成する電解液供給管路16の先端側の掛け流し口16aが下向きに配置され、その掛け流し口16aから被加工物1上へと電解液Wを下向きに掛け流すようにしている。他の構成は各実施形態と同様である。
【0054】
このように被加工物1上に電解液Wを掛け流すことが可能であれば、掛け流し手段8の掛け流し口16aは研削ホイール6、陰極7以外の箇所に配置することも可能である。
【0055】
図15は本発明の第6の実施形態を例示する。この陽極酸化援用研削装置では、掛け流し手段8を構成する電解液供給管路16の先端側の掛け流し口16aが、研削ホイール6の砥石母材10の下面10aに向かって斜め上向き又は上向きに配置されており、掛け流し口16aから電解液Wを砥石母材10の下面10a側へと斜め上向き又は上向きに噴射するようになっている。
【0056】
このようにすれば、砥石母材10の回転時の遠心力を利用して、導電性砥石11の内周側を経て被加工物1上に掛け流すことも可能である。従って、掛け流し手段8は、被加工物1に対して上側から掛け流す他、下方から上向きに掛け流しても良いし、横方向から掛け流しても良い。
【0057】
図16は本発明の第7の実施形態を例示する。この陽極酸化援用研削装置は、非導電性砥石11Cを備えた一般砥粒研削ホイール6A(又は一般砥粒含有の研削パッド)により被加工物1の研削加工を行うようにしたものである。
【0058】
導電性を有する砥石母材10と、この砥石母材10の下側に装着された非導電性砥石11Cとを備えた一般砥粒研削ホイール6Aの場合には、砥石母材10によって陽極5を構成することができる。この場合には、電解液Wが被加工物1と陰極7との間を満たすだけでなく、電解液Wが砥石母材10と接触するように、被加工物1上の電解液Wの液位Hを砥石母材10の高さまでとする。これによって砥石母材10が電解液Wに接触した時点で、砥石母材10から電解液W、被加工物1、電解液Wを介して陰極7へと直流電流を流すことができる。
【0059】
この場合にも、電解液Wを介して被加工物1に流れる直流電流により、被加工物1の陰極7と重なる部分の表面が陽極化して、その被加工物1の表面に陽極酸化皮膜が生成されるので、その陽極酸化皮膜を一般砥粒の非導電性砥石11Cにより除去する加工を行うことができる。
【0060】
従って、非導電性砥石11Cを使用する一般砥粒研削ホイール6Aの場合でも、砥石軸3の上端側に直流電源9の正電位側給電線12を接続して、非導電性砥石11Cを介さずに砥石母材10を介して給電することが可能である。
【0061】
なお、この場合には、直流電流は、必ず砥石母材10から電解液W、被加工物1、電解液Wを介して陰極7へと流れるようにして、陽極5と陰極7とが短絡しないようにしておく必要がある。その方策としては、陽極5と陰極7との位置関係、陰極7と被加工物1との距離(間隙)、電解液Wの流れ方向などの要因があり、その何れかの要因、又は複数の要因を適宜組み合わせることによって短絡を防止することが考えられる。例えば陰極7と被加工物1との間隙が500μm以下と微小であるのに対して、陽極5と陰極7との距離をそれよりも十分に離すことにより、陽極5と陰極7との短絡を防止することができる。
【0062】
また被加工物1の陰極7に対応する部分を陽極化させるためには、砥石母材10から被加工物1までの電解液Wを含む電気抵抗を、陰極7から被加工物1までの電解液Wを含む電気抵抗よりも小さくしておく必要がある。
【0063】
図17は本発明の第8の実施形態を例示する。この陽極酸化援用研削装置は、砥石軸3の下端の砥石軸フランジ4と砥石母材10との間に絶縁材22を介在して、直流電源9の正電位側給電線12を砥石母材10に相対摺動可能に接続したものである。
【0064】
即ち、この実施形態でも、導電性を有する砥石母材10の下側に非導電性砥石11Cを備えた一般砥粒研削ホイール6Aが採用されている。砥石軸3の下端の砥石軸フランジ4と砥石母材10との間に絶縁材22が介在され、その砥石母材10側に直流電源9の正電位側給電線12が相対摺動可能に接続されている。他の構成は第7の実施形態と同様である。
【0065】
このように砥石軸フランジ4と砥石母材10との間に絶縁材22を介在して、直流電源9の正電位側給電線12を砥石母材10に接続しておけば、直流電源9の正電位を砥石軸3を介さずに、砥石母材10から電解液Wを介して被加工物1に印加することも可能である。なお、砥石軸3と砥石母材10との間の絶縁は他の箇所で行っても良い。
【0066】
図18は本発明の第9の実施形態を例示する。この陽極酸化援用研削装置は、研削ホイール6とは別に給電用の陽極5を設け、この陽極5に直流電源9の正電位を印加するようにしている。砥石軸3の砥石フランジ4と研削ホイール6の導電性を有する砥石母材10との間には、絶縁材22が介在されている。電解液Wの掛け流し手段8、その他の構成は各実施形態と同様である。
【0067】
このように専用の陽極5を設ける場合には、回転する砥石軸3、研削ホイール6の砥石母材10に対して給電系統を設ける場合に比較して、正電位側の給電系統を簡素化することができる。なお、給電用の陽極5に掛け流し手段8を設け、この陽極5側から被加工物1へと電解液Wを供給するようにしても良い。
【0068】
図19は本発明の第10の実施形態を例示する。この陽極酸化援用研削装置は、給電専用の陽極5、陰極7を絶縁性の支持部材23に設けて、陽極5と陰極7とを一体化したものである。支持部材23には、陽極5と陰極7との間に絶縁部23aが設けられている。電解液Wの掛け流し手段8、その他の構成は各実施形態と同様である。
【0069】
このように構成すれば、陽極5と陰極7とを一体物として取り扱うことができるので、陽極5と陰極7とを個々に配置する場合に比較して、被加工物1と各電極間の隙間調整、着脱が容易であり、電極周辺を小型化し効率的に配置することができる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は各実施形態に限定されるものではなく、その趣旨が逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。各実施形態では、研削ホイール6、被加工物回転装置2が縦軸心回りに回転する陽極酸化援用研削装置について例示しているが、研削ホイール6、被加工物回転装置2は横軸心回り又は傾斜軸心回りに回転するものでも良く、回転方向は問題ではない。
【0071】
陽極5は研削ホイール6、6A側に設けることが望ましいが、研削ホイール6、6Aとは別に設けても良い。また陽極5が被加工物1と接触する場合には、被加工物1の表面の陰極7と対向する部分を容易に陽極化させることができるが、陽極5が被加工物1に直接接触せずに、電解液Wを介して被加工物1と電気的に接続する場合にも、同様に被加工物1を陽極化させることが可能である。従って、陰極7と被加工物1との間には所定の隙間が必要であるが、陽極5と被加工物1との間には隙間があってもなくてもよい。被加工物1の表面の陰極7と対向する部分の陽極化反応は、被加工物1と陰極7との間隙の大小が大きく影響しており、その間隙が小さくなるほど効率が向上する傾向にある。従って、被加工物1と陰極7との間隙は微小であることが望ましい。
【0072】
掛け流し手段8により被加工物回転装置2上の被加工物1に対して電解液Wを掛け流す場合に、被加工物1の回転時の遠心力を利用して被加工物1上での電解液Wの拡散を図るためには、被加工物1の中心近くに電解液Wの掛け流し位置を設定することが望ましい。しかし、被加工物1と陰極7との間隙が微小であれば、電解液Wの表面張力等により被加工物1と陰極7との間隙に電解液Wを浸透させることも可能である。従って、この場合には、電解液Wの掛け流し位置が中心から離れていても、被加工物1の回転時の遠心力に抗して被加工物1と陰極7との間に電解液Wを浸透させることができる。
【0073】
電解液Wの掛け流し手段8は、陰極7側又は陽極5側に設けても良いし、陽極5、陰極7とは別に設けても良い。電解液供給機能付きの陰極7等の電極の平面視形状は、その電極の配置位置周辺の条件を考慮して適宜決定すれば良く、任意の外形状を採用可能である。その場合、被加工物1に対する陰極7の重なり量が大きくなるようにすることが望ましい。
【符号の説明】
【0074】
1 被加工物
2 被加工物回転装置
3 砥石軸
5 陽極
6 研削ホイール
6A 一般砥粒研削ホイール
7 陰極
W 電解液
8 掛け流し手段
9 直流電源
10 砥石母材
11 導電性砥石
11C 非導電性砥石
S 微小間隙
15 電解液供給路
16 電解液供給管路
17 貯留部
18 供給口
19 カップ型砥石
20 周壁部